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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】電池容器用表面処理鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/14 20060101AFI20221205BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20221205BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20221205BHJP
   H01M 50/124 20210101ALI20221205BHJP
   C25D 5/26 20060101ALN20221205BHJP
【FI】
C25D5/14
C25D5/50
C25D7/00 Z
C25D7/00 W
H01M50/124
C25D5/26 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018539741
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2017033003
(87)【国際公開番号】W WO2018052009
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2016178887
(32)【優先日】2016-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄二
(72)【発明者】
【氏名】松重 大輔
(72)【発明者】
【氏名】三奈木 秀幸
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/065672(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/083562(WO,A1)
【文献】特開2004-218043(JP,A)
【文献】国際公開第2011/083559(WO,A1)
【文献】特開平11-061484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
H01M 50/00-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板における少なくとも電池容器の外面側となる面に、電解めっきにより、半光沢のニッケルめっき層を形成する電池容器用表面処理鋼板の製造方法において、
前記電池容器用表面処理鋼板は、原子間力顕微鏡(AFM)により1.0μm×1.0μmの領域で測定した場合における前記ニッケルめっき層の表面の算術平均粗さ(Ra)が、10nm以下であり、
前記ニッケルめっき層は、結晶面方位の111面、200面、220面および311面の中での200面の存在割合が50%以上であり、
前記ニッケルめっき層の厚みは1.5μm以上3.0μm以下であり、
下記式(1)および下記式(2)を満たす条件でめっき処理を行うことで、前記ニッケルめっき層を形成する電池容器用表面処理鋼板の製造方法。
T/D≧7.0 ・・・(1)
X≧-0.5×T/D+4.5 ・・・(2)
(上記式(1)および上記式(2)中、Tは前記めっき処理に用いるめっき浴の浴温(℃)(だたし、60≦T≦80)、Dは前記めっき処理を行う際の電流密度(A/dm)(だたし、1≦D≦10)、Xは形成する前記ニッケルめっき層の厚み(μm)(ただし、1.5≦X≦3.0))
【請求項2】
前記ニッケルめっき層を形成した後には、前記ニッケルめっき層の熱拡散処理を行わない請求項1に記載の電池容器用表面処理鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケルめっき層を形成する前に、前記鋼板上に鉄-ニッケル拡散層を形成し、
前記ニッケルめっき層を、前記鉄-ニッケル拡散層を介して、前記鋼板における少なくとも電池容器の外面側となる面に形成する請求項1または2に記載の電池容器用表面処理鋼板の製造方法。
【請求項4】
鋼板における少なくとも電池容器の外面側となる面の最表面に、半光沢のニッケルめっき層を有する電池容器用表面処理鋼板であって、
原子間力顕微鏡(AFM)により1.0μm×1.0μmの領域で測定した場合における前記ニッケルめっき層の表面の算術平均粗さ(Ra)が、10nm以下であり、
前記ニッケルめっき層は、結晶面方位の111面、200面、220面および311面の中での200面の存在割合が50%以上であり、
前記ニッケルめっき層の厚みは1.5μm以上3.0μm以下である電池容器用表面処理鋼板。
【請求項5】
接触子6mm直径のクロムスチール球、100gf荷重、回転半径10mm、10回転の条件で測定した場合における前記ニッケルめっき層の表面の動摩擦係数が0.45以下である請求項に記載の電池容器用表面処理鋼板。
【請求項6】
前記鋼板と前記ニッケルめっき層との間に鉄-ニッケル拡散層をさらに有する請求項4または5に記載の電池容器用表面処理鋼板。
【請求項7】
請求項4~の何れか一項に記載の電池容器用表面処理鋼板を備える電池容器。
【請求項8】
請求項に記載の電池容器を備える電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池容器用表面処理鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オーディオ機器や携帯電話など、多方面において携帯用機器が用いられ、その作動電源として一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが多用されている。このような電池は、搭載される機器の高性能化に伴い、長寿命化及び高性能化などが求められており、正極活物質や負極活物質などからなる発電要素を充填する電池容器も電池の重要な構成要素としての性能の向上が求められている。
【0003】
このような電池容器として、例えば、特許文献1では、鋼板上にニッケルめっき層及び鉄-ニッケル合金めっき層を形成してなる表面処理鋼板をプレス成形して得られる電池容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-123797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている電池容器では、表面処理鋼板における電池容器外面となる面(プレス加工時にプレス金型と接触する面)が無光沢又は半光沢である場合には、当該面の滑り性が悪いことから、表面処理鋼板をプレス加工する際の摩擦により過度に発熱する。これにより、局部的に加熱された成形中の表面処理鋼板がプレス金型に焼き付いて成形後の電池容器がプレス金型から外れにくくなるという問題、この表面処理鋼板の焼き付きに起因して金型が消耗し、金型の寿命が低下してしまうという問題、電池容器外面側に疵付きが発生するという問題、およびプレス金型の熱膨張により電池容器の側壁厚み寸法精度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、プレス金型と接触する面に半光沢のニッケルめっき層を形成した場合においてもプレス加工性に優れた電池容器用表面処理鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋼板における少なくとも電池容器の外面側となる面に、半光沢のニッケルめっき層を形成してなる電池容器用表面処理鋼板について、該ニッケルめっき層を特定の条件で形成することにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、鋼板における少なくとも電池容器の外面側となる面に、電解めっきにより、半光沢のニッケルめっき層を形成する電池容器用表面処理鋼板の製造方法において、下記式(1)および下記式(2)を満たす条件でめっき処理を行うことで、前記ニッケルめっき層を形成する電池容器用表面処理鋼板の製造方法が提供される。
T/D≧6.0 ・・・(1)
X≧-0.5×T/D+4.5 ・・・(2)
(上記式(1)および上記式(2)中、Tは前記めっき処理に用いるめっき浴の浴温(℃)(だたし、60≦T≦80)、Dは前記めっき処理を行う際の電流密度(A/dm)(ただし、1≦D≦10)、Xは形成する前記ニッケルめっき層の厚み(μm)(ただし、1.0≦X))
【0009】
本発明の製造方法において、前記ニッケルめっき層を形成した後には、前記ニッケルめっき層の熱拡散処理を行わないことが好ましい。
本発明の製造方法において、前記ニッケルめっき層を形成する前に、前記鋼板上に鉄-ニッケル拡散層を形成し、前記ニッケルめっき層を、前記鉄-ニッケル拡散層を介して、前記鋼板における少なくとも電池容器の外面側となる面に形成することが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、鋼板における少なくとも電池容器の外面側となる面の最表面に、半光沢のニッケルめっき層を有する電池容器用表面処理鋼板であって、原子間力顕微鏡(AFM)により1.0μm×1.0μmの領域で測定した場合における前記ニッケルめっき層の表面の算術平均粗さ(Ra)が、10nm以下である電池容器用表面処理鋼板が提供される。
【0011】
本発明の電池容器用表面処理鋼板において、前記ニッケルめっき層の厚みが1.0~3.0μmであることが好ましい。
本発明の電池容器用表面処理鋼板において、接触子6mm直径のクロムスチール球、100gf荷重、回転半径10mm、10回転の条件で測定した場合における前記ニッケルめっき層の表面の動摩擦係数が0.45以下であることが好ましい。
本発明の電池容器用表面処理鋼板において、前記ニッケルめっき層は、結晶面方位の111面、200面、220面および311面の中での200面の存在割合が40%超であることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、上述した電池容器用表面処理鋼板を備える電池容器が提供される。
また、本発明によれば、上述した電池容器を備える電池が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニッケルめっき層を形成するためのめっき処理の条件を、特定の条件とすることにより、形成されるニッケルめっき層の硬度が高くなって、ニッケルめっき層表面の動摩擦係数が低下する。その結果、プレス金型との接触時に発生する摩擦熱が抑制され、プレス加工性に優れた電池容器用表面処理鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る電池容器用表面処理鋼板を適用した電池の一実施の形態を示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿う断面図である。
図3】本発明に係る電池容器用表面処理鋼板の一実施の形態であって図2のIII部の拡大断面図である。
図4】本発明に係る電池容器用表面処理鋼板の他の実施の形態である。
図5】実施例および比較例で得られた電池容器用表面処理鋼板の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)で測定して得られた画像である。
図6】実施例および比較例で得られた電池容器用表面処理鋼板の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定して得られた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の一実施の形態について説明する。本発明に係る電池容器用表面処理鋼板は、所望の電池の形状に応じた外形形状に加工される。電池としては、特に限定されないが、一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などを例示することができ、これらの電池の電池容器の部材として、本発明に係る電池容器用表面処理鋼板を用いることができる。以下においては、アルカリ電池の電池容器を構成する正極缶に本発明に係る電池容器用表面処理鋼板を用いた実施形態にて本発明を説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る電池容器用表面処理鋼板を適用したアルカリ電池2の一実施の形態を示す斜視図、図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。本例のアルカリ電池2は、有底円筒状の正極缶21の内部に、セパレータ25を介して正極合剤23及び負極合剤24が充填され、正極缶21の開口部内面側には、負極端子22、集電体26及びガスケット27から構成される封口体がカシメ付けられてなる。なお、正極缶21の底部中央には凸状の正極端子211が形成されている。そして、正極缶21には、絶縁性の付与及び意匠性の向上等のために、絶縁リング28を介して外装29が装着されている。
【0017】
図1に示すアルカリ電池2の正極缶21は、本発明に係る電池容器用表面処理鋼板を、深絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、又は絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法などにより成形加工することで得られる。以下、図3を参照して、本発明に係る電池容器用表面処理鋼板(表面処理鋼板1)の構成について説明する。
【0018】
図3は、図2のIII部を拡大して示す断面図であり、同図において下側が図1のアルカリ電池2の内面(アルカリ電池2の正極合剤23と接触する面)、上側がアルカリ電池2の外面に相当する。図3に示す本例の表面処理鋼板1(表面処理鋼板1a)は、表面処理鋼板1の基材を構成する鋼板11に対して、鋼板11の両主面に半光沢のニッケルめっき層12が形成され、さらに、アルカリ電池2の内面となる面のニッケルめっき層12上にニッケル-コバルト合金めっき層13が形成されてなる。なお、アルカリ電池2の内面におけるニッケルめっき層12及びニッケル-コバルト合金めっき層13は、表面処理鋼板1の用途に応じて任意に形成すればよく、ニッケルめっき層12及びニッケル-コバルト合金めっき層13をどちらも形成しない構成としてもよく、ニッケルめっき層12及びニッケル-コバルト合金めっき層13のうちいずれか一方を省略する構成としてもよい。
【0019】
<鋼板11>
本実施形態の鋼板11としては、成形加工性に優れているものであればよく特に限定されないが、例えば、低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.003重量%以下の極低炭素鋼、又は極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼を用いることができる。
【0020】
本実施形態においては、これらの鋼の熱間圧延板を酸洗して表面のスケール(酸化膜)を除去した後、冷間圧延し、次いで電解洗浄後に、焼鈍、調質圧延したものを基板として用いる。この場合における、焼鈍は、連続焼鈍あるいは箱型焼鈍のいずれでもよく、特に限定されない。
【0021】
<ニッケルめっき層12>
ニッケルめっき層12は、上述した鋼板11にニッケルめっきを施すことにより鋼板11の少なくとも外面側となる面、または両主面に形成される、半光沢のニッケルめっき層である。
【0022】
ニッケルめっき層12を形成するためのニッケルめっき浴としては、特に限定されないが、ニッケルめっきで通常用いられているめっき浴、すなわち、ワット浴や、スルファミン酸浴、ほうフッ化物浴、塩化物浴などを用いることができる。例えば、ニッケルめっき層12は、ワット浴として、硫酸ニッケル200~350g/L、塩化ニッケル20~60g/L、ホウ酸10~50g/Lの浴組成のものを用いて、電解めっきにより形成することができる。
【0023】
また、ニッケルめっき層12を半光沢とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、ニッケルめっき浴に半光沢剤を添加し、この半光沢剤が添加されたニッケルめっき浴を用いて、ニッケルめっき層を形成する方法が挙げられる。このように半光沢剤を用いて半光沢のニッケルめっき層12を形成した場合には、半光沢剤を用いずに無光沢ニッケルめっき層を形成した場合と比べて、表面の光沢度が高くなる。例えば、半光沢剤の添加有無以外は同じニッケルめっき浴を用いて、同程度の表面粗度を有する鋼板にめっき厚が同じ厚みとなるように、鋼板上にニッケルめっき層を形成した半光沢のニッケルめっき層12(なお、めっき条件は、電流密度20A/dm、浴温70℃とした)と、無光沢のニッケルめっき層12(なお、めっき条件は、電流密度20A/dm、浴温60℃とした)とについて、光沢度として、光沢計(日本電色工業株式会社製、VG-2000)を用いて60度鏡面光沢を測定すると、それぞれ、半光沢のニッケルめっき層12を形成したサンプルの光沢度は223.2、無光沢のニッケルめっき層12を形成したサンプルの光沢度は96.0であり、両者には明らかな差が出る。光沢度の値はニッケルめっき層12の厚み、表面粗度によって変わるが、本実施形態における半光沢のニッケルめっき層12は、触針式粗度計(株式会社東京精密社製、SURFCOM1400D)を用いて測定した算術平均粗さ(Ra)が0.1~0.8μmとなるようにしたとき、光沢計によって測定される光沢度が、通常、150以上であり、300以下となる。
【0024】
半光沢剤としては、特に限定されないが、たとえば、不飽和アルコールのポリオキシーエチレン付加物等の脂肪族不飽和アルコール、不飽和カルボン酸、ホルムアルデヒド、クマリンなど硫黄を含有しない化合物が好ましい。
【0025】
また、本実施形態においては、半光沢剤として硫黄を含有しない化合物を用いることが好ましいことに加えて、ニッケルめっき浴に、実質的に硫黄を含むその他の添加剤を使用しないことが好ましい。本実施形態においては、このようなニッケルめっき浴を用いて形成されたニッケルめっき層12をグロー放電発光分光分析装置により測定した場合、観測される硫黄の強度はノイズレベル(または不純物量程度の強度)以下であることが好ましく、この場合には、ニッケルめっき層12には、実質的に硫黄が含まれないとみなすことができる。たとえば、半光沢剤として硫黄を含有しない化合物を使用し、かつ、その他の硫黄を含む添加物を使用しなかっためっき浴を用いて形成されたニッケルめっき層12は、実質的に硫黄が含まれないとみなすことができる。具体的には、グロー放電発光分光分析装置(株式会社堀場製作所製、HORIBA GD-OES)にて、圧力を600Pa、出力を35Wと設定し、HV(フォトマル電圧)を各々下記のように設定した際に、ニッケルめっき層12内で得られるS強度(硫黄に由来する強度)のNi強度(ニッケルに由来する強度)に対する比(S強度/Ni強度)は、硫黄を含有しない半光沢剤を用いた際には、たとえば0.00057程度と0.001未満であり、一方で硫黄を含む光沢剤を用いた際には、たとえば0.00723程度と0.001を大きく超えることからも、硫黄を含有しない半光沢剤を用いて形成された半光沢のニッケルめっき層12は、通常、上記比(S強度/Ni強度)が0.001未満であり、ニッケルめっき層12には実質的に硫黄は含まれないとみなすことができ、ニッケルめっき層12が光沢である場合には、上記比(S強度/Ni強度)が0.001以上であり、硫黄を含むものと判断することが可能である。各元素のHVはニッケル700、鉄850、炭素900、酸素700、硫黄999にて行った。
【0026】
本実施形態では、ニッケルめっきに用いるめっき浴には、光沢剤(ニッケルめっき層12を構成する結晶を微細化し、その結果として表面硬度を高める作用を有するもの)、特に、有機硫黄化合物からなる添加剤(例えば、サッカリン、ナフタレンスルフォン酸ナトリウムなどの光沢剤)を添加しないようにすることが好ましい。
【0027】
特に、本実施形態では、有機硫黄化合物からなる添加剤をめっき浴に添加させないようにすることにより、ニッケルめっき層12中に硫黄が過度に存在することによる不具合、すなわち、得られるアルカリ電池2を長期保存した際に、電池容器を構成するニッケルめっき層12の接触抵抗値が上昇してしまい、アルカリ電池2の電池性能が低下してしまうという不具合を防止することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、ニッケルめっき層12の表面硬度を高める作用が小さい添加剤(例えば、ピット抑制剤など)は、上記めっき浴に適宜添加してもよい。
【0029】
本実施形態においては、ニッケルめっき層12を形成する際のめっき条件は、下記式(1)および下記式(2)を満たすものとすればよい。
T/D≧6.0 ・・・(1)
X≧-0.5×T/D+4.5 ・・・(2)
(上記式(1)および上記式(2)中、Tは前記めっき処理に用いるめっき浴の浴温(℃)(だたし、60≦T≦80)、Dは前記めっき処理を行う際の電流密度(A/dm)(だたし、1≦D≦10)、Xは形成する前記ニッケルめっき層の厚み(μm)(ただし、1.0≦X))
【0030】
本実施形態によれば、上記のめっき条件にてニッケルめっき層12を形成することにより、ニッケルめっき層の硬度を向上させることができ、これにより、ニッケルめっき層表面の動摩擦係数を低下させることができる。その結果、プレス金型との接触時に発生する摩擦熱が抑制され、プレス加工性に優れた電池容器用表面処理鋼板を提供することができるようになる。
【0031】
すなわち、従来においては、表面処理鋼板1における電池容器の外面となる面(プレス加工時にプレス金型と接触する面)が無光沢又は半光沢であり滑り性が悪い場合には、表面処理鋼板1をプレス加工する際におけるプレス金型との摩擦により過度に発熱し、これにより、局部的に加熱された成形中の表面処理鋼板がプレス金型に焼き付いて成形後の電池容器がプレス金型から外れにくくなるという問題、この表面処理鋼板の焼き付きに起因して金型が消耗し、金型の寿命が低下してしまうという問題、電池容器外面側に疵付きが発生するという問題、およびプレス金型の熱膨張により電池容器の側壁厚み寸法精度が低下するという問題があった。
【0032】
また、このような表面処理鋼板1のカブリや、プレス金型の焼き付き及び疵付きを防止するために、ニッケルめっき層12を形成するためのめっき浴に、ニッケルめっき層12の硬度を高くするために、硫黄を含む添加剤を添加し、このめっき浴を用いて鋼板11の両主面にニッケルめっき層12を形成する方法もあるが、この方法では、添加剤に含まれる硫黄などの影響により、形成されるニッケルめっき層12は長期保存後の接触抵抗値が上昇するものとなってしまい、これを用いて得られる電池は電池性能が低下してしまうという問題があった。
【0033】
あるいは、表面処理鋼板1のカブリや、プレス金型の焼き付き及び疵付きを防止するために、鋼板11における電池容器の外面となる面(プレス加工時にプレス金型と接触する面)についてのみ、ニッケルめっき層12の硬度を高くするために、硫黄を含む添加剤を添加しためっき浴を用いてニッケルめっき層12を形成する方法もあるが、この方法では、鋼板11の外面側及び内面側に、それぞれ別のめっき浴を用いる必要があるため、めっき浴を管理する浴槽を増設し、鋼板11の外面側及び内面側に個別にニッケルめっき層12を形成しなければならず、表面処理鋼板1の生産効率が著しく低下し、コスト的にも不利であるという問題があった。
【0034】
加えて、ニッケルめっき層12の硬度を高くするために、硫黄を含む添加剤を添加しためっき浴を用いる場合には、高い硬度を必要としない別のニッケルめっき製品(すなわち、上記添加剤を用いることなく製造されるニッケルめっき製品)の製造ラインを流用することができず、当該製造ラインとは別の製造ラインを設置するか、当該製造ラインの浴槽をフラッシングしてめっき浴を入れ替える必要があり、この点によっても、表面処理鋼板1の生産効率が著しく低下し、コスト的にも不利であるという問題があった。
【0035】
これに対し、本実施形態では、電池容器の外面となる面に、上記条件にてニッケルめっき層12を形成することで、上述したように、ニッケルめっき層12の表面硬度が高くなり、これにより、ニッケルめっき層12とプレス金型との動摩擦係数が低下することとなり、その結果、表面処理鋼板1をプレス加工する際の摩擦熱が低下し、表面処理鋼板1のカブリや、プレス金型の焼き付き及び疵付きが有効に防止され、表面処理鋼板1のプレス加工性が向上する。しかも、プレス金型の焼き付き及び疵付きが有効に防止されることにより、金型の消耗を抑制することができるため、金型を長寿命化させることができ、コスト的に有利になる。
【0036】
さらに、本実施形態によれば、上記条件にてニッケルめっき層12を形成することで、ニッケルめっき層12の厚みを比較的薄いものとした場合においても、ニッケルめっき層12の表面硬度を高くすることができる。そのため、ニッケルめっき層12を薄く形成することが可能となり、これにより、得られる表面処理鋼板1を電池容器に成形した場合に、ニッケルめっき層12を薄くしたことによって電池容器の側壁も薄くなり、その結果、電池容器の内部の容積が大きくなり、電池容器に充填する発電要素の量を増加させることができ、得られる電池の電池性能を向上させることができる。
【0037】
加えて、本実施形態によれば、鋼板11におけるアルカリ電池2の外面となる面と、アルカリ電池2の内面となる面とに、同じ組成のめっき浴を用いて、1工程(1パス)でニッケルめっき層12を形成可能であるため、表面処理鋼板1の生産効率が向上し、コスト的に有利となる。なお、このとき、外面となる面と内面となる面のニッケルめっき層12の厚みは同じでもよく、電流密度を変えることにより異なる厚みとしてもよく、少なくとも外面となる面が本実施形態のニッケルめっき層12であればよい。また、ニッケルめっき層12の形成に用いるめっき浴には、有機硫黄化合物からなる添加剤(光沢剤など)を添加する必要がないため、ニッケルめっき層12に硫黄が取り込まれることによる表面処理鋼板1の接触抵抗値の上昇を防止できる。さらには、めっき浴に、硫黄を含む光沢剤などの添加剤を添加する必要がないことから、他のニッケルめっき製品(表面の面質を光沢にする必要がないニッケルめっき製品)のめっき浴と浴槽を共通化することができ、表面処理鋼板1及び他のニッケルめっき製品の生産効率が向上する。
【0038】
なお、本実施形態においては、ニッケルめっき層12を形成する際のめっき条件のうち、めっき浴の浴温Tは、60~80℃であればよいが、好ましくは65~80℃、より好ましくは70~80℃である。めっき浴の浴温Tを上記範囲とすることにより、得られるニッケルめっき層12は、結晶粒径が小さくなることで表面硬度が高くなり、これにより、表面処理鋼板1とプレス金型との動摩擦係数が低下して、その結果、表面処理鋼板1のプレス加工性が向上する。
【0039】
また、ニッケルめっき層12を形成する際のめっき条件のうち、電流密度Dは、1~10A/dmであればよいが、好ましくは1~8A/dm、より好ましくは3~8A/dmである。さらに、電流密度Dは、形成されるニッケルめっき層12の硬度をより向上させるという観点からは、3~5A/dmが特に好ましく、表面処理鋼板1の製造効率をより向上させるという観点からは、5~8A/dmが特に好ましい。電流密度Dが高すぎると、得られるニッケルめっき層12の硬度が低下し、これにより、表面処理鋼板1とプレス金型との動摩擦係数が増加して、その結果、表面処理鋼板1のプレス加工性が低下する傾向にある。一方、電流密度Dが低すぎると、ニッケルめっき層12の形成速度が低下し、表面処理鋼板1の製造効率が低下してしまう。
【0040】
ニッケルめっき層12を形成する際のめっき条件のうち、電流密度Dに対する、めっき浴の浴温Tの比(T/D)は、上記式(1)を満たす範囲であればよいが(すなわち、6.0以上であればよいが)、下限は好ましくは7.0以上、より好ましくは12.0以上、さらに好ましくは14.0以上であり、上限は好ましくは80.0以下、より好ましくは30以下である。上記比(T/D)が低すぎると、形成されるニッケルめっき層12の硬度が低下し、これにより、表面処理鋼板1とプレス金型との動摩擦係数が増加して、その結果、表面処理鋼板1のプレス加工性が低下する傾向にある。
【0041】
形成するニッケルめっき層12の厚みXは、1.0μm以上であり、かつ、上記式(2)を満たす範囲であればよいが、好ましくは1.2μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。上限は特にないが、本発明においては3.0μm以下で十分な効果を発揮するものであり、特に2.0μm以下の薄いニッケルめっき層においても膜厚に対してプレス加工性が向上するという効果を有するものである。また、形成するニッケルめっき層12の厚みXは、下記式(3)を満たすものであればより好ましい。
X≧-0.5×T/D+5.0 ・・・(3)
形成するニッケルめっき層12の厚みXを上記範囲とすることにより、形成されるニッケルめっき層12の硬度が高くなり、これにより、表面処理鋼板1とプレス金型との動摩擦係数が低下して、その結果、表面処理鋼板1のプレス加工性が向上する。
【0042】
ニッケルめっき層12を形成する際のめっき浴のpHは、好ましくは2.0~5.3、より好ましくは3.3~5.0、さらに好ましくは3.8~4.9である。めっき浴のpHを上記範囲とすることにより、形成されるニッケルめっき層12の硬度が高くなり、これにより、表面処理鋼板1とプレス金型との動摩擦係数が低下して、その結果、表面処理鋼板1のプレス加工性が向上する。
【0043】
なお、表面処理鋼板1におけるアルカリ電池2の外面となる面のニッケルめっき層12の硬度は、荷重10gfで測定したビッカース硬度(HV)が、好ましくは240以上、より好ましくは280以上である。
【0044】
また、表面処理鋼板1におけるアルカリ電池2の外面となる面のニッケルめっき層12は、接触子6mm直径のクロムスチール球、100gf荷重、回転半径10mm、10回転の条件で測定した動摩擦係数が、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.40以下である。
【0045】
ニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)で1.0μm×1.0μmの領域を測定した場合には、10nm以下であり、好ましくは7nm以下である。なお、1.0μm×1.0μmの領域を測定して得られる算術平均粗さ(Ra)は、ニッケルめっき層12の表面におけるミクロな表面粗さを示すものであり、ニッケルめっき層12を構成するニッケルの粒子の特性に依存する。1.0μm×1.0μmの領域における算術平均粗さ(Ra)を上記範囲とすることにより、形成されるニッケルめっき層12の硬度が高くなり、これにより、表面処理鋼板1とプレス金型との動摩擦係数が低下して、その結果、表面処理鋼板1のプレス加工性が向上する。
【0046】
また、ニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)で50μm×50μmの領域を測定した場合には、好ましくは120nm以下、より好ましくは110nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。なお、50μm×50μmの領域を測定して得られる算術平均粗さ(Ra)は、ニッケルめっき層12の表面におけるマクロな表面粗さを示すものである。50μm×50μmの領域における算術平均粗さ(Ra)は原板である鋼板の粗度にも影響されるが、上記範囲とすることにより、形成されるニッケルめっき層12の硬度が高くなりやすく、これにより、表面処理鋼板1とプレス金型との動摩擦係数が低下して、その結果、表面処理鋼板1のプレス加工性が向上する。
【0047】
本実施形態のニッケルめっき層12は、ニッケルめっき層12の表面の結晶方位について、111面、200面、220面、及び311面の中での200面の存在割合が、好ましくは40%超、より好ましくは50%以上である。
【0048】
上述した200面の存在割合は、例えば、ニッケルめっき層12の表面を、X線回折分析することにより測定することができる。具体的には、X線回折装置(株式会社リガク製、SmartLab)を使用し、X線:Cu-45kV―200mA、測定範囲:40°≦2θ≦90°の条件にて測定する方法が挙げられる。このX線回折分析において、各結晶面に基づくピークは、111面が2θ=44.5°、200面が2θ=51.8°、220面が2θ=76.3°、311面が2θ=92.9°にそれぞれ現れるため、各結晶面に基づくピークの積分強度を求め各積分強度を公知の補正値(111面は1、200面は0.42、220面は0.21、311面は0.2)で補正した後、(200面の積分強度/111面、200面、220面及び311面の積分強度の合計)を計算することにより、ニッケルめっき層12の表面における200面の存在割合を求めることができる。
【0049】
なお、本発明者等は、上述しためっき条件にてニッケルめっき層12を形成した場合には、形成されるニッケルめっき層12の200面の存在割合を上記範囲となり、ニッケルめっき層12の表面硬度がより高くなり、これにより、得られる表面処理鋼板1とプレス金型との動摩擦係数がより低下するとの知見を得た。そのため、本発明者等は、このような知見に基づき、電池容器の外面側となる面に形成されるニッケルめっき層12については、耐食性等の特性よりも、表面硬度を高くしてプレス加工性を向上させることに着目し、ニッケルめっき層12の表面硬度を高くする方法の一例として、ニッケルめっき層12の表面の200面の存在割合を上記範囲とすることが好ましいことを見出したものである。
【0050】
ニッケルめっき層12における200面の存在割合を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば、ニッケルめっき層12を形成する際のめっき浴の浴温Tおよび電流密度Dをそれぞれ上記範囲とし、かつ、ニッケルめっき層12を半光沢とする方法が挙げられる。たとえば、後述する実施例17(めっき浴の浴温Tを70℃、電流密度Dを5A/dmとして半光沢のニッケルめっき層12を形成した例)では、ニッケルめっき層12における200面の存在割合は65%であり、後述する実施例20(めっき浴の浴温Tを60℃、電流密度Dを5A/dmとして半光沢のニッケルめっき層12を形成した例)では、ニッケルめっき層12における200面の存在割合は72%であった。
【0051】
本実施形態においては、以上のようにして、鋼板11上にニッケルめっき層12が形成される。なお、ニッケルめっき層12は、鋼板11上に直接形成されたものであってもよいし、鋼板11上に予め下地層を形成しておき、この下地層上に、ニッケルめっき層12を形成するようにしてもよい。
【0052】
下地層としては、特に限定されないが、例えば、図4に示すような表面処理鋼板1bの鉄-ニッケル拡散層14が挙げられる。鉄-ニッケル拡散層14は、予め下地層用ニッケルめっき層を形成した鋼板11を熱処理することで形成することができる。すなわち、鋼板11上に上述したニッケルめっき層12を形成する前に、鋼板11上に、下地層用ニッケルめっき層を形成しておき、この下地層用ニッケルめっき層を形成した鋼板11を熱処理することで、下地層用ニッケルめっき層を熱拡散させ、これにより鉄-ニッケル拡散層14を形成することができる。このとき、下地層用ニッケルめっき層のニッケルめっき付着量は例えば1~9g/m、好ましくは1~5g/mであり、また、鉄-ニッケル拡散層14は、下地層用ニッケルめっきの鉄が表層まで拡散したものであってもよく、下地層用ニッケルめっきの鉄が表層まで拡散せずに、表層に下地層用ニッケルめっき層の一部が熱処理により軟化した状態で残ったものであってもよい。本実施形態においては、下地層として、このような鉄-ニッケル拡散層14を形成することにより、ニッケルめっき層12が、鉄-ニッケル拡散層14を介して鋼板11上に形成されることとなり、ニッケルめっき層12の鋼板11に対する密着性がより向上する。また、ニッケルめっき層12の下地として鉄-ニッケル拡散層14を形成することで、ニッケルめっき層12の厚みを薄くした場合でも、ニッケルめっき層12の硬度をより高いものとすることができる。
【0053】
<ニッケル-コバルト合金めっき層13>
ニッケル-コバルト合金めっき層13は、ニッケル-コバルト合金めっき浴を用いた電解めっきにより、アルカリ電池2の内面となる面のニッケルめっき層12に形成されるめっき層である。本実施形態では、アルカリ電池2の内面となる面にニッケル-コバルト合金めっき層13を形成することにより、得られる表面処理鋼板1の導電性がより向上し、これを加工して得られるアルカリ電池2の電池性能がより向上する。
【0054】
ニッケル-コバルト合金めっき層13を形成するためのニッケル-コバルト合金めっき浴としては、特に限定されないが、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸コバルト及びホウ酸を含有してなるワット浴をベースとしためっき浴を用いることができる。なお、めっき浴中における、コバルト/ニッケル比は、コバルト/ニッケルのモル比で、好ましくは0.10~0.29、より好ましくは0.10~0.24である。
【0055】
ニッケル-コバルト合金めっき層13を形成する際の条件としては、浴温40~80℃、pH2.0~5.0、電流密度1~40A/dmの条件とすることが好ましい。なお、ニッケル-コバルト合金めっき層13を形成するためのめっきを行う際には、鋼板11にエッジマスクを施し、アルカリ電池2の外面となる面のニッケルめっき層12上にニッケル-コバルト合金めっき層13が形成されないようにすることが好ましい。
【0056】
アルカリ電池2の内面となる面に形成されるニッケル-コバルト合金めっき層13の厚みは、好ましくは0.1~0.4μmであり、より好ましくは0.15~0.2μmである。アルカリ電池2の外面となる面にニッケル-コバルト合金めっき層13が形成される場合、該ニッケル-コバルト合金めっき層13は、本発明の効果を阻害しないようにするという観点より、好ましくは厚み0.03μm以下、より好ましくは厚み0.01μm以下であり、形成されないのが最も好ましい。
【0057】
本実施形態の表面処理鋼板1は、以上のようにして構成される。
【0058】
本実施形態の表面処理鋼板1は、深絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、又は絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法などにより、図1,2に示すアルカリ電池2の正極缶21や、その他の電池の電池容器などに成形加工されて用いられる。
【0059】
本実施形態の表面処理鋼板1は、上述したようにプレス加工性に優れたものであるため、電池容器に成形加工する際において、脱脂性に優れた低粘度のプレス油を使用可能であり、成形加工後のプレス油の脱脂を容易に行うことができる。すなわち、プレス油が高粘度であると、プレス金型の疵付き等を防止し易くなる傾向がある一方で、プレス加工後にプレス油の脱脂がし難くなってしまうが、本実施形態の表面処理鋼板1では、低粘度のプレス油を用いた場合でもプレス金型の疵付き等を防止できるため、プレス加工後のプレス油の脱脂洗浄が容易になる。
【0060】
<表面処理鋼板1の製造方法>
次いで、本実施形態の表面処理鋼板1の製造方法について、説明する。
【0061】
まず、鋼板11を構成するための鋼板を準備し、上述したように、鋼板11に対してニッケルめっきを施すことにより、鋼板11の少なくとも外面側にニッケルめっき層12を形成する。なお、内面にも同時にニッケルめっき層を形成してもよく、その場合、鋼板11におけるアルカリ電池2の外面となる面と、アルカリ電池2の内面となる面とに、別々の組成のめっき浴を用いて、組成や表面粗度などが異なるニッケルめっき層12をそれぞれ形成してもよいが、製造効率を向上させる観点より、鋼板11の両面に、同じめっき浴を用いて1工程(1パス)でニッケルめっき層12を形成してもよい。なお、ニッケルめっき層12を形成するためのめっき処理の条件は、上記式(1)および上記式(2)を満たす条件とする。
【0062】
本実施形態では、ニッケルめっき層12を形成した後には、鋼板11とニッケルめっき層12とが熱拡散しないようにすることが好ましい。すなわち、鋼板11を構成する鉄はニッケルより硬度が低いため、鋼板11の鉄がニッケルめっき層12に熱拡散すると、ニッケルめっき層12の硬度が低下し、得られる表面処理鋼板1のプレス加工性が低下するおそれがある。そのため、本実施形態では、ニッケルめっき層12を形成した後は、鋼板11やニッケルめっき層12の熱拡散処理を行わないようにすることにより、ニッケルめっき層12の硬度を高いものとすることができ、これにより、表面処理鋼板1のプレス加工性が向上する。
【0063】
次いで、本実施形態においては、アルカリ電池2の内面となる面のニッケルめっき層12に、ニッケル-コバルト合金めっき浴を用いて、電解めっきによりニッケル-コバルト合金めっき層13を形成することで、図3に示す表面処理鋼板1を得る。
【0064】
以上のようにして、本実施形態の表面処理鋼板1は製造される。
【0065】
本実施形態によれば、上述したように、電池容器の外面となる面に、上記式(1)および上記式(2)を満たす条件でめっき処理を行うことでニッケルめっき層12を形成することにより、ニッケルめっき層12の表面硬度が高くなり、これにより、ニッケルめっき層12とプレス金型との動摩擦係数が低下することとなる。その結果、表面処理鋼板1をプレス加工する際に発生する摩擦熱が抑制され、表面処理鋼板1のカブリや、プレス金型の焼き付き及び疵付きが有効に防止されるようになり、表面処理鋼板1のプレス加工性が向上するとともに、プレス金型の消耗を抑制することが可能となり、プレス金型の長寿命化を図ることができる。したがって、本実施形態の表面処理鋼板1は、プレス加工により成形される電池容器、たとえば、アルカリ電池、ニッケル水素電池などのアルカリ性の電解液を用いる電池や、リチウムイオン電池などの電池容器として好適に用いることができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、ニッケルめっき層12の形成に用いるめっき浴に、ニッケルめっき層12の硬度を高くすることを目的とする添加剤(例えば、有機硫黄化合物などが用いられる)を使用しない場合においても、ニッケルめっき層の硬度を高くすることが可能である。これにより、得られる電池容器は、長期保存後の接触抵抗値の上昇を防止できる。そのため、本実施形態の表面処理鋼板1は、長期間にわたる保管や搭載が予定されている電池、特に、震災時などの非常時に用いるための備蓄用電池や、電気製品のリモコン、懐中電灯などに用いられる電池の電池容器として好適に用いることができる。
【実施例
【0067】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0068】
<表面硬度>
表面処理鋼板1について、微小硬度計(株式会社明石製作所製、MVK-G2)により、ダイヤモンド圧子を用いて、荷重:10gf、保持時間:10秒の条件でビッカース硬度(HV)を測定することにより、ニッケルめっき層12の表面硬度の測定を行った。
【0069】
<動摩擦係数>
表面処理鋼板1について、トライボメータ(CSEM社製、接触子:SUJ-2(クロムスチール鋼)、接触子の直径6mm)を用いて、負荷荷重:100gf、回転半径10mm、回転速度10rpmの条件で試験を行い、10回転後の記録チャートからニッケルめっき層12の動摩擦係数を読み取った。10回転後の接触面積から換算した垂直荷重は1N/mmの条件であった。
【0070】
<光沢度>
表面処理鋼板1について、光沢計(日本電色工業株式会社製、VG-2000)を用いて測定することにより、ニッケルめっき層12の光沢度の測定を行った。
【0071】
《実施例1》
基体として、低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板(厚さ0.25mm)を焼鈍して得られた鋼板11を準備した。
【0072】
そして、準備した鋼板11について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記ベース浴組成と同じ組成の無光沢ニッケルめっき浴にて、浴温60℃、電流密度27A/dmの条件にて下地層用ニッケルめっき層を電解めっきにて形成した後、700℃、1分間の熱処理を行い鉄-ニッケル拡散層14を形成した。その後、さらに下記ベース組成浴に対して0.16ml/Lの脂肪族不飽和アルコール、0.38ml/Lの不飽和カルボン酸、0.3ml/Lのホルムアルデヒド、0.064ml/Lのメタノールを含む半光沢剤を、下記ベース組成浴に添加してなるめっき浴にて、下記条件で電解めっきを行い、鋼板11の鉄-ニッケル拡散層14上の表面に厚さ1.0μmのニッケルめっき層12を形成することで、鋼板11上にニッケルめっき層12が形成されてなる表面処理鋼板1を得た。
ベース浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸45g/L
pH:4.3
浴温:60℃
電流密度:5A/dm
【0073】
そして、得られた表面処理鋼板1について、上述した方法にしたがって表面硬度および動摩擦係数の評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
さらに、実施例1で得られた表面処理鋼板1について、原子間力顕微鏡(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、Dimension icon)を用いて、1.0μm×1.0μmの領域でニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、4.54nmであった。
【0075】
《実施例2,3》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
《比較例1~3》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
なお、表1に記載の実施例1~3および比較例1~3について、上述した方法にしたがって表面処理鋼板1の光沢度の測定を行ったところ、光沢度はいずれも150~200であった。
【0079】
《実施例4~7》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表2に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが1.5μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
さらに、実施例4~7で得られた表面処理鋼板1について、上記の原子間力顕微鏡を用いて、1.0μm×1.0μmの領域でニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、それぞれ、5.65nm(実施例4)、6.90nm(実施例5)、10.00nm(実施例6)および7.79nm(実施例7)であった。
【0081】
《比較例4~6》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表2に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが1.5μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
なお、表2に記載の実施例4~7および比較例4~6について、上述した方法にしたがって表面処理鋼板1の光沢度の測定を行ったところ、光沢度はいずれも150~220であった。
【0084】
《実施例8~11》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表3に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが2.0μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0085】
さらに、実施例8,9で得られた表面処理鋼板1について、上記の原子間力顕微鏡を用いて、50μm×50μmの領域でニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、それぞれ、93.20nm(実施例8)および80.40nm(実施例9)であった。50μm×50μmの領域を測定して得られた画像を、図5Aおよび図5Bに示す。また、実施例8~10で得られた表面処理鋼板1について、上記の原子間力顕微鏡を用いて、1.0μm×1.0μmの領域でニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、それぞれ、8.85nm(実施例8)、4.95nm(実施例9)および8.56nm(実施例10)であった。
【0086】
加えて、実施例8,9で得られた表面処理鋼板1のニッケルめっき層12の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製、JSM-7100F)を用いて測定した。測定して得られた画像を、図6Aおよび図6Bに示す。図6Aおよび図6Bにおいては、灰色部分がニッケルめっき層12を構成するニッケルの粒子を示し、黒い部分がニッケルの粒子間の隙間を示す。
【0087】
《比較例7~10》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表3に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが2.0μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0088】
さらに、比較例9,10で得られた表面処理鋼板1について、上記の原子間力顕微鏡を用いて、50μm×50μmの領域でニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、それぞれ、115.00nm(比較例9)および124.00nm(比較例10)であった。50μm×50μmの領域を測定して得られた画像を、図5Cおよび図5Dに示す。また、比較例9,10で得られた表面処理鋼板1について、上記の原子間力顕微鏡を用いて、1.0μm×1.0μmの領域でニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、それぞれ、11.70nm(比較例9)および11.00nm(比較例10)であった。
【0089】
加えて、比較例9,10で得られた表面処理鋼板1のニッケルめっき層12の表面を、上記の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。測定して得られた画像を、図6Cおよび図6Dに示す。図6Cおよび図6Dにおいては、灰色部分がニッケルめっき層12を構成するニッケルの粒子を示し、黒い部分がニッケルの粒子間の隙間を示す。
【0090】
【表3】
【0091】
なお、表3に記載の実施例8~11および比較例7~10について、上述した方法にしたがって表面処理鋼板1の光沢度の測定を行ったところ、光沢度はいずれも170~240であった。
【0092】
《実施例12~15》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表4に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが2.5μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0093】
《比較例11~14》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表4に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが2.5μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
なお、表4に記載の実施例12~15および比較例11~14について、上述した方法にしたがって表面処理鋼板1の光沢度の測定を行ったところ、光沢度はいずれも180~260であった。
【0096】
《実施例16~19》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表5に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが3.0μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0097】
さらに、実施例17,18で得られた表面処理鋼板1について、上記の原子間力顕微鏡を用いて、1.0μm×1.0μmの領域でニッケルめっき層12の表面の算術平均粗さ(Ra)を測定したところ、それぞれ、2.16nm(実施例17)および6.83nm(実施例18)であった。
【0098】
《比較例15~17》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表5に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが3.0μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
なお、表5に記載の実施例16~19および比較例15~17について、上述した方法にしたがって表面処理鋼板1の光沢度の測定を行ったところ、光沢度はいずれも200~280であった。
【0101】
《比較例18~25》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表6に示すように変更するとともに、形成されるニッケルめっき層12の厚みが0.5μmとなるように、電解めっきの通電時間を調整した以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
なお、表6に記載の比較例18~25について、上述した方法にしたがって表面処理鋼板1の光沢度の測定を行ったところ、光沢度はいずれも130~180であった。
【0104】
表1~5に示すように、電池容器の外面となる面に、上記式(1)および上記式(2)を満たす条件でめっき処理を行うことでニッケルめっき層12を形成した実施例1~19の表面処理鋼板1は、ニッケルめっき層12の厚みが同じである比較例1~17の表面処理鋼板1と比較して、表面硬度が高く、動摩擦係数は同等以下であった。すなわち、ニッケルめっき層12の厚みが1.0μmである表1の実施例1~3と比較例1~3とを比較した場合に、実施例1~3は、比較例1~3より表面硬度が高く、動摩擦係数が低かった。同様に、ニッケルめっき層12の厚みが1.5μmである表2の実施例4~7および比較例4~6、厚みが2.0μmである表3の実施例8~11および比較例7~10、厚みが2.5μmである表4の実施例12~15および比較例11~14、厚みが3.0μmである実施例16~19および比較例15~17についても、それぞれ、実施例は、比較例より、表面硬度が高く、動摩擦係数が低かった。
なお、実施例1~19の表面処理鋼板1のニッケルめっき層12は、いずれも光沢度が150以上、かつ300以下であったため、半光沢であることが確認された。
また、図6A図6Dに示すように、実施例8,9の表面処理鋼板1のニッケルめっき層12は、比較例9,10と比較して、ニッケルの粒子間の隙間(画像中の黒い部分)が、ニッケルの粒子(画像中の灰色部分)によって埋められており、すなわち、ニッケルの粒子間の隙間の溝が平滑化されており、これにより、ニッケルめっき層12の表面硬度が高くなっていると考えられる。
【0105】
一方、表1~5に示すように、ニッケルめっき層12を形成する際に、上記式(1)および上記式(2)のうち少なくとも一方の条件を満たさなかった比較例1~17の表面処理鋼板1は、ニッケルめっき層12の厚みが同じである実施例1~19と比較して、表面硬度が低く、動摩擦係数が高かった。
また、表6に示すように、ニッケルめっき層12の厚みを1.0μm未満とした比較例18~25の表面処理鋼板1は、いずれも表面硬度が比較的低く、動摩擦係数が比較的高かった。
【0106】
《実施例20》
基体として、低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板(厚さ0.25mm)を焼鈍して得られた鋼板11を準備した。
【0107】
そして、準備した鋼板11について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記ベース組成浴に対して0.16ml/Lの脂肪族不飽和アルコール、0.38ml/Lの不飽和カルボン酸、0.3ml/Lのホルムアルデヒド、0.064ml/Lのメタノールを含む半光沢剤を、下記ベース組成浴に添加してなるめっき浴にて、下記条件で電解めっきを行い、鋼板11の表面に厚さ2.0μmのニッケルめっき層12を形成することで、鋼板11上にニッケルめっき層12が形成されてなる表面処理鋼板1を得た。
ベース浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸45g/L
pH:4.3
浴温:60℃
電流密度:5A/dm
【0108】
そして、得られた表面処理鋼板1について、上述した方法にしたがって表面硬度の評価を行った。結果を表7に示す。
【0109】
さらに、実施例20で得られた表面処理鋼板1について、上述した方法にしたがって動摩擦係数の評価を行ったところ、0.11であった。
【0110】
《実施例21~25》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表7に示すように変更した以外は、実施例20と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表7に示す。
【0111】
《比較例26~28》
ニッケルめっき層12を形成する際の電解めっきの浴温および電流密度を表7に示すように変更した以外は、実施例20と同様にして表面処理鋼板1を作製し、同様に評価を行った。結果を表7に示す。
【0112】
【表7】
【0113】
表7に示すように、電池容器の外面となる面に、上記式(1)および上記式(2)を満たす条件でめっき処理を行うことでニッケルめっき層12を形成した実施例20~25の表面処理鋼板1は、ニッケルめっき層12の厚みが同じである比較例26~28の表面処理鋼板1と比較して、表面硬度が高いという結果であり、これにより、動摩擦係数が低いものであると考えられる。実際に、実施例20の表面処理鋼板1は、動摩擦係数が0.11と低い値であった。
なお、実施例20~25の表面処理鋼板1のニッケルめっき層12は、いずれも光沢度が150以上、かつ300以下であったため、半光沢であることが確認された。
【0114】
一方、表7に示すように、ニッケルめっき層12を形成する際に、上記式(1)および上記式(2)のうち少なくとも一方の条件を満たさなかった比較例26~28の表面処理鋼板1は、ニッケルめっき層12の厚みが同じである実施例20~25と比較して、表面硬度が低いという結果であり、これにより、動摩擦係数が高いものであると考えられる。
【符号の説明】
【0115】
1a、1b…表面処理鋼板
11…鋼板
12…ニッケルめっき層
13…ニッケル-コバルト合金めっき層
14…鉄-ニッケル拡散層
2…アルカリ電池
21…正極缶
211…正極端子
22…負極端子
23…正極合剤
24…負極合剤
25…セパレータ
26…集電体
27…ガスケット
28…絶縁リング
29…外装
図1
図2
図3
図4
図5
図6