(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】電気化学反応単位および電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20221205BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20221205BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221205BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20221205BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20221205BHJP
【FI】
H01M4/86 T
C25B1/04
C25B9/00 A
H01M4/86 U
H01M8/0202
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
(21)【出願番号】P 2019087996
(22)【出願日】2019-05-08
【審査請求日】2020-12-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉晃
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-065975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/02
C25B 1/04
C25B 9/00
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を含む電気化学反応単セルと、
前記電気化学反応単セルの前記空気極の側に配置された集電部材と、
前記集電部材と前記空気極とを接合する導電性の接合部と、
を備える電気化学反応単位において、
前記接合部は、Mnを含有し、
前記空気極の内、前記第1の方向視で前記接合部との接触領域と重なり、かつ、前記第1の方向における前記接触領域からの距離が5μm以下の部分である特定部分は、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)
(一部がMnにより置換されたものを除く)とLSC(ランタンストロンチウムコバルト酸化物)
(一部がMnにより置換されたものを除く)との少なくとも一方から構成され、
さらに、前記空気極の前記特定部分は、Mnを含有する、
ことを特徴とする電気化学反応単位。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単位において、
前記空気極の前記特定部分のMn含有量は、0.1mol%以上、10.4mol%以下である、
ことを特徴とする電気化学反応単位。
【請求項3】
電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を含む電気化学反応単セルと、
前記電気化学反応単セルの前記空気極の側に配置された集電部材と、
前記集電部材と前記空気極とを接合する導電性の接合部と、
を備える電気化学反応単位において、
前記接合部は、Mnを含有し、
前記空気極の内、前記第1の方向視で前記接合部との接触領域と重なり、かつ、前記第1の方向における前記接触領域からの距離が5μm以下の部分である特定部分は、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)とLSC(ランタンストロンチウムコバルト酸化物)との少なくとも一方から構成され、
さらに、前記空気極の前記特定部分は、Mnを含有し、
前記空気極の前記特定部分のMn含有量は、0.1mol%以上、10.4mol%以下である、
ことを特徴とする電気化学反応単位。
【請求項4】
複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単位の少なくとも1つは、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電気化学反応単位である、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単位に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池発電単位(以下、「発電単位」という。)は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)を備える。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む。単セルの空気極は、例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)やLSC(ランタンストロンチウムコバルト酸化物)から構成される。
【0003】
発電単位は、また、単セルに対して空気極の側に配置された集電部材と、集電部材と空気極とを接合する導電性の接合部とを備える。接合部は、Mnを含有する材料、例えばMnを含有するスピネル型結晶構造を有する酸化物(例えば、Mn1.5Co1.5O4やMnCo2O4、ZnMn2O4、ZnMnCoO4、CuMn2O4)により構成されている。接合部により、集電部材が単セルの空気極と電気的に接続され、単セルにおいて生成された電気エネルギーが集電部材を介して取り出し可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の発電単位の構成では、空気極と接合部との間の接合強度が必ずしも十分ではなく、空気極と接合部との界面で剥離が発生して発電単位の電気的性能が低下するおそれがある。
【0006】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解セル単位にも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池発電単位と電解セル単位とをまとめて電気化学反応単位と呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単位にも共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単位は、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を含む電気化学反応単セルと、前記電気化学反応単セルの前記空気極の側に配置された集電部材と、前記集電部材と前記空気極とを接合する導電性の接合部と、を備える電気化学反応単位において、前記接合部は、Mnを含有し、前記空気極の内、前記第1の方向視で前記接合部との接触領域と重なり、かつ、前記第1の方向における前記接触領域からの距離が5μm以下の部分である特定部分は、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)とLSC(ランタンストロンチウムコバルト酸化物)との少なくとも一方から構成され、さらに、前記空気極の前記特定部分は、Mnを含有する。本電気化学反応単位では、接合部がMnを含有し、かつ、空気極における接合部との接触領域付近の部分(特定部分)もMnを含有している。そのため、本電気化学反応単位によれば、空気極と接合部との間の接合強度を向上させることができ、空気極と接合部との界面で剥離が発生して電気化学反応単位の電気的性能が低下することを抑制することができる。
【0010】
(2)上記電気化学反応単位において、前記空気極の前記特定部分のMn含有量は、0.1mol%以上、10.4mol%以下である構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、空気極における接合部との接触領域付近の部分(特定部分)のMn含有量が過度に多くなって空気極の電気抵抗が上昇することを抑制しつつ、空気極の特定部分のMn含有量を一定程度以上確保して空気極と接合部との間の接合強度を一定程度以上に向上させることができる。
【0011】
(3)上記電気化学反応単位において、前記電気化学反応単位は、燃料電池発電単位である構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、空気極と接合部との間の接合強度を向上させることができ、空気極と接合部との界面で剥離が発生して発電性能が低下することを抑制することができる。
【0012】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単位(燃料電池発電単位または電解セル単位)、複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図4】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
【
図5】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図6】
図4のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【
図7】
図4のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【
図8】本実施形態の空気極114の詳細構成を概念的に示す説明図である。
【
図9】本実施形態の空気極114の特定部分P1におけるMn含有量を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1(および後述する
図6,7)のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1(および後述する
図6,7)のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。
【0015】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0016】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0017】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0018】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0019】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0020】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0021】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0022】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
図5の上部には、発電単位102の一部分のYZ断面構成が拡大して示されている。また、
図6は、
図4のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図であり、
図7は、
図4のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【0023】
図4および
図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0024】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、金属(例えば、フェライト系ステンレス)により形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0025】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112の上下方向(第1の方向)の一方側(下側)に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112の上下方向の他方側(上側)に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0026】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。すなわち、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0027】
空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。本実施形態では、空気極114は、ペロブスカイト型酸化物であるLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)とLSC(ランタンストロンチウムコバルト酸化物)との少なくとも一方から構成されている。
【0028】
燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。
【0029】
中間層180は、略矩形の平板形状部材であり、GDC(ガドリニウムドープセリア)を含むように形成されている。中間層180は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO3)が生成されることを抑制する。
【0030】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0031】
図4から
図6に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触しており、両者の間のガスシール性(すなわち、空気室166のガスシール性)を確保するシール部材として機能する。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0032】
図4,5,7に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0033】
図4,5,7に示すように、燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0034】
図4から
図6に示すように、空気極側集電体134は、単セル110の空気極114の側、すなわち、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、金属(例えば、フェライト系ステンレス)により形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。
【0035】
なお、
図4および
図5に示すように、本実施形態では、空気極側集電体134(集電体要素135)とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材(以下、「金属部材190」とも呼ぶ。)の内、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形状の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形状の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。
【0036】
図5に示すように、金属部材190の表面上には、Cr酸化物(例えば、Cr
2O
3(クロミア))を含む酸化被膜層194が形成されている。酸化被膜層194は、金属部材190に含まれるCrが大気中の酸素と反応することにより形成される。
【0037】
また、
図4および
図5に示すように、酸化被膜層194における金属部材190に対向する表面とは反対側の表面上には、Co酸化物を含む導電性の被覆層196が配置されている。被覆層196は、スピネル型結晶構造を有し、例えば、CrとMnとFeとNiとCuとZnとの少なくとも1つの元素を含有するCo酸化物(例えば、CrCo
2O
4、MnCo
2O
4、FeCo
2O
4、NiCo
2O
4、CuCo
2O
4、ZnCo
2O
4、ZnMnCoO
4等)により形成されていることが好ましい。被覆層196は、酸素の透過を抑制するため、電気抵抗の高い酸化被膜層194の成長を抑制することができ、その結果、後述する集電部材200の電気抵抗の上昇(すなわち、発電単位102の性能低下)を抑制することができる。また、被覆層196は、金属部材190からのCrの蒸散を抑制するため、単セル110の電極(例えば空気極114)のCr被毒の発生を抑制することができ、その結果、発電単位102の性能低下を抑制することができる。
【0038】
図4および
図5に示すように、空気極114と(酸化被膜層194および被覆層196に覆われた)空気極側集電体134(集電体要素135)とは、導電性の接合部138により接合されている。接合部138は、Mnを含有する材料、例えばMnを含有するスピネル型結晶構造を有する酸化物(例えば、Mn
1.5Co
1.5O
4やMnCo
2O
4、ZnMn
2O
4、ZnMnCoO
4、CuMn
2O
4)により形成されている。接合部138により、空気極114と空気極側集電体134とが電気的に接続される。先に、空気極側集電体134は空気極114の表面と接触していると説明したが、正確には、空気極側集電体134と空気極114との間には接合部138が介在している。本実施形態では、接合部138は、各空気極側集電体134について互いに独立して設けられている。ただし、一の空気極側集電体134に設けられた接合部138と、他の空気極側集電体134に設けられた接合部138とが、一体的に(連続的に)構成されていてもよい。接合部138は、特許請求の範囲における接合部に相当する。
【0039】
以下の説明では、金属部材190(インターコネクタ150と空気極側集電体134との一体部材)と、金属部材190の表面上に形成された酸化被膜層194と、酸化被膜層194における金属部材190に対向する表面とは反対側の表面上に形成された被覆層196とを、まとめて集電部材200と呼ぶ。集電部材200は、接合部138を介して空気極114に電気的に接続されており、また、燃料極側集電体144を介して燃料極116に電気的に接続されている。集電部材200は、特許請求の範囲における集電部材に相当する。
【0040】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0041】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は接合部138を介して集電部材200(金属部材190、酸化被膜層194、被覆層196の集合体)に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して集電部材200に電気的に接続されている。すなわち、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0042】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、
図3および
図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0043】
A-3.空気極114の詳細構成:
図8は、本実施形態の空気極114の詳細構成を概念的に示す説明図である。
図8には、空気極114における接合部138との界面付近の一部分(
図5のX1部)のYZ断面構成が拡大して示されている。
【0044】
空気極114は、空気極114の上面S1の内の接触領域T1において、接合部138と接触している。
図8に概念的に示すように、本実施形態では、空気極114の内、Z軸方向視で接合部138との接触領域T1と重なり、かつ、Z軸方向における接触領域T1からの距離が5μm以下の部分(以下、「特定部分P1」という。)は、Mnを含有している。なお、空気極114における特定部分P1以外の部分がMnを含有していてもよい。ただし、空気極114における特定部分P1のMn含有量(mol%)は、空気極114における接合部138とは反対側(電解質層112側)の部分におけるMn含有量より多い。
【0045】
図9は、本実施形態の空気極114の特定部分P1におけるMn含有量を示す説明図である。
図9には、本実施形態の空気極114における接合部138との接触面(上面S1)付近のMn含有量(mol%)の一例が示されている。
図9に示すように、空気極114の特定部分P1は、Mnを含有している。
図9の例では、空気極114の特定部分P1の内、接合部138との界面(上面S1)に近い部分ほど、Mn含有量が多くなっている。
【0046】
空気極114の特定部分P1におけるMn含有量は、0.1mol%以上、10.4mol%以下であることが好ましく、0.1mol%以上、6.5mol%以下であることがさらに好ましい。なお、ここで言うMn含有率は、空気極114の構成成分(例えば、空気極114がLSCFから構成されている場合には、La、Sr、Co、Fe、O)とMnとの合計量を分母としたときの、Mnの含有量の比率(mol%)である。
【0047】
空気極114の上記構成は、例えば、以下の製造方法により実現することができる。すなわち、空気極114を含む単セル110と集電部材200とを準備し、集電部材200における空気極114との接合箇所に接合部138の材料(接合部用ペースト)を塗布する。さらに、塗布された接合部138の材料の上に、例えば厚さ5μm程度のMnOのペーストを塗布する。その後、単セル110における空気極114の表面に、集電部材200における空気極114との接合箇所(接合部138の材料およびMnOのペーストが塗布された箇所)を押し付け、所定の荷重(例えば、10kg程度)をかけた状態で熱処理(例えば、850℃、3時間)を行う。これにより、接合部138の材料から接合部138が形成されて空気極114と集電部材200とが接合されると共に、MnOのペーストから空気極114の内部にMnが拡散し、上述した特定部分P1にMnを含有するような空気極114が形成される。
【0048】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する発電単位102は、単セル110を備える。単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを含む。発電単位102は、さらに、単セル110の空気極114の側に配置された集電部材200と、集電部材200と空気極114とを接合する導電性の接合部138とを備える。接合部138は、Mnを含有し、空気極114は、LSCFとLSCとの少なくとも一方から構成されている。空気極114の内、Z軸方向視で接合部138との接触領域T1と重なり、かつ、Z軸方向における接触領域T1からの距離が5μm以下の部分である特定部分P1は、Mnを含有している。
【0049】
このように、本実施形態の発電単位102では、接合部138がMnを含有し、かつ、空気極114における接合部138との接触領域T1付近の部分(特定部分P1)もMnを含有している。そのため、本実施形態の発電単位102によれば、空気極114と接合部138との間の接合強度を向上させることができ、空気極114と接合部138との界面で剥離が発生して発電単位102の電気的性能が低下することを抑制することができる。
【0050】
なお、空気極114の特定部分P1におけるMn含有量は、0.1mol%以上、10.4mol%以下であることが好ましい。空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が過度に少ないと、空気極114と接合部138との間の接合強度の向上効果が小さくなるおそれがある。一方、空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が過度に多いと、空気極114中に高抵抗のMnOが過剰に存在したり、空気極114の構成が変化(例えば、LSCFがLSCFより高抵抗のLSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)に変化)したりすることとなり、空気極114の電気抵抗が上昇するおそれがある。空気極114の特定部分P1におけるMn含有量を、0.1mol%以上、10.4mol%以下とすれば、空気極114の電気抵抗が上昇することを抑制しつつ、空気極114と接合部138との間の接合強度を一定程度以上に向上させることができる。
【0051】
A-5.空気極114の分析方法:
空気極114の特定部分P1におけるMn含有量の特定方法は、下記の通りである。すなわち、空気極114の特定部分P1を含む断面(
図8に示すようなZ軸方向に略平行な断面)のSEM写真を取得し、該SEM写真上で空気極114と接合部138との界面を特定する。上記断面において、上記界面からZ軸方向に空気極114側に向かって、0.1μm間隔でEPMAの点分析を行い、各点の元素の割合から各点におけるMn含有量(mol%)を特定する。空気極114の特定部分P1に含まれる各点(50個の点)のMn含有量(mol%)の平均値を算出し、これを空気極114の特定部分P1におけるMn含有量(mol%)とする。
【0052】
A-6.性能評価:
空気極114の特定部分P1におけるMn含有量について、性能評価を行った。本性能評価では、引張試験および電気性能試験を行った。
図10は、引張試験の結果を示す説明図であり、
図11は、電気性能試験の結果を示す説明図である。
【0053】
図10および
図11に示すように、各試験には5つのサンプル(サンプルS1~S5またはサンプルS11~S15)が用いられた。各サンプルは、空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が互いに異なっている。具体的には、サンプルS1およびS11では、空気極114の特定部分P1がMnを含有していない。一方、サンプルS2~S5およびサンプルS12~S15では、空気極114の特定部分P1がMnを含有しており、サンプル番号が大きいほどMn含有量が多くなっている。
【0054】
引張試験(
図10)の方法は、以下の通りである。はじめに、φ13mmの凸形状の集電部材に接合部138の材料(MnCo
2O
4のペースト)を塗布し、さらにその上にMnOのペーストを塗布した。このとき、サンプル毎に空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が相違するように、MnOの塗布量を異ならせた。また、サンプルS1では、MnOのペーストを塗布しなかった。空気極114を含む単セル110を準備し(空気極114の焼き付け温度は1100℃)、空気極114と集電部材とを重ねて10kg程度の荷重を掛けた状態で、850℃、3時間の熱処理を行い、空気極114と集電部材とを接合する接合部138を作製し、引張試験用のサンプルを得た。各サンプルについて、治具を取り付け、集電部材と単セル110とを支持して両者を引き剥がす方向に引張荷重をかけ、剥離がどこで発生するかを確認した。剥離が空気極114と接合部138との界面で発生した場合には、空気極114と接合部138との間の接合強度が十分ではないとして、不合格と判定した。一方、剥離が空気極114の内部で発生した場合には、空気極114と接合部138との間の接合強度が十分であるとして、合格と判定した。
【0055】
また、電気性能試験(
図11)の方法は、以下の通りである。はじめに、φ13mmの凸形状の集電部材に接合部138の材料(MnCo
2O
4のペースト)を塗布し、さらにその上にMnOのペーストを塗布した。このとき、サンプル毎に空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が相違するように、MnOの塗布量を異ならせた。また、サンプルS11では、MnOのペーストを塗布しなかった。集電部材の表面を削り、Pt(白金)線を抵抗溶接した。また、空気極114をPt箔に焼き付け、そのPt箔にPt線を抵抗溶接した。空気極114と集電部材とを重ねて10kg程度の荷重を掛けた状態で、850℃、3時間の熱処理を行い、空気極114と集電部材とを接合する接合部138を作製し、電気性能試験用のサンプルを得た。各サンプルについて4端子法を用いて電気抵抗値を測定した。
図11では、電気抵抗値が10mΩcm
2以下であった場合に「◎」と表示し、電気抵抗値が10mΩcm
2より高く、かつ、20mΩcm
2以下であった場合に「〇」と表示し、電気抵抗値が20mΩcm
2より高かった場合に「△」と表示した。
【0056】
図10に示すように、引張試験において、空気極114の特定部分P1がMnを含有していないサンプルS1では、剥離が空気極114と接合部138との界面で発生したため、空気極114と接合部138との間の接合強度が十分ではないとして、不合格と判定された。一方、空気極114の特定部分P1がMnを含有しているサンプルS2~S5では、剥離が空気極114の内部で発生したため、空気極114と接合部138との間の接合強度が十分であるとして、合格と判定された。この引張試験により、接合部138がMnを含有している場合において、空気極114の特定部分P1もMnを含有していると、空気極114と接合部138との間の接合強度を向上させることができ、空気極114と接合部138との界面で剥離が発生して発電単位102の電気的性能が低下することを抑制することができることが確認された。
【0057】
また、
図11に示すように、電気性能試験において、空気極114の特定部分P1がMnを含有しているサンプルS12~S15の内、空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が比較的多い(10.4mol%より多い)サンプルS15では、電気抵抗値が20mΩcm
2より高かった。一方、空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が比較的少ない(10.4mol%以下である)サンプルS12~S14では、電気抵抗値が20mΩcm
2以下であった。その内、空気極114の特定部分P1におけるMn含有量がさらに少ない(6.5mol%以下である)サンプルS12,S13では、電気抵抗値が10mΩcm
2以下であった。この電気性能試験により、接合部138がMnを含有しており、かつ、空気極114の特定部分P1もMnを含有している場合において、空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が0.1mol%以上、10.4mol%以下であれば、空気極114の電気抵抗が上昇することを抑制することができることが確認された。また、この電気性能試験により、接合部138がMnを含有しており、かつ、空気極114の特定部分P1もMnを含有している場合において、空気極114の特定部分P1におけるMn含有量が0.1mol%以上、6.5%以下であれば、空気極114の電気抵抗が上昇することをさらに効果的に抑制することができることが確認された。
【0058】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0059】
上記実施形態における単セル110、発電単位102または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、インターコネクタ150と空気極側集電体134(集電体要素135)とが一体部材(金属部材190)であるとしているが、インターコネクタ150と空気極側集電体134とが別部材であってもよい。そのような構成では、空気極側集電体134と酸化被膜層194と被覆層196とが、特許請求の範囲における集電部材に相当する。
【0060】
また、上記実施形態では、金属部材190に酸化被膜層194および被覆層196が形成されているが、酸化被膜層194および/または被覆層196は形成されていなくてもよい。酸化被膜層194および/または被覆層196が形成されていない構成では、形成されていない部材は特許請求の範囲における集電部材に含まれない。
【0061】
また、上記実施形態では、単セル110が中間層180を備えているが、単セル110が中間層180を備えないとしてもよい。また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる発電単位102の個数は、あくまで一例であり、発電単位102の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
【0062】
また、上記実施形態では、空気極114がLSCFとLSCとの少なくとも一方から構成されているが、必ずしも空気極114の全体がLSCFとLSCとの少なくとも一方から構成されている必要はなく、空気極114における少なくとも特定部分P1がLSCFとLSCとの少なくとも一方から構成されていればよい。例えば、空気極114が、空気極114における上面S1(接合部138に対向する側の表面)を構成する集電層(特定部分P1を含む層)と、集電層と電解質層112(および中間層180)との間に配置された活性層とから構成されていてもよく、この場合に、集電層がLSCFとLSCとの少なくとも一方から構成される一方、活性層がLSCFとLSCとの少なくとも一方に加えて、GDC(ガドリニウムドープセリア)等の他の構成材料を含んでいてもよい。また、空気極114が集電層と活性層とから構成されている場合に、集電層における接合部138側の部分のMn含有量(mol%)は、集電層における接合部138とは反対側(活性層側)の部分におけるMn含有量より多いことが好ましく、また、集電層における接合部138側の部分のMn含有量(mol%)は、活性層におけるMn含有量より多いことが好ましい。
【0063】
また、上記実施形態において、空気極114(例えば空気極114の特定部分P1)がMnを含有しているとは、Mnが空気極114を構成するLSCFやLSCの一部に置換されている態様を含む。
【0064】
また、上記実施形態において説明した空気極114の構成は、燃料電池スタック100に含まれるすべての発電単位102において採用されていてもよいし、燃料電池スタック100に含まれる一部の発電単位102のみにおいて採用されていてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位および電解セルスタックにおいても、上述した構成の接合部138および空気極114を採用することにより、空気極114と接合部138との間の接合強度を向上させることができ、空気極114と接合部138との界面で剥離が発生して電解セル単位の電気的性能が低下することを抑制することができる。
【0066】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104,106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 138:接合部 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:中間層 190:金属部材 194:酸化被膜層 196:被覆層 200:集電部材 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス P1:特定部分 S1:上面 T1:接触領域