(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】宇宙船のエンジン用に改良されたタンク
(51)【国際特許分類】
F02K 9/50 20060101AFI20221205BHJP
B64G 1/40 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
F02K9/50
B64G1/40 200
(21)【出願番号】P 2019570996
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(86)【国際出願番号】 FR2018051505
(87)【国際公開番号】W WO2018234705
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-14
(32)【優先日】2017-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516257464
【氏名又は名称】アリアーヌグループ ソシエテ パ アクシオンス シンプリフィエ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ ビラミー
(72)【発明者】
【氏名】ジェラール ロズ
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル エデリーヌ
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/106204(WO,A2)
【文献】英国特許出願公開第02170163(GB,A)
【文献】特開平04-208698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0239544(US,A1)
【文献】特表2014-519578(JP,A)
【文献】特開平06-206598(JP,A)
【文献】特開平07-257497(JP,A)
【文献】特開平03-114997(JP,A)
【文献】特開昭60-065284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/50
F02K 9/44
F02K 9/60
B64G 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側容積部を形成する外側囲繞体(10)を備える、宇宙船エンジン用の極低温推進剤タンク(1)において、
前記タンク(1)の内側容積部は、一次容積部(V1)と、前記一次容積部(V1)から二次容積部(V2)に向かう流体の通過を選択的に許容すべく、もしくは、前記二次容積部(V2)を前記一次容積部(V1)から遮断すべく構成されたバルブ(20)により前記一次容積部(V1)に対して接続された二次容積部(V2)とを備え、
前記一次容積部(V1)は、第1加圧源(41)に対して接続されるべく適合化された一次オリフィス(11)を有し、
前記二次容積部(V2)は、宇宙船エンジン(30)の供給ラインに対して接続されるべく適合化された供給オリフィス(4)と、第2加圧源(42)に対して接続されるべく適合化された二次オリフィス(12)とを有することを特徴とする、極低温推進剤タンク(1)。
【請求項2】
前記外側囲繞体(10)の内部に配置されて、前記一次容積部(V1)及び前記二次容積部(V2)を形成すべく前記外側囲繞体(10)の前記内側容積部を分離する内側壁部(15)を更に備える、請求項1に記載のタンク(1)。
【請求項3】
前
記タンクの前記外側囲繞体(10)及び前記内側壁部(15)は、アルミニウムで作成されると共に、溶接により組立てられる、請求項2に記載のタンク(1)。
【請求項4】
前
記タンクの前記外側囲繞体(10)及び前記内側壁部(15)は、複合材料で作成される、請求項2に記載のタンク(1)。
【請求項5】
前記外側囲繞体(10)は、前記内側容積部に対してアクセスするためのハッチであって、ユーザが前記バルブ(20)に対してアクセスすることを可能とすべく位置決めされたというハッチを有する、請求項2~4のいずれか一項に記載のタンク(1)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の少なくとも一つのタンク(1)に対して接続された液体推進剤式エンジン(30)を備える宇宙船打ち上げ機のステージであって、
前記一次容積部(V1)及び前記二次容積部(V2)は、前記宇宙船打ち上げ機の進行の方向に対応する長手方向において重畳されるべく配置され、
前記一次容積部(V1)は、前記長手方向における所定の進行方向に関して前記二次容積部(V2)の上方に配置されるべく構成される、宇宙船打ち上げ機のステージ。
【請求項7】
前記第1加圧源(41)は、姿勢制御のために、前記一次容積部(V1)内の加圧操作を制御すべく、且つ、前記一次容積部(V1)内の気体を利用すべく構成された姿勢制御器に対して結合される、請求項6に記載の宇宙船打ち上げ機のステージ。
【請求項8】
前記第2加圧源(42)は、前記二次容積部(V2)内に収容された推進剤を前記供給オリフィス(4)を通して前記液体推進剤式エンジン(30)に向けて搬送するために前記二次容積部(V2)を選択的に加圧すべく構成される、請求項6又は7に記載の宇宙船打ち上げ機のステージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容は、液体推進剤式の打ち上げ機(launch vehicle)の分野に関し、更に詳細には、ロケット・エンジンのためのタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙船打ち上げ機のためのエンジンは、典型的に、専用タンク内に貯蔵された極低温推進剤を消費する。これらのタンクは、液相、すなわち、極低温推進剤と、極低温推進剤が消費されるにつれ、且つ、消費されたときに体積が増大する気相とを収容する。
【0003】
しかし、極低温推進剤の各タンク内に収容される気体は一般的に、典型的には、酸素に対する90K、水素に対する21K、メタンに対する110Kの範囲内である極低温推進剤の温度よりも高い温度に維持されることで、それらをエンジンに向けて搬送するポンプとの良好な適合性を確実としている。各タンク内の気相と液相との間におけるこの温度差は、気体/液体の界面において、極低温推進剤の温度は、数度にも及ぶ相当の上昇に委ねられることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの加熱された推進剤は、エンジンに対して送給を行うポンプの適切な機能を許容せず、且つ、キャビテーション現象を引き起こすことが確認されている。この現象を阻止するためには、推進剤が更に高い圧力にてポンプに向けて搬送される様にタンク内の圧力を相当に高める必要があるが、これは、特に質量に関連してタンクの構造に関する付加的な制限を伴うので、受け入れられない。故に、通常的に選択される解決策は、各タンク内に収容された推進剤の部分であって、考察下におけるタンク内に収容された気体との接触を考慮して最高の温度を有する推進剤の部分に実質的に対応するという部分を消費しないことである。前記解決策は、推進剤の損失と、付加的に、この未使用の推進剤に起因する打ち上げ機の無用な質量の増大とに繋がることは、容易に理解される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
故に、本開示内容は、
内側容積部を形成する外側囲繞体を備える、宇宙船エンジン用の極低温推進剤タンクにおいて、
前記タンクの内側容積部は、一次容積部と、前記一次容積部から前記二次容積部に向かう流体の通過を選択的に許容すべく、もしくは、前記二次容積部を前記一次容積部から遮断すべく構成されたバルブにより前記一次容積部に対して接続された二次容積部とを備え、
前記一次容積部は、第1加圧源に対して接続されるべく適合化された一次オリフィスを有し、
前記二次容積部は、宇宙船エンジンの供給ラインに対して接続されるべく適合化された供給オリフィスと、第2加圧源に対して接続されるべく適合化された二次オリフィスとを有することを特徴とする、極低温推進剤タンクに関する。
【0006】
一例において、前記タンクは、前記外側囲繞体の内部に配置されて、前記一次容積部及び前記二次容積部を形成すべく前記外側囲繞体の前記内側容積部を分離する内側壁部を更に備える。
【0007】
そのとき、前記タンクの前記外側囲繞体及び前記内側壁部は、典型的に、アルミニウムで作成され且つ溶接により組立てられるか、又は、複合材料で作成される。
【0008】
一例において、前記外側囲繞体は、前記内側容積部に対してアクセスするためのハッチであって、ユーザが前記バルブに対してアクセスすることを可能とすべく位置決めされたというハッチを有する。
【0009】
本開示内容は、また、
以前に規定された少なくとも一つのタンクに対して接続された液体推進剤式エンジンを備える宇宙船打ち上げ機のステージであって、
前記一次容積部及び前記二次容積部は、前記宇宙船打ち上げ機の進行の方向に対応する長手方向において重畳されるべく配置され、
前記一次容積部は、前記長手方向における所定の進行方向に関して前記二次容積部の上方に配置されるべく構成される、宇宙船打ち上げ機のステージにも関する。
【0010】
一例において、前記第1加圧源は、姿勢制御のために、前記一次容積部内の加圧操作を制御すべく、且つ、前記一次容積部内の気体を利用すべく構成された姿勢制御器に対して結合される。
【0011】
一例において、前記第2加圧源は、前記二次容積部内に収容された推進剤を前記供給オリフィスを通して前記エンジンに向けて搬送するために前記二次容積部を選択的に加圧すべく構成される。
【0012】
本発明、及び、その利点は、非限定的な例として与えられる本発明の種々の実施例に関する以下の詳細な説明を読んだ時点で、より良く理解される。この説明は、添付図面を参照している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一つの態様における、極低温推進剤のための宇宙船タンク1を概略的に示す図である。
【
図2】
図1に描かれたタンク1の一つの変更例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
両方の図において、同一の要素は同一の参照番号を有している。
【0015】
図1は、本発明の一つの態様に係る、極低温推進剤のための宇宙船タンク1を概略的に示している。
図2は、
図1に示されたタンク1の変更例を示している。
【0016】
示されたタンク1は、タンク1の内側容積部を形成する外側囲繞体10を備える。タンク1のこの内側容積部は、2つの容積部、すなわち、一次容積部V1及び二次容積部V2へと分割される。
【0017】
図1に示された実施例において、タンク1の外側囲繞体10は、一次容積部V1及び二次容積部V2を夫々形成する2つの部分10A及び10Bである。タンク1の外側囲繞体10の2つの部分10A及び10Bの相対配置は、例示的にのみ与えられており、前記タンクの2つの部分を順次に組立てる幾つかの構成が想起され得る。
【0018】
図2に示された実施例においては、外側囲繞体10により形成された内側容積部を、内側壁部15が2つの部分的容積部へと分割することで、一次容積部V1及び二次容積部V2を形成している。
【0019】
これらの2つの実施例は、以下に記述されるように、同様の機能を有している。
【0020】
タンク1は、宇宙船エンジンに送給を行うことが意図された極低温推進剤を収容すべく適合化される。一次容積部V1は、前記一次容積部V1から二次容積部V2に向かう流体の通過を選択的に許容すべく、又は、これらの2つの容積部V1及びV2を相互から遮断すべく構成されたバルブ20により、二次容積部V2に対して接続される。バルブ20は典型的には、円筒状ゲートを備えた回転バルブであると共に、典型的には、約0.3MPa(約3バール)~5MPa(50バール)の圧力差に抗してシールを確実とすべく寸法設定される。
【0021】
タンク1は、典型的にはポンプもしくはターボポンプ32によりエンジン30の推進剤供給ラインに対して接続されることが意図された供給オリフィス4を備える。前記供給オリフィスは典型的には、タンク1の二次容積部V2内へと通じている。一次容積部V1及び二次容積部V2は各々、同一であるか異なり得る加圧源に対して接続される。故に、タンク1は、一次容積部V1内へと開口する一次オリフィス11、及び、二次容積部V2内へと開口する二次オリフィス12を有し、これらのオリフィスは、夫々、第1加圧源41及び第2加圧源42に対して接続されている。例えば、第1加圧源41及び第2加圧源42は、蓄圧器、ポンプ、又は、タンク内の気相の加圧を実現し得る他の任意の手段であり得る。
【0022】
作動時において、極低温推進剤は先ず、一次容積部V1内及び二次容積部V2内に蓄積される。エンジン30に対して推進剤を供給するために、バルブ20が開かれて、一次容積部V1から二次容積部V2に向かう推進剤の流通を許容する。二次容積部V2からは推進剤が引出されると共に、一次容積部V1内に収容された推進剤は二次容積部V2内へと流入し、充満状態を維持する。故に、推進剤が消費されるにつれ、且つ、消費されたときに、一次容積部V1内には気体状ヘッドスペースが形成される。第1加圧源41は、典型的には約0.4MPa(4バール)~0.5MPa(5バール)である第1加圧源41の気体状ヘッドスペース内の適合圧力を維持することで、ポンプ32に向かう、及び、エンジン30に向かう推進剤の搬送を確実とする。
【0023】
故に、一次容積部V1内に収容された推進剤の全てが消費されたなら、一次容積部V1は気体で満たされる。そのとき、バルブ20は閉じ位置へと切換わり、一次容積部V1を二次容積部V2から遮断する。
【0024】
一次容積部V1はその後、例えば、姿勢制御に対して使用され得る。それは、第1加圧源41の様式で、且つ、それらが協働して、関連する打ち上げ機の姿勢制御器に送給を行い得る様に前記加圧源と併せて、使用され得る加圧源となり得る。
【0025】
タンク1の二次容積部V2は、エンジン30に対する推進剤の供給を継続する。タンク1内に収容された気体に対する界面に位置する極低温推進剤の一つの部分は、相当に高い温度を有することは理解される、と言うのも、タンク1内に収容された気体は典型的に300Kの範囲に保持される一方、極低温推進剤は典型的に、推進剤に依存して(夫々、酸素、水素又はメタンに対して)90K、21K又は110Kの範囲の温度に保持されるからである。故に、気体/液体の界面の温度は、数度にも及ぶ相当の上昇に委ねられる。推進剤のこの部分は概略的に、「熱推進剤」と称される。
図1及び
図2において、気体/液体の界面はタンク1の一次容積部V1内のラインIにより任意的に示される。
【0026】
この熱推進剤の使用を可能とするために、第2加圧源42は、ポンプもしくはターボポンプ32が、この熱推進剤の供給を受け乍ら、キャビテーション現象の開始を阻止し得る様に、実質的に二次容積部V2内の圧力を高めるべく構成される。例えば、二次容積部V2内の気体の圧力は、0.3MPa(3バール)~0.4MPa(4バール)だけ、0.8MPa(8バール)~1MPa(10バール)まで上昇されることで、通常値よりも相当に高い温度を有する推進剤が供給されたときにポンプもしくはターボポンプ32のキャビテーションを阻止し得る。
【0027】
二次容積部V2内の圧力のこの上昇は、例えば、推進剤の体積が二次容積部V2内で所定レベルに到達したとき、且つ/又は、ポンプもしくはターボポンプ32に対する取入口における推進剤の温度がスレッショルド温度値を超過したときに、トリガされ得る。故に、タンク1は、二次容積部V2内の推進剤のレベルを測定するレベル・プローブを備え得ると共に、供給オリフィス4は、タンク1の二次容積部V2を離脱する推進剤の温度を測定する温度プローブを備え得る。
【0028】
上述の内容を読めば、ポンプもしくはターボポンプ32のキャビテーションを阻止する圧力の上昇は、タンク1の二次容積部V2においてのみ実現されることは理解される。故に、提案されたタンク1は、熱推進剤を利用するために必要とされる圧力の上昇に起因する構造的な影響を最小限とし乍ら、タンク1内に収容された全ての推進剤の利用を許容する、と言うのも、更なる高圧に耐えるべく構造化される必要があるのは、二次容積部V2に対応するタンク1の一部分のみだからである。二次容積部V2は典型的に、一次容積部V1に関し、例えば、V1/5~4×V1/5、又は、V1/3~2×V1/3だけ減少される。
【0029】
前記タンクは典型的に、アルミニウム又は複合材料で作成される。タンクの内側壁部は典型的に、タンクと同一の材料で作成されることから、この場合、それはアルミニウム又は複合材料である。
【0030】
タンク1の外側囲繞体10は典型的に、タンク1の内側容積部に対するアクセス・ハッチを有することで、バルブ20に対するアクセスを提供すると共に、必要であれば、それの交換もしくは修理を許容する。故に、バルブ20は好適には、タンク1の外側壁部10に接近して配置されることで、その内部に対するアクセスを促進する。
【0031】
呈示されたタンク1は、宇宙船打ち上げ機の液体推進剤式エンジンに対して推進剤を送給すべく、前記打ち上げ機のステージに対して特定用途が見出され得る。
【0032】
打ち上げ機が進行することが意図された方向を考慮すると、タンク1の一次容積部V1及び二次容積部V2は、この方向において重畳されることから、一次容積部V1は二次容積部V2の上方に位置する。前記配置構成は、一次容積部V1から二次容積部V2に向かう液体推進剤の流れを促進する。