(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】速度型圧縮機及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F04D 29/58 20060101AFI20221205BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20221205BHJP
F04D 17/10 20060101ALI20221205BHJP
F04D 29/44 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
F04D29/58 M
F25B1/00 311C
F25B1/00 321M
F04D17/10
F04D29/44 R
F04D29/44 W
F04D29/58 R
(21)【出願番号】P 2018237802
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2018044068
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018038714
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018078096
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018105735
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、環境省「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】孫 洪志
(72)【発明者】
【氏名】庄山 直芳
(72)【発明者】
【氏名】河野 文紀
(72)【発明者】
【氏名】田村 朋一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 良美
(72)【発明者】
【氏名】松井 大
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101210574(CN,A)
【文献】特開2017-194042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/58
F25B 1/00
F04D 17/10
F04D 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸及び少なくとも1つのインペラを含む回転体と、
前記回転体の周囲に位置し、気相冷媒が流れる冷媒流路と、
前記回転体の内部において前記回転体の軸方向に延びており、液相冷媒が流れる主流路と、
前記回転体の内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びており、前記主流路から前記冷媒流路に前記液相冷媒を導く噴射流路と、
を備えた、速度型圧縮機。
【請求項2】
前記インペラは、ハブ及び前記ハブに固定されたブレードを有し、
前記噴射流路は、前記冷媒流路に面している流出口を有し、
前記流出口は、前記気相冷媒の流れ方向において、前記ブレードの上流端よりも上流側に位置している、
請求項1に記載の速度型圧縮機。
【請求項3】
前記インペラは、ハブ及び前記ハブに固定されたブレードを有し、
前記噴射流路は、前記ハブの表面に位置している流出口を有するとともに、前記回転軸の半径方向に前記ハブを貫通している、
請求項1又は2に記載の速度型圧縮機。
【請求項4】
前記噴射流路は、前記回転軸の内部において前記主流路から前記回転軸の半径方向に延びている第1部分と、前記第1部分と前記冷媒流路との間に位置している第2部分と、を含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の速度型圧縮機。
【請求項5】
前記第1部分と前記第2部分とを有する前記噴射流路の数は2以上である、
請求項4に記載の速度型圧縮機。
【請求項6】
前記第1部分は、前記回転軸の周方向に沿って前記回転軸の側面に設けられた溝を含み、
前記溝に前記第2部分が接続されている、
請求項4又は5に記載の速度型圧縮機。
【請求項7】
前記主流路は、前記回転軸の端面に位置している流入口を有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の速度型圧縮機。
【請求項8】
前記液相冷媒が貯留された供給タンクと、
前記主流路への流入口に接するバッファ室と、
前記バッファ室に接続された冷媒供給路を介して、前記供給タンクから前記バッファ室へと前記液相冷媒を圧送する加圧ポンプと、
をさらに備えた、請求項1から7のいずれか1項に記載の速度型圧縮機。
【請求項9】
外部熱源と熱交換する熱交換器をさらに備え、
前記冷媒供給路は、前記バッファ室と前記加圧ポンプとに接続された流路であり、
前記熱交換器は、前記バッファ室と前記加圧ポンプとの間において前記冷媒供給路に設けられている、
請求項8に記載の速度型圧縮機。
【請求項10】
前記インペラは、ハブ及び前記ハブに固定された複数のブレードを有し、
前記噴射流路は、前記冷媒流路に面している流出口を有し、
前記回転体の回転方向とは逆の回転方向において、前記流出口から最も近い位置にある前記ブレードを第1ブレードと定義し、
前記回転軸に垂直な平面に前記第1ブレードの翼根線を投影することによって得られた投影図において、前記翼根線の最外周部を第1後縁部と定義し、
前記回転体の中心軸から前記流出口を通って半径方向に延びる線をr軸と定義し、
前記回転体の回転方向を正方向と定義したとき、
前記第1後縁部と前記中心軸とを結ぶ線と前記r軸とのなす角度を前記回転体の回転方向に沿って前記r軸から測ったときの角度が-40度以上であり、
前記回転体の前記中心軸から前記流出口までの距離に対する前記回転体の前記中心軸から前記第1後縁部までの距離の比率が3以上であり、
前記流出口から噴射される前記液相冷媒の流出方向を前記回転軸に垂直な前記平面に投影することによって得られた投影図において、前記液相冷媒の流出方向と前記r軸とのなす角度を前記回転体の回転方向に沿って前記r軸から測ったときの角度が-25度以上である、
請求項1から9のいずれか1項に記載の速度型圧縮機。
【請求項11】
前記少なくとも1つのインペラが第1インペラ及び第2インペラを含み、
前記第1インペラ及び前記第2インペラのそれぞれに前記噴射流路が設けられており、
前記第1インペラに設けられた前記噴射流路の流出口の開口面積をS
1と定義し、
前記第2インペラに設けられた前記噴射流路の流出口の開口面積をS
2と定義し、
前記回転体の中心軸から前記第1インペラに設けられた前記噴射流路の前記流出口までの距離をR
1と定義し、
前記回転体の中心軸から前記第2インペラに設けられた前記噴射流路の前記流出口までの距離をR
2と定義したとき、
(R
2/R
1≦S
1/S
2)の関係が満たされる、
請求項1から10のいずれか1項に記載の速度型圧縮機。
【請求項12】
前記少なくとも1つのインペラが第1インペラ及び第2インペラを含み、
前記速度型圧縮機は、前記第1インペラに面する第1ディフューザをさらに備え、
前記第1インペラには、前記第1インペラの内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びている下流側噴射流路が設けられており、
前記下流側噴射流路は、前記気相冷媒の流れ方向において前記噴射流路よりも下流に位置しており、
前記下流側噴射流路の中心軸は、前記第1ディフューザの入口に交差している、
請求項1から11のいずれか1項に記載の速度型圧縮機。
【請求項13】
前記速度型圧縮機は、前記第2インペラに面する第2ディフューザをさらに備え、
前記第2インペラには、前記第2インペラの内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びている第2噴射流路が設けられており、
前記第2噴射流路の中心軸は、前記第2ディフューザの入口に交差している、
請求項12に記載の速度型圧縮機。
【請求項14】
蒸発器と、
請求項1から13のいずれか1項に記載の速度型圧縮機と、
凝縮器と、
を備えた、冷凍サイクル装置。
【請求項15】
前記蒸発器は、内部に液相冷媒を貯留し、
前記凝縮器は、内部に液相冷媒を貯留し、
前記冷凍サイクル装置は、前記蒸発器に貯留された前記液相冷媒、又は前記凝縮器に貯留された前記液相冷媒を前記速度型圧縮機に導く冷媒供給路をさらに備えた、
請求項14に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項16】
速度型圧縮機を用いた圧縮方法であって、
前記速度型圧縮機は、回転軸及びインペラを含む回転体と、前記回転体の周囲に位置し、気相冷媒の吸入口から前記気相冷媒の吐出口へ前記気相冷媒を流す冷媒流路と、
を備え、
前記圧縮方法は、
前記気相冷媒を前記速度型圧縮機に吸入させることと、
前記吸入された気相冷媒を前記速度型圧縮機において加速して圧縮することと、
前記回転体の表面に配置された流出口に連通する流路であって、前記回転体の内部に位置する流路を通って、前記冷媒流路に存在する前記気相冷媒に向けて前記流出口から液相冷媒を噴射することと、
を含む、圧縮方法。
【請求項17】
前記回転体の内部に位置する流路は、前記回転体の内部において前記回転体の軸方向に延びており、前記液相冷媒が流れる主流路と、前記回転体の内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びており、前記主流路から前記冷媒流路に前記液相冷媒を導く噴射流路とを含み、
前記主流路を流れる前記液相冷媒は、前記気相冷媒が吸引されて流れる方向とは逆方向に流れる、請求項16に記載の圧縮方法。
【請求項18】
前記回転体の回転により生ずる遠心力によって、前記流出口から前記液相冷媒が噴射され、前記噴出された液相冷媒が、前記速度型圧縮機の翼間流路に吸引される、
請求項16又は17に記載の圧縮方法。
【請求項19】
前記インペラは、ハブ及び前記ハブに固定されたブレードを有し、
前記流出口は、前記気相冷媒の流れ方向において、前記ブレードの上流端よりも上流側に位置している、
請求項16から18のいずれか1項に記載の圧縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、速度型圧縮機及び冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷凍サイクル装置として、2段の圧縮機を備え、1段目の圧縮機から吐出された冷媒蒸気が2段目の圧縮機に吸入される前に冷却されるように構成された冷凍サイクル装置が知られている。
【0003】
図21に示すように、特許文献1に記載された空気調和装置500は、蒸発器510、遠心圧縮機531、蒸気冷却器533、ルーツ式圧縮機532及び凝縮器520を備えている。遠心圧縮機531が前段に設けられ、ルーツ式圧縮機532が後段に設けられている。蒸発器510は、飽和状態の冷媒蒸気を生成する。冷媒蒸気は、遠心圧縮機531に吸入され、圧縮される。遠心圧縮機531で圧縮された冷媒蒸気がルーツ式圧縮機532でさらに圧縮される。遠心圧縮機531とルーツ式圧縮機532との間に配置された蒸気冷却器533において、冷媒蒸気が冷却される。
【0004】
蒸気冷却器533は、遠心圧縮機531とルーツ式圧縮機532との間に設けられている。蒸気冷却器533において、冷媒蒸気に対して水が直接噴霧される。あるいは、蒸気冷却器533において、空気などの冷却媒体と冷媒蒸気との間で間接的に熱交換が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術によれば、蒸気冷却器533において、ルーツ式圧縮機532に吸入されるべき冷媒の過熱度が低減されうる。しかし、遠心圧縮機531の圧縮過程で発生する過熱度、及び、ルーツ式圧縮機532の圧縮過程で発生する過熱度を圧縮過程において取り除くことができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
回転軸及び少なくとも1つのインペラを含む回転体と、
前記回転体の周囲に位置し、気相冷媒が流れる冷媒流路と、
前記回転体の内部において前記回転体の軸方向に延びており、液相冷媒が流れる主流路と、
前記回転体の内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びており、前記主流路から前記冷媒流路に前記液相冷媒を導く噴射流路と、
を備えた、速度型圧縮機を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、圧縮過程で発生する過熱度を圧縮過程において取り除くことができる。これにより、冷凍サイクル装置の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態1に係る冷凍サイクル装置の構成図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態1に係る速度型圧縮機の断面図である。
【
図3】
図3は、III-III線に沿った回転体の断面図である。
【
図5】
図5は、変形例に係る圧縮機の断面図である。
【
図6】
図6は、別の変形例に係る圧縮機の断面図である。
【
図7】
図7は、噴射流路の近傍を拡大して示すインペラの平面投影図である。
【
図8】
図8は、噴射流路の近傍を拡大して示すインペラの平面投影図である(静止座標系)。
【
図9】
図9は、冷媒液滴の衝突を回避するために必要な流出角度を示すグラフである。
【
図10】
図10は、さらに別の変形例に係る多段速度型圧縮機の断面図である。
【
図11】
図11は、第1インペラ及び第2インペラの断面図である。
【
図12】
図12は、噴射流路を含む位置におけるインペラの断面図である。
【
図13】
図13は、さらに別の変形例に係る多段速度型圧縮機の断面図である。
【
図14】
図14は、さらに別の変形例に係る速度型圧縮機の断面図である。
【
図15】
図15は、さらに別の変形例に係る速度型圧縮機の断面図である。
【
図16】
図16は、さらに別の変形例に係る速度型圧縮機の断面図である。
【
図17】
図17は、本開示の実施形態2に係る冷凍サイクル装置の構成図である。
【
図18】
図18は、本開示の実施形態3に係る冷凍サイクル装置の構成図である。
【
図19】
図19は、本開示の実施形態4に係る冷凍サイクル装置の構成図である。
【
図20】
図20は、本開示の圧縮方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
特許文献1に記載された空気調和装置によれば、蒸気冷却器533において、ルーツ式圧縮機532に吸入される冷媒の過熱度が低減されうる。しかし、遠心圧縮機531の圧縮過程で発生する過熱度、及び、ルーツ式圧縮機532の圧縮過程で発生する過熱度を圧縮過程において取り除くことができない。冷媒の過熱度が増加すると冷媒のエンタルピーも上昇する。
【0011】
圧縮機における理想的な圧縮過程は、完全に断熱された等エントロピー線に沿っている。冷媒のp-h線図において、冷媒のエンタルピーが増えるにつれて、等エントロピー線の傾きが緩やかになり、より大きい圧縮動力が要求される。冷媒の過熱度が増加するにつれて、単位質量の冷媒の圧力を所定圧力まで上げるために、より大きい圧縮動力が必要とされる。言い換えれば、圧縮機の負荷が増加し、圧縮機の消費電力が増加する。
【0012】
本開示は、圧縮過程で発生する過熱度を圧縮過程において取り除くための技術を提供する。併せて、本開示は、冷凍サイクル装置の効率を向上させる技術を提供する。
【0013】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様に係る速度型圧縮機は、
回転軸及び少なくとも1つのインペラを含む回転体と、
前記回転体の周囲に位置し、気相冷媒が流れる冷媒流路と、
前記回転体の内部において前記回転体の軸方向に延びており、液相冷媒が流れる主流路と、
前記回転体の内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びており、前記主流路から前記冷媒流路に前記液相冷媒を導く噴射流路と、
を備えている。
【0014】
第1態様によれば、液相冷媒は、遠心力によって加圧され、主流路及び噴射流路を通じて、圧縮機の内部の冷媒流路に向かって噴射される。冷媒流路において液相冷媒が気相冷媒に接触すると、液相冷媒と気相冷媒との間で熱交換が起こり、液相冷媒の顕熱又は蒸発潜熱によって過熱状態の気相冷媒が連続的に冷却される。これにより、圧縮過程での冷媒の過熱度の増加に起因する冷媒のエンタルピーの増加が連続的に抑制される。圧縮機が必要とする圧縮動力は、完全に断熱された等エントロピー圧縮に必要とされる圧縮動力未満まで低減されうる。冷媒の圧力を所定圧力まで上昇させるために圧縮機がなすべき仕事を大幅に低減できる。つまり、圧縮機の消費電力を大幅に節約できる。
【0015】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る速度型圧縮機では、前記インペラは、ハブ及び前記ハブに固定されたブレードを有していてもよく、前記噴射流路は、前記冷媒流路に面している流出口を有していてもよく、前記流出口は、前記気相冷媒の流れ方向において、前記ブレードの上流端よりも上流側に位置していてもよい。このような構成によれば、圧縮過程の気相冷媒から効率的に熱を奪うことが可能である。
【0016】
本開示の第3態様において、例えば、第1又は第2態様に係る速度型圧縮機では、前記インペラは、ハブ及び前記ハブに固定されたブレードを有していてもよく、前記噴射流路は、前記ハブの表面に位置している流出口を有するとともに、前記回転軸の半径方向に前記ハブを貫通していてもよい。このような構成によれば、気相冷媒がブレード間の翼間流路に侵入する前に気相冷媒と液相冷媒とを混合することができる。これにより、圧縮過程の気相冷媒から効率的に熱を奪うことが可能である。
【0017】
本開示の第4態様において、例えば、第1から第3態様のいずれか1つに係る速度型圧縮機では、前記噴射流路は、前記回転軸の内部において前記主流路から前記回転軸の半径方向に延びている第1部分と、前記第1部分と前記冷媒流路との間に位置している第2部分と、を含んでいてもよい。このような構成によれば、噴射流路の長さを十分に確保することができる。噴射流路が長ければ長いほど液相冷媒に加わる遠心加速度が増し、液相冷媒を冷媒流路に噴射しやすい。
【0018】
本開示の第5態様において、例えば、第4態様に係る速度型圧縮機では、前記第1部分と前記第2部分とを有する前記噴射流路の数は2以上であってもよい。このような構成によれば、回転軸の周方向において、気相冷媒を均一に冷却することができる。
【0019】
本開示の第6態様において、例えば、第4又は第5態様に係る速度型圧縮機では、前記第1部分は、前記回転軸の周方向に沿って前記回転軸の側面に設けられた溝を含んでいてもよく、前記溝に前記第2部分が接続されていてもよい。このような構成によれば、回転軸の周方向において第1部分と第2部分との位置合わせが極めて容易又は不要なので、インペラを回転軸に取り付ける作業が容易である。
【0020】
本開示の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つに係る速度型圧縮機では、前記主流路は、前記回転軸の端面に位置している流入口を有していてもよい。このような構成によれば、液相冷媒を主流路にスムーズに送り込むことが可能である。
【0021】
本開示の第8態様において、例えば、第1から第7態様のいずれか1つに係る速度型圧縮機は、前記液相冷媒が貯留された供給タンクと、前記主流路への流入口に接するバッファ室と、前記バッファ室に接続された冷媒供給路を介して、前記供給タンクから前記バッファ室へと前記液相冷媒を圧送する加圧ポンプと、をさらに備えていてもよい。このような構成によれば、液相冷媒は、加圧ポンプで加圧され、液相冷媒の圧力が上昇して沸点が上がることから主流路の内部で蒸発しにくく、蒸気による流路閉塞を抑制することが可能となる。
【0022】
本開示の第9態様において、例えば、第8態様に係る速度型圧縮機は、外部熱源と熱交換する熱交換器をさらに備えていてもよく、前記冷媒供給路は、前記バッファ室と前記加圧ポンプとに接続された流路であってもよく、前記熱交換器は、前記バッファ室と前記加圧ポンプとの間において前記冷媒供給路に設けられていてもよい。このような構成によれば、液相冷媒が熱交換器23により冷却されるため、主流路21には過冷却状態となった液相冷媒が供給されて液相冷媒は主流路21の内部で蒸発しにくい。
【0023】
本開示の第10態様において、例えば、第1から第9態様のいずれか1つに係る速度型圧縮機では、前記インペラは、ハブ及び前記ハブに固定された複数のブレードを有していてもよく、前記噴射流路は、前記冷媒流路に面している流出口を有していてもよく、前記回転体の回転方向とは逆の回転方向において、前記流出口から最も近い位置にある前記ブレードを第1ブレードと定義し、前記回転軸に垂直な平面に前記第1ブレードの翼根線を投影することによって得られた投影図において、前記翼根線の最外周部を第1後縁部と定義し、前記回転体の中心軸から前記流出口を通って半径方向に延びる線をr軸と定義し、前記回転体の回転方向を正方向と定義したとき、前記第1後縁部と前記中心軸とを結ぶ線と前記r軸とのなす角度を前記回転体の回転方向に沿って前記r軸から測ったときの角度が-40度以上であってもよく、前記回転体の前記中心軸から前記流出口までの距離に対する前記回転体の前記中心軸から前記第1後縁部までの距離の比率が3以上であってもよく、前記流出口から噴射される前記液相冷媒の流出方向を前記回転軸に垂直な前記平面に投影することによって得られた投影図において、前記液相冷媒の流出方向と前記r軸とのなす角度を前記回転体の回転方向に沿って前記r軸から測ったときの角度が-25度以上であってもよい。このような構成によれば、コリオリ力による冷媒液滴の周方向の角度移動量が、ブレードの後縁部と回転軸とを結ぶ線とr軸とのなす角度以下となり、大粒の冷媒液滴がブレードの後縁部に衝突することを回避できる。そのため、インペラのエロージョンを防止することができる。
【0024】
本開示の第11態様において、例えば、第1から第10態様のいずれか1つに係る速度型圧縮機では、前記少なくとも1つのインペラが第1インペラ及び第2インペラを含んでいてもよく、前記第1インペラ及び前記第2インペラのそれぞれに前記噴射流路が設けられていてもよく、前記第1インペラに設けられた前記噴射流路の流出口の開口面積をS1と定義し、前記第2インペラに設けられた前記噴射流路の流出口の開口面積をS2と定義し、前記回転体の中心軸から前記第1インペラに設けられた前記噴射流路の前記流出口までの距離をR1と定義し、前記回転体の中心軸から前記第2インペラに設けられた前記噴射流路の前記流出口までの距離をR2と定義したとき、(R2/R1≦S1/S2)の関係が満たされてもよい。このような構成によれば、第2インペラの噴射流路からの噴射量が第1インペラの噴射流路から噴射量以下になる。その結果、気相冷媒に追従しない大粒子径の液相冷媒がインペラの壁面に衝突して滞留することを防止することができる。
【0025】
本開示の第12態様において、例えば、第1から第11態様のいずれか1つに係る速度型圧縮機では、前記少なくとも1つのインペラが第1インペラ及び第2インペラを含んでいてもよく、前記速度型圧縮機は、前記第1インペラに面する第1ディフューザをさらに備えていてもよく、前記第1インペラには、前記第1インペラの内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びている下流側噴射流路が設けられていてもよく、前記下流側噴射流路は、前記気相冷媒の流れ方向において前記噴射流路よりも下流に位置していてもよく、前記下流側噴射流路の中心軸は、前記第1ディフューザの入口に交差していてもよい。このような構成によれば、第1インペラの周りの冷媒流路及び第2インペラの周りの冷媒流路のそれぞれに存在する冷媒液滴の量が減少する。その結果、第1インペラ及び第2インペラへの冷媒液滴の衝突確率が低下し、第1インペラ及び第2インペラのエロージョンリスクが低減する。
【0026】
本開示の第13態様において、例えば、第12態様に係る速度型圧縮機は、前記第2インペラに面する第2ディフューザをさらに備えていてもよく、前記第2インペラには、前記第2インペラの内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びている第2噴射流路が設けられていてもよく、前記第2噴射流路の中心軸は、前記第2ディフューザの入口に交差していてもよい。このような構成によれば、第2ディフューザおいて圧力回復を行うときの気相冷媒からも熱を奪うことができる。
【0027】
本開示の第14態様に係る冷凍サイクル装置は、
蒸発器と、
第1から第13態様のいずれか1つの速度型圧縮機と、
凝縮器と、
を備えている。
【0028】
第14態様によれば、速度型圧縮機の消費電力を大幅に節約することによって、冷凍サイクル装置の効率が向上する。
【0029】
本開示の第15態様において、例えば、第14態様に係る冷凍サイクル装置では、前記蒸発器は、内部に液相冷媒を貯留してもよく、前記凝縮器は、内部に液相冷媒を貯留してもよく、前記冷凍サイクル装置は、前記蒸発器に貯留された前記液相冷媒、又は前記凝縮器に貯留された前記液相冷媒を前記速度型圧縮機に導く冷媒供給路をさらに備えていてもよい。このような構成によれば、速度型圧縮機の主流路に液相冷媒を確実に供給できる。
【0030】
本開示の第16態様に係る圧縮方法は、
速度型圧縮機を用いた圧縮方法であって、
前記速度型圧縮機は、回転軸及びインペラを含む回転体と、前記回転体の周囲に位置し、気相冷媒の吸入口から前記気相冷媒の吐出口へ前記気相冷媒を流す冷媒流路と、
を備え、
前記圧縮方法は、
前記気相冷媒を前記速度型圧縮機に吸入させることと、
前記吸入された気相冷媒を前記速度型圧縮機において加速して圧縮することと、
前記回転体の表面に配置された流出口に連通する流路であって、前記回転体の内部に位置する流路を通って、前記冷媒流路に存在する前記気相冷媒に向けて前記流出口から液相冷媒を噴射することと、
を含む。
【0031】
第16態様によれば、第1態様と同じ効果が得られる。
【0032】
本開示の第17態様において、例えば、第16態様に係る圧縮方法では、前記回転体の内部に位置する流路は、前記回転体の内部において前記回転体の軸方向に延びていてもよく、前記液相冷媒が流れる主流路と、前記回転体の内部に位置し、前記主流路から分岐して前記主流路から前記冷媒流路まで延びており、前記主流路から前記冷媒流路に前記液相冷媒を導く噴射流路とを含んでいてもよく、前記主流路を流れる前記液相冷媒は、前記気相冷媒が吸引されて流れる方向とは逆方向に流れてもよい。
【0033】
本開示の第18態様において、例えば、第16又は第17態様に係る圧縮方法では、前記回転体の回転により生ずる遠心力によって、前記流出口から前記液相冷媒が噴射されてもよく、前記噴出された液相冷媒が、前記速度型圧縮機の翼間流路に吸引されてもよい。回転体の遠心力によって液相冷媒を効率的に噴射することができる。
【0034】
本開示の第19態様において、例えば、第16から第18態様のいずれか1つに係る圧縮方法では、前記インペラは、ハブ及び前記ハブに固定されたブレードを有していてもよく、前記流出口は、前記気相冷媒の流れ方向において、前記ブレードの上流端よりも上流側に位置していてもよい。このような構成によれば、圧縮過程の気相冷媒から効率的に熱を奪うことが可能である。
【0035】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0036】
(実施形態1)
図1は、本開示の実施形態1に係る冷凍サイクル装置の構成を示している。冷凍サイクル装置100は、蒸発器2、圧縮機3、凝縮器4及び冷媒供給路11を備えている。圧縮機3は、吸入配管6によって蒸発器2に接続され、吐出配管8によって凝縮器4に接続されている。詳細には、蒸発器2の出口と圧縮機3の吸入口とに吸入配管6が接続されている。圧縮機3の吐出口と凝縮器4の入口とに吐出配管8が接続されている。凝縮器4は、戻し経路9によって蒸発器2に接続されている。蒸発器2、圧縮機3及び凝縮器4がこの順番で環状に接続されて冷媒回路10が形成されている。
【0037】
蒸発器2において冷媒が蒸発し、気相冷媒(冷媒蒸気)が生成される。蒸発器2で生成された気相冷媒は、吸入配管6を通じて、圧縮機3に吸入されて圧縮される。圧縮された気相冷媒は、吐出配管8を通じて、凝縮器4に供給される。凝縮器4において気相冷媒が冷却されて液相冷媒(冷媒液)が生成される。液相冷媒は、戻し経路9を通じて、凝縮器4から蒸発器2に送られる。
【0038】
冷凍サイクル装置100の冷媒として、フロン系冷媒、低GWP(Global Warming Potential)冷媒及び自然冷媒を用いることができる。フロン系冷媒としては、HCFC(hydrochlorofluorocarbon)、HFC(hydrofluorocarbon)などが挙げられる。低GWP冷媒としては、HFO-1234yfなどが挙げられる。自然冷媒としては、CO2、水などが挙げられる。
【0039】
冷凍サイクル装置100には、例えば、常温(日本工業規格:20℃±15℃/JIS Z8703)での飽和蒸気圧が負圧(絶対圧で大気圧よりも低い圧力)の物質を主成分として含む冷媒が充填されている。このような冷媒としては、水を主成分として含む冷媒が挙げられる。「主成分」とは、質量比で最も多く含まれた成分を意味する。
【0040】
冷媒として水を用いた場合、冷凍サイクルにおける圧力比が拡大し、冷媒の過熱度が過大になりがちである。本実施形態では、圧縮機3の内部の冷媒流路に向かって液相冷媒が噴射され、圧縮過程での冷媒の過熱度の増加に起因する冷媒のエンタルピーの増加が連続的に抑制される。これにより、冷媒の圧力を所定圧力まで上昇させるために圧縮機3がなすべき仕事を大幅に低減できる。つまり、圧縮機3の消費電力を大幅に節約できる。
【0041】
冷凍サイクル装置100は、さらに、吸熱回路12及び放熱回路14を備えている。
【0042】
吸熱回路12は、蒸発器2で冷却された液相冷媒を使用するための回路であり、ポンプ、室内熱交換器などの必要な機器を有している。吸熱回路12の一部は蒸発器2の内部に位置している。蒸発器2の内部において、吸熱回路12の一部は、液相冷媒の液面よりも上に位置していてもよいし、液相冷媒の液面よりも下に位置していてもよい。吸熱回路12には、水、ブラインなどの熱媒体が充填されている。
【0043】
蒸発器2に貯留された液相冷媒は、吸熱回路12を構成する部材(配管)に接触する。これにより、液相冷媒と吸熱回路12の内部の熱媒体との間で熱交換が行われ、液相冷媒が蒸発する。吸熱回路12の内部の熱媒体は、液相冷媒の蒸発潜熱によって冷却される。例えば、冷凍サイクル装置100が室内の冷房を行う空気調和装置である場合、吸熱回路12の熱媒体によって室内の空気が冷却される。室内熱交換器は、例えば、フィンチューブ熱交換器である。
【0044】
放熱回路14は、凝縮器4の内部の冷媒から熱を奪うために使用される回路であり、ポンプ、冷却塔などの必要な機器を有している。放熱回路14の一部は凝縮器4の内部に位置している。詳細には、凝縮器4の内部において、放熱回路14の一部は、液相冷媒の液面よりも上に位置している。放熱回路14には、水、ブラインなどの熱媒体が充填されている。冷凍サイクル装置100が室内の冷房を行う空気調和装置である場合、凝縮器4は室外に配置され、放熱回路14の熱媒体によって凝縮器4の冷媒が冷却される。
【0045】
圧縮機3から吐出された高温の気相冷媒は、凝縮器4の内部において、放熱回路14を構成する部材(配管)に接触する。これにより、気相冷媒と放熱回路14の内部の熱媒体との間で熱交換が行われ、気相冷媒が凝縮する。放熱回路14の内部の熱媒体は、気相冷媒の凝縮潜熱によって加熱される。気相冷媒によって加熱された熱媒体は、例えば、放熱回路14の冷却塔(図示せず)において外気又は冷却水によって冷却される。
【0046】
蒸発器2は、例えば、断熱性及び耐圧性を有する容器によって構成されている。蒸発器2は、液相冷媒を貯留するとともに、液相冷媒を内部で蒸発させる。蒸発器2の内部の液相冷媒は、蒸発器2の外部からもたらされた熱を吸収し、蒸発する。すなわち、吸熱回路12から熱を吸収することによって加熱された液相冷媒が蒸発器2の中で蒸発する。本実施形態において、蒸発器2に貯留された液相冷媒は、吸熱回路12を循環する熱媒体と間接的に接触する。つまり、蒸発器2に貯留された液相冷媒の一部は、吸熱回路12の熱媒体によって加熱され、飽和状態の液相冷媒を加熱するために使用される。蒸発器2に貯留された液相冷媒の温度、及び、蒸発器2で生成された気相冷媒の温度は、例えば5℃である。
【0047】
本実施形態において、蒸発器2は、間接接触型の熱交換器(例えば、シェルチューブ熱交換器)である。ただし、蒸発器2は、噴霧式又は充填材式の熱交換器のような直接接触型の熱交換器であってもよい。つまり、吸熱回路12に液相冷媒を循環させることによって、液相冷媒を加熱してもよい。さらに、吸熱回路12が省略されていてもよい。
【0048】
圧縮機3は、蒸発器2で生成された気相冷媒を吸入して圧縮する。圧縮機3は、速度型圧縮機(dynamic compressor)である。速度型圧縮機は、気相冷媒に運動量を与え、その後、減速させることによって気相冷媒の圧力を上昇させる圧縮機である。速度型圧縮機として、遠心圧縮機、斜流圧縮機、軸流圧縮機などが挙げられる。速度型圧縮機は、ターボ圧縮機とも呼ばれる。圧縮機3は、回転数を変化させるための可変速機構を備えていてもよい。可変速機構の例は、圧縮機3のモータを駆動するインバータである。圧縮機3の吐出口における冷媒の温度は、例えば100~150℃の範囲にある。
【0049】
凝縮器4は、例えば、断熱性及び耐圧性を有する容器によって構成されている。凝縮器4は、圧縮機3で圧縮された気相冷媒を凝縮させるとともに、気相冷媒を凝縮させることによって生じた液相冷媒を貯留する。本実施形態では、外部環境に熱を放出することによって冷却された熱媒体に気相冷媒が間接的に接触して凝縮する。つまり、気相冷媒は、放熱回路14の熱媒体によって冷却され、凝縮する。凝縮器4に導入される気相冷媒の温度は、例えば、100~150℃の範囲にある。凝縮器4に貯留された液相冷媒の温度は、例えば35℃である。
【0050】
本実施形態において、凝縮器4は、間接接触型の熱交換器(例えば、シェルチューブ熱交換器)である。ただし、凝縮器4は、噴霧式又は充填材式の熱交換器のような直接接触型の熱交換器であってもよい。つまり、放熱回路14に液相冷媒を循環させることによって、液相冷媒を冷却してもよい。さらに、放熱回路14が省略されていてもよい。
【0051】
吸入配管6は、蒸発器2から圧縮機3に気相冷媒を導くための流路である。吸入配管6を介して、蒸発器2の出口が圧縮機3の吸入口に接続されている。
【0052】
吐出配管8は、圧縮機3から凝縮器4に圧縮された気相冷媒を導くための流路である。吐出配管8を介して、圧縮機3の吐出口が凝縮器4の入口に接続されている。
【0053】
戻し経路9は、凝縮器4から蒸発器2に液相冷媒を導くための流路である。戻し経路9によって、蒸発器2と凝縮器4とが接続されている。戻し経路9にポンプ、流量調整弁などが配置されていてもよい。戻し経路9は、少なくとも1つの配管によって構成されうる。
【0054】
冷媒供給路11は、蒸発器2と圧縮機3とを接続している。冷媒供給路11を通じて、蒸発器2に貯留された液相冷媒が圧縮機3に供給される。液相冷媒は、圧縮機3の内部において、冷媒流路に向かって噴射される。冷媒供給路11は、少なくとも1つの配管によって構成されうる。冷媒供給路11の入口は、蒸発器2において、蒸発器2に貯留された液相冷媒の液面よりも下に位置している。冷媒供給路11には、ポンプ、弁などが配置されていてもよい。
【0055】
冷凍サイクル装置100は、液相冷媒を貯留する予備タンクを備えていてもよい。予備タンクは、例えば、蒸発器2に接続されている。予備タンクには、蒸発器2から液相冷媒が移される。冷媒供給路11は、予備タンクから圧縮機3に液相冷媒が供給されるように、予備タンクと圧縮機3とを接続する。予備タンクは、吸入配管6に接続されていてもよい。この場合、予備タンクは、冷凍サイクル内から供給された液相冷媒を貯留してもよいし、吸入配管6の内周面等を介して外部熱源によって冷却されて生成した液相冷媒を貯留してもよい。
【0056】
次に、圧縮機3の構造について詳細に説明する。
【0057】
図2に示すように、圧縮機3は、遠心圧縮機である。圧縮機3は、回転体27、ハウジング35及びシュラウド37を備えている。回転体27は、ハウジング35及びシュラウド37によって囲まれた空間に配置されている。ハウジング35の内部には、回転体27を回転させるためのモータ(図示省略)が配置されていてもよい。
【0058】
回転体27は、回転軸25及びインペラ26を含む。インペラ26は、回転軸25に取り付けられており、回転軸25とともに高速で回転する。インペラ26は、回転軸25と一体に形成されていてもよい。回転軸25及びインペラ26の回転数は、例えば、5000~100000rpmの範囲にある。回転軸25は、S45CHなどの強度の高い鉄系材料で作製されている。インペラ26は、例えば、アルミニウム、ジュラルミン、鉄、セラミックなどの材料で作製されている。
【0059】
インペラ26は、ハブ30及び複数のブレード31を有する。ハブ30は、回転軸25に嵌め合わされた部分である。回転軸25の中心軸Oを含む断面において、ハブ30は、末広がりの輪郭を有している。複数のブレード31は、回転軸25の周方向に沿ってハブ30の表面30pに配置されている。
【0060】
インペラ26の周囲の空間には、冷媒流路40、ディフューザ41及び渦巻室42が含まれる。冷媒流路40は、回転体27の周囲に位置し、圧縮されるべき気相冷媒が流れる流路である。冷媒流路40は、吸入流路36及び複数の翼間流路38を含む。吸入流路36は、気相冷媒の流れ方向において、ブレード31の上流端31tよりも上流側に位置している。翼間流路38は、回転軸25の周方向において互いに隣り合うブレード31の間に位置している。インペラ26が回転すると、複数の翼間流路38のそれぞれを流れる気相冷媒に回転方向の速度が与えられる。
【0061】
ディフューザ41は、インペラ26によって回転方向に加速された気相冷媒を渦巻室42に導くための流路である。ディフューザ41の流路断面積は、冷媒流路40から渦巻室42に向かって拡大している。この構造は、インペラ26によって加速された気相冷媒の流速を減速させ、気相冷媒の圧力を上昇させる。ディフューザ41は、例えば、半径方向に延びる流路によって構成されたベーンレスディフューザである。冷媒の圧力を効果的に上昇させるために、ディフューザ41は、複数のベーン及びそれらによって仕切られた複数の流路を有するベーンドディフューザであってもよい。
【0062】
渦巻室42は、ディフューザ41を通過した気相冷媒が集められる渦巻状の空間である。圧縮された気相冷媒は、渦巻室42を経由して、圧縮機3の外部(吐出配管8)へと導かれる。渦巻室42の断面積が円周方向に沿って拡大しており、これにより、渦巻室42における気相冷媒の流速及び角運動量が一定に保たれる。
【0063】
シュラウド37は、インペラ26を覆って、冷媒流路40、ディフューザ41及び渦巻室42を規定している。シュラウド37は、鉄系材料又はアルミニウム系材料によって作製されている。鉄系材料として、FC250、FCD400、SS400などが挙げられる。アルミニウム系材料として、ACD12などが挙げられる。
【0064】
ハウジング35は、圧縮機3の各種部品を収容するケーシングの役割を担っている。ハウジング35とシュラウド37とが組み合わされることによって、渦巻室42が形成されている。ハウジング35は、上記した鉄系材料又はアルミニウム系材料によって作製されうる。ディフューザがベーンドディフューザであるとき、複数のベーンも上記した鉄系材料又はアルミニウム系材料によって作製されうる。
【0065】
ハウジング35の内部には、軸受18及びシール29が配置されている。軸受18は、回転軸25を回転可能に支持している。軸受18は、滑り軸受であってもよく、転がり軸受であってもよい。軸受18が滑り軸受であるとき、潤滑剤として、冷凍サイクル装置100の冷媒を使用することができる。軸受18は、直接又は軸受箱(図示省略)を介してハウジング35に接続されている。シール29は、軸受18の潤滑剤がインペラ26に向かって流れることを阻止する。シール29は、例えば、ラビリンスシールである。
【0066】
回転体27の内部には、主流路21及び噴射流路24が設けられている。主流路21は、回転体27の内部において、回転体27の軸方向に延びている。詳細には、主流路21は、回転軸25の内部に設けられており、回転軸25の軸方向に延びている。噴射流路24は、回転体27の内部において主流路21から分岐して主流路21から冷媒流路40まで延びている。主流路21は、冷媒供給路11を通じて、蒸発器2に接続されている。主流路21には、回転体27の外部に位置している冷媒供給路11から導入された液相冷媒が流れる。噴射流路24は、主流路21から冷媒流路40に液相冷媒を導く流路である。
【0067】
冷媒供給路11を通じて、蒸発器2から主流路21に液相冷媒が供給される。液相冷媒は、遠心力によって加圧され、主流路21及び噴射流路24を通じて、圧縮機3の内部の冷媒流路40に向かって噴射される。冷媒流路40において液相冷媒が気相冷媒に接触すると、液相冷媒と気相冷媒との間で熱交換が起こり、液相冷媒の顕熱又は蒸発潜熱によって過熱状態の気相冷媒が連続的に冷却される。これにより、圧縮過程での冷媒の過熱度の増加に起因する冷媒のエンタルピーの増加が連続的に抑制される。圧縮機3が必要とする圧縮動力は、完全に断熱された等エントロピー圧縮に必要とされる圧縮動力未満まで低減されうる。冷媒の圧力を所定圧力まで上昇させるために圧縮機3がなすべき仕事を大幅に低減できる。つまり、圧縮機3の消費電力を大幅に節約できる。その結果、冷凍サイクル装置100の効率が向上する。
【0068】
主流路21は、回転軸25の端面25cに位置している流入口21aを有する。端面25cは、インペラ26が位置している側とは反対側に位置している端面である。流入口21aから主流路21に液相冷媒が導入される。このような構成によれば、液相冷媒を主流路21にスムーズに送り込むことが可能である。主流路21は、回転軸25の中心軸Oを含んでいる。回転軸25の横断面において、主流路21は、例えば、円形の断面形状を有する。回転軸25の横断面において、主流路21の中心が中心軸Oに一致している。ただし、主流路21の中心が回転軸25の中心軸Oからオフセットしていてもよい。回転軸25の軸方向において、主流路21は、インペラ26の上面26t付近まで延びている。
【0069】
冷媒供給路11は、ハウジング35の接続口28に接続されうる。ハウジング35の内部には接続口28に連通しているバッファ室35hが設けられており、冷媒供給路11からバッファ室35hに液相冷媒が供給される。回転軸25の端面25cがバッファ室35hに面している。つまり、主流路21がバッファ室35hに向かって開口している。このような構成によれば、バッファ室35hを介して、液相冷媒を冷媒供給路11から主流路21にスムーズに送り込むことが可能である。
【0070】
主流路21の流入口21aの位置は、回転軸25の端面25cに限定されない。後述するように、回転軸25の側面に流入口21aが設けられていてもよい。その場合、バッファ室35hは、ハウジング35の内部において、回転軸25の側面を取り囲んでいてもよい。詳細な構造は、
図6を用いて後述する。
【0071】
噴射流路24は、主流路21から分岐し、回転軸25の半径方向に延びている。噴射流路24の中の液相冷媒には遠心力が働く。液相冷媒は、遠心力によって冷媒流路40に噴射され、圧縮機3に吸入された気相冷媒に混合される。本実施形態では、噴射流路24は、回転軸25の軸方向に垂直な方向に延びている。噴射流路24は、冷媒流路40に面している流出口24bを有する。流出口24bは、気相冷媒の流れ方向において、ブレード31の上流端31tよりも上流側に位置している。このような構成によれば、圧縮過程の気相冷媒から効率的に熱を奪うことが可能である。噴射流路24は、霧状の液相冷媒が冷媒流路40に供給されるように、オリフィスの形状を有していてもよい。
【0072】
本実施形態において、流出口24bは、インペラ26のハブ30の表面30pに位置している。噴射流路24は、回転軸25の半径方向にハブ30を貫通している。このような構成によれば、気相冷媒がブレード31間の翼間流路38に侵入する前に気相冷媒と液相冷媒とを混合することができる。これにより、圧縮過程の気相冷媒から効率的に熱を奪うことが可能である。
【0073】
流出口24bの位置は、
図2に示す位置に限定されない。流出口24bは、気相冷媒の流れ方向において、ブレード31の上流端31tよりも下流側に位置していてもよい。さらに、流出口24bは、気相冷媒の流れ方向において、インペラ26の上面26tよりも上流側に位置していてもよい。この場合、流出口24bは、回転軸25の側面に位置しうる。これらの構成によっても、圧縮過程の気相冷媒から熱を奪うことが可能である。
【0074】
本実施形態において、噴射流路24は、第1部分241及び第2部分242を含む。第1部分241は、回転軸25の内部において主流路21から回転軸25の半径方向に延びている部分である。第2部分242は、第1部分241と冷媒流路40との間に位置している部分である。第1部分241は、回転軸25の内部に位置している。第2部分242は、インペラ26の内部に位置している。このような構成によれば、噴射流路24の長さを十分に確保することができる。噴射流路24が長ければ長いほど液相冷媒に加わる遠心加速度が増し、液相冷媒を冷媒流路40に噴射しやすい。回転軸25の先端部がインペラ26の上面26tから軸方向に突出している場合、回転軸25の先端部にインペラ26とは異なる部品が取り付けられていてもよく、その部品の内部に第2部分242が位置していてもよい。
【0075】
流出口24bがインペラ26の上面26tよりも上流側に位置している場合、第2部分242は省略され、噴射流路24は、第1部分241のみで構成されうる。
【0076】
噴射流路24の流路断面積は、主流路21の流路断面積よりも小さい。このような構成によれば、冷媒流路40に霧状の液相冷媒を供給しやすい。
【0077】
図3に示すように、本実施形態では、複数(2以上)の噴射流路24が設けられている。複数の噴射流路24は、主流路21から放射状に延びている。噴射流路24のそれぞれから冷媒流路40に液相冷媒が噴射される。このような構成によれば、回転軸25の周方向において、気相冷媒を均一に冷却することができる。ただし、圧縮機3が少なくとも1つの噴射流路24を有している場合、本開示の効果が得られる。噴射流路24は、本実施形態のようにインペラ26の半径方向に平行に延びていてもよく、半径方向に対して傾斜した方向に延びていてもよい。
【0078】
詳細には、回転軸25の周方向において、噴射流路24の流出口24bは、等角度間隔で並んでいる。噴射流路24の流出口24bは、周方向において隣り合うブレード31とブレード31との間に位置している。各流出口24bから均一な流量にて液相冷媒が各翼間流路38に噴射される。このような構成によれば、回転軸25の周方向において、気相冷媒をより均一に冷却することができる。流出口24bの数は、翼間流路38の数と異なっていてもよく、翼間流路38の数に等しくてもよい。噴射流路24の流出口24bが翼間流路38に一対一で対応していてもよい。
【0079】
複数のブレード31が複数のフルブレードと複数のスプリッタブレードとを含む場合、回転軸25の周方向において、周方向において隣り合うフルブレードとフルブレードとの間に流出口24bが位置していてもよい。あるいは、周方向において隣り合うフルブレードとスプリッタブレードとの間に流出口24bが位置していてもよい。スプリッタブレードは、フルブレードよりも短いブレードである。複数のフルブレード及び複数のスプリッタブレードは、回転軸25の周方向に沿ってハブ30の表面30pに交互に配置されうる。
【0080】
本実施形態において、回転軸25は、焼き嵌め、冷やし嵌めなどの方法によって、インペラ26に隙間なく嵌め合わされている。これにより、噴射流路24の第1部分241と第2部分242との接続部分から液相冷媒が漏れることを防止できる。漏れ防止のために、シールリングなどのシール構造が設けられていてもよい。
【0081】
本開示の圧縮機3の構造は、多段の圧縮機のそれぞれに適用可能である。各段の圧縮機において、所望の効果が得られる。例えば、圧縮機3が複数のインペラを含む多段圧縮機である場合、複数のインペラのそれぞれに噴射流路24が設けられ、各段の冷媒流路に液相冷媒が噴射されうる。
【0082】
次に、冷凍サイクル装置100の動作及び作用を説明する。
【0083】
冷凍サイクル装置100が一定期間(例えば夜間)放置された場合、冷凍サイクル装置100の内部(冷媒回路10)の温度は、周囲温度に概ね均衡する。冷凍サイクル装置100の内部の圧力は、特定の圧力に均衡する。圧縮機3を起動すると、蒸発器2の内部の圧力が徐々に低下し、液相冷媒が内気と熱交換する吸熱回路12の熱媒体から吸熱することによって蒸発し、気相冷媒が生成される。気相冷媒は、圧縮機3に吸入されて圧縮され、圧縮機3から吐出される。高圧の気相冷媒は、凝縮器4に導入され、放熱回路14を介して気相冷媒が外気等に放熱することによって凝縮し、液相冷媒が生成される。液相冷媒は、戻し経路9を通じて、凝縮器4から蒸発器2へと送られる。
【0084】
圧縮機3の内部において、主流路21及び噴射流路24を通じて、冷媒流路40に液相冷媒が噴射される。圧縮機3によって昇圧されて温度が上昇した気相冷媒と霧状の液相冷媒との間で熱交換が起こり、過熱状態の気相冷媒が霧状の液相冷媒の蒸発によって連続的に冷却される。これにより、圧縮過程での冷媒の過熱度の増加に起因する冷媒のエンタルピーの増加が連続的に抑制される。圧縮機3が必要とする圧縮動力は、完全に断熱された等エントロピー圧縮に必要とされる圧縮動力未満まで低減されうる。冷媒の圧力を所定圧力まで上昇させるために圧縮機3がなすべき仕事を大幅に低減できる。つまり、圧縮機3の消費電力を大幅に節約できる。その結果、冷凍サイクル装置100の効率が向上する。
【0085】
本実施形態によれば、冷媒供給路11を通じて、蒸発器2に貯留された液相冷媒が圧縮機3の主流路21に供給される。冷媒流路40には、圧縮機3に吸入される気相冷媒の温度(飽和温度)と概ね同じ温度の霧状の液相冷媒が噴射される。この場合、液相冷媒がフラッシュ蒸発して圧縮機3の内部で蒸気量が急増することを防止できる。その結果、蒸気量の増加に伴う圧縮動力の増加が抑制される。蒸気量の増加に伴う圧縮動力の増加が抑制されるので、過負荷運転時のように圧縮機入力が過大となる運転条件下でも、冷凍能力を大幅に下げることなく、上記したメカニズムによって、圧縮動力を低減する効果が得られる。また、蒸気量の増加によって圧縮機3がチョーキングを起こすことも防止できる。
【0086】
図20は、圧縮機3を用いて気相冷媒を圧縮する方法を示すフローチャートである。ステップS1において、気相冷媒を圧縮機3に吸入させる。気相冷媒は、インペラ26によって吸引され、冷媒流路40の吸入流路36を中心軸Oに平行な方向に流れる。したがって、主流路21における液相冷媒の流れ方向は、気相冷媒が圧縮機3に吸入されて流れる方向とは逆方向である。ステップS2において、吸入された気相冷媒を圧縮機3において加速する。具体的には、インペラ26によって気相冷媒を加速する。ステップS4において、冷媒流路40に存在する気相冷媒に向けて噴射流路24の流出口24bから液相冷媒を噴射する。噴射された液相冷媒は、圧縮機3の翼間流路38に吸引される。これにより、気相冷媒の過熱度が下がる。加速された気相冷媒は、冷媒流路40からディフューザ41に向かって流れる。ステップS4において、気相冷媒の静圧がディフューザ41において回復する。
【0087】
なお、圧縮機3は、速度型圧縮機であるため、フローチャートに記載された各工程が完全に分かれているわけではない。各工程は、連続的に行われる。
【0088】
(変形例)
図4Aは、変形例に係る回転体の断面図である。
図4Bは、変形例に係る回転軸の部分側面図である。
図4Aは、
図3の断面図に対応している。本変形例の回転体47は、回転軸45及びインペラ26を備えている。インペラ26は、回転軸45に取り付けられており、回転軸45とともに回転する。回転軸45の側面上において噴射流路24の第1部分241が第2部分242に接続している。第1部分241と第2部分242との接続位置において、回転軸45の周方向に沿って第1部分241が存在している角度範囲が回転軸45の周方向に沿って第2部分242が存在している角度範囲を上回っている。このような構成によれば、第1部分241と第2部分242との接続が容易に実現されうる。回転軸45の周方向における第1部分241と第2部分242との位置合わせが容易であり、インペラ26を回転軸45に取り付けやすい。
【0089】
詳細には、噴射流路24の第1部分241は、半径方向部分241a及び溝241bを含む。半径方向部分241aは、回転軸45の内部に位置している部分である。溝241bは、回転軸45の周方向に沿って回転軸45の側面に設けられた部分である。溝241bに第2部分242が接続されている。このような構成によれば、噴射流路24の第2部分242のそれぞれに均一な流量で液相冷媒を供給することができる。溝241bが分配器の役割を果たすので、第1部分241(半径方向部分241a)の数と第2部分242との数が異なっていてもよい。本変形例では、第1部分241の数が第2部分242の数よりも少ない。さらに、回転軸45の周方向において第1部分241と第2部分242との位置合わせが極めて容易又は不要なので、インペラ26を回転軸45に取り付ける作業が容易である。なお、溝241bが完全な環状であることは必須ではなく、溝241bは円弧状であってもよい。
【0090】
噴射流路24から噴射されるべき液体は、冷媒以外の液体である可能性もある。そのような液体は、気相冷媒の温度において蒸発し、気相冷媒を冷却できる他の液体でありうる。
【0091】
図5に示すように、別の変形例に係る圧縮機50において、噴射流路24は、回転軸25の半径方向及び軸方向の両方向に対して傾斜した方向に向かって延びている。噴射流路24の流出口24bは、インペラ26のブレード31とブレード31との間に位置している。このような構成によれば、噴射された液相冷媒がブレード31間の気相冷媒の流れに沿って流れやすい。その結果、気相冷媒と液相冷媒との間で効率的な熱交換が起こることを期待できる。
【0092】
図6に示すように、別の変形例に係る圧縮機60において、主流路21は、回転軸25の側面に位置している流入口21aを有する。ハウジング35の接続口28は、回転軸25の側面に向かい合う位置に設けられている。このように、主流路21の流入口21aは、回転軸25の側面に位置していてもよい。
【0093】
(有利な構成)
本開示の速度型圧縮機は、次のような構成を有していてもよい。
【0094】
速度型圧縮機において必要な圧力比を得るためは、回転数を高くしてインペラの周速を上げる必要がある。噴射流路の流出口から出た液相冷媒は一定の粒子径を持たず、ある粒子径分布をもってばらつく。小径の粒子は気相冷媒の流れに追従して冷媒流路から流出するか、流出前に蒸発する。
【0095】
しかし、インペラと共に回転する座標系において周方向にコリオリ力が働き、大粒の冷媒液滴ではコリオリ力が気相冷媒から受ける抗力を凌駕する。そのため、冷媒液滴は、気相冷媒の流れに追従せず、流出口に隣接するブレードの後縁部に衝突し、インペラにエロージョンが発生することがある。
【0096】
以下に説明する構成によれば、流出口から噴出した大粒径の冷媒液滴の衝突によるインペラのエロージョンを防止できる。
【0097】
図7は、インペラ26を中心軸Oに垂直な平面に投影することによって得られた平面投影図である。曲線A
1B
1と曲線A
2B
2は、投影図上における、第1ブレード311の翼根線と第2ブレード312の翼根線とを表している。流出口24bは、第1ブレード311と第2ブレード312の間においてハブ30の表面上に位置し、かつ、回転中心である中心軸Oから半径R
1の位置に設けられている。第1ブレード311は、回転体27の回転方向とは逆の回転方向において、流出口24bから最も近い位置にあるブレードである。第2ブレード312は、回転体27の回転方向において、流出口24bから最も近い位置にあるブレードである。
【0098】
「翼根線」は、ハブ30と各ブレードとの境界線を意味する。詳細には、ブレードが厚さを有するので、ハブ30とブレードとは、長細い境界面で分けられる。翼根線は、境界面がブレードの厚さ方向に2等分されるように、この境界面の長さ方向に沿って引いた線を意味する。
【0099】
図7の投影図において、流出口24bは、曲面で表される。半径R
1は、中心軸Oと当該曲面を2等分する点との距離で表される。
【0100】
中心軸Oを中心として、流出口24bを通る軸をr軸と定義し、回転体27の回転方向の角度をθ(度)と定義し、インペラ26に固定された回転する極座標系を定義する。本明細書では、回転体27の回転方向(反時計回り方向)が正方向であり、逆の回転方向(時計回り方向)が負方向である。液相冷媒の流出方向とr軸とのなす角度は、角度φで表される。
図7の例では、φ≠0である。液相冷媒の流出方向とは、噴射流路24からの液相冷媒の噴射の中心方向を意味する。第1ブレード311の後縁部B
1は、中心軸Oから半径R
2の位置にある。中心軸Oと後縁部B
1とを結ぶ線OB
1とr軸とのなす角度を回転体27の回転方向に沿ってr軸から測ったときの角度は、角度θ
B1で表される。
図7では、角度θ
B1は負の値である。第2ブレード312の後縁部B
2は、中心軸Oから半径R
2の位置にある。中心軸Oと後縁部B
2とを結ぶ線OB
2とr軸とのなす角度を回転体27の回転方向に沿ってr軸から測ったときの角度は、角度θ
B2で表される。
図7では、角度θ
B2は正の値である。
【0101】
時刻ゼロに流出口24bから速度Uで流出した冷媒液滴は、回転する第1ブレード311の前を飛行し、時刻tPに半径R2の位置に達し、インペラ26から吐出される。この時の位置Pの方向OPとr軸とのなす角度を回転方向に沿ってr軸から測ったときの角度を角度θPとする。方向OPは、中心軸Oと位置Pとを結ぶ線OPを意味する。
【0102】
回転極座標系で観察すると、第1ブレード311は静止しているが、遠心力とコリオリ力が液滴に作用するため、液滴は、r軸の方向に加速しながら右側へ曲がる飛行経路をたどる。θB1<θP<θB2の場合、冷媒液滴が後縁部に衝突せずにインペラ26から吐出される。
【0103】
図8は、
図7を静止座標系で表している。静止座標系で観察すると、r軸からαの角度の方向に速度U’で等速直線運動する冷媒液滴を、第1ブレード311が回転しながら追跡する。第1ブレード311の後縁部B
1はθ’
B1=θ
B1+ωt
Pまで移動する。一方、第2ブレード312の後縁部B
2はθ’
B2=θ
B2+ωt
Pまで移動する。速度U’で表される直線の延長線と半径R
2のインペラ26の外縁との交点P’に冷媒液滴が時刻t
Pに到着する。r軸から測った直線OP’の角度をθ’
Pとすると、θ’
B1<θ’
P<θ’
B2の場合、冷媒液滴が後縁部に衝突せずにインペラ26から吐出される。
【0104】
回転体27が回転することによる遠心効果により速度Uが与えられる。流出口24bに断面積の小さいノズルを付けることで速度Uは更に加速される。速度Uが低いほど半径R2の後縁部に到達する時刻tPが増加し、その時刻までに後縁部が移動する角度θ’Bが増すため、最小の速度Uについて考慮しておけば十分である、噴射流路24を通る際に遠心効果により増加する全圧は、0.5ρω2(R2
1-R2
0)で与えられる。主流路21の半径R0は半径R1と比べて十分小さいため無視することができ、噴射流路24を通る際に遠心効果により増加する全圧は、0.5ρω2R2
1で与えられる。ノズルを付けない場合が最も速度Uが遅く、その場合は全圧の増加分がちょうど動圧になるので、U=R1ωが成り立つ。
【0105】
流出口24bから流出し、半径rを飛行中の液滴冷媒には、r方向に遠心力rω2が働くため、運動方程式より、次の式(1)が成り立つ。
【0106】
【0107】
式(1)の解のうち、t=0でr=R1、ur=Ucosφ=R1ωcosφ≒R1ωを満たすものは、次式(2)で表される。
【0108】
【0109】
r=R2となる時刻tPは、式(3)で表される。
【0110】
【0111】
ただし、上記で用いたcosφ≒1という近似はφ=0度付近で成り立つ。また、この近似によりtPはやや増加するため、実際よりも冷媒液滴が後縁部に衝突しやすい条件となるが、ここまで考慮しておけば安全側である。
【0112】
回転座標系において角度φで速度Uの速度ベクトルは、静止座標系では
図8の右上に示す図のように角度α、速度U’の速度ベクトルとなる。速度U’は、次式(4)で与えられる。
【0113】
【0114】
ここでもU=R1ωとすると、次式(5)が成り立つ。
【0115】
【0116】
また、角度αは次式(6)により求まる。
【0117】
【0118】
直線OPと流出口24bとにより作られる三角形について、正弦定理より、次式(7)が成り立つ。
【0119】
【0120】
よって、
図8から分かるように、式(8)が成り立つ。
【0121】
【0122】
θ’B1<θ’P<θ’B2が成り立つこと、すなわち、噴射流路24の流出方向を表す角度φが、次式(9)の関係式を満たすことで、第1ブレード311及び第2ブレード312が冷媒液滴に衝突しない。
【0123】
【0124】
流出口24bはインペラ26における冷媒流路の入口付近のハブ30の表面に存在するため、比率(R2/R1)は3~6の値となる。また、第2ブレード312の後縁部B2の位置を表す角度θB2は、通常、+20度以下である。この範囲では、上記右辺のθ’B2の条件は、物理的な上限値であるφ>90°でも満足されるため、液滴が第2ブレード312に衝突することはない。
【0125】
角度φの下限値は、上記左辺の第1ブレード311に関する衝突条件により決まる。角度φの範囲の下限値は、比率(R2/R1)に依存する。3≦(R2/R1)≦6で考える場合、R2/R1=3のときに角度φの範囲の下限値が最小となる。
【0126】
図9は、第1ブレード311の後縁部B
1の位置を表す角度θ
B1に対して、上記左辺の衝突条件を満たす流出角度φを示している。角度θ
B1は、インペラ26の一般的な設計として-40度以上であり、このときφ≧-25°が第1ブレード311の後縁部B
1に衝突しないための必要条件となる。角度φの上限値は、穴加工が可能な範囲で定められ、例えば60度である。
【0127】
以上のように、噴射流路24の流出方向φ≧-25°とすることにより、冷媒液滴と後縁部の衝突を回避することができる。その結果、液体の衝突によるインペラ26のエロージョンを防止することができる。
【0128】
(別の変形例)
次に、多段速度型圧縮機に本開示の技術を適用した場合について説明する。
図2を参照して説明した圧縮機3と変形例に係る多段速度型圧縮機とで共通する要素には同じ参照符号を付し、それらの説明を省略することがある。各圧縮機に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、相互に適用されうる。技術的に矛盾しない限り、各圧縮機の構成は、相互に組み合わされてもよい。
【0129】
多段圧縮機は、高効率な運転を実現できる最適な比速度NSの範囲内で設計される。気相冷媒は段を経るごとに圧縮されて体積が徐々に減るため、一般的に、後段の圧力比は、前段の圧力比以下に設定されうる。言い換えれば、過熱度を完全断熱された等エントロピー圧縮以下に低減するために、後段で取り除くべき過熱度は前段で取り除くべき過熱度以下でありうる。従って、後段の液相冷媒の噴射量は、前段の液相冷媒の噴射量以下に設定されうる。
【0130】
しかし、多段圧縮機において、後段の噴射流路の半径位置距離が前段の噴射流路の半径位置距離より大きい場合は、一定の回転角速度における後段の噴射量が過大になる。気相冷媒の過熱度で蒸発しきれない液相冷媒のうち、気相冷媒に追従しない大粒子径の液相冷媒がインペラの壁面に衝突して滞留する可能性がある。滞留した液相冷媒がインペラの壁面の熱により蒸発する際の蒸発潜熱は、システムの冷凍能力に寄与せず、圧縮機の理論動力が増えてCOPが低下する。
【0131】
本発明者らは、上記課題について、鋭意検討し、多段圧縮機において、液相冷媒の過多噴射による、気相冷媒に追従しない大粒子径の液相冷媒がインペラの壁面に衝突して滞留することを防止するための技術を見出した。
【0132】
以下、詳細について説明する。
【0133】
図10は、別の変形例に係る多段速度型圧縮機70の断面を示している。本変形例では、圧縮機70は、2段の圧縮機である。ただし、圧縮機70は、3段以上であってもよい。
【0134】
図10に示すように、圧縮機70は、多段遠心圧縮機である。圧縮機70は、回転体77、ハウジング35及びシュラウド37を備えている。回転体77は、ハウジング35及びシュラウド37によって囲まれた空間に配置されている。ハウジング35の内部には、回転体77を回転させるためのモータ及び軸受(図示省略)が配置されていてもよい。
【0135】
回転体77は、回転軸25、第1インペラ26及び第2インペラ71を含む。第1インペラ26及び第2インペラ71は、回転軸25に取り付けられており、回転軸25とともに高速で回転する。第1インペラ26及び第2インペラ71は、回転軸25と一体に形成されていてもよい。回転軸25及び第1インペラ26及び第2インペラ71の回転数は、例えば、5000~100000rpmの範囲にある。回転軸25は、S45CHなどの強度の高い鉄系材料で作製されている。第1インペラ26及び第2インペラ71、例えば、アルミニウム、ジュラルミン、鉄、セラミックなどの材料で作製されている。
【0136】
第1インペラ26の向きは、第2インペラ71の向きに一致している。言い換えれば、回転軸25に平行な方向に関して、第1インペラ26の上面及び第2インペラ71の上面の両方が同じ側に位置している。ただし、回転軸25の一端部に第1インペラ26が取り付けられ、回転軸25の他端部に第2インペラ71が取り付けられていてもよい。この場合、回転軸25に平行な方向に関して、第1インペラ26の上面は、第2インペラ71の上面と反対側に位置する。第1インペラ26の裏面と第2インペラ71の裏面とが向かい合う。
【0137】
第1インペラ26及び第2インペラ71の周囲の空間には、冷媒流路40、冷媒流路80、第1ディフューザ41、第2ディフューザ51、渦巻室42及びリターンチャンネル79が含まれる。冷媒流路40と冷媒流路80は、回転体27の周囲に位置し、圧縮されるべき気相冷媒が流れる流路である。冷媒流路40は、吸入流路36及び複数の翼間流路38を含む。冷媒流路80は、吸入流路76及び複数の翼間流路78を含む。第1インペラ26及び第2インペラ71が回転すると、複数の翼間流路38と翼間流路78のそれぞれを流れる気相冷媒に回転方向の速度が与えられる。
【0138】
第1ディフューザ41は、第1インペラ26を囲むように設けられている。第2ディフューザ51は、第2インペラ71を囲むように設けられている。第1ディフューザ41は、第1インペラ26によって回転方向に加速された気相冷媒をリターンチャンネル79に導くための流路である。第2ディフューザ51は、第2インペラ71によって回転方向に加速された気相冷媒を渦巻室42に導くための流路である。第1ディフューザ41の流路断面積は、冷媒流路40からリターンチャンネル79に向かって拡大している。第2ディフューザ51の流路断面積は、冷媒流路80から渦巻室42に向かって拡大している。この構造は、第1インペラ26及び第2インペラ71によって加速された気相冷媒の流速を減速させ、気相冷媒の圧力を上昇させる。第1ディフューザ41及び第2ディフューザ51は、例えば、半径方向に延びる流路によって構成されたベーンレスディフューザである。冷媒の圧力を効果的に上昇させるために、第1ディフューザ41及び第2ディフューザ51は、複数のベーン及びそれらによって仕切られた複数の流路を有するベーンドディフューザであってもよい。
【0139】
リターンチャンネル79は、第1インペラ26を通過することによって圧縮された気相冷媒を第2インペラ71に導く流路である。リターンチャンネル79は、第1ディフューザ41から吸入流路76に向かって内向きに延びている。
【0140】
渦巻室42は、第2ディフューザ51を通過した気相冷媒が集められる渦巻状の空間である。圧縮された気相冷媒は、渦巻室42を経由して、圧縮機70の外部(吐出配管8)へと導かれる。渦巻室42の断面積が円周方向に沿って拡大しており、これにより、渦巻室42における気相冷媒の流速及び角運動量が一定に保たれる。
【0141】
シュラウド37は、第1インペラ26及び第2インペラ71を覆って、冷媒流路40、第1ディフューザ41、第2ディフューザ51、渦巻室42及びリターンチャンネル79を規定している。シュラウド37は、鉄系材料又はアルミニウム系材料によって作製されている。鉄系材料として、FC250、FCD400、SS400などが挙げられる。アルミニウム系材料として、ACD12などが挙げられる。
【0142】
ハウジング35は、圧縮機70の各種部品を収容するケーシングの役割を担っている。ハウジング35とシュラウド37とが組み合わされることによって、渦巻室42が形成されている。ハウジング35は、上記した鉄系材料又はアルミニウム系材料によって作製されうる。ディフューザがベーンドディフューザであるとき、複数のベーンも上記した鉄系材料又はアルミニウム系材料によって作製されうる。
【0143】
回転体77の内部には、主流路21、第1噴射流路24及び第2噴射流路74が設けられている。主流路21は、回転体27の内部において、回転体27の軸方向に延びている。詳細には、主流路21は、回転軸25の内部に設けられており、回転軸25の軸方向に延びている。第1噴射流路24は、第1インペラ26の内部において主流路21から分岐して主流路21から冷媒流路40まで延びている。第2噴射流路74は、第2インペラ71内部において主流路21から分岐して主流路21から冷媒流路80まで延びている。主流路21は、冷媒供給路11を通じて、蒸発器2に接続されている。主流路21には、回転体27の外部に位置している冷媒供給路11から導入された液相冷媒が流れる。第1噴射流路24は、主流路21から冷媒流路40に液相冷媒を導く流路である。第2噴射流路74は、主流路21から冷媒流路80に液相冷媒を導く流路である。
【0144】
冷媒供給路11を通じて、蒸発器2から主流路21に液相冷媒が供給される。液相冷媒は、遠心力によって加圧され、主流路21、第1噴射流路24及び第2噴射流路74を通じて、圧縮機70の内部の冷媒流路40及び冷媒流路80に向かって噴射される。冷媒流路40及び冷媒流路80において液相冷媒が気相冷媒に接触すると、液相冷媒と気相冷媒との間で熱交換が起こり、液相冷媒の顕熱又は蒸発潜熱によって過熱状態の気相冷媒が連続的に冷却される。
【0145】
図11は、流出口24bを含む位置における第1インペラ26の断面、及び、流出口74bを含む位置における第2インペラ71の断面を示している。第1噴射流路24の流出口24bの開口面積をS
1、第2噴射流路74の流出口74bの開口面積をS
2、回転体77の中心軸Oから流出口24bまでの半径距離をR
1、回転体77の中心軸Oから流出口74bまでの半径距離をR
2と定義する。このとき、圧縮機70は、(R
2/R
1≦S
1/S
2)の関係を満たす。
【0146】
開口面積S1は、第1噴射流路24の流路断面積でありうる。開口面積S2は、第2噴射流路74の流路断面積でありうる。半径距離R1は、中心軸Oから流出口24bの中心又は重心までの距離を意味する。半径距離R2は、中心軸Oから流出口74bの中心又は重心までの距離を意味する。
【0147】
図11に示すようにR
1≦R
2の場合、例えば、第1インペラ26のハブ30の半径、すなわち、流出口24bの半径距離R
1を小さくし、気相冷媒の入口面積を増やすことで、入口マッハ数を低減して高効率運転を行うことができる。
【0148】
図12に示すように、主流路21の内部の液相冷媒には遠心力が作用し、遠心力と釣り合うように半径方向に圧力勾配dp/drができるので、半径方向の力の釣り合いは、次式(10)で表される。
【0149】
【0150】
式(10)を半径ゼロからrまで積分すれば、圧力はP1=(ρω2r2)/2で表される。液相冷媒の供給静圧Ps=0とする。また、重力による圧力ヘッドは遠心力による圧力ヘッドに較べて無視できるほど小さいため、省略する。
【0151】
流出速度をv、流出口の断面積をAとする。噴射流路の内部に存在する液相冷媒に関して、噴射方向の厚さdrの微小柱状部分を考えれば、a=dv/dt及びdt=dr/vから噴射方向の加速度はa=vdv/drで表される。
【0152】
噴射方向に作用する力は、遠心力(ρAω2rdr)及び微小柱状部分の前後の圧力差による力-A(dp/dr)drであるから、噴射方向の運動方程式は、次式(11)で表される。
【0153】
【0154】
式(11)を積分すれば、次式(12)が得られる。
【0155】
【0156】
噴射流路の入口を添字「1」で表し、噴射流路の出口を添字「2」で表すと、次式(13)が得られる。
【0157】
【0158】
ここで、v1=0、P1=(ρω2r2)/2とすれば、流出速度v2は、次式(14)で表される。
【0159】
【0160】
流量Qは、開口面積S(S=噴射流路の数N×流出口の断面積A)と流出速度v2との積で表される。損失を無視して理論流速で液相冷媒が流出すると仮定すると、流量Qは、次式(15)で表される。
【0161】
【0162】
実際には各種の損失が存在するから、流量係数Cを考えて、式(15)を式(16)のように定義できる。
【0163】
【0164】
ここで、P2は冷媒流路を流れる気相冷媒の蒸気圧力である。P2は遠心力による圧力に較べて無視できるほど小さく、省略できるので、Q=CSωRが成立する。
【0165】
すなわち、噴射流量Qは、流出口の開口面積Sと、回転角速度ωと、中心軸から流出口までの半径距離Rとの積に比例する。
【0166】
多段圧縮機70において、気相冷媒は、段を経るごとに圧縮されて体積が徐々に減るため、後段の圧力比は、前段の圧力比以下に設定されうる。言い換えれば、過熱度を完全断熱された等エントロピー圧縮以下に低減するために、後段で取り除くべき過熱度は、前段で取り除くべき過熱度以下でありうる。従って、後段の液相冷媒の噴射量は、前段の液相冷媒の噴射量以下に設定されうる。
【0167】
つまり、(前段の液相冷媒の噴射量Q1)≧(後段の液相冷媒の噴射量Q2)が成立しうる。
【0168】
以上のように、S1×R1≧S2×R2、すなわち、R2/R1≦S1/S2の関係が満たされると、回転角速度ωは一定であるため、第2インペラ71の噴射流路74からの噴射量が第1インペラ26の噴射流路24から噴射量以下になる。
【0169】
これにより、取り除くべき過熱度と見合った量で噴射される液相冷媒が冷媒流路において確実に蒸発することとなる。
【0170】
よって、多段圧縮機70において、液相冷媒の過多噴射による、気相冷媒に追従しない大粒子径の液相冷媒がインペラの壁面に衝突して滞留することを防止することができる。
【0171】
(別の変形例)
多段圧縮機においても、冷媒液滴によるインペラのエロージョンの課題がある。
【0172】
多段圧縮機の各段で発生する過熱度を取り除くのに必要な量の液相冷媒を1段目のインペラの周囲の冷媒流路に噴射した場合、1段目のインペラの周囲に存在する液滴の量が過剰になる。その結果、インペラへの冷媒液滴の衝突確率が上昇し、インペラのエロージョンのリスクが高まる。
【0173】
図10を参照して説明した圧縮機70において、第1インペラ26及び第2インペラ71のそれぞれに噴射流路24及び噴射流路74が設けられている。この構成は、インペラのエロージョンを防止するのに有効であるものの、改善の余地が残されている。
【0174】
本発明者らが更なる検討を行った結果、多段圧縮機において、より適切な量の液相冷媒を噴射できる構成を見出した。以下、その構成について説明する。
【0175】
図13は、別の変形例に係る多段速度型圧縮機90の断面を示している。
図10を参照して説明した圧縮機70と本変形例の圧縮機90との相違点は、噴射流路の数及び位置にある。
【0176】
図13に示すように、回転体77の内部には、主流路21、第1噴射流路24、下流側噴射流路32及び第2噴射流路74が設けられている。主流路21は、回転体77の内部において、回転体77の軸方向に延びている。詳細には、主流路21は、回転軸25の内部に設けられており、回転軸25の軸方向に延びている。
【0177】
第1噴射流路24は、第1インペラ26の内部に位置し、主流路21から分岐して主流路21から冷媒流路40まで延びている。第1噴射流路24は、気相冷媒の流れ方向において、翼間流路38よりも上流側に位置している。第1噴射流路24は、第1インペラ26のブレードの上流端31tよりも上流側に設けられている。第1噴射流路24から冷媒流路40に向かって液相冷媒を噴射することによって、第1インペラ26で発生する過熱度を取り除くのに必要な量の液相冷媒のみが供給されうる。第1噴射流路24は、第1インペラ26のブレードの上流端31tよりも下流側に設けられていてもよい。
【0178】
下流側噴射流路32は、第1インペラ26の内部に位置し、主流路21から分岐して主流路21から冷媒流路40まで延びている。下流側噴射流路32は、気相冷媒の流れ方向において、第1噴射流路24よりも下流に位置している。下流側噴射流路32の中心軸は、第1ディフューザ41の入口に交差している。下流側噴射流路32の流出口32bが第1インペラ26のハブ30の表面に位置している。下流側噴射流路32は、回転軸25の半径方向にハブ30を貫通している。流出口32bは、第1ディフューザ41の入口に向かい合っている。
【0179】
下流側噴射流路32を通じて、第2インペラ71で発生する過熱度を取り除くのに必要な量の液相冷媒が噴射される。下流側噴射流路32から噴射された液相冷媒は、第1ディフューザ41において一部蒸発する。第2インペラ71は、第2インペラ71で発生する過熱度を取り除くのに必要な量の液相冷媒のみを吸入する。第1インペラ26の周りの冷媒流路40及び第2インペラ71の周りの冷媒流路80のそれぞれに存在する冷媒液滴の量が減少する。その結果、第1インペラ26及び第2インペラ71への冷媒液滴の衝突確率が低下し、第1インペラ26及び第2インペラ71のエロージョンリスクが低減する。
【0180】
第2噴射流路74は、第2インペラ71の内部に位置し、主流路21から分岐して主流路21から冷媒流路80まで延びている。第2噴射流路74の中心軸は、第2ディフューザ51の入口に交差している。第2噴射流路74の流出口74bが第2インペラ71のハブ33の表面に位置している。第2噴射流路74は、回転軸25の半径方向にハブ33を貫通している。流出口74bは、第2ディフューザ51の入口に向かい合っている。第2噴射流路74によれば、第2ディフューザ51おいて圧力回復を行うときの気相冷媒からも熱を奪うことができる。この構成は、3段以上の多段速度型圧縮機にも有効である。
【0181】
「噴射流路の中心軸」は、噴射流路の断面の中心又は重心を通り、噴射流路に平行に延びる軸を意味する。「ディフューザの入口」は、ディフューザの役割を果たす空間への入口を意味する。
【0182】
冷媒供給路11を通じて、蒸発器2又は凝縮器4から主流路21に液相冷媒が供給される。第1噴射流路24、下流側噴射流路32及び第2噴射流路74は、主流路21から冷媒流路40及び冷媒流路80に液相冷媒を導く流路である。液相冷媒は、遠心力によって加圧され、主流路21、第1噴射流路24、下流側噴射流路32及び第2噴射流路74を通じて、圧縮機90の内部の冷媒流路40及び冷媒流路80に向かって噴射される。冷媒流路40及び冷媒流路80において液相冷媒が気相冷媒に接触すると、液相冷媒と気相冷媒との間で熱交換が起こり、液相冷媒の顕熱又は蒸発潜熱によって過熱状態の気相冷媒が連続的に冷却される。
【0183】
(別の変形例)
図14は、
図2を参照して説明した圧縮機3にモータ16を追加することによって得られる圧縮機3aを示している。圧縮機3aは、圧縮機3の構成に加え、回転軸25に取り付けられたモータ16をさらに備えている。モータ16は、ハウジング35の内部に配置されている。モータ16は、回転子16a及び固定子16bを有する。回転子16aが回転軸25に固定されている。モータ16を駆動すると、回転体27が回転する。モータ16の両側に回転軸25を支持する軸受18a及び18bが配置されている。
【0184】
回転軸25の内部に設けられた主流路21の液相冷媒はモータ16の排熱により昇温する。液相冷媒を圧縮機3aの高速回転する回転体27の内部の噴射流路24で遠心加圧するため、更にモータ16の動力が上がり昇温幅が増える。モータ16の回転子16aの発熱量は、例えば定格条件として冷凍能力が880kWの場合、0.8kW程度である。特に、高負荷運転条件の場合は、圧縮機3aの回転数が上がり、回転数に応じてモータ16の排熱量も増加する。それにより、主流路21の内部で液相冷媒が蒸発して気相冷媒が滞留する可能性がある。この場合、気相冷媒によって主流路21が閉塞し、液相冷媒が流通せずにモータ16を連続的に冷却することができず、モータ16の効率が低下する。
【0185】
本変形例は、上記の課題を解決するもので、圧縮時のエンタルピー上昇による圧縮機動力を低減する一方で、主流路の内部での液相冷媒の蒸発による流路の閉塞を防ぐための技術を提供する。併せて、モータを連続的に冷却してモータの効率を向上させる。
【0186】
図15は、モータ16の発熱により課題を解決しうる圧縮機3bの断面を示している。圧縮機3bは、回転子16a及び固定子16bを有するモータ16を備えている。回転子16aは、回転軸25の軸線方向においてインペラ26と軸受18bとの間で回転軸25に固定されている。回転子16aは、例えば窒化珪素鋼板などの鉄鋼材料で構成されている。固定子16bは、回転子16aを回転軸25の周方向に取り囲んで配置されている。固定子16bによって誘起される回転磁界により回転子16aに回転トルクが生じる。これにより、回転軸25及びインペラ26が高速回転するように駆動される。
【0187】
バッファ室35hは、流入口21aと接するように設けられており、主流路21に連通している。
【0188】
次に、バッファ室35hについて詳細に説明する。
【0189】
図15に示すように、圧縮機3bは、さらに、供給タンク20及び加圧ポンプ19を備えている。バッファ室35hは、ハウジング35の外部に設けられた冷媒供給路22に接続されている。冷媒供給路22は、バッファ室35hと供給タンク20とを連通している。冷媒供給路22には、供給タンク20に貯留された液相冷媒をバッファ室35hへ圧送するための加圧ポンプ19が設けられている。供給タンク20の液相冷媒の温度は、例えば35℃である。
【0190】
供給タンク20の具体例としては、凝縮器、蒸発器、それら以外のバッファタンクが挙げられる。
【0191】
加圧ポンプ19は、バッファ室35hに供給タンク20内の液相冷媒を昇圧して供給する為のポンプである。液相冷媒の供給圧力は、例えば25~100kPa程度である。加圧ポンプ19は、容積型ポンプであってもよいし、速度型ポンプであってもよい。容積型ポンプとは、容積変化によって液相冷媒を吸入及び吐出し、冷媒の圧力を上昇させるポンプである。容積型ポンプとして、ロータリポンプ、スクリューポンプ、スクロールポンプ、ベーンポンプ、ギアポンプなどが挙げられる。速度型ポンプとは、液相冷媒に運動量を与え、液相冷媒の速度を減速することによって冷媒の圧力を上昇させるポンプである。速度型ポンプ(ターボポンプ)として、遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなどが挙げられる。また、カスケードポンプ、ハイドロセラポンプなどを使用してもよい。加圧ポンプ19は、インバータなどのポンプコントローラによって駆動されるモータを備えており、回転数を変化可能な機構であってもよい。加圧ポンプ19の供給圧力は、主流路21及び冷媒供給路22の圧力損失を考慮した上で調整される。運転条件に応じた冷却に必要な液相冷媒の流量に対して、主流路21の内部で蒸発する圧力以上に昇圧するように液相冷媒が圧送される。
【0192】
気相冷媒を冷却する液相冷媒は供給タンク20に貯留された液相冷媒であり、バッファ室35hを介して流入口21aから供給され、回転軸25の主流路21を通じて噴射流路24に分岐する。液相冷媒は、高速回転する回転体27の内部の噴射流路24で遠心加圧され、流出口24bから冷媒流路40に噴射されて、圧縮機3bに吸入される気相冷媒と共に吸入される。定格条件として冷凍能力が880kWの場合、圧縮過程で発生する熱を取り除くために必要な液相冷媒の噴射量は、例えば0.034kg/sである。例えば、噴射流路24の口径を0.13mm、口数を16個とすると、噴射流路24を通じて1.4MPa程度の圧力で流出口24bから冷媒流路40に液相冷媒が噴射される。液相冷媒は、供給タンク20から供給され続け、遠心加圧による吸入に加えて加圧ポンプ19によりバッファ室35hへ圧送される。
【0193】
以上のように、液相冷媒は、高速回転する回転体27の内部の噴射流路24で遠心加圧され、冷媒流路40に噴射されるため、過熱状態の気相冷媒が連続的に冷却される。液相冷媒は、冷媒供給路22を通過する際に加圧ポンプ19で加圧され、液相冷媒の圧力が上昇して沸点が上がることから主流路21の内部で蒸発しにくく、蒸気による流路閉塞を抑制することが可能となる。併せて、モータ16を確実に冷却できるので、モータ16の効率も向上する。
【0194】
具体的には、定格条件として冷凍能力が880kWの場合、モータ16の発熱量は0.8kW程度、圧縮過程で発生する熱を取り除くために必要な液相冷媒の噴射量は、例えば0.034kg/sである。供給タンク20の液相冷媒の温度を35℃(4.25kPa)とすると、主流路21を通過した後の温度は40.46℃(7.57kPa)となる。圧縮機3bは、供給タンク20の流出口を基準として、例えば1.5mの高さの位置に設けられている。圧縮機3bの主流路21及び冷媒供給路22の圧力損失を考慮すると、主流路21で液相冷媒を蒸発させないようにするためには、供給タンク20から供給する液相冷媒は、例えば22.3kPa以上の昇圧が必要となる。従って、加圧ポンプ19の供給圧力を22.3kPa以上とすると、蒸発する圧力以上に昇圧された液相冷媒が供給される。そのため、主流路21で液相冷媒が蒸発しにくく、蒸気による流路閉塞を抑制することが可能となる。
【0195】
図16は、別の変形例に係る圧縮機3cの断面を示している。圧縮機3cにおいて、バッファ室35hは、冷媒供給路22に接続されている。冷媒供給路22は、バッファ室35hと供給タンク20とを連通している。冷媒供給路22には、供給タンク20に貯留された液相冷媒をバッファ室35hへ圧送するための加圧ポンプ19と外部熱源と熱交換する熱交換器23とが設けられている。
【0196】
圧縮機3cは、熱交換器23をさらに備えている点において、
図15に示す圧縮機3bと異なる。
【0197】
冷媒供給路22は、バッファ室35hと加圧ポンプ19とに接続された流路である。熱交換器23は、バッファ室35hと加圧ポンプ19との間において冷媒供給路22に設けられている。
【0198】
供給タンク20の液相冷媒の温度は、例えば35℃である。熱交換器23の流入温度は、例えば35℃であり、流出温度は、例えば30℃である。
【0199】
以上のように、液相冷媒は、冷媒供給路22に設けられた熱交換器23により冷却されるため、主流路21には過冷却状態となった液相冷媒が供給されて液相冷媒は主流路21の内部で蒸発しにくい。これにより、特に高負荷運転条件で圧縮機3cの回転数が上がり、モータ16の排熱量が多い場合においても、蒸気による流路閉塞を抑制することが可能となる。
【0200】
熱交換器23の構造は特に限定されない。熱交換器23として、フィンチューブ熱交換器、プレート式熱交換器、二重管式熱交換器などが使用されうる。熱交換器23において液相冷媒を熱交換して液相冷媒を冷却するべき外部熱源も特に限定されない。外部熱源として、空気、冷却水などが使用されうる。
【0201】
(実施形態2)
図17は、本開示の実施形態2に係る冷凍サイクル装置の構成図である。実施形態1と他の実施形態との間の共通する要素には同じ参照符号を付し、それらの説明を省略することがある。各実施形態に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、相互に適用されうる。技術的に矛盾しない限り、各実施形態は、相互に組み合わされてもよい。
【0202】
図17に示すように、実施形態2に係る冷凍サイクル装置102において、冷媒供給路11は、凝縮器4と圧縮機3とを接続している。圧縮機3において、主流路21及び噴射流路24を通じて冷媒流路40に噴射される液相冷媒は、凝縮器4に貯留された液相冷媒である。本変形例においても、実施形態1で説明したメカニズムによって、圧縮動力を低減する効果が得られる。つまり、圧縮機3の内部の主流路21に供給されるべき液相冷媒は、蒸発器2に貯留された液相冷媒に限定されない。冷媒回路10に存在する限り、液相冷媒は、主流路21に供給されうる。例えば、蒸発器2又は凝縮器4に接続されて液相冷媒を貯留するバッファタンクが存在するとき、そのバッファタンクから主流路21に液相冷媒が供給されるように、冷媒供給路11は、そのバッファタンクと圧縮機3とを接続していてもよい。さらに、冷媒供給路11は、戻し経路9から分岐していてもよい。言い換えれば、戻し経路9が冷媒供給路11の一部を兼ねていてもよい。この場合、冷媒供給路11は、凝縮器4から主流路21へと液相冷媒を導く。
【0203】
本変形例によれば、圧縮機3には、圧縮機3に吸入される気相冷媒の温度(飽和温度)よりも高い温度の液相冷媒が吸入される。この場合、気相冷媒が冷却されすぎて圧縮機3の内部で凝縮することを防止しつつ、実施形態1で説明したメカニズムによって、圧縮動力を低減する効果が得られる。
【0204】
冷凍サイクル装置102は、液相冷媒を貯留する予備タンクを備えていてもよい。予備タンクは、例えば、凝縮器4に接続されている。予備タンクには、凝縮器4から液相冷媒が移される。冷媒供給路11は、予備タンクから圧縮機3に液相冷媒が供給されるように、予備タンクと圧縮機3とを接続する。
【0205】
圧縮機3に代えて、上記した他の圧縮機3a,3b,3c,50,60,70及び90も使用可能である。
【0206】
(実施形態3)
図18は、本開示の実施形態3に係る冷凍サイクル装置の構成図である。
図18に示すように、冷凍サイクル装置104は、凝縮器4の代替として、エジェクタ53、バッファタンク52及び熱交換器23を備えている。
【0207】
以上のように構成された冷凍サイクル装置104について、以下その動作、作用を説明する。
【0208】
圧縮機3で圧縮され、吐出された気相冷媒はエジェクタ53に吸入される。また、バッファタンク52には液相冷媒が貯留されており、バッファタンク52内の液相冷媒は、熱交換器23で熱を放熱しエジェクタ53に供給される。エジェクタ53内では、圧縮機3より受け取った気相冷媒と熱交換器23より受け取った液相冷媒とが混合される。冷媒は、二相状態で圧縮され、高温の液相冷媒又は気液二相冷媒としてバッファタンク52に供給される。つまり、エジェクタ53内で、二相状態で昇圧されることにより、気相冷媒は凝縮する。液相冷媒は、熱交換器23で放熱する。これにより、エジェクタ53、バッファタンク52及び熱交換器23が凝縮器4の代替として機能することとなる。バッファタンク52の液相冷媒の温度は、例えば38.5℃である。熱交換器23の流入温度は、例えば38.5℃であり、流出温度は、例えば33.5℃である。
【0209】
バッファタンク52内の液相冷媒は、加圧ポンプ19で熱交換器23に圧送される。加圧ポンプ19の吐出側の液相冷媒の流路は二手に分岐している。一方は熱交換器23へ、もう一方は圧縮機3のバッファ室35hへ連通している。つまり、加圧ポンプ19の吐出側の液相冷媒の流路の分岐点とバッファ室35hとを連通した流路は、冷媒供給路22である。加圧ポンプ19の供給圧力は、例えば250kPa程度である。
【0210】
以上のように、液相冷媒は、高速回転する回転体27の内部の噴射流路24で遠心加圧され、冷媒流路40に噴射されるため、過熱状態の気相冷媒が連続的に冷却される。液相冷媒は、冷媒供給路22を通過する際に加圧ポンプ19で加圧され、液相冷媒の圧力が上昇して沸点が上がることから主流路21の内部で蒸発しにくく、蒸気による流路閉塞を抑制することが可能となる。
【0211】
(実施形態4)
図19は、本開示の実施形態4に係る冷凍サイクル装置の構成図である。
図19に示すように、冷凍サイクル装置106は、凝縮器4の代替として、エジェクタ53、バッファタンク52及び熱交換器23を備えている。
【0212】
以上のように構成された冷凍サイクル装置106について、以下その動作、作用を説明する。
【0213】
バッファタンク52内の液相冷媒は、加圧ポンプ19で熱交換器23に圧送されて、熱交換器23で熱を放熱しエジェクタ53に供給される。熱交換器23の流出側の液相冷媒の流路は二手に分岐している。一方はエジェクタ53へ、もう一方は圧縮機3のバッファ室35hへ連通している。つまり、熱交換器23の流出側の液相冷媒の流路の分岐点とバッファ室35hとを連通した流路は、冷媒供給路22である。バッファタンク52の液相冷媒の温度は、例えば38.5℃である。熱交換器23の流入温度は、例えば38.5℃であり、流出温度は、例えば33.5℃である。
【0214】
以上のように、液相冷媒は、冷媒供給路22に設けられた熱交換器23により冷却されるため、主流路21には過冷却状態となった液相冷媒が供給されて液相冷媒は主流路21の内部で蒸発しにくい。これにより、特に高負荷運転条件で圧縮機3の回転数が上がり、モータ16の排熱量が多い場合においても、蒸気による流路閉塞を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本明細書に開示された冷凍サイクル装置は、空気調和装置、チラー、蓄熱装置などに有用である。空気調和装置は、例えば、ビルのセントラル空調に使用される。チラーは、例えば、プロセス冷却の用途で使用される。
【符号の説明】
【0216】
2 蒸発器
3,3a,3b,3c,50,60,70,90 圧縮機
4 凝縮器
6 吸入配管
8 吐出配管
9 戻し経路
10 冷媒回路
11,22 冷媒供給路
12 吸熱回路
14 放熱回路
16 モータ
18 軸受
19 加圧ポンプ
20 供給タンク
21 主流路
21a 流入口
23 熱交換器
24 噴射流路(第1噴射流路)
24b,32b,74b 流出口
25,45 回転軸
25c 端面
26 インペラ(第1インペラ)
26t 上面
27,47,77 回転体
28 接続口
29 シール
30,33 ハブ
30p ハブの表面
31 ブレード
31t ブレードの上流端
32 下流側噴射流路
35 ハウジング
35h バッファ室
36,76 吸入流路
37 シュラウド
38,78 翼間流路
40,80 冷媒流路
41 ディフューザ(第1ディフューザ)
42 渦巻室
51 第2ディフューザ
52 バッファタンク
53 エジェクタ
71 第2インペラ
74 第2噴射流路
79 リターンチャンネル
100,102,104,106 冷凍サイクル装置
241 第1部分
241a 半径方向部分
241b 溝
242 第2部分
311 第1ブレード
312 第2ブレード