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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】セラミックス基複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20221205BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20221205BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20221205BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20221205BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C04B35/80 300
B29B11/16
C04B35/488
F01D25/00 L
F02C7/00 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019057453
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020158325
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 革新的構造材料「酸化物系軽量耐熱部材の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 紘介
(72)【発明者】
【氏名】福島 明
(72)【発明者】
【氏名】野上 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】田麥 あづさ
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095484(JP,A)
【文献】特開昭63-288974(JP,A)
【文献】特開平04-124073(JP,A)
【文献】特表2001-502290(JP,A)
【文献】特開2018-090467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
B29B 11/16
F01D 25/00
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセラミックス製の繊維の周囲に、前記周囲を覆う界面層が形成された織布に、ジルコニアゾルを含有するジルコニアゾル含有層を形成するジルコニアゾル含有層形成ステップと、
前記ジルコニアゾル含有層を形成した前記織布に、前駆体としてのポリウレタン系ポリマーを含浸して素体を形成する含浸ステップと、
前記素体に含まれる前記ポリウレタン系ポリマーに酸素を供給する酸素供給ステップと、
前記素体を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、前記ポリウレタン系ポリマーを反応させてマトリクスを形成する不活性焼成ステップと、
前記酸素供給ステップ及び前記不活性焼成ステップの後に、前記素体を酸素雰囲気下で加熱することで、前記界面層を除去して前記繊維と前記マトリクスとの間に空孔を形成するとともに前記マトリクスにおいて前記空孔と対向する空孔側対向領域にジルコニア含有層を形成し、前記繊維同士の間に前記マトリクスが配置されるセラミックス基複合材料を生成する酸素焼成ステップと、
を有し、
前記ジルコニアゾル含有層形成ステップは、
前記織布に、前記ジルコニアゾルを含むアルミナスラリーを塗布して前記ジルコニアゾルを含有するアルミナスラリー塗布層を形成するジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップと、
を有し、
前記ジルコニアゾルを含有するアルミナスラリーは、前記アルミナスラリーのうち溶媒や分散剤等を除く溶質部分の全体の質量を100質量%としたときのジルコニア粉末の含有量が0.01質量%以上5質量%以下である、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項2】
複数のセラミックス製の繊維の周囲に、前記周囲を覆う界面層が形成された織布に、ジルコニアゾルを含有するジルコニアゾル含有層を形成するジルコニアゾル含有層形成ステップと、
前記ジルコニアゾル含有層を形成した前記織布に、前駆体としてのポリウレタン系ポリマーを含浸して素体を形成する含浸ステップと、
前記素体に含まれる前記ポリウレタン系ポリマーに酸素を供給する酸素供給ステップと、
前記素体を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、前記ポリウレタン系ポリマーを反応させてマトリクスを形成する不活性焼成ステップと、
前記酸素供給ステップ及び前記不活性焼成ステップの後に、前記素体を酸素雰囲気下で加熱することで、前記界面層を除去して前記繊維と前記マトリクスとの間に空孔を形成するとともに前記マトリクスにおいて前記空孔と対向する空孔側対向領域にジルコニア含有層を形成し、前記繊維同士の間に前記マトリクスが配置されるセラミックス基複合材料を生成する酸素焼成ステップと、
を有し、
前記ジルコニアゾル含有層形成ステップは、
前記界面層の周囲を覆うジルコニアゾル界面層を形成するジルコニアゾル界面層形成ステップと、
前記織布に、前記ジルコニアゾルを含むアルミナスラリーを塗布して前記ジルコニアゾルを含有するアルミナスラリー塗布層を形成するジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップと、
を有し、
前記ジルコニアゾルを含有するアルミナスラリーは、前記アルミナスラリーのうち溶媒や分散剤等を除く溶質部分の全体の質量を100質量%としたときのジルコニア粉末の含有量が0.01質量%以上5質量%以下である、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記不活性焼成ステップを、前記酸素供給ステップの後に行う、請求項1または請求項2に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記酸素供給ステップにおいて、酸素雰囲気下において前記素体を加熱することで、前記ポリウレタン系ポリマーに酸素を供給し、
前記酸素供給ステップにおける前記素体の加熱温度は、前記不活性焼成ステップ及び前記酸素焼成ステップでの加熱温度より低い、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記酸素供給ステップにおける前記素体の加熱温度は、200℃以上、600℃未満である、請求項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記酸素供給ステップにおいて、水蒸気雰囲気下で前記素体を保持することで、前記ポリウレタン系ポリマーに酸素を供給し、
前記酸素供給ステップにおける前記水蒸気の温度は、前記不活性焼成ステップ及び前記酸素焼成ステップでの加熱温度より低い、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記酸素供給ステップにおける前記水蒸気の温度は、80℃以上、200℃未満である、請求項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記ポリウレタン系ポリマーは、前記繊維と同じ材料のセラミックスを含む、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記界面層は、炭素を主成分とする層である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基複合材料の製造方法及びセラミックス基複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体やエンジン、産業用のガスタービンエンジンの高温となる部分や軽量でかつ高い耐久性が要求される部分に、セラミックス基複合材料(Ceramic Matrix Composites、CMC)を用いることが検討されている。セラミックス基複合材料は、複数の繊維を有する織布と、繊維同士の間の間隙に充填されたマトリクスと呼ばれる補強材と、を有する。セラミックス基複合材料を得るに当たっては、一例としてPIP(Polymer Impregnation and Pyrolysis)法と呼ばれる技術が用いられる。PIP法は、マトリクスの前駆体を含む溶液中で織布に前駆体を含浸させる工程と、前駆体が含浸された織布を焼成する工程とを含む。
【0003】
織布の繊維と前駆体とが接触したまま焼成されると、前駆体により繊維が劣化されて、完成品であるセラミックス基複合材料の強度が低下するおそれがある。そのため、例えば特許文献1に示すように、繊維の周囲に炭素の界面層が形成された織布を前駆体に含浸して、焼成を行う場合がある。繊維の周囲に界面層を形成することで、繊維と前駆体との接触が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-095484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、繊維の周囲に界面層が形成された織布を前駆体に含浸して焼成した場合でも、条件によっては適切に焼成できずに、セラミックス基複合材料の強度低下が抑えられない場合がある。従って、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制することが求められている。また、適切に焼成できてセラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができた場合でも、さらに熱暴露を実施すると、セラミックス基複合材料の強度低下が抑えられない場合がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制可能なセラミックス基複合材料の製造方法及びセラミックス基複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、セラミックス基複合材料の製造方法は、複数のセラミックス製の繊維の周囲に、前記周囲を覆う界面層が形成された織布に、ジルコニアゾルを含有するジルコニアゾル含有層を形成するジルコニアゾル含有層形成ステップと、前記ジルコニアゾル含有層を形成した前記織布に、前駆体としてのポリマーを含浸して素体を形成する含浸ステップと、前記素体に含まれる前記ポリマーに酸素を供給する酸素供給ステップと、前記素体を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、前記ポリマーを反応させてマトリクスを形成する不活性焼成ステップと、前記酸素供給ステップ及び前記不活性焼成ステップの後に、前記素体を酸素雰囲気下で加熱することで、前記界面層を除去して、前記繊維同士の間に前記マトリクスが配置されるセラミックス基複合材料を生成する酸素焼成ステップと、を有する。
【0008】
この構成によれば、繊維と前駆体としてのポリマーとの間に、繊維側から順に界面層とジルコニアゾル含有層とを有する素体を形成してから、ポリマーに基づいてマトリクスを形成し、界面層に基づき空孔を形成することで、マトリクスにおいて空孔と対向する面から所定の厚さまでの空孔側対向領域にジルコニア含有層を形成したセラミックス基複合材料を製造することができる。このため、空孔の存在により、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができるとともに、さらに、ジルコニア含有層の存在により、熱暴露に対するセラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができる。
【0009】
この構成において、前記ジルコニアゾル含有層形成ステップは、前記界面層の周囲を覆うジルコニアゾル界面層を形成するジルコニアゾル界面層形成ステップと、前記ジルコニアゾル界面層が形成された前記織布にアルミナスラリーを塗布してアルミナスラリー塗布層を形成するアルミナスラリー塗布ステップと、を有することが好ましい。この構成によれば、ジルコニアゾル含有層として空孔側にジルコニアゾル界面層を形成することができ、これにより、ジルコニアゾル界面層に基づくジルコニア含有層を空孔側対向領域に形成することができるので、好適に、熱暴露に対するセラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができる。
【0010】
もしくは、この構成において、前記ジルコニアゾル含有層形成ステップは、前記織布に、前記ジルコニアゾルを含むアルミナスラリーを塗布して前記ジルコニアゾルを含有するアルミナスラリー塗布層を形成するジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップと、を有することが好ましい。この構成によれば、ジルコニアゾル含有層としてジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層を形成することができ、これにより、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層に基づくジルコニア含有層を空孔側対向領域に形成することができるので、好適に、熱暴露に対するセラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができる。
【0011】
もしくは、この構成において、前記ジルコニアゾル含有層形成ステップは、前記界面層の周囲を覆うジルコニアゾル界面層を形成するジルコニアゾル界面層形成ステップと、前記織布に、前記ジルコニアゾルを含むアルミナスラリーを塗布して前記ジルコニアゾルを含有するアルミナスラリー塗布層を形成するジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップと、を有することが好ましい。この構成によれば、ジルコニアゾル含有層として、空孔側から順にジルコニアゾル界面層及びジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層を形成することができ、これにより、ジルコニアゾル界面層及びジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層に基づくジルコニア含有層を空孔側対向領域に形成することができるので、より好適に、熱暴露に対するセラミックス基複合材料の強度低下をさらに抑制することができる。
【0012】
また、これらの構成において、前記不活性焼成ステップを、前記酸素供給ステップの後に行うことが好ましい。この構成によれば、酸素供給ステップを先に行うため、ポリマーに十分に酸素を供給した状態で、不活性焼成ステップにおいて、酸素供給ステップで酸素含有状態となったポリマーである酸素含有ポリマーを反応させてマトリクスを形成することができるので、マトリクスの形成反応をより好適に実行することができる。
【0013】
また、これらの構成において、前記酸素供給ステップにおいて、酸素雰囲気下において前記素体を加熱することで、前記ポリマーに酸素を供給し、前記酸素供給ステップにおける前記素体の加熱温度は、前記不活性焼成ステップ及び前記酸素焼成ステップでの加熱温度より低いことが好ましい。この構成によれば、酸素供給ステップにおいて、酸素雰囲気下において素体を低温加熱するため、ポリマーの反応や界面層の除去を抑制しながら、ポリマーに酸素を供給することができるので、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができる。さらに、前記酸素供給ステップにおける前記素体の加熱温度は、200℃以上、600℃未満であることが好ましい。この構成によれば、好適に、ポリマーの反応や界面層の除去を抑制しながら、ポリマーに酸素を供給することができるので、セラミックス基複合材料の強度低下を好適に抑制することができる。
【0014】
また、これらの構成において、前記酸素供給ステップにおいて、水蒸気雰囲気下で前記素体を保持することで、前記ポリマーに酸素を供給し、前記酸素供給ステップにおける前記水蒸気の温度は、前記不活性焼成ステップ及び前記酸素焼成ステップでの加熱温度より低いことが好ましい。この構成によれば、水蒸気雰囲気下において素体を保持するため、ポリマーの反応や界面層の除去を抑制しながら、ポリマーに酸素を供給することができるので、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができる。さらに、前記酸素供給ステップにおける前記水蒸気の温度は、80℃以上、200℃未満であることが好ましい。この構成によれば、好適に、ポリマーの反応や界面層の除去を抑制しながら、ポリマーに酸素を供給することができるので、セラミックス基複合材料の強度低下を好適に抑制することができる。
【0015】
また、これらの構成において、前記ポリマーは、前記繊維と同じ材料のセラミックスを含むことが好ましい。この構成によれば、このようなポリマーを用いることで、セラミックス基複合材料を好適に製造できる。
【0016】
また、これらの構成において、前記界面層は、炭素を主成分とする層であることが好ましい。この構成によれば、このような界面層を用いることで、繊維とポリマーとの接触を好適に抑制して、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができる。
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、セラミックス基複合材料は、複数のセラミックス製の繊維と、前記繊維同士の間に配置され、ポリマーを前駆体として形成されたマトリクスと、前記繊維と前記マトリクスとの間に形成された空孔と、前記マトリクスにおいて前記空孔と対向する面から所定の厚さまでの空孔側対向領域に形成され、ジルコニアを含有するジルコニア含有層と、を有する。
【0018】
この構成によれば、マトリクスにおいて空孔と対向する面から所定の厚さまでの空孔側対向領域にジルコニア含有層が形成されている。このため、空孔の存在により、強度低下が抑制されたセラミックス基複合材料となるとともに、さらに、ジルコニア含有層の存在により、熱暴露に対する強度低下も抑制されたセラミックス基複合材料となる。
【0019】
この構成において、前記ジルコニア含有層は、ジルコニアが前記空孔側対向領域に偏在していることが好ましい。この構成によれば、ジルコニア含有層の存在により、好適に、熱暴露に対する強度低下が抑制されたセラミックス基複合材料となる。
【0020】
もしくは、この構成において、前記ジルコニア含有層は、ジルコニアが前記空孔側対向領域から分散していることが好ましい。この構成によれば、ジルコニア含有層の存在により、好適に、熱暴露に対する強度低下が抑制されたセラミックス基複合材料となる。
【0021】
もしくは、この構成において、前記ジルコニア含有層は、ジルコニアの一部が前記空孔側対向領域に偏在しており、ジルコニアの残りの一部が前記空孔側対向領域から分散していることが好ましい。この構成によれば、ジルコニア含有層の存在により、より好適に、熱暴露に対する強度低下がさらに抑制されたセラミックス基複合材料となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制可能なセラミックス基複合材料の製造方法及びセラミックス基複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料の製造システムのブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料の製造方法を示すフローチャートである。
図3図3は、第1の実施形態に係る裁断ステップから含浸ステップまでの詳細を説明する説明図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る積層ステップ及び含浸ステップの詳細を説明する説明図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る積層ステップ及び含浸ステップの詳細を説明する別の説明図である。
図6図6は、第1の実施形態に係る界面層形成ステップの詳細を説明する説明図である。
図7図7は、第1の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップの詳細を示すフローチャートである。
図8図8は、第1の実施形態に係る酸素供給ステップから酸素焼成ステップまでの詳細を説明する説明図である。
図9図9は、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料の構成を示す模式図である。
図10図10は、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料の詳細な構成を示す模式図である。
図11図11は、第2の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップの詳細を示すフローチャートである。
図12図12は、第2の実施形態に係る裁断ステップから含浸ステップまでの詳細を説明する説明図である。
図13図13は、第2の実施形態に係る酸素供給ステップから酸素焼成ステップまでの詳細を説明する説明図である。
図14図14は、第3の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップの詳細を示すフローチャートである。
図15図15は、第3の実施形態に係る裁断ステップから含浸ステップまでの詳細を説明する説明図である。
図16図16は、第3の実施形態に係る酸素供給ステップから酸素焼成ステップまでの詳細を説明する説明図である。
図17図17は、本発明に係る各実施形態に関する実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0025】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料の製造システム1のブロック図である。第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料の製造システム1は、PIP(Polymer Impregnation and Pyrolysis)法の処理に供する素体100-1を形成し、この形成した素体100-1をPIP法によって処理することで、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1を製造するシステムであり、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法を実施するシステムである。
【0026】
セラミックス基複合材料の製造システム1は、図1に示すように、素体形成装置2と、酸素供給装置4と、不活性焼成装置6と、大気焼成装置8とを有する。素体形成装置2は、後述する裁断ステップS10、界面層形成ステップS12、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13、積層ステップS14及び含浸ステップS16(いずれも図2参照)を実行することで、後述する素体100-1(図4から図6図8参照)を形成する装置である。
【0027】
酸素供給装置4は、後述の酸素供給ステップS18(図2参照)を実行する装置であり、不活性焼成装置6は、後述の不活性焼成ステップS20(図2参照)を実行する装置であり、大気焼成装置8は、後述の酸素焼成ステップS22(図2参照)を実行する装置である。酸素供給装置4、不活性焼成装置6及び大気焼成装置8は、素体形成装置2が形成した素体100-1に対して酸素供給ステップS18、不活性焼成ステップS20及び酸素焼成ステップS22の各処理を実行することで、セラミックス基複合材料(Ceramic Matrix Composites、CMC)の部材であるセラミックス基複合材料103-1(図8から図10参照)を生成する。なお、素体形成装置2と、酸素供給装置4と、不活性焼成装置6と、大気焼成装置8とは、上記したそれぞれのステップを実行可能な装置であれば、構造などは任意である。
【0028】
図2は、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法を示すフローチャートである。セラミックス基複合材料の製造システム1によって実行される第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、セラミックス基複合材料103-1を製造する方法であり、図2に示すように、裁断ステップS10と、界面層形成ステップS12と、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13と、積層ステップS14と、含浸ステップS16と、酸素供給ステップS18と、不活性焼成ステップS20と、酸素焼成ステップS22と、を有する。
【0029】
図3は、第1の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの詳細を説明する説明図である。図4は、第1の実施形態に係る積層ステップS14及び含浸ステップS16の詳細を説明する説明図である。図5は、第1の実施形態に係る積層ステップS14及び含浸ステップS16の詳細を説明する別の説明図である。図6は、第1の実施形態に係る界面層形成ステップS12の詳細を説明する説明図である。図3から図5は、いずれも、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の元となる素体100-1を示している。素体100-1は、素体形成装置2による第1の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの処理を経て形成される。以下において、図3から図6を用いて、第1の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの処理の詳細を説明する。
【0030】
裁断ステップS10は、素体形成装置2が、複数のセラミックス製の繊維22を含んで構成された織布20(図5参照)を、予め定められた所望の形状及び寸法に裁断するステップである。
【0031】
ここで、織布20は、図5に示すように、繊維束21の織物であり、すなわち、繊維束21を織ることで形成される織物である。織布20は、繊維束21に対して平織りや、朱子織りを施すことで形成することができる。さらに、織布20は繊維束21を用いた不織布として形成することもできる。
【0032】
繊維束21は、図5に示すように、複数の繊維22を有しており、複数の繊維22が束状となって構成されている。繊維22は、断面の直径が10μm程度のものが好適に使用される。繊維22は、セラミックスを主成分とする繊維、すなわちセラミックス製の繊維である。繊維22は、酸化物系セラミックスを主成分としていることが好ましい。繊維22に主成分として採用される酸化物系セラミックスは、具体的には、アルミナ(Al、酸化アルミニウム)及びムライト(Al13Si、アルミノケイ酸塩の一種)などが好適なものとして例示される。また、繊維22は、SiC系の繊維であってもよい。
【0033】
界面層形成ステップS12は、素体形成装置2が、図3に示すように、裁断ステップS10で裁断した織布20の繊維束21が有する各繊維22の周囲に、各繊維22の周囲を覆う界面層23を形成するステップである。
【0034】
界面層形成ステップS12では、具体的には、素体形成装置2が、まず、各繊維22の周囲に、所定の樹脂を付着させる。界面層形成ステップS12では、素体形成装置2が、次に、周囲に所定の樹脂を付着させた各繊維22を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、各繊維22に付着させた樹脂に所定の化学反応を引き起こし、各繊維22に付着させた樹脂を変性させて、各繊維22の周囲を覆う界面層23を形成する。
【0035】
ここで、界面層形成ステップS12で各繊維22の周囲に付着させる所定の樹脂は、各繊維22及び後述するポリマー30とは異なる材料(化合物)が用いられ、具体的には、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン、ポリアルキシレングリコール、ポリオレフィン樹脂、ビニルエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ピッチ系樹脂の群から選択された少なくとも1種類の樹脂を含むことが好ましく、この場合、上記の群から選択された少なくとも1種類の樹脂を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、界面層23を容易に形成することができる。
【0036】
また、界面層形成ステップS12で使用する不活性ガスは、第1の実施形態では窒素(N)を用いているが、本発明ではこれに限定されず、例えばアルゴン(Ar)等のその他の周知の不活性ガスを用いることもできる。
【0037】
例えば、界面層形成ステップS12において、素体形成装置2が、各繊維22の周囲に、所定の樹脂としてポリウレタン系のポリマー化合物を付着させて、不活性ガス雰囲気下で加熱した場合、各繊維22の周囲において、ポリウレタン系のポリマー化合物に、図6に示すポリウレタンの合成と熱分解とを含む化学反応が引き起こされ、界面層23としてのCNOが生成される。
【0038】
なお、界面層形成ステップS12では、素体形成装置2が、第1の実施形態では、各繊維22の周囲に対する所定の樹脂の付着処理及び不活性ガス雰囲気下での加熱処理を実行することで界面層23を形成しているが、本発明はこれに限定されず、各繊維22の周囲に対する蒸着及びスパッタリング等に例示される直接接合処理を実行することで界面層23を形成してもよい。
【0039】
図7は、第1の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13の詳細を示すフローチャートである。第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法におけるジルコニアゾル含有層形成ステップS13は、図3に示すように、複数のセラミックス製の繊維22の周囲に、周囲を覆う界面層23が形成された織布20に、ジルコニアゾルを含有するジルコニアゾル含有層24-1を形成するステップであり、図7に示すように、ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1と、アルミナスラリー塗布ステップS13-2と、を有する。
【0040】
ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1は、図3に示すように、素体形成装置2が、界面層23の周囲を覆うジルコニアゾル界面層26を形成するステップである。
【0041】
ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1では、具体的には、素体形成装置2が、界面層23の周囲に、液状のジルコニアゾルを塗布してジルコニアゾル塗布膜を形成し、真空などの減圧下に置くことでジルコニアゾル塗布膜の界面層23への含浸を促し、ジルコニアゾル塗布膜を繊維束21の内部まで含浸させてから乾燥させることで、このジルコニアゾル塗布膜に含まれる溶媒等を揮発させることにより、ジルコニアゾル界面層26を形成する。
【0042】
ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1で形成するジルコニアゾル界面層26の厚さは、第1の実施形態では、ジルコニアゾルに含有されるジルコニア粉末が後述する形態のものが用いられるため、90nm以上もしくは100nm以上である。また、ジルコニアゾル界面層26の厚さは、第1の実施形態では、繊維22の断面の直径以下、具体的には10μm以下であり、繊維22の断面の直径の10分の1以下、具体的には1μm以下であることが好ましい。
【0043】
なお、ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1で使用されるジルコニアゾルに含有されるジルコニア粉末は、粉末を球状近似した際の直径である粒径が繊維22の断面の直径の10分の1以下程度のもの、すなわち第1の実施形態では、1μm以下程度のものが好適に使用され、この場合、界面層23の周囲に緻密なジルコニアゾル界面層26を好適に形成することができる。また、このジルコニア粉末は、粒径が90nm程度もしくは100nm程度のものが好ましく用いられる。なお、ジルコニアゾル界面層26は、緻密に形成されなくても、本実施形態では特に問題にならないので、構わない。
【0044】
また、ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1で使用されるジルコニアゾルは、水性ゾルであることが好ましく、さらに、高濃度、すなわちジルコニアゾルのうち溶媒や分散剤等を除く溶質部分の全体の質量を100質量%としたときのジルコニア粉末の含有量(以下において、第1ジルコニア含有率、と称する)が1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、なおかつ、クロルフリー(塩素成分を所定の閾値以上含まない)であることがより好ましく、これらの場合、ジルコニアゾル界面層26としてジルコニア粉末同士の焼結性が高く、かつ、耐熱性が高いジルコニア層を好適に形成することができる。また、ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1で使用されるジルコニアゾルに使用する溶剤は、例えば水が問題なく使用することができる。
【0045】
アルミナスラリー塗布ステップS13-2は、図3に示すように、素体形成装置2が、ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1でジルコニアゾル界面層26が形成された織布20にアルミナスラリーを塗布して、この塗布したアルミナスラリーに対して、上記したジルコニア塗布膜に対して実行した処理と同様の処理を施すことで、アルミナスラリーに含まれる溶媒等を揮発させることにより、ジルコニアゾル界面層26の周囲を覆うアルミナスラリー塗布層27を形成するステップである。
【0046】
アルミナスラリー塗布ステップS13-2で形成するアルミナスラリー塗布層27の厚さは、第1の実施形態では、ジルコニアゾル界面層26と同様の厚さであり、90nm以上もしくは100nm以上である。また、アルミナスラリー塗布層27の厚さは、第1の実施形態では、繊維22の断面の直径以下、具体的には10μm以下であり、繊維22の断面の直径の10分の1以下、具体的には1μm以下であることが好ましい。
【0047】
アルミナスラリー塗布ステップS13-2で使用されるアルミナスラリーは、周知のものを使用することができる。
【0048】
このように、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13は、第1の実施形態では、ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1によりジルコニアゾル界面層26を形成し、アルミナスラリー塗布ステップS13-2によりアルミナスラリー塗布層27を形成することで、界面層23の周囲側から外側に向かって順次積層されたジルコニアゾル界面層26とアルミナスラリー塗布層27とを有するジルコニアゾル含有層24-1を形成する処理となっている。
【0049】
積層ステップS14は、素体形成装置2が、裁断ステップS10、界面層形成ステップS12及びジルコニアゾル含有層形成ステップS13を経て形成された織布20を、所望の厚さになるまで複数積層するステップである。
【0050】
積層ステップS14では、例えば、素体形成装置2が、繊維22の長軸方向を層ごとに違えて織布20を積層することで、具体的には、各層の繊維22の長軸方向を(360/n)°ごとに違えてn層の織布20を積層することで、積層後の織布20に擬似等方性を持たせることができる。
【0051】
含浸ステップS16は、素体形成装置2が、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13でジルコニアゾル含有層24-1を形成した織布20に、マトリクス32(図8及び図10参照)の前駆体としてのポリマー30を含浸して素体100-1を形成するステップである。
【0052】
含浸ステップS16では、具体的には、素体形成装置2が、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13でジルコニアゾル含有層24-1を形成した織布20を、流動性を有するスラリー状のポリマー30に浸して、複数の繊維束21同士の間、もしくは、織布20の繊維束21が有する各繊維22同士の間に、界面層23及びジルコニアゾル含有層24-1を介して、ポリマー30を充填させる。
【0053】
このように、含浸ステップS16は、第1の実施形態では、織布20の積層体にポリマー30を含浸することで、図4及び図5に示すような織布20にポリマー30が含浸された繊維層10-1、すなわち織布20とポリマー30とを有する繊維層10-1の積層体である素体100-1を形成する処理となっている。繊維層10-1は、第1の実施形態では、より詳細には、織布20(繊維束21及び繊維22)と、界面層23と、ジルコニアゾル含有層24-1(ジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27)と、ポリマー30とを有する。
【0054】
このように、素体形成装置2による第1の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの処理を経て形成された素体100-1は、例えば、図4に示すように、複数の繊維層10-1を積層することで、薄肉板状に形成されており、すなわち、素体100-1は、重なり合って配置された複数の繊維層10-1を有する形態となっている。なお、この素体100-1は、図4に示す例では、複数の繊維層10-1同士の間に境界線を便宜的に表示しているが、実際には、図5に示すように、繊維層10-1同士の間にこのような明確な境界線は存在せず、複数の繊維層10-1同士は一体をなしている。また、素体100-1の形状は、図4に示す板形状に限定されず、種々の形状とすることができる。
【0055】
ここで、含浸ステップS16で織布20の積層体に含浸させるポリマー30は、後述の不活性焼成ステップS20及び酸素焼成ステップS22で熱分解することで硬化してマトリクス32となるマトリクス32の前駆体である。ここで、含浸ステップS16で織布20の積層体に含浸させるポリマー30は、具体的には、酸化物系セラミックスの前駆体であることが好ましく、また、繊維22と同じセラミックス、すなわちアルミナおよびムライトなどの酸化物系セラミックスの前駆体であり、Al-O結合やSi-O結合などのメタロキサン(M-O結合)を含んでいることがより好ましい。
【0056】
なお、第1の実施形態では、積層ステップS14で積層した後に、含浸ステップS16で織布20の積層体にポリマー30を含浸するという順番で処理を実行しているが、本発明はこれに限定されず、含浸ステップS16を先に実行して繊維層10-1を形成した後に、積層ステップS14を実行して繊維層10-1を積層して素体100-1を形成してもよい。
【0057】
このように、裁断ステップS10から含浸ステップS16までの各処理は、素体形成装置2により、織布20、界面層23となる所定の樹脂、ジルコニアゾル含有層24-1に含まれるジルコニアゾル及びアルミナスラリー、ポリマー30等の原材料に基づいて、素体100-1を形成する処理となっている。なお、第1の実施形態では、裁断ステップS10から含浸ステップS16までの各処理を、素体形成装置2が実行しているが、本発明ではこれに限定されず、ここまでの各処理の一部または全部の処理を作業者の手作業等により実行してもよい。
【0058】
裁断ステップS10から含浸ステップS16までの各処理以降の酸素供給ステップS18から酸素焼成ステップS22までの各処理は、酸素供給装置4、不活性焼成装置6及び大気焼成装置8により、この前の処理で形成した素体100-1に基づいて、セラミックス基複合材料103-1を製造する処理となっている。
【0059】
図8は、第1の実施形態に係る酸素供給ステップS18から酸素焼成ステップS22までの詳細を説明する説明図である。以下において、図8を用いて、第1の実施形態に係る酸素供給ステップS18から酸素焼成ステップS22までの処理の詳細を説明する。ここで、図8の4つの図はいずれも断面構成図となっており、図8の左上は、裁断ステップS10から含浸ステップS16までの各処理を経て形成された素体100-1を示しており、図8の右上は、素体100-1に対して酸素供給ステップS18を施して得られる酸素含有素体101-1を示しており、図8の左下は、酸素含有素体101-1に対して不活性焼成ステップS20を施して得られる不活性焼成素体102-1を示しており、図8の右下は、不活性焼成素体102-1に対して酸素焼成ステップS22を施して得られるセラミックス基複合材料103-1を示している。
【0060】
酸素供給ステップS18は、酸素供給装置4が、図8の左上及び右上に示すように、素体100-1に含まれるポリマー30に、すなわち織布20に含浸させたポリマー30に、酸素を供給することで、ポリマー30に酸素を含有させる、もしくは、ポリマー30を酸化させて、このポリマー30を酸素含有ポリマー31に変性させて、酸素含有素体101-1を得るステップである。
【0061】
酸素供給ステップS18では、ポリマー30以外の部分には化学的反応が起こらないので、素体100-1に含まれる織布20(繊維束21及び繊維22)、界面層23及びジルコニアゾル含有層24-1(ジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27)は、そのままの形状及び組成で、酸素含有素体101-1に含まれる。
【0062】
酸素供給ステップS18では、具体的には、酸素供給装置4が、酸素雰囲気を形成し、この酸素雰囲気下において、素体100-1を所定の第1温度で加熱することで、ポリマー30に酸素を供給して酸素含有ポリマー31に変性させる。ここで、酸素供給ステップS18で形成される酸素雰囲気は、酸素が含まれる気体の雰囲気のことを指し、具体的には、大気雰囲気、及び、酸素のみが含まれる気体の雰囲気等が好適なものとして例示される。
【0063】
酸素供給ステップS18における素体100-1の加熱温度である第1温度は、後述する不活性焼成ステップS20における加熱温度である第2温度より低く、なおかつ、後述する酸素焼成ステップS22における加熱温度である第3温度より低い。第1温度は、界面層23の酸化を抑制可能な程度に低い温度である。また、第1温度は、ポリマー30の酸化を活性化させる程度に高い温度であることが好ましい。第1温度は、具体的には、200℃以上600℃未満であることが好ましく、400℃以上500℃以下であることがより好ましい。酸素供給ステップS18では、上記した後述する第2温度及び第3温度よりも低温である比較的低温の第1温度で素体100-1を加熱することで、界面層23の酸化を好適に抑制しつつ、ポリマー30の酸化を好適に促進することができる。
【0064】
酸素供給ステップS18における素体100-1の加熱時間である第1加熱時間は、5分以上である。また、第1加熱時間は、180分以下であることが好ましい。なお、酸素供給ステップS18の第1加熱時間は、本発明ではこれに限定されず、選択した原材料、第1温度、雰囲気環境等に応じて、適宜変更することができる。酸素供給装置4は、このような酸素供給ステップS18を実行する場合、具体的には、第1の実施形態では、大気中で加熱する加熱炉、及び、内部に雰囲気を形成して加熱する雰囲気加熱炉等が好適なものとして例示される。
【0065】
酸素供給ステップS18では、また、具体的には、酸素供給装置4が、所定温度の水蒸気雰囲気を形成し、この所定温度の水蒸気雰囲気下で素体100-1を所定時間保持して晒すことで、ポリマー30に酸素を供給して酸素含有ポリマー31に変性させてもよい。ここで、酸素供給ステップS18における水蒸気雰囲気の所定温度は、80℃以上200℃以下が好ましい。酸素供給ステップS18では、上記した所定温度の水蒸気雰囲気下で素体100-1を保持して晒すことで、界面層23の酸化を好適に抑制しつつ、ポリマー30の酸化を好適に促進することができる。
【0066】
酸素供給ステップS18において素体100-1を水蒸気雰囲気下で保持する所定時間は、60分以上である。また、この酸素供給ステップS18の所定時間は、180分以下であることが好ましい。なお、この酸素供給ステップS18の所定時間は、本発明ではこれに限定されず、選択した原材料、第1温度、雰囲気環境等に応じて、適宜変更することができる。酸素供給装置4は、このような酸素供給ステップS18を実行する場合、具体的には、第1の実施形態では、水蒸気を晒す蒸気暴露装置等が好適なものとして例示される。
【0067】
なお、酸素供給装置4は、本発明では上記した形態に限定されず、ポリマー30に酸素を供給することが可能な形態であれば、どのような形態であってもよい。
【0068】
不活性焼成ステップS20は、不活性焼成装置6が、図8の右上及び左下に示すように、酸素供給ステップS18で処理した素体100-1である酸素含有素体101-1を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、酸素供給ステップS18で酸素含有状態となったポリマー30である酸素含有ポリマー31を不活性ガス雰囲気下で加熱して反応させてマトリクス32を形成して、不活性焼成素体102-1を得るステップである。
【0069】
不活性焼成ステップS20では、具体的には、不活性焼成装置6が、酸素含有素体101-1を不活性ガス雰囲気下で所定の第2温度で加熱することで、酸素の含有が抑制されている界面層23の酸化反応を抑制して界面層23を残存させるとともに、酸素を含有させた状態の酸素含有ポリマー31の酸化反応を促進してマトリクス32に変性させることができる。ここで、不活性焼成ステップS20で形成される不活性ガス雰囲気は、不活性ガスの雰囲気のことを指し、非酸素雰囲気、すなわち酸素が含まれない気体の雰囲気であることが好ましく、具体的には、窒素の雰囲気、及び、アルゴン等の希ガスの雰囲気等が好適なものとして例示される。
【0070】
不活性焼成ステップS20では、酸素含有ポリマー31に脱水反応を生じさせ、酸素含有ポリマー31に含有されるヒドロキシ基(-OH基)をオキソ基(-O基)とし、さらに、近接するオキソ基同士の間で分子間縮合を生じさせ、また、オキソ基による分子内縮合を生じさせることで、前駆体としてのポリマー30であった酸素含有ポリマー31をマトリクス32とする。不活性焼成ステップS20では、前駆体としてのポリマー30として繊維22と同じセラミックスの前駆体を使用している場合、マトリクス32として、繊維22と同じセラミックス、すなわちアルミナおよびムライトなどの酸化物系セラミックスの固化体を形成する。なお、不活性焼成ステップS20では、この酸素含有ポリマー31からマトリクス32に変性する一連の化学反応を完結させる必要はなく、後述する酸素焼成ステップS22まで継続させてもよい。
【0071】
不活性焼成ステップS20では、また、アルミナスラリー塗布層27と変性してマトリクス32になろうとする酸素含有ポリマー31とが互いに接触した状態で、所定の第2温度で加熱することに伴い、アルミナスラリー塗布層27がマトリクス32になろうとする酸素含有ポリマー31に取り込まれて、マトリクス32に併合する。また、ジルコニアゾル界面層26は、不活性焼成ステップS20を経て、概ね焼結する。これにより、不活性焼成ステップS20による処理を経て、図8の右上及び左下に示すように、ジルコニアゾル含有層24-1のうちのジルコニアゾル界面層26が、焼結されたジルコニアを含有するジルコニア含有層25-1となり、ジルコニアゾル含有層24-1のうちのアルミナスラリー塗布層27が、マトリクス32に併合される。
【0072】
不活性焼成ステップS20では、ジルコニアゾル界面層26、アルミナスラリー塗布層27及び酸素含有ポリマー31以外の部分には化学的反応が起こらないので、酸素含有素体101-1に含まれる織布20(繊維束21及び繊維22)、界面層23は、そのままの形状及び組成で、不活性焼成素体102-1に含まれる。
【0073】
不活性焼成ステップS20における酸素含有素体101-1の加熱温度である第2温度は、上記したように第1温度より高い。第2温度は、酸素含有ポリマー31を脱水反応させることが可能な程度に高い温度であり、800℃以上1300℃以下であることが好ましい。
【0074】
不活性焼成ステップS20では、酸素含有素体101-1を不活性ガス雰囲気下で上記した第2温度で加熱するため、界面層23の酸化を好適に抑制しつつ、マトリクス32の生成を好適に促進することができる。このため、不活性焼成ステップS20では、界面層23によって、繊維22とマトリクス32になろうとする酸素含有ポリマー31との接触が妨げられるので、互いに分離した状態を保持することができる。
【0075】
不活性焼成ステップS20における酸素含有素体101-1の加熱時間である第2加熱時間は、5分以上である。また、第2加熱時間は、180分以下であることが好ましい。なお、不活性焼成ステップS20の第2加熱時間は、本発明ではこれに限定されず、選択した原材料、第2温度、雰囲気環境等に応じて、適宜変更することができる。不活性焼成装置6は、このような不活性焼成ステップS20を実行する場合、具体的には、第1の実施形態では、内部に雰囲気を形成して加熱する雰囲気加熱炉等が好適なものとして例示される。不活性焼成装置6は、酸素供給装置4が雰囲気加熱炉である場合、酸素供給装置4と共通の装置を使用してもよい。
【0076】
なお、第1の実施形態では、酸素供給ステップS18でポリマー30に酸素を供給した後に、不活性焼成ステップS20でポリマー30をマトリクス32に変性させる順番で処理を実行しているが、本発明はこれに限定されず、不活性焼成ステップS20でポリマー30を熱活性してから、酸素供給ステップS18でポリマー30に酸素を供給することで、熱活性した状態のポリマー30をマトリクス32に変性させてもよい。この場合にも、界面層23の酸化を好適に抑制しつつ、マトリクス32の生成を好適に促進することができる。
【0077】
また、第1の実施形態では、含浸ステップS16、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20をこの順で1回のみ実行する形態について説明しているが、本発明はこれに限定されず、含浸ステップS16、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20を複数回繰り返して実行してもよい。例えば、1回目の含浸ステップS16及び1回目の酸素供給ステップS18の後に処理のフローを戻して2回目の含浸ステップS16を実行してさらにポリマー30を含浸させて、その後、再度、2回目の酸素供給ステップS18を実行してポリマー30への酸素供給を行ってから、1回目の不活性焼成ステップS20を全てのポリマー30に対してまとめて実行してもよい。また、1回目の不活性焼成ステップS20の後にさらに3回目の含浸ステップS16に戻ってさらにポリマー30を含浸させて、その後、再度、3回目の酸素供給ステップS18及び2回目の不活性焼成ステップS20を実行してもよい。このように、含浸ステップS16、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20を複数回繰り返すことで、後述する酸素焼成ステップS22を施した結果、より緻密なマトリクス32を有するセラミックス基複合材料103-1を製造することができる。
【0078】
酸素焼成ステップS22は、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20の後に、大気焼成装置8が、図8の左下及び右下に示すように、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20の各処理が施された素体100-1である不活性焼成素体102-1を酸素雰囲気下で加熱することで、界面層23を除去して、界面層23が形成されていた領域に空孔33を形成して、繊維22同士の間にマトリクス32が配置されるセラミックス基複合材料103-1を生成するステップである。
【0079】
酸素焼成ステップS22では、具体的には、大気焼成装置8が、酸素雰囲気を形成し、この酸素雰囲気下において、不活性焼成素体102-1を所定の第3温度で加熱することで、界面層23に酸化反応を伴う分解反応を引き起こして除去するとともに、不活性焼成ステップS20で完了していない場合に酸素含有ポリマー31からマトリクス32への変性反応を更に促進させることができる。ここで、酸素焼成ステップS22で形成される酸素雰囲気は、酸素供給ステップS18で形成される酸素雰囲気と同様に、酸素が含まれる気体の雰囲気のことを指し、具体的には、大気雰囲気、及び、酸素のみが含まれる気体の雰囲気等が好適なものとして例示される。
【0080】
酸素焼成ステップS22における不活性焼成素体102-1の加熱温度である第3温度は、上記したように第1温度より高い。第3温度は、界面層23を分解反応させることが可能であり、なおかつ、酸素含有ポリマー31を脱水反応させることが可能な程度に高い温度であり、第2温度と同様に、800℃以上1300℃以下であることが好ましい。
【0081】
酸素焼成ステップS22では、不活性焼成素体102-1を酸素雰囲気下で上記した第3温度で加熱するため、界面層23の分解反応を促進しつつ、マトリクス32の生成を好適に促進することができる。このため、酸素焼成ステップS22では、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法の最後の処理で、界面層23が形成されていた領域に空孔33を形成することができるので、空孔33の存在により、セラミックス基複合材料103-1の強度低下を抑制することができる。
【0082】
酸素焼成ステップS22では、また、不活性焼成素体102-1に含まれる織布20(繊維束21及び繊維22)及びジルコニア含有層25-1には化学的反応が起こらないので、不活性焼成素体102-1に含まれる織布20(繊維束21及び繊維22)は、そのままの形状及び組織で、セラミックス基複合材料103-1に含まれる。
【0083】
酸素焼成ステップS22では、また、ジルコニア含有層25-1には化学的反応が起こらないので、ジルコニア含有層25-1は、酸素焼成ステップS22を経て空孔33が形成されることに伴い、そのままの形状及び組織で、マトリクス32において空孔33と対向する面から所定の厚さまでの空孔側対向領域に形成された層となる。すなわち、ジルコニア含有層25-1は、ジルコニアが空孔側対向領域に偏在している層となる。
【0084】
なお、ジルコニアゾル界面層26のジルコニアゾル成分に基づくジルコニアは、第1の実施形態では空孔側対向領域に偏在しているが、本発明ではこれに限定されず、不活性焼成ステップS20または酸素焼成ステップS22を経て、マトリクス32に分散されていてもよく、マトリクス32に広く分散されていてもよく、マトリクス32に完全に分散されていてもよく、これらのために、ジルコニア含有層25-1とジルコニア含有マトリクスとの間の境界が不明確な状態となっていてもよい。いずれにせよ、少なくとも空孔側対向領域(酸素焼成ステップS22前に界面層23側対向領域であった領域)には、ジルコニアを含有し、ジルコニアが分散されたジルコニア含有層25-1を有する状態となる。
【0085】
このように、酸素供給ステップS18、不活性焼成ステップS20及び酸素焼成ステップS22を経て、素体100-1を構成していた繊維層10-1は、図8の左上及び右下に示すように、織布20(繊維束21及び繊維22)と、空孔33と、ジルコニア含有層25-1と、マトリクス32とを有する繊維層11-1となる。なお、繊維層11-1は、積層された状態となってセラミックス基複合材料103-1を構成する層である。
【0086】
酸素焼成ステップS22における不活性焼成素体102-1の加熱時間である第3加熱時間は、5分以上である。また、第3加熱時間は、300分以下であることが好ましい。なお、酸素焼成ステップS22の第3加熱時間は、本発明ではこれに限定されず、選択した原材料、第3温度、雰囲気環境等に応じて、適宜変更することができる。大気焼成装置8は、このような酸素焼成ステップS22を実行する場合、具体的には、第1の実施形態では、酸素供給装置4と同様のものが好適なものとして例示され、酸素供給装置4と共通の装置を使用してもよい。
【0087】
図9は、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の構成を示す模式図である。図10は、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の詳細な構成を示す模式図である。以下において、図8図9及び図10を用いて、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の詳細を説明する。
【0088】
上記したように、素体100-1に対して、酸素供給装置4による酸素供給ステップS18、不活性焼成装置6による不活性焼成ステップS20及び大気焼成装置8による酸素焼成ステップS22の各処理を施して形成されたセラミックス基複合材料103-1は、図9に示すように、複数の繊維層11-1を積層することで、薄肉板状に形成されており、すなわち、セラミックス基複合材料103-1は、重なり合って配置された複数の繊維層11-1を有する形態となっている。なお、このセラミックス基複合材料103-1は、図9に示す例では、複数の繊維層11-1同士の間に境界線を便宜的に表示しているが、実際には、図10に示すように、繊維層11-1同士の間にこのような明確な境界線は存在せず、複数の繊維層11-1同士は一体をなしている。また、セラミックス基複合材料103-1の形状は、図9に示す板形状に限定されず、種々の形状とすることができる。
【0089】
セラミックス基複合材料103-1は、図8の右下に示すように、複数のセラミックス製の繊維22と、繊維22同士の間に配置され、ポリマー30を前駆体として形成されたマトリクス32と、繊維22とマトリクス32との間に形成された空孔33と、マトリクス32において空孔33と対向する面から所定の厚さまでの空孔側対向領域に形成されたジルコニアを含有するジルコニア含有層25-1と、を有する。また、セラミックス基複合材料103-1におけるジルコニア含有層25-1は、図8の右下に示すように、ジルコニアが空孔側対向領域に偏在している。
【0090】
セラミックス基複合材料103-1は、このようなジルコニア含有層25-1を有するので、熱暴露に対する強度低下が抑制されたものとなる。ここで、熱暴露とは、1200度以上の大気に晒されることを言い、例えば、1200度の大気下に数時間晒される条件で試験が行われる。さらに、セラミックス基複合材料103-1は、ジルコニア含有層25-1においてジルコニアが空孔側対向領域に偏在しているので、好適に、熱暴露に対する強度低下を抑制することができる。
【0091】
第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、以上のような構成を有するので、繊維22と前駆体としてのポリマー30との間に、繊維22側から順に界面層23とジルコニアゾル含有層24-1とを有する素体100-1を形成してから、ポリマー30に基づいてマトリクス32を形成し、界面層23に基づき空孔33を形成することで、マトリクス32において空孔33と対向する面から所定の厚さまでの空孔側対向領域にジルコニア含有層25-1を形成したセラミックス基複合材料103-1を製造することができる。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、空孔33の存在により、セラミックス基複合材料103-1の強度低下を抑制することができるとともに、さらに、ジルコニア含有層25-1の存在により、熱暴露に対するセラミックス基複合材料103-1の強度低下も抑制することができる。このため、空孔の存在により、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができるとともに、さらに、ジルコニア含有層25-1の存在により、熱暴露に対するセラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができる。
【0092】
第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1は、以上のような構成を有するので、マトリクス32において空孔33と対向する面から所定の厚さまでの空孔側対向領域にジルコニア含有層25-1が形成されている。このため、セラミックス基複合材料103-1は、空孔33の存在により、強度低下が抑制されたセラミックス基複合材料103-1となるとともに、さらに、ジルコニア含有層25-1の存在により、熱暴露に対する強度低下も抑制されたセラミックス基複合材料103-1となる。
【0093】
また、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13が、界面層23の周囲を覆うジルコニアゾル界面層26を形成するジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1と、ジルコニアゾル界面層26が形成された織布20にアルミナスラリーを塗布してアルミナスラリー塗布層27を形成するアルミナスラリー塗布ステップS13-2と、を有する。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、ジルコニアゾル含有層24-1として、界面層23側にジルコニアゾル界面層26を形成することができ、これにより、ジルコニアゾル含有層24-1に基づくジルコニア含有層25-1を空孔側対向領域に形成することができるので、好適に、熱暴露に対するセラミックス基複合材料103-1の強度低下を抑制することができる。
【0094】
また、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1は、ジルコニア含有層25-1が、ジルコニアが空孔側対向領域に偏在している。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1は、ジルコニア含有層25-1の存在により、好適に、熱暴露に対する強度低下が抑制されたセラミックス基複合材料103-1となる。
【0095】
また、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、不活性焼成ステップS20を、酸素供給ステップS18の後に行うことが好ましい。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、酸素供給ステップS18を先に行うため、ポリマー30に十分に酸素を供給した状態で、不活性焼成ステップS20において、酸素供給ステップS18で酸素含有状態となったポリマー30である酸素含有ポリマー31を反応させてマトリクス32を形成することができるので、マトリクス32の形成反応をより好適に実行することができる。
【0096】
また、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、酸素供給ステップS18において、酸素雰囲気下において素体100-1を加熱することで、ポリマー30に酸素を供給し、酸素供給ステップS18における素体100-1の加熱温度である第1温度は、不活性焼成ステップS20及び酸素焼成ステップS22での加熱温度である第2温度、第3温度より低いことが好ましい。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、酸素供給ステップS18において、酸素雰囲気下において素体100-1を低温加熱するため、ポリマー30の反応や界面層23の除去を抑制しながら、ポリマー30に酸素を供給することができるので、セラミックス基複合材料103-1の強度低下を抑制することができる。さらに、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、酸素供給ステップS18における素体100-1の加熱温度は、200℃以上、600℃未満であることが好ましい。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、好適に、ポリマー30の反応や界面層23の除去を抑制しながら、ポリマー30に酸素を供給することができるので、セラミックス基複合材料103-1の強度低下を好適に抑制することができる。
【0097】
また、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、酸素供給ステップS18において、水蒸気雰囲気下で素体100-1を保持することで、ポリマー30に酸素を供給し、酸素供給ステップS18における水蒸気の温度は、不活性焼成ステップS20及び酸素焼成ステップS22での加熱温度より低いことが好ましい。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、水蒸気雰囲気下において素体100-1を保持するため、ポリマー30の反応や界面層23の除去を抑制しながら、ポリマー30に酸素を供給することができるので、セラミックス基複合材料103-1の強度低下を抑制することができる。さらに、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、酸素供給ステップS18における水蒸気の温度は、80℃以上、200℃未満であることが好ましい。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、好適に、ポリマー30の反応や界面層23の除去を抑制しながら、ポリマー30に酸素を供給することができるので、セラミックス基複合材料103-1の強度低下を好適に抑制することができる。
【0098】
また、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、ポリマー30が、繊維22と同じ材料のセラミックスを含むことが好ましい。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、このようなポリマー30を用いることで、セラミックス基複合材料103-1を好適に製造できる。
【0099】
また、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、界面層23が、炭素を主成分とする層であることが好ましい。このため、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法は、このような界面層23を用いることで、繊維22とポリマー30との接触を好適に抑制して、セラミックス基複合材料103-1の強度低下を抑制することができる。
【0100】
[第2の実施形態]
図11は、第2の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13の詳細を示すフローチャートである。第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法は、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法において、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13を変更したものである。第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法は、他の構成については、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法と同様である。第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法及びセラミックス基複合材料103-2の説明では、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法及びセラミックス基複合材料103-1と同様の構成に第1の実施形態と同一の符号群を用い、その詳細な説明を省略する。
【0101】
図12は、第2の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの詳細を説明する説明図である。図12は、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の元となる素体100-2を示している。素体100-2は、素体形成装置2による第2の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの処理を経て形成される。以下において、図11及び図12を用いて、第2の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの処理の詳細を説明する。
【0102】
第2の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13は、図12に示すように、複数のセラミックス製の繊維22の周囲に、周囲を覆う界面層23が形成された織布20に、ジルコニアゾルを含有するジルコニアゾル含有層24-2を形成するステップであり、図11に示すように、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3と、を有する。
【0103】
ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3は、図12に示すように、素体形成装置2が、界面層形成ステップS12で界面層23が形成された織布20に、ジルコニアゾルを含むアルミナスラリーを塗布してジルコニアゾルを含有するアルミナスラリー塗布層であるジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を形成するステップである。
【0104】
すなわち、第2の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13は、第1の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13におけるジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1及びアルミナスラリー塗布ステップS13-2に代えて、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3を実行するステップであり、第1の実施形態に係るジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27を有するジルコニアゾル含有層24-1に代えて、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を有するジルコニアゾル含有層24-2を形成するステップである。
【0105】
したがって、第2の実施形態に係る素体100-2は、第1の実施形態に係る素体100-1において、ジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27を有するジルコニアゾル含有層24-1を、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を有するジルコニアゾル含有層24-2に変更したものとなっている。
【0106】
ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3で形成するジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28の厚さは、第2の実施形態では、第1の実施形態に係るジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27と同様の厚さであり、90nm以上もしくは100nm以上である。また、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28の厚さは、第2の実施形態では、繊維22の断面の直径以下、具体的には10μm以下であり、繊維22の断面の直径の10分の1以下、具体的には1μm以下であることが好ましい。
【0107】
なお、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3で使用されるジルコニアゾルは、第1の実施形態においてジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1で使用されるジルコニアゾルと同様の物が好ましい。また、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3で使用されるアルミナスラリーは、第1の実施形態においてアルミナスラリー塗布ステップS13-2で使用されるアルミナスラリーと同様の物が好ましい。また、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3で使用されるジルコニアゾルを含むアルミナスラリーは、アルミナスラリーのうち溶媒や分散剤等を除く溶質部分の全体の質量を100質量%としたときのジルコニア粉末の含有量(以下において、第2ジルコニア含有率、と称する)が0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。また、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3で使用されるジルコニアゾルを含むアルミナスラリーは、水分散のタイプを使用することが好ましい。
【0108】
図13は、第2の実施形態に係る酸素供給ステップS18から酸素焼成ステップS22までの詳細を説明する説明図である。以下において、図13を用いて、第2の実施形態に係る酸素供給ステップS18から酸素焼成ステップS22までの処理の詳細を説明する。ここで、図13の4つの図はいずれも断面構成図となっており、図13の左上は、裁断ステップS10から含浸ステップS16までの各処理を経て形成された素体100-2を示しており、図13の右上は、素体100-2に対して酸素供給ステップS18を施して得られる酸素含有素体101-2を示しており、図13の左下は、酸素含有素体101-2に対して不活性焼成ステップS20を施して得られる不活性焼成素体102-2を示しており、図13の右下は、不活性焼成素体102-2に対して酸素焼成ステップS22を施して得られるセラミックス基複合材料103-2を示している。
【0109】
第2の実施形態に係る酸素供給ステップS18は、図13の左上及び右上に示すように、第1の実施形態に係る酸素供給ステップS18において、処理を施す対象を素体100-1から素体100-2に変更したこと以外、同様である。このため、素体100-2に対して、第2の実施形態に係る酸素供給ステップS18を施して得られる酸素含有素体101-2は、酸素含有素体101-1において、ジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27を有するジルコニアゾル含有層24-1を、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を有するジルコニアゾル含有層24-2に変更したものとなっている。
【0110】
第2の実施形態に係る不活性焼成ステップS20は、図13の右上及び左下に示すように、第1の実施形態に係る不活性焼成ステップS20において、処理を施す対象を酸素含有素体101-1から酸素含有素体101-2に変更したこと以外、同様である。このため、第2の実施形態に係る不活性焼成ステップS20では、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28と変性してマトリクス32になろうとする酸素含有ポリマー31とが互いに接触した状態で、所定の第2温度で加熱することに伴い、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28のうちアルミナスラリー成分がマトリクス32になろうとする酸素含有ポリマー31に取り込まれて、マトリクス32に併合する。
【0111】
また、第2の実施形態に係る不活性焼成ステップS20では、この加熱に伴い、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28のうちジルコニアゾル成分がジルコニアとなり、このジルコニアがマトリクス32になろうとする酸素含有ポリマー31に向けて拡散する。これにより、マトリクス32におけるジルコニアゾルが界面層23側対向領域(酸素焼成ステップS22後に空孔側対向領域となる領域)に、ジルコニアを含有し、ジルコニアが界面層23側対向領域から分散しているジルコニア含有層25-2が形成される。なお、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28のジルコニアゾル成分に基づくジルコニアは、不活性焼成ステップS20または後述の酸素焼成ステップS22を経て、マトリクス32に広く分散されていてもよく、マトリクス32に完全に分散されていてもよく、これらのために、ジルコニア含有層25-2とジルコニア含有マトリクスとの間の境界が不明確な状態となっていてもよい。いずれにせよ、少なくとも界面層23側対向領域には、ジルコニアを含有し、ジルコニアが分散されたジルコニア含有層25-2を有する状態となる。
【0112】
このように、第2の実施形態に係る不活性焼成ステップS20を経て、図13の右上及び左下に示すように、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を有するジルコニアゾル含有層24-2に基づいて、ジルコニア含有層25-2が形成される。このため、酸素含有素体101-2に対して、第2の実施形態に係る酸素供給ステップS18を施して得られる不活性焼成素体102-2は、不活性焼成素体102-1において、ジルコニア含有層25-1を、ジルコニア含有層25-2に変更したものとなっている。
【0113】
第2の実施形態に係る酸素焼成ステップS22は、図13の左下及び右下に示すように、第1の実施形態に係る酸素焼成ステップS22において、処理を施す対象を不活性焼成素体102-1から不活性焼成素体102-2に変更したこと以外、同様である。このため、不活性焼成素体102-2に対して、第2の実施形態に係る酸素焼成ステップS22を施して得られるセラミックス基複合材料103-2は、セラミックス基複合材料103-1において、ジルコニア含有層25-1を、ジルコニア含有層25-2に変更したものとなっている。
【0114】
セラミックス基複合材料103-2は、図13の右下に示すように、セラミックス基複合材料103-1において、ジルコニア含有層25-1を、ジルコニア含有層25-2に変更したものとなっている。また、セラミックス基複合材料103-2におけるジルコニア含有層25-2は、図13の右下に示すように、ジルコニアが空孔側対向領域から分散している。
【0115】
セラミックス基複合材料103-2は、このようなジルコニア含有層25-2を有するので、熱暴露に対する強度低下が抑制されたものとなる。
【0116】
第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法は、以上のような構成を有するので、第1の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13を実行したことに起因する作用効果を除き、すなわち、ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1及びアルミナスラリー塗布ステップS13-2を実行したことに起因する作用効果を除き、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法と同様の作用効果を奏する。また、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2は、ジルコニアゾル界面層26に基づくジルコニア含有層25-1を有することに起因する作用効果を除き、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1と同様の作用効果を奏する。
【0117】
また、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法は、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13が、織布20に、ジルコニアゾルを含むアルミナスラリーを塗布してジルコニアゾルを含有するアルミナスラリー塗布層であるジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を形成するジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3と、を有する。このため、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法は、ジルコニアゾル含有層24-2として界面層23側にジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を形成することができ、これにより、ジルコニアゾル含有層24-2に基づくジルコニア含有層25-2を空孔側対向領域に形成することができるので、好適に、熱暴露に対するセラミックス基複合材料103-2の強度低下を抑制することができる。
【0118】
また、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2は、ジルコニア含有層25-2が、ジルコニアが空孔側対向領域から分散している。このため、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2は、ジルコニア含有層25-2の存在により、好適に、熱暴露に対する強度低下が抑制されたセラミックス基複合材料103-2となる。
【0119】
[第3の実施形態]
図14は、第3の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13の詳細を示すフローチャートである。第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3の製造方法は、第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法及びセラミックス基複合材料103-2の製造方法において、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13を変更したものである。第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3の製造方法は、他の構成については、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法及び第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法と同様である。第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3の製造方法及びセラミックス基複合材料103-3の説明では、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法及びセラミックス基複合材料103-1、並びに、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法及びセラミックス基複合材料103-2と同様の構成に、第1の実施形態並びに第2の実施形態と同一の符号群を用い、その詳細な説明を省略する。
【0120】
図15は、第3の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの詳細を説明する説明図である。図15は、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3の元となる素体100-3を示している。素体100-3は、素体形成装置2による第3の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの処理を経て形成される。以下において、図14及び図15を用いて、第3の実施形態に係る裁断ステップS10から含浸ステップS16までの処理の詳細を説明する。
【0121】
第3の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13は、図15に示すように、複数のセラミックス製の繊維22の周囲に、周囲を覆う界面層23が形成された織布20に、ジルコニアゾルを含有するジルコニアゾル含有層24-3を形成するステップであり、図14に示すように、ジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1と、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3と、を有する。
【0122】
第3の実施形態に係るジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3は、図15に示すように、素体形成装置2が、界面層形成ステップS12で界面層23及びジルコニアゾル界面層26が形成された織布20に、ジルコニアゾルを含むアルミナスラリーを塗布してジルコニアゾルを含有するアルミナスラリー塗布層であるジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を形成するステップである。第3の実施形態に係るジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3は、ジルコニアゾル界面層26の周囲にジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を形成する点を除き、第2の実施形態に係るジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3と同様である。
【0123】
すなわち、第3の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13は、第1の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13におけるアルミナスラリー塗布ステップS13-2に代えて、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3を実行するステップであり、第1の実施形態に係るジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27を有するジルコニアゾル含有層24-1に代えて、ジルコニアゾル界面層26及びジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を有するジルコニアゾル含有層24-3を形成するステップである。
【0124】
したがって、第3の実施形態に係る素体100-3は、第1の実施形態に係る素体100-1において、ジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27を有するジルコニアゾル含有層24-1を、ジルコニアゾル界面層26及びジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を有するジルコニアゾル含有層24-3に変更したものとなっている。
【0125】
図16は、第2の実施形態に係る酸素供給ステップS18から酸素焼成ステップS22までの詳細を説明する説明図である。以下において、図16を用いて、第3の実施形態に係る酸素供給ステップS18から酸素焼成ステップS22までの処理の詳細を説明する。ここで、図16の4つの図はいずれも断面構成図となっており、図16の左上は、裁断ステップS10から含浸ステップS16までの各処理を経て形成された素体100-3を示しており、図16の右上は、素体100-3に対して酸素供給ステップS18を施して得られる酸素含有素体101-3を示しており、図16の左下は、酸素含有素体101-3に対して不活性焼成ステップS20を施して得られる不活性焼成素体102-3を示しており、図16の右下は、不活性焼成素体102-3に対して酸素焼成ステップS22を施して得られるセラミックス基複合材料103-3を示している。
【0126】
第3の実施形態に係る酸素供給ステップS18は、図16の左上及び右上に示すように、第1の実施形態に係る酸素供給ステップS18において、処理を施す対象を素体100-1から素体100-3に変更したこと以外、同様である。このため、素体100-3に対して、第3の実施形態に係る酸素供給ステップS18を施して得られる酸素含有素体101-3は、酸素含有素体101-1において、ジルコニアゾル界面層26及びアルミナスラリー塗布層27を有するジルコニアゾル含有層24-1を、ジルコニアゾル界面層26及びジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を有するジルコニアゾル含有層24-3に変更したものとなっている。
【0127】
第3の実施形態に係る不活性焼成ステップS20は、図16の右上及び左下に示すように、第1の実施形態に係る不活性焼成ステップS20において、処理を施す対象を酸素含有素体101-1から酸素含有素体101-3に変更したこと以外、同様である。このため、第3の実施形態に係る不活性焼成ステップS20では、第1の実施形態に係る不活性焼成ステップS20と同様に、ジルコニアゾル含有層24-3のうちのジルコニアゾル界面層26が、焼結されたジルコニアを含有するジルコニア含有層25-1となる。また、第3の実施形態に係る不活性焼成ステップS20では、第2の実施形態に係る不活性焼成ステップS20と同様に、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28のうちアルミナスラリー成分がマトリクス32になろうとする酸素含有ポリマー31に取り込まれて、マトリクス32に併合する。
【0128】
また、第3の実施形態に係る不活性焼成ステップS20では、第2の実施形態に係る不活性焼成ステップS20と同様に、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28のうちジルコニアゾル成分がジルコニアとなり、このジルコニアがマトリクス32になろうとする酸素含有ポリマー31に向けて拡散する。これにより、マトリクス32におけるジルコニアゾルが界面層23側対向領域(酸素焼成ステップS22後に空孔側対向領域となる領域)に、ジルコニアを含有し、ジルコニアが界面層23側対向領域から分散しているジルコニア含有層25-2が形成される。
【0129】
このように、第3の実施形態に係る不活性焼成ステップS20を経て、図13の右上及び左下に示すように、ジルコニアゾル含有層24-3のうちのジルコニアゾル界面層26に基づいてジルコニア含有層25-1が形成され、ジルコニアゾル含有層24-3のうちのジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28に基づいてジルコニア含有層25-2が形成されることにより、ジルコニアゾル含有層24-3に基づいてジルコニア含有層25-1とジルコニア含有層25-2とを有するジルコニア含有層25-3が形成される。すなわち、酸素含有素体101-3に対して、第3の実施形態に係る不活性焼成ステップS20を施して得られる不活性焼成素体102-3は、不活性焼成素体102-1において、ジルコニア含有層25-1を、ジルコニア含有層25-1及びジルコニア含有層25-2を有するジルコニア含有層25-3に変更したものとなっている。
【0130】
第3の実施形態に係る酸素焼成ステップS22は、図16の左下及び右下に示すように、第1の実施形態に係る酸素焼成ステップS22において、処理を施す対象を不活性焼成素体102-1から不活性焼成素体102-3に変更したこと以外、同様である。このため、不活性焼成素体102-3に対して、第3の実施形態に係る酸素焼成ステップS22を施して得られるセラミックス基複合材料103-3は、セラミックス基複合材料103-1において、ジルコニア含有層25-1を、ジルコニア含有層25-1及びジルコニア含有層25-2を有するジルコニア含有層25-3に変更したものとなっている。
【0131】
セラミックス基複合材料103-3は、図16の右下に示すように、セラミックス基複合材料103-1において、ジルコニア含有層25-1を、ジルコニア含有層25-1及びジルコニア含有層25-2を有するジルコニア含有層25-3に変更したものとなっている。なお、セラミックス基複合材料103-3に含まれるジルコニア含有層25-1は、第1の実施形態におけるジルコニア含有層25-1と同様であり、セラミックス基複合材料103-3に含まれるジルコニア含有層25-2は、第2の実施形態におけるジルコニア含有層25-2と同様である。
【0132】
セラミックス基複合材料103-1は、このようなジルコニア含有層25-3を有するので、ジルコニア含有層25-1の存在とジルコニア含有層25-2の存在とにより、さらに熱暴露に対する強度低下が抑制されたものとなる。
【0133】
第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法は、以上のような構成を有するので、第1の実施形態に係るジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1を実行したことに起因する作用効果と、第2の実施形態に係るジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3を実行したことに起因する作用効果とも含めて、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1の製造方法及び第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2の製造方法と同様の作用効果を奏する。また、第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3は、ジルコニアゾル界面層26に基づくジルコニア含有層25-1を有することに起因する作用効果と、ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28に基づくジルコニア含有層25-2を有することに起因する作用効果とも含めて、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1及び第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2と同様の作用効果を奏する。
【0134】
すなわち、第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3の製造方法は、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13が、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13が、界面層23の周囲を覆うジルコニアゾル界面層26を形成するジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1と、織布20に、ジルコニアゾルを含むアルミナスラリーを塗布してジルコニアゾルを含有するアルミナスラリー塗布層であるジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を形成するジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3と、を有する。このため、第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3の製造方法は、ジルコニアゾル含有層24-3として界面層23側から順にジルコニアゾル界面層26及びジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層28を形成することができ、これにより、ジルコニアゾル含有層24-3に基づくジルコニア含有層25-3を空孔側対向領域に形成することができるので、より好適に、熱暴露に対するセラミックス基複合材料103-3の強度低下をさらに抑制することができる。
【0135】
また、第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3は、ジルコニア含有層25-3が、ジルコニアの一部が空孔側対向領域に偏在しており、ジルコニアの残りの一部が空孔側対向領域から分散している。このため、第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3は、このような一部のジルコニアゾルが空孔33の消滅を防止することができるとともに、ジルコニア含有層25-1及びジルコニア含有層25-2を含むジルコニア含有層25-3の存在により、より好適に、熱暴露に対する強度低下がさらに抑制されたセラミックス基複合材料103-3となる。
【実施例
【0136】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0137】
図17は、本発明に係る各実施形態に関する実施例を示す図である。本実施例では、実験1から実験5までの5種類の実験を行った。実験1から実験5までの5種類の実験について、各実験の条件と、セラミックス基複合材料の強度低下に関する評価結果とを、図17にまとめた。なお、図17において、各実験で形成していない層の欄には「なし」と示し、形成している層については、第1ジルコニア含有率[単位;質量%]または第2ジルコニア含有率[単位;質量%]を示している。また、図17において、引張強度保持率の欄には、引張強度保持率[単位;%]を示している。
【0138】
(実験1)
実験1として、上記したセラミックス基複合材料の製造システム1を用いて、第1の実施形態から第3の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13を実行することなく、すなわち、ジルコニアゾル含有層24-1,24-2,24-3を形成することなく、その他の処理である上記したそれぞれの処理である裁断ステップS10、界面層形成ステップS12、積層ステップS14、含浸ステップS16、酸素供給ステップS18、不活性焼成ステップS20及び酸素焼成ステップS22の各処理のみを実行して、セラミックス基複合材料を製造した。なお、実験1では、断面の直径が約10μmの繊維22を有する繊維束21による織布20を採用した。
【0139】
実験1において、セラミックス基複合材料に関する引張強度保持率の評価を行った。引張強度保持率は、1200度の大気下に4時間晒す条件の熱暴露後の常温における引張強度の、当該熱暴露前の常温における引張強度に対する比率[単位;%]のことを指す。ここで、引張強度は、日本工業規格JIS R 1606-1995に従う引張試験方法によって測定され、引張試験中において試験片に加わる最大引張応力である引張強さ [単位;Pa]で求められるものを採用した。実験1は、引張強度保持率が59%との評価結果が得られた。
【0140】
(実験2)
実験2として、実験1において、界面層形成ステップS12と積層ステップS14との間で、第1の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13を追加で実行して、ジルコニアゾル含有層24-1を形成して、第1の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-1を製造した。実験2では、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13におけるジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1において、粒径が1μm程度のジルコニア粉末を含み、第1ジルコニア含有率が5質量%であるクロルフリーの水性ゾルであるジルコニアゾルを使用した。実験2では、その他の条件は、実験1と同じとした。実験2において、実験1と同じ形状及び同じサイズの試験片を作成して、実験1と同様の方法で引張強度保持率の評価を行った。実験2は、引張強度保持率が78%との評価結果が得られた。
【0141】
(実験3)
実験3として、実験1において、界面層形成ステップS12と積層ステップS14との間で、第2の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13を追加で実行して、ジルコニアゾル含有層24-2を形成して、第2の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-2を製造した。実験3では、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13におけるジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3において、粒径が1μm程度のジルコニア粉末を含むクロルフリーの水性ゾルであるジルコニアゾルを含有し、第2ジルコニア含有率が1質量%となるアルミナスラリーを使用した。実験3では、その他の条件は、実験1と同じとした。実験3において、実験1と同じ形状及び同じサイズの試験片を作成して、実験1と同様の方法で引張強度保持率の評価を行った。実験3は、引張強度保持率が90%との評価結果が得られた。
【0142】
(実験4)
実験4として、実験3において、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13におけるジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3において使用したアルミナスラリーについて、第2ジルコニア含有率を3質量%に変更した。実験4では、その他の条件は、実験3と同じとした。実験4において、実験1と同じ形状及び同じサイズの試験片を作成して、実験1と同様の方法で引張強度保持率の評価を行った。実験4は、引張強度保持率が64%との評価結果が得られた。
【0143】
(実験5)
実験5として、実験1において、界面層形成ステップS12と積層ステップS14との間で、第3の実施形態に係るジルコニアゾル含有層形成ステップS13を追加で実行して、ジルコニアゾル含有層24-3を形成して、第3の実施形態に係るセラミックス基複合材料103-3を製造した。実験5では、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13におけるジルコニアゾル界面層形成ステップS13-1において、実験2と同様のジルコニアゾルを使用した。また、実験5では、ジルコニアゾル含有層形成ステップS13におけるジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布ステップS13-3において、実験3と同様のジルコニアゾルを含有するアルミナスラリーを使用した。実験5では、その他の条件は、実験1と同じとした。実験5において、実験1と同じ形状及び同じサイズの試験片を作成して、実験1と同様の方法で引張強度保持率の評価を行った。実験5は、引張強度保持率が104%との評価結果が得られた。
【0144】
ジルコニアゾル含有層24-1,24-2,24-3を形成しない実験1における引張強度保持率の59%と比較して、第1ジルコニア含有率が5質量%であるジルコニアゾルを使用してジルコニアゾル含有層24-1を形成した実験2における引張強度保持率が78%に上昇した。これにより、ジルコニアゾル含有層24-1を形成することで、熱暴露に対する強度低下が抑制されたことが分かった。
【0145】
また、ジルコニアゾル含有層24-1,24-2,24-3を形成しない実験1における引張強度保持率の59%と比較して、第2ジルコニア含有率が1質量%となるアルミナスラリーを使用してジルコニアゾル含有層24-2を形成した実験3における引張強度保持率が90%に上昇し、第2ジルコニア含有率が3質量%となるアルミナスラリーを使用してジルコニアゾル含有層24-2を形成した実験4における引張強度保持率が64%に上昇した。これにより、ジルコニアゾル含有層24-2を形成することで、熱暴露に対する強度低下が抑制されたことが分かった。また、ジルコニアゾル含有層24-2を形成するアルミナスラリーの第2ジルコニア含有率が、1質量%である実験3の方が、3質量%である実験4よりも、引張強度保持率がより高く上昇した。これにより、ジルコニアゾル含有層24-2を形成するアルミナスラリーの第2ジルコニア含有率は、3質量%よりも1質量%の方が、熱暴露に対する強度低下の抑制効果が高いことが分かった。
【0146】
ジルコニアゾル含有層24-1,24-2,24-3を形成しない実験1における引張強度保持率の59%と比較して、第1ジルコニア含有率が5質量%であるジルコニアゾルと、第2ジルコニア含有率が1質量%となるアルミナスラリーとを使用してジルコニアゾル含有層24-3を形成した実験5における引張強度保持率が104%に上昇した。これにより、ジルコニアゾル含有層24-3を形成することで、熱暴露に対する強度低下がほぼ完全に抑制されたことが分かった。
【0147】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0148】
1 製造システム
10-1,11-1 繊維層
20 織布
21 繊維束
22 繊維
23 界面層
24-1,24-2,24-3 ジルコニアゾル含有層
25-1,25-2,25-3 ジルコニア含有層
26 ジルコニアゾル界面層
27 アルミナスラリー塗布層
28 ジルコニアゾル含有アルミナスラリー塗布層
30 ポリマー
31 酸素含有ポリマー
32 マトリクス
33 空孔
100-1,100-2,100-3 素体
101-1,101-2,101-3 酸素含有素体
102-1,102-2,102-3 不活性焼成素体
103-1,103-2,103-3 セラミックス基複合材料
図1
図2
図3
図4
図5
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図17