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特許7187252透明スクリーン用シート、透明スクリーン、及び粘着塗料
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  • 特許-透明スクリーン用シート、透明スクリーン、及び粘着塗料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】透明スクリーン用シート、透明スクリーン、及び粘着塗料
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/625 20140101AFI20221205BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20221205BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
G03B21/625
G02B1/04
G02B5/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018197442
(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公開番号】P2020064241
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船田 俊明
【審査官】石本 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100999(JP,A)
【文献】特開2011-191428(JP,A)
【文献】特開2017-198807(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203915(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/010217(WO,A1)
【文献】特開2007-249185(JP,A)
【文献】特開2017-024267(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116931(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09J1/00-201/10
G02B1/00-1/08
3/00-5/136
G03B21/00-21/10
21/12-21/30
21/56-21/64
33/00-33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層及び粘着層を有する投射表示型のシートであり、
前記粘着層がジルコニアを含む粘着剤で構成され、
前記ジルコニアの体積平均粒子径が10~300nmであり、
前記粘着層表面の算術平均粗さ(Ra)が1.0μm以下である、
ことを特徴とする透明スクリーン用シート。
【請求項2】
前記粘着層は、厚さが5~80μmで、
前記ジルコニアは、屈折率が1.80~2.20であり、
前記ジルコニアの屈折率と前記粘着剤の屈折率との差が0.03~0.8である、
請求項1に記載の透明スクリーン用シート。
【請求項3】
前記樹脂層の厚さが25~200μmである、
請求項1又は請求項2に記載の透明スクリーン用シート。
【請求項4】
光透過率が86.0~91.0%で、かつヘイズ値が1.0~20.0%である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の透明スクリーン用シート。
【請求項5】
前記粘着剤がアクリル系粘着剤である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の透明スクリーン用シート。
【請求項6】
透明基材に請求項1~5のいずれか1項に記載の透明スクリーン用シートが積層されている、
ことを特徴とする透明スクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な映像表示スクリーン等の透明スクリーン、及びこの透明スクリーンに利用する透明スクリーン用シート及び粘着塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルサイネージや、プロジェクションマッピング、ヘッドアップディスプレイ等において利用されている透明な映像表示スクリーン等の投射表示型の透明スクリーンは、通常、透明パネル、透明ディスプレイ等の透明基材に透明スクリーン用シートが積層されてなる。この種の透明スクリーンは、光源から投射された情報を当該スクリーン上に表示するものであり、バックライトのような内部光源から発せられる光を拡散する液晶表示装置の光拡散フィルムとは求められる機能が大きく異なる。そこで、独自に開発が進められており、例えば、透明シートと、透明シートの表面に形成され入射してくる光を散乱させる光散乱層とを備え、光散乱層が、ジルコニア粒子と、透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含むものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、この従来の透明スクリーン用シートにおいては、光散乱層がジルコニア粒子を含み、強度低下している。したがって、強度低下した光散乱層が使用に伴って摩耗し、耐久性が問題になる。また、透明シートの表面に光散乱層を形成するものであるため、製造が煩瑣になる。
【0004】
また、この種の透明スクリーン用シートとしては、例えば、樹脂層と、樹脂層中に凝集状態で含まれる無機粒子とを含んでなり、当該無機粒子が酸化ジルコニウム粒子等の金属系粒子であるものも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
この提案は樹脂層の表面に光散乱層等の機能層を形成するものではないため、製造が煩瑣になるとの問題は解決される。しかしながら、この後者の透明スクリーン用シートにおいても、樹脂層が金属系粒子を含むことによって強度低下しており、この強度低下した樹脂層が使用に伴って摩耗するため、耐久性が問題になる。この点、樹脂層の表面に保護層等を設ければ摩耗の問題を解決することができるが、製造が煩瑣になるとの問題が生じる。しかも、この後者の透明スクリーン用シートにおいては、光散乱層等の機能層ではなく樹脂層自体の強度が劣るものになるため、透明スクリーン用シート全体としての強度、特に剛性等が十分なものにならない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5752834号公報
【文献】特許第6273392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする主たる課題は、耐久性を有し、好ましくは製造容易な透明スクリーン用シート、透明スクリーン、及びこれらに利用可能な粘着塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
樹脂層及び粘着層を有する投射表示型のシートであり、
前記粘着層がジルコニアを含む粘着剤で構成され、
前記ジルコニアの体積平均粒子径が10~300nmであり、
前記粘着層表面の算術平均粗さ(Ra)が1.0μm以下である、
ことを特徴とする透明スクリーン用シート。
【0009】
(請求項2に記載の手段)
前記粘着層は、厚さが5~80μmで、
前記ジルコニアは、屈折率が1.80~2.20であり、
前記ジルコニアの屈折率と前記粘着剤の屈折率との差が0.03~0.8である、
請求項1に記載の透明スクリーン用シート。
【0010】
(請求項3に記載の手段)
前記樹脂層の厚さが25~200μmである、
請求項1又は請求項2に記載の透明スクリーン用シート。
【0011】
(請求項4に記載の手段)
光透過率が86.0~91.0%で、かつヘイズ値が1.0~20.0%である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の透明スクリーン用シート。
【0012】
【0013】
(請求項5に記載の手段)
前記粘着剤がアクリル系粘着剤である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の透明スクリーン用シート。
【0014】
(請求項6に記載の手段)
透明基材に請求項1~5のいずれか1項に記載の透明スクリーン用シートが積層されている、
ことを特徴とする透明スクリーン。
【0015】
(参考となる手段)
粘着剤及びジルコニアを含み、
前記ジルコニアは、屈折率が1.80~2.20、体積平均粒子径が5~500nm、濃度が0.10~5.0質量%である、
ことを特徴とする粘着塗料。
【0016】
(参考となる手段2)
前記ジルコニアの分散液を含む有機溶剤と前記粘着剤とが混合されている、
参考となる手段に記載の粘着塗料。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、耐久性を有し、好ましくは製造容易な透明スクリーン用シート、透明スクリーン、及びこれらに利用可能な粘着塗料となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】透明スクリーンの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例であり、本発明の範囲は本実施の形態の範囲に限定されない。
【0020】
図1に示すように、本形態の透明スクリーン1は、透明基材2の表面に透明スクリーン用シート3が積層されてなる。また、透明スクリーン用シート3は、樹脂層4及び粘着層5を有し、粘着層5が光拡散剤6としてジルコニアを含むことを特徴とする。
【0021】
(樹脂層)
樹脂層4は、本形態の透明スクリーン用シート3の剛性を確保し、また、粘着層5の支持材となる。樹脂層4は、通常、フィルム状である。
【0022】
樹脂層4は、例えば、熱可塑性樹脂等から形成することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用するのが好ましい。これらの樹脂によれば、透明スクリーン用シート3の光透過性(透明性)が高いものとなる。
【0023】
樹脂層4の厚さは、好ましくは25~200μm、より好ましくは38~188μm、特に好ましくは50~125μmである。樹脂層4の厚さが25μmを下回ると、透明スクリーン用シート3の剛性が不十分になる可能性がある。また、樹脂層4の厚さが25μmを下回ると、透明スクリーン用シート3の端縁から粘着層5(粘着塗料)がはみ出し易くなる。さらに、樹脂層4の厚さが25μmを下回ると、透明スクリーン用シート3をスリット加工する際に、スリットするための刃に粘着塗料が付着し易くなり、作業性が低下する可能性がある。
【0024】
他方、樹脂層4の厚さが200μmを上回ると、透明スクリーン用シート3の剛性が高くなり過ぎ、ガラス等からなる透明基材2に対する粘着(感圧接着)が困難になる可能性がある。また、本形態の透明スクリーン用シート3は光拡散剤6が粘着層5に含まれるものであるため、粘着層5を覆うことになる樹脂層4の厚さが厚くなり過ぎると、光拡散性に影響が生じる可能性がある。
【0025】
樹脂層4の表面(粘着層5とは反対側の表面)の算術平均粗さ(Ra)は、1.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましい。表面粗さが、1.0μmを超えると、樹脂層4の表面散乱が大きく、表示ムラが発生する可能性がある。
【0026】
なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601に準拠して測定した値である。
【0027】
樹脂層4は、必要により、複数層とすることもできる。ただし、複数層とする場合においても、その合計厚さは、上記範囲内とするのが好ましい。
【0028】
(粘着層)
粘着層5は、透明スクリーン用シート3に向かって投影された映像等の情報を視認可能とする(表示する)ための層である。粘着層5は、粘着剤及び光拡散剤(ジルコニア)6を含む。光拡散剤6が強度低下の問題にならない粘着層5に含まれており、樹脂層4に含まれるものではないため、使用に伴う摩耗が回避され、耐久性に優れる。この点、光拡散剤6を粘着層5に含ませるとすることは技術的には簡易であるが、従来、このような発想に思い至ることがなかった。
【0029】
粘着剤としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、天然ゴム系、合成ゴム系、ポリビニルエーテル系等のものを使用することができる。ただし、アクリル系粘着剤を使用するのが好ましい。アクリル系粘着剤は、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤等に比べて、極性が低いモノマーであるため、光拡散剤と混合し易く、また透明であり、粘着力も調節し易い特徴がある。アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、他の官能基を有するモノマーとを1種又は2種以上混合して共重合させたものである。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピル等の(メタ)アクリル酸モノアルキルアミノエステル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0031】
他の官能基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のカルボキシル基を含有するモノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アリルアルコール等の水酸基を含有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を含有するモノマー;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基とメチロール基とを含有するモノマー;アミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基を含有するモノマー;アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと他の官能基を有するモノマーとを1種又は2種以上混合して共重合させ、もってアクリル系粘着剤を得るための重合方法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合等のいずれかの重合方法を採用することができる。
【0033】
重合開始剤としては、溶液中においてラジカルを発生するラジカル重合剤を使用するのが好ましく、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾジイソブチロニトリル等の重合開始剤を使用することができる。ただし、本形態においては、アゾジイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤を使用するのが好ましい。
【0034】
アゾ系重合開始剤の使用量は、モノマー100質量部に対して、0.005~1.0質量部とするのが好ましい。また、得られるアクリル系ポリマーの質量平均分子量は、10万~200万であるのが好ましく、30万~100万であるのがより好ましい。質量平均分子量がこの範囲であると、次いで説明する架橋剤との反応により適度な凝集効果が得られる。
【0035】
アクリル系粘着剤は、架橋剤によって反応させることができる。架橋剤としては、例えば、m-キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート系化合物;エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールグリシジルエーテル、ポリエチレンジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物;ヘキサメチレンジアミン、トリエチルジアミン、ポリエチレンアミン等のアミン系化合物;アルミニウムに代表される多価金属や金属キレート化合物;N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキサイド)、N,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサイド)、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド等のアジリジン系化合物等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0036】
市販の粘着剤としては、例えば、SKダイン2094、SKダイン2147、SKダイン1811L、SKダイン1442、SKダイン1435、SKダイン1415(以上、綜研化学(株)製)、オリバインEG-655、オリバインBPS5896(以上、東洋インキ(株)製)等(以上、商品名)を使用することができる。
【0037】
粘着剤及び架橋剤は、粘着層5のガラスに対する粘着力が0.05~30.0N/25mmとなるように調節されているのが好ましく、5.0~20.0N/25mmとなるように調節されているのがより好ましい。
【0038】
この調節にあたっては、例えば、粘着剤及び架橋剤の含有割合を調節するとよい。具体的には、粘着剤に対する架橋剤の含有割合が、アクリル系粘着剤100質量部に対して固形分換算で0.01~20質量部であるのが好ましく、0.1~10質量部であるのがより好ましい。使用量が0.01質量部を下回ると、凝集力不足によって粘着層5の弾性が低下し、浮き剥がれ等の問題が発生し易くなる。また、使用量が0.01質量部を下回ると、透明スクリーン用シート3の端縁から粘着塗料(粘着層5)がはみ出し易くなる。さらに、使用量が0.01質量部を下回ると、透明スクリーン用シート3をスリット加工する際に、スリットする刃に粘着塗料が付着し易くなり、作業性が低下する可能性がある。
【0039】
他方、使用量が20質量部を上回ると、粘着層5の粘性が低下し、ガラス等からなる透明基材2に対する粘着(感圧接着)が困難になる可能性がある。
【0040】
光拡散剤6としては、粘着剤に対する分散性及びコスト(高価な光拡散剤の含有量を低減可能)を考慮すると、ジルコニア、特に粒子状のジルコニアを使用するのが好ましい。
【0041】
市販の(酸化)ジルコニア粒子としては、例えば、SZR-W、SZR-CW、SZR-M、SZR-K等(以上、堺化学工業(株)製、商品名)を使用することができる。
【0042】
光拡散剤6としては、ジルコニア粒子と共に、無機粒子及び/又は有機粒子を併用することもできる。ただし、光拡散剤6全体の50質量%以上(好適には90質量%以上)がジルコニアであるのが好ましい。
【0043】
光拡散剤6としての無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、鉛白、酸化アンチモン類、アンチモン酸亜鉛、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化イットリウム、酸化クロム、酸化スズ、酸化モリブデン、ATO、ITO、ケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス等の酸化ガラス等、これらの複合酸化物や複合硫化物等中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。無機微粒子としては、以上のように金属系の微粒子を使用することができる。
【0044】
光拡散剤6としての有機微粒子としては、例えば、アクリル重合体、スチレン-アクリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル共重合体、酢酸ビニル重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリオレフィン重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル等の多元共重合体、SBR、NBR、MBR、カルボキシル化SBR、カルボキシル化NBR、カルボキシル化MBR、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール系樹脂、ロジンエステル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン-アクリル樹脂、メラミン樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0045】
ジルコニアは、屈折率が1.80~2.20であるのが好ましく、1.85~2.10であるのがより好ましい。屈折率が1.80を下回ると、粘着剤との屈折率差が小さくなり、粘着層5の内部散乱効果が小さくなる可能性がある。他方、屈折率が2.20を上回ると、ヘイズ値の調整が困難となる可能性がある。
【0046】
ジルコニアは、体積平均粒子径が5~500nmであるのが好ましく、10~300nmであるのがより好ましい。体積平均粒子径が5nmを下回ると、光拡散剤としての性能を発揮することが困難となる可能性がある。他方、体積平均粒子径が500nmを上回ると、表面が粗くなり映像ムラとなる可能性がある。
【0047】
なお、体積平均粒子径は、動的光散乱法で測定した値である。
【0048】
ジルコニアは、粘着剤との屈折率の差が0.03~0.8であるのが好ましく、0.05~0.6であるのがより好ましい。粘着剤との屈折率の差が0.03を下回ると、光拡散剤としての性能を発揮することが困難となる可能性がある。他方、粘着剤との屈折率の差が0.8を上回ると、光拡散剤としての機能が高すぎるため、透明性を調整することが困難となる可能性がある。
【0049】
光拡散剤6は、その形状が特に限定されない。光拡散剤6として、例えば、球状や扁平状のものを使用することができる。
【0050】
粘着剤及び光拡散剤6は、粘着層5のガラスに対する粘着力が0.010~5.0N/25mmとなるように調節されているのが好ましく、1.0~3.0N/25mmとなるように調節されているのがより好ましい。
【0051】
この調節にあたっては、例えば、粘着剤及び光拡散剤6の含有割合を調節するとよい。具体的には、粘着剤に対するジルコニアの含有割合(濃度)が、0.10~5.0質量%であるのが好ましく、0.20~1.0質量%であるのがより好ましい。含有割合が0.10質量%を下回ると、透明スクリーン用シート3の映像を受像する機能が不十分になる可能性がある。他方、含有割合が5.0質量%を上回ると、透明スクリーン用シート3の光透過性(透明性)が不十分になる可能性がある。
【0052】
粘着層5の厚さは、5~100μmであるのが好ましく、10~50μmであるのがより好ましい。粘着層3の厚さが5μmを下回ると、粘着層5の粘着性や弾性が不十分になり、ガラス等からなる支持基材2に対する積層が困難になる可能性がある。
【0053】
他方、粘着層5の厚さが100μmを上回ると、透明スクリーン用シート3の端縁から粘着塗料(粘着層5)がはみ出し易くなる。さらに、粘着層5の厚さが100μmを上回ると、透明スクリーン用シート3をスリット加工する際に、スリットする刃に粘着塗料が付着し易くなり、作業性が低下する可能性がある。
【0054】
粘着層5の表面(樹脂層4とは反対側の表面)の算術平均粗さ(Ra)は、1.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましい。表面粗さが、1.0μmを超えると、粘着層5の表面散乱が大きく、映像ムラが発生する可能性がある。この点、透明基材2に粘着層5を介して樹脂層4を貼り付ける場合、透明基材2の表面性に追従して、粘着層5及び樹脂層4の表面粗さも変化する。
【0055】
なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601に準拠して測定した値である。
【0056】
粘着層5には、耐光性を向上させるために紫外線吸収剤を添加することができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系のもの等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0057】
粘着層5には、ガラス等の支持基材に対する密着性を向上させるために、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、メルカプト系化合物、アミノ系化合物、カルボキシル系化合物、アルコキシ系化合物等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0058】
粘着剤や光拡散剤6等は、一軸押出機、二軸押出機、ベント押出機、タンデム押出機等の押出機や、スクリュー等を使用して混練することができる。
【0059】
光拡散剤6の粘着剤への混練方法としては、光拡散剤の分散液(好適には、水分散液。)を有機溶剤中に分散させた後、粘着剤と有機溶剤とを混合させる方法によるのが好ましい。この混練方法によると、微細なジルコニア粒子等の光拡散剤6を二次凝集させることなく、粘着剤中に均一に分散させることができ、粘着剤層の表面性が高まり(表面散乱を抑える)、結果、受像性や映像ムラ低減等の透明スクリーンとしての性能が向上する。
【0060】
粘着層5は、例えば、樹脂層4に粘着塗料を塗工する等して形成することができる。
【0061】
粘着塗料の成分は、以上の粘着層5の説明から容易に想到することができると考えるが、好ましくは粘着剤及び光拡散剤(ジルコニア)6を含み、光拡散剤及び粘着剤の屈折率の差が0.03~0.8、体積平均粒子径が5~500nm、濃度が0.10~5.0質量%である。
【0062】
なお、ジルコニアの濃度は、有機溶剤分を除去した粘着剤成分との固形分の値である。
【0063】
(透明スクリーン用シート)
本形態の透明スクリーン用シート3は、光透過率が86.0~91.0%であるのが好ましく、89.0~91.0%であるのがより好ましい。光透過率が高まると透明スクリーン2の背景が見えやすくなるが、光透過率が高くなり過ぎると透明スクリーン2に映し出される映像が見えにくくなる可能性がある。
【0064】
本形態の透明スクリーン用シート3は、ヘイズ値が1.0~20.0%であるのが好ましく、2.0~6.0であるのがより好ましい。ヘイズ値が高まると透明スクリーン2に映し出される映像が見えやすくなるが、ヘイズ値が高くなり過ぎると透明スクリーン2の背景が見えにくくなる可能性がある。
【0065】
本形態の透明スクリーン用シート3は、透明基材2の一方の表面に貼り合わされて積層されている。ただし、本形態の透明スクリーン用シート3は、透明基材2の両方の表面に貼り合わせて積層することもできる。
【0066】
(透明基材)
透明基材2としては、例えば、ガラスや樹脂等で形成された透明パネル、透明ディスプレイ、透明スクリーン、ショーケース等を例示することができる。
【0067】
透明基材2の透過率は、90%以上のものが好ましく、ヘイズ値は0.1~1.0%が好ましい。
【0068】
(用途)
本形態の透明スクリーン1、あるいは透明スクリーン用シート3は、静止画及び動画の少なくとも一方を映し出す(表示する)ために用いることができる。具体的には、例えば、デパート等のショーウィンドウやイベントスペース等の透明パーティション等にその透明性を維持したまま商品情報や広告等を投射表示するために用いることができる。また、この他にも、例えば、デジタルサイネージや、プロジェクションマッピング、ヘッドアップディスプレイ等において用いることができる。なお、透明スクリーン1は、例えば、プロジェクター用スクリーンなどと呼ばれることもある。
【0069】
本形態の透明スクリーン1は、背面投射型スクリーン(透過型スクリーン)であっても、前面投射型スクリーン(反射型スクリーン)であってもよい。つまり、映像表示装置等の光源が透明スクリーン1に対して観察者側にあっても、観察者と反対側にあってもよい。また、透明スクリーン1は、平面であっても、曲面であってもよい。
【0070】
本形態の透明スクリーン用シート3は、例えば、粘着層5がセパレーター等で覆われた状態で提供することができる。
【0071】
(その他)
本明細書において光拡散剤等の各成分の含有量は、これに反する記載がない限り、固形分換算した場合の含有量を意味する。
【0072】
本明細書において光透過率及びヘイズ値は、紫外可視分光光度計(島津製作所製:型番UV-3150)を用いてJIS-K-7361-1及びJIS-K-7136に準拠して測定した値である。
【0073】
本明細書において透明とは、本発明の用途に応じた透過視認性を有する程度の透明を意味する。したがって、本発明の用途に適するのであれば、透明には半透明であることも含まれる。
【実施例
【0074】
次に、本発明の試験例を示し、本発明の作用効果を明らかにする。
【0075】
樹脂層及び粘着層を有し、粘着層が粘着剤及び光拡散剤を含む透明スクリーン用シート(試験片)を作成し、各種試験を行った。詳細は、次のとおりである。
【0076】
樹脂層は、PET系の樹脂(コスモシャイン A4100、東洋紡)で形成した。粘着剤には、アクリル系粘着剤(サイビノール ATR-300(屈折率1.48)、サイデン化学)を使用した。光拡散剤には、ジルコニア系の光拡散剤(ジルコスター ZP-153(平均粒子径11nm、屈折率2.00)、日本触媒)、又は、シリカ系の光拡散剤(トスパール 2000B(平均粒子径6.0μm、屈折率1.42、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)を使用した。架橋剤としては、イソシアネート系の架橋剤(硬化剤AL、サイデン化学)を使用した。光拡散剤は、分散液を酢酸エチル中に分散させた後、粘着剤、架橋剤及びトルエンと混合させた。
【0077】
試験片は、粘着剤、光拡散剤、及び架橋剤を十分に混合し、混合液(塗液)をマイクロバーで樹脂層(基材)に塗工し、80℃で2分間ドライヤー乾燥させ、1週間常温エージング処理して作成した。
【0078】
各種材料の配合量、得られた試験片の物性、評価等を表1に示した。なお、物性の測定方法及び評価方法は、以下のとおりとした。
【0079】
(光透過率及びヘイズ値)
紫外可視分光光度計(島津製作所製:型番UV-3150)を使用し、試験片の380~780nmにおける光線透過率及びヘイズ値(D65光源、視野角2°)を測定した。
【0080】
(透明性)
試験片の透明性を目視に基づいて評価した。
◎:透明性が高い。光透過率90%以上、ヘイズ5%未満であった。
○:◎より劣るが透明性を有する。光透過率89%以上、ヘイズ10%未満であった。
△:○より劣るが透明性を有する。光透過率88%以上、ヘイズ20%未満であった。
×:透明とは言えない。光透過率88%未満、ヘイズ20%以上であった。
【0081】
(受像性)
試験片にプロジェクター(3M製:MP160)の映像を透過させて映像の映り具合を目視で評価した。
◎:綺麗な映像を映す。ヘイズ値が3.0%以上であった。
○:◎より薄いが綺麗な映像を映す。ヘイズ値が1.0以上であった。
×:映像を映さない。ヘイズ値が1.0%未満であった。
【0082】
(表面粗さ)
樹脂表面と粘着表面の算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601に準拠して、レーザー顕微鏡(KEYENCE製:VK-9710)を使用し、10x対物レンズ(200倍)にて測定した。
(映像ムラ)
試験片にプロジェクター(3M製:MP160)の映像を透過させて映像のムラを目視で評価した。
◎:像の輪郭が乱れてなく綺麗な映像を映す。
○:◎より像の輪郭が乱れて見えるが、綺麗な映像を映す。
×:像の輪郭が乱れており、映像ムラとして見える。
【0083】
(貼合性)
試験片をソーダライムガラス板に貼り合わせ、60℃95%RH環境下に1ヵ月静置した後に取り出し、貼合性を以下の基準で評価した。
◎:浮き剥がれ・シワ・糊のはみ出しなどの発生なし。
△:2mm未満の浮き剥がれ・シワ・糊のはみ出しなどが一部発生するが、形状をとどめている。
×:2mm以上の裁断面に浮き剥がれ・シワ・糊のはみ出しなどが発生し、形状が得られず、見栄えが劣る。
【0084】
(加工性)
試験片を50μPETフィルムに貼り合わせ、23℃50%RH環境下で断裁機(コクヨ製:型番DN-61N)を用いて裁断し、裁断面を目視で確認することにより、加工性を以下のように評価した。
◎:裁断面に浮き剥がれ・シワ・糊のはみ出しなどの発生なし。
△:裁断面に幅2mm未満の浮き剥がれ・シワ・糊のはみ出しなどが一部発生するが、シートとして形状をとどめている。
×:裁断面に幅2mm以上の裁断面に浮き剥がれ・シワ・糊のはみ出しなどが発生し、シートとしての形状が得られず、見栄えが劣る。
【0085】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、透明な映像表示スクリーン等の透明スクリーン、及びこの透明スクリーンに利用する透明スクリーン用シート及び粘着塗料として利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 透明スクリーン
2 透明基材
3 透明スクリーン用シート
4 樹脂層
5 粘着層
6 光拡散剤
図1