(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】接着部材、接着部材の形成方法および接着層の形成方法
(51)【国際特許分類】
F16B 11/00 20060101AFI20221205BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20221205BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20221205BHJP
C09J 7/00 20180101ALI20221205BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
F16B11/00 B
C09J201/00
C09J5/00
C09J7/00
B32B27/00 C
(21)【出願番号】P 2019082173
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 一輝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直昭
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129570(WO,A1)
【文献】特開2004-262669(JP,A)
【文献】特開2006-282046(JP,A)
【文献】特開2009-083551(JP,A)
【文献】実開昭61-098024(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 11/00
C09J 201/00
C09J 5/00
C09J 7/00
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着剤を含む接着層と、
前記接着層内に配置され、前記接着層内で面内方向に向かうき裂の進展を抑制するき裂進展抑制部材と、
を備え、
前記き裂進展抑制部材は、前記第1部材側から前記第2部材側にかけて前記面内方向に凸形状を呈する進展抑制部を有し、前記接着層との界面の接着強度が前記接着層と前記第1部材および前記第2部材との界面の接着強度よりも弱いことを特徴とする接着部材。
【請求項2】
前記進展抑制部は、前記凸形状を呈する湾曲部であることを特徴とする請求項1に記載の接着部材。
【請求項3】
前記き裂進展抑制部材は、前記進展抑制部の端部から前記面内方向に沿って延びる誘導部をさらに有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接着部材。
【請求項4】
前記き裂進展抑制部材は、前記面内方向に沿って複数配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接着部材。
【請求項5】
隣り合う前記き裂進展抑制部材の少なくとも一部は、前記進展抑制部の前記凸形状が互いに反対方向を向いて配置されることを特徴とする請求項4に記載の接着部材。
【請求項6】
前記き裂進展抑制部材は、前記進展抑制部が環状に連続して形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の接着部材。
【請求項7】
前記き裂進展抑制部材は、連結部を介して複数が連結されていることを特徴とする請求項4に記載の接着部材。
【請求項8】
第1部材を準備する第1部材準備ステップと、
第2部材を準備する第2部材準備ステップと、
前記第1部材と前記第2部材とを接着剤を含む接着層により接着する接着ステップと、
を備え、
前記接着層内には、前記接着層内で面内方向に向かうき裂の進展を抑制するき裂進展抑制部材が配置されており、
前記き裂進展抑制部材は、前記第1部材側から前記第2部材側にかけて前記面内方向に凸形状を呈する進展抑制部を有し、前記接着層との界面の接着強度が前記接着層と前記第1部材および前記第2部材との界面の接着強度よりも弱いことを特徴とする接着部材の形成方法。
【請求項9】
第1部材と第2部材とを接着する接着剤を含む接着層を形成する接着層の形成方法であって、
基材を複数の切り込み線に沿って切り込み、複数の折り曲げ線に沿って折り曲げて、前記接着層内で面内方向に向かうき裂の進展を抑制するき裂進展抑制部材を、連結部を介して複数連結して形成し、前記き裂進展抑制部材に前記接着剤を含む樹脂を含浸して前記接着層を形成し、
前記き裂進展抑制部材は、前記第1部材側から前記第2部材側にかけて面内方向に凸形状を呈する進展抑制部を有し、前記接着層との界面の接着強度が前記接着層と前記第1部材および前記第2部材との界面の接着強度よりも弱いことを特徴とする接着層の形成方法。
【請求項10】
第1部材と第2部材とを接着する接着剤を含む接着層を形成する接着層の形成方法であって、
前記接着層内で面内方向に向かうき裂の進展を抑制するき裂進展抑制部材の周囲に、前記接着剤を含む複数のフィルム状部材を接着して前記接着層を形成し、
前記き裂進展抑制部材は、前記第1部材側から前記第2部材側にかけて前記面内方向に凸形状を呈する進展抑制部を有し、前記接着層との界面の接着強度が前記接着層と前記第1部材および前記第2部材との界面の接着強度よりも弱いことを特徴とする接着層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着部材、接着部材の形成方法および接着層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの部材を接着層によって接着して接着部材を形成することが知られている。例えば、特許文献1には、第1部材と第2部材との間に、第1繊維部および第2繊維部を配置し、第1繊維部と第2繊維部との間に接着部を設けて接着する接着構造が開示されている。この接着構造では、第1部材と第2部材との間で、第1繊維部および第2繊維部が面外方向に延在するように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1部材および第2部材と接着層(接着部)とを接着する接着構造では、荷重が作用したとき、接着層にき裂(特に第1部材および第2部材と接着層との界面における剥離)が発生する可能性がある。上記特許文献1に記載の接着構造は、第1部材と第2部材との間で第1繊維部および第2繊維部が面外方向に延在することで、接着部に発生するき裂の進展を第1繊維部および第2繊維部で抑制している。しかしながら、接着層において繊維を面外方向に延在するように配置した場合、面内方向への引張荷重に対する耐性が低下する等、接着部材の面内特性に影響が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、接着部材の面内特性に影響を与えないようにしながら、接着層で発生するき裂の進展を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1部材と、第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着剤を含む接着層と、前記接着層内に配置され、前記接着層内で面内方向に向かうき裂の進展を抑制するき裂進展抑制部材と、を備え、前記き裂進展抑制部材は、前記第1部材側から前記第2部材側にかけて前記面内方向に凸形状を呈する進展抑制部を有し、前記接着層との界面の接着強度が前記接着層と前記第1部材および前記第2部材との界面の接着強度よりも弱いことを特徴とする。
【0007】
この構成により、接着層とき裂進展抑制部材との界面の接着強度が、接着層と第1部材および第2部材との界面の接着強度よりも弱いため、接着層で発生して面内方向に向かうき裂を接着層とき裂進展抑制部材との界面へと誘導することができる。そして、き裂進展抑制部材の進展抑制部へと誘導されたき裂は、進展抑制部の凸形状によって面外方向に進展することになる。その結果、き裂の面内方向への進展抵抗が大きくなり、き裂の進展が抑制される。すなわち、接着層内において繊維を面外方向に延在するように配置することなく、き裂の進展を抑制することが可能となる。したがって、本発明によれば、接着部材の面内特性に影響を与えないようにしながら、接着層で発生するき裂の進展を抑制することが可能となる。
【0008】
また、前記進展抑制部は、前記凸形状を呈する湾曲部であることが好ましい。この構成により、進展抑制部によってき裂をスムーズに誘導しつつ、き裂の面内方向への進展抵抗を増加させることができる。
【0009】
また、前記き裂進展抑制部材は、前記進展抑制部の端部から前記面内方向に沿って延びる誘導部をさらに有することが好ましい。この構成により、接着層で発生して面内方向に向かうき裂を誘導部へとより確実に誘導させることができる。
【0010】
また、前記き裂進展抑制部材は、前記面内方向に沿って複数配置されることが好ましい。この構成により、複数のき裂進展抑制部材をより広い範囲に配置することができるため、接着層で面内方向へと向かうき裂の進展を、より確実に抑制することができる。
【0011】
また、隣り合う前記き裂進展抑制部材の少なくとも一部は、前記進展抑制部の前記凸形状が互いに反対方向を向いて配置されることが好ましい。この構成により、互いに反対方向を向いて配置されるき裂進展抑制部材により、き裂が2方向のいずれに向かう場合でも、その進展をより確実に抑制することができる。
【0012】
また、前記き裂進展抑制部材は、前記進展抑制部が環状に連続して形成されることが好ましい。この構成により、接着層内において、き裂が面内方向のいずれに進展するものであっても、その進展をより確実に抑制することができる。
【0013】
また、前記き裂進展抑制部材は、連結部を介して複数が連結されていることが好ましい。この構成により、複数のき裂進展抑制部材を一つの部材として取り扱うことができる。また、例えば第1部材、第2部材および接着層を接着する際に接着層内に含まれる樹脂が軟化しても、複数のき裂進展抑制部材の間に連結部が存在することで、き裂進展抑制部材が接着層内で流動することを抑制することができる。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1部材を準備する第1部材準備ステップと、第2部材を準備する第2部材準備ステップと、前記第1部材と前記第2部材とを接着剤を含む接着層により接着する接着ステップと、を備え、前記接着層内には、前記接着層内で面内方向に向かうき裂の進展を抑制するき裂進展抑制部材が配置されており、前記き裂進展抑制部材は、前記第1部材側から前記第2部材側にかけて前記面内方向に凸形状を呈する進展抑制部を有し、前記接着層との界面の接着強度が前記接着層と前記第1部材および前記第2部材との界面の接着強度よりも弱いことを特徴とする。
【0015】
この構成により、接着層とき裂進展抑制部材との界面の接着強度が、接着層と第1部材および第2部材との界面の接着強度よりも弱いため、接着層で発生して面内方向に向かうき裂を接着層とき裂進展抑制部材との界面へと誘導することができる。そして、き裂進展抑制部材の進展抑制部へと誘導されたき裂は、進展抑制部の凸形状によって面外方向に進展することになる。その結果、き裂の面内方向への進展抵抗が大きくなり、き裂の進展が抑制される。すなわち、接着層内において繊維を面外方向に延在するように配置することなく、き裂の進展を抑制することが可能となる。したがって、本発明によれば、接着部材の面内特性に影響を与えないようにしながら、接着層で発生するき裂の進展を抑制することが可能となる。
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1部材と第2部材とを接着する接着剤を含む接着層を形成する接着層の形成方法であって、基材を複数の切り込み線に沿って切り込み、複数の折り曲げ線に沿って折り曲げて、前記接着層内で面内方向に向かうき裂の進展を抑制するき裂進展抑制部材を、連結部を介して複数連結して形成し、前記き裂進展抑制部材に前記接着剤を含む樹脂を含浸して前記接着層を形成し、前記き裂進展抑制部材は、前記第1部材側から前記第2部材側にかけて面内方向に凸形状を呈する進展抑制部を有し、前記接着層との界面の接着強度が前記接着層と前記第1部材および前記第2部材との界面の接着強度よりも弱いことを特徴とする。
【0017】
この構成により、複数が連結されたき裂進展抑制部材を含む接着層を容易に形成することができる。また、複数のき裂進展抑制部材を一つの部材として取り扱うことができる。また、例えば第1部材、第2部材および接着層を接着する際に接着層内に含まれる樹脂が軟化しても、複数のき裂進展抑制部材の間に連結部が存在することで、き裂進展抑制部材が接着層内で流動することを抑制することができる。
【0018】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1部材と第2部材とを接着する接着剤を含む接着層を形成する接着層の形成方法であって、前記接着層内で面内方向に向かうき裂の進展を抑制するき裂進展抑制部材の周囲に、前記接着剤を含む複数のフィルム状部材を接着して前記接着層を形成し、前記き裂進展抑制部材は、前記第1部材側から前記第2部材側にかけて前記面内方向に凸形状を呈する進展抑制部を有し、前記接着層との界面の接着強度が前記接着層と前記第1部材および前記第2部材との界面の接着強度よりも弱いことを特徴とする。
【0019】
この構成により、き裂進展抑制部材を含む接着層を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる接着部材としての複合材を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる接着部材としての複合材の要部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の変形例にかかる複合材を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第1の変形例にかかるき裂進展抑制部材を含む複合材を示す断面図である。
【
図5】
図5は、第1の変形例にかかるき裂進展抑制部材を含む複合材を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第2の変形例にかかるき裂進展抑制部材を示す正面図である。
【
図8】
図8は、第2の変形例にかかるき裂進展抑制部材の他の構成例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第3の変形例にかかるき裂進展抑制部材を示す断面図である。
【
図10】
図10は、第4の変形例にかかるき裂進展抑制部材を示す説明図である。
【
図11】
図11は、き裂進展抑制部材の基材を示す説明図である。
【
図12】
図12は、き裂進展抑制部材の周囲に樹脂フィルムを配置する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明にかかる接着部材、接着部材の形成方法および接着層の形成方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
図1は、実施形態にかかる接着部材としての複合材を示す断面図である。実施形態にかかる接着部材としての複合材100は、例えば航空機といった種々の分野において用いられる複合材である。複合材100は、第1部材としての第1複合部材10Aと、第2部材としての第2複合部材10Bと、接着層20を備えている。第1複合部材10Aと第2複合部材10Bとは、接着層20を介して接着される。以下の説明では、第1複合部材10A、第2複合部材10Bおよび接着層20が並ぶ方向(
図1に示す上下方向)を複合材100の「面外方向Z」と称し、面外方向Zと直交する方向(
図1に示す左右方向)を複合材100の「第1面内方向X」と称し、第1面内方向Xおよび面外方向Zと直交する方向を複合材100の「第2面内方向Y」と称する。
【0023】
第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bは、例えば炭素繊維といった強化繊維に樹脂を含浸した複合材料層11を複数積層した積層体である。接着層20は、第1複合部材10Aと第2複合部材10Bとの間に配置され、第1複合部材10Aと第2複合部材10Bとを接着する。接着層20は、例えば接着剤を含む樹脂材料により形成される。
【0024】
実施形態にかかる複合材100は、第1複合部材10Aを準備する第1部材準備ステップと、第2複合部材10Bを準備する第2部材準備ステップと、第1複合部材10Aと第2複合部材10Bとを接着層20で接着する接着ステップとを実行することで形成される。本実施形態では、第1部材準備ステップ、第2部材準備ステップにおいて、複合材料層11を複数積層し、樹脂を硬化させた第1複合部材10A、第2複合部材20Bを準備する。そして、接着ステップにおいて、樹脂硬化後の第1複合部材10Aと第2複合部材20Bとの間に接着層20を配置して、第1複合材部10Aと第2複合部材10Bとを接着層20で接着する。なお、第1部材準備ステップ、第2部材準備ステップで樹脂硬化前(プリプレグの状態)の第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bを準備し、接着ステップで第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bの間に接着層20を配置して、加熱を伴いながら接着させることで、接着と同時に第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bを硬化させてもよい。
【0025】
ここで、複合材100に対して荷重が作用すると、接着層20内において、第1面内方向Xまたは第2面内方向Yへと向かうき裂が発生することがある。き裂は、特に第1複合部材10Aまたは第2複合部材10Bと接着層20との界面の剥離として発生しやすい。そのため、実施形態にかかる複合材100は、接着層20で発生したき裂の進展を抑制するために、上記構成に加えて、き裂進展抑制部材30を備えている。
【0026】
き裂進展抑制部材30は、例えば金属箔により形成され、接着層20内に配置される。き裂進展抑制部材30は、複合材100において、き裂が発生しやすく、き裂の進展を停止させるべき箇所に配置される。複合材100において、き裂が発生しやすく、き裂の進展を停止させるべき箇所は、複合材100の設計段階において特定される。同様に、第1面内方向Xおよび第2面内方向Yのいずれの方向にき裂が進展するかは、複合材100の設計段階において特定される。以下、き裂が第1面内方向Xの一方向(
図2の右方向)に進展する場合を例として、き裂進展抑制部材30の構成について説明する。
【0027】
図2は、実施形態にかかる接着部材としての複合材の要部を拡大して示す拡大断面図である。き裂進展抑制部材30は、図示するように、2つの誘導部31と、進展抑制部32とを有している。2つの誘導部31は、接着層20内で、互いに対向しながら、第1面内方向Xに沿って延在する。なお、
図1に示す例では、模式的に、誘導部31を直線状に示しているが、誘導部31の形状はこれに限られない。「第1面内方向Xに沿った方向に延在する」とは、誘導部31が主として第1面内方向Xに沿って延在することを意味し、第1面内方向Xに対して傾斜して延在してもよいし、完全に直線状でなくてもよい。
【0028】
進展抑制部32は、2つの誘導部31の一方側の端部に設けられ、2つの誘導部31の間に延在する。言い換えると、2つの誘導部31は、進展抑制部32の端部から第1面内方向Xに沿って延びる。進展抑制部32は、
図1に示すように、2つの誘導部31の間を第1面内方向Xのき裂Cが進展する側に向けて凸形状を呈して延びる。すなわち、進展抑制部32は、第1複合部材10A側から第2複合部材10B側にかけて、第1面内方向Xに向けて凸形状を呈する。本実施形態では、進展抑制部32は、所定の曲率半径で凸形状を呈する半円状の湾曲部である。進展抑制部32が半円状である場合、その曲率半径の上限は、接着層20の厚みの半分よりもわずかに小さい値とされる。ただし、進展抑制部32は、半円状に限らず、所定の曲率半径で形成される円弧状の凸部であってもよい。また、進展抑制部32は、途中で曲率半径が変化するものであってもよい。これにより、き裂進展抑制部材30は、
図1に示すように、2つの誘導部31と進展抑制部32とで断面U字形状を呈する。なお、き裂進展抑制部材30の第2面内方向Yにおける幅は、複合材100のサイズ、き裂の進展を止めるべき箇所の範囲等にあわせて、適宜決定されればよい。
【0029】
そして、き裂進展抑制部材30は、接着層20との界面、すなわち表面33における接着層20との接着強度が、接着層20と第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bとの界面の接着強度よりも弱く設定されている。き裂進展抑制部材30の表面33における接着層20との接着強度は、例えば、材料構成を調整したり、表面33に例えば化学的な処理を施したりすることで、調整することができる。本実施形態では、き裂進展抑制部材30は、金属箔により形成される。なお、表面33における接着層20との接着強度を適切なものとすることができれば、き裂進展抑制部材30は、金属材料以外の材料で形成されてもよい。
【0030】
次に、実施形態にかかる接着部材としての複合材100の作用について説明する。いま、複合材100に対して荷重が作用し、例えば第1複合部材10Aと接着層20との界面でき裂C(剥離)が生じたとする。このとき、き裂Cは、第1面内方向Xに沿って進展していくことになる。上述したように、表面33における接着層20との接着強度が、接着層20と第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bとの界面の接着強度よりも弱い。そのため、接着層20に生じたき裂Cは、
図2に示すように、より接着強度が弱い表面33へと誘導される。このとき、誘導部31が第1面内方向Xに沿って延在するため、き裂Cを誘導する部分を比較的に長い範囲に設けることができ、き裂Cを誘導部31の表面33へと、より確実に誘導させることができる。
【0031】
誘導部31に誘導されたき裂Cは、さらに、進展抑制部32の表面33へと誘導されていく。そして、進展抑制部32に誘導されたき裂Cは、進展抑制部32に沿って、面外方向Z側に向かうように誘導される。その結果、き裂Cの先端が大きな曲げ半径を持つ形状となり、応力集中度が低下することで、き裂Cの第1面内方向Xへの進展抵抗が増加して進展が抑制される。それにより、き裂Cの進展は、進展抑制部32の中途で停止することになる。
【0032】
ここで、進展抑制部32が誘導部31から急峻に変化しすぎる場合、き裂Cは、誘導部31から進展抑制部32へとスムーズに誘導されず、第1面内方向Xに沿って進展する可能性がある。一方で、進展抑制部32が誘導部31から緩やかに変化しすぎる場合、言い換えると、凸形状が先鋭な形状となりすぎる場合、き裂Cの第1面内方向Xへの進展抵抗が十分に増加しない。そのため、結果的にき裂Cの進展を停止させられない可能性がある。したがって、進展抑制部32は、誘導部31の表面33に沿って進展してきたき裂Cを表面33に沿って面外方向Zへと誘導することができ、かつ、き裂Cの第1面内方向Xへの進展抵抗の増加によって、その進展を停止させることができる角度で形成される。
【0033】
なお、
図2では、き裂進展抑制部材30の一方側の表面33にき裂Cが誘導される例を説明した。ただし、き裂進展抑制部材30の他方側の表面34においても、接着層20との接着強度が接着層20と第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bとの界面の接着強度よりも弱ければ、他方側の表面34にき裂Cが誘導されることもあり得る。この場合にも、他方側の表面34に誘導されたき裂Cは、進展抑制部32に至ることで、第1面内方向Xへの進展抵抗が増加し、その進展が停止される。なお、表面33と接着層20との接着強度と、表面34と接着層20との接着強度とは、異なる値とされてもよく、少なくともいずれか一方が、接着層20と第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bとの界面の接着強度より弱く設定されればよい。さらに、表面33、34の任意の位置で、接着層20との接着強度に分布を持たせてもよい。
【0034】
以上説明したように、実施形態にかかる接着部材としての複合材100は、第1複合部材(第1部材)10Aと、第2複合部材(第2部材)10Bと、第1複合部材10Aと第2複合部材10Bとを接着する接着剤を含む接着層20と、接着層20内に配置され、接着層20内で第1面内方向Xに向かうき裂Cの進展を抑制するき裂進展抑制部材30と、を備え、き裂進展抑制部材30は、第1複合部材10A側から第2複合部材10B側にかけて第1面内方向Xに凸形状を呈する進展抑制部32を有し、接着層20との界面、すなわち表面33の接着強度が接着層20と第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bとの界面の接着強度よりも弱い。
【0035】
この構成により、接着層20とき裂進展抑制部材30との界面の接着強度が、接着層20と第1複合部材10Aおよび第2複合部材10Bとの界面の接着強度よりも弱いため、接着層20で発生して第1面内方向Xに向かうき裂Cを接着層20とき裂進展抑制部材30との界面へと誘導することができる。そして、き裂進展抑制部材30の進展抑制部32へと誘導されたき裂は、進展抑制部32の凸形状によって面外方向Zに進展することになる。その結果、き裂Cの第1面内方向Xへの進展抵抗が大きくなり、き裂Cの進展が抑制される。すなわち、接着層20内において繊維を面外方向に延在するように配置することなく、き裂Cの進展を抑制することが可能となる。したがって、実施形態によれば、複合材(接着部材)100の面内特性に影響を与えないようにしながら、接着層20で発生するき裂Cの進展を抑制することが可能となる。
【0036】
また、複合材100について、複数のき裂進展抑制部材30を接着層20内に配置しておけば、き裂Cの進展度合いに応じた修復の必要性の判断を容易に行うことができる。すなわち、複数のき裂進展抑制部材30のうち、ある1つが配置される箇所まではき裂が進展しているが、他のき裂進展抑制部材30が配置される箇所まではき裂が進展していないといったように、き裂Cの進展度合いを確認することができ、その結果に応じて修復の必要性を判断することが可能となる。
【0037】
また、進展抑制部32は、凸形状を呈する湾曲部である。この構成により、進展抑制部32によってき裂Cをスムーズに誘導しつつ、き裂Cの第1面内方向Xへの進展抵抗を増加させることができる。
【0038】
また、き裂進展抑制部材30は、進展抑制部32の端部から第1面内方向Xに沿って延びる誘導部31をさらに有する。この構成により、接着層20で発生して第1面内方向Xに向かうき裂Cを誘導部31へとより確実に誘導させることができる。ただし、接着層20内で発生したき裂Cを進展抑制部32の表面33に誘導することができれば、誘導部31をき裂進展抑制部材30から省略してもよい。また、誘導部31をき裂進展抑制部材30から完全に省略するのではなく、
図1に示す例に比べて、誘導部31の長さをより短くしてもよい。
【0039】
図1および
図2では、き裂進展抑制部材30が接着層20内に1つ配置される例を示したが、き裂進展抑制部材30の配置構成はこれに限られない。
図3は、実施形態の変形例にかかる複合材を示す断面図である。変形例にかかる複合材200の構成は、以下に説明するものを除き、複合材100と同様である。そのため、同一の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0040】
変形例にかかる複合材200は、図示するように、接着層20内において、き裂進展抑制部材30が第1面内方向Xに沿って複数配置されている。この構成により、複数のき裂進展抑制部材30をより広い範囲に配置することができるため、接着層20で第1面内方向Xへと向かうき裂Cの進展を、より確実に抑制することができる。また、複合材200において、隣り合うき裂進展抑制部材30は、進展抑制部32の凸形状が互いに反対方向を向いて配置されている。この構成により、き裂Cが第1面内方向Xの2方向のいずれに向かう場合でも、その進展をより確実に抑制することができる。
【0041】
なお、隣り合うき裂進展抑制部材30は、進展抑制部32の凸形状が同方向を向いて配置されてもよい。また、
図3では、き裂進展抑制部材30を接着層20内に2つ配置する例を示しているが、き裂進展抑制部材30は、接着層20内で第1面内方向Xに沿って3つ以上配置されてもよい。その場合、隣り合うき裂進展抑制部材30の少なくとも一部が、進展抑制部32の凸形状が互いに反対方向を向いて配置されてもよいし、すべてのき裂進展抑制部材30が進展抑制部32の凸形状が同方向を向いて配置されてもよい。
【0042】
図4および
図5は、第1の変形例にかかるき裂進展抑制部材を含む複合材を示す断面図である。第1の変形例にかかるき裂進展抑制部材40は、
図4に示すように、誘導部31の両側に進展抑制部32が設けられ、輪を描くように形成されている。この構成により、1つのき裂進展抑制部材40によって、き裂Cが第1面内方向Xの2方向のいずれに向かう場合でも、その進展をより確実に抑制することができる。なお、第2の変形例にかかるき裂進展抑制部材40は、
図5に破線で囲んだ範囲に示すように、1枚のき裂進展抑制部材40となる基材を途中で折り返すことで、一部オーバーラップするオーバーラップ部41が形成されてもよい。
【0043】
図6は、第2の変形例にかかるき裂進展抑制部材を示す正面図であり、
図7は、
図6のA-A線に沿った端面図である。第2の変形例にかかるき裂進展抑制部材50は、進展抑制部32のみを有する。ただし、き裂進展抑制部材60は、進展抑制部32が環状に連続して形成された筒状部材として形成されている。
図7に示す例では、環状の進展抑制部32は、筒状のき裂進展抑制部材60の外側に向かって凸形状を呈する。この構成により、接着層20内において、き裂Cが第1面内方向Xおよび第2面内方向Yのいずれに進展するものであっても、その進展をより確実に抑制することができる。特に、複数のき裂進展抑制部材50を接着層20内に散りばめて配置しておけば、より効果的にき裂Cの進展を抑制することができる。
【0044】
なお、き裂進展抑制部材50の構成は、これに限られない。
図8は、第2の変形例にかかるき裂進展抑制部材の他の構成例を示す端面図である。図示するように、き裂進展抑制部材50は、環状の進展抑制部32が、筒状のき裂進展抑制部材50の内側に向かって凸形状を呈するものであってもよい。また、き裂進展抑制部材50は、環状に連続して形成された誘導部31をさらに備えるものであってもよい。
【0045】
図9は、第3の変形例にかかるき裂進展抑制部材を示す断面図である。第3の変形例にかかるき裂進展抑制部材60は、進展抑制部32が湾曲部ではなく、複数の直線部32Aによって多角形状に形成されている。このように、進展抑制部32を複数の直線部32Aによって構成し、凸形状を呈するようにしてもよい。なお、
図9に示す直線部32Aの数は例示であり、より多くの直線部32Aで進展抑制部32を形成してもよいし、より少ない直線部32Aで進展抑制部32を形成してもよい。
【0046】
図10は、第4の変形例にかかるき裂進展抑制部材を示す説明図である。第4の変形例にかかるき裂進展抑制部材70は、図示するように、複数のき裂進展抑制部材30が第1面内方向Xおよび第2面内方向Yに沿って複数並んで配置される。なお、
図10に示す例では、き裂進展抑制部材30の進展抑制部32が平坦部321を含んでいるが、これは後述する形成方法によるものである。複数のき裂進展抑制部材30は、連結部71を介して連結されている。連結部71は、進展抑制部32の平坦部321と平行に並び、平坦部321に連結される段部711と、段部711同士の間を第1面内方向Xに沿って延びる保持部712とを有する。この構成により、複数のき裂進展抑制部材30を一つの部材として取り扱うことができる。また、第1複合部材10A、第2複合部材10Bおよび接着層20を接着する際に、例えば接着に加熱が伴う場合等に接着層20内に含まれる樹脂が軟化しても、複数のき裂進展抑制部材30間に連結部71(保持部712)が存在することで、き裂進展抑制部材70が接着層20内で流動することを抑制することができる。
【0047】
次に、実施形態にかかる接着層20の形成方法について説明する。まず、
図10に示す第4の変形例にかかるき裂進展抑制部材70を含む接着層20の形成方法について、
図10および
図11を参照しながら説明する。
図11は、き裂進展抑制部材の基材を示す説明図である。
図11に示すように、き裂進展抑制部材70の基材80を準備する。基材80は、本実施形態では金属箔であるが、上述したように、接着層20との界面の接着強度を適切に調節することができれば、金属材料以外の材料であってもよい。
【0048】
まず、基材80に、き裂進展抑制部材70に含まれる各き裂進展抑制部材30および連結部71を形成するための複数の切り込み線L1、複数の第1折り曲げ線L2および複数の第2折り曲げ線L3を規定して描画する。
図11中において実線で示す複数の切り込み線L1は、基材80を切り込むための線である。
図11中において破線で示す複数の第1折り曲げ線L2は、基材80を図中紙面方向の奥側へと折り曲げるための線である。
図11中において一点鎖線で示す複数の第2折り曲げ線L3は、基材80を図中紙面方向の手前側へと折り曲げるための線である。
【0049】
次に、基材80を切り込み線L1に沿って切り込む。ここで、
図11で斜線を付した範囲の面91が、
図10のき裂進展抑制部材30Aとなり、
図11で斜線を付した範囲の面92が、
図10のき裂進展抑制部材30Bとなるものとする。また、
図11に例示するように、切り込み線L1の一つを「切り込み線L11」と称し、切り込み線L1の一つを「切り込み線L11」と称する。このとき、切り込み線L11で切り込まれた部分は、
図10に示すように、第1面内方向Xに沿って並ぶ2つのき裂進展抑制部材30A、30Bに含まれる誘導部31の端部の辺となる。また、切り込み線L12で切り込まれた部分は、
図10に示すように、き裂進展抑制部材30A、30Bの側部の辺となると共に、連結部71の保持部712の側部の辺となる。このように、各切り込み線L1をすべて切り込むことで、複数のき裂進展抑制部材30および連結部71の保持部712の輪郭となる辺が形成される。
【0050】
さらに、基材80を複数の第1折り曲げ線L2に沿って紙面方向の奥側へと折り曲げ、複数の第2折り曲げ線L3に沿って紙面方向の手前側へと折り曲げる。その結果、
図10に示すように第1折り曲げ線L2に囲まれた範囲が、き裂進展抑制部材30の平坦部321となる。このとき、き裂進展抑制部材30の平坦部321の周囲が湾曲部となるように折り曲げることで、平坦部321を含んで進展抑制部32が形成される。また、第1折り曲げ線L2と第2折り曲げ線L3とに囲まれた範囲が連結部71の保持部712となる。これにより、き裂進展抑制部材70が形成される。
【0051】
そして、上述の手順で形成したき裂進展抑制部材70に、接着剤を含む樹脂を含浸させることで、接着層20を形成する。き裂進展抑制部材70への樹脂の含浸は、周知の含浸手法により実行されればよい。
【0052】
この構成により、複数が連結されたき裂進展抑制部材30を含む接着層20を容易に形成することができる。また、上述したように、複数のき裂進展抑制部材30を一つの部材として取り扱うことができる。また、上述したように、第1複合部材10A、第2複合部材10Bおよび接着層20を接着する際に、接着層20内に含まれる樹脂が軟化しても、複数のき裂進展抑制部材30間に連結部71(保持部712)が存在することで、き裂進展抑制部材70が接着層20内で流動することを抑制することができる。
【0053】
なお、接着剤を含む樹脂を含浸させる手法は、
図6から
図8に示す筒状のき裂進展抑制部材50が配置された接着層20を形成する際にも適用される。
【0054】
次に、
図1のき裂進展抑制部材30を含む接着層20の形成方法について、
図12を参照しながら説明する。
図12は、き裂進展抑制部材の周囲に樹脂フィルムを配置する様子を示す説明図である。図示するように、断面U字形状に形成されたき裂進展抑制部材30の内側、すなわち他方の表面34側に、接着剤を含む樹脂フィルム25を複数(例えば2層)重ねて配置し、隙間ができないように表面34に接着させる。また、き裂進展抑制部材30の外側すなわち一方の表面33側に、接着剤を含む樹脂フィルム25を複数(例えば2層)重ねて配置し、表面33に接着させる。これにより、
図12に示す例では、き裂進展抑制部材30の内側および外側にあわせて4層の樹脂フィルム25が接着される。そして、き裂進展抑制部材30の内側および外側に接着された樹脂フィルム25と同数(
図12に示す例では、4層)の樹脂フィルム25を、進展抑制部32側からき裂進展抑制部材30に隙間ができないように接着する。これにより、
図1に示す接着層20が形成される。なお、樹脂フィルム25は、接着剤を含むフィルム状部材であればよく、接着シート、接着テープ等であってもよい。
【0055】
この構成により、き裂進展抑制部材30を含む接着層20を容易に形成することができる。
図3に示すように、接着層20にき裂進展抑制部材30が複数配置される場合には、
図12に示す形成方法で形成した接着層20を複数つなぎあわせればよい。また、本形成方法は、
図4および
図5のき裂進展抑制部材40、
図9のき裂進展抑制部材60を含む接着層20を形成する際にも適用することができる。なお、き裂進展抑制部材30、40、60を含む接着層20についても、き裂進展抑制部材30に接着剤を含む樹脂を含浸させて形成してもよい。
【0056】
本実施形態では、第1部材として第1複合部材10A、第2部材として第2複合部材10Bを備えた複合材100を例として、実施形態にかかる接着部材について説明した。ただし、接着部材は、第1部材および第2部材のいずれか一方または双方が、例えば金属材、発泡コア材、ハニカムコア材、樹脂材等で形成された非複合材であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10A 第1複合部材
10B 第2複合部材
11 複合材料層
20 接着層
25 樹脂フィルム
30,30A,30B,40,50,60,70 き裂進展抑制部材
31 誘導部
32 進展抑制部
321 平坦部
32A 直線部
33,34 表面
41 オーバーラップ部
71 連結部
711 段部
712 保持部
80 基材
91,92 面
100,200 複合材
C き裂
L1,L11,L12 切り込み線
L2 第1折り曲げ線
L3 第2折り曲げ線
X 第1面内方向
Y 第2面内方向
Z 面外方向