IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋アルミニウム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-食肉保存用フィルム 図1
  • 特許-食肉保存用フィルム 図2
  • 特許-食肉保存用フィルム 図3
  • 特許-食肉保存用フィルム 図4
  • 特許-食肉保存用フィルム 図5
  • 特許-食肉保存用フィルム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】食肉保存用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/02 20060101AFI20221205BHJP
   A23B 4/02 20060101ALI20221205BHJP
   B65D 85/50 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
B65D65/02 E
A23B4/02 Z
B65D85/50 110
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020522179
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2019020890
(87)【国際公開番号】W WO2019230648
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2018102830
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018234855
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 啓介
(72)【発明者】
【氏名】松井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】泉田 博志
(72)【発明者】
【氏名】上松 正和
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅喜
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-330246(JP,A)
【文献】米国特許第03419400(US,A)
【文献】特開平05-268925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0058021(US,A1)
【文献】特開2000-246843(JP,A)
【文献】特開2009-077651(JP,A)
【文献】特表2007-531672(JP,A)
【文献】日本アルミニウム協会,社会に貢献するアルミ箔の世界 アルミホイルを“氷温熟成”に応用,2015年01月04日,[online], [検索日:2019.08.08], インターネット: <URL:https://www.aluminum.or.jp/haku/handbook/katsuyou06.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/02
A23B 4/02
B65D 85/50
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉を保存するためのフィルムであって、
(1)水と反応して分子状水素を発生し得る水素発生粒子を含有する水素発生層を含み、
(2)前記水素発生層は、高分子材料を含むマトリックス中に前記水素発生粒子が分散してなる構造を有し、かつ、前記水素発生層中における前記水素発生粒子の含有量が0.1~10重量%であり、
(3)当該フィルムは、前記水素発生層を食肉表面に直に接触させた状態で用いられる、
ことを特徴とする食肉保存用フィルム。
【請求項2】
少なくとも当該水素発生層表面から外部に向かって突出する水素発生粒子の表面が被覆用樹脂を含む被覆層で覆われている、請求項1に記載の食肉保存用フィルム。
【請求項3】
前記高分子材料がポリエチレン、ポリプロピレン、スチロール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、変性フッ素樹脂、エポキシ樹脂、デンプン、セルロース、ナイロン、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイドの少なくとも1種である、請求項1に記載の食肉保存用フィルム。
【請求項4】
前記水素発生粒子は、水素化マグネシウム、水素化カルシウム、水素化バリウム、水素化ベリリウム、水素化ストロンチウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムナトリウム、水素化ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム合金及びアルミニウム合金の少なくとも1種である、請求項1に記載の食肉保存用フィルム。
【請求項5】
前記水素発生粒子の体積平均粒子径が1~100μmである、請求項1~4のいずれかに記載の食肉保存用フィルム。
【請求項6】
食肉を熟成するために用いる、請求項1に記載の食肉保存用フィルム。
【請求項7】
食肉の鮮度を保持するために用いる、請求項1に記載の食肉保存用フィルム。
【請求項8】
熟成食肉を製造する方法であって、
(1)水素発生層が食肉表面に直に接触させた状態となるように請求項1に記載の食肉保存用フィルムを食肉に貼着する工程、
(2)前記フィルムが貼着された食肉を5℃以下の温度で熟成することにより熟成食肉を得る工程
を含む熟成食肉の製造方法。
【請求項9】
少なくとも前記(2)の工程が外気を遮断した雰囲気下で実施される、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉を保存するために用いられるフィルムに関する。また、本発明は、食肉を熟成させるために用いられるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
牛肉、豚肉、鶏肉等の食肉は、所定の大きさに加工された後、汚れの防止等を目的としてフィルム又はシート(以下、両者をまとめて「フィルム」という。)に包装された後、必要に応じて輸送、保存等が行われた後、消費者の手元に届けられる。
【0003】
ところで、食肉は、その色調が経時的に変化していくことが一般的に知られている。そのため、安全に食することができる肉質であるにもかかわらず、食肉の色調が変化しただけで、食肉が劣化したと判断され、廃棄されてしまうことが少なくない。このような廃棄ロスを減らすためには、例えば食肉の色調変化を防いで食肉の見た目を美しく保つことが重要である。
【0004】
食肉の色調は、食肉中に含まれるミオグロビンを主体とする色によるものである。食肉中の還元型ミオグロビンが酸化されてオキシミオグロビンに変化することで鮮赤色を呈した後、さらに酸化することで褐色のメトミオグロビンを生じる結果、色調が赤色から褐色に変化する。このような食肉の色調変化を防ぐために亜硝酸塩等の発色剤のほか、合成アスコルビン酸等の酸化防止剤が一般的に使われている。ところが、亜硝酸塩は発がん性の生理活性を有することが懸念されるニトロソアミンを生成する可能性がある。合成アスコルビン酸は、大量に摂取すると下痢等を引き起こすおそれがある。これらの課題を解決すべく、例えば人体に安全なトランスグルタミナーゼを用いて食肉の色調変化を防ぐ方法(特許文献1)が提案されている。
【0005】
他方、食肉の鮮度保持と併せて食肉の旨みを向上するニーズも存在する。牛肉、豚肉等の食肉の熟成(エージング)は、食肉業界では従来より行われており、これにより様々な製品が提供されている。食肉を熟成することにより、食肉内の酵素(プロテアーゼ等)により筋原繊維の構造を弱めることによって肉質を軟らかくすることができる。さらに、食肉中のタンパク質が分解される結果、アミノ酸等の旨味成分を生成させることができる。その結果、熟成前の食肉と比較して、味、香り(風味)、食感等を高めることができる。このため、消費者の嗜好の多様化と相俟って、熟成させた食肉に対する消費者等の需要は高まりつつある。
【0006】
こうした食肉の熟成方法としては、例えばa)冷蔵庫内で真空パックしたブロック肉を2週間~1ヶ月間静置しておくウェットエージング、b)乾燥した冷蔵庫内に2週間~2ヶ月間ブロック肉を吊り下げておくドライエージング等が知られており、これらの1種又は2種以上の組み合わせで熟成が行われている。
【0007】
これに対し、最近では、熟成をより促進すべく、微生物を積極的に利用した熟成技術も開発されている。例えば、食肉上に特定の微生物を塗布し成育させることにより、当該食肉を熟成並びに軟化させることを特徴とする食肉の熟成・軟化方法が知られている(特許文献2)。
【0008】
また例えば、特定の微生物を備えた食肉熟成用布を食肉に巻きつける工程を備える熟成肉の製造方法も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平5-207864号公報
【文献】特開平6-343458号公報
【文献】特開2017-147950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、鮮度保持又は熟成のいずれの場合も、従来技術ではさらなる改良の余地がある。
【0011】
鮮度保持については、例えば特許文献1ではトランスグルタミナーゼを食肉に添加しているが、トランスグルタミナーゼは酵素であるがゆえに扱いが難しく、使用前の輸送、保管、加工等を行っている間に失活してしまうおそれがある。また、使用時には、トランスグルタミナーゼを添加する過程でムラが生じてしまうため、例えば食肉表面全体の色調変化を均一に防止することが難しい。
【0012】
熟成については、特許文献2~3のような従来技術では、熟成に利用される微生物の生育環境を安定的に維持することが困難である。例えば、微生物を含んだ布等を流通するにあたり、高温又は低湿条件下では微生物が死滅してしまうおそれがある。一方、微生物の生存に好ましい条件下では微生物が増殖しすぎて布自体が酷くカビた状態となるおそれがある。このような材料を用いて食肉を熟成すれば、食肉がかえって劣化したり、被毒するおそれもある。しかも、微生物を含んだシートは、一般家庭等で取り扱うには衛生上の問題もある。
【0013】
また、熟成に際しては、一定の時間をかけて行われることが通例であるため、必然的に熟成肉はどれも褐色あるが、従来技術による熟成肉も同様に褐色を呈している。このため、見栄えが悪くなることから、それだけで購入を敬遠する消費者もいる。
【0014】
よって、本発明の主な目的は、取扱いが比較的容易であって、食肉をより安全かつ効果的に熟成させることができる食肉保存用フィルムを提供することにある。さらに、本発明は、食肉の鮮度劣化を効果的に抑制できる食肉保存用フィルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するフィルムが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記の食肉保存用フィルムに係る。
1. 食肉を保存するためのフィルムであって、
(1)水と反応して分子状水素を発生し得る水素発生粒子を含有する水素発生層を含み、
(2)当該フィルムは、前記水素発生層を食肉表面に直に接触させた状態で用いられる、
ことを特徴とする食肉保存用フィルム。
2. 前記水素発生層は、高分子材料を含むマトリックス中に前記水素発生粒子が分散してなる構造を有する、前記項1に記載の食肉保存用フィルム。
3. 少なくとも当該水素発生層表面から外部に向かって突出する水素発生粒子の表面が被覆用樹脂を含む被覆層で覆われている、前記項1に記載の食肉保存用フィルム。
4. 前記高分子材料がポリエチレン、ポリプロピレン、スチロール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、変性フッ素樹脂、エポキシ樹脂、デンプン、セルロース、ナイロン、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイドの少なくとも1種である、前記項2に記載の食肉保存用フィルム。
5. 前記水素発生粒子は、水素化マグネシウム、水素化カルシウム、水素化バリウム、水素化ベリリウム、水素化ストロンチウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムナトリウム、水素化ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム合金及びアルミニウム合金の少なくとも1種である、前記項1に記載の食肉保存用フィルム。
6. 前記水素発生粒子の体積平均粒子径が1~100μmである、前記項1に記載の食肉保存用フィルム。
7. 食肉を熟成するために用いる、前記項1に記載の食肉保存用フィルム。
8. 食肉の鮮度を保持するために用いる、前記項1に記載の食肉保存用フィルム。
9. 熟成食肉を製造する方法であって、
(1)水素発生層が食肉表面に直に接触させた状態となるように前記項1に記載の食肉保存用フィルムを食肉に貼着する工程、
(2)前記フィルムが貼着された食肉を5℃以下の温度で熟成することにより熟成食肉を得る工程
を含む熟成食肉の製造方法。
10. 少なくとも前記(2)の工程が外気を遮断した雰囲気下で実施される、前記項9に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、取扱いが比較的容易であって、食肉をより安全かつ効果的に熟成させることができる食肉保存用フィルムを提供することができる。しかも、本発明では、食肉の鮮度劣化を効果的に抑制できる食肉保存用フィルムを提供することもできる。
【0018】
特に、本発明のフィルムでは、有効成分として水素発生粒子を用いるため、微生物又は酵素を積極的に利用する従来の方法と異なり、食肉(精肉等)の流通時~使用時にかけて取扱いが容易であり、なおかつ、衛生上の問題も回避しつつ、食肉の熟成を行うことができる。
【0019】
しかも、水素発生粒子が食肉へ分子状水素を供給するために、分子状水素の抗酸化作用により食肉中の脂肪酸の酸化、腐敗等を抑制し、かつ、食肉中のタンパク質がアミノ酸に分解する一連の反応を外的な阻害要因から保護することができる。
【0020】
このように、本発明のフィルムは、水と反応して分子状水素を食肉中に供給できることから、食肉中の脂肪酸の酸化、アミノ酸の分解等を阻害して肉質の劣化を抑制しつつ、食肉の熟成を促進することができる。
【0021】
また、本発明のフィルムは、上記の通り、有効成分として水素発生粒子を用いるため、食肉の劣化を遅らせることができるので、鮮度をより効果的に維持することができる。本発明でいう鮮度保持とは、少なくとも色調の劣化(褐色化)及び脂の酸化の少なくとも一方を抑制すること(遅らせること)である。従って、例えば食肉中に含まれる色素成分の経時的な変質(特に褐色化)を効果的に抑制することができる。すなわち、熟成の有無のかかわらず、本発明のフィルムを食肉表面に貼着しておくことで、食肉の新鮮な色調(特に赤色)を効果的に維持することもできる。また例えば、食肉中に含まれる脂分の酸化も遅らせることができるので、新鮮な食肉が本来有する風味等をより長く持続させることができる。
【0022】
本発明のフィルムにおいて上記のような各効果が得られる理由は定かではないが、以下のような作用機序によるものと考えられる。ただし、以下の機序は公知となっている学術的知見から想定されるものも含まれており、必ずしも当該機序を利用した食肉熟成用フィルムに本発明が限定されるものではない。
【0023】
(1)色調変化の抑制
色素タンパク質であり、紫赤色を呈するミオグロビンは、2価のヘム鉄を有し、これに酸素が配位すると鮮赤色のオキシミオグロビンとなる。さらにオキシミオグロビンの2価のヘム鉄が酸素により酸化されると、褐色のメトミオグロビンを生じる。この場合、本発明のフィルムを食肉に接触させると、食肉中に分子状水素を供給できるために、食肉中の酸素を低減することができ、紫赤色のミオグロビンから褐色のメトミオグロビンを生じる酸化反応、鮮赤色のオキシミオグロビンから褐色のメトミオグロビンを生じる酸化反応等を効果的に抑制することができる
【0024】
(2)タンパク質の分解促進
本発明フィルムは、水と反応して分子状水素を食肉中に供給することにより、食肉中のヒドロキシラジカルを還元し、タンパク質分解酵素の反応を保護することができる。タンパク質分解酵素の反応を反応阻害要因から保護することにより、食肉のタンパク質分解を促進し、ペプチドを増加させ、さらにはグルタミン酸、イノシン酸等のアミノ酸量を増やし、食肉の旨味を増加させることができる。
【0025】
一般に、エネルギー代謝の際に細胞内に過酸化水素が発生し、ミトコンドリア等の酸化還元酵素複合体においてスーパーオキシド(O・-)又は上述の過酸化水素に鉄イオンが作用してヒドロキシラジカル(・OH又はONOO-)が発生する。過酸化水素も酸化作用を示すが、特にヒドロキシラジカルの寿命は短い一方で、非常に強い酸化力を有し、生体内のタンパク質、脂質、核酸等の酸化を引き起こすことが知られている(基礎老化研究「タンパク質の酸化修飾と老化」35(3);17-22.2011)。生体内ではビタミンC等の抗酸化物質により、こうした酸化を抑制することが一般的である。ところが、食肉においては新規にビタミンC等の抗酸化物質が産生されないため、食肉中に過酸化水素又はヒドロキシラジカルが残存していると、食肉中のタンパク質、脂質、核酸等の酸化を引き起こすおそれがある。すなわち、食肉中に残存するヒドロキシラジカルは、タンパク質の一種である酵素にも作用して失活させることが懸念される。このような酵素としては、タンパク質分解酵素も含まれる。このため、食肉中に残存する過酸化水素又はヒドロキシラジカルの影響によりタンパク質分解酵素も失活し、タンパク質の分解が十分に進行しないおそれがある。
【0026】
一方で、分子状水素がヒドロキシラジカルを還元することが知られている(Ohsawa et al. Nat Med 2007)。本発明の食肉保存用フィルムは、食肉中に分子状水素を供給するために、こうした過酸化水素又はヒドロキシラジカルを還元することにより、酵素の失活を抑制し、タンパク質分解酵素の反応を保護するため、食肉の熟成を促進することができる。
【0027】
(3)脂肪酸の酸化抑制
水と反応して分子状水素を食肉中に供給することにより、食肉の脂肪酸(油脂)の劣化を抑制することができる。具体的には、食肉中の油脂には不飽和脂肪酸(RH)が含まれており、光、熱等の外界的影響で脱水素反応を生じて脂肪酸ラジカル(R・)を形成する。さらに、外気中の酸素によって酸化されてペルオキシラジカル(ROO・)となり、ヒドロペルオキシド(ROOH)が生成する。通常、生体内では抗酸化剤としてのビタミンEによってこれら過酸化物は還元されて不飽和脂肪酸又は脂肪酸ラジカルに戻り、さらにビタミンEはビタミンCによって還元されて再生される。ところが、食肉となった状態では新規にビタミンE、ビタミンC等は産生されないために、これらは枯渇していく。これにより、生成したペルオキシラジカルと別の脂肪酸ラジカルとが反応してヒドロペルオキシドと脂肪酸ラジカルが生じ、連鎖的に脂肪酸の過酸化物化が進行する。そして、大量に発生した脂肪酸ラジカルどうしの反応(R・+R・→R-R)、脂肪酸ラジカルとペルオキシラジカルの反応(R・+ROO・→ROOR)、ペルオキシラジカルどうしの反応(ROO・+ROO・→ROOR+O)等が生じる。こうした過酸化物は、油脂の色、におい、粘度等を変化させる結果、食味等の低下をもたらす。しかも、これらの反応で生成した重合物又は分解物には人体に悪影響を及ぼすアルデヒド及びケトンが含まれる。このように、食肉中の脂肪酸が酸化していくことは、食肉の品質が劣化することと同義といえる。
【0028】
これに対し、本発明の食肉保存用フィルムは食肉へ分子状水素を供給することができる。分子状水素は抗酸化作用を示すことが度々報告されており、上記のような脂肪酸の酸化反応も阻止することができる。例えば、ビタミンEの代役として分子状水素が過酸化物を還元して脂肪酸又は脂肪酸ラジカルに戻したり、ビタミンCの代役として分子状水素がビタミンEを再生し、その結果として過酸化物を還元して脂肪酸又は脂肪酸ラジカルに戻すと考えられる。従って、本発明の食肉保存用フィルムは、水と反応して分子状水素を食肉中に供給することにより、食肉の脂肪酸(油脂)の劣化を抑制することができる。その結果、本発明によって、脂の鮮度保持を行うことができ、ひいては食肉の風味の維持にも寄与することが可能となる。例えば、後記の実施例のように熟成後でも酸価0.35以下に維持することが可能である。
【0029】
(4)腐敗の抑制
食肉の熟成が進むとタンパク質はアミノ酸に分解されて熟成が進行するが、そのままでは腐敗に至る。すなわち、最終的にはアミノ酸も分解されてアンモニアを発生する。アンモニア臭が発生した状態は腐敗として判断され、一般には硫化水素等の発生も見られる。これらを大量に摂取すると人体に悪影響を及ぼすことから、アンモニア臭が強い食肉は食用には適さないものとみなされる。
【0030】
例えば、旨味成分であるグルタミン酸は、食肉中や微生物の細胞内に存在する酵素グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)と、補酵素ニコチンアミドアデニンジニクレオチド(NAD+)によって2-イミノグルタル酸(+NADH及びH)になり、さらに脱水反応によって2-オキソグルタル酸とNH を生じる。これらは酸化的脱アミノ化とも呼ばれ、すなわちグルタミン酸からアンモニアに分解されるプロセスである。
【0031】
これに対し、本発明では抗酸化作用を有する分子状水素が食肉に供給されるため、補酵素ニコチンアミドアデニンジニクレオチドによる反応が阻害される。すなわち、分子状水素によりアミノ酸がさらに分解されることを抑制することができる。
【0032】
また、食肉中に含まれるアミノ酸の1種であるメチオニンは、自然界の菌によって酸化的脱アミノ化による反応を経てメタンチオール(メチルメルカプタン)になり、玉子が腐敗したような悪臭を生じることが知られている。特にアミノ酸の中でもメチオニンは酸化されやすいと言われている。これに対し、本発明では抗酸化作用を有する分子状水素が食肉に供給されるため、酸化を伴う反応が抑制されてメタンチオールの産生が阻害される。すなわち、分子状水素によりアミノ酸がさらに分解されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の食肉保存用フィルムの断面構造のイメージ図である。
図2】複数の水素発生粒子が被覆用樹脂中に含まれ構造を示すイメージ図である。
図3】水素発生粒子の一部が水素発生層(フィルム)から突出した状態を示すイメージ図である。
図4】実施例及び比較例で得られた熟成肉の外観を観察した結果を示す図である。図4(a)は実施例1、図4(b)は実施例2、図4(c)は実施例3、図4(d)は実施例4、図4(e)は比較例1、図4(f)は比較例2、図4(g)は比較例3、図4(h)は比較例4、図4(i)は比較例5をそれぞれ示す。
図5】本発明の食肉保存用フィルムの断面構造のイメージ図である。
図6】実施例5で作製された食肉保存用フィルムの断面構造のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.食肉保存用フィルム
本発明の食肉保存用フィルム(本発明フィルム)は、食肉を保存するためのフィルムであって、
(1)水と反応して分子状水素を発生し得る水素発生粒子を含有する水素発生層を含み、
(2)当該フィルムは、前記水素発生層を食肉表面に直に接触させた状態で用いられる、
ことを特徴とする。
【0035】
フィルムの基本構成
本発明フィルムは、上記のように、水素発生層を含み、その水素発生層を食肉に直接的に接触させて使用することを特徴とするものである。これにより、例えば食肉から供給される水分が水素発生層中の水素発生粒子と反応して水素を発生し、これにより食肉の熟成等に寄与することができる。その限りにおいて、水素発生層を含む形態であれば、その層構成、材質等は特に限定されない。
【0036】
なお、本発明におけるフィルムとは、JISにて厚さが250μm未満のものとして規定されているものに限らず、厚さが250μm以上のシートも包含される。
【0037】
従って、本発明フィルムとしては、水素発生層の単層からなるフィルムのほか、例えば金属箔、金属蒸着膜、高分子材料フィルム(樹脂フィルム等)、紙、布及び不織布の少なくとも1種を含む基材フィルムの内部及び/又は表面に水素発生粒子を含むフィルムを採用することができる。
【0038】
水素発生粒子が基材フィルム表面に含まれる構造については、例えばa)基材フィルム表面にそのまま水素発生粒子を固着・積層させる方法、b)水素発生粒子を含む塗工液(例えば水素発生粒子が溶媒に分散してなる分散液等)を基材フィルム表面に塗布する方法等によって、上記構造を形成することができる。これにより「基材フィルム/水素発生層」という積層体を得ることができる。
【0039】
水素発生粒子が基材フィルム内部に含まれる構造については、例えばa)高分子材料と水素発生粒子とを含む混合物の溶融物をフィルム状に成形する方法、b)高分子材料の溶液と水素発生粒子とを含む混合液をフィルム状に成形する方法等によって上記構造を得ることができる。これにより、高分子材料を含むマトリックス中に水素発生粒子が分散してなる水素発生層(単層)を形成することができる。
【0040】
これらの形態の中でも、熟成をより効果的かつ安全に実施できるという点で、高分子材料を含むマトリックス中に水素発生粒子が分散してなる水素発生層を採用することが望ましい。図1には、そのような本発明フィルムの実施形態の一例に係る断面構造のイメージ図を図1及び図5に示す。
【0041】
図1のフィルム1は、高分子材料を含むマトリックス10中に水素発生粒子30が分散してなる構造を有する水素発生層の単層からなる。このフィルムにおいては、1つの水素発生粒子30の表面が被覆用樹脂を含む被覆層20で覆われた構造を有している。別の構造として、図2に示すように、複数の水素発生粒子30が被覆用樹脂を含む被覆層20中に含まれた構造(いわゆるコンパウンドの形態)をとり、その状態で水素発生層中に含有させたものであっても良い。また、いずれの場合も、被覆層中には、本発明の効果を妨げない限り、その他の樹脂(例えばマトリックス10を構成する高分子材料)等が含まれていても良い。
【0042】
本発明フィルムでは、好ましくは、少なくともフィルム(水素発生層)表面から外部に向かって突出する水素発生粒子の表面が被覆用樹脂を含む被覆層で覆われている。図3には、本発明フィルム表面から突出した水素発生粒子の断面構造の模式図を示す。図3に示すように、水素発生粒子30は、フィルム(水素発生層)表面10a(特に図3中の破線部)から突き出ており、少なくともその突き出た部分が被覆層20で覆われている。
【0043】
図1では、被覆層20で覆われた水素発生粒子30は、マトリックス10中に分散した状態となっている。この場合、本発明フィルム表面から突出している水素発生粒子が被覆層に覆われていれば良いので、例えば本発明フィルム中に完全に埋まっている水素発生粒子の表面は必ずしも被覆層で覆われていなくても良い。例えば、完全に埋まっている水素発生粒子30がマトリックス10に直に接触した状態で分散されていても良い。また、被覆層20は、本発明の効果を妨げない限り、マトリックス(例えばマトリックス用高分子材料)を構成する成分を含んでいても良い。
【0044】
このように、当該水素発生層表面から突出した水素発生粒子群のほぼ全部が被覆層で覆われている構造では、当該水素発生層表面に食肉と接触した場合、水素発生粒子から水素を発生させる一方で、水素発生粒子自体を構成する成分の水(さらには食肉)への溶出を効果的に抑制ないしは防止することができる。特に、本発明の製造方法(後記)により得られた本発明フィルムにおいては、予め水素発生粒子を被覆層で覆ったうえでマトリックス中に分散させるので、水素発生粒子の凝集を回避しつつ、水素発生層中に均一に水素発生粒子を分布させることができるので、より効果的に水素を発生させることができる。
【0045】
図5では、水素発生粒子が被覆層で覆われていない形態を示す。図5のフィルム1は、被覆層で覆われていない水素発生粒子30がマトリックス10中に分散した状態となっている。すなわち、水素発生粒子30は、マトリックス10に直に接触した状態で分散されている。水素発生粒子は、図1のように本発明フィルム表面から突出していても良いし、図5のように突出していなくても良い。図5のように、水素発生粒子が被覆層で覆われていない場合は、より迅速な水素供給性能等を得ることができる。
【0046】
図1又は図5の形態のいずれにおいても、後記に示すように、水素発生層の単層からなるフィルムを本発明フィルムとして使用することができるほか、水素発生層と他の層を含み、かつ、水素発生層が最表面層として配置された積層フィルムを本発明フィルムとして採用することもできる。
【0047】
以下においては、上記実施形態に係る本発明フィルムの構成、特性等について、より具体的に説明する。
【0048】
水素発生層
本発明フィルムは、水素発生粒子を含む水素発生層を有する。水素発生層は、1層であっても良いし、2層以上であっても良い。水素発生層の厚みは、適用する食肉の種類等に応じて適宜設定できるが、特に10~150μmの範囲であると、食肉へのラップに適しているだけでなく、食肉へ過不足なく効率的に分子状水素を供給することができる。
【0049】
水素発生層に含まれる水素発生粒子は、水と反応することによって水素(水素ガス)を発生するものであるが、その水の供給源は、特に限定されない。例えば、食肉中から染み出た水分であっても、食肉表面の水分であっても良い。また例えば、大気中の水分であっても良いし、フィルム中に保持した水分であっても良い。好ましくは、食肉中及び/又は食肉表面の水分であることが好ましい。この場合は、水素発生粒子と反応して分子状水素を発生する水分源であると、食肉由来の水分と別に水を加えた場合に比して、食肉の水分が過多となって過剰なカビが発生することを抑えることができる。
【0050】
水素発生粒子としては、水と反応することによって水素(水素ガス)を発生するものであれば限定されず、例えば水素化マグネシウム、水素化カルシウム、水素化バリウム、水素化ベリリウム、水素化ストロンチウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムナトリウム、水素化ケイ素等の水素化化合物のほか、マグネシウム、アルミニウム等の金属単体又はそれらを含む合金が挙げられる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0051】
水素発生粒子の大きさは、特に限定されないが、例えば体積平均粒子径が1~100μmであることが好ましい。体積平均粒子径が1μm未満の場合は水素発生粒子どうしが凝集しやすくなり、マトリックス中への分散性が低下することがある。また、100μmを超えると水素発生粒子が重くなるため、マトリックス中での分散性が低くなるおそれがある。ここで、水素発生粒子の体積平均粒子径とは、レーザー回折法により測定された水素発生粒子群(粉末)の体積累積粒度分布の結果から平均粒径D50(50%粒子径)を算出した値である。
【0052】
水素発生層中における水素発生粒子の含有量は、特に限定されず、用いる水素発生粒子の種類、所望の水素発生量、用いる食肉の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば0.1~10重量%程度(特に0.5~5重量%)の範囲内で設定することができるが、これに限定されない。
【0053】
被覆層
本発明フィルムでは、少なくとも当該水素発生層表面から外部に向かって突出する水素発生粒子の表面が被覆用樹脂を含む被覆層で覆われていることが望ましい。図3で例示したように、水素発生層表面から突出した水素発生粒子の表面が被覆用樹脂を含む被覆層で覆われることにより、水素発生粒子が露出しない状態で固定することができる。被覆層中に占める被覆用樹脂の割合は、特に限定されず、例えば被覆層中80~100重量%程度(特に90~100重量%)の範囲内で適宜設定することができる。
【0054】
被覆層の厚みは、特に限定されないが、通常は1nm~50μm程度の範囲内で適宜設定することが好ましい。上記範囲内にすることによって、水素発生粒子をより確実に固定しつつ、十分な水素発生量を確保することができる。
【0055】
被覆用樹脂の種類は、特に限定されないが、特にポリオレフィン樹脂及びポリアミド樹脂の少なくとも1種を好適に採用することができる。ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等を好適に採用することができる。
【0056】
被覆層に対する水素発生粒子の割合は、限定的でなく、例えば用いる水素発生粒子の種類、被覆用樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、被覆層100重量部に対して水素発生粒子1~100重量部程度(特に2~50重量部)とすることができるが、これに限定されない。
【0057】
マトリックス
マトリックスは、高分子材料を含むことが好ましい。これにより、水素発生粒子を確実に固定するとともに、水素発生粒子から発生した水素がマトリックス中を透過するという機能を付与することができる。マトリックス中に占める高分子材料の割合は、特に限定されず、例えばマトリックス中80~100重量%程度(特に90~100重量%)の範囲内で適宜設定することができる。
【0058】
従って、高分子材料は、上記機能を有する限り、特に限定されない。また、その限りにおいて、高分子材料は、固体(例えばフィルム状等)であっても良いし、流動性を有する性状であっても良い。
【0059】
より具体的には、高分子材料として、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、スチロール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂のほか、ポリアミド樹脂(ナイロン等)、ポリエチレングリコール、デンプン、セルロース、ポリエチレンオキサイド等を好適に用いることができる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。特に、高分子材料がポリエチレンであると、樹脂層を備える水素発生粒子の分散性が良好となるであるので好ましい。
【0060】
特に、高分子材料が湿式コート剤として用いられる場合(すなわち、溶液又は分散液として塗工して用いる場合)には、例えばウレタン樹脂、フッ素樹脂、変性フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドの少なくとも1種を用いることができる。上記溶液又は分散液では、溶剤、分散剤等が含まれていても良い。
【0061】
また、高分子材料は、被覆用樹脂と同じであっても良いし、異なっていても良い。ただし、高分子材料と被覆用樹脂とが互いに同じであれば、より高い密着性が得られる。その結果、水素発生粒子の脱落をより効果的に抑制することができる。一方、高分子材料と被覆用樹脂とが互いに異なる場合には、例えば水分の透過速度を制御することができ、水素発生量を制御することができる。こうした水素発生量の制御は、高分子材料と被覆用樹脂とが同じであっても、それぞれの密度等を変えることにより制御することができる。
【0062】
その他の成分
本発明フィルムでは、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて水素発生層中に他の成分が含まれていても良い。例えば、酵素、着色料、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を配合することができる。
【0063】
特に、酵素としては、タンパク質分解酵素及びタンパク質分解酵素補酵素の少なくとも1種を好適に用いることができる。食肉の熟成の機能の一つとして、食肉中のタンパク質を、旨味成分であるグルタミン酸、イノシン酸等のアミノ酸に分解することである。通常、こうしたタンパク質の分解は、食肉の細胞中に本来備わっているタンパク質分解酵素のほか、食肉表面に自然に付着した微生物が保有しているタンパク質分解酵素によって行われる。より詳細には、これらタンパク質がタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)によってペプチドに分解される。次いで、ペプチドはペプチターゼ等の各種酵素によってグルタミン酸等のアミノ酸に分解される。
【0064】
さらに、こうした酵素は、補酵素と呼ばれる補因子の存在が必要不可欠である。通常、生体内ではビタミンCをはじめとするビタミン群が補酵素として作用している。タンパク質分解酵素補酵素としては、各種ビタミン及びマグネシウムが知られている。ところが、食肉自身にはビタミン群を新規に産生する能力はなく、経時的にビタミン群は分解して減少していく。微生物由来のビタミンは存在するものの、これも微生物自身の生存に使用されるともに分解されるため、タンパク質分解に使用される補酵素としてのビタミンは不足していく。
【0065】
これに対し、本発明フィルムにタンパク質分解酵素及び/又はタンパク質分解酵素補酵素を含有させる場合は、食肉中にタンパク質分解酵素及び/又はタンパク質分解酵素補酵素が供給され、食肉の熟成がより効果的に進行する。
【0066】
なお、タンパク質分解酵素、ペプチターゼ等の各種酵素は、マグネシウムを補酵素として作用することが知られている。マグネシウムは、ビタミンと異なり、分解することはなく、補酵素として繰り返し使用されるため、ごく微量でもタンパク質をアミノ酸に持続的に分解するための酵素反応の補酵素として使用することができる。この点、本発明フィルムは、タンパク質をアミノ酸分解する酵素の補酵素としてマグネシウム等も好適に用いることができる。
【0067】
タンパク質をアミノ酸分解する酵素の補酵素としてのマグネシウムは、極微量で十分であり、人体等に何ら害が生じない範囲であるが、マグネシウムが食肉に大量に付着した場合であっても、マグネシウムが食肉の内部深くまで浸透はされないため、食肉表面を水で洗浄することにより容易に除去することもできる。
【0068】
このようにタンパク質分解酵素及び/又はタンパク質分解酵素補酵素を含有する場合、食肉の表面に付着した微生物によるタンパク質分解をより促進するため、特に本発明フィルムをドライエージング用途に好適に用いることができる。
【0069】
2.食肉保存用フィルムの使用
フィルムの形態
本発明フィルムは、水素発生層の単層フィルム又はそれを含む積層フィルムの形態で提供される。従って、例えば水素発生層と他の層を含み、かつ、水素発生層が最表面層として配置された積層フィルムを採用することもできる。積層フィルムとする場合は、水素発生層の片面に各種の層(印刷層、保護層、接着剤層(ヒートシール層)、シュリンクフィルム層等)を適宜積層することもできる。また、積層する層の材質も、特に限定されず、例えば紙、金属缶、金属板、金属箔、金属蒸着膜、不織布、布、樹脂フィルム等の1種又は2種以上を適用することができる。
【0070】
一方、水素発生層の少なくとも一方の面は、食肉に貼着する面になるが、貼着前(使用前)までに当該面(貼着面)を保護する目的、水素発生を抑制する目的等で離型フィルム等を一時的に貼着面に積層することもできる。離型フィルム自体は、公知又は市販のものを採用することができる。
【0071】
さらに、本発明フィルムは、平坦なフィルム状のままで使用することができるが、必要に応じてエンボス状、波状等に成形しても良いし、容器形状に成形しても良い。さらに、必要に応じて、フィルムを発泡させることもできる。すなわち、本発明フィルムは、食肉の熟成環境等に応じて適宜その形状を変えて使用することができる。本発明フィルムの成形、加工等に際しては、微生物を含んだシートと異なり、本発明フィルム中に微生物を付与していないので、成形の際の温度又は雰囲気条件により性能が大きく変動するようなことはない。
【0072】
フィルムの使用の実施形態
(A)熟成方法(熟成食肉の製造方法)
本発明フィルムは、食肉の熟成に用いることができる。熟成としては、a)食肉のタンパク質の分解により旨味成分を生成させること及びb)食肉を軟化させることが挙げられるが、本発明における熟成は、上記a)及びb)の少なくとも一方をいう。
【0073】
食肉としては、熟成できるものであれば特に制限されず、例えば牛肉、豚肉、鳥肉、魚肉等の動物の生肉のほか、これらの加工品(ハム、ソーセージ等)が挙げられる。
【0074】
一般的には食肉を熟成する際に食肉をラップ(食肉全体のみならず、一部を被覆するものも含む。)するシートをエージングシートとも呼ぶ。本発明フィルムは、ウェットエージング又はドライエージングで用いられるエージングシートとして用いることができる。特に、本発明フィルムをウェットエージングに用いると、腐敗が抑えられるとともに、食肉中の水分が本発明フィルム中の水素発生粒子と反応することによって分子状水素が発生しやすく、効率良く食肉に分子状水素を供給することができる。この点において、本発明フィルムはウェットエージングに用いることが好ましい。
【0075】
具体的な熟成方法としては、限定的ではないが、特に、下記の方法によることが望ましい。すなわち、熟成食肉を製造する方法であって、
(1)水素発生層が食肉表面に直に接触させた状態となるように本発明フィルムを食肉に貼着する工程(貼着工程)、
(2)前記フィルムが貼着された食肉を5℃以下の温度で熟成することにより熟成食肉を得る工程(熟成工程)
を含む熟成食肉の製造方法を好適に採用することができる。
【0076】
貼着工程
貼着工程では、水素発生層が食肉表面に直に接触させた状態となるように本発明フィルムを食肉に貼着する。ここでいう貼着は、後記の熟成工程中に本発明フィルムが食肉表面から剥がれない程度に食肉表面に固定(付着)されていれば良く、例えば水分で引っ付いている形態のほか、例えば真空パック、レトルトパック、パウチパック等の密閉された袋体の内部で減圧による圧着により固定されている形態等のいずれであっても良い。
【0077】
貼着工程では、水素発生層の両面に食肉を貼着することもできる。例えば、本発明フィルムとして、a)水素発生層の単層からなるフィルム、b)水素発生層/基材層/水素発生層からなるフィルム、c)水素発生層/水素発生層からなるフィルムの両面に食肉(例えば2切れの食肉)を積層するかたちで使用することもできる。このように、食肉で本発明フィルムを挟むように貼着することで、限られたスペースで多くの食肉片を同時に熟成することができる。水素発生層は、上記のように2層以上積層しても良い。また、基材層としては、合成樹脂層、紙、金属缶、金属板、金属箔、金属蒸着膜、不織布、布等の少なくとも1種を採用することができる。
【0078】
貼着する領域は、食肉表面の一部であっても良いし、食肉表面の全体であっても良い。食肉表面の一部に貼着する場合は、本発明フィルムを食肉表面の一部に貼り付ける方法、本発明フィルムを敷いた上に食肉を載せる方法等のいずれであっても良い。食肉表面の全体に貼着する場合は、食肉の周囲を本発明フィルムでラップして用いる方法、本発明フィルムを袋状に成形して食肉を包装する方法等のいずれも採用することができる。本発明では、熟成をより促進するという点では、食肉表面の全部(全面)に貼着することが好ましい。なお、貼着に際しては、本発明フィルムの全面が完全に食肉表面に接触している場合のほか、本発明の効果を妨げない範囲内で非接触領域が存在していても良い。
【0079】
従って、本発明フィルムのサイズは、貼着する領域の大きさ、形状等に応じて適宜調整することができる。本発明フィルムは、例えばハサミ、カッター等の公知又は市販の切断機で裁断することによりそのサイズ、形状等を適宜調節することができる。
【0080】
熟成工程
熟成工程では、前記フィルムが貼着された食肉を5℃以下の温度で熟成することにより熟成食肉を得る。
【0081】
本発明フィルムが貼着された状態の食肉を5℃以下(特に0~4℃)の温度で熟成するが、その熟成時間は、所望の熟成度、用いる食肉の種類等に応じて適宜設定することができる。一般的には1~14日程度とすることができるが、これに限定されない。
【0082】
また、熟成の雰囲気は、特に限定されないが、分子状水素(水素ガス)による作用効果をより確実に得るため、外気を遮断した雰囲気下とすることが好ましい。例えば、本発明フィルムが貼着された状態の食肉を真空下又は減圧下に置くことが好ましい。従って、例えば本発明フィルムが貼着された状態の食肉を真空パックで包装することによって熟成することもできる。
【0083】
熟成中は、水と水素発生粒子とが反応して分子状水素が生成され、これによって効果的な熟成に寄与する。この場合、水素発生粒子と反応する水は、食肉中の水分(食肉中から染み出た水分)であっても良いが、これに限定されない。例えば、食肉表面に付着している水分であっても良いし、大気中の水分であっても良いし、あるいは本発明フィルム中に保持されている水分であっても良い。特に、食肉中又は食肉表面の水分が水素発生粒子と反応して分子状水素を発生する水分源であることが好ましい。すなわち、外部から水を供給すると過剰な水によりカビ等が発生しやすくなるのに対し、外部から水を供給することなく、水素を発生させることができるので、それだけカビ発生のリスクを効果的に回避することができる。
【0084】
熟成工程を終えた後は、食肉から本発明フィルムを取り除いても流通等に供しても良いが、本発明フィルムを貼着したまま提供することもできる。すなわち、本発明フィルムは、熟成だけでなく、分子状水素による腐敗防止作用等のほか、副次的に水分吸収作用等もあるため、一定の鮮度保持に寄与できるので、熟成工程後から摂食されるまで本発明フィルムを貼着したままとすることができる。
【0085】
(B)鮮度保持方法(鮮度が維持された食肉の製造方法)
本発明フィルムは、食肉の鮮度を保持するために用いることもできる。特に、食肉の色調保持及び/又は脂の酸化抑制のためにも用いることができる。より具体的には、本発明フィルムにより、新鮮な食肉が有する色調(特に赤色)の経時的な褐色化、脂分の酸化等を効果的に抑制することができる。これにより、新鮮な食肉の色調又は風味が実質的に維持された食肉を提供することも可能となる。
【0086】
本発明フィルムを鮮度保持用として用いる場合、例えば食肉(特に食肉が露出している面)の色調、食肉の脂の酸価等を保持できる限りは、食肉自体が熟成されていても良いし、熟成されていなくても良い。従って、食肉が熟成されないような条件下での本発明フィルムの使用は、専ら鮮度保持用として機能することになる。例えば、短時間での本発明フィルムの使用等が該当する。
【0087】
具体的な鮮度保持方法としては、限定的ではないが、特に、下記の方法によることが望ましい。すなわち、食肉の鮮度を保持する方法であって、
(1)水素発生層が食肉表面に直に接触させた状態となるように本発明フィルムを食肉に貼着する工程(貼着工程)及び(2)前記フィルムが貼着された食肉を一定時間保存する工程(保存工程)を含む製造方法を好適に採用することができる。
【0088】
貼着工程
貼着工程では、水素発生層が食肉表面に直に接触させた状態となるように本発明フィルムを食肉に貼着する。ここでいう貼着は、保存中に本発明フィルムが食肉表面から剥がれない程度に食肉表面に固定(付着)されていれば良く、例えば水分で引っ付いている形態のほか、真空パック、レトルトパック、パウチパック等の密閉された袋体の内部で減圧による圧着により固定されている形態等のいずれであっても良い。
【0089】
貼着工程では、水素発生層の両面に食肉を貼着することもできる。例えば、本発明フィルムとして、a)水素発生層の単層からなるフィルム、b)水素発生層/基材層/水素発生層からなるフィルム、c)水素発生層/水素発生層からなるフィルムの両面に食肉(例えば2切れの食肉)を積層するかたちで使用することもできる。このように、食肉で本発明フィルムを挟むように貼着することで、限られたスペースで多くの食肉片の鮮度保持を同時に行うことができる。水素発生層は、上記のように2層以上積層しても良い。また、基材層としては、合成樹脂層、紙、金属缶、金属板、金属箔、金属蒸着膜、不織布、布等の少なくとも1種を採用することができる。
【0090】
貼着する領域は、食肉表面の一部であっても良いし、食肉表面の全体であっても良い。食肉表面の一部に貼着する場合は、本発明フィルムを食肉表面の一部に貼り付ける方法、本発明フィルムを敷いた上に食肉を載せる方法等のいずれであっても良い。食肉表面の一部に貼着する場合は、食肉を加工した際の切り口(断面)を含む領域に本発明フィルムを貼着することが好ましい。また、食肉表面の全体に貼着する場合は、食肉の周囲を本発明フィルムでラップして用いる方法、本発明フィルムを袋状に成形して食肉を包装する方法等のいずれも採用することができる。本発明では、例えば食肉全体の変色を効果的に防止するために、食肉表面の全部(全面)に貼着することが好ましい。なお、貼着に際しては、本発明フィルムの全面が完全に食肉表面に接触している場合のほか、本発明の効果を妨げない範囲内で非接触領域が存在していても良い。
【0091】
従って、本発明フィルムのサイズは、貼着する領域の大きさ、形状等に応じて適宜調整することができる。本発明フィルムは、例えばハサミ、カッター等の公知又は市販の切断機で裁断することによりそのサイズ、形状等を適宜調節することができる。
【0092】
保存工程
保存工程では、前記フィルムが貼着された食肉を一定時間保存する。保存条件は、例えば食肉の種類、熟成の要否等によるが、通常は-50~50℃程度(特に-30~30℃)、時間は30分~24時間程度(特に1時間~20時間)の範囲内とすれば良いが、これに限定されない。
【0093】
保存中は、本発明フィルムによる鮮度保持効果をより確実に発揮させるために、本発明フィルムが貼着された食肉を外気(空気)から遮断した状態に置くことが望ましい。従って、例えば1)水素発生層が食肉表面に直に接触させた状態となるように食肉を本発明フィルムで包装し、密封して保存する方法、2)食肉に本発明フィルムを貼着した状態のまま密閉容器中で保存する方法等を好適に採用することができる。密封空間又は密閉空間内は、真空であっても良いし、窒素ガス等の不活性ガスで充填された状態であっても良い。
【0094】
3.食肉保存用フィルムの製造方法
本実施態様の食肉保存用フィルムの製造方法は、水と反応して分子状水素を発生可能な水素発生粒子を高分子マトリックス中に分散する工程を備える。高分子マトリックス中に水素発生粒子を分散する方法は特に限定されないが、例えば水素発生粒子を液状のマトリックス用高分子中に混合攪拌する方法、マトリックス用高分子に水素発生粒子を塗布又は散布する方法等を採用することができる。
【0095】
特に、本発明フィルムは、例えば以下の製造方法によって好適に得ることができる。すなわち、水と接触することにより水素を発生する食肉保存用フィルムを製造する方法であって、
(1)a)水と反応して水素を発生し得る水素発生粒子及びb)被覆用樹脂とを含む混合物を調製する工程(第1工程)、
(2)前記混合物をマトリックス用高分子材料と混合する工程(第2工程)
を含むことを特徴とする製造方法により、本発明フィルムを好適に製造することができる。従って、本発明では、特に、上記の製造方法により得られる本発明フィルムも好適に用いることができる。
【0096】
第1工程
第1工程では、a)水と反応して水素を発生し得る水素発生粒子及びb)被覆用樹脂とを含む混合物を調製する。
【0097】
混合物の形態としては、例えば水素発生粒子の複数個が被覆用樹脂中に含まれるコンパウンドの形態、1つの水素発生粒子の表面が被覆用樹脂で覆われた複合粒子等のいずれの形態であっても良い。
【0098】
従って、第1工程では、その複合粒子の形態に応じて実施する方法を選択すれば良い。この場合、例えば水素発生粒子の種類、被覆用樹脂の種類及び配合量等は、前記「1.食肉保存用フィルム」で説明した内容に従って設定すれば良い。
【0099】
混合物として、コンパウンドを調製する場合は、例えばi)水素発生粒子と溶融した被覆用樹脂とを混練する方法、ii)溶融した被覆用樹脂と水素発生粒子とを含む混合物を噴射する方法等を採用することができる。
【0100】
また、混合物として、1つの水素発生粒子の表面が被覆用樹脂で覆われた複合粒子を調製する場合は、例えば水素発生粒子を攪拌するとともにスプレーコートにより被覆用樹脂を吹き付けてコートする方法等を採用することができる。
【0101】
第2工程
第2工程では、前記混合物をマトリックス用高分子材料と混合する。これにより、マトリックス用高分子材料中に水素発生粒子を分散させる。
【0102】
マトリックス用高分子材料としては、前記で挙げた各種の高分子材料を用いることができる。
【0103】
混合する方法は、特に限定されないが、例えばi)複合粒子又はコンパウンドを液状マトリックス用高分子材料(溶融物)に混合攪拌する方法、ii)水素発生粒子と被覆用樹脂との混練物をマトリックス用高分子材料と共押し出しにより、水素発生粒子と被覆用樹脂がエマルジョンのような状態となって水素発生粒子の表面に被覆用樹脂が被覆した状態でマトリックス用高分子材料中に分散したフィルムを製膜する方法、iii)溶融したマトリックス用高分子材料に複合粒子を塗布又は散布する方法等を採用することができる。また、水素発生粒子と被覆用樹脂がエマルジョンのような状態となってマトリックス用高分子材料中に分散する場合には、第1工程と第2工程とを実質的に同時に行うことができる。
【0104】
なお、上記のように第2工程では、成形(フィルム状に成形)も同時に実施しても良いが、第2工程で得られた混合物をさらに成形工程を供することもできる。成形方法としては、公知の樹脂組成物を成形する場合に採用されている方法と同様にすれば良い。例えば、押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法等の各種の方法を採用することができる。
【実施例
【0105】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0106】
実施例1
市販の水素化マグネシウム粉末(和光純薬工業株式会社製、体積平均粒子径D50:15μm)を180℃で溶融された市販のポリエチレン樹脂に溶融状態で混練し、水素化マグネシウム含有コンパウンドを作製した。その割合は、ポリエチレン樹脂が95重量%であり、水素化マグネシウム粉末が5重量%の合計100重量%とした。
水素化マグネシウム含有コンパウンド1重量部と市販のポリエチレン樹脂4重量部を十分に混合した状態で溶融押出成形法により厚さ100μmのフィルム状に製膜した。これにより、図1に示すように、水素発生粒子30としてマグネシウム粒子が被覆用樹脂20に被覆された状態でマトリックス(ポリエチレン樹脂)10中に分散された水素発生層の単層からなる食肉熟成用フィルム1を得た(水素発生層中における水素化マグネシウム粉末の含有量は1重量%)。
次いで、この食肉熟成用シートを10cm×10cmに裁断し、食肉として市販の牛肉バラブロック1kgの1面(5cm×10cm)を用意し、これに食肉熟成用フィルムを載せて直接接触させ、さらに市販のアルミニウム箔(東洋アルミエコープロダクツ社製)で全体を覆った状態にて4℃で7日間冷蔵保存した。すなわち、上記食肉の簡易的なウェットエージングを行うことにより、熟成肉を得た。この熟成肉表面から赤肉部分を1cmで深さ5mmを切り出し、市販のホモジナイザーにより均質化してスルホサリチル酸溶液を用いて食肉からアミノ酸を抽出し、これを公知のアミノ酸分析手法にグルタミン酸を測定した。この結果、グルタミン酸量は40mg/100g(食肉100g中に含まれるグルタミン酸量)であった。
なお、上記食肉を入手した時点でのグルタミン酸量を上記と同様の手順によって予め測定したところ、グルタミン酸量は19mgであった。すなわち、上記熟成肉のグルタミン酸量は熟成前に比して倍増していた。
次に、脂肪酸の酸価を測定した。上記熟成肉の残りのうちの100gをエタノール及びジエチルエーテルの混合液に溶解し、水酸化カリウム標準液を用いた公知の中和滴定法によって測定したところ、熟成後の酸価は0.32であった。酸価は、例えば食用油では0.5未満が好ましいとされるため、前記酸価は食用に何ら問題のない数値といえる。
さらに、上記熟成肉を室温(温度25℃及び湿度40%)で36時間静置した際のアンモニア臭の有無をパネリストが確認した。室温で静置する前の食肉ではアンモニア臭は確認できず、室温で静置した後も特段の変化はなかった。
【0107】
実施例2
食肉熟成用フィルムの水素発生層中における水素化マグネシウム粉末の含有量を5重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製し、実施例1と同様にして熟成肉を得た。次いで、実施例1と同様にしてグルタミン酸量、酸価及びアンモニア臭気の有無を確認した。その結果、グルタミン酸量は40g/100gに増え、酸価は0.32であり、アンモニア臭気は確認されなかった。
【0108】
実施例3
食肉熟成用フィルムに用いる樹脂をポリエチレン樹脂からポリプロプレン樹脂に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製し、実施例1と同様にして熟成肉を得た。次いで、実施例1と同様にグルタミン酸量、酸価及びアンモニア臭気の有無を確認した。その結果、グルタミン酸量は40g/100gに増え、酸価は0.32であり、アンモニア臭気は確認されなかった。
【0109】
実施例4
食肉熟成用フィルムの水素発生層中における水素化マグネシウムの含有量を3重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてシートを作製し、実施例1と同様にして熟成肉を得た。次いで、実施例1と同様にしてグルタミン酸量、酸価及びアンモニア臭気の有無を確認した。その結果、グルタミン酸量は40g/100gに増え、酸価は0.32であり、アンモニア臭気は確認されなかった。
【0110】
実施例5
市販の水素化マグネシウム粉末(和光純薬工業株式会社製、体積平均粒子径D50:15μm)を180℃で溶融された市販のポリエチレン樹脂に溶融状態で混練し、水素化マグネシウム含有コンパウンドを作製した。その割合は、ポリエチレン樹脂が97重量%、水素化マグネシウム粉末が3重量%の合計100重量%とした。
得られた水素化マグネシウム含有コンパウンドを溶融押出成形法の共押出により厚さ40μmの水素発生粒子含有層と厚さ30μmの層を有する積層フィルム状に製膜し、図6に示すような食肉熟成用フィルム1を得た。図6のフィルム1は、水素発生層1Aの上にポリエチレン層1Bが積層された構成である。水素発生層1Aでは、被覆層を有しない水素発生粒子30がマトリックス10中に分散しており、水素発生層1Aが露出した状態となっている。そして、露出している水素発生層1Aの露出面1Aa面を食肉と接する面とした。
次いで、実施例1の牛肉バラブロックに代えて、市販のステーキ用牛ロース肉を用いて熟成期間を4℃×21日間とした以外は実施例1と同様にして熟成肉を得た。次いで、ナカライテクス社製プロテインアッセイLowryキットを用いてペプチド量を測定し、アミノ酸分析HPLCを用いてイノシン酸量を測定し、ダイナミックヘッドスペース法により香気成分検査をそれぞれ行ったところ、牛肉100gあたりペプチド量146.5mg、イノシン酸量13.8mgであり、香気中のメチルメルカプタン及びメチルチオシネート量は0%であった。
【0111】
比較例1
ポリエチレン樹脂の代わりに市販のポリ塩化ビニリデンフィルム(旭化成ケミカル製「サランラップ」(登録商標))を用いた以外は実施例1と同様に用いてエージングを行い、熟成肉を得た。次いで、実施例1と同様にしてグルタミン酸量、酸価及びアンモニア臭気の有無を確認した。その結果、グルタミン酸量は29g/100gに若干増えたものの、酸価は1.59と高く、アンモニア臭気は確認された。
【0112】
比較例2
食肉熟成用フィルムを用いず、食肉が外気にむき出しの状態としたほかは実施例1と同様にして熟成肉を得た。次いで、実施例1と同様にしてグルタミン酸量と酸価、アンモニア臭気の有無を確認した。その結果、グルタミン酸量は29g/100gに増えたものの、酸価は3.5と高く、アンモニア臭気は確認された。
【0113】
比較例3
水素化マグネシウム粉末に代えて水酸化マグネシウム粉末のみを用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製し、実施例1と同様にして熟成肉を得た。次いで、実施例1と同様にしてグルタミン酸量、酸価及びアンモニア臭気の有無を確認した。その結果、グルタミン酸量は10mg/100gであり、酸価は2.39と高く、アンモニア臭気が確認された。
【0114】
比較例4
市販の熟成牛肉ブロック用意し、これに厚さ10μmで縦10cm×横10cmの市販のポリエチレンフィルムを載せて室温で2時間静置し、ポリエチレンフィルムに微生物を付着させた。その後、このフィルムの微生物付着面に市販のDMEM培地を霧吹きで薄く吹きかけ、COインキュベーター内で72時間静置し、ポリエチレンフィルム上の微生物の増殖を行い、微生物が付着した食肉熟成用シートを作製した。次いで、市販の牛肉バラブロックに食肉熟成用シートの微生物が付着した面を接して実施例1と同様にして熟成肉を得た。次いで、実施例1と同様にして熟成肉についてグルタミン酸量、酸価及びアンモニア臭気の有無を確認した。その結果、グルタミン酸量は40mgに増えたものの、酸価は1.52と高く、アンモニア臭気が確認された。
【0115】
比較例5
食肉熟成用フィルム中の水素化マグネシウムの量を0.01重量%に変更した以外は実施例1と同様にして実施例1と同様にしてシートを作製し、実施例1と同様にして熟成肉を得た。次いで、実施例1と同様にしてグルタミン酸量、酸価及びアンモニア臭気の有無を確認した。その結果、グルタミン酸量は10mg/100gであり、酸価は2.39と高く、アンモニア臭気が確認された。
【0116】
比較例6
市販のポリ塩化ビニリデンフィルム(旭化成ケミカル製「サランラップ」(登録商標))を用い、牛肉バラブロックに代えて、市販のステーキ用牛ロース肉にして熟成期間を4℃×21日間とした以外は実施例1と同様に用いてエージングを行い、熟成肉を得た。実施例5と同様にペプチド量とイノシン酸量、香気成分検査を行ったところ、牛肉100gあたりペプチド量112.7mg、イノシン酸量5.0mgであり、香気中のメチルメルカプタン及びメチルチオシネート量は13%であった。
【0117】
試験例1
上記の各実施例及び比較例における鮮度保持効果(色調保持効果)を調べた。各実施例及び比較例における牛肉バラブロック1kgに代えて、市販のステーキ用牛ロース肉200gの1面(10cm×10cm)に各フィルムを同様に適用したほかは、各実施例及び比較例と同様にして熟成を実施した。得られた熟成後の食肉の色調を観察した。
その結果、実施例で得られた食肉は、購入時とほぼ同じ鮮赤色が維持されていた。これに対し、比較例の熟成肉は、いずれも褐色を呈していた。それらの観察結果(写真)を図4に示す。
【0118】
試験例2
上記試験例1のうち、実施例1と同条件の熟成肉と、比較例1と同条件の熟成肉とについて、肉質のかたさ(テクスチャー)をWarner-Bratzlerせん断力価により算出することとし、テンシプレッサー(タケトモ電機製MyBoy2)にワーナーブラッツラーせん断力価測定用治具を設置してここに肉をセットして測定した。その結果、実施例1と同条件の熟成肉のテクスチャーは2530gw、比較例1と同条件の熟成肉のテクスチャーは3360gwであり、本発明の食肉保存用フィルムによって肉質が柔らかくなっていることが分かった。
【0119】
以上の結果からも明らかなように、本発明フィルムを用いることにより、食肉の劣化を抑制しつつ、食肉の熟成を促進できることがわかる。特に、本発明フィルムでは、食肉を熟成させているにもかかわらず、その色調の変化(褐色化)及び脂の酸化を効果的に抑制できることから、本発明フィルムは鮮度保持用としても有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明シートは、工業的規模から家庭的規模までの食肉熟成に幅広く用いることができる。より具体的には、本発明シートは、例えばエージングシート、包装材料、ドラキュラマット、ドリップシート等のように、食肉に直に接触した状態で使用されるシート材料として好適に用いることができる。また、熟成の有無にかかわらず、経時的に発生する食肉の色調の変化あるいは酸価の上昇を効果的に抑制できるため、その点においては鮮度保持用フィルムとしても有効に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6