(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】生体成分採取用カセット、生体成分採取キット、生体成分採取システム及び生体成分採取用カセットの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/02 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
A61M1/02 180
A61M1/02 121
(21)【出願番号】P 2019565036
(86)(22)【出願日】2018-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2018029991
(87)【国際公開番号】W WO2019035415
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017156560
(32)【優先日】2017-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 政嗣
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-514863(JP,A)
【文献】実開平04-037436(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第01398018(EP,A1)
【文献】米国特許第04810451(US,A)
【文献】特開2008-086353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットであって、
可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、
前記カセット本体は、複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部と、前記複数の凹凸が存在しない外面により構成される第2構成部と、を有し、
前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられており、
前記第1構成部及び前記第2構成部の各々は、前記カセット本体の一方面である第1外面と、前記カセット本体の他方面である第2外面とに設けられており、
前記カセット本体は、生体成分分離装置に取り付けられて使用されるものであり、
前記第2構成部は、前記生体成分分離装置に装着された際に前記生体成分分離装置の検出部に対向する位置に配置されるように、前記カセット本体に設けられて
おり、
前記流路は、複数の分岐路と、前記複数の分岐路に連通する幹路とを含み、
前記第2構成部は、前記幹路に設けられ、
前記カセット本体は、可撓性を有する樹脂製の第1シート(41a)及び第2シート(41b)を備え、前記第1シートと前記第2シートとが厚み方向に重ねられて溶着により互いに接合されており、
前記カセット本体は、前記第1シート及び前記第2シートにおいて前記カセット本体の厚さ方向に隆起してチューブ状に延在した前記流路壁部(70)を有し、前記第1シートの前記流路壁部と前記第2シートの前記流路壁部との間に前記流路が形成されている、
ことを特徴とする生体成分採取用カセット。
【請求項2】
少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットであって、
可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、
前記カセット本体は、複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部と、前記複数の凹凸が存在しない外面により構成される第2構成部と、を有し、
前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられており、
前記第1構成部及び前記第2構成部の各々は、前記カセット本体の一方面である第1外面と、前記カセット本体の他方面である第2外面とに設けられており、
前記カセット本体は、生体成分分離装置に取り付けられて使用されるものであり、
前記第2構成部は、前記生体成分分離装置に装着された際に前記生体成分分離装置の検出部に対向する位置に配置されるように、前記カセット本体に設けられており、
前記カセット本体は、可撓性を有する樹脂製の第1シート(41a)及び第2シート(41b)を備え、前記第1シートと前記第2シートとが厚み方向に重ねられて溶着により互いに接合されており、
前記カセット本体は、前記第1シート及び前記第2シートにおいて前記カセット本体の厚さ方向に隆起してチューブ状に延在した前記流路壁部(70)を有し、前記第1シートの前記流路壁部と前記第2シートの前記流路壁部との間に前記流路が形成され、
前記カセット本体には、前記流路壁部の両側に隣接して、前記複数の凹凸が存在しない溶着箇所であるシール部(84)が形成され、
前記カセット本体には、前記シール部のさらに外側に、面状部(69)が設けられ、
前記第1構成部は、前記流路壁部と前記面状部とに設けられる、
ことを特徴とする生体成分採取用カセット。
【請求項3】
請求項1記載の生体成分採取用カセットにおいて、
前記第1構成部は、エンボス加工によって形成される
ことを特徴とする生体成分採取用カセット。
【請求項4】
請求項1記載の生体成分採取用カセットにおいて、
前記第2構成部は、前記流路の全長に対して10%以下の長さに形成されている
ことを特徴とする生体成分採取用カセット。
【請求項5】
請求項1記載の生体成分採取用カセットにおいて、
前記第1構成部は、前記カセット本体の外面の面積に対して80%以上の面積に形成されている
ことを特徴とする生体成分採取用カセット。
【請求項6】
請求項1記載の生体成分採取用カセットにおいて、
前記第2構成部は、前記カセット本体の両面に設けられている
ことを特徴とする生体成分採取用カセット。
【請求項7】
請求項1記載の生体成分採取用カセットにおいて、
前記カセット本体を構成する樹脂は、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリウレタン樹脂のうちいずれかにより構成されている
ことを特徴とする生体成分採取用カセット。
【請求項8】
チューブと、
前記チューブに連通し、少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットと、を有する生体成分採取キットであって、
前記生体成分採取用カセットは、可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、
前記カセット本体は、複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部と、前記複数の凹凸が存在しない外面により構成される第2構成部と、を有し、
前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられており、
前記第1構成部及び前記第2構成部の各々は、前記カセット本体の一方面である第1外面と、前記カセット本体の他方面である第2外面とに設けられており、
前記カセット本体は、血液成分分離装置に取り付けられて使用されるものであり、
前記第2構成部は、前記血液成分分離装置に装着された際に前記血液成分分離装置の検出部に対向する位置に配置されるように、前記カセット本体に設けられて
おり、
前記流路は、複数の分岐路と、前記複数の分岐路に連通する幹路とを含み、
前記第2構成部は、前記幹路に設けられ、
前記カセット本体は、可撓性を有する樹脂製の第1シート(41a)及び第2シート(41b)を備え、前記第1シートと前記第2シートとが厚み方向に重ねられて溶着により互いに接合されており、
前記カセット本体は、前記第1シート及び前記第2シートにおいて前記カセット本体の厚さ方向に隆起してチューブ状に延在した前記流路壁部(70)を有し、前記第1シートの前記流路壁部と前記第2シートの前記流路壁部との間に前記流路が形成されている、
ことを特徴とする生体成分採取キット。
【請求項9】
チューブと、前記チューブに連通し少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットと、を有する生体成分採取キット、
及び前記生体成分採取キットが装着され、前記液体中の生体成分を流動させる生体成分分離装置を含む生体成分採取システムであって、
前記生体成分採取用カセットは、可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、
前記カセット本体は、複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部と、前記複数の凹凸が存在しない外面により構成される第2構成部と、を有し、
前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられ、
前記生体成分分離装置は、前記生体成分採取用カセットが取り付けられるカセット取付部を有し、
前記カセット取付部は、前記第2構成部に対向する位置に液体の状態を検出する検出部を有し、
前記第1構成部及び前記第2構成部の各々は、前記カセット本体の一方面である第1外面と、前記カセット本体の他方面である第2外面とに設けられており、
前記カセット本体は、前記生体成分分離装置に取り付けられて使用されるものであり、
前記第2構成部は、前記生体成分分離装置に装着された際に前記生体成分分離装置の検出部に対向する位置に配置されるように、前記カセット本体に設けられて
おり、
前記流路は、複数の分岐路と、前記複数の分岐路に連通する幹路とを含み、
前記第2構成部は、前記幹路に設けられ、
前記カセット本体は、可撓性を有する樹脂製の第1シート(41a)及び第2シート(41b)を備え、前記第1シートと前記第2シートとが厚み方向に重ねられて溶着により互いに接合されており、
前記カセット本体は、前記第1シート及び前記第2シートにおいて前記カセット本体の厚さ方向に隆起してチューブ状に延在した前記流路壁部(70)を有し、前記第1シートの前記流路壁部と前記第2シートの前記流路壁部との間に前記流路が形成されている、
ことを特徴とする生体成分採取システム。
【請求項10】
少なくとも1の生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に有する生体成分採取用カセットの製造方法であって、
複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部を有する樹脂シートを提供するシート提供工程と、
前記シート提供工程により提供された前記樹脂シートの所定位置に熱を加えることにより、該所定位置の複数の凹凸をなくして第2構成部を形成する非凹凸部成形工程と、
非凹凸部成形工程後に、前記流路を確保しつつ前記樹脂シートをシールすることで、前記流路が内部に形成されたカセット本体を備えた前記生体成分採取用カセットを成形するカセット成形工程と、を有し、
前記カセット本体は、前記複数の凹凸を有する外面により構成される前記第1構成部と、前記複数の凹凸が存在しない外面により構成される前記第2構成部と、を有し、
前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられており、
前記第1構成部及び前記第2構成部の各々は、前記カセット本体の一方面である第1外面と、前記カセット本体の他方面である第2外面とに設けられており、
前記カセット本体は、生体成分分離装置に取り付けられて使用されるものであり、
前記第2構成部は、前記生体成分分離装置に装着された際に前記生体成分分離装置の検出部に対向する位置に配置されるように、前記カセット本体に設けられて
おり、
前記流路は、複数の分岐路と、前記複数の分岐路に連通する幹路とを含み、
前記第2構成部は、前記幹路に設けられ、
前記カセット本体は、可撓性を有する樹脂製の第1シート(41a)及び第2シート(41b)を備え、前記第1シートと前記第2シートとが厚み方向に重ねられて溶着により互いに接合されており、
前記カセット本体は、前記第1シート及び前記第2シートにおいて前記カセット本体の厚さ方向に隆起してチューブ状に延在した前記流路壁部(70)を有し、前記第1シートの前記流路壁部と前記第2シートの前記流路壁部との間に前記流路が形成されている、
ことを特徴とする生体成分採取用カセットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセット、該生体成分採取用カセットを有する生体成分採取キット及び生体成分採取システムに関わり、また生体成分採取用カセットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成分採血では、特表2013-514863号公報に開示されているような血液回路を有する血液成分採取用カセット及びチューブを血液成分分離装置にセットして、内部の流路の開閉やポンプ駆動を行うことで、血液の流動又は流動停止、流路の切換等を実施している。血液成分採取用カセットに設けられる流路としては、例えば、供血者からの血液を導入するライン、バッグへ血液成分を移送するライン等があげられる。
【0003】
また、血液成分分離装置は、セットされた採血キット(血液成分採取用カセット、チューブ)の流路を流動する血液の状態を、検出部により検出することで、適正な制御を実施している。
【発明の概要】
【0004】
ところで、この種の血液成分採取用カセット(生体成分採取用カセット)は、可撓性を有するとともに、複数の凹凸が外面に形成されていることが望ましい。可撓性を有していれば、製造が簡単になってコストを低廉化することができ、しかも流路中の圧力が監視可能になるとともに、クランプにより所望の流路の開閉を容易に行うことができる。また、複数の凹凸は、血液成分採取カセットと周囲の樹脂材との貼り付きを防止して、持ち出しや血液成分分離装置へのセットを容易化することができる。
【0005】
しかしながら、血液成分採取用カセットの流路を構成する壁部の外面に複数の凹凸が形成されていると、血液成分分離装置は、カセットに対して検出部による検出を行うことが困難となる。検出部から出力された測定波(超音波や光)は、複数の凹凸にあたることで乱反射し、また複数の凹凸が不透明性を高めるからである。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成によって流路を流動している流体の状態を検出可能とする生体成分採取用カセット、生体成分採取キット、生体成分採取システム及び生体成分採取用カセットの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットであって、可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、前記カセット本体は、複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部と、前記複数の凹凸が存在しない外面により構成される第2構成部と、を有し、前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
上記によれば、生体成分採取用カセットは、流路壁部の少なくとも一部に、複数の凹凸が存在しない第2構成部を有するという簡単な構成で、流路内の液体の状態を検出させることができる。すなわち、第2構成部は、生体成分分離装置の検出部の測定波を良好に透過可能とするため、流路を流れる液体の状態を精度よく検出させることができる。その一方で、生体成分採取用カセットは、第1構成部により樹脂材との貼り付きが防止され、保管箇所からの取り出しが簡単化する。従って、血液成分採取用カセットは、血液成分分離装置に簡単にセットできる等、より使用性が向上したものとなる。
【0009】
また前記目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットであって、可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、前記カセット本体は、透過率が低い第1構成部と、前記第1構成部よりも透過率が高い第2構成部とを有し、
前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記のように、生体成分採取用カセットは、流路壁部の少なくとも一部に、第1構成部よりも透過率が高い第2構成部を有するという構成でも、流路内の液体の状態を精度よく検出させることができる。
【0011】
上記構成に加えて、前記第1構成部は、エンボス加工によって形成されるとよい。
【0012】
第1構成部は、エンボス加工によって形成されることで、微細な凹凸を複数有して透過率が充分に低いものとなり、カセット本体と樹脂材の貼り付き等を防止することができる。
【0013】
また、前記第2構成部は、前記流路の全長に対して10%以下の長さに形成されていることが好ましい。
【0014】
生体成分採取用カセットは、第2構成部の長さを流路の全長の10%以下としていることで、カセット本体の面状部から隆起している流路壁部も大部分が第1構成部となり、樹脂材に貼り付くことを大幅に抑制することができる。
【0015】
さらに、前記第1構成部は、前記カセット本体の外面の面積に対して80%以上の面積に形成されているとよい。
【0016】
生体成分採取用カセットは、カセット本体の外面の面積の80%以上に第1構成部を有することで、カセット本体の外面が樹脂材に貼り付くことをより確実に抑止することができる。
【0017】
またさらに、前記第2構成部は、前記カセット本体の両面に設けられているとよい。
【0018】
生体成分採取用カセットは、カセット本体の両面に第2構成部が形成されていることで、例えば、測定波を透過させて検出を行う検出部を適用することができ、汎用性をより高めることができる。
【0019】
そして、前記流路は、複数の分岐路と、前記複数の分岐路に連通する幹路とを含み、前記第2構成部は、前記幹路に設けられているとよい。
【0020】
生体成分採取用カセットは、第2構成部を幹路に有することで、幹路を流れる流体の状態をまとめて検出させることができる。
【0021】
ここで、前記カセット本体を構成する樹脂は、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリウレタン樹脂のうちいずれかにより構成されていることが好ましい。
【0022】
生体成分採取用カセットは、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂のいずれかによって構成されていることで、カセット本体に第1構成部及び第2構成部を容易に成形することができる。よって、生体成分採取用カセットの製造コストを大幅に低廉化することができる。
【0023】
また、前記目的を達成するために、本発明は、チューブと、前記チューブに連通し、少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットと、を有する生体成分採取キットであって、前記生体成分採取用カセットは、可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、前記カセット本体は、複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部と、前記複数の凹凸が存在しない外面により構成される第2構成部と、を有し、前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられていることを特徴とする。
【0024】
さらに、前記目的を達成するために、本発明は、チューブと、前記チューブに連通し、少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットと、を有する生体成分採取キットであって、前記生体成分採取用カセットは、可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、前記カセット本体は、透過率が低い第1構成部と、前記第1構成部よりも透過率が高い第2構成部と、を有し、前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられていることを特徴とする。
【0025】
またさらに、前記目的を達成するために、本発明は、チューブと、前記チューブに連通し少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットと、を有する生体成分採取キット、及び前記生体成分採取キットが装着され、前記液体中の生体成分を流動させる生体成分分離装置を含む生体成分採取システムであって、前記生体成分採取用カセットは、可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、前記カセット本体は、複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部と、前記複数の凹凸が存在しない外面により構成される第2構成部と、を有し、前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられ、前記生体成分分離装置は、前記生体成分採取用カセットが取り付けられるカセット取付部を有し、前記カセット取付部は、前記第2構成部に対向する位置に液体の状態を検出する検出部を有することを特徴とする。
【0026】
あるいは、前記目的を達成するために、本発明は、チューブと、前記チューブに連通し少なくとも1つの生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットと、を有する生体成分採取キット、及び前記生体成分採取キットが装着され、前記液体中の生体成分を流動させる生体成分分離装置を含む生体成分採取システムであって、前記生体成分採取用カセットは、可撓性を有する樹脂で構成されるカセット本体を備え、前記カセット本体は、透過率が低い第1構成部と、前記第1構成部よりも透過率が高い第2構成部と、を有し、前記流路を構成する流路壁部の少なくとも一部分に、前記第2構成部が設けられ、
前記生体成分分離装置は、前記生体成分採取用カセットが取り付けられるカセット取付部を有し、前記カセット取付部は、前記第2構成部に対向する位置に液体の状態を検出する検出部を有することを特徴とする。
【0027】
さらにまた、前記目的を達成するために、本発明は、少なくとも1の生体成分を含有する液体が流動する流路を内部に有する生体成分採取用カセットの製造方法であって、複数の凹凸を有する外面により構成される第1構成部を有する樹脂シートを提供するシート提供工程と、前記シート提供工程により提供された前記樹脂シートの所定位置に熱を加えることにより、該所定位置の複数の凹凸をなくした第2構成部を形成する非凹凸部成形工程と、非凹凸部成形工程後に、前記流路を確保しつつ前記樹脂シートをシールすることで、前記生体成分採取用カセットを成形するカセット成形工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、生体成分採取用カセット、生体成分採取キット、生体成分採取システム及び生体成分採取用カセットの製造方法は、簡単な構成によって流路を流動している流体の状態を検出可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る血液成分採取システムの概略図である。
【
図3】血液成分採取用カセットを乗せた状態のカセット取付部の斜視図である。
【
図4】血液成分採取用カセットの外面の状態を説明する平面図である。
【
図5】血液成分採取用カセットの製造方法を示すフロー図である。
【
図6】
図6Aは、血液成分採取用カセットの第2構成部の作用を説明する概略側面断面図であり、
図6Bは、比較例に係る血液成分採取用カセットの作用を説明する概略側面断面図である。
【
図7】変形例に係る血液成分採取用カセットの斜視図である。
【
図8】
図8Aは、他の変形例に係る血液成分採取カセットの部分斜視図であり、
図8Bは、
図8Aの血液成分採取カセットの部分平面図であり、
図8Cは、
図8Aの血液採取カセットの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る血液成分採取用カセット10は、血液成分(少なくとも1つの生体成分)を含有する血液(液体)が流動する流路を内部に備える生体成分採取用カセットとして構成されている。以下では、説明の便宜のため、血液成分採取用カセット10を、単にカセット10と略称する。なお、本明細書において「血液」は、血漿、血小板、赤血球等の個々の血液成分と、全血とを含む表現である。カセット10は、血液成分採取システム12(生体成分採取システム)の採血キット14(生体成分採取キット)の一部位に設けられ、供血者の採血時に内部の流路を通して血液を流動させる。
【0032】
血液成分採取システム12は、上記の採血キット14と、採血キット14に遠心力を付与する遠心分離装置16(血液成分分離装置)とを備える。この血液成分採取システム12は、供血者から血液(全血)を連続的に取り出して体外の遠心分離装置16で遠心分離することにより、特定の血液成分(本実施形態では、血漿(乏血小板血漿:PPP))を採取し、残りの血液成分を供血者に戻す血液アフェレーシスシステムとして構成されている。
【0033】
採血キット14は、血液成分を流動及び貯留する血液回路を有し、汚染防止や衛生のため、1回の使用毎に使い捨てされる。例えば、採血キット14は、カセット10の他に、採血・返血部18、血液処理部20及び複数のバッグ22等を備える。カセット10は、複数のチューブ24を介してこれらの各要素に接続されている。複数のバッグ22は、例えば、抗凝固剤であるACD液を収容したACD液用バッグ22aと、血漿(乏血小板血漿)を貯留するためのPPP用バッグ22bとを含む。
【0034】
採血・返血部18は、供血者に穿刺及び留置される採血針26と、供血時の初流血を貯留する初流血採取バッグ28とを有する。採血針26と初流血採取バッグ28とは、途中で合流するチューブ24aを介して、チューブコネクタ30に接続されている。また、ACD液用バッグ22aも、ACD液移送チューブ24bを介してチューブコネクタ30に接続されている。
【0035】
カセット10は、ドナー側チューブ24cを介して採血・返血部18(チューブコネクタ30)に接続されるとともに、処理部側チューブ24dを介して血液処理部20に接続されている。カセット10は、使用時に遠心分離装置16のカセット取付部88に装着されて、遠心分離装置16の動作下に内部を流動している流体の状態の検出や流動の切換等がなされる。
【0036】
血液処理部20は、遠心分離装置16の遠心部86(ロータ86a)に装着され、供血者から取り出された全血を複数の血液成分に遠心分離する。例えば、血液処理部20は、血液の流入、流動及び流出を実施可能な容器状に構成されている。また、血液処理部20には、PPP移送チューブ24eを介してPPP用バッグ22bが接続されている。
【0037】
図2に示すように、採血キット14のカセット10は、液体が流動する流路42を内部に備えるカセット本体40と、ドナー側チューブ24cの流通路(不図示)と流路42を連通する第1ポート44と、処理部側チューブ24dの流通路(不図示)と流路42を連通する第2ポート46とを備える。カセット本体40は、平面視で長方形状に形成されている。カセット本体40は、樹脂材料からなる第1シート41a及び第2シート41bを厚さ方向に重ねて接合することで、可撓性を有する樹脂シート41として構成されている。
【0038】
カセット本体40(樹脂シート41)を構成する樹脂は、血液の圧力によって変形可能な柔軟性(可撓性)を有していれば、特に限定されず、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。本実施形態では、塩化ビニル樹脂を適用している。一方、第1及び第2ポート44、46は、カセット本体40よりも硬質な素材によって構成されるとよく、これによりドナー側チューブ24c、処理部側チューブ24dが強固に接続される。
【0039】
カセット本体40に形成された流路42は、第1ポート44に連なり該第1ポート44に沿って直線状に延在する第1幹路48と、第2ポート46に連なり該第2ポート46に沿って直線状に延在する第2幹路50とを有する。また、流路42は、第1及び第2幹路48、50の間を直線状に延在し、フィルタ部材58が途中に設けられたフィルタライン52を有する。つまり、第1ポート44から第2ポート46に向かって、第1幹路48、フィルタライン52及び第2幹路50が順に直線状に延在している。
【0040】
フィルタライン52は、直線状に延在する延在部位53、54と、延在部位53、54よりも幅広でフィルタ部材58が収容されるフィルタ収容部56を有する。フィルタ部材58は、フィルタ収容部56に流入した血液成分のうち凝集した物質(血液凝集塊)を除去する。
【0041】
さらに、流路42は、フィルタライン52を迂回するバイパスライン60を有する。バイパスライン60は、遠心分離装置16の作動時に血液が流れる第1ライン62と、第1ライン62から分岐し遠心分離装置16の作動時に血液が流れない第2ライン64とを含む。
【0042】
第1幹路48の第1ポート44と反対側の端部48a、フィルタライン52の一端部53a及び第1ライン62の一端部62aは、第1結合部66で相互に接続されている。第2幹路50の第2ポート46と反対側の端部50a、フィルタライン52の他端部54a及び第1ライン62の他端部62bは、第2結合部67で相互に接続されている。その一方で、第2ライン64は、第1ライン62の途中位置に設けられた第3結合部68に一端部64aが接続され、その反対側の他端部64bが閉じている。
【0043】
第1ライン62の一端部62a側から延びる延在部位63aは、第1幹路48及びフィルタライン52の延在方向に対して斜めに傾いている。延在部位63aから途中の湾曲部63bを曲がって第3結合部68までを延びる延在部位63cは、フィルタライン52に対し平行に延在する。第1ライン62の第3結合部68から第2結合部67まで延びる他端部62b側の延在部位63dは、緩やかに蛇行し、且つ第2幹路50及びフィルタライン52の延在方向に対して斜めに傾いて連なっている。
【0044】
第2ライン64は、第3結合部68から湾曲部65bまで、第1ライン62の延在部位63cの延在方向に沿って直線状に延在する延在部位65aを有する。そして、湾曲部65bから他端部64bまでの延在部位65cは、延在部位65aの延在方向に対し直交する方向に延びている。
【0045】
また、流路42を構成する第1及び第2シート41a、41bの肉(流路壁部70)は、流路42内に陽圧が作用していないときでも、流路42の周囲の面状部69に対し、樹脂シート41の厚さ方向に凸状に膨らんでいる。すなわち、第1及び第2シート41a、41bの両面が流路壁部70により隆起している。従って、流路42は、自然状態で開いており、外力によって押圧された際には、押圧された箇所の流路42を閉じる方向に弾性変形可能である。なお、面状部69は、流路42が形成されていない第1及び第2シート41a、41bの肉により平坦状に構成される。
【0046】
さらに、流路壁部70は、流路断面積が小さな小径部71と、小径部71よりも流路断面積が大きな大径部72と、を構成している。具体的には、第1~第3結合部66~68の各々の周辺に小径部71が設けられる一方で、第1~第3結合部66~68から離れた延在部位に大径部72が設けられる。小径部71と大径部72の流路断面積の大きさの比は、特に限定されないが、例えば小径部71に対する大径部72の流路断面積は、1.2倍以上であるとよい。
【0047】
また、フィルタライン52、第1及び第2ライン62、64の各々の大径部72は、互いに同一の太さに形成されており、その剛性も互いに同一に設定されている。そして、第1及び第2ライン62、64の大径部72の所定箇所は、カセット10が遠心分離装置16に装着された装着状態で、荷重検出部96(
図3参照)に押圧される被検出部73(第1被検出部73a、第2被検出部73b)となっている。なお、被検出部73は、大径部72よりもさらに流路断面積が大きく形成されていてもよい。
【0048】
さらに、カセット10には、遠心分離装置16に備えられた複数のクランプ98(
図3参照)が作用する複数のクランプ作用部74(第1~第4クランプ作用部74a~74d)が設けられている。クランプ作用部74は、遠心分離装置16のクランプ98に当接又は対向する部位である。具体的には、クランプ作用部74は、第1ライン62の第1結合部66近くの大径部72、第2ライン64の第3結合部68近くの大径部72、及びフィルタライン52の第1及び第2結合部66、67近くの大径部72にそれぞれ設けられている。
【0049】
そして、本実施形態に係るカセット10(カセット本体40)の大部分は、
図4に示すように、複数の凹凸81を有する外面に構成された第1構成部80となっている(
図4では、第1シート41aの外面を平面視した状態を代表的に例示している)。この第1構成部80は、複数の凹凸81を構成する微細なエンボス81a(
図6参照)によって、樹脂シート41の外面をザラザラした手触り感としている。
【0050】
例えば、第1構成部80は、第1及び第2シート41a、41bの外面全体の面積に対し80%以上の面積に形成されていることが好ましい。80%以上の範囲に第1構成部80が形成されていることで、保管時等における複数のカセット10同士の貼り付き、又は樹脂材からなる包装体との貼り付きが防止される。また、第1構成部80は、複数の凹凸81によって不透明性を有しており、外部から流路42を見難くする低透過部を構成している。第1構成部80の不透明性は、外部から液体が流動していることは認識可能であるものの、血液の色までは充分に認識できない程度の低い透過率(例えば50%以下の透過率)を含む。勿論、第1構成部80は、外部から液体を完全に識別不能な透過率でもよい。
【0051】
個々のエンボス81aは、エンボス加工(後記の製造方法も参照)によって、例えば、数百μm~数mm程度の凸状に形成され、且つ相互のエンボス81a同士が数百μm~数mm程度離れて面方向に並べられる。これにより、第1構成部80は、微細なエンボス81aが規則的に並ぶ一連の凹凸81を呈する。なお、エンボス81aは、外面から短く突出していてよく、例えば数十μm~数μm程度の突出高さに形成される。
【0052】
また、カセット10は、第1幹路48の第1結合部66(端部48a)寄りの外面に第2構成部82を有している。第2構成部82は、複数の凹凸81が存在しない平滑な外周面に形成されていることで、周囲の第1構成部80に比べて透明性が高くなっている。すなわち、第2構成部82は、光を充分に透過可能な透明性を有し、また複数の凹凸81がないことで、音波が伝達された場合に、音の乱反射を低減させる。第2構成部82の透明性は、流路42を流動している血液の色まで充分に識別可能な高い透過率(例えば70%以上の透過率)を有する。すなわち第2構成部82は、第1構成部80よりも透過率が高い高透過部に構成されている。これにより、第2構成部82は、遠心分離装置16の検出部100(
図3参照:検出センサ)による検出ノイズを大幅に低減させる。
【0053】
この第2構成部82は、第1幹路48の断面視で、樹脂シート41の両面(第1及び第2シート41a、41bの両方)に形成されている。また、第2構成部82は、断面視で、流路壁部70の面状部69から隆起した部分の全体に形成されている。
【0054】
さらに、第2構成部82は、第1幹路48のうち小径部71の形成箇所のみに設けられている。そのため、第2構成部82の形成領域は、流路42(第1幹路48、第2幹路50、フィルタライン52、バイパスライン60)の全長に対して10%以下の長さに形成されている。このように10%以下の長さに形成されていれば、カセット10全体に設けられる第1構成部80の形成領域に対して、第2構成部82の形成領域が僅かとなり、第1構成部80の機能を充分に発揮することができる。
【0055】
なお、カセット本体40は、流路42の隣接位置(面状部69上の流路42に接する箇所)に、流路42の成形時に加熱シールがなされることで、複数の凹凸81が押し潰れた(存在しない)シール部84が形成されている。このシール部84は、第1構成部80に対し樹脂シート41の厚さ方向に若干窪んでいる。そのため、カセット10の保管時等に、シール部84同士が接触し難くなっており、貼り付くことが抑制されている。
【0056】
図1に戻り、上記の採血キット14(カセット10を含む)が装着される遠心分離装置16は、血液成分採取において繰り返し使用される機器であり、例えば、医療施設や採血用車両等に備えられる。遠心分離装置16は、上述したように、ロータ86aを有する遠心部86と、採血キット14のカセット10が取り付け可能に構成されたカセット取付部88とを備える。
【0057】
また、遠心分離装置16は、ACD液移送チューブ24bに作用するACD液移送ポンプ90と、カセット10に接続された処理部側チューブ24dに作用する採血・返血ポンプ91とを有する。ACD液移送ポンプ90は、ACD液用バッグ22aからACD液移送チューブ24bを介してカセット10及び血液処理部20へとACD液を移送するポンプである。採血・返血ポンプ91は、供血者側から血液処理部20へと血液を移送するとともに、血液処理部20から供血者側へと血液を移送するポンプである。ACD液移送ポンプ90及び採血・返血ポンプ91は、例えば、ローラポンプ、フィンガポンプ等を適用することができる。
【0058】
さらに、遠心分離装置16は、遠心部86、カセット取付部88及びポンプ90、91を制御する制御部92を有する。上述した複数のクランプ98の動作も制御部92によって制御される。また、制御部92は、遠心分離装置16の動作時に、荷重検出部96(
図3参照)により検出される荷重に基づいて採血キット14の血液回路の内圧を取得(算出)する。
【0059】
図3に示すように、カセット取付部88は、カセット装着溝94aが形成された取付ベース94と、閉じたときに取付ベース94を覆うように構成された開閉可能な蓋体95とを有する。また、取付ベース94の所定箇所には、カセット10の被検出部73を押圧可能な複数の荷重検出部96(第1荷重検出部96a、第2荷重検出部96b)と、カセット10のクランプ作用部74を開閉可能な複数のクランプ98(第1~第4クランプ98a~98d)と、液体の状態を検出する検出部100とが設けられている。
【0060】
カセット10が取付ベース94のカセット装着溝94aに保持された状態で蓋体95を閉じると、カセット10は、取付ベース94と蓋体95との間に挟まれる。取付ベース94及び蓋体95には、それぞれカセット10のフィルタ収容部56を受容可能な開口部102が設けられ、この開口部102は、カセット10を適切に保持しつつ、フィルタ収容部56が潰れることを防止する。
【0061】
荷重検出部96は、取付ベース94のカセット装着溝94aの底面から同一高さで露出(突出)する図示しない検出面を有する。荷重検出部96は、例えば、ロードセルにより構成される。
【0062】
複数のクランプ98は、カセット10のクランプ作用部74に対応する位置に設けられ、カセット装着溝94aの底面に開口する複数の孔部99aを介して、カセット装着溝94aに保持された状態の樹脂シート41の厚さ方向に進退動作する。また蓋体95には、閉じたときの複数の孔部99a(クランプ98)に対向する位置に突起99bが設けられており、各クランプ98は、対向する突起99bと協働して、クランプ作用部74をそれぞれ押圧する(押し潰す)。
【0063】
カセット取付部88にカセット10が装着された状態で、クランプ作用部74がクランプ98によって押圧されていないときは、内部の流路42が開通している。クランプ98がクランプ作用部74を押圧すると、クランプ作用部74内の流路42が閉塞される。クランプ98が後退すると、カセット本体40(クランプ作用部74)の弾性復元力により元の形状に戻り、クランプ作用部74内の流路42が開通される。
【0064】
また、検出部100は、カセット本体40をカセット取付部88に装着した状態で、第2構成部82に対向する位置に配置されている。検出部100は、第2構成部82内の流路42に向かって測定波を出力するとともに、透過波又は反射波を受ける測定端部101a、101b(
図6参照)を有し、流動する流体の状態(血液や薬剤、空気(気体)の有無等)を検出する。
【0065】
検出部100は、種々の要素を採用可能であり、例えば、超音波センサや光学センサを適用し得る。超音波センサは、超音波を出力してその反射音を検出する。これにより遠心分離装置16の制御部92は、流路42に空気が存在するか否かを判断することができる。一方、光学センサは、所定波長の測定光を出力してその反射光又は透過光を検出する。これにより制御部92は、第1幹路48を流れる血液の状態(全血、赤血球等)を精度よく検出することができる。
【0066】
次に、
図5を参照して、上述したカセット10の製造方法について説明する。本実施形態に係るカセット10は、一連の樹脂シート41を成形するシート成形工程(シート提供工程)、樹脂シート41を仮シールする仮シール工程、樹脂シート41の凹凸81をなくす非凹凸部成形工程、及び流路42を有するようにカセット10を成形するカセット成形工程、を順次実施することで製造される。さらにカセット10の製造では、カセット成形工程後に、滅菌を施す滅菌工程を実施してもよい。
【0067】
具体的に、シート成形工程では、図示しない射出成形機を用いて、樹脂材料(塩化ビニル樹脂)から一連の樹脂シート41(第1及び第2シート41a、41b)を射出成形する。樹脂シート41の成形では、図示しない一対のローラの間を通して、シートの厚み等を調整する。一対のローラは、一方の外周面に凹凸状の型が予め形成されている一方で、他方の外周面に平滑なロール面が予め形成されている。従って、一対のローラが樹脂シート41を厚さ方向に押し込んで繰り出す際には、凹凸状の型によりエンボス加工を実施する。これにより、樹脂シート41は、複数のエンボス81a(凹凸81)が一方面に設けられ、平滑面が他方面に設けられた状態で製造されて、ロール状に巻かれる。
【0068】
仮シール工程では、図示しない接合装置を用いて、ロールから一連の樹脂シート41を送出して、複数の凹凸81が外面側に位置するように樹脂シート41を重ね合わせて仮シールを行い、カセット本体40の成形範囲を設定する。また、仮シール時には、組付部品(フィルタ部材58、第1及び第2ポート44、46のポート部材)を接合装置へ供給し、組付部品の位置決め及び仮固定も行う。
【0069】
そして、非凹凸部成形工程では、仮シールしたカセット本体40の成形範囲上で第2構成部82の形成予定箇所(所定位置)に向けて、図示しない一対の熱シーラを進出及び接触させる。この一対の熱シーラの接触部分は、設定された熱量を樹脂シート41に加えることが可能となっている。例えば、熱シーラの接触部分の熱量としては、120℃~200℃であるとよく、本実施形態では、一対の熱シーラの温度は、140℃に設定している。
【0070】
これにより樹脂シート41の全面に形成されている複数のエンボス81aのうち、一対の熱シーラが挟み込んだ部分の複数のエンボス81aが押し潰される。また熱シーラの熱量は、重ね合わされた樹脂シート41(第1及び第2シート41a、41b)同士を大きく溶かす程ではないので、樹脂シート41同士の融着が抑止される。この結果、樹脂シート41の外面には、第1構成部80と第2構成部82が存在するようになる。
【0071】
そして、カセット成形工程では、第1シート41aと第2シート41bの間に流路42を生じさせるように樹脂シート41を溶着(本シール)して、カセット本体40を備えたカセット10を成形する。
【0072】
例えば、接合装置は、上下の金型を備えており、組付部品が仮シールされた樹脂シート41に対し、流路42をブロー成形しつつ流路42の周辺に熱を加える。これによりシール部84が形成され、またシール部84の内側に流路42が生成される。なお、説明は省略したが、接合装置でのカセット10の成形時には、チューブ24が接続されて、カセット10の製造とともに採血キット14を同時形成してもよい。
【0073】
また、滅菌工程では、得られたカセット10に、例えばオートクレーブ滅菌を施す。カセット10は、水蒸気透過性を有する素材で構成されており、オートクレーブ滅菌の処理用ガスである水蒸気がカセット10の流路42内へと導入され、カセット10の滅菌を好適に行うことができる。なお、滅菌工程では、EOG滅菌を行ってもよく、また複数のバッグ22(ACD液用バッグ22a等)を含む血液回路の全体を滅菌してもよい。
【0074】
次に、本実施形態に係るカセット10、血液成分採取システム12及び採血キット14の作用について説明する。
【0075】
図1に示す血液成分採取システム12を用いて供血者から血液成分採取を行うための準備として、採血キット14が遠心分離装置16に装着される。ここで、カセット10は、第1構成部80が外面に形成されていることで、保管場所に保管されている他のカセット10(あるいは、採血キット14を収納している包装袋)との貼り付きが防止されている。よって、採血キット14を保管場所から容易に取り出すことができる。
【0076】
採血キット14は、取り出し後に、カセット10がカセット取付部88に取り付けられるとともに、血液処理部20がロータ86aに装着される。そして、採血針26が供血者に穿刺される。
【0077】
カセット10は、
図3に示すように、カセット取付部88への取り付けにおいて、カセット装着溝94aに装着される。そして、蓋体95が閉じられることで、取付ベース94と蓋体95との間にカセット10が保持された状態となる。この状態では、カセット本体40の複数の被検出部73が荷重検出部96にそれぞれ対向配置され、複数のクランプ作用部74がクランプ98にそれぞれ対向配置される。また、第2構成部82がカセット取付部88の検出部100に対向配置される。
【0078】
遠心分離装置16は、ユーザの操作により動作を開始すると、ACD液移送ポンプ90の作用下に、ACD液によるプライミングが実行される。ACD液は、ACD液用バッグ22aからACD液移送チューブ24bを介してカセット10内の流路42に導入される。遠心分離装置16は、カセット取付部88の検出部100によりACD液の到達を検知すると、ACD液によるプライミングを終了する。
【0079】
次に、遠心分離装置16は、ロータ86aを回転させることにより装着された血液処理部20に遠心力を付与し、また採血・返血ポンプ91を作動させることにより供血者から血液(全血)を取り出して血液処理部20内に導入する。血液処理部20内に導入された血液は、ロータ86aの回転に伴う遠心力によって、赤血球(濃厚赤血球)、バフィーコート及び血漿(乏血小板血漿)に分離される。
【0080】
血液処理部20内で分離された血漿は、PPP移送チューブ24eを介してPPP用バッグ22bへと導入される。残りの血液成分(赤血球及びバフィーコート)は、遠心分離処理後に供血者へと戻される(返血動作)。このとき、残りの血液成分に含まれる血液凝集塊は、カセット10のフィルタライン52に設けられたフィルタ部材58によりトラップされる。このため、血液凝集塊が供血者に戻ることで生じるリスクが低減する。上述した採血動作と返血動作は、複数回繰り返される。
【0081】
また、遠心分離装置16は、上記のプライミング、採血動作及び返血動作の実施時に、複数のクランプ98を個別に制御してフィルタライン52、第1ライン62、第2ライン64の流路の開放及び閉塞を制御する。さらに、遠心分離装置16は、複数の荷重検出部96により第1及び第2ライン62、64の被検出部73を個別に検出することで、各流路42の内圧を測定して、制御内容の切換や検出値の補正を行う。
【0082】
そして、血液成分採取システム12は、上記のプライミング、採血動作及び返血動作の実施時に、
図6Aに示すように、検出部100(超音波センサ100a)によって血液の状態を検出する。すなわち、超音波センサ100aの測定端部101aは、カセット10の第2構成部82に向けて超音波(測定波mw)を出力し、その透過波twを蓋体95に設けられている測定端部101bで検知する。そして超音波センサ100aは、透過した透過波twの減衰又は遮断を検出することで、第2構成部82内の流路42を流動する血液(又はACD液)や空気の有無を検出する。
【0083】
ここで、
図6Bに例示する比較例に係るカセット200のように、流路202の流路壁部204の外面に第1構成部80(複数の凹凸81)が形成されている場合、超音波センサ100aが出力した超音波は第1構成部80にあたって乱反射drが生じる。このため、流路202に到達する超音波の減衰が大きくなり、透過波twも極端に減衰する。よって、カセット200では、流路202を流動する液体や気体の状態(有無)を精度よく検出することが困難となる。
【0084】
これに対し、本実施形態に係るカセット10は、超音波センサ100aに対向する位置に第2構成部82を有している。このため、超音波の乱反射drが抑えられて流路壁部70を透過し、また、透過波twの減衰も抑えられる。従って、遠心分離装置16は、カセット10の流路42を流動する液体や気体を正確に検出することが可能となり、遠心分離の制御を良好に行うことができる。
【0085】
なお、検出部100(超音波センサ100a)は、測定波の出力部と受信部とを同側(カセット取付部88)に設けてもよい。これにより検出部100は、第2構成部82を透過する透過波twに代えて、反射波を受信して液体の状態を検出する構成とすることができる。
【0086】
また、検出部100として光学センサ100bを適用した場合には、光学センサ100bの発光部により出射された測定光(測定波mw)が第2構成部82にあたる。上述したように、第2構成部82は、透明性を有している(透過率が高い)ため、測定光が流路壁部70を容易に透過して、発光部と反対側に設けられた受光部(測定端部101b)に受光される。従って、遠心分離装置16は、カセット10の流路42を流動する液体(採血時の全血、返血時の赤血球、あるいはプライミング時のACD液)の色を精度よく検出することが可能となり、遠心分離の制御を良好に行うことができる。
【0087】
以上のことから、本実施形態に係るカセット10、血液成分採取システム12及び採血キット14は、以下の効果を奏する。
【0088】
カセット10は、樹脂シート41の外面の大部分を第1構成部80によって構成し、且つ流路壁部70の外面の一部分に第2構成部82を有することで、第1構成部80の機能を損なわずに、流路42内の液体の状態を検出可能とすることができる。すなわち、カセット10は、第1構成部80により樹脂材との貼り付きが防止され、保管箇所からの取り出しが簡単化する。その一方で、第2構成部82は、検出部100等の測定波を良好に透過可能であり、流路42を流れる流体の状態を精度よく検出させることができる。従って、カセット10、血液成分採取システム12及び採血キット14は、検出部100を有するカセット取付部88に簡単にセットできる等、より使用性が向上したものとなる。
【0089】
また、カセット10は、第2構成部82の長さを流路42の全長の10%以下としている。このため、流路42の90%以上の部分に第1構成部80が存在することになり、樹脂シート41の面状部69から隆起している流路壁部70が、樹脂材に貼り付くことを大幅に抑制することができる。さらに、カセット10は、樹脂シート41の外面の面積の80%以上に第1構成部80を有することで、樹脂シート41の外面が樹脂材に貼り付くことをより確実に抑止することができる。
【0090】
またさらに、カセット10は、樹脂シート41の両面に第2構成部82が形成されていることで、血液成分採取システム12において測定波を透過させて検出を行う検出部100を適用することができる。つまり、カセット10の汎用性がより高められる。そして、血液成分採取用カセット10は、第2構成部82を第1幹路48に有することで、第1幹路48を流れる流体の状態をまとめて検出させることができる。また血液成分採取用カセット10は、塩化ビニル樹脂によって構成されていれば、樹脂シート41に第1構成部80及び第2構成部82を容易に成形することができる。よって、血液成分採取用カセット10の製造コストを大幅に低廉化することができる。
【0091】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。例えば、カセット本体40は、凹凸81がない第2構成部82が第1及び第2シート41a、41bの両方に形成されているだけでなく、検出部100に対向する面側(例えば、第2シート41b側)のみに第2構成部82が設けられていてもよい。
【0092】
また、第2構成部82は、遠心分離装置16の荷重検出部96に対向する被検出部73に設けられていてもよく、これにより荷重検出部96による荷重の検出精度が高まることが期待できる。さらに、カセット10の流路構成や、採血キット14に設けられるバッグ22の個数及び配置は、上述した構成に限られず、採取する血液成分の種類や使用方法等に応じて改変がなされてもよい。
【0093】
例えば、
図7に示す変形例に係るカセット10A(血液成分採取用カセット10A)は、相互に独立した複数の流路110を有し、各流路110のポートを介してチューブ24にそれぞれ接続した構成とすることができる。この場合、複数の流路110のうち所定の流路(
図7中では流路110b、110d、110e)は、幹路112と、幹路112から分岐する複数の分岐路114とを含む構成でもよい。
【0094】
このカセット10でも、流路110を含む外面の大部分に第1構成部80が設けられ、また流路壁部70の外面の一部分に第2構成部82が設けられた構成とすることができる。
【0095】
例えば、第2構成部82は、幹路112に設けられる他に、分岐路114に設けられてもよく、幹路112と分岐路114が接続する結合部に設けられてもよい。また、第2構成部82は、流路110の直線状に延在する部分に設けられるだけでなく、湾曲や屈曲している部分に設けられてもよい。
【0096】
さらに、第2構成部82は、1つの流路110に2以上設けられてもよく、あるいは、1つの第2構成部82がある程度長く延在する構成でもよい。例えば、上流と下流に設けられた第2構成部82と検出部100(
図3参照)により、流体の状態を検出することで、流路110中の流体の速度を算出することもできる。また、超音波センサ100aや光学センサ100b等の複数種類の検出部100により液体の状態を検出することもできる。
【0097】
また、
図8A~
図8Cに示す他の変形例に係るカセット10Bは、カセット10と同様に第1構成部80と第2構成部82とを有し、第2構成部82の近傍位置のカセット本体40に孔部76を設けた点で、カセット10、10Aと異なる。
【0098】
孔部76は、第2構成部82を挟んで一対設けられ、カセット取付部88の装着時に、検出部120が設けられた一対の突部89がそれぞれ挿入される。一対の孔部76は、平面視で、長方形状に形成されており、長手方向の長さが第2構成部82の延在方向の長さに概ね一致している。また突部89は、平面視で、孔部76と同形状且つ若干小さく形成されることで、孔部76に容易に挿入可能となっている。
【0099】
検出部120は、例えば、光学センサを適用することができ、第2構成部82(流路42)を挟んで対向配置された送信部121と受信部122とを有する。そして、検出部120は、送信部121から第2構成部82に測定波(超音波、測定光)を出力し、流路42を透過した透過波を受信部122にて受信する。上述したように、第2構成部82は、外面に凹凸が設けられていないので、測定波や透過波の減衰を良好に抑制することができる。従って、血液成分採取システム12は、カセット10Bでもカセット10の場合と同様に、流路42を流動する液体の状態を精度よく検出することができる。
【0100】
また、第2構成部82の近傍位置に孔部76が設けられていることで、遠心分離装置16は蓋体95を簡素な構成とすることができる。さらに孔部76は、カセット取付部88に対するカセット10Bの位置決めを容易化し、装着時の固定性を高めることができる。
【0101】
なお、本発明に係る血液成分採取用カセット10、10A及び10Bは、血液成分採取システム12への適用に限定されないことは勿論である。血液成分採取用カセット(生体成分採取用カセット)10、10A及び10Bは、流路42を介して液体を流動させる種々のシステム、例えば、全血献血システムや患者やドナーから採取され、あるいは培養された各種細胞の培養装置、あるいは、薬液投与システム等に適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
10、10A、10B…カセット(血液成分採取用カセット)
12…血液成分採取システム 14…採血キット
16…遠心分離装置 40…カセット本体
41…樹脂シート 42、110…流路
48…第1幹路 50…第2幹路
52…フィルタライン 60…バイパスライン
62…第1ライン 64…第2ライン
70…流路壁部 80…第1構成部
81…エンボス 82…第2構成部
100…検出部