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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/21 20060101AFI20221205BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20221205BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
H01J37/21 B
H01J37/28 B
H01J37/22 502H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019093640
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020187980
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新谷 敦子
(72)【発明者】
【氏名】早田 康成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 範次
(72)【発明者】
【氏名】小山 光
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/082477(WO,A1)
【文献】特開2005-079100(JP,A)
【文献】特開平01-220351(JP,A)
【文献】特開2015-018721(JP,A)
【文献】特開2005-332593(JP,A)
【文献】特開2006-066303(JP,A)
【文献】特開2011-014303(JP,A)
【文献】特開平08-148108(JP,A)
【文献】特開2008-097902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の検査スポットにおいて試料上に形成されたパターンを観察する検査装置であって、
荷電粒子線を放出する荷電粒子線源と、前記荷電粒子線を前記試料上に集束させる複数のレンズとを含む荷電粒子光学系と、
前記荷電粒子線と前記試料との相互作用により放出される2次荷電粒子を検出する検出器と、
前記荷電粒子光学系の視野が前記複数の検査スポットを移動するごとにオートフォーカスを実行する演算部とを有し、
前記演算部は、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件に所定仕様の非点収差を導入した光学条件で前記荷電粒子線を前記試料に照射し、前記検出器が前記2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した画像を用いて、前記オートフォーカスを実行し、
前記画像は閉曲線形状を有するパターン像を含み、
前記演算部は、前記パターン像の歪みに基づき、前記画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置とベストフォーカス位置との位置ずれ量を算出し、前記位置ずれ量が検査装置の焦点深度内である場合には前記荷電粒子線の焦点位置の調整を行わず、前記位置ずれ量が検査装置の焦点深度を超える場合には前記荷電粒子線の焦点位置を前記位置ずれ量が解消するように調整し、
前記演算部は、前記位置ずれ量に含まれる誤差を算出し、前記誤差が所定の範囲を超える場合には第1の焦点位置を中心として、前記ベストフォーカス位置の探索を行い、
前記第1の焦点位置は、前記位置ずれ量が検査装置の焦点深度内である場合には前記画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置とし、前記位置ずれ量が検査装置の焦点深度を超える場合には前記位置ずれ量が解消するよう調整した後の前記荷電粒子線の焦点位置とし、
前記ベストフォーカス位置の探索は、前記所定仕様の非点収差を解消した光学条件で、前記荷電粒子線の焦点位置を変化させつつ取得した複数の画像のシャープネスに基づき行う検査装置。
【請求項2】
複数の検査スポットにおいて試料上に形成されたパターンを観察する検査装置であって、
荷電粒子線を放出する荷電粒子線源と、前記荷電粒子線を前記試料上に集束させる複数のレンズとを含む荷電粒子光学系と、
前記荷電粒子線と前記試料との相互作用により放出される2次荷電粒子を検出する検出器と、
前記荷電粒子光学系の視野が前記複数の検査スポットを移動するごとにオートフォーカスを実行する演算部とを有し、
前記演算部は、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件に所定仕様の非点収差を導入した光学条件で前記荷電粒子線を前記試料に照射し、前記検出器が前記2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した画像を用いて、前記オートフォーカスを実行し、
前記画像は閉曲線形状を有するパターン像を含み、
前記演算部は、前記パターン像の歪みに基づき、前記画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置とベストフォーカス位置との位置ずれ量を算出し、前記位置ずれ量の正負に応じて、前記画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置から前記位置ずれ量を解消する方向に前記ベストフォーカス位置の探索を行い、
前記ベストフォーカス位置の探索は、前記所定仕様の非点収差を解消した光学条件で、前記荷電粒子線の焦点位置を変化させつつ取得した複数の画像のシャープネスに基づき行う検査装置。
【請求項3】
複数の検査スポットにおいて試料上に形成されたパターンを観察する検査装置であって、
荷電粒子線を放出する荷電粒子線源と、前記荷電粒子線を前記試料上に集束させる複数のレンズとを含む荷電粒子光学系と、
前記荷電粒子線と前記試料との相互作用により放出される2次荷電粒子を検出する検出器と、
前記荷電粒子光学系の視野が前記複数の検査スポットを移動するごとにオートフォーカスを実行する演算部と、
記憶装置とを有し、
前記演算部は、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件に所定仕様の非点収差を導入した光学条件で前記荷電粒子線を前記試料に照射し、前記検出器が前記2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した画像を用いて、前記オートフォーカスを実行し、
前記画像は閉曲線形状を有するパターン像を含み、
前記演算部は、前記パターン像の歪みに基づき、前記画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置とベストフォーカス位置との位置ずれ量を算出し、
前記記憶装置は、前記パターン像の輪郭線に基づき定義された前記パターン像の歪みを示す指標の大きさと前記位置ずれ量との関係をあらかじめ記憶
前記演算部は、取得した前記画像における前記パターン像の前記指標を算出し、算出した前記指標から前記位置ずれ量を求める検査装置。
【請求項4】
複数の検査スポットにおいて試料上に形成されたパターンを観察する検査装置であって、
荷電粒子線を放出する荷電粒子線源と、前記荷電粒子線を前記試料上に集束させる複数のレンズとを含む荷電粒子光学系と、
前記荷電粒子線と前記試料との相互作用により放出される2次荷電粒子を検出する検出器と、
前記荷電粒子光学系の視野が前記複数の検査スポットを移動するごとにオートフォーカスを実行する演算部とを有し、
前記演算部は、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件に所定仕様の非点収差を導入した光学条件で前記荷電粒子線を前記試料に照射し、前記検出器が前記2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した画像を用いて、前記オートフォーカスを実行し、
前記画像は閉曲線形状を有するパターン像を含み、
前記演算部は、前記パターン像の歪みに基づき、前記画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置とベストフォーカス位置との位置ずれ量を算出し、
前記演算部は、取得した前記画像における前記パターン像または前記パターン像の輪郭線から人工知能を用いて前記位置ずれ量を求める検査装置。
【請求項5】
請求項において、
前記演算部は、学習済みのコンボリューショナルニューラルネットワークを用いて前記位置ずれ量を求め、
前記コンボリューショナルニューラルネットワークは、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件に前記所定仕様の非点収差を導入した光学条件で、前記荷電粒子線の焦点位置を変化させつつ取得したドットパターン像またはホールパターン像を用いて学習を行い、
前記演算部は、前記位置ずれ量を求めるにあたり、前記パターン像から複数部分を切り出して接続することにより、学習を行った前記ドットパターン像または前記ホールパターン像に相当する合成パターン像を作成し、前記合成パターン像について前記コンボリューショナルニューラルネットワークにより前記位置ずれ量を推論させる検査装置。
【請求項6】
請求項において、
前記演算部は、学習済みのコンボリューショナルニューラルネットワークを用いて前記位置ずれ量を求め、
前記コンボリューショナルニューラルネットワークは、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件に前記所定仕様の非点収差を導入した光学条件で、前記荷電粒子線の焦点位置を変化させつつ取得したドットパターン像の分割像またはホールパターン像の分割像を用いて学習を行い、
前記演算部は、前記位置ずれ量を求めるにあたり、前記パターン像から切り出した部分パターン像について前記コンボリューショナルニューラルネットワークにより前記位置ずれ量を推論させる検査装置。
【請求項7】
複数の検査スポットにおいて試料上に形成されたパターンを観察する検査装置であって、
荷電粒子線を放出する荷電粒子線源と、前記荷電粒子線を前記試料上に集束させる複数のレンズとを含む荷電粒子光学系と、
前記荷電粒子線と前記試料との相互作用により放出される2次荷電粒子を検出する検出器と、
前記荷電粒子光学系の視野が前記複数の検査スポットを移動するごとにオートフォーカスを実行する演算部とを有し、
前記演算部は、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件に所定仕様の非点収差を導入した光学条件で前記荷電粒子線を前記試料に照射し、前記検出器が前記2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した画像を用いて、前記オートフォーカスを実行し、
前記画像は、第1方向に延在する第1ラインパターン像または第1スペースパターン像と前記第1方向と直交する第2方向に延在する第2ラインパターン像または第2スペースパターン像とを含み、
前記演算部は、前記第1ラインパターン像または前記第1スペースパターン像の第1のぼけと前記第2ラインパターン像または前記第2スペースパターン像の第2のぼけとの大小関係に基づき、前記画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置とベストフォーカス位置との位置ずれを解消する方向を判定する検査装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項において、
前記パターン像は、前記試料上に形成されたオートフォーカス用パターンの像、または観察対象である前記パターンの像、または前記パターンの近傍に位置する閉曲線形状を有するパターンの像である検査装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項において、
前記荷電粒子光学系は非点収差補正器を有し、
前記演算部は、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件における前記非点収差補正器の制御量に前記所定仕様の非点収差を導入するための制御量を付加した条件で、前記オートフォーカスのための前記画像を取得し、前記オートフォーカスの実行後に、前記非点収差補正器の制御量を前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件における制御量に戻す検査装置。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一項において、
前記検出器が前記2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した画像を表示するモニタを有し、
前記演算部は、前記所定仕様の非点収差を導入した光学条件で取得した前記画像を、オートフォーカス実施中であることを示すアラームとともに前記モニタに表示する検査装置。
【請求項11】
複数の検査スポットにおいて試料上に形成されたパターンを観察する検査装置であって、
荷電粒子線を放出する荷電粒子線源と、前記荷電粒子線を前記試料上に集束させる複数のレンズとを含む荷電粒子光学系と、
前記荷電粒子線と前記試料との相互作用により放出される2次荷電粒子を検出する検出器と、
前記荷電粒子光学系の視野が前記複数の検査スポットを移動するごとにオートフォーカスを実行する演算部とを有し、
前記演算部は、前記オートフォーカスを実行するにあたり、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件で前記荷電粒子線を前記試料に照射し、前記検出器が前記2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した第1の画像と、前記第1の画像を取得したときとは前記荷電粒子線の焦点位置をずらした第2の画像とを取得し、前記第1の画像及び前記第2の画像は、一方向に延在するラインパターン像またはスペースパターン像を含んでおり、前記第1の画像における前記ラインパターン像または前記スペースパターン像の幅と前記第2の画像における前記ラインパターン像または前記スペースパターン像の幅との大小関係に基づき、前記第1の画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置とベストフォーカス位置との位置ずれを解消する方向を判定し、
前記第1の画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置と前記第2の画像を取得したときの前記荷電粒子線の焦点位置との間のずらし量は検査装置の焦点深度内とする検査装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記第2の画像は、前記荷電粒子光学系が前記パターンを観察するための光学条件に所定仕様の非点収差を導入した光学条件で前記荷電粒子線を前記試料に照射し、前記検出器が前記2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した画像である検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線像を用いた検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、トータルなコスト低減のため、検査や寸法計測(以下、まとめて検査と呼ぶ)にかかる時間も短縮する必要が生じている。そのため、製造工程途中で微細パターンを観察するSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)に対しても、スループットの向上が要求されている。
【0003】
SEMによる検査工程では高い分解能で微細なパターンを撮像するが、高い分解能を実現するためには自動で対象パターンに対して正確に焦点を合わせられる機能(以下、オートフォーカスと記す)が必要である。一般にオートフォーカスの過程では、観察対象を基準とした電子顕微鏡の焦点位置zを、予め決めたステップΔzで変化させて撮像することを繰り返す。通常、観察対象の位置は固定されたまま、入射ビームの光学系に流す電流や電圧を調整して焦点位置zをΔzずつ変化させる。それぞれの像を解析して、画像からシャープネス(分解能)に相当する指標αを計算し、最もシャープな画像が得られている焦点位置zを最適な焦点位置(以下、z_bestと記す)として、その位置に焦点を移動させる。
【0004】
最適な焦点位置z_bestを求めるには、撮像・解析のサイクルを繰り返して、図1のように、シャープネスの指標値αの焦点位置zに対する変化を見出さねばならない。なお、ここでは指標値αが大きい程、画像がシャープであるとする。αの最大値を与えるzが、最適な焦点位置z_bestである。
【0005】
あるzの範囲で得られた画像すべてについてシャープネスを求めてからz_bestを決めてもよいし、zを変化させながら撮像と指標計算を行って図1のデータ点をひとつずつ得ていきながら、シャープネスαの値が増加から減少に転じたところで撮像を停止してもよいが、最適な焦点位置z_bestを特定するには、最低限、グラフ上でαが最大になる点とその両側の点、合計3点のデータを得なくてはならない。しかし初期状態における焦点位置z_0が最適な焦点位置z_bestに対してプラスの方向にあるのか、マイナスの方向にあるのかもわからない。結局、z_bestを得るためには、ある程度のzの範囲で画像データを取得する必要があり、オートフォーカスを完了させるためには撮像・解析の繰り返しが必須になる。その結果、一か所あたりのオートフォーカスには平均的に1秒以上の時間がかかっている。
【0006】
このため、数多くのスポットで検査・計測を行う半導体の量産プロセスにおいては、オートフォーカスの時間を短縮する必要がある。特許文献1には、オートフォーカス(あるいは非点収差の補正時)において画像取得のためのビーム走査を間引いて、情報量の少ない画像を用いるという方法が提案されている。これによりオートフォーカスにおける撮像時間を低減することができる。しかしながら撮像・解析の回数を減らすことはできないため、検査時間低減効果は限定的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2010/082477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下では、最適、すなわち最も高いシャープネス(分解能)を実現する焦点位置z_bestあるいはその状態にあることをベストフォーカス、最適な焦点位置からのずれあるいはずれた状態にあることをデフォーカスという。オートフォーカスにかかる時間を削減するには、撮像・解析の回数を減らすことが効果的である。そのため、1枚の画像から、撮像時の焦点位置z_0とベストフォーカス位置z_bestとの関係がわかれば理想的である。少なくとも、z_best-z_0の正負がわかればよい。ベストフォーカス位置を探索する方向が限定され、撮像時の焦点位置z_0に対してプラスマイナス両方に焦点位置を変えて探索するのに比べると、オートフォーカスにかかる時間は半分になると期待できるからである。
【0009】
しかしそれは簡単ではない。なぜなら、対象パターンの出来栄えが未知だからである。対象パターンがドットパターンと呼ばれる小さい凸パターンであるとする。凸パターンの直径は約50nm、高さは70nm程度である。観察パターンがほぼ垂直な側壁を持つ円柱形状(図2(a))となっていれば、ベストフォーカスで得た画像上でのパターン輪郭はシャープになる。図2(b)に画像を二値化した模式図を示す。SEMで得られる画像は本来、信号量を反映したグレイスケール画像であるが、簡単のため信号強度が高い部分を白で、低い部分を黒で表してある。一方、同じ観察パターン(図2(a))をデフォーカス条件下で撮像すると、図2(c)のような画像になる。すなわち、この信号のボケ量(たとえば白い帯状の領域の幅)はフォーカスのずれを反映しているものの、画像のボケ量からデフォーカス量z_best-z_0を推定することはできない。
【0010】
第1に、信号のボケる様子からは、現在の焦点位置z_0がベストフォーカスz_bestに対して正の方向にずれている(焦点位置とステージとの距離が近すぎる)のか、逆なのかがわからない。どちらの方向にずれていても、信号プロファイル形状は似たような形になる。
【0011】
第2に、ボケ量には対象パターンの形状の影響が含まれる。円柱形状をターゲットとして作成するパターンは、プロセス条件によってはその側壁がテーパ状(図3(a))になることがある。この場合、ベストフォーカスで撮像すると図3(b)のような画像となり、デフォーカス条件下では図3(c)のような画像になる。このように、側壁がテーパ状の観察パターン(図3(a))に対するベストフォーカス画像(図3(b))と元々輪郭のシャープな観察パターン(図2(a))がデフォーカスによってボケた画像(図2(c))とは区別することができない。
【0012】
これに加え、1回の撮像結果からベストフォーカスを推定する場合には、推定されるベストフォーカスの信頼性が低い場合の施策が必要である。例えば従来のやり方であれば焦点位置を変化させる刻み量Δzをより小さくとる、あるいは変化させる範囲を広くとる、などの施策がとられる。画像1枚からベストフォーカス位置を推定する場合にも、要求精度が高い場合、あるいは画質などの問題で必要な精度が得られない場合においても誤った情報を出力しない、あるいはより高い精度を得る施策が必要になる。
【0013】
以上纏めると、電子顕微鏡による検査時間を短縮するためには、オートフォーカスに要する時間を短縮することが効果的である。そこで、望ましくは1枚または極少数の画像からデフォーカス量(ベストフォーカスからの相対的なずれ量)、少なくともデフォーカスの方向((z_best-z_0)の符号)が推定する可能とする。その推定は、対象パターン形状に起因する輪郭のぼけに左右されないものである必要がある。また、従来と同程度ないしはそれ以上の精度を実現するために、推定の信頼性を保証し、さらに高精度化する手順が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施の態様である検査装置は、複数の検査スポットにおいて試料上に形成されたパターンを観察する検査装置であって、荷電粒子線を放出する荷電粒子線源と、荷電粒子線を試料上に集束させる複数のレンズとを含む荷電粒子光学系と、荷電粒子線と試料との相互作用により放出される2次荷電粒子を検出する検出器と、荷電粒子光学系の視野が複数の検査スポットを移動するごとにオートフォーカスを実行する演算部とを有し、演算部は、荷電粒子光学系がパターンを観察するための光学条件に所定仕様の非点収差を導入した光学条件で荷電粒子線を試料に照射し、検出器が2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した画像を用いて、オートフォーカスを実行する。
【0015】
本発明の他の一実施の態様である検査装置は、複数の検査スポットにおいて試料上に形成されたパターンを観察する検査装置であって、荷電粒子線を放出する荷電粒子線源と、荷電粒子線を試料上に集束させる複数のレンズとを含む荷電粒子光学系と、荷電粒子線と試料との相互作用により放出される2次荷電粒子を検出する検出器と、荷電粒子光学系の視野が複数の検査スポットを移動するごとにオートフォーカスを実行する演算部とを有し、演算部は、オートフォーカスを実行するにあたり、荷電粒子光学系がパターンを観察するための光学条件で荷電粒子線を試料に照射し、検出器が2次荷電粒子を検出して出力した信号から形成した第1の画像と、第1の画像を取得したときとは荷電粒子線の焦点位置を変えた第2の画像とを取得し、第1の画像及び第2の画像は、一方向に延在するラインパターン像またはスペースパターン像を含んでおり、第1の画像におけるラインパターン像またはスペースパターン像の幅と第2の画像におけるラインパターン像またはスペースパターン像の幅との大小関係に基づき、第1の画像を取得したときの荷電粒子線の焦点位置とベストフォーカス位置との位置ずれを解消する方向を判定し、第1の画像を取得したときの荷電粒子線の焦点位置と第2の画像を取得したときの荷電粒子線の焦点位置との間の変化量は検査装置の焦点深度内とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ベストフォーカス位置を推定するための撮像回数を低減することで、オートフォーカスにかかる時間を減らすことが可能になる。その結果、パターン形成工程の検査においてスループットの高い荷電粒子線装置およびそれを用いた検査装置を提供することができる。
【0017】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】シャープネス指標の焦点位置依存性の例を示す模式図である。
図2】パターンとそのトップビュー画像を示す模式図の例である。
図3】パターンとそのトップビュー画像を示す模式図の別の例である。
図4】走査電子顕微鏡の概略構成図である。
図5】オートフォーカスの基本フローである。
図6】非点収差を導入して取得した画像の模式図である。
図7】パターン像を人工的に作る方法を説明する図である。
図8】パターン像を人工的に作る方法を説明する図である。
図9】パターン像を分割して学習用画像を生成する方法を説明する図である。
図10】オートフォーカスのフローである。
図11】オートフォーカスのフローである。
図12】オートフォーカスのフローである。
図13】閉曲線形状のパターン像を用いるオートフォーカス手法を纏めた表である。
図14】焦点位置を中心としたビームの広がりを示す図である。
図15】焦点位置を中心としたビームの広がりを示す図である。
図16】ライン(スペース)パターンを用いるオートフォーカス手法を纏めた表である。
図17】観察画像から抽出された輪郭線とそれを近似する楕円の例である。
図18】デフォーカス量と指標ξとの関係を表すグラフの例である。
図19】学習用画像を4分割し、輪郭線を取り出して得られる分割画像の例である。
図20】モニタ画面例である。
図21】モニタ画面例である。
図22】実施例3におけるオートフォーカス判定方法を説明する図である。
図23】オートフォーカスのフローである。
図24】ライン(スペース)パターンのパターン像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1枚の画像から、撮像時の焦点位置z_0とベストフォーカス位置z_bestとの関係を把握するため、第1に、オートフォーカスのための撮像を、焦点位置とは別に制御可能で挙動が定量的にわかっており、デフォーカスに応じて画像を一定方向に歪める性質をもち、かつ、その歪みがベストフォーカス位置z_bestに対して非対称になる収差を故意に重畳させたビームを用いて行う(第1の特徴)。そのような収差として、例えば非点収差が挙げられる。
【0020】
第2に、第1の方法で撮像した画像から、歪みを検知してデフォーカス量を抽出するメソッドを構築する(第2の特徴)。
【0021】
第3に、画像から推定したデフォーカス量の信頼性を上げ、必要に応じて高い精度を実現できる運用フローを確立して、それを組み込んだ検査装置を提供する(第3の特徴)。以下、それぞれについて詳細に説明する。
【0022】
まず、第1の特徴であるオートフォーカスのための収差を重畳させたビームによる撮像について詳細に説明する。図4に検査装置に用いる荷電粒子線装置の例として、走査型電子顕微鏡(SEM)の模式図を示す。筐体400は、電子光学系及び検出系が格納されるカラムと試料407(ここではウエハ)が載置されるステージ408が格納される試料室とを含み、高真空状態に保たれている。電子光学系は、主要な構成として電子線(1次電子)402を放出する電子銃401、電子線402を試料407上に集束させるための電子レンズ(集束レンズ403、対物レンズ406)、非点収差補正を行う非点収差補正器404、電子線402を試料407上で2次元に走査する偏向器405を有する。検出系は、電子線402と試料407との相互作用により放出される2次電子409を検出する検出器410を含む。電子光学系及び検出系を構成する構成要素は制御部411により制御される。演算部(コンピュータ)412は、制御部411を通じて電子光学系及び検出系を制御するとともに、検出器410からの信号に基づく画像を形成する。また、演算部412には、制御情報や画像情報を記憶する記憶装置413が接続されている。
【0023】
かかるSEMが半導体デバイスの製造プロセスにおいて検査装置として使用される場合、最初に調整用ウエハを用いて、電子光学系(一次光学系)の調整を完了しておく。具体的には、電子光学系の電子レンズ中心部を入射ビームが通過するように光軸調整を行い、各種収差(非点収差を含む)を最小化するよう電子光学系に流れる電流の電流値、または電圧値を調整し、調整が完了した設定値を装置の演算部412内の一時記憶領域に記憶させておく。調整用ウエハで焦点位置を合わせていたとしても、実際に量産ウエハを検査するにあたっては、量産ウエハごとのわずかな厚みの違いや同じウエハであっても試料面の高さの違いにより、量産ウエハ上の複数の検査スポットごとに適切な焦点位置が異なり、高い分解能で検査を行うためには検査スポットごとにオートフォーカスを行うことが必要になる。
【0024】
オートフォーカスの基本フローを図5に示す。操作者が対象パターンを選択した後は、各ステップは全て演算部412によって自動的に実行される。まず電子光学系の性能を決定するパラメータ値を、演算部412内の一時記憶領域に記憶させておいた調整値から、所定の非点収差のみが発生するようにずらす(ステップ501)。調整値の状態では電子線402の非点収差は最小化、すなわち0とされているのに対し、あえて所定量の非点収差を発生させる。これは、非点収差補正器404に流す電流量を、調整値の電流量に所望の非点収差を発生させるための電流量を重畳した電流量とすることにより行える。なお、デフォーカス量とパターン像の変形方向及び変形量との関係は、電子顕微鏡のハードウエア特性と加えた非点収差の条件に依存するため、導入する非点収差の仕様は固定しておく。
【0025】
次に、オートフォーカス用のパターンを所定の非点収差を導入した電子線402により、任意の焦点位置z_0で撮像する(ステップ502)。次に、得られた画像を解析して最適焦点位置z_bestを推定し、推定される最適焦点位置z_bestとの相対的な距離(z_best-z_0)を算出する(ステップ503)。このステップ503の詳細は後述する。続いて、ステップ501において行った非点収差補正器404への電流の重畳を停止し、ステップ501で導入した非点収差を解消する(ステップ504)。次に、ステップ503で求めた差分だけフォーカス位置を動かして、フォーカス位置をz_bestにする(ステップ505)。
【0026】
オートフォーカスを行うための対象パターンには、量産ウエハに設けられたオートフォーカス用パターンを用いる。ただし、オートフォーカス用パターンが適切な位置になければ、検査用パターンあるいは検査用パターン近傍にある別のパターンを用いてもよい。なお、図5の基本フローにおいて、ステップ504は、ステップ503あるいはステップ505と順序を入れ替えてもよく、並行して実施してもよい。並行実施することでさらに時間短縮を図ることができる。
【0027】
非点収差を導入して取得したパターン像の例を図6に示す。本図も二値化した模式図である。左欄は観察パターンA(図2)、右欄は観察パターンB(図3)について撮像したものである。また、中段はベストフォーカス位置で、上段は焦点位置が正(+)の方向にずれた状態、下段は焦点位置が負(-)の方向にずれた状態で撮像したものである。具体的には、ベストフォーカス位置を基点として、それぞれ500nmずつずらして撮像している。各図において、X方向はSEMのビーム走査方向であり、Y方向はそれに直交する方向である。
【0028】
このように、非点収差を導入して取得したパターン像では、パターン形状に依存せず、フォーカス位置ずれの方向に応じて歪む方向は共通である。また円柱の側壁が傾斜している場合(観察パターンB)、画像の白く見える帯状領域の幅は異なるものの、歪の程度(パターン輪郭の真円からのずれ量)は垂直側壁の場合と同じになる。したがって、観察パターンの形状に劣化があっても、デフォーカス量を正しく判定できる。なお、歪の程度については第2の特徴の説明において詳述する。
【0029】
続いて、第2の特徴、すなわち画像から形状の歪みを検知してデフォーカス量を抽出する方法について説明する。非点収差を含む焦点位置ずれ画像から焦点位置ずれ量を推定する方法は大きく分けて3種類ある。第1はSEM画像に写るパターン形状のゆがみを指標化する方法であり、第2は人工知能を用いてSEM画像を直接判定させる方法であり、第3は、SEM画像に写るパターン形状の輪郭を抽出した輪郭図を作成し、輪郭図を人工知能に判定させる方法である。
【0030】
第1のパターン形状の歪みを指標にする方法(第1の方法)について説明する。図6(a)~(c)に示した観察パターンAのSEM画像を例に説明する。以下の手順は一例である。
【0031】
まず、画素の明度分布の重心を求め、原点とする(なお、図6に示した各SEM画像はすでに画素の明度分布の重心を中心においた状態にある)。非点収差とデフォーカスとにより変形する方向をベクトルV1、V2で表す。ベクトルV1とベクトルV2とは直交する。この例ではベクトルV1をX軸の方向、ベクトルV2はY軸の方向とした。次に、パターンの輪郭を抽出する(いうまでもなく、2値化画像ではなく、取得されたグレイスケール画像に対して行う)。例えば、原点から放射状に画像の明度分布を測って信号プロファイルとし、信号プロファイル上でパターンのエッジ点を定義し、多数の信号プロファイル上のエッジ点をつないだものを輪郭とすることができる。他にも、原点から外側に明度を追ったときに明度の減少がもっとも急である点をその信号プロファイル上でのパターンのエッジ点とするなどの方法を採用してもよい。輪郭線抽出には公知の任意の方法を使用すればよく、その方法には限定されない。
【0032】
ドットやホールなどのパターンを撮像して得られる輪郭線は楕円(真円を含む)で近似できる形状になる。そこで、前述の重心を楕円の中心として長径及び短径を求めると、それぞれV1、V2(デフォーカス方向によってはその逆)方向の径となる。そこでV1、V2方向に径を求めそれぞれをa、bとし、a/bをゆがみの指標ξとすればよい。手順を簡単にするため、非点収差とデフォーカスとにより変形する方向(ベクトルV1、V2)がそれぞれX軸、Y軸方向になるよう、非点収差の仕様を設定しておけばよい(図6はそのような例を示している)。
【0033】
理論計算、あるいは予め取得したデータの解析結果から、指標ξ(=a/b)とデフォーカス量との関係を求めておく。これにより、指標ξから撮像時のデフォーカス量が推定できる。
【0034】
なお、上記手順は対象パターンをトップダウン観察した場合の形状が真円であった場合のものである。対象パターンが楕円あるいはそのほかの非等方的な図形の場合は、まず明度分布から重心を決定し、ベクトルV1、V2方向にパターンのエッジを求めてその比率を指標ξとする。指標ξとデフォーカス量との関係は予め求めておく。
【0035】
なお、輪郭線を抽出せずに画像の各画素の明度分布から、歪みの方向V1、V2方向の径を算出することも可能である。たとえば、重心からの各画素の距離の自乗に、明度を重みとみなして乗じて求めた二次のモーメントを用いるとよい。
【0036】
このように、指標を用いる方法はオートフォーカス用パターンの形状に応じて指標の定義を変える必要が生じることがある。操作者は指標ξとデフォーカス量との関係をオートフォーカス用パターンが変わるたびに準備する必要が生じる。あるいは、操作者自身が新たな指標を定義する必要が生じるかもしれない。このような煩雑さを回避する方法が、第2、第3の方法として示した人工知能を用いる方法である。たとえば用意しておいたコンボリューショナルニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、以下CNNと略す)に対して、操作者が、オートフォーカス機能を適用する予定のパターンを、一定仕様の非点収差を導入した上で予め判っているデフォーカス量で撮像して得た画像群とそのデフォーカス量とを紐付けして学習させる。これにより検査装置において画像からただちにデフォーカス量が推定できるようになる。操作者は、オートフォーカス機能を適用する予定のパターンが変わるタイミングで学習を実施して最適なCNNを作っておくことで、オートフォーカス用パターンの変更に対応できる。パターンが変わるたびに学習を行う必要はあるが、画像データの取得や学習は自動で実施できるため、第1の方法である指標を用いる場合と比べると短い時間で、しかも人手を介さずに行うことができる利点がある。
【0037】
パターンが変わる度にCNNの学習をやり直すのではなく、一つの学習済みCNNでいくつかのパターンの判定に対応することも可能である。これには、2つの方法が考えられる。これらを方法A、方法Bとする。いずれも基本的には、ホールあるいはドットパターンなど、トップダウン画像で輪郭が閉曲線になるものを用いる。非点収差が存在する場合、画像のパターンの歪む方向がデフォーカスの正負に応じて異なる性質を利用するためである。ここでは簡単のため、図2、3に例示した円柱状のドットパターンを用いるものとする。
【0038】
方法Aでは、通常のドットパターンを用いてCNNに学習させる。一方、焦点位置(z)の不明な画像を学習済みCNNに推論させる際には、焦点位置(z)の不明な画像から、学習を行ったドットパターン像に相当する像を構成することが可能なパーツを切り出して、それらのパーツを接続して、人工的にドットパターンに相当する合成パターン像を作成する。この例を図7に示す。パターンのトップビュー画像700(輪郭線のみを示している)から、学習に用いたドットパターンに存在しうる領域701、702を取り出し、接続することによりパターン像703を作成し、学習済みCNNに推論させればよい。
【0039】
なお、非点収差を加えてデフォーカス条件下で撮像されたパターンは図8に示すトップビュー画像800のようになる可能性があることに注意が必要である。この場合、長方形の部分が平行四辺形に、真円が楕円に変形することに注目して、領域801、802を取り出し、接続することによりパターン像803を作成し、学習済みCNNに推論させればよい。この煩雑さを回避するためには、変形の方向を表すベクトルV1、V2が画像のX及びY軸方向となるように非点収差を調整しておく。
【0040】
方法Bでは、方法Aとは逆に、CNNの学習過程でドットないしはホールパターンを分割したパターン(分割像)を用いる。図9に示すように、ドットあるいはホールパターンを撮像時に非点収差を導入してデフォーカスさせたトップビュー画像900を、領域901、902により分割する。これは学習用画像の分割を表したものであることに注意されたい。分割されて独立な画像データとなった画像901、902にはデフォーカス量が紐付けされている。このデータセットを用いてCNNを学習させる。
【0041】
オートフォーカスに用いるパターンの画像がパターン像905であったとすると、ここから領域901、902と同じ性質を持つ部分領域903、904を切り出し、それぞれを人工知能にこれらを分析させてデフォーカス量を算出すればよい。分割数と同じだけデフォーカス推定結果が得られるが、平均すればよい。ドットあるいはホールパターンの輪郭はデフォーカスによって楕円になるが、楕円をどのように二分割すればよいかは導入した非点収差の性質によるため、予め調べておく必要がある。なお、このやり方は方法Aの領域701、702の同定方法と同じである。
【0042】
方法Bについても、方法Aと同様、変形の方向がX及びY軸方向となるように非点収差を設定しておくとよい。また、ここでは真円のトップビュー画像900を2分割した例を示したが、真円の画像を4分割しておくと汎用性が高まる。ただし計算時間は長くなる。
【0043】
次に、第3の方法である、輪郭線を抽出したのち人工知能を用いる方法について説明する。パターン像を直接学習させたり判定させたりする方法は、画像から輪郭線を求めるといった画像処理工程がない分、処理時間を短くできるが、一方でパターン形状の差、例えば、図6の画像例にみられるような帯状の白い領域の幅の違いが判定時のノイズになる可能性がある。そこで、パターン像そのものではなく、画像からいったんパターン輪郭を取り出し、パターン輪郭画像に対して人工知能を用いる。第2の方法として説明した方法A、方法Bのいずれも適用できる。
【0044】
輪郭線抽出のため検査時間が増える可能性はあるものの、図6の例でいえば、パターン側壁の傾きのために帯状領域の幅が違っても、デフォーカスが同じであれば得られる輪郭線は楕円となり、その真円率や離心率は大きく違わず、パターン像を直接学習、判定する場合に比べて誤差を小さくできる。
【0045】
なお、使用するパターン像は、2方向(V1、V2)への変形の具合からデフォーカス量を推定するため閉曲線形状を有するパターンを利用している。閉曲線形状を有するパターンとしては、オートフォーカス用パターンを使用することが望ましいが、適切な場所にない場合には、ラインあるいはスペースパターンの端を用いることができる。それもない場合には、ラインあるいはスペースパターンのエッジ近傍を用いることができるが、この場合については後述する。
【0046】
続いて、第3の特徴、すなわち結果の信頼性を判定したり、その結果に応じてさらにオートフォーカス調整を行って精度を向上したりする方法を説明する。
【0047】
図5のフローにおいて、撮像した際のフォーカス位置z_0とベストフォーカス位置z_bestとの差を推定する。この推定値の信頼性は誤差で記述できる。第1の方法(パターン形状の歪みを指標で表す)では、例えば、パターン像から抽出したパターン形状輪郭を楕円とみなして真円率や離心率を算出するので、抽出した輪郭を楕円でフィッティングし、フィッティング残差ないしは残差平方和を信頼性の指標とすることができる。
【0048】
第2、第3の方法(人工知能を用いる)では、人工知能による判定(推定)の誤差を信頼性指標とすればよい。人工知能が回帰を行う型であれば、結果とともに回帰の誤差を信頼性指標として出力する。人工知能が判定を行う型である場合は以下のように考えることができる。デフォーカス量(z_best-z_0)の候補が、たとえば-1000 nmから+1000 nmまで、100 nm刻みで設定されているとする。ある画像を人工知能に投入して得られるデフォーカス量の判定結果は確率で与えられる。例えば、-300 nmである確率が0.2、-200 nmである確率が0.6、-100 nmである確率が0.1、0 nmである確率が0.1であるとする。デフォーカス量、信頼性指標は、例えば以下のように定義できる。一つは、デフォーカス量を結果の重み付き平均とする。上述の確率を重みとして平均値を算出すると-190 nmとなり、この平均値の周りの偏差は83.1 nmとなる。従って、デフォーカス量は-190 nm、信頼性指標は83 nmとする。偏差の替わりに分散を用いてもよい。もう一つは、デフォーカス量を候補のうち最も確率の高い値とする。この例では-200 nmとなる。信頼性指標はこの値の周りの偏差であり、83.7 nmとなる。
【0049】
次に、オートフォーカス機能を運用する方法について説明する。第1に、オートフォーカスの精度の確認が不要な場合(たとえば予め図5に示すフローで必要な精度が得られることが経験からわかっている場合など)、図5に示す基本フローを実施した後に検査用の画像を取得すればよい。
【0050】
第2に、第1の場合と同様にオートフォーカス精度の確認が不要であり、これに加えて可能な限り時間短縮をしたい場合、図10に示すフローを実施するとよい。このフローのステップ1001~1004は、図5のフローのステップ501~504と一致している。ステップ1005で(z_best-z_0)がシステムの焦点深度の範囲にあるかどうかを判定し、焦点深度の範囲内である場合にはフォーカスを動かさない。これにより光学系の調整を行う時間が不要になるケースがあり、その分スループットが上がる。なお、図5と同様に、ステップ1004はステップ1005ないしは1006の後に行ってもよく、並行して実施してもよい。
【0051】
第3に、オートフォーカス精度を高めたい場合、例えば図11に示すフローを実施するとよい。ステップ1101~1106は、ステップ1103で信頼性指標を計算することを除いて、図10のフローのステップ1001~1006と同じである。第2の場合と同様、焦点深度の範囲にあるか判断し必要に応じて焦点を調整する(ステップ1105~1106)。その後ステップ1107で、信頼性指標値が所定の範囲内にあるかどうかを判断する。所定の範囲を超える場合はオートフォーカス位置の探索を実行する(ステップ1108)。ステップ1108におけるオートフォーカス機能は単純に焦点位置zを少しずつ変えて撮像し、シャープネスが最大となる焦点位置zを求めるものである。求め方は従来技術と同様であるが、従来の広い範囲での焦点探索とは異なり、ベストフォーカスに近い位置を基点とした探索となるため、従来のオートフォーカスより時間を短くできる。
【0052】
図11のフローにおいても、各ステップをシリアルに実施するように表してあるが、ステップ1104は他のステップと並行して実施できる。同様に、ステップ1105と1107の計算(判定)するステップも平行して実施し、時間を短縮することが可能である。また、これらのステップは順番を入れ替えることも可能である。
【0053】
ここで、信頼性指標を前述のように推定デフォーカス量の偏差で定義するならば、ステップ1107における所定の範囲を焦点深度とするとよい。このようにすれば、信頼性指標が所定の範囲内にあることが、推定した結果実現するベストフォーカス位置の誤差が焦点深度よりも小さいということを意味するため、十分にシャープな画像が得られることが期待できるからである。
【0054】
第4に、ノイズレベルの高い画像を扱う場合や学習量の少ない人工知能を用いる場合、すなわち、判定の信頼性が低いことが予め予想される場合には、1枚の画像からフォーカスの移動量ではなく、移動方向だけを求めるとよい。この場合の選択肢は、焦点位置zをプラス方向に移動させる、マイナス方向に移動させる、の二択である。例えば、図12に示すフローを実施するとよい。ステップ1205において、計算値が正の場合はベストフォーカス位置が現状よりもzを増やす方向に、計算値が負の場合はzを減らす方向にあると推定される。それぞれ、ステップ1206、1207に進み、zを初期値z_0から(z_best-z_0)の正負に応じた方向にずらして撮像し、得られた画像からシャープネスを出す、というサイクルを繰り返して、シャープネスが最大になる焦点位置zを探す。
【0055】
ステップ1206、1207において、一回あるいは最初の数回でシャープネスが悪化する傾向が見られた場合には、逆の方向にベストフォーカス位置を探しにいく。多くの場合は、ステップ1205で行った判定に従う方向でベストフォーカス位置がみつかるため、方向を推定せずにベストフォーカスを探索した場合に比べて探索にかかる時間を半分にできる。ステップ1201からステップ1205にかかる時間は、ステップ1206またはステップ1207に要する時間より1桁以上短いため、トータルでオートフォーカスにかかる時間は従来の半分程度に短縮することができる。(z_best-z_0)による判定が誤っており、初めに逆方向にフォーカス探索をしていたとしても、従来のオートフォーカスよりも長くかかる時間はオーバーヘッドとなるステップ1201からステップ1205であり、前述のように1割以下である。オートフォーカスは複数のスポットに対して実施する必要があるため、トータルでは時間短縮の効果を得ることができる。
【0056】
以上が本実施例における閉曲線形状のパターン像を用いるオートフォーカスであり、その手法を図13に纏めた。図13に示す表によれば、4通りの計算方法、2通りの対象データ及び4通りの運用方法の組み合わせにより、合計32通りのやり方が考えられる。操作者は適切な組み合わせを選択してオートフォーカスを行う。例えば、人工知能を用いる場合で、かつ学習パターンと判定対象パターンが異なる場合、学習時間を短く判定時間が長くても許容できる場合は方法Aを、逆の場合は方法Bをとるとよい。
【0057】
閉曲線形状または、ラインやスペース端の曲線形状が試料上の観察しやすい場所にない場合には、ラインあるいはスペースパターンのエッジ近傍を用いてオートフォーカスを行う。ラインまたはスペースパターンの直線状のエッジの観察画像からどのようにデフォーカス量を判断するかについて説明する。以下はラインパターンの場合を説明するが、スペースパターンも同様である。
【0058】
この場合は閉曲線形状のように歪みを正確に把握できないため、定量的な判断を下すためには元々の試料の出来栄え、例えば側壁が垂直に形成されているかなど、を一定にする必要がある。しかし実際には試料の出来栄えを検査するために観察するのであるからこれは難しく、デフォーカス量の推定に誤差は避けられない。しかし、ベストフォーカス探索をどちらの方向から始めるべきか、という点は決定することができると考えられるので、図12のフローに準じてオートフォーカスを行う。
【0059】
第1のケースは、観察試料上のX方向(入射ビームの走査方向と一致)、Y方向(X方向に直交する方向)に平行なラインパターンがそれぞれ存在する場合である。導入する非点収差の仕様は、パターン像の変形方向であるベクトルV1、V2がそれぞれX方向、Y方向に一致するものとしておく。図14に焦点位置を中心としたビームの広がりの様子を示す。ビーム1401は非点収差がない場合であって、ビームの広がり具合はX方向からみても、Y方向からみても違いがない。ビームの広がりが最小となる点に観察試料表面があれば高い解像度が得られる(すなわち、試料表面位置がz_bestである)。ビームの広がりが最小となる点が位置z_0にあるビーム1401に非点収差を加えたビームがビーム1402であり、ビーム1402aはXZ平面でのビームの広がりを、ビーム1402bはYZ平面でのビームの広がりを表している。このように、非点収差を加えることで、ビームの広がりが最小となる点は、例えばXZ平面での広がりとYZ平面での広がりとでは焦点位置z_0を挟んで反対側にある。また、焦点位置z_0においては、ビームの広がり量はX方向、Y方向で同じである。
【0060】
したがって、たとえば試料表面位置が正の位置にあれば、Y方向に延びるラインのエッジはX方向に少しだけぼけ、X方向に延びるラインのエッジはY方向に大きくぼけることになる(矢印線1403の幅が、ビームの広がり量に対応している)。試料表面位置が負の位置である場合にはぼけ方が逆になる。このように、Y方向に延びるライン、X方向に延びるラインのエッジのぼけの大小関係から、撮像時のフォーカスがベストフォーカスより上にあるか下にあるかを推定することができる。
【0061】
第2のケースは、観察試料上に一方向に延びるラインパターンしか存在しない場合である。この場合、方法Iと方法IIの2つのやり方が考えられる。用いるパターンはY方向に延びるラインパターンとする。図15において、ビーム1501は1回目の撮像時におけるビームの広がりを示す。ビーム1502は2回目の撮像時におけるビームの広がりを示すものであるが、非点収差を導入することで焦点位置をずらしている。この場合、1回目の撮像時のビーム広がりが矢印線1503の幅、2回目の撮像時のビーム広がりが矢印線1504の幅であったとすると、エッジ領域のぼけは2回目のほうがわずかに小さいはずである。もしも撮像時の焦点位置がベストフォーカス(試料表面位置)に対して反対側であれば、結果は逆になる。この傾向から、どちらにベストフォーカスを探せばよいかがわかる。方法IIは、フォーカス位置のずらし方が異なる。方法IIでは例えば、2回目の撮像においては、わずかに試料の相対位置を下げて(試料ステージがZ方向に固定の場合はビームの焦点位置を上げて)、2回目の撮像を行う。
【0062】
方法I、方法IIのいずれの場合も、1回目の撮像時と2回目の撮像時との焦点位置のずれが大きすぎると、焦点位置がベストフォーカス位置(試料表面位置)をまたいで移動してしまう可能性がある。この場合には、正しい判定が行えない。このため、動かすフォーカス量は焦点深度以下とする。動かすフォーカス量が焦点深度以下であれば、ベストフォーカス位置を跨いで移動したとしても画像を劣化させることはない。
【0063】
以上が本実施例における直線状のラインパターンまたはスペースパターンを用いたオートフォーカスであり、その手法を図16に纏めた。図13に示す表によれば、3通りの撮像メソッド及び2通りの判定方法の組み合わせにより、合計6通りのやり方がありうるが、一方向のラインパターンの画像を用いる場合にはエッジ近傍の信号ピークのぼけ(幅)にデフォーカスが現れるため、人工知能を用いるよりも指標のほうが手軽でかつ精度が確保できるため、一方向のラインパターンの場合には判定方法として人工知能の選択肢はとらないと考えられ、実質的には4通りとやり方から選択することになる。
【0064】
閉曲線を使う場合、ラインパターンを使う場合のいずれの場合であっても、オートフォーカス用パターンのスポットにおいて、収差を導入して撮った画像をモニタに出力するとよい。また、記憶領域に保存しておくとよい。さらにオートフォーカスが終了した段階で撮像を行い、これらの画像をモニタに表示するとよい。また、記憶領域に保存しておくことが望ましい。これらは、オートフォーカス機能が正しく稼動していることを確認するためである。
【実施例1】
【0065】
実施例1では、画像1枚から推定したデフォーカス量に従って検査用画像のフォーカス条件を決定し検査を行うことにより、検査時間を短縮する。なお、ここに示す効果はシミュレーションにより得られたものである。
【0066】
実施例1で用いる方法は、図13の表において、計算方法は人工知能、学習/判定図形は同じ図形であり、対象データは画像、運用方法は「焦点深度内判定+ベストフォーカスに移動」の組み合わせである。画像からデフォーカス量を推定する際にはCNNを用いた。
【0067】
まず、学習によってデフォーカス推定を行うCNNを構築する手順について説明する。ユーザーはシリコンウエハに形成した直径40 nmのホールパターンを、SEMを用いて観察して画像を取得した。撮像時には各種収差を解消した後、従来のやり方でフォーカス位置を変化させつつ撮像し、画像のシャープネスが最も高くなる位置としてベストフォーカス位置を求めた。次に非点収差を導入し、ベストフォーカス位置を基準(ゼロ)としてデフォーカス値を-5 μmから+5 μmまで、0.2 μm刻みで変化させることにより、各フォーカス位置にて100枚の画像を撮像した。なお、導入する非点収差は、非点収差による歪みの方向がXY軸方向になる仕様とされている。デフォーカス値は51段階であるから、合計5100枚の画像を得た。例えば、+のデフォーカス値において図6(a)のような画像が、フォーカス値0において図6(b)のような画像が、-のデフォーカス値において図6(c)のような画像が取得される。学習データは、これらの画像とそれぞれの画像のデフォーカス値とをあわせて構成される。
【0068】
続いて5100個の学習データからランダムに3000個を選び、用意したCNNを学習させた。残りの2100個の学習データを用いてテストしたところ正解率が98%となったため、このCNNを採用することとした。ここで「正解」とは、画像から推定されるデフォーカス値が実際の撮像時のデフォーカス値±0.05 μmの範囲にあった場合を指す。
【0069】
学習及びテストの済んだCNNをSEMの演算部にコピーして検査に用いる。検査は、シリコンウエハにエッチングにより形成した直径設計値40 nmのホールパターンの仕上がり寸法(実際の直径)を計測するものである。本検査においては、フォーカスあわせも検査用のパターンにより実施する。
【0070】
検査では、SEMにウエハ投入した後、各種収差を評価し、それらを最小化する光学系のパラメータ値を設定し、それらの値をSEMの演算部内の記憶領域にファイルとして格納する。その後、以下のシーケンスを繰り返す。まず事前に登録してあったターゲットパターンの座標情報及び検査スポットの順序のデータを参照し、ターゲットパターン近傍に移動し、低い観察倍率で撮像、視野内にターゲットパターンを見つけたら正確に位置を合わせ、高倍率でオートフォーカスを実施する。オートフォーカスはSEMの演算部によって、図10のフローが自動で行われる。オートフォーカスを実行し、ベストフォーカス位置にて検査用の画像を取得し、この画像からホールパターンの直径を求める。事前に登録してあった検査スポットの情報に従って、次のスポットに移動し、同じ手順を繰り返し実行する。
【0071】
検査を実施するチップは、ウエハ上の21個のチップであり、各チップ内に検査箇所が9箇所ある。そのため1枚のシリコンウエハに対して189箇所で検査を実施することになる。検査スポットごとにオートフォーカスを行う必要があり、従来はオートフォーカスに2.0秒かかっており、かつ、オートフォーカス失敗が10%程度発生していた。オートフォーカスに失敗した場合は検査結果を操作者がチェックし検査をやり直す必要があるため、ウエハ1枚につき、さらに7~9分程度余分にかかっていた。これに対して、実施例1においてはオートフォーカスにかかる時間は0.2秒程度に短縮される。また、オートフォーカスの失敗がなくなることも予想され、このため検査にかかる時間は、ウエハ1枚あたり約15分短縮できることになる。
【実施例2】
【0072】
実施例2では、画像1枚から推定したデフォーカス量に従って検査用画像のフォーカス条件を決定し検査を行うことにより、検査時間を短縮する。ここに示す効果もシミュレーションにより得られたものである。
【0073】
実施例2で用いる方法は、図13の表において、計算方法は指標、対象データは輪郭、運用方法は「焦点深度内判定+ベストフォーカスに移動+従来AF実施」の組み合わせである。実施例2では、実施例1と同じドットパターン像から閉曲線となる輪郭線を抽出し、その形状を指標化することで推定したデフォーカス量に基づいてフォーカス位置を修正し、検査を行う。検査対象はシリコンウエハに形成した直径40 nmのドットパターンである。非点収差を導入して撮像した画像について、以下のように変形量ξを計算する。導入する非点収差は、実施例1と同様に非点収差による歪みの方向がXY軸方向になる仕様とされている。まず、パターンの重心と輪郭を抽出する。図17に抽出した輪郭を示す。破線の楕円は抽出した輪郭線を近似する楕円であり、重心を画像の中央に置いている。輪郭を楕円で近似し、その楕円のY方向の径(X=0、Y>0と楕円との交点)をa、X方向の径(Y=0、X>0と楕円との交点)をbとし、a/bを指標ξとする。同時に、輪郭線を楕円で近似したときのフィッティング残差(輪郭線を構成するエッジ点と楕円との距離の二乗和をエッジ点の数で割ったもの)をβと定義し、判定の信頼性指標とした。
【0074】
予め設定してあった非点収差の仕様から、デフォーカス量と指標ξとの関係は図18のようになることがわかっていた。このデフォーカス量と指標ξとの関係は、指標ξの値とデフォーカス値をひもづけした表としてSEMの記憶領域に格納させておく。
【0075】
検査の手順は実施例1と同じである。ただし、オートフォーカスはSEMの演算部によって、図11のフローが自動で行われる。ステップ1103では、求めた指標ξと記憶領域に格納されてあるデフォーカス量と指標ξとの関係(図18参照)を用いて、指標ξの値に対応するデフォーカス量ΔzFを求める。デフォーカス量ΔzFの符号を反転させたものが(z_best-z_0)である。また、ステップ1107においては信頼性指標βに基づき信頼性を判断する。この許容限界は予め検査の感度とノイズの状況などから見積もっておく。
【0076】
ステップ1108に進むケースでは、従来方法(フォーカスを振って撮像を繰り返す方法)と同等の時間を要するとしても、ステップ1107の判定でYesとなるケースについてはオートフォーカス時間を約1.5秒短縮できる。ステップ1108に進むケースは全体の1割程度とみこめるため、全体としてオートフォーカス時間を大幅に短縮することができる。
【実施例3】
【0077】
実施例3では、画像1枚から推定したデフォーカス量に従って検査用画像のフォーカス条件を決定し検査を行うことにより、検査時間を短縮する。
【0078】
実施例3で用いる方法は、図13の表において、計算方法は人工知能、学習/判定図形は異なる図形であり、学習データを分割する方法(方法B)、対象データは輪郭、運用方法は「焦点深度内判定+ベストフォーカスに移動+従来AF実施」の組み合わせである。画像からデフォーカス量を推定する際にはCNNを用いた。
【0079】
まず、学習によってデフォーカス推定を行うCNNを構築する手順について説明する。実施例1と同じシリコンウエハに対して、同様の手順で51段階のデフォーカス値で合計5100枚の画像を得た。続いて、これらの画像から輪郭性を抽出する。この手順は実施例2と同様である。
【0080】
次に、輪郭線をグラフ化し、グラフを画像化し、さらに1、2、3、4象限に分けた画像を作成する。例えば、ホールパターンの画像から最終的に、図19に示すような4つの線画(画像)1901~1904を得る。これらのデータは、これを撮像した際のデフォーカス量と組み合わされ、4つの学習データになる。学習用に5100枚の画像が得られているから、合計で20400個の学習データセットが出来上がる。
【0081】
続いて画像及び撮像時のデフォーカス値が組み合わされた20400個の学習データからランダムに12000個を選び、用意したCNNを学習させた。残りの8400個のデータを用いてテストしたところ正解率が98%となったため、このCNNを採用することとした。ここでの「正解」も実施例1と同じである。学習及びテストの済んだCNNをSEMの演算部にコピーして検査に用いる。
【0082】
検査の手順は実施例1と同じである。本実施例では、SEMの各種収差及びデフォーカス量を最小化した状態で、オートフォーカス用のターゲットパターンを撮像するか、あるいは前もって撮像しておいたオートフォーカス用のターゲットパターンの画像を呼び出し、オートフォーカス判定を行う領域を定義する。この定義を行うときのモニタ画面例を図20に示す。
【0083】
ボタン2001をクリックすることにより、参照する画像データを呼び出す。図では、すでにターゲットパターン像が選択されて表示部2002に示されている。なお、表示部2002の表示例は簡略化したものであり、実際には表示部2002内の2つの閉曲線で囲まれた帯状領域は明るく表示され、それ以外の領域は暗く表示されている。パーツ数選択部2003はターゲットパターン像のうち、いくつのパーツを判定に用いるかを選択する。ここでは「4」を選択している。データタイプ選択部2004により、判定を画像で行うか、輪郭線で行うかを選択する。ここでは「輪郭線」を選択している。
【0084】
パーツ数選択部2003において「4」を選択することにより、表示部2002内には4つの長方形が現れる。これらはマウス操作によりサイズと位置とを変えられる。操作者は表示部2002内の判定用領域2006~2009に含まれるようにパーツを決定し、登録ボタン2005をクリックして登録を終える。これにより、判定用領域2006~2009に含まれる画像データが演算部内の記憶領域に保存される。
【0085】
オートフォーカスはSEMの演算部によって、図11のフローが自動で行われる。ステップ1102において、非点収差を導入して画像を撮像しているときのSEMのモニタ画面例を図21に示す。歪んだオートフォーカスパターンの像2101の背景には、検査レシピやウエハ情報などを示すためのウィンドウが表示されている。アラーム2102は、現在表示されている画像がオートフォーカス用のものであること、すなわち、非点収差が加えられることにより故意に歪ませた画像となっていることを操作者に知らせるものである。
【0086】
ステップ1103において、オートフォーカス判定を行う領域として定義した領域(図20の判定用領域2006~2009により定義された領域)に相当する領域を、非点収差を導入した画像から探し出し、それぞれの領域における輪郭線画像を抽出する。図22に示すように、非点収差を導入して得たターゲットパターン像2201に対して、判定領域として定義した判定用領域2202~2205を抽出し、そこから4つの輪郭線の線画(画像)2212~2215を得る。このそれぞれをCNNで判定する。
【0087】
画像2212~2215のそれぞれについて、どのデフォーカス量である確率がどの程度か、がCNNによる判定で得られる。例えば、画像2212について、デフォーカス量が+480 nmである確率が0.3、+460 nmである確率が0.5、+440である確率が0.2、という結果が得られた。確率が最も大きくなるデフォーカス量を最も確からしい値とすると、画像2212はデフォーカス量+460 nm、誤差は分散値で200、標準偏差に換算すると14 nmとなる。同じ処理を画像2213~2215に対して行って、4つのデータの平均値をとったところ、デフォーカス量は+455 nm、すなわち、(z_best-z_0)は-455 nm、分散平均は240、標準偏差に換算すると15nmとなった。
【0088】
このようにして得られた(z_best-z_0)に対して焦点深度内か否かを判定(ステップ1105)、分散平均または標準偏差が信頼性指標値として設定した範囲にあるか否かを判定する(ステップ1107)。図11のオートフォーカスフロー終了後に、ターゲットパターンを再度撮像し、ステップ1102で得られた画像とともに記録装置に保存しておくことが望ましい。検査結果に異常が見られた場合にオートフォーカスの失敗の可能性を調査するためである。その後、検査パターンを撮像する。
【実施例4】
【0089】
実施例4では、2枚のラインパターン像から推定したデフォーカスの符号に従って検査用画像のフォーカス条件を決定し検査を行うことにより、検査時間を短縮する。
【0090】
実施例4で用いる方法は、図16の表において、図形は一方向のラインパターン(ここでは長手方向が画面上Y方向になるように置く)、撮像メソッドは収差利用、判定方法は指標の組み合わせである。
【0091】
検査の手順は実施例1と同じである。オートフォーカスはSEMの演算部によって自動で行われる。実施例4におけるオートフォーカスのフローを図23に示す。
【0092】
まずステップ2301にて、記憶装置に登録されている各種収差を最小化する条件にSEMを設定する。なお、これはスポットを変えるたびに行う必要はなく、1枚のウエハを検査する際に、初めに1回実施しておくだけでよい。フォーカス位置は調整してもしなくてもよい。ステップ2302では、その状態(フォーカス位置z_0)で撮像する。この結果を第1の画像とする。次にステップ2303において、予めその量を決められていた非点収差が加わるように光学系のパラメータを変化させる。ここでは、非点収差が加わったことでX方向のフォーカス位置が紙面上で上方向にずれるような条件であった(図15を参照)。この場合、Y方向のフォーカス位置は逆側にずれることになる。非点収差を導入した状態で撮像し(ステップ2304)、この結果を第2の画像とする。図24に示すように、ラインパターン2400について、第1の画像2401及び第2の画像2402が得られる。実際には濃淡のついた画像であるが、画素の明度を二値化して表してある。
【0093】
ステップ2305では、第1及び第2の画像から(z_best-z_0)の符号を計算する。計算の手順を、図15及び図24を参照しながら説明する。まず第1の画像2401及び第2の画像2402から、パターンエッジに相当する明るい帯状領域の幅を計算する。第1の画像2401の帯状領域幅を幅w_1、第2の画像2402の帯状領域幅を幅w_2とする。これらの値はそれぞれ図15における矢印線1503の幅、矢印線1504の幅に対応している。この例では幅w_1>幅w_2であるから、撮像時のフォーカス位置z_0が試料表面の位置(=z_best)よりも紙面上で下方にあることを意味している(図15を参照)。従って(z_best-z_0)は正であると判定できる。一方、幅w_1<幅w_2であれば(z_best-z_0)は負であると判定できる。なお、加える非点収差の性質が逆であれば、結果の判定はそれぞれ逆になる。
【0094】
続いて、導入した非点収差を解消する(ステップ2306)。次に(z_best-z_0)の符号に従って分岐する(ステップ2307)。図24の例では(z_best-z_0)は正であるからステップ2308に進み、フォーカス位置を上方に動かすように、システムのパラメータを調整しつつ撮像し、画像のシャープネスを評価しながらベストフォーカス位置を探す。ステップ2308においてベストフォーカス探索に失敗したら、逆側に探索を行うことになるが、失敗する場合とは(z_best-z_0)の値が小さい場合であるから、プラス側マイナス側両方に探索を行ってもすぐにベストフォーカス位置を探し当てることができると期待される。
【符号の説明】
【0095】
400・・・筐体、401・・・電子銃、402・・・電子線、403・・・集束レンズ、404・・・非点収差補正器、405・・・偏向器、406・・・対物レンズ、407・・・試料、408・・・ステージ、409・・・2次電子、410・・・検出器、411・・・制御部、412・・・演算部、413・・・記憶装置、700, 800・・・パターンのトップビュー画像、701, 702, 801, 802・・・領域、703, 803・・・パターン像、900・・・パターンのトップビュー画像、901, 902, 903, 904・・・領域、905・・・パターン像、1401, 1402, 1501, 1502・・・ビーム、1403, 1503, 1504・・・ビームの広がり、1901~1904・・・線画、2001・・・ボタン、2002・・・表示部、2003・・・パーツ数選択部、2004・・・データタイプ選択部、2005・・・登録ボタン、2006~2009・・・判定用領域、2101・・・オートフォーカスパターンの像、2102・・・アラーム、2201・・・ターゲットパターン像、2202~2205・・・判定用領域、2212~2215・・・線画、2400・・・ラインパターン、2401, 2402・・・画像。
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