(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】シューズ
(51)【国際特許分類】
A43B 23/26 20060101AFI20221205BHJP
A43B 23/02 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
A43B23/26
A43B23/02 105Z
(21)【出願番号】P 2020188259
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】梶原 遥
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-029716(JP,A)
【文献】特開2009-034334(JP,A)
【文献】実開昭60-128509(JP,U)
【文献】特開平02-041101(JP,A)
【文献】特開2000-152804(JP,A)
【文献】特開平08-089312(JP,A)
【文献】実開平01-139710(JP,U)
【文献】実公昭40-021053(JP,Y1)
【文献】特表2016-518222(JP,A)
【文献】特開2005-000333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/26
A43B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソール、及び前記ソールに取り付けられたアッパーを含むシューズであって、
前記アッパーは、着用者の前足部、中足部の一部、及び踵部を覆うアッパー本体、及び中足部の一部を覆う舌革部を含み
前記舌革部は、前端部、又は前端部及び側部の一部において、前記アッパー本体と連結されており、
前記舌革部の前端部は、前記シューズの後端部から前端部までを通る中心線を基準に前記シューズの後端部からの道程が35%以上50%以下の範囲内に位置
し、
前記アッパーは、さらに靴紐を挿通可能な靴紐通し孔が少なくとも一対設けられた一対の締結部を含み、
前記締結部は、少なくとも前記舌革部の前端部より後方において前記舌革部と分離している後方締結部を含む、シューズ。
【請求項2】
前記アッパーにおいて、着用者の足の少なくとも第2中足骨、第3中足骨、第2楔状骨及び第3楔状骨を覆う部分が伸縮性を有する生地で形成されている、請求項
1に記載のシューズ。
【請求項3】
前記締結部は、前記シューズの後端部から前端部までを通る中心線を基準に前記シューズの後端部からの道程が50%以上60%以下の範囲にも存在する、請求項
1又は
2に記載のシューズ。
【請求項4】
前記アッパーにおいて、着用者の足の少なくとも第2中足骨、第3中足骨、第2楔状骨及び第3楔状骨に覆う部分は生地の重なりがない、請求項1~
3のいずれかに記載のシューズ。
【請求項5】
前記舌革部が前記アッパー本体よりも厚い、請求項1~
4のいずれかに記載のシューズ。
【請求項6】
前記後方締結部は、前記舌革部の外側に位置し、前記舌革部の側部と部分的に重なっている、請求項
1~
5のいずれかに記載のシューズ。
【請求項7】
前記靴紐通し孔に挿通される靴紐をさらに含み、前記靴紐は前記アッパーの内側を通らない、請求項
1~
6のいずれかに記載のシューズ。
【請求項8】
前記アッパー本体において、着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、足長方向よりも足幅方向に伸びやすい、請求項1~
7のいずれかに記載のシューズ。
【請求項9】
前記アッパー本体において、着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、足長方向に10%伸長時の引張強度が50N/mm
2以上である、請求項1~
8のいずれかに記載のシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズに関し、具体的には、足とのフィット性及び足当たりが良好であり、履きやすいシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、シューズのアッパーは、ハトメ部と舌革部が分かれており、材料の重なりがある状態で甲部を覆っている。例えば、特許文献1には、ベース層及びオーゼティックス層を有する材料でアッパーを構成したシューズにおいて、アッパーは中足部全体を覆う舌革部と、舌革部と分離しているハトメ部を含むことが記載されている。一方、近年、足当たりを良好にするために、甲側を一体的に覆うアッパーが提案されている。例えば、特許文献2には、サポート部材を備えたソックス状のアッパーベース部材でアッパーを構成した履物が提案されている。特許文献3には、中足部全体を覆う舌革部がアッパー本体と一体化されたインナー構成要素を備えた履物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開2017/0156443号明細書
【文献】米国特許出願公開2018/0125166号明細書
【文献】米国特許出願公開2020/0022450号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のシューズの場合、中足部全体を覆う舌革部がハトメ部を含むアッパーの他の部分と分かれていることから、足とのフィット性が劣り、また舌革部がハトメ部と材料の重なりがある状態で足を覆っていることから、足当たりも劣る。特許文献2及び3に記載のシューズの場合、甲側を一体的に覆うことから、足とのフィット性及び足当たりはよいが、履き口部が狭く、履きにくい問題があった。
【0005】
本発明は、前記の問題を解決するため、足とのフィット性及び足当たりが良好であり、履きやすいシューズを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1以上の実施態様において、ソール、及び前記ソールに取り付けられたアッパーを含むシューズであって、前記アッパーは、着用者の前足部、中足部の一部、及び踵部を覆うアッパー本体、及び中足部の一部を覆う舌革部を含み、前記舌革部は、前端部、又は前端部及び側部の一部において、前記アッパー本体と連結されており、前記舌革部の前端部は、前記シューズの後端部から前端部までを通る中心線を基準に前記シューズの後端部からの道程が35%以上50%以下の範囲内に位置することを特徴とするシューズに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の1以上の実施態様によれば、足とのフィット性及び足当たりが良好であり、履きやすいシューズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の1実施態様のシューズ(左足)の模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、同シューズにおいて、靴紐の一部を省略し、舌革部及び舌革部と分離している締結部の分離部を強調して示した模式的斜視図である。
【
図4】
図4は、同シューズのアッパーの模式的表面展開図である。
【
図5】
図5は、同シューズのアッパーのソールの当接面の模式的表面図である。
【
図6】
図6は、シューズの足当接面の最後端から最先端までを通る中心線(ラスト中心線)を基準にするシューズの後端部からの道程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本出願の発明者は、シューズについて、甲側を一体的に覆うアッパー構造がもたらす足とのフィット性及び足当たりの良さを維持しつつ、履きにくさを改善するために検討を重ねた。その結果、中足部は足とのフィット性及び足当たりに対する影響が大きく、アッパーを、着用者の前足部、中足部の一部、及び踵部を覆うアッパー本体、及び中足部の一部を覆う舌革部を含む構造にするとともに、シューズの後端部から前端部までを通る中心線(以下において、ラスト中心線とも記す。)を基準にシューズの後端部からの道程が35%~50%の範囲内において、舌革部の前端部とアッパー本体を連結することで、足とのフィット性及び足当たりが良好であるとともに、履きやすいシューズを提供し得ることを見出した。
【0010】
本願において、上方(上側/上)及び下方(下側/下)とは、シューズの上下方向の位置関係を表し、前方(前側/前)及び後方(後側/後)とは、シューズの前後方向の位置関係を表しており、幅方向とはシューズの左右方向を指すものとする。
【0011】
本発明の1以上の実施形態において、シューズの後端部から前端部までを通る中心線は、アッパーの足当接面(アッパーの内面)における最後端及び最先端を結んだ直線を意味する。通常、アッパーの足当接面の最後端において、踵の最後端がアッパーに当接し、アッパーの足当接面の最先端において、つま先の最先端がアッパーに当接する。
本発明の1以上の実施形態において、シューズの足当接面の最後端から最先端までを通る中心線(ラスト中心線とも記す。)を基準にシューズの最後端からの道程が35%~50%の範囲とは、ソールの足当接面の最後端の位置を原点とし、ソールの足当接面に沿って測定した爪先の最先端までの道程をLとした場合、ソールの足当接面の最後端からの道程が0.35Lとなる位置からラスト中心線に対して垂直になるように引いた直線と、ソールの足当接面の最後端からの道程が0.5Lとなる位置からラスト中心線に対して垂直になるように引いた直線間の領域を意味する。
【0012】
シューズの足当接面の最後端から最先端までを通る中心線を基準にシューズの最後端からの道程が35%~50%の範囲は、足の縦アーチの中心から甲の一番高い箇所までの領域に対応し、舌革部の前端部、すなわち舌革部とアッパー本体の連結部が該範囲に位置することで、アッパー本体のいわゆるブーティ構造による足とのフィット性及び足当たりの良さを維持しつつ、側部の一部又は全部において、アッパー本体と分離している舌革部によって履きやすさを達成することができる。アッパー本体と舌革部の連結は、特に限定されないが、例えば、縫製、接着、刺繍等の連結手段にて行うことができる。舌革部の側部の一部がアッパー本体と連結されている場合、舌革部の側部は、前側の方がアッパー本体と連結されていることが好ましい。
【0013】
本発明の1以上の実施形態において、アッパーは、さらに靴紐を挿通可能な靴紐通し孔(ハトメとも称される。)が少なくとも一対設けられた一対の締結部を含み、前記締結部は、少なくとも前記舌革部の前端部より後方において前記舌革部と分離していることが好ましい。これにより、良好な足とのフィット性及び足当たりに加えて、ホールド性も良好になる。
【0014】
本発明の1以上の実施形態において、締結部は、ラスト中心線を基準にシューズの後端部からの道程が50~60%の範囲にも存在することが好ましい。これにより、ホールド性がより良好になる。本発明の1以上の実施形態において、ラスト中心線を基準にシューズの最後端からの道程が50%~60%の範囲とは、ソールの足当接面の最後端の位置を原点とし、ソールの足当接面に沿って測定した爪先の最先端までの道程をLとした場合、ソールの足当接面の最後端からの道程が0.5Lとなる位置からラスト中心線に対して垂直になるように引いた直線と、ソールの足当接面の最後端からの道程が0.6Lとなる位置からラスト中心線に対して垂直になるように引いた直線間の領域を意味する。
【0015】
本発明の1以上の実施形態において、シューズは、前記靴紐通し孔に挿通される靴紐をさらに含んでもよい。前記靴紐は前記アッパーの内側を通らないことが好ましい。靴紐による凹凸がなく、足当たりがより良好になる。
【0016】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、前記舌革部と分離している前記締結部の分離部は、前記舌革部の外側に位置し、前記舌革部の側部と部分的に重なっていることが好ましい。これにより、靴紐による食い込みを緩和し、足当たりがより良好になる。
【0017】
本発明の1以上の実施形態において、アッパー本体を構成する生地は、特に限定されないが、足当たりの観点から、繊維構造物で構成することが好ましい。繊維構造物としては、例えば、編物、織物等が挙げられる。アッパー本体は、一体的に編成された編物で構成されてもよく、一体的に織成された織物で構成されてもよい。また、アッパー本体は、複数の生地片を一体化した構造であってもよい。複数の生地片は、例えば、縫製、接着、刺繍等によって接合させることで一体化することができる。足当たりの観点から、接合部において、生地の重なりがないことが好ましい。
【0018】
本発明の1以上の実施形態において、舌革部を構成する生地は、特に限定されないが、足当たりの観点から、繊維構造物で構成することが好ましい。繊維構造物としては、例えば、編物、織物等が挙げられる。
【0019】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、アッパーにおいて、着用者の足の少なくとも第2中足骨、第3中足骨、第2楔状骨及び第3楔状骨を覆う部分が伸縮性を有する生地で形成されていることが好ましい。これにより、足の甲部のフィット性がより良好にあり、足当たりにも優れる。
【0020】
本発明の1以上の実施形態において、伸縮性を有するとは、生地の足幅方向における伸長率及び/又は足長方向における伸長率が40%以上であることを意味する。本発明において、生地の伸長率は、JIS L 1096 8.14.1 A法に準じた方法により、測定することができる。
【0021】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、アッパーにおいて、着用者の足の少なくとも第2中足骨、第3中足骨、第2楔状骨及び第3楔状骨に覆う部分は生地の重なりがないことが好ましい。これにより、足の甲部のフィット性がより良好にあり、足当たりにも優れる。
【0022】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、軽量性及び通気性の観点から、アッパー本体はメッシュ生地で構成することが好ましい。メッシュ生地としては、特に限定されず、シングルラッセル、ダブルラッセル、及びトリコット等の経編地、平編み、及び丸編み等の緯編地を用いることができる。
【0023】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、アッパー本体において、着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、足長方向よりも足幅方向に伸びやすいことが好ましい。これにより、足の甲部の形状に沿いやすく、足とのフィット性がより向上する。本発明の1以上の実施形態において、「着用者の足の甲の中央部」とは、足の甲の幅方向の中心線から左右20mmずつ延在する幅が計40mmになる部分を意味する。
【0024】
本発明の1以上の実施態様のアッパー本体において、着用者の足の甲の中央部を覆う部分を足長方向よりも足幅方向に伸びやすい構造にする観点から、該部分を非弾性糸及び弾性糸を含む経編地で構成することが好ましく、より好ましくは前記経編地が非弾性糸を85~95質量%、及び弾性糸を5~15質量%含み、さらに好ましくは非弾性糸を90~95質量%、及び弾性糸を5~10質量%含む。前記経編地は、弾性糸の長手方向(糸長方向)が足甲カバーの足幅方向に沿うように配置される。弾性糸は、挿入糸として用いてもよく、非弾性糸をカバーリングしたカバーリング糸として用いてもよい。
【0025】
本発明の1以上の実施態様のアッパー本体において、着用者の足の甲の中央部を覆う部分を足長方向よりも足幅方向に伸びやすい構造にする観点から、着用者の足の甲の中央部を覆う部分以外の部分は、非弾性糸で構成されていることが好ましい。
【0026】
本発明の1以上の実施態様において、特に限定されないが、弾性糸は、例えば、破断伸度が20%以上であることが好ましく、20%以上50%以下であることがより好ましい。本発明の1以上の実施態様において、弾性糸は、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系弾性繊維(スパンデックスとも称される。)、ポリエーテルエステル系弾性繊維、ナイロン繊維等で構成された弾性糸等が挙げられる。弾性糸は、弾性繊維のみで構成されてもよく、弾性繊維と後述する非弾性繊維を組み合わせた糸でもよい。
【0027】
本発明の1以上の実施態様において、特に限定されないが、非弾性糸は、例えば、破断伸度が20%未満であることが好ましい。非弾性糸としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維;ポリアミド系繊維;ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維;キュプラ、レーヨン、綿、竹繊維等のセルロース系繊維;羊毛等の獣毛系繊維等の非弾性繊維で構成された非弾性糸等が挙げられる。
【0028】
本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、足長方向に伸長しにくく、足長方向に10%伸長時の引張強度が50N/mm2以上であることが好ましく、55N/mm2以上であることがより好ましく、60N/mm2以上であることがさらに好ましく、65N/mm2以上であることが特に好ましい。これにより、吊り上げ効果を発生し、ランニングの際に前足部又は中足部で接地した後の踵の落ち込みが抑制され、足が前に進みやすくなる。本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、吊り上げ効果と足当たりを両立させる観点から、80N/mm2以下であってもよく、70N/mm2以下であってもよい。より具体的には、本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、足長方向に10%伸長時の引張強度が50N/mm2以上80N/mm2以下であることが好ましく、55N/mm2以上70N/mm2以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、足幅方向に伸長しやすく、例えば、長期間着用時の着用性を向上する観点から、足幅方向に10%伸長した際の引張強度が10N/mm2以下であることが好ましく、5N/mm2以下であることがより好ましく、1N/mm2以下であることがさらに好ましい。本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、足あたり及びホールド性を両立する観点から、0.02N/mm2N以上であることが好ましく、0.15N/mm2以上であることがより好ましい。より具体的には、本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分は、0.02N/mm2以上10N/mm2以下であることが好ましく、0.15N/mm2以上5N/mm2以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分の10%伸長時の引張強度は、JIS L 1096 8.14.1 A法に準じ、引張速度100mm/minの条件下で測定することができる。
【0031】
本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体は、一体的に編成されたで経編地で構成され、着用者の足の甲の中央部を覆う部分は非弾性糸及び弾性糸で編成し、着用者の足の甲の中央部を覆う部分以外の部分は、非弾性糸で編成してもよい。
【0032】
本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分と、着用者の足の甲の中央部を覆う部分以外の部分は、それぞれ異なる生地片で構成され、該異なる生地片を縫製、接着、刺繍等によって接合させることで一体化したものでもよい。好ましくは、異なる生地片は刺繍によって接合していることが好ましい。これにより足当たりが良く、足の甲側とシューズのフィット性が良好になる。刺繍箇所には、補強不織布が配置されており、接合強度も高い。前記補強不織布は、特に限定されず、一般的に刺繍の際に用いられる不織布でよい。前記刺繍は、サテン刺繍であってもよく、タタミ刺繍でもよい。
【0033】
本発明の1以上の実施態様において、特に限定されないが、軽量性及び通気性の観点から、アッパー本体を構成する生地は、目付(単位面積当たりの質量)が300g/m2以上550g/m2以下であることがより好ましく、300g/m2以上410g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、舌革部がアッパー本体よりも厚いことが好ましい。これにより、靴紐による食い込みを緩和し、足当たりがより良好になる。本発明の1以上の実施態様において、舌革部を構成する生地は、目付が、250g/m2以上550g/m2以下であることがより好ましく、250g/m2以上410g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の1以上の実施態様において、アッパー本体は、足の裏側の全体を覆うような形状でもよい。この場合、アッパー本体は、袋状の形状を有する。これにより、アッパーとソールの一体性がより高まり、足とのフィット性がより向上する。
【0036】
本発明の1以上の実施態様のシューズにおいて、アッパーはソールに取り付けられている。取付方法は、特に制限されず、例えば通常のセメンテッド式製法等が挙げられる。ソールは、シューズの用途等に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0037】
本発明の1以上の実施態様において、シューズの爪先部、踵部、締結部は、それぞれ人工皮革を用いて補強した方が好ましい。補強することによって、シューズの形状を保ち、ホールド性を保つことができる。また、必要に応じて、シューズのアッパーの表面に装飾を施してもよい。
【0038】
以下、本発明の実施態様を図面に基づいて詳細に説明する。各図面において、同一符号は同一部分を示す。なお、本発明は、下記の図面に示した実施態様に限定されない。図面では、左足を例として説明しており、右足は省略している。
【0039】
図1は、本発明の1実施態様のシューズ(左足)の模式的斜視図である。
図2は、同シューズにおいて、靴紐の一部を省略し、舌革部及び舌革部と分離している締結部の分離部を強調して示した模式的斜視図である。
図3は、同シューズの模式的表面図である。
図4は、同シューズのアッパーの模式的表面展開図である。
図5は、同シューズのアッパーのソール当接面の模式的表面図である。
【0040】
該実施形態のシューズ1は、ソール2と、アッパー3を備えている。アッパー3は、着用者の前足部、中足部の一部、及び踵部を覆うアッパー本体4、及び中足部の一部を覆う舌革部5を含む。
【0041】
舌革部5は、前端部51において、縫製にてアッパー本体4と連結されている。舌革部5は、前端部51に加えて、側部52の一部においても、アッパー本体4と連結されていてもよい。舌革部5は、側部52の前方でアッパー本体4と連結されていることが好ましい。
【0042】
舌革部5の前端部51は、シューズの後端部から前端部までを通る中心線を基準にシューズの後端部からの道程が35%~50%の範囲内に位置する。
【0043】
図6は、シューズの足当接面の最後端から最先端までを通る中心線(ラスト中心線)を基準にするシューズの後端部からの道程を説明する模式図である。シューズの足当接面を説明するために、ラストを用いている。ラスト中心線100は、アッパーの足当接面(内側)における最後端Ur及び最先端Ufを結んだ直線である。ソールの足当接面の最後端の位置を原点Srとし、ソールの足当接面に沿って測定した爪先の最先端Sfまでの道程(ラスト底面に沿った道程に相当、以下全道程とも記す。)をLとした場合、ソールの足当接面の最後端Srからの道程が全道程の所定の割合になる位置から、ラスト中心線に対して垂直になるように引いた直線の位置が、ラスト中心線を基準にするシューズの後端部からの道程が全道程の所定の割合になる位置となる。例えば、ラスト中心線を基準にするシューズの後端部からの道程が35%の位置とは、ソールの足当接面の後端Srからの道程が0.35Lとなる位置からラスト中心線に対して垂直になるように引いた直線101の位置となる。ラスト中心線を基準にするシューズの後端部からの道程が50%の位置とは、ソールの足当接面の後端Srからの道程が0.5Lとなる位置からラスト中心線に対して垂直になるように引いた直線102の位置となる。ラスト中心線を基準にシューズの最後端からの道程が35%~50%の範囲は、直線101と直線102で挟まれた領域103となる。
【0044】
アッパー本体4において、着用者の足の甲の中央部を覆う部分41及びその他の部分42は、異なる生地片で構成されている。該異なる生地片は、刺繍にて接合されている。その他の部分42は、一枚生地で構成され、アッパー本体4は袋状に縫製されており(縫製線20)、足裏全体も覆っている。着用者の足の甲の中央部を覆う部分41は、足長方向よりも足幅方向に伸びやすいことが好ましい。その他の部分42は、足長方向及び足幅方向のいずれの方向にも伸びにくいことが好ましい。
【0045】
着用者の足の甲の中央部を覆う部分41は、例えば、弾性繊維(弾性糸)5質量%以上15質量%以下、非弾性繊維(非弾性糸)85質量%以上95質量%以下を含み、弾性繊維(弾性糸)の長手方向が足幅方向に沿うように配置され、目付が300g/m2以上550g/m2以下であり、厚みが1mm以上5mm以下のシングルラッセル生地で構成することができる。弾性糸としては、例えば、スパンデックス(モノフィラメント、140dtex)を用いることができる。非弾性糸としては、例えば、ポリエステル系非弾性糸(マルチフィラメント、48本、150dtex)を用いることができる。
【0046】
その他の部分42は、例えば、非弾性繊維(非弾性糸)で構成され、目付が300g/m2以上550g/m2以下であり、厚みが1mm以上5mmシングルラッセル生地で構成することができる。非弾性繊維(非弾性糸)としては、例えば、ポリエステル系非弾性糸(マルチフィラメント、48本、150dtex)を用いることができる。
【0047】
上述した生地でアッパー本体を構成した場合、着用者の足の甲の中央部を覆う部分41を足長方向に10%伸長した際の引張強度を50N/mm2以上70N/mm2以下の範囲になるように調整しやすい。また、着用者の足の甲の中央部を覆う部分41を足長方向に10%伸長した際の引張強度が10N/mm2以上70N/mm2以下の範囲になるように調整しつつ、着用者の足の甲の中央部を覆う部分41を足幅方向に10%伸長した際の引張強度が0.01N/mm2以上10N/mm2以下の範囲になるように調整しやすい。
【0048】
アッパー3は、さらに、締結部6を含み、締結部6には、靴紐7を挿通可能な靴紐通し孔8a、bが少なくとも一対設けられていることが好ましい。締結部6は、舌革部5の前端部より後方において舌革部5と分離している後方締結部9を含んでもよい。後方締結部9は、舌革部5の外側(上方)に配置し、舌革部5の側部と部分的に重なっていることが好ましい。後方締結部9は、アッパー本体4を構成する生地の外側(上方)及び内側(下方)に配置されている補強層を有してもよい。外側補強層は、例えば、人工皮革で構成することができる。
【0049】
締結部6は、ラスト中心線を基準にシューズの最後端からの道程が50%以上60%以下の範囲にも存在してもよい。締結部6において、前方締結部10は、刺繍により所定の太さの紐等を所定の大きさの靴紐通し孔を構成するようアッパー本体4と一体化することで構成してもよい。
【0050】
アッパー3では、伸長制御部30を設けることで、足長方向及び足幅方向の伸長の度合いを適宜調整してもよい。伸長制御部30は、補強及び美観の観点から、刺繍を施すことで設けることができる。
【0051】
シューズ1には、履き口11が形成されている。シューズ1は、さらに、爪先補強部12と、ヒールカウンター13を備えている。爪先補強部12は、例えば、人工皮革で構成することができる。ヒールカウンター13は、刺繍で構成することができる。ヒールカウンター13には、ライニング材が備えられていてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて、本発明の1以上の実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例及び比較例において、下記の生地を用いた。
生地a:スパンデックス(モノフィラメント、140dtex)5~15質量%、ポリエステル系非弾性糸(マルチフィラメント、48本、150dtex)85~95質量%で構成されたシングルラッセル編地であり、目付は402g/m2、厚みは1.00mmであった。生地aの足長方向の伸長率は19.5%であり、足幅方向の伸長率は800%であった。生地aを足長方向に10%伸長時の引張強度は31N/mm2であり、足幅方向に10%伸長時の引張強度は0.02N/mm2であった。
生地b:ポリエステル系非弾性糸(マルチフィラメント、48本、150dtex)100質量%で構成されたシングルラッセル編地であり、目付は232g/m2、厚みは0.64mmであった。生地bの足長方向の伸長率は35%であり、足幅方向の伸長率80%であった。生地bを足長方向に10%伸長時の引張強度は16N/mm2であり、足幅方向に10%伸長時の引張強度は0.2N/mm2であった。
生地c:スパンデックス(モノフィラメント、140dtex)15質量%、ポリエステル系非弾性糸(マルチフィラメント、48本、150dtex)85質量%で構成されたダブルラッセル編地であり、目付は267g/m2、厚みは1.7mmであった。生地cの足長方向の伸長率は800%であり、足幅方向の伸長率は900%であった。生地cを足長方向に10%伸長時の引張強度は0.02N/mm2であり、足幅方向に10%伸長時の引張強度は0.01N/mm2であった。
なお、生地a、b、cの伸長率は、JIS L 1096 8.14.1 A法に基づいて引張速度200mm/minの条件下測定し、生地a、b、cの引張強度は、JIS L 1096 8.14.1 A法に基づいて、引張速度100mm/minの条件下で測定した。
【0054】
(実施例1)
着用者の足の甲の中央部を覆う部分41には生地aを用い、その他の部分42には生地bを用い、舌革部5には生地cを用い、
図1-4に示すシューズを作製した。アッパー本体4は舌革部5の前端部のみで縫製により舌革部5と連結されており、舌革部5の前端部は、ラスト中心線を基準にシューズの後端部からの道程が48%の箇所に位置していた。舌革部5の後端部は、ラスト中心線を基準にシューズの後端部からの道程が35%の箇所に位置していた。
【0055】
(比較例1)
舌革部5の前端部が、ラスト中心線を基準にシューズの後端部からの道程が65%(50%を超える)の箇所に位置するようにした以外は、実施例1と同様にしてシューズを作製した。
【0056】
(比較例2)
舌革部5の前端部及び両側部の全てを縫製にてアッパー本体4と連結した以外は、実施例1と同様にしてシューズを作製した。
【0057】
実施例及び比較例のシューズを被験者に着用させ、足とのフィット感、足当たり及び履きやすさの度合いを官能評価した。実施例1の場合は、足とのフィット感及び足当たりが良好であり、履きやすかった。一方、比較例1の場合、履きやすいが、足とのフィット感及び足当たりが悪かった。比較例2の場合、足とのフィット感及び足当たりが良好であったが、履きにくかった。
【0058】
上述した実施態様はあらゆる点で本発明の単なる例示としてのみみなされるべきものであって、限定的なものではない。本発明が関連する分野の当業者は、本明細書中に明示の記載はなくても、上述の教示内容を考慮するとき、本発明の精神及び本質的な特徴部分から外れることなく、本発明の原理を採用する種々の実施態様を構築し得る。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の1以上の実施態様のシューズは、ランニングシューズ等のスポーツシューズをはじめとする各種シューズとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 シューズ
2 ソール
3 アッパー
4 アッパー本体
5 舌革部
6 締結部
7 靴紐
8a、b 靴紐通し孔(ハトメ)
9 後方締結部
10 前方締結部
11 履き口
12 爪先補強部
13 ヒールカウンター
20 縫製線
30 伸長制御部
41 アッパー本体の着用者の足の甲の中央部を覆う部分
42 アッパー本体のその他の部分
51 舌革部の前端部
52 舌革部の側部
100 ラスト中心線
101、102 ラスト中心線に垂直になるように引いた直線
103 ラスト中心線に垂直になるように引いた直線間の領域