(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】魚釣用電動リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/017 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
A01K89/017
(21)【出願番号】P 2018133114
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特許第4909955(JP,B1)
【文献】特開2005-261325(JP,A)
【文献】特開平09-019247(JP,A)
【文献】特開2017-110798(JP,A)
【文献】実開昭56-125553(JP,U)
【文献】米国特許第03561695(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00 - 89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを収容するモータケースと、前記モータの回転駆動力を減速させてスプール減速装置を介してスプールに伝達する減速装置
を備えた魚釣用電動リールであって、
前記減速装置は、
前記モータのモータ回転軸に設けられた第1太陽ギアと、
前記第1太陽ギアに噛合するとともに、回転可能に支持される複数の第1遊星ギアと、
前記第1太陽ギアと同軸に設けられ、前記複数の第1遊星ギアを内周部で噛合させる内周歯車を有し、前記内周歯車に沿って前記複数の第1遊星ギアを周回移動させる第1リングギアと、
前記複数の第1遊星ギアを回転可能に支持するとともに、前記複数の第1遊星ギアの周回移動に伴って前記第1太陽ギアを中心に回転して前記スプール減速装置に回転駆動力を伝達する第1キャリアと、を備え、
前記モータケースは、
前記モータが収容される第1空間と、前記第1太陽ギア、前記第1遊星ギア、前記第1リングギア及び前記第1キャリアの一部が配置される第2空間と、前記モータ回転軸の軸方向に隔て、前記モータケースの内側で一体的に回転不能に係止された隔壁を有し、
前記第1リングギアには、前記隔壁に対向する外周縁に、前記モータ回転軸回りの周方向に一対の回止め凹部が設けられ、
前記隔壁は、前記一対の回止め凹部に係合する一対の回止め凸部が設けられ、
前記スプール減速装置は、
前記スプールのスプール回転軸の軸先端部に固定された第2太陽ギアと、
前記第2太陽ギアに噛合する複数の第2遊星ギアと、
内周部で前記第2遊星ギアを噛合させて、前記第2遊星ギアを周回移動可能に設けた第2リングギアと、
前記減速装置から回転駆動力が伝達されるとともに、前記第2遊星ギアを回転可能に支持しての周回移動ととともに前記スプール回転軸回りに回転する第2キャリアと、を備え、
前記スプールは、前記スプール回転軸方向に向けて突出する筒状の係止筒を有し、
前記係止筒の先端部には、回転不能に設けられた支持壁が固定され、
前記第2リングギアと前記支持壁は、前記第2リングギア及び前記支持壁のそれぞれに形成される係合凹凸部によって、前記支持壁及び前記スプールに対する回転が規制される、
魚釣用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用電動リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の魚釣用電動リールとして、例えば特許文献1に示されるような、フランジ付筒状に形成した内歯車(リングギア)を蓋部材にネジ止めし、さらに蓋部材をスプールにネジ止めした構成のものが知られている。
また、魚釣用電動リールにおけるリングギアの回り止めの構造として、例えば特許文献2に示されるように、スプリングピンを設けた構造もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4966715号公報
【文献】特許第4909955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に示すような従来の魚釣用電動リールでは、多数のネジが必要となり、しかも内歯車にフランジ部を形成する必要があった。
また、特許文献2に記載されるようなスプリングピンを使用したリングギアの回り止め構造の場合には、リングギアの分解や組み立てに手間と時間がかかり、組立性の点で改善の余地があった。
さらに、従来の魚釣用電動リールでは、スプールに対して複雑な加工や圧入を行うことによって変形が生じ、品質が低下するおそれがあるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、簡単な構造でリングギアの組立性を向上させることができ、しかも品質の低下を抑制できる魚釣用電動リールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る魚釣用電動リールは、モータを収容するモータケースと、前記モータの回転駆動力を減速させてスプール減速装置を介してスプールに伝達する減速装置を備えた魚釣用電動リールであって、前記減速装置は、前記モータのモータ回転軸に設けられた第1太陽ギアと、前記第1太陽ギアに噛合するとともに、回転可能に支持される複数の第1遊星ギアと、前記第1太陽ギアと同軸に設けられ、前記複数の第1遊星ギアを内周部で噛合させる内周歯車を有し、前記内周歯車に沿って前記複数の第1遊星ギアを周回移動させる第1リングギアと、前記複数の第1遊星ギアを回転可能に支持するとともに、前記複数の第1遊星ギアの周回移動に伴って前記第1太陽ギアを中心に回転して前記スプール減速装置に回転駆動力を伝達する第1キャリアと、を備え、前記モータケースは、前記モータが収容される第1空間と、前記第1太陽ギア、前記第1遊星ギア、前記第1リングギア及び前記第1キャリアの一部が配置される第2空間と、前記モータ回転軸の軸方向に隔て、前記モータケースの内側で一体的に回転不能に係止された隔壁を有し、前記第1リングギアには、前記隔壁に対向する外周縁に、前記モータ回転軸回りの周方向に一対の回止め凹部が設けられ、前記隔壁は、前記一対の回止め凹部に係合する一対の回止め凸部が設けられ、前記スプール減速装置は、前記スプールのスプール回転軸の軸先端部に固定された第2太陽ギアと、前記第2太陽ギアに噛合する複数の第2遊星ギアと、内周部で前記第2遊星ギアを噛合させて、前記第2遊星ギアを周回移動可能に設けた第2リングギアと、前記減速装置から回転駆動力が伝達されるとともに、前記第2遊星ギアを回転可能に支持しての周回移動ととともに前記スプール回転軸回りに回転する第2キャリアと、を備え、前記スプールは、前記スプール回転軸方向に向けて突出する筒状の係止筒を有し、前記係止筒の先端部には、回転不能に設けられた支持壁が固定され、前記第2リングギアと前記支持壁は、前記第2リングギア及び前記支持壁のそれぞれに形成される係合凹凸部によって、前記支持壁及び前記スプールに対する回転が規制されることを特徴としている。
【0007】
本発明に係る魚釣用電動リールによれば、環状の第1リングギアと、隔壁及びモータケースとのそれぞれに回止め凹部及び回止め凸部を形成するといった簡単な構成により隔壁及びモータケースに対する第1リングギアの回転を規制することができる。そして、双方の凹凸部同士を係合させるだけの構造となるので、第1リングギアの分解、組立を容易に行うことができ、組立性を高めることができる。
また、双方の凹凸部同士を係合させるため、双方の周方向の位置決めを容易に行うことが可能となる。
さらに、双方の凹凸部同士を係合させることにより、モータケースの内周面における複雑な加工や圧入による変形を防ぐことができ、品質の低下を抑制することができる。
【0009】
また、回止め凸部と回止め凹部とが係合した構成となるので、第1リングギアの回転をより確実に規制することができる。
【0011】
また、この場合には、環状の第2リングギアと、スプールとのそれぞれに回転軸方向に突出又は凹ませた係合凹凸部を形成するといった簡単な構成によりスプールに対する第2リングギアの回転を規制することができる。
また、双方の係合凹凸部同士を係合させることにより、スプールの内周面における複雑な加工や圧入による変形を防ぐことができ、品質の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る魚釣用電動リールによれば、簡単な構造でリングギアの組立性を向上させることができ、しかも品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態による電動リールの構成を示す上斜め後方から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示す電動リールを斜め前方から見た斜視図である。
【
図3】電動リールをモータ回転軸に沿った断面を見た縦断面図である。
【
図4】
図3に示すモータと減速装置を拡大した要部拡大図であって、
図3に対してモータ軸方向で反転させた図である。
【
図8】第2実施形態によるスプール減速装置の構成を示す基端側から見た斜視図である。
【
図9】
図8に示すスプール減速装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る魚釣用電動リールの実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、魚釣用リールとして両軸受リールを例に挙げて説明する。また、各図面において、各構成部材を視認可能な大きさとするために必要に応じて各構成部材の縮尺を適宜変更している場合がある。
【0019】
(第1実施形態)
【0020】
図1に示すように本実施形態の電動リールの減速装置10(
図3参照)は、外部電源から供給された電力により駆動されるとともに、手巻きの両軸受リールとして使用するときの電源を内部に有する電動リール1(魚釣用電動リール)に設けられている。
【0021】
電動リール1は、釣り竿に装着可能なリール本体2と、リール本体2に対してハンドル軸C1回りに回転可能に取り付けられたハンドル20と、リール本体2に対してハンドル軸C1と平行なスプール軸C2回りに回転可能で図示しない釣糸が巻かれるスプール3(回転駆動部)と、リール本体2に設けられ、スプール3に回転駆動力を伝達するモータ4と、スプール3とハンドル20とを連結する連結状態及び遮断する遮断状態を切り替え可能なクラッチ機構5と、モータ4の回転駆動力を減速させてスプール3に伝達する減速装置10(
図3参照)と、を備えている。
【0022】
ここで、本実施形態では、ハンドル軸C1、スプール軸C2、及びモータ軸線Oは、それぞれ平行に設けられ、これらの方向を必要に応じて左右方向L1として定義すると共に、左右方向L1に直交すると共にスプール3に巻かれた釣糸が繰り出される方向に沿う方向を前後方向L2として定義する。また、前後方向L2においてスプール3から釣糸が繰り出される方向を前方、その反対方向を後方と定義すると共に、電動リール1を後方側から見た視点で左右を定義する。なお、
図1は電動リール1を上斜め後方から見た斜視図、
図2は電動リール1を下斜め前方から見た斜視図である。
【0023】
(リール本体)
リール本体2は、本体フレーム21と、本体フレーム21の一部を覆うカバー22と、本体フレーム21の上側に位置する水深表示部23と、を備えている。
本体フレーム21は、例えば合成樹脂又は金属製の一体形成された部材である。本体フレーム21は、左右方向L1でスプール3を挟んでハンドル20側となる右側板21Aと、右側板21Aと反対側に位置する左側板21Bと、右側板21Aと左側板21Bとを連結する複数の連結部材21Cと、を有している。
右側板21Aと左側板21Bは、互いに左右方向L1に間隔を隔てて配置されている。また、それぞれの側板21A、21Bには、スプール3やモータ4を支持する支持部、及びクラッチ機構5、減速装置10等の回転駆動機構が配置されている。
【0024】
右側板21A及び左側板21Bには、スプール3のスプール回転軸(図示省略)の端部が回転自在に支持された状態で装着されている。
図2に示す連結部材21Cは、板状をなし、右側板21A及び左側板21Bの下部を連結する。連結部材21Cのうちの1つには、左右方向L1の略中央部分に釣り竿に取り付けるための釣り竿装着部24が装着されている。
【0025】
カバー22は、右側カバー22A、左側カバー22B、及び前カバー22Cを備えている。右側カバー22Aは、右側板21Aを所定の収容空間を設けて覆い、右側板21Aの外縁部に例えばネジ止めされている。左側カバー22Bは、左側カバー22Bを所定の収容空間を設けて覆い、左側板21Bの外縁部に例えばネジ止めされている。前カバー22Cは、本体フレーム21の前部を覆っている。
右側板21Aの前方下部には、
図3に示すように、外部からの電源ケーブルを接続するためのコネクタ28が接続端28aを下向きにした状態で装着されている。
【0026】
(水深表示部)
水深表示部23は、
図1に示すように、右側板21Aと左側板21Bとの間に配置されている。水深表示部23は、釣り糸の先端に装着可能な仕掛けの水深を表示可能な液晶ディスプレイからなる表示板23Aと、リール制御部(不図示)と、を有している。水深表示部23は、右側板21A及び左側板21Bの上部に載置されるケース部を構成し、右側板21A及び左側板21Bの外側面にネジ止め固定され、表示操作を行うための複数(本実施形態では3つ)の操作ボタン23Bを有している。
【0027】
(ハンドル)
図1及び
図2に示すように、ハンドル20は、ハンドル軸の先端部20aに回転不能に装着されたハンドルアーム25と、ハンドルアーム25の一端にハンドル軸C1と平行な軸回りに回転自在に装着されたハンドルノブ26と、リール本体2側に配置されたドラグ27と、を有している。
ハンドル20からのトルクは、クラッチ機構5がクラッチオンされた状態においてスプール3に直接伝達される。
【0028】
(スプール)
スプール3は、右側板21Aと左側板21Bとの間でそれぞれ軸受(図示省略)をかいして回転自在に設けられている。スプール3は、不図示のスプール回転軸と、スプール回転軸と同軸に配置されて連動して回転可能な筒状の糸巻胴部32と、糸巻胴部32の両端に径方向の外側に向けて拡径されたフランジ部33と、を備えている。
スプール3は、前述したように減速装置10から図示しないスプール駆動機構を介して回転駆動され、クラッチ操作部材50によって駆動されるクラッチ機構5が連動している。スプール回転軸は、右側カバー22A及び左側カバー22Bに軸受を介して回転自在に各別に支持されている。
【0029】
(クラッチ機構)
クラッチ機構5は、クラッチ操作部材50の操作によってハンドル20の回転をスプール3に伝達可能なクラッチオン状態と、ハンドル20の回転をスプール3に伝達不能なクラッチオフ状態とに切換可能である。クラッチオン位置では、ピニオンギアの回転がスプール回転軸に伝達され、クラッチオン状態になり、ピニオンギアとスプール回転軸とが一体回転可能になる。また、クラッチオフ位置では、ピニオンギアの回転がスプール回転軸に伝達されないため、クラッチオフ状態になり、スプール3は自由回転可能になる。
【0030】
(クラッチ操作部材)
クラッチ操作部材50は、
図1に示すように、クラッチ機構5をクラッチオン状態とクラッチオフ状態とに切り換え操作するためのものである。クラッチ操作部材50は、リール本体2の後部において、右側板21Aと左側板21Bとの間でリール本体2の後部に釣り竿装着部24に対して接近及び離反する方向に移動可能に設けられている。クラッチ操作部材50は、本実施形態において、スプール回転軸回りに揺動可能に設けられる。
【0031】
(スプール駆動機構)
上述したスプール駆動機構は、スプール3を糸巻取方向に駆動する。また、巻き取り時にスプール3に対してドラグ27によりドラグ力を発生させて釣糸の切断を防止する。
ドラグ27は、ハンドル20のハンドルアーム25と右側カバー22Aとの間においてハンドル軸に同軸に設けられている。スプール駆動機構は、図示しないローラクラッチの形態の逆転防止部によって糸巻取方向の回転が禁止された上記のモータ4と、モータ4の回転を減速してスプール3に伝達したり、ハンドル20の回転を増速してスプール3に伝達する回転伝達機構と、を備えている。
【0032】
(モータ)
モータ4は、
図4に示すように、電動リール1の前部においてスプール3(
図1参照)よりも前側の位置に配置され、半割れ形状のモータ収容体40(
図2参照)に覆われた状態で設けられている。モータ4は、モータ回転軸41と、モータ本体42と、モータ本体42を保持する筐体43と、を有している。そして、モータ4は、筒状のモータケース44(筒状フレーム)内に収容されている。
【0033】
モータ回転軸41は、モータ本体42の中心部をモータ軸線O方向に貫通し、モータ回転軸41の一端(紙面左側)の軸先端部41a及び他端(紙面右側)の軸基端部41bがそれぞれ筐体43、後述するモータエンドキャップ434に回転可能に支持されている。
ここで、モータ軸線Oにおいて、モータ回転軸41の軸先端部41a側を先端側、軸基端部41b側を基端側として以下説明する。
【0034】
筐体43は、モータ4の外殻を形成している。筐体43は、回転中心にモータ回転軸41を有するモータ本体42を全周で覆う筒状の円筒体431と、円筒体431の先端を塞ぐ先端版432と、先端版432の中央において第1軸受435を支持する第1中央筒433A及びモータ防水シール436を支持する第2中央筒433Bと、を有している。
【0035】
円筒体431の基端431bは、右側板21Aに固定されたモータエンドキャップ434に対して第2軸受437を介して液密に係合されて筐体43内が閉塞されている。
先端版432は、内側に開口部432bを有するリング状をなし、外周部が円筒体431の先端431aに接続され、開口部432bが第1中央筒433A及び第2中央筒433Bに接続されている。先端版432には、厚さ方向に貫通する雌ねじ孔432aが形成されている。雌ねじ孔432aには、モータケース44との間で固定される固定ねじ47が螺合される。
【0036】
第1中央筒433Aの内側には、モータ回転軸41の軸基端部41b側においてモータ回転軸41を回転可能に支持する第1軸受435が配置され、第2中央筒433Bの内側においてモータ回転軸41との間で止水するモータ防水シール436が配置されている。モータ防水シール436がモータ本体42、第1軸受435、及び先端版432よりも先端側に位置することで、モータ4(筐体43)内への水の浸入が防止された構成になっている(
図5参照)。
【0037】
そして、モータ回転軸41におけるモータ防水シール436より軸先端部41a側に突出する部分には、太陽ギア11が回転不能に挿通された状態で固定されている。
太陽ギア11よりさらに突出したモータ回転軸41の軸先端部41aには、キャリア6の内周面61aとの間に、キャリア6を回転可能に支持するキャリア軸受部14(後述する)が設けられている。
【0038】
モータケース44は、
図4乃至
図6に示すように、モータ4の筐体43を収容し固定する筒状のケース筒45と、ケース筒45の先端寄りの位置に設けられ、ケース筒45の内側の空間をモータ回転軸41方向に画成する隔壁46(端板)と、が一体的に設けられている。隔壁46を挟んで軸基端部41b側の一方の第1空間46A(内空側)にはモータ4が収容され、他方の第2空間46B(外方側)には太陽ギア11、遊星ギア12、リングギア13、及びキャリア6の一部が配置されている。
【0039】
ケース筒45における第2空間46B側の内周面45bには、
図7に示すリングギア13が同軸に回転不能な状態で嵌合されている。隔壁46のキャリア6に対向する先端面46aには、後述する一対の回止め凹部132に係合するようにモータ回転軸41方向の一端側に向けて突出する一対の回止め凸部461(第2係合凹凸部)が設けられている。
回止め凸部461は、ケース筒45の径方向に直交する方向の凸面を形成し、前記内周面45bにおいて径方向に対向する2箇所に設けられている。
【0040】
隔壁46の基端面46bは、筐体43の先端版432が当接している。隔壁46には、先端版432の雌ねじ孔432aに対応する位置にねじ挿入穴46cが形成されている。ねじ挿入穴46cに第2空間46B側から固定ねじ47(固定部材)を挿通させて、先端版432の雌ねじ孔432aに螺合させることによって、モータ4(筐体43)がモータケース44に固定されている。すなわち、モータケース44は、モータ回転軸41の太陽ギア11寄りの位置で筐体43に対して固定されている。
なお、隔壁46と先端版432との接触部分には、熱伝導グリスや熱伝導シートを介在させるようにしてもよい。
【0041】
(減速装置)
図4に示すように、減速装置10は、モータ4の回転駆動力を減速させてスプール3(
図1参照)に伝達する。減速装置10は、
図5に示すように、モータ4のモータ回転軸41に設けられた太陽ギア11と、太陽ギア11に噛合し、遊星ギア支持軸121を有する複数の遊星ギア12(12A、12B、12C)と、太陽ギア11と同軸に設けられ、各遊星ギア12を内周部で噛合させる内周歯車131を有し、内周歯車131に沿って複数の遊星ギア12A、12B、12Cを周回移動させるリングギア13と、各遊星ギア12の遊星ギア支持軸121の両端121a、121bを支持するとともに、複数の遊星ギア12A、12B、12Cの周回移動に伴ってモータ回転軸41を中心にして回転してスプール3に回転駆動力を伝達するキャリア6と、を備えている。
【0042】
減速装置10では、3つの遊星ギア12A、12B、12Cで構成され、モータ4の駆動時に、モータ回転軸41の回転駆動力を太陽ギア11と遊星ギア12で減速させて、キャリア6を介してスプール3に伝達する構成となっている。
各遊星ギア12A、12B、12Cは、モータケース44の先端の内周面45bに設けられたリングギア13に常時噛合した構造となっている。
【0043】
(太陽ギア)
太陽ギア11は、
図4及び
図5に示すように、モータ回転軸41の軸先端部41aに同軸に固定されている。太陽ギア11は、外周に歯部111が形成されている。太陽ギア11の歯部111には、3つの遊星ギア12A、12B、12Cが噛合している。
【0044】
(遊星ギア)
各遊星ギア12A、12B、12Cは、
図4に示すように、それぞれの遊星ギア支持軸121の両端121a、121bがキャリア6に支持された両端支持構造であり、軸受を介して遊星ギア支持軸121回りに回転可能に設けられている。
これら遊星ギア12A、12B、12Cは、それぞれの外周の歯部122のうち半径方向内側の部分で太陽ギア11と噛合し、同じく半径方向外側の部分でリングギア13と噛合する。
【0045】
(リングギア)
リングギア13は、
図4、
図5、及び
図7に示すように、モータ回転軸41と同軸に設けられ、3つの遊星ギア12A、12B、12Cをリング内周面で噛合させる内周歯車131を有している。遊星ギア12A、12B、12Cは、それぞれが太陽ギア11の回転によって自転しながら内周歯車131に沿って周回移動される。
【0046】
リングギア13は、モータケース44の第2空間46B側の内周面45b(
図5参照)に回転不能な状態で嵌合されている。リングギア13には、
図5及び
図7に示すように、隔壁46に対向する外周縁部13aにおいて周方向の一部を切り欠いて形成された回止め凹部132(第1係合凹凸部)を有している。回止め凹部132は、リングギア13の径方向に直交する方向の切欠面132aを形成し、外周縁部13aにおいて、リングギア13の径方向に対向する2箇所に設けられている。
このようにリングギア13とモータケース44の隔壁46とのそれぞれにモータ回転軸41方向に突出又は凹ませた係合凹凸部(
図6に示す回止め凸部461、回止め凹部132)を形成し、互いに係合させることで、モータケース44に対するリングギア13の回転が規制される。
【0047】
(キャリア)
図4及び
図5に示すように、キャリア6は、3つの遊星ギア12A、12B、12Cの遊星ギア支持軸121を支持するとともに、各遊星ギア12A、12B、12Cのリングギア13に沿う周回移動に伴ってモータ回転軸41を中心にして回転してスプール3に回転駆動力を伝達する。
キャリア6は、リングギア13の内側で周回移動する各遊星ギア12A、12B、12Cとともにモータ回転軸41回りに回転する第1支持体61と、第1支持体61より前記隔壁46と反対側に突出してスプール3に回転を伝達する第2支持体62と、を有している。第1支持体61は、太陽ギア11をモータ回転軸41方向の軸先端部41aから囲うように配置され、キャリア軸受部14を介してモータ回転軸41回りに回転可能に支持されている。
【0048】
次に、このように構成される魚釣用電動リールの減速装置、及び魚釣用電動リールの作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図4乃至
図7に示すように、本実施形態では、環状のリングギア13に先端側に凹ませた回止め凹部132を形成し、隔壁46に先端側に突出させた回止め凸部461を形成するといった簡単な構成によりモータケース44に対するリングギア13の回転を規制することができる。
【0049】
そして、双方の回止め凹部132と回止め凸部461とを係合させるだけの構造となるので、リングギアの分解、組立を容易に行うことができ、組立性を高めることができる。
また、双方の回止め凹部132と回止め凸部461とを係合させるため、双方の周方向の位置決めを容易に行うことが可能となる。
さらに、双方の回止め凹部132と回止め凸部461同士を係合させることにより、モータケース44の内周面における複雑な加工や圧入による変形を防ぐことができ、品質の低下を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態では、回止め凹部132と回止め凸部461とが、それぞれ周方向に複数(本実施形態では二箇所)設けられているため、周方向の複数箇所で回止め凹部132と回止め凸部461とが係合した構成となるので、リングギア13の回転をより確実に規制することができる。
【0051】
上述のように構成された本実施形態による魚釣用電動リールでは、簡単な構造でリングギアの組立性を向上させることができ、しかも品質の低下を抑制できる。
【0052】
(第2実施形態)
図8及び
図9に示す第2実施形態による魚釣用電動リールに用いられるスプール減速装置7は、スプール3(筒状部材)の先端側のフランジ部33に対して固定ねじ92によって支持壁9(端板)が固定された構成のものである。
スプール減速装置7は、スプール3のスプール回転軸31の軸先端部31aに固定された太陽ギア71と、太陽ギア71に噛合する複数(ここでは3つ)の遊星ギア72(72A、72B、72C)と、内周部で3つの遊星ギア72を噛合させて、それら遊星ギア72を周回移動可能に設けたリングギア73と、各遊星ギア72を回転可能に支持して遊星ギア72の周回移動ととともにスプール回転軸31回りに回転するキャリア8と、を備えている。このキャリア8は上述したモータ4の減速装置10から回転駆動力が伝達される構成であってもよい。この場合には、モータ4の回転駆動力は、減速装置10を介してスプール用減速装置に伝達され、さらにスプール減速装置7で減速されてスプール3を回転させるようになっている。
【0053】
スプール3のフランジ部33には、先端側に向けて突出する筒状の係止筒34が設けられている。係止筒34の内周部には、リングギア73が回転不能な状態で嵌合されている。係止筒34の先端部には、支持壁9が全周にわたって当接し、周方向の所定の複数箇所で固定ねじ92によって双方が固定されている。互いに対向するスプール3のフランジ部33と支持壁9との間の空間には、太陽ギア71、遊星ギア72、及びリングギア73が配置されている。
【0054】
支持壁9は、スプール軸C2に直交する径方向に平面を有する板状の部材であって、中央にキャリア8のキャリア本体81を貫通させる筒部を有している。この筒部とキャリア本体81との間には軸受93が設けられ、キャリア8とスプール3の糸巻胴部32に固定されている支持壁9とが相対的に回転可能となっている。ここで、支持壁9は、スプール3の糸巻胴部32と一体的に設けられることから、スプール3の一部に相当する。
【0055】
支持壁9のスプール3側の基端面には、後述する一対の回止め凹部74に係合するようにスプール3側に向けて突出する一対の回止め凸部91(第2係合凹凸部)が設けられている。回止め凸部91は、スプール回転軸31の径方向に直交する方向の平坦な凸面をスプール回転軸31側に向けた状態で形成し、前記径方向でスプール回転軸31を挟んで対向する2箇所に設けられている。
【0056】
リングギア73は、スプール回転軸31と同軸に設けられ、3つの遊星ギア72A、72B、72Cをリング内周面で噛合させる内周歯車731を有している。遊星ギア72A、72B、72Cは、それぞれが太陽ギア71の回転によって自転しながら内周歯車731に沿って周回移動される。
【0057】
リングギア73は、スプール3の係止筒34の内周面に回転不能な状態で嵌合されている。リングギア73には、支持壁9に対向する外周縁部において周方向の一部を切り欠いて形成された回止め凹部74(第1係合凹凸部)を有している。回止め凹部74は、リングギア73の径方向に直交する方向の切欠面を外周側に向けた状態で形成し、外周縁部において、リングギア73の径方向に対向する2箇所に設けられている。
このようにリングギア73と支持壁9とのそれぞれにスプール回転軸31方向に突出又は凹ませた係合凹凸部(回止め凸部91、回止め凹部74)を形成し、互いに係合させることで、支持壁9、スプール3のフランジ部33及び糸巻胴部32に対するリングギア73の回転が規制される。
【0058】
このように、本第2実施形態では、環状のリングギア73と、スプール3とのそれぞれにスプール回転軸31方向に突出又は凹ませた係合凹凸部を形成するといった簡単な構成によりスプール3に対するリングギア73の回転を規制することができる。
また、双方の係合凹凸部(回止め凸部91、回止め凹部74)同士を係合させることにより、スプール3の内周面における複雑な加工や圧入による変形を防ぐことができ、品質の低下を抑制することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0060】
例えば、上記実施形態では、第1係合凹凸部および第2係合凹凸部がそれぞれモータ回転軸41回り、あるいはスプール回転軸31回りの周方向に2箇所に設けた構成としているが、二箇所であることに制限されることはなく、3箇所以上、或いは1箇所であってもかまわない。
【0061】
また、本実施形態では、リングギア側が凹部で筒状部材側が凸部を形成した構成となっているが、それぞれ凹凸が逆であってもかまわない。すなわちリングギア側が凸部で筒状部材側が凹部とした構成でも、筒状部材に対してリングギアの回転を規制できる。
【符号の説明】
【0062】
1 電動リール(魚釣用電動リール)
2 リール本体
3 スプール
4 モータ
6 キャリア
7 スプール減速装置
8 キャリア(第1キャリア、第2キャリア)
9 支持壁
10 減速装置
11 太陽ギア(第1太陽ギア)
71 太陽ギア(第2太陽ギア)
12、12A、12B、12C 遊星ギア(第1遊星ギア)
72、72A、72B、72C 遊星ギア(第2遊星ギア)
13 リングギア(第1リングギア)
73 リングギア(第2リングギア)
21 本体フレーム
31 スプール回転軸
32 糸巻胴部
33 フランジ部
41 モータ回転軸
42 モータ本体
43 筐体
44 モータケース
45 ケース筒
46 隔壁
74 回止め凹部
91 回止め凸部
132 回止め凹部(係合凹凸部)
131、731 内周歯車
461 回止め凸部(係合凹凸部)
C1 ハンドル軸
C2 スプール軸
O モータ軸線