(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】衣類
(51)【国際特許分類】
A41D 13/05 20060101AFI20221205BHJP
A41D 13/06 20060101ALI20221205BHJP
A41B 11/14 20060101ALI20221205BHJP
A61F 5/02 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
A41D13/05 143
A41D13/06 105
A41B11/14 Z
A61F5/02 N
(21)【出願番号】P 2020039267
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】串田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】板花 俊希
(72)【発明者】
【氏名】船橋 祐美子
【審査官】津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】特許第6115977(JP,B1)
【文献】国際公開第2013/179440(WO,A1)
【文献】特開2015-218409(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067476(WO,A1)
【文献】特開2018-71009(JP,A)
【文献】中国実用新案第204655212(CN,U)
【文献】特開2006-233389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/05
A41D 13/06
A41B 11/14
A61F 5/02
A63B 71/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性素材で構成され、着用者の身体に密着する衣類であって、
前記衣類は少なくとも下半身を覆うタイツであり、下記の(
2)~(3)のいずれかの要件を満たす衣類。
(2)未着用時に、冠状面において、膝関節を構成する近位セグメントである大腿セグメントを覆う部位に対して、膝関節を構成する遠位セグメントである下腿セグメントを覆う部位が膝関節の内反方向へ曲げられており、大腿セグメントを覆う部位の中心軸と、下腿セグメントを覆う部位の中心軸がなす角度θが8°以上150°以下であり、着用時に、冠状面において、膝関節を覆う部位が内反方向へのトルクを発生する
(3)未着用時に、矢状面において、膝関節を構成する近位セグメントである大腿セグメントを覆う部位に対して、膝関節を構成する遠位セグメントである下腿セグメントを覆う部位が膝関節の伸展方向へ曲げられており、大腿セグメントを覆う部位の中心軸と、下腿セグメントを覆う部位の中心軸がなす角度θが8°以上150°以下であり、着用時に、矢状面において、膝関節を覆う部位が伸展方向へのトルクを発生する
【請求項2】
関節の所定の運動面において、着用時の関節の所定の運動方向側の解剖学的肢位における衣類の外郭線の長さをL1とし、未着用時の対応する衣類の外郭線の長さをL2とし、着用時の関節の所定の運動方向と反対側の解剖学的肢位における衣類の外郭線の長さをL3とし、未着用時の対応する衣類の外郭線の長さをL4とした場合、L1/L2>1であり、かつ、L1/L2>L3/L4である請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
着用時に、関節の所定の運動面において、関節を覆う部位における関節の所定の運動方向側の生地の張力が、関節の所定の運動方向と反対側の生地の張力以上である、請求項1又は2に記載の衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節の状態によらず、関節の所定の運動を常にアシスト又はサポートする衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、緊締力が強い部分を形成し、関節の運動をサポートする衣類が提案されている。例えば、特許文献1には、伸縮部と、伸縮部より緊締力が大きく伸縮性を有する緊締部を有し、上記緊締部が上記伸縮部から連続して一体に形成され身体の所望の部位に当接しサポートする所定の形状に形成されている運動用被服が記載されている。また、特許文献2には、膝蓋骨に対応する膝エリアの内側及び外側に設けられ、脚部の上下方向に伸長し、収縮力を発生させる緊締ベルト部と、緊締ベルト部で挟まれた膝蓋エリアを被覆し、膝関節の屈伸運動に応じて伸縮する膝サポート部とを有する股つき衣類が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-48332号公報
【文献】特開2006-274510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の衣服では、緊締部がサポートする関節の周囲に配置されているが、関節の角度変化により、所定の面と、その対になる面とで生地の張力の大小関係が変化するため、関節の状態によっては所望の効果を発揮できないもしくは逆の効果が発揮されてしまう場合がある。
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、関節の状態によらず常に関節の所定の運動をアシスト又はサポートすることが可能な衣類を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、伸縮性素材で構成され、着用者の身体に密着する衣類であって、着用時に、関節の所定の運動面において、前記関節を覆う部位が常に所定の方向へのトルクを発生することを特徴とする衣類に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、関節の状態によらず常に関節の所定の運動をアシスト又はサポートすることが可能な衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態の衣類(膝関節外反アシストタイツ)の未着用時の模式的正面図である。
【
図2】
図2は本発明の他の一実施形態の衣類(膝関節外反アシストタイツ)の未着用時の模式的側面図である。
【
図3】
図3は本発明の他の一実施形態の衣類(膝関節内反アシストタイツ)の未着用時の模式的正面図である。
【
図4】
図4は本発明の他の一実施形態の衣類(膝関節伸展アシストタイツ)の未着用時の模式的右外側面図である。
【
図5】
図5は人体の解剖学的肢位における主要平面(運動面)を説明する模式図である。
【
図6】
図6は、関節の所定の運動面において、衣類の関節を構成する近位セグメントを覆う部位に対する関節を構成する遠位セグメントを覆う部位の曲げ方を説明する模式図であり、(a)は関節を構成する近位セグメントを覆う部位と関節を構成する遠位セグメントを覆う部位間に角度をつけることを示し、(b)は関節を構成する近位セグメントを覆う部位と関節を構成する遠位セグメントを覆う部位を弧状に連結することを示す。
【
図7】
図7は衣類の外郭線の長さを説明する模式図であり、(a)は着用時の膝関節を覆う部位の衣類の外郭線の長さを説明する模式図であり、(b)は未着用時の膝関節を覆う部位の衣類の外郭線の長さを説明する模式図である。
【
図8】
図8は本発明の一実施形態の衣類(背屈アシストシューズ)の模式的左外側面図である。
【
図9】
図9は本発明の一実施形態の衣類(底屈アシストシューズ)の模式的左外側面図である。
【
図10】
図10は本発明の一実施形態の衣類(外反アシストシューズ)の模式的正面図である。
【
図11】
図11は解剖学的肢位をとっているマネキンの模式的右外側面図である。
【
図13】
図13は解剖学的肢位をとっているマネキンに衣類を着用した状態を示す模式的右外側面図である。
【
図15】
図15は機械的膝関節外反トルクを測定した結果を示すグラフであり、(a)は参考例1の膝サポーターを着用した場合のデータであり、(b)は実施例1のタイツを着用した場合のデータであり、(c)は膝関節が10°内反した場合のデータである。
【
図16】
図16は歩行における最大外的膝関節内反モーメントの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは、上述した問題を解決するために鋭意検討した。その結果、伸縮性素材で構成され、着用者の身体に密着する衣類において、着用時に、関節の所定の運動面において、前記関節を覆う部位が前記関節の姿勢によらず常に所定の方向へのトルクを発生させるようにすることで、関節の状態によらず常に関節の所定の運動をアシスト又はサポートすることが可能であることを見出した。好ましくは、関節の所定の運動面において、着用時の関節の所定の運動方向側の解剖学的肢位における衣類の外郭線の長さをL1とし、未着用時の対応する衣類の外郭線の長さをL2とし、着用時の関節の所定の運動方向と反対側の解剖学的肢位における衣類の外郭線の長さをL3とし、未着用時の対応する衣類の外郭線の長さをL4とした場合、L1/L2>1、かつ、L1/L2>L3/L4となるようにすることで、着用時に、関節の所定の運動面において、前記関節を覆う部位が前記関節の姿勢によらず常に所定の方向へのトルクを発生することができる。或いは、好ましくは、関節の所定の運動面において、未着用時に関節を構成する近位セグメントを覆う部位に対して、関節を構成する遠位セグメントを覆う部位が所定の方向へ曲げられていることで、着用時に、関節の所定の運動面において、前記関節を覆う部位が前記関節の姿勢によらず常に所定の方向へのトルクを発生することができる。ここで、所定の方向へ曲げられているとは、例えば、
図6(a)に示されているように、関節を構成する近位セグメントを覆う部位と関節を構成する遠位セグメントを覆う部位間に角度をつけてもよく、
図6(b)に示されているように、関節を構成する近位セグメントを覆う部位と関節を構成する遠位セグメントを覆う部位を弧状に連結してもよい。
【0010】
本明細書において、「伸縮性素材」とは、身幅方向における伸長率及び/又は身長方向における伸長率が0%を超えることを意味する。本発明において、素材の伸長率は、JIS L 1096 8.14.1 A法(荷重17.6N、引張速度200mm/min)に基づいて測定するものである。衣類が伸縮性素材で構成されていることで、着用者の身体に密着する。
【0011】
本明細書において、「身長方向」とは着用者の身体の身長方向を意味し、「身幅方向」とは着用者の身体の身幅方向を意味する。
【0012】
前記伸縮性素材としては、伸縮性を有するものであればよく、特に限定されない。例えば織物、編物などの通常の衣類用生地を用いることができる。織物としては、例えば平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織などが挙げられる。編物としては、例えば丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などが挙げられる。前記伸縮性素材は、特に限定されないが、例えば、目付けが120~380g/m2の範囲のものを用いることができる。また、前記伸縮性素材は、エラストマー樹脂又はゴムにより含浸或いはプレス処理されたものでもよい。エラストマー樹脂としては、ウレタン系エラストマー、軟質塩化ビニル系エラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、Syn-1,2-ポリブタジエン系エラストマー、Trans-1,4-ポリイソプレン系エラストマー、フッ素系エラストマー等が挙げられる。ゴムとしては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。また、上記生地は一枚であってもよく、異なる伸長率の二枚の生地を重ねたものであってもよい。
【0013】
前記伸縮性素材を形成する繊維としては、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリアミド繊維、アセテート繊維、コットン繊維、レーヨン繊維、エチレンビニルアルコール繊維、ナイロン繊維などを用いることができる。
【0014】
本明細書において、「運動面」とは、人体の平面に対応するものであり、主に、矢状面、冠状面(前頭面または前額面とも称される。)、水平面を含む。
図5は人体の解剖学的肢位における主要平面を示す模式的斜視図である。100は正中矢状面であり、200は基本冠状面であり、300は基本水平面である。
【0015】
本発明の衣類は、関節の所定の運動面において、未着用時に、関節の所定の運動方向側の衣類の外郭線は捲縮部分を有し、関節の所定の運動方向側の反対側の衣類の外郭線は捲縮部分を有しないものであってもよい。
【0016】
本発明の衣類は、関節の所定の運動をより効果的にアシスト又はサポートする観点から、関節の所定の運動面において、関節を覆う部位における関節の所定の運動方向側の生地の張力が、関節の所定の運動方向と反対側の生地の張力以上であることが好ましい。
【0017】
前記衣類は所定の関節を覆うものであればよく、特に限定されない。例えば、少なくとも下半身を覆うタイツでもよく、足を覆うシューズでもよい。
【0018】
以下、図面に基づいて、本発明の一以上の実施形態に係る衣類を説明する。なお、本発明は、図面に示されたものに限定されない。
【0019】
(タイツ)
まず、タイツについて説明する。タイツは、伸縮性素材で構成され、少なくとも下半身を覆い、着用者の身体に密着する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態の衣類(膝関節外反アシストタイツ)の未着用時の模式的正面図である。
図1はタイツを膝関節の外反動作時の運動面である冠状面に沿って平置きした状態を示す。該実施形態のタイツ1では、冠状面において、膝関節を構成する近位セグメントすなわち大腿セグメントを覆う部位2に対して、膝関節を構成する遠位セグメントすなわち下腿セグメントを覆う部位3が膝関節の外反方向へ曲げられている。該実施形態では、大腿セグメントを覆う部位2と下腿セグメントを覆う部位3間に角度を付けている。角度は、大腿セグメントを覆う部位2の中心軸4と、下腿セグメントを覆う部位3の中心軸5がなす角度θ(劣角)で示すことができる。角度θは、特に限定されず、目的などに応じて適宜設定することができる。例えば、角度θは、8°以上150°以下とすることができる。なお、
図6(b)に示されているように、大腿セグメントを覆う部位と下腿セグメントを覆う部位を弧状に連結してもよい。円弧の曲率Rは、特に限定されず、目的などに応じて適宜設定することができる。例えば、円弧の曲率Rは、0.2m以上2.6m以下とすることができる。タイツ1が上述した構成を有することで、着用時に、膝関節の外反動作の運動面である冠状面において、膝関節を覆う部位が膝関節の姿勢によらず常に外反方向へのトルクを発生し、膝関節の状態によらず常に膝関節の外反をアシストすることができる。
【0021】
また、該実施形態のタイツ1では、冠状面において、大腿セグメントを覆う部位の中心軸4と交わる垂線6とタイツ1の端部が外側(外反方向側)で交わる点をC、内側(外反方向の反対側)で交わる点をEとし、下腿セグメントを覆う部位の中心軸5と交わる垂線7とタイツ1の端部が外側(外反方向側)で交わる点をD、内側(外反方向の反対側)で交わる点をFとした場合、CからDまでのタイツ1の外郭線の長さL2は、EからFまでのタイツ1の外郭線の長さL4より短くなっていることが好ましい。該タイツ1を着用し、解剖学的肢位をとった際、
図7(a)及び(b)に示すように、未着用時のCは着用時のAに対応し、未着用時のDは着用時のBに対応し、未着用時のEは着用時のA’に対応し、未着用時のFは着用時のB’に対応し、未着用時のCからDまでのタイツ1の外郭線の長さL2に対応する着用時のAからBまでのタイツ1の外郭線の長さはL1となり、未着用時のEからFまでのタイツ1の外郭線の長さL4に対応する着用時のA’からB’までのタイツ1の外郭線の長さはL3となる。
図7(a)及び(b)に示されているように、L1/L2>1であり、L1/L2>L3/L4であることが好ましい。タイツ1が上述した構成を有することで、着用時に、膝関節の外反動作の運動面である冠状面において、膝関節を覆う部位が膝関節の姿勢によらず常に外反方向へのトルクを発生し、膝関節の状態によらず常に膝関節の外反をアシストすることができる。
【0022】
本発明において、L1~L4は、以下のようにマネキンを用いて測定することができる。
図11は解剖学的肢位をとっているマネキンの模式的右外側面図であり、
図12は同部分的右斜視図であり、
図13は解剖学的肢位をとっているマネキンに衣類を着用した状態を示す模式的右外側面図であり、
図14は同部分的右斜視図である。
まず、
図11に示すように、マネキン400の大転子の位置にマーカー401、膝関節中心の位置にマーカー402、外果の位置にマーカー403を貼付し、大腿セグメント長Laと下腿セグメント長Lbを計測する。
次に、脚の外側において、膝関節中心から大腿セグメントの長軸にそって近位方向に大腿セグメント長の所定の割合になる位置、例えば、15%、25%、35%に対応するいずれか一つ又は全ての位置にマーカー404を貼付する。
図12に示すように、脚の内側においても、同様の位置にマーカー404を貼付する。
次に、脚の外側において、膝関節中心から下腿セグメントの長軸にそって遠位方向に下腿セグメント長の所定の割合になる位置、例えば、15%、25%、35%に対応するいずれか一つ又は全ての位置にマーカー405を貼付する。
図12に示すように、脚の内側においても、同様の位置にマーカー405を貼付する。
次に、
図13~14に示すように、マネキンに衣類(タイツ)500を着用させ、衣類500において、マネキンに貼付したマーカー401~405と同じ位置にそれぞれ対応するマーカー501~505を貼付する。
次に、マネキンに着用させた状態で衣類500において、膝関節中心から所定のマーカーまでの道のり、すなわちL1及びL3を測定する。或いは、L1及びL3として、所定の二つのマーカー504と505間の道のりを測定してもよい。
次に、マネキンから衣類500を脱衣させた後、未着用状態の衣類500を所定の運動面に沿うように平置きし、対応する膝関節中心からの所定のマーカーまでの道のり、すなわちL2及びL4を測定する。或いは、L2及びL4として、所定の二つのマーカー504と505間の道のりを測定してもよい。
なお、他の関節の場合も、膝関節の場合と同様に、L1~L4を測定することができる。例えば、該関節中心から該関節を構成する近位セグメントの長軸にそって近位方向に近位セグメント長の所定の割合になる位置、好ましくは15%、25%、35%に対応するいずれか一つ又は全ての位置及び該関節中心から該関節を構成する遠位セグメントの長軸にそって遠位方向に遠位セグメント長の所定の割合になる位置、好ましくは15%、25%、35%に対応するいずれか一つ又は全ての位置において、L1~L4を測定する。
【0023】
図2は本発明の他の一実施形態の衣類(膝関節外反アシストタイツ)の未着用時の模式的正面図である。該実施形態のタイツ11は、
図1はタイツを冠状面に沿って平置きした状態を示す。該実施形態のタイツ11では、タイツ11の端部が内側に捲縮部分12を有する以外は、タイツ1と同様の構成を有する。
【0024】
タイツ1及びタイツ11では、図示はないが、裾部にファスナーなど連結部材を設けることが好ましい。タイツのフィット性を高めることができ、また、テンションを容易に緩めることも可能となる。
【0025】
タイツ1及びタイツ11において、関節の外反動作をより効果的にアシストする観点から、冠状面において、関節を覆う部位における関節の外側面の生地の張力が、関節を覆う部位における関節の内側面の生地の張力以上であることが好ましい。
【0026】
図3は本発明の他の一実施形態の衣類(膝関節内反アシストタイツ)の未着用時の模式的正面図である。
図3はタイツを膝関節の内反動作時の運動面である冠状面に沿って平置きした状態を示す。該実施形態のタイツ21では、冠状面において、膝関節を構成する近位セグメントすなわち大腿セグメントを覆う部位22に対して、膝関節を構成する遠位セグメントすなわち下腿セグメントを覆う部位23が膝関節の内反方向へ曲げられている。具体的には、大腿セグメントを覆う部位22と下腿セグメントを覆う部位23間に角度を付けている。角度は、大腿セグメントを覆う部位22の中心軸24と、下腿セグメントを覆う部位23の中心軸25がなす角度θ(劣角)で示すことができる。角度θは、特に限定されず、目的などに応じて適宜設定することができる。例えば、角度θは、8°以上150°以下とすることができる。なお大腿セグメントを覆う部位と下腿セグメントを覆う部位を弧状に連結してもよい。円弧の曲率Rは、特に限定されず、目的などに応じて適宜設定することができる。例えば、円弧の曲率Rは、0.2m以上2.6m以下とすることができる。タイツ21が上述した構成を有することで、着用時に、膝関節の内反動作の運動面である冠状面において、膝関節を覆う部位が膝関節の姿勢によらず常に内反方向へのトルクを発生し、膝関節の状態によらず常に膝関節の外反をアシストすることができる。
【0027】
また、該実施形態のタイツ21では、冠状面において、大腿セグメントを覆う部位の中心軸24と交わる垂線26とタイツ21の端部が内側(内反方向側)で交わる点をC、外側(内反方向の反対側)で交わる点をEとし、下腿セグメントを覆う部位の中心軸25と交わる垂線27とタイツ21の端部が内側(内反方向側)で交わる点をD、外側(内反方向の反対側)で交わる点をFとした場合、CからDまでのタイツ21の外郭線の長さL2は、EからFまでのタイツ21の外郭線の長さL4より短くなっている。該タイツ21を着用し、解剖学的肢位をとった際、未着用時のCは着用時のAに対応し、未着用時のDは着用時のBに対応し、未着用時のEは着用時のA’に対応し、未着用時のFは着用時のB’に対応し、未着用時のCからDまでのタイツ21の外郭線の長さL2に対応する着用時のAからBまでのタイツ21の外郭線の長さはL1となり、未着用時のEからFまでのタイツ21の外郭線の長さL4に対応する着用時のA’からB’までのタイツ21の外郭線の長さはL3となる。L1/L2>1であり、L1/L2>L3/L4であることが好ましい。タイツ21が上述した構成を有することで、着用時に、膝関節の内反動作の運動面である冠状面において、膝関節を覆う部位が膝関節の姿勢によらず常に内反方向へのトルクを発生し、膝関節の状態によらず常に膝関節の内反動作をアシストすることができる。なお、実施形態のタイツ21において、L1~L4は、上述したとおりに測定することができる。
【0028】
タイツ21では、図示はないが、裾部にファスナーなど連結部材を設けることが好ましい。タイツのフィット性を高めることができ、また、テンションを容易に緩めることも可能となる。
【0029】
タイツ21において、関節の内反動作をより効果的にアシストする観点から、冠状面において、関節を覆う部位における関節の内側面の生地の張力が、関節を覆う部位における関節の外側面の生地の張力以上であることが好ましい。
【0030】
図4は本発明の他の一実施形態の衣類(膝関節伸展アシストタイツ)の未着用時の模式的右外側面図である。
図4はタイツを膝関節の伸展動作時の運動面である矢状面に沿って平置きした状態を示す。該実施形態のタイツ31では、矢状面において、膝関節を構成する近位セグメントである大腿セグメントを覆う部位32に対して、膝関節を構成する遠位セグメントである下腿セグメントを覆う部位33が膝関節の伸展方向へ曲げられている。具体的には、大腿セグメントを覆う部位32と下腿セグメントを覆う部位33間に角度を付けている。角度は、大腿セグメントを覆う部位32の中心軸34と、下腿セグメントを覆う部位33の中心軸35がなす角度θ(劣角)で示すことができる。角度θは、特に限定されず、目的などに応じて適宜設定することができる。例えば、角度θは、8°以上150°以下とすることができる。なお、大腿セグメントを覆う部位と下腿セグメントを覆う部位を弧状に連結してもよい。円弧の曲率Rは、特に限定されず、目的などに応じて適宜設定することができる。例えば、円弧の曲率Rは、0.2m以上2.6m以下とすることができる。タイツ31が上述した構成を有することで、着用時に、膝関節の所定の運動面である
矢状面において、膝関節を覆う部位が膝関節の姿勢によらず常に
伸展方向へのトルクを発生し、膝関節の状態によらず常に膝関節の
伸展動作をアシストすることができる。
【0031】
また、該実施形態のタイツ31では、矢状面において、大腿セグメントを覆う部位の中心軸34と交わる垂線36とタイツ31の端部が腹側(伸展方向側)で交わる点をC、背側(伸展方向の反対側)で交わる点をEとし、下腿セグメントを覆う部位の中心軸35と交わる垂線37とタイツ31の端部が腹側(伸展方向側)で交わる点をD、背側(伸展方向の反対側)で交わる点をFとした場合、CからDまでのタイツ31の外郭線の長さL2は、EからFまでのタイツ31の外郭線の長さL4より短くなっている。該タイツ31を着用し、解剖学的肢位をとった際、未着用時のCは着用時のAに対応し、未着用時のDは着用時のBに対応し、未着用時のEは着用時のA’に対応し、未着用時のFは着用時のB’に対応し、未着用時のCからDまでのタイツ31の外郭線の長さL2に対応する着用時のAからBまでのタイツ31の外郭線の長さはL1となり、未着用時のEからFまでのタイツ31の外郭線の長さL4に対応する着用時のA’からB’までのタイツ31の外郭線の長さはL3となる。L1/L2>1であり、L1/L2>L3/L4であることが好ましい。タイツ31が上述した構成を有することで、着用時に、膝関節の伸展動作の運動面である矢状面において、膝関節を覆う部位が膝関節の姿勢によらず常に伸展方向へのトルクを発生し、膝関節の状態によらず常に膝関節の伸展動作をアシストすることができる。なお、実施形態のタイツ31において、L1~L4は、上述したとおりに測定することができる。
【0032】
タイツ31では、裾部の外側部にファスナーなど連結部材38を設けることが好ましい。タイツのフィット性を高めることができ、また、テンションを容易に緩めることも可能となる。
【0033】
タイツ31において、関節の伸展動作をより効果的にアシストする観点から、矢状面において、関節を覆う部位における関節の腹側面の生地の張力が、関節を覆う部位における関節の背側面の生地の張力以上であることが好ましい。
【0034】
(シューズ)
次に、シューズについて説明する。シューズは、伸縮性素材で構成され、足先から足首までを覆い、着用者の足に密着する。
【0035】
図8は本発明の一実施形態の衣類(背屈アシストシューズ)の模式的左外側面図である。
図8はシューズを足関節の背屈動作時の運動面である矢状面に沿って平置きした状態を示す。
図8において、I→IIは、前後方向を示し、足首側において、実線は未着用時のシューズを示し、一点鎖線は着用時のシューズを示す。該実施形態のシューズ50は、矢状面において、履き口51の背屈動作方向側の端点をCとし、履き口51の背屈動作方向の反対側の端点をEとし、アッパー52とソール53の境界の内、背屈動作方向側すなわちCに近い方をDとし、背屈動作方向の反対側すなわちEに近い方をFとした場合、未着用時のCが着用時のAに対応し、未着用時のDが着用時のBに対応し、未着用時のEが着用時のA’に対応し、未着用時のFが着用時のB’に対応する。該シューズ50を着用し、解剖学的肢位をとった際、未着用時のCからDまでのシューズ50の外郭線の長さL2に対応する着用時のAからBまでのシューズ50の外郭線の長さはL1となり、未着用時のEからFまでのシューズ50の外郭線の長さL4に対応する着用時のA’からB’までのシューズ50の外郭線の長さはL3となる。L1/L2>1であり、L1/L2>L3/L4である。
【0036】
シューズ50が上述した構成を有することで、着用時に、足関節の背屈動作の運動面である矢状面において、足関節を覆う部位が足関節の姿勢によらず常に背屈方向へのトルクを発生し、足関節の状態によらず常に足関節の背屈動作をアシストすることができる。
【0037】
図9は本発明の一実施形態の衣類(底屈アシストシューズ)の模式的左外側面図である。
図9はシューズを足関節の底屈動作時の運動面である矢状面に沿って平置きした状態を示す。
図9において、I→IIは、前後方向を示し、足首側において、実線は未着用時のシューズを示し、一点鎖線は着用時のシューズを示す。該実施形態のシューズ60は、矢状面において、履き口61の底屈動作方向側の端点をCとし、履き口61の底屈動作方向の反対側の端点をEとし、アッパー62とソール63の境界の内、底屈動作方向側すなわちCに近い方をDとし、底屈動作方向の反対側すなわちEに近い方をFとした場合、未着用時のCが着用時のAに対応し、未着用時のDが着用時のBに対応し、未着用時のEが着用時のA’に対応し、未着用時のFが着用時のB’に対応する。該シューズ60を着用し、解剖学的肢位をとった際、未着用時のCからDまでのシューズ60の外郭線の長さL2に対応する着用時のAからBまでのシューズ60の外郭線の長さはL1となり、未着用時のEからFまでのシューズ60の外郭線の長さL4に対応する着用時のA’からB’までのシューズ60の外郭線の長さはL3となる。L1/L2>1であり、L1/L2>L3/L4である。
【0038】
シューズ60が上述した構成を有することで、着用時に、足関節の底屈動作の運動面である矢状面において、足関節を覆う部位が足関節の姿勢によらず常に底屈方向へのトルクを発生し、足関節の状態によらず常に足関節の底屈動作をアシストすることができる。
【0039】
図10は本発明の一実施形態の衣類(外反アシストシューズ)の模式的正面図である。
図10はシューズを足関節の外反動作時の運動面である冠状面に沿って平置きした状態を示す。
図10において、I→IIは前後方向を示し、III→IVは内外方向を示し、足首側において、実線は未着用時のシューズを示し、一点鎖線は着用時のシューズを示す。該実施形態のシューズ70は、矢状面において、履き口71の外反動作方向側の端点をCとし、履き口71の外反動作方向の反対側の端点をEとし、アッパー72とソール73の境界の内、外反動作方向側すなわちCに近い方をDとし、外反動作方向の反対側すなわちEに近い方をFとした場合、未着用時のCが着用時のAに対応し、未着用時のDが着用時のBに対応し、未着用時のEが着用時のA’に対応し、未着用時のFが着用時のB’に対応する。該シューズ70を着用し、解剖学的肢位をとった際、未着用時のCからDまでのシューズ70の外郭線の長さL2に対応する着用時のAからBまでのシューズ70の外郭線の長さはL1となり、未着用時のEからFまでのシューズ70の外郭線の長さL4に対応する着用時のA’からB’までのシューズ70の外郭線の長さはL3となる。L1/L2>1であり、L1/L2>L3/L4である。
【0040】
シューズ70が上述した構成を有することで、着用時に、足関節の外反動作の運動面である冠状面において、足関節を覆う部位が足関節の姿勢によらず常に外反方向へのトルクを発生し、足関節の状態によらず常に足関節の外反動作をアシストすることができる。
【0041】
本発明の衣類は、着用時に、関節の所定の運動面において、前記関節を覆う部位が前記関節の姿勢によらず常に所定の方向へのトルクを発生することで、関節の状態によらず常に関節の所定の運動をアシスト又はサポートすることが可能である。前記関節は、特に限定されず、本発明の衣類は、人体の関節の動作をアシスト又はサポートすることが可能である。
【0042】
本発明の衣類は、日常生活に用いてもよく、スポーツを行う際に用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
トリコット生地(経編;身長方向伸長率118%、身幅方向伸長率80.3%;ナイロン繊維82質量%、ポリウレタン繊維18質量%;目付195/m
2)を用いて、
図1に示す膝関節外反アシストタイツ(JASPOサイズL)を作製した。冠状面において、膝関節を構成する近位セグメントすなわち大腿セグメントを覆う部位に対して、膝関節を構成する遠位セグメントすなわち下腿セグメントを覆う部位が膝関節の外反方向へ曲げられており、大腿セグメントを覆う部位の中心軸と、下腿セグメントを覆う部位の中心軸がなす角度θは45°であった。得られたタイツについて、
図11~
図14に示すようにL1~L4を測定し、その結果を下記表1に示した。なお、大腿セグメント長は38cmであり、下腿セグメント長は40cmであった。
【0045】
【0046】
実施例1のタイツを着用した状態で、タイツ外側の張力が内側の長力より大きく、常に膝関節外反方向にトルクを発揮して、膝関節の外反動作をアシストすることができた。
【0047】
(実施例2)
トリコット生地(経編;身長方向伸長率118%、身幅方向伸長率80.3%;ナイロン繊維82質量%、ポリウレタン繊維18質量%;目付195g/m2)を用いて、図4に示す膝関節伸展アシストタイツ(JASPOサイズL)を作製した。矢状面において、膝関節を構成する近位セグメントすなわち大腿セグメントを覆う部位に対して、膝関節を構成する遠位セグメントすなわち下腿セグメントを覆う部位が膝関節の伸展方向へ曲げられており、大腿セグメントを覆う部位の中心軸と、下腿セグメントを覆う部位の中心軸の交わる角度θは30°であった。
【0048】
実施例2のタイツを着用した状態で、タイツ腹側の張力が背側の長力より大きく、常に膝関節伸展方向にトルクを発揮して、膝関節の伸展動作をアシストすることができた。
【0049】
(参考例1)
ストレートな筒状のニットであり、両サイドに樹脂で構成された弯曲可能な支柱を設けた膝サポーターを参考例1とした。
【0050】
(参考例2)
正面から見た状態で平置きした際に脚がストレートになるタイツで、下腿外側から大腿内側へ走行するベルト帯を設けたタイツを参考例2とした。
【0051】
実施例1のタイツ又は参考例1の膝サポーターを着用した状態で機械的膝関節外反トルクを下記のとおりに測定した。その結果を
図15に示した。
【0052】
(機械的膝関節外反トルクの測定)
荷重試験機と膝関節マネキンを用いて、膝関節マネキンに実施例1のタイツ又は比較例1の膝サポーターを着用した状態で、140mm/minの速度で膝関節が10°から30°内反するまで荷重試験機を圧縮させ、定量的な膝関節外反トルク(=O脚を矯正する力)を計測した。
【0053】
図15において、(a)は参考例1の膝サポーターを着用した場合のデータであり、(b)は実施例1のタイツを着用した場合のデータであり、(c)は膝関節が10°内反した場合のデータである。
図15(a)~(c)から分かるように、比較例1の膝サポーターを着用した場合の膝関節外反トルクのピーク値は約1.3Nm、実施例1のタイツを着用した場合の膝関節外反トルクのピーク値は約0.18Nmと大きな差があったが、膝10°内反時の膝関節外反モーメントは、実施例1のタイツを着用した場合の方が正の値を示すのに対し、比較例1の膝サポーターを着用した場合の方が負の値を示しており、むしろ膝関節を内反させる方向に力が発揮されていた。初期の変形性膝関節症では静的な膝関節内反角度は大きくなく、目に見えてO脚変形していない患者も多いためそういった患者に対して膝サポーターは逆効果である可能性があるが、実施例1のタイツの場合は初期の変形性膝関節症に対しても効果を発揮し得る。
【0054】
(歩行における外的膝関節内反モーメントの計測)
健常者4名(ID01-04)及び膝OA患者1名(ID05)に対して、実施例1のタイツを着用した状態、参考例2のタイツを着用した状態、及びコントロール条件で歩行試験を実施し、最大外的膝関節内反モーメントを計測した。その結果を
図16に示した。
【0055】
図16に示されているように、最大外的膝関節内反モーメントは5名中4名でコントロールに対し実施例で低減しており、膝OA患者であるID05でもその効果は表れていた。
【符号の説明】
【0056】
1、11、21、31、500 タイツ
2、22、32 大腿セグメントを覆う部位
12 捲縮部分
3、23、33 下腿セグメントを覆う部位
4、24、34 大腿セグメントを覆う部位の中心軸
5、25、35 下腿セグメントを覆う部位の中心軸
6、26、36 大腿セグメントを覆う部位の中心軸と交わる垂線
7、27、37 下腿セグメントを覆う部位の中心軸と交わる垂線
38 連結部材
50、60、70 シューズ
51、61、71 履き口
52、62、72 アッパー
53、63、73 ソール
100 正中矢状面
200 基本冠状面
300 基本水平面
400 マネキン
401、402、403、404、405、501、502、503、504、505 マーカー