IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三井ハイテックの特許一覧

<>
  • 特許-積層鉄心製品の製造方法 図1
  • 特許-積層鉄心製品の製造方法 図2
  • 特許-積層鉄心製品の製造方法 図3
  • 特許-積層鉄心製品の製造方法 図4
  • 特許-積層鉄心製品の製造方法 図5
  • 特許-積層鉄心製品の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】積層鉄心製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20221205BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20221205BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
H01F41/02 B
H02K15/02 F
H01F27/245 150
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018224772
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020088313
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】小田 仁
(72)【発明者】
【氏名】水野 彰紀
(72)【発明者】
【氏名】白石 裕一
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特許第6430058(JP,B1)
【文献】特開2006-081378(JP,A)
【文献】特開昭59-162741(JP,A)
【文献】特開2018-068073(JP,A)
【文献】特開2018-143034(JP,A)
【文献】特開2015-053764(JP,A)
【文献】特開2018-042426(JP,A)
【文献】特開平11-290965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H02K 15/02
H01F 27/245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属板から打ち抜かれた複数の鉄心部材を積層して積層体を形成することと、
前記積層体に付着しているオイルを除去することと、
第2の金属板から打ち抜かれた複数の端面板を積層して仮積層体を形成することと、
前記第2の金属板から打ち抜かれた端面板に付着しているオイルを除去することと、
前記端面板を前記積層体の端面に配置して、前記端面板と前記積層体とを溶接することとを含み、
前記端面板に付着しているオイルを除去することは、前記仮積層体から前記複数の端面板のうち一の端面板を剥がしつつ当該一の端面板に付着しているオイルを除去することを含む、積層鉄心製品の製造方法。
【請求項2】
第1の金属板から打ち抜かれた複数の鉄心部材を積層して積層体を形成することと、
前記積層体に付着しているオイルを除去することと、
第2の金属板から打ち抜かれた複数の端面板を積層して仮積層体を形成することと、
前記第2の金属板から打ち抜かれた端面板に付着しているオイルを除去することと、
前記端面板を前記積層体の端面に配置して、前記端面板と前記積層体とを溶接することとを含み、
前記端面板に付着しているオイルを除去することは、前記仮積層体を構成している前記複数の端面板に付着しているオイルを除去することを含む、積層鉄心製品の製造方法。
【請求項3】
前記端面板に付着しているオイルを除去することは、前記端面板にガスを吹き付けてオイルを前記端面板から吹き飛ばすことを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記積層体に付着しているオイルを除去することは、前記積層体を熱処理することにより前記積層体からオイルを蒸発させることを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層鉄心製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、積層鉄心の製造方法を開示している。当該方法は、コイル状に巻回された帯状の金属板(被加工板)であるコイル材をアンコイラーから間欠的に送り出しながら、当該金属板をパンチで所定形状に打ち抜いて複数の打抜部材を形成することと、複数の打抜部材を積層して鉄心本体とを形成することとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-334648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パンチの摩耗抑制、打抜部材の打抜性向上等を目的として、コイル材にはプレス加工油(スタンピングオイルともいう。以下では単に「オイル」と称する。)が塗布されていることが一般的である。オイルが積層体に付着した状態のまま、後続の工程で積層体が熱処理(例えば溶接)されると、ススが発生したり、積層体に変色が生じたり、ブローホール(空洞)が生じ、溶接部の強度が低下してしまうことがある。そのため、オイルの大部分が揮発するまで(例えば1日以上)、積層体10を保管場所に保管してから、積層体を熱処理することが一般的であった。しかしながら、保管場所の確保のためのコストを要しうると共に、積層鉄心の製造効率(スループット)が低下しうる。
【0005】
そこで、本開示は、積層体と端面板とを溶接する際の溶接品質を向上させることが可能な積層鉄心製品の製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一つの観点に係る積層鉄心製品の製造方法は、第1の金属板から打ち抜かれた複数の鉄心部材を積層して積層体を形成することと、積層体に付着しているオイルを除去することと、第2の金属板から打ち抜かれた複数の端面板を積層して仮積層体を形成することと、第2の金属板から打ち抜かれた端面板に付着しているオイルを除去することと、端面板を積層体の端面に配置して、端面板と積層体とを溶接することとを含み、前記端面板に付着しているオイルを除去することは、前記仮積層体から前記複数の端面板のうち一の端面板を剥がしつつ当該一の端面板に付着しているオイルを除去することを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る積層鉄心製品の製造方法によれば、積層体と端面板とを溶接する際の溶接品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、回転子の一例を示す分解斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線断面図である。
図3図3は、回転体の製造装置の一例を示す概略図である。
図4図4は、回転体の製造過程の一例を説明するための概略図である。
図5図5は、回転子の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図6図6は、オイル除去装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0010】
[回転子の構成]
まず、図1及び図2を参照して、回転子1(ロータ)の構成について説明する。回転子1は、固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)を構成する。回転子1は、例えば、埋込磁石型(IPM)モータの一部を構成してもよい。回転子1は、回転子積層鉄心2と、一対の端面板3と、シャフト4とを含む。
【0011】
回転子積層鉄心2は、積層体10(鉄心本体)と、複数の永久磁石12と、複数の固化樹脂14とを含む。
【0012】
積層体10は、図1に示されるように、円筒状を呈している。積層体10の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通する軸孔10aが設けられている。軸孔10aは、積層体10の高さ方向(上下方向)に延びている。積層体10は中心軸Ax周りに回転するので、中心軸Axは回転軸でもある。
【0013】
軸孔10aの内周面には、一対の突条10bが形成されている。突条10bは、積層体10の上端面S1から下端面S2に至るまで、高さ方向に延びている。一対の突条10bは、中心軸Axを間において対向しており、軸孔10aの内周面から中心軸Axに向けて突出している。
【0014】
積層体10には、複数の磁石挿入孔16(樹脂形成領域)が形成されている。磁石挿入孔16は、図1に示されるように、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16は、図2に示されるように、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通している。すなわち、磁石挿入孔16は高さ方向に延びている。磁石挿入孔16の形状は、例えば、積層体10の外周縁に沿って延びる長孔であってもよい。磁石挿入孔16の数は、例えば6個であってもよい。磁石挿入孔16の位置、形状及び数は、モータの用途、要求される性能などに応じて変更してもよい。
【0015】
積層体10は、複数の打抜部材W(鉄心部材)が積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、金属板M2(後述する)が所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。当該金属板は、例えば電磁鋼板であってもよい。積層体10は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に打抜部材Wの板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0016】
積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、図1及び図2に示されるように、カシメ部18によって締結されていてもよい。これらの打抜部材W同士は、カシメ部18に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。例えば、複数の打抜部材W同士は、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよいし、溶接によって互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の打抜部材Wを締結して積層体10を得た後、仮カシメを当該積層体から除去してもよい。なお、「仮カシメ」とは、複数の打抜部材Wを一時的に一体化させるのに使用され且つ回転子積層鉄心2を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0017】
永久磁石12は、図1及び図2に示されるように、各磁石挿入孔16内に一つずつ挿入されている。永久磁石12の形状は、特に限定されないが、例えば直方体形状を呈していてもよい。永久磁石12の種類は、モータの用途、要求される性能などに応じて決定すればよく、例えば、焼結磁石であってもよいし、ボンド磁石であってもよい。
【0018】
固化樹脂14は、永久磁石12が挿入されている状態の磁石挿入孔16内に充填された溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が固化したものである。固化樹脂14は、永久磁石12を磁石挿入孔16内に固定する機能と、積層方向(上下方向)で隣り合う打抜部材W同士を接合する機能とを有する。固化樹脂14を構成する樹脂材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。
【0019】
端面板3は、図1に示されるように、円環状を呈している。すなわち、端面板3の中央部には、端面板3を貫通する軸孔3aが設けられている。端面板3の外径は、例えば、積層体10の外径よりも小さく設定されていてもよいし、積層体10の外径と同程度に設定されていてもよい。
【0020】
軸孔3aの内周面には、一対の突起3bが形成されている。一対の突起3bは、中心軸Axを間において対向しており、軸孔3aの内周面から中心軸Axに向けて突出している。
【0021】
端面板3は、積層体10の上端面S1及び下端面S2にそれぞれ配置されており、積層体10と溶接により接合されている。例えば、端面板3は、図2に示されるように、端面板3及び積層体10を跨がるように設けられた溶接ビードBを介して、積層体10と接合されている。このように、回転子積層鉄心2と一対の端面板3とは、溶接によって一体化されているので、一つの回転体5(積層鉄心製品)として機能する。
【0022】
端面板3は、金属板M1(後述する)が所定形状に打ち抜かれた板状体又はシート状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。当該金属板は、溶接による熱変形に耐えうる程度の強度を有していてもよいし、積層体10との間で電気を通さない絶縁性を有していてもよい。当該金属板の表面に絶縁皮膜が設けられていてもよい。当該金属板は、例えばステンレス鋼であってもよい。当該ステンレス鋼としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304等)が挙げられる。当該金属板は、非磁性材料によって構成されていてもよい。端面板3の熱膨張係数は、通常、打抜部材Wの熱膨張係数よりも高いが、打抜部材Wの熱膨張係数と同程度であってもよいし、打抜部材Wの熱膨張係数よりも小さくてもよい。端面板3の熱膨張係数が打抜部材Wの熱膨張係数と同程度であると、端面板3及び積層体10を跨がる溶接ビードBに応力が作用しがたくなる。
【0023】
シャフト4は、全体として円柱状を呈している。シャフト4には、一対の凹溝4aが形成されている。凹溝4aは、シャフト4の一端から他端にかけてシャフト4の延在方向に延びている。シャフト4は、軸孔3a,10a内に挿通されている。このとき、凹溝4aには、突起3b及び突条10bが係合する。これにより、シャフト4と回転子積層鉄心2との間で回転力が伝達する。
【0024】
[回転体の製造装置]
続いて、図3及び図4を参照して、回転体5の製造装置100について説明する。
【0025】
製造装置100は、帯状の金属板(被加工板)から回転体5を製造するための装置である。製造装置100は、2つの打抜ユニット200,300と、オイル除去装置400と、予熱装置500と、樹脂注入装置600と、溶接装置700と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0026】
打抜ユニット200は、端面板3用の金属板M1(第2の金属板)を所定形状に打ち抜いて、仮積層体11を形成するように構成されている。打抜ユニット200は、アンコイラー210と、送出装置220と、打抜装置230とを含む。
【0027】
アンコイラー210は、金属板M1がコイル状に巻回されたコイル材211が装着された状態で、コイル材211を回転自在に保持する。金属板M1の表面には、プレス加工のためのオイルが塗布されている。送出装置220は、金属板M1を上下から挟み込む一対のローラ221,222を有する。一対のローラ221,222は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転及び停止し、金属板M1を打抜装置230に向けて間欠的に順次送り出す。
【0028】
打抜装置230は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。打抜装置230は、送出装置220によって間欠的に送り出される金属板M1を順次打ち抜き加工して端面板3を形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた端面板3を順次積層して仮積層体11を製造する機能とを有する。
【0029】
仮積層体11は、複数の端面板3が互いに接合されることなく積み重ねられたものである。金属板M1の表面にはオイルが塗布されているので、仮積層体11を構成する複数の端面板3同士の間にはオイルが介在している。すなわち、仮積層体11は、オイルの表面張力によって複数の端面板3同士が密着した状態となっている。
【0030】
打抜ユニット300は、打抜部材W用の金属板M2(第1の金属板)を所定形状に打ち抜いて、積層体10を形成するように構成されている。打抜ユニット300は、アンコイラー310と、送出装置320と、打抜装置330とを含む。
【0031】
アンコイラー310は、金属板M2がコイル状に巻回されたコイル材311が装着された状態で、コイル材311を回転自在に保持する。金属板M2の表面には、プレス加工のためのオイルが塗布されている。送出装置320は、金属板M2を上下から挟み込む一対のローラ321,322を有する。一対のローラ321,322は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転及び停止し、金属板M2を打抜装置330に向けて間欠的に順次送り出す。
【0032】
打抜装置330は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。打抜装置330は、送出装置320によって間欠的に送り出される金属板M2を順次打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0033】
積層体10は、上述のとおり、複数の打抜部材Wがカシメ部18等により互いに接合された状態で積み重ねられたものである。金属板M2の表面にはオイルが塗布されているので、積層体10を構成する複数の打抜部材W同士の間にはオイルが介在している。
【0034】
オイル除去装置400は、打抜装置230からコンベアCv等によって搬送された仮積層体11の端面板3からオイルを除去する機能を有する。オイル除去装置400は、図4に示されるように、ブロア401と、ブロア401に接続されたノズル402とを含む。ブロア401は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、ノズル402にガス(例えば空気)を送り込むように構成されている。当該ガスの温度は、例えば、5℃~150℃程度であってもよい。ブロア401は、例えば、常温の空気を送風するように構成された送風機であってもよいし、熱風又は温風を送風するように構成されたドライヤであってもよい。ブロア401から送り出されたガスがノズル402から仮積層体11に吹き付けられることで、仮積層体11(端面板3)に付着しているオイルが吹き飛ばされる。ノズル402は、例えば、仮積層体11の最上層の端面板3とこれに隣り合う端面板3との間に向けてガスを噴射してもよい。
【0035】
予熱装置500は、打抜装置330からコンベアCv等によって搬送された積層体10を予熱する機能を有する。予熱装置500には、例えば図4に示されるように、積層体10が治具20に取り付けられた状態で搬送されてもよい。治具20は、ベース21と、ベース21から上方に延びるポスト22とを含んでいてもよい。積層体10は、軸孔10aがポスト22に挿通された状態でベース21上に載置されていてもよい。
【0036】
予熱装置500は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、内部に搬送された積層体10を加熱源によって加熱するように構成されている。加熱源は、例えば、ヒータであってもよいし、熱風又は温風を送風するように構成されたドライヤであってもよい。積層体10は、例えば150℃~185℃程度に加熱されてもよいし、160℃~175℃程度に加熱されてもよい。予熱装置500による加熱により、積層体10に付着しているオイルの大部分又は全てが蒸発する。
【0037】
樹脂注入装置600は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作して、永久磁石12が挿入された状態の磁石挿入孔16に溶融樹脂を注入する機能を有する。樹脂注入装置600は、磁石挿入孔16に永久磁石12を挿通する機能を有していてもよい。あるいは、樹脂注入装置600による磁石挿入孔16への溶融樹脂の注入前に、他の装置又は人手によって磁石挿入孔16に永久磁石12が挿通されていてもよい。
【0038】
樹脂注入装置600は、図4に示されるように、上型601と、複数のプランジャ602とを含む。上型601には、一つの貫通孔603と、複数の収容孔604とが設けられている。貫通孔603は、上型601の略中央部に位置している。貫通孔603は、ポスト22に対応する形状(略円形状)を呈しており、ポスト22が挿通可能である。なお、上型601の内部に内臓熱源が配置されていてもよい。
【0039】
複数の収容孔604は、上型601を貫通しており、貫通孔603の周囲に沿って所定間隔で並んでいる。各収容孔604は、治具20及び上型601が積層体10を挟持した際に、積層体10の磁石挿入孔16にそれぞれ対応する箇所に位置している。各収容孔604は、円柱形状を呈しており、少なくとも一つの樹脂ペレットを収容可能である。
【0040】
上型601の内蔵熱が動作して上型601が加熱されると、上型601に接触している積層体10が加熱されると共に、各収容孔604に収容された樹脂ペレットPが加熱される。これにより、樹脂ペレットPが溶融して溶融樹脂に変化する。
【0041】
複数のプランジャ602は、上型601の上方に位置している。各プランジャ602は、図示しない駆動源によって、対応する収容孔604に対して挿抜可能となるように構成されている。
【0042】
溶接装置700は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。溶接装置700は、回転子積層鉄心2と端面板3とを溶接する機能を有する。溶接装置700は、図4に示されるように、一対の保護板701と、複数の溶接トーチ702とを含む。
【0043】
保護板701は、回転子積層鉄心2の端面S1,S2に端面板3がそれぞれ配置された状態で、回転子積層鉄心2及び端面板3を挟持可能に構成されている。保護板701は、円板状を呈していてもよい。保護板701の外径は、端面板3及び積層体10の外径よりも大きく設定されていてもよいし、端面板3及び積層体10の外径と同程度に設定されていてもよい。保護板701の内部には、端面板3を加熱するための内蔵熱源(例えばヒータ)が設けられていてもよい。
【0044】
溶接トーチ702は、端面板3と積層体10とを溶接するように構成されている。溶接トーチ702は、例えば、レーザ溶接機であってもよい。
【0045】
コントローラCtrは、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、製造装置100の各部を動作させるための指示信号を生成し、これらに当該指示信号をそれぞれ送信するように構成されている。
【0046】
[回転子の製造方法]
続いて、図4及び図5を参照して、回転子1の製造方法について説明する。まず、打抜装置330により金属板M2を順次打ち抜きつつ打抜部材Wを積層して、積層体10を形成する(図5のステップS11参照)。
【0047】
次に、図4に示されるように、打抜装置330により形成された積層体10を、治具20に取り付け、治具20と共に予熱装置500に搬送する。積層体10が予熱装置500において加熱されることにより、積層体10に付着しているオイルの大部分又は全てが蒸発する(図5のステップS12参照)。これにより、オイルの大部分又は全てが積層体10から除去される。
【0048】
次に、各磁石挿入孔16内に永久磁石12を挿入する(図5のステップS13を参照)。次に、上型601を積層体10上に載置する。そのため、積層体10は、治具20(ベース21)及び上型601で積層方向から挟持された状態となる。次に、各収容孔604に樹脂ペレットを投入する。上型601の内蔵熱源により樹脂ペレットが溶融状態となると、溶融樹脂をプランジャ602によって各磁石挿入孔16内に注入する(図5のステップS14を参照)。その後、溶融樹脂が固化すると、磁石挿入孔16内に固化樹脂14が形成される。治具20及び上型601が積層体10から取り外されると、回転子積層鉄心2が完成する。
【0049】
次に、打抜装置230により金属板M1を順次打ち抜きつつ端面板3を積層して、仮積層体11を形成する(図5のステップS15参照)。次に、打抜装置230により形成された仮積層体11を、オイル除去装置400に搬送する。オイル除去装置400においては、仮積層体11の最上層の端面板3とこれに隣接する端面板3との間に向けてノズル402からガスを噴射して、仮積層体11から1枚ずつ端面板3を剥がしつつ、端面板3に付着しているオイルを吹き飛ばす(図5のステップS16を参照)。これにより、オイルの大部分又は全てが端面板3から除去される。なお、ステップS15,S16は、端面板3を積層体10に溶接する前までに行われていればよく、例えばステップS11~S15による回転子積層鉄心2の形成と並行して行われてもよい。
【0050】
次に、回転子積層鉄心2及び端面板3を溶接装置700に搬送して、積層体10の端面S1,S2にそれぞれ端面板3を配置する。この状態で、一対の保護板701によって積層体10及び端面板3を挟持する。次に、コントローラCtrが溶接トーチ702に指示して、端面板3と積層体10とを溶接する(図5のステップS17参照)。これにより、端面板3が溶接ビードBを介して回転子積層鉄心2(積層体10)に接合された回転体5が構成される。
【0051】
次に、回転体5にシャフト4を取り付ける(図5のステップS18参照)。シャフト4
は、例えば、回転体5に対して焼き嵌めされてもよい。こうして、回転子1が完成する。
【0052】
[作用]
以上によれば、積層体10及び端面板3からオイルが除去された状態でこれらを溶接できる。そのため、例えば、ススの発生、積層体の変色、ブローホールの発生などが大幅に抑制される。従って、積層体10と端面板3とを溶接する際の溶接品質を向上させることが可能となる。
【0053】
以上によれば、仮積層体11から端面板3を1枚ずつ剥がしつつ当該端面板3に付着しているオイルを除去している。そのため、端面板3のオイル除去が一枚ずつ行われるので、端面板3にオイルが残存し難くなる。したがって、積層体10と端面板3とを溶接する際の溶接品質より向上させることが可能となる。
【0054】
以上によれば、端面板3にガスを吹き付けてオイルを端面板3から吹き飛ばしている。そのため、オイルがガスの気流で揮発しやすくなるので、極めて簡易な方法でオイルを端面板3から効果的に除去することが可能となる。
【0055】
以上によれば、積層体10を熱処理することにより積層体10からオイルを蒸発させている。そのため、積層体10のオイル除去と積層体10の予熱とが一度に行われる。したがって、後続の樹脂注入装置600において、積層体10を常温から所定の温度まで加熱する必要がないので、樹脂注入装置600による溶融樹脂の磁石挿入孔16への注入作業を短縮化できる。その結果、オイルを積層体10から効果的に除去しつつ、積層鉄心の製造効率を高めることが可能となる。
【0056】
[他の例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0057】
(1)端面板3からのオイル除去を1枚ずつ行う代わりに、仮積層体11に付着しているオイルを全体的に除去してもよい。例えば、積層体10からのオイル除去と同様に、仮積層体11を予熱装置500に搬入し、仮積層体11に付着しているオイルの大部分又は全てを蒸発させてもよい。この場合、複数の端面板3からのオイル除去を効率的に行うことが可能となる。
【0058】
(2)図6に例示されるオイル除去装置800を用いて、積層体10からのオイル除去を行ってもよい。オイル除去装置800は、一対の挟持部材801,802と、ブロア803とを含む。上側に位置する挟持部材802には、一つの貫通孔804と、複数の貫通孔805とが設けられている。貫通孔804は、挟持部材802の中央部に設けられている。挟持部材801,802が積層体10を挟持した状態で、貫通孔804は、積層体10の軸孔10aと連通する。複数の貫通孔805は、挟持部材802の周縁部近傍に設けられている。挟持部材801,802が積層体10を挟持した状態で、複数の貫通孔805は、積層体10の外周面近傍に位置する。
【0059】
ブロア803は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、貫通孔804,805にガス(例えば空気)を送り込むように構成されている。当該ガスの温度は、例えば、5℃~150℃程度であってもよい。ブロア803は、例えば、常温の空気を送風するように構成された送風機であってもよいし、熱風又は温風を送風するように構成されたドライヤであってもよい。
【0060】
コントローラCtrがブロア803に指示して、積層体10に対してガスを供給すると、ブロア803からのガスが貫通孔804から積層体10の軸孔10a内に吹き出されると共に、ブロア803からのガスが貫通孔805から積層体10の外周面に吹き出される。貫通孔804から軸孔10a内に吹き出されたガスは、積層体10の内周面から、複数の打抜部材Wの間を流れて、積層体10の外周面に到達する。複数の打抜部材Wの間に介在しているオイルは、ガスの流れによって積層体10の外周面に押し出される。
【0061】
貫通孔805から積層体10の外周面に向けて吹き出されたガスは、外周面に押し出されたオイルを吹き飛ばす。これにより、積層体10からオイルの大部分又は全てが除去される。積層体10の外周面側から内周面に向けて、複数の打抜部材Wの間にガスを流通させてもよい。オイル除去装置800を用いて、仮積層体11に付着しているオイルを全体的に除去してもよい。
【0062】
(3)積層体10からのオイルを除去するために、種々の方法を採用してもよい。例えば、吸引ポンプ等を用いて積層体10の周囲から気体(揮発したオイルを含む)を吸引するようにしてもよい。積層体10を真空容器内に配置して、積層体10の周囲を真空状態にしてもよい。積層体10を400℃未満の温度で加熱して、積層体10に付着しているオイルの揮発を促進してもよい。布、紙等を用いて作業者が積層体10からオイルを拭き取ってもよい。積層体10に対して、機械油等を分解可能な油分解剤を供給してもよい。オイルを除去するための上記の種々の方法は、端面板3からのオイル除去を1枚ずつ行う場合に採用してもよいし、仮積層体11に付着しているオイルを全体的に除去する場合に採用してもよい。
【0063】
(4)保護板701を用いずに、積層体10と端面板3との溶接を行ってもよい。
【0064】
(5)積層体10と端面板3とで熱膨張係数が異なる場合には、積層体10と端面板3との溶接時に積層体10及び/又は端面板3を加熱又は冷却して、溶接時における積層体10及び端面板3の変形差を、回転子1の動作時におけるこれらの変形差に近づけるようにしてもよい。
【0065】
(6)本明細書において説明されている一つ以上の方法、手順、ステップ又は操作は、回転子積層鉄心2のみならず、固定子積層鉄心の製造時に適用されてもよい。
【0066】
[例示]
例1.本開示の一つの例に係る積層鉄心製品(5)の製造方法は、第1の金属板(M2)から打ち抜かれた複数の鉄心部材(W)を積層して積層体(10)を形成することと、積層体(10)に付着しているオイルを除去することと、第2の金属板(M1)から打ち抜かれた端面板(3)に付着しているオイルを除去することと、端面板(3)を積層体(10)の端面に配置して、端面板(3)と積層体(10)とを溶接することとを含む。この場合、積層体及び端面板からオイルが除去された状態でこれらを溶接できる。そのため、例えば、ススの発生、積層体の変色、ブローホールの発生などが大幅に抑制される。従って、積層体と端面板とを溶接する際の溶接品質を向上させることが可能となる。
【0067】
例2.例1の方法は、第2の金属板(M1)から打ち抜かれた複数の端面板(3)を積層して仮積層体(11)を形成することをさらに含み、端面板(3)に付着しているオイルを除去することは、仮積層体(11)から複数の端面板(3)のうち一の端面板(3)を剥がしつつ当該一の端面板(3)に付着しているオイルを除去することを含んでいてもよい。この場合、端面板のオイル除去が一枚ずつ行われるので、端面板にオイルが残存し難くなる。そのため、積層体と端面板とを溶接する際の溶接品質より向上させることが可能となる。
【0068】
例3.例1の方法は、第2の金属板(M1)から打ち抜かれた複数の端面板(3)を積層して仮積層体(11)を形成することをさらに含み、端面板(3)に付着しているオイルを除去することは、仮積層体(11)を構成している複数の端面板(3)に付着しているオイルを除去することを含んでいてもよい。この場合、仮積層体の全体から一度にオイルが除去されるので、複数の端面板からのオイル除去を効率的に行うことが可能となる。
【0069】
例4.例1~例3のいずれかの方法において、端面板(3)に付着しているオイルを除去することは、端面板(3)にガスを吹き付けてオイルを端面板(3)から吹き飛ばすことを含んでいてもよい。この場合、オイルがガスの気流で揮発しやすくなるので、極めて簡易な方法でオイルを端面板から効果的に除去することが可能となる。
【0070】
例5.例1~例4のいずれかの方法において、積層体(10)に付着しているオイルを除去することは、積層体(10)を熱処理することにより積層体(10)からオイルを蒸発させることを含んでいてもよい。この場合、積層体のオイル除去と積層体の予熱とが一度に行われる。そのため、オイルを積層体から効果的に除去しつつ、積層鉄心の製造効率を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1…回転子、2…回転子積層鉄心、3…端面板、5…回転体(積層鉄心製品)、10…積層体、11…仮積層体、12…永久磁石、14…固化樹脂、16…磁石挿入孔、100…製造装置、200,300…打抜ユニット、400…オイル除去装置、500…予熱装置、600…樹脂注入装置、700…溶接装置、B…溶接ビード、Ctr…コントローラ(制御部)、M1…金属板(第2の金属板)、M2…金属板(第1の金属板)、W…打抜部材(鉄心部材)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6