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特許7187379絶縁監視装置、絶縁監視装置の精度試験装置、絶縁監視装置の精度試験方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】絶縁監視装置、絶縁監視装置の精度試験装置、絶縁監視装置の精度試験方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20221205BHJP
【FI】
G01R31/52
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019083586
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020180853
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000114189
【氏名又は名称】ミドリ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】荻原 弘晶
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-312445(JP,A)
【文献】特開2017-083347(JP,A)
【文献】特開平11-014687(JP,A)
【文献】特開2010-038787(JP,A)
【文献】特開2000-074979(JP,A)
【文献】特開昭63-56122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/50-31/74、
27/00-27/32、
H02H 3/08-3/253、
1/00-3/07、
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象となる商用電路の接地線及び前記商用電路から枝分かれしたフィーダの少なくとも何れか一方に対して磁気結合された少なくとも1つの電流センサと、
前記電流センサに磁気結合された供給ラインを介して、正弦波状の試験電流を前記電流センサに印加する試験電流供給手段と、
前記電流センサによって検出される電流であって、(a1)前記接地線又は前記フィーダに発生した漏洩電流、及び、(a2)前記電流センサに印加される前記試験電流の少なくとも何れか一方を含む電流の実効値を特定する電流検出手段と、
前記供給ラインに対して直列に接続された抵抗の両端における電位差を検出し、当該検出した電位差に基づき、前記試験電流供給手段によって前記電流センサに対して実際に印加される前記試験電流の実効値を算出する試験電流検知手段と、
前記試験電流が印加されていない状態において、前記電流検出手段により特定される前記漏洩電流の実効値を監視して、当該漏洩電流の実効値が予め定められた閾値を超えた際に、音声及び光の少なくも何れか一方により、漏電の発生を管理者に報知する警報手段と、
を有し、
前記試験電流供給手段が、
予め定められた範囲内において前記試験電流の実効値を変化させつつ、前記電流センサに前記試験電流を印加するとともに、前記試験電流検知手段によって検知される前記試験電流の実効値が予め定められた目標値となったタイミングにて、前記電流センサに印加する前記試験電流の実効値を固定することにより、前記電流センサに印加する試験電流の実効値を前記目標値に維持し、
前記電流検出手段が、
前記電流センサに前記試験電流が印加されていない状態において前記電流センサによって検出される既存の漏洩電流の実効値を特定した後、(b1)前記目標値に維持された前記試験電流を前記電流センサに印加した状態にて、前記電流センサによって検出される前記試験電流、及び、(b2)前記既存の漏洩電流の合成電流の実効値を特定し、当該特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて、前記電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する、ことを特徴とする絶縁監視装置。
【請求項2】
前記電流検出手段の出力する情報により示される前記試験電流の実効値が、前記目標値に対して所定の誤差範囲内に収まるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を、音声及び光の少なくとも一方を用いて報知する報知手段と、
をさらに有する、請求項1に記載の絶縁監視装置。
【請求項3】
前記商用電路に供給される商用交流電源の電圧の位相を検出する位相検出手段をさらに有し、
前記試験電流供給手段が、
前記検出された商用交流電源の電圧の位相に対する位相差が0となる前記試験電流を前記電流センサに印加する、請求項1又は2に記載の絶縁監視装置。
【請求項4】
前記電流センサが、
複数の前記接地線及び前記フィーダの各々に対して磁気結合された状態にて複数設けられるとともに、各々が直列に接続され、
前記供給ラインが、
前記直列に接続された全ての電流センサに対して磁気結合されるとともに、
前記警報手段が、
前記試験電流が印加されていない状態において、何れかの前記電流センサにより検知され、前記電流検出手段により特定される前記漏洩電流の実効値を監視して、当該漏洩電流の実効値が予め定められた閾値を超えた際に、音声及び光の少なくも何れか一方により、漏電の発生を管理者に報知するとともに、
前記電流検出手段が、
前記試験電流が印加されていない状態において、前記複数の電流センサの各々によって検出される既存の漏洩電流の実効値を特定した後、前記目標値に維持された前記試験電流を前記電流センサに印加した状態にて、前記複数の電流センサの各々によって検出される前記試験電流と前記既存の漏洩電流の合成電流の実効値を特定し、当該特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を前記各電流センサ毎に算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて前記各電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する、請求項1~3のいずれか1項に記載の絶縁監視装置。
【請求項5】
前記試験電流供給手段が、
PWM形式の試験電流信号を用いて、正弦波状の前記試験電流を生成する、請求項1~4のいずれか1項に記載の絶縁監視装置。
【請求項6】
絶縁監視装置の精度試験を行う精度試験装置であって、
監視対象となる商用電路の接地線及び前記商用電路から枝分かれしたフィーダの少なくとも何れか一方に対して磁気結合された少なくとも1つの電流センサと、
前記電流センサに磁気結合された供給ラインを介して、正弦波状の試験電流を前記電流センサに印加する試験電流供給手段と、
前記電流センサによって検出される電流であって、(a1)前記接地線又は前記フィーダに発生した漏洩電流、及び、(a2)前記電流センサに印加される前記試験電流の少なくとも何れか一方を含む電流の実効値を特定する電流検出手段と、
前記供給ラインに対して直列に接続された抵抗の両端における電位差を検出し、当該検出した電位差に基づき、前記試験電流供給手段によって前記電流センサに対して実際に印加される前記試験電流の実効値を算出する試験電流検知手段と、
を有し、
前記試験電流供給手段が、
予め定められた範囲内において前記試験電流の実効値を変化させつつ、前記電流センサに前記試験電流を印加するとともに、前記試験電流検知手段によって検知される前記試験電流の実効値が予め定められた目標値となったタイミングにて、前記電流センサに印加する前記試験電流の実効値を固定することにより、前記電流センサに印加する試験電流の実効値を前記目標値に維持し、
前記電流検出手段が、
前記電流センサに前記試験電流が印加されていない状態において前記電流センサによって検出される既存の漏洩電流の実効値を特定した後、(b1)前記目標値に維持された前記試験電流を前記電流センサに印加した状態にて、前記電流センサによって検出される前記試験電流、及び、(b2)前記既存の漏洩電流の合成電流の実効値を特定し、当該特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて前記電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する、ことを特徴とする絶縁監視装置の精度試験装置。
【請求項7】
監視対象となる商用電路の接地線及び前記商用電路から枝分かれしたフィーダの少なくとも何れか一方に対して磁気結合された少なくとも1つの電流センサと、
前記電流センサに磁気結合された供給ラインを介して、正弦波状の試験電流を前記電流センサに印加する試験電流供給手段と、
前記電流センサによって検出される電流であって、(a1)前記接地線又は前記フィーダに発生した漏洩電流、及び、(a2)前記電流センサに印加される前記試験電流の少なくとも何れか一方を含む電流の実効値を特定する電流検出手段と、
前記供給ラインに対して直列に接続された抵抗の両端における電位差を検出し、当該検出した電位差に基づき、前記試験電流供給手段によって前記電流センサに印加される前記試験電流の実効値を算出する試験電流検知手段と、
前記試験電流が印加されていない状態において、前記電流検出手段により特定される前記漏洩電流の実効値を監視して、当該漏洩電流の実効値が予め定められた閾値を超えた際に、音声及び光の少なくも何れか一方により、漏電の発生を管理者に報知する警報手段と、
を有する絶縁監視装置における精度試験方法であって、
前記試験電流供給手段が、予め定められた範囲内において前記試験電流の実効値を変化させつつ、前記電流センサに前記試験電流を印加するとともに、前記試験電流検知手段によって検知される前記試験電流の実効値が予め定められた目標値となったタイミングにて、前記電流センサに印加する前記試験電流の実効値を固定することにより、前記電流センサに対して実際に印加される試験電流の実効値を前記目標値に維持する第1ステップと、
前記電流センサに前記試験電流が印加されていない状態において前記電流センサによって検出される既存の漏洩電流の実効値を特定する第2ステップと、
前記目標値に維持された前記試験電流を前記電流センサに印加した状態にて、前記電流センサによって検出される前記試験電流と、前記既存の漏洩電流と、の合成電流の実効値を特定する第3ステップと、
前記特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて前記電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する第4ステップと、
を有する、ことを特徴とする絶縁監視装置の精度試験方法。
【請求項8】
監視対象となる商用電路の接地線及び前記商用電路から枝分かれしたフィーダの少なくとも何れか一方に対して磁気結合された少なくとも1つの電流センサを有する絶縁監視装置の精度試験を行うコンピュータを、
前記電流センサに磁気結合された供給ラインを介して、正弦波状の試験電流を前記電流センサに印加する試験電流供給手段、
前記電流センサによって検出される電流であって、(a1)前記接地線又は前記フィーダに発生した漏洩電流、及び、(a2)前記電流センサに印加される前記試験電流の少なくとも何れか一方を含む電流の実効値を特定する電流検出手段、
前記供給ラインに対して直列に接続された抵抗の両端における電位差を検出し、当該検出した電位差に基づき、前記試験電流供給手段によって前記電流センサに印加される前記試験電流の実効値を算出する試験電流検知手段、
として機能させ、
前記試験電流供給手段が、
予め定められた範囲内において前記試験電流の実効値を変化させつつ、前記電流センサに前記試験電流を印加するとともに、前記試験電流検知手段によって検知される前記試験電流の実効値が予め定められた目標値となったタイミングにて、前記電流センサに印加する前記試験電流の実効値を固定することにより、前記電流センサに対して実際に印加する試験電流の実効値を前記目標値に維持し、
前記電流検出手段が、
前記電流センサに前記試験電流が印加されていない状態において前記電流センサによって検出される既存の漏洩電流の実効値を測定した後、(b1)前記目標値に前記試験電流を維持した状態にて前記電流センサによって検出される前記試験電流、及び、(b2)前記既存の漏洩電流の合成電流の実効値を特定し、当該特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて前記電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気保安業務のために配電線や電路の絶縁管理などを行う絶縁監視装置及び絶縁監視装置の精度試験を行うための精度試験装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、商用電力系統の送電線により送電された高圧の三相交流電力を受電変圧設備により低圧の三相交流又は単相交流電力に変換し、各種の施設(例えば、工場や一般家庭等)内に設置された負荷(電気機器等)に供給することが行われている。この種の受電変圧設備においては、漏電火災等の事故を防止するため、絶縁監視装置を設け、電路に発生する漏洩電流を監視するケースが多い。この絶縁監視装置においては、フィーダ(配電線:電路)又は電源トランスの接地線に、漏洩電流を検出する零相変流器(以下、「ZCT」ともいう。)や変流器(以下、「CT」ともいう。)等の電流センサを設け、当該電流センサにより検出した漏洩電流の実効値が所定の閾値を上回った時点で、設備管理者に漏電の発生を警告する構成が採用されている。また、絶縁監視装置は、監視精度を担保して安全性を確保する必要性があるため、設備の使用頻度に応じて、所定期間毎(例えば1年~数週間毎)に、精度試験(「校正処理」とも呼ばれる。)を行うことが、各種の規定により義務化されている。
【0003】
この絶縁監視装置の精度試験は、絶縁監視装置の自己診断機能として実装されるものであり、監視対象電路の漏洩電流を検出するために設けられたZCT(又はCT)に対して磁気結合された試験電流の供給ラインを介して、ZCT(又はCT)に試験電流を印加することにより実施される。このとき、絶縁監視装置においては、試験電流が印加された状態にてZCT(又はCT)の二次側に流れる電流信号に基づき、試験電流の実効値が特定されるようになっている。そして、当該特定値が、ZCT等に対して実際に印加される試験電流の実効値に対し、許容可能な誤差範囲内(例えば、±10%の範囲内)に収まっている場合に合格(成功)と判定する一方、誤差範囲を超える場合には、不合格(失敗)と判定し、精度試験の結果を設備管理者に報知する構成が採用されている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、上記従来の精度試験方法を用いる絶縁監視装置では、監視対象電路に既存の漏洩電流(以下、「既存電流」ともいう。)が発生している状況になると、ZCT等が、供給ラインを流れる試験電流とともに、この既存電流を検出してしまい、ZCT等の二次側には、既存電流と試験電流を合成した合成電流(すなわち、既存電流+試験電流)に対応する電流信号が流れることとなる。この結果、ZCT等にて検出される電流から試験電流のみを分離して検出することが難しくなり、試験精度を向上させることが難しくなる。
【0005】
このため、最近では、既存電流が存在する環境下においても、高精度に精度試験を実施可能な絶縁監視装置及び絶縁監視装置用の精度試験装置が提案されている(例えば、特許文献1)。この絶縁監視装置及び試験装置においては、監視対象電路に印加された商用電圧と同期した基準信号に対して、第1の位相βを有する第1試験信号と、第2の位相β+γを有する第2の試験信号と、を交互に切り替えつつZCTに印加し、ZCTにおける第1試験信号と第2試験信号の検出値に応じて演算を行うことで試験電流の実効値を算出して、精度試験を行う構成が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-83347号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「LTE方式 発信機能内蔵 Ior絶縁検出器 SMG-102L 取扱説明書」,ミドリ安全株式会社,P22~25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の試験装置においては、ZCTに印加される試験電流の位相が、βとβ+γの間で交互に切替えられる構成を有しているため、クランプ電流計等を用いつつ、設備管理者の保安員がこの試験電流を測定して確認しようとしても、クランプ電流計における測定値が安定しない可能性があり、試験結果の確認作業が難しくなる可能性がある。また、この方法では、試験電流の算出に必要な演算量が増加するため、精度試験に要する時間が増加し、ZCTに印加される試験電流の変化に追従できず、試験精度が低下する可能性がある。さらに、ZCT等において損失する試験電流の量はZCT等の機種や監視対象電路に設けられたZCT等の数に応じて変化するので、利用するZCT等の機種が異なる場合や監視対象となる電路のチャネル(以下、「CH」という。)数(すなわち、監視対象電路数)が変化すると、試験電流の検出結果に誤差が生じる可能性がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、監視対象電路に既存の漏洩電流が存在する環境下においても、利用するZCT等の機種や数に依存することなく、試験電流の変化に対する高い応答性を確保しつつ、高精度に精度試験を実施することができる絶縁監視装置などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上述した課題を解決するため、本発明に係る絶縁監視装置は、監視対象となる商用電路の接地線及び前記商用電路から枝分かれしたフィーダの少なくとも何れか一方に対して磁気結合された少なくとも1つの電流センサと、前記電流センサに磁気結合された供給ラインを介して、正弦波状の試験電流を前記電流センサに印加する試験電流供給手段と、前記電流センサによって検出される電流であって、(a1)前記接地線又は前記フィーダに発生した漏洩電流、及び、(a2)前記電流センサに印加される前記試験電流の少なくとも何れか一方を含む電流の実効値を特定する電流検出手段と、前記供給ラインに対して直列に接続された抵抗の両端における電位差を検出し、当該検出した電位差に基づき、前記試験電流供給手段によって前記電流センサに対して実際に印加される前記試験電流の実効値を算出する試験電流検知手段と、前記試験電流が印加されていない状態において、前記電流検出手段により特定される前記漏洩電流の実効値を監視して、当該漏洩電流の実効値が予め定められた閾値を超えた際に、音声及び光の少なくも何れか一方により、漏電の発生を管理者に報知する警報手段と、を有し、前記試験電流供給手段が、予め定められた範囲内において前記試験電流の実効値を変化させつつ、前記電流センサに前記試験電流を印加するとともに、前記試験電流検知手段によって検知される前記試験電流の実効値が予め定められた目標値となったタイミングにて、前記電流センサに印加する前記試験電流の実効値を固定することにより、前記電流センサに印加する試験電流の実効値を前記目標値に維持し、前記電流検出手段が、前記電流センサに前記試験電流が印加されていない状態において前記電流センサによって検出される既存の漏洩電流の実効値を特定した後、(b1)前記目標値に維持された前記試験電流を前記電流センサに印加した状態にて、前記電流センサによって検出される前記試験電流、及び、(b2)前記既存の漏洩電流の合成電流の実効値を特定し、当該特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて、前記電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する構成を有している。
【0011】
この構成により、本発明に係る絶縁監視装置は、ZCTやCT等により構成され、監視対象となる商用電路の接地線又はフィーダに対して磁気結合された電流センサによって監視対象電路に発生している漏洩電流を検出し、当該漏洩電流の実効値が閾値を超えた時点で警報を発することができるので、事故の発生を未然に防止することができる。
【0012】
また、本発明に係る絶縁監視装置は、予め定められた電流値(例えば、0~100mA)の範囲内において試験電流の実効値を変化させつつ、供給ラインを介して電流センサに試験電流を印加するとともに、供給ラインと直列に接続された抵抗の両端間における電位差から実際に電流センサに対して印加されている試験電流の実効値を特定するようになっている。
【0013】
ここで、供給ラインを介して電流センサに印加される試験電流の実効値は、電流センサとして用いられるZCT等の機種や数に応じて変化するが、本発明の絶縁監視装置は、抵抗の両端間における電位差から実際に電流センサに対して印加されている試験電流の実効値を特定しつつ、当該特定された試験電流の実効値に応じて供給ラインに供給する試験電流の実効値を決定することができるので、ZCT等の機種や数に依存することなく、確実に供給ラインに供給する試験電流の実効値を目標値(例えば、50mA)に維持した状態にて、精度試験を実施することができ、試験実施時に発生する誤差を低減することができる。
【0014】
さらに、本発明に係る絶縁監視装置は、試験電流をZCT等の電流センサに印加しない状態にて、予め既存電流の実効値を特定しておくとともに、試験電流の実効値を目標値に維持した状態にて、特定された合成電流の実効値と、予め特定した既存電流の実効値の差分を算出して、試験電流の実効値を算出する構成になっている。したがって、本発明の絶縁監視装置は、監視対象電路上に既存電流が存在している状況においても、電流センサにおいて検出される合成電流の実効値から既存電流に対応する成分を確実に除去して、試験電流のみを高精度に算出し、当該算出した試験電流値を示す情報を出力でき、高精度な精度試験を実施することができる。
【0015】
なお、絶縁監視装置の精度試験においては、実際にZCT等に対して印加される試験電流の値(実効値)と、試験電流の算出値と、の差が許容可能な誤差範囲内に納まるか否かによって合否判定が行われることになるが、合否判定自体は、出力された情報を利用して、設備管理者の保安員が行うようにしてもよく、後述のように自動的に合否判定を行う構成を採用してもよい。また、出力された情報に基づく合否判定と合わせて、保安員等がクランプ電流計を用いつつ、供給ラインを流れる試験電流を計測して、算出結果に基づく、精度試験結果の再チェック(すなわち、確認作業)を行うようにしてもよい。この場合においても、本発明に係る絶縁監視装置は、正弦波状の試験電流をZCT等の電流センサに印加する構成を有するため、試験電流の実効値をクランプ電流計で測定する際の測定値が安定し、高精度に試験結果の再チェックを行うことができる。さらに、本発明に係る絶縁監視装置においては、簡単な演算(すなわち、試験電流の印加前後における電流特定値の差分値算出)を行うだけで試験電流の実効値を算出できるので、精度試験実施時の演算量を削減し、試験電流の早い変化にも追従することができる。
【0016】
この結果、本発明に係る絶縁監視装置によれば、監視対象電路に既存の漏洩電流が存在する環境下においても、利用するZCTの機種や数に依存することなく、試験電流の変化に対する高い応答性を確保しつつ、高い精度にて精度試験を実施することができる。
【0017】
(2)また、請求項1に記載の構成において、前記電流検出手段の出力する情報により示される前記試験電流の実効値が、前記目標値に対して所定の誤差範囲内に収まるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段による判定結果を、音声及び光の少なくとも一方を用いて報知する報知手段と、をさらに設けるようにしてもよい。
【0018】
この構成により、本発明に係る絶縁監視装置は、試験電流の算出結果が目標値(例えば、50mA)に対して、所定の誤差範囲(例えば、±10%)内に納まっているか否かを自動的に判定して、その判定結果を音声や光などによって設備管理者に報知することができるので、精度試験の合否判定を自動化し、設備管理者の作業負担を軽減することができる。
【0019】
(3)また、請求項1又は2に記載の構成において、前記商用電路に供給される商用交流電源の電圧の位相を検出する位相検出手段をさらに有し、前記試験電流供給手段が、前記検出された商用交流電源の電圧の位相に対する位相差が0となる前記試験電流を前記電流センサに印加する構成を採用するようにしてもよい。
【0020】
監視対象電路上に発生する漏洩電流は、商用電路に供給される商用電源の電圧と同期した位相を有するので、試験電流の周期が商用電源の周期と異なってしまうと、既存電流の成分と試験電流の成分が干渉し合い、ZCT等にて検出される合成電流の実効値が、試験電流と既存電流の実効値の和と一致しなくなる可能性がある。この場合には、合成電流の実効値と既存電流の実効値の差分を算出しても試験電流の実効値を高精度に算出することが難しくなり、高精度な精度試験を実施することができなくなる可能性があるが、上記構成により、商用交流電源の電圧と同期した試験電流をZCT等に印加することができるので、ZCTにて検出される合成電流から既存電流成分を確実に除去して、高精度な精度試験を実施することができる。
【0021】
(4)また、請求項1~3の何れか1項に記載の構成において、前記電流センサが、複数の前記接地線及び前記フィーダの各々に対して磁気結合された状態にて複数設けられるとともに、各々が直列に接続され、前記供給ラインが、前記直列に接続された全ての電流センサに対して磁気結合されるとともに、前記警報手段が、前記試験電流が印加されていない状態において、何れかの前記電流センサにより検知され、前記電流検出手段により特定される前記漏洩電流の実効値を監視して、当該漏洩電流の実効値が予め定められた閾値を超えた際に、音声及び光の少なくも何れか一方により、漏電の発生を管理者に報知するとともに、前記電流検出手段が、前記試験電流が印加されていない状態において、前記複数の電流センサの各々によって検出される既存の漏洩電流の実効値を特定した後、前記目標値に維持された前記試験電流を前記電流センサに印加した状態にて、前記複数の電流センサの各々によって検出される前記試験電流と前記既存の漏洩電流の合成電流の実効値を特定し、当該特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を前記各電流センサ毎に算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて前記各電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する構成を採用してもよい。
【0022】
この構成により、本発明に係る絶縁監視装置は、商用電路の複数の接地線やフィーダの各々にZCT等の電流センサを設け、各電流センサによって、複数の接地線やフィーダに発生する漏洩電流を同時に監視しつつ、何れかの電流センサによって検出される漏洩電流が閾値を超えた際に警報を発生させて、各種事故の発生を確実に防止することができる。
【0023】
また、この構成により、本発明に係る絶縁監視装置は、各CHに対応する電流センサの各々によって検出された合成電流と既存電流の差分を算出することで、電流センサ毎に試験電流の実効値を高精度に特定し、全てのCHに対応する電流センサを一括して試験することができ、設備管理者の作業負担を軽減しつつ、高精度な精度試験を実施することができる。
【0024】
(5)また、請求項1~4の何れか1項に記載の構成において、前記試験電流供給手段が、PWM形式の試験電流信号を用いて、正弦波状の前記試験電流を生成する構成を採用するようにしてもよい。
【0025】
この構成により、本発明に係る絶縁監視装置は、CPU(Central Processing Unit)やプログラマブルロジックにより生成されたPWM形式の信号を単純なフィルタ回路やインバータ回路に供給するだけで、正弦波状の試験電流を生成することができるので、装置製造を容易化して、装置の製造コストや保守・運用コストを削減することができる。
【0026】
(6)また、本発明に係る絶縁監視装置の精度試験装置は、絶縁監視装置の精度試験を行う精度試験装置であって、監視対象となる商用電路の接地線及び前記商用電路から枝分かれしたフィーダの少なくとも何れか一方に対して磁気結合された少なくとも1つの電流センサと、前記電流センサに磁気結合された供給ラインを介して、正弦波状の試験電流を前記電流センサに印加する試験電流供給手段と、前記電流センサによって検出される電流であって、(a1)前記接地線又は前記フィーダに発生した漏洩電流、及び、(a2)前記電流センサに印加される前記試験電流の少なくとも何れか一方を含む電流の実効値を特定する電流検出手段と、前記供給ラインに対して直列に接続された抵抗の両端における電位差を検出し、当該検出した電位差に基づき、前記試験電流供給手段によって前記電流センサに対して実際に印加される前記試験電流の実効値を算出する試験電流検知手段と、を有し、前記試験電流供給手段が、予め定められた範囲内において前記試験電流の実効値を変化させつつ、前記電流センサに前記試験電流を印加するとともに、前記試験電流検知手段によって検知される前記試験電流の実効値が予め定められた目標値となったタイミングにて、前記電流センサに印加する前記試験電流の実効値を固定することにより、前記電流センサに印加する試験電流の実効値を前記目標値に維持し、前記電流検出手段が、前記電流センサに前記試験電流が印加されていない状態において前記電流センサによって検出される既存の漏洩電流の実効値を特定した後、(b1)前記目標値に維持された前記試験電流を前記電流センサに印加した状態にて、前記電流センサによって検出される前記試験電流、及び、(b2)前記既存の漏洩電流の合成電流の実効値を特定し、当該特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて前記電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する構成を有している。
【0027】
この構成により、本発明に係る絶縁監視装置の精度試験装置は、予め定められた電流値(例えば0~100mA)の範囲内において試験電流の実効値を変化させつつ、供給ラインを介して電流センサに試験電流を供給するとともに、供給ラインと直列に接続された抵抗の両端間における電位差から実際に電流センサに印加されている試験電流の実効値を特定するようになっている。
【0028】
ここで、供給ラインを介して電流センサに印加される試験電流の実効値は、絶縁監視装置の漏洩電流監視用の電流センサとして用いられるZCT等の機種や数に応じて変化するが、本発明に係る精度試験装置は、抵抗の両端間における電位差から実際に電流センサに対して印加されている試験電流の実効値を特定しつつ、当該特定された試験電流の実効値に応じて電流センサに印加する試験電流の実効値を決定することができるので、ZCT等の機種や数に依存することなく供給ラインに供給する試験電流の実効値を目標値に維持した状態にて、精度試験を実施することができ、試験実施時に発生する誤差を低減することができる。
【0029】
また、本発明に係る精度試験装置は、ZCT等の電流センサに試験電流を印加しない状態にて、既存電流の実効値を予め特定しておくとともに、試験電流の実効値を目標値(例えば、50mA)に維持した状態にて特定された合成電流の実効値と、予め特定された既存電流の実効値の差分を算出して、試験電流の実効値を算出する構成になっている。したがって、本発明の精度試験装置によれば、監視対象電路上に既存電流が存在している環境下においても、電流センサにて検出される合成電流の実効値から既存電流に対応する成分を確実に除去し、試験電流のみを高精度に算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力できるので、精度試験の精度を向上させることができる。
【0030】
なお、精度試験においては、実際にZCT等に印加される試験電流の値(実効値)と、試験電流の特定値の誤差が許容範囲内に納まるか否かによって合否判定が行われることになるが、合否判定自体は、出力された情報を利用して、設備管理者の保安員が行うようにしてもよく、装置内で自動的に合否判定を行う構成を採用してもよい。また、出力された情報に基づく合否判定と合わせて、保安員がクランプ電流計を用いつつ、供給ラインを流れる試験電流を計測して、算出結果に基づく、精度試験結果の再チェックを行うようにしてもよい。この場合においても、本発明に係る試験装置は、正弦波状の試験電流をZCT等の電流センサに印加する構成を有するため、試験電流の実効値をクランプ電流計で測定する際の測定値が安定し、高精度に試験結果の再チェックを行うことができる。さらに、本発明に係る精度試験装置においては、簡単な演算(すなわち、試験電流の印加前後における電流特定値の差分値算出)を行うだけで試験電流の実効値を算出できるので、試験電流の早い変化にも追従することができる。
【0031】
この結果、本発明に係る精度試験装置によれば、監視対象電路に既存の漏洩電流が存在する環境下においても、利用するZCTの機種や数に依存することなく、試験電流の変化に対する高い応答性を確保しつつ、高精度に精度試験を実施することができる。
【0032】
(7)また、本発明に係る絶縁監視装置の精度試験方法は、監視対象となる商用電路の接地線及び前記商用電路から枝分かれしたフィーダの少なくとも何れか一方に対して磁気結合された少なくとも1つの電流センサと、前記電流センサに磁気結合された供給ラインを介して、正弦波状の試験電流を前記電流センサに印加する試験電流供給手段と、前記電流センサによって検出される電流であって、(a1)前記接地線又は前記フィーダに発生した漏洩電流、及び、(a2)前記電流センサに印加される前記試験電流の少なくとも何れか一方を含む電流の実効値を特定する電流検出手段と、前記供給ラインに対して直列に接続された抵抗の両端における電位差を検出し、当該検出した電位差に基づき、前記試験電流供給手段によって前記電流センサに印加される前記試験電流の実効値を算出する試験電流検知手段と、前記試験電流が印加されていない状態において、前記電流検出手段により特定される前記漏洩電流の実効値を監視して、当該漏洩電流の実効値が予め定められた閾値を超えた際に、音声及び光の少なくも何れか一方により、漏電の発生を管理者に報知する警報手段と、を有する絶縁監視装置における精度試験方法であって、前記試験電流供給手段が、予め定められた範囲内において前記試験電流の実効値を変化させつつ、前記電流センサに前記試験電流を印加するとともに、前記試験電流検知手段によって検知される前記試験電流の実効値が予め定められた目標値となったタイミングにて、前記電流センサに印加する前記試験電流の実効値を固定することにより、前記電流センサに対して実際に印加される試験電流の実効値を前記目標値に維持する第1ステップと、前記電流センサに前記試験電流が印加されていない状態において前記電流センサによって検出される既存の漏洩電流の実効値を特定する第2ステップと、前記目標値に維持された前記試験電流を前記電流センサに印加した状態にて、前記電流センサによって検出される前記試験電流と、前記既存の漏洩電流と、の合成電流の実効値を特定する第3ステップと、前記特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて前記電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する第4ステップと、を有する構成を有している。
【0033】
(8)また、本発明に係るプログラムは、監視対象となる商用電路の接地線及び前記商用電路から枝分かれしたフィーダの少なくとも何れか一方に対して磁気結合された少なくとも1つの電流センサを有する絶縁監視装置の精度試験を行うコンピュータを、前記電流センサに磁気結合された供給ラインを介して、正弦波状の試験電流を前記電流センサに印加する試験電流供給手段、前記電流センサによって検出される電流であって、(a1)前記接地線又は前記フィーダに発生した漏洩電流、及び、(a2)前記電流センサに印加される前記試験電流の少なくとも何れか一方を含む電流の実効値を特定する電流検出手段、前記供給ラインに対して直列に接続された抵抗の両端における電位差を検出し、当該検出した電位差に基づき、前記試験電流供給手段によって前記電流センサに印加される前記試験電流の実効値を算出する試験電流検知手段、として機能させ、前記試験電流供給手段が、予め定められた範囲内において前記試験電流の実効値を変化させつつ、前記電流センサに前記試験電流を印加するとともに、前記試験電流検知手段によって検知される前記試験電流の実効値が予め定められた目標値となったタイミングにて、前記電流センサに印加する前記試験電流の実効値を固定することにより、前記電流センサに対して実際に印加する試験電流の実効値を前記目標値に維持し、前記電流検出手段が、前記電流センサに前記試験電流が印加されていない状態において前記電流センサによって検出される既存の漏洩電流の実効値を測定した後、(b1)前記目標値に前記試験電流を維持した状態にて前記電流センサによって検出される前記試験電流、及び、(b2)前記既存の漏洩電流の合成電流の実効値を特定し、当該特定した合成電流の実効値と、前記特定した既存の漏洩電流の実効値の差分を算出することにより、前記目標値に前記試験電流の実効値を維持した状態にて前記電流センサによって検出される前記試験電流の実効値を算出し、当該算出した試験電流の実効値を示す情報を出力する構成を有している。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る絶縁監視装置、絶縁監視装置の精度試験装置、精度試験方法及びプログラムは、監視対象電路に既存の漏洩電流が存在する環境下においても、利用するZCTの機種や数に依存することなく、試験電流の変化に対する高い応答性を確保しつつ、高い精度にて精度試験を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態における絶縁監視システムの構成例を示すシステム構成図である。
図2】一実施形態の絶縁監視装置において精度試験実施時に供給されるAC100Vタイミング信号と、試験電流、既存電流及び合成電流の関係を示すタイミングチャートである。
図3】一実施形態の本絶縁監視装置の制御部において実行される精度試験処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、商用電力系統により供給される高圧(例えば、6.6kV、3.3kV等)の商用電力(三相交流電力)を利用(消費)する施設に設置され、当該高圧の商用電力を低圧(例えば、210V~105V等)の三相交流電力に変換しつつ、当該施設内に設置された各種の負荷に供給する受電変圧設備のフィーダ、又は、電源トランスの接地線にて発生する漏洩電流を監視する絶縁監視装置に本発明の絶縁監視装置などを適用した場合の実施形態である。また、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要素であるとは限らない。
【0037】
[1]絶縁監視システム1の構成及び概要
まず、図1を用いつつ、本発明に係る絶縁監視装置を利用した絶縁監視システム1の一実施形態について説明する。なお、図1は、本実施形態の絶縁監視システム1の構成例を示すシステム構成図である。また、図1においては、商用電力系統の高圧電源を低圧に変換する電源トランスTのB種接地線を監視対象とするCHをCH1とするとともに、電路Pから枝分かれしたフィーダ又は接地線(図示しない)の各々を監視対象とするCHをCH2~nとして表している。さらに、図1においては、電路Pにおいて漏洩電流を発生させる抵抗成分をRで示すとともに、電路Pにおいて漏洩電流を発生させる静電容量成分をCで示している。なお、監視対象となる接地線等のCH数「n」については任意であり、例えば、4CH構成を採用するようにしてもよい。
【0038】
図1に示すように本実施形態の絶縁監視システム1は、図示せぬ商用電力系統に接続される受電変圧設備に組み込まれ、監視対象となる電路Pの接地線又はフィーダに発生する漏洩電流を、例えば、Io方式等の方式にて監視する絶縁監視装置10と、受電変圧設備の管理者が常駐する管理センターに設置され、絶縁監視装置10に対してLTE(Long Term Evolution)等の無線通信ネットワークやRS-485等の有線インターフェースにより通信接続される通信端末装置20と、を有し、監視対象となる受電変圧設備の接地線又はフィーダにおいて発生した漏洩電流を絶縁監視装置10により監視して、当該漏洩電流の実効値が予め定められた閾値を超えた場合に、設備管理者に対して漏電の発生を警告する漏電監視機能を実現するためのものである。
【0039】
[2]絶縁監視装置10の具体的構成
次いで、図1及び2を用いて、本実施形態の絶縁監視装置10の具体的な構成について説明する。なお、図2は、本実施形態の絶縁監視装置10におけるAC100Vタイミング信号と、試験電流、既存電流及び合成電流の関係を示すタイミングチャートである。また、図2においては、AC100V電源の電圧の位相に対する試験電流、既存電流及び合成電流の位相差をθにて表している。
【0040】
本実施形態の絶縁監視装置10は、図1に示すように各CHに対応する接地線又はフィーダに磁気結合された複数のZCT111-1~n(以下、各ZCTを特に特定する必要が無い場合には、「ZCT111」という。)と、各ZCT111の二次側に接続された複数の電流検出部112-1~n(以下、各電流検出部を特に特定する必要が無い場合には、「電流検出部112」という。)と、を有し、各ZCT111は、直列に接続されるとともに、全てのZCT111に対して、試験電流の供給ライン115が磁気結合された構成となっている。
【0041】
また、本実施形態に特徴的な事項として、供給ライン115は、既知の抵抗値を有する試験電流検知用抵抗TCMRを介してグランドに接続されており、この試験電流検知用抵抗TCMRの両端間電圧を測定することにより、実際に供給ライン115を介してZCT111に印加されている試験電流の実効値Eを検出することが可能な構成になっている。なお、ZCT111は、貫通形のものを用いても良く、分割(クランプ)型のものを用いてもよい。また、ZCT111を貫通型又は分割型のCTによって代替する構成を採用するようにしてもよい。要は、(1)監視対象となるCHに対応する接地線やフィーダに発生した漏洩電流、及び、(2)供給ライン115を介して印加される試験電流を検出し、当該検出した電流に対応する電流信号を電流検出部112に出力可能なものであれば、どのような構成のものを用いてもよい。
【0042】
また、絶縁監視装置10は、絶縁監視装置10の各部を制御するとともに、精度試験に必要な処理を実行する制御部113と、各ZCT111に対して磁気結合された供給ライン115と接続され、制御部113による制御の下、供給ライン115を介して、全てのZCT111に試験電流を印加する試験電流出力部114と、供給ライン115を介してZCT111に印加される試験電流の実効値Eを調整する試験電流設定ボリューム116と、絶縁監視装置10の駆動及び制御に利用されるAC100Vの商用電源(以下、「AC100V電源」という。)に基づき、当該AC100V電源の電圧の位相を特定するために必要なAC100Vタイミング信号(後述する)を生成するAC100V信号生成部117と、絶縁監視装置10の装置電源回路118と、液晶パネルや有機EL(Electro Luminescence)パネル、各種通知用のLED(Light Emitting Diode)等により構成される表示部119と、テンキー等の各種のキーを有する操作部120と、各種のプログラムが記録されるとともにワークエリアとして利用されるROM/RAM121と、を有している。
【0043】
そして、本実施形態の絶縁監視装置10は、操作部120に対する管理者の入力操作に応じて、
(a)監視対象となる各CHに対応する接地線又はフィーダにおける漏洩電流の発生を監視する漏電監視モードと、
(b)絶縁監視装置10の精度試験を実施する精度試験モードと、
を選択できるようになっており、ユーザ(設備管理者)によって選択されたモードにて動作する構成になっている。
【0044】
例えば、絶縁監視装置10は、漏電監視モードに設定された状態においては、ZCT111に対する試験電流の印加を行わずに、全てのCHに対応するZCT111により検出される漏洩電流を監視し、何れかのCHに対応するZCT111にて検出される漏洩電流の実効値が閾値を超えると、設備管理者に漏電の警告を行う構成になっている。なお、漏電の警告を発生させる漏洩電流の閾値については任意であるが、本実施形態においては、漏電事故を防止できる範囲内において予め閾値が設定されており、当該閾値を示す情報が予めROM/RAM121に記憶されているものとして説明を行う。
【0045】
また、本実施形態の絶縁監視システム1において設備管理者に漏電の警告を行う際の具体的な方法については任意であり、例えば、各CHに対応する漏電警告用のLEDを表示部119に設け、漏洩電流の実効値が閾値を超えたCHに対応する漏電警告用のLEDを点灯させて、警告を行う構成を採用してもよく、LED点灯と合わせて、図示せぬスピーカからブザー音を鳴らす構成を採用してもよい。但し、本実施形態においては、漏洩電流の発生しているCHに対応する漏電警告用のLEDを表示部119にて点灯させるとともに、絶縁監視装置10から通信端末装置20に警報信号を送信し、通信端末装置20にて音声及び光の少なくとも一方を用いて警報を発生させる構成を採用するものとして説明を行う。この構成により、本実施形態の絶縁監視システム1は、設備管理者に漏電の発生を現場と遠方に警告(すなわち、表示部119及び通信端末装置20における警告の2種類)できるので、警告の見逃しを防止して、事故の発生を確実に防止することができる。なお、絶縁監視装置10から通信端末装置20に送信する警報信号に対して、漏洩電流の検出されたCHに対応するCH番号(すなわち、CH1~nの何れかを示す番号)を含ませる構成を採用すれば、どのCHにおいて漏洩電流が発生しているのかを通信端末装置20側にて特定しつつ、設備管理者に警告を行うことが可能となり、絶縁監視装置10の保守・管理作業の負担を軽減することができる。
【0046】
また、例えば、本実施形態の絶縁監視装置10は、精度試験モードに設定された状態においては、供給ライン115を介してZCT111に試験電流を印加しつつ、ZCT111にて検出される試験電流の実効値Eと、実際にZCT111に印加されている試験電流の実効値と、を比較し、ZCT111にて検出される試験電流の実効値Eが、実際にZCT111に印加される試験電流の実効値に対して許容可能な誤差範囲内に納まる場合に精度試験に合格(成功)したものと判定する一方、誤差範囲内に納まらない場合には、精度試験に不合格(失敗)になったものと判定して、精度試験の結果を設備管理者に報知する構成を有している。
【0047】
なお、どの程度の誤差までを許容可能範囲とするのかに関しては任意であるが、本実施形態においては、説明を具体化するため、ZCT111に対して実際に印加される試験電流の実効値に対して、ZCT111において検出される試験電流の実効値Eが、±10%の範囲内に納まっている場合に、精度試験に合格したものと判定する一方、±10%の範囲内に納まっていない場合には、精度試験に不合格になったものと判定して、合否判定の結果を設備管理者に報知する構成を採用するものとして説明を行う。また、設備管理者に対して試験結果を報知する際の具体的な方法に関しては任意であり、表示部119に合格及び不合格の各々に対応するLEDをCH毎に設け、精度試験の結果に応じて、CH毎にLEDを点灯させて試験の合否判定結果を報知する構成を採用してもよく、これと合わせて音声で報知する構成としてもよい。但し、本実施形態においては、説明を具体化するため、このLEDの点灯と同時に、精度試験の結果を示す情報(以下、「試験結果情報」ともいう。)を通信端末装置20に送信し、通信端末装置20において、どのCHが精度試験に合格し、どのCHが精度試験に不合格であったのかを表示させる構成を採用しているものとして説明を行う。
【0048】
ここで、上述したように接地線又はフィーダに既存電流が発生している環境下において、ZCT111に試験電流を印加すると、ZCT111においては、既存電流と試験電流の合成電流が検出されることになる。このため、ZCT111にて検出される電流から試験電流成分のみを分離して検出することができなくなり、試験精度を向上させることが難しくなる。例えば、図2[4]に示すような既存電流が発生している環境にて、図2[2]に示すような試験電流をZCT111に印加した場合には、ZCT111において、図2[5]に示すような合成電流が検出されることとなる。この結果、ZCT111において検出される電流(合成電流)から試験電流のみを分離して検出することが難しくなり、試験精度を向上させることが難しくなる。
【0049】
そこで、本実施形態の絶縁監視装置10においては、概略以下の手順により、精度試験を実施する方法を採用することとしている。
【0050】
(1)まず、ZCT111に対する試験電流の印加を行わない状態にて、各CHに対応するZCT111を用いつつ、当該CHに対応する接地線又はフィーダに発生している既存電流を検出し、当該既存電流の実効値E2を特定して、当該特定した既存電流の実効値E2をROM/RAM121に記憶する。このとき、各CHに対応するCH番号と対応付けつつ、当該CHのZCT111にて検出された既存電流の実効値E2をROM/RAM121に記憶させる。なお、このとき、既存電流が存在しないCHに関しては、既存電流の実効値E2を0mAと特定して、CH番号と対応付けてROM/RAM121に記憶するようにすればよい。
【0051】
(2)次いで、供給ライン115を介してZCT111に印加する試験電流の実効値Eを0mAから100mAまで経時的に変化させつつ、試験電流検知用抵抗TCMRの両端間電圧に基づき、ZCT111に対して実際に印加されている試験電流の実効値を算出し、当該算出された試験電流の実効値が予め設定された目標値(例えば50mA)に到達したタイミングにて、ZCT111に印加させる試験電流の実効値を固定し、ZCT111に対して印加される試験電流の実効値を目標値に維持させる。なお、ZCT111に印加する試験電流の実効値を変化させる際の態様については任意であり、0mAからスタートして、所定時間間隔(例えば、0.05秒間隔)で所定値ずつ(例えば、1mAずつ)ステップアップさせて、試験電流の実効値を0mAから100mAまで変化させるようにしてもよく、0mAから100mAまでリニアに(線形に)試験電流の実効値を変化させるようにしてもよい。
【0052】
ここで、上述したようにZCT111に対して実際に印加される試験電流の実効値は、ZCT111の機種や監視対象となるCH数(すなわち、ZCT111の数)に応じて変化するが、本実施形態の絶縁監視装置10は、試験電流検知用抵抗TCMRの両端間電圧に基づき、実際にZCT111に対して印加される試験電流の実効値を目標値に維持することができるので、利用するZCT111の機種や数と関係なく、誤差の少ない高精度な精度試験を実施することができる。
【0053】
(4)次いで、ZCT111に印加する試験電流の実効値を目標値に維持した状態にてZCT111にて検出される電流(すなわち、目標値に維持された試験電流と既存電流の合成電流)の実効値E1をCH毎に特定する。
【0054】
(5)このようにして、CH毎の合成電流の実効値E1が特定されると、各CHに対応する合成電流の実効値E1、及び、予めROM/RAM121に記憶した各CHに対応する既存電流の実効値E2に基づき、各ZCT111にて検出された試験電流の実効値Eを算出する。このとき、本実施形態の絶縁監視装置10は、CH毎に合成電流の実効値E1と既存電流の実効値E2の差分を算出し、各ZCT111にて検出される試験電流の実効値Eを算出するようになっている。なお、既存電流の実効値E2が0mAの場合には、合成電流の実効値E1から0mAを減算することとなり、ZCT111にて検出された合成電流の実効値E1が、そのまま算出値になる。
【0055】
(6)そして、上記方法にて算出した試験電流の実効値Eが目標値に対して、±10%の範囲内(例えば、目標値が50mAの場合には、45mA~55mA)の範囲内に納まっているか否かを判定し、目標値に対する誤差が±10%の範囲内にあるときには、精度試験に合格したものと判定する一方、±10%の範囲を超えている場合には、精度試験に不合格であるものと判定して、精度試験の結果を管理者に報知する。
【0056】
以上のように、本実施形態の絶縁監視装置10は、試験電流を印加しない状態にて予め既存電流の実効値E2を特定及び記憶した後、ZCT111に印加する試験電流の実効値を目標値に維持した状態にて合成電流の実効値E1を特定し、当該特定した合成電流の実効値E1と予め特定した既存電流の実効値E2の差分値として得られる試験電流の実効値Eに基づき精度試験を実施することができる。
【0057】
この結果、本実施形態の絶縁監視装置10は、監視対象となる接地線やフィーダに既存電流が存在する環境下においてもZCT111によって検出される電流(合成電流)の実効値から既存電流成分を確実に除去しつつ、ZCT111に対して実際に印加されている試験電流のみを高精度に算出し、当該算出値に基づき、精度試験を実施できるので、精度試験の精度を向上させることが可能となる。また、本実施形態の絶縁監視装置10は、試験電流の印加前後におけるZCT111の検出電流の差分値に基づき、試験電流の実効値Eを算出して、精度試験を実施するので、精度試験に伴う演算量を削減して、試験電流の変化に対する高い応答性を確保しつつ、高精度に精度試験を実施することができる。
【0058】
次いで、電流検出部112は、図示せぬフィルタ回路やアンプ回路、A/Dコンバータ等を有し、ZCT111からの電流信号を増幅するとともに、フィルタ回路にて不要な周波数帯を減衰させ、ZCT111にて検出された電流(漏洩電流等)の実効値を示す情報(以下、「電流情報」という。)を制御部113に出力する。
【0059】
制御部113は、CPU(Central Processing Unit)等により構成され、ROM/RAM121に記録されたプログラムを実行することにより、電流特定部113-1と、合否判定部113-2と、試験電流検知部113-3と、試験電流信号発生部113-4と、警報出力部113-5と、位相検出部113-6と、を実現する。なお、制御部113はプログラマブルロジックにより構成してもよい。
【0060】
電流特定部113-1は、漏電監視モードと精度試験モードの何れに設定されている状態においても電流検出部112から出力される電流情報に基づき、ZCT111にて検出された電流(すなわち、漏洩電流、既存電流及び合成電流の何れか)の実効値を特定する。なお、例えば、本実施形態の電流特定部113-1は、電流検出部112と連動して、本発明の「電流検出手段」を構成する。
【0061】
特に、本実施形態において電流特定部113-1は、漏電監視モードに設定された状態において、全CHに対応する接地線やフィーダにて発生する漏洩電流を同時に監視するため、全CHに対応するZCT111において検出された漏洩電流の実効値を特定するようになっている。
【0062】
また、電流特定部113-1は、精度試験モードに設定された状態においては、試験電流信号発生部113-4と連動しつつ、精度試験開始後の所定期間中、ZCT111に対する試験電流の印加を行わない状態を維持させつつ、全CHに対応するZCT111により検出される既存電流の実効値E2を特定して、当該特定した既存電流の実効値E2を、該当するCHのCH番号と対応付けて、ROM/RAM121に記憶させる。
【0063】
さらに、電流特定部113-1は、既存電流の実効値E2の特定及び記憶が完了し、目標値に維持された試験電流がZCT111に印加された状態になると、各CHに対応するZCT111において検出される電流(すなわち、合成電流)の実効値E1を特定するようになっている。
【0064】
合否判定部113-2は、精度試験モードに設定された状態において、電流特定部113-1によって特定された合成電流の実効値E1からROM/RAM121に記憶された既存電流の実効値E2を減算して、試験電流の実効値Eを算出し、当該算出した試験電流の実効値Eと目標値に基づいて精度試験の合否判定を行う。このとき、合否判定部113-2は、各CHに対応するZCT111にて検出された合成電流の実効値E1から当該CHのZCT111にて検出され、ROM/RAM121に記憶されている既存電流の実効値E2を減算しつつ、CH毎にZCT111にて検出された試験電流の実効値Eを算出する。また、このとき、合否判定部113-2は、CH毎に算出した合成電流及び既存電流の実効値の差分値(すなわち、試験電流の実効値E)を目標値(例えば50mA)と比較し、試験電流の実効値Eが目標値に対して±10%の範囲内(すなわち、45~55mAの範囲内)に納まる場合に、精度試験に合格したものと判定する一方、±10の範囲に納まらない場合には、精度試験に不合格であったものと判定する。そして、合否判定部113-2は、合否判定の結果に応じて、表示部119のLED点灯を制御して、設備管理者が各CHの精度試験の合否結果を判別可能な状態にて表示させるとともに、通信端末装置20に対して試験結果情報を送信し、通信端末装置20にてCH毎の精度試験の結果を管理者に報知させる。なお、例えば、本実施形態の合否判定部113-2は、例えば、本発明の「判定部」を構成するとともに、表示部119及び通信端末装置20と連動して「報知手段」を構成する。
【0065】
試験電流検知部113-3は、精度試験モードに設定された状態において、ZCT111に対する試験電流の印加開始後、所定の時間間隔(例えば、0.1秒間隔)にて試験電流検知用抵抗TCMRの両端間における電位差を検出し、当該検出された電位差に基づき、実際にZCT111に印加されている試験電流の実効値Eを算出する。
【0066】
試験電流信号発生部113-4は、精度試験モードに設定された状態において、PWM形式の試験電流信号を生成して、試験電流出力部114に供給する。このとき、試験電流信号発生部113-4は、精度試験開始後の所定期間、試験電流信号の出力を行わず、ZCT111に対する試験電流の印加を行わない状態を維持する。
【0067】
また、試験電流信号発生部113-4は、上記期間の経過後、試験電流設定ボリューム116に制御信号を出力して、0mAから100mAまで実効値を変化させつつ、ZCT111に試験電流を印加させる。このとき、試験電流信号発生部113-4は、試験電流検知部113-3と連動しつつ、試験電流検知用抵抗TCMRの両端間電位差に基づいて算出される試験電流の実効値を監視し、当該算出値が目標値と一致したタイミングにて試験電流設定ボリューム116に制御信号を出力し、ZCT111に印加する試験電流の実効値を目標値に維持させる。なお、試験電流信号発生部113-4は、位相検出部113-6と連動しつつ、試験電流とAC100V電源との位相差θが0となるように位相を調整しつつ、試験電流出力部114に試験電流信号を供給する構成になっているが、この点については後に詳述する。
【0068】
試験電流出力部114は、図示せぬフィルタ回路やアンプを有し、試験電流信号発生部113-4から供給される試験電流信号を平滑化することにより、正弦波状の試験電流を生成するとともに、当該生成した試験電流を増幅しつつ、供給ライン115を介してZCT111に印加する。
【0069】
このように本実施形態の絶縁監視装置10は、正弦波状の試験電流を、供給ライン115を介してZCT111に印加する構成を採用しているため、設備管理者の保安員がクランプ電流計CMを用いて供給ライン115上を流れる試験電流を測定する場合においても、安定した測定結果を得ることができる。この結果、設備管理者がクランプ電流計CMを用いて供給ライン115に印加されている試験電流の実効値を測定して精度試験結果の再チェックを行う際にも、高精度に試験電流の実効値Eを測定して、高精度な確認作業を実施することができる。なお、クランプ電流計CMと、通信端末装置20を通信接続して、クランプ電流計CMにおける測定結果を通信端末装置20にて表示させる構成を採用すれば、精度試験結果の確認作業に要する作業負担を軽減することができる。
【0070】
また、試験電流出力部114を構成するアンプの増幅率は、試験電流設定ボリューム116により調整可能な構成となっており、試験電流信号発生部113-4は、既存電流の実効値E2の特定及び記憶後、試験電流設定ボリューム116に制御信号を出力することにより、ZCT111に印加する試験電流の実効値を調整する構成になっている。なお、試験電流出力部114は、PWM制御型のインバータ回路と、アンプにより構成し、正弦波状の試験電流を生成して、ZCT111に印加する構成を採用してもよい。
【0071】
警報出力部113-5は、漏電監視モードに設定された状態において電流特定部113-1により特定された各CHに対応する漏洩電流の実効値E2を予め定められた閾値と比較する。そして、警報出力部113-5は、漏洩電流の実効値E2が閾値を超えた場合に、表示部119を制御して該当するCHの漏電警告用のLEDを点灯させつつ、通信端末装置20に警報情報を送信して、通信端末装置20にて警報を発生させる処理を実行する。なお、例えば、本実施形態の警報出力部113-5は、表示部119及び通信端末装置20と連動して、本発明の「警報手段」を構成する。また、漏電監視モード設定時における絶縁監視装置10の動作は、基本的に従来の絶縁監視装置と同様であるため、詳細を省略する。
【0072】
位相検出部113-6は、AC100V信号生成部117から供給されるAC100Vタイミング信号(図2[1])に基づき、AC100V電源の電流の位相を検出する。
【0073】
一般に、監視対象CHの接地線等に発生する漏洩電流は、電路Pに供給される商用電源(例えば、AC100V~200Vの三相交流電源)の電圧と同期した位相を有することとなる。本実施形態においては、この商用電源(例えばAC100V)を利用して絶縁監視装置10の駆動及び制御が行われるため、AC100V電源と試験電流の周期が異なってしまうと、既存電流の成分と試験電流の成分が干渉し合い、ZCT等にて検出される合成電流の実効値が、試験電流及び既存電流の実効値の和と一致しなくなる可能性がある。この場合には、合成電流の実効値E1と既存電流の実効値E2の差分値を算出しても試験電流の実効値Eを高精度に算出することが難しくなり、高精度な精度試験を実施することができなくなる可能性がある。
【0074】
このため、本実施形態の絶縁監視装置10においては、AC100V信号生成部117が、AC100V電源のタイミング(例えば、図2のt1及びt2)を検出して、当該検出タイミングにてAC100Vタイミング信号を位相検出部113-6に供給し、位相検出部113-6は、当該AC100Vタイミング信号に基づき、AC100V電源の位相を検出する構成を採用している。
【0075】
そして、試験電流信号発生部113-4は、位相検出部113-6によって検出されたAC100V電源の位相に基づき、AC100V電源との位相差θが0となるように試験電流信号の位相を合わせつつ、試験電流出力部114に出力する(図2[3])。
【0076】
この構成により、電路Pを流れる商用電源と同期した試験電流をZCT111に印加することができるので、ZCT111にて検出される合成電流の実効値E1から既存電流成分の実効値E2を確実に除去しつつ、試験電流の実効値Eを高精度に算出して、精度試験の精度を向上させることができる。なお、上記構成を採用した場合であっても、ZCT111の他、電流検出部112のアンプやフィルタ回路等において試験電流の位相が変化し、試験電流と既存電流の間に位相差(図2[2]に例示する場合にはθa)が生じる可能性がある。この位相変化に関しては、製品出荷前に、各部において発生する位相変化量(すなわち、θa)を予め測定しておき、当該変化量分だけ試験電流の位相を進めさせ、又は、遅らせるように試験電流信号発生部113-4を予め調整しておくことにより、ZCT111等において発生する位相変化分を吸収し、試験電流と既存電流の位相差を0に維持することができる。
【0077】
[3]絶縁監視装置10の動作
次いで、図3を参照しつつ、本実施形態の絶縁監視装置10において、精度試験モード設定時における絶縁監視装置10の動作について説明する。なお、図3は、本実施形態の絶縁監視装置10の制御部113において実行される精度試験処理を示すフローチャートである。また、本処理は、操作部120に対して精度試験モードを設定する旨の入力操作が行われた際に実行される処理である。
【0078】
まず、本実施形態の絶縁監視装置10においては、試験電流とAC100Vタイミングの位相差θを0にするため、位相検出部113-6が、AC100V電源の位相を特定する(ステップS1)。このとき、位相検出部113-6は、AC100Vタイミング信号の立ち上がりタイミングに基づき、AC100V電源の供給開始タイミングを検出して、AC100V電源の位相を特定する。
【0079】
次いで、電流特定部113-1は、試験電流をZCT111に印加することなく、各CHに設置されたZCT111において検出される電流に基づき、既存電流の特定処理を実行して、各CHに対応するZCT111にて既存電流の実効値E2を特定し、当該特定した既存電流の実効値E2をROM/RAM121に記憶させる(ステップS2)。このとき、電流特定部113-1は、各CHに対応するZCT111のCH番号と対応付けて、当該CHのZCT111にて検出された既存電流の実効値E2をROM/RAM121に記憶させるようになっている。
【0080】
そして、試験電流信号発生部113-4は、位相検出部113-6によって検出されたAC100V電源の位相に基づき、AC100V電源タイミングとの位相差θが0となるように試験電流出力部114に試験電流信号を供給し、ZCT111に対する試験電流の印加を開始する(ステップS3)。このとき、試験電流信号発生部113-4は、試験電流設定ボリューム116に対して制御信号を出力し、ZCT111に印加する試験電流の実効値Eを0mAから100mAまで変化させる。
【0081】
次いで、試験電流検知部113-3は、試験電流検知用抵抗TCMRの両端間電位差を検知して、ZCT111に対して実際に印加されている試験電流の実効値Eの算出を開始し、所定の時間間隔(例えば0.1秒間隔)にて順次、試験電流の実効値Eを算出する(ステップS4)。
【0082】
試験電流信号発生部113-4は、試験電流検知部113-3によって順次算出される実効値を監視して、当該算出値が目標値(例えば、50mA)となったタイミングで試験電流設定ボリューム116に制御信号を出力し、試験電流の出力値を固定させる(ステップS5)。この結果、試験電流出力部114からZCT111に対して印加される試験電流の実効値Eが目標値に維持されることとなる。
【0083】
次いで、電流特定部113-1は、各CHに対応するZCT111により検出される合成電流の実効値E1を特定する(ステップS6)。
【0084】
そして、合否判定部113-2は、CH毎にステップS6において特定した合成電流の実効値E1と、ROM/RAM121に記憶された既存電流の実効値E2と、の差分を算出することにより、当該CHにて検出された試験電流の実効値Eを算出して(ステップS7)、当該算出値と、目標値を比較することにより、合否判定処理を実行する(ステップS8)。この合否判定処理において、合否判定部113-2は、各CHに対応する試験電流の実効値Eの算出値が、目標値に対して、±10%の誤差範囲内に納まっている場合に、当該CHの精度試験に合格したものと判定する一方、±10%の範囲内に収まっていない場合には、当該CHの精度試験に不合格になったものと判定するようになっている。
【0085】
そして、合否判定部113-2は、ステップS8における合否判定の結果に基づき、精度試験の結果を出力して(ステップS9)、処理を終了する。このとき、合否判定部113-2は、ステップS8における判定結果に基づき、合格及び不合格を示すLEDの点灯を制御して、CH毎に合格及び不合格の別を報知するとともに、試験結果情報を生成して、通信端末装置20に送信する(ステップS9)。この結果、表示部119においては、CH毎に精度試験の合否結果がLEDの点灯によって示されるとともに、通信端末装置20において各CHに対応する精度試験の結果が音声及び光の少なくとも一方により、設備管理者に報知されることとなる。
【0086】
以上説明したように本実施形態の絶縁監視システム1は、絶縁監視装置10が漏電監視モードに設定された状態にて、全CHに対応する接地線又はフィーダにて発生する漏洩電流を監視し、何れかのCHに設置されたZCT111において検出される漏洩電流が閾値を超えた時点で警報を発することができるので、事故の発生を未然に防止することができる。
【0087】
また、本実施形態の絶縁監視装置10は、精度試験の開始後における所定期間中、ZCT111に対する試験電流の印加を行わない状態にて、予め各CHに対応する接地線又はフィーダにて発生している既存電流の実効値E2を特定し、ROM/RAM121に記憶させる構成になっている。そして、既存電流の実効値E2の記憶後、実効値を目標値に維持しつつ、ZCT111に試験電流を印加し、合成電流の実効値E1を特定した後、当該特定した合成電流の実効値E1とROM/RAM121に記憶された既存電流の実効値E2の差分を算出しつつ、各CH毎に精度試験を実施する構成を有しているので、監視対象となる接地線やフィーダに既存電流が存在している環境下においても複数のCHを一括して高精度に絶縁監視装置10の精度試験を実施することができる。本効果を確認するため、実際に本実施形態の絶縁監視装置10を用いつつ、既存電流が30mA流れている状態にて、ZCT111に印加する試験電流の実効値(目標値)を50mAに設定して、精度試験を実施した結果、ZCT111にて検出される試験電流の実効値を正確に把握でき、正確に精度試験の合否判定(すなわち、50mA±10%)を実施できることが確認できた。
【0088】
さらに、本実施形態の絶縁監視装置10は、ZCT111に印加する試験電流の実効値Eを0mAから100mAまで変化させ、試験電流検知用抵抗TCMRの両端における電位差から実際にZCT111に印加されている試験電流の実効値Eを算出し、当該算出値に基づき、試験電流の実効値を目標値に維持して、精度試験を実施することができるので、ZCT111の機種や数に影響を受けることなく精度試験を実施して、高精度な精度試験を実施することができる。本効果を確認するため、本実施形態の絶縁監視装置10を用いつつ、ZCT111の機種を変えた場合、及び、監視対象CH数を変化させ、ZCT111の数を1~4機の間で変化させた場合についても、実際に精度試験を実施した結果、何れの場合においても正確に精度試験を実施できることが確認できた。
【0089】
また、本実施形態の絶縁監視装置10は、試験電流として正弦波状の電流を用いて精度試験を行う構成になっているので、管理者がクランプ電流計CMを用いて、精度試験の結果を再チェックする際に安定した測定値を得ることができ、受電変圧設備の確実な保守・運用を実現することができる。
【0090】
[4]変形例
[4.1]変形例1
上記実施形態においては、絶縁監視装置10において自動で精度試験の合否判定を行い(ステップS8)、合否判定の結果を示すLEDを点灯させるとともに、通信端末装置20に試験結果情報を送信して、通信端末装置20において精度試験の結果を表示させる構成(ステップS9)を採用したが、ステップS7において算出した試験電流の実効値Eを表示部119に表示(出力)させ、又は、通信端末装置20に当該算出した試験電流の実効値Eを送信(出力)して、通信端末装置20にて算出値を表示させるようにしてもよい。この場合には、設備管理者の保安員が表示部119又は通信端末装置20に表示された算出値と目標値を比較して、当該算出値が目標値に対して、±10%の範囲内に収まっているか否かを判断し、精度試験の合否を判断するようにすればよい。また、この場合には、設備管理者がクランプ電流計CMを用いて、供給ライン115を介してZCT111に印加される試験電流の実効値を測定し、当該測定値と算出値及び目標値に基づき、精度試験結果の再チェックを行うようにしてもよい。
【0091】
[4.2]変形例2
上記実施形態においては、目標値及び漏洩電流の閾値を予め定めて、ROM/RAM121に記憶しておく構成を採用したが、これらの値は、操作部120又は通信端末装置20に対する入力操作に応じて自由に設定できるように構成してもよい。
【0092】
[4.3]変形例3
上記実施形態においては、三相交流の電源(動力用)を例に説明を行ったが、商用電力系統から供給される三相交流の電源を単相交流の電源(電灯用)に変換しつつ、電路Pに供給する構成を採用してもよい。この場合においても、監視対象となる接地線又はフィーダにZCT111を設置することにより、当該接地線又はフィーダに発生した漏洩電流を検出し、漏電監視機能を実現できる。なお、この場合において、精度試験実施時における動作は上記実施形態と同様であるため、詳細を省略する。
【0093】
[4.4]変形例4
上記実施形態においては、試験電流信号発生部113-4が出力したPWM形式の試験電流信号を試験電流出力部114において平滑化することにより、正弦波状の試験電流を生成する構成を採用したが、制御部113を構成するCPUやプログラマブルロジックにより、滑らかな正弦波状の試験電流を生成する構成を採用することもできる。この場合には、試験電流出力部114にフィルタ回路やインバータ回路を設ける必要はなく、試験電流出力部114をアンプのみで構成することができる。
【0094】
[4.5]変形例5
上記実施形態においては、絶縁監視装置10の故障時の取扱については言及しなかったが、表示部119に絶縁監視装置10の故障を警告するためのLEDを設け、制御部113等により、装置故障が検知された際に、当該LEDを点灯させて、絶縁監視装置10の故障を設備管理者に報知する構成を採用してもよい。この構成により、装置故障を設備管理者に報知することができるので、絶縁監視装置10の保守・管理のために要する作業負担を軽減することができる。なお、装置故障の検出方法は任意であり、制御部113に各部の電圧及び電流測定機能や、故障チェック機能を搭載し、当該機能により、電圧及び電流の異常や故障が検出された場合に、表示部119の故障警告用のLEDを点灯させる構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 … 絶縁監視システム、10 … 絶縁監視装置、111 … ZCT、112 … 電流検出部、113 … 制御部、113-1 … 電流特定部、113-2 … 合否判定部、113-3 … 試験電流検知部、113-4 … 試験電流信号発生部、113-5 … 警報出力部、113-6 … 位相検出部、114 … 試験電流出力部、115 … 供給ライン、116 … 試験電流設定ボリューム、117 … AC100V信号生成部、118 … 装置電源回路、119 … 表示部、120 … 操作部、121 … ROM/RAM、20 … 通信端末装置、P … 電路、CM … クランプ電流計
図1
図2
図3