(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】排ガス用浄化触媒組成物、及び自動車用排ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20221205BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20221205BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20221205BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
F01N3/28 301Q
(21)【出願番号】P 2021210092
(22)【出願日】2021-12-24
(62)【分割の表示】P 2018567509の分割
【原出願日】2018-02-09
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2017024213
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】原 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕基
(72)【発明者】
【氏名】永田 誠
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-516768(JP,A)
【文献】特開2015-073961(JP,A)
【文献】特開2012-187518(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042300(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/182726(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/002667(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163488(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/94
F01N 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び/又は窒素酸化物(NOx)を浄化する排ガス浄化触媒組成物であって、
Rh、下記のCeを含む成分(A)及び/又はZrを含む成分(B)の複合酸化物、並びに、アルミナを少なくとも含有し、
Rhが、前記複合酸化物とともにアルミナ上に担持され、Rhの担持量が、Rhと前記複合酸化物とアルミナの総量に対して、0.01~5重量%であり、前記複合酸化物の含有量が、Rhと前記複合酸化物とアルミナの総量に対して、合計で0.1~15重量%である
ことを特徴とする排ガス浄化触媒組成物。
成分(A)
Ce・Nd複合酸化物、Ce・Pr複合酸化物、Ce・La複合酸化物、Ce・Y複合酸化物;Ce・Zr・Nd複合酸化物、Ce・Zr・Pr複合酸化物、Ce・Zr・La複合酸化物、Ce・Pr・La複合酸化物、Ce・Zr・Y複合酸化物、Ce・Nd・Pr複合酸化物、Ce・Nd・La複合酸化物、Ce・Nd・Y複合酸化物、Ce・Pr・Y複合酸化物、Ce・La・Y複合酸化物;Ce・Zr・Nd・Pr複合酸化物、Ce・Zr・Nd・La複合酸化物、Ce・Nd・Pr・La複合酸化物、Ce・Zr・Pr・La複合酸化物、Ce・Zr・Nd・Y複合酸化物、Ce・Zr・La・Y複合酸化物、Ce・Zr・Pr・Y複合酸化物、Ce・Nd・Pr・Y複合酸化物、Ce・Pr・La・Y複合酸化物;Ce・Nd・La・Y複合酸化物、Ce・Zr・Nd・Pr・Y複合酸化物、Ce・Zr・Nd・La・Y複合酸化物、Ce・Zr・Pr・La・Y複合酸化物、Ce・Nd・Pr・La・Y複合酸化物、及びCe・Zr・Nd・Pr・La・Y複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上
成分(B)
Zr・Nd複合酸化物、Zr・Pr複合酸化物、Zr・Y複合酸化物;Zr・Nd・Pr複合酸化物、Zr・Nd・La複合酸化物、Zr・Pr・La複合酸化物、Zr・Nd・Y複合酸化物、Zr・Pr・Y複合酸化物;Zr・Nd・Pr・La複合酸化物、Zr・Nd・Pr・Y複合酸化物、Zr・Nd・La・Y複合酸化物、Zr・Pr・La・Y複合酸化物、及びZr・Nd・Pr・La・Y複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上
【請求項2】
Rh及び前記複合酸化物が、アルミナ上に高分散していることを特徴とする
請求項1に記載の排ガス浄化用触媒組成物。
【請求項3】
ハニカム担体、及び触媒層を少なくとも備え、
請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒組成物が、前記触媒層として前記ハニカム担体に被覆されていることを特徴とする
自動車用排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記触媒層は、Rhを前記成分(A)及び/又は前記成分(B)の前記複合酸化物に担持した触媒組成物を含有することを特徴とする
請求項3に記載の自動車用排ガス浄化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス用浄化触媒組成物及びその製造方法、並びに自動車用排ガス浄化触媒に関し、より詳しくは、内燃機関等から排出される炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等を浄化でき、特に低温から高温の幅広い条件で優れた浄化性能を維持しうる排ガス浄化触媒組成物及びその製造方法、並びに自動車用排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関からは、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等の有害ガスが排出され、これを浄化するために、白金族金属をはじめとする様々な触媒が使用されている。
【0003】
白金族金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)が知られており、ガソリン車等の排ガス浄化用触媒、特に一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)を同時に浄化する三元触媒(TWC)においては、Pt、Pd等の酸化活性に優れる触媒活性種と、NOxの浄化活性に優れるRhとを組み合わせて用いることが多い。RhによるNOxの浄化では、例えばスチームリフォーミング反応やCO+NO反応が関与して、NOxを浄化するものと考えられている。
【0004】
また、排ガス浄化触媒では、更なる浄化性能の向上を図るため、白金族金属の他に、酸素吸蔵放出能(Oxygen Storage Capacity:OSC)を有する酸化セリウムや、アルカリ土類金属や、ジルコニウム酸化物、ゼオライト等が、触媒成分ないしは助触媒成分として使用されている。このうち、酸化セリウムは、排ガス中の酸素濃度が高いときにはCeO2として酸素を吸蔵し、酸素濃度が低いときにはCe2O3になって酸素を放出する。放出された酸素は活性な酸素であり、PtやPdによる酸化作用に利用されることでCO、HCの浄化を促進する。また、OSC成分は酸素の吸蔵・放出により、排ガス中の酸素濃度変化を緩衝する働きもする。この働きにより、TWCでは排ガスの浄化性能が向上する。TWCは一つの触媒で酸化と還元を行うものであり、設計上、浄化に適した排ガス成分の範囲があり、この範囲は空燃比に依存することが多い。このような範囲はウィンドウといわれ、多くの場合、Stoichioと呼ばれる理論空燃比の近傍で燃焼した排ガスをウィンドウ域に設定している。排ガス中の酸素濃度の変化が緩衝されることで、このウィンドウ域が長時間保たれて排ガスの浄化がより効果的に行なわれ、これは特にRhによるNOxの浄化特性による影響と考えられている。
【0005】
OSCを有する材料としては、純粋な酸化セリウムの他、ジルコニウムとの複合酸化物も使用されることが多い(特許文献1参照)。セリウム・ジルコニウム複合酸化物は、耐熱性が高く、酸素の吸蔵・放出速度も速いといわれている。それはセリウム・ジルコニウム複合酸化物の結晶構造が安定で、主要なOSC成分であるセリウム酸化物の働きを阻害しないので、粒子の内部までOSCが有効に機能するためと考えられる。
【0006】
そして、ジルコニウム酸化物は、Rh成分と共に用いるとスチームリフォーミング反応やCO+NO反応を促進するとされている(特許文献2参照)。このような反応がHCによるNOxの浄化反応に加えて生じることにより、NOxの浄化をさらに促進させることになるので、ジルコニウム酸化物以外のスチームリフォーミング反応を加速させる助触媒が使用されている。
【0007】
また、母材であるアルミナやOSC成分である酸化セリウムの耐熱性を向上させるため、アルミナへ酸化ネオジム、酸化プラセオジム等の希土類酸化物を添加すること(特許文献3参照)、酸化セリウムへ酸化ランタン、酸化ネオジム等の希土類酸化物を添加すること(特許文献4参照)の他、貴金属であるRh、Pd等を、酸化ランタン、ジルコニア等で耐熱性を向上させたアルミナ粒子と酸化ネオジム、ジルコニア等で耐熱性を向上させたセリウム酸化物微粒子の両方に担持する方法(特許文献5参照)等が開示されている。
【0008】
また、触媒性能を効果的に発揮させるため、触媒を排ガス上流側、下流側に分けて配置することや、触媒層を担体表面に複数層設ける対策がとられている。これは、排ガス規制の強化に伴って、排ガス浄化触媒の特性をより生かすための処置である。例えば、Pt、Pd、Rhの貴金属は、耐久性(耐熱性、耐雰囲気性、耐被毒性)や触媒特性(酸化活性、還元活性)等に応じて、最適の位置を設定する必要があるため、表層にRh又はPt/Rh、下層にPd又はPd/Rhが配置されている。
【0009】
近年、OSCを有する材料にRhを担持することが行われている。例えば、基材上にRhを含有する触媒層が設けられた排ガス浄化用触媒において、活性アルミナにZr系複合酸化物が担持されてなるサポート材にRhを担持した排ガス浄化用触媒(特許文献6参照)が知られており、前記触媒層には、Ceを含まないZr系複合酸化物が希釈剤として含有され、Rhが担持されたZr系複合酸化物もさらに含まれている。
【0010】
Rhを担持したOSCを有する材料は、Rhを担持したアルミナよりも、母材表面の酸素拡散性が優れるため、使用開始時におけるライトオフ活性が高いとされている一方で、母材のOSCを有する材料はアルミナよりも耐熱性が低いため、Rhがシンタリングし易くなることから、劣化率が大きいという問題が指摘されていた。すなわち、高温の排ガスに曝されると、Rhが粒成長することによりNOx性能の低下を招き易いと考えられている。
【0011】
そのため、長島らは、ロジウム(Rh)がα-アルミナ(Al2O3)粒子とともにジルコニア(ZrO2)系母材上に担持された触媒組成物を含み、該α-アルミナ粒子の平均粒径が10nm~1μmであり、かつジルコニア系母材の平均粒径より小さくした排ガス浄化用触媒組成物を開示している(特許文献7参照)。
【0012】
これにより、NOx、CO、HCの浄化率の低下が抑制されるようになった。しかし、排ガスの規制はますます厳しくなる一方であるため、担持されたRhが高温に曝されてもHC,CO,NOxの浄化性能に影響を与えにくい、すなわち、Rhを担持したOSCを有する材料の高活性と、Rhを担持したアルミナの耐久性を併せ持った、排ガス浄化用触媒が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特公平06-75675号公報
【文献】再公表特許2000/027508号公報
【文献】特開昭61-38626号公報
【文献】特開昭64-4250号公報
【文献】特開2011-200817号公報
【文献】特開2013-237014号公報
【文献】再公表特許2014/002667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものである。その目的は、内燃機関等から排出される炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等を浄化でき、特に低温から高温の幅広い条件で優れた性能を維持しうる排ガス浄化触媒組成物及びその製造方法、並びに自動車用排ガス浄化触媒等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記従来の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アルミナ表面に、Ceを含む特定の成分(A)及び/又はZrを含む特定の成分(B)の複合酸化物をRhと共に所定量配置することで、高温の排ガスに長時間さらされても触媒活性が比較的に維持され、CO、HC、NOxの浄化性能の低下が抑制されることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、第1の発明によれば、排ガス中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び/又は窒素酸化物(NOx)を浄化する排ガス浄化触媒組成物であって、Rh、下記のCeを含む成分(A)及び/又はZrを含む成分(B)の複合酸化物、並びに、アルミナを少なくとも含有し、Rhが、前記複合酸化物とともにアルミナ上に担持され、Rhの担持量が、Rhと前記複合酸化物とアルミナの総量に対して、0.01~5重量%であり、前記複合酸化物の含有量が、Rhと前記複合酸化物とアルミナの総量に対して、合計で0.1~15重量%であることを特徴とする排ガス浄化触媒組成物が提供される。
成分(A)
Ce・Zr複合酸化物、Ce・Nd複合酸化物、Ce・Pr複合酸化物、Ce・La複合酸化物、Ce・Y複合酸化物;Ce・Zr・Nd複合酸化物、Ce・Zr・Pr複合酸化物、Ce・Zr・La複合酸化物、Ce・Pr・La複合酸化物、Ce・Zr・Y複合酸化物、Ce・Nd・Pr複合酸化物、Ce・Nd・La複合酸化物、Ce・Nd・Y複合酸化物、Ce・Pr・Y複合酸化物、Ce・La・Y複合酸化物;Ce・Zr・Nd・Pr複合酸化物、Ce・Zr・Nd・La複合酸化物、Ce・Nd・Pr・La複合酸化物、Ce・Zr・Pr・La複合酸化物、Ce・Zr・Nd・Y複合酸化物、Ce・Zr・La・Y複合酸化物、Ce・Zr・Pr・Y複合酸化物、Ce・Nd・Pr・Y複合酸化物、Ce・Pr・La・Y複合酸化物;Ce・Nd・La・Y複合酸化物、Ce・Zr・Nd・Pr・Y複合酸化物、Ce・Zr・Nd・La・Y複合酸化物、Ce・Zr・Pr・La・Y複合酸化物、Ce・Nd・Pr・La・Y複合酸化物、及びCe・Zr・Nd・Pr・La・Y複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上
成分(B)
Zr・Nd複合酸化物、Zr・Pr複合酸化物、Zr・Y複合酸化物;Zr・Nd・Pr複合酸化物、Zr・Nd・La複合酸化物、Zr・Pr・La複合酸化物、Zr・Nd・Y複合酸化物、Zr・Pr・Y複合酸化物;Zr・Nd・Pr・La複合酸化物、Zr・Nd・Pr・Y複合酸化物、Zr・Nd・La・Y複合酸化物、Zr・Pr・La・Y複合酸化物、及びZr・Nd・Pr・La・Y複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上
【0017】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記複合酸化物の含有量は、Rhと前記複合酸化物とアルミナの総量に対して0.1~10重量%であることを特徴とする排ガス浄化用触媒組成物が提供される。
【0018】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、アルミナの平均粒径は、0.1~30μmであることを特徴とする排ガス浄化用触媒組成物が提供される。
【0019】
さらに、本発明の第4発明によれば、第1~3のいずれかの発明において、Rh及び前記複合酸化物が、アルミナ上に高分散していることを特徴とする排ガス浄化用触媒組成物が提供される。
【0020】
一方、本発明の第5の発明によれば、第1~4のいずれかの発明の排ガス浄化触媒組成物の製造方法であって、少なくとも水溶性のRh化合物と、Ceを含む前記成分(A)及び/又はZrを含む前記成分(B)の水溶性の前駆体化合物を水に溶解し、Rhと該化合物の混合前駆体を形成して、該混合前駆体を含有する水溶液をアルミナと接触させ、Rhと前記成分(A)及び/又は前記成分(B)の前駆体化合物とをアルミナに含浸させてスラリーを得た後、得られたスラリーをろ過、乾燥し、さらに焼成して、Rhが前記成分(A)及び/又は前記成分(B)の複合酸化物とともにアルミナ上に担持された触媒組成物を得ることを特徴とする排ガス浄化触媒組成物の製造方法が提供される。
【0021】
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、前記Rh化合物と、前記成分(A)及び/又は前記成分(B)の前記前駆体化合物は、ともに酸性塩化合物であり、酸を添加しながら前記混合前駆体を形成させることを特徴とする排ガス浄化触媒組成物の製造方法が提供される。
【0022】
また、本発明の第7の発明によれば、第5の発明において、前記Rh化合物と、前記成分(A)及び/又は前記成分(B)の前記前駆体化合物は、ともに塩基性化合物であり、塩基を添加しながら前記混合前駆体を形成させることを特徴とする排ガス浄化触媒組成物の製造方法が提供される。
【0023】
さらに、本発明の第8の発明によれば、第5~7のいずれかの発明において、前記スラリーが、スプレードライにより乾燥されることを特徴とする排ガス浄化触媒組成物の製造方法が提供される。
【0024】
また、本発明の第9の発明によれば、第5~8のいずれかの発明において、Rhが、前記成分(A)及び/又は前記成分(B)の前記複合酸化物とともにアルミナ上に担持された前記触媒組成物に、バインダーと酸又は塩基を含む水系媒体を混合し、粉砕することでスラリー化することを特徴とする排ガス浄化触媒組成物の製造方法が提供される。
【0025】
また、本発明の第10の発明によれば、第5~9のいずれかの発明において、前記スラリーの平均粒径D90が、1~20μmであることを特徴とする排ガス浄化触媒組成物の製造方法が提供される。
【0026】
一方、本発明の第11の発明によれば、ハニカム担体、及び触媒層を少なくとも備え、第1~4のいずれかの発明の排ガス浄化触媒組成物が、前記触媒層として前記ハニカム担体に被覆されていることを特徴とする自動車用排ガス浄化触媒が提供される。
【0027】
また、本発明の第12の発明によれば、第11の発明において、前記触媒層は、Rhを前記成分(A)及び/又は前記成分(B)の前記複合酸化物に担持した触媒組成物を含有することを特徴とする自動車用排ガス浄化触媒が提供される。
【0028】
さらに、本発明の第13の発明によれば、第11又は12の発明において、前記触媒組成物の総被覆量が、前記ハニカム担体の単位体積あたり20~300g/Lであることを特徴とする自動車用排ガス浄化触媒が提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明の排ガス浄化触媒組成物によれば、従来のRh担持OSC材料やRh担持アルミナ触媒よりも、低温での炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等の浄化活性に優れ、活性が高く、特に反応率が50%の数値に達した際の触媒入口ガス温度(T50)が低く、400℃以上の高温でも、浄化率を向上させることが可能になる。そして本発明の排ガス浄化触媒組成物は、ガソリンエンジン等の内燃機関から排出されるCO、HC、NOxに対して優れた浄化性能を発揮し、さらに、本発明の自動車用排ガス浄化触媒は、耐久性に優れるのみならず、Rh配合量が比較的に少なくて済むため低コストで製造でき、排ガス浄化装置を安定的に生産し供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の排ガス浄化触媒組成物の概念を模式的に示した説明図である。(A)は、自動車用排ガス浄化触媒の調製時の触媒粒子断面であり、(B)は、それを高温耐久処理した後の触媒粒子断面である。
【
図2】実施例及び比較例の触媒試料について、X線回折装置(XRD)を用いた粉末X線回折測定の結果を示すチャートである。
【
図3】実施例及び比較例の触媒試料における、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物含有量と比表面積(BET SA)との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例の触媒試料について、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による測定結果を示す写真である。
【
図5】実施例及び比較例のハニカム触媒(自動車用排ガス浄化触媒)について、モデルガスを用いてライトオフ試験を行った結果を示すグラフである。(A)は、NOxの還元率、HCの酸化率が50%の数値に達した際の触媒入口ガス温度(NOxT50、COT50、HCT50)を計測した結果を示すグラフであり、(B)は、400℃でのCO、HC及びNOxの転化率を相対的に示すグラフである。
【
図6】実施例及び比較例のハニカム触媒(自動車用排ガス浄化触媒)について、モデルガスを用いてライトオフ試験を行った結果を示すグラフである。(A)は、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物含有量とHCT50との関係を示すグラフであり、(B)は、同複合酸化物含有量とNOxT50との関係を示すグラフである。
【
図7】4元素系の成分(A)の複合酸化物の触媒粉末を基準とし、いずれかの元素を欠損させた3元素系の成分(A)及び/又は成分(B)複合酸化物のサンプルを用い、
図5と同様にモデルガスライトオフ試験で触媒活性を評価した結果を示すグラフである。
【
図8】Rhが直接アルミナに担持された触媒と、それを高温下で使用したときの構造変化を模式的に示す、従来技術の説明図である。(A)は、調製時の触媒粒子断面であり、(B)は、それを高温耐久処理した後の触媒粒子断面である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その上限値「1」及び下限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。なお、以降においては、ガソリンエンジンの排ガス浄化の実施形態を中心に述べるが、本発明はそれに限定されるものではなく、ディーゼルエンジンや発電機等の内燃機関から排出される排ガス浄化にも有効であることはいうまでもない。
【0032】
1.排ガス浄化触媒組成物
本実施形態の排ガス浄化触媒組成物(以下、単に触媒組成物ともいう)は、Rh、Ceを含む特定成分(A)及び/又はZrを含む特定成分(B)の複合酸化物、並びに、アルミナを少なくとも含有する触媒粉末であって、Rhが前記複合酸化物とともにアルミナ母材粒子上に特定量担持されている。
【0033】
上述したとおり、従来技術のようにOSCを有する材料又はジルコニアからなる母材粒子上にRhを担持させた触媒粉末では、Rhを担持したアルミナよりも、母材表面の酸素拡散性が優れるため、使用開始時におけるライトオフ活性が高いことが知られている一方で、母材のOSCを有する材料又はジルコニアはアルミナよりも耐久性が低いという問題がある。この様子を
図8に模式的に示した。Rh粒子は触媒調製時にはOSCを有する材料又はジルコニアとアルミナの双方の表面に小さな粒径で担持されている。これが耐久処理時に、例えば1000℃以上の高温に曝されると、OSC母材粒子上のRh粒子は、シンタリングにより粒径が拡大し、触媒活性点の減少による触媒性能の低下が生じ、また、ジルコニア母材粒子上のRh粒子は、OSC母材粒子上のRh粒子に比べて触媒活性が低いため、触媒粉末全体として触媒活性が低下したものとなる。
【0034】
そこで本実施形態の触媒粉末では、かかる問題点を解決するため、アルミナ母材粒子の表面に、成分A(例えばCe/Zr/Nd/Prの複合酸化物(以降において、「CZNP」と略記することがある。))及び/又は成分(B)の複合酸化物をRhと共に配置することで、Rh担持アルミナの耐久性を確保しつつ、アルミナ母材粒子表面における酸素拡散性を高め、アルミナ母材粒子上のRh粒子の触媒活性を向上させている。この様子を
図1に模式的に示している。
【0035】
このメカニズムは明らかではないが、次のように推定される。すなわち、Rh粒子はOSCを有する材料又はジルコニアとアルミナの双方の表面に担持されており、アルミナ母材粒子表面には高分散状態で成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物が近くに存在する。そのため、1000℃以上の高温に曝されて粒径が拡大したとしても、アルミナ母材粒子上のRh粒子は、
図8に示すOSCを有する材料又はジルコニア上のRh粒子よりも、粒径拡大の程度が低く抑えられつつ、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物との相互作用によって触媒活性が向上し、トータルで高温長時間後も触媒活性の低下が抑制されるようになるものと考えられる。これは、Ceを含む成分(A)の複合酸化物だけでなく、Zrを含む成分(B)の複合酸化物でも同様なメカニズムが考えられている。成分(A)の複合酸化物は、Rhと良好な相互作用を示すOSCを有する材料とみることもでき、成分(B)の複合酸化物は、OSCを有する材料に類似するZrO
2の特徴をAl
2O
3上でも発現させているとみることができる。
【0036】
(1)ロジウム(Rh)
本実施形態の触媒粉末(触媒組成物)において、貴金属元素のRhは、主に排ガス中のNOxを還元する活性金属として機能する。Rh粒子は、アルミナ上に担持されるが、その際に成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物とともに担持されている必要がある。なお、母材粒子上のRh粒子の存在は、走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)による観察、粉末X線回折(XRD:X‐ray Diffraction)、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)、X線光電分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy、又はESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)等の各種測定方法により把握することができる。
【0037】
Rh粒子は、平均粒径によって限定されないが、分散性による触媒性能の維持を考慮すれば、100nm以下が好ましい。平均粒径は、80nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。また、Rhの平均粒径の下限は、特に限定されないが、一般的には0.1nm以上が好ましい。なお、本明細書において、Rh粒子の平均粒径は、耐久処理後の排ガス浄化触媒組成物の倍率1万倍のSEM画像において、無作為に抽出した20点の平均値を意味する。
【0038】
本実施形態におけるRhのアルミナ母材粒子への担持量は、Rhと前記複合酸化物とアルミナの総量に対して、0.01~5.0重量%とする。脱硝性能と価格等の観点から、該担持量は、0.05~2.0重量%が好ましく、0.1~1.0重量%がより好ましい。
【0039】
(2)アルミナ
本実施形態の触媒粉末(触媒組成物)において、アルミナは、Rhを高分散に担持する母材粒子として機能する多孔質無機酸化物の一種である。かかるアルミナの具体例としては、γ-アルミナ、β-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、アルミナのBET比表面積は、特に限定されないが、Rhの高分散性、粒子内の細孔径に関連する細孔内でのガス拡散性等の観点から、20~250m2/gが好ましく、80~250m2/gがより好ましく、100~200m2/gが特に好ましい。なお、本明細書において、BET比表面積は、Tristar II3020(島津製作所製)を用い、BET一点法により求めた値を意味する。
【0040】
また、アルミナの平均粒子径は、特に限定されないが、ガス拡散等の観点から、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。また、アルミナの平均粒子径の下限は、特に限定されないが、通常は0.1μm以上が好ましい。なお、本明細書において、アルミナの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社製、レーザー回 折式粒度分布測定装置SALD-7100等)で測定されるメディアン径D50を意味する。
【0041】
(3)成分(A)の複合酸化物、成分(B)の複合酸化物
本実施形態の触媒粉末(触媒組成物)において、成分(A)の複合酸化物及び成分(B)の複合酸化物は、貴金属であるRhをアルミナ上で高分散に担持させるとともにアルミナ上のRhの触媒活性を増強させる、Ce及び/またはZrを含む複合酸化物である。
【0042】
具体的には、成分(A)は、次に例示される群から選ばれる少なくとも1種以上のCeを含有する複合酸化物である。
Ce・Zr複合酸化物(CZ)、Ce・Nd複合酸化物(CN)、Ce・Pr複合酸化物(CP)、Ce・La複合酸化物(CL)、Ce・Y複合酸化物(CY);Ce・Zr・Nd複合酸化物(CZN)、Ce・Zr・Pr複合酸化物(CZP)、Ce・Zr・La複合酸化物(CZL)、Ce・Zr・Y複合酸化物(CZY)、Ce・Nd・Pr複合酸化物(CNP)、Ce・Nd・La複合酸化物(CNL)、Ce・Nd・Y複合酸化物(CNY)、Ce・Pr・La複合酸化物(CPL)、Ce・P・Y複合酸化物(CPY)、Ce・La・Y複合酸化物(CLY);Ce・Zr・Nd・Pr複合酸化物(CZNP)、Ce・Zr・Nd・La複合酸化物(CZNL)、Ce・Zr・Nd・Y複合酸化物(CZNY)、Ce・Zr・Pr・Y複合酸化物(CZPY)、Ce・Nd・Pr・La複合酸化物(CNPL)、Ce・Zr・Pr・La複合酸化物(CZPL)、Ce・Zr・Nd・Y複合酸化物(CZNY)、Ce・Zr・La・Y複合酸化物(CZLY)、Ce・Zr・Pr・Y複合酸化物(CZPY)、Ce・Nd・Pr・Y複合酸化物(CNPY)、Ce・Nd・La・Y複合酸化物(CNLY)、Ce・Pr・La・Y複合酸化物(CPLY);Ce・Zr・Nd・Pr・Y複合酸化物(CZNPY)、Ce・Zr・Nd・La・Y複合酸化物(CZNLY)、Ce・Zr・Pr・La・Y複合酸化物(CZPLY)、Ce・Nd・Pr・La・Y複合酸化物(CNPLY)、Ce・Zr・Nd・Pr・La・Y複合酸化物(CZNPLY)
【0043】
また、成分(B)は、次に例示される群から選ばれる少なくとも1種以上のZrを含有する複合酸化物である。
Zr・Nd複合酸化物(ZN)、Zr・Pr複合酸化物(ZP)、Zr・La複合酸化物(ZL)、Zr・Y複合酸化物(ZY);Zr・Nd・Pr複合酸化物(ZNP)、Zr・Nd・La複合酸化物(ZNL)、Zr・Pr・La複合酸化物(ZPL)、Zr・Nd・Y複合酸化物(ZNY)、Zr・Pr・Y複合酸化物(ZPY)、Zr・Nd・Y複合酸化物(ZNY);Zr・Nd・Pr・La複合酸化物(ZNPL)、Zr・Nd・Pr・Y複合酸化物(ZNPY)、Zr・Nd・La・Y複合酸化物(ZNLY)、Zr・Pr・La・Y複合酸化物(ZPLY)、Zr・Nd・Pr・La・Y複合酸化物(ZNPLY)
【0044】
これらの中でも、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物としては、CZNPLYで表した主要元素(すなわち、Ce、Zr、Nd、Pr、La、Y)のうち、2元素を含む複合酸化物よりも、3元素を含む複合酸化物や4元素を含む複合酸化物のほうが好ましく、特にCeとZrとNdとPrの4元素を含む複合酸化物(CZNP)、及び、このCeとZrとNdとPrの4元素を必須成分として含む、5元素の複合酸化物又は6元素の複合酸化物が好ましい。
【0045】
Ce及びZrは、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物を構成する元素の中で、重要なRh触媒機能を有することから、Ce及びZrの含有量は、複合酸化物の総量に対する金属酸化物換算で、合計で50重量%以上であることが好ましく、合計で60重量%以上であることがより好ましい。なお、Ce及びZrの含有量の上限は、特に限定されないが、通常は合計で90重量%以下が好ましい。
一方、NdとLaは、Rhに対してシンタリングを抑制し、NdとPrとLaのいずれも少量であればCeO2の耐熱性を向上させる等の作用を発揮するが、Rh触媒機能は確認されていないことから、Nd及びLaの含有量は、複合酸化物の総量に対する金属酸化物換算で、合計で50重量%未満であることが好ましく、合計で40重量%以下であることがより好ましい。なお、Nd及びLaの含有量の下限は、特に限定されないが、通常は合計で1重量%以上が好ましい。なお、Y及びPrは、Ce及びZrに対して結晶構造安定作用を有し、Rh活性向上等への可能性があり、それぞれ10重量%以下含有することができる。
【0046】
本実施形態の触媒粉末(触媒組成物)において、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物の含有量は、Rhと該複合酸化物とアルミナの総量に対して、合計で0.1~15重量%とすることが好ましい。成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物は、アルミナ母材粒子上で結晶子径が数nm以下、より好ましくは1nm又はそれ以下の高分散状態で担持され、これにより、ジルコニアとの相乗効果、及び母材としてのジルコニアが有するスチームリフォーミング反応やCO+NO反応の促進効果が期待できる。かかる観点から、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物は、合計で0.1~10重量%含有することがより好ましく、合計で0.3~8重量%がさらに好ましい。
【0047】
2.触媒組成物の調製方法
本実施形態の排ガス浄化触媒組成物は、少なくとも水溶性のRh化合物と、Ceを含む成分(A)及び/又はZrを含む成分(B)の水溶性の前駆体化合物とを水に溶解し、Rhと該化合物の混合前駆体を形成して、該混合前駆体を含有する水溶液をアルミナと接触させ、Rhと成分(A)及び/又は成分(B)の前駆体化合物とをアルミナに含浸させてスラリーを得た後、得られたスラリーをろ過、乾燥し、さらに焼成して、後にRhが成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物とともにアルミナ上に担持された触媒組成物を得るものである。
【0048】
好ましい製法の一例としては、まず出発原料として、水溶性のRh塩と水溶性の希土類塩、及び必要に応じてジルコニウム塩を含有する原料を特定量用意し、これらを混合・攪拌して、水溶液とする。
【0049】
触媒成分のRhを活性アルミナ担体粒子上に分散させるために、触媒成分のRh金属のいずれかの適当な化合物及び/又は錯体を利用する。Rhの水溶性化合物又は水に分散し得る化合物或いは錯体は、触媒金属化合物をアルミナ担体粒子に含浸させる又は付着させるために用いる液体が触媒金属或いはその化合物又は錯体並びにスラリーの他の成分との反応を阻害しないようにし、かつ加熱及び/又は真空の適用で蒸発又は分解により触媒から除去できるように使用する。
Rhの水溶性化合物及び錯体の水溶液として、適当な化合物は、酸性塩の場合、硝酸ロジウム、塩化ロジウム、硫酸ロジウム、ヘキサミンロジウムクロライド等であり、焼成後に塩素、硫化物等の残渣が残らない硝酸ロジウムが好ましい。また、塩基性化合物の場合は、水酸化ロジウム等が挙げられる。
【0050】
希土類金属であるセリウム、ネオジム、プラセオジム、ランタン、イットリウムの化合物、及びジルコニウム化合物は、いずれも水溶性で、例えば硝酸塩、ハライド、硫酸塩の使用が好ましい。焼成後に塩素、硫化物等の残渣が残らない硝酸塩が好ましい。また、塩基性化合物の場合は、水酸化セリウム、水酸化ネオジム、水酸化プラセオジム、水酸化ランタン、水酸化イットリウム、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0051】
本実施形態の製造方法では、水溶性のRh化合物と水溶性の希土類化合物とを所定量計量し、水に溶解して、Rhと希土類化合物等の混合前駆体が形成されるようにし、混合前駆体の水溶液とするのが重要である。これは、水溶性のRh化合物と水溶性の希土類化合物のほかに、ジルコニウム化合物の塩を含む場合も同様である。
【0052】
その際、Rh塩水溶液と希土類化合物等を含有する水溶液又は懸濁液の性質(酸性・塩基性)が異なると、両方が凝集して沈殿物を生じる恐れがあるため、ロジウム及び希土類化合物等を含有する水溶液の性質は酸性同士又は塩基性同士で統一することが好ましい。例えば、Rh化合物と希土類化合物は、ともに酸性塩化合物とすることができ、さらに酸を添加しながら混合前駆体を形成させるのが効果的である。具体的には、水溶液を混合しながら酸を添加して十分撹拌するのが好ましい。その際、常温でもよいが40~80℃に加熱することもできる。また、Rh化合物と希土類化合物、又はRh化合物と希土類化合物とジルコニウム化合物を、ともに塩基性化合物とするときは、さらにアンモニア(NH3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等の塩基を添加しながら混合前駆体を形成させるのが効果的である。具体的には、水溶液を混合しながら塩基を添加して十分撹拌するのが好ましい。その際、常温でもよいが40~80℃に加熱することもできる。
【0053】
次に、均一な混合前駆体水溶液とした後、該水溶液をアルミナと接触させ、Rhと希土類化合物等をアルミナに含浸させる。このとき、該水溶液とアルミナの系を少なくとも目視で液と固体の分離が観察されなくなる程度以上に十分に混合するのが好ましく、この含浸によりRhが希土類化合物等とともにアルミナの表面に付着し細孔内にも入る。
【0054】
アルミナへの成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物の担持量は、担持状態やコストの観点から、Rhと該複合酸化物とアルミナの総量に対して、合計で0.1~15重量%とする。この範囲であれば、ジルコニアとの相乗効果、及び母材としてのジルコニアが有するスチームリフォーミング反応やCO+NO反応の促進効果を得ることができる。
【0055】
その後、得られたスラリーをろ過、乾燥することで、上述した触媒組成物が得られ、これを焼成することで、Rhが成分(A)、成分(B)等とともにアルミナ母材粒子上に担持される。担持の形態は一律に規定できないが、Rhの近傍に希土類酸化物を含んだ成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物が存在しており、少なくとも一部において、Rhが成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物(の層)を介してアルミナ母材粒子上に担持されるのが望ましい。得られたスラリーの乾燥手段は制限されず、オーブン中での乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、及びロータリーエバポレーションをはじめとする通常の乾燥法によって乾燥する。例えば50~150℃に加熱できる手段であれば静置式でも移動床、流動床等も採用できる。中でも、スプレードライによれば、効率的に乾燥されるだけでなく、乾燥時の造粒により均一な粒径のものが得られる点で好ましい。
【0056】
また、乾燥後の焼成は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されないが、例えば300~800℃にて、空気等の酸化性ガス、又は、窒素、アルゴン、キセノン、ヘリウム及びこれらの混合物からなる群から選ばれる不活性ガス、もしくは不活性ガスで希釈した酸化性ガス雰囲気で加熱する。加熱時間は、加熱温度等の他の条件に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、生産性等を考慮すると通常0.5~20時間程度とする。
【0057】
かくして得られた触媒粉末(触媒組成物)のD90(体積基準の粒子径の累積分布において小粒径からの積算値が全体の90%に達したときの粒子径)は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、1~20μmであることが好ましく、3~10μmであることがより好ましい。所望の粒度分布とするために、焼成後の触媒粉末に粉砕処理を行うことができる。粉砕装置としては、例えばボールミル等が使用できる。この粉砕によって、製造された触媒組成物の触媒活性がさらに改善される。
【0058】
Rhが成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物とともにアルミナ母材粒子上に担持された触媒粉末は、そのまま粉体として使用できるが、装置への充填、耐久性の向上を図るために、各種耐熱性物質に付着・塗布させて用いることができる。耐熱性物質に付着・塗布するには、触媒をバインダーと酸を含む水系媒体を混合し、粉砕することでスラリー化して用いるのが好ましい。
【0059】
本実施形態の排ガス浄化触媒組成物は、上記触媒成分を各種担体表面に被覆した構造型触媒として用いることができる。ここで担体の形状は、特に限定されるものではなく、角柱状、円筒状、球状、ハニカム状、シート状等の構造型担体から選択可能である。構造型担体のサイズは、特に制限されないが、角柱状、円筒状、球状のいずれかであれば、例えば数ミリから数センチの直径(長さ)のものが使用できる。
【0060】
3.自動車用排ガス浄化触媒
本実施形態の自動車用排ガス浄化触媒は、ハニカム担体、及び触媒層を少なくとも備え、上述した触媒組成物、すなわちRhが成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物とともに担持されたアルミナを含む触媒組成物を、触媒層としてハニカム担体に一層以上被覆したものである。
【0061】
また、Rh以外に、PdやPt等の一種以上の貴金属を添加することができ、さらに、バリウム化合物やバインダー等を添加することもできる。
【0062】
(1)触媒調製
本実施形態の自動車用排ガス浄化触媒を調製するには、前記触媒組成物と、必要に応じてバインダー等を水系媒体と混合してスラリー状混合物にしてから、ハニカム担体へ塗工して、乾燥、焼成する。
すなわち、まず、触媒組成物と水系媒体を所定の比率で混合してスラリー状混合物を得る。ここで水系媒体は、スラリー中で触媒組成物が均一に分散できる量を用いればよい。
【0063】
この際、必要に応じてpH調整のための酸、又は塩基を配合したり、粘性の調整やスラリー分散性向上のための界面活性剤、分散用樹脂等を配合することができる。スラリーの混合方法としては、例えばボールミル等による粉砕混合が適用可能であるが、他の粉砕、もしくは混合方法を適用することもできる。
【0064】
次に、ハニカム担体へスラリー状混合物を塗工する。塗工方法は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されないが、一般的にはウォッシュコート法が好ましい。
【0065】
塗工した後、乾燥、焼成を行うことにより触媒組成物が担持された一体構造型触媒が得られる。なお、乾燥温度は、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常は70~200℃が好ましく、80~150℃がより好ましい。また、焼成温度は、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常は300~700℃が好ましく、400~600℃が好ましい。なお、加熱手段については、電気炉やガス炉等の公知の加熱手段を用いることができる。
【0066】
触媒組成物のハニカム担体への総被覆量は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物の十分な量を確保し、貴金属の分散性を高め、圧損によるエンジン負荷等を抑える等の観点から、20~300g/Lが好ましく、50~280g/Lがより好ましく、100~250g/Lがさらに好ましい。
【0067】
(2)Rh及び成分(A)又は成分(B)の複合酸化物を共担持したアルミナ
先に述べたロジウム(Rh)と成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物とを担持したアルミナを使用する。
【0068】
用いる粉末の粒径は、D90が、1~20μmであることが好ましい。ハニカム担体への塗布性、活性向上のためには3~15μmであることがより好ましい。また、所望の粒度分布とするために、粉砕処理を行ってもよい。このとき、他の成分とともにスラリー化して粉砕することができる。
【0069】
アルミナへのRhの担持量は、脱硝性能やコスト等の観点から、ハニカム担体の単位体積あたり、0.005g/L~2.0g/Lが好ましく、0.01g/L~2.0g/Lが好ましく、0.03g/L~1.5g/Lがより好ましい。また、アルミナへの成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物の担持量は、Rhの活性低下を抑制し、脱硝性能、HC浄化率を高められる等の観点から、ハニカム担体の単位体積あたり、10g/L~150g/Lが好ましく、30g/L~120g/Lがより好ましく、50~100g/Lがさらに好ましい。さらに、Rh及び成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物を担持した共担持アルミナの担持量は、ハニカム担体の単位体積あたり、20~200g/Lであることが好ましく、50~150g/Lであることがより好ましい。
【0070】
(3)Rhを担持したセリア・ジルコニア複合酸化物
上述した触媒組成物(触媒組成物を含む触媒層)は、必要に応じて、助触媒粒子を含んでいてもよい。例えば、Rhを担持したセリア・ジルコニア複合酸化物をさらに含有していてもよい。ここで用いるセリア・ジルコニア複合酸化物は、前記した通りOSC成分としての機能及び母材としての機能を有するものである。
【0071】
母材のOSCとしてはセリア(酸化セリウム)が主体となるが、OSC機能を維持したまま耐熱性を向上させるため、ジルコニア(酸化ジルコニウム)が好ましい。一方、母材としてはジルコニアが主体となるが、担持される貴金属の酸化-還元作用を促進させるため、セリアの添加が好ましい。OSC成分の原料粉末は、公知の材料であって、例えば無機又は有機の希土類化合物とジルコニウム化合物一種以上を大気中、450~600℃で焼成して得られた酸化物粒子を粉砕したものである。
【0072】
セリア・ジルコニア複合酸化物において、セリアとジルコニアの混合比率は特に制限されないが、OSCとしての機能と母材としての機能を両立させるうえで、セリアの比率で10~80重量%が好ましく、20~70重量%がより好ましい。セリア・ジルコニア複合酸化物は、耐熱性を増すために、さらに酸化ランタン、酸化プラセオジム等の希土類酸化物を加えてもよい。
【0073】
ロジウム(Rh)を担持したセリア・ジルコニア複合酸化物の量は、OSCとしての機能と母材としての機能を発揮させるために、ハニカム担体の単位体積あたり、20~150g/Lであることが好ましい。
【0074】
(4)パラジウム(Pd)
上述した触媒組成物(触媒組成物を含む触媒層)は、必要に応じて、パラジウムをさらに含有していてもよい。貴金属元素のパラジウムは、任意成分であるが、Rh同様、活性金属として機能する。パラジウムは、上述したアルミナ上に担持されていても、上述したセリア・ジルコニア複合酸化物上に担持されていてもよい。
【0075】
Pdの添加量は、HC、CO等の浄化性能を高めコストを抑制できることから、ハニカム担体の単位体積あたり、10.0g/L以下が好ましく、0.5~6.0g/Lがより好ましい。
【0076】
(5)バインダー等
本実施形態において、母材粒子や助触媒粒子に付着して各々の粒子を結合するために、アルミナゾル等のバインダーを使用することができる。
【0077】
アルミナゾルは、数十nm~数μmの微粒子から成り立っており、母材粒子や助触媒粒子と付着、結合する。バインダーの量は、特に制限はなく、耐久後もハニカム担体から触媒が剥離しなければ少量でも特に問題はない。
バインダーとしてはアルミナゾルの他、シリカゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等の種々のゾルを挙げることができる。その他、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等の可溶性の塩も使用できる。また、酢酸、硝酸、塩酸、硫酸等の酸も使用できる。
【0078】
(6)ハニカム担体
ハニカム担体は、コージェライト、シリコンカーバイド、窒化珪素等のセラミックや、ステンレス等の金属からなるもので、その構造としては、一般的には、担体中の全体に渡って伸びている平行な多数の微細な気体流路を有する。この材質としてはコージェライトが耐久性、コストの理由で好ましい。
【0079】
また、ハニカム担体の開口部の孔数は、処理すべき排ガスの種類、ガス流量、圧力損失及び除去効率等を考慮して適正な範囲とされる。PMの付着による目詰まりを抑制し触媒有効使用率を高めるためには、そのセル密度は100~900セル/inch2(15.5~139.5セル/cm2)であることが好ましく、200~600セル/inch2(31~93セル/cm2)であることがより好ましい。なお、セル密度とは、ハニカム担体を気体流路に対して直角に切断した際の断面における単位面積あたりのセル数のことである。
【0080】
また、ハニカム担体には、気体流路が連通しているフロースルー型構造体と、気体流路の一部端面が目封じされ、かつ気体流路の壁面を通して気体が流通可能になっているウォールフロー型構造体とが広く知られている。フロースルー型構造体であれば空気抵抗が少なく、排ガスの圧力損失が少ない。また、ウォールフロー型構造体であれば、排ガス中に含まれる粒子状成分を濾し取ることが可能である。本実施形態の自動車用排ガス浄化触媒には、そのどちらの構造体も用いることができる。
【0081】
(7)層構成
本実施形態の自動車用排ガス浄化触媒は、前記触媒組成物をハニカム担体に一層以上被覆したものである。層構成は、一層でもよいが、二層以上として排ガス浄化性能を高めることが好ましい。
【0082】
上述した触媒組成物は、Rhとともに成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物がアルミナ母材上に担持されていることにより、高温下においてRh粒子の粒子成長が抑制されているのみならず、Rhの活性低下が抑制されたものとなっている。すなわち、アルミナ母材上に成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物とともに担持されたRhは、一層状態で他の貴金属が担持された母材と混合しても、他の貴金属が担持された母材との多層構造をとっても、高温下で性能低下が抑制されるため、優れたCO、HC、NOxの浄化特性を維持することが可能となる。
【0083】
本発明では、この様にロジウム(Rh)が成分(A)又は成分(B)の複合酸化物とともにアルミナ母材上に担持されていることを基本概念とするものである。車に搭載されるエンジンの仕様・排気量、車体内に許容される触媒容量、触媒の使用個数、許容される貴金属の種類・量・比率等に応じて、触媒の層の構成、貴金属の各層への配置、助触媒(希土類、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等を含む化合物)の種類・量及び各層への配置等が適宜決められる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例、比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、この実施例に限定して解釈されるものではない。また、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。なお、評価する触媒試料の熱処理条件と、結晶子の大きさ、比表面積(BET SA)、元素の分散性等の物性、また触媒の活性試験は、次のようにして行った。
【0085】
<触媒の熱処理条件>
下記実施例及び比較例で得られた触媒は、触媒粉末を電気炉内で1,050℃、12時間焼成し(耐久)、その後、1%の水素雰囲気下で800℃、2時間加熱し(前処理)、評価用サンプルとした。
【0086】
<結晶子の大きさ>
Rhと成分(A)及び/又は成分(B)とを共担持したアルミナ試料に対して、X線回折装置(XRD)として、「X’Pert Pro(PANalytical製)」を用い、測定した。このXRDにより結晶子の大きさを推定した。
【0087】
<比表面積(BET SA)>
BET SAの測定装置として、Tristar II3020(島津製作所製)を用いた。
【0088】
<元素の分散性>
希土類金属等の分散性をJEOL社製電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyser)JXA-8100を用いて測定した。電子線照射により触媒サンプル内の特定元素の断面分布が分かる。
【0089】
<モデルガス評価試験>
得られた各ハニカム触媒を1,050℃、12時間、リッチ/リーン耐久の熱処理を実施した後に、コアドリル及びダイアモンドカッターを用いて、モデルガス評価用触媒の大きさ(25.4mm径×30mm長さ、15.2mL)に切り出し、モデルガス評価装置にて、以下の条件でモデルガスライトオフ試験活性を評価した。空気/燃料比:14.7±0.15Hzを模擬したモデルガスを用い、100℃から500℃まで30℃/分で昇温して行った。NOxの還元率、HCの酸化率が50%の数値に達した際の触媒の触媒床温度(NOxT50、COT50、HCT50)を計測した。
【0090】
【0091】
(実施例1)
以下の要領で、触媒組成物(触媒粉末)を調製した。
<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)担持アルミナ>
用いるγ-アルミナ粉末とロジウム(Rh)と成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物(CZNP)の全体に対して、硝酸ロジウムをRh換算で0.2重量%、硝酸セリウムをCeO2換算で1.4重量%、硝酸ジルコニウムをZrO2換算で2.9重量%、硝酸ネオジムをNd2O3換算で0.35重量%、及び硝酸プラセオジムをPr6O11換算で0.35重量%となるように量り取り、純水で希釈し硝酸を添加し40~50℃に加熱し十分に撹拌しながら、混合前駆体スラリーを調製した。
次に、この混合前駆体スラリーを、BET比表面積150m2/g、平均細孔径15nm、希土類化合物及びZr化合物の含有量が検出限界以下の市販の高純度なγ-アルミナ粉末と混合し、ロジウム(Rh)と希土類系化合物をγ-アルミナ担体上に含浸担持した。
その後、この含水粉末を乾燥後、500℃及び1時間、空気中で焼成することで、実施例1の触媒粉末、すなわち0.2重量%Rh・5重量%成分(A)及び/又は成分(B)共担持アルミナ(Rh・Ce-Zr-Nd-Pr/Al2O3、CZNP含量:5重量%)を調製した。なお、ここで用いた複合酸化物(CZNP)は、上述した成分(A)に相当するが、γ-アルミナ担体上に高分散しており、Ceを含まないZNP等の他の複合酸化物がγ-アルミナ担体の一部表面上に僅かに生成し担持されることから、成分(A)及び/又は成分(B)と表記した。以降においても、同様とする。
得られたRh・成分(A)及び/又は成分(B)共担持アルミナを試料として用いて、XRD装置により結晶子径を測定し、また、BET SA値を測定するとともに、EPMA像を撮影した。
【0092】
結果を
図2のチャート、
図3のグラフ、及び
図4の写真に示す。
図2のチャートに示すとおり、28付近にピークとして検出できる値がみられないことから、実施例1の触媒の成分(A)及び/又は成分(B)の結晶子径は1nm以下と考えられる。また、
図3のグラフに示すとおり、実施例1の触媒のBET SA値は128m
2/gであった。さらに、
図4の写真に示されるEPMA像においてAlの他にはZrが僅かに確認されるだけで他の元素はほとんど確認できないことから、Rh、並びに、成分(A)及び/又は成分(B)がγ-アルミナ担体上で高分散に担持されていることが分かる。
【0093】
(比較例1)
成分(A)及び/又は成分(B)の配合を省略する以外は、実施例1と同様に行って、比較例1の触媒を調製した。具体的には、希土類化合物及びZr化合物の含有量が検出限界以下の市販の高純度なγ-アルミナ粉末を用いて、下記の要領でRhをγ-アルミナ担体上に担持させた。
<Rh担持アルミナ>
用いるγ-アルミナ粉末とロジウム(Rh)の合計に対して、硝酸ロジウムをRh換算で0.2重量%となるように量り取り、純水で希釈して、スラリーを調製した。このスラリーを、BET比表面積150m2/g、平均細孔径15nm、希土類化合物及びZr化合物の含有量が検出限界以下の市販の高純度なγ-アルミナ粉末と混合し、Rhをγ-アルミナ担体上に含浸担持した。
その後、この含水粉末を乾燥後、500℃及び1時間、空気中で焼成することで、比較例1の触媒、すなわち、0.2重量%Rh担持アルミナを調製した。
得られたRh担持アルミナを試料として、XRD装置により結晶子径を測定し、また、BET SA値を測定した。
【0094】
結果を
図2のチャート、及び
図3のグラフに示す。比較例1の触媒は成分(A)及び/又は成分(B)を含まないため、
図2のチャートにおいて28付近にピークは検出されなかった。また、
図3のグラフに示すとおり、比較例1の触媒のBET SA値は142m
2/gであった。
【0095】
(実施例2~4、比較例2)
成分(A)及び/又は成分(B)の含有量がそれぞれ0.5~30.0重量%の範囲となるように、成分(A)及び成分(B)の配合量を変更する以外は、実施例1と同様にして、Rhと成分(A)及び/又は成分(B)をγ-アルミナ担体上に含浸担持させ、乾燥及び焼成することにより、実施例2~4及び比較例2の触媒をそれぞれ調製した。
得られたRh・成分(A)及び/又は成分(B)共担持アルミナを試料として用いて、XRD装置により結晶子径を測定し、またBET SA値を測定するとともに、EPMA像を撮影した。
【0096】
結果を
図2のチャート、
図3のグラフ、及び
図4の写真に示す。
図2のチャートに示すとおり、CZNP含量が10重量%以上で、28付近からピークとして検出できる値が確認された。また、実施例2(CZNP含量:10重量%)及び比較例2(CZNP含量:30重量%)の触媒の成分(A)及び/又は成分(B)の結晶子径は1~100nmと考えられ、実施例3(CZNP含量:1重量%)及び実施例4(CZNP含量:0.5重量%)の触媒の成分(A)及び/又は成分(B)の結晶子径は1nm以下と考えられる。
また、
図3のグラフに示すとおり、BET SA値はCZNP含量の増加にともなって小さくなることが示され、CZNP含量が0.5重量%では138m
2/g、CZNP含量が30重量%では80m
2/gであった。
さらに、
図4の写真に示されるEPMA像においてCZNP含量が10重量%以上であってもAlの他にZrが顕著に確認されるだけで他の元素はほとんど確認できないことから、CZNP含量が5重量%の実施例1と同様に、実施例2~4及び比較例2の触媒は、Rh、並びに、成分(A)及び/又は成分(B)がγ-アルミナ担体上で高分散に担持されていることが分かる。
【0097】
「評価結果1」
得られたRh・成分(A)及び/又は成分(B)共担持アルミナを試料として用い、XRD装置により結晶子径を測定した結果、
図2のチャートに示したとおりであった。ピークとして検出できる値については、一概には言えないが、その結晶子径の算出範囲は、一般的に1~100nm程度と言われている。
図2に示すチャートの結果から、10重量%超のCZNPを含むと、CZNPに起因するX線回折ピークが確認され、またアルミナに起因するピークの山が小さくなる傾向にあることが分かる。これにより、アルミナ担体表面に担持された希土類系CZNPの結晶子は、CZNP量の増加とともに、増大する傾向にあることが分かる。
【0098】
また、
図3に示すBET SA測定の結果から、10重量%超のCZNPを含むと、BET SA値が大幅に低下することが確認された。このことから、CZNPがアルミナ担体の細孔内に入りこむことで、アルミナ担体の表面積が低下していく傾向にあることが推察される。CZNPの含有量が多いと、アルミナ担体の細孔内を充填しつつ外表面に薄い被膜を形成した状態になるか、アルミナ担体の細孔内を完全に充填し外表面にやや厚い被膜を形成した状態になるものと推察される。
【0099】
一方、
図4に示すEPMA像を観察すると、実施例2~4及び比較例2の触媒は、Rh、並びに、成分(A)及び/又は成分(B)がγ-アルミナ担体上でいずれも高分散に担持されており、成分(A)及び/又は成分(B)であるCZNPの分散性は、その含有量と相関性があることが示された。すなわち、CZNPの含有量の増加とともに、その分散性が低下する傾向にあり、0.5重量%以上5重量%以下のCZNPを含むものは、特に高分散であり、逆に10重量%超のCZNPを含むと、分散性が次第に低下していく傾向にあることが分かる。
【0100】
以上のRh・成分(A)及び/又は成分(B)共担持アルミナ試料の物性を総合すると、触媒活性成分でもある成分(A)及び/又は成分(B)のCZNPは、例えば混合前駆体スラリー状態でアルミナに含浸することで効果的に担持することができ、CZNPの担持量が30重量%と多量であっても、分散性良く担持させることができる。
BET SA値が大きく、結晶子が小さいほど、排ガスの浄化性能が高くなることから、これらを勘案してアルミナ担体への希土類系CZNPの担持量を決定するべきといえる。
なお、成分(A)及び/又は成分(B)であるCZNPが5重量%近辺で最良の性能が期待できると考えられるが、30重量%のCZNPを含むものでも、原材料の選定、触媒の調製方法や条件を最適化すれば、対象とする排ガスの種類、エンジンの稼働状況等によっては、実用上問題なく使用できる場合がある。これは、分散性が良い0.1~1重量%のCZNPを少量含むものでも同様であり、対象とする排ガスの種類、エンジンの稼働状況等によっては、実用上問題なく使用できる場合がある。
【0101】
(実施例5)
<ハニカム触媒>
上記実施例1で調製した<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)共担持アルミナ>を用いて、下記の要領で、ハニカム担体上に下層・上層を順次形成して、実施例5のハニカム触媒を調製した。
【0102】
・下層
γ-アルミナ粉末(BET SA=150m2/g、Al2O3=100%、D90=50μm品)と純水と酢酸(AcOH)を加え、湿式ボールミルで混合・粉砕し、D90=9μmのスラリーを調製し、このスラリーをハニカム担体(1inch×30mmL、600セル/3.5mil.)へ塗布し、乾燥、焼成を行った。
【0103】
・上層
実施例1の方法で調製した<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)共担持アルミナ>に、Rh/OSCと、γ-アルミナ粉末(BET SA=150m2/g、Al2O3=100%、D90=50μm品)と、純水と硝酸(HNO3)を湿式ボールミルで混合・粉砕し、D90=12μmのスラリーを調製し、このスラリーを下層が形成されたハニカム担体へ塗布し、乾燥、焼成を行った。Rh/OSCは0.2重量%RhをOSC(Ce/Zr/Nd/Pr=28/58/7/7、酸化物重量ベース、D90=24μm品)に、含浸法にて担持したものを用いた。
この上層には、5重量%のCe-Zr-Nd-PrがAl2O3に担持されたRh(0.2)-Ce(1.4)-Zr(2.9)-Nd(0.35)-Pr(0.35)/Al2O3が、Rh(0.2)/OSCとともに合計90g/L塗布されている(なお、括弧内は、酸化物換算の重量割合である。以降において、同様とする。)。
【0104】
次に、こうして調製した実施例5のハニカム触媒を試料として用いて、前記の要領でモデルガス評価試験を行った。HC T50、CO T50、NOx T50の測定結果を、他の実施例・比較例とともに
図5のグラフに示す。
【0105】
(比較例3)
上層の形成時において、実施例1の方法で調製した触媒<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)共担持アルミナ>に代えて、比較例1の触媒<Rh担持アルミナ>を用いる以外は、実施例5と同様にして、比較例3のハニカム触媒を調製した。
この上層には、Rh担持アルミナ触媒粉末が、Rh(0.2)/Al2O3として、Rh/OSCとともに90g/L塗布されている。ここで、OSCであるCZNPは、Ce/Zr/Nd/Prの重量比率が酸化物換算で28/58/7/7であり、Al2O3は、希土類金属等を含まない純粋なアルミナである。
【0106】
次に、こうして調製した比較例3のハニカム触媒を試料として用いて、前記の要領でモデルガス評価試験を行った。HC T50、CO T50、NOx T50の測定結果を、他の実施例・比較例とともに
図5のグラフに示す。
【0107】
(実施例6~8)
上層の形成時において、実施例1の方法で調製した触媒<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)担持アルミナ>に代えて、実施例2~4の方法で調製した触媒<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)担持アルミナ>を以下に示す重量比で用いる以外は、実施例5と同様にして、実施例6~8のハニカム触媒を調製した。また、なお、各実施例における触媒の詳細は以下に示すとおりであり、各金属成分の( )内の数値は、Rhと成分(A)の複合酸化物とアルミナの総量に対する重量%の数値である。
【0108】
・実施例6:0.2重量%Rh・0.5重量%Ce-Zr-Nd-Pr/Al2O3:
上層にRh(0.2)/OSCと、Rh(0.2)-Ce(0.2)-Zr(0.2)-Nd(0.05)-Pr(0.05)/Al2O3を合計で90g/L含む。
【0109】
・実施例7:0.2重量%Rh・1.0重量%Ce-Zr-Nd-Pr/Al2O3:
上層にRh(0.2)/OSCと、Rh(0.2)-Ce(0.4)-Zr(0.4)-Nd(0.1)-Pr(0.1)/Al2O3を合計で90g/L含む。
【0110】
・実施例8:0.2重量%Rh・10.0重量%Ce-Zr-Nd-Pr/Al2O3:
上層にRh(0.2)/OSCと、Rh(0.2)-Ce(2.8)-Zr(5.8)-Nd(0.7)-Pr(0.7)/Al2O3を合計で90g/L含む。
【0111】
次に、こうして調製した実施例6~8のハニカム触媒を試料として用いて、前記の要領でモデルガス評価試験を行った。HC T50、CO T50、NOx T50の結果を、
図5のグラフに示す。また、
図6に、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物含有量とHCT50との関係を示すグラフ、並びに、成分(A)及び/又は成分(B)の複合酸化物含有量とNOxT50との関係を示すグラフを示す。
【0112】
(比較例4)
上層の形成時において、実施例1の方法で調製した触媒<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)担持アルミナ>に代えて、比較例2の方法で調製した触媒<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)担持アルミナ>を以下に示す重量比で用いる以外は、実施例5と同様にして、比較例4のハニカム触媒を調製した。
この上層には、30.0重量%Ce-Zr-Nd-Pr/Al2O3がRh(0.2)/OSCとともに、Rh(0.2)-Ce(8.4)-Zr(17.4)-Nd(2.1)-Pr(2.1)/Al2O3で、合計90g/L塗布されている。なお、各金属成分の( )内の数値は、Rhと成分(A)の複合酸化物とアルミナの総量に対する重量%の数値である。
【0113】
次に、こうして調製した比較例4のハニカム触媒を試料として用いて、前記の要領でモデルガス評価試験を行った。モデルガス評価試験による評価結果を、
図5及び6に示す。
【0114】
「評価結果2」
モデルガス評価試験の結果を示すグラフ、すなわち、1,050℃、12時間、リッチ/リーン耐久の熱処理後の上記触媒によるモデルガス評価試験を取りまとめた
図5、
図6から、NOx、CO及びHCの浄化特性について次のことがわかる。T50温度はNOx、又はHCの浄化率が各々50%となる時の触媒入口ガス温度であり、低温活性の指標となる。T50が低い方がより低温から反応が立ち上がることを示しており、触媒活性が高いと評価できる。
【0115】
実施例5の触媒は、成分(A)であるCZNPを5重量%含有し、アルミナの表面上にRhとともにCZNPが担持された触媒組成物としてハニカム担体に塗布されており、CZNPを担持しない比較例3に比べ、HC、CO及びNOxに対する優れた低温活性/高温浄化率を発揮した。また、実施例6~実施例8は、CZNPの含有量を0.5重量%から10重量%まで変化させた場合であり、RhをCZNPとともに担持したアルミナを用いることにより、低温活性/高温浄化率において、何れも比較例3のCZNPを担持しないアルミナ触媒よりも性能向上していることが確認された。
【0116】
この様に、ロジウムを担持する母材がアルミナの場合、Rhが成分(A)であるCZNPとともにアルミナに担持されると、触媒組成物によるHC,CO及びNO浄化の低温性能が向上するといえる。
特に、本発明の実施例5では、HCの性能向上が大きいことから、アルミナのSR反応性向上の寄与が大きいと考えられる。また、Rh一定量に対してCZNP濃度を高めることにより性能差が確認されていることから、RhとCZNPのアルミナへの担持における混合前駆体の形成段階、均一化処理等の粉末調製工程において母材が持つBET SA値が変化し寄与しているものと推察される。
【0117】
なお、1,050℃、12時間、リッチ/リーン耐久の熱処理前後の上記実施例1~4及び比較例1~2の触媒粉末によるEPMA評価試験の結果から、触媒構造について次のように推定できる。
まず、熱処理前においては、実施例1~4のCZNPを担持した本発明の触媒では、加熱を受けていないので触媒構造に変化はなく、CZNPを担持しない比較例1でも同様である。
しかし、実施例5~8のように、CZNPをアルミナ上に担持して上層に配置した本発明の触媒は、1050℃の熱処理(耐久)後、アルミナ上のRhは、その周辺に存在するCZNP等により高分散を維持し、粒径の拡大が抑制される。一方、CZNPを担持せずにRhだけをアルミナ上に担持して上層に配置した比較例3(CZNP含量:0重量%)の触媒では、熱処理(耐久)によりアルミナ上のRhの多くが粒径を拡大して、触媒構造が大きく変化し性能が低下したと推測される。
【0118】
(実施例9~12)
上記の5重量%Ce-Zr-Nd-Pr/Al2O3を用いた実施例5において、<Rh・成分(A)及び/又は成分(B)担持アルミナ>として、実施例1の触媒に代えて、CZNPのうちいずれかの希土類金属又はジルコニウムが含まれない成分(A)及び/又は成分(B)を用いる以外は、実施例5と同様にして、実施例9~12のハニカム触媒を調製した。
すなわち、CZNPの代わりに、以下に示すCeが欠損したZr、Nd、Prの3元素を含む酸化物(ZNP)、Zrが欠損したCe、Nd、Prの3元素を含む酸化物(CNP)、Ndが欠損したCe、Zr、Prの3元素を含む酸化物(CZP)、Prが欠損したCe、Zr、Ndの3元素を含む酸化物(CZN)を調製し、これらを用いて、前記と同様な条件でモデルガス試験を行った。
(ZNP) 硝酸ジルコニウムをZrO2換算で2.9重量%、硝酸ネオジムをNd2O3換算で0.35重量%、及び硝酸プラセオジムをPr6O11換算で0.35重量%
(CNP) 硝酸セリウムをCeO2換算で1.4重量%、硝酸ネオジムをNd2O3換算で0.35重量%、及び硝酸プラセオジムをPr6O11換算で0.35重量%
(CZP) 硝酸セリウムをCeO2換算で1.4重量%、硝酸ジルコニウムをZrO2換算で2.9重量%、及び硝酸プラセオジムをPr6O11換算で0.35重量%
(CZN) 硝酸セリウムをCeO2換算で1.4重量%、硝酸ジルコニウムをZrO2換算で2.9重量%、及び硝酸ネオジムをNd2O3換算で0.35重量%
【0119】
T50の結果をCO,HC,NOxごとに
図7の棒グラフに示す。なお、C400 転化率の結果は、Nd欠損の場合に他と比べてわずかな性能低下が認められたが、概ねT50の結果と同様であった。得られた成分(A)又は成分(B)による触媒効果であるが、CZNPのいずれかの元素が欠けると、CZNPすべてを含むものよりも、性能は若干低下している。これにより、RhはCZNPすべてを含むものに担持されアルミナに担持されたものが好ましいと言える。
しかし、この結果は5重量%Ce-Zr-Nd-Pr/Al
2O
3を用いた実施例5を基準としており、本発明の範囲内でCe等の希土類金属やZrのいずれかが含有されていれば、NdやPr等一部の成分が欠けた3元素系複合酸化物としても、性能低下を最低限に止められると考えられる。また、この結果は成分(A)又は成分(B)の元素合計量が複合酸化物として5重量%未満と少ない場合であり、Ce及び/又はZrの量が5重量%以上と多ければ、元素の種類にもよるが2元素系複合酸化物であっても、ある程度の性能向上が得られると考えられる。したがって対象とする排ガスの種類、エンジンの稼働状況等によっては、実用上問題なく使用できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の排ガス浄化用触媒は、内燃機関等から排出される排ガス中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等を浄化でき、特に低温から高温の幅広い条件で優れた性能を維持できるため、例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の自動車用途をはじめ、船舶等の移動体用途や、発電機等の定置用途等に広く且つ有効に利用可能である。ただし、本発明は、これらの用途に限定されるものではなく、ボイラー等固定源からの排ガス中に含まれる窒素酸化物の脱硝技術にも広く適用可能である。