(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】ヒドロホルミル化プロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 45/50 20060101AFI20221205BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20221205BHJP
C07C 47/02 20060101ALI20221205BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221205BHJP
【FI】
C07C45/50
B01J31/24 Z
C07C47/02
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020527103
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 US2018062985
(87)【国際公開番号】W WO2019112866
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-15
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508168701
【氏名又は名称】ダウ テクノロジー インベストメンツ リミティド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ビギ、モーリナス エー.
(72)【発明者】
【氏名】ブラメール、マイケル エー.
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特表昭63-503385(JP,A)
【文献】特表2016-514112(JP,A)
【文献】特表2002-511055(JP,A)
【文献】特開平6-199728(JP,A)
【文献】特開平3-66640(JP,A)
【文献】特開平9-59200(JP,A)
【文献】特表2002-519395(JP,A)
【文献】特表2012-508649(JP,A)
【文献】特表2014-514260(JP,A)
【文献】特表2003-510167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/50
C07C 47/02
B01J 31/24
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒドを生成するためのヒドロホルミル化プロセスであって、反応領域において、任意選択で遊離有機ホスファイト配位子と一緒にロジウム有機ホスファイト系触媒の存在下で、オレフィン、水素およびCOを含む反応物と、前記反応領域内の流体の総重量に基づいて0.1~3重量パーセントのそれぞれ式(I)または式(II)の構造を有する少なくとも1種のポリマーとを接触させることを含み、
【化1】
式中、R
21およびR
22は、同じもしくは異なるC
1~C
16アルキル部分またはアルキル置換アリール部分であり、m、nおよびqは、その和が50よりも大きい正数またはゼロであり、pは3~6であり、前記ポリマーの平均分子量は10,000以上であり、R
23およびR
24は、HまたはC
1~C
4アルキル部分であり、R
25は、HまたはC
1~C
16アルキル部分であり、R
25は、式(II)内の各p部分で同じまたは異なることができ、その結果、前記アルデヒドへの前記ポリマーの溶解度が、40℃で1重量パーセント以上になる、プロセス。
【請求項2】
前記オレフィンがC
4以上である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記オレフィンがC
8以上である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
R
23およびR
24がメチルである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ポリマーがポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレート)またはポリ(イソブチルメタクリレート)を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ポリマーがポリカプロラクトンを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ヒドロホルミル化プロセスにおける反応流体からのロジウム損失率が、ポリマー添加剤なしのヒドロホルミル化プロセスにおける反応流体中のロジウム損失率よりも低い、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ヒドロホルミル化プロセスにおける前記反応流体からのロジウム損失率が、前記ポリマー添加剤なしのヒドロホルミル化プロセスにおける反応流体中のロジウム損失率よりも少なくとも20%低い、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ポリマーが分離領域に存在する、請求項1~8のいずれかに記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロホルミル化プロセスに関し、具体的には、可溶化ロジウム-ホスファイト錯体触媒による再循環流を利用するヒドロホルミル化プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
可溶化ロジウム-ホスファイト配位子錯体触媒の存在下でオレフィン系不飽和化合物を一酸化炭素および水素と反応させることによりアルデヒドを容易に生成できること、ならびにこのようなプロセスの好ましいタイプは連続ヒドロホルミル化と、例えば米国特許第4,599,206号に開示されている触媒の再循環とを含むことが当技術分野で知られている。多くの場合、このようなプロセスは液体再循環を利用するが、ガス再循環ヒドロホルミル化プロセスも実行可能である。
【0003】
このような可溶化ロジウム-ホスファイト錯体触媒液体の再循環ヒドロホルミル化プロセスには利点が伴うにもかかわらず、特定の状況下では、いくつかのロジウム-ホスファイト錯体触媒中のロジウムは、ヒドロホルミル化中にロジウム金属としてまたはロジウムのクラスターの形態で溶液から沈殿することがあり得る。
【0004】
COを添加したものを含むストリッピングガス気化器を使用して、気化段階中のロジウム損失を軽減することが報告されている(例えば、米国特許第8,404,903号およびPCT公開第WO2016/089602号を参照)。しかし、このようなシステムはかなりの設備投資を必要とし、既存の施設に容易には追加導入されない。
【0005】
アミド基、ケトン基、カルバメート基、尿素基、およびカーボネート基からなるクラスから選択される基などの極性官能基を含有するポリマー添加剤の使用は、米国特許第4,774,361号に報告されているように、ロジウムの損失を軽減することがわかっている。しかし、これらの極性ポリマー添加剤は多くのヒドロホルミル化触媒溶液に不溶であり、これらの用途では極性ポリマー添加剤を無効にする。
【0006】
ロジウム-ホスファイト錯体触媒の再循環流を利用するヒドロホルミル化プロセスにおけるロジウム損失を軽減するための代替アプローチを有することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ロジウム-ホスファイト錯体触媒の再循環流を利用するヒドロホルミル化プロセスにおけるロジウム損失を軽減するための代替のアプローチを有利に見出した。本発明のいくつかの実施形態は、有利には、オレフィン(C4以上)の改善された可溶化ロジウム-ホスファイト錯体触媒液体の再循環操作によるヒドロホルミル化プロセスを提供し、このプロセスでは液体循環中、錯体触媒溶液中のロジウムの沈殿が最小限に抑えられるまたは防止される。特に、以下により詳細に記載するように、本発明は、このような沈殿を最小限に抑えるまたは防止するためのプロセスにおいて特定の有機ポリマーを利用する。特に、いくつかの実施形態では、このような沈殿は、本明細書に記載の特定の有機ポリマーの存在下で、アルデヒド生成物の蒸留回収を行うことにより最小限に抑えることができる。
【0008】
一態様では、アルデヒドを生成するためのヒドロホルミル化プロセスは、反応領域において、任意選択で遊離有機ホスファイト配位子と一緒に、ロジウム有機ホスファイト系触媒の存在下で、オレフィン、水素およびCOを含む反応物と、反応領域内の流体の総重量に基づいて0.1~3重量パーセントのそれぞれ式(I)または式(II)の構造を有する少なくとも1種のポリマーとを接触させることを含み、
【化1】
式中、R
21およびR
22は、同じもしくは異なるC
1~C
16アルキル部分またはアルキル置換アリール部分であり、m、nおよびqは、その和が50よりも大きい正数またはゼロであり、pは3~6であり、前述のポリマーの平均分子量は、10,000以上であり、R
23およびR
24は、HまたはC
1~C
4アルキル部分であり、R
25は、HまたはC
1~C
16アルキル部分であり、R
25は、式(II)内の各p部分で同じまたは異なることができ、その結果、アルデヒドへの前述のポリマーの溶解度が、40℃で1重量パーセント以上になる。いくつかの実施形態では、R
23およびR
24はメチルである。いくつかの実施形態では、ポリマーはポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレート)またはポリ(イソブチルメタクリレート)を含む。いくつかの実施形態では、ポリマーはポリカプロラクトンを含む。
【0009】
これらおよび他の実施形態は、以下の発明を実施するための形態においてより詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
元素周期律表およびその中の様々な族への言及は全て、CRC Handbook of Chemistry and Physics、第72版(1991~1992)CRC Press、I-11頁に掲載されているバージョンに対するものである。
【0011】
反対のことが記述されていない限り、または文脈から黙示的でない限り、全ての部および百分率は、重量に基づくものであり、全ての試験方法は、本出願の出願日現在のものである。米国特許慣行の目的のため、いかなる参照される特許、特許出願、または刊行物の内容も、特に定義の開示(本開示に具体的に提供されるいかなる定義とも矛盾しない程度において)および当該技術分野の一般知識に関して、それらの全体が参照により組み込まれる(またはその米国版に相当するものが、参照により同様に組み込まれる)。
【0012】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つ」、および「1つ以上」は互換的に使用される。用語「備える(comprise)」、「含む(include)」、およびそれらの変形は、これらの用語が明細書および特許請求の範囲に現れる場合に限定的な意味を有しない。したがって、例えば、疎水性ポリマー(「a」 hydrophobic polymer)の粒子を含む水性組成物は、組成物が「1つ以上」の疎水性ポリマーの粒子を含むことを意味すると解釈することができる。
【0013】
また、本明細書において、端点による数値範囲の列挙は、その範囲に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。本発明の目的のために、数値範囲は、その範囲に含まれる可能性のある全ての部分範囲を含み、サポートすることを意図すると当業者が理解することと一致して理解されるべきである。例えば、1から100までの範囲は、1.01から100まで、1から99.99まで、1.01から99.99まで、40から60まで、1から55までなどを伝達することを意図している。また、本明細書において、特許請求の範囲におけるこのような列挙を含む、数値範囲および/または数値の列挙は、用語「約」を含むと読むことができる。このような場合、「約」という用語は、本明細書に列挙されたものと実質的に同じである数値範囲および/または数値を指す。
【0014】
本明細書で使用される場合、「ppm」および「ppmw」という用語は、互換的に使用され、重量百万分率を意味する。
【0015】
本発明の目的のために、「炭化水素」という用語は、少なくとも1個の水素原子および1個の炭素原子を有する全ての許容される化合物を含むことが意図される。このような許容される化合物はまた、1つ以上のヘテロ原子を有し得る。広義の態様では、許容される炭化水素は、非環式(ヘテロ原子を含むまたは含まない)および環式、分岐および非分岐、炭素環および複素環、置換または非置換であり得る芳香族および非芳香族有機化合物を含む。
【0016】
本明細書で使用される場合、「置換された」という用語は、別段の指示がない限り、有機化合物の全ての許容される置換基を含むことが意図される。広義の態様では、許容される置換基には、非環式および環式、分岐状および非分岐状、炭素環式および複素環式、芳香族および非芳香族の有機化合物の置換基が含まれる。例示的な置換基には、例えば、アルキル、アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル(炭素の数が1~20以上、好ましくは1~12の範囲であり得る)、ならびにヒドロキシ、ハロ、およびアミノが含まれる。許容される置換基は、適切な有機化合物について、1つ以上であり得、かつ同じまたは異なることがあり得る。本発明は、有機化合物の許容される置換基によるいかなる方式においても限定されることは意図されていない。
【0017】
本明細書で使用される場合、「ヒドロホルミル化」または「ヒドロホルミル化プロセス」という用語は、1種以上の置換もしくは非置換オレフィン化合物または1種以上の置換もしくは非置換オレフィン化合物を含む反応混合物を、1種以上の置換もしくは非置換アルデヒドまたは1種以上の置換もしくは非置換アルデヒドを含む反応混合物に変換することを含む、全てのヒドロホルミル化プロセスを含むことが意図されるが、これらに限定されるものではない。アルデヒドは、不斉または非不斉であってもよい。
【0018】
「反応流体」、「反応媒体」、および「触媒溶液」という用語は、本明細書では互換的に使用され、(a)金属-有機リン配位子錯体触媒、(b)遊離有機リン配位子、(c)反応において形成されたアルデヒド生成物、(d)未反応の反応物、(e)前述の金属-有機リン配位子錯体触媒および前述の遊離有機リン配位子のための溶媒、ならびに任意選択で、(f)反応において形成され、溶解および/または懸濁させることができる1種以上のリン酸性化合物を含む混合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。反応流体は、(a)反応領域内の流体、(b)分離領域に向かう途中の流体流、(c)分離領域内の流体、(d)再循環流、(e)反応領域または分離領域から取り出された流体、(f)抽出器などの酸除去システムまたは他の非混和性流体接触システムで処理される取り出された流体、(g)反応領域または分離領域に戻された処理流体または未処理流体、(h)外部冷却器内の流体、ならびに(i)配位子分解生成物およびそれらに由来する成分、例えば、酸化物、硫化物、塩、オリゴマーなどを包含し得るが、これらに限定されるものではない。
【0019】
「有機モノホスファイト配位子」は、3つの酸素原子に結合した単一のリン原子を含む化合物であり、3つの酸素原子は、それぞれさらに炭素部分に結合している。例示的な例には、モノ有機ホスファイト化合物、ジ有機ホスファイト化合物、トリ有機ホスファイト化合物が含まれるが、これらに限定されるものではなく、これらの例としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、4,8-ジ-tert-ブチル-6-(2-(tert-ブチル)-4-メトキシフェニル)-2,10-ジメトキシジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサホスフェピンなどが挙げられる。
【0020】
「遊離配位子」という用語は、錯体触媒の金属、例えば金属原子と錯体を形成していない(または結合していない)配位子を意味する。
【0021】
本発明の目的のために、用語「重質副産物」および「重質物」は互換的に使用され、ヒドロホルミル化プロセスの所望の生成物の通常の沸点よりも少なくとも25℃高い通常の沸点を有する液体副産物を指す。このような物質は、ヒドロホルミル化プロセスにおいて、例えばアルドール縮合を含む1つ以上の副反応を介して通常の操作の下で形成されることが知られている。
【0022】
本発明の目的のために、ヒドロホルミル化反応からの重質副産物を指す場合、「二量体」という用語は、アルデヒドの2つの分子に由来する重質副産物を指す。同様に、「三量体」という用語は、ヒドロホルミル化反応からの重質副産物を指す場合、アルデヒドの3つの分子に由来する重質副産物を指す。
【0023】
本発明の目的のために、「分離領域」および「気化器」という用語は互換的に使用され、分離装置を指す。この装置では、生成物アルデヒドは一般的に塔頂に揮発し、凝縮されて、収集されるが、一方、均一系触媒を含有する非揮発性濃縮流出物(テール、すなわち気化器テール)は、1つ以上の反応器に戻される。気化器の温度は、一般的に反応器の温度よりも高く、任意選択で、減圧下で操作することができる。一実施形態では、気化器は、生成物の除去を促進し、任意選択で触媒の安定化を助ける様々な組成が混在しているガスを流すことを特徴とする(「ストリップガス気化器」)。液体/液体抽出または膜濾過などの他の分離領域プロセスも使用することができる。
【0024】
一般に、本発明は、オレフィン、溶液からのこのようなロジウム沈殿を経験する可能性のある、特に高級オレフィンのいずれの可溶化ロジウム-ホスファイト触媒液体の再循環ヒドロホルミル化プロセスのロジウム安定性を改善するヒドロホルミル化プロセスに関する。本発明の実施形態は、本明細書でさらに定義される特定の有機ポリマーの存在下で、ロジウム-ホスファイト錯体触媒およびアルデヒド生成物を含有する反応流体からアルデヒド生成物の蒸留回収を行う。
【0025】
いくつかの実施形態では、アルデヒドを生成するためのヒドロホルミル化プロセスは、反応領域において、任意選択で遊離有機ホスファイト配位子と一緒にロジウム有機ホスファイト系触媒の存在下で、オレフィン、水素およびCOを含む反応物と、反応領域内の流体の総重量に基づいて0.1~3重量パーセントのそれぞれ式(I)または式(II)の構造を有する少なくとも1種のポリマーとを接触させることを含み、
【化2】
式中、R
21およびR
22は、同じもしくは異なるC
1~C
16アルキル部分またはアルキル置換アリール部分であり、m、nおよびqは、その和が50よりも大きい正数またはゼロであり、pは3~6であり、前述のポリマーの平均分子量は、10,000以上であり、R
23およびR
24は、HまたはC
1~C
4アルキル部分であり、R
25は、HまたはC
1~C
16アルキル部分であり、R
25は、式(II)内の各p部分で同じまたは異なることができ、その結果、アルデヒドへのポリマーの溶解度が40℃で1重量パーセント以上になる。いくつかの実施形態では、R
23およびR
24はメチルである。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレート)またはポリ(イソブチルメタクリレート)を含む。いくつかの実施形態では、ポリマーはポリカプロラクトンを含む。いくつかの実施形態では、オレフィンはC
4以上である。いくつかの実施形態では、オレフィンはC
8以上である。いくつかの実施形態では、式(I)または式(II)の構造を有するポリマーは、分離領域内に存在する。
【0026】
このようなプロセスの実施形態は、ヒドロホルミル化プロセスにおける反応流体中のロジウム損失率を低減するまたは妨げることができる。いくつかの実施形態では、ヒドロホルミル化プロセスにおける反応流体からのロジウム損失率は、ポリマー添加剤なしのヒドロホルミル化プロセスにおける反応流体におけるロジウム損失率よりも低い。いくつかの実施形態では、ヒドロホルミル化プロセスにおける反応流体からのロジウム損失率は、ポリマー添加剤なしのヒドロホルミル化プロセスにおける反応流体におけるロジウム損失率よりも少なくとも20%低い。
【0027】
このようなロジウム沈殿が起こり得る例示的な可溶化ロジウム-ホスファイト錯体触媒液体の再循環ヒドロホルミル化プロセスは、例えば米国特許第4,482,749号、同第4,599,206号、同第4,668,651号、同第4,748,261号、および同第4,769,498号に記載のようなプロセスを含む。
【0028】
一般に、このようなヒドロホルミル化反応は、触媒用の溶媒も含有する液体媒体中の可溶化ロジウム-ホスファイト錯体媒体、および遊離ホスファイト配位子(すなわち、活性錯体触媒中でロジウム金属と錯体を形成していない配位子)の存在下で、オレフィン不飽和化合物を一酸化炭素および水素と反応させることによるアルデヒドの生成を含む。再循環手順は、一般的に、触媒およびアルデヒド生成物を含有する液体反応媒体の一部をヒドロホルミル化反応領域から連続的または断続的のいずれかで取り出すこと、および取り出した液体媒体から、アルデヒド生成物および他の揮発性物質を蒸気の形態で回収するために別の蒸留領域で必要に応じて、常圧、減圧または高圧下での1つ以上の段階でアルデヒド生成物を蒸留することを含み、非揮発性ロジウム触媒含有残留物は反応領域に再循環される。例えば蒸留による揮発性物質の縮合、およびその分離と回収は、任意の従来の方式で行うことができ、アルデヒド生成物は、必要に応じてさらなる精製に進み、回収された反応物、例えば、オレフィン出発物質および合成ガスは、任意の所望の方式でヒドロホルミル化領域に再循環される。同様に、回収された非揮発性ロジウム触媒含有残留物は、さらなる処置の有無にかかわらず、所望の従来の方式でヒドロホルミル化領域に再循環されることができる。したがって、本発明の実施形態を実施することができる一般的なヒドロホルミル化プロセスは、従来のガスまたは液体触媒再循環ヒドロホルミル化反応でこれまで使用されてきた任意の既知の処理技術に対応する。
【0029】
本発明に包含されるこのようなヒドロホルミル化反応において使用可能な例示的なロジウム-ホスファイト錯体触媒は、上記の特許および出願に開示されたものを含むことができるが、これら限定されるものではない。一般に、このような触媒は、そのような参考文献に記載されているように予備形成されても、またはその場で形成されてもよく、本質的に有機ホスファイト配位子と錯体結合したロジウムからなる。また、一酸化炭素が存在し、活性種中のロジウムと錯体を形成していることが考えられる。活性種はまた、ロジウムに直接結合した水素を含有してもよい。
【0030】
本発明に包含されるこのようなヒドロホルミル化反応においてロジウム触媒および/または遊離有機ホスファイト配位子に錯化した有機ホスファイト配位子として用いることができる例示的な有機ホスファイト配位子は、好ましくは式(III)のジ有機ホスファイトなどの種々の第三級有機ホスファイトを含んでもよく、式中、R
1は二価の有機基を表し、Wは置換または非置換の一価の炭化水素基を表す。
【化3】
【0031】
上記式(III)においてR1で表される代表的な二価の基は、R1が二価の非環式基または二価の芳香族基であり得るものを含む。例示的な二価非環式基は、例えば、アルキレン、アルキレン-オキシ-アルキレン、アルキレン-NX-アルキレン(式中、水素基または一価炭化水素基である)、アルキレン-S-アルキレン、およびシクロアルキレン基であり、例えば、米国特許第3,415,906号および同第4,567,306号などにより完全に開示されている。例示的な二価芳香族基は、例えば、アリーレン、バイアリーレン、アリーレン-アルキレン、アリーレンアルキレン-アリーレン、アリーレン-オキシ-アリーレン、アリーレン-オキシ-アルキレン、アリーレン-NX-アリーレンおよびアリーレンNX-アルキレン(式中、Xは水素基または一価炭化水素基である)、アリーレン-S-アルキレン、ならびにアリーレン-S-アリーレン基などである。より好ましくは、R1は二価の芳香族基である。
【0032】
第三級ジ有機ホスファイトのより好ましいクラスの代表は、式(IV)のジ有機ホスファイトであり、式中、Wは置換または非置換の一価炭化水素基であり、Arは置換または非置換アリール基であり、各Arは同じまたは異なり、各yは個別に0または1の値を有し、Qは、-CR
3R
4-、-O-、-S-、-NR
5-、SiR
6R
7-および-CO-からなる群から選択される二価の架橋基であり、式中、各R
3およびR
4は、水素、1~12個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル、トリルおよびアニシルからなる群から独立して選択され、各R
5、R
6およびR
7は独立して水素またはメチル基であり、nは0または1の値を有する。式(IV)タイプのジ有機ホスファイトは、例えば、米国特許第4,599,206号および同第4,717,775号により詳細に記載されている。
【化4】
【0033】
より好ましいジ有機ホスファイトの中には、式(V)のものがあり、式中、Qは-CR
1R
2であり、各R
1およびR
2基は、個別に、水素およびアルキルからなる群から選択される基を表し、各yは、個別に0または1の値を有し、nは0~1の値を有し、Wは、1~36個の炭素原子を有するアルキル基(例えば、第一級アルキル基、第二級アルキル基および第三級アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、t-ブチルエチル、tブチルプロピル、n-ヘキシル、アミル、sec-アミル、t-アミル、イソオクチル、2-エチルヘキシル、デシル、オクタデシルなど)、ならびにアリール基、例えば、α-ナフチル基、β-ナフチル基、および式(VI)のアリール基からなる群から選択される非置換または置換の一価炭化水素基を表し、
【化5】
式中、各X
1、X
2、Y
1、Y
2、Z
2、Z
3、およびZ
4基は、個別に水素、1~8個の炭素原子を有するアルキル基、置換または非置換アリール、アルカリール、アラルキルおよび脂環式ラジカル(例えば、フェニル、ベンジル、シクロヘキシル、1-メチルシクロヘキシルなど)、ヒドロキシ(-OH)、およびOR
8(式中、R
8は1~18個の炭素原子のアルキル基である)などのエーテル(すなわち、オキシ)基からなる群から選択される基を表す。他のジ有機ホスファイトの中には、米国特許第4,599,206号、同第4,717,775号、およびWO2016/087301に記載の上記の式(V)のものがある。
【0034】
本発明に包含されるこのようなヒドロホルミル化反応に使用され得る第三級有機ホスファイトの別のグループは、式(VII)の第三級モノ有機ホスファイトであり、式中、Z
5は例えば米国特許第4,567,306号により詳細に記載されているような三価有機基を表す。
【化6】
【0035】
最後に、本発明に包含されるこのようなヒドロホルミル化反応に使用できる第三級有機ホスファイトの別のグループには、トリ有機ホスファイト、例えばトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(オルト-フェニル)フェニルホスファイト、トリス(オルソ-メチル)フェニルホスファイト、トリス(オルト-t-ブチル)フェニルホスファイトなどが含まれる。このようなトリ有機ホスファイトは、例えば、米国特許第3,527,809号、同第4,717,775号、および同第9,737,884号により詳細に記載されている。
【0036】
したがって、ヒドロホルミル化プロセス全体をとおしてヒドロホルミル化反応媒体および液体溶液中に存在する、ロジウム-有機ホスファイト錯体触媒の有機ホスファイト配位子としておよび/または遊離有機ホスファイト配位子として本発明に包含されるヒドロホルミル化反応に使用可能な有機ホスファイト配位子は、上記のようなモノ有機ホスファイト、ジ有機ホスファイト、およびトリ有機ホスファイトからなる群から選択される第三級有機ホスファイト配位子であってよい。第三級有機ホスファイト配位子の混合物も同様に使用することができる。
【0037】
本発明に包含されるヒドロホルミル化プロセスは、所望の遊離有機ホスファイト配位子を任意の過剰量で、例えば、反応媒体中に存在するロジウム1モルあたり少なくとも1モルの遊離有機ホスファイト配位子、必要に応じて最大100モルまで、またはそれ以上の遊離有機ホスファイト配位子で行われることができる。一般に、反応媒体中に存在するロジウム1モルあたり約4~約50モルの有機ホスファイト配位子の量は、ほとんどの目的に適するはずであり、前述の量は、存在するロジウムに結合(錯化)している有機ホスファイトの量と、存在する遊離(非錯化)有機ホスファイト配位子の量の合計である。言うまでもなく、必要に応じて、追加の有機ホスファイト配位子を、ヒドロホルミル化プロセスの反応媒体にいつでも任意の適切な方式で補給して、反応媒体中の所定レベルの遊離リガンドを維持することができる。さらに、所与のプロセスにおけるロジウム-有機ホスファイト錯体触媒の有機ホスファイト配位子および過剰の遊離有機ホスファイト配位子は、通常ともに同じであるが、ともに異なる有機ホスファイト配位子、ならびに2つ以上の異なる有機ホスファイト配位子の混合物も、必要に応じて、任意の所与のプロセスの各目的のために使用できることを理解すべきである。
【0038】
本発明に包含される所与のヒドロホルミル化プロセスの反応媒体中に存在するロジウム-有機ホスファイト錯体触媒の量は、使用することが望まれる所与のロジウム濃度を提供するのに必要な、かつ例えば上記の特許および出願に開示されているような関与する特定のヒドロホルミル化プロセスを触媒するのに必要なロジウムの少なくともその触媒量の基準を提供する最少量であればよい。一般に、ヒドロホルミル化反応媒体中の遊離ロジウムとして計算して約10ppm~約1000ppmの範囲のロジウム濃度は、ほとんどのプロセスに十分なはずだが、一般に約10~500ppmのロジウムを使用することが好ましく、ロジウムにとって25~350ppmがより好ましい。
【0039】
本発明に包含されるヒドロホルミル化反応において使用され得るオレフィン出発物質反応物質は、例えば上記の特許および出願に開示されているように、末端不飽和または内部不飽和であり、直鎖、分岐鎖または環状構造であり得る。このようなオレフィンは、2~20個の炭素原子を含むことができ、1つまたは複数のエチレン性不飽和基を含むことができる。さらに、このようなオレフィンは、カルボニル、カルボニルオキシ、オキシ、ヒドロキシ、オキシカルボニル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、アルキル、ハロアルキルなどのヒドロホルミル化プロセスに本質的に悪影響を及ぼさない基または置換基を含むことができる。例示的なオレフィン不飽和化合物には、α-オレフィン、内部オレフィン、アルキルアルケノエート、アルケニルアルカノエート、アルケニルアルキルエーテル、アルケノールなど、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1、-ドデセン、1-オクタデセン、2-ブテン、イソブチレン、2-メチルブテン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、2-ヘプテン、シクロヘキセン、プロピレン二量体、プロピレン三量体、プロピレン四量体、ブテン二量体、ブテン三量体、2-エチル-1-ヘキセン、スチレン、3-フェニル-1-プロペン、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、3-シクロヘキシル-1-ブテンなどが含まれる。言うまでもなく、必要に応じて、異なるオレフィン出発物質の混合物を使用できることが理解される。本発明の実施形態は、C4および高級オレフィンのヒドロホルミル化において特に有用であり得る。したがって、いくつかの実施形態では、オレフィン不飽和出発物質は、4~20個の炭素原子を含むα-オレフィン、および4~20個の炭素原子を含む内部オレフィン、ならびにこのようなα-オレフィンと内部オレフィンの出発物質混合物である。
【0040】
上記のように、本発明に包含されるヒドロホルミル化反応はまた、ロジウム-ホスファイト錯体触媒のための有機溶媒の存在下で行われる。意図するヒドロホルミル化プロセスに過度に悪影響を及ぼさない任意の適切な溶媒を使用することができる。ロジウム触媒によるヒドロホルミル化プロセスに適した例示的な溶媒には、例えば上記の特許および出願に開示されているものが含まれる。言うまでもなく、必要に応じて、1つまたは複数の異なる溶媒の混合物を使用することができる。最も好ましくは、溶媒は、本明細書で使用されるオレフィン出発物質、ヒドロホルミル化触媒および有機ポリマー添加剤が全て実質的に可溶性であるものである。一般に、生成が望まれるアルデヒド生成物に対応するアルデヒド化合物および/または生成物中その場で生成される高沸点アルデヒド液体縮合副生成物などの主溶媒として高沸点アルデヒド液体縮合副生成物を使用することが好ましい。実際、連続プロセスの開始時に、任意の適切な溶媒を使用することができるが、主溶媒は、通常は最終的にこのような連続プロセスの性質のために、アルデヒド生成物とともに高沸点アルデヒド液体縮合副生成物を含む。このようなアルデヒド縮合副生成物は、必要に応じて予備成形され、それに応じて使用することもできる。これらの縮合生成物は、エステルおよびアルコールなどの極性部分を含有しているが、クラスターおよびコロイドを生成することからロジウム触媒を安定させるようには見えない。言うまでもなく、使用される溶媒の量は、本発明にとって重要ではなく、所定のプロセスに望ましい特定のロジウム濃度を反応媒体に提供するのに十分な量であればよい。一般に、使用される場合の溶媒の量は、反応媒体の総重量に基づいて約5重量パーセント~約95重量パーセント以上までの範囲であり得る。
【0041】
本発明により包含されるヒドロホルミル化プロセスにおいて使用され得るヒドロホルミル化反応条件は、上記の特許および出願においてこれまでに開示された任意の適切な連続液体触媒再循環ヒドロホルミル化条件を含んでよい。例えば、ヒドロホルミル化プロセスの水素、一酸化炭素およびオレフィン出発化合物の全ガス圧は、約7~約69,000kPa(a)の範囲であり得る。しかし、一般に、本プロセスは、水素、一酸化炭素およびオレフィン不飽和出発化合物を約10300kPa(a)未満、より好ましくは3400kPa(a)未満の全ガス圧で操作されることが好ましい。最小全圧は、所望の反応速度を得るのに必要な反応物の量によって主に限定される。より具体的には、本発明のヒドロホルミル化プロセスの一酸化炭素分圧は、好ましくは約7~約830kPa(a)、より好ましくは約21~約620kPa(a)であり、水素分圧は、好ましくは約100~約1100kPa(a)、より好ましくは約200~約690kPa(a)である。一般に、ガス状水素対一酸化炭素のH2:COモル比は、約1:10~100:1以上の範囲であってもよく、より好ましい水素対一酸化炭素のモル比は、約1:1~約10:1である。さらに、ヒドロホルミル化プロセスは、約45℃~約150℃の反応温度で行うことができる。一般に、約50℃~約120℃の反応温度でのヒドロホルミル化が、全てのタイプのオレフィン出発物質のために好ましく、例えば、米国特許第4,599,206号に開示されているように、触媒活性が低下する可能性があるため、高い温度はあまり望ましくないと考えられている。
【0042】
さらに、本明細書に記載のように、本発明で使用可能な可溶化ロジウム-ホスファイト錯体触媒の連続ヒドロホルミル化プロセスは、液体触媒再循環手順を含む。このようなタイプの液体触媒再循環手順は、例えば上記の特許および出願に開示されているように知られており、したがって、このような従来の触媒再循環手順を本発明で使用できるので、本明細書で特に詳述する必要はない。例えば、このような液体触媒再循環手順では、例えば、アルデヒド生成物、可溶化ロジウム-ホスファイト錯体触媒、遊離ホスファイト配位子、および有機溶媒、ならびに例えば、アルデヒド縮合副産物などのヒドロホルミル化によってその場で生成された副産物、および液体反応生成物媒体に溶解した未反応オレフィン出発物質、一酸化炭素と水素(合成ガス)を含有する液体反応生成物媒体の一部を、ヒドロホルミル化反応器から蒸留領域、例えば、所望のアルデヒド生成物が、必要に応じて、常圧、減圧または高圧下で1つ以上の段階で蒸留され、液体媒体から分離される気化器/分離器に連続的に移動させることは一般的である。次に、そのように分離された所望の気化または蒸留アルデヒド生成物は、上記の任意の従来の方式で凝縮および回収されることができる。次に、ロジウム-ホスファイト錯体触媒、溶媒、遊離ホスファイト配位子、および通常いくらかのアルデヒド生成物を含有する残りの非揮発性液体残留物は、必要に応じてさらに処理するか、または処理せずに、前述の再循環液体残留物中に依然として溶解されている可能性のあるいかなる副産物および非揮発性ガス状反応物とともに、例えば、上記の特許および出願に開示されているような、所望の任意の従来の方式で、ヒドロホルミル化反応器に戻して再循環させる。さらに、気化器からのこのような蒸留によってそのように除去された反応ガスは、必要に応じて、反応器に戻して再循環させることもできる。
【0043】
より具体的には、反応流体を含有する金属-ポリホスホルアミダイト錯体触媒からの所望のアルデヒド生成物の蒸留および分離は、所望の任意の好適な温度で起こり得る。一般に、このような蒸留は、比較的低い温度、例えば、150℃未満、好ましくは140℃未満、より好ましくは約50℃~約130℃の範囲の温度で行われることが推奨される。このようなアルデヒド蒸留は、一般に、減圧下、例えば低沸点アルデヒド(例えば、C4~C6)が関与する場合はヒドロホルミル化中に使用される全ガス圧力よりも実質的に低い全ガス圧力下で行われ、または高沸点アルデヒド(例えば、C7以上)が関与する場合は真空下で行われる。例えば、一般的な方法は、液体媒体に溶解した未反応ガスのかなりの部分を揮発させるために、ヒロドホルミル化反応器から取り出された液体反応生成物媒体を減圧にさらすこと、次いで前述の揮発性ガスと、ヒドロホルミル化反応媒体中に存在していたよりもはるかに低い濃度の合成ガスを今や含有する液体媒体とを、蒸留領域、例えば、気化器/分離器に通し、ここで所望のアルデヒド生成物を蒸留させることである。一般に、真空圧以下から約50psigの全ガス圧の範囲の蒸留圧は、ほとんどの目的に十分である。
【0044】
前述のように、本発明の実施形態は、反応領域において、任意選択で遊離有機ホスファイト配位子と一緒にロジウム-有機ホスファイト系触媒の存在下で、オレフィン、水素およびCOを含む反応物と、本明細書にさらに記載の式(I)または式(II)の構造を有する少なくとも1種のポリマーとを接触させることにより、ロジウム沈殿を有利に最小限に抑えるまたは防止する。このようなアクリレートポリマーおよびポリラクトンは、本明の実施形態で使用することができ、このようなポリマーは、極性官能基を有するホモポリマー、コポリマーなどであり得ることが見出された。一般に、ポリマーを形成するために使用される単量体は、種々の極性官能基を含むことができるが、ヒドロホルミル化プロセスを妨害する可能性のある官能基を有する単量体(例えば、チオール部分などを含む)は、一般に避ける必要がある。
【0045】
本発明の実施形態において有用なポリマーは、ペンダントエステルまたは鎖状エステルからなるクラスから選択される官能基を含み、それぞれ式(I)および(II)に示される構造によって表され、
【化7】
式中、R
21およびR
22は、同じもしくは異なるC
1~C
16アルキル部分またはアルキル置換アリール部分であり、m、nおよびqは、その和が50よりも大きい正数またはゼロであり、pは3~6であり、前述のポリマーの平均分子量は10,000以上であり、R
23およびR
24は、HまたはC
1~C
4アルキル部分であり、R
25は、HまたはC
1~C
16アルキル部分であり、R
25は、式(II)内の各p部分で同じもしくは異なることができる。ヒドロホルミル化プロセスによって生成されるアルデヒドへの式(I)または式(II)の構造を有するポリマーの溶解度は、40℃で1重量パーセント以上である。いくつかの実施形態では、ヒドロホルミル化プロセスによって生成されるアルデヒドへの式(I)または式(II)の構造を有するポリマーの溶解度は、40℃で2重量パーセント以上である。
【0046】
式(I)のアクリレートポリマーに関して、いくつかの実施形態では、R21およびR22は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、およびオクチル基から選択され、特定の有利な実施形態は、R21およびR22でメチル部分とブチル部分の両方を有する。R23およびR24は、HまたはC1~C4アルキル部分であり、メチル部分はいくつかの実施形態にとっては特に有利である。式(I)のアクリレートポリマーは、ホモ、ブロックまたはランダムであってよく、組み合わせて、いくつかの実施形態によるヒドロホルミル化プロセスにおいて利用されることができるが、しかしランダムアクリレートコポリマーが好ましい。いくつかの実施形態では、式(I)のアクリレートポリマーは、ポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレート)である。式(I)のアクリレートポリマーは、いくつかの実施形態では、ポリ(イソブチルメタクリレート)である。
【0047】
式(II)のポリマーについて、R25は、HまたはC1~C16アルキル部分であり、R25は、式(II)内の各p部分で同じまたは異なる。いくつかの実施形態では、R25はHである。R25がHであるいくつかの実施形態では、pは5~6である。いくつかの実施形態では、式(II)の有機ポリマーは、ポリカプロラクトンである。
【0048】
式(I)および(II)のポリマーは周知であり、種々の供給源から市販されている。
【0049】
生成物アルデヒドへのポリマーの溶解度は、以下のように決定されることができる。所望の量のポリマーを、攪拌されるガラスバイアル中の生成物アルデヒドに加える(例えば、ノナナールへのポリカプロラクトンの溶解度を評価するために、ポリカプロラクトンを1重量パーセントの量でノナナールに加えることができる)。攪拌されたガラスバイアルを40℃の水浴中に置く。溶解度は視覚的に決定される。溶液が透明で固形物または濁りがない場合、このポリマーは40℃での重量パーセントで溶解性であるとみなされる。
【0050】
このような有機ポリマーの平均分子量は、厳密に重要であるようには見えないが、約10,000~10,000,000以上の範囲であり得、ポリマー上のエステル部分の量も厳密には重要ではない。本発明における添加剤として使用可能な式(I)による好ましい有機ポリマーは、少なくとも50個のアクリレート基またはメタクリレート基でポリマーを含有しており、好ましくは、メチルメタクリレート部分として少なくとも10%のエステルを有するメタクリレート基の混合物であり、最も好ましいのはポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレートおよびポリイソブチルアクリレート)である。これらの添加剤の性質により、一般に、マトリックス中で低粘度溶液を生成する液体ポリマーが生成され、したがって、本明細書で使用されるレベルで気化プロセスが妨害されることはない。
【0051】
本発明の任意の所与のプロセスで使用可能なこのような有機ポリマー添加剤の量は、前述の所与のプロセスで使用される同一の有機ポリマーの非存在下で同一のロジウム触媒液体再循環ヒドロホルミル化プロセスを行うことを除いて、同一条件下で同一のプロセスを行う結果として起こることが判明し得るこのようなロジウム損失を少なくとも多少最小化するための基準を提供するのに必要な最少量であればよい。ヒドロホルミル化反応領域内の流体の総重量に基づいて約0.1~約3重量パーセントまでの範囲のこのような有機ポリマー添加剤の量は、ほとんどのプロセスにとって十分であろう。本明細書で使用可能な有機ポリマー添加剤の上限量は、主に、所望のアルデヒド生成物をほとんど蒸留除去した後に得られる非揮発性液体ロジウム触媒含有残留物への有機ポリマーの溶解限度によって決定される。一般に、このような有機ポリマー添加剤の量は、それぞれヒドロホルミル化反応領域の流体の総重量に基づいて、約0.1~約3.0の範囲であり、いくつかの実施形態では約0.25~約2.5重量パーセントが望ましい。
【0052】
溶液からのロジウム沈殿を最小限に抑えるまたは防止するために本明細書で有用なこのような少量のポリマー添加剤を使用する能力は、このような少量の添加剤が、大量の添加剤では起こる可能性があるような、ロジウム触媒の組成および/またはヒドロホルミル化プロセスに過度に悪影響を与える可能性がはるかに少ないという点で、本発明の重要で有益な態様である。
【0053】
本発明で使用可能なポリマー添加剤のヒドロホルミル化反応流体への添加は、所望の任意の適切な方式で行うことができる。例えば、ポリマー添加剤(式(I)および/または式(II))は、そこからのアルデヒド生成物の蒸留前または蒸留中のいつでも反応流体に加えることができ、およびこのような有機ポリマー添加剤を含まないヒドロホルミル化反応器に存在するヒドロホルミル化反応媒体をこのような有機ポリマー添加剤を含まない状態で維持するために、必要に応じて、所望のアルデヒド生成物の大半を蒸留した後に得られた非揮発性液体ロジウム触媒含有残留物から、例えば、前述の非揮発性液体ロジウム触媒含有残留物の再循環前または再循環中に、該添加剤を取り除くこともできる。しかし、このようなポリマー添加剤が通常、ヒドロホルミル化反応自体に実質的に有害な影響を与えるとは考えられていない。一般に、このようなポリマー添加剤をヒドロホルミル化反応流体に直接添加し、有機ポリマー添加剤を、液体触媒再循環ヒドロホルミル化溶液全体にわたって溶液中に残存させておくことが好ましい。実際、本明細書に述べるようにロジウム沈殿が疑いもなく、所望の液体触媒再循環ヒドロホルミル化プロセス中に起こると信じる理由がある場合、このような有機ポリマー添加剤がヒドロホルミル化プロセスの最初から存在するように、使用される前駆体触媒溶液に有機ポリマーを添加することが望ましい。
【0054】
ここで本発明のいくつかの実施形態を以下の実施例でより詳細に説明する。
【実施例】
【0055】
米国特許第4,774,361号で使用される加速試験手順を本発明の実施形態の利点を実証するために使用し、はるかに短期間かつ管理可能な期間内に有意義な結果を得るために、連続的な液体再循環ヒドロホルミル化中に、可溶化した活性化ロジウム-ホスファイト錯体触媒溶液をアルデヒド生成物の蒸留回収中に経験するよりもはるかに厳しい条件にさらすことを含める。ロジウム濃度は、空気/アセチレン炎を使用する原子吸光(AA)によって決定する。この手法ではクラスター化ロジウムは確実に定量化されないことが判明しており、したがって、この方法を用いて、「ロジウム損失」(例えば、検出できないロジウムがクラスター化されている、あるいはもはや溶液中に存在していない)を示すことができる。色の変化(無色または淡黄色の溶液から開始する)、例えば、黒ずみまたは黒膜もしくは固形物の形成も、ロジウム触媒の劣化を示している。損失したロジウムの百分率は、採取した溶液中に含まれるロジウムの量を、出発溶液中のロジウムの量で割った値に100を掛けて決定される。
【0056】
以下の実施例における全ての部および百分率は、別段の指示がない限り重量による。別段の指示がない限り、圧力は絶対圧力として加える。
【0057】
溶解度試験は、混合オクテンフィードから生成した、またはAldrichから購入し、そのまま使用するC9アルデヒドを使用して行う。使用した配位子は、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(以下、「配位子A」)である。以下のスクリーニング実験は、マグネチックスターラーで攪拌されるガラスバイアル中の周囲温度でC9アルデヒドに特定量(例えば、1~3重量%)のポリマー添加剤を入れ、次いでそれを40℃(連続操作される触媒溶液の場合、一般的に最高濃度、最低温度の状態である、通常の気化器のテール温度とみなす)の水浴に入れて行う。PVP-VAポリマーの場合、リストした比は、ポリビニルピロリドン:酢酸ビニルの相対量を指す。溶解度は、固形物または濁りがない透明な溶液に基づいて視覚的に決定した。結果を表1にまとめる。
【表1】
【0058】
比較例1~8および本発明の実施例1~7
基本手順:代表的な気化器条件下でのロジウム損失:
ロジウム損失を評価するために、サンプリングポート、入口/出口弁、および圧力計を備えた90mLのフィッシャーポーター瓶を反応容器として使用する。フィッシャーポーター瓶は、別段の指示がない限り、最初にN2で不活性化させ、次いで温度制御された油浴中で加熱する。110℃でテトラエチレングリコールジメチルエーテル(20mL)に溶解したポリマー添加剤の溶液に、トルエンに溶解した配位子Aのストック溶液を加え、続いてジカルボニルアセトアセトナト-ロジウム(I)のトルエンストック溶液を加える。配位子Aとロジウムの比率は10:1である。
【0059】
次いで、この溶液に1:1のCO:H2を150psiで30~60分間流して混合し、活性Rh-配位子A錯体を生成する。次いで、全圧を10psiに下げ、攪拌せずに温度を一定に保持する。試料を定期的に取り出し、上述のように空気/アセチレン原子吸光(AA)によってロジウム含有量を分析する。この分析手法では、クラスター化ロジウム(または沈着もしくは沈殿したいかなるロジウムも)が確実に定量化されないことが確認されており、したがって、検出可能なロジウムが減少することは、本試験の「ロジウム損失」を示す。
【0060】
比較例1および6~8では、ポリマー添加剤を使用しないことを除いて、上記の手順に従う。比較例2~5および本発明の実施例1~7では、特定の量のポリマーを使用して、上記の手順に従う。ロジウム損失の結果を表2および3にまとめる。
【表2】
【0061】
高濃度でのポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレート)の追加の結果を表3にまとめる。
【表3】
【0062】
本発明の実施形態で使用できる他のポリマーの追加の結果を表4および5にまとめる。
【表4】
【表5】
【0063】
本発明の実施例8
本実施例では、ヒドロホルミル化プロセスにおいて1重量パーセントのポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレート)の使用を添加剤なしの対照と比較して評価する。
【0064】
ヒドロホルミル化プロセスは、連続モードで操作するシングルパスガラス加圧反応器で行う。この反応器は、観察のためにガラスの前面を部分的に油浴に浸した3オンスのフィッシャーポーター加圧瓶からなる。このシステムを窒素でパージした後、約20~30mLの新たに調製したロジウム触媒前駆体溶液をシリンジで反応器に充填する。触媒前駆体溶液には、約100~200ppmのロジウム(ロジウムジカルボニルアセチルアセトナートとして導入されている)、配位子A、および溶媒としてテトラエチレングリコールジメチルエーテルが含まれている。反応器を密閉した後、システムを窒素でパージし、油浴を加熱して、所望のヒドロホルミル化反応温度を提供する。ヒドロホルミル化反応を150~160psig(1034~1103kPa)の全圧で、かつ60~100℃の範囲の温度で行う。窒素、合成ガスおよびプロピレンを含むフィードを開始する。フィードガス(H2、CO、プロピレン、N2)の流量をマスフローメーターで個別に制御し、フィードガスを、フリットメタルスパージャーを介して触媒前駆体溶液に分散させる。N2、H2、CO、プロピレン、およびアルデヒドの生成物の分圧は、GC分析およびダルトンの法則による通気流を分析することによって決定する。フィードガスの未反応部分は、窒素流によって生成物を取り除いて、実質的に一定の液面を維持する。流量およびフィードガスの分圧は、1時間あたり、1リットルの反応流体あたり約0.5~1グラムモルのアルデヒドのヒドロホルミル化反応速度が得られるように設定する。オレフィン分圧の経時変化を調整するために、オレフィンでの反応速度が一次であると仮定して、観測速度をオレフィン分圧に分割する。出口ガスは、GCで連続して分析する。実際には、フィードラインから微量の空気が取り除かれ、油浴の熱平衡に達するため、システムが定常状態に達するまでに約1日かかることがたびたび観察されている。
【0065】
操作条件を以下の表6に示し、結果を表7に示す。
【表6】
【表7】
【0066】
表7に示すように、1%のポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレート)(総触媒溶液に基づく)の存在は、実験誤差内でヒドロホルミル化性能に有害な影響を及ぼさなかった。言い換えれば、このポリマーは触媒阻害剤でも触媒毒でもなかった。