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特許7187299画像形成装置、画像形成方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】画像形成装置、画像形成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20221205BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20221205BHJP
   G03G 15/01 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G15/00 303
G03G15/01 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018242510
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020106591
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 健二
(72)【発明者】
【氏名】福沢 大三
【審査官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-084054(JP,A)
【文献】特開2018-180054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/00
G03G 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データに応じて形成されるトナー画像を記録材に定着する定着部と、
前記トナー画像を構成するトナーの色ごとに、前記画像データによって表される画像濃度を示す濃度値を取得し、記録材1ページ分の前記画像データに含まれる複数の領域の各領域について、前記トナーの各色についての前記濃度値の合計値を求め、前記トナーの各色に対応する前記濃度値のうち、前記濃度値が0より大きい値である濃度値の数を示す数値を求め、前記合計値及び前記数値に基づいて、前記定着部の温度を維持するための目標温度を決定する決定部と、
前記目標温度に基づき、前記定着部に供給する電力を制御する制御部と、
を備え、
前記決定部は、
前記複数の領域のうち前記合計値が最大である所定領域を決定し、前記所定領域における前記合計値及び前記数値に基づいて、前記目標温度を決定し、
前記所定領域における前記合計値が第1の値であり、かつ、前記数値が第1の数である場合、前記目標温度を第1温度と決定し、前記所定領域における前記合計値が前記第1の値であり、かつ、前記数値が前記第1の数よりも大きい第2の数である場合、前記目標温度を前記第1温度よりも低い第2温度と決定することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記トナーの各色についての前記濃度値が基準値未満である場合、前記基準値未満の前記濃度値についての前記トナーの色に対応する前記濃度値の数を前記数値に含めないことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記トナー画像を形成するための複数の画像形成ステーションを備え、
前記複数の画像形成ステーションのうちの少なくとも2つが、同一色のトナーにより前記トナー画像を形成し、
前記決定部は、前記同一色のトナーにより前記トナー画像を形成する前記複数の画像形成ステーションの数に応じて前記数値を増加して、前記目標温度を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
画像データに応じて形成されるトナー画像を定着部で記録材に定着させる画像形成方法であって、
コンピュータが、
前記トナー画像を構成するトナーの色ごとに、前記画像データによって表される画像濃度を示す濃度値を取得し、記録材1ページ分の前記画像データに含まれる複数の領域の各領域について、前記トナーの各色についての前記濃度値の合計値を求め、前記トナーの各色に対応する前記濃度値のうち、前記濃度値が0より大きい値である濃度値の数を示す数値を求め、前記複数の領域のうち前記合計値が最大である所定領域を決定し、前記所定領域における前記合計値及び前記数値に基づいて、前記定着部の温度を維持するための目標温度を決定する決定ステップと、
前記目標温度に基づき、前記定着部に供給する電力を制御する制御ステップと、
を実行し、
前記決定ステップは、前記所定領域における前記合計値が第1の値であり、かつ、前記数値が第1の数である場合、前記目標温度を第1温度と決定し、前記所定領域における前記合計値が前記第1の値であり、かつ、前記数値が前記第1の数よりも大きい第2の数である場合、前記目標温度を前記第1温度よりも低い第2温度と決定することを含むことを特徴とする画像形成方法。
【請求項5】
請求項に記載の画像形成方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザプリンタ、LEDプリンタ等のプリンタ、デジタル複写機等の電子写真方式を用いた画像形成装置、画像形成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子写真方式を用いる画像形成装置において、印字する画像データ量に応じて記録材上のトナーを加熱溶融する加熱装置の設定温度を制御する技術がある。特許文献1では、画像データを32ドット×32ドット等のエリアに区切って、全てのエリアの中で最も画像データ量が多いエリアの画像データ量と画像全体の印字率から設定温度を決定する方法が開示されている。最大画像データ量が大きい場合には設定温度を上げ、最大画像データ量が小さい場合には設定温度を下げて定着処理を行っている。このようにすることで、トナー画像に対して不必要に高い設定温度で定着することを避け、加熱装置の消費電力の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-4231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カラー画像形成装置のように複数色のトナーを記録材上に重ねて印字する場合、画像データにおける画像濃度の合計値が同じであっても、実際に記録材上に積載される未定着トナー量が異なる場合がある。したがって、画像データにおける画像濃度の合計値に応じて加熱装置の設定温度を決定すると、記録材に供給される熱量が過多となり、加熱装置が過剰に電力を消費してしまう場合がある。
【0005】
本発明は、トナーの色数に応じて加熱装置の設定温度をより適切に制御して、消費電力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の画像形成装置は、
画像データに応じて形成されるトナー画像を記録材に定着する定着部と、
前記トナー画像を構成するトナーの色ごとに、前記画像データによって表される画像濃度を示す濃度値を取得し、記録材1ページ分の前記画像データに含まれる複数の領域の各領域について、前記トナーの各色についての前記濃度値の合計値を求め、前記トナーの各色に対応する前記濃度値のうち、前記濃度値が0より大きい値である濃度値の数を示す数値を求め、前記合計値及び前記数値に基づいて、前記定着部の温度を維持するための目標温度を決定する決定部と、
前記目標温度に基づき、前記定着部に供給する電力を制御する制御部と、
を備え、
前記決定部は、
前記複数の領域のうち前記合計値が最大である所定領域を決定し、前記所定領域における前記合計値及び前記数値に基づいて、前記目標温度を決定し、
前記所定領域における前記合計値が第1の値であり、かつ、前記数値が第1の数である場合、前記目標温度を第1温度と決定し、前記所定領域における前記合計値が前記第1の値であり、かつ、前記数値が前記第1の数よりも大きい第2の数である場合、前記目標温度を前記第1温度よりも低い第2温度と決定することを特徴とする
記目的を達成するため、本発明の画像形成方法は、
複数の領域を含む画像データに応じて形成されるトナー画像を定着部で記録材に定着させる画像形成方法であって、
コンピュータが、
前記トナー画像を構成するトナーの色ごとに、前記画像データによって表される画像濃
度を示す濃度値を取得し、記録材1ページ分の前記画像データに含まれる複数の領域の各領域について、前記トナーの各色についての前記濃度値の合計値を求め、前記トナーの各色に対応する前記濃度値のうち、前記濃度値が0より大きい値である濃度値の数を示す数値を求め、前記複数の領域のうち前記合計値が最大である所定領域を決定し、前記所定領域における前記合計値及び前記数値に基づいて、前記定着部の温度を維持するための目標温度を決定する決定ステップと、
前記目標温度に基づき、前記定着部に供給する電力を制御する制御ステップと、
を実行し、
前記決定ステップは、前記所定領域における前記合計値が第1の値であり、かつ、前記数値が第1の数である場合、前記目標温度を第1温度と決定し、前記所定領域における前記合計値が前記第1の値であり、かつ、前記数値が前記第1の数よりも大きい第2の数である場合、前記目標温度を前記第1温度よりも低い第2温度と決定することを含むことを特徴とする
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トナーの色数に応じて加熱装置の設定温度をより適切に制御して、消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】実施例1に係る画像形成装置の断面図
図1B】実施例1に係る画像形成装置のハードウェア構成図
図1C】実施例1に係る制御部の機能ブロック図
図2】実施例1に係る加熱装置の断面図
図3】実施例1に係るヒータの構成を示す模式図
図4】実施例1に係る加熱装置の温度制御方法を示すフローチャート
図5】記録材の画像データを説明するための模式図
図6】階調と画像濃度の関係を示す図
図7】画像濃度値に対する合計トナー載り量の関係を示す図
図8】実施例1に係る温度制御パラメータの一例を示す図
図9】実施例1に係る画像濃度値と設定温度Tの関係を示す図
図10】比較実験を行う際の画像パターンを示す図
図11】実施例1の比較実験の結果を示す図
図12】変形例1を説明する図
図13】変形例1に係る温度制御パラメータの一例を示す図
図14】実施例2に係る画像濃度値と設定温度Tの関係を示す図
図15】実施例2に係る加熱装置の温度制御方法を示すフローチャート
図16】実施例2に係る画像濃度値とトナー載り量の関係を示す図
図17】実施例2に係る温度制御パラメータの一例を示す図
図18】実施例2に係る最大トナー載り量と設定温度Tの関係を示す図
図19】実施例2の比較実験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、それらの相対配置などは、本発明が適用される装置の構成や各種条件などにより適宜変更されるべきものであり、本発明の範囲を以下の実施形態に限定する趣旨ではない。
【0010】
<実施例1>
<画像形成装置の説明>
図1Aを用いて、本実施例に係るカラー画像形成装置(以下、画像形成装置と表記する)1の構成を説明する。図1Aは、本実施例に係る画像形成装置1の断面図である。画像形成装置1は、給紙トレイ12と、給紙ローラ13と、レジストローラ対14と、レジストレーションセンサ15とを備える。画像形成装置1は、記録材(記録媒体)11上にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色に対応するトナー画像を形成するための画像形成ステーション10Y、10M、10C、10Kから構成される画像形成部を備える。実施例1では、画像形成ステーション10Y、10M、10C、10Kは、鉛直方向と交差する方向に一列に配置されている。画像形成ステーション10Y、10M、10C、10Kの各々は、感光ドラム22Y、22M、22C、22Kと、一次帯電手段としての注入帯電器23Y、23M、23C、23Kと、露光手段としてのスキャナ部24Y、24M、24C、24Kとを有する。また、画像形成ステーション10Y、10M、10C、10Kの各々は、トナーカートリッジ25Y、25M、25C、25Kと、現像手段26Y、26M、26C、26Kと、一次転写ローラ27Y、27M、27C、27Kとを有する。画像形成装置1は、中間転写ベルト28と、二次転写ローラ29と、加熱装置(定着装置)40と、排紙ローラ対61と、制御部108と、ビデオコントローラ109とを備える。ビデオコントローラ109は、パーソナルコンピュータ等の外部装置から送信される画像データ(画像情報)及びプリント指示信号を受信する。制御部108は、ビデオコントローラ109と接続されており、ビデオコントローラ109からの指示に応じて画像形成装置1を構成する各部を制御する。
【0011】
画像形成部は、画像処理部としての制御部108によって算出された露光時間に基づいて点灯した露光光により静電潜像を形成し、この静電潜像を現像して単色トナー画像を形成する。また、画像形成部は、単色トナー画像を重ね合わせて多色トナー画像を形成し、この多色トナー画像を記録材11へ転写する。加熱装置40によって記録材11上の多色トナー画像が記録材11に定着される。
【0012】
感光ドラム22Y、22M、22C、22Kは、アルミシリンダの外周に有機光導伝層を塗布して構成されており、不図示の駆動モータの駆動力が伝達されて回転する。駆動モータは感光ドラム22Y、22M、22C、22Kを画像形成動作に応じて時計周り方向
に回転させる。注入帯電器23Y、23M、23C、23Kには、それぞれに対応するスリーブ23YS、23MS、23CS、23KSが設けられている。注入帯電器23Y、23M、23C、23Kは、感光ドラム22Y、22M、22C、22Kを帯電する。スキャナ部24Y、24M、24C、24Kから感光ドラム22Y、22M、22C、22Kに露光光が照射され、感光ドラム22Y、22M、22C、22Kの表面が選択的に露光される。これにより、感光ドラム22Y、22M、22C、22Kに静電潜像が形成される。
【0013】
現像手段26Y、26M、26C、26Kは、感光ドラム22Y、22M、22C、22Kに形成された静電潜像を可視化するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の現像を行う。現像手段26Y、26M、26C、26Kには、それぞれに対応するスリーブ26YS、26MS、26CS、26KSが設けられている。また、不図示の電源から、スリーブ26YS、26MS、26CS、26KSと、それぞれに対応する感光ドラム22Y、22M、22C、22Kとの間には現像バイアスが印加されている。画像形成時において、感光ドラム22Y、22M、22C、22Kは時計回りに回転し、現像手段26Y、26M、26C、26Kは、感光ドラム22Y、22M、22C、22K上に形成された静電潜像にトナーを供給する。これにより、外部装置から送信される画像データに応じて、感光ドラム22Y、22M、22C、22K上に各色のトナー画像(以下、多色トナー画像とも称する)が形成される。
【0014】
中間転写ベルト28は、一次転写ローラ27Y、27M、27C、27Kの押圧力により感光ドラム22Y、22M、22C、22Kに接触している。また、不図示の電源から、一次転写ローラ27Y、27M、27C、27Kと、それぞれに対応する感光ドラム22Y、22M、22C、22Kとの間には一次転写バイアスが印加されている。画像形成時において中間転写ベルト28及び一次転写ローラ27Y、27M、27C、27Kは感光ドラム22Y、22M、22C、22Kに対して従動回転し、感光ドラム22Y、22M、22C、22K上のトナー画像を中間転写ベルト28上へ一次転写する。
【0015】
給紙トレイ12に収容された記録材11は給紙ローラ13により搬送されレジストローラ対14に到達する。レジストレーションセンサ15は、記録材11の先端又は後端を検知する。画像形成時において、レジストレーションセンサ15により検知されたタイミングから、中間転写ベルト28上の多色トナー画像が二次転写ローラ29に到達するタイミングに合わせて、記録材11が搬送される。このように、適切なタイミングで、記録材11がレジストローラ対14から二次転写ローラ29に到達する。
【0016】
中間転写ベルト28は、一対の二次転写ローラ29によって挟持されている。これにより、中間転写ベルト28と二次転写ローラ29と間に、二次転写部としての二次転写ニップ部N2が形成されている。二次転写ニップ部N2では、二次転写ローラ29が中間転写ベルト28と接触して、記録材11を狭持搬送し、中間転写ベルト28上の多色トナー画像を記録材11に転写する。不図示の電源から、二次転写ローラ29と中間転写ベルト28との間には二次転写バイアスが印加されている。搬送ガイド30は二次転写ニップ部N2から加熱装置40へ記録材11を搬送するためのガイド部材である。
【0017】
加熱装置40は、記録材11を挟持搬送し、記録材11上のトナー画像を加熱溶融して、記録材11にトナー画像を定着する定着部である。加熱装置40で定着処理された記録材11は、排紙ローラ対61により画像形成装置1の外部に搬送され、排紙トレイ62に排出される。排紙トレイ62に記録材11が排出されることで画像形成動作が終了する。
【0018】
<画像形成装置のハードウェア構成>
図1Bは実施例1に係る画像形成装置1のハードウェア構成図である。画像形成装置1
は、CPU501、ROM502、RAM503、バス504、I/Oポート505、定着モータ駆動回路506、定着モータ507及び加熱装置40を備える。加熱装置40は、定着フィルム41、加圧ローラ45、ヒータ42、サーミスタTh、ヒータ回路508及びサーミスタ回路509を有する。CPU501は、加圧ローラ45を駆動するために、バス504及びI/Oポート505を介して、定着モータ駆動回路506に信号を出力することにより定着モータ507を駆動させる。定着フィルム41は、加圧ローラ45の回転に対して従動的に回転する。CPU501は、サーミスタThで検出した温度を、バス504、I/Oポート505及びサーミスタ回路509を介して、取得する。CPU501は、温調制御を行うために、バス504、I/Oポート505及びヒータ回路508を介して、ヒータ42を発熱させる。
【0019】
<制御部の機能構成>
次に、制御部108の機能構成について説明する。図1Cは実施例1に係る制御部108の機能ブロック図である。図1Cに示すように、制御部108は、目標温度決定部601及び電力制御部602を有する。目標温度決定部601及び電力制御部602は、図1Bに示すCPU501がROM502に記憶されているプログラムを実行することで実現される。目標温度決定部601は、加熱装置40の温度を維持するための目標温度(加熱装置40の設定温度)を決定する。電力制御部602は、加熱装置40の温度が目標温度を維持するように加熱装置40に供給する電力を制御する。
【0020】
<加熱装置の構成の説明>
次に、加熱装置40について図2(A)を用いて説明する。加熱装置40は定着部材としての定着フィルム41と、定着フィルム41の内面に接触する加熱部材としてのヒータ42と、加圧部材としての加圧ローラ45を備える。ヒータ42は保持部材43に保持されており、保持部材43は定着フィルム41の回転を案内するガイド機能も有する。ステー44は、保持部材43に不図示の加圧バネの圧力を加圧ローラ45側に加え、記録材11上のトナー画像を加熱定着する定着ニップ部Nを形成するための部材である。ステー44は、例えば、高剛性の金属によって形成されている。ここで、加圧バネの総圧は250Nであり、定着ニップ部Nの記録材11の搬送方向(以下、記録材搬送方向と表記する)の幅は9.0mmに設定されている。加圧ローラ45は不図示のモータから動力を受けて時計回りに回転する。加圧ローラ45が回転することによって定着フィルム41は反時計回りに従動回転する。トナー画像を担持する記録材11は、定着ニップ部Nにおいて、R1方向に挟持搬送されながら加熱されて、記録材11のトナー画像の定着処理が行われる。
【0021】
定着フィルム41は、例えば、外径24mmであり、厚み60μmのポリイミド樹脂による基層と、その外側に200μmの熱伝導ゴム層からなる弾性層と、最外層に20μmのPFAチューブからなる離型層と、を有する。また、加圧ローラ45は、例えば、外径25mmであり、外径19mmの鉄芯金と、厚み3mmのシリコーンゴムからなる弾性層と、最外層に40μmのPFAチューブとからなる離型層を有する。ヒータ42の裏面側には、ヒータ42の温度検出手段としてのサーミスタThが設置されており、サーミスタThは制御部108に接続されている。通常使用においては、加圧ローラ45の回転開始とともに、定着フィルム41の従動回転が開始し、ヒータ42の温度上昇とともに、定着フィルム41の内面温度も上昇する。温度制御手段、且つ電力制御手段としての制御部108によりヒータ42が制御され、定着フィルム41の表面温度が所定の温度となるように、加熱装置40の設定温度(目標温度)を決定し、ヒータ42への投入電力が制御される。すなわち、制御部108は、サーミスタThの検知温度に基づいて、加熱装置40の温度(定着フィルム41の表面温度)が設定温度を維持するようにヒータ42の電力制御を行っている。例えば、サーミスタThの信号に応じて、制御部108がヒータ42に供給する電力を制御することにより、ヒータ42の制御が行われてもよい。このように、ヒ
ータ42が制御されることで、加熱定着動作時の定着ニップ部N内の温度(定着温度、加熱温度)が所望の温度(目標温度)に保たれ、加熱装置40の温調制御(温度制御)が行われる。換言すると、サーミスタThによる検知温度が加熱装置40の設定温度を維持するようにヒータ42が制御される。また、サーミスタThによる検知温度が加熱装置40の設定温度の許容範囲(所定温度範囲)に収まるようにヒータ42が制御されてもよい。
【0022】
サーミスタThは、ヒータ42の長手方向におけるヒータ42の中心位置であり、且つヒータ42の短手方向におけるヒータ42の中心位置に当接するように配置されている。ヒータ42の長手方向は、記録材搬送方向と直交する方向である。ヒータ42の短手方向は、ヒータ42の長手方向と直交する方向であり、記録材搬送方向と一致している。ここで、本実施例では、図2(A)に示すように、温度検知手段としてのサーミスタThを加熱部材としてのヒータ42の裏面に当接させ、ヒータ42を制御することで加熱装置40の温度制御を行う。また、図2(B)に示すように、サーミスタThを赤外線や可視光線を検知する非接触タイプの温度検知手段として用いることにより、ヒータ42とサーミスタThとを離間させて、サーミスタThを配置してもよい。
【0023】
ヒータ42の構成について、図3(A)及び(B)の模式図を用いて説明する。図3(A)はヒータ42の断面図である。ヒータ42の窒化アルミニウム基材401はセラミック基板である板厚0.6mmの窒化アルミ基板で構成されている。例えば、窒化アルミニウム基材401の長手幅は260mmであり、短手幅(通紙方向)は9mmである。定着フィルム41と接触するヒータ42の表面側には、厚み15μmの摺動ガラス層404を有する。摺動ガラス層404は不図示のフッ素グリスを介在して定着フィルム41に接触し、良好な摺動性を発揮する。また、ヒータ42の裏面側には、厚み10μmの抵抗発熱層402及び厚み50μmの保護ガラス403を有する。抵抗発熱層402は銀パラジウム(Ag/Pd)合金を含んだ導電ペーストを窒化アルミニウム基材401上にスクリーン印刷により塗工して形成されている。図3(B)はヒータ42の裏面側から見た場合のヒータ42の模式図である。抵抗発熱層402はヒータ42の長手方向に沿って帯状に形成されている。図3(B)の点線は、保護ガラス403を示している。保護ガラス403が、抵抗発熱層402及び導体部406を覆うことにより、抵抗発熱層402及び導体部406の絶縁性が確保されている。また、ヒータ42において、電極部405A、405Bに外部電源から通電することにより、抵抗発熱層402が発熱する。ここで、ヒータ42の長手方向において、抵抗発熱層402により加熱される加熱領域Aは、例えば220mmである。本実施例では、外部電源の電源電圧は120Vであり、ヒータ42の抵抗を10Ωに設定している。尚、後述する電力を測定する為、電極部405A、405Bに給電する不図示のケーブルには横河メータ&インスツルメンツ社製の電力計WT310を中継して接続する。
【0024】
<加熱装置の温度制御の説明>
ここで、本実施例の特徴である画像濃度値及びトナーの色数に基づいた加熱装置40の温度制御について、図4のフローチャートを用いて詳細に説明する。本実施例ではビデオコントローラ109が受け取る画像データから、最大合計画像濃度値Dsum_maxと、トナー画像を構成するトナーの色数を示すトナー係数Eを抽出し、加熱装置40の設定温度Tに反映させる方法を説明する。最大合計画像濃度値Dsum_maxについては後述する。図4において、画像形成装置1がプリントJobを受け取ることにより、プリントが開始される(S501)。画像データ検知手段としてのビデオコントローラ109が画像データを受け取る(S502)。制御部108は、画像データから次に加熱装置40を通過する記録材11の最大合計画像濃度値Dsum_maxを算出し、トナー係数Eを抽出する(S503)。トナー係数は、数値の一例である。
【0025】
ここで、最大合計画像濃度値Dsum_maxについて説明する。図5(A)は各記録材11の
画像濃度値を説明するための模式図である。各記録材11の印字面側であり記録材搬送方向に直交する長手方向をX座標、且つ記録材搬送方向をY座標、X座標の左端且つY座標の先端を座標原点(0,0)とし、画像解像度600dpiのX-Y座標の各ピクセルが画像濃度を有する。ここで、1ピクセル当り16階調の画像濃度が表現可能である。X-Y座標の4ピクセル四方(計16ピクセル)を1つの画素ブロックとして、1画素ブロック内において256階調(階調データ:0~255)の画像濃度が表現可能であり、この画像濃度を0~100%の画像濃度値として定義する。すなわち、画像濃度値は、画像データによって表される画像濃度を示す濃度値であり、画像データ(画像情報)の画像濃度を百分率で示した値である。
【0026】
図6(A)は、画像濃度値:0%、階調データ:0の場合の画像データを示しており、トナー未使用の状態が示されている。図6(E)は、画像濃度値:100%、階調データ:255の場合の画像データを示しており、画像濃度値:100%は、各色の画像濃度値の上限値であり、この場合の最大画像濃度(O.D.)は各色とも約1.4(О.D.)程度である。図6(B)~(D)は、画像濃度値:25%、50%、75%、階調データ:63、127、191の場合の画像データを示している。図6(B)~(D)の中間調は、画像濃度に対して線形補間した数値で示している。画像濃度(О.D.)は、分光濃度計としてX-rite504を用いて、本実施例の画像形成装置1からの出力画像を測色して得た測定値である。本実施例では、図5(B)のように、画像濃度に対して画像濃度値を線形な関係としたがこの限りではなく、例えば色差(ΔE)に対して画像濃度値を線形な関係としてもよい。また、記録材11にはキヤノン社製高白色用紙GF-C081_A4サイズを用い、図5(C)に示すような各色の100%の画像パターン(30mm×30mm)をA4サイズの記録材11の中央に作成した。画像作成はAdobe社製Photoshop CS4のYMCKカラーモードを用いて行った。また、記録材11上
の単位面積当たりのトナー載り量は各色とも画像濃度値100%において約0.45(mg/cm)である。この数値は二次転写ニップ部N2から加熱装置40までの区間においてトナーが記録材11上において未定着状態で存在している時に未定着トナーの重量測定を行って得た測定値である。
【0027】
制御部108は、X-Y座標各点の合計濃度値Dsumを取得する。合計濃度値Dsumは、X-Y座標各点の画像濃度値である。合計濃度値Dsumは記録材11の1ページ内の各画素ブロックにおける、YMCK4色分の画像濃度値の合計値であり、下記の式(1)を用いて算出される。
Dsum(x,y)=DY(x,y)+DM(x,y)+DC(x,y)+DK(x,y) ・・・(1)
式(1)において、DY(x,y)、DM(x,y)、DC(x,y)、DK(x,y)は、X-Y座標各点における各YMCK色の画像濃度値である。このように、制御部108は、画像濃度値を、トナー画像を構成するトナーの色ごとに取得し、トナー画像を構成するトナーの各色についての画像濃度値の合計値(合計濃度値Dsum)を算出する。
【0028】
最大合計画像濃度値Dsum_maxは、記録材11の1ページ内の各画素ブロックの合計濃度値Dsum(x,y)のうちの最大値(最大量)である。トナー係数Eは、記録材11の1ページ
内の各画素ブロックの合計濃度値Dsum(x,y)のうちの最大値を示す画素ブロックを構成す
る色の数である。トナー係数Eは、トナー画像を構成するトナーの各色に対応する画像濃度値のうち、画像濃度値が0%より大きい値である画像濃度値の数を示す数値である。また、本実施例において、最大合計画像濃度値Dsum_maxは0%~300%の範囲内になるように、ビデオコントローラ109において調整している。
【0029】
画像データは、複数の領域(画素ブロック)を含む。制御部108は、画像データの複数の領域のうちから合計濃度値Dsum(x,y)が最大である所定領域を決定する。制御部10
8は、決定された所定領域における合計濃度値Dsum(x,y)、すなわち最大合計画像濃度値D
sum_max及びトナー係数Eに基づき、下記の式(2)を用いて、設定温度Tを決定する(
S504)。
T=200+Dsum_max×0.4/√E ・・・(2)
ここで、式(2)は、最大合計画像濃度値Dsum_maxと、トナー画像を構成するトナーの色数を示すトナー係数Eと、設定温度Tの関係を示す制御式である。式(2)は図7(A)、(B)に示す各色の画像濃度値に対する記録材11上のトナー載り量の関係に基づいている。制御部108は、トナー画像を構成するトナーの各色についての画像濃度値が基準値(例えば10%)未満の場合、基準値未満の画像濃度値についてのトナーの色の数をトナー係数Eに含めない。これに限らず、制御部108は、トナー画像を構成するトナーの各色についての画像濃度値が基準値(例えば10%)未満の場合、基準値未満の画像濃度値についてのトナーの色の数をトナー係数Eに含めてもよい。
【0030】
図7(A)は本実施例の画像形成装置1における画像濃度値DYに対するトナー載り量(未定着のトナーの載り量)の関係を示す図である。図7(A)に示すように、画像濃度値DYと、単位面積当たりの記録材11上の未定着トナー量との関係は非線形である。画像濃度値は一般的に光学濃度(O.D.)や、基準色の色度に対する色差(ΔE)に対して線形であるが、記録材11上に積載するトナー載り量は光学濃度や色差に対して線形ではなく、非線形な関係となる場合がある。図7(A)に示すように、画像濃度値が小さい領域(0~30%程度)では画像濃度値に対するトナー載り量の増分は小さい。その一方で、画像濃度値が大きい領域(70~100%程度)では画像濃度値に対するトナー載り量の増分は大きい。画像濃度値DM、DC、DKのトナー載り量に対する傾向は、図7(A)に示した画像濃度値DYの傾向と同様である。図7(B)は、最大合計画像濃度値Dsum_maxと合計トナー載り量の関係を示す図である。図7(B)には、トナーの各色の割合が、(D1)Y:M=1:1の場合、(D2)Y:M:C=1:1:1の場合、(D3)Y:M:C:K=1:1:1:1の場合が示されている。図7(B)に示すように、(D1)~(D3)の最大合計画像濃度値Dsum_maxが同一である場合、トナー画像を構成するトナーの色数が多いほど、合計トナー載り量が少ない。
【0031】
図8は、本実施例における温度制御パラメータの一例を示す図である。図8には、最大合計画像濃度値Dsum_max、YMCK各色の画像濃度値、合計トナー載り量、トナー係数E及び設定温度T、T0が示されている。図8には、最大合計画像濃度値Dsum_maxが50%、100%、150%、200%、250%及び300%である場合におけるYMCK各色の画像濃度値が示されている。設定温度Tは、上記の式(2)を用いて算出された加熱装置40の目標温度(制御温度)である。なお、設定温度T0については後述する。
【0032】
図9(A)は、図8から抽出した最大合計画像濃度値Dsum_maxと設定温度Tとの関係を示す図である。図9(A)に示すように、最大合計画像濃度値Dsum_maxの増加に応じて設定温度Tが高くなっているが、Dsum_maxが同じ値である場合、トナー画像を構成するトナーの色数が増えるほど、設定温度Tが低くなっている。ここで、画像濃度値の総和としての最大合計画像濃度値Dsum_maxが200%である場合(図8の太枠A内のA-1~A-3)について説明する。図8の(A-1)の場合、トナー画像を構成するトナーの色数としてのトナー係数Eが「2」であり、設定温度Tが「257℃」である。図8の(A-2)の場合、トナー係数Eが「3」であり、設定温度Tが「246℃」である。図8の(A-3)の場合、トナー係数Eが「4」であり、設定温度Tが「240℃」である。図8の(A-1)~(A-3)に示すように、トナー係数Eが増えるほど、設定温度Tが低くなっている。制御部108は、最大合計画像濃度値Dsum_maxが所定値(例えば「200%」)であり、かつ、トナー係数Eが第1の数(例えば「2」)である場合、設定温度Tを第1温度(例えば「257℃」)と決定する。制御部108は、最大合計画像濃度値Dsum_maxが所定値であり、かつ、トナー係数Eが第1の数よりも大きい第2の数(例えば「3」又は「4」)である場合、設定温度Tを第1温度よりも低い第2温度(例えば「246℃」
又「240℃」)と決定する。
【0033】
ここで、図9(B)は、図8から抽出した合計トナー載り量と設定温度Tとの関係を示す図である。トナーの色数(トナー係数E)や最大合計画像濃度値Dsum_maxが異なっていても、合計トナー載り量に応じた設定温度Tが調整できていることが分かる。このように調整できる理由は、設定温度Tを決定するための上記の式(2)を用いることで、最大合計画像濃度値Dsum_maxとトナーの色数(トナー係数E)の双方の設定温度Tに対する影響を十分に考慮できているからである。
【0034】
再び図4のフローチャートに戻り、加熱装置40の温度制御の説明を継続する。制御部108は、加熱装置40の温度が設定温度Tを維持するように加熱装置40に供給する電力を制御する。加熱装置40に記録材11を通紙させることで、未定着トナーを記録材11に定着させる(S505)。制御部108は、プリントJobにおける最後の記録材11かどうかを判定する(S506)。最後の記録材11である場合、プリント動作が終了する(S507)。最後の記録材11でない場合、Jobが継続され、処理がS502に戻り、最後の記録材11までS502~S506の処理が繰り返される。本実施例では、図4のフローによって加熱装置40の温度制御が行われる。
【0035】
ここで、本実施例の画像濃度値及びトナーの色数に基づいた加熱装置40の温度制御を行った場合の効果を確認するため、以下の比較実験を行った。比較実験の条件は、記録材搬送速度:300mm/sec、印刷速度(スループット):60ppm、記録材11:キャノン製A4サイズOceRedLabel紙(坪量80g/m)、通紙枚数:110枚である。図10は、比較実験を行う際の画像パターンを示す図である。図10に示すように、比較実験に用いる記録材11に対して、パターンAの低印字ハーフトーン画像(Bk:5%)に加えてパターンBの高印字画像を印字している。画像作成はAdobe社製Photoshop CS4のYMCKカラーモードを用いて行う。記録材11に印字
したパターンBは実験条件毎に可変する。比較実験の効果確認は印字枚数101~110枚目における、加熱装置40の消費電力及び定着性を比較することで行う。ここで、比較実験では加熱装置40が十分暖まった後の印字枚数101~110枚目に着目するが、本実施例の効果が印字枚数101~110枚目に限定されるものではない。
【0036】
図11は比較実験の結果を示す図であり、図11(A)は本実施例の画像濃度値及びトナーの色数に基づいて、加熱装置40の温度制御を行った場合の実験結果を示す図である。ここで、フィルム表面温度は、印字枚数101~110枚目において、各設定温度Tに基づいてサーミスタThを制御した場合の記録材11に接する定着フィルム41の表面温度である。定着フィルム41の表面温度の測定は、安立計器社製の熱電対(ST-13E-010-GW1-W)を使用する。図11の(A)~(C)の条件A~Cについては、最大合計画像濃度値Dsum_maxが同一であるが、合計トナー載り量が異なる。本実施例では、条件A~Cについて、設定温度Tが合計トナー載り量に応じて制御されており、フィルム表面温度も設定温度Tに応じて変化している。その結果、条件A~Cの定着性が良好(OK)であり、且つ合計トナー載り量が少ない条件B及び条件Cにおいて消費電力の削減が可能である。
【0037】
次に、比較例の温度制御を行った場合について説明する。比較例の温度制御における設定温度T0は、下記の式(3)により求める。
T0=230.5+Dsum_max/8 ・・・(3)
すなわち、設定温度T0は最大合計画像濃度値Dsum_maxのみに基づいて決定される。図9(C)は、図8から抽出した最大合計画像濃度値Dsum_maxと設定温度T0との関係を示す図である。図9(C)に示すように、トナー画像を構成するトナーの色数に依らず、設定温度Tが最大合計画像濃度値Dsum_maxに応じて高くなっていることが分かる。また、図9(D)は、図8から抽出した合計トナー載り量と設定温度T0との関係を示す図である
図9(D)に示すように、トナーの色数の違いにより合計トナー載り量に違いが生じた場合に、設定温度T0が適切に決定できていないことが分かる。
【0038】
図11(B)は、比較例1の温度制御を行った場合の実験結果を示す図である。比較例1では、合計トナー載り量が多い場合の条件Aに合わせて温度制御が行われており、設定温度T0を256℃としている。比較例1では、合計トナー載り量が多い場合の条件Aに合わせて温度制御が行われているため、条件A~Cにおける定着性はいずれも良好(OK)であり、条件A~Cにおける消費電力は殆ど同じである。合計トナー載り量が少ない場合の条件Bや条件Cにおいても同一の設定温度T0で温度制御を行っているため、定着性は確保されているが、加熱装置40に余分な電力が供給されている。
【0039】
図11(C)は、比較例2の温度制御を行った場合の実験結果を示す図である。比較例2では、合計トナー載り量が少ない場合の条件Cに合わせて温度制御が行われており、設定温度を240℃としている。このため、比較例2の設定温度T0は、比較例1の設定温度T0よりも16℃低い。比較例2では、合計トナー載り量が少ない場合の条件Cに合わせて温度制御が行われているため、条件A~Cにおける消費電力は低減できているが、条件A及びBにおける定着性を確保できていない。
【0040】
本実施例では、画像データから最大合計画像濃度値Dsum_maxとトナー係数Eを抽出して、設定温度Tを決定する。最大合計画像濃度値Dsum_maxが同じ所定値であれば、トナー係数(色数)が大きいほど、設定温度Tが小さくなる。これにより、記録材11上の実際のトナー載り量に応じて設定温度Tを適切に決定することができる。その結果、記録材11に余分な熱量を与えることを抑制できるため、消費電力を抑制することができ、且つ安定した定着性を確保することが可能である。
【0041】
また、本実施例では、所定の色に関する画像濃度値が基準値(例えば10%)未満の場合には、トナー載り量が微量のため、その所定の色は設定温度Tの算出に用いるトナー係数Eに含めていない。ただし、画像濃度値が小さくてもトナー載り量が多い場合はトナー係数Eに含めてもよく、画像濃度値が大きくてもトナー載り量が少ない場合はトナー係数Eに含めなくてもよい。例えば、画像形成装置1の特性に合わせて、基準値を適宜変更してもよい。
【0042】
加えて、本実施例では4色(YMCK)の各トナー色について、各々1個ずつの画像形成ステーションを画像形成装置1に配置しているが、1つのトナー色について複数の画像形成ステーションを画像形成装置1に配置してもよい。すなわち、複数の画像ステーションのうちの少なくとも2つが、同一色のトナーによりトナー画像を形成してもよい。例えば、4個の画像形成ステーションのうちの2個をKトナー色の画像形成ステーションとし、4個の画像形成ステーションのうちの2個をMトナー色の画像形成ステーションとしてもよい。4個の画像濃度値が全て基準値以上である場合、トナー係数Eは4である。すなわち、同一色のトナーを有する異なる画像形成ステーションが画像形成装置1に配置された場合、同一色のトナーを有する異なる画像形成ステーションの各々がトナー係数を計上する対象となる。制御部108は、同一色のトナーによりトナー画像を形成する複数の画像形成ステーションの数に応じてトナー係数Eの数を増加し、最大合計画像濃度値Dsum_max及びトナー係数Eに基づき、上記の式(2)を用いて、設定温度Tを決定する。
【0043】
<変形例1>
本実施例の変形例1として、設定温度Tを最大合計画像濃度値Dsum_max及びトナー係数Eにより段階的に変更する方法を説明する。図12(A)には、最大合計画像濃度値Dsum_maxに応じた基準温度T1が段階的に示されており、最大合計画像濃度値Dsum_maxが所定範囲で区切られていることが示されている。また、図12(B)には、トナー係数Eに応
じた調整温度T2が段階的に示されており、トナー係数Eが増加するにつれて調整温度T2が大きくなっていることが示されている。変形例1の設定温度Tは、基準温度T1から調整温度T2を減算することによって決定される(T=T1-T2)。図13は、変形例1に係る温度制御パラメータの一例を示す図である。図13には、最大合計画像濃度値Dsum_max、YMCK各色の画像濃度値、合計トナー載り量、トナー係数E、基準温度T1、調整温度T2及び設定温度Tが示されている。
【0044】
図14(A)は、図13から抽出した最大合計画像濃度値Dsum_maxと設定温度Tとの関係を示す図である。図14(A)に示すように、設定温度Tが最大合計画像濃度値Dsum_maxに応じて段階的に高くなり、また、トナー画像を構成するトナーの色数が増えるほど、段階的に設定温度Tが下がっている。図14(B)は、図13から抽出した合計トナー載り量と設定温度Tとの関係を示す図である。トナーの色数(トナー係数E)や最大合計画像濃度値Dsum_maxが異なっていても、合計トナー載り量に応じた設定温度Tが調整できていることが分かる。変形例1のように最大合計画像濃度値Dsum_maxやトナー係数Eに応じて設定温度Tの決定を段階的に行うことで、演算処理の簡略化を図ることが可能である。制御部108の性能に応じて、実施例1や変形例1の構成を選択してもよい。
【0045】
<実施例2>
実施例2では、実施例1とは異なる設定温度Tの導出方法について説明する。それ以外の画像形成装置1の構成及び加熱装置40の構成は同一であり、その説明を省略する。
【0046】
<加熱装置の温度制御の説明>
実施例2のトナー量情報に基づいた加熱装置40の温度制御について、図15のフローチャートを用いて説明する。本実施例ではビデオコントローラ109が受け取る画像データから、記録材11の合計トナー量が最も多い最大合計トナー載り量Wsum_maxを算出し、加熱装置40の設定温度Tを決定する方法を説明する。画像形成装置1がプリントJobを受け取ることにより、プリントが開始される(S601)。ビデオコントローラ109が画像データを受け取る(S602)。制御部108は、画像データから、次に加熱装置40を通過する記録材11の最大合計トナー載り量Wsum_maxを算出する(S603)。ここで、最大合計トナー載り量Wsum_maxについて説明する。各記録材11の画像データは実施例1において図5(A)で説明した内容と同様であり、画像解像度600dpiのX-Y座標の各ピクセルが画像濃度を有する。また、下記のDY(x,y)、DM(x,y)、DC(x,y)、DK(x,y)は、実施例1と同様である。
【0047】
図16は、本実施例において予め取得した、Y色における画像濃度値DYに対する記録材11上のトナー載り量WYの関係を示す図である。図16に示す関係に基づいて、トナー載り量WYを画像濃度値DYから式(4)を用いて算出することができる。
WY=0.45×(0.958×(DY)2+0.0422×DY) ・・・(4)
【0048】
次に、制御部108は、X-Y座標各点における記録材11の合計トナー載り量Wsum(トナー載り量の合計量)を取得する。合計トナー載り量Wsumは記録材11の1ページ内の各画素ブロックにおける、YMCK4色分のトナー載り量の合計値であり、下記の式(5)を用いて算出される。
Wsum(x,y)=WY(x,y)+WM(x,y)+WC(x,y)+WK(x,y) ・・・(5)
式(5)において、WY(x,y)、WM(x,y)、WC(x,y)、WK(x,y)は、X-Y座標各点における記録材11上の各YMCK色のトナー載り量である。WY(x,y)、WM(x,y)、WC(x,y)、WK(x,y)のそれぞれは、式(4)を用いて、DY(x,y)、DM(x,y)、DC(x,y)、DK(x,y)のそれぞれから算出される。実施例1と同様に、制御部108は、画像濃度値を、トナー画像を構成するトナーの色ごとに取得する。制御部108は、トナー画像を構成するトナーの各色についての画像濃度値からトナー画像を構成するトナーの各色のトナー載り量を算出する。こ
こで、MCK色における画像濃度値DM、DC、DKに対する記録材11上のトナー載り量WM、WC、WKの関係は、画像濃度値DYに対する記録材11上のトナー載り量WYの関係と同様であるため、Y色と同様に式(4)を用いて算出可能である。
【0049】
最大合計トナー載り量Wsum_maxは、記録材11の1ページ内の各画素ブロックの合計トナー載り量Wsum(x,y)のうちの最大値(最大量)である。トナー画像は、複数の領域(画
素ブロック)を含む。制御部108は、トナー画像の複数の領域のうちから合計トナー載り量Wsumが最大である所定領域を決定する。制御部108は、決定された所定領域における合計トナー載り量Wsum(x,y)、すなわち最大合計トナー載り量Wsum_maxに基づき、下記
の式(6)を用いて、設定温度Tを決定する(S604)。
T=212.9-(17.994×(Wsum_max)2-64.066×Wsum_max) ・・・(6)
制御部108は、トナー画像を構成するトナーの各色のトナー載り量が基準値未満の場合、基準値未満のトナー載り量を最大合計トナー載り量Wsum_maxに含めない。これに限らず、制御部108は、トナー画像を構成するトナーの各色のトナー載り量が基準値未満の場合、基準値未満のトナー載り量を最大合計トナー載り量Wsum_maxに含めてもよい。
【0050】
図17は、本実施例における温度制御パラメータの一例を示す図である。図17には、最大合計画像濃度値Dsum_max、YMCK各色の画像濃度値、最大合計トナー載り量Wsum_max、トナー係数E及び設定温度Tが示されている。図18(A)は、図17から抽出した最大合計トナー載り量Wsum_maxと設定温度Tとの関係を示す図である。トナーの色数(トナー係数E)やYMCK各色の画像濃度値が異なっていても、最大合計トナー載り量Wsum_maxに基づいて設定温度Tが決定されているため、記録材11上に積載する未定着トナー量に応じた設定温度Tを調整できていることが分かる。
【0051】
また、図18(B)は、参考として本実施例で求めた設定温度Tと、最大合計画像濃度値Dsum_maxと、トナー係数E(色数)との関係を示す図である。図18(B)に示すように、最大合計画像濃度値Dsum_maxの増加に応じて設定温度Tが高くなっているが、Dsum_maxが同じ値である場合、トナー画像を構成するトナーの色数(トナー係数E)が増えるほど、設定温度Tが低くなっている。ここで、画像濃度値の総和としての最大合計画像濃度値Dsum_maxが200%である場合(図17の太枠B内のB-1~B-3)について説明する。図17の(B-1)の場合、トナー画像を構成するトナーの色数としてのトナー係数Eが「2」であり、設定温度Tが「256℃」である。図17の(B-2)の場合、トナー係数Eが「3」であり、設定温度Tが「245℃」である。図17の(B-3)の場合、トナー係数Eが「4」であり、設定温度Tが「239℃」である。図17(B-1)~(B-3)に示すように、トナー係数Eが増えるほど、設定温度Tが低くなっている。最大合計画像濃度値Dsum_maxが所定値(例えば「200%」)であり、かつ、トナー係数Eが第1の数(例えば「2」)である場合、設定温度Tとして第1温度(例えば「256℃」)が決定される。最大合計画像濃度値Dsum_maxが所定値であり、かつ、トナー係数Eが第1の数よりも大きい第2の数(例えば「3」又は「4」)である場合、設定温度Tとして第1温度よりも低い第2温度(例えば「245℃」又「239℃」)が決定される。
【0052】
再び図15のフローチャートに戻り、加熱装置40の温度制御の説明を継続する。制御部108は、加熱装置40の温度が設定温度Tを維持するように加熱装置40に供給する電力を制御する。加熱装置40に記録材11を通紙させることで、未定着トナーを記録材11に定着させる(S605)。制御部108は、プリントJobにおける最後の記録材11かどうかを判定する(S606)。最後の記録材11である場合、プリント動作が終了する(S607)。最後の記録材11でない場合、Jobが継続され、処理がS602に戻り、最後の記録材11までS602~S606の処理が繰り返される。本実施例では、図15のフローによって加熱装置40の温度制御が行われる。
【0053】
加えて、本実施例では4色(YMCK)の各トナー色について、各々1個ずつの画像形成ステーションを画像形成装置1に配置しているが、1つのトナー色について複数の画像形成ステーションを画像形成装置1に配置してもよい。すなわち、複数の画像ステーションのうちの少なくとも2つが、同一色のトナー画像を形成してもよい。上記の(5)式を用いて合計トナー載り量Wsumを算出する場合、制御部108は、同一色のトナー載り量に対して、同一色のトナーによりトナー画像を形成する複数の画像形成ステーションの数を乗算して、合計トナー載り量Wsumを算出する。
【0054】
図19は、実施例1と同様の手法で比較実験を行った場合の結果を示す図である。比較対象としての比較例1、2の結果は、図11(B)、(C)と同様である。図19の条件A~Cについては、最大合計画像濃度値Dsum_maxが同一であるが、合計トナー載り量が異なる。本実施例では、設定温度Tが合計トナー載り量に応じて決定されており、フィルム表面温度も設定温度Tに応じて変化している。その結果、定着性が良好(OK)であり、且つ合計トナー載り量が少ない条件B及び条件Cにおいて消費電力の削減が可能である。
【0055】
実施例2では、記録材11上の画像データの各画素ブロックにおけるトナー載り量を算出し、その最大合計トナー載り量に応じて設定温度Tを決定している。一方で、実施例1では画像データの各画素ブロックに対して最大合計画像濃度値とトナー係数(色数)の関係から設定温度Tを決定している。実施例1ではトナー載り量の演算過程が無いためCPUの処理を簡易化できるメリットがあり、一方、実施例2ではトナー載り量に応じて設定温度Tを決定できる。そのため、実施例2は、より正確にトナー載り量が多い画素ブロックに応じて設定温度Tを調整できるメリットがある。CPUの演算負荷や加熱装置40に求める定着性能を鑑みて、実施例1又は2のうちの好適な方を選択すればよい。
【0056】
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0057】
また、コンピュータが当該プログラムを実行する方法(画像形成方法)により、実施例1、2における各処理を実現してもよい。上記プログラムは、例えば、ネットワークを通じて、又は、非一時的にデータを保持するコンピュータ読取可能な記録媒体等から上記コンピュータに提供されてもよい。上記プログラムをコンピュータ読取可能な記録媒体等に記録してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…画像形成装置、11…記録材、40…加熱装置、108…制御部、601…目標温度決定部、602…電力制御部
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19