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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】軽量気泡コンクリートパネル
(51)【国際特許分類】
   B28B 23/02 20060101AFI20221205BHJP
   E04C 2/06 20060101ALI20221205BHJP
   E04B 2/94 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
B28B23/02 Z
E04C2/06
E04B2/94
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019092333
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020185732
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】勝倉 隆文
(72)【発明者】
【氏名】菅野 新
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-87637(JP,A)
【文献】特表昭59-501153(JP,A)
【文献】特開2010-59715(JP,A)
【文献】特公昭58-15579(JP,B1)
【文献】特開2000-94430(JP,A)
【文献】特開平11-268016(JP,A)
【文献】特開2001-336239(JP,A)
【文献】特開2006-175773(JP,A)
【文献】特開2003-286767(JP,A)
【文献】特開2001-279902(JP,A)
【文献】特開昭61-14028(JP,A)
【文献】特開平9-256588(JP,A)
【文献】特開平7-269060(JP,A)
【文献】中国特許第1049372(CN,C)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 23/02
E04C 2/06
E04B 2/94
B21D 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に補強材が埋設された軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記補強材が、金属板を所定の送り幅で一定間隔に切れ目を入れ押し広げることで、前記送り幅に応じた幅を有するストランド部と該ストランド部同士を連結するボンド部とにより画成された多角形の網目を有する網状補強部材であり、
前記網状補強部材において、前記送り幅をW1、前記金属板の板厚をT1としたときに、W1<T1であること、を特徴とする軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項2】
前記網状補強部材において、前記送り幅W1および前記板厚T1が、以下の関係:
0.5≦W1/T1<1
を満たす、請求項1に記載の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項3】
前記網状補強部材において、前記板厚T1が、0.6mm以上1.2mm以下である、請求項1または2に記載の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項4】
上記網状補強部材がメタルラスまたはエキスパンドメタルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項5】
表面に、凹凸を含んで構成される意匠が施されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネルを用いた、建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網状補強部材を埋設した軽量気泡コンクリートパネル(以下、「ALCパネル」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
ALC用原料として、セメント、石灰石、珪石、石膏等の主原料に発泡剤と水を加えて混合した原料スラリー(モルタル)を用いている。そして、ALCパネルの薄厚製品の製造においては、製品強度を増すため、パネル内部にエキスパンドメタルやメタルラス等の網状補強部材を埋設している。
【0003】
このようなALCパネルの製造においては、パネルを成型する型枠内に網状補強部材をセットし、原料スラリーを注入し硬化させている。原料スラリーが硬化に至る過程では、原料スラリーが発泡し膨張することによって、型枠内にセットした網状補強部材が大きな押上力を受ける。そしてこの押上力により網状補強部材が移動してしまうため、ALCパネル内の網状補強部材の位置精度の確保が容易でない。
【0004】
この問題を解決するため、特許文献1や特許文献2で知られるようなセット装置およびセット方法が提案されている。これらのセット装置およびセット方法では、原料スラリーの発泡中に網状補強部材が移動しないように型枠内で網状補強部材を把持する機構、さらには、網状補強部材の上部で網状補強部材を保持する機構を備えており、原料スラリーによって引き起こされる網状補強部材の上下左右への移動を抑制している。
【0005】
ところで、ALCパネル内部に埋設される網状補強部材には、求められる製品強度によって、異なる鉄筋重量をもつ網状補強部材が用いられる。特に長尺パネルにおいては、ハンドリングの安全性の面から、通常の製品よりも大きな製品強度が求められる。従来では、製品強度を増大させるために、網状補強部材の目開きを小さくして単位面積当たりの鉄筋重量を大きくする手法を採っていた。
【0006】
しかしながら、このような製品を生産する場合、通常の鉄筋重量をもつ製品を生産する場合と比べて、上述したセット装置やセット方法のみでは網状補強部材が移動することを十分に抑制できない。セット棒引き抜き後、原料スラリーの熱膨張および発泡による原料スラリーの流動によって、網状補強部材が抵抗を受けて動いてしまう。
【0007】
特に、型枠外側に向かって網状補強部材が移動する、あるいは大きく湾曲するために、所定の位置に精度よく配置できず製品品質が低下し、最悪の場合にはパネル表面に網状補強部材が露出して製品不良といった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭58-208010号公報
【文献】特許第4339640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、網状補強部材の位置精度を好適に確保しつつ製造が可能で、製品品質の向上に寄与する軽量気泡コンクリートパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]
内部に補強材が埋設された軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記補強材が、金属板を所定の送り幅で一定間隔に切れ目を入れ押し広げることで、前記送り幅に応じた幅を有するストランド部と該ストランド部同士を連結するボンド部とにより画成された多角形の網目を有する網状補強部材であり、
前記網状補強部材において、前記送り幅をW1、前記金属板の板厚をT1としたときに、W1<T1であること、を特徴とする軽量気泡コンクリートパネル。
[2]
前記網状補強部材において、前記送り幅W1および前記板厚T1が、以下の関係:
0.5≦W1/T1<1
を満たす、[1]に記載の軽量気泡コンクリートパネル。
[3]
前記網状補強部材において、前記板厚T1が、0.6mm以上1.2mm以下である、[1]または[2]に記載の軽量気泡コンクリートパネル。
[4]
上記網状補強部材がメタルラスまたはエキスパンドメタルである、[1]~[3]のいずれかに記載の軽量気泡コンクリートパネル。
[5]
表面に、凹凸を含んで構成される意匠が施されている、[1]~[4]のいずれかに記載の軽量気泡コンクリートパネル。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の軽量気泡コンクリートパネルを用いた、建物。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るALCパネルによれば、ALCパネル内部に埋設される網状補強部材の板厚T1を送り幅W1よりも大きくする(W1<T1)ことで、原料スラリーが発泡していく際の原料スラリーの押上力によって網状補強部材が受ける抵抗を低減させ、網状補強部材の移動を抑制することができ、製品品質の向上に寄与する軽量気泡コンクリートパネルを提供することができる。
また、本発明によれば、網状補強部材を上記仕様にするだけでよく、既存の製造設備で製造可能であり、新規設備の導入が不要であるため、コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るALCパネルの構成を示す(a)平面図および(b)断面図。
図2】本発明に係る網状補強部材の部分拡大正面図。
図3図2のa-a´線断面図。
図4】網状補強部材のボンド部が原料スラリーの発泡によって受ける抵抗を模式的に示す図。
図5】鉄筋重量を大きくするため、(a)目開きを小さくした場合、(b)送り幅を板厚よりも大きくした場合、および(c)送り幅を板厚よりも小さくした場合の網状補強部材の断面図。
図6図5に示す網状補強部材を構成面が垂直となるように立てた状態を示す断面図。
図7】鉄筋重量を大きくした場合の網状補強部材について、ボンド部が受ける抵抗を模式的に示す図。
図8】網状補強部材の位置精度の測定方法を説明する図。
図9】網状補強部材の製造装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係るALCパネルの構成を示す平面図および断面図である。図2は、本発明に係る網状補強部材の部分拡大正面図である。また、図3図2中、a-a´線における断面図であり、図中の一点破線で囲んだ図はボンド部の拡大断面図である。
【0014】
本発明の軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)1は、内部に補強材が埋設された軽量気泡コンクリートパネルであって、補強材が、金属板を所定の送り幅で千鳥状に切れ目を入れ押し広げることで、前記送り幅に応じた幅を有するストランド部3とストランド部3同士を連結するボンド部4とにより画成された多角形の網目(開口部5)を有する網状補強部材2である。そして本発明の軽量気泡コンクリートパネル1は、網状補強部材2において、送り幅をW1、金属板の板厚をT1としたときに、W1<T1であること、を特徴とする。
【0015】
図1に示すように、ALCパネル1のパネル面に沿って平行となるように、補強材が配設されてALCパネル1内に埋設される。
このような補強材には、エキスパンドメタルやメタルラスのような、網状の補強部材(網状補強部材2)が用いられる。
網状補強部材2(ラス網)は、金属板を所定の送り幅で千鳥状に切れ目を入れながら押し広げることで製造される。
【0016】
ここで図9は、網状補強部材2の製造装置の一例を示す図である。
この製造装置は、原板となる金属板21を搬送する搬送手段22と、搬送手段22の出側かつ金属板材の片面側に配置された下刃23と、搬送手段の出側かつ金属板材のもう片面側に配置され、金属板材の板面に入刃して板幅方向への断続的な切れ目の形成と各々の拡幅および金属板からエキスパンドメタルを切り離す上刃24を備える。
【0017】
まず、図9(a)に示すように、上刃24を金属板21の上方に上げた状態で、搬送手段22が送り幅W1の分だけ金属板21を搬送方向に送り出す。そして、図9(b)に示すように上刃24を下降させていき、上刃24を金属板21の板面に入刃させて、金属板21の板幅方向に断続的な切れ目を形成するとともに各々を拡幅する。
【0018】
次いで、図9(c)に示すように上刃24を上昇させてから、図9(d)に示すように上刃24を金属板21の板幅方向に、網目(開口部5)の長目方向中心間距離LWの1/2分だけ移動させるとともに、搬送手段22が送り幅W1だけ金属板21を送り出した後、図9(e)に示すように上刃24を下降させていき、上刃24を金属板21の板面に入刃させて、金属板の板幅方向に断続的な切れ目を形成するとともに各々を拡幅する。
【0019】
このとき、上記したように上刃24を金属板21の板幅方向に網目(開口部5)の長目方向中心間距離LWの1/2分だけ移動させるとともに、搬送手段22が送り幅W1だけ金属板21を送り出しているので、金属板21に形成される切れ目は千鳥状となり、各々を拡幅するとメッシュの網目が板幅方向に並ぶこととなる。
【0020】
次いで、図9(f)に示すように上刃24を上昇させてから、上刃24を金属板21の板幅方向にメッシュの長目方向中心間距離LWの1/2分だけ戻すとともに、搬送手段22が送り幅W1だけ金属板21を送り出す。
【0021】
以上の操作を順次繰り返すことにより、図9(g)に示すように金属板21に多数の網目が形成される。網状補強部材2は、図2に示すように、前記送り幅W1に応じた幅を有するストランド部3およびストランド部3同士を連結するボンド部4とから構成されており、これらによって菱形の網目(開口部5)が形成されている。ここでは開口部5が菱形の場合を例に挙げて説明するが、網目(開口部5)の形状は六角形または他の多角形でも構わない。
【0022】
図3に示すように、網状補強部材2は、a-a´断面ではストランド部3とボンド部4とが交互に配設された階段状となっている。また、網状補強部材2の構成面が垂直となるように立てたときに、ボンド部4は水平方向に対して傾斜した角度θ1をもつ。
ここで、網目(菱形)の短径をSW、送り幅をW1としたとき、水平方向とボンド部下面6がなす角θ1は、以下の式(I)で求められる。
sinθ1=2×W1/SW (I)
【0023】
上述したように、内部に網状補強部材2が埋設されたALCパネル1を製造する際に、原料スラリーの硬化の過程で起こる原料スラリーの発泡、膨張によって、型枠内にセットした網状補強部材2は大きな押上力を受けて移動してしまう。
【0024】
図4は、原料スラリーが発泡していく際の原料スラリーの押上力によって、型枠内に配設された網状補強部材2のボンド部4が受ける抵抗を模式的に表したものであり、図中の矢印は、ボンド部4が原料スラリーから受ける抵抗力を示す(矢印の太さは抵抗力の大きさに対応している)。
図4に示すように、網状補強部材2の主にボンド部4において抵抗を受け、その抵抗を受ける面としてはボンド部下面6およびボンド部側面7がある。このとき、ボンド部下面6のほうが、ボンド部側面7と比べて、発泡方向(図中の鉛直上向きに対応)に対してより垂直に近くなるため、ボンド部4において主に抵抗を受ける面はボンド部下面6になる。
【0025】
なお、ストランド部3においても原料スラリーから抵抗は受けるが、ボンド部側面7と同様に、発泡方向に対して平行に近いため、ボンド部下面6が受ける抵抗力に比べてずっと小さい。さらに、網状補強部材2が型枠外側へ移動してしまう要因として、ボンド部下面6が水平方向となす角度θ1であり、この角度が45°に近いほどボンド部下面6が受ける抵抗力のうち型枠外側(水平方向)に向かう成分のベクトルが大きくなる。したがって、如何にしてボンド部下面6が受ける抵抗を小さくし、かつ、角度θ1を小さくするかが重要となる。
【0026】
ところで、ALCパネル1の製品強度、特に曲げ強度を増大させるために、網状補強部材2の重量を大きくする方法としては、下記の3つの方法があり、いずれも単位面積当たりの鉄筋重量を大きくするという共通点がある。
(1)網状補強部材2の網目(開口部5)の大きさ(以下、目開きという)を小さくすることで、鉄筋重量を大きくすることができる。
(2)網状補強部材2を金属板から切り出す際に、金属板を送り込む寸法である送り幅W1を大きくする。送り幅W1が大きいほどストランド部3が太くなり、鉄筋重量が大きくなる。
(3)金属板の厚みを表す板厚T1を大きくする。板厚T1が大きいほどストランド部3が太くなり、鉄筋重量が大きくなる。
【0027】
図5及び図6に、上述した3つの方法(1)~(3)で鉄筋重量を大きくした場合の網状補強部材の断面図を示す。図6は、網状補強部材の構成面が垂直となるように立てた状態を示している。
また、図7に、上述した3つの方法で鉄筋重量を大きくした場合の網状補強部材について、原料スラリーが発泡していく際の原料スラリーの押上力によって、型枠内に配設された網状補強部材のボンド部4が受ける抵抗を模式的に表す。なお、図7では、網状補強部材のうちボンド部4のみを抜き出して示している。
【0028】
図5(a)及び図6(a)に示す網状補強部材のように、(1)目開きを小さくした仕様で鉄筋重量を大きくする場合、網状補強部材2の網目の数の増加に応じてボンド部4の数が増加する。そのため、網状補強部材2全体に占めるボンド部下面6の表面積が大きくなるために、原料スラリーから受ける抵抗力も増大する。加えて、ボンド部下面6が水平方向となす角度θ2が大きくなるため、受ける抵抗力のうち水平方向のベクトルが大きくなる(図7(a)参照)。
【0029】
また、図5(b)及び図6(b)に示す網状補強部材のように、(2)送り幅W1を板厚T1よりも大きくする(W1>T1)ことで鉄筋重量を大きくした場合、ボンド部4の数は変わらないが、ボンド部下面6の長さが長くなる。そのため、ボンド部下面6の表面積が大きくなり、受ける抵抗力も増大する。また、水平方向とボンド部下面6がなす角度θ1が大きいと、ラスが横に動きやすい(図7(b)参照)。
【0030】
本実施形態の網状補強部材2では、図5(c)及び図6(c)に示すように、(3)板厚T1を送り幅W1よりも大きくした(W1<T1)仕様で鉄筋重量を大きくした。この場合、前述した仕様(1)、(2)と比較して、ボンド部下面6の長さが短くなる。この場合、ボンド部下面6の表面積は小さくなるため、受ける抵抗力を抑制できる。加えて、送り幅W1が板厚T1よりも小さい場合には、水平方向とボンド部下面6のなす角度θ4が、送り幅W1が板厚T1よりも大きい場合(仕様(2))の水平方向とボンド部下面6のなす角度θ3よりも小さくなる。そのため、ボンド部下面6が受ける抵抗力のうち型枠外側(水平方向)に向かう成分のベクトルを小さくすることができ、網状補強部材2の位置精度を好適に保つことが可能となる(図7(c)参照)。
【0031】
このように、本実施形態の網状補強部材2では、板厚T1を送り幅W1よりも大きくする(W1<T1)ことで、原料スラリーからの抵抗を抑制することができる。これにより網状補強部材2の動きを抑制し、位置精度を向上することができる。
【0032】
ここで、水平方向とボンド部下面6とがなす角θ1について、上述した式(I)に従い、(1)の仕様のラス網、(2)の仕様のラス網および(3)本実施形態のラス網、について算出した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
上式より、網目が小さい(1)仕様のラス網は、SWが小さくなるため、θ1が大きくなる。また、送り幅が大きい(2)仕様のラス網は、W1が大きくなるため、θ1が大きくなる。一方、(3)本実施形態のラス網は網目を小さくせず、かつ、T1をW1よりも大きくしたことで、(1)および(2)仕様のラス網と比較してθ1が小さくなる。したがって、θ1を大きくせずに重量の大きい(3)本実施形態の網状補強部材2を設計するには、W1ではなくT1を大きくすることがポイントとなる。
【0035】
網状補強部材2において、本発明の効果を得るためには、板厚T1が送り幅W1よりも大きければよい、つまり、W1<T1であればよい。
【0036】
以上説明してきたように、ALCパネル1において、網状補強部材2の位置精度を確保しながら製品強度、特に曲げ強度を増大させるためには、板厚T1を送り幅W1よりも大きくした仕様で鉄筋重量を上げることが有効な手段である。
【0037】
このような網状補強部材2において、板厚T1は、補強効果を考慮して決めればよいが、0.6mm以上1.2mm以下が好ましい。板厚T1が1.2mmよりも大きいと、ラス網自身の剛性が高くなりすぎて母材に対する追従性が低くなる可能性がある。一方0.6mmを下回ると、それよりも小さい送り幅から構成されるストランド部3が細くなってしまうため、鉄筋重量を大きくしようとすると、その分、網目を細かくしないといけない。
送り幅W1は板厚T1よりも小さければ(W1<T1)特に限定されないが、強度を考慮すると、送り幅W1は板厚T1の半分以上(0.5≦W1/T1<1)であることが好ましい。W1/T1が0.5よりも小さくなると、ラス網の剛性が低下するおそれがある他、ラス網の加工性が悪くなる可能性がある。
【0038】
また、網目(開口部5)の寸法は、網状補強部材2のALC母材への付着性を考慮して決めればよく、長目方向の目の寸法(菱形の長径)LWは26mm以上50mm以下が好ましく、短目方向の目の寸法(菱形の短径)SWは13mm以上30mm以下が好ましい。
なお、網状補強部材2の網目(開口部5)の形状は、上記の寸法であれば、六角形など他の多角形でも構わない。
【0039】
上述してきたような本発明のALCパネル1は、例えば、以下の工程:
ALC原料として、セメント、石灰石、珪石、石膏等を主原料とし、発泡剤と水とを加えて混合することにより、泥状の原料スラリー(モルタル)を得る工程、
一対の棒状体から成るセット棒が取り付けられた型枠内で、棒状体間に網状補強部材2を挿入して支持させる工程、
型枠内に原料スラリーを注入する工程、
原料スラリーを発泡、硬化させる工程、
セット棒を抜き取る工程、
型枠から硬化した原料モルタルを脱型し、切断する工程、
切断したものをオートクレーブ養生することによりALCパネルを得る工程、
を含む製造方法により、製造することができる。
【0040】
このような方法によれば、W1<T1とされた網状補強部材2を用いることで、原料スラリーが発泡していく際の原料スラリーの押上力によって網状補強部材2が受ける抵抗を低減させ、網状補強部材2の移動を抑制することができる。網状補強部材2の位置精度が向上し、優れた製品品質のALCパネル1を製造することができる。
本発明のALCパネル1は、網状補強部材2を上記仕様にするだけでよく、既存の製造設備、製造方法で製造可能であり、新規設備の導入が不要であるため、コストを抑えることができる。
【0041】
本発明のALCパネル1は、大きな製品強度、特に曲げ強度を有するので、各種パネルとして、例えば建物の外壁パネル、内壁パネル(間仕切り壁等)、床材等として好適に用いることができる。
【0042】
また、ALCパネル1の表面には、凹凸を含んで構成される各種意匠が施されていてもよい。このような意匠は、製造されたALCパネル1の表面を研削することにより形成される。特に本発明のALCパネル1では、内部に配された網状補強部材2の位置精度が高められたものとなっているので、所定の深さで研削した場合に、網状補強部材2が位置ずれしていることにより露出してしまうことが防止される。
【0043】
そして、本発明のALCパネル1を用いた建物も、本発明の範囲に含まれる。建物の構造や種類としては特に限定されるものではなく、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、ビルディング、一般家屋等、広く適用される。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例
【0045】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について述べる。
実施例((3)仕様のラス網)および比較例((1)仕様のラス網)を用いて軽量気泡コンクリートパネル(以下、ALCパネル)を作製した際のラス網位置精度について評価した。
【0046】
<ALCパネルの製造方法>
ALC原料として、セメント、石灰石、珪石、石膏等を主原料とし、発泡剤と水とを加えて混合することにより、泥状の原料スラリー(モルタル)を得た。
そして、以下の工程:
一対の棒状体から成るセット棒が取り付けられた型枠内で、棒状体間に網状補強部材を挿入して支持させる工程、
型枠内に原料スラリーを注入する工程、
原料スラリーを発泡、硬化させる工程、
セット棒を抜き取る工程、
型枠から硬化した原料モルタルを脱型し、切断する工程、
切断したものをオートクレーブ養生する工程、
を経ることにより、各網状補強部材を埋設したALCパネル(長さ2000mm×幅606mm×厚さ37mm)を製造した。
【0047】
<測定方法>
図8に示すように、ALCパネルの長手方向中央部(図中b-b´線)にて切断した。パネル切断面において、底部を起点として異なる高さの5か所(底部から50mm、150mm、300mm、450mm、550mmの位置)においてパネル裏面からの各網状補強部材の位置を測定した。各網状補強部材につき25枚のパネルを測定対象とした。
【0048】
<位置精度の評価>
各点において測定したラス網の位置が、パネル中心(18.5mm)から±Xmm(X=7,10)の範囲内にある割合を算出した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
X=7の場合、ラス網の位置精度は、比較例((1)仕様のラス網)では69.6%であったのに対し、実施例((3)仕様のラス網)の網状補強部材では91.2%であり、位置精度が約20%改善する結果となった。
X=10の場合、ラス網の位置精度は比較例((1)仕様のラス網)では87.2%であったのに対し、実施例((3)仕様のラス網)の網状補強部材では100%であり、すべて範囲内に収まる結果となった。
【0051】
このように、X=7,10のいずれにおいても、実施例((3)仕様のラス網)のALCパネルでは、比較例((1)仕様のラス網)を用いた場合に比べて、網状補強部材の位置精度が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の軽量気泡コンクリートパネルを用いることで、大きな製品強度、特に曲げ強度を有しつつ網状補強部材の位置精度が高められたものとなり、建物の外壁パネル、内壁パネル、床材等として広く用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…ALCパネル
2…網状補強部材
3…ストランド部
4…ボンド部
5…開口部
6…ボンド部下面
7…ボンド部側面
SW…短目方向の目の寸法
LW…長目方向の目の寸法
W1…送り幅
W2…ボンド部の高さ
T1…板厚
θ1…水平方向とボンド部下面がなす角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9