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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】アデノウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/861 20060101AFI20221205BHJP
   C12N 15/34 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 14/075 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20221205BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 15/64 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 4/02 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 4/04 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 4/12 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 14/11 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 14/045 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 14/08 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 14/01 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 14/44 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 14/445 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 39/04 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 39/002 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 39/205 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 39/21 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 39/008 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20221205BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20221205BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20221205BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20221205BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20221205BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221205BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20221205BHJP
   A61P 33/02 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C12N15/861 Z
C12N15/34 ZNA
C12N7/01
C07K14/075
C12N9/10
C12N15/113 Z
C12N5/10
C12N15/64 Z
C07K4/02
C07K4/04
C07K4/12
C07K14/11
C07K14/045
C07K14/08
C07K14/01
C07K14/195
C07K14/44
C07K14/445
A61K39/04
A61K39/002
A61K39/205
A61K39/21
A61K39/008
A61K35/761
A61P31/18
A61P31/16
A61P31/14
A61P31/20
A61P31/12
A61P33/06
A61P33/02
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019520507
(86)(22)【出願日】2017-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 GB2017051851
(87)【国際公開番号】W WO2017221031
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-23
(31)【優先権主張番号】1610967.0
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516245900
【氏名又は名称】オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD UNIVERSITY INNOVATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギルバート,サラ,シー
(72)【発明者】
【氏名】ヒル,エイドリアン,ブイエス
(72)【発明者】
【氏名】コッティンガム,マシュー,ジー
(72)【発明者】
【氏名】ディックス,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】モリス,スーザン,ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス,アレキサンダー
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】PLOS ONE,2012年,Vol.7, No.7, e40385,p.1-12
【文献】EUROPEAN JOURNAL OF IMMUNOLOGY,2012年,Vol.42, No.12,p.3243 - 3255
【文献】VACCINE,2015年,Vol.33, No.9,p.1121 - 1128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チンパンジーのC68アデノウイルスのゲノムを含む、アデノウイルスベクターであって、前記C68アデノウイルスのゲノムが、C68アデノウイルスの天然のE4遺伝子座を欠き、かつAdY25に由来する異種のE4Orf1、E4Orf2、およびE4Orf3コード領域を含むように改変され、
前記C68アデノウイルスの前記E4遺伝子座において、AdHu5に由来する異種のE4Orf4、E4Orf6、およびE4Orf6/7コード領域をさらに含み、
機能的E1遺伝子座を欠くアデノウイルスベクターであり、
E3遺伝子座を欠くアデノウイルスベクターである、アデノウイルスベクター。
【請求項2】
以下の(a)~(c)からなる群から選択された1つ以上のカプシドタンパク質を含む、請求項1に記載のアデノウイルスベクター:
(a)配列番号1のヌクレオチド18315~21116に対応するコード配列、またはこれらの配列と少なくとも90%の同一性を有する配列によってコードされた、ヘキソンタンパク質;
(b)配列番号1のヌクレオチド13884~15488に対応するコード配列、またはこれらの配列と少なくとも90%の同一性を有する配列によってコードされた、ペントンタンパク質;および、
(c)配列番号1のヌクレオチド32134~33411に対応するコード配列、またはこれらの配列と少なくとも90%の同一性を有する配列によってコードされた、繊維タンパク質。
【請求項3】
タンパク質またはポリペプチドをコードする、目的の外因性ヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1または2に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項4】
目的の前記外因性ヌクレオチド配列が、miRNAまたは免疫賦活性RNA配列である、請求項3に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項5】
前記タンパク質またはポリペプチドが、抗原、分子アジュバント、免疫賦活性タンパク質、またはリコンビナーゼからなる群から選択される、請求項3または4に記載のアデノ
ウイルスベクター。
【請求項6】
前記抗原が、病原体由来の抗原である、請求項5に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項7】
前記病原体が、結核菌、マラリア原虫属、インフルエンザウイルス、HIV、C型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、ヒトパピローマウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、ジカウイルス、リーシュマニア寄生虫、またはマイコバクテリウム種からなる群から選択される、請求項6に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項8】
前記マイコバクテリウム種が、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)に由来する、請求項7に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項9】
前記病原体が、狂犬病ウイルスであり、前記抗原が、狂犬病ウイルス糖タンパク質である、請求項6に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の前記アデノウイルスベクター、および1つ以上のさらなる活性成分、医薬的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントを含む、免疫原性組成物。
【請求項11】
医薬にて使用するための、請求項10に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
結核症、ならびにヨーネ病、クローン病、マラリア、インフルエンザ、HIV/AIDS、C型肝炎ウイルス感染、サイトメガロウイルス感染、ヒトパピローマウイルス感染、アデノウイルス感染、リーシュマニア症、レンサ球菌種感染、ブドウ球菌種感染、髄膜炎菌種感染、口蹄疫、チクングニアウイルス感染、ジカウイルス感染、狂犬病、クリミア・コンゴ出血熱、エボラウイルス感染、マールブルグ、ラッサ熱、MERSおよびSARSコロナウイルス疾患、ニパーおよびリフトバレー熱、ならびにチクングニアを含む、その他のマイコバクテリア感染症からなる群から選択される疾患の治療に使用するための免疫原性組成物である、請求項11に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の使用のための免疫原性組成物であって、前記使用が、
i)宿主細胞へ導入遺伝子を送達すること、
ii)動物における免疫応答を誘発すること、
iii)動物における免疫応答を増大させること、
iv)少なくとも1つの疾患を治療することまたは防ぐこと、
v)動物において免疫応答を誘発することで自己抗原に対する寛容を克服すること、および/または
vi)遺伝子治療
を含む、免疫原性組成物。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載のアデノウイルスベクターをコードするポリヌクレオチド配列を含む、核酸。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載のアデノウイルスベクターを形質導入された、宿主細胞。
【請求項16】
請求項14に記載の核酸を細菌人工染色体(BAC)へ組み込んでAd-BACベクターを生産するステップを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のアデノウイルスベクターを生産する方法。
【請求項17】
請求項14に記載の核酸を含む、細菌人工染色体(BAC)クローン。
【請求項18】
請求項1~9のいずれか一項に記載のウイルスベクターを生産する、パッケージング細胞株。
【請求項19】
前記細胞が、請求項1~9のいずれか一項に記載のウイルスベクターにおいて機能的に欠失した遺伝子の代替物を含む、請求項18に記載のパッケージング細胞株。
【請求項20】
(i)請求項1~9のいずれか一項に記載のアデノウイルスベクターまたは請求項10~13のいずれか一項に記載の免疫原性組成物、および(ii)使用のための説明書を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のアデノウイルスベクター、その免疫原性組成物、および医薬におけるそれらの使用に関する。
【0002】
本明細書にて引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、参照により全てが組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
伝統的に、ワクチンは完全に不活化または弱毒化された病原体に基づいている。しかしながら、マラリアなどの多くの感染症に対して、このアプローチは実用的でなく、研究の焦点は、保護と相関する免疫を誘発するこれらの病原体由来の抗原のみを発現する、「サブユニットワクチン」の開発に変化している。
【0004】
サブユニットワクチンは、感染性微生物全体を導入することなく免疫系に対して抗原を提供する。そのような方法の1つとして、感染性微生物から特異的に単利されたタンパク質の投与が挙げられる。しかしながら、この技術はしばしば弱い免疫応答だけを誘導し、単離されたタンパク質は、その正常な構成におけるタンパク質とは異なる三次元構造を有し、感染性微生物を認識しない可能性のある抗体の生産をもたらし得る。
【0005】
したがって、抗原を送達するためにウイルスベクターを利用する、別の方法が開発されている。ウイルスとは、宿主細胞中にそれらのDNAを形質移入し、宿主細胞がウイルスゲノムの発現を誘導することによって複製する、偏性細胞内寄生体である。この繁殖戦略は、1つ以上の異種導入遺伝子を保有する組換え非複製ウイルスベクターを作製することによって、ベクタードワクチンを作製するために利用されている。宿主細胞への組換えウイルスゲノムの形質移入または形質導入は、宿主細胞における異種導入遺伝子の発現をもたらす。異種導入遺伝子が抗原をコードする場合、例えば、宿主細胞内における抗原の発現は、宿主免疫系による防御免疫応答または治療免疫応答を誘発し得る。したがって、ウイルスベクターは有効なワクチンとして機能し得る。または、異種導入遺伝子は遺伝子の機能的対立遺伝子をコードすることができ、その発現は、遺伝子治療として知られるプロセスにおいて、遺伝子の有害な突然変異対立遺伝子の効果を相殺するために使用され得る。
【0006】
ウイルスベクターとしての使用に特に好適であるのは、アデノウイルスである。アデノウイルスは、ヌクレオカプシドおよび線状二本鎖DNAゲノムを含む、直径およそ90~100nmの非エンベロープウイルスである。ウイルスヌクレオカプシドは、ペントンカプソメアおよびヘキソンカプソメアを含む。独特の繊維が各ペントン塩基と結合し、宿主細胞の表面上におけるコクサッキーアデノウイルス受容体を介して宿主細胞へのウイルスの付着を助ける。50を超えるアデノウイルスの血清型株が同定されており、そのほとんどが、ヒトにおける気道感染、結膜炎、および胃腸炎(gastroentiritus)を引き起こす。アデノウイルスは通常、宿主ゲノムに組み込まれるよりもむしろ、宿主細胞の核内においてエピソーム要素として複製する。アデノウイルスのゲノムは、主に調節機能を有しウイルス複製のために宿主細胞を調製する、4つの初期転写単位(E1、E2、E3、およびE4)を含む。ゲノムはまた、ペントン(L2)、ヘキソン(L3)、骨格タンパク質(L4)、および繊維タンパク質(L5)を含む構造タンパク質をコードし、単一プロモーターの制御下にある、5つの後期転写単位(L1、L2、L3、L4、およびL5)も含む。ゲノムの両端は、ウイルスの複製に必要な末端逆位配列(ITR)を含む。
【0007】
組換えアデノウイルスは、本来は遺伝子治療のために開発されたが、これらの遺伝子送達剤によって誘発される強力かつ持続的な導入遺伝子の特異的な免疫応答によって、ワクチン担体としての使用が促された。免疫原性が高いことに加えて、アデノウイルスは、臨床ワクチン開発にとってその他の多くの利点を有する。アデノウイルスゲノムは比較的小さく(26~45kbpの間)、特徴がはっきりとしており、かつ操作が容易である。単一の転写単位であるE1が欠失すると、ウイルス複製能力がなくなり、臨床応用においてその予測可能性が高まり、かつ副作用が減少する。組換えアデノウイルスは、場合によっては8kbまでの比較的大きな導入遺伝子に適応するため、サブユニット設計に柔軟性を与えることができ、かつ比較的広い指向性を有することから、多種多様な細胞および組織への導入遺伝子の送達を容易にすることができる。臨床応用にとって重要なことは、高力価の組換えアデノウイルスを得るために大規模に生産および精製する方法が充分に確立されていることである。これまでのところ、サブグループC血清型AdHu2またはAdHu5がベクターとして主に用いられてきている。
【0008】
しかしながら、原型のヒトアデノウイルスAdHu5に基づくワクチンベクターの第1世代は、有望な前臨床データにもかかわらず、臨床試験では有効性に乏しい結果を示した。続いて、大部分のヒト成人が自然感染の結果として、AdHu2およびAdHu5といった一般的なヒト血清型に対する中和抗体の有意な力価を有することが発見された。中和抗体は、宿主細胞へのウイルス侵入を防ぎ、それにより標的導入遺伝子の送達を防ぐことによって、ウイルスベクターワクチンの効力を低下させたと考えられる。
【0009】
既存の抗ベクター免疫の出現に対しては、チンパンジー起源2、3を含むヒト集団が曝露されている可能性が低い血清型に基づく、新規のアデノウイルスベクターの開発を通して対処されている。しかしながら、そのようなチンパンジーアデノウイルスベクターのいくつかは、ヒト集団における未解明の免疫、ヒトアデノウイルスとの交差反応性のレベルの変動、および形質転換細胞株の成長が不十分であることを理由として、効力が限定的である。さらに、ベクターに対して中和抗体が誘導されることで、別の症状に対処するための再投与が妨げられる可能性があるという理由から、異なる疾患に対する免疫化における使用のために利用可能な一定範囲の異なるアデノウイルスベクターを持つことが有利である。
【0010】
国際公開第2012/172277号は、チンパンジーアデノウイルスAdY25に由来するアデノウイルスベクターが記載されている。これは、当該技術分野における上述の問題のいくつかに対処するものである。このベクターは、ChAdOx1と称される。
【0011】
しかしながら、標的導入遺伝子を効果的に送達し、アデノウイルス血清型に対する既存の免疫の影響を最小化し、そして形質転換細胞株において効率的に複製するような、高免疫原性の非ヒトアデノウイルスベクターに対する需要は、当技術分野において依然として存在する。
【発明の概要】
【0012】
第1の態様において、本発明は、AdHu5およびAdY25以外のアデノウイルスのゲノムを含むアデノウイルスベクターを提供する。アデノウイルスのゲノムは、ベクターがアデノウイルスの天然のE4遺伝子座を欠失し、かつAdY25に由来する異種E4Orf1、E4Orf2、およびE4Orf3コード領域を含むように、改変されている。
【0013】
好ましい実施形態において、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスのE4遺伝子座におけるAdHu5に由来する、異種E4Orf4、E4Orf6、およびE4Orf6/7コード領域をさらに含む。
【0014】
好ましい実施形態において、該アデノウイルスは、C68である。
【0015】
好ましい実施形態において、該アデノウイルスベクターは、機能的E1遺伝子座を欠くか、および/またはE3遺伝子座を欠く。
【0016】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるアデノウイルスベクター、および任意に、1つ以上のさらなる活性成分、医薬的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントを含む、免疫原性組成物を提供する。
【0017】
好ましくは、アジュバントは、水中油型アジュバントである。例えば、アジュバントは、スクアレンを含んでいてもよい。好ましくは、アジュバントは、MF59(登録商標)、AS03、AF03、またはAddavaxから選択される。
【0018】
第3の態様は、第1の態様によるアデノウイルスベクター、または第2の態様による免疫原性組成物の医薬における使用を提供する。特に、アデノウイルスベクターおよび免疫原性組成物は、宿主細胞への導入遺伝子の送達、動物における免疫応答の誘発、動物における免疫応答の増大、少なくとも1つの疾患の治療または予防、動物における免疫応答の誘導により自己抗原および遺伝子治療に対する寛容を克服する使用を提供する。
【0019】
第4の態様は、本発明の第1の態様によるアデノウイルスベクターをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。
【0020】
本発明の第5の態様は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターによって形質導入される宿主細胞を提供する。
【0021】
本発明の第6の態様は、第4の態様によるポリヌクレオチド配列を細菌人工染色体(BAC)へ組み込むことによる、本発明の第1の態様によるウイルスベクターの生産方法を提供する。
【0022】
本発明の第7の態様は、本発明の第4の態様によるポリヌクレオチド配列を含む、細菌人工染色体(BAC)クローンを提供する。
【0023】
本発明の第8の様態は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターを生産するパッケージング細胞株を提供する。
【0024】
本発明は、以下の図を参照して解説される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1-1】(a)チンパンジーアデノウイルス68(ChAd68)の分子クローンの産生における、ギャップ修復によるpBAC「救出ベクター」へのChAd68ゲノムDNAの挿入を示す図である。E1左隣接領域1(LF1)および2(LF2)、ならびに末端右側領域(RF)を、Chad68ゲノムDNAから増幅し、pBACe3.6中にクローン化して、BACアデノウイルス救出クローンを作成する。組換えは、単離されたChAd68ゲノムLF1とLF2との間、ならびにBAC救出クローンとChAd68ゲノムおよびBAC救出クローンのRFとの間で起こる。得られた産物は、E1欠失ChAd68ゲノムを含有するBACである。
図1-2】(b)チンパンジーアデノウイルス68(ChAd68)の分子クローンの産生における、組換えによるChAd68のE3領域の切除を示す図である。まず、ガラクトキナーゼ遺伝子(GalK)を、E3(E3LFおよびE3RF)の隣接領域に相同な配列を含有するプライマーを用いて、pGalKから増幅する。E3領域は、λ red組換えを用いてGalK遺伝子によって置換される。続いて、GalK遺伝子を、再びλ red組換えを用いて、E3LFおよびE3RFからなるPCR産物によって置換する。得られた産物は、E1E3欠失ChAd68ゲノムを含有するBACである。
図1-3】(c)チンパンジーアデノウイルス68(ChAd68)の分子クローンの産生における、E1遺伝子座における抗原カセットの挿入を示す図である。まず、ガラクトキナーゼ遺伝子(GalK)を、E1(LF1およびLF2)の隣接領域に相同な配列を含有するプライマーを用いて、pGalKから増幅する。E1領域はλ red組換えを用いてGalK遺伝子によって置換される。続いて、該GalK遺伝子を、λ red組換えを用いたLF1抗原発現カセットLF2からなるPCR産物によって置換する。得られた産物は、E1遺伝子座に抗原発現カセットを有する、E1E3欠失ChAd68ゲノムを含有するBACである。
図2】att組換え部位を用いたアデノウイルスベクターへの抗原発現カセット挿入を示す図である。特異的組換え配列であるattR1およびattR2と隣接する、細菌抗生物質耐性遺伝子およびccdB自殺遺伝子を発現するユニバーサルカセットは、BACアデノウイルスゲノムクローンのE1遺伝子座および/またはE3遺伝子座に位置する。ゲノム中に存在する組換え部位と対になった特異的組換え部位(attL1/L2)と隣接する抗原発現カセットを含有するシャトルプラスミドは、バクテリオファージλインテグラーゼ、組込み宿主因子、および除去酵素を含有する酵素混合物の存在下において、部位特異的組換えを可能にする。
図3】ChAd68と比較したChAdOx2の成長を示す図である。E1相補性ヒト胎児由来腎臓293細胞を、細胞当たり1ウイルスベクターの感染効率(MOI)で感染させた。試料は感染から48および96時間後に採取した。ウイルス収率は、感染から48時間後に計数したHEK293細胞およびGFP陽性細胞において、3通りに滴定することによって判定した。結果は、図示した標準偏差を有する2つの別々の実験から、mlあたり平均Log10蛍光単位(FU)として表す。
図4】ChAdOx2-eGFPと比較したChAdOx1-eGFPの免疫原性を示す図である。メスBALB/cマウス(1群当たり4匹)を、10感染単位のベクターで筋肉内に注射し、そして脾臓を2週間後に収集して、インターフェロン-ガンマエリスポット(IFN-γ ELISPOT)によるGFPへの応答を測定した。結果は脾細胞100万個あたりのスポット形成単位(SFU)として表す。マンホイットニー検定を用いて結果を統計的に分析し、SEMによる平均を図示する。
図5】健常成人ボランティアにおける候補ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチンChAdOx2 HAVの安全性および免疫原性を判定するための、フェーズI臨床試験の試験群(表1)および登録数の現在の進行状況(表2)を示す図である。
図6】健常成人ボランティアにおける候補ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチンChAdOx2 HAVを調査するフェーズI臨床試験にて、異なる用量群での有害事象(AE)を示すボランティアの比率を示す図である。図6および7に対して5×10vp用量、ならびに図8、9、10、および11に対して2.5×1010vp用量。
図7】健常成人ボランティアにおける候補ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチンChAdOx2 HAVを調査するフェーズI臨床試験にて、異なる用量群での有害事象(AE)を示すボランティアの比率を示す図である。図6および7に対して5×10vp用量、ならびに図8、9、10、および11に対して2.5×1010vp用量。
図8】健常成人ボランティアにおける候補ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチンChAdOx2 HAVを調査するフェーズI臨床試験にて、異なる用量群での有害事象(AE)を示すボランティアの比率を示す図である。図6および7に対して5×10vp用量、ならびに図8、9、10、および11に対して2.5×1010vp用量。
図9】健常成人ボランティアにおける候補ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチンChAdOx2 HAVを調査するフェーズI臨床試験にて、異なる用量群での有害事象(AE)を示すボランティアの比率を示す図である。図6および7に対して5×10vp用量、ならびに図8、9、10、および11に対して2.5×1010vp用量。
図10】健常成人ボランティアにおける候補ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチンChAdOx2 HAVを調査するフェーズI臨床試験にて、異なる用量群での有害事象(AE)を示すボランティアの比率を示す図である。図6および7に対して5×10vp用量、ならびに図8、9、10、および11に対して2.5×1010vp用量。
図11】健常成人ボランティアにおける候補ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチンChAdOx2 HAVを調査するフェーズI臨床試験にて、異なる用量群での有害事象(AE)を示すボランティアの比率を示す図である。図6および7に対して5×10vp用量、ならびに図8、9、10、および11に対して2.5×1010vp用量。
図12】用量によって層別化されたHAVワクチンにおける、抗原の全プールに対する中央合計応答値を示す図である。*p=0.01、クラスカルワリス検定、2.5x1010用量群に対しダンの多重比較検定を使用。線は中央値を表す。
図13】異なる用量のHAVワクチンを用いて免疫化した参加者における、0日目、28日目、および56日目での各個体に対する応答の一覧を示す図である。
図14】ChAdOx2 RabGPワクチンに対する目的ベクターの構造を示す図である。
図15】Addavaxを有する、およびAddavaxを有しない異なる用量で免疫化された、ChAdOx2 RabGPワクチン群にわたる二次元配置分散分析を示す図である。
図16】ChAdOx2 RabGP ワクチン構築物の高い免疫原性を示す図である。p=0.005、マンホイットニー検定によるELISA応答(任意の抗体単位[AU]にて測定)を比較。ChAdOx2-RabGPの免疫原性は、好ましくはAdC68の免疫原性と比較する。CD-1非近交系マウスを、狂犬病糖タンパク質を発現するChAdOx2またはAdC68のいずれかの感染単位107で筋肉内ワクチン接種した。血清をワクチン接種から4週間後に収集した。ELISAによって組換え狂犬病糖タンパク質に対する抗体応答を評価し、結果をグラフAおよび表Bに示した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、AdHu5およびAdY25以外のアデノウイルスに由来する新規のアデノウイルスベクター、その免疫原性組成物、ならびに医薬におけるその使用に関する。
【0027】
本発明は、AdHu5およびAdY25以外のアデノウイルスのゲノムを含むアデノウイルスベクターを提供する。該アデノウイルスのゲノムは、ベクターがアデノウイルスの天然E4遺伝子座を欠失し、かつAdY25由来の異種E4Orf1、E4Orf2、およびE4Orf3コード領域を含むように改変される。
【0028】
アデノウイルスE4領域は、少なくとも6つのオープンリーディングフレーム(ORFまたはOrf)を含む。好ましくは、アデノウイルスの天然E4遺伝子座は欠失される。
【0029】
好ましい実施形態において、アデノウイルスは、チンパンジーアデノウイルス、C68(C9、Pan6、およびsAd25としても知られる)である。C68のヌクレオチド配列は、配列番号1として提供される。サルアデノウイルス25(すなわち、C68)の全ゲノムが寄託され、GenBank登録番号AC_000011が割り当てられている
【0030】
本発明によれば、アデノウイルスのゲノムは、ベクターがアデノウイルスの天然E4遺伝子座を欠くように改変されている。C68のE4領域は、本明細書において配列番号2として提供される。
【0031】
さらに、本発明によれば、アデノウイルスのゲノムは、ベクターがAdY25由来の異種E4Orf1、E4Orf2、およびE4Orf3コード領域を含むように改変される。AdY25は国際公開第2012/172277号に詳細に記載されているチンパンジーアデノウイルスである。
【0032】
AdY25の全ヌクレオチド配列は、配列番号6にて提供される。
【0033】
AdY25由来であるE4Orf1のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号3として提供される。対応するヌクレオチド配列は、配列番号6のヌクレオチド35930~36304である。
【0034】
AdY25由来であるE4Orf2のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号4として提供される。対応するヌクレオチド配列は、配列番号6のヌクレオチド35491~35880である。
【0035】
AdY25由来であるE4Orf3のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号5として提供される。対応するヌクレオチド配列は、配列番号6のヌクレオチド35141~35494である。
【0036】
好ましい実施形態において、アデノウイルスベクターは、AdHu5由来の異種E4Orf4、E4Orf6、およびE4Orf6/7コード領域をさらに含む。
【0037】
AdHu5は、ヒト血清型5アデノウイルスである。AdHu5由来であるE4Orf4のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号7として提供される。AdHu5由来であるE4Orf6のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号8として提供される。AdHu5由来であるE4Orf6/7のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号9として提供される。
【0038】
当業者が認識するように、アデノウイルスC68に基づくアデノウイルスベクターは、AdCh68、AdC68、ChAd68、およびsAdV25を含む、種々の名称で当業者より呼ばれている(例えば、Abbink et al., J Virol. 2015 Feb;89(3):1512-22(PubMed ID: 25410856)、およびJeyanathan et al., Mucosal Immunol. 2015 Nov;8(6):1373-87(PubMed ID: 25872483)を参照のこと)。これらの名称はまた、本明細書において交換可能に使用される。
【0039】
本発明のベクターは、好ましくは、チンパンジーアデノウイルスC68に由来するカプシドを含む。好ましくは、カプシドは、ペントンタンパク質、ヘキソンタンパク質、繊維タンパク質、および/または骨格タンパク質を含む、天然または野生型のC68カプシドタンパク質を含む。しかしながら、当業者は、ベクター指向性を不利に変化させることなく、カプシドタンパク質に対して小さな改変を行うことができるということを容易に理解するであろう。
【0040】
特に好ましい実施形態において、ベクターカプシドは、以下(a)~(c)からなる群から選択された1つ以上のカプシドタンパク質を含む:
(a)配列番号1のヌクレオチド18315~21116に対応するコード配列、またはこれらの配列と実質的に同一である配列によってコードされた、ヘキソンタンパク質;
(b)配列番号1のヌクレオチド13884~15488に対応するコード配列、またはこれらの配列と実質的に同一である配列によってコードされた、ペントンタンパク質;および、
(c)配列番号1のヌクレオチド32134~33411に対応するコード配列、またはこれらの配列と実質的に同一である配列によってコードされた、繊維タンパク質。
【0041】
好ましくは、ヘキソンタンパク質は、配列番号18のアミノ酸配列、または配列番号18と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0042】
好ましくは、ペントンタンパク質は、配列番号19のアミノ酸配列、または配列番号19と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0043】
好ましくは、繊維タンパク質は、配列番号20のアミノ酸配列、または配列番号20と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0044】
本発明のアデノウイルスベクターは、上記のようなヘキソンタンパク質、ペントンタンパク質、および繊維タンパク質のうちの1つ、該タンパク質のうちの2つのあらゆる組み合わせ、または該タンパク質の3つ全てを含み得る。
【0045】
本発明のアデノウイルスベクターは、本明細書において、ChAdOx2と称される。ChAdOx2ベクターのヌクレオチド配列(E1遺伝子座にGateway(商標)カセットを有する)は、配列番号10に示される。
【0046】
当業者は、本明細書に記載される全ての核酸配列の相同体、等価物、および誘導体が存在することを認識するであろう。したがって、本発明はまた、全長にわたって本明細書に記載された核酸配列と実質的に同一である配列を有する、核酸分子も包含する。
【0047】
当業者は、本発明がまた、本明細書に例示されている特異的な核酸分子の変異体も含むことができるということを理解するであろう。これらは、例えば、系統変動のために自然に起こり得る。例えば、付加、置換、および/または欠失が含まれる。当業者はまた、本明細書に例示した特異的な核酸分子からの変異が、遺伝暗号の縮重の観点から可能であることも認識するであろう。好ましくは、変異体は、全長にわたって本明細書に記載された核酸配列と実質的に同一性を有する。
【0048】
本明細書にて使用される場合、「実質的な同一性」を有する核酸配列は、好ましくは、該配列と少なくとも80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98.1%、98.2%、98.3%、98.4%、98.5%、98.6%、98.7%、98.8%、98.9%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の同一性を有する。望ましくは、用語「実質的な同一性」とは、該配列が、先行技術における核酸配列との同一性よりも、本明細書に記載の配列のいずれかとの同一性の方が大きな程度を有することを示す。
【0049】
相同性または同一性の程度を決定する目的で核酸配列を比較する場合、BESTFITおよびGAP(いずれもWisconsin Genetics Computer G
roup(GCG)ソフトウェアパッケージ)といったプログラムを使用することができる。BESTFITは、例えば、2つの配列を比較し、最も類似したセグメントの最適なアライメントを作成する。GAPは、配列をその全長に沿って整列させることを可能にし、必要に応じて、いずれかの配列にスペースを挿入することによって最適な整列を見出す。好適には、本発明の文脈において、核酸配列の同一性を議論する場合、比較はその全長に沿った配列のアライメントによって行われる。上記は、本出願において開示される全ての核酸配列に対し、変更すべき点を変更して適用される。
【0050】
本明細書における「核酸」という用語は、cDNAを含むDNA、mRNAもしくはPNA(ペプチド核酸)を含むRNA、またはそれらの混合物であり得る。
【0051】
単に当業者の便宜のために、ChAdOx2-GFPを含有する細菌人工染色体(BAC)を含む大腸菌株Stellarの試料が、2016年6月13日、Isis Innovation Limitedより、英国ソールズベリーSP4 0JG、ポートンダウン、健康保護局のHealth Protection Agency Culture CollectionsにあるEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)にブダペスト条約に基づいて寄託され、仮登録番号第16061301番とされた。
【0052】
BACを含有する大腸菌は、クラスI遺伝子組換え体である。大腸菌株Stellarの遺伝子型は以下の通りである:
F-、endA1、supE44、thi-1、recA1、relA1、gyrA96、phoA、Φ80d lacZΔ M15、Δ(lacZYA-argF)U169、Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC)、ΔmcrA、λ-。チンパンジーアデノウイルスChAd68は、ウイルスDNAポリメラーゼのヌクレオチド配列に基づいたヒトアデノウイルスE種内として暫定的に分類されている。
【0053】
BACは複製中に細菌内で増殖し、クロラムフェニコールでの選択によって維持することができる。ゲノムがクローニングされたBACを含有する大腸菌Stellar株は、LB培地において、または37℃で12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含有する寒天において、増殖させることができる。
【0054】
ウイルスゲノムのBACクローンをウイルスへ変換(「救出」)するには、下記のステップに従うことで実施することができる。大腸菌宿主を増殖させ、BAC DNAを標準的な方法によって細菌から精製する。DNAを制限酵素PacIで直線化し、HEK293細胞(または類似のE1相補性細胞株)に形質移入する。次いで、得られたアデノウイルスを、例えばワクチンとして使用するために増殖および精製することができる。これらの試薬および細胞は全て、一般に入手可能である。沈着物が救出された場合、得られたウイルスはクラスI遺伝子組換え体となる。
【0055】
本明細書にて使用される場合、語句「ウイルスベクター」とは、形質導入または非生産的感染によって、組換えDNAを含む遺伝子材料を宿主細胞または宿主生物に導入することができる、組換えウイルスまたはその誘導体を指す。例えば、本発明のベクターは、遺伝子送達ベクター、ワクチンベクター、アンチセンス送達ベクター、または遺伝子治療ベクターであってもよい。
【0056】
本明細書にて使用される場合、「C68」とは、チンパンジーアデノウイルス68、またはそれから誘導されたサブユニットを指し、用語「ChAd68」とは、チンパンジーアデノウイルス68から誘導された、またはチンパンジーアデノウイルス68に基づくベクターを指す。
【0057】
短縮形の用語は、野生型ウイルスに加えられた改変を示すために使用される。例えば、「ΔE1」または「delE1」とは、E1遺伝子座の欠失または機能的欠失を示す。語句「Ad5E4Orf6」とは、ウイルスベクターがAd5ウイルス由来の異種E4オープンリーディングフレーム6を含むということを示す。
【0058】
当業者は、本発明が、本明細書に例示されている特定のアミノ酸配列の変異体を含むことができることを理解するであろう。1つ以上のアミノ酸残基があらゆる組み合わせで置換、欠失、または付加される親タンパク質のアミノ酸配列に類似した、アミノ酸配列を有する変異体が特に好ましい。本発明のタンパク質の特性および活性を変化させない、サイレント置換、付加、および欠失が特に好ましい。種々のアミノ酸は類似の特性を有し、物質において1つ以上のそのようなアミノ酸は、しばしば、その物質の所望の活性を排除することなく、1つ以上の他のそのようなアミノ酸によって置換され得る。したがって、アミノ酸であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンは、しばしば、互いに置換され得る(脂肪族側鎖を有するアミノ酸)。これらの可能な置換のうち、グリシンおよびアラニンを互いに置換するために使用すること(比較的短い側鎖を持つため)、ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを互いに置換するために使用すること(高疎水性である大きな脂肪族側鎖をもっているため)が好ましい。しばしば互いに置換され得るその他のアミノ酸として、以下が挙げられる:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸);リジン、アルギニン、およびヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);アルパラギン酸およびグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギンおよびグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);ならびに、システインおよびメチオニン(硫黄を有する側鎖を含有するアミノ酸)。変異体には自然発生変異体および人工変異体が含まれる。人工的変異体は、核酸分子、細胞、または生物に適用される技術を含む、突然変異誘発技術を用いて作製され得る。好ましくは、変異体は、本明細書に例示したアミノ酸配列と実質的な同一性を有する。
【0059】
本明細書にて使用される場合、「実質的な同一性」を有するアミノ酸配列は、好ましくは、該配列と少なくとも80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98.1%、98.2%、98.3%、98.4%、98.5%、98.6%、98.7%、98.8%、98.9%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%,99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の同一性を有する。望ましくは、用語「実質的な同一性」とは、先行技術におけるアミノ酸配列との同一性よりも、本明細書に記載の配列のいずれかとの同一性の方が大きな程度を有することを示す。
【0060】
アミノ酸配列を比較するために、CLUSTALプログラムといったプログラムを使用することができる。このプログラムは、アミノ酸配列を比較し、必要に応じていずれかの配列にスペースを挿入することで、最適なアラインメントを見出す。最適なアラインメントのためにアミノ酸同一性または類似性(アミノ酸型の同一性と保存性)を計算することが可能である。BLASTxのようなプログラムは最長の類似配列を整列させ、適合させる値を割り当てる。このようにして、各々が異なるスコアを有するいくつかの類似性領域が見出される比較を得ることができる。上記は、変更すべき点を変更して、本出願において開示される全てのアミノ酸配列に適用される。
【0061】
本発明のベクターはまた、好ましくは外因性ヌクレオチド配列を含む。好ましくは、外因性ヌクレオチド配列は、動物細胞におけるその翻訳、転写、および/または発現を指示する発現制御配列、ならびにアデノウイルスパッケージングシグナル配列へ、機能的に連結される。
【0062】
好ましくは、外因性ヌクレオチド配列は、目的の分子をコードする。目的の分子は、目的のタンパク質、ポリペプチド、または核酸分子であってもよい。外因性ヌクレオチド配列は、1つ以上、2つ以上、または3つ以上の目的の分子をコードし得る。
【0063】
目的のタンパク質およびポリペプチドとして、抗原、分子アジュバント、免疫賦活性タンパク質、およびリコンビナーゼが挙げられる。
【0064】
好ましくは、抗原は、病原体由来の抗原である。好ましくは、病原体は、結核菌、マラリア原虫属、インフルエンザウイルス、HIV、C型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、ヒトパピローマウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎、風疹、ジカウイルス、リーシュマニア寄生虫、またはあらゆるマイコバクテリア種からなる群から選択される。好ましくは、抗原は、マラリア原虫に由来するTRAP、MSP-1、AMA-1、およびCSP、インフルエンザウイルス抗原、または結核菌に由来するESAT6、TB10.4 85A、および85B抗原から選択される。より好ましくは、抗原は、結核菌に由来するAg85Aであってもよい。抗原は、インフルエンザAウイルスに由来する、核タンパク質(NP)および/または基質タンパク質1(M1)であってもよい。
【0065】
より好ましくは、抗原はヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)に由来するか、または抗原は狂犬病ウイルス糖タンパク質である。
【0066】
好ましくは、目的のタンパク質またはポリペプチドは、抗原である。一実施形態において、抗原は、病原体由来の抗原である。好ましくは、病原体は、細菌、ウイルス、プリオン、真菌、原生生物、および蠕虫からなる群から選択される。好ましくは、抗原は、結核菌、マラリア原虫属、インフルエンザウイルス、HIV、C型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、ヒトパピローマウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎、風疹、ジカウイルス、マラリア原虫、リーシュマニア寄生虫、またはあらゆるマイコバクテリア種からなる群に由来する。好ましい抗原として、マラリア原虫に由来するTRAP、MSP-1、AMA-1、およびCSP、インフルエンザウイルス抗原、ならびに結核菌に由来するESAT6、TB10.4 85A、および85B抗原が挙げられる。特に好ましい抗原として、結核菌に由来するAg85A、ならびにインフルエンザAウイルスに由来する核タンパク質(NP)および基質タンパク質1(M1)、好ましくは、インフルエンザAウイルスが挙げられる。
【0067】
結核菌タンパク質Ag85Aの核酸配列は配列番号11で示し、アミノ酸配列は配列番号12で示す。インフルエンザAウイルスに由来する核タンパク質(NP)および基質タンパク質1(M1)の核酸配列は配列番号13で示し、アミノ酸配列は配列番号14で示す。
【0068】
好ましい実施形態において、ワクチンは、ウシにおけるヨーネ病の原因物質であり、ヒトにおけるクローン病と関連している、ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)に由来する抗原を含有している。
【0069】
別の好ましい実施形態において、外因性ヌクレオチド配列は、狂犬病ウイルス糖タンパク質、好ましくは、ERA株をコードする。
【0070】
代替的な実施形態において、抗原は、自己抗原である。好適な自己抗原として、免疫系が腫瘍細胞とその他の細胞型とを区別できる腫瘍細胞によって発現した抗原が挙げられる。好適な自己抗原として、細胞型および/またはその環境に対して不適当である抗原か、または生物の発生の間にのみ通常存在する抗原(例えば、胎児抗原)が挙げられる。例え
ば、GD2は、通常では神経細胞の外表面膜上でのみ有意なレベルで発現され、そこで免疫系に対する曝露は血液脳関門によって制限される。しかしながら、GD2は、小細胞肺がん、神経芽細胞腫、黒色腫、および骨肉腫を含む、広範な腫瘍細胞の表面に発現する。その他の好適な自己抗原は、腫瘍細胞上に見出されるが、正常な細胞の表面上には稀であるかまたは存在しない、細胞表面受容体を含む。このような受容体は、細胞のシグナル伝達経路を活性化して、腫瘍細胞の成長および分裂を調節されない状態にすることができる。例えば、ErbB2は、乳がん腫瘍細胞の表面上において異常に高いレベルで生産される。好ましくは、自己抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)を含む。
【0071】
本明細書にて使用される場合、用語「抗原」とは、抗原からの1つ以上のエピトープを包含し、親抗原、ならびにその断片および変異体を含む。これらの断片および変異体は、親抗原と本質的に同一である生物学的活性または機能を保持する。好ましくは、これらは親抗原の抗原性および/または免疫原性を、保持または改善する。概して、「抗原性」とは、タンパク質またはポリペプチドが、抗体もしくはT細胞を産生するために使用することができるか、または実際に、対象において抗体もしくはT細胞応答を誘導することができることを意味すると解釈される。「免疫原性」とは、タンパク質またはポリペプチドが、対象において強力な免疫応答、好ましくは保護免疫応答を誘発することができることを意味すると解釈される。したがって、後者の場合、タンパク質またはポリペプチドは、抗体応答および非抗体ベースの免疫応答を生成することが可能であり得る。
【0072】
好ましくは、抗原の断片は、親抗原の配列に由来する、少なくともn個の連続したアミノ酸を含む。nは、好ましくは、少なくとも、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、57、58、59、60、70、80、90、もしくは100であるか、またはそれ以上である。断片は、好ましくは、親抗原に由来する1つ以上のエピトープ領域を含む。実際に、断片は、親抗原に由来するエピトープを含み得るか、または親抗原に由来するエピトープから成り得る。あるいは、断片は、これらの抗原性/免疫原性特性を保持するためのそのような領域と充分に類似していてもよい。
【0073】
本発明の抗原は、親抗原の誘導体、類似体、相同体、または機能的等価物といった変異体を含む。特に好ましくは、親抗原のアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を有する誘導体、類似体、相同体、または機能的等価物であって、その中で1つ以上のアミノ酸残基は、あらゆる組み合わせで置換、欠失、または付加される。好ましくは、これらの変異体は、親抗原と共通の抗原決定因子またはエピトープを保持する。
【0074】
好ましくは、誘導体、類似体、相同体、および機能的等価物は、親抗原のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を有する。
【0075】
外因性ヌクレオチド配列は、1つ以上の抗原をコードし得る。ウイルスベクターは、1つ以上の抗原遺伝子をエピトープストリングとして発現するように設計され得る。好ましくは、複数のエピトープのストリングにおけるエピトープは、不要な核酸および/またはアミノ酸材料が生成されないように、介在配列なしに互いに連結される。エピトープストリングは、好ましくは、エピトープストリングのアミノ酸配列をコードする組換えDNA構築物を使用して生成され、該DNAは、同一のリーディングフレーム内で1つ以上のエピトープをコードする。例示的な抗原であるTIPeGFPは、以下のエピトープを含むエピトープストリングを備える:E6FP、SIV-gag、PyCD4、およびPy3。あるいは、抗原は別々のポリペプチドとして発現してもよい。
【0076】
1つ以上の抗原または抗原遺伝子は、C末端および/またはN末端で切断され得る。これは、ベクタードワクチンのクローニングおよび構築を容易にし得るか、および/または抗原の免疫原性もしくは抗原性を増強し得る。切断の方法は、当業者に周知であろう。例えば、遺伝子工学の種々の周知の技術を用いて、抗原遺伝子のいずれかの末端にあるコード核酸配列を選択的に削除し、次いで所望のコード配列をウイルスベクターに挿入することができる。例えば、候補タンパク質の切断は、コード核酸の3’末端および/または5’末端をそれぞれ侵食するために、選択的に3’および/または5’エキソヌクレアーゼ戦略を用いて行われる。好ましくは、野生型遺伝子配列は、発現した抗原が、親抗原に対して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個以上のアミノ酸によって切断されるように、切断される。好ましくは、抗原遺伝子は、野生型抗原に対して、C末端で10~20個のアミノ酸によって切断される。より好ましくは、抗原遺伝子は、野生型抗原に対して、C末端で13~18個のアミノ酸によって切断され、最も好ましくは15個のアミノ酸によって切断される。好ましくは、Ag85A抗原は、この様式でC末端が切断されている。
【0077】
1つ以上の抗原遺伝子はまた、リーダー配列も含み得る。リーダー配列は、一次転写物のmRNAへのプロセッシング、翻訳効率、mRNA安定性に影響することがあり、抗原の発現および/または免疫原性を増強し得る。好ましくは、リーダー配列は、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)である。好ましくは、tPAリーダー配列は、1以上の抗原に対してN末端に配置される。
【0078】
tPAリーダー配列のようなリーダー配列は、ペプチドリンカーを介して抗原の配列に連結され得る。ペプチドリンカーは、一般に、長さが2~約50アミノ酸であり、あらゆる配列を有し得るが、ただし、融合タンパク質のドメインフォールディングを妨害するであろう二次構造は形成しない。
【0079】
1つ以上の抗原遺伝子は、挿入された遺伝子配列の発現した産物の検出を容易にする、緑色蛍光タンパク質(GFP)マーカーのようなマーカーを含むことができる。
【0080】
1つ以上の抗原遺伝子は、翻訳の際、抗原に共有結合しているタグポリペプチドをコードする核酸配列を含み得る。好ましくは、タグポリペプチドは、PKタグ、FLAGタグ、MYCタグ、ポリヒスチジンタグ、またはモノクローナル抗体によって検出され得るあらゆるタグからなる群から選択される。タグポリペプチドをコードする核酸配列は、翻訳後に、発現された抗原のC末端またはN末端にタグが位置するか、または発現された抗原の内部にタグが存在し得るように配置されてもよい。好ましくは、タグは、発現された抗原のC末端に位置する。好ましい実施形態において、抗原遺伝子の1つ以上がPKタグをコードする。このタイプのタグは、抗原発現および抗原を発現するクローンの検出を容易にすることができるか、ならびに/または抗原の免疫原性もしくは抗原性を増強し得る。
【0081】
タグポリペプチドが使用される場合、リンカー配列をコードするヌクレオチドは、好ましくは、タグポリペプチドをコードする核酸と発現された抗原をコードする核酸との間に挿入される。例示的なリンカーは、IPNPLLGLD(配列番号15)である。
【0082】
代替的な実施形態において、目的の外因性配列は非タンパク質コードであってもよい。例えば、外因性ヌクレオチド配列は、miRNAまたは免疫賦活性RNA配列であり得る。
【0083】
アデノウイルスベクターは、1つ以上の外因性ヌクレオチド配列、例えば、1つ、2つ、または3つ以上の外因性ヌクレオチド配列を含み得る。好ましくは、各外因性ヌクレオチド配列は、導入遺伝子を具体化する。導入遺伝子を具体化する外因性ヌクレオチド配列
は、遺伝子または遺伝子の機能的部分であり得る。アデノウイルスベクターは、目的の単一分子をコードする1つのヌクレオチド配列を含み得る。あるいは、アデノウイルスベクターは、1つのヌクレオチド配列、または2つ以上の目的分子をコードする2つ以上のヌクレオチド配列を含み得る。
【0084】
好ましくは、外因性ヌクレオチド配列は、アデノウイルスのゲノム内、すなわち、その他のアデノウイルス配列を含有する核酸分子内に位置する。外因性ヌクレオチド配列は、部分的または完全に欠失した遺伝子の部位、例えば、アデノウイルスゲノム内のE1欠失またはE3欠失の部位に挿入され得る。
【0085】
外因性ヌクレオチド配列を既存のC68遺伝子領域に挿入して、その領域の機能を破壊することができる。あるいは、外因性ヌクレオチド配列は、周辺遺伝子の機能または配列に変化を伴わずに、ゲノムの領域に挿入され得る。
【0086】
外因性ヌクレオチド配列または導入遺伝子は、好ましくは、宿主細胞、例えば哺乳動物細胞における外因性ヌクレオチド配列/導入遺伝子の翻訳、転写、および/または発現を駆動するのに必要な、制御配列に作動可能に連結される。本明細書にて使用される場合、語句「動作可能に連結される」とは、制御配列が、調節する核酸配列に隣接していること、または該制御配列が、transまたは離れた位置で作用して、制御される核酸配列を制御することを意味する。このような制御配列は、転写開始、終結、エンハンサー、およびプロモーター配列などの適切な発現制御配列、スプライシングおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的なRNAプロセッシングシグナル、翻訳効率およびタンパク質安定性を増強する配列、ならびにタンパク質分泌を促進する配列を含む。その上、それらは、例えば、トランス活性化受容体を発現する細胞株における生産の途中で、導入遺伝子の発現を抑制するための配列を含有してもよい。核酸の発現を制御するプロモーターおよびその他の制御配列が同定されており、当技術分野において周知である。好ましくは、プロモーターは、ヒトCMVプロモーター、サルCMVプロモーター、マウスCMVプロモーター、ユビキチン、EF1プロモーター、カエルEF1プロモーター、アクチン、およびその他の哺乳動物プロモーターからなる群から選択される。ヒトCMVプロモーター、特にヒトCMV主要前初期プロモーターが最も好ましい。
【0087】
目的の外因性ヌクレオチド配列は、カセットの一部としてウイルスベクターに導入され得る。本明細書にて使用される場合、用語「カセット」とは、宿主細胞中においてヌクレオチド配列の発現を可能にする転写および翻訳制御配列、ならびに、任意にカセットの5’および3’末端における制限部位とともに、発現されるべき少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、核酸分子を指す。制限エンドヌクレアーゼ部位により、カセットは容易に挿入され、除去され、または別のカセットと交換され得る。カセットを変えると、カセットが組み込まれるベクターによって異なる配列が発現される。あるいは、当業者に周知のあらゆる方法、例えば、PCR突然変異誘発、In-Fusion(登録商標)、組換え、Gateway(登録商標)クローニング、部位特異的組換え、またはトポイソメラーゼのクローニングが、該カセットを構築、改変、または誘導するために使用することができる。
【0088】
発現制御配列は、好ましくは、複製およびビリオン封入に必要なアデノウイルス要素を含む。好ましくは、要素は、外因性ヌクレオチド配列に隣接する。好ましくは、ChAd68ベクターは、複製起点として機能するC68の5’末端逆位(ITR)配列および3’ITR配列を含む。
【0089】
パッケージングシグナル配列は、ウイルスベクターの集合を指示するように機能し、当該技術分野において充分に特徴付けられ理解されている。
【0090】
当業者には理解される通り、ウイルスベクター中に包埋することができる核酸分子の長さには、最小および最大の制約がある。したがって、必要であれば、核酸分子はまた、「詰め物」、すなわち、最終的なベクターゲノムを必要なサイズにするための余分なヌクレオチド配列も含み得る。好ましくは、核酸分子は、核酸分子が野生型核酸分子の長さの約80%~約108%であることを確実にするために充分な「詰め物」を含む。
【0091】
核酸分子はまた、C68ゲノムからの1つ以上の遺伝子または遺伝子座も含み得る。野生型C68ゲノムは、主に調節機能を有しウイルス複製のために宿主細胞を調製する、4つの初期転写単位(E1、E2、E3、およびE4)を含む。ゲノムはまた、ペントン(L2)、ヘキソン(L3)、骨格タンパク質(L4)、および繊維タンパク質(L5)を含む、構造タンパク質をコードし、単一プロモーターの制御下にある、5つの後期転写単位(L1、L2、L3、L4、およびL5)も含む。ゲノムの両端は、ウイルスの複製に必要な末端逆位配列(ITR)を含む。
【0092】
本発明のウイルスベクターは、天然E4領域が欠失され、AdY25由来の異種E4Orf1、E4Orf2、およびE4Orf3コード領域が挿入されている、完全な天然C68ゲノムに基づいていてもよい。
【0093】
C68の天然E4領域は、本明細書において配列番号2として提供される。
【0094】
目的の外因性ヌクレオチド配列をC68ゲノムに挿入することもできる。当業者は、天然のC68ゲノムに対する種々の付加的改変が、ウイルスベクターを作製する際に可能であり、実際に望ましいことを理解するであろう。
【0095】
ウイルスベクターを最適化するために、1つ以上の天然C68遺伝子を欠失させ、機能的に欠失させ、または改変することができる。
【0096】
本明細書にて使用される場合、語句「削除」とは、遺伝子の全欠失を指し、一方で「機能的欠失」とは、遺伝子/遺伝子座の部分的欠失、または、遺伝子/遺伝子座を発現するアデノウイルスの能力を破壊するかまたは遺伝子産物を機能しない状態にする、フレームシフト変異などのいくつかの他の改変を指す。
【0097】
C68ゲノムは、宿主細胞における挿入能力を増大させるか、もしくは複製を妨害するか、ならびに/または形質転換されたパッケージング細胞株におけるウイルスベクターの増殖および収率を増大させるように、改変され得る。当業者は、あらゆる数の初期遺伝子または後期遺伝子を機能的に欠失させることができることを、理解するであろう。このような改変されたウイルスベクターの複製は、欠失した遺伝子の代替物を含む形質転換細胞株においても、依然として可能である。例えば、複製および組立に必要なウイルスタンパク質は、操作されたパッケージング細胞株によって、またはヘルパーウイルスによってtransに提供され得る。
【0098】
したがって、外因性ヌクレオチド配列に加えて、本発明のベクターは、最小アデノウイルス配列、特定の遺伝子の1以上の欠失もしくは機能的欠失を有するアデノウイルスゲノム、または外因性ヌクレオチド配列が挿入されている完全な天然アデノウイルスゲノムを含み得る。
【0099】
好ましくは、1つ以上の早期転写単位が、改変され、欠失され、または機能的欠失される。
【0100】
一実施形態において、ウイルスベクターは、非複製性または複製障害性である。本明細書にて使用される場合、用語「非複製(non-replicating)」または「複製障害(replication-impaired)とは、正常な哺乳動物細胞の大部分、好ましくは正常なヒト細胞において、少しでも有意な程度に複製することが不可能であることを意味する。ウイルスベクターは、ヒト患者に増殖性感染または疾患を引き起こすことができないことが好ましい。しかしながら、ウイルスベクターは、免疫応答を刺激することができることが好ましい。非複製性または複製障害性であるウイルスは、自然とそのようになり得る。すなわち、ウイルスは、そのようにして自然から単離され得る。あるいは、ウイルスは、例えば、in vitroでの増殖または遺伝子操作によって、人工的に非複製性または複製傷害性を与えられることがある。例えば、複製に重要な遺伝子を機能的に欠失させることができる。
【0101】
好ましくは、アデノウイルスベクター複製は、ウイルス複製に必須である単一の転写単位の機能的欠失によって機能不全にされる。好ましくは、E1遺伝子/遺伝子座は欠失されるか、または機能的に欠失される。E1遺伝子/遺伝子座は、異種導入遺伝子、例えば、目的のタンパク質またはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列または発現カセットで置換され得る。
【0102】
C68の天然のE1領域は、本明細書において配列番号16として提供される。
【0103】
本明細書において考察するように、組換えアデノウイルスは、細菌人工染色体(BAC)におけるC68の分子クローンを生成することによって作製してもよく、E1遺伝子座は、C68ウイルスDNAと線状化BAC「救出ベクター」との間の相同性組換えの間に、好ましくは、アデノウイルスE1領域の余分な相同性隣接下流部を含むことによって削除されて、E1の同時削除を可能にする。
【0104】
好ましくは、本発明によるウイルスベクターは、外因性ヌクレオチド配列を含む1つ以上の導入遺伝子またはカセットの挿入を可能にする、1つ以上の組換え部位を含む。好ましくは、組換え部位は、ファージラムダ部位特異的組換え部位を含む。これらの組換え部位は、あらゆる好適な遺伝子座に導入することができるが、好ましくは、アデノウイルスE1遺伝子座に導入する。したがって、非複製または複製障害ベクターは、E1遺伝子を目的のタンパク質またはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列で置換することによって、調製することができる。好ましくは、組換え部位attR1およびattR2は、Invitrogen Gateway(登録商標)目的カセットの一部として、アデノウイルスE1遺伝子座に導入される。
【0105】
好ましくは、ベクターはアデノウイルスE3遺伝子/遺伝子座を欠く。アデノウイルスE3領域の欠失は、新規ベクターの挿入能力をおよそ5kb増加させる。E3の欠失はウイルスベクターの収量にはほとんど影響しないため、この領域はウイルスの複製には不要であり、したがってパッケージング細胞株においてtransに提供する必要がない。E3遺伝子座は、GalK組換えを用いて欠失させることができる。
【0106】
C68の天然のE3領域は、本明細書において配列番号17として提供される。
【0107】
本発明の特に好ましい実施形態において、E1およびE3遺伝子座の両方が、C68ゲノムから削除される。
【0108】
本発明のウイルスベクターは、ウイルス複製に必要なあらゆる欠失遺伝子の代替物を含有するように操作された細胞株において産生され得る。しかしながら、本発明によるウイルスベクターの複製は、その他の血清型の複製を容易にするように設計された細胞におい
ては、不十分であり得る。したがって、本発明によるアデノウイルスベクターは、好ましくは、本発明によるアデノウイルスベクターにおいて機能的に欠失された遺伝子を発現するHEK293などの形質転換細胞株において、ベクターの増殖および収量を最適化するように設計された1つ以上の改変をさらに含む。
【0109】
HEK293細胞におけるウイルス複製にとって特に重要なことは、E4Orf6の遺伝子産物である。E4Orf6は、ウイルスmRNAの後期スプライシングおよびウイルスmRNAの選択的核外輸送、ウイルスDNA合成、およびアポトーシスの阻害に関与する多機能タンパク質である。E4Orf6と細胞発現E1B-55Kとのにおける不十分な相互作用は、HEK293細胞におけるChAdOx2ベクターの収率を低下させると考えられる。したがって、天然のE4Orf6領域を異種E4Orf6領域で置き換えることができる。
【0110】
好ましい実施形態において、天然のE4Orf4、E4Orf6、およびE4Orf6/7コード領域は、AdHu5由来であるE4Orf4、E4Orf6、およびE4Orf6/7コード領域で置換される。特に好ましい実施形態において、組換えE4領域は、AdY25に由来するE4Orf1、E4Orf2、および、E4Orf3コード領域、ならびにAdHu5に由来するE4Orf4、E4Orf6、およびE4Orf6/7コード領域を含む。
【0111】
AdHu5由来であるE4Orf4のアミノ酸配列は、配列番号7に見出される。対応するヌクレオチド配列は、ChAdOx2ベクター配列(配列番号10)のヌクレオチド29262~28918に見出される。AdHu5由来であるE4Orf6のアミノ酸配列は、配列番号8に見出される。対応するヌクレオチド配列は、配列番号10のヌクレオチド28997~28113に見出される。AdHu5由来であるE4Orf6/7のアミノ酸配列は、配列番号9に見出される。対応するヌクレオチド配列は、配列番号10のヌクレオチド28997~27834に見出される。
【0112】
1つの好ましい態様において、本発明のベクターは、AdHu5E4Orf4、E4Orf6、およびE4Orf6/7のヌクレオチド配列、またはそれらと実質的に同一の配列を含む。
【0113】
AdY25由来であるE4Orf1のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号3として提供される。対応するヌクレオチド配列は、ChAdOx2ベクター配列(配列番号10)のヌクレオチド30434~30060に見出される。
【0114】
AdY25由来であるE4Orf2のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号4として提供される。対応するヌクレオチド配列は、配列番号10のヌクレオチド30010~29621に見出される。
【0115】
AdY25由来であるE4Orf3のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号5として提供される。対応するヌクレオチド配列は、配列番号10のヌクレオチド29624~29271に見出される。
【0116】
本発明の特に好ましい実施形態において、ウイルスベクターは、天然C68ゲノムの改変形態を含む。天然C68ヌクレオチド配列は、アデノウイルスE1およびE3領域をコードするヌクレオチド配列を欠き、天然E4遺伝子座を、AdHu5由来であるE4Orf4、E4Orf6、およびE4Orf6/7コード領域で置換する。本発明によるこの特に好ましいウイルスベクターは、本明細書中で「ChAdOx2」と称される。
【0117】
E1遺伝子座にGateway(登録商標)目的カセットを有する、ChAdOx2をコードする例示的ヌクレオチド配列は、配列番号10に記載される。
【0118】
好ましくは、本発明のウイルスベクターのゲノムは、配列番号10のヌクレオチド配列またはそれと実質的に同一の配列を含み、この配列に、目的のタンパク質をコードする外因性ヌクレオチド配列が挿入される。
【0119】
本発明の第2の態様は、本発明の第2の態様によるウイルスベクターを、任意に1以上のさらなる活性成分、医薬的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントと組み合わせて含む、医薬組成物または免疫原性組成物を提供する。
【0120】
好ましくは、組成物は免疫原性および/または抗原性組成物である。本発明による免疫原性および/または抗原性組成物は、予防的(感染を防ぐため)、曝露後(感染後ではあるが疾患になる前に治療するため)、または治療的(疾患治療のため)であり得る。好ましくは、組成物は予防的または暴露後である。好ましくは、組成物はワクチンである。
【0121】
免疫原性組成物が予防的に使用される場合、対象は、好ましくは幼児、若年小児、年長児、またはティーンエイジャーである。免疫原性組成物が治療用である場合、対象は、好ましくは成人である。
【0122】
組成物は、抗炎症剤(例えば、p38阻害薬、グルタミン酸受容体拮抗薬、もしくはカルシウムチャネル拮抗薬)、AMPA受容体アンタゴニスト、化学療法剤、および/または抗増殖剤などの1つ以上のさらなる活性剤を含み得る。組成物はまた、1種以上の抗菌性化合物を含み得る。好適な抗微生物化合物の例は、リファンピシン、イソニアジド、エタンブトール、およびピリジンアミドのような抗結核化学療法剤を含む。
【0123】
好適な担体および/または希釈剤は当技術分野で周知であり、薬学的等級の澱粉、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース(もしくは、その他の糖)、炭酸マグネシウム、ゼラチン、油、アルコール、界面活性剤、乳化剤、または水(好ましくは、滅菌)を含む。組成物は、組成物の混合調製物であってもよいか、または同時、別々、もしくは逐次使用(投与を含む)のための複合調製物であってもよい。
【0124】
好適なアジュバントは当該分野において周知であり、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、MDPを伴うフロイントアジュバント(ムラミルジペプチド)、ミョウバン(水酸化アルミニウム)、ミョウバンと百日咳菌との混合物、および免疫刺激複合体(ISCOM、典型的にはウイルスタンパク質を含有するQuil Aのマトリックス)を含む。
【0125】
上記の症状で使用するための本発明による組成物は、あらゆる簡便な方法、例えば、経口(吸入を含む)、非経口、粘膜(例えば、頬側、舌下、鼻側)、直腸、または経皮投与によって投与することができ、それに従い組成物を適合させる。
【0126】
経口投与のために、組成物は、液体または固体、例えば、溶液、シロップ、懸濁液、または乳濁剤、錠剤、カプセル、およびトローチ剤として処方することができる。
【0127】
液体製剤は、一般に、例えば、水、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコール、または油などの好適な水性または非水性液体担体における、化合物または生理学的に許容される塩の懸濁液または溶液からなる。製剤はまた、懸濁剤、保存剤、フレーバー剤、または着色剤を含有してもよい。
【0128】
錠剤の形態の組成物は、固体製剤を調製するために日常的に使用されるあらゆる好適な医薬担体を使用して調製することができる。このような担体の例としては、ステアリン酸マグネシウム、デンプン、ラクトース、スクロース、および微結晶セルロースが挙げられる。
【0129】
カプセルの形態の組成物は、通常のカプセル化手順を用いて調製することができる。例えば、活性成分を含有する粉末、顆粒、またはペレットを標準的な担体を用いて調製し、次いで硬質ゼラチンカプセルに充填することができる。あるいは、分散液または懸濁液は、あらゆる好適な薬学的担体、例えば水性ガム、セルロース、ケイ酸塩、または油を用いて調製し、次いで、分散液または懸濁液を軟質ゼラチンカプセルに充填してもよい。
【0130】
経口投与用の組成物は、活性成分が消化管を通過する際に、例えば、錠剤またはカプセルに製剤を外側からコーティングすることによって、活性成分を分解から保護するように設計することができる。
【0131】
典型的な非経口組成物は、滅菌された水性もしくは非水性担体、または非経口的に許容される油、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、レシチン、アラキスオイル、またはゴマ油における、化合物もしくは生理学的に許容される塩の溶液または懸濁液からなる。あるいは、溶液を凍結乾燥し、次いで、投与の直前に好適な溶媒で再構成することができる。
【0132】
経鼻または経口投与のための組成物は、エアロゾル、ドロップ、ゲル、および粉末として都合よく処方することができる。エアロゾル製剤は、典型的には、生理学的に許容される水性または非水性溶媒における活性物質の溶液または微細懸濁液を含み、通常、噴霧装置と共に使用するためのカートリッジまたは再充填剤の形態をとることができる密閉容器中の滅菌形態で、単回または多回投与量で提供される。あるいは、密閉された容器は、容器の内容物が排出された後に廃棄されることを意図した、計量弁を備えた単回投与鼻吸入器またはエアロゾルディスペンサーのような、単一の分配装置であってもよい。投与形態がエアロゾルディスペンサーを含む場合は、医薬的に許容される噴射剤を含むであろう。エアロゾル剤形はポンプ噴霧器の形を取ることもできる。
【0133】
頬または舌下投与に好適である組成物には、錠剤、トローチ剤、および芳香錠剤が含まれる。活性成分は、糖およびアカシア、トラガカント、またはゼラチンおよびグリセリンのような担体と共に製剤化される。
【0134】
直腸または膣投与のための組成物は、座薬(ココアバターのような従来の坐薬基剤を含有する)、ペッサリー、膣タブ、発泡体、または浣腸の形態が有用である。
【0135】
経皮投与に好適である組成物には、軟膏、ゲル、パッチ、および粉末注射を含む、注射が含まれる。
【0136】
好都合には、組成物は、錠剤、カプセル、またはアンプルのような単位投与形態である。
【0137】
医薬組成物は、好ましくは無菌である。発熱物質を含まないことが好ましい。好ましくは、例えば、pH6~pH8、一般にpH7付近で緩衝される。好ましくは、組成物はヒトに対して実質的に等浸透圧である。
【0138】
好ましくは、本発明の薬学的組成物は、免疫原的または薬学的に有効な量のウイルスベ
クターを患者に送達する。本明細書中で使用される、「免疫学的または薬学的に有効な量」とは、単一用量または一連の用量のいずれかとして、個体へのその量の投与が、疾患または状態の予防または処置に有効であることを意味する。特に、この語句は、疾患または状態の予防または治療に有効な免疫応答を刺激するのに充分な量の抗原が患者の細胞によって産生されるように、充分な量のウイルスベクターが好適な時間枠にわたって患者に送達されることを意味する。この量は、治療を受ける個人の健康および身体状態、年齢、個人の免疫系の能力、望まれる防御の程度、ワクチンの処方、医学的状況の医師の評価、およびその他の関連する因子に依存して変化する。
【0139】
一般に、薬学的有効量は、1×10~1×1012ウイルス粒子(vp)、好ましくは1×1010~1×1011粒子を含む。より好ましくは、薬学的有効用量は2.5×1010~5×1010v.p.を含む。最も好ましくは、薬学的有効量は、2.5×1010v.p.を含む。
【0140】
好ましい実施形態において、ワクチンがヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)由来の抗原を含む、ChAdOx2に基づくワクチンが提供される。好ましくは、このワクチンは、5×1010~5×10v.p.の用量で投与される。より好ましくは、このワクチンは2.5×1010~5×1010v.p.の間の用量で投与される。最も好ましくは、ワクチンは2.5×1010v.p.の用量で投与される。
【0141】
好ましい実施形態において、ChAdOx2に基づくワクチンが提供される。ChAdOx2ベクターは、狂犬病ウイルス糖タンパク質をコードする。好ましい実施形態において、このワクチンは、1×10~1×10感染性単位の用量で動物に投与される。別の好ましい実施形態において、このワクチンは、5×10~5×1010v.p.の用量でヒトに投与される。より好ましくは、このワクチンは、2.5×1010~5×1010v.p.の用量でヒトに投与される。最も好ましくは、ワクチンは2.5×1010v.p.の用量でヒトに投与される。
【0142】
本発明の免疫原性組成物はまた、1つ以上のその他のウイルスベクター、好ましくは、他のアデノウイルスベクターを含んでもよい。
【0143】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第2の態様による、免疫原性組成物の使用を提供する。特に、第3の態様は、医薬における本発明のウイルスベクターまたは免疫原性組成物の使用を提供する。
【0144】
この態様はまた、以下も提供する:(i)医薬において使用するための本発明によるウイルスベクターまたは免疫原性組成物、および(ii)医薬において使用するための医薬の製造での、本発明によるウイルスベクターまたは免疫原性組成物の使用。いくつかの例示的な医療用途は、以下でさらに詳細に説明される。
【0145】
一実施形態において、本発明の第1の態様によるウイルスベクター、または本発明の第2の態様による免疫原性組成物を用いて、導入遺伝子を宿主細胞に送達することができる。
【0146】
この方法は、好ましくは、本発明の第2の態様によるウイルスベクター、または本発明の第3の態様による免疫原性組成物を、該宿主細胞に投与するステップを含む。
【0147】
好ましくは、宿主細胞は動物細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞である。好ましい哺乳動物には、ニワトリ、他の家禽、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イノシシ、バッファ
ロー、バイソン、ウマ、ラクダ、シカ、ゾウ、アナグマ、ポッサム、ネコ、ライオン、サル、およびヒトが含まれる。好ましくは、宿主細胞は体細胞である。宿主細胞は、抗原提示樹状細胞、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、リンパ球、白血球、筋細胞、および線維芽細胞からなる群から選択され得る。
【0148】
この方法は、in vitroまたはin vivoで実施することができる。この方法がin vitroで実施される場合、ウイルスベクターまたは免疫原性組成物は、ウイルスベクターによる宿主細胞の形質導入または非生産的感染が促進されるような好適な条件下で宿主細胞と接触させられる。この実施形態において、宿主細胞は、単離された宿主細胞または動物対象由来の試料を含んでもよい。この方法がin vivoで実施される場合、ウイルスベクターまたは免疫原性組成物は、好ましくは、対象の1つ以上の細胞のウイルスベクターによる形質導入が促進されるように、動物対象に投与される。好ましくは、ウイルスベクターまたは免疫原性組成物は、経口(吸入を含む)、非経口(例えば、筋肉内、皮下、静脈内、または腹腔内)、粘膜(例えば、頬側、舌下、鼻側)、直腸、または経皮投与によって対象に投与される。
【0149】
好ましくは、宿主細胞を本発明のウイルスベクターで形質導入することにより、目的の外因性ヌクレオチド配列を安定的に宿主細胞へ送達できる。
【0150】
したがって、別の実施形態において、本発明の第1の態様によるウイルスベクター、または本発明の第2の態様による免疫原性組成物を用いて、動物における免疫応答を誘発することができる。この方法は、好ましくは、本発明の第1の態様によるウイルスベクター、または本発明の第2の態様による免疫原性組成物を該動物に投与するステップを含む。
【0151】
目的のタンパク質またはポリペプチドが抗原である場合、動物におけるそのタンパク質またはポリペプチドの発現は、その抗原に対する一次免疫応答を誘発し、例えば、抗原の元となる病原体の感染の際などの二次遭遇の場合に増強された応答をもたらす免疫学的記憶を発達させる。
【0152】
好ましくは、動物は未処理の動物、すなわち、以前に問題の病原体または抗原に曝露されたことのない動物である。
【0153】
動物において免疫応答を誘導するだけでなく、本発明のウイルスベクターまたはその免疫原性組成物を用いて、以前に抗原に曝露された動物の免疫応答を高めることができる。
【0154】
したがって、さらなる実施形態において、本発明の第1の態様によるウイルスベクター、または本発明の第2の態様による免疫原性組成物を用いて、動物における免疫応答を高めることができる。この方法は、好ましくは、本発明の第2の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第3の態様による免疫原性組成物を、該動物に投与するステップを含む。
【0155】
好ましくは、動物対象は、問題の抗原、または「抗原刺激(primed)」に予め曝露されている。例えば、対象は、以前に抗原を含む組成物を接種またはワクチン接種されていてもよく、または以前に、抗原が由来する病原体に感染していてもよい。対象は、抗原が由来する病原体に潜伏感染され得る。
【0156】
別の実施形態において、本発明の第1の態様によるベクターまたは本発明の第2の態様による免疫原性組成物を用いて、患者における少なくとも1つの疾患を治療または予防することができる。本発明による患者の疾患を治療または予防する方法は、好ましくは、本発明の第1の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第2の態様による免疫原性組成
物を、該患者に投与するステップを含む。
【0157】
好ましくは、疾患は、結核症、ならびにヨーネ病、クローン病、マラリア、インフルエンザ、HIV/AIDS、C型肝炎、サイトメガロウイルス感染、ヒトパピローマウイルス感染、アデノウイルス感染、リーシュマニア症、レンサ球菌種感染、ブドウ球菌種感染、髄膜炎菌種感染、口蹄疫、チクングニアウイルス感染、ジカウイルス、狂犬病、クリミア・コンゴ出血熱、エボラウイルス疾患、マールブルグ、ラッサ熱、MERSおよびSARSコロナウイルス疾患、ニパーおよびリフトバレー熱、ジカ熱、チクングニアを含む、その他のマイコバクテリア感染症からなる群から選択される。
【0158】
最も好ましくは、疾患は、結核および他のマイコバクテリア感染症、ならびに狂犬病からなる群から選択される。
【0159】
異種抗原が由来する病原生物に対する免疫応答を誘導するだけでなく、本発明のアデノウイルスベクターは、ウイルスベクターが由来するアデノウイルスに対する免疫応答を誘導することもできる。このようにして、C68に対する免疫応答が誘導され得る。C68に対して誘導される免疫応答はまた、他のアデノウイルス血清型と交差反応性であり得、そのようなものとして、1つ以上のアデノウイルスに対する免疫応答が誘導され得る。したがって、本発明の第2の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第3の態様による免疫原性組成物は、アデノウイルス疾患の治療または予防にも使用することができる。
【0160】
したがって、本発明のこの態様は、患者における少なくとも1つのアデノウイルス疾患、および少なくとも1つの非アデノウイルス疾患の治療または予防も提供する。
【0161】
さらなる実施形態において、本発明の第1の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第2の態様による免疫原性組成物を用いて、自己抗原に対する寛容を破壊する動物において、免疫応答を誘導することができる。この方法は、好ましくは、本発明の第1の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第2の態様による免疫原性組成物を該動物に投与するステップを含む。
【0162】
多くの腫瘍細胞は、腫瘍細胞が本質的に患者自身の細胞であり、好適な制御なしに増殖、分裂、および拡大しているという理由から、患者の免疫系によって許容される。したがって、がん性腫瘍は患者の体内で無制限に増殖することができる。しかしながら、本発明のウイルスベクターは、「がん免疫療法」として知られる方法で、患者の免疫系を刺激して腫瘍細胞を攻撃するために使用することができる。特に、本発明のベクターは、腫瘍細胞を破壊すべき標的として認識するように患者の免疫系を「訓練」するために使用することができる。これは、好適な自己抗原をコードする外因性ヌクレオチド配列をウイルスベクター内に含めることによって達成することができる。前述のように、好適な自己抗原は、免疫系が腫瘍細胞と他の細胞型とを区別することを可能にする腫瘍細胞によって発現される抗原を含む。好適な自己抗原には、細胞型および/またはその環境に不適当であるか、または生物の発生の間にのみ通常存在する抗原(例えば、胎児抗原)が含まれる。例えば、GD2は、正常では神経細胞の外表面膜でのみ有意なレベルで発現され、そこで免疫系への曝露は血液脳関門によって制限される。しかしながら、GD2は、小細胞肺がん、神経芽細胞腫、黒色腫、および骨肉腫を含む広範囲の腫瘍細胞の表面に発現される。他の好適な自己抗原は、腫瘍細胞上に見出されるが、健康な細胞の表面上には稀であるかまたは存在しない細胞表面受容体を含む。このような受容体は、細胞のシグナル伝達経路を活性化し、腫瘍細胞の成長と分裂を調節されない状態にする。例えば、ErbB2は、乳がん腫瘍細胞の表面上で異常に高いレベルで産生される。したがって、本発明のアデノウイルスベクターは、腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導するために使用することができるため、がんの治療に使用することができる。
【0163】
本発明のアデノウイルスベクターは、脾臓、膵臓、前立腺、肝臓、肺、乳房、腸、脳、および結腸のがんを含むが、これらに限定されない、腫瘍またはがんの発生を治療、予防、または制限するために使用することができる。
【0164】
患者においてがんを治療または予防する方法は、治療上有効な用量の本発明のアデノウイルスベクターを、患者に投与することを含む。
【0165】
本発明のアデノウイルスベクターはまた、自己免疫状態、または自己抗原に対する過敏性によって引き起こされる状態を治療するために使用され得る。
【0166】
患者の自己免疫状態を治療する方法は、治療上有効な用量の本発明のアデノウイルスベクターを患者に投与することを含む。
【0167】
以下の詳細は、変更すべき点を変更して、本発明のベクターおよび免疫原性組成物の上記使用の全てに準用される。
【0168】
肝臓病期マラリア、結核、およびインフルエンザを含む多くの疾患の治療、ならびに予防は、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の両方が関与する感染に対する強い細胞媒介性応答の維持、ならびにTh1型サイトカイン、特にIFN-γ、TNF-α、IL-2、およびIL-17による応答能と関連している。多くのサブユニットワクチンプラットフォームは効果的にヒト免疫を生成するが、強固な細胞媒介免疫応答、特にCD4+およびCD8+T細胞免疫応答の生成は、はるかに困難である。本発明のウイルスベクターは、好ましくは、コードされた抗原に対する細胞性および体液性免疫応答の両方を刺激する。
【0169】
記憶免疫応答を誘導することもまた、望ましい。記憶免疫応答は、古典的には、分化したエフェクターT細胞から直接生じ、一様に静止した状態で持続する長寿命の抗原特異的Tリンパ球の再活性化に起因する。記憶T細胞は異質であり、異なる移動能およびエフェクター機能を有する、少なくとも2つのサブセットであるエフェクター記憶T細胞(TEM)、および中枢記憶T細胞(CTM)を含むことが示されている。TEMは、リンパ節ホーミング受容体LセレクチンおよびCCR7を欠き、炎症組織への移動に対する受容体を発現する点で、一次応答で生じるエフェクター細胞に似ている。これらのTEMは、抗原と再び遭遇すると、IFN-γもしくはIL-4を迅速に産生するか、または予め貯蔵された実施(perform)を放出することができる。TCMはLセレクチンとCCR7を発現し、即時エフェクター機能を欠く。これらの細胞は、低い活性化閾値を有し、二次リンパ器官において再刺激されると、増殖し、エフェクターに分化する。
【0170】
好ましくは、本発明の第1の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第2の態様による免疫原性組成物は、抗原特異的免疫応答を誘発、誘導、または増大することができる。好ましくは、免疫応答は、強いT細胞免疫応答、例えば、強いCD8+およびCD4+T細胞応答である。好ましくは、T細胞免疫応答は、保護的T細胞免疫応答である。好ましくは、T細胞免疫応答は長く持続し、少なくとも1、2、5、10、15、20、25年以上持続する。好ましくは、誘導される免疫応答は、記憶T細胞免疫応答である。
【0171】
本発明の第1の態様のウイルスベクターまたは本発明の第2の態様による免疫原性組成物は、単一の免疫化または複数の免疫化のいずれかとして、宿主細胞または対象に投与することができる。好ましくは、ウイルスベクターまたはその免疫原性組成物は、単一、二重、または三重ワクチン接種戦略の一部として投与される。これらはまた、相同または異種のプライムブースト免疫療法の一部として投与され得る。
【0172】
ワクチン接種戦略または免疫化療法は、本発明のウイルスベクターまたは免疫原性組成物の2回目またはその後の投与を含み得る。第2の投与は、短時間または長時間にわたって投与することができる。用量は、最初の投与後、数時間、数日、数週間、数ヶ月または数年にわたって、例えば、最大または少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週、もしくはそれ以上、または0.25、0.5、0.75、1、5、10、15、20、25、30、35、もしくは40年、またはそれ以上の期間にわたって投与することができる。好ましくは、第2の投与は、第1の投与の少なくとも2ヶ月後に行われる。好ましくは、第2の投与は、第1の投与後10年まで行われる。これらの時間間隔は、好ましくは、変更すべき点を変更して、その後の投与の間の時間に準用される。
【0173】
ウイルスベクターおよび/または免疫原性組成物は、単独で、または他のウイルスもしくは非ウイルスDNA/タンパク質ワクチンと組み合わせて投与することができる。好ましい例は、変異ワクシニアアンカラ(MVA)、鶏痘9(FP9)、および他のアデノウイルスベクターワクチンを含む。
【0174】
ウイルスベクターおよび/または免疫原性組成物は、経口(吸入を含む)、非経口、粘膜(例えば、頬側、舌下、鼻側)、直腸、または経皮投与によって対象に投与することができる。あるいは、ウイルスベクターおよび/または免疫原性組成物は、宿主細胞とウイルスベクターとの形質導入を促進する条件下において、in vitroで細胞をウイルスベクターまたは免疫原性組成物と接触させることによって、単離された宿主細胞または対象由来の試料に投与され得る。
【0175】
本発明のウイルスベクターおよび免疫原性組成物は、抗原をコードする核酸配列の送達に限定されない。がんを含む多くの疾患は、患者のゲノムにおいて1つ以上の有害な変異対立遺伝子と関連している。遺伝子治療は、患者の細胞または組織に遺伝子を挿入して、有害な変異体または非機能的対立遺伝子を「正常」または機能的対立遺伝子に置き換えるプロセスである。一般的に、機能的対立遺伝子はゲノム内の非特異的な位置に挿入され、非機能的対立遺伝子を置換する。あるいは、非機能的対立遺伝子は、相同的組換えを介して機能的対立遺伝子と交換され得る。標的細胞内の機能的対立遺伝子のその後の発現は、標的細胞を正常状態に回復させ、それにより、疾患の治療を提供する。「正常」または機能的対立遺伝子は、ウイルスベクターを用いて患者のゲノムに挿入され得る。したがって、本発明は、遺伝子治療における本発明の第1の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第2の態様による免疫原性組成物の使用も提供する。
【0176】
この方法は、好ましくは、本発明の第2の態様によるウイルスベクターまたは本発明の第3の態様による免疫原性組成物を、該動物に投与するステップを含む。
【0177】
本発明のベクターは、機能性または「正常」タンパク質をコードする外因性ヌクレオチド配列を含むことができ、その非機能性または「突然変異体」版は、疾患または病状と関連する。
【0178】
好ましくは、標的細胞は体細胞である。処置される対象は、好ましくは哺乳動物である。好ましい哺乳動物には、ニワトリ、他の家禽、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イノシシ、バッファロー、バイソン、ウマ、ラクダ、シカ、ゾウ、アナグマ、ポッサム、ネコ、ライオン、サル、およびヒトが含まれる。
【0179】
本発明の第4の態様は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。
【0180】
好ましくは、ポリヌクレオチド配列は、配列番号10の配列、またはそれと実質的に同一の配列を含む。ポリヌクレオチドは、対象とする外因性ヌクレオチド配列をさらに含み得る。
【0181】
本発明の第5の態様は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターで形質導入または感染された宿主細胞を提供する。形質導入または感染に続いて、宿主細胞は、核酸分子によってコードされるあらゆる他のアデノウイルスタンパク質に加えて、対象の分子を産生するために、核酸分子において外因性ヌクレオチド配列を発現する。好ましくは、宿主細胞は安定に形質導入され、ウイルス増殖に適している。
【0182】
宿主細胞は、単離された宿主細胞、生物由来の組織試料の一部、または多細胞生物の一部、またはその器官もしくはその組織の一部であり得る。
【0183】
好ましくは、宿主細胞は体細胞である。好ましくは、宿主細胞は幹細胞ではなく、特に好ましくは胚性幹細胞、特にヒト胚性幹細胞ではない。
【0184】
宿主細胞は、抗原提示樹状細胞、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、リンパ球、白血球、筋細胞、および線維芽細胞からなる群から選択され得る。
【0185】
好ましくは、宿主細胞は動物細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞である。好ましい哺乳動物には、ニワトリ、他の家禽、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イノシシ、バッファロー、バイソン、ウマ、ラクダ、シカ、ゾウ、アナグマ、ポッサム、ネコ、ライオン、サル、およびヒトが含まれる。
【0186】
本発明の第5の態様はまた、本発明の第1の態様によるウイルスベクターで形質導入または感染された動物を包含する。好ましくは、動物は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターで形質転換または形質移入された、1つ以上の細胞を含む。好ましくは、動物は哺乳動物である。好ましい哺乳動物には、ニワトリ、他の家禽、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イノシシ、バッファロー、バイソン、ウマ、ラクダ、シカ、ゾウ、アナグマ、ポッサム、ネコ、ライオン、サル、およびヒトが含まれる。
【0187】
第6の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターの製造方法を提供する。好ましくは、本方法は、本発明の第四の態様によるポリヌクレオチド配列を細菌人工染色体(BAC)に組み込み、Ad-BACベクターを作製するステップを含む。
【0188】
プラスミドベクターとは異なり、BACは大腸菌内に単一コピーとして存在し、遺伝的安定性を高める。さらに、単一コピーBACベクターは、組換え(組換え媒介遺伝子操作)によってウイルスゲノムに非常に正確な改変を行うことを可能にする。
【0189】
好ましくは、本発明のポリヌクレオチド配列(好ましくは、C68由来)の細菌人工染色体(BAC)への組み込みは、以下のステップを含む:
(i)ウイルスヌクレオチド配列の左隣および右隣に対して相同である領域を含む、BAC救出ベクターの構築;
(ii)BAC救出ベクターの線状化;および、
(iii)ウイルスヌクレオチド配列と線状化BAC救出ベクターとの間で宿主細胞において相同組換えを実施し、ウイルスヌクレオチド配列をBAC救出ベクターへ組み込むこと。
【0190】
好ましくは、BAC救出ベクターに組み込まれるポリヌクレオチド配列は、配列番号1
0の配列またはそれと実質的に同一の配列を含む。
【0191】
好ましくは、本方法は、Ad-BACベクターゲノムをさらに改変するステップをさらに含む。これらのさらなる改変は、GalK組換えによって行うことができる。SφrenWarmingらによって開発されたこの技術は、GalK遺伝子を組換えクローンの正負の選択に利用している。組換えを行うことができるSW102大腸菌細胞は、唯一の炭素源としてガラクトースを利用するのに必要なGalK遺伝子を欠くように、特異的に操作されている。遺伝子欠失は、ベクターのゲノムとPCRで増幅したGalKカセットとの間の組換えによって行われる。GalKカセットは、欠失の標的遺伝子の両側に相同な50bpの領域が隣接している。ガラクトースだけを含む最小培地での選択では、GalK遺伝子(標的遺伝子の代わり)を含む組換え体だけが生育するようにすべきである。GalKの別の遺伝子配列への置換も同様に行うことができ、今回は負の選択にGalKを用いた。選択培地に2-デオキシガラクトース(DOG)を添加すると、GalKの産物であるガラクトキナーゼがDOGを代謝して大腸菌に対して強い毒性をもつ産物にするため、GalKが置換されたクローンが選択される。好ましくは、宿主細胞は、上記ステップ(i)~(iii)についてはBJ5183大腸菌であり、さらなる改変についてはSW102である。
【0192】
好ましくは、E1の同時欠失を可能にするために、アデノウイルスE1領域の下流に追加の相同性隣接部が含まれる。
【0193】
好ましくは、本方法は、Ad-BACベクターゲノムのE3領域の欠失をさらに含む。E3領域の欠失はGalK組換えによって行われる。
【0194】
好ましくは、本方法は、Invitrogen Gateway(登録商標)目的カセットの一部として、AdE1遺伝子座にラムダファージサイト特異的組換え部位attR1およびattR2を導入することをさらに含む。このような改変は、ワクチン導入遺伝子の効率的な方向性挿入を可能にする。導入遺伝子はまた、組換え、In-Fusion(登録商標)、従来の連結またはギャップ修復によって挿入され得る。
【0195】
本発明の第7の態様は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターをコードするポリヌクレオチド配列を含む、細菌人工染色体(BAC)クローンを提供する。
【0196】
好ましくは、BACクローンは以下を含む:
(a)BACバックボーン;
(b)本発明の第4の態様によるポリヌクレオチド配列。
【0197】
上述のように、本発明の第1の態様によるウイルスベクターは、必要に応じて、ウイルスから欠失したあらゆる遺伝子の代替物を含む、形質転換細胞株またはヘルパーウイルス(ガットレスベクターシステム)中で複製され得る。このような遺伝子は、宿主細胞における複製を妨げるためにウイルスから欠失され得るが、本発明の第2の態様による免疫原性組成物を産生するためにウイルスベクターを複製するために、当然必要である。機能的に欠失した遺伝子を発現するように改変された野生型アデノウイルス複製を許容する、あらゆる細胞系、または機能的に欠失した遺伝子に加えて、CARまたはインテグリンを発現するように、追加的または代替的に改変された野生型ウイルス複製を許容しない、細胞系を利用することができる。
【0198】
本発明は、本発明の第7の態様による細菌人工染色体(BAC)を含み、その増殖に好適である宿主細胞を提供する。好ましくは、そのような宿主細胞は細菌であり、最も好ましくは大腸菌である。好適な例としては、大腸菌株DH10BおよびSW102が挙げ
られる。
【0199】
したがって、本発明の第8の態様は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターを産生するかまたは産生することができる、パッケージング細胞または細胞株を提供する。
【0200】
パッケージング細胞または細胞系は、本発明の第1の態様のウイルスベクターをコードする1つ以上のヌクレオチド配列を含む。これらの配列の発現によりウイルスベクターが産生される。必要とされる遺伝子のいくつかは、第1の態様によるウイルスベクターでの細胞または細胞株の感染によって提供され得る。好ましくは、細胞は、ウイルスベクターから欠失されたまたは機能的に欠失されたあらゆる遺伝子の代替物を含む。好ましくは、細胞はHEK293細胞またはPER.C6(登録商標)細胞である。
【0201】
単に当業者の便宜のために、ChAdOx2-GFPを含有する細菌人工染色体(BAC)を含む大腸菌株Stellarの試料が、2016年6月13日、Isis Innovation Limitedより、英国ソールズベリーSP4 0JG、ポートンダウン、健康保護局のHealth Protection Agency Culture CollectionsにあるEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)にブダペスト条約に基づいて寄託され、仮登録番号第16061301番とされた。
【0202】
そのような行為が可能であるすべての指定国について、その指定国の法律に基づいて合法的に容認できる範囲で、寄託材料の試料は、関連特許法令、たとえばEPC規則32(1)、英国特許法2007の規則13(1)および附則1、豪州特許法の規則3.25(3)、ならびにあらゆるその他の指定国について準用される一般に同様の規定に従って、独立の専門家へ分譲することをもってのみ入手可能とすることが求められる。
【0203】
本明細書に記載されるように、ベクターChAdOx2は、E1領域、E3領域の欠失、E4領域の改変、およびE1遺伝子座へのeGFPモデル抗原の挿入を伴う、チンパンジーアデノウイルスC68に由来する。BACを含む大腸菌はクラスI遺伝子組換え体である。
【0204】
BACは複製中に細菌内で増殖し、クロラムフェニコールによる選択によって維持される。ゲノムがクローン化される細菌人工染色体を含む大腸菌SW102株は、32℃の、12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLB培地または寒天において増殖させることができる。ゲノムは、例えば、eGFPの代わりに代替組換え抗原を挿入するため、明細書に記載されているように、標準的な方法に従って、大腸菌における遺伝子操作によって改変され得る。
【0205】
ウイルスゲノムのBACクローンをウイルスに変換(「救出」)するには、以下のステップに従う。大腸菌宿主を増殖させ、BAC DNAを標準的な方法に従って細菌から精製する。DNAを制限エンドヌクレアーゼPacIで線状化し、HEK293細胞(または、類似のE1相補性細胞株)に形質移入する。次いで、得られたアデノウイルスを、例えばワクチンとしての使用のために増殖および精製することができる。これらの試薬と細胞はすべて一般に入手可能である。沈着物が救出されれば、ウイルスはクラスI遺伝子組み換え生物となる。
【0206】
そのような行為が可能であるすべての指定国について、その指定国の法律に基づいて合法的に容認できる範囲で、寄託材料の試料は、関連特許法令、たとえばEPC規則32(1)、英国特許法2007の規則13(1)および附則1、豪州特許法の規則3.25(3)、ならびにあらゆるその他の指定国について準用される一般に同様の規定に従って、
独立の専門家へ分譲することをもってのみ入手可能とすることが求められる。
【0207】
本発明の第4の態様の特定の実施形態は、本発明の第1の態様によるアデノウイルスベクターをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。該ポリヌクレオチド配列は、ウイルスベクターChAdOx2(配列番号10)のポリヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる。
【0208】
ChAdOx2は、大腸菌株Stellarに含有されたBACにおいて、2016年6月13日、Isis Innovation Limitedより、英国ソールズベリーSP4 0JG、ポートンダウン、健康保護局のHealth Protection
Agency Culture CollectionsにあるEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)にブダペスト条約に基づいて寄託され、仮登録番号第16061301番とされた。寄託されたBACはさらに、抗原eGFPをコードする導入遺伝子を含む。本発明のこの態様において、ChAdOx2のポリヌクレオチド配列は、好ましくは、eGFP抗原をコードする配列を含まない。
【0209】
本発明のさらなる実施形態は、本発明の第1の態様によるウイルスベクターで形質移入された宿主細胞を提供する。該宿主細胞は、好ましくは、細菌であり、より好ましくは、ChAdOx2のクローンゲノムを含有する細菌人工染色体(BAC)を含む大腸菌株Stellarである。この大腸菌株Stellarは、2016年6月13日、Isis
Innovation Limitedより、英国ソールズベリーSP4 0JG、ポートンダウン、健康保護局のHealth Protection Agency Culture CollectionsにおけるEuropean Collection
of Cell Cultures(ECACC)にブダペスト条約に基づいて寄託され、仮登録番号第16061301番とされた。寄託されたBACはさらに、抗原eGFPをコードする導入遺伝子を含む。本発明のこの態様において、ChAdOx2のポリヌクレオチド配列は、好ましくは、eGFP抗原をコードする配列を含まない。このような宿主細胞は、BAC増殖のために使用され得る。
【0210】
本発明の第7の態様の特異的な実施形態は、本発明の第4の態様によるポリヌクレオチド配列を含む細菌人工染色体(BAC)クローンを提供する。該BACは、ChAdOx2のクローンゲノムを含有するBACであり、2016年6月13日、Isis Innovation Limitedより、英国ソールズベリーSP4 0JG、ポートンダウン、健康保護局のHealth Protection Agency Culture CollectionsにあるEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)にブダペスト条約に基づいて寄託され、仮登録番号第16061301番とされた。寄託されたBACはさらに、抗原eGFPをコードする導入遺伝子を含む。本発明のこの態様において、ChAdOx2のポリヌクレオチド配列は、好ましくは、eGFP抗原をコードする配列を含まない。
【0211】
本発明のさらなる態様は、使用説明書と共に、本発明の第1の態様によるアデノウイルスベクター、または本発明の第2の態様による免疫原性組成物を含むキットを提供する。
【0212】
キットは、対象にアデノウイルスベクターまたは免疫原性組成物を投与するために注射器などの医療機器を含んでもよい。キットは、アデノウイルスベクターまたは免疫原性組成物を対象に投与するための説明書を含んでもよく、特定の用量説明書を含んでもよい。キットは、免疫応答を誘導または増強することによって疾患に対抗する目的で対象にワクチン接種するために、または、そうでなければ対象における疾患を治療または予防するために有用であり得る。
【0213】
疑義を避けるために、本明細書に、「好ましくは(preferred)」、「好ましい(preferable)」、「別の(alternative)」、またはその様な表現として記載された特徴は、単独で、またはそのように記載されたあらゆる1つ以上の他の特徴と組み合わせて、本発明中に存在することができ(文脈が別においてその他の指示がない限り)、これはそのような特徴の組み合わせの明示的な開示を構成するということを、ここに明示する。
【0214】
上述した各実施形態の全ての特徴は、変更すべき点を変更して、本発明の他の全ての実施形態に準用される。
【0215】
さらに、本発明を以下の非限定的な実施例を参照してさらに説明する。
【実施例
【0216】
実施例1
サルアデノウイルス(sAd)ワクチンベクターの設計および開発
ワクチンとして使用するためのsAdベクターの設計における重要な考慮事項は、AdHu5に対するものと同様である。ワクチンベクターは非複製性でなければならず、アデノウイルス遺伝子治療ベクターとは異なり、免疫調節活性は無視できる程度である。したがって、SAdベクターは、ウイルス増殖に必須であるウイルストランスアクチベータータンパク質をコードするE1領域、および免疫調節タンパク質をコードするE3領域を欠いている。
【0217】
バクテリオファージλRed組換え(再結合;recombineering)技術と結合した細菌人工染色体(BAC)の出現は、大きなウイルスゲノムの操作を容易にした。このアプローチを用いて、ヒト以外の霊長類から単離された線状DNAアデノウイルスゲノムが、ウイルスベクターとして使用するためにクローニングされている。
【0218】
ウイルス単離およびゲノム配列決定に続く第1段階は、各々がクローニングのための独特な制限酵素部位、およびベクター産生のためのゲノム切除を各々が組み込む、E1領域と隣接するゲノムの左腕と相同な2つの産物と、ゲノムの右腕と相同な、およそ1000bpである1つの産物との、増幅または人工合成のいずれかである。これらの断片は、従来の制限酵素クローニングによって組み立てられ、BACに挿入される。次いで、ウイルスゲノムを、一段階ギャップ修復相同組換えによってBACクローンに挿入して、E1欠失ウイルスベクター分子クローン(図1a)を生成する。
【0219】
次いで、バクテリオファージλRed組換え(再結合)システムを用いて、アデノウイルスE3免疫調節遺伝子のシームレスな欠失を可能にする。まず、細菌のガラクトキナーゼ遺伝子(GalK)を、プラスミドpGalKからE3領域の両側に約50bpの相同腕をもつように増幅し、λRed組換えによってBAC救出アデノウイルスゲノムのE3遺伝子座に挿入する。この表現型はGalK遺伝子産物に起因するので、クローンはガラクトース上での増殖についてスクリーニングされる。次に、λRed組換えによって、E3の左右の隣接領域のみからなるPCR産物でGalK遺伝子を除去する(図1b)。
【0220】
GalK遺伝子を発現する細菌の増殖を阻害する、2種類のデオキシガラクトース培地上で陽性クローンを選択する。λRed組換えを用いるさらなる操作は、まずGalK遺伝子を挿入し、次いでそれをE1遺伝子座で抗原発現カセットと交換することによって、ワクチンベクターの操作を完了する(図1c)。
【0221】
線状ウイルスゲノムは、独特の制限酵素(通常はPacIまたはPmeI)を用いてB
ACから切り出され、相補性細胞に形質移入されて、ウイルスベクターを生成する。抗原カセットは、典型的には、抗原発現、目的の抗原、およびポリアデニル化シグナルを駆動するために、最小CMV前初期プロモーターなどの強力なプロモーターから成る。
【0222】
本発明者らは、バクテリオファージλ由来のattR1およびattR2といった、特異的組換え配列に隣接する細菌抗生物質耐性遺伝子を発現するユニバーサルカセット(このシステムは、InvitrogenのGatewayクローニングシステムに基づいていることに注意されたい)を、E1遺伝子座および/またはE3遺伝子座にあるChAd由来ワクチンベクターに挿入することによって、あらゆる遺伝子をChAdゲノム内のセット領域に容易に挿入する分子ツールボックスを生成した。ゲノム中に存在する組換え部位と対になった特異的組換え部位(例えば、attR1/R2組換え配列は、attL1/L2組換え配列を必要とする)に挟まれた抗原発現カセットを含むシャトルプラスミドは、バクテリオファージλインテグラーゼ、組込み宿主因子、および除去酵素(図2)を含む酵素混合物の存在下で、部位特異的組換えを可能にする。
【0223】
SAdsからの欠失E1領域は、ヒト胚腎臓(HEK)293細胞またはPerC.6細胞により構成的に発現されるAdHu5E1タンパク質によって補完されるが、ウイルス収量はSAd血清型に依存して変動する。高収率な、チンパンジー由来であるPan5、Pan6、およびPan7はHEK293細胞から得られるが、ChAd1の収率は低い。複製能の低いウイルスベクターについては、さらなるゲノム操作が収量を増加させることが示されている。AdHu5の場合、E4遺伝子産物、特にorf3、orf4、orf6および、orf6/7由来の遺伝子産物は、それらの機能をE1タンパク質(E1AおよびE1B55K)、ならびに宿主細胞補因子と協調させ、ウイルス増殖の間にいくつかの細胞機能を結合、調節、および抑制解除する。したがって、E4領域の操作はウイルス収量を増加させる有望な手段となり得る。
【0224】
国際特許公第2012/172277号において、本発明者らは、天然のE4 orf4 orf6、およびorf6/7遺伝子をAdHu5由来のそれら遺伝子と交換するために、λRed組換えによって操作されたChAd血清型Y25に由来するキメラワクチンベクターChAdOx1の生成について記載した。このベクターは、ChAd親ウイルスと比較して、HEK293細胞からのヘキソンタンパク質産生が増加したことを示した。このアプローチを用いて、本発明者らは、本発明による新規のアデノウイルスベクター、ChAdOx2、Y25由来であるE4 orf1、orf2、およびorf3を含有する、ChAd68に由来するE1/E3欠失ワクチンベクター(Pan6およびsAd25とも称される)、ならびにHEK293細胞(図3)に記載のウイルス収率を増加させるためのAdHu5由来であるE4 orf4、orf6 およびorf6/7を、現在作製している。
【0225】
免疫原性を改善するためのSAdベクター技術
アデノウイルスワクチンベクターは、親の起源にかかわらず、投与経路に依存して、体液性、粘膜性、および細胞性の免疫応答を誘導し得る。しかしながら、誘発されたT細胞応答およびB細胞応答は、ほとんどのベクターについて良好であるが、免疫学的効力のレベルは、アデノウイルスベクターの親株/血清型10、11に依存して異なり得る。例えば、E1遺伝子座にGFP発現カセットを持つ2つのシミアンベクターChAdOx1(Y25に由来し、WO2012/172277に開示されている)、およびChAdOx2(C68に由来し、本発明による)を比較すると、GFPに誘導されるT細胞応答は、ChAdOx2の方が有意に高かった(図4)。
【0226】
実施例2:候補ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチンChAdOx2 HAVのフェーズI臨床試験の結果
健常成人ボランティアにおけるヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)ワクチン候補ChAdOx2HAVの安全性および免疫原性を明らかにするため、第I相臨床試験を開始した。ワクチンはウシにおけるヨーネ病の原因病原体であり、ヒトのクローン病と関連があるヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)由来の抗原を含む。
【0227】
20人のボランティアをスクリーニングした。このうち13人が本研究への参加に適格であると考えられた。1名が登録前に同意を撤回した。9人の参加者がChAdOx2HAVを単回投与された。図5は、研究グループ(表1)および現在の登録状況(表2、完了したフォローアップ受診は陰影部)を示している。
【0228】
図6~11は、異なる用量群で有害事象(AE)を呈したボランティアの割合を示す。これらの図からわかるように、このワクチンは安全で忍容性が高い。ChAdOx2HAVに関連した重篤または重大な有害事象は報告されていない。図6は、ChAdOx2HAVの単回投与(5×10v.p.)後に、局所有害事象を呈したボランティアの割合を示している。図7は、ChAdOx2HAVの単回投与(5×10v.p.)後に、全身性有害事象を呈したボランティアの割合を示している。図8は、ChAdOx2HAVの単回投与(2.5×1010v.p.)後に局所有害事象を呈したボランティアの割合を示している。図9は、ChAdOx2HAV)の単回投与(2.5×1010v.p.)後に、全身性有害事象を呈したボランティアの割合を示している。図10は、ChAdOx2HAVの単回投与(5×1010v.p.)後に、局所有害事象を呈したボランティアの割合を示している。図11は、ChAdOx2HAVの単回投与(5×1010v.p.)後に、全身性有害事象を呈したボランティアの割合を示している。
【0229】
ヒトにおけるChAdOx2HAVのワクチン接種に対する応答を、HAVワクチン構築物に及ぶペプチドプールで刺激した、新たに単離した末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、インターフェロン-γELISPOTアッセイによって評価した。アッセイは、ワクチン接種前(0日目)、およびワクチン接種後2ヶ月(28日目および56日目)に実施した。
【0230】
ワクチン接種前のHAV抗原に対する反応は低く、反応中央値はPBMCあたり100万個のスポット形成細胞(SFC)であり、28日目には331個のSFCに増加し、全用量群の平均値をとった(図12)。反応は、5×10v.p.より、2.5×1010v.p.で免疫化した参加者における28日目の方が高かった(p<0.05、クラスカルワリス検定およびダンの多重比較検定)。個々の反応は表にまとめている。図13参照を参照されたい。
【0231】
実施例3:ChAdOx2RabGPでワクチン接種されたマウスにおける抗体応答
Acc65IおよびNotI制限酵素部位に隣接するプライマーを用いて、Hildegund Ertl(Wistar Institute)が提供するプラスミドから、狂犬病ウイルス糖タンパク質コード配列(RabGP;ERA株;Genbank登録番号第AJ489620.1号)をPCR増幅した。これらの酵素で消化した後、イントロンAを含みGateway(登録商標)組換えカセットに隣接した、ヒトサイトメガロウイルス主要前初期プロモーター(IE CMV)を提供する同様に消化したpENTR4プラスミドに、断片をクローニングした。Gateway LR組み換えクローニング(Life Technologies)を用いて、E1相同部位のChAdOx2目的ベクターに導入遺伝子カセットを導入し、pBAC ChAdOx2LPTOS RabGP ERAを作製した。
【0232】
ChAdOx2RabGP目的プラスミドの酵素的線形化およびHEK293A細胞(
Invitrogen、Cat.R705-07)への形質移入の後、得られたウイルスをCsCl勾配超遠心分離によって精製した。QuickTiter(商標)アデノウイルスタイターイムノアッセイキット(Cell Biolabs Inc)に基づく抗ヘキソン免疫染色アッセイを用いて、HEK293A細胞上の力価を測定した。
【0233】
目的ベクターの構造を図14に示す。狂犬病糖タンパク質のアミノ酸配列は配列番号21に示す。
【0234】
ワクチンを投与前にPBSで希釈し、一部の症例ではスクアレン水中油型アジュバント(Addavax、Sigma)と混合した。6週齢のメスCD1非近交系マウスを、以下の処方(n=6マウス/群)で免疫化し、全て各腓腹筋に筋肉内投与した。
【0235】
A:ChAdOx2-RabGP、1e8感染単位(IU)
B:ChAdOx2-RabGP、1e7 IU
C:ChAdOx2-RabGP、1e6 IU
D:ChAdOx2-RabGP、Addavaxによる、1e8 IU
E:ChAdOx2-RabGP、Addavaxによる、1e7 IU
F:ChAdOx2-RabGP、Addavaxによる、1e6 IU
【0236】
免疫化の28日後に血清を採取し、抗体力価を組換え狂犬病糖タンパク質(SAD B19株、膜貫通領域を欠失、C末端Cタグを有する、およびCタグ親和性樹脂[ThermoFisher]を用いて精製)に対するELISAにより評価した。結果は、陽性対照試料の希釈系列/標準曲線に対して任意の単位で表され、分析前にlog10が変換された。
【0237】
ワクチンは、狂犬病糖タンパク質に対するELISA検出可能抗体を誘導し、ワクチン用量の上昇およびAddavaxとの共製剤と関連した抗体価の統計的に有意な増強を伴った。図15は、アジュバント(群A~F)を伴うか、または伴わない、ある範囲の用量のChAdOx2RabGPでワクチン接種されたマウスにおける、抗体応答を示す。用量の効果についてはp=0.004、アジュバント共製剤の効果についてはp=0.03、A~F群間二次元配置分散分析。
【0238】
ChAdOx2ワクチン構築物の免疫原性を、同じ抗原挿入物を有するAdC68ワクチン構築物と比較した。AdC68は、Xiang et al., Novel, Chimpanzee Serotype 68-based Adenoviral Vaccine Carrier for Induction of Antibodies to a Transgene Product, Journal of Virology, 76(6), pp2667-2675にて開示されたように、Wistar InstituteのHildegund Ertlの一種の贈り物であった。ChAdOx2ワクチン構築物は、驚くべきことに、図16に示した通り、AdC68ワクチンよりも高い免疫原性を有していることが見出された。
【0239】
参照
1.Buchbinder et al, Lancet, Vol 372, Nov 2008
2.Farina et al, J. Virol, Dec 2001, p11603-11613
3.Dudareva et al, Vaccine 27, 2009, 3501-3504
4.R. Wigand et al, Intervirology, Vol30
; 1 1989
5.Roy et al, Hum. Gen. Ther., 2004, 15:519-530
6.Warming et al. Nuc. Acid. Res, 2005, Vol33;4
7.http://www.invitrogen.com/gateway
8.Havenga et al, J.G.V., 2006, 87, 2135-214
9.S. et al. Nucleic Acids Res, 2005, Feb 24; 33(4): e36
10.Colloca, S., et al., Sci Transl Med,
2012. 4(115): p. 115ra2.
11.Quinn, K.M., et al. J Immunol, 2013.
190(6): p. 2720-35.
【0240】
【表1】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
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【配列表】
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