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  • 特許-工作機械の温度制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】工作機械の温度制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/14 20060101AFI20221205BHJP
   B23Q 11/12 20060101ALI20221205BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
B23Q11/14
B23Q11/12 C
B23Q17/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021112083
(22)【出願日】2021-07-06
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 清輝
(72)【発明者】
【氏名】小俣 淳也
(72)【発明者】
【氏名】藤川 健一
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-306147(JP,A)
【文献】特開平09-136244(JP,A)
【文献】特開2011-073108(JP,A)
【文献】特開平07-266186(JP,A)
【文献】特開2010-105056(JP,A)
【文献】特開2008-030169(JP,A)
【文献】特開2019-076999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/12-11/14
B23Q 17/00
B24B 55/00-57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の発熱部に冷却油を循環させて温度制御を行う工作機械の温度制御装置であって、
前記工作機械の機体の前記発熱部から離れた部分において機体温度を測定する機体温度センサと、
前記工作機械を循環し、前記温度制御装置に回収される前記冷却油の温度を測定する戻り油温度センサと、
前記冷却油を収容するタンクと、前記冷却油を循環させるためのポンプと、前記冷却油の温度を低下させるための冷却器と、を有し、前記戻り温度センサによって検出された前記冷却油の温度が前記機体温度に基づいて設定された基準温度と同調するように、前記工作機械へ供給する前記冷却油の温度を制御する少なくとも2台のオイルコントロールモジュールが前記工作機械に対して並列接続され、少なくとも2台の前記オイルコントロールモジュールの各前記タンクが連通している、オイルコントローラと、
前記オイルコントローラから前記工作機械へ供給される前記冷却油の合流及び前記工作機械から各前記オイルコントロールモジュールへ回収される前記冷却油の分岐を均一にするための配管接続マニホールドと、
を具備することを特徴とした工作機械の温度制御装置。
【請求項2】
少なくとも2台の前記オイルコントロールモジュールの前記基準温度は、差を付けて設定され、1台の前記オイルコントロールモジュールが優先的に稼働される基準温度設定手段を有する請求項1に記載の工作機械の温度制御装置。
【請求項3】
優先的に稼働される1台の前記オイルコントロールモジュールの前記基準温度は、他の前記オイルコントロールモジュールの前記基準温度よりも低い温度に設定されている請求項2に記載の工作機械の温度制御装置。
【請求項4】
前記冷却油の戻り油温度が、優先的に稼働される1台の前記オイルコントロールモジュールの前記基準温度を上回ると、他の前記オイルコントロールモジュールは、前記冷却油の該戻り油温度が、各前記基準温度を超えないように作動する請求項2又は請求項3に記載の工作機械の温度制御装置。
【請求項5】
複数の前記オイルコントロールモジュールの各前記基準温度は、外部入力によって設定可能とされた請求項2から請求項4の何れか1項に記載の工作機械の温度制御装置。
【請求項6】
1台の前記オイルコントロールモジュールは、前記工作機械の主軸装置に前記冷却油を循環させ、他の前記オイルコントロールモジュールは、前記主軸装置と前記工作機械の送り軸装置とに前記冷却油を循環させる請求項1から請求項5の何れか1項に記載の工作機械の温度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の発熱部に冷却油を循環させて温度制御を行う工作機械の温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械の主軸装置に冷却液を循環させ、主軸装置の主軸温度を目標値に維持するようにした工作機械の主軸温度制御装置であって、冷却液の循環路に直列又は並列に配置された第1液温調節機及び第2液温調節機と、主軸装置の主軸回転速度と主軸回転速度に対応する発熱を補償する冷却容量との関係を予め記憶する記憶手段と、主軸装置の回転速度に対応して記憶手段に記憶されている冷却容量が得られるように第1液温調節機を作動させる第1制御手段と、主軸装置の主軸温度を検出する主軸温度検出手段と、主軸温度検出手段によって検出された温度が目標値になるように第2液温調節機を作動させる第2制御手段と、を具備する工作機械の主軸温度制御装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された主軸温度制御装置は、実加工に際し、主軸装置の回転速度に対応するために予め記憶してある冷却容量が発生するように、第1液温調節機を作動させる(フィードフォワード制御を行う)と共に、主軸装置の主軸温度を検出し、該検出温度が目標値になるように、第2液温調節機の冷却容量を調節する(フィードバック制御を行う)ものである。しかしながら、特許文献1に記載された主軸温度制御装置のように、主軸回転速度に応じて冷却容量を制御すると、例えば、中・低速回転域において長時間の重切削を行うと、主軸の発熱が大きくなるにもかかわらず、回転速度だけで冷却容量が決定されるため、第1制御手段では冷却容量が低く見積もられる。このため、主軸の温度が上昇し、第2液温調節機を急遽作動することになる等の場合には、主軸の冷却に時間遅れを生じる可能性があり、温度制御のレスポンスに問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平5-79458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、温度制御のレスポンスを向上させると共に、工作機械の仕様変更に即応して冷却能力の仕様を変更することができ、かつ、増設を容易にすることができる工作機械の温度制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、工作機械の発熱部に冷却油を循環させて温度制御を行う工作機械の温度制御装置であって、工作機械の機体の発熱部から離れた部分において機体温度を測定する機体温度センサと、工作機械を循環し、温度制御装置に回収される冷却油の温度を測定する戻り油温度センサと、冷却油を収容するタンクと、冷却油を循環させるためのポンプと、冷却油の温度を低下させるための冷却器と、を有し、戻り温度センサによって検出された冷却油の温度が、機体温度に基づいて設定された基準温度と同調するように、工作機械へ供給する冷却油の温度を制御する少なくとも2台のオイルコントロールモジュールが、各タンクを連通させ、かつ、工作機械に対して並列接続されたオイルコントローラと、オイルコントローラから工作機械へ供給される冷却油の合流及び工作機械から各オイルコントロールモジュールへ回収される冷却油の分岐を均一にするための配管接続マニホールドと、を具備する工作機械の温度制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る工作機械の温度制御装置によれば、複数のオイルコントロールモジュールをモジュールとして組み合わせることによってオイルコントローラを構成することができる。このため、工作機械の仕様変更によって冷却能力の仕様が変更された場合に、オイルコントローラを構成するオイルコントロールモジュールの増設又は撤去を容易に行うことができ、工作機械の仕様変更に応じて要求される冷却能力の変更に即応することができる。これによって、例えば、オイルコントローラを改修することによって冷却能力を変更し、又は、大容量のオイルコントローラに置き換えたりすることによって冷却能力を変更するのではなく、簡便かつ低コストに冷却能力の変更を行うことができる。さらに、オイルコントロールモジュールは、各タンクを連通させ、かつ、工作機械に対して並列接続されている。また、温度制御装置は、配管接続マニホールドを備えている。このため、オイルコントローラから工作機械へ供給される冷却油の合流及び工作機械から各オイルコントロールモジュールへ回収される冷却油の分岐を均一にすることができ、さらに、各オイルコントロールモジュールの冷却油の温度を均一にすることができるため、工作機械の温度制御を安定して行うことができる。
【0008】
特許文献1に記載された主軸温度制御装置のように、フィードフォワード制御方式の第1液温調節機と、フィードバック制御方式の第2液温調節機といった別々のオイルコントロールモジュールを組み合わせるのではなく、工作機械の仕様変更に即応して、同一のオイルコントロールモジュールを増設するだけで冷却能力の仕様を変更することができ、かつ、増設を容易にすることができる。また、特許文献1のように、フィードフォワード制御されるオイルコントロールモジュールで間に合わない場合に、フィードバック制御されるオイルコントロールモジュールで補うのではなく、全てのオイルコントロールモジュールは、戻り油(冷却油)の温度が設定された基準温度で同調するように、つまり複数台のオイルコントロールモジュールでフィードバック制御されるので、温度制御をレスポンス良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る温度制御装置を設置した工作機械の概略側面図を示す。
図2図2は、本実施形態に係る温度制御装置のブロック図を示す。
図3図3は、本実施形態に係る温度制御装置を用いた主軸装置の温度制御の一例として主軸装置の温度の時系列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工作機械の温度制御装置を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0011】
図1には、本実施形態に係る温度制御装置10を備えた工作機械12が示されている。図中には、工作機械12を水平面上に配置したときの機械上下方向及び機械前後方向を矢印で示す。図中のYは、機械上方側を示しており、Zは、機械前方側を示す。また、ここでは、水平面において、機械前後方向と直交する方向を機械横方向(図1の紙面に対して垂直方向,X)と称する。
【0012】
工作機械12は、工場の床面に設置された機体としてのベッド14と、ベッド14の機械前方側(図1中の左側)の上面に機械前後方向に移動可能に配設された回転テーブル15のハウジング16と、ベッド14の機械後方側(図1中の右側)の上面に立設、かつ、固定された機体としてのコラム18と、を備える。また、工作機械12は、コラム18の前面側には、機械上下方向(Y軸方向)に移動可能に配設されたY軸スライダ20と、Y軸スライダ20の機械前方側に、機械横方向(水平左右方向)に移動可能に配設されたX軸スライダ22と、X軸スライダ22に取り付けられ、主軸を回転可能に支持する主軸頭24を有する主軸装置26(発熱部)と、を備える。
【0013】
ハウジング16は、ベッド14の上面において機械前後方向(Z軸方向)に沿って延設された一対のZ軸案内レール28に沿って往復動可能に配設されており、ハウジング16の上面にはワーク(図示省略)を固定するためのパレット36が取り付けられる。本実施形態では、ハウジング16には、パレット36の回転を駆動するためのモータ40が組み込まれており、パレット36は、鉛直方向に延在する第1の軸線Ob回り(B軸方向)の回転が可能に構成されている。
【0014】
ベッド14には、ハウジング16をZ軸案内レール28に沿って往復駆動するために、Z軸方向に延設されたボールねじ軸38C(図2参照)と、ボールねじ軸38Cの一端に連結されたZ軸サーボモータと、を備えたZ軸送り装置38(発熱部)が配設されている。また、ハウジング16には、ボールねじ軸38Cに係合するボールナット38A(図2参照)が取り付けられており、ボールねじ軸38Cの両端部をベッド14に回転支持する軸受38Bが設けられている。
【0015】
Y軸スライダ20は、コラム18の前面おいて機械上下方向(鉛直方向)に延設された一対のY軸案内レール30に沿って往復動可能に構成されている。コラム18には、Y軸スライダ20をY軸案内レール30に沿って往復駆動するために、Y軸方向に延設されたボールねじ軸32C(図2参照)と、一対のボールねじ軸32Cの一方の端部、本実施形態では、上端に連結されたY軸サーボモータと、を備えたY軸送り装置32(発熱部)が配設されている。また、Y軸スライダ20には、ボールねじ軸32Cに係合するボールナット32A(図2参照)が取り付けられており、ボールねじ軸32Cの両端部をコラム18に回転支持する軸受32Bが設けられている。
【0016】
X軸スライダ22は、Y軸スライダ20の前面において機械横方向(X軸方向)に延設された一対のX軸案内レール33に沿って往復動可能に設けられている。Y軸スライダ20には、X軸スライダ22をX軸案内レール33に沿って往復駆動するために、X軸方向に延設されたボールねじ軸34C(図2参照)と、ボールねじ軸34Cの一方の端部に連結されたX軸サーボモータと、を備えたX軸送り装置34(発熱部)が配設されている。また、X軸スライダ22には、ボールねじ軸34Cに係合するボールナット34A(図2参照)が取り付けられており、ボールねじ軸34Cの両端部をY軸スライダ20に回転支持する軸受34Bが設けられている。
【0017】
X軸スライダ22は、Z軸方向前方側へ突出した一対のA軸アームを有しており、A軸アームの間に主軸頭24がX軸と平行な傾動軸線Oa回り(A軸方向)に回転送り可能に支持されている。A軸アームの一方の側には、主軸頭24を傾動軸線Oa回り(A軸方向)に回転送りするためのA軸サーボモータ39が組み込まれている。主軸頭24は、中心軸線Os回りに回転可能に主軸を支持し、内蔵したサーボモータ(図示省略)によって主軸を回転駆動可能に構成されている。
【0018】
こうして、工作機械12は、X軸、Y軸及びZ軸に沿った直線運動と、Oa軸及びOb軸回りの回転運動と、をNC装置100によって制御し、主軸の先端部に装着した工具Tと、パレット36に固定され、パレット36と共にテーブル15に装着されるワーク(図示省略)と、を相対移動させることによって、ワークを加工するように構成されている。
【0019】
図2には、温度制御装置10のブロック図を示す。温度制御装置10は、工作機械12の発熱部となる主軸装置26及び各軸送り装置32、34、38へ冷却油を供給するためのオイルコントローラ44を備える。
【0020】
オイルコントローラ44は、循環路(配管)46を通じて主軸装置26及び各軸送り装置32、34、38の軸受領域に冷却油を供給し、各軸の回転時の発熱を冷却するように構成されている。主軸装置26の冷却方式には、主軸を回転支持する軸受外輪の近傍に冷却油を循環させるジャケット冷却、主軸を回転支持する軸受の転動体に側方から潤滑油を常時噴射するジェット油滑、主軸の軸芯に冷却油を流通させる軸芯冷却等があるが、本発明は、この冷却方式を問わない。また、軸送り装置32、34、38への冷却油の循環は、ボールナット、ボールねじ、両端の軸受ケース及びボールねじ軸の軸芯を通す方式があるが、一番発熱の多いボールねじ両端の軸受ケース及びボールねじ軸の軸芯のみに冷却油を通す方式でもよい。さらに、オイルコントローラ44は、工作機械全体の温度を均一にするため、ベッド14、テーブル15、コラム18等の大型構成部品内部に冷却油を流通させてもよい。
【0021】
オイルコントローラ44は、主軸装置26へ向けた循環路46に対して並列に接続された複数のオイルコントロールモジュール48、50、52、54(以下、モジュールと称する。)を備える。ここでは、第1のモジュール48、第2のモジュール50、第3のモジュール52及び第4のモジュール54の4台のモジュール48、50、52、54が配設されている。各モジュール48、50、52、54には、同じ内部装置を有し、かつ、等価な性能を有するものが4台用いられている。これらは、後述するように各軸送り装置32、34、38との接続の有無及び冷却油の温度を制御するために設定される基準温度RT1-RT4(図3参照)だけが異なる。なお、ここでは、モジュール48、50、52、54は、4台配設されているとして説明するが、これに限らず、冷却能力の仕様変更に応じて、4台よりも多く配設されてもよく、少なく配設されてもよい。
【0022】
4台のモジュール48、50、52、54は、オイルコントローラ44と主軸装置26との間に配置された配管接続マニホールド56に対して並列に接続されている。具体的には、各モジュール48、50、52、54の循環路46は、配管接続マニホールド56のホース接続ポート58と連結され、配管接続マニホールド56から主軸装置26へは、単一の循環路46を経由して冷却油が供給(循環)されている。このため、オイルコントローラ44の各モジュール48、50、52、54から主軸装置26へ供給される冷却油を合流させることができ、かつ、主軸装置26を循環した冷却油を各モジュール48、50、52、54へ向けて分岐させることができる。これによって、各モジュール48、50、52、54に接続された循環路46を循環する冷却油の流れを均一にすることができる。特に、各ホース接続ポート58と主軸装置26との間の管路長が同等になるように配管接続マニホールド56内の各管路を配設することによって、各モジュール48、50、52、54の吐出流量を同等にすることができ、また、各モジュール48、50、52、54への戻り油の流量を同等にすることができる。
【0023】
ホース接続ポート58は、複数設けられており、モジュール48、50、52、54接続しない場合は、図示しない埋め栓によって密封するように構成されている。なお、ここでは、配管接続マニホールド56は、4台のモジュール48、50、52、54と接続可能とされているが、これに限らず、4台よりも多い台数のモジュールと接続可能な配管接続マニホールドが用いられてもよい。
【0024】
各モジュール48、50、52、54の内部には、冷却油を収容するための第1のタンク60及び第2のタンク62と、冷却油を循環させるための第1のポンプ64及び第2のポンプ66と、が配置されている。第1のタンク60と第2のタンク62との間には、仕切壁68が設けられている。各モジュール48、50、52、54の第2のタンク62は、各モジュール48、50、52、54に回収された冷却油(戻り油)の油温を均一にするために、タンク連通路(配管)70を介して連通されている。
【0025】
また、各モジュール48、50、52、54の第1のタンク60側には、冷却油を冷却し、その温度を低下させるための冷却器72が配置されている。冷却器72は、図示しない冷媒圧縮機と、熱交換器と、これらを通過する冷媒の循環路に対して並列に接続された内部流量調整弁と、を含んで構成されており、冷媒圧縮機と熱交換器とを接続する配管内の冷媒を循環させることによって、熱交換器に接触する冷却油から熱を奪うように構成されている。これらの構成は、特許文献1の図面の符号8、9、10、11、12と同じ構成であるため、ここでは図示省略する。また、内部流量調整弁の弁開度を小さくすることによって、冷媒が冷媒圧縮機と熱交換器とを循環しやすくし(冷却能力を増加させ)、弁開度を大きくすることによって、バイパス流路を形成し、冷媒が冷媒圧縮機と熱交換器とを循環しにくくする(冷却能力を低下させる)ように構成されている。
【0026】
主軸装置26と熱交換することによって温度が上昇した冷却油は、循環路46を経由して第2のタンク62に回収される。回収される冷却油が配管接続マニホールド56のホース接続ポート58から分岐され、各モジュール48、50、52、54へと送られる側の循環路46には、冷却油の流量を計測するための流量計74と、循環路46を流れる冷却油の流量を調整するための流量調整弁76と、が取付けられている。また、この循環路46には、各モジュール48、50、52、54に回収された直後の冷却油(戻り油)の油温を検出(計測)するための戻り油温度センサ78が取付けられている。
【0027】
第2のタンク62に流入した冷却油は、第1のタンク60から仕切壁68を乗り越えてオーバーフローした冷却油と混合することがあり、又は、第2のタンク62から仕切壁68を乗り越えてオーバーフローして第1のタンク60に流入し、冷却器72によって、冷却されることもある。冷却された冷却油は、第1のポンプ64によって第1のフィルタ80を通じて吸い上げられ、主軸装置26へ送られる。冷却された冷却油が、各モジュール48、50、52、54から配管接続マニホールド56へと送られる側の循環路46には、逆流を防止するためのチェック弁82が取り付けられている。また、チェック弁82よりも配管接続マニホールド56側の循環路46には、冷却油の流量を計測するための流量計74と、循環路46を流れる冷却油の流量を調整するための流量調整弁76と、が取付けられている。全ての流量計74の値が等しくなるように流量調整弁76を調整することによって、各モジュール48、50、52、54の吐出流量を同等にすることができ、また、各モジュール48、50、52、54への戻り油の流量を同等にすることができる。前述の配管接続マニホールド56内の各管路長が同等になっていれば、流量計74及び流量調整弁76は設けなくてもよい。
【0028】
第1のモジュール48は、Y軸送り装置32にも冷却油を循環させるように構成されている。冷却された冷却油は、第2のタンク62側から第2のポンプ66によって第2のフィルタ84を通じて吸い上げられ、Y軸送り装置32のボールナット32A側とボールねじ軸側32B、32Cとに送られる。これらを循環した冷却油は、第1のモジュール48へと回収されるように構成されている。
【0029】
第2のモジュール50は、X軸送り装置34及びZ軸送り装置38にも冷却油を循環させるように構成されている。冷却された冷却油は、第2のタンク62側から第2のポンプ66によって第2のフィルタ84を通じて吸い上げられ、循環路46に対して並列に接続されたX軸送り装置34及びZ軸送り装置38のボールナット34A、38A側とボールねじ軸側34B、34C、38B、38Cとに送られる。これらを循環した冷却油は、第2のモジュール50へと回収されるように構成されている。
【0030】
各モジュール48、50、52、54には、冷却器72、及び、冷却器72を介して戻り油温度センサ78と電気的に接続され、冷却器72の作動を制御する基準温度設定手段としての第1の温度設定器86、第2の温度設定器88、第3の温度設定器90及び第4の温度設定器92が、それぞれ接続されている。各温度設定器86、88、90、92は、基準温度RT1-RT4を設定可能に構成されており、戻り油の温度が、設定された基準温度RT1-RT4と同調するように冷却器72の冷却能力を制御するように構成されている。具体的には、各温度設定器86、88、90、92は、冷却器72の冷媒圧縮機と内部流量調整弁の作動が制御することによって、冷却器72の冷却能力を増加させ、又は、減少させる。
【0031】
工作機械12の機体の機械後方側かつ機械下方側の部分(ここでは、ベッド14部分)には、主軸装置26及び各軸送り装置32、34、38から離れた部分で工作機械12の機体温度をモニタするための機体温度センサ94が配置されている。機体温度センサ94は、各温度設定器86、88、90、92と電気的に接続されており、各温度設定器86、88、90、92の基準温度RT1-RT4は、機体温度に基づいて自動的に設定することができる。
【0032】
各温度設定器86、88、90、92は、基準温度RT1-RT4を設定するための外部からの数値入力可能な入力パネル(図示省略)を有する。また、NCプログラムから入力することもできる。これによって、機体温度に基づいて基準温度RT1-RT4を自動的に設定することに替えて、手動で設定することができる。なお、基準温度RT1-RT4を設定するための手段は、入力パネルに限らず、例えば、ダイヤル等の可変装置を設けて手動で可変的に設定されてもよい。
【0033】
本実施形態に係る温度制御装置10の作用及び効果を、温度制御を行った結果の一例として示す図3の主軸装置26の温度の時系列に基づいて説明する。
【0034】
この例では、第1のモジュール48及び第2のモジュール50だけが作動されており、第3のモジュール52及び第4のモジュール54は作動していない。このように、本実施形態に係る温度制御装置10によれば、工作機械12の稼働状況に即応して作動させるモジュール48、50、52、54の台数を簡便に変更するができる。さらに、工作機械12の仕様変更に即応して、モジュール48、50、52、54の増設及び撤去を容易にすることができる。
【0035】
図3の横軸は、時間軸(時間S1からS7)を示す。また、縦軸は、第1のモジュール48の基準温度RT1、第2のモジュール50の基準温度RT2及び主軸装置26からの戻り油の温度ATを表示する温度(左側のTからT)と、第1のモジュール48内部の冷却器72の内部調整弁の弁開度DV1及び第2のモジュール50内部の冷却器72の内部調整弁の弁開度DV2を表示する弁開度(右側のD1からD8)と、を示す。
【0036】
この例では、各モジュール48、50、52、54の基準温度RT1-RT4は、第1のモジュール48の基準温度RT1が最も低く、次に、第2のモジュール50の基準温度RT2が低く設定されており、ここでは作動しない第4のモジュール54の基準温度RT4が最も高く設定されている(RT4>RT3>RT2>RT1)。また、これらの基準温度RT1-RT4の温度差は、同じ温度差ΔTとされている(すなわち、RT4-RT3=RT3-RT2=RT2-RT1=ΔT)。具体的には、第1のモジュール48の基準温度RT1は、機体温度センサ94によって検出された主軸装置26及び各軸送り装置32、34、38から離れた部分における工作機械12の機体温度に基づいて自動的に設定されてよく、例えば、工作機械12が設置されている外気温度と同等の23℃とされてもよい。また、基準温度RT1-RT4の温度差ΔTは、理論上は、温度差ΔTが小さい程、2台目、3台目又は4台目のモジュールが迅速に稼働することができ、温度制御のレスポンスが向上する。しかし、小さくし過ぎると、1台目と2台目とが同時に稼働することや、1台目が停止して、2台目が稼働することのような誤制御を引き起こす可能性があるため、例えば、0.2℃に設定するとよい。
【0037】
図3に示される例では、主軸装置26は、主軸装置の回転速度(図中のR-1からR-5)を増加させ(R-5>R-4>R-3>R-2>R-1)、最後に停止(図中のSTOP)するように作動されている。例えば、ここでは、また、ここでは、R-1は、分速3000回転、R-5は、分速15000回転とされている。主軸装置26は、固定された位置で作動されている。このため、軸送り装置32、34、38は、主軸装置26の位置を調整するために微動する以外には殆ど作動していない。但し、Y軸送り装置32のY軸サーボモータは、重力を支える必要があり、外見上送り軸が停止していても、Y軸サーボモータは作動し、発熱しており、Y軸送り装置32を循環した冷却油は、他の軸送り装置よりも温められる。
【0038】
主軸装置26の作動開始直後は、第1のモジュール48の冷却器72だけが作動し、第2のモジュール50の冷却器72は、作動されていない。このため、第2のモジュール50の弁開度DV2は、大きな値(D7)のままで変化しない。一方、主軸装置26の回転数の増加に伴って発熱量が増加していくため、第1のモジュール48の弁開度DV1は、第1の温度設定器86によって内部流量調整弁が作動され、約D2から0付近へと小さくされる(冷却能力が増加される)。
【0039】
主軸装置26の回転速度が、さらに増加すると(時間S5以降の回転数R-5)、さらに増加した発熱量に対して、第1のモジュール48の冷却器72の冷却能力だけでは対応しきれなくなり、戻り油の温度ATが急激に上昇する。この結果、戻り油の温度ATは、第1のモジュール48の基準温度RT1及び第2のモジュール50の基準温度RT2を上回るようになる。このため、第2の温度設定器88によって第2のモジュール50の冷却器72が作動され、第2のモジュール50の内部流量調整弁の弁開度DV2は、D7からD2以下へと小さくされる(冷却能力が増加される)。これによって、戻り油の温度ATを第2のモジュール50の基準温度RT2以下まで低下される。さらに、主軸回転速度が速い主軸装置の場合、例えば、分速20000回転では、4台のモジュール48、50、52、54が必要となる。この場合の温度制御は、前述と同様に、戻り油の温度ATが、第3のモジュール52の基準温度RT3を超えると第3のモジュール52が、第4のモジュール54の基準温度RT4を超えると第4のモジュール54が、作動する。軸送り装置32、34、38の発熱は、主軸装置26の回転速度に依存しないため、第3のモジュール52及び第4のモジュール54は、軸送り装置32、34、38に冷却油を循環せず、使用しない配管部には、埋栓が施される。
【0040】
本実施形態に係る温度制御装置10によれば、各モジュール48、50、52、54を組み合わせて(モジュール化して)オイルコントローラ44を構成することができる。このため、工作機械12の仕様変更によって冷却能力の仕様が変更された場合や、工作機械12の作動状況によって戻り油の温度ATが急激に上昇した場合であっても、冷却能力の変更に即応することができる。これによって、例えば、大容量のオイルコントローラを常設したりすることなく、簡便かつ低コストに冷却能力の変更を行うことができる。さらに、各モジュール48、50、52、54は、各タンク60、62を連通させ、かつ、工作機械12に対して並列接続されている。また、温度制御装置10は、配管接続マニホールド56を備えている。このため、オイルコントローラ44から工作機械12へ供給される冷却油の合流及び工作機械12から各モジュール48、50、52、54へ回収される冷却油の分岐を均一にすることができると共に、各モジュール48、50、52、54の冷却油の温度を均一にすることができ、工作機械12の温度制御を安定して行うことができる。
【0041】
以上の説明のとおり、本実施形態に係る温度制御装置10によって、工作機械12の仕様変更に即応して冷却能力の仕様を変更することができ、かつ、増設を容易にすることができる。本実施形態に係るオイルコントローラ44は、モジュール2台分、3台分又は4台分の冷却能力のある1台の大型のオイルコントローラを必要としない。まず、1台のモジュールを稼働させ、必要に応じて、2台目、3台目、4台目と作動させればよいため、省エネ効果をもたらす。また、大型のオイルコントローラを在庫として準備する必要が無いため、管理コストを低減することもできる。
【0042】
なお、ここでは、第1のモジュール48は、Y軸送り装置32にも冷却油を循環させるように構成され、第2のモジュール50は、X軸送り装置34及びZ軸送り装置38にも冷却油を循環させるように構成されているとして説明したが、これに限らない。例えば、第1のモジュールが、X軸送り装置及びZ軸送り装置に冷却油を循環させ、第1のモジュールが、Y軸送り装置に冷却油を循環させるといったように、モジュールと軸送り装置との接続は、必要とされる冷却能力に応じて様々な態様が採用されてよい。
【0043】
さらに、ここでは、温度制御装置10は、主軸装置26及び各軸送り装置32、34、38を備えた図1に示される形態の工作機械12に適用されているとして説明したが、これに限らず、例えば、旋盤、研削盤等他の種類の工作機械に適用されてもよい。
【0044】
工作機械12の温度制御装置10の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者が想到する範囲において、上記の実施形態の様々な変形が本発明の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10 温度制御装置
12 工作機械
14 ベッド(機体)
18 コラム(機体)
26 主軸装置(発熱部)
32 Y軸送り装置(発熱部)
34 X軸送り装置(発熱部)
38 Z軸送り装置(発熱部)
44 オイルコントローラ
48 第1のモジュール(オイルコントロールモジュール)
50 第2のモジュール(オイルコントロールモジュール)
52 第3のモジュール(オイルコントロールモジュール)
54 第4のモジュール(オイルコントロールモジュール)
56 配管接続マニホールド
60 第1のタンク
62 第2のタンク
64 第1のポンプ
66 第2のポンプ
72 冷却器
78 戻り油温度センサ
86 第1の温度設定器(基準温度設定手段)
88 第2の温度設定器(基準温度設定手段)
90 第3の温度設定器(基準温度設定手段)
92 第4の温度設定器(基準温度設定手段)
94 機体温度センサ
RT1 基準温度
RT2 基準温度
【要約】
【課題】工作機械の仕様変更に即応して冷却能力の仕様を変更することができ、かつ、増設を容易にすることができる工作機械の温度制御装置を提供する。
【解決手段】温度制御装置10は、主軸装置26から離れた部分の機体温度を測定する機体温度センサ94と、工作機械12を循環し、温度制御装置10に回収される冷却油の温度を測定する戻り油温度センサ78と、冷却器72を有し、戻り油温度センサ78によって検出された冷却油の温度が、機体温度に基づいて設定された基準温度と同調するように冷却油の温度を制御する少なくとも2台のモジュール48、50、52、54が、各タンクを連通させ、かつ、工作機械に対して並列接続されたオイルコントローラ44と、冷却油の工作機械12へ向けた合流及び各モジュール48、50、52、54への分岐を均一にするための配管接続マニホールド56と、を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3