(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】竿体及び竿体を有する釣竿
(51)【国際特許分類】
A01K 87/00 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
A01K87/00 630C
(21)【出願番号】P 2019181124
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】亀田 謙一
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-270515(JP,A)
【文献】特開2011-212463(JP,A)
【文献】特開平07-088212(JP,A)
【文献】特開2006-121969(JP,A)
【文献】特開昭55-074739(JP,A)
【文献】特開平06-284841(JP,A)
【文献】特開2004-130564(JP,A)
【文献】特開2005-271279(JP,A)
【文献】特開2013-179948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 87/00 - 87/08
A63B 53/00 - 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第1の層と、該第1の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第2の層と、を含む釣竿であって、
該第1の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、正巻きに形成され、該第2の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成さ
れ、
前記第2の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第3の層と、該第3の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第4の層と、を含み、
前記第3の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、正巻きに形成され、前記第4の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成され、
前記釣竿に垂直な断面でみて、前記第1の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、前記第2の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略180°ずれており、
前記釣竿に垂直な断面でみて、前記第3の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、前記第4の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略180°ずれており、
前記釣竿に垂直な断面でみて、前記第1の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、前記第3の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略90°ずれていることを特徴とする、釣竿。
【請求項2】
前記釣竿に垂直な断面でみて、前記第1の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、前記第2の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略180°ずれている、請求項1に記載の釣竿。
【請求項3】
前記釣竿に垂直な断面でみて、前記第1の層のシート状プリプレグの巻回終了位置は、前記第2の層のシート状プリプレグの巻回終了位置と略180°ずれている、請求項2に記載の釣竿。
【請求項4】
前記第1の層上又は第2の層上の少なくともいずれかに補強層が設けられる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の釣竿。
【請求項5】
前記補強層は、シート状プリプレグ又は織布である、請求項4に記載の釣竿。
【請求項6】
各層における巻回開始位置と巻回終了位置は、前記釣竿に垂直な断面でみて、同じ角度位置である、請求項1から
5までのいずれか1項に記載の釣竿。
【請求項7】
各層のシート状プリプレグの巻き数は同じである、請求項1から
6までのいずれか1項に記載の釣竿。
【請求項8】
各層は1枚以上10枚未満のシート状プリプレグにより形成される、請求項1から
7までのいずれか1項に記載の釣竿。
【請求項9】
シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第1の層と、該第1の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第2の層と、を含む釣竿に使用される竿体であって、
該第1の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、正巻きに形成され、該第2の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成さ
れ、
前記第2の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第3の層と、該第3の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第4の層と、を含み、
前記第3の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、正巻きに形成され、前記第4の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成され、
前記釣竿に垂直な断面でみて、前記第1の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、前記第2の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略180°ずれており、
前記釣竿に垂直な断面でみて、前記第3の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、前記第4の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略180°ずれており、
前記釣竿に垂直な断面でみて、前記第1の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、前記第3の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略90°ずれていることを特徴とする、釣竿に使用される竿体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竿体及び竿体を有する釣竿に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、強化繊維に合成樹脂を含侵したプリプレグを巻き回して製作される様々な竿体及びこれを備えた釣竿が知られている。
【0003】
このような竿体を備えた釣竿は、例えば、特許文献1にプリプレグの長手方向に傾斜した切断線と他の切断線の交差点を曲線状の切断線で切断して高強度繊維補強竿管を成形する釣竿の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献1の
図4に示されている通り、芯金にプリプレグが適宜回数巻回されると、高強度繊維に合成樹脂を含浸したシ-ト状プリプレグの長手方向に傾斜した切断線と他の切断線の交差変化点位置は、曲線状の切断線で連続して切断されているから、外周方向に緩やかな曲線となることが開示されている。
【0005】
また、ゴルフクラブシャフトに関して、特許文献2では、シャフトのフープ層が他のプリプレグ層と交差しないように、かつフープ層とストレート層のプリプレグの巻回数を任意の整数回としシャフトの曲がりを抑制するとともに強度と剛性を改善したシャフトを提供することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-7058号公報
【文献】特開2009-263841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いずれに係る方法でも、各層を同じ回転方向で積層していくと、巻付けにより生じる残留応力が蓄積されていくため、釣竿穂先のように細い部位では成形曲がりが発生してしまうという問題があった。
【0008】
本発明の目的の一つは、巻付けにより生じる残留応力を、逆方向の応力で打ち消し合うように作用する巻付け方法を採用することで、残留応力の不均一さ解消し、釣竿穂先のような細い部位でも成形曲がりを低減させることができる竿体及びこれを有する釣竿を提供することにある。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第1の層と、該第1の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第2の層と、を含み、該第1の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、正巻きに形成され、該第2の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成される。
【0010】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、該釣竿に垂直な断面でみて、該第1の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、該第2の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略180°ずれている。
【0011】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、該釣竿に垂直な断面でみて、該第1の層のシート状プリプレグの巻回終了位置は、該第2の層のシート状プリプレグの巻回終了位置と略180°ずれている。
【0012】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、該第1の層上又は第2の層上の少なくともいずれかに補強層が設けられる。また、本発明の一実施形態に係る釣竿において、該補強層は、シート状プリプレグ又は織布である。
【0013】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、該第2の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第3の層と、該第3の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第4の層と、を含み、該第1の層のシート状プリプレグと該第3の層のシート状プリプレグとは、該釣竿に垂直な断面でみて、正巻きに形成され、該第2の層のシート状プリプレグと該第4の層のシート状プリプレグとは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成される。
【0014】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、該釣竿に垂直な断面でみて、該第1の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、該第2の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略180°ずれており、該釣竿に垂直な断面でみて、該第3の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、該第4の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略180°ずれている。
【0015】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、該釣竿に垂直な断面でみて、該第1の層のシート状プリプレグの巻回開始位置は、該第3の層のシート状プリプレグの巻回開始位置と略90°ずれている。
【0016】
本発明の一実施形態に係る釣竿において、各層における巻回開始位置と巻回終了位置は、前記釣竿に垂直な断面でみて、同じ角度位置である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る釣竿において、各層のシート状プリプレグの巻き数は同じである。
【0018】
本発明の一実施形態に係る釣竿において、各層は1枚以上10枚未満のシート状プリプレグにより形成される。
【0019】
本発明の一実施形態に係る釣竿に使用される竿体は、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第1の層と、該第1の層上に、シート状プリプレグを1又は複数プライ分巻回して形成された第2の層と、を含み、該第1の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、正巻きに形成され、該第2の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の上記各実施形態によれば、巻付けにより生じる残留応力を、逆方向の応力で打ち消し合うように作用する巻付け方法を採用することで、残留応力の不均一さ解消し、釣竿穂先のような細い部位でも成形曲がりを低減させることができる竿体及びこれを有する釣竿を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る釣竿を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る釣竿をその中心軸に垂直な面で切断した断面を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る釣竿をその中心軸に垂直な面で切断した断面を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る竿体の製造方法を模式的に示す図である。
【
図5】従来における竿体をその中心軸に垂直な面で切断した断面を示す図である。
【
図6a】従来における竿体の最大曲がり量を測定した試験結果を示す図である。
【
図6b】従来における竿体の最大曲がり量を測定した試験結果を示す図である。
【
図7a】本発明の一実施形態に係る竿体の最大曲がり量を測定した試験結果を示す図である。
【
図7b】本発明の一実施形態に係る竿体の最大曲がり量を測定した試験結果を示す図である。
【
図7c】本発明の一実施形態に係る竿体の最大曲がり量を測定した試験結果を示す図である。
【
図8a】従来における竿体の曲がり量の軌跡をプロットした試験結果を示す図である。
【
図8b】従来における竿体の曲がり量の軌跡をプロットした試験結果を示す図である。
【
図9a】本発明の一実施形態に係る竿体の曲がり量の軌跡をプロットした試験結果を示す図である。
【
図9b】本発明の一実施形態に係る竿体の曲がり量の軌跡をプロットした試験結果を示す図である。
【
図9c】本発明の一実施形態に係る竿体の曲がり量の軌跡をプロットした試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る釣竿の実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。複数の図面において共通する構素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0023】
図1は、本発明に係る釣竿の一実施形態を示す図である。図示のように、本発明の一実施形態による釣竿1は、竿体2と、竿体2にリールシート9を介して取り付けられたリールRと、竿体2に取り付けられた釣糸ガイド10と、を備える。図示の実施形態においては、リールシート9及び釣糸ガイド10の各々が、竿体の外周面に取り付けられる取付部品に該当する。
【0024】
竿体2は、例えば、元竿3、中竿5、及び穂先竿7等を連結することによって構成されている。これらの各竿体は、例えば、並継ぎ式に継合される。元竿3、中竿5、及び穂先竿7は、振出方式、逆並継方式、インロー方式、又はこれら以外の公知の任意の継合方式により継合され得る。竿体2は、単一の竿体から構成されていても良い。
【0025】
元竿3、中竿5、及び穂先竿7は、例えば、繊維強化樹脂製の管状体で構成されている。この繊維強化樹脂製の管状体は、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂プリプレグ(プリプレグシート)を芯金に巻回し、このプリプレグシートを加熱して硬化させることにより作成される。このプリプレグシートに含まれる強化繊維として、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、及びこれら以外の任意の公知の強化繊維を用いることができる。当該プリプレグシートに含まれるマトリクス樹脂として、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。その他、熱硬化性樹脂として、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂及びウレタン樹脂を用いることができる。プリプレグシートが硬化された後には、芯金が脱芯される。また、管状体の外表面は、適宜研磨される。各竿体は、中実状に構成されてもよい。
【0026】
図示の実施形態において、元竿3、中竿5及び穂先竿7には、リールシート9に装着されるリールRから繰り出される釣糸を案内する複数の釣糸ガイド10(釣糸ガイド10A~10D)が設けられている。より具体的には、元竿3には釣糸ガイド10Aが設けられ、中竿5には釣糸ガイド10Bが設けられ、穂先竿7には釣糸ガイド10Cが設けられている。穂先竿7の先端には、トップガイド10Dが設けられている。
【0027】
次に、
図2を参照して、本発明に係る竿体及びこれを備えた釣竿の一実施形態を説明する。同図は、
図1の釣竿をその中心軸に垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0028】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1は、シート状プリプレグ11を1又は複数プライ分(図示の例では、2プライ分のシート状プリプレグ11)巻回して形成された第1の層12と、該第1の層12上に、シート状プリプレグ13を1又は複数プライ分(図示の例では、2プライ分のシート状プリプレグ13)巻回して形成された第2の層14と、を含み、該第1の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、正巻きに形成され、該第2の層のシート状プリプレグは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成される。ここで、正巻きとは、
図2の紙面における反時計回りの巻付けをいい、逆巻きとは、
図2の紙面における時計回りの巻付けをいう。
【0029】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1により、巻付けにより生じる残留応力を、逆方向の応力で打ち消し合うように作用する巻付け方法を採用することで、残留応力の不均一さ解消し、釣竿穂先のような細い部位でも成形曲がりを低減させることが可能となる。
【0030】
図示のように、本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1は、該釣竿1に垂直な断面(図示の断面)でみて、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回開始位置Aは、該第2の層14のシート状プリプレグ13の巻回開始位置Bと180°ずれている。ここで、角度は数学的に厳密な意味でのものではなく、180°という場合約180°であればよい。以下、これを表現するため、略の記載を用いる。
【0031】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1は、該釣竿1に垂直な断面(図示の断面)でみて、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回終了位置Cは、該第2の層14のシート状プリプレグ13の巻回終了位置Dと略180°ずれている。
【0032】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1において、各層における巻回開始位置と巻回終了位置は、前記釣竿に垂直な断面でみて、同じ角度位置である。図示の例では、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回開始位置Aは、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回終了位置Cと同じ角度位置となっている。また、同様に、該第2の層14のシート状プリプレグ13の巻回開始位置Bは、該第2の層14のシート状プリプレグ13の巻回終了位置Dと同じ角度位置となっている。
【0033】
図示しないが、本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1は、該第1の層12上又は第2の層14上の少なくともいずれかに補強層がさらに設けられてもよい。また、本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1において、該補強層は、シート状プリプレグ又は織布で形成することができる。
【0034】
次に、
図3を参照して、本発明に係る竿体及びこれを備えた釣竿の一実施形態を説明する。同図は、
図1の釣竿をその中心軸に垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0035】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1は、該第2の層14上に、シート状プリプレグ15を1又は複数プライ分(図示の例では、2プライ分のシート状プリプレグ15)巻回して形成された第3の層16と、該第3の層16上に、シート状プリプレグ17を1又は複数プライ分(図示の例では、2プライ分のシート状プリプレグ15)巻回して形成された第4の層18と、を含み、該第1の層12のシート状プリプレグ11と該第3の層16のシート状プリプレグ15とは、該釣竿に垂直な断面(
図3の紙面)でみて、正巻きに形成され、該第2の層14のシート状プリプレグ13と該第4の層18のシート状プリプレグ17とは、該釣竿に垂直な断面でみて、逆巻きに形成される。ここで、正巻きとは、
図3の紙面における反時計回りの巻付けをいい、逆巻きとは、
図3の紙面における時計回りの巻付けをいう。
【0036】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1により、巻付けにより生じる残留応力を、逆方向の応力で打ち消し合うように作用する巻付け方法を採用することで、残留応力の不均一さ解消し、釣竿穂先のような細い部位でも成形曲がりを低減させることが可能となる。
【0037】
また、
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1は、該釣竿1に垂直な断面(図示の断面)でみて、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回開始位置Aは、該第2の層14のシート状プリプレグ13の巻回開始位置Bと略180°ずれており、該釣竿1に垂直な断面でみて、該第3の層16のシート状プリプレグ15の巻回開始位置Eは、該第4の層18のシート状プリプレグ17の巻回開始位置Fと略180°ずれている。ここで、既述の通り、角度は数学的に厳密な意味でのものではなく、180°という場合約180°であればよい。
【0038】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1は、該釣竿1に垂直な断面(図示の断面)でみて、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回開始位置Aは、該第3の層16のシート状プリプレグ15の巻回開始位置Eと略90°ずれている。
【0039】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1において、各層における巻回開始位置と巻回終了位置は、前記釣竿に垂直な断面でみて、同じ角度位置である。図示の例では、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回開始位置Aは、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回終了位置Cと同じ角度位置となっている。また、同様に、該第2の層14のシート状プリプレグ13の巻回開始位置Bは、該第2の層14のシート状プリプレグ13の巻回終了位置Dと同じ角度位置となっている。
【0040】
図示の例では、該第3の層16のシート状プリプレグ15の巻回開始位置Eは、該第3の層16のシート状プリプレグ15の巻回終了位置Gと同じ角度位置となっている。また、同様に、該第4の層18のシート状プリプレグ17の巻回開始位置Fは、該第4の層18のシート状プリプレグ17の巻回終了位置Hと同じ角度位置となっている。
【0041】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1において、各層のシート状プリプレグの巻き数は同じとすることもできるし、異なるように形成することもできる。図示の例では、各層におけるシート状プリプレグの巻き数は2となっている。
【0042】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1において、各層は1枚以上10枚未満のシート状プリプレグにより形成することができる。
【0043】
次に、
図4は、竿体2の製造方法の一部を模式的に示す図であり、同図を参照して、竿体2の製造方法についてより詳細に説明する。
【0044】
筒状部材(マンドレル)4を準備する。次に、第1の層12を形成するシート状プリプレグ11を1又は複数プライ分準備し、筒状部材(マンドレル)4に該シート状プリプレグ11を正巻きに巻付ける(温度:20℃~50℃ 圧力:0.5MPa~10MPa)。
【0045】
さらに、第2の層14を形成するシート状プリプレグ13を1又は複数プライ分準備し、第1の層12に該シート状プリプレグ13を逆巻きに巻付ける(温度:20℃~50℃ 圧力:0.5MPa~10MPa)。ここで、正巻きとは、
図2の紙面における反時計回りの巻付けをいい、逆巻きとは、
図2の紙面における時計回りの巻付けをいう。
【0046】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1は、該釣竿1に垂直な断面(
図2の断面)でみて、該第1の層12のシート状プリプレグ11の巻回開始位置Aは、該第2の層14のシート状プリプレグ13の巻回開始位置Bと180°ずれるようにして、上記巻付けを行うことができる。
【0047】
次に、補強層20として、シート状プリプレグ又は織布を準備し、該第2の層14にシート状プリプレグ又は織布をさらに巻付ける。その後、筒状部材(マンドレル)4を取り外すことで、中空の筒状部材の竿体2を得ることができる。
【0048】
本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1により、巻付けにより生じる残留応力を、逆方向の応力で打ち消し合うように作用する巻付け方法を採用することで、残留応力の不均一さ解消し、釣竿穂先のような細い部位でも成形曲がりを低減させることが可能となる。
【0049】
次に、
図5を参照して、従来の竿体及びこれを備えた釣竿を説明する。同図は、釣竿をその中心軸に垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0050】
図示のように、従来の竿体20では、シート状プリプレグ110を1又は複数プライ分(図示の例では、2プライ分のシート状プリプレグ110)巻回して形成された第1の層120と、該第1の層120上に、シート状プリプレグ130を1又は複数プライ分(図示の例では、2プライ分のシート状プリプレグ130)巻回して形成された第2の層140と、を含み、該第1の層120のシート状プリプレグ110と該第2の層140のシート状プリプレグ130とは、釣竿に垂直な断面でみて、同じ方向に巻付けられている。
【0051】
また、従来の竿体20では、釣竿に垂直な断面でみて、該第1の層120のシート状プリプレグ110の巻回開始位置Wは、該第2の層140のシート状プリプレグ130の巻回開始位置Xと同じ角度位置である。
【0052】
また、従来の竿体20では、各層における巻回開始位置と巻回終了位置は、前記釣竿に垂直な断面でみて、同じ角度位置である。図示の例では、該第1の層120のシート状プリプレグ110の巻回開始位置Wは、該第1の層120のシート状プリプレグ110の巻回終了位置Yと同じ角度位置となっている。また、同様に、該第2の層140のシート状プリプレグ130の巻回開始位置Xは、該第2の層140のシート状プリプレグ130の巻回終了位置Zと同じ角度位置となっている。
【0053】
次に、本発明の一実施形態に係る竿体2(
図2の態様を例とする)と、従来の竿体20(
図5の態様を例とする)との曲がり試験を行ったため、その結果を
図6、7に示す。なお、シート状プリプレグは、本発明の一実施形態に係る竿体2と、従来の竿体2とで同じものを用いた。
【0054】
図6に従来の竿体20の曲がり試験の結果を示す。
図6aは、n=6の場合、すなわち6本の竿体の試験結果であり、竿体の各位置における最大曲がり量を測定したものである。また、
図6bは、n=8の場合、すなわち8本の竿体の試験結果であり、竿体の各位置における最大曲がり量を測定したものである。いずれも横軸は、竿体20の軸方向における位置(竿元から穂先)(mm)を示し、縦軸は、竿体20の軸に垂直な方向における竿体20の最大曲がり量(mm)を示したものである。
【0055】
図示のように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体20の曲がり量が急速に増大していく様子が示されている。このように、従来の竿体20では、各層を同じ回転方向で積層していくと、巻付けにより生じる残留応力が蓄積されていくため、釣竿穂先のように細い部位では成形曲がりが発生してしまうという問題があることが確認された。
【0056】
図7に本発明の一実施形態に係る竿体2の曲がり試験の結果を示す。
図7aは、n=8の場合、すなわち8本の竿体B(第1回試作)の試験結果であり、竿体2の各位置における最大曲がり量を測定したものである。また、
図7bは、n=4の場合、すなわち4本の竿体B(第2回試作)の試験結果であり、竿体2の各位置における最大曲がり量を測定したものである。さらに、
図7cは、n=6の場合、すなわち6本の竿体Cの試験結果であり、竿体2の各位置における最大曲がり量を測定したものである。いずれも横軸は、竿体2の軸方向における位置(竿元から穂先)(mm)を示し、縦軸は、竿体2の軸に垂直な方向における竿体2の最大曲がり量(mm)を示したものである。
【0057】
図7aに示すように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体2の最大曲がり量は僅かに増加するもののほぼ横ばいとなった。また、
図7bに示すように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体2の最大曲がり量は僅かに増加していくものの、最大曲がり量はいずれも5mm未満であった。さらに、
図7cに示すように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体2の最大曲がり量は僅かに増加していくものの、最大曲がり量はいずれも10mmよりも小さいという結果となった。
【0058】
このように、本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1を見出したことにより、巻付けにより生じる残留応力を、逆方向の応力で打ち消し合うように作用する巻付け方法を採用することで、残留応力の不均一さ解消し、釣竿穂先のような細い部位でも成形曲がりを低減させることが可能となることが判明した。
【0059】
次に、本発明の一実施形態に係る竿体2(
図2の態様を例とする)と、従来の竿体20(
図5の態様を例とする)との別の曲がり試験も行ったため、その結果を
図8、9に示す。なお、シート状プリプレグは、本発明の一実施形態に係る竿体2と、従来の竿体2とで同じものを用いた。
【0060】
図8に従来の竿体20の曲がり試験の結果を示す。
図8aは、n=6の場合、すなわち6本の竿体Aの試験結果であり、竿体の曲がり量の軌跡をプロットしたものである。また、
図6bは、n=8の場合、すなわち8本の竿体Bの試験結果であり、2つの竿体を製作し、竿体の曲がり量の軌跡をプロットしたものである。いずれも横軸は、竿体20のX方向(
図5の紙面の左右の方向)の曲がり量(mm)の軌跡を示し、縦軸は、竿体20のY方向(
図5の紙面の上下の方向)の曲がり量(mm)の軌跡を示したものである。
【0061】
図8aに示すように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体20の曲がり量はX方向及びY方向へ急速に増大していく様子が示されている。また、
図8bに示すように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体20の曲がり量は特にX方向に増大し、20mm以上となる様子が示されている。このように、従来の竿体20では、各層を同じ回転方向で積層していくと、巻付けにより生じる残留応力が蓄積されていくため、釣竿穂先のように細い部位では成形曲がりが発生してしまうという問題があることが別の試験結果からも確認された。
【0062】
図9に本発明の一実施形態に係る竿体2の曲がり試験の結果を示す。
図9aは、n=1の場合、すなわち1本の竿体Aの試験結果であり、竿体2の曲がり量の軌跡をプロットしたものである。また、
図9bは、n=4の場合、すなわち4本の竿体Bの試験結果であり、4つの竿体を製作し、竿体2の曲がり量の軌跡をプロットしたものである。さらに、
図9cは、n=6の場合、すなわち6本の竿体Cの試験結果であり、竿体2の曲がり量の軌跡をプロットしたものである。いずれも横軸は、竿体20のX方向(
図5の紙面の左右の方向)の曲がり量(mm)の軌跡を示し、縦軸は、竿体20のY方向(
図5の紙面の上下の方向)の曲がり量(mm)の軌跡を示したものである。
【0063】
図9aに示すように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体2の曲がりはほぼないことが確認された。また、
図9bに示すように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体2の曲がり量は極僅かであり、曲がり量は各方向とも5mm未満であった。さらに、
図9cに示すように、竿元から穂先の方向に向かうにつれ、竿体2の曲がり量は極僅かに増加し、X方向の曲がり量は5-10mm程度、Y方向の曲がり量は5mmよりも小さいという結果となった。
【0064】
このように、本発明の一実施形態に係る竿体2及びこれを備えた釣竿1を見出したことにより、巻付けにより生じる残留応力を、逆方向の応力で打ち消し合うように作用する巻付け方法を採用することで、残留応力の不均一さ解消し、釣竿穂先のような細い部位でも成形曲がりを低減させることが可能となることが判明した。
【0065】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0066】
1 釣竿
2 竿体
3 元竿
4 筒状部材(マンドレル)
5 中竿
7 穂先竿
9 リールシート
10 釣糸ガイド
11 シート状プリプレグ
12 第1の層
13 シート状プリプレグ
14 第2の層
15 シート状プリプレグ
16 第3の層
17 シート状プリプレグ
18 第4の層
A 巻回開始位置
B 巻回開始位置
C 巻回終了位置
D 巻回終了位置
W 巻回開始位置
X 巻回開始位置
Y 巻回終了位置
Z 巻回終了位置