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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】磁気冷凍材料
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/01 20060101AFI20221205BHJP
   F25B 21/00 20060101ALI20221205BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20221205BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221205BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20221205BHJP
   C22C 22/00 20060101ALN20221205BHJP
【FI】
H01F1/01 150
F25B21/00 A
C22C33/02 M
B22F1/00 W
B22F3/00 E
C22C22/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019227976
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021097150
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000207089
【氏名又は名称】大電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】大坪 健佑
(72)【発明者】
【氏名】副島 慧
(72)【発明者】
【氏名】大西 孝之
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-514158(JP,A)
【文献】特表2011-523771(JP,A)
【文献】特開2014-015678(JP,A)
【文献】国際公開第2018/083819(WO,A1)
【文献】特開2018-107203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/01
F25B 21/00
C22C 33/02
B22F 1/00
B22F 3/00
C22C 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともMn、Fe、P、Si、およびSnを構成元素に含み、
Snの配合モル比率が0.01~0.12であることを特徴とする
磁気冷凍用材料。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気冷凍用材料において、
Ru、Ni、Coから構成される群から選択される少なくとも1つを構成元素に含むことを特徴とする
磁気冷凍用材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気冷凍用材料において、
Geを構成元素に含むことを特徴とする
磁気冷凍用材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の磁気冷凍用材料において、
FeサイトとPサイトのFe:Pサイト間モル比率(Feサイト:Pサイト)が、1.9以上2.0以下であることを特徴とする
磁気冷凍用材料。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気冷凍用材料において、
前記Fe:Pサイト間モル比率が低くなるにつれて高くなるモル比率のSnを有することを特徴とする
磁気冷凍用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体材料から構成される磁気冷凍材料のうち、特に従来よりも、大きな磁気熱量効果および断熱温度変化を示す磁気冷凍材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、オゾン層の破壊などの環境問題を引き起こすフロン系材料ガスを冷媒として用いる従来の気体冷凍方式に代わる新しい磁気冷凍方式が提案されている。この磁気冷凍方式では、ある種の磁性体材料を冷媒とし、その磁気熱量効果つまり等温状態で磁性体の磁気秩序を磁場で変化させた際に生じる磁気エントロピー変化量及び断熱状態で磁性体の磁気秩序を磁場で変化させた際に生じる断熱温度変化を利用する。
【0003】
このような磁気熱量効果または断熱温度変化を有する磁性体材料を冷媒に用いた磁気冷凍装置ならびに磁気ヒートポンプ装置が広く研究されている。この磁気冷凍方式に従えば、フロンガスを使用することなく磁気冷凍装置ならびに磁気ヒートポンプ装置を作製することが可能になり、これまでの気体方式に比べて効率が高いという利点がある。
【0004】
このような磁気熱量効果または断熱温度変化を有する磁性体材料は、特に、磁気冷凍材料(磁気冷凍作業物質)と呼ばれている。
【0005】
斯かる磁気冷凍方式に用いられる磁気冷凍材料としては、低い磁場で大きな磁気熱量効果または断熱温度変化を示す効率の良い材料として、LaFeSi系材料やMnFePSi系材料など化合物系材料の磁気冷凍材料が知られており、数種類の元素を混合し焼結または溶融によりバルク(ブロック状)として製造される。
【0006】
このような磁気冷凍材料は、キュリー温度(Tc)(各物質の磁性が、強磁性から常磁性に転移する温度)をまたぐことによって、相転移が発生し、大きな磁気熱量効果または断熱温度変化が得られ、その結果、磁気冷凍材料に温度変化が生じる。
【0007】
なお、キュリー温度に関連して、磁気冷凍材料に熱を加えながら温度を上げたときのキュリー温度と冷却しながら温度を下げていったときのキュリー温度の差をヒステリシスという。このヒステリシスが大きくなると断熱温度変化が小さくなるという欠点がある。
【0008】
これまでに知られている磁気熱量効果または断熱温度変化を示す物質(例えば、LaFeSi系材料やMnFePSi系材料などの化合物)は、冷凍域から室温域以上までの比較的広い温度範囲で磁気熱量効果または断熱温度変化を有するが、MnFePSi系材料はLaFeSi系材料の材料と比較すると断熱温度変化が小さく、磁気ヒートポンプ装置として実用的な能力を実現するためには、超電導磁石などでしか実現できない非常に大きな強磁界を印加する必要がある。
【0009】
このような状況において、磁気熱量効果または断熱温度変化を向上させるために、これまでMnFePSi系材料に元素置換を行った磁気冷凍材料が提案されている。
【0010】
例えば、従来の磁気冷凍材料としては、既存のMnFePSi系材料にホウ素(B)を元素置換したMnFePSiB系材料の磁気冷凍材料が提案されており、例えば、次の一般式(1)で表される化合物よりなることを特徴とする磁気冷凍材料がある。
(MnFe1-X2 + u1-y-z Si・・・(1)
0.25≦x≦0.55、0.25≦y≦0.65、0<z≦0.2、-0.1≦u≦0.05、y+z≦0.7(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2016-534221公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の磁気冷凍材料では、例えば既存の磁気冷凍材料の一部をホウ素(B)などの元素で置換することにより、既存の構成組成を変更して特性改善を図ろうとするものがあるが、十分な実用化までには至っていない。
【0013】
この理由としては、従来の磁気冷凍材料の製造に際しては、原料を溶融する溶融法を用いる製法が挙げられる。この製法は、試験用の少量作製向きではあるが、大規模な溶融処理は製造コストの面から難しく、大量生産には向いていない。この他にも、固相法を用いる製法が挙げられる。この製法は、多数回の焼成処理を必要とし、製造コストの面から、安価で大量生産できるまでには至っていない。
【0014】
このようなことから、製造面において、安価で大量生産を可能とし、さらに、特性面において、幅広い動作温度域、巨大磁気熱量効果と共に、大きな断熱温度変化を有するというような磁気熱量材料が切望されているものの、そのような磁気冷凍材料は現在のところ見当たらない。
【0015】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、安価で製造できると共に、幅広い動作温度域を持ち、大きな断熱温度変化を有する磁気冷凍材料磁気冷凍材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鋭意研究の結果、MnFePSi系材料、MnFeRuPSi系材料、MnFeNiPSi系材料、MnFeCoPSi系材料、MnFePSiGe系材料等の磁気冷凍材料を作製するにあたり、所定の金属元素を添加することによって、得られた磁気冷凍材料の断熱温度変化を大幅に改善できると共に、その後の焼結性も改善することができ、上述した目的を達成できることを見出した。
【0017】
すなわち、MnFePSi系材料、MnFeRuPSi系材料、MnFePSiGe系材料の磁気冷凍材料は、特性を向上させるためには、固相法の場合では複数回の熱処理や、溶融法を用いることが一般的であったが、本発明者らが見出したある金属元素を添加した磁気冷凍材料では、最小限の熱処理であっても固相法における焼結性が大きく改善され、シャープな転移を行うことが確認された。
【0018】
かくして、本発明に拠れば、少なくともMn、Fe、P、Si、およびSnを構成元素に含む磁気冷凍用材料が提供される。さらに、必要に応じて、FeサイトとPサイトの比率、MnとFeの比率、PとSiの比率を調節することにより、幅広いキュリー温度(Tc)を制御することも可能となる。したがって、キュリー温度(Tc)の異なる複数の磁気冷凍材料を調整し、これらを組み合わせることによって、冷凍域から高温域までを含む広い温度範囲で動作可能な磁気冷凍装置および磁気ヒートポンプ装置を実現することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る磁気冷凍材料のX線回折(XRD)測定結果(a)およびその一部拡大図(b)を示す。(実施例4、5、6)。
図2】本発明に係る磁気冷凍材料の示差走査熱量計(DSC)での測定結果を示す(実施例1、2、3、9、10、11、12、14、15、比較例1~3)。
図3】本発明に係る磁気冷凍材料の断熱温度変化(ΔTad)の測定結果を示す(実施例1、9、10、11、12、14、比較例1)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る磁気冷凍材料は、少なくともMn、Fe、P、Si、およびSnから構成される。本実施形態に係る磁気冷凍材料は、Snを含有することで、非常に安定した相形成が促進され、少ない焼成回数で、高い断熱温度変化を奏する優れた特性が発揮される(後述の実施例参照)。
【0021】
また、その他の構成元素としてFeサイトにRu、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つを構成元素に含んでいてもよい。
【0022】
例えば、このような本実施形態に係る磁気冷凍材料の一例としては、次の一般式(1)で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-ySi)Sn・・・(1)
ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.5≦σ≦0、0<x≦1.0、0<y≦0.8、0≦z≦0.8、0<a≦0.8である。
【0023】
このうち、例えば、次の一般式(1)-1で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-ySi)Sn・・・(1)-1
ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.3≦σ≦0、0.3≦x≦0.9、0.1≦y≦0.7、0≦z≦0.4、0<a≦0.4である。
【0024】
このうち、例えば、次の一般式(1)-2で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-ySi)Sn・・・(1)-2
ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.1≦σ≦0、0.52≦x≦0.86、0.36≦y≦0.55、0≦z≦0.08、0<a≦0.12である。
【0025】
また、PサイトにGeを構成元素に含んでいてもよい。
【0026】
例えば、このような本実施形態に係る磁気冷凍材料の一例としては、次の一般式(2)で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFe1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(2)
ここで、-0.5≦σ≦0、0<x≦1.0、0<y≦0.8、0<a≦0.8、0≦b≦0.8である。
【0027】
このうち、例えば、このような本実施形態に係る磁気冷凍材料の一例としては、次の一般式(2)-1で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFe1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(2)-1
ここで、-0.3≦σ≦0、0.3≦x≦0.9、0.1≦y≦0.7、0<a≦0.4、0≦b≦0.4である。
【0028】
このうち、例えば、このような本実施形態に係る磁気冷凍材料の一例としては、次の一般式(2)-2で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFe1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(2)-2
ここで、-0.1≦σ≦0、0.52≦x≦0.86、0.36≦y≦0.55、0<a≦0.12、0≦b≦0.11である。
【0029】
また、本実施形態に係る磁気冷凍材料の一例として、上記のAとGeを共に考慮したものとしては、次の一般式(3)で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(3)
ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.5≦σ≦0、0<x≦1.0、0<y≦0.8、0≦z≦0.8、0<a≦0.8、0≦b≦0.8である。
【0030】
このうち、例えば、このような本実施形態に係る磁気冷凍材料の一例としては、次の一般式(3)-1で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(3)-1
ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.3≦σ≦0、0.3≦x≦0.9、0.1≦y≦0.7、0≦z≦0.4、0<a≦0.4、0≦b≦0.4である。
【0031】
このうち、例えば、このような本実施形態に係る磁気冷凍材料の一例としては、次の一般式(3)-2で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(3)-2
ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.1≦σ≦0、0.52≦x≦0.86、0.36≦y≦0.55、0≦z≦0.08、0<a≦0.12、0≦b≦0.11である。
【0032】
上記一般式(3)-2をさらに具体化した一例としては、次の一般式(3)-3で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-j-k-lRuNiCo1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(3)-3
ここで、-0.1≦σ≦0、0.52≦x≦0.86、0.36≦y≦0.55、0≦j≦0.02、0≦k≦0.08、0≦l≦0.04、0<a≦0.12、0≦b≦0.11である。
【0033】
本実施形態に係る磁気冷凍材料を構成するFeサイトとPサイトのFe:Pサイト間モル比率(Feサイト:Pサイト)は、特に限定されないが、好ましくは、1.9以上2.0以下である。
【0034】
さらに、このFe:Pサイト間モル比率が、2.0から1.9に近付く(低くなる)につれてSnのモル比率が高くなることがより好ましい。このFe:Pサイト間モル比率が2.0より大きい場合や、1.9より小さい場合には、結晶構造が変化しやすくなる傾向にある。実際に、同程度の構成元素から構成される磁気冷凍材料では、Fe:Pサイト間モル比率が、2.0から1.9に近付く(低くなる)につれてSnのモル比率が高くなることで、より効果的に断熱温度変化が向上することが確認されている(後述の実施例2、4~8参照)。
【0035】
Snを添加する工程は、熱処理を行う前であれば特に限定されず、例えば熱処理前に任意の組成の混合物に対して添加してもよいし、好ましくは各原料を配合する際に添加することである。
【0036】
また、本発明の熱処理方法については、任意の適切な方法で実施することができる。本発明の磁気冷凍材料は出発元素または合金を出発原料とし、固相、液相のどちらでも混合でき、任意のプレス、不活性ガス雰囲気下での任意の熱処理方法によって製造することができる。
【0037】
本発明の実施形態に係る磁気冷凍材料の製造方法は、少なくともMn、Fe、P、およびSiから構成される磁気冷凍材料を製造する際にSnが添加されていることが好ましく、MnFePSi系材料、MnFeRuPSi系材料、MnFeNiPSi系材料、MnFeCoPSi系材料、MnFePSiGe系材料等を製造する際にSnが添加されていることがより好ましい。
【0038】
例えば、上記一般式(3)-2で表される化合物を得る場合には、
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-y-bSiGe)(ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.1≦σ≦0、0.52≦x≦0.86、0.36≦y≦0.55、0≦z≦0.08、0≦b≦0.11である)で表される化合物を製造する際にSnを添加することで、上記一般式(3)-2で表される化合物を得ることができる。
【0039】
また、磁気冷凍材料の熱ヒステリシスは、比較的小さい値であることが好ましく、特に3.5K以下であることが、磁気冷凍材料の冷凍性能を高めるという点から、より好ましい。例えば、上記一般式(1)で表されるマンガン系材料化合物の場合では、MnとFeとAの比率およびPとSiの比率を変化させることによって、キュリー温度、熱ヒステリシスおよび磁気エントロピー変化量を調整することができ、少ない焼成回数と高い断熱温度変化を維持しつつ、特に熱ヒステリシスが3.5K以下を示す組成を選定することが可能となる。
【0040】
また、上記一般式(3)で表される化合物(Mn2-xFex-z1+σ(P1-y-bSiGe)Snにおいて、(Mn2-xFex-z)サイトと(P1-y-bSiGe)サイトのサイト間比率に関しては、上述したように、必ずしも2:1に限定されず、好ましくは1.8:1~2:1(-0.1≦σ≦0)であり、より好ましくは1.9:1~2:1(-0.05≦σ≦0)である。
【0041】
さらに好ましくは、1.95:1~2:1(-0.025≦σ≦0)である。(例えば後述の実施例6、8、16~18ではMn、Ru、P、Si、Snの組成比率を固定した場合に、このサイト間比率が小さくなるにつれて、DSCピーク幅の狭小化と、断熱温度変化の向上が確認されている)
【0042】
この構成によって、不純物相の発現が抑制されることで、よりSnを添加した特有の効果が表れやすくなり、より大きな断熱温度変化を示す材料の作製が可能となる。
【0043】
本発明の特徴を更に明らかにするために、以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【0044】
(実施例)
以降記載の実施例は同様の方法で合成した。すなわち、Mn粉末、Fe粉末、Ru粉末、Pフレーク、Si粉末、Ge粉末、Ni粉末、Co粉末およびSn粉末を、その各元素の組成比が後述の表1における実施例および比較例の化学量論比となるように、容器内を不活性ガス雰囲気とした遊星式ボールミルで粉砕混合した。次いで、混合粉末をカーボンのサヤに充填した後、アルゴンガス雰囲気下で900℃程度まで昇温し、8時間キープ後、自然冷却し、得られた焼結体を90μm以下まで粉砕を行った。次いで、得られた粉末を再度カーボンサヤに充填した後、アルゴンガス雰囲気下で1100℃程度まで昇温し、5時間キープ後、自然冷却し、得られた焼結体を液体窒素で一旦冷却し、53μm以下まで粉砕を行った。比較例1~3は再度、アルゴンガス雰囲気下で1100℃で同様の焼成を行った。
【0045】
本発明の実施例に係るSnが添加された組成の磁気冷凍用材料の他に、比較例としてSnが添加されていない組成の磁気冷凍用材料も製造した。実施例1~32は本発明に係る磁気冷凍用材料であり、比較例1~3はSnが添加されていない組成の磁気冷凍用材料である。
【0046】
各々の磁気冷凍用材料について、断熱温度変化(ΔTad)を測定した。断熱温度変化の測定は恒温相内で温度制御を行い、印加磁場1Tで任意の温度で材料に磁場を印加することで測定を行った。断熱温度変化の値は材料を励磁、消磁した際の温度差とした。
【0047】
また、各々の磁気冷凍用材料について、キュリー温度および温度ヒステリシスを求めるために示差走査熱量測定(DSC)を行った。測定資料の重量は約30mgとし、標準試料にアルミナを選択し、温度の走査速度は2℃/分として熱量の差を測定した。
【0048】
各実施例の組成を、上記得られた各特性の結果と併せて以下の表に示す。
【表1】
【0049】
上記各実施例の結果から、比較例1~3では、焼成回数は3回を必要としたのに対して、各実施例1~32では、全て、わずか2回の焼成回数で十分に焼成された。このように、各実施例1~32では、多数回の焼成処理を必要する固相法等の従来の製法と比較して、製造コストの面からも、安価で大量生産できることが確認された。
【0050】
また、比較例1~3では、DSCピーク幅は10を超えていたが、各実施例1~32は、10未満であることが確認された。このように、DSCピーク幅が小さい(狭い)ことにより、ピークが高くなっている。これに伴って、確かに断熱温度変化のピーク値も高くなっており、その断熱温度変化のピーク最大値が高くなっていた。
【0051】
すなわち、上記の表の結果で示されたように、比較例1~3では、断熱温度変化が1.4K以下であったのに対して、各実施例1~32では、全て、断熱温度変化が1.6K以上であった。なお、実施例11、14の断熱温度変化は使用している磁石の特性上、1T以下に低下した状態での測定になるので、印加磁場1Tでの断熱温度変化については今回の結果よりも高くなるはずである。また、実施例15については装置の測定限界を超えた高温域のキュリー温度を持つために実測できなかったが、DSC測定の結果から推察すると他の実施例と同等の断熱温度変化を発揮するものと考えられる。このように、各実施例1~32では、従来品である比較例よりも、確実に高い断熱温度変化を発揮できることが確認された。
【0052】
また、上記の表の結果から、実施例4から実施例5~8までのSn添加量が増加する場合の結果から、Sn添加量が増加するにつれて、断熱温度変化が有意に上昇したことが確認された。
【0053】
また、特に、同程度の構成元素から構成される磁気冷凍材料として、実施例2、4~8について考察する。実施例2と実施例4では、Snのモル比率が0.01と共通している。実施例2では、Fe:Pサイト間モル比率が1.98:1であり、断熱温度変化は、1.7Kを示しているのに対して、Fe:Pサイト間モル比率が1.95:1とより低い実施例4では、断熱温度変化は1.6Kと実施例2よりやや低くなっている。これに対して、実施例4と同じく低いFe:Pサイト間モル比率1.95:1を有する実施例5と実施例6では、Snのモル比率が0.04~0.05と実施例4よりも高めに配合されており、断熱温度変化は、1.9~2.0Kと断熱温度変化の向上が確認されている。同様に、実施例4とほぼ同じ低いFe:Pサイト間モル比率1.96:1を有する実施例7と実施例8でも同じ傾向にあり、Snのモル比率が0.04~0.05と実施例4よりも高めに配合されており、断熱温度変化は、2.0~2.2Kと断熱温度変化の向上が確認されている。
【0054】
このことから、Fe:Pサイト間モル比率が、2.0から1.9に近付く(低くなる)につれてSnのモル比率が高くなることで、より効果的に断熱温度変化が向上したことが確認された。
【0055】
上記各実施例について、作製した粉砕粉のX線回折(XRD)測定を行った。ターゲットはCuを用いた。得られたX線回折(XRD)測定の結果のうち、図1(a)に実施例4、5、6、の測定結果、図1(b)にその測定結果の一部拡大図を示す。
【0056】
上記の実施例4、5、6では、そのXRD測定の結果から、各々、順に、Snの添加量が0.01、0.04、0.05molと増加しており、この増加につれて確かにSnのピークが増大したことが確認された。
【0057】
また、示差走査熱量測定(DSC)の結果について、図2に比較例1~3と実施例1、2、3、9、10、11、12、14、15の結果を示す。すなわち、同図(a)に実施例1と比較例1の結果を示す。同図(b)に実施例2と比較例2の結果を示す。同図(c)に実施例3と比較例3の結果を示す。同図(d)に比較例1と実施例1、9、10、11、12、14、15を示す。また比較例1~3については焼成回数を3回なので2回目の結果を点線、3回目の結果を実線で示す。
【0058】
図2(a)~(d)の結果から、Sn添加を行うことでDSCスペクトルがシャープになっていることが確認できた。また、Sn添加量を増やすことでさらにシャープになっていることが図2(d)からもわかる。
【0059】
さらに、上記の表で示された断熱温度変化の結果を見ても、Snが添加されている組成では特性が大幅に改善している。
【0060】
図3の結果からSnが添加されている実施例1、9、10、11、12、14ではSnが添加されていない比較例1と比べるとシャープな断熱温度変化のスペクトルになっており、磁場印加1Tで断熱温度変化の最大値も1.3Kから2.3Kと大幅に改善している。また作動温度域も-30℃以下から100℃以上と非常に広い範囲であることが確認された。
図1
図2
図3