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特許7187297給水栓、圃場水位管理装置及び圃場管理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】給水栓、圃場水位管理装置及び圃場管理装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20221205BHJP
   A01G 27/00 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
A01G25/00 501D
A01G27/00 504B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018240993
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020099287
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】平尾 和弘
(72)【発明者】
【氏名】谷川 伸一
(72)【発明者】
【氏名】四元 友治
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-192367(JP,A)
【文献】特開2016-106600(JP,A)
【文献】特開2017-108657(JP,A)
【文献】特開2017-192368(JP,A)
【文献】特開平08-070716(JP,A)
【文献】特開平06-315326(JP,A)
【文献】特開平10-178941(JP,A)
【文献】特開2016-054708(JP,A)
【文献】特開2018-054054(JP,A)
【文献】特開平06-280243(JP,A)
【文献】特開平09-291521(JP,A)
【文献】特開2005-245462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00
A01G 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座と弁体との間にシール部材を備えた弁機構と、前記弁座と前記弁体の相対位置を調整するアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する給水制御部と、前記給水制御部と圃場を管理する外部装置とを接続する無線通信部と、前記アクチュエータと前記給水制御部と前記無線通信部に給電する蓄電池と、を備えて構成され、導水路を介して用水を圃場に導く給水栓であって、
前記給水制御部は、前記無線通信部を介して前記外部装置からの給水指示に基づいて前記弁機構を制御可能に構成され、
前記給水制御部は、湛水時に圃場水位が目標水位に達するまでの給水状態において、前記弁座と前記弁体の相対位置を開弁状態となる位置に設定し、圃場水位が目標水位に達した後の前記弁座と前記弁体の相対位置を、前記弁体を所定圧力で前記弁座に押圧して前記シール部材を圧縮して完全に止水する落水時の止水相対位置とは異なり、前記所定圧力より低い圧力で前記シール部材を圧縮し、または、前記シール部材を圧縮することがなく僅かに水の漏洩を許容する保水相対位置に設定するように構成されている給水栓。
【請求項2】
前記給水制御部は、詰まりによる障害を検出する機構を備えることなく、前記弁座と前記弁体の相対位置を前記保水相対位置に調整した後に、一時的に前記弁機構を開放側に調整した後に再度前記保水相対位置に調整する詰り開放制御を行なうように構成されている請求項1記載の給水栓。
【請求項3】
前記給水制御部は、前記弁座と前記弁体の相対位置を前記保水相対位置に調整した後に、圃場の水位が前記目標水位を上昇したことを検出すると、前記弁座と前記弁体の相対位置を前記保水相対位置よりも近くなる第2の保水相対位置に調整する請求項1または2記載の給水栓。
【請求項4】
前記保水相対位置は、前記無線通信部を介して前記外部装置から設定可能に構成され、前記弁座と前記弁体の相対位置が、前記給水栓が設置された圃場の減水深に相当する水量未満の漏洩量となる位置に設定されている請求項1からの何れかに記載の給水栓。
【請求項5】
前記保水相対位置は、前記無線通信部を介して前記外部装置から設定可能に構成され、前記弁座と前記弁体の相対位置が季節または作物の育成段階に応じた減水深に相当する水量未満の漏洩量となる位置に設定されている請求項記載の給水栓。
【請求項6】
前記保水相対位置は、前記無線通信部を介して前記外部装置から設定可能に構成され、前記弁座と前記弁体の相対位置が圃場の広さ、圃場を構成する土質や畦の状態を含む圃場の保水特性に対応した減水深に相当する水量未満の漏洩量となる位置に設定されている請求項記載の給水栓。
【請求項7】
請求項1からの何れかに記載の給水栓と、田面からの上下高さを調節可能な排水水位調節部を備え圃場の貯水水位を調整する排水栓と、を備えた圃場水位管理装置。
【請求項8】
請求項1からの何れかに記載の給水栓と、圃場の貯水水位を調節する排水栓と、を備え、
前記排水栓は、圃場の田面からの上下高さを調節可能な排水水位調節部と、駆動機構を介して前記排水水位調節部の上下高さを自動調整する水位制御部と、前記水位制御部と前記外部装置とを接続する無線通信部と、を備えて構成され、
前記水位制御部は、排水水位が前記外部装置から指示された目標水位になるように、前記排水水位調節部を制御するように構成され、
前記外部装置の指示に基づいて、前記給水制御部が前記弁座と前記弁体の相対位置を前記保水相対位置に調整した後に、前記水位制御部は、前記外部装置の指示に基づいて、前記目標水位より高い位置に前記排水水位調節部の上下高さを調整するように構成されている圃場管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給水栓、圃場水位管理装置及び圃場管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圃場への給水または圃場からの排水を制御するための変位機構を作動させる圃場用電動アクチュエータを備えた給水栓や排水栓が開示されている。これらの給水栓や排水栓を用いることにより、圃場への給水や圃場からの排水をクラウドサーバなどを介して遠隔制御することが可能になる。
【0003】
そのために、圃場には水位センサが設けられ、水位センサにより検出された水位に基づいて給水栓や排水栓が制御される。
【0004】
上述した給水栓は、弁座と弁体との間にシール部材を備えた弁機構と、弁座と弁体の相対位置を調整するアクチュエータと、アクチュエータを制御する給水制御部と、を備えて構成されている。
【0005】
そして、水位センサにより圃場水位が所定水位に達したことが検知されると、給水管内の用水が給水栓から圃場に洩れ出すことがないように、アクチュエータを駆動して弁体に設けたシール部材を弁座に所定の押圧力で押し付ける止水状態に保持されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-193914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、圃場に湛水が必要な場合には、減水深などの影響で水位が低下する度に止水状態にある弁機構を開放して圃場に導水し、所定水位に達すると再度アクチュエータを駆動して止水状態に保持する動作が繰り返されるため、シール部材やアクチュエータの劣化が進み耐用年数が短くなるという問題があった。
【0008】
また、アクチュエータとして用いられるモータの駆動用電源としてソーラーパネルによる充電機構を備えた蓄電池が用いられるため、頻繁に弁機構の開放と閉止を繰り返すと蓄電池が消耗するという問題もあった。
【0009】
特に、止水のために弁体に設けたシール部材を弁座に押し付ける際にモータにかかる大きな反力に抗してモータを駆動する際に大きな電流が流れて蓄電池の消耗が激しくなる。
【0010】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、弁機構を構成するシール部材やアクチュエータの劣化を抑制できる給水栓、圃場水位管理装置及び圃場管理装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明による給水栓の第一の特徴構成は、弁座と弁体との間にシール部材を備えた弁機構と、前記弁座と前記弁体の相対位置を調整するアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する給水制御部と、前記給水制御部と圃場を管理する外部装置とを接続する無線通信部と、前記アクチュエータと前記給水制御部と前記無線通信部に給電する蓄電池と、を備えて構成され、導水路を介して用水を圃場に導く給水栓であって、前記給水制御部は、前記無線通信部を介して前記外部装置からの給水指示に基づいて前記弁機構を制御可能に構成され、前記給水制御部は、湛水時に圃場水位が目標水位に達するまでの給水状態において、前記弁座と前記弁体の相対位置を開弁状態となる位置に設定し、圃場水位が目標水位に達した後の前記弁座と前記弁体の相対位置を、前記弁体を所定圧力で前記弁座に押圧して前記シール部材を圧縮して完全に止水する落水時の止水相対位置とは異なり、前記所定圧力より低い圧力で前記シール部材を圧縮し、または、前記シール部材を圧縮することがなく僅かに水の漏洩を許容する保水相対位置に設定するように構成されている点にある。
【0012】
給水制御部は、圃場から用水を抜く落水時には、給水管内の用水が給水栓から圃場に洩れ出すことがないように、弁座と弁体の相対位置を止水相対位置に設定し、弁体を所定圧力で弁座に押圧して弁体と弁座に挟まれたシール部材を圧縮させることで生じる大きな弾性復帰力により止水力を高める。
【0013】
一方、圃場を湛水する場合には、弁座と弁体の相対位置を開弁状態に設定して給水して圃場水位が目標水位に達した後に、弁座と弁体の相対位置を止水相対位置とは異なる保水相対位置、例えば止水相対位置での圧力よりも低い圧力で弁体を弁座に押圧して弁体と弁座に挟まれたシール部材を僅かに圧縮させ、或いは、シール部材が圧縮されることがなく僅かに水の漏洩を許容するような相対位置に設定する。
【0014】
湛水時の止水のために弁座と弁体の相対位置を保水相対位置に設定すると、用水が圃場に漏洩するような場合でも、用水が圃場から溢流するようなことがなく、また圃場の減水深などの影響で水位が低下して弁機構の開閉を繰り返す必要がある場合でも、シール部材などに繰返し大きな押圧力が付与されるようなことがないため、シール部材などの劣化を抑制することができる。
【0015】
さらに、無線通信部を備えて給水制御部と外部装置とを通信可能に接続することにより、例えば外部装置によって各圃場の状態が遠隔地で把握できるようになり、例えば外部装置を介して圃場の給水を遠隔で制御することができるようになる。そして、給水制御部と無線通信部を作動させるための電源を供給する蓄電池を備えると、商用電源設備から離れた圃場でも安価な設備コストで給水栓を構築することができる。しかも上述の給水制御部による保水相対位置の設定により、圃場の減水深などの影響による水位の低下に対応して弁機構の開閉を繰り返すような蓄電池の消耗を抑制することができるようになる。
【0016】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記給水制御部は、詰まりによる障害を検出する機構を備えることなく、前記弁座と前記弁体の相対位置を前記保水相対位置に調整した後に、一時的に前記弁機構を開放側に調整した後に再度前記保水相対位置に調整する詰り開放制御を行なうように構成されている点にある。
【0017】
弁座と弁体の相対位置を保水相対位置に調整し、例えばシール部材と弁座の間に隙間が形成されると、漏洩水とともに夾雑物が隙間に流入して周囲に堆積し、弁機構に詰りが生じる虞がある。そのような場合に、給水制御部は、一時的に弁機構を開放側に調整した後に再度保水相対位置に調整することで、詰まりによる障害を検出する機構を備えなくても、未然に弁機構の詰りを解消することができるようになる。
【0018】
同第三の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記給水制御部は、前記弁座と前記弁体の相対位置を前記保水相対位置に調整した後に、圃場の水位が前記目標水位を上昇したことを検出すると、前記弁座と前記弁体の相対位置を前記保水相対位置よりも近くなる第2の保水相対位置に調整する点にある。
【0019】
圃場の水位が目標水位に達して弁機構を保水相対位置に設定した後に、弁機構からの漏洩水量が多く圃場から溢流する虞がある場合でも、給水制御部は、圃場の水位が目標水位を上昇したことを検出すると弁座と弁体の相対位置を保水相対位置よりも近くなる第2の保水相対位置に調整することにより、無駄な給水を回避することができるようになる。
【0020】
同第四の特徴構成は、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、前記保水相対位置は、前記無線通信部を介して前記外部装置から設定可能に構成され、前記弁座と前記弁体の相対位置が、前記給水栓が設置された圃場の減水深に相当する水量未満の漏洩量となる位置に設定されている点にある。
【0021】
保水相対位置として、弁機構から用水が圃場に漏洩するような弁座と弁体の相対位置に設定するような場合でも、漏洩水量が圃場の減水深に相当する水量未満の給水量であれば、用水が圃場から無駄に溢流するようなことがない。また、圃場水位の低下が遅くなり、弁の開閉頻度を少なくすることができる。圃場毎の減水深に相当する水量未満の給水量となる保水相対位置は、外部装置から無線通信部を介して設定可能となる。
【0022】
同第の特徴構成は、上述の第の特徴構成に加えて、前記保水相対位置は、前記無線通信部を介して前記外部装置から設定可能に構成され、前記弁座と前記弁体の相対位置が季節または作物の育成段階に応じた減水深に相当する水量未満の漏洩量となる位置に設定されている点にある。
【0023】
保水相対位置は常時一定である必要はなく、季節または作物の育成段階により異なる位置に設定してもよい。例えば、田面からの蒸発量や圃場で栽培される作物の育成状態によって蒸散量が変動するなど、減水深など季節または作物の育成段階により変動する要因による影響を加味することで、シール部材などの劣化の進行を遅らせながらも無駄な給水を回避することができる。
【0024】
同第の特徴構成は、上述の第の特徴構成に加えて、前記保水相対位置は、前記無線通信部を介して前記外部装置から設定可能に構成され、前記弁座と前記弁体の相対位置が圃場の広さ、圃場を構成する土質や畦の状態を含む圃場の保水特性に対応した減水深に相当する水量未満の漏洩量となる位置に設定されている点にある。
【0025】
圃場の保水特性は、圃場の広さ、圃場を構成する土質や畦の状態など圃場特性により変動するため、保水相対位置をこれらの圃場特性に対応した位置に設定することにより、個々の圃場毎にシール部材などの劣化の進行を遅らせながらも無駄な給水を回避することができる。
【0026】
本発明による圃場水位管理装置の第一の特徴構成は、上述した第一から第の何れかの特徴構成を備えた給水栓と、田面からの上下高さを調節可能な排水水位調節部を備え圃場の貯水水位を調整する排水栓と、を備えた点にある。
【0027】
圃場水位管理装置を構成する給水栓から圃場に給水された用水が、同じく圃場水位管理装置を構成する排水栓に備えた排水水位調節部により調整された貯水水位まで貯水されるようになる。
【0028】
本発明による圃場管理装置の第一の特徴構成は、上述した第一から第の何れかの特徴構成を備えた給水栓と、圃場の貯水水位を調節する排水栓と、を備え、前記排水栓は、圃場の田面からの上下高さを調節可能な排水水位調節部と、駆動機構を介して前記排水水位調節部の上下高さを自動調整する水位制御部と、前記水位制御部と前記外部装置とを接続する無線通信部と、を備えて構成され、前記水位制御部は、排水水位が前記外部装置から指示された目標水位になるように、前記排水水位調節部を制御するように構成され、前記外部装置の指示に基づいて、前記給水制御部が前記弁座と前記弁体の相対位置を前記保水相対位置に調整した後に、前記水位制御部は、前記外部装置の指示に基づいて、前記目標水位より高い位置に前記排水水位調節部の上下高さを調整するように構成されている点にある。
【0029】
水位制御部により排水水位調節部が貯水水位に調整されて、給水栓から圃場に用水が給水される。圃場の貯水水位が目標水位に達して給水栓の弁座と弁体の相対位置が保水相対位置に調整された後に、水位制御部により排水水位調節部が目標水位より高い位置に調整されることにより、保水相対位置に調整された弁機構からの漏水が想定より多い場合に水位の上昇を計測することができるようになる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明した通り、本発明によれば、弁機構を構成するシール部材やアクチュエータの劣化を抑制できる給水栓、圃場水位管理装置及び圃場管理装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】圃場及び圃場の水管理システムの説明図
図2】給水栓の説明図
図3】(a)は止水相対位置にある弁機構の説明図、(b)は保水相対位置にある弁機構の説明図、(c)は開弁状態にある弁機構の説明図
図4】(a)は排水栓の側面視の説明図、(b)は排水制御機構の説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、排水栓及び給水栓を備えた圃場管理装置及び圃場管理方法を説明する。
[圃場の水管理システムの構成]
図1に示すように、稲作が行なわれている各圃場1には、給水管10に流れる用水を、導水路11を介して圃場1に導く給水栓12と、放水路21を介して圃場1の水を排水路20に排水する排水栓22が設けられ、圃場1の近傍にはインターネット30との接続を中継するLoRa無線などの中継器32が設置されている。さらに、排水栓22には圃場1の水位を計測する静電容量式の水位センサ2が設けられている。
【0033】
各給水栓12及び排水栓22がインターネット30を介して圃場管理サーバであるクラウドサーバ34と接続可能に構成され、圃場1の管理者が所有するスマートフォンなどの携帯端末36がインターネット30を介してクラウドサーバ34と接続可能に構成されている。即ち、各給水栓12及び排水栓22、携帯端末36、クラウドサーバ34と、それらを通信可能に接続するインターネット30により圃場の水管理システム100が構成されている。
【0034】
稲作を例に説明すると、稲作の各工程、例えば、代掻き、田植え、活着期、分げつ期(前期、後期)、幼穂形成期~出穂開花期、登熟期など、各時期に応じて圃場の貯水水位を調整する必要がある。
【0035】
[給水栓の構成]
以下、給水栓12について詳述する。
図2に示すように、給水栓12は、圃場に設けられた給水桝101に収容される給水機構12Aと、給水機構12Aの上面に着脱自在に取り付けられ、給水機構12Aを制御して給水または止水の何れかに切り替える給水制御機構12Bを備えている。
【0036】
給水機構12Aは、円筒状の弁箱120と、弁箱120の上下方向中央部に内周側に突出形成された弁座121と、弁座121に対向配置され、下面にゴム製のシール部材123が取り付けられた円盤状の弁体124を備えている。弁箱120の下端が給水管10から分岐した導水路11に接続されている。
【0037】
弁箱120の上端部には、内周面に雌ネジが形成された軸受126が取り付けられ、軸受126には外周面に雄ネジが形成された弁軸125が螺合されている。そして弁軸125の下端が弁体124に回転可能に固定されている。
【0038】
弁座121の中央部には通水孔122が形成され、弁箱120の側壁上部には、複数の出水窓127が周方向に並ぶように形成されている。弁軸125に回転力が付与されると、軸受126に沿って弁軸125が上下移動し、弁軸125の上下移動に伴って弁体124が上下する。即ち、弁座121と弁体124と弁座121と弁体124との間に設けられたシール部材123などで弁機構が構成されている。
【0039】
給水制御機構12Bは、ケーシング131と、ケーシング131の天面に太陽を臨むように傾斜姿勢で取り付けられたソーラーパネル132と、ケーシング131に収容された駆動機構140と、蓄電池133と、アンテナ134と、制御盤135などを備えて構成されている。制御盤135には、給水制御部として機能する弁の開閉制御部136と無線通信部137などが組み込まれている。
【0040】
開閉制御部136及び無線通信部137はCPU、メモリ、入出力回路や通信回路などの周辺回路を備えて構成され、メモリに格納された制御プログラムがCPUで実行されることにより所定の機能、ここでは給水機構12Aに備えた弁機構に対する開閉制御機能が実現される。
【0041】
開閉制御部136は、無線通信部137を介してクラウドサーバ34から給水指示されると予め設定された弁開度まで開弁するべく駆動機構140を介して駆動機構を制御する。
【0042】
ソーラーパネル132による発電電力が蓄電池133に充電され、蓄電池133の充電電力が開閉制御部136及び無線通信部137の制御電力として消費される。
【0043】
駆動機構140は、エンコーダが内蔵されたDCモータ141と、DCモータ141の出力軸に設けられたギア142と噛合する中空のメインギア143と、メインギア143の中空部に挿通された駆動軸146などを備えて構成され、弁体124を昇降駆動するアクチュエータとして機能する。
【0044】
メインギア143は、上下方向に延びる円筒状のボス部144と、ボス部144の上下方向中央部に延出形成された円盤状のギア部145とを備えた両ボス型のギアで、ボス部144の上下が軸受で回転可能に支持されている。ボス部144の内周面に形成されたキー溝に駆動軸146の外周面に突出形成されたキーが勘合して、メインギア143と駆動軸146とが一体回転するように構成されている。
【0045】
駆動軸146の下端と弁軸125の上端がカップリング147を介して駆動連結され、DCモータ141が一方向に回転駆動すると弁体124が上昇して給水状態となり(図3(c)参照。)、DCモータ141が反対方向に回転駆動すると弁体124が降下して止水状態になる(図3(a)参照。)。
【0046】
給水制御部(開閉制御部136)は、湛水時には圃場水位が目標水位に達した後の弁座121と弁体124の相対位置を、落水時に止水する止水相対位置とは異なる保水相対位置に設定するように構成されている。
【0047】
図3(a)に示すように、開閉制御部136は、圃場から用水を抜く落水時には、給水管内の用水が給水栓から圃場に洩れ出すことがないように、弁座121と弁体124の相対位置を止水相対位置に設定し、弁体124を所定圧力で弁座121に押圧して弁体124と弁座121に挟まれたシール部材123を圧縮させることで生じる大きな弾性復帰力により止水力を高める。
【0048】
一方、圃場を湛水する場合には、図3(b)に示すように、圃場水位が目標水位に達した後に、弁座121と弁体124の相対位置を止水相対位置とは異なる保水相対位置、例えば止水相対位置での圧力よりも低い圧力で弁体124を弁座121に押圧して弁体124と弁座121に挟まれたシール部材123を僅かに圧縮させ、或いは、シール部材123が圧縮されることがなく僅かに水の漏洩を許容するような相対位置に設定する。
【0049】
湛水時の止水のために弁座124と弁体121の相対位置を保水相対位置に設定すると、用水が圃場に漏洩するような場合でも、用水が圃場から溢流するようなことがなく、また圃場の減水深などの影響で水位が低下して弁機構の開閉を繰り返す必要がある場合でも、シール部材123などに繰返し大きな押圧力が付与されるようなことがないため、シール部材123などの劣化を抑制することができる。
【0050】
保水相対位置は減水深に相当する水量未満の給水を許容する相対位置に設定されていることが好ましく、保水相対位置として、弁機構から用水が僅かに圃場に漏洩するような弁座121と弁体124の相対位置に設定するような場合でも、漏洩水量が圃場の減水深に相当する水量未満の給水量であれば、用水が圃場から無駄に溢流するようなことがない。
【0051】
開閉制御部136は、落水時の閉栓、つまり止水相対位置に制御するため、DCモータに備えたエンコーダの出力に基づいて弁座121と弁体124の相対位置を制御する。シール部材123を漏水が生じない所定圧力で押圧したときの位置を基準位置として予めメモリに記憶しておき、開弁時にカウントしたエンコーダのパルス数を閉栓時にカウントダウンしてカウントして基準位置を示す零になるまで駆動することにより止水相対位置に制御することができる。
【0052】
また、電流センサによりDCモータの電流値をモニタし、閉栓時に電流値が所定の値を示したときに止水相対位置と判断することも可能である。閉栓時にシール部材123が押圧されることによりDCモータの駆動トルクが上昇し、それに伴って電流値が上昇する現象を利用するのである。止水相対位置に制御する際にDCモータの電流値を指標にして駆動トルクが止水相対位置に対応するトルクに達したか否かを判断する場合には、同様に保水相対位置に制御する際にDCモータの電流値を指標にして駆動トルクが止水相対位置に対応するトルクより低い保水相対位置に対応するトルクに達したか否かを判断することも可能である。
【0053】
さらに、開閉制御部136は、湛水時の閉栓、つまり保水相対位置に制御するため、エンコーダの出力に基づいて弁座121と弁体124の相対位置を制御する。止水相対位置に対応するエンコーダのパルス数である零に所定のオフセット値を設定し、止水相対位置に到る前に停止すればよい。また、DCモータの電流値をモニタし、止水相対位置に対応する電流値よりも所定値だけ低い値に上昇したときにDCモータを停止すればよい。このようにして、湛水時の閉栓を保水相対位置に制御することにより、シール部材123や駆動機構140の経年劣化の程度を緩和するとともに、蓄電池133の消耗を抑制することができる。
【0054】
保水相対位置は常時一定である必要はなく、季節または作物の育成段階により異なる位置に設定してもよい。例えば、田面からの蒸発量や圃場で栽培される作物の育成状態によって蒸散量が変動するなど、減水深など季節により変動する要因による影響を加味することで、シール部材などの劣化の進行を遅らせながらも無駄な給水を回避することができる。つまり、保水相対位置は季節により異なる位置に設定されていることが好ましい。
【0055】
さらに、保水相対位置は圃場特性に対応した位置に設定されていればよい。圃場の保水特性は、圃場の広さ、圃場を構成する土質や畦の状態など圃場特性により変動するため、保水相対位置をこれらの圃場特性に対応した位置に設定することにより、個々の圃場毎にシール部材123などの劣化の進行を遅らせながらも無駄な給水を回避することができる。
【0056】
また、開閉制御部136は、弁座121と弁体124の相対位置を保水相対位置に調整した後に、一時的に弁機構を開放側に調整した後に再度前記保水相対位置に調整する詰り開放制御を行なうように構成されている。
【0057】
弁座121と弁体124の相対位置を保水相対位置に調整し、例えばシール部材123と弁座121の間に隙間が形成されると、漏洩水とともに夾雑物が隙間に流入して周囲に堆積し、弁機構に詰りが生じる虞がある。そのような場合に、開閉制御部136は、一時的に弁機構を開放側に調整した後に再度保水相対位置に調整することで、弁機構の詰りを解消することができるようになる。
【0058】
開閉制御部136は、弁座121と弁体124の相対位置を保水相対位置に調整した後に、圃場の水位が目標水位を上昇したことを検出すると、弁座121と弁体124の相対位置を上述の保水相対位置よりも近くなる第2の保水相対位置に調整することが好ましい。
【0059】
圃場の水位が目標水位に達して弁機構を保水相対位置に設定した後に、弁機構からの漏洩水量が多く圃場から溢流する虞がある場合でも、開閉制御部136は、圃場の水位が目標水位を上昇したことを検出すると弁座121と弁体124の相対位置を保水相対位置よりも近くなる第2の保水相対位置に調整することにより、無駄な給水を回避することができるようになる。
【0060】
[排水栓の構成]
以下、圃場の貯水水位を調節する排水栓22について詳述する。
図4(a),(b)に示すように、排水栓22は、圃場に設けられた排水桝201に収容される排水機構22Aと、排水桝201の上面に着脱自在に取り付けられ、排水機構22Aを制御して排水水位(貯水水位)を調整する排水制御機構22Bを備えている。
【0061】
排水機構22Aは、排水桝201の底部に設置された受枠部材211と、受枠部材211によって上下移動可能に支持される円筒状の排水筒である堰体212と、堰体212を上下移動する昇降機構220を備えている。堰体212の上端開口が排水口212aとして機能し、圃場1に給水された余剰の用水が当該排水口212aから溢流して放水路21に流出する。
【0062】
堰体212の上端開口に側面視コの字状の支持部213が固定され、当該支持部213に昇降機構220が取り付けられている。昇降機構220は、支持部213の上面に固定され、内周面に雌ネジが形成された円筒状の可動部221と、外周面に雄ネジが形成され、可動部221の雌ネジと螺合する回転軸222と、可動部221が回転軸222と連れ回りすることを防止する一対の棒状体223を備えている。
【0063】
つまり、回転軸222が一方向に回転することにより、支持部213を介して可動部221に取付けられた堰体212が可動部221とともに上昇し、回転軸222が反対方向に回転することにより、支持部213を介して可動部221に取付けられた堰体212が可動部221とともに降下する。上述した堰体212と昇降機構220によって排水水位調節部210が構成されている。
【0064】
排水制御機構22Bは、排水桝201の上面に台座202を介して着脱自在に取り付けられた水密性のケーシング231と、ケーシング231の天面に太陽を臨むように傾斜姿勢で取り付けられたソーラーパネル232と、ケーシング231に収容された駆動機構240と、蓄電池233と、アンテナ234と、制御盤235などを備えて構成されている。制御盤235には、水位制御部236と無線通信部237などが組み込まれている。
【0065】
水位制御部236及び無線通信部237はCPU、メモリ、入出力回路や通信回路などの周辺回路を備えて構成され、メモリに格納された制御プログラムがCPUで実行されることにより所定の機能、ここでは排水水位調節部210に対する制御機能が実現される。
【0066】
水位制御部236は、無線通信部237を介してクラウドサーバ34から指示された排水水位となるように駆動機構240を介して排水水位調節部210を制御し、後述の水位センサ2を介して圃場の水位を計測し無線通信部237を介してクラウドサーバ34に計測水位を報告する。
【0067】
ソーラーパネル232による発電電力が蓄電池233に充電され、蓄電池233の充電電力が水位制御部236及び無線通信部237の制御電力として消費される。
【0068】
駆動機構240は、エンコーダが内蔵されたDCモータ241と、DCモータ241の出力軸に設けられたギア242と噛合する中空のメインギア243と、メインギア243の中空部に挿通された駆動軸246などを備えて構成され、排水水位調節部210を昇降駆動するアクチュエータとして機能する。
【0069】
メインギア243は、上下方向に延びる円筒状のボス部244と、ボス部244の上下方向中央部に延出形成された円盤状のギア部245とを備えた両ボス型のギアで、ボス部244の上下が軸受で回転可能に支持されている。ボス部244の内周面に形成されたキー溝に駆動軸246の外周面に突出形成されたキー246kが勘合して、メインギア243と駆動軸246とが一体回転するように構成されている。
【0070】
駆動軸246の下端と回転軸222の上端がカップリング247(図2(a)参照。)を介して駆動連結され、DCモータ241が一方向に回転駆動すると堰体212が上昇して排水水位(貯水水位)が上昇し、DCモータ241が反対方向に回転駆動すると堰体212が降下して排水水位(貯水水位)が下降する。
【0071】
堰体212の上端開口位置が田面レベルとなる位置を基準位置に設定し、DCモータ241の駆動時に検出されるエンコーダのパルス数に基づいて、堰体212の上端開口位置を管理することにより、堰体212の上端開口位置を所望の高さに制御することができる。
【0072】
[圃場水位管理装置の構成]
上述した給水栓12と、田面1sからの上下高さを調節可能な排水水位調節部210を備え圃場の貯水水位を調整する排水栓22と、を備えて圃場水位管理装置が構成され、圃場水位管理装置を構成する給水栓から圃場に給水された用水が、同じく圃場水位管理装置を構成する排水栓に備えた排水水位調節部により調整された貯水水位まで貯水されるようになる。
【0073】
[圃場管理装置の構成]
上述した給水栓12と、圃場1の田面1sからの上下高さを調節可能な排水水位調節部210と、アクチュエータを介して排水水位調節部210の上下高さを自動調整する排水制御部236と、を備えた圃場管理装置を構成し、圃場1の貯水水位を調節する排水栓22と、を備え、給水制御部136が弁座121と弁体124の相対位置を保水相対位置に調整し、排水制御部236は目標水位より高い位置に排水水位調節部210の上下高さを調整するように構成することが好ましい。
【0074】
排水制御部により排水水位調節部が貯水水位に調整されて、給水栓から圃場に用水が給水される。圃場の貯水水位が目標水位に達して給水栓の弁座と弁体の相対位置が保水相対位置に調整された後に、排水水位調節部が目標水位より高い位置に調整されることにより、保水相対位置に調整された弁機構からの漏水が想定より多い場合に水位の上昇を計測することができるようになる。
【0075】
以上説明した実施形態は本発明の一例に過ぎず、該記載により本発明の技術的範囲が限定されることを意図するものではなく、排水栓、圃場の水管理方法の具体的な構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0076】
100:圃場の水管理システム
1:圃場
1s:田面
2:水位センサ
10:給水管
12:給水栓
20:排水路
22:排水栓
30:インターネット
32:中継器
34:圃場管理サーバ(外部装置)
121:弁座
123:シール部材
124:弁体
135:開閉制御部(給水制御部)
140:給水栓の駆動機構(アクチュエータ)
210:排水水位調節部
236:水位制御部
240:排水栓の駆動機構(アクチュエータ)
図1
図2
図3
図4