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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】皮膚塗布用組成物の塗膜の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/14 20060101AFI20221205BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
G01N11/14 A
G01N11/14 D
G01N33/15 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018162183
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020034462
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 志洋
(72)【発明者】
【氏名】名畑 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】石川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】福地 智典
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-078444(JP,A)
【文献】特開2012-047667(JP,A)
【文献】特開2012-229962(JP,A)
【文献】特開2010-070628(JP,A)
【文献】特開2008-064722(JP,A)
【文献】特開2010-127871(JP,A)
【文献】特開2016-121895(JP,A)
【文献】特開2011-007634(JP,A)
【文献】特開平07-035671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/14
G01N 33/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚塗布用組成物の塗膜の性質を、回転型レオメータを用いて評価する塗膜の評価方法であって、
前記回転型レオメータは粘弾性測定具を備えており、
前記粘弾性測定具は、回転軸と、環状体と、該回転軸の先端から放射状に延び且つ該回転軸及び該環状体とを連結して、該環状体を該回転軸に同心的に固定する連結部とを備えており、
下側プレートと前記粘弾性測定具との間に前記皮膚塗布用組成物を配置し且つ該粘弾性測定具が該皮膚塗布用組成物に接触した状態下に該皮膚塗布用組成物に該皮膚塗布用組成物の線形歪み以内の歪みを与え、該皮膚塗布用組成物から揮発成分が揮散している間及び揮散が概ね終了した後の該皮膚塗布用組成物のレオロジー特性を継続的に測定し
記揮発成分の揮散が概ね終了した後において、前記皮膚塗布用組成物の非線形歪み領域でのレオロジー特性に基づき該皮膚塗布用組成物の塗膜の性能を評価する、皮膚塗布用組成物の塗膜の評価方法。
【請求項2】
前記揮発成分の揮散が概ね終了した後において、前記皮膚塗布用組成物の非線形歪み領域まで測定したときの応力-歪み特性に基づき、前記皮膚塗布用組成物を皮膚に塗布して形成された塗膜の持続性を評価する請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
皮膚塗布用組成物の塗膜の性質を、回転型レオメータを用いて評価する塗膜の評価方法であって、
前記回転型レオメータは粘弾性測定具を備えており、
前記粘弾性測定具は、回転軸と、環状体と、該回転軸の先端から放射状に延び且つ該回転軸及び該環状体とを連結して、該環状体を該回転軸に同心的に固定する連結部とを備えており、
下側プレートと前記粘弾性測定具との間に前記皮膚塗布用組成物を配置し且つ該粘弾性測定具が該皮膚塗布用組成物に接触した状態下に、該皮膚塗布用組成物に該皮膚塗布用組成物の線形歪み以内の歪みを与え、且つ該皮膚塗布用組成物から揮発成分が揮散している間も継続して該歪みを与え、
前記揮発成分の揮散の途中に、あるいは揮散が概ね終了した後に、前記皮膚塗布用組成物に液体を接触させ、
引き続き前記皮膚塗布用組成物に該皮膚塗布用組成物の線形歪み以内の歪みを与えて該皮膚塗布用組成物のレオロジー特性を測定し、
前記レオロジー特性に基づき前記液体と接触させた後の前記皮膚塗布用組成物の塗膜の性能を評価する、塗膜の評価方法。
【請求項4】
前記液体との接触後、前記皮膚塗布用組成物の貯蔵弾性率の経時変化が概ね終了した後において、前記皮膚塗布用組成物の非線形歪み領域まで測定したときの応力-歪み特性に基づき、前記皮膚塗布用組成物を皮膚に塗布して形成された塗膜の持続性を評価する請求項に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚塗布用組成物の塗膜の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布用組成物を対象物に塗布して形成された塗膜の乾燥状態での物性やレオロジー特性を知ることは、該組成物の使用感などを客観的に判断する観点から重要な事項である。しかし乾燥した塗膜は薄く、且つ柔らかいものであったり、あるいは脆いものであったりすることから、その物性やレオロジー特性を測定することは容易でない。
【0003】
塗布用組成物の乾燥過程での粘弾性を測定することを目的として、特許文献1には、回転軸と、該回転軸の先端に同心的に取り付けられた円形体とを有する粘弾性測定用治具が提案されている。この円形体は、環状体と該環状体を前記回転軸に支持する支持体で形成されている。この治具によれば、揮発成分を含む試料の粘弾性を、揮発や硬化などの試料が変化する過程においても連続的に精度よく測定できる、と同文献には記載されている。
【0004】
特許文献2には、客観的に且つ再現性よく、化粧料のべたつきの程度を評価することができる方法として、乳液状化粧料を室温(15~35℃)の大気下に静置して水分を揮発させた後の該化粧料のレオロジー特性に基づき、該化粧料の肌への塗布時のべたつきの程度を評価する方法が提案されている。この方法においては、水分を揮発させた後の乳液状化粧料の状態に応じて、べたつきの程度を評価するためのレオロジー特性を(A)と(B)に場合分けする。(A)水分を揮発させた後の該化粧料の混練物の外観が液体と固体の混合物であるときは、混練後にレオロジー特性として損失正接tanδを測定する。(B)水分を揮発させた後の該化粧料を混練物がグリース状又は餅状を呈しているときには、混練後にレオロジー特性として第1法線応力差N1を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-078444号公報
【文献】特開2012-229962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗布用組成物の塗膜の物性を正確に測定するためには、対象物に形成した塗膜そのものを測定対象とすることが理想である。しかし現実にはそのような測定は極めて困難である。そこで、実際の塗膜に一層近い状態での測定法が望まれている。
【0007】
したがって本発明の課題は、塗布用組成物の乾燥塗膜のレオロジー特性を正確に測定し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、皮膚塗布用組成物の塗膜の性質を、回転型レオメータを用いて評価する塗膜の評価方法であって、
前記回転型レオメータは粘弾性測定具を備えており、
前記粘弾性測定具は、回転軸と、環状体と、該回転軸の先端から放射状に延び且つ該回転軸及び該環状体とを連結して、該環状体を該回転軸に同心的に固定する連結部とを備えており、
下側プレートと前記粘弾性測定具との間に前記皮膚塗布用組成物を配置し且つ該粘弾性測定具が該皮膚塗布用組成物に接触した状態下に該皮膚塗布用組成物に該皮膚塗布用組成物の線形歪み以内の歪みを与え、該皮膚塗布用組成物から揮発成分が揮散している間及び揮散が概ね終了した後の該皮膚塗布用組成物のレオロジー特性を継続的に測定し、
前記揮発成分が揮散している間において、前記皮膚塗布用組成物の線形レオロジー特性に基づき該皮膚塗布用組成物の塗膜の性能を評価するか、又は
前記揮発成分の揮散が概ね終了した後において、前記皮膚塗布用組成物の線形歪み領域若しくは非線形歪み領域でのレオロジー特性に基づき該皮膚塗布用組成物の塗膜の性能を評価する、皮膚塗布用組成物の塗膜の評価方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、皮膚塗布用組成物の塗膜の性質を、回転型レオメータを用いて評価する塗膜の評価方法であって、
前記回転型レオメータは粘弾性測定具を備えており、
前記粘弾性測定具は、回転軸と、環状体と、該回転軸の先端から放射状に延び且つ該回転軸及び該環状体とを連結して、該環状体を該回転軸に同心的に固定する連結部とを備えており、
下側プレートと前記粘弾性測定具との間に前記皮膚塗布用組成物を配置し且つ該粘弾性測定具が該皮膚塗布用組成物に接触した状態下に、該皮膚塗布用組成物に該皮膚塗布用組成物の線形歪み以内の歪みを与え、且つ該皮膚塗布用組成物から揮発成分が揮散している間も継続して該歪みを与え、
前記揮発成分の揮散の途中に、あるいは揮散が概ねの終了した後に、前記皮膚塗布用組成物に液体を接触させ、
引き続き前記皮膚塗布用組成物に該皮膚塗布用組成物の線形歪み以内の歪みを与えて該皮膚塗布用組成物のレオロジー特性を測定し、
前記レオロジー特性に基づき前記液体と接触させた後の前記皮膚塗布用組成物の塗膜の性能を評価する、塗膜の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、柔らかい、あるいは脆いとの理由で、これまで測定が困難であった乾燥塗膜のレオロジー特性を測定することが可能となり、また該レオロジー特性に基づく組成物の客観的な評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)は、本発明において用いられる粘弾性測定具の平面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるb-b線断面図である。
図2図2は、皮膚塗布用組成物のレオロジー測定を行う状態を示す模式図である。
図3図3(a)は、市販のリキッドファンデーションを対象として測定された貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”の経時変化を示すグラフであり、図3(b)は、同リキッドファンデーションを対象として測定された損失正接tanδの経時変化を示すグラフである。
図4図4は、乾燥による貯蔵弾性率の変化率と、官能評価との関係を示すグラフである。
図5図5(a)は、市販のリキッドファンデーションを対象として測定された揮発成分揮散後の線形歪み領域内での貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”の角周波数依存性を示すグラフであり、図5(b)は、同リキッドファンデーションを対象として測定された揮発成分揮散後の線形歪み領域内での損失正接tanδの角周波数依存性を示すグラフである。
図6図6は、市販のリキッドファンデーションを対象として測定された、揮発成分揮散後の非線形歪み領域までのずり応力の歪み依存性を示すグラフである。降伏開始歪みと降伏開始応力とは、応力-歪み依存性が線形歪み領域から外れ始める点におけるそれぞれ歪みと応力のことである。
図7図7は、降伏開始応力又は降伏応力のより低い値と、官能評価との関係を示すグラフである。
図8図8(a)は、市販のリキッドファンデーションを対象として測定された、人工皮脂の添加前後での線形歪み領域内での貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”の経時変化を示すグラフであり、図8(b)は、同リキッドファンデーションを対象として測定された、人工皮脂の添加前後での線形歪み領域内での損失正接tanδの経時変化を示すグラフである。
図9図9は、市販のリキッドファンデーションを対象として測定された、人工皮脂の添加後であって、且つ貯蔵弾性率G’値の変化が概ね収まった後の非線形歪み領域までのずり応力の歪み依存性を示すグラフである。図6と同様に降伏開始歪みと降伏開始応力とは、応力-歪み依存性が線形歪み領域から外れ始める点におけるそれぞれ歪みと応力のことである。
図10図10は、降伏開始応力又は降伏応力のより低い値と、官能評価との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、皮膚塗布用組成物を皮膚に塗布して形成された塗膜の性能をレオロジー的観点から評価する方法に関する。この目的のために、本発明においては塗膜のレオロジー特性を、回転型レオメータを用いて測定する。本発明において評価の対象とする皮膚塗布用組成物とは、皮膚に塗布することを目的とし、且つ液体分を含む組成物のことである。そのような皮膚塗布用組成物は、例えばローション、化粧水、クリーム、乳液などと呼ばれる化粧料、医薬部外品及び医薬品などを広く包含する。本発明において評価の対象とする皮膚塗布用組成物には、例えばO/WエマルションやW/Oエマルションなどの各種非ニュートン流体が含まれるが、これらに限られない。
【0013】
本発明にいう「塗膜の性能」とは、例えば塗膜から受けるつっぱり感、潤い感などの皮膚感覚に関する化粧品性能や、塗膜の持続性、例えば塗膜の擦りに対するとれにくさ、塗膜の水や油脂に対する耐性である塗膜のヨレにくさ、などの塗膜の物理的性質が関係する化粧品性能が挙げられる。「つっぱり感」とは、塗膜の形成によって皮膚の伸縮が規制される感覚のことである。「塗膜のとれにくさ」とは、塗膜に外力が加わったときの塗膜構造の破壊のしにくさのことである。「ヨレにくさ」とは、塗膜が水や油と接触した場合の、接触前に比較しての経時での塗膜厚み分布の変化の少なさのことである。
【0014】
本発明においては回転型レオメータを用いて塗膜のレオロジー特性を測定する。この回転型レオメータは粘弾性測定具を備えている。図1(a)及び(b)に示すとおり、この粘弾性測定具1は、回転軸2と、環状体3と、回転軸2の先端から放射状に延び且つ回転軸2及び環状体3とを連結して、環状体3を回転軸2に同心的に固定する連結部4とを備えている。そして、回転軸2、環状体3及び連結部4によって複数の切り欠き部5が測定具1に形成されている。
【0015】
環状体3は、図1(a)に示すとおり連続の円環体からなる。環状体3は、回転軸2の延びる方向と逆方向に垂下する垂下壁6を、該環状体3の全周にわたって有する。垂下壁6は、その高さが環状体3の全周にわたって同一になっている。
【0016】
環状体3の外径は、25mm以上75mm以下程度であることが好ましい。平面視における環状体3の幅は、0.5mm以上3mm以下程度であることが好ましい。側面視における環状体3の厚さは、1mm以上6mm以下程度であることが好ましい。平面視における連結部4の幅は、0.5mm以上20mm以下程度であることが好ましい。側面視における連結部4の厚さは、0.5mm以上2mm以下程度であることが好ましい。連結部4の数は、図1(a)では4本であるが、これに限られず例えば3本以上8本以下の範囲で選択することができる。連結部4の幅や本数に応じ、平面視における環状体3の見掛けの面積に対する切り欠き部5の面積の割合は70%以上97%と以下程度とすることができる。
【0017】
皮膚塗布用組成物の粘弾性測定を行うには、図2に示すとおり、皿形状をした下側プレート(以下、単に「下側プレート」ともいう)7と粘弾性測定具1との間に皮膚塗布用組成物8を配置し、垂下壁6の下部と皮膚塗布用組成物8の上部表面が接するようにする。下側プレート7の対向面9は、粘弾性測定具1と平行な配置関係になっている。なお、下側プレート7の皿内径は粘弾性測定具1の環状体3の外径よりも2mm~6mm大きな値であることが好ましい。
【0018】
皮膚塗布用組成物の粘弾性測定においては、粘弾性測定具1の垂下壁6の下部が皮膚塗布用組成物8に接触した状態下に、皮膚塗布用組成物8に対し、皮膚塗布用組成物8の線形歪み以内の歪みを与える。「線形歪み以内」の歪みとは、皮膚塗布用組成物8に歪みを与えた場合に、歪みと応力との間に正比例の関係が成立する範囲での歪みのことである。皮膚塗布用組成物8に歪みを与えるには、下側プレート7を固定状態とし、粘弾性測定具1を回転軸2のまわりに回転又は振動させればよい。以下の説明においては、下側プレート7及び粘弾性測定具1の組を本発明では「セル」とも称する。
【0019】
下側プレート7の対向面9と粘弾性測定具1の垂下壁6の下端との間の距離は、測定の再現性を高める観点から0.3mm以上1mm以下に設定することが好ましい。この範囲内において下側プレート7と粘弾性測定具1との間に皮膚塗布用組成物を充填させ、粘弾性測定具1の垂下壁6の下端を皮膚塗布用組成物8に接触させる。この接触は、粘弾性測定具1が回転又は振動している間、粘弾性測定具1の垂下壁下端面が皮膚塗布用組成物8に継続して触れる程度であればよく、粘弾性測定具1の垂下壁全体が皮膚塗布用組成物8内に浸漬されることを要しない。
【0020】
本セル形状を使用しても、回転型レオメータを用いてのレオロジー測定は通常セルを用いた場合と同様に行える。ただし、測定により得られる応力値と歪み値や歪み速度値からレオロジーパラメータを算出するに当たって、セル切り欠き部5の影響の寄与が不明なため、本発明では切り欠き部がない(円板-円板形状セル)ものとして各レオロジーパラメータを計算した。したがって、明細書中の動的粘弾性測定の損失正接を除いたレオロジーパラメータ(応力、歪み、貯蔵弾性率、損失弾性率、粘性率)はすべて見掛けの値である。
【0021】
セルによって皮膚塗布用組成物8に歪みを与える環境は、生活環境や乾燥測定時の加速を考慮した温度及び湿度であれば特に制限はない。具体的には、温度は20℃以上50℃以下であり、湿度は必要に応じて制御してもよい。
【0022】
粘弾性測定具1によって皮膚塗布用組成物8には線形歪みの範囲内の歪みが一定して且つ継続的に与えられ、レオロジー特性が継続的に測定される。この間、皮膚塗布用組成物8から、水や有機溶媒などの揮発成分が徐々に揮散していく。揮発成分が揮散している間も引き続き線形歪みの範囲内の歪みが一定して与えられ、レオロジー特性が継続して測定される。レオロジー特性はそのものを観測してもよく、あるいはその変化を観測してもよい。例えばレオロジー特性の経時変化や、一つのレオロジーパラメータと他のレオロジーパラメータとの関係(例えばずり応力と損失正接との関係)などが挙げられる。また、「揮発成分が揮散している間」とは、皮膚塗布用組成物8に含まれている揮発成分の残存率が10~1質量%程度にまで低下するまでの状態のことをいう。残存率(質量%)は((W1-W3)-(W1-W2))×100/(W1-W3)で定義される。W1は回転型レオメータによる測定開始前の皮膚塗布用組成物8の質量である。W2は、揮発成分の揮散が概ね終了したときの皮膚塗布用組成物8の質量である。W3は皮膚塗布用組成物8を完全に乾燥させたときの質量である。
【0023】
本発明においては、上述のとおり、皮膚塗布用組成物8に歪みを与えつつ皮膚塗布用組成物8から揮発成分が揮散している間において、皮膚塗布用組成物の線形レオロジー特性を測定する。そして線形レオロジー特性に基づき皮膚塗布用組成物8の塗膜の性能を評価する。線形レオロジー特性としては、例えば線形歪み領域での応力、貯蔵弾性率若しくは損失弾性率、又は損失正接など、あるいはそれらの経時変化が挙げられる。これらの線形レオロジー特性に基づき、皮膚塗布用組成物8を皮膚に塗布して形成された塗膜の性能、例えば塗膜に起因する皮膚感覚を評価する。図3(a)には、図1及び図2に示すセル構成を用い、皮膚塗布用組成物8の一例としての市販のリキッドファンデーションの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”の経時変化を測定した結果が示されている。図3(b)には、同リキッドファンデーションの損失正接tanδの経時変化を測定した結果が示されている。測定は40℃、大気開放下で行った。リキッドファンデーションには、周波数2Hz、0.01%の見掛け歪みを与えた。図3(a)に示すとおり、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”は時間経過に連れて増加している。つまり、リキッドファンデーションから揮発成分が揮散するに連れて硬くなっている。また、図3(b)に示すとおり、損失正接tanδは時間経過に連れて減少している。つまり、リキッドファンデーションから揮発成分が揮散するに連れて固体的になっている。
【0024】
図3(a)に示す測定を、複数社から市販されている同種のリキッドファンデーションについても行った。また、各リキッドファンデーションを顔に塗布して形成された塗膜について、3人の専門パネラーにつっぱり感のなさを、1点から5点の5段階で官能評価させ(1点:最もつっぱり感がある。5点:最もつっぱり感がない。)、その平均値を算出した。そして、回転型レオメータで測定された貯蔵弾性率G’の変化率(測定終了時の揮発成分の残存率:約5質量%)と、官能評価の値とをグラフにプロットしたところ、図4に示す結果が得られた。同図中、横軸のG’(dry-initial)/initialとは、揮発成分の揮散終了時の貯蔵弾性率G’と、測定開始時の貯蔵弾性率G’との差を、測定開始時の貯蔵弾性率G’で除した値である。同図に示す結果から明らかなとおり、貯蔵弾性率G’の変化率と、つっぱり感の官能評価とは高い相関関係を有していることが判る。この結果から、皮膚塗布用組成物8の貯蔵弾性率G’の経時変化に基づき、皮膚塗布用組成物8を皮膚に塗布して形成された塗膜に起因する皮膚感覚の一つであるつっぱり感のなさを客観的に評価できることが判る。
【0025】
なお、図4には示していないが、図3(a)に示す測定によって得られた損失弾性率G”及び図3(b)に示す測定によって得られた損失正接tanδの経時変化と、つっぱり感の官能評価とも高い相関関係を有していた。
【0026】
以上の測定に用いた回転型レオメータは、アントン・パール社製のMCR301であった。粘弾性測定具1における環状体3の外径は60mmとした。平面視における環状体3の幅は2mmとした。側面視における環状体3の厚さは4.5mmとした。平面視における連結部4の幅は2mmとした。側面視における連結部4の厚さは2mmとした。連結部4の数は4本とした。下側プレート7の対向面9と粘弾性測定具1の垂下壁6の下端面との間の距離は0.5mmとした。これ以降に説明する測定も、これらの条件を採用した。
【0027】
以上の説明は、皮膚塗布用組成物8のレオロジー特性を、該皮膚塗布用組成物8に含まれる揮発成分が揮散している間において測定することに関するものであったところ、本発明においては、揮発成分の揮散が概ね終了した後における皮膚塗布用組成物8のレオロジー特性を測定して、該皮膚塗布用組成物8から形成される塗膜の性能を評価することもできる。具体的には、皮膚塗布用組成物8から揮発成分が揮散して、揮発成分の残存率が10質量%を下回った後、引き続き皮膚塗布用組成物8に歪みを与えるか、又は歪みを与えるのを一旦終了した後に再び歪みを与え、皮膚塗布用組成物8のレオロジー特性に基づき該皮膚塗布用組成物8の塗膜の性能を評価することもできる。
【0028】
具体的には、皮膚塗布用組成物8に含まれる揮発成分の揮散が概ね終了した後において、該皮膚塗布用組成物8の線形歪み領域又は非線形歪み領域でのレオロジー特性の変化に基づき該皮膚塗布用組成物8の塗膜の性能を評価することができる。図5(a)には、図1及び図2に示すセル構成を用い、皮膚塗布用組成物8の一例として市販のリキッドファンデーションの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”の角周波数依存性を測定した結果が示されている。図5(b)には、同リキッドファンデーションの損失正接tanδの角周波数依存性を測定した結果が示されている。これらの測定では、リキッドファンデーションに含まれる揮発成分の揮散が概ね終了した後において、該リキッドファンデーションの線形歪み領域でのレオロジーパラメータの角周波数依存性を求めている。測定は40℃、大気開放下の環境で行った。リキッドファンデーションには、角周波数628~0.000628s-1の範囲内で、線形歪み領域内の歪みを与えた。これらの結果を、専門パネラーによる塗膜の各種官能評価と組み合わせることで、塗膜の性質を客観的に評価することができる。
【0029】
図6には、図1及び図2に示すセル構成を用い、図5(a)及び(b)に示す測定で用いたリキッドファンデーションと同じリキッドファンデーションを対象として測定されたずり応力の歪み依存性の結果が示されている。この測定では、リキッドファンデーションに含まれる揮発成分の揮散が概ね終了した後において、該リキッドファンデーションの非線形歪み領域まで測定したときのずり応力の歪み依存性を求めている。測定は40℃、大気開放下で行った。リキッドファンデーションには、0.0001~1000s-1の範囲のずり速度を、小さな速度から段階的に大きくしながら与えた。
【0030】
図6に示す測定を、複数社から市販されている同種のリキッドファンデーションについても行った。また、各リキッドファンデーションを顔に塗布して形成された塗膜について、3人の専門パネラーに、指での擦りに対する塗膜のとれにくさを、1点から5点の5段階で官能評価させ(1点:最もとれやすい。5点:最もとれにくい。)、その平均値を算出した。そして、回転型レオメータで測定されたずり応力と歪みとの関係から降伏応力を求め、該降伏応力の値と、官能評価の値とをグラフにプロットしたところ、図7に示す結果が得られた。同図に示す結果から明らかなとおり、降伏応力の値と、擦りに対する塗膜のとれにくさの官能評価とは高い相関関係を有していることが判る。この結果から、揮発成分が概ね揮発した後の皮膚塗布用組成物8の応力-歪み特性に基づき、皮膚塗布用組成物8を皮膚に塗布して形成された塗膜の持続性である、擦りに対する塗膜のとれにくさを客観的に評価できることが判る。
【0031】
なお、図7に示す相関関係は、揮発成分が概ね揮発した後の皮膚塗布用組成物8の応力-歪み特性から求められる降伏応力に基づくものであったが、降伏応力以外の物性値と、官能評価との相関関係を求めてもよい。降伏応力以外の物性値としては、例えば図6に示す降伏開始応力が挙げられる。「降伏開始応力」とは、応力-歪み依存性が線形歪み領域から外れ始める点のことである。
【0032】
これまでの説明は、皮膚塗布用組成物8に含まれる揮発成分を揮散させながら、又は揮散が概ね終了した後に、該皮膚塗布用組成物8のレオロジー特性を測定することに関するものであったが、これに代えて、揮発成分の揮散の途中に、あるいは揮散が概ね終了した後に、皮膚塗布用組成物8に液体を接触させ、その後に皮膚塗布用組成物8のレオロジー特性を測定してもよい。液体の接触は、皮膚塗布用組成物8から形成される塗膜が汗等の水を吸収する場面や、皮脂等の油分を吸収する場面を想定したものである。つまり、塗膜に汗や皮脂が染み込む場面を想定したものであり、当該液体は、塗膜の力学特性に影響を与えるかどうか知りたい物質を想定している。この観点から、皮膚塗布用組成物8に接触させる液体としては、水又はヒト皮脂を構成する油成分の単一物質若しくは混合油などが挙げられる。皮膚塗布用組成物8に接触させる液体の温度は、レオロジー特性を測定する環境の温度と同温度であることが好ましい。
【0033】
皮膚塗布用組成物8に液体を接触させるタイミングは、乾燥途中でもよく、あるいは残存率10質量%程度又はそれ以下まで揮発した時点等、目的に応じて選べる。また、揮発成分の揮散の途中に、あるいは揮散が概ね終了した後に、皮膚塗布用組成物8に液体を接触させる場合、接触させる液体の量は、乾燥初期(つまり乾燥が開始する時点)の皮膚塗布用組成物8の質量に対して30質量%以上200質量%以下であることが、評価の精度を高める観点から好ましい。
【0034】
揮発成分の揮散の途中に、あるいは揮散が概ね終了した後に、皮膚塗布用組成物8に液体を接触させた後も、引き続き、該皮膚塗布用組成物8の線形歪み以内の歪みを与えて該皮膚塗布用組成物8のレオロジー特性の変化の有無を測定する。例えば図8(a)には、図1及び図2に示すセル構成を用い、皮膚塗布用組成物8の一例としての市販のリキッドファンデーションの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”の経時変化を測定した結果が示されている。また図8(b)には、同リキッドファンデーションの損失正接tanδの経時変化を測定した結果が示されている。測定は40℃、大気開放下の環境で行った。リキッドファンデーションには、周波数2Hz、0.01%の歪みを与えた。リキッドファンデーションには、揮発成分の残存率が6質量%の時点で、該リキッドファンデーションの測定開始時の質量に対して40質量%の人工皮脂を添加した。人工皮脂は、オレイン酸:スクワラン:トリグリセリド(オリーブ油)=2:3:3から構成されているヒト皮脂の疑似物質である。図8(a)に示すとおり、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”は人工皮脂の添加によって減少している。つまり、リキッドファンデーションが人工皮脂と接触することで、塗膜の性質が変化している。また、図8(b)に示すとおり、損失正接tanδは人工皮脂の添加によって増加している。つまり、リキッドファンデーションが人工皮脂と接触することで、塗膜の性質が変化している。これらの結果を、専門パネラーによる塗膜の各種官能評価と組み合わせることで、塗膜の性質、例えば汗や皮脂に対する塗膜のヨレにくさを客観的に評価することができる。
【0035】
図8(a)及び(b)に示す結果は、皮膚塗布用組成物8に液体を接触させたことにより、その後の皮膚塗布用組成物8のレオロジー特性が経時的に変化したものであったが、レオロジー特性の経時変化が概ね終了した後において、皮膚塗布用組成物8の線形歪み領域又は非線形歪み領域まで測定したときのレオロジー特性に基づき、皮膚塗布用組成物8の塗膜の性能を評価することもできる。例えば、液体との接触によるレオロジー特性の変化が概ね終了した後において、皮膚塗布用組成物8の線形歪み領域での貯蔵弾性率若しくは損失弾性率又は損失正接の周波数依存性に基づき、該皮膚塗布用組成物を皮膚に塗布して形成された塗膜のヨレにくさを評価することができる。本発明において「レオロジー特性の経時変化が概ね終了」とは、貯蔵弾性率G’の変化速度が所定の値を下回った時点のことである。所定の値とは、評価の目的に応じ、絶対値で5%~0%の範囲で変えることができる。特に、「レオロジー特性の経時変化が概ね終了」とは、貯蔵弾性率G’の変化速度が絶対値で1%/分を下回った時点とすることが、良好な再現性が得られる観点から好ましい。
【0036】
本発明においては、液体との接触によるレオロジー特性の経時変化が概ね終了した後において、皮膚塗布用組成物8の非線形歪み領域まで測定したときの応力-歪み特性に基づき、前記皮膚塗布用組成物を皮膚に塗布して形成されたヨレにくさを評価することができる。例えば図9には、図1及び図2に示すセル構成を用い、図8(a)及び(b)に示す測定で用いたリキッドファンデーションと同じリキッドファンデーションを対象として測定されたずり応力の歪み依存性の結果が示されている。この測定では、リキッドファンデーションに含まれる揮発成分の残存率が6質量%の時点で、該リキッドファンデーションの測定初期質量に対して40質量%の人工皮脂を添加し、引き続き線形歪み領域内での歪みを与え、人工皮脂接触後の貯蔵弾性率の変化率が絶対値で1%/分を下回った時点で、該リキッドファンデーションの非線形歪み領域まで測定したときのずり応力の歪み依存性を求めている。測定は40℃、大気開放下の環境で行った。リキッドファンデーションには、周波数2Hz、0.01%の線形歪みを継続して与え、人工皮脂接触後の貯蔵弾性率の変化率が絶対値で1%/分を下回った後に、0.0001~1000s-1のずり流動を段階的に加えて非線形歪み領域までの歪みを与えた。
【0037】
図9に示す測定を、複数社から市販されている同種のリキッドファンデーションについても行った。また、各リキッドファンデーションを顔に塗布して形成された塗膜について、3人の専門パネラーに、皮脂に対するヨレにくさを、先に述べた図7に示す官能評価と同様に評価させ、その平均値を算出した。そして、回転型レオメータで測定されたずり応力と歪みとの関係から降伏開始応力及び降伏応力を求め、該降伏開始応力と降伏応力のより低い値と、官能評価の値とをグラフにプロットしたところ、図10に示す結果が得られた。同図に示す結果から明らかなとおり、該降伏開始応力と降伏応力のより低い値と、皮脂に対するヨレにくさの官能評価とは高い相関関係を有していることが判る。この結果から、人工皮脂を接触させた皮膚塗布用組成物8の応力-歪み特性に基づき、皮膚塗布用組成物8を皮膚に塗布して形成された塗膜の持続性である、皮脂に対するヨレにくさを客観的に評価できることが判る。
【0038】
以上、詳述したとおり、本発明によれば、柔らかい、あるいは脆いとの理由で、これまで測定が困難であった乾燥塗膜のレオロジー特性を測定することが可能となる。また該レオロジー特性に基づく組成物の客観的な評価が可能となる。したがって本発明の評価方法によれば、官能評価を行うことなく、皮膚塗布用組成物から形成される塗膜の性質を知ることが可能となる。また本発明の方法による評価結果を、例えば新たな皮膚塗布用組成物を開発するときの指針とすることができる。
【0039】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、皮膚塗布用組成物8としてリキッドファンデーションを例にとり、レオロジー特性を測定した結果を示したが、本発明はリキッドファンデーション以外の皮膚塗布用組成物を対象とすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 粘弾性測定具
2 回転軸
3 環状体
4 連結部
5 切り欠き部
6 垂下壁
7 下側プレート(皿形状)
8 皮膚塗布用組成物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10