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特許7187535透明導電性酸化物及び半導体被覆のフラッシュ・アニーリング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】透明導電性酸化物及び半導体被覆のフラッシュ・アニーリング
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/245 20060101AFI20221205BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20221205BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20221205BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C03C17/245 A
C23C14/58 C
C23C14/08 D
B32B9/00 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020505890
(86)(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 US2018045062
(87)【国際公開番号】W WO2019028287
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】15/669,225
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518301590
【氏名又は名称】ビトロ フラット グラス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガンジュ、 アシュトシュ
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー、パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ナラヤナン、スダルシャン
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-536246(JP,A)
【文献】特開平03-157976(JP,A)
【文献】特表2013-517206(JP,A)
【文献】国際公開第2016/038269(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0199496(US,A1)
【文献】特表2015-505790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0021149(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/245
C03C 17/34 -17/42
C23C 14/58
C23C 14/08
B32B 1/00 -43/00
H01L 21/28 -21/288
H01L 21/44 -21/445
H01L 29/40 -29/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性酸化物又は半導体を含む層を含む被覆基材を作製する方法であって、
a.不活性雰囲気中で基材の少なくとも一部分の上に、少なくとも1,000cm-1の可視スペクトル内の波長の吸収係数を有する透明金属酸化物又は半導体層を堆積させるステップと、
b.前記可視スペクトル内の前記波長で前記層が少なくとも1,000cm-1の吸収係数を有する光を含む前記可視スペクトル内の非コヒーレント光の3.5J/cm~6.0J/cmの範囲のパルスによって、15℃~40℃の範囲の温度で前記透明導電性酸化物又は半導体層の少なくとも一部分をフラッシングするステップとを含み、
前記パルスが、前記透明導電性酸化物又は半導体の分割層をもたらす前記層の厚さより小さい前記層内の侵入深さを有し、前記分割層の各層が、異なる物理的特性を有する、方法。
【請求項2】
前記パルスが、4.0J/cm~5.0J/cmの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記透明導電性酸化物又は半導体層が、透明導電性酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記透明導電性酸化物が、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、及びこれらの混合物の酸化物である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記透明導電性酸化物が、インジウム・スズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物、亜鉛スズ酸化物、インジウム・カドミウム酸化物、カドミウム・スズ酸化物、スズ酸バリウム、バナジン酸ストロンチウム、又はバナジン酸カルシウムである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記透明導電性酸化物が、2mTorr~5mTorrの雰囲気中で堆積される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記透明導電性酸化物が、3(体積)%以下の酸素を含む雰囲気中で堆積される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記透明導電性酸化物が、インジウム・スズ酸化物である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記インジウム・スズ酸化物が、2.5%未満の酸素を有する不活性雰囲気中で、2mTorr~5mTorrの範囲の圧力で堆積され、且つ/又は前記インジウム・スズ酸化物が、150nm~400nmの範囲の厚さを有する層内で堆積される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記インジウム・スズ酸化物が、300nm~2μmの範囲の厚さを有する層内に堆積され、フラッシュの侵入深さが、インジウム・スズ酸化物層の前記厚さより小さく、前記透明導電性酸化物又は半導体の分割層をもたらし、前記分割層の各層が、異なる物理的特性を有する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記透明導電性酸化物又は半導体層が、酸素が欠乏している透明導電性酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記基材が透明である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記基材がガラス又はプラスチック材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記透明導電性酸化物又は半導体層が、3%以下の酸素を含む雰囲気中で150nm~400nmの範囲の厚さを有する層内に堆積されたインジウム・スズ酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記パルスが単一パルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
源と前記層のスタックとの間にマスクが配置され、したがって前記フラッシュの少なくとも一部分がマスキングされ、前記フラッシュからの光が、前記層のスタックに到達しないように前記マスクによって部分的に阻止され、前記層のスタックの一部分のみに到達し、それによって前記層のスタック内に反射色、透過色、異なるシート抵抗、及び/又は放射率のパターンを生じさせる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
a.基材と、
b.前記基材の少なくとも一部分の上の透明導電性酸化物又は半導体を含む層とを含み、前記層が、第1のシート抵抗を有する第1の副層と、前記第1の副層の真上に位置し、前記第1のシート抵抗より低い第2のシート抵抗を有する第2の副層とを含む、
透明物品。
【請求項18】
前記透明導電性酸化物又は半導体が、インジウム・スズ酸化物を含む、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記透明導電性酸化物又は半導体を含む層が、300nm~2μmの範囲の厚さを有する、請求項17に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
透明物及び光学デバイスを含む物品のための被覆をフラッシュ・アニーリングする方法が、本明細書に提供される。
【背景技術】
【0002】
透明導電性酸化物(TCO:Transparent conductive oxide)は、誘電体層として建築物及び自動車用の透明物の作製、並びに発光ダイオード(LED:light-emitting diode)、たとえば有機LED(OLED:organic LED)などの電気光学デバイス、及び光起電性薄膜ソーラー・セルなどのソーラー・セルで使用されることが多い。LED及びOLEDは、電流の印加に応答して可視光などの電磁放射を放出する放出層を有するデバイスである。放出層は、2つの電極(アノード及びカソード)間に位置する。アノードとカソードとの間に(すなわち、放出層を通って)電流が流れたとき、放出層は電磁エネルギーを放出する。OLEDは、テレビジョン・スクリーン、コンピュータ・モニタ、移動電話、パーソナル・デジタル・アシスタント(PDA:personal digital assistant)、時計、照明、及び様々な他の電子デバイスなどの多数の応用例で使用される。米国特許第9,627,652号は、OLEDデバイスを記載している。建築、光学、及び光電子工学におけるTCOの多用性のため、TCO又は半導体層の独特の物理的属性、たとえば電気的及び/又は光学的属性を迅速且つ安価にもたらす方法を有することが、最も望ましい。
【0003】
建築物及び自動車用の透明物の分野では、日射制御被覆が知られている。それらの被覆は、車両又は建物に入る太陽光エネルギーの量を低減させるために、太陽光赤外又は太陽光紫外放射の範囲などの選択された範囲の電磁放射を阻止又は濾過する。こうした太陽光エネルギー透過率の低減は、車両又は建物の冷却ユニットにかかる負荷を低減させるのに役立つ。自動車の応用例では、透明物(フロントガラスなど)は、典型的に、乗客が車両の外を見ることを可能にするために、70パーセントより大きい透過率などの比較的高い可視光線透過率を有することが必要とされる。建築物の応用例の場合、可視光線透過率をより低くすることができる。いくつかの建築物の応用例では、建物内への可視性を低下させて、可能な限り大きいプライバシーを保持しながら、それでもなお可視光が建物に入ることを可能にし、さらに建物内で働く人が外を見ることも可能にするために、反射性の外面を有することが所望されることがある。
【0004】
建築技術の当業者には理解されるように、典型的にはガラスが、そのガラスの所望の最終用途に応じて、焼き戻し済みの形又は未焼き戻し(アニーリング済み)の形で使用される。アニーリング済みガラスの場合、ガラスをガラスの徐冷点まで加熱し、次いでガラスの歪み点を下回るまでゆっくりと冷却させる。アニーリング済みガラスは、ドア、窓などのための所望の最終寸法に切断することができる。さらに強いガラスの場合、焼き戻しが使用される。焼き戻しでは、ガラスをガラスの徐冷点を上回るまで加熱し、次いで冷却媒体をガラスに誘導することなどによって迅速に冷却して、外部からの圧縮力及び内部からの引張り力をガラスに提供する。強化ガラスは、アニーリング済みガラスよりはるかに強く、安全性が重要な要因となる場所で使用される。しかし、アニーリング済みガラスとは異なり、強化ガラスを切断することはできず、さもなければ粉々に砕ける。したがって、強化ガラスが所望される場合、焼き戻し前にガラスを所望の最終寸法に切断しなければならない。
【0005】
従来の建物は、アニーリング済みガラス片(未焼き戻し)と強化ガラス片との両方を日射制御被覆とともに必要とすることがある。たとえば、日射制御被覆を有するアニーリング済みガラスは、より下の階で使用することができ、日射制御被覆を有する強化ガラスは、安全性の増大のためにより上の階で使用される。被覆アニーリング済みガラス及び被覆強化ガラスはどちらも、建物が全体的に同じ審美的外観を維持するように、同じ又は非常に類似の光学的特性を有するべきである。これは、被覆ガラス製造者にとって問題を引き起こす。被覆ガラス片を焼き戻しする結果、ガラスを焼き戻しするために必要とされる余分の加熱ステップ及び迅速な冷却ステップによって引き起こされる被覆の変化のため、元のアニーリング済み製品とは異なる色又は光学的特性を有する焼き戻し済み製品が得られる可能性がある。アニーリング済み製品及び焼き戻し済み製品が同じ建物内で使用される場合、被覆強化ガラスと被覆アニーリング済みガラスとの間の透過率又は反射率などの色又は他の光学的特性のこのような違いは望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第9,627,652号
【文献】米国特許第4,466,562号
【文献】米国特許第4,671,155号
【文献】米国特許第4,379,040号
【文献】米国特許第4,861,669号
【文献】米国特許第4,898,789号
【文献】米国特許第4,898,790号
【文献】米国特許第4,900,633号
【文献】米国特許第4,920,006号
【文献】米国特許第4,938,857号
【文献】米国特許第5,328,768号
【文献】米国特許第5,492,750号
【文献】米国特許第4,193,236号
【文献】米国特許第4,464,874号
【文献】米国特許第5,088,258号
【文献】米国特許第5,106,663号
【文献】米国特許第4,746,347号
【文献】米国特許第4,792,536号
【文献】米国特許第5,030,593号
【文献】米国特許第5,030,594号
【文献】米国特許第5,240,886号
【文献】米国特許第5,385,872号
【文献】米国特許第5,393,593号
【文献】米国特許第9,604,875号
【文献】米国特許第7,910,229号
【文献】米国特許出願公開第20110117300号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラスの審美性を整合させることは困難である。その結果、2つのタイプのガラス間の審美性に大きな違いをもたらすことなく、2つのタイプのガラスを同じ建物内で使用することを可能にするために、ガラスの審美性を変えて強化ガラス板の審美性に整合するように被覆ガラス板を処理する方法を有することが望ましいはずである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、透明導電性酸化物又は半導体を含む層を含む被覆基材を作製する方法が提供される。この方法は、不活性雰囲気中で基材の少なくとも一部分の上に、少なくとも1,000cm-1の可視スペクトル内の波長の吸収係数を有する透明金属酸化物又は半導体層を堆積させるステップと、可視スペクトル内の波長で層が少なくとも1,000cm-1の吸収係数を有する光を含む可視スペクトル内の非コヒーレント光の3.5J/cm~6.0J/cmの範囲のパルスによって、15℃~40℃の範囲の温度で透明導電性酸化物又は半導体層の少なくとも一部分をフラッシングするステップとを含む。
【0009】
本発明の別の態様によれば、透明物品が提供される。物品は、基材と、基材の少なくとも一部分の上の透明導電性酸化物又は半導体を含む層とを含み、透明導電性酸化物又は半導体を含む層は、第1のシート抵抗を有する第1の副層と、第1の副層の真上に位置し、第1のシート抵抗より低い第2のシート抵抗を有する第2の副層とを含む。
【0010】
本発明について、以下の図面を参照して説明し、図面全体にわたって、同様の参照番号が同様の部分を指す。別段の指示がない限り、図面に示す層及び要素は原寸に比例しておらず、示されている品目の要素及び構造の説明を容易にするように示されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】基材と、基材の上の部分的にフラッシュ・アニーリングされた層とを含む物品の横断面を示す図である。
図2】絶縁ガラス・ユニットの一部分を示す図である。
図3】不連続金属層を含む被覆透明物を示す図である。
図4】たとえば図3に関連して説明する不連続金属層の一部分を示す図である。
図5】1つ又は複数の反射金属層を有する被覆ガラス物品を示す図である。
図6】3つの反射金属層を有する被覆ガラス物品を示す図である。
図7】本明細書に記載するフラッシュ・アニーリング方法によって物品にパターン形成する方法を概略的に示す図である。
図8】様々なITO層厚さに対する厚さに応じたシート抵抗の変動を示すグラフを提供する図である。
図9】様々なITO層厚さに対する厚さに応じた放射率の変動を示すグラフを提供する図である。
図10A】3mTorrで2.5%(%体積)の酸素又は4mTorrで1.5%の酸素によって堆積させた変動する厚さのITO層に対するホール測定及びキャリア濃度を提供する図である。
図10B】3mTorrで2.5%(%体積)の酸素又は4mTorrで1.5%の酸素によって堆積させた変動する厚さのITO層に対するホール測定及び移動度を提供する図である。
図11A】異なる酸素量を有するフラッシュ・アニーリングITO層の光学的特性、透過(%)スペクトルを示すグラフを提供する図である。
図11B】異なる酸素量を有するフラッシュ・アニーリングITO層の光学的特性、正規化吸収スペクトルを示すグラフを提供する図である。
図12】変動する厚さのITO層の光学的及び電気的特性を示すグラフを提供する図である。
図13A】異なる吸収スペクトルを有するITOで被覆されたフロート・ガラスの3つのサンプルについての吸収係数スペクトルを示す図である。
図13B】同じサンプルについてのXRDトレースを提供する図である。
図14】フラッシュ処理の前(BF)及び後(AF)を示す、同じ吸収係数を有するが、異なる厚さを有する4つのTCO層についてのXRDトレースを示す図である。
図15】実例7についてのフラッシュ電圧状態及びシート抵抗測定の表を提供する図である。
図16】実例7に記載する被覆特性を使用してシミュレートされた絶縁ガラスの色及び可視光輝度を示す表を提供する図である。
図17】実例7に記載する被覆特性を使用してシミュレートされた絶縁ガラスの選択されたガラス中心性能特性を提供する図である。
図18】実例8に記載する様々なサンプルを比較するグラフである。
図19】ターゲットの色整合を実現するように銀堆積状態に対して計算された調整を比較するグラフである。
図20】STARPHIRE(登録商標)上のSOLARBAN(登録商標)70XLと比較して、試験されたサンプルについてのΔEcmcの低減を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書では、「左」、「右」、「内側」、「外側」、「上(above)」、「下(below)」などの空間又は方向を表す用語は、図面に示されているとおり本発明に関する。しかし、本発明は様々な代替の向きをとることができ、したがってそのような用語は、限定的であると見なされるべきでないことを理解されたい。さらに、本明細書では、本明細書及び特許請求の範囲で使用される寸法、物理的特性、処理パラメータ、成分の数量、反応状態などを表すすべての数は、すべての例において、「約(about)」とう用語によって修飾されると理解されたい。したがって、逆の内容が示されない限り、以下の明細書及び特許請求の範囲に記載する数値は、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変動する可能性がある。少なくとも、特許請求の範囲の範囲に対する均等論の適用を限定しようとすることなく、各数値は、少なくとも報告される有効桁の数に照らして、通常の丸め技法を適用することによって解釈されるべきである。さらに、本明細書に開示するすべての範囲は、範囲の始まり及び終わりの値並びにその中に含まれるあらゆる部分範囲を包含すると理解されたい。たとえば、「1~10」という記載の範囲は、最小値1~最大値10(これらの数値も含む)のあらゆる部分範囲、すなわち最小値1又はそれ以上で始まり、最大値10又はそれ以下で終わるすべての部分範囲、たとえば1~3.3、4.7~7.5、5.5~10などを含むと見なされるべきである。加えて、それだけに限定されるものではないが、本明細書で参照する発行特許及び特許出願などのすべての文献は、全体として「参照により組み込まれている」と見なされるべきである。
【0013】
さらに、本明細書では、「~の上に形成される(formed over)」、「~の上に堆積される(deposited over)」、又は「~の上に提供される(provided over)」という用語は、その表面上に形成、堆積、又は提供されることを意味するが、必ずしもその表面に接触しているとは限らない。たとえば、基材「の上に形成」された被覆層は、形成された被覆層と基材との間に位置する同じ又は異なる組成物の1つ又は複数の他の被覆層又は膜の存在を除外しない。同様に、指定の被覆層の文脈で、「下(under)」又は「間(between)」という用語は、記載の層同士の間に位置する同じ又は異なる組成物の1つ又は複数の他の被覆層又は膜の存在を除外しない。
【0014】
本明細書では、「ポリマー(polymer)」又は「ポリマーの(polymeric)」という用語は、オリゴマー、ホモポリマー、コポリマー、及びターポリマー、たとえば2つ以上のタイプのモノマー又はポリマーから形成されたポリマーを含み、「プラスチック」はポリマー含有材料であり、任意選択で材料の特性を変えるために追加の添加物を含有することができる。
【0015】
「可視領域」又は「可視光」という用語は、380nm~800nmの範囲内の波長を有する電磁放射を指す。「赤外領域」又は「赤外放射」という用語は、800nmより大きく100,000nmまでの範囲内の波長を有する電磁放射を指す。「紫外領域」又は「紫外放射」という用語は、300nm~380nm未満の範囲内の波長を有する電磁エネルギーを意味する。「透明」とは、0%より大きく最高100%の可視光線透過率を有することを意味する。「半透明」とは、電磁エネルギー(たとえば、可視光)が通過することを可能にするがこのエネルギーを拡散し、したがって観察者とは反対側の物体ははっきり見えないことを意味する。典型的な「透明物」は、その透明物を通して材料を見ることができるのに十分な可視光線透過率を有することができるが、「透明物」は、可視光に対して透明である必要はなく、半透明又は不透明であってもよい。
【0016】
本明細書では、「膜」という用語は、所望又は選択された被覆組成物の被覆領域を指す。「層」は、1つ又は複数の「膜」を含むことができ、「被覆」又は「被覆スタック」は、1つ又は複数の「層」を含むことができる。「非対称反射率」という用語は、被覆の一方の側からの可視光反射率が、被覆の他方の側からの可視光反射率とは異なることを意味する。「クリティカル厚さ」という用語は、それを上回ると被覆材料が途切れない連続層を形成し、それを下回ると被覆材料が連続層ではなく被覆材料の不連続の領域又はアイランドを形成する厚さを意味する。「サブクリティカル厚さ」という用語は、被覆材料が被覆材料の分離されつながっていない領域を形成するクリティカル厚さを下回る厚さを意味する。「アイランド状」という用語は、被覆材料が連続層ではなく、材料が分離された領域又はアイランドを形成するように堆積されることを意味する。
【0017】
建築用ガラス、車両の透明物、発光ダイオード(LED)、有機LED、光起電性セル、電気光学デバイスなどの被覆物体又は透明物に見られる被覆物品又は被覆物品の被覆層の1つ又は複数の物理的属性を改善する方法が、本明細書において提供される。態様では、記載の被覆物品は、底面発光又は頂面放出型のLED又はOLEDデバイス、光起電性薄膜ソーラー・セルなどのソーラー・セルに有用である。たとえば、LED又はOLEDは、少なくとも1つの透明導電性酸化物を電極として使用することができ、この透明導電性酸化物を光が通過し、放出層から抽出される。LEDデバイスのための電極として使用するためのTCOは、低いシート抵抗を有するべきである。本明細書に記載する方法及び物品は、そのような使用に限定されるものではないことを理解されたい。したがって、具体的に開示する例示的な実施例は、本発明の一般概念を説明するためだけに提示されており、本発明は、これらの具体的な例に限定されるものではないことを理解されたい。
【0018】
フラッシュ・アニーリングは、基材の上に少なくとも1つの層を含む物品が1つ又は複数の可視光パルスによってフラッシングされ、その結果、可視光のフラッシュによって1つ又は複数の層の物理的変換が生じるプロセスである。本明細書に記載する方法では、本開示の文脈の範囲内で物品をフラッシュ・アニーリングするのに十分な光束(エネルギー時間-1)のフラッシュをもたらすことができる任意の可視光源を使用することができる。これらの方法は、1~10.0J/cm及びこれらの間の増分、たとえば3.5~6.0J/cm、好ましくは4.0~5.0J/cmの範囲のキセノン・ランプのフラッシュなどの広域スペクトルのフラッシュを利用することができる。態様では、パルス長は、0.1ミリ秒~10ミリ秒及びこれらの間の増分、0.2ミリ秒~2ミリ秒及びこれらの間の増分、たとえば250μ秒~1ミリ秒、500μ秒、650μ秒、670μ秒の範囲である。過度のフラッシュ・エネルギーは、ターゲット層を損傷する。フラッシュを生成するのに有用なランプには、ヘリウム又はキセノン・ランプなどのガス放電ランプ、及び水銀蒸気ランプなどの金属蒸気ランプが含まれる。より均一なスペクトル分布を実現するために、多蒸気放電ランプを使用することができる。一態様では、ランプは、キセノン放電フラッシュ・ランプである。本発明の様々な態様では、単一のフラッシュで、層の1つ又は複数の物理的品質を十分に修正することが可能である。「単一のフラッシュ・パルス」とは、1つのパルス、透明物の異なる部分をフラッシングする2つ以上のパルス、又は2つ以上の重複パルスに対する透明物又はその一部分の露出を含み、重複パルスの各パルスは、透明物の異なる区域又は部分をフラッシングするが、2つの部分は透明物の表面上の1つ又は複数の重複点をフラッシングする。
【0019】
本明細書に記載する物品は、従来の方法及びシステムによって、たとえばインライン・マグネトロン・スパッタ堆積システムによって、被覆及びその他の方法で処理される。物品は、従来の運搬方法及びシステムによって、様々な堆積システム又は処理ステーションとの間で運搬することができる。物品のフラッシングは、典型的には20℃~30℃、たとえば、22℃又は25℃などの範囲内の室温で実行することができるが、フラッシングは、15℃~50℃などのこの範囲外の温度で実行することもできる。態様では、1つ又は複数のフラッシュ管がコンベアの上の定位置に、物品を所望の強度でフラッシングするためにコンベアから好適な距離をあけて配置される。コンベア・システムは、フラッシュ管に対して物品を動かし、たとえばコンピュータ制御によって、物品上の任意の所与の位置へ1つ又は複数のフラッシュが印加されるように、物品のフラッシングに対するコンベアの動きのタイミングを調整することができる。より大きい物品の場合、物品の表面上のすべての位置をフラッシングするために複数のフラッシュを使用することができ、これらのフラッシュは、本明細書に記載するように、非限定的にシート抵抗、放射率、伝導率、色、又は透過率などの物品の1つ又は複数の物理的属性を変換するのに十分な量の光によって物品の表面がフラッシングされるように、互いに重複又は当接することができる。
【0020】
本明細書に記載する方法及び物品では、基材は、フラッシュ・アニーリングされる少なくとも1つの層によって被覆される。例示的な基材には、非限定的にガラス、プラスチック、結晶、金属、セラミック、又はこれらの組合せを含む基材などの透明又は不透明の基材が含まれる。基材として使用することができるガラスの非限定的な例には、すべてペンシルバニア州ピッツバーグのPPG Industries Inc.から市販されている透明ガラス、Starphire(登録商標)、Solargreen(登録商標)、Solextra(登録商標)、GL-20(登録商標)、GL-35(商標)、Solarbronze(登録商標)、Solargray(登録商標)ガラス、Pacifica(登録商標)ガラス、SolarBlue(登録商標)ガラス、Solarphire(登録商標)ガラス、Solarphire PV(登録商標)ガラス、及びOptiblue(登録商標)ガラスが含まれる。たとえば、ガラスは、従来のソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、又は有鉛ガラスを含むことができる。ガラスは、透明ガラスとすることができる。「透明ガラス」とは、非着色又は無色ガラスを意味する。別法として、ガラスは、着色又は他の色ガラスとすることができる。ガラスは、アニール又は熱処理ガラスとすることができる。本明細書では、「熱処理」という用語は、焼き戻しされている又は少なくとも部分的に焼き戻しされていることを意味する。ガラスは、従来のフロート・ガラスなどの任意のタイプとすることができ、任意の光学特性、たとえば可視光線透過率、紫外線透過率、赤外線透過率、及び/又は全体的な太陽エネルギー透過率の任意の値を有する任意の組成とすることができる。「フロート・ガラス」とは、溶融金属槽の上に溶融ガラスを堆積させ、制御可能に冷却してフロート・ガラス・リボンを形成する従来のフロート・プロセスによって形成されたガラスを意味する。フロート・ガラス・プロセスの例は、米国特許第4,466,562号及び第4,671,155号に開示されている。本明細書では、「日射制御被覆」という用語は、それだけに限定されるものではないが、日射量、たとえば被覆物品から反射され、被覆物品によって吸収され、又は被覆物品を通過する可視、赤外、又は紫外放射の量、遮蔽係数、放射率などの被覆物品の日射特性に影響を及ぼす1つ又は複数の層又は膜から構成される被覆を指す。
【0021】
追加の好適な基材材料の例には、それだけに限定されるものではないが、アクリルポリマー、たとえばポリアクリレート;ポリアルキルメタクリレート、たとえばポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレートなど;ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリアルキルテレフタレート、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど;ポリシロキサン含有ポリマー;若しくはこれらを調製するための任意のモノマーのコポリマー、又はこれらの任意の混合物などのプラスチック基材、セラミック基材、ガラス基材、或いは上記のいずれかの混合物若しくは組合せが含まれる。
【0022】
基材の上に付着される層は、多くの場合、透明金属、金属酸化物、導電性酸化物、半導体、及び誘電体を含む、金属、酸化物、半導体、及び誘電体を含む。物理的特性又は物理的属性は、他の作用の中でも、透過率、吸収率、色、放射率、シート抵抗、伝導率、たとえばキャリア濃度若しくはキャリア移動度、結晶度若しくは結晶構造、屈折係数、又は表面プラズモン共鳴を、単独で又は組合せで含む。追加の層は、たとえば本開示の様々な態様の文脈でさらに後述するように、広く知られているシリカ又はケイ酸アルミニウム層などの保護又はオーバーコート層を含むことができる。
【0023】
本明細書に記載する被覆層は、それだけに限定されるものではないが、従来の化学気相堆積(CVD:chemical vapor deposition)及び/又は物理気相堆積(PVD:physical vapor deposition)方法などの任意の従来の方法によって堆積させることができる。PVDプロセスの例には、熱又は電子ビーム蒸着及び真空スパッタリング(マグネトロン・スパッタ気相堆積(MSVD:magnetron sputter vapor deposition)など)が含まれる。それだけに限定されるものではないが、ソル-ゲル堆積などの他の被覆方法を使用することもできる。一態様では、被覆は、MSVDによって堆積させることができる。MSVD被覆デバイス及び方法の例は、当業者にはよく理解され、たとえば米国特許第4,379,040号、第4,861,669号、第4,898,789号、第4,898,790号、第4,900,633号、第4,920,006号、第4,938,857号、第5,328,768号、及び第5,492,750号に記載されている。
【0024】
一態様によれば、透明導電性酸化物又は半導体の層を含む被覆基材を作製する方法が提供される。透明導電性酸化物の非限定的な例には、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、及びこれらの混合物の酸化物が含まれ、ガリウム又はアルミニウムなどの他の元素によってドープすることができる。透明導電性酸化物の特有の例には、非限定的に、インジウム・スズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、フッ素化スズ酸化物(「FTO」:fluorinated tin oxide)、ガリウム、アルミニウム、若しくはスズでドープされた酸化亜鉛(それぞれ「GZO」:gallium-doped zinc oxide、「AZO」:aluminum-doped zinc oxide、及び「TZO」:tin-doped zinc oxide)などのドープされた酸化亜鉛、又はニオブでドープされたTiO(「NTO」:niobium-doped TiO)などのドープされた二酸化チタンが含まれる。好適な透明導電性酸化物には、酸素が欠乏している透明導電性酸化物が含まれる。「酸素が欠乏している透明導電性酸化物」とは、スパッタリング、たとえばMSVDなどによって、飽和量未満の酸素を含むアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気において、酸素が欠乏している又は不足当量のTCOをもたらす条件下で、導電性酸化物が堆積されることを意味する。酸素が欠乏しているITOなどの酸素が欠乏しているTCOは、広く知られており、当業者であれば容易に作製される。本明細書では、スパッタリング雰囲気中の記載の酸素パーセントは、体積パーセントを指す。本明細書に記載する方法によってフラッシュ・アニーリングすることができる半導体の非限定的な例には、一例として、多結晶シリコン及びゲルマニウム膜を作製するための非晶質シリコン層のフラッシュ・アニーリングが含まれる。
【0025】
この方法は、不活性雰囲気中で基材の少なくとも一部分の上に、少なくとも1,000cm-1の可視スペクトル内の波長の吸収係数を有する透明金属酸化物又は半導体層を堆積させるステップと、可視スペクトル内の波長で層が少なくとも1,000cm-1の吸収係数を有する光を含む可視スペクトル内の非コヒーレント光の3.5J/cm~6.0J/cmの範囲のパルス・エネルギーによって、15℃~50℃又は20℃~30℃の範囲の温度で透明導電性酸化物又は半導体層の少なくとも一部分をフラッシングするステップとをさらに含む。一態様では、パルスは、たとえば層及び物品全体のシート抵抗を実質上低下させ、伝導率を増大させ、放射率を低下させ、透過率を増大させるのに十分な単一パルスである。一態様では、透明金属酸化物又は半導体層は、透明導電性酸化物層であり、一態様では、インジウム・スズ酸化物層、又は酸素が欠乏しているインジウム・スズ酸化物層であり、200~400nm又は200~300nmの範囲、たとえば250nmの厚さを有する。
【0026】
ITOなどの透明導電性酸化物、及びたとえば透明基材上で被覆として使用される半導体の1つの特徴は、最適化又は修正することができる吸収係数を有することである。たとえば、一例として酸素が欠乏しているインジウム・スズ酸化物などの酸素が欠乏している透明導電性酸化物は、特定の波長において、それらの波長の光がその材料の層の厚さ全体に完全に侵入して層の厚さ全体にわたってフラッシュ・アニーリングを可能にすることはできないほど十分に大きい吸収係数を有する。したがって、層をフラッシュ・アニーリングすることが可能なランプによってもたらされる光の侵入深さが、層の厚さ全体に完全に侵入しないように、層の吸収係数及び厚さと、ランプ放電スペクトル及び強度とを十分に整合させる結果、層は分割又は分岐され、層のうちフラッシングされた部分は、層のうち光が十分に侵入しなかったフラッシングされていない部分と比較すると、異なる物理的属性を有する。キセノン・ランプ・パルスの侵入深さが層の厚さより小さいインジウム・スズ酸化物層又は酸素が欠乏しているインジウム・スズ酸化物層にとって好適な厚さは、300nmより大きく、たとえば厚さ300nm~2μm(ミクロン)の範囲である。
【0027】
図1を参照すると、透明物品30の文脈で、透明導電性酸化物又は半導体を含む第1の層40が、基材50の上に堆積される。本明細書に記載するようにフラッシングされると、第1の層40は、第1の副層42及び第2の副層44に分割され、遷移部46で接合される。透明導電性酸化物又は半導体の第1の副層42は、第1の物理的状態を有し、たとえば非限定的に第1のシート抵抗、伝導率、色、又は透過率を有し、第2の副層44は、光フラッシュによって第2の物理的状態に変換され、たとえば非限定的に第2のシート抵抗、伝導率、色、又は透過率を有する。したがって、第1の副層42及び第2の副層44は、未フラッシュ状態のままである底部副層(フラッシュに対して遠位)と、第1の副層の真上に位置し、光フラッシュによって変換された頂部副層とを含む単一の一体化された層であると見なすことができる。フラッシングの性質によって、第1の副層及び/又は第2の副層とは異なることができる物理的特性を有する未指定の厚さの遷移部46で、たとえば第1の副層及び第2の副層の中間で、頂部副層及び底部副層を接合することができる。任意選択の保護層60が示されている。図示の層の上又は間に、追加の層を含むこともできる。
【0028】
従来の加熱方法は、本明細書に記載するフラッシュ方法によって作製される別個の透明導電性酸化物又は半導体層を形成することができない。伝導熱の使用には、透明導電性酸化物又は半導体層の温度を、400℃を超過する温度まで上昇させる必要があり、本明細書に記載するTCO層の範囲内など、たとえば5μm未満の厚さ、特に1ミクロン未満の厚さの薄層の場合、層の表面熱は本質的に即座に層全体に伝わり、その結果、その厚さ全体にわたって層の均一の変換が生じる。したがって、光が層の厚さ全体に侵入しないように適当に高い吸収係数を有する層をフラッシングすることによって、層のうち光が侵入する部分のみが変換され、未変換層を残す。そのような構成は、たとえば被覆物品の色、透過率、光の散乱、光の閉込め、シート抵抗、反射率、屈折率、伝導率、又は他の関連する物理的パラメータを制御するのに有用である。
【0029】
本開示の別の態様によれば、金属性反射層を含む透明物をフラッシュ・アニーリングする方法が提供される。一態様では、この方法は、2つ以上の金属、たとえば銀の層を含む透明物の効果的なアニーリングを可能にする。フラッシュ・アニーリングは、アニーリング済み製品と焼き戻し済み製品との密接な色整合、シート抵抗の低下、透過率の増大、望ましい色プロファイルの生成、及び製品の品質の全体的な増大を容易にする。
【0030】
様々な態様によれば、本明細書に記載するフラッシュ・アニーリング方法によって作製される被覆は、建築用の透明物で使用することができる。一例として、2つ以上の銀層を含む被覆などの第3の表面被覆を組み込む透明物10の非限定的な例が、図2に示されている。透明物10は、任意の所望の可視光線、赤外放射線、又は紫外放射線の透過率及び/又は反射率を有することができる。たとえば、透明物10は、たとえば0%より大きく最高100%の任意の所望の量の可視光線透過率を有することができる。
【0031】
図2の例示的な透明物10は、従来の絶縁ガラス・ユニットの形であり、第1の主表面14(第1の表面)を有する第1のプライ12と、反対側の第2の主表面16(第2の表面)とを含む。図示の非限定的な態様では、第1の主表面14は建物の外部に面し、すなわち外側主表面であり、第2の主表面16は建物の内部に面する。透明物10はまた、外側の(第1の)主表面20(第3の表面)と、内側の(第2の)主表面22(第4の表面)とを有する第2のプライ18を含み、第2のプライ18は、第1のプライ12から隔置される。こうしたプライ表面の番号付けは、窓割り技術における従来の慣行に従っている。第1のプライ12及び第2のプライ18は、従来のスペーサ枠24への接着接合などの任意の好適な方法で、ともに連結することができる。2つのプライ12、18間には、間隙又はチャンバ26が形成される。チャンバ26には、空気などの選択された雰囲気、又はアルゴン若しくはクリプトン・ガスなどの非反応性ガスを充填することができる。それだけに限定されるものではないが第2の表面16の少なくとも一部分又は第3の表面20の少なくとも一部分の上など、プライ12、18の1つの少なくとも一部分の上に、日射制御被覆30(又は本明細書に記載する他の被覆のいずれか)が形成される。ただし所望される場合、被覆は第1の表面又は第4の表面上に位置することもできる。絶縁ガラス・ユニットの例は、たとえば米国特許第4,193,236号、第4,464,874号、第5,088,258号、及び第5,106,663号に見られる。
【0032】
透明物10のプライ12、18は、同じ又は異なる材料とすることができる。プライ12、18は、任意の所望の特性を有する任意の所望の材料を含むことができる。たとえば、プライ12、18の1つ又は複数は、可視光に対して透明又は半透明とすることができる。好適な材料の例には、それだけに限定されるものではないが、プラスチック基材(アクリルポリマー、たとえばポリアクリレート;ポリアルキルメタクリレート、たとえばポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレートなど;ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリアルキルテレフタレート、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど;ポリシロキサン含有ポリマー;若しくはこれらを調製するための任意のモノマーのコポリマー、又はこれらの任意の混合物など)、セラミック基材、ガラス基材、又はこれらの混合物若しくは組合せが含まれる。たとえば、プライ12、18の1つ又は複数は、従来のソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、又は有鉛ガラスを含むことができる。ガラスは、透明ガラスとすることができる。「透明ガラス」とは、非着色又は無色ガラスを意味する。別法として、ガラスは、着色又は他の色ガラスとすることができる。ガラスは、アニーリング又は熱処理されたガラスとすることができる。ガラスは、従来のフロート・ガラスなどの任意のタイプとすることができ、任意の光学的特性、たとえば可視光線透過率、紫外線透過率、赤外線透過率、及び/又は全体的な太陽エネルギー透過率の任意の値を有する任意の組成とすることができる。
【0033】
第1のプライ12及び第2のプライ18はそれぞれ、たとえば透明フロート・ガラスとすることができ、又は着色若しくは色ガラスとすることができ、又は一方のプライ12、18を透明ガラスとし、他方のプライ12、18を色ガラスとすることができる。本発明を限定するものではないが、第1のプライ12及び/又は第2のプライ18にとって好適なガラスの例は、米国特許第4,746,347号、第4,792,536号、第5,030,593号、第5,030,594号、第5,240,886号、第5,385,872号、及び第5,393,593号に記載されている。第1のプライ12及び第2のプライ18は、任意の所望の寸法、たとえば長さ、幅、形状、又は厚さとすることができる。1つの例示的な自動車用の透明物では、第1のプライ及び第2のプライはそれぞれ、厚さ1mm~10mm、たとえば、厚さ1mm~8mmなど、厚さ2mm~8mmなど、3mm~7mmなど、5mm~7mmなど、厚さ6mmなどとすることができる。使用することができるガラスの非限定的な例は、上記で説明した。
【0034】
一態様では、ガラス・プライ12、18の1つの少なくとも1つの主表面の少なくとも一部分の上に、日射制御被覆30が堆積される。図2に示す例では、被覆30は、外側ガラス・プライ12の内面16の少なくとも一部分の上に形成されている。日射制御被覆30は、それだけに限定されるものではないが、IR、UV、及び/又は可視スペクトルなど、日射スペクトルの選択された部分を阻止、吸収、又は濾過することができる。
【0035】
日射制御被覆30は、それだけに限定されるものではないが、従来の化学気相堆積(CVD)及び/又は物理気相堆積(PVD)方法などの任意の従来の方法によって堆積させることができる。CVDプロセスの例には、噴霧熱分解が含まれる。PVDプロセスの例には、電子ビーム蒸着及び真空スパッタリング(マグネトロン・スパッタ気相堆積(MSVD)など)が含まれる。それだけに限定されるものではないが、ソル-ゲル堆積などの他の被覆方法を使用することもできる。1つの非限定的な実施例では、被覆30は、MSVDによって堆積させることができる。MSVD被覆デバイス及び方法の例は、当業者にはよく理解され、たとえば米国特許第4,379,040号、第4,861,669号、第4,898,789号、第4,898,790号、第4,900,633号、第4,920,006号、第4,938,857号、第5,328,768号、及び第5,492,750号に記載されている。
【0036】
米国特許第9,604,875号は、2つの連続銀層及びサブクリティカルの銀層を組み込む透明物など、サブクリティカルの金属層を組み込む透明物を記載している。市販の製品は、後述する焼き戻し済み及び未焼き戻しの物品を含み、焼き戻し済み製品(たとえば、SOLARBAN(登録商標)90VT)は、未焼き戻し製品(たとえば、SOLARBAN(登録商標)90)の下塗り層厚さと比較するとより厚い下塗り層を必要とし、その独特の光学的特性を変化させることなく厚さを増大させることができないサブクリティカルの(不連続の)銀層を除いて、未焼き戻し製品と比較すると、焼き戻し済み製品では、1つ又は複数の連続銀層の厚さを増大させることができ、1つ又は複数の下塗り層の厚さが増大される。一態様では、フラッシュ・アニーリングされた下塗り層の1つ又は複数の厚さは、未焼き戻し製品の厚さと焼き戻し済み製品の厚さとの間であり、たとえば1つ又は複数の下塗り層は、未焼き戻し製品内の下塗り層の厚さから、焼き戻し済み製品の下塗り層厚さと未焼き戻し製品の下塗り層厚さと間の厚さ差の20%~80%の範囲の厚さを有する。
【0037】
サブクリティカルの金属層を有する例示的な非限定的な日射制御被覆130が、図3に示されている。この例示的な被覆130は、基材の主表面(たとえば、第1のプライ112の第2の表面116)の少なくとも一部分の上に堆積された基層又は第1の誘電体層40を含む。第1の誘電体層140は、単一の層とすることができ、又はそれだけに限定されるものではないが金属酸化物、金属合金の酸化物、窒化物、酸窒化物、若しくはこれらの混合物など、反射防止材料及び/若しくは誘電体材料の2つ以上の膜を含むことができる。第1の誘電体層140は、可視光に対して透明とすることができる。第1の誘電体層140にとって好適な金属酸化物の例には、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、及びこれらの混合物の酸化物が含まれる。これらの金属酸化物は、酸化ビスマス中のマンガン、酸化インジウム中のスズなど、少量の他の材料を有することができる。加えて、亜鉛及びスズを含有する酸化物(たとえば、以下に定義するスズ酸亜鉛)、インジウム-スズ合金、窒化ケイ素、ケイ素アルミニウム窒化物、又は窒化アルミニウムの酸化物など、金属合金又は金属混合物の酸化物を使用することができる。さらに、アンチモン若しくはインジウムでドープされた酸化スズ又はニッケル若しくはホウ素でドープされた酸化ケイ素などのドープされた金属酸化物を使用することができる。第1の誘電体層140は、金属合金酸化物膜、たとえばスズ酸亜鉛などの実質上単相の膜とすることができ、又は亜鉛及び酸化スズから構成される相の混合物とすることができ、又は複数の膜から構成することができる。
【0038】
たとえば、第1の誘電体層140(単一膜又は複数膜の層)は、100Å~600Å、たとえば、200Å~500Åなど、250Å~350Åなど、250Å~310Åなど、280Å~310Åなど、300Å~330Åなど、310Å~330Åなどの範囲内の厚さを有することができる。
【0039】
第1の誘電体層140は、基材(第1のプライ112の内側主表面116など)の少なくとも一部分の上に堆積された第1の膜142、たとえば金属合金酸化物膜と、第1の金属合金酸化物膜142の上に堆積された第2の膜144、たとえば金属酸化物又は酸化物混合物の膜とを有する多膜構造を含むことができる。1つの非限定的な実施例では、第1の膜142を亜鉛/スズ合金酸化物とすることができる。「亜鉛/スズ合金酸化物」とは、酸化物の純合金及び混合物の両方を意味する。亜鉛/スズ合金酸化物は、亜鉛及びスズのカソードからのマグネトロン・スパッタリング真空蒸着から得られるものとすることができる。1つの非限定的なカソードは、5重量%~95重量%の亜鉛及び95重量%~5重量%のスズ、たとえば、10重量%~90重量%の亜鉛及び90重量%~10重量%のスズなどの割合で、亜鉛及びスズを含むことができる。しかし、亜鉛とスズの他の比を使用することもできる。第1の膜142内に存在することができる1つの好適な金属合金酸化物は、スズ酸亜鉛である。「スズ酸亜鉛」とは、ZnSn1-X2-X(式1)の組成物を意味し、ここで「x」は、0より大きく1より小さい範囲内で変動する。たとえば、「x」は、0より大きくすることができ、0より大きく1より小さい任意の分数又は小数とすることができる。たとえば、x=2/3の場合、式1はZn2/3Sn1/34/3であり、より一般には「ZnSnO」と記述される。スズ酸亜鉛含有膜は、膜内に式1の形式のうちの1つ又は複数を支配的量で有する。
【0040】
第2の膜144は、酸化亜鉛などの金属酸化物膜とすることができる。酸化亜鉛膜は、カソードのスパッタリング特性を改善するために、他の材料を含む亜鉛カソードから堆積させることもできる。たとえば、亜鉛カソードは、スパッタリングを改善するために、少量(たとえば、最高10重量%、最高5重量%など)のスズを含むことができる。そのような場合、その結果得られる酸化亜鉛膜は、わずかな割合の酸化スズ、たとえば最高10重量%の酸化スズ、たとえば最高5重量%の酸化スズを含むはずである。本明細書では、最高10重量%のスズ(カソードの伝導率を高めるために添加される)を有する亜鉛カソードから堆積された被覆層は、少量のスズが存在しうる場合でも、「酸化亜鉛膜」と呼ばれる。カソード中の少量のスズ(たとえば、10重量%以下、5重量%以下など)は、支配的に酸化亜鉛の第2の膜144内に酸化スズを形成すると考えられる。
【0041】
たとえば、第1の膜142をスズ酸亜鉛とすることができ、第2の膜144を酸化亜鉛(たとえば、90重量%の酸化亜鉛及び10重量%の酸化スズ)とすることができる。たとえば、第1の膜142は、50Å~600Å、たとえば、50Å~500Åなど、75Å~350Åなど、100Å~250Åなど、150Å~250Åなど、195Å~250Åなど、200Å~250Åなど、200Å~220Åなどの範囲内の厚さを有するスズ酸亜鉛を含むことができる。
【0042】
第2の膜144は、50Å~200Å、たとえば、75Å~200Åなど、100Å~150Åなど、100Å~110Åなどの範囲内の厚さを有する酸化亜鉛を含むことができる。
【0043】
第1の誘電体層140の上に、第1の熱及び/又は放射反射金属層146を堆積させることができる。第1の反射層146は、それだけに限定されるものではないが、金属金、銅、パラジウム、アルミニウム、銀、又はこれらの混合物、合金、若しくは組合せなどの反射金属を含むことができる。一実施例では、第1の反射層146は、50Å~300Å、たとえば50Å~250Å、たとえば50Å~200Å、70Å~200Åなど、100Å~200Åなど、125Å~200Åなど、150Å~185Åなどの範囲内の厚さを有する金属銀層を含む。第1の金属層146は連続層である。「連続層」とは、被覆が、分離された被覆領域ではなく、材料の連続膜を形成することを意味する。
【0044】
第1の反射層146の上に、第1の下塗り層148が位置する。第1の下塗り層148は、単一膜又は複数膜の層とすることができる。第1の下塗り層148は、スパッタリング・プロセス又は後の加熱プロセス中に第1の反射層146の劣化又は酸化を防止するために蒸着プロセス中に犠牲にすることができる酸素捕捉材料を含むことができる。第1の下塗り層148はまた、被覆130を通過する可視光などの電磁放射の少なくとも一部分を吸収することができる。第1の下塗り層148にとって有用な材料の例には、チタン、ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、ニッケル-クロム合金(Inconelなど)、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素及びアルミニウムの合金、コバルト及びクロムを含有する合金(たとえば、Stellite(登録商標))、並びにこれらの混合物が含まれる。たとえば、第1の下塗り層148はチタンとすることができ、5Å~50Å、たとえば10Å~40Å、たとえば20Å~40Å、たとえば20Å~35Åの範囲内の厚さを有することができる。
【0045】
第1の反射層146の上(たとえば、第1の下塗り層148の上)に、第2の誘電体層150が位置する。第2の誘電体層150は、第1の誘電体層140に関して上述したものなどの1つ又は複数の金属酸化物又は金属合金酸化物含有膜を含むことができる。たとえば、第2の誘電体層150は、第1の下塗り膜148の上に堆積された第1の金属酸化物膜152、たとえば酸化亜鉛膜と、第1の酸化亜鉛膜152の上に堆積された第2の金属合金酸化物膜154、たとえばスズ酸亜鉛(ZnSnO)膜とを含むことができる。スズ酸亜鉛層の上に、任意選択の第3の金属酸化物膜156、たとえば別の酸化亜鉛層を堆積させることができる。
【0046】
第2の誘電体層150は、50Å~1000Å、たとえば50Å~500Å、たとえば100Å~370Å、たとえば100Å~300Å、たとえば100Å~200Å、たとえば150Å~200Å、たとえば180Å~190Åの範囲内の総厚さ(たとえば、層の総計厚さ)を有することができる。
【0047】
たとえば、多膜層の場合、酸化亜鉛膜152(及び存在する場合は任意選択の第2の酸化亜鉛膜156)は、10Å~200Å、たとえば50Å~200Å、たとえば60Å~150Å、たとえば70Å~85Åの範囲内の厚さを有することができる。金属合金酸化物層(スズ酸亜鉛)54は、50Å~800Å、たとえば50Å~500Å、たとえば100Å~300Å、たとえば110Å~235Å、たとえば110Å~120Åの範囲内の厚さを有することができる。
【0048】
第2の誘電体層150の上(たとえば、存在する場合は第2の酸化亜鉛膜156の上、又は存在しない場合はスズ酸亜鉛膜154の上)に、サブクリティカル厚さ(不連続)の第2の金属層158が位置する。それだけに限定されるものではないが、金属金、銅、パラジウム、アルミニウム、銀、又はそれらの混合物、合金、若しくは組合せなどの金属材料が、材料の連続層ではなく材料の分離された領域又はアイランドが形成されるように、サブクリティカル厚さで付着される。銀の場合、クリティカル厚さは50Å未満、40Å未満など、30Å未満など、25Å未満などであると判定される。銀の場合、連続層とサブクリティカル層との間の遷移は、25Å~50Åの範囲内で生じる。この範囲内で、銅、金、及びパラジウムが類似のサブクリティカル挙動を提示するはずであると推定される。第2の金属層158は、第1の反射層146に関して上述した材料のうちのいずれか1つ又は複数を含むことができるが、これらの材料は連続膜として存在するわけではない。1つの非限定的な実施例では、第2の層158は、アイランド状の銀を含み、アイランドは、1Å~70Å、たとえば10Å~40Å、たとえば10Å~35Å、たとえば10Å~30Å、たとえば15Å~30Å、たとえば20Å~30Å、たとえば25Å~30Åの範囲内の有効厚さを有する。サブクリティカルの金属層158は、プラズモン共鳴理論に従って電磁放射を吸収する。この吸収率は、金属アイランドの境界面における境界条件に少なくとも部分的に依存する。サブクリティカルの金属層158は、第1の金属層146のような赤外反射層ではない。サブクリティカルの銀層158は連続層ではない。銀の場合、サブクリティカル厚さより薄く堆積された銀金属の金属アイランド又は球は、約2nm~7nm、たとえば、5nm~7nmなどの高さを有することができると推定される。サブクリティカル銀層を均一に広げることができた場合、この層は約1.1nmの厚さを有するはずであると推定される。光学的に、不連続金属層は、有効層厚さが2.6nmであるものとして挙動すると推定される。酸化亜鉛ではなくスズ酸亜鉛の上に不連続の金属層を堆積させることで、被覆、たとえば不連続金属層の可視光線吸収度を増大させると考えられる。
【0049】
「サブクリティカル」層に関連する厚さ値は、「有効厚さ」である。有効厚さは、市販のコータの実際の被覆速度より遅い基準被覆速度に基づいて計算することができる。たとえば、市販のコータと同じ被覆率であるが市販のコータと比較すると低減された線速度(基準被覆速度)で、基材上へ銀層が付着される。基準被覆速度で堆積された被覆の厚さが測定され、次いで同じ被覆率であるが市販のコータより速い線速度で堆積された被覆についての「有効厚さ」が外挿される。たとえば、特定の被覆率において、市販のコータの線速度の10分の1である基準被覆速度で25nmの銀被覆が提供される場合、同じ被覆率であるが市販のコータ線速度(すなわち、基準被覆実行より10倍速い)における銀層の「有効厚さ」は、2.5nm(すなわち、厚さの10分の1)であると外挿される。しかし、理解されるように、この有効厚さ(サブクリティカル厚さを下回る)の銀層は、連続層ではなく、銀材料の不連続領域を有する不連続層になるはずである。サブクリティカルの銀層の厚さを調整する別の方法は、その層を堆積させるカソードに印加される電力を減少させることである。たとえば、コータは、既知の被覆厚さを提供するような電力がカソードに供給されるように設定することができる。次いで、サブクリティカルの銀層のためのカソードに対する電力を低減させることができ、低減された電力レベルに基づいて、サブクリティカルの銀層厚さを外挿することができる。又は、所望のL*、a*、及びb*が実現されるまで、異なる電力レベルで一連のサンプルを生成することもできる。
【0050】
第2の金属層158の上に、第2の下塗り層160を堆積させることができる。第2の下塗り層160は、第1の下塗り層148に関して上述したものとすることができる。一例では、第2の下塗り層は、5Å~50Å、たとえば10Å~25Å、たとえば15Å~25Å、たとえば15Å~22Åの範囲内の厚さを有するチタン又はニッケル-クロム合金(Inconelなど)とすることができる。サブクリティカルの材料の吸収度は、境界条件に少なくとも部分的に依存するため、異なる下塗り(たとえば、異なる屈折率を有する)は、異なる吸収スペクトル、したがって異なる色を被覆に提供することができる。
【0051】
第2の金属層158の上(たとえば、第2の下塗り膜160の上)に、第3の誘電体層162を堆積させることができる。第3の誘電体層162はまた、第1の誘電体層140及び第2の誘電体層150に関して上記で論じたものなど、1つ又は複数の金属酸化物又は金属合金酸化物含有層を含むことができる。一例では、第3の誘電体層162は、第2の誘電体層150に類似している多膜層である。たとえば、第3の誘電体層162は、第1の金属酸化物層164、たとえば酸化亜鉛層と、酸化亜鉛層164の上に堆積された第2の金属合金酸化物含有層166、たとえばスズ酸亜鉛層と、スズ酸亜鉛層166の上に堆積された任意選択の第3の金属酸化物層168、たとえば別の酸化亜鉛層とを含むことができる。一例では、酸化亜鉛層164、168がどちらも存在し、それぞれ50Å~200Å、たとえば、75Å~150Åなど、80Å~150Åなど、95Å~120Åなどの範囲内の厚さを有する。金属合金酸化物層166は、100Å~800Å、たとえば200Å~700Å、たとえば300Å~600Å、たとえば380Å~500Å、たとえば380Å~450Åの範囲内の厚さを有することができる。
【0052】
一例では、第3の誘電体層162の総厚さ(たとえば、酸化亜鉛及びスズ酸亜鉛層の総計厚さ)は、200Å~1000Å、たとえば400Å~900Å、たとえば500Å~900Å、たとえば650Å~800Å、たとえば690Å~720Åの範囲内である。
【0053】
第3の誘電体層162の上に、第3の熱及び/又は放射反射金属層170が堆積させられる。第3の反射層170は、第1の反射層に関して上記で論じた材料のいずれかとすることができる。1つの非限定的な例では、第3の反射層170は銀を含み、25Å~300Å、たとえば50Å~300Å、たとえば50Å~200Å、70Å~151Åなど、100Å~150Åなど、137Å~150Åなどの範囲内の厚さを有する。第3の金属層は連続層である。
【0054】
第3の反射層170の上に、第3の下塗り層172が位置する。第3の下塗り層172は、第1又は第2の下塗り層に関して上述したものとすることができる。1つの非限定的な例では、第3の下塗り層はチタンであり、5Å~50Å、たとえば10Å~33Å、たとえば20Å~30Åの範囲内の厚さを有する。
【0055】
第3の反射層の上(たとえば、第3の下塗り層172の上)に、第4の誘電体層174が位置する。第4の誘電体層174は、第1の誘電体層140、第2の誘電体層150、又は第3の誘電体層162に関して上記で論じたものなど、1つ又は複数の金属酸化物又は金属合金酸化物含有層から構成することができる。1つの非限定的な例では、第4の誘電体層174は多膜層であり、第3の下塗り膜172の上に堆積された第1の金属酸化物層176、たとえば酸化亜鉛層と、酸化亜鉛層176の上に堆積された第2の金属合金酸化物層178、たとえばスズ酸亜鉛層とを有する。1つの非限定的な実施例では、酸化亜鉛層176は、25Å~200Å、たとえば、50Å~150Åなど、60Å~100Åなど、80Å~90Åなどの範囲内の厚さを有することができる。スズ酸亜鉛層178は、25Å~500Å、たとえば50Å~500Å、たとえば100Å~400Å、たとえば150Å~300Å、たとえば150Å~200Å、たとえば170Å~190Åの範囲内の厚さを有することができる。
【0056】
1つの非限定的な例では、第4の誘電体層174の総厚さ(たとえば、酸化亜鉛及びスズ酸亜鉛層の総計厚さ)は、100Å~800Å、たとえば200Å~600Å、たとえば250Å~400Å、たとえば250Å~270Åの範囲内である。
【0057】
第4の誘電体層174の上に、オーバーコート180が位置することができる。オーバーコート180は、下にある被覆層を機械的及び化学的攻撃から保護するのを助けることができる。オーバーコート180は、たとえば金属酸化物又は金属窒化物の層とすることができる。たとえば、オーバーコート180は、10Å~100Å、たとえば、20Å~80Åなど、30Å~50Åなど、30Å~45Åなどの範囲内の厚さを有するチタニアとすることができる。オーバーコートにとって有用な他の材料には、シリカ、アルミナ、又はシリカ及びアルミナの混合物などの他の酸化物が含まれる。
【0058】
1つの非限定的な実施例では、透明物10は、5%~50%、たとえば、20%~40%など、25%~30%などの範囲内の第1の表面からの可視光の反射率パーセント(%R)を有する。透明物10は、20%より大きいもの、30%より大きいものなど、40%より大きいものなどの可視光線透過率を有する。透明物は、0.3未満、0.27未満など、0.25未満などの日射熱取得率(SHGC:solar heat gain coefficient)を有する。
【0059】
被覆130で被覆されたプライは、物品の性能特性に悪影響を与えたり曇りを生じたりすることなく焼き戻し又は熱処理することができる。また、本発明の物品は、反射及び透過の両方において、青色又は青緑色などの中間又は中程度の反射色を有する。
【0060】
加熱時に曇りがないことは、不連続の中間金属層のアイランド状構造のためであると考えられる。誘電体層192上に形成されて下塗り層194によって覆われた不連続の被覆領域191を有するサブクリティカルの金属層190の側面図が、図4に示されている。サブクリティカルの金属厚さにより、金属材料は、誘電体層192上に金属又は金属酸化物の不連続の領域又はアイランドを形成する。下塗り層がサブクリティカルの金属層の上に付着されたとき、下塗り層の材料はこれらのアイランドを覆い、サブクリティカルの金属の隣接するアイランド同士の間の間隙内へ延び、下にある層192に接触することができる。
【0061】
被覆130は、周知の被覆に対して様々な利点を提供する。たとえば、サブクリティカルの金属層は、被覆の可視光線吸収度を増大させ、被覆物品をより暗くする。サブクリティカルの金属層と選択された厚さの誘電体層と組合せは、非対称反射率を被覆物品に提供することができる。被覆内で使用される下塗りを変化させることによって、透過率に関して物品の色を調節することができる。また、本発明の被覆は、曇りを導入することなく熱処理することが可能である。
【0062】
前述した被覆130は、本発明を限定するものではないことを理解されたい。たとえば、サブクリティカルの金属層は、スタック内の第2(中間)の金属層である必要はない。サブクリティカルの金属層は、被覆スタック内の任意の場所に配置することができる。また、複数の金属被覆層を有する被覆スタックの場合、これらの金属層のうちの2つ以上をサブクリティカルの金属層にすることもできる。
【0063】
上記の例は、2つの連続金属層及び1つの不連続金属層を含んだが、これは単なる1つの非限定的な例であることを理解されたい。本発明の広い慣行では、本発明の被覆は、複数の連続金属層及び複数の不連続金属層を含むことができる。たとえば、被覆物品は、2つの誘電体層間に位置する単一のサブクリティカルの金属層を含むことができる。又は、被覆は、3つ以上の金属層、4つ以上の金属層など、5つ以上の金属層など、6つ以上の金属層などを含むこともでき、これらの金属層のうちの少なくとも1つが、サブクリティカルの金属層である。被覆130の変形例は、米国特許第9,604,875号にさらに記載されている。
【0064】
日射制御被覆内に2つ以上の銀被覆層を有する物品が広く知られている。一例では、日射制御透明物は、たとえば、3つの銀層を有する被覆を記載する米国特許第7,910,229号、又は2つの銀層を有する高日射熱取得率の被覆を記載する米国特許出願公開第20110117300号に開示されているように、基材と、基材の上に、基材から離れる方向の順に、誘電体層、金属層、及び下塗り層を含む層の1つ~4つの反復とを含む。1つ又は複数の金属層は、たとえば後述するように、不連続とすることができる。
【0065】
市販の製品は、後述する焼き戻し済み及び未焼き戻しの物品を含み、焼き戻し済み製品(たとえば、ソーラーゲート(登録商標)460VT又はSOLARBAN(登録商標)70VT)は、未焼き戻し製品(たとえば、ソーラーゲート(登録商標)460又はSOLARBAN(登録商標)70XL)の下塗り層厚さと比較するとより厚い下塗り層を必要とし、その独特の光学的特性を変化させることなく厚さを増大させることができないサブクリティカルの(不連続の)銀層を除いて、未焼き戻し製品と比較すると、焼き戻し済み製品では、1つ又は複数の連続銀層の厚さを増大させることができ、1つ又は複数の下塗り層の厚さが増大される。一態様では、フラッシュ・アニーリングされた下塗り層の1つ又は複数の厚さは、未焼き戻し製品の厚さと焼き戻し済み製品の厚さとの間であり、たとえば1つ又は複数の下塗り層は、未焼き戻し製品内の下塗り層の厚さから、焼き戻し済み製品内の下塗り層厚さと未焼き戻し製品内の下塗り層厚さと間の厚さ差の20%~80%又は30%~70%の範囲の厚さを有する。
【0066】
図5に示すように、例示的な被覆130は、基材の主表面(たとえば、第1のプライ212の第2の表面216)の少なくとも一部分の上に堆積された基層又は第1の誘電体層240を含む。第1の誘電体層240は、単一の層とすることができ、又はそれだけに限定されるものではないが、金属酸化物、金属合金の酸化物、窒化物、酸窒化物、若しくはこれらの混合物など、反射防止材料及び/若しくは誘電体材料の2つ以上の膜を含むことができる。第1の誘電体層240は、可視光に対して透明とすることができる。第1の誘電体層240にとって好適な金属酸化物の例には、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、及びこれらの混合物の酸化物が含まれる。これらの金属酸化物は、酸化ビスマス中のマンガン、酸化インジウム中のスズなど、少量の他の材料を有することができる。加えて、亜鉛及びスズを含有する酸化物(たとえば、以下に定義するスズ酸亜鉛)、インジウム-スズ合金、窒化ケイ素、ケイ素アルミニウム窒化物、又は窒化アルミニウムの酸化物など、金属合金又は金属混合物の酸化物を使用することができる。さらに、アンチモン若しくはインジウムでドープされた酸化スズ又はニッケル若しくはホウ素でドープされた酸化ケイ素などのドープされた金属酸化物を使用することができる。第1の誘電体層240は、金属合金酸化物膜、たとえばスズ酸亜鉛などの実質上単相の膜とすることができ、又は亜鉛及び酸化スズから構成される相の混合物とすることができ、又は複数の膜から構成することができる。
【0067】
たとえば、第1の誘電体層240(単一膜又は複数膜の層)は、100Å~600Å、たとえば、100Å~500Åなど、100Å~350Åなど、150Å~300Åなど、200Å~250Åなど、210Å~220Åなどの範囲内の厚さを有することができる。
【0068】
第1の誘電体層240は、基材(第1のプライ212の内側主表面216など)の少なくとも一部分の上に堆積された第1の膜142、たとえば金属合金酸化物膜と、第1の金属合金酸化物膜242の上に堆積された第2の膜244、たとえば金属酸化物又は酸化物混合物の膜とを有する多膜構造を含むことができる。1つの非限定的な実施例では、第1の膜242をスズ酸亜鉛とすることができる。
【0069】
たとえば、第1の膜242をスズ酸亜鉛とすることができ、第2の膜244を酸化亜鉛(たとえば、90重量%の酸化亜鉛及び10重量%の酸化スズ)とすることができる。たとえば、第1の膜242は、50Å~600Å、たとえば、50Å~500Åなど、75Å~350Åなど、100Å~250Åなど、100Å~200Åなど、100Å~150Åなど、140Å~150Åなどの範囲内の厚さを有するスズ酸亜鉛を含むことができる。
【0070】
第2の膜244は、50Å~200Å、たとえば、50Å~150Åなど、70Å~100Åなどの範囲内の厚さを有する酸化亜鉛を含むことができる。
【0071】
別の例示的な被覆では、第1の誘電体層240は、スズ酸亜鉛を含む第1の層と、酸化亜鉛を含む第2の層と、スズ酸亜鉛を含む第3の層と、酸化亜鉛を含む第4の層とを含み、第1の誘電体層は、44nm~48nmの範囲内の厚さを有し、第1の層及び第3の層はそれぞれ、16nm~17nmの範囲内の厚さを有し、第2の層及び第4の層はそれぞれ、6nm~8nmの範囲内の厚さを有する。
【0072】
第1の誘電体層240の上に、第1の熱及び/又は放射反射金属層246を堆積させることができる。第1の反射層246は、それだけに限定されるものではないが、金属金、銅、パラジウム、銀、又はこれらの混合物、合金、若しくは組合せなどの反射金属を含むことができる。一実施例では、第1の反射層246は、25Å~300Å、たとえば50Å~300Å、たとえば50Å~250Å、たとえば50Å~200Å、70Å~200Åなど、100Å~200Åなど、120Å~180Åなどの範囲内の厚さを有する金属銀層を含む。
【0073】
第1の反射層246の上に、第1の下塗り層248が位置する。第1の下塗り層148は、単一膜又は複数膜の層とすることができる。第1の下塗り層248は、スパッタリング・プロセス又は後の加熱プロセス中に第1の反射層246の劣化又は酸化を防止するために蒸着プロセス中に犠牲にすることができる酸素捕捉材料を含むことができる。第1の下塗り層248はまた、被覆230を通過する可視光などの電磁放射の少なくとも一部分を吸収することができる。第1の下塗り層248にとって有用な材料の例には、チタン、Inconel、Stellite(登録商標)、及びこれらの混合物が含まれる。たとえば、第1の下塗り層248は、5Å~50Å、たとえば10Å~40Å、たとえば20Å~40Å、たとえば20Å~30Åの範囲内の厚さを有することができる。一例では、第1の下塗り148はチタンである。
【0074】
下塗り膜248の最も外側の反復の上に、任意選択の外側誘電体層274が位置する。外側誘電体層274は、第1の誘電体層240に関して上記で論じたものなど、1つ又は複数の金属酸化物又は金属合金酸化物含有層から構成することができる。1つの非限定的な例では、外側誘電体層274は多膜層であり、第3の下塗り膜272の上に堆積された第1の金属酸化物層276、たとえば酸化亜鉛層と、酸化亜鉛層276の上に堆積された第2の金属合金酸化物層278、たとえばスズ酸亜鉛層とを有する。1つの非限定的な実施例では、酸化亜鉛層276は、25Å~200Å、たとえば、50Å~150Åなど、60Å~100Åなど、70Å~90Åなどの範囲内の厚さを有することができる。スズ酸亜鉛層278は、25Å~500Å、たとえば50Å~500Å、たとえば100Å~400Å、たとえば150Å~300Å、たとえば150Å~200Å、たとえば170Å~200Åの範囲内の厚さを有することができる。
【0075】
態様では、下塗り層の上及び外側誘電体層274の下に、誘電体層240、熱及び/又は放射反射金属層246、並びに下塗り層248を含むアセンブリ249の1つ、2つ、3つ、又は4つの追加の反復を堆積させることができる。一態様では、アセンブリ249の2つ以上の反復が存在する場合、熱及び/又は放射反射金属層246の1つ又は複数は、たとえば非限定的に図4に示すようにサブクリティカルである。
【0076】
1つの非限定的な例では、外側誘電体層274の総厚さ(たとえば、酸化亜鉛及びスズ酸亜鉛層の総計厚さ)は、100Å~800Å、たとえば200Å~600Å、たとえば250Å~400Å、たとえば250Å~270Åの範囲内である。
【0077】
第4の誘電体層274の上に、オーバーコート280が位置することができる。オーバーコート280は、下にある被覆層を機械的及び化学的攻撃から保護するのを助けることができる。オーバーコート280は、たとえば金属酸化物又は金属窒化物の層とすることができる。たとえば、オーバーコート280は、10Å~100Å、たとえば、20Å~80Åなど、30Å~50Åなど、30Å~40Åなどの範囲内の厚さを有するチタニアとすることができる。
【0078】
別の例示的な非限定的な被覆330が、図6に示されている。この例示的な被覆330は、基材の主表面(たとえば、第1のプライ12の第2の表面16)の少なくとも一部分の上に堆積された基層又は第1の誘電体層340を含む。第1の誘電体層340は、上述した第1の誘電体層40に類似のものとすることができる。たとえば、第1の誘電体層340は、単一の層とすることができ、又はそれだけに限定されるものではないが、金属酸化物、金属合金の酸化物、窒化物、酸窒化物、若しくはこれらの混合物など、反射防止材料及び/若しくは誘電体材料の2つ以上の膜を含むことができる。第1の誘電体層340は、可視光に対して透明とすることができる。第1の誘電体層340にとって好適な金属酸化物の例には、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、及びこれらの混合物の酸化物が含まれる。これらの金属酸化物は、酸化ビスマス中のマンガン、酸化インジウム中のスズなど、少量の他の材料を有することができる。加えて、亜鉛及びスズを含有する酸化物(たとえば、以下に定義するスズ酸亜鉛)、インジウム-スズ合金、窒化ケイ素、ケイ素アルミニウム窒化物、又は窒化アルミニウムの酸化物など、金属合金又は金属混合物の酸化物を使用することができる。さらに、アンチモン若しくはインジウムでドープされた酸化スズ又はニッケル若しくはホウ素でドープされた酸化ケイ素などのドープされた金属酸化物を使用することができる。第1の誘電体層340は、金属合金酸化物膜、たとえばスズ酸亜鉛などの実質上単相の膜とすることができ、又は亜鉛及び酸化スズから構成される相の混合物とすることができ、又は複数の膜から構成することができる。
【0079】
たとえば、第1の誘電体層340(単一膜又は複数膜の層)は、100Å~800Å、たとえば、100Å~600Åなど、200Å~600Åなど、400Å~500Åなど、440Å~500Åなどの範囲内の厚さを有することができる。
【0080】
第1の誘電体層340は、基材(第1のプライ12の内側主表面16など)の少なくとも一部分の上に堆積された第1の膜342、たとえば金属合金酸化物膜と、第1の金属合金酸化物膜342の上に堆積された第2の膜344、たとえば金属酸化物又は酸化物混合物の膜とを有する多膜構造を含むことができる。1つの非限定的な実施例では、第1の膜342をスズ酸亜鉛とすることができる。
【0081】
たとえば、第1の膜342をスズ酸亜鉛とすることができ、第2の膜344を酸化亜鉛(たとえば、90重量%の酸化亜鉛及び10重量%の酸化スズ)とすることができる。たとえば、第1の膜342は、50Å~600Å、たとえば、50Å~500Åなど、75Å~400Åなど、200Å~400Åなど、300Å~400Åなど、355Å~400Åなどの範囲内の厚さを有するスズ酸亜鉛を含むことができる。
【0082】
第2の膜344は、50Å~200Å、たとえば、50Å~150Åなど、85Å~100Åなどの範囲内の厚さを有する酸化亜鉛を含むことができる。
【0083】
第1の誘電体層340の上に、第1の熱及び/又は放射反射金属層346を堆積させることができる。第1の反射層346は、それだけに限定されるものではないが、金属金、銅、銀、又はこれらの混合物、合金、若しくは組合せなどの反射金属を含むことができる。一実施例では、第1の反射層346は、25Å~300Å、たとえば50Å~300Å、たとえば50Å~250Å、たとえば50Å~200Å、70Å~200Åなど、70Å~100Åなど、73Å~100Åなどの範囲内の厚さを有する金属銀層を含む。
【0084】
第1の反射層346の上に、第1の下塗り層348が位置する。第1の下塗り層348は、単一膜又は複数膜の層とすることができる。第1の下塗り層348は、スパッタリング・プロセス又は後の加熱プロセス中に第1の反射層346の劣化又は酸化を防止するために蒸着プロセス中に犠牲にすることができる酸素捕捉材料を含むことができる。第1の下塗り層348はまた、被覆330を通過する可視光などの電磁放射の少なくとも一部分を吸収することができる。第1の下塗り層348にとって有用な材料の例には、チタン、Inconel、Stellite(登録商標)、及びこれらの混合物が含まれる。たとえば、第1の下塗り層348は、第1の下塗り膜349及び第2の下塗り膜351を有する多膜層とすることができる。第1の下塗り膜349及び第2の下塗り膜351は、典型的には異なる材料である。たとえば、第1の下塗り膜349は、1Å~10Å、たとえば1Å~5Åの範囲内の厚さを有するInconelとすることができる。第2の下塗り膜351は、5Å~20Å、たとえば10Å~15Åの範囲内の厚さを有するチタンとすることができる。
【0085】
第1の反射層346の上(たとえば、第1の下塗り層348の上)に、第2の誘電体層350が位置する。第2の誘電体層350は、第1の誘電体層340に関して上述したものなどの1つ又は複数の金属酸化物又は金属合金酸化物含有膜を含むことができる。たとえば、第2の誘電体層350は、第1の下塗り膜348の上に堆積された第1の金属酸化物膜352、たとえば酸化亜鉛膜と、第1の酸化亜鉛膜352の上に堆積された第2の金属合金酸化物膜354、たとえばスズ酸亜鉛(ZnSnO)膜とを含むことができる。スズ酸亜鉛層の上に、任意選択の第3の金属酸化物膜356、たとえば別の酸化亜鉛層を堆積させることができる。
【0086】
第2の誘電体層350は、50Å~1000Å、たとえば50Å~800Å、たとえば100Å~800Å、たとえば200Å~800Å、たとえば500Å~700Å、たとえば650Å~700Åの範囲内の総厚さ(たとえば、2つ以上の層が存在する場合はこれらの層の総計厚さ)を有することができる。
【0087】
たとえば、多膜層の場合、酸化亜鉛膜352(及び存在する場合は任意選択の第3の酸化亜鉛膜356)は、10Å~200Å、たとえば50Å~200Å、たとえば50Å~150Å、たとえば50Å~75Åの範囲内の厚さを有することができる。金属合金酸化物層(スズ酸亜鉛)54は、50Å~800Å、たとえば50Å~500Å、たとえば100Å~500Å、たとえば400Å~500Åの範囲内の厚さを有することができる。
【0088】
第2の誘電体層350の上(たとえば、存在する場合は第3の酸化亜鉛膜356の上、又は存在しない場合はスズ酸亜鉛膜354の上)に、反射金属層358が位置する。1つの非限定的な実施例では、第2の反射層358は、50Å~300Å、たとえば100Å~200Å、たとえば150Å~200Å、たとえば170Å~200Åの範囲内の厚さを有する銀を含む。
【0089】
第2の反射層358の上に、第2の下塗り層372を堆積させることができる。第2の下塗り層372は、第1の下塗り層348に関して上述したものとすることができる。たとえば、第2の下塗り層372は、第1の下塗り膜371及び第2の下塗り膜373を有する多膜層とすることができる。第1の下塗り膜371及び第2の下塗り膜373は、典型的には異なる材料である。たとえば、第1の下塗り膜371は、1Å~15Å、たとえば5Å~10Åの範囲内の厚さを有するInconelとすることができる。第2の下塗り膜373は、5Å~20Å、たとえば10Å~15Åの範囲内の厚さを有するチタンとすることができる。
【0090】
第2の反射層358の上(たとえば、第2の下塗り膜372の上)に、第3の誘電体層374を堆積させることができる。第3の誘電体層374はまた、第1の誘電体層340及び第2の誘電体層350に関して上記で論じたものなど、1つ又は複数の金属酸化物又は金属合金酸化物含有層を含むことができる。一例では、第3の誘電体層374は、第2の誘電体層350に類似している多膜層である。1つの非限定的な例では、第3の誘電体層374は多膜層であり、第2の下塗り層372の上に堆積された第1の金属酸化物層376、たとえば酸化亜鉛層と、酸化亜鉛層376の上に堆積された第2の金属合金酸化物層378、たとえばスズ酸亜鉛層とを有する。1つの非限定的な実施例では、酸化亜鉛層376は、25Å~200Å、たとえば、50Å~150Åなど、100Å~150Åなどの範囲内の厚さを有することができる。スズ酸亜鉛層378は、25Å~500Å、たとえば50Å~500Å、たとえば100Å~400Å、たとえば200Å~350Å、たとえば300Å~350Å、たとえば320Å~350Åの範囲内の厚さを有することができる。
【0091】
1つの非限定的な例では、第3の誘電体層374の総厚さ(たとえば、酸化亜鉛及びスズ酸亜鉛層の総計厚さ)は、100Å~800Å、たとえば200Å~600Å、たとえば250Å~500Å、たとえば470Å~500Åの範囲内である。
【0092】
第3の誘電体層374の上に、オーバーコート380が位置することができる。オーバーコート380は、下にある被覆層を機械的及び化学的攻撃から保護するのを助けることができる。オーバーコート380は、たとえば金属酸化物又は金属窒化物の層とすることができる。たとえば、オーバーコート380は、10Å~100Å、たとえば、20Å~80Åなど、30Å~50Åなど、30Å~40Åなどの範囲内の厚さを有するチタニアとすることができる。
【0093】
以下の例は、本発明の様々な実施例を示す。しかし、本発明はこれらの特有の実施例に限定されるものではないことを理解されたい。
【0094】
一態様では、被覆をパターンでフラッシングして、被覆内に透過及び/又は反射パターンを生じさせる。被覆内のパターンは、審美性から機能性に及ぶ様々な理由で有用である。たとえば、パターンを生じさせて、透明物を野生動物により見えるようにし、たとえば鳥の衝突を低減させ、望ましい審美的効果をもたらし、或いは部分的なプライバシー・スクリーン又は段階的な密度若しくは効果をもたらすことができる。別の態様では、被覆にパターン形成して、たとえば電気光学デバイスで使用するために、この被覆内に低抵抗率のパターン、たとえば回路を形成する。一態様では、パターンは、フラッシュ・ランプとフラッシングされる被覆との間に、シートなどのフィルタ又は不透明な物体又はマスクを介在させることによって形成される。
【0095】
図7を参照すると、たとえば基材の主表面(たとえば、第1のプライ12の第2の表面16)の少なくとも一部分の上に堆積された被覆430が、本明細書に記載するように、フラッシュ・ランプ432を使用してフラッシングされる。フラッシュ・ランプ432と被覆430との間には、マスク434が介在して陰影効果をもたらし、その結果、被覆430上にパターンの光が特異的に印加される。陰影効果は、異なる光強度に露出された被覆の被覆層の表面の上に異なる光処理をもたらすため、したがってそれだけに限定されるものではないが、透過若しくは反射色値(たとえば、L*a*b*値)、透過率、反射率、曇り、結晶度、及び/又はシート抵抗の変化を含む、光に影響される被覆の層の任意の態様のパターンが生じる。マスク434は、フラッシュ・ランプ432と被覆430との間の中間位置に示されている。実際には、マスクは、所望のマスキング作用を生じさせるのに効果的なランプ432と被覆430との間の任意の位置に配置することができる。一態様では、光源は非コヒーレントであり、必ずしも点光源ではないため、より明確に画定されたパターンを生じさせるために、マスク434を被覆430上に直接、又は被覆430の可能限り近くに配置することが好ましいことがある。別の態様では、より柔らかいそれほど明確に画定されないパターンを生じさせるために、マスクを図示のように、又は被覆430とフラッシュ・ランプ432との間の位置に配置することが好ましいことがある。当業者には明らかになるはずであるように、マスク434として星形を使用することは単なる例示であり、マスク434は、任意の所望の形状及び透明度を有することができ、不透明度が100%未満であるとき、マスク434は、フラッシュ・ランプ432からの光を濾過して被覆430の部分的なマスキングを行うための所望の着色及び/又は透過率を有することができる(カラー又はニュートラル・デンシティ・フィルタとして作用する)。他の態様では、複数のマスクを使用することもできる。さらなる他の態様では、マスク434は、被覆430上に勾配パターンをもたらすために、透過率(ニュートラル・デンシティ・フィルタとして作用する)及び/又は色(色勾配フィルタ)の勾配を有することができる。
【0096】
実例1
変動する圧力及びO割合を有するアルゴン中で、厚さ3.2mmのフロート・ガラス上への図8に示す厚さまでのITO層のMSVD蒸着によって、ITO被覆ガラス物品を準備した。室温(約22℃)において、500マイクロ秒及び約4~5J/cmの単一パルスで、これらの物品をフラッシングした。4点プローブを使用してシート抵抗を測定し、図8に結果が提供されている。シート抵抗(30Ω/□未満)は十分であり、125nmを上回る層の場合、シート抵抗は20Ω/□未満である。標準的な方法論によって同じ被覆物品についての放射率を評価し、図9に示す結果は、厚さ150nmを上回る、特に250nm~350nmの範囲内のITO層の場合、放射率は2~5倍を超えて変化し、35Ω/□まで上昇したことを示す。
【0097】
実例2
図10A及び図10Bに示すように圧力、O割合、及び厚さを変動させたことを除いて、本質的に実例1に示すように、ITO被覆物品を準備した。約4~5J/cmのキセノン・ランプから約500マイクロ秒のパルスで、サンプルをフラッシングした。標準的な方法によって、ホール測定(キャリア濃度及びキャリア移動度)を測定した。図10A及び図10Bに見ることができるように、フラッシング後にキャリア移動度及び濃度は増大し、これは伝導率の全体的な増大を示すが、キャリア濃度の最大の増大は、4mTorr及び1.5%のOで堆積されたITOの場合に見られた。
【0098】
実例3
すべてのサンプルが0%、1.5%、又は2.5%のOを有する4mTorrのアルゴン中でMSVDによって堆積された厚さ250nmのITO層を有したことを除いて、本質的に実例1と同様に、ITO被覆物品を準備した。分光測色により透過率を測定し、透過率及び反射率のデータから正規化吸収度を計算した。結果が図11A及び図11Bに示されている。2つのサンプル・セットについての積分透過率が示されている。約4~5J/cmで約500マイクロ秒の単一のパルスで、サンプルをフラッシングした。0%及び1.5%のOのサンプルについての可視及び近赤外スペクトルにおいて、フラッシング前のサンプルとフラッシング済みサンプルとの間には、透過率及び正規化吸収度の大きな違いが見られるが、2.5%のOではほとんど効果が見られず、酸素が欠乏しているITOがフラッシングに対してより反応することを示す。
【0099】
実例4
圧力、O割合が3mTorr及び2.5%のOであり、厚さが図12に示すように変動したことを除いて、本質的に実例1に示すように、ITO被覆物品を準備した。約4~5J/cmのキセノン・ランプから約500マイクロ秒のパルスで、サンプルをフラッシングした。標準的な方法によって、シート抵抗及び積分透過率を評価した。図12に見ることができるように、250nmから650nmより大きい範囲のシートに対して、4mTorr及び1.5%のOで堆積されたITOの場合、フラッシュ・アニーリングによって低いシート抵抗及び透過率を得ることができる。
【0100】
実例5
ITO層厚さが約300nmであったことを除いて、本質的に実例1に記載されているように、ITO被覆物品を準備した。異なるITO堆積条件を使用し、その結果、標準的な方法論によって、図13Aに示す吸収係数スペクトルが判定された。約4~5J/cmのキセノン・ランプから約500マイクロ秒のパルスで、サンプルをフラッシングした。各サンプルに対して標準的な方法論によって、X線回折(XRD)トレースを得た(図13B)。図13Aに見ることができるように、425nm~500nmの光に対して吸収係数が増大するにつれて、その光の侵入深さが低下し、サンプル2に対してXRDピークの移動及び増大が見られ、サンプル3に対してピークの分割又は分岐が見られ、これは単一のITO層からの2つの副層の形成を示す。
【0101】
図13Aに示すように、層の吸収係数は、フラッシュの侵入深さに影響する。十分に高い吸収係数を有する十分な厚さの層の場合、層が部分的にのみ変換され、その結果、別個のITO層が異なる物理的特性を有するように、層内へのフラッシュの侵入の深さを調整することができる。そのような例では、ITO層を、フラッシュによって物理的に変換される第1の層(フラッシュ・ランプにより近い)と、フラッシュによって物理的に変換されない第2の層(フラッシュからより離れている)とに分岐することができる。したがって、図13Bに示すように、より大きい吸収係数(より低い侵入深さ)を有する被覆が、分割を示す。中間の吸収係数(及び侵入深さ)を有する被覆は、ピークの移動を示す。最高の侵入深さ(最低の吸収度)を有する被覆は、XRDパターンのほぼゼロの変化を呈する。
【0102】
実例6
ITO層厚さが図14に示すとおりであり、1.5%のOを有するITOを4mTorrで堆積させたことを除いて、本質的に実例1に記載されているように、ITO被覆物品を準備した。約4~5J/cmのキセノン・ランプから約500マイクロ秒のパルスで、サンプルをフラッシングした。XRD回折トレースが図14に提供されている。見ることができるように、フラッシングの結果、すべての厚さが変換を呈したが、たとえばこの特定のITO組成物についての光パルスの有効侵入深さを超えて層の厚さが増大すると、186nmを超える厚さで、2つの物理的に異なる副層への層の分岐が見られた。異なるITO及びTCO組成物並びに異なるフラッシュ・スペクトル及び強度に対して、分岐は異なる厚さで始まることが予期される。
【0103】
実例7
米国特許出願公開第20110117300号に本質的に記載されているように、モノリシック・ガラス上に、基材、第1の誘電体層(40~55nm)、反射層(5.5~8.5nm)、下塗り層(0.5~6nm)、第2の誘電体層(15~45nm)、及び最高15nmの保護層の順で、MSVD被覆製品の30.48cm(12”)×30.48cm(12”)のシートを準備した。これらの厚さはアニーリング済み製品に対するものである。この範囲内の下塗り厚さを使用すると、フラッシング後の曇り及び視覚的品質の損失が生じることが分かった。したがって、上述した公称製品は、1kWによって両方の下塗り厚さを増大させ、1.5kWによって両方の下塗り厚さを増大させ、3kWによって頂部及び中心酸化物を減少させ、又は2kWによって両方の下塗り厚さを増大させ、且つ3kWによって頂部及び中心酸化物を減少させるように修正された。
【0104】
試験基材をフラッシュ加熱するために、NovaCentrix PulseForge1300システムを使用した。ステージは、13mmのz高さに設定した。「プロセス開発」のために、「固定位置」モードで一回フラッシングするように設定されたPulseForgeとともに、5.08cm(2”)×5.08cm(2”)の正方形の被覆ガラスを使用した。4点プローブを介したフラッシュ処理の前及び後に、これらのサンプルのシート抵抗を測定した。
【0105】
解析的分析のために提出されたサンプルは、10.16cm(4”)×10.16cm(4”)であった。使用されるフラッシュ・パラメータは、5.08cm(2”)×5.08cm(2”)の結果に基づいて好ましいと識別されたセットであるが、一片が単一のフラッシュ事象によって覆われる領域より大きいため、モードは「1回通過」に変更され、重複は2.0、処理能力は3.048m(10ft)/分に設定された。
【0106】
図15は、この評価で使用されるフラッシュ条件を示す。「1kW」シリーズのサンプルはすべて、Sungate460の12×12個のうちの1つからの切片であり、下塗りは1kWによって増大し、「1.5kW」シリーズのサンプルはすべて、Sungate46012×12個のうちの1つからの切片であり、下塗りは1.5kWによって増大し、「2kW」シリーズのサンプルはすべて、Sungate460の12×12個のうちの1つからの切片であり、下塗りは2kWによって増大する。「Norn」シリーズのサンプルは、公称Sungate460の12×12からの切片である。「フラッシュ前」シート抵抗は、バージョン間のわずかな違いを示し、約3.68Ω/平方の公称Sungate460のフラッシュ前シート抵抗率が最も高く、「1kW」及び「1.5kW」シリーズは、約3.58Ω/平方を示し、「2kW」シリーズは、3.63Ω/平方に近かった。
【0107】
それぞれの12×12からの最も低いフラッシュ後シート抵抗率のサンプルが、緑色で強調されている。緑色で強調されたサンプルのうちの3つで、フラッシュ・アニーリングのために640V及び500μ秒のパルス持続時間を使用したことに留意されたい。これらの結果のうち、最も低い3つのフラッシュ後抵抗は全体的に、異なるフラッシュ条件下で「1.5kW」片に関した。12×12は、フラッシュ・プロセスからの最小の利益がサンプルAであったことを示す。フラッシュ・カラム後のシート抵抗の「DAM」を使用して、フラッシュの結果の被覆に対する損傷の推定を示し、これらの場合、電圧の増大及び持続時間の増大の両方とともに増大するフラッシュ電力が、最適レベルより高かったと考えられる。
【0108】
この結果に基づいて、10.16cm(4”)×10.16cm(4”)の1.5kW材料片を切断し、同じフラッシュ設定点でフラッシングした(上述した「1回通過」モードを使用)。サンプルA(NOM-4×4)、未フラッシュのサンプルC、及びフラッシュ済みのサンプルCという、3つの合計10.16cm(4”)×10.16cm(4”)のサンプルを準備し、放射率及びSHGCの特性評価のために提示した。図16及び図17は、5つの異なる被覆、すなわち3つの記載の10.16cm(4”)×10.16cm(4”)のサンプル、1つの市販のアニーリング済み製品、及び1つの市販の焼き戻しされたアニーリング済み製品に対して、2枚の3.2mmの透明ガラス及び1.27cm(0.5”)の空気間隙を使用する絶縁ガラス・デバイスに組み込まれているとシミュレートした、可視色及び性能特性を示す表である。
【0109】
図15に見られるように、最も低いフラッシュ後シート抵抗率が強調されている。強調されたサンプルのうちの3つは、640V及び500μ秒のフラッシュ持続時間を使用し、3つの最も低いフラッシュ後シート抵抗は、1.5kWの下塗り片に関した。「DAM」でマークされたサンプルは、最適範囲を上回るフラッシングの結果、おそらく損傷されている。次いで、1.5kW材料片を上記のようにフラッシングし、絶縁ガラスのコンピュータ・シミュレーションを使用して、上述した公称製品並びに市販の未焼き戻し製品(Sungate460)及び市販の焼き戻し済み製品(Sungate460VT)と比較した。図16に見ることができるように、フラッシュ処理されたサンプルは、市販の製品に色が非常に類似しており、3つすべてのサンプルが、市販の製品と比較すると透過率の上昇を示す。図17に見ることができるように、フラッシュ処理されたサンプルは、より低い放射率及びより高い日射熱取得率を示した。
【0110】
実例8
たとえば図5及び図6に関連して、市販のSOLARBAN(登録商標)70ベースの被覆に対応して、本質的に上述したように、3つの銀層物品を準備し、その目標は、市販の焼き戻し済み製品に密接に整合する未焼き戻し製品を作製することを可能にするのに十分な量のTL*の増大を実現することができるかどうかを判定することであった。
【0111】
未アニーリング製品上の変形例のサンプル・セットを、5mmの透明ガラス上に堆積させた。サンプル・セット変形例では、下塗りの厚さ及び連続銀層の厚さの変化に注目した。1組の5つのフラッシュ処理条件を画定し、制御(未フラッシュ)サンプルとともに、各被覆から切断した切片上で実行した。1組の102個のサンプルを特性評価及び分析し、光学モデリングを使用して層厚さを判定した。
【0112】
表1に示すように、17個の被覆変形例を、未焼き戻し(アニーリング済み)サンプル及び焼き戻し済み(VT)サンプルと比較した。
【表1】
【0113】
表1で、0、1、2、3、及び221が連続銀層のそれぞれの増大%である。「0」を下回る上記に挙げたすべてのサンプルが、公称銀厚さ(+0%)を使用して各層に堆積され、「2」を下回るサンプルはそれぞれ、約2%の銀カソード電力上昇を有した。「221」は、底部の銀についての2%の増大、中心の銀についての2%の増大、及び頂部の銀についての1%の増大を指す。これらの下塗りに対して、アニーリング済みレベルの下塗り厚さ、VTレベル、及び3つの中間の下塗りを含む5つの下塗り厚さを使用し、%はアニーリング済みレベルからVTレベルへの厚さ増大の割合を参照する。たとえば、サンプル「29C」は、(1)銀層電力レベル(したがって、公称では銀厚さ)を約2%増大させたこと、及び(2)各下塗りカソード電力レベルがアニーリング済み電力レベルからVT電力レベルの方へ増大する途中の設定点40%であったことを除いて、製品SOLARBAN(登録商標)70XLとそれ以外は同一である。
【0114】
「-C」、及び「-1」~「-5」と呼ばれる6つの異なるフラッシュ処理条件下で、各サンプルを処理した。これらの接尾語の解釈が、表2に与えられている。
【表2】
【0115】
レシピ19は、高いTL*値をもたらすことが観察された1組のフラッシュ条件を指す。このプロセスは、次のように、概して増大する電圧で19のフラッシュを使用する
【表3】
【0116】
この命名法を使用すると、サンプル36C-3は、VT下塗り電力レベルを使用し、次いで500μ秒の持続時間だけ620Vで一回フラッシングしたことを除いて、基線SOLARBAN(登録商標)70XLとそれ以外は同一の被覆から切断された切片を指す。このセットで100+サンプルは、複数の条件下での単一の可変比較を可能にする。結果は、以下を含む。
●アニーリング済みレベルの下塗り厚さを有するサンプルは、一般にフラッシュ処理によって損傷され、30%の下塗り増大サンプルで、ある程度の損傷/曇りも観察された。
●VTレベルの下塗りを有するサンプルは、透過率を改善するのに十分なほど多量にフラッシングされた場合、透過色が大きく外れた(Tb*が高い)。
●複数のフラッシュを使用すると、2.3点と同じ高さのTL*の増大が生じ、単一のフラッシュを使用すると1.4と同じ高さの増大が生じた(5mmの透明基線サンプル上の製品SOLARBAN(登録商標)70XLに対して)。
●フラッシュ処理されたサンプルは、VTスタックよりアニーリング済みスタックに光学的に類似していた。
●色を維持するには、より薄い酸化物を必要とするはずである。
●色を維持するには(底部Agについての最大の増大、頂部Agについての最小の増大)、より厚い銀層を必要とするはずである。
【0117】
図18は、フラッシュ処理されたサンプルと、SOLARBAN(登録商標)70仕様と、関連する製品被覆との間のTL*値を比較する。「単一フラッシュ」のサンプルは35C-3(基線銀厚さ、50%の下塗り仲介)であり、複数フラッシュのサンプルは35C-5であった。これらのサンプルはどちらも、STARPHIRE(登録商標)サンプル上のSOLARBAN(登録商標)70XLより特に高いTL*値を有した。フラッシングされたサンプルは、5mmの透明部上にあり、余分のmmの透明部は、フラッシュ済みサンプルのTL*を約0.1さらに低減させることが予期されるはずであることに留意されたい。
【0118】
コンピュータ・モデリングを使用して、複数のサンプル(27C~31C、すべてフラッシュ処理)を評価し、そのようなコンピュータに基づく最適化プロセスに適用できると判定した。サンプルを特性評価し、層の移動%を記録した。以下の表4は、27C-31Cにおけるすべての特性評価された-Cサンプルからの各層に対する提案される層の移動%を示す(基線21C-Cサンプルとともに)。「公称の移動」は、各サンプルに使用される基線電力レベルに対する変化%を指す(0.1kWの増分でカソード電力を調整したため、数字は厳密に1%、2%、及び3%ではなく、使用された実際の調整は表に示されている)。「アニーリング済みレベルを22%上回るTi下塗り」は、これらが40%下塗り仲介サンプルであることを示し、22%の増大は、アニーリング済みからVT下塗り厚さに到達するために必要とされる56%の増大までの途中の40%に近い。「提案される移動」のセルは、色を保持するために必要とされる推定される厚さ調整に公称移動値を加え、自己一貫した挙動を想定すると、これらの数字は理論上、連続銀厚さが変化する場合でも、一定のままになるはずである(たとえば、基線銀厚さにおける必要とされる厚さ調整が2%の増大である場合、自己一貫した挙動は、2%の増大後の推定される必要な厚さ調整が0%になることを予期すはずである。0%+2%及び2%+0%は、同じ結果の「提案される移動」値を与えるはずである)。
【0119】
結果は、自己一貫性の相当な減少を示し、SOLARBAN(登録商標)70XLの審美性を保持するために必要とされる厚さ調整は、実際の銀層に実施された変化に対してはるかに小さい範囲(約1%)内で変動した。示されている数字の最終ブロック、「調整された「固有」の移動」は、基線サンプルに必要とされる対応する層厚さ調整によって必要とされる推定層厚さ調整を正規化する。この最も顕著な効果は、中心の銀についてのものであり、中心の銀における2.2%の増大が、光学的性質に基づいて必要とされると推定される。この底部の1組の数字の意図は、その堆積時の状態で最適化されたスタックを特有のフラッシュ・プロセスに対して最適化されたものに調整するはずである仮定の移動について説明することである(前の「提案される移動」の数字セットは、色のある場合でもいくつかの場所で厚さが少量だけ外れると想定されうる任意に使用される基線スタックに対して調整するように最適化される)。
【表4】
【0120】
これらの表から、計算された平均的な「固有」の銀層厚さの変化要件を編集し、フラッシュ・プロセス間で比較し、結果が図19に示されている。フラッシングされていないサンプル(-C)の場合、提案される移動は厚さの低減である。これは、モデルに適合する金属Ti、余分のAgとして解釈され、この解釈では、一部の金属Tiが同様に-3サンプル内に残る(移動のうちの2つが依然として低減である)ことが可能であると考えられる。他のフラッシュ・プロセスの結果、類似の反直感的な厚さ調整推定、底部の銀の2.5~4.5%、中心の銀の1.2~2.5%、頂部の銀の0.2~1.2%の増大をもたらす。
【0121】
ΔEcmcは、2つの物品の色プロファイル間の全体的な違いの測度である。サンプル35C-3及びSTARPHIRE(登録商標)上のSOLARBAN(登録商標)70XLに対して、SOLARBAN(登録商標)70VTと比較して、ΔEcmcを判定した。図20は、35C-3サンプルがSTARPHIRE(登録商標)上のSOLARBAN(登録商標)70XLより焼き戻し済み製品に対して非常に近い色整合であることを示す。
【0122】
実例9
たとえば図3及び図4に関連して、市販のSOLARBAN(登録商標)90ベースの被覆に対応して、本質的に上述したように、単一の不連続の(サブクリティカル)銀層を有する4銀層物品を準備し、その目標は、500μ秒で670V、500μ秒で650V、200μ秒で800V、又は2000μ秒で500Vを含む単一のフラッシュを使用して、物品を損傷することなく、TL*の増大を実現することができるかどうか、及び有用な色プロファイルを生成することができるかどうかを判定することである。いくつかのフラッシュ条件では、あまり望ましくない、たとえば高b*(黄変)のCIELAB L*a*b*プロファイルが生じたが、透過率は概して増大し、色プロファイルはフラッシュ処理に応答して、下塗り厚さの増大とともに曇りの低減が得られた。
【0123】
以下の条項は、本開示の様々な態様の例を提供する。
1.透明導電性酸化物又は半導体を含む層を含む被覆基材を作製する方法であって、
a.不活性雰囲気中で基材の少なくとも一部分の上に、少なくとも1,000cm-1の可視スペクトル内の波長の吸収係数を有する透明金属酸化物又は半導体層を堆積させるステップと、
b.可視スペクトル内の波長で層が少なくとも1,000cm-1の吸収係数を有する光を含む可視スペクトル内の非コヒーレント光の3.5J/cm~6.0J/cmの範囲のパルスによって、15℃~40℃又は20℃~30℃の範囲の温度で透明導電性酸化物又は半導体層の少なくとも一部分をフラッシングするステップとを含む方法。
2.パルスが、透明導電性酸化物又は半導体の分割層をもたらす層の厚さより小さい層内の侵入深さを有し、分割層の各層が、異なる物理的特性を有する、条項1に記載の方法。
3.パルスが、4.0J/cm~5.0J/cmの範囲である、条項1又は2に記載の方法。
4.透明導電性酸化物又は半導体層が、透明導電性酸化物を含む、条項1又は2に記載の方法。
5.透明導電性酸化物が、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、及びこれらの混合物の酸化物である、条項4に記載の方法。
6.透明導電性酸化物が、インジウム・スズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物、亜鉛スズ酸化物、インジウム・カドミウム酸化物、カドミウム・スズ酸化物、スズ酸バリウム、バナジン酸ストロンチウム、又はバナジン酸カルシウムである、条項4に記載の方法。
7.TCOが、2mTorr~5mTorr又は3mTorr~4mTorrの雰囲気中で堆積される、条項4から6までのいずれか一項に記載の方法。
8.TCOが、3(体積)%以下の酸素、2.5%以下の酸素、たとえば2.5%の酸素、2.5%未満の酸素、又は1.5%以下の酸素を含む雰囲気中で堆積される、条項4から7までのいずれか一項に記載の方法。
9.透明導電性酸化物が、インジウム・スズ酸化物である、条項4に記載の方法。
10.インジウム・スズ酸化物が、2.5%未満の酸素を有する不活性雰囲気中で堆積される、条項9に記載の方法。
11.インジウム・スズ酸化物が、2mTorr~5mTorr又は3mTorr~4mTorrの範囲の圧力で堆積される、条項9又は10に記載の方法。
12.インジウム・スズ酸化物が、150nm~400nm若しくは200nm~300nmの範囲、又は250nmの厚さを有する層内に堆積される、条項9から11までのいずれか一項に記載の方法。
13.インジウム・スズ酸化物が、300nm~2μmの範囲の厚さを有する層内に堆積され、フラッシュの侵入深さが、インジウム・スズ酸化物層の厚さより小さく、透明導電性酸化物又は半導体の分割層をもたらし、分割層の各層が、異なる物理的特性を有する、条項9から11までのいずれか一項に記載の方法。
14.透明導電性酸化物又は半導体層が、酸素が欠乏している透明導電性酸化物を含む、条項1から13までのいずれか一項に記載の方法。
15.基材が透明である、条項1から14までのいずれか一項に記載の方法。
16.基材がガラス又はプラスチック材料である、条項1から14までのいずれか一項に記載の方法。
17.透明導電性酸化物又は半導体層が、3%以下の酸素、2.5%以下の酸素、たとえば2.5%の酸素、2.5%未満の酸素、又は1.5%以下の酸素を含む雰囲気中で、2mTorr~5mTorr又は3mTorr~4mTorrの圧力で、150nm~400nm若しくは200nm~300nmの範囲、又は250nmの厚さを有する層内に堆積されたインジウム・スズ酸化物を含む、条項1又は2に記載の方法。
18.パルスが単一パルスである、条項1から17までのいずれか一項に記載の方法。
19.
a.基材と、
b.基材の少なくとも一部分の上の透明導電性酸化物又は半導体を含む層とを含み、この層が、第1のシート抵抗を有する第1の副層と、第1の副層の真上に位置し、第1のシート抵抗より低い第2のシート抵抗を有する第2の副層とを含む、
透明物品。
20.透明導電性酸化物又は半導体が、インジウム・スズ酸化物を含む、条項19に記載の方法。
21.透明導電性酸化物又は半導体を含む層が、300nm~2μmの範囲の厚さを有する、条項20に記載の方法。
22.透明導電性酸化物層を含む被覆基材を作製する方法であって、
a.基材上に薄層のスタックを堆積させるステップであり、スタックが、基材の少なくとも一部分の上に少なくとも透明導電性酸化物層又は半導体層を含む、堆積させるステップと、
b.最高10ミリ秒のパルス長にわたって1J/cm~10J/cmの範囲の強度を有する可視スペクトル内の非コヒーレント光の単一のフラッシュによって、10℃~50℃又は20℃~30℃の範囲の温度で被覆基材をフラッシングするステップとを含み、光源と薄層のスタックとの間にマスクが配置され、したがってフラッシュの少なくとも一部分がマスキングされ、フラッシュからの光が、薄層のスタックに到達しないようにマスクによって部分的に阻止され、薄層のスタックの一部分のみに到達し、それによって薄層のスタック内に反射色、透過色、異なるシート抵抗、及び/又は放射率のパターンを生じさせる、方法。
【0124】
上記の説明で開示した概念から逸脱することなく、本発明に修正を加えることができることが、当業者には容易に理解されよう。したがって、本明細書に詳細に説明する特定の実施例は例示のみを目的とし、本発明の範囲を限定するものではなく、添付の特許請求の範囲及びそのあらゆる均等物の完全な幅が与えられるべきである。
図1
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図10B
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図11B
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