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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】脱水システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/12 20190101AFI20221205BHJP
【FI】
C02F11/12 ZAB
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021168629
(22)【出願日】2021-10-14
(62)【分割の表示】P 2017175941の分割
【原出願日】2017-09-13
(65)【公開番号】P2022001369
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】板山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】山川 岳志
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-132600(JP,A)
【文献】特開昭59-154199(JP,A)
【文献】特開2011-220668(JP,A)
【文献】特開2012-206018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁液から液体を除去することで濁質残渣を生成する脱水装置と、
前記懸濁液の状態を示す懸濁液データ、前記脱水装置の複数の運転パラメータを含む運転データ、および前記濁質残渣の状態を示す濁質残渣データに基づいて予め構築された計算モデルを記憶する解析装置と、
前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを用いて機械学習を実行して前記計算モデルを構築するためのプログラムが格納され、ネットワークを介して前記解析装置に接続されたコンピュータと、
前記脱水装置の運転中の前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを統合してデータセットを作成するデータ統合装置を備え、
前記解析装置は、予め設定した時間間隔で、前記データセットを前記データ統合装置から受け取り、前記懸濁液データの現在値と、前記運転パラメータの現在値を前記計算モデルに入力することによって、前記濁質残渣の状態予測値を算出し、
前記コンピュータは、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを用いて機械学習を実行して新たな計算モデルを構築し、前記ネットワークを介して通信することにより前記新たな計算モデルを前記解析装置に送り、
前記解析装置は、記憶している前記計算モデルを前記新たな計算モデルに更新することを特徴とする脱水システム。
【請求項2】
前記機械学習のアルゴリズムは、ディープラーニング、ランダムフォレスト、回帰木、サポートベクター回帰、部分的最小二乗回帰のうちのいずれか1つであることを特徴とする請求項1に記載の脱水システム。
【請求項3】
前記データ統合装置は、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データの数値と、その数値が取得された時間とを結びつけ、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データの数値と、対応する時間との関係を示す前記データセットを作成するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の脱水システム。
【請求項4】
前記解析装置は、前記状態予測値が目標範囲内に収まることができる前記運転パラメータの複数の数値パターンを決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の脱水システム。
【請求項5】
前記解析装置は、
前記複数の数値パターンにそれぞれ対応する複数のコスト試算値を算出し、
前記複数のコスト試算値のうち最も低い1つのコスト試算値を決定し、
前記決定されたコスト試算値に対応する数値パターンの前記運転パラメータの数値を前記脱水装置に送ることを特徴とする請求項4に記載の脱水システム。
【請求項6】
前記解析装置は、前記脱水装置が設置されている敷地内に配置されたエッジサーバであり、前記コンピュータは、前記敷地外に配置されたホストサーバであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の脱水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特に、汚泥またはスラリーなどの懸濁液を濁質と液体とに分離させる脱水装置を備えた脱水システムに関し、特に脱水装置の自動運転をさせることができる脱水システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、下水処理場、し尿処理場、産業排水処理場などの液体処理施設から排出される懸濁液(例えば汚泥)を圧搾して、該懸濁液から水を分離する(すなわち、脱水する)脱水機が使用されている。脱水機の一例であるスクリュープレスは、汚泥脱水機として知られている。このスクリュープレスは、スクリーン(多孔板)から形成されたろ過筒と、ろ過筒の内部に配置されたスクリューとを備えており、スクリューを回転させることにより、ろ過筒に投入された汚泥を圧搾し、脱水する。
【0003】
ろ過筒の下流側開口端には、汚泥を堰き止める背圧板が配置され、この背圧板により、回転するスクリューにより送られてくるケーキ(脱水された汚泥)を滞留させ、ケーキからなるプラグ(栓)を形成する。このプラグは、後から送り込まれるケーキに背圧を加えて、ケーキをさらに圧搾する。プラグを形成するケーキは、後続のケーキに押されてろ過筒から少しずつ排出される。このようにして低含水率のケーキがスクリュープレスによって生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-54286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最終的に得られるケーキの含水率を常に目標範囲内に収めるためには、現在の運転条件下でのケーキの含水率を予測し、その予測結果に基づいてスクリュープレスの運転条件を変更することが望ましい。しかしながら、ケーキの含水率は、スクリュープレスに投入される汚泥の状態や、スクリュープレスの運転状態などの様々な要因によって変わりうる。このため、ケーキの含水率を正確に予測すること、および目標含水率を維持することは難しかった。
【0006】
そこで、本発明は、濁質残渣の正確な状態予測値(例えばケーキの予測含水率)を算出して、目標含水率を維持することができる脱水システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、懸濁液から液体を除去することで濁質残渣を生成する脱水装置と、前記懸濁液の状態を示す懸濁液データ、前記脱水装置の複数の運転パラメータを含む運転データ、および前記濁質残渣の状態を示す濁質残渣データに基づいて予め構築された計算モデルを記憶する解析装置と、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを用いて機械学習を実行して前記計算モデルを構築するためのプログラムが格納され、ネットワークを介して前記解析装置に接続されたコンピュータと、前記脱水装置の運転中の前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを統合してデータセットを作成するデータ統合装置を備え、前記解析装置は、予め設定した時間間隔で、前記データセットを前記データ統合装置から受け取り、前記懸濁液データの現在値と、前記運転パラメータの現在値を前記計算モデルに入力することによって、前記濁質残渣の状態予測値を算出し、前記コンピュータは、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを用いて機械学習を実行して新たな計算モデルを構築し、前記ネットワークを介して通信することにより前記新たな計算モデルを前記解析装置に送り、前記解析装置は、記憶している前記計算モデルを前記新たな計算モデルに更新することを特徴とする脱水システムである。
本発明の一参考例は、懸濁液から液体を除去することで濁質残渣を生成する脱水装置と、前記懸濁液の状態を示す懸濁液データ、前記脱水装置の複数の運転パラメータを含む運転データ、および前記濁質残渣の状態を示す濁質残渣データに基づいて予め構築された計算モデルを記憶する解析装置と、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを用いて機械学習を実行して前記計算モデルを構築するためのプログラムが格納されたコンピュータと、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを統合してデータセットを作成するデータ統合装置を備え、前記解析装置は、予め設定した時間間隔で、または前記懸濁液データに含まれるデータ項目の値が予め設定されたしきい値に等しくなったときに、前記データセットを前記データ統合装置から受け取り、前記懸濁液データの現在値と、前記運転パラメータの現在値を前記計算モデルに入力することによって、前記濁質残渣の状態予測値を算出し、前記コンピュータは、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データを用いて機械学習を実行して新たな計算モデルを構築し、前記新たな計算モデルを前記解析装置に送り、前記解析装置は、記憶している前記計算モデルを前記新たな計算モデルに更新することを特徴とする脱水システムである。
【0008】
本発明の好ましい態様は、前記機械学習のアルゴリズムは、ディープラーニング、ランダムフォレスト、回帰木、サポートベクター回帰、部分的最小二乗回帰のうちのいずれか1つであることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記データ統合装置は、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データの数値と、その数値が取得された時間とを結びつけ、前記懸濁液データ、前記運転データ、および前記濁質残渣データの数値と、対応する時間との関係を示す前記データセットを作成するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の好ましい態様は、前記解析装置は、前記状態予測値が目標範囲内に収まることができる前記運転パラメータの複数の数値パターンを決定することを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記解析装置は、前記複数の数値パターンにそれぞれ対応する複数のコスト試算値を算出し、前記複数のコスト試算値のうち最も低い1つのコスト試算値を決定し、前記決定されたコスト試算値に対応する数値パターンの前記運転パラメータの数値を前記脱水装置に送ることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記解析装置は、前記脱水装置が設置されている敷地内に配置されたエッジサーバであり、前記コンピュータは、前記敷地外に配置されたホストサーバであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、懸濁液データ、脱水装置の運転データ、および濁質残渣データに基づいて構築された計算モデルが使用されるので、解析装置は、懸濁液(例えば汚泥)から液体を除去した後に残る濁質残渣(例えばケーキ)の状態予測値を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】脱水システムの一実施形態を示す図である。
図2】脱水システムの概念図である。
図3】ケーキの予測含水率が目標範囲内に収まることができる運転パラメータの3つのパターンの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、脱水システムの一実施形態を示す図である。脱水システムは、懸濁液の例である汚泥を脱水する、すなわち汚泥から液体を除去して濁質残渣を生成する脱水装置1と、脱水装置1の動作を制御する動作制御部5を備えている。本実施形態の脱水装置1は、汚泥を加圧して脱水するスクリュープレス2と、スクリュープレス2に汚泥を送る凝集混和槽3を含む。スクリュープレス2は、汚泥を脱水する加圧脱水機の一例である。加圧脱水機として、スクリュープレス以外にも、フィルタープレス、遠心分離機などの他のタイプのものを使用することもできる。
【0013】
濁質残渣は、懸濁液から液体を除去した後に残る低含水率の物質である。汚泥から液体を除去した後に残る濁質残渣は、一般に、ケーキと呼ばれる。以下の説明では、懸濁液を汚泥と呼び、濁質残渣をケーキと呼び、懸濁液から分離された液体をろ液と呼ぶ。汚泥の具体例としては、下水またはし尿の処理時に発生する汚泥が挙げられる。また、汚泥以外の懸濁液の例としては、食料品、化粧品、紙などの工業製品の製造時に発生する産業廃棄物、またはスラリーが挙げられる。
【0014】
凝集混和槽3は、汚泥を収容する容器6と、容器6内の汚泥を攪拌するための攪拌機8を備えている。攪拌機8は、容器6内に配置された攪拌羽根9と、攪拌羽根9に連結された攪拌モータ10を備えている。容器6は汚泥導入管14に接続されており、ポンプ12が汚泥導入管14に設けられている。汚泥はポンプ12により汚泥導入管14を通じて凝集混和槽3に移送される。
【0015】
凝集混和槽3への汚泥の流量は、ポンプ12の運転によって調整することが可能である。ポンプ12は動作制御部5に接続されており、ポンプ12の動作、すなわち凝集混和槽3への汚泥の流量は、動作制御部5によって制御される。汚泥の流量は、図示しない別の制御装置で制御してもよい。汚泥導入管14には温度センサ22が取り付けられている。この温度センサ22は、凝集混和槽3に導入される汚泥の温度を測定するように構成されている。さらに、汚泥導入管14には汚泥濃度計24が取り付けられており、凝集混和槽3に導入される汚泥中の懸濁物質の濃度は汚泥濃度計24によって測定される。
【0016】
凝集混和槽3内の汚泥には凝集剤が注入される。汚泥は凝集剤とともに攪拌機8によって攪拌される。凝集混和槽3内で凝集剤と汚泥を攪拌することにより、汚泥内の懸濁物質が集合した凝集フロックが形成される。図1に示される凝集混和槽3は1段の槽であるが、凝集混和槽3は、複数段の槽であってもよい。汚泥の攪拌強度は、攪拌機8の回転速度によって調整することができる。攪拌機8は動作制御部5に接続されており、攪拌機8の動作、すなわち汚泥の攪拌強度は、動作制御部5によって制御される。
【0017】
凝集混和槽3は、汚泥移送管18によってスクリュープレス2の汚泥投入口20に連結されている。凝集混和槽3内で攪拌された汚泥は、汚泥移送管18を通ってスクリュープレス2に移送される。一実施形態では、凝集混和槽3とスクリュープレス2との間に濃縮機を設けてもよい。
【0018】
スクリュープレス2は、ろ過筒30と、ろ過筒30内に同心状に配置されたスクリュー軸35と、スクリュー軸35の外面に固定されたスクリュー羽根36と、スクリュー軸35およびスクリュー羽根36を回転させて汚泥を排出室41に向かって送るスクリューモータ38とを有している。ろ過筒30は、パンチングメタルなどの多孔板から構成されている。ろ過筒30の一端は閉塞壁40によって密封されており、ろ過筒30の他端は排出室41に接続されている。ろ過筒30には、閉塞壁40に隣接する汚泥投入口20が形成されている。
【0019】
スクリュー軸35は、ろ過筒30内を貫通して延びている。スクリュー軸35は、下流側に向かってその径が徐々に大きくなる円錐台形状を有している。スクリュー軸35は閉塞壁40を貫通して延びており、スクリュー軸35の端部はスクリューモータ38に連結されている。スクリューモータ38は動作制御部5に接続されており、スクリューモータ38の動作、すなわちスクリュー羽根36の回転速度は、動作制御部5によって制御される。
【0020】
スクリュー羽根36は、スクリュー軸35の長手方向に沿って螺旋状に延びる一枚羽根である。ろ過筒30の内面とスクリュー羽根36との間には微小な隙間が形成されており、スクリュー羽根36はろ過筒30に接触することなく回転することができる。汚泥投入口20からろ過筒30内に投入された汚泥は、回転するスクリュー羽根36によりろ過筒30内を排出室41に向かって移送される。
【0021】
汚泥がろ過筒30内で移送される空間は、ろ過筒30の内面と、スクリュー羽根36と、スクリュー軸35とによって形成される。この空間の容積は、汚泥の進行方向に沿って漸次減少する。したがって、この空間をスクリュー羽根36によって移動されるに従って、汚泥は圧搾され、脱水される。ろ過筒30を通過したろ液は、ろ過筒30の下方に配置されたろ液受け45によって回収された後に、排出される。
【0022】
ろ過筒30の下流側端部に対向して環状の背圧板50が配置されている。この背圧板50は、ろ過筒30内を移送された脱水汚泥を受けるためのテーパー面を有する円錐台の形状を有している。背圧板50の中央部には、スクリュー軸35が貫通する貫通孔が形成されており、背圧板50はスクリュー軸35と同心状に配置されている。背圧板50はスクリュー軸35に固定されておらず、背圧板50は回転しない。
【0023】
背圧板50は、背圧板駆動装置51に連結されている。この背圧板駆動装置51は、背圧板50を、スクリュー軸35の軸方向に移動させるように構成されている。背圧板50とろ過筒30の下流側端部との間の隙間は、背圧板50によって調整される。背圧板駆動装置51は、例えば油圧シリンダーまたは電動シリンダーなどから構成されている。背圧板駆動装置51は動作制御部5に接続されており、背圧板駆動装置51の動作、すなわち背圧板50の軸方向の位置は、動作制御部5によって制御される。
【0024】
次に、スクリュープレス2の動作について説明する。汚泥は、汚泥投入口20からろ過筒30内に投入される。汚泥は、回転するスクリュー羽根36によりろ過筒30内を排出室41に向かって移送される。ろ過筒30内を移動されるに従って、汚泥は圧搾され、脱水される。ろ過筒30を通過したろ液は、ろ液受け45によって回収され、排出される。汚泥は、ろ過筒30内で脱水されてケーキを形成する。洗浄装置55は、予め設定された時間間隔で、ろ過筒30の外周面に洗浄液を供給する。
【0025】
ろ過筒30内を移動してきたケーキは、背圧板50に押し付けられる。ケーキは、その移動を背圧板50によって妨げられることで圧縮される。この圧縮されたケーキは、ろ過筒30の下流側端部をシールするプラグ52を形成する。プラグ52は、後続のケーキに背圧を加えることにより、ろ過筒30内のケーキの含水率を低下させる。ケーキは、ろ過筒30内でプラグ52を形成しながら、後続のケーキにより押されて背圧板50とろ過筒30の下流側端部との間の隙間を通過して、少しずつ排出室41に排出される。ケーキは、排出室41の下部に設けられたシュート53を通って排出室41から排出される。このようにして、汚泥から液体が除去されて、低含水率のケーキが生成される。
【0026】
背圧板50の軸方向の位置によって背圧板50とろ過筒30の下流側端部との間の隙間が変わり、結果として、ろ過筒30内の汚泥に加わる圧縮力が変わる。より具体的には、背圧板50とろ過筒30の下流側端部との間の隙間が小さくなると、プラグ52を押し出すのにより大きな力が必要となるので、ろ過筒30内の汚泥に加わる圧縮力が増加する。よって、スクリュー羽根36の回転速度のみならず、背圧板50の位置によっても、汚泥に加わる圧縮力を調整することができる。
【0027】
脱水装置1で生成されるケーキの含水率は、脱水装置1に投入される汚泥の状態、および脱水装置1(スクリュープレス2および凝集混和槽3を含む)の運転状態に依存して変わる。脱水システムは、汚泥の状態、および脱水装置1の運転状態に基づいて、脱水装置1で生成されるケーキの予測含水率を算出する解析装置62を備えている。本実施形態では、濁質残渣は脱水装置1で生成されるケーキであり、濁質残渣の状態予測値はケーキの予測含水率である。
【0028】
解析装置62は、脱水装置1に投入される汚泥の状態を示す汚泥データ(懸濁液データ)、脱水装置1の運転状態を示す運転データ、および脱水装置1で生成されたケーキの状態を示すケーキデータ(濁質残渣データ)に基づいて予め構築された計算モデルを内部に予め記憶している。解析装置62はこの計算モデルを用いてケーキの予測含水率を算出する。汚泥データ、運転データ、およびケーキデータに含まれるデータ項目は、以下の通りである。
【0029】
汚泥データ
(1)汚泥の温度
(2)気温
(3)汚泥中の懸濁物質の濃度
(4)汚泥に含まれる繊維材の割合(例えば重量パーセントで表される)
(5)汚泥に含まれる有機物の割合(例えば重量パーセントで表される)
【0030】
運転データ
(a)凝集混和槽3に導入される汚泥の流量
(b)凝集混和槽3に注入される凝集剤の注入率
(c)凝集混和槽3の攪拌機8の回転速度
(d)スクリュー羽根36の回転速度
(e)背圧板50の位置
(f)洗浄液の圧力
(g)洗浄頻度
(h)スクリュー羽根36のトルク
(i)スクリュープレス2のろ過筒30内の圧力
【0031】
ケーキデータ
(I)含水率
【0032】
脱水システムは、上述した汚泥データ、運転データ、およびケーキデータを統合して、データセットを作成するデータ統合装置65をさらに備えている。上述した汚泥データ、運転データ、およびケーキデータに含まれるデータ項目は例であって、本発明は上述した例に限定されない。
【0033】
上記データ項目(1)である汚泥の温度は、上述した温度センサ22によって測定される。汚泥の温度の測定値は、データ統合装置65に送られる。
上記データ項目(2)である気温は、スクリュープレス2の近傍に設置された温度計70によって測定される。気温の測定値は、データ統合装置65に送られる。
上記データ項目(3)である濃度は、汚泥濃度計24によって測定される。濃度の測定値はデータ統合装置65に送られる。
上記データ項目(4),(5)の各数値は、定期的に測定され、データ統合装置65に入力される。
【0034】
運転データに含まれるデータ項目のうち、データ項目(a)~(h)は、脱水装置1の運転状態を決定する運転パラメータであり、可変パラメータである。
上記データ項目(b)である凝集剤の注入率は、特開2017-121601号公報に記載されているような公知の技術により求めることができる。または、凝集剤の注入率は、汚泥濃度計24によって測定される濃度に比例した値としてもよい。凝集剤の注入率は、図示しない凝集剤注入ポンプを制御することにより調整することができる。
上記データ項目(h)は、スクリューモータ38に供給される電流または電力から算出することができる。
上記データ項目(i)は、ろ過筒30内の汚泥に加わる圧力を表す。この圧力は、ろ過筒30内に配置された圧力センサ71によって測定される。ろ過筒30内の圧力の測定値は圧力センサ71からデータ統合装置65に送られる。
【0035】
上記データ項目(I)は、脱水装置1で生成されたケーキの含水率(%)であり、実測値である。
【0036】
上述した全てのデータ項目(1)~(5),(a)~(i),(I)の数値は、データ統合装置65に送られる。データ統合装置65は、汚泥データ、運転データ、およびケーキデータを統合して、データセットを作成する。より具体的には、データ統合装置65は、各データ項目の数値と、その数値が取得された時間とを結びつけ、各データ項目の数値と、対応する時間との関係を示すデータセットを作成する。データセットは、例えば、CSVファイルとして作成される。データ統合装置65は、上述した解析装置62からの指令を受けてデータセットを作成し、データセットを解析装置62に送るように構成されている。データ統合装置65には、データロガーなどが使用される。データ統合装置65と動作制御部5は、単一の装置として構成されてもよい。
【0037】
解析装置62は、データセットに含まれる汚泥データのデータ項目(1)~(5)の現在値および運転パラメータ(a)~(h)の現在値を計算モデルに入力することによって、ケーキの予測含水率を算出する。脱水システムは、データセットに基づいて計算モデルを構築するコンピュータ80をさらに備えている。コンピュータ80は、インターネットなどのネットワークを介して解析装置62に接続されている。
【0038】
コンピュータ80は、データセットを解析装置62から受け取り、ケーキの予測含水率を算出するための計算モデルを構築するように構成されている。コンピュータ80は、データセットをデータ統合装置65から受け取ってもよい。コンピュータ80は、記憶装置81を備えており、コンピュータ80に計算モデルを構築させるためのプログラムは記憶装置81内に格納されている。このプログラムがコンピュータ80に実行させるアルゴリズムは、機械学習である。すなわち、プログラムは、データセットを用いた機械学習をコンピュータ80に実行させて、データセットから導かれる計算モデルを構築する。機械学習のアルゴリズムの具体例としては、ディープラーニング、ランダムフォレスト、回帰木、サポートベクター回帰、部分的最小二乗回帰などが挙げられる。単純な重回帰分析は、説明変数間に共線性があると、得られる回帰式が安定せず、予測精度が上がらないため、本実施形態では使用しない。
【0039】
脱水装置1の運転前に使用される計算モデルは、凝集剤の注入率を決めるためのジャーテストや脱水試験などで得られたデータを用いて、コンピュータ80により構築される。脱水装置1の運転が開始されると、汚泥データ、運転データ、およびケーキデータからなるデータセットが定期的または不定期にコンピュータ80に送られる。コンピュータ80は、データセットを受け取るたびに、新たな計算モデルを構築し、構築した新たな計算モデルを解析装置62に送る。解析装置62は、記憶している計算モデルを新たな計算モデルに更新する。解析装置62またはデータ統合装置65から送られたデータセットは、記憶装置81に格納され、記憶装置81内にデータベースを構築する。
【0040】
図2は、脱水システムの概念図である。図2に示すように、汚泥データ、運転データ、およびケーキデータは、データ統合装置65に送られ、データ統合装置65はこれらのデータを統合して、データセットを作成する。解析装置62は、定期的または不定期にデータセットをデータ統合装置65から受け取り、汚泥データの現在値および運転パラメータの現在値を計算モデルに入力することによって、ケーキの予測含水率を算出する。例えば、解析装置62は、予め設定した時間間隔(例えば、30分~120分)でデータセットをデータ統合装置65から受け取り、ケーキの予測含水率を算出してもよいし、または汚泥データに含まれる、あるデータ項目の数値が予め設定されたしきい値に等しくなったときに、データセットをデータ統合装置65から受け取り、ケーキの予測含水率を算出してもよい。図2に示す例では、解析装置62は、汚泥データに含まれる濃度の数値が予め設定されたしきい値に等しくなったときに、データセットをデータ統合装置65から受け取り、ケーキの予測含水率を算出する。
【0041】
本実施形態では、解析装置62は、常にデータセットをデータ統合装置65から受け取ってケーキの予測含水率を算出しているのではなく、ある時間間隔で、または不定期にデータセットをデータ統合装置65から受け取っているので、データ送信の負荷を低くできる。さらに、解析装置62に必要とされる処理能力(計算能力)は低くて済み、安価な計算機を解析装置62に使用することができる。
【0042】
本実施形態によれば、汚泥データ、脱水装置1の運転データ、およびケーキデータに基づいて構築された計算モデルが使用されるので、解析装置62は、ケーキの正確な予測含水率を算出することができる。解析装置62とコンピュータ80との間の通信が遮断されたときは、解析装置62は計算モデルを更新することはできないが、記憶している現在の計算モデルを用いてケーキの予測含水率を算出することはできる。したがって、脱水装置1はその運転を継続することができる。
【0043】
一実施形態では、解析装置62は、脱水装置1(スクリュープレス2および凝集混和槽3)が設置されている工場内に配置されたエッジサーバであり、コンピュータ80は工場の外に配置されたホストサーバである。コンピュータ80は、遠隔地に設置されてもよい。さらに、一実施形態では、ホストサーバは、複数の工場内に配置された複数のエッジサーバに接続されてもよく、これらのエッジサーバに新たに構築した計算モデルをそれぞれ送るようにしてもよい。
【0044】
解析装置62は、ケーキの予測含水率が目標範囲内に収まることができる運転パラメータの複数の数値パターンを決定するように構成されている。目標範囲は予め定められた数値範囲であり、例えば、ケーキの含水率が70%以下であることを示す数値範囲である。通常、ケーキの予測含水率が目標範囲内に収まることができる運転パラメータの数値にはいくつかの組み合わせが存在する。例えば、スクリュープレス2で生成されるケーキの含水率を70%以下とすることができる汚泥の流量(データ項目(a)の運転パラメータ)、凝集剤の注入率(データ項目(b)の運転パラメータ)、およびスクリュー羽根36の回転速度(データ項目(d)の運転パラメータ)の組み合わせは、複数パターン存在する。
【0045】
そこで、解析装置62は、汚泥データの現在値および運転パラメータの現在値を計算モデルに入力することによってケーキの予測含水率を算出するとともに、ケーキの予測含水率が目標範囲内に収まることができる運転パラメータの複数の数値パターンを決定する。図2では、解析装置62は、3つ数値パターン、すなわち数値パターンA,数値パターンB,数値パターンCを決定する。
【0046】
図3は、ケーキの予測含水率が目標範囲内に収まることができる運転パラメータの3つの数値パターンの一例を示す模式図である。運転パラメータを構成する数値の組み合わせは、数値パターン間で異なっているが、いずれの数値パターンにおいても、算出されたケーキの予測含水率は、目標範囲内である。解析装置62は、各数値パターンにおける運転パラメータで脱水装置1(スクリュープレス2および凝集混和槽3)を運転したときに予想されるコスト試算値を計算するように構成されている。コスト試算値は、複数の数値パターンから1つの数値パターンを選択するための評価指標値であり、数値パターンごとに計算される。本実施形態では、コスト試算値は、処理すべき汚泥の単位体積当たりのコスト[円/m]である。
【0047】
解析装置62は、運転パラメータの複数の数値パターンにそれぞれ対応する複数の評価指標値を算出し、複数の評価指標値のうち最適な1つの評価指標値を決定し、決定された評価指標値に対応する数値パターンの運転パラメータの数値を脱水装置1に送る。より具体的には、解析装置62は、運転パラメータの複数の数値パターンにそれぞれ対応する複数のコスト試算値を算出し、複数のコスト試算値のうち最も小さいコスト試算値を決定し、決定されたコスト試算値に対応する数値パターンの運転パラメータの数値を脱水装置1に送る。コスト試算値は、電気料金、凝集剤費を使用して算出することができる。
【0048】
図3に示す例では、数値パターンBのコスト試算値が最も低い。したがって、解析装置62は、コスト試算値の最も低い数値パターンBを決定し、数値パターンBの運転パラメータの数値を脱水装置1の動作制御部5に送る。脱水装置1の運転パラメータの現在の数値は、数値パターンBの運転パラメータの数値に置き換えられるか、あるいは脱水装置1の図示しない表示装置に表示される。
【0049】
上述した実施形態では、脱水装置1は加圧脱水機としてスクリュープレス2を備えるが、一実施形態では脱水装置1は加圧脱水機としてスクリュープレス以外のタイプ、例えばフィルタープレス、遠心分離機を備えてもよい。また、凝集混和槽3は、混和槽と凝集槽の2つの槽から構成されてもよい。
【0050】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0051】
1 脱水装置
2 スクリュープレス
3 凝集混和槽
5 動作制御部
6 容器
8 攪拌機
9 攪拌羽根
10 攪拌モータ
12 ポンプ
14 汚泥導入管
18 汚泥移送管
20 汚泥投入口
22 温度センサ
24 汚泥濃度計
30 ろ過筒
35 スクリュー軸
36 スクリュー羽根
38 スクリューモータ
40 閉塞壁
41 排出室
45 ろ液受け
50 背圧板
51 背圧板駆動装置
52 プラグ
53 シュート
55 洗浄装置
62 解析装置
65 データ統合装置
71 圧力センサ
80 コンピュータ
81 記憶装置
図1
図2
図3