(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】超伝導電磁コイルシステム
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20221205BHJP
H01F 6/02 20060101ALI20221205BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
H01F6/06 140
H01F6/02
H01F5/00 C
(21)【出願番号】P 2021500024
(86)(22)【出願日】2019-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2019067890
(87)【国際公開番号】W WO2020011625
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】102018211511.7
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】595068254
【氏名又は名称】ブルーカー バイオスピン ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Bruker BioSpin GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング フランツ
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル カミナダ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルト ノイベルト
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-168816(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0007375(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0065584(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/00
H01F6/00-H01F6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に互いに接続された第1電気メッシュ(M1)と第2電気メッシュ(M2)とを有する超伝導電磁コイルシステムであって、
前記第1電気メッシュ(M1)は、第1パスにおいてHTSコイル部分(A0)、及び前記HTSコイル部分と直列に第1主コイル部分(A1;A1’)を備え、第2パスにおいて前記HTSコイル部分(A0)と前記第1主コイル部分(A1;A1’)の直列接続を橋絡するクエンチ保護要素(Q1)を備え、
前記第1主コイル部分(A1;A1’)は、母材中に超伝導フィラメントを含む導体を備え、
前記第2電気メッシュ(M2)は、母材中に超伝導フィラメントを含む導体を有する隣接主コイル部分(A3)を備え、前記隣接主コイル部分(A3)は、前記
超伝導電磁コイルシステム内で、前記第1電気メッシュ(M1)とは別のメッシュのすべての主コイル部分のうち、径方向外方に前記第1電気メッシュ(M1)の前記第1主コイル部分(A1;A1’)の最も近くに位置する主コイル部分である、超伝導電磁コイルシステムにおいて、
クエンチ発生時に、前記主コイル部分(A1;A1’
、A3)の前記導体がそれぞれ比パワー入力(LT/2π)
2*1/ρ
Mを生じ、
ここで
、前記主コイル部分(A1;A1’、A3)のそれぞれの前記導体において、
LT=超伝導フィラメントを有する前記導体の撚りピッチ
ρ
M=前記超伝導フィラメントが埋め込まれている前記導体の前記母材の(横断方向の)比電気抵抗であり、
前記第1電気メッシュ(M1)の前記第1主コイル部分の前記導体の前記比パワー入力は、前記第2電気メッシュ(M2)の前記隣接主コイル部分(A3)の前記導体の前記比パワー入力より大きい、ことを特徴とする、超伝導電磁コイルシステム。
【請求項2】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)は、前記
超伝導電磁コイルシステム内で、前記第1主コイル部分の前記導体と同じ超伝導材料からなる導体を備えるすべての主コイル部分(A4)のうちの最大の前記比パワー入力を生じる主コイル部分であることを特徴とする、請求項1に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項3】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)は、前記
超伝導電磁コイルシステム内で最大の前記比パワー入力を生じる主コイル部分であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項4】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記母材の前記比電気抵抗は、前記隣接主コイル部分(A3)の前記母材の前記比電気抵抗より低いことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項5】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記導体の前記撚りピッチは、前記隣接主コイル部分(A3)の前記
超伝導フィラメントの前記撚りピッチより大きいことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項6】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記
超伝導フィラメントの前記撚りピッチは、前記隣接主コイル部分(A3)の前記
超伝導フィラメントの前記撚りピッチより少なくとも1.5
倍大きいことを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項7】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記超伝導フィラメントの前記撚りピッチは、前記隣接主コイル部分(A3)の前記超伝導フィラメントの前記撚りピッチより少なくとも2倍大きいことを特徴とする、請求項6に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項8】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記
超伝導フィラメントの前記撚りピッチは、150mm~400mmの範
囲であることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項9】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記超伝導フィラメントの前記撚りピッチは、200mm~400mmの範囲であることを特徴とする、請求項8に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項10】
前記第1主コイル部分(A1;A1’
)は、Bi超伝導材料
又はLTS材
料を含む
超伝導材料からなることを特徴とする、請求項1から
9のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項11】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記超伝導材料は、Bi2212、NbTi又はNb3Snを含むことを特徴とする、請求項10に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項12】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記導体は、強化型Nb3Sn導体であることを特徴とする、請求項1から
11のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項13】
前記第1電気メッシュ(M1)は、母材中に超伝導フィラメントを含む導体を有する第2主コイル部分(A2;A2’)を備え、前記第2主コイル部分の前記導体の前記比パワー入力は、最大で、前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記導体の前記比パワー入力と同じ大きさであ
ることを特徴とする、請求項1から
12のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項14】
前記第1電気メッシュ(M1)は、母材中に超伝導フィラメントを含む導体を有する第2主コイル部分(A2;A2’)を備え、前記第2主コイル部分の前記導体の前記比パワー入力は、前記第1主コイル部分(A1;A1’)の前記導体の前記比パワー入力より小さいことを特徴とする、請求項1から12のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項15】
前記第1主コイル部分(A1;A1’)は、前記第2主コイル部分(A2;A2’)より径方向外側に配置されていることを特徴とする、請求項
13又は14に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項16】
前記HTSコイル部分(A0)と前記第1主コイル部分(A1;A1’)とは、空間的配置において径方向に隣接していることを特徴とする、請求項1から
15のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【請求項17】
超伝導NMR電磁コイルシステムであることを特徴とする、請求項1から
16のいずれか1項に記載の超伝導電磁コイルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列に互いに接続された第1電気メッシュと第2電気メッシュとを有する超伝導電磁コイルシステムであって、第1電気メッシュは、第1パスにおいてHTS(high temperature superconductor)コイル部分、及びHTSコイル部分と直列に第1主コイル部分を備え、第2パスにおいてHTSコイル部分と第1主コイル部分の直列接続を橋絡するクエンチ保護要素を備える、超伝導電磁コイルシステムに関する。第1主コイル部分は、母材中に超伝導フィラメントを含む導体を備える。第2電気メッシュは、母材中に超伝導フィラメントを含む導体を有する隣接主コイル部分を備える。隣接主コイル部分は、第1電気メッシュとは別のメッシュのすべての主コイル部分のうち、径方向外方に第1電気メッシュの第1主コイル部分の最も近くに位置する主コイル部分である。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁コイルシステムは[02]~[04]により知られている。
【0003】
従来の超伝導NMR磁石では、通常、NbTiワイヤやNb3Snワイヤが使用され、これにより、磁場強度が現在のところ約23.5Tに制限されている。より高い磁場強度を達成するため、又は所定の磁場強度を有する磁石をよりコンパクトに構成するためには代替の導体材料を使用する必要がある。これに関して、HTSテープ導体、例えばREBCOテープ(REBCO=Rare-earth barium copper oxide)の使用が主に研究されている。この場合、磁石は完全にHTS材料でできているとは限らない。コスト上の理由から、HTSテープ導体を最も内側の部分にのみ使用し、バックグラウンドマグネットを従来の「低温超伝導体」(LTS)技術(NbTi又はNb3Sn)で作成することが有利である。そのため、通常、最も内側の複数の磁石部分はHTS線材が巻回され、LTSバックグラウンドマグネットと直列に接続される。例えばNMR磁石の典型的なクエンチ保護回路では、個々の部分又は個々の部分の各領域が保護抵抗器と並列に接続され、それにより保護ネットワークの電気メッシュが形成される。異なる複数のメッシュが順に直列に接続される[01]。このようにして、クエンチ持続時間及びクエンチ電圧を小さく保つことができる。ただし超伝導状態(同様にクエンチ)が遅れて生じる電気メッシュでは、過剰な電流や力が生じ、これによって超伝導体に過負荷がかかる可能性がある。
【0004】
「クエンチ」とは、電流が流れる超伝導体に過負荷がかかることにより、電磁コイルが超伝導状態から常伝導状態へ自発的に遷移することを意味する。この事象は、超伝導体における高い電圧、電流、及び力を伴う可能性があり、超伝導体を破壊する可能性がある。
【0005】
しかし新しいHTS材料は、超伝導磁石のクエンチ保護に特別な要求を課す。通常、クエンチは局所的及び自発的に始まり、次いで、数秒のうちに磁石内に広がる。HTS材料の高い臨界温度はクエンチ時に特に不利に働く(零磁場において、YBCO >80K、一方で、一般的なLTS導体の臨界温度はNb3Sn 約18K、NbTi 約10K)。これは、バックグラウンドマグネットのNbTi部分又はNb3Sn部分においてクエンチが始まると、この高い臨界温度がクエンチの遅れをもたらすからである。その結果、クエンチ保護のコンセプトによっては、HTS部分に過剰な電流や力が生じる。さらに、HTS材料におけるクエンチの伝播が遅いと局所的な過熱が生じ、HTS導体が焼損する可能性がある。
【0006】
[02]において、危険部分(例えばHTS部分)を保護することが提案されており、これは(危険部分の外側における)クエンチの開始後に遅れてようやくクエンチする危険部分を、急速かつ早期にクエンチするコイル部分と一緒に共通のメッシュにおいて保護する。その際、(1つのメッシュにおいて一緒に保護されている)2つのコイル領域は、電気的に連続して配置されている。それによってHTS部分を有し遅れてクエンチするメッシュにおいて過電流が増加し、それに伴いHTS部分のクエンチも防止することができる。
【0007】
[03]から、これらのコイル領域における過電流の増加を回避するために、付加的に加熱により(特に遅れてクエンチする超伝導体領域における)クエンチを加速させることが知られている。このことは能動的に(クエンチ検出と、それに続くヒーターの作動により)又は受動的に(超伝導体巻線に熱的に結合されたアクティブヒーターとしてのクエンチ保護抵抗器により)行うことができる。
【0008】
そのために複数のヒーターをHTS部分に分散させ、それによりHTS部分においてクエンチが急速に伝播する(すなわちエネルギーを分散させる)。しかしこの場合、加熱によってHTS部分が破壊される危険がある。さらに、ヒーターストリップにより、巻線における磁場の発生に利用可能な体積が減少する。ヒーターストリップは、径方向内側に位置するHTS巻線の均一性、及びそれに伴う磁場の均一性を損なう可能性がある。複数のヒーターストリップの巻回と配線には手間がかかる。
【0009】
[04]において、クエンチの進行を加速させるために、1つの電気メッシュで一緒に保護されている2つの部分のうちの1つに、クエンチ時にアクティブなヒーターを収容することが提案されている。このヒーターは、典型的には保護ネットワークにおける別のメッシュの保護要素として設計されている。ヒーターは、超伝導体の臨界温度が低い部分に収容される。しかしこのために高価で複雑な配線が必要とされる。さらに、その部分の巻線パッケージに対し必要な介入は、大きなリスクを伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、HTS超伝導材料を使用して、特に高い磁場強度を生成することができる及び/又は全体のサイズが小さい電磁コイルシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、本発明によれば、請求項1に記載の超伝導電磁コイルシステムによって解決される。
【0012】
本発明に係る電磁コイルシステムでは、クエンチ時に主コイル部分の導体がそれぞれ比パワー入力Pspez=(LT/2π)2*1/ρMを生じ、第1電気メッシュの第1主コイル部分の導体の比パワー入力は第2電気メッシュの隣接主コイル部分の導体の比パワー入力より大きい。
その際、
LT=超伝導フィラメントを有する導体の撚りピッチ
ρM=超伝導フィラメントが埋め込まれている導体の母材の(横断方向の)比電気抵抗(母材抵抗)である。
【0013】
したがって、第1主コイル部分及び隣接主コイル部分の導体は、撚り線導体、すなわち、フィラメントが互いに撚り合わせられた導体である。「撚り」と呼ばれるのは、超伝導ワイヤにおいて複数の超伝導フィラメントを撚り合わせることである。「撚りピッチ」と呼ばれるのは、超伝導ワイヤにおいて超伝導フィラメントが完全に一回転するワイヤ部分の長さである。したがって、撚りピッチが大きい導体では、撚りピッチが小さい導体よりもフィラメントの撚りが甘い。
【0014】
フィラメント状の超伝導体においては、(例えばクエンチによって)磁場が変化した場合に、フィラメント間の電流の流れにもとづいて、及びフィラメントが埋め込まれている抵抗母材によってパワー入力(オーム熱)が生じる。[5]において、フィラメント間のこの結合損失/結合にもとづいた(単位体積当たりの)パワー入力の式が記載されている:
P/V=(dB/dt)2*(LT/2π)2*1/ρM.=(dB/dt)2*Pspez
ここで、dB/dtは、例えばクエンチ時の磁束密度の時間的変化である。
【0015】
第1主コイル部分の導体の比パワー入力は、隣接主コイル部分の導体の比パワー入力より少なくとも1.5倍(特に1.8~9倍)高いことが好ましい。
【0016】
本発明は、クエンチ時に、特に大きく、誘導的に生じる「結合損失」を生じさせるという考えに基づいており、この結合損失が、HTS材料が接続されている第1メッシュにおいて急速なクエンチ発生及びクエンチ伝播をもたらし、それに伴いこのメッシュにおける電流を急速に減らすことができる。すなわち、本発明において、第2メッシュの隣接主コイル部分の導体より大きい比パワー入力を有する第1電気メッシュの導体を使用することにより、第1電気メッシュの外側で(例えば第2電気メッシュにおいて)クエンチが開始する際に、HTS材料が配置されている第1電気メッシュにおけるクエンチの発生及びクエンチの伝播を加速することができる。それによって、電磁コイルシステムが破壊されるリスクを高めることなく、磁石システム、特にNMR電磁コイルシステムにおいてHTS材料を使用することができるようになる。さらにこれにより、電磁コイルシステムの構造サイズを小さくし及び/又は電磁コイルシステムによって生成可能な磁場強度を大きくすることができる。
【0017】
第1電気メッシュと同様、第2電気メッシュも第1パスと第2パスとを備え、第1パスに隣接主コイル部分が配置され、第2パスには別のクエンチ保護要素が配置されており、この別のクエンチ保護要素は、第2電気メッシュの第1パス内で隣接主コイル部分と、必要に応じて、さらなる複数の主コイル部分とを橋絡する。クエンチ保護要素として、抵抗器及び/又はダイオードが設けられてもよい。
【0018】
主コイル部分は、フィラメント導体を備えるコイル部分であり、電磁コイルシステムの動作中にB>6Tの磁場が広がる電磁コイルの配置領域に配置されている。隣接主コイル部分は、好ましくはLTS(low temperature superconductor)材料からなるフィラメント導体を備える。これに対してHTSコイル部分は、HTS材料からなるテープ導体を備える。
【0019】
コイル部分は、通常、ボビンに巻回されている。その際、(必ずしもそうでなくてよいが)複数の主コイル部分が1つの共通のコイル体に巻回されていてもよい。
【0020】
電磁コイルシステムは、複数のコイル部分が同軸的に周りに配置されている長手軸線を有する。「径方向外方」、「径方向内方」などの方向は、電磁コイルシステムの長手軸線との関係で記載される。この意味において、隣接主コイル部分はHTSコイル部分及び第1主コイル部分の径方向外側に(すなわちHTSコイル部分及び第1主コイル部分よりもz軸からさらに離れたところに)配置されている。隣接主コイル部分は、第1主コイル部分と径方向に隣接していることが好ましい。しかし第1メッシュの第2主コイル部分を径方向で第1主コイル部分と隣接主コイル部分との間に配置することも可能である。第1メッシュの部分ではない主コイル部分のうち、隣接主コイル部分は第1主コイル部分に最も近い主コイル部分である。
【0021】
隣接主コイル部分に加えてさらに複数の主コイル部分が設けられていてもよく、これらの主コイル部分は、第2電気メッシュにおける隣接主コイル部分と、動作中に電流が同じ方向に流れるように直列に互いに接続されているか、又は(第1メッシュではない)さらに別の電気メッシュにおいて相互に接続されている。
【0022】
第1主コイル部分は、電磁コイルシステム内で、第1主コイル部分の導体と同じ超伝導材料からなる導体を備えるすべての主コイル部分のうち、最大の比パワー入力を生じる主コイル部分であることが好ましい。
【0023】
特に好ましい実施形態では、第1主コイル部分は、電磁コイルシステム内で、(すなわち、主コイル部分の導体の材料とは無関係に)最大の比パワー入力を生じる主コイル部分である。
【0024】
比パワー入力は、特に母材抵抗と導体の撚りピッチとに依存する。本発明による電磁コイルシステムの一実施形態では、第1主コイル部分の母材の比電気抵抗が隣接主コイル部分の母材の比電気抵抗よりも低くなる。
【0025】
第1主コイル部分は、電磁コイルシステム内で、この主コイル部分において用いられる超伝導材料が最も低い母材抵抗を有する主コイル部分であることが好ましい。すなわち、第1主コイル部分の母材抵抗は、第1主コイル部分のフィラメントと同じ材料からなるフィラメントを有する他のどの主コイル部分の母材抵抗よりも小さい。
【0026】
第1主コイル部分の母材抵抗は、電磁コイルシステムの他のすべての主コイル部分の母材抵抗よりも小さいことが好ましい。
【0027】
フィラメントがCu母材に埋め込まれている導体の場合、母材抵抗は、フィラメントの配置[06]、Cu品質(「残留抵抗」)、及び最後の成形工程後の熱処理(「残留抵抗」)の影響を受ける可能性がある。NbTi導体は、Cu母材を有し、その比抵抗(母材抵抗)は、磁石の動作温度において、とりわけNbTi導体が位置する磁場に依存する。動作温度が4.2Kのときの典型的な母材抵抗値は、9Tの磁場においてρM=0.51nΩ*m、若しくは6Tにおいて0.38nΩ*mである。磁石が2Kに過冷却された場合、NbTiを最大12Tの磁場において動作でき、典型的な比母材抵抗は0.65nΩ*mである。いわゆるブロンズ法で製造されたNb3Sn導体では、母材抵抗はブロンズ母材の合金組成により影響を受ける可能性がある。これは例えばSnのドープを少なくすることによって実現することができる。超伝導体のための銅ブロンズへのSnの典型的な最大添加量は16重量%までである。したがって16重量%未満の値が母材抵抗を小さくするのに適している。超伝導体の熱処理後の母材抵抗はNb3Sn超伝導体の動作を決定する。ブロンズ法で製造されたNb3Sn導体では、例えばブロンズ(CuSn)の母材抵抗は超伝導体の熱処理によって格段に低下する。なぜなら、この熱処理において、CuSn母材からSn原子がNb中に拡散し、そこで超伝導Nb3Snを形成するからである。このプロセスにおいてブロンズのSnが枯渇することによって、ブロンズ若しくはブロンズ母材の比電気抵抗も低下し、したがって熱処理の長さに応じて比電気抵抗を的確に変化させることができる。
【0028】
本発明に係る電磁コイルシステムのさらに好ましい実施形態では、第1主コイル部分の導体の撚りピッチは隣接主コイル部分のフィラメントの撚りピッチよりも大きい。導体の超伝導状態の安定性を向上させるために、撚られたフィラメントを有する導体を使用することは従来技術から知られている(強く撚られれば撚られるほど、すなわち撚りピッチが小さければ小さいほど、導体の超伝導状態がより安定する)。クエンチ時にフィラメント間の結合が、フィラメント間、及び超伝導フィラメントが埋め込まれている抵抗母材に電流を生じ、したがって、上記のパワー入力をもたらす。本発明において、第1主コイル部分でより大きい撚りピッチのフィラメントを使用することにより、特に大きい、誘導性の「結合損失」が生じ、この結合損失は、第1主コイル部分において急速なクエンチ発生及びクエンチ伝播をもたらし、それに伴い第1電気メッシュにおいて急速な電流低下を可能にする。すなわち第1主コイル部分の超伝導材料の超伝導フィラメントの撚りは、急速なクエンチ伝播のために最適化された撚りピッチを有する。
【0029】
第1主コイル部分は、電磁コイルシステム内の主コイル部分に組み入れられるすべての超伝導フィラメントの中で最大の撚りピッチを有するフィラメントを有する主コイル部分であることが好ましい。
【0030】
ただし、第1主コイル部分の導体の撚りピッチは任意の大きさに選択されるべきではない。なぜなら、過度に強い撚りは、電磁コイルシステムの動作中のクエンチ時に有用ではあるが、別の状況では害になり得るからである。例えば電磁コイルシステムをチャージする際に、入熱が撚りピッチとともに増加し、このことは磁石のチャージ時に望ましくないクエンチを引き起こす可能性がある。さらに、撚りピッチが大きくなると、導体のいわゆる「固有安定性」が低下する。なぜなら撚りピッチが大きい場合、導体の超伝導状態を安定させるのに効果的なのは、もはや個々のフィラメントの小さい直径ではなく、導体全体の直径だからである[5]。
【0031】
好ましい一実施形態では、第1主コイル部分のフィラメントの撚りピッチは、隣接主コイル部分のフィラメントの撚りピッチよりも少なくとも1.5倍、好ましくは2倍大きい。隣接主コイル部分と並んでさらに複数の主コイル部分が設けられている場合、第1主コイル部分のフィラメントの撚りピッチが他のすべての主コイル部分のフィラメントの撚りピッチよりも少なくとも1.5倍、好ましくは2倍大きいことが特に有利である。
【0032】
本発明によれば、撚りピッチは、クエンチが十分に急速に進行し、それに伴い過電流が増加して導体に重大な過負荷をもたらす限界値を超えないように選択される。しかし過度に大きい撚りピッチは上記の理由から回避されなければならない。すなわち、撚りピッチを選択するために重要なのは、超えられるべきでない過電流の増加若しくはそれに伴う力の限界値、及び超えられるべきでない磁石チャージ時の最大許容入熱である。さらに、撚りピッチを選択する際、第1主コイル部分の導体が最低限の固有安定性を有することを要求してもよい。
【0033】
第1主コイル部分のフィラメントの撚りピッチは150mm~400mmの範囲、特に200mm~400mmの範囲であることが好ましい。
【0034】
第1主コイル部分の超伝導材料は、Bi超伝導材料、特にBi2212(Bi2Sr2CaCu2O8)を含むこと、又はLTS材料、殊にNbTi又はNb3Snを含むことが好ましい。
【0035】
第1主コイル部分の比パワー入力を隣接主コイル部分のものより大きく設定することは、特に、第1主コイル部分がNb3Snからなる導体を含む場合に有利である。なぜなら、Nb3Snは、LTSフィラメント導体に対して比較的高い臨界温度Tcを有し、かつクエンチ時には、本発明による撚りの最適化なしに、付随するクエンチが比較的遅れて発生するだろうからである。さらに、Nb3Snは高い磁場耐性を有し、それゆえ電磁コイルシステム内で径方向にかなり内側に、すなわち高磁場に配置することができ、それによりクエンチ速度への影響を増大させることができる。
【0036】
一方、NbTiを使用すると大きい撚りピッチと低い母材抵抗の両方を実現できる。さらに、NbTi超伝導体の母材抵抗に容易に影響を及ぼすことができ、それにより所望の比パワー入力を容易に実現することができる。
【0037】
具体的な一実施形態では、第1主コイル部分の導体は、強化型Nb3Sn導体である。強化型Nb3Sn導体は、強化されないNb3Sn導体と比べて、過電流の増加に伴って生じる径方向外向きの力に対してより高い耐久性を有する。
【0038】
本発明に係る電磁コイルシステムの別の具体的な一実施形態は、第1電気メッシュが、母材中に超伝導フィラメントを含む導体を有する第2主コイル部分を備え、その比パワー入力は、第1主コイル部分の導体の比パワー入力と最大でも同じ大きさであり、好ましくは、第1主コイル部分の導体の比パワー入力よりも小さい。第2主コイル部分の超伝導材料は、Bi超伝導体、特にBi2212であるか、LTS材料、好ましくはNbTi又はNb3Snであってもよい。
【0039】
第1電気メッシュの3つのコイル部分は、それぞれ、異なった臨界磁場と臨界温度とを有してもよい。例えば、第2主コイル部分の超伝導材料としてNb3Snを使用してもよく、第1主コイル部分(すなわち比パワー入力が大きい主コイル部分)の超伝導材料としてNbTiを使用してもよい。このことは、臨界温度が低いNbTiが、付随するクエンチを比較的早期に生じ、第1電気メッシュにおける電流を急速に減少させるため特に有利である。
【0040】
第1主コイル部分と第2主コイル部分とは共通のボビンに巻回されていてもよい。このことは、第1主コイル部分と第2主コイル部分とが同じ超伝導材料からなる導体を含む場合に特に簡単に実現可能である。その場合、これらの導体は母材抵抗及び/又は撚りピッチが異なる。
【0041】
第1主コイル部分は第2主コイル部分よりも径方向にさらに外側に配置されていてもよい。撚りピッチが大きすぎることに伴うリスクを低減するために、導体の使用率がそれほど高くなく、したがって(例えば)チャージ時の付加的入熱があまり問題にならない領域において、比較的大きい撚りピッチを有する第1主コイル部分の導体を使用してもよい。したがって、第2主コイル部分を、HTSコイル部分とNbTi主コイル部分との間に比較的大きい径方向の距離を達成するために用いることができる。
【0042】
HTSコイル部分及び第1主コイル部分は共通のボビンに巻回されていてもよい。これにより、1つの電気メッシュ内の2つのコイル部分の相互接続が特に簡単になる。ここでは、例えばHTSコイル部分のHTS(径方向内側)と第1主コイル部分のNbTi(径方向外側)の組み合わせが検討される。Nb3Sn材料が、巻回の前にいわゆるReact&Wind法で反応焼成されている場合は、第1主コイル部分において、HTS材料に巻き付けられたLTS導体がこのNb3Sn材料で構成されていてもよい。HTS材料(径方向内側)とNbTi材料(径方向外側)が共通の部分に巻かれる場合、NbTi導体はコルセットとして機能するように、すなわちHTS導体において径方向外方に向いた力(「フープ応力」)に対抗作用し、それに伴いHTS導体を安定させるための機械的包帯として機能するように寸法を決めてもよい。
【0043】
これに代えて、HTSコイル部分及び第1主コイル部分が空間的に分離されていてもよく、すなわち、例えば第1主コイル部分を、クエンチ時に必要に応じてHTSコイル部分とは無関係に加熱できるようにするために、HTSコイル部分及び第1主コイル部分を異なるボビンに配置してもよい。
【0044】
HTSコイル部分は、電磁コイルアセンブリの最も内側のコイル部分であることが好ましい。
【0045】
HTSコイル部分と第1主コイル部分とが空間的配置において径方向に隣接している場合、共通の第1電気メッシュ内での相互接続を特に簡単に実現できる。なぜなら、この場合、設計及び製造技術的な労力が特に少ないからである。すなわちその場合、HTSコイル部分及び第1主コイル部分は空間的配置において径方向に直接連続して配置される。この実施形態では、Nb3Snは、その高い磁場耐性から、第1主コイル部分の超伝導材料として特に良く適している。
【0046】
本発明に係る電磁コイルシステムは超伝導NMR電磁コイルシステムであることが好ましい。
【0047】
本発明の他の利点は以下の説明及び図面から明らかになる。同様に、上記及び下記の特徴も本発明によりそれぞれ個々に単独又は複数を任意に組み合わせて使用することができる。図示及び説明される実施形態は、すべてが列挙されていると解されるべきでなく、むしろ本発明を説明するための例示的性質を有する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】Nb3Sn導体を有する第1主コイル部分を備えた本発明に係る電磁コイルシステムの模式図である。
【
図2】第2主コイル部分と共通のボビンに巻回されているNb3Sn導体を有する第1主コイル部分を備えた本発明に係る電磁コイルシステムの模式図である。
【
図3】HTSコイル部分と共通のボビンに巻回されているNbTi導体を有する第1主コイル部分を備えた本発明に係る電磁コイルシステムの模式図である。
【
図4】Nb3Sn導体を有する第1主コイル部分とNbTi導体有する第2主コイル部分とを備えた本発明に係る電磁コイルシステムの模式図である。
【
図5】NbTi導体を有する第1主コイル部分とNb3Sn導体を有する第2主コイル部分とを備えた本発明に係る電磁コイルシステムの模式図である。
【
図6】本発明に係る電磁コイルシステムのコイル部分の撚りピッチを径方向順にプロットした棒グラフである。
【
図7】別のメッシュでクエンチが開始した場合の第1メッシュ内の過電流を、第1主コイル部分の導体の撚りピッチの関数としてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1~
図5は、コイル部分を有する複数の電気メッシュM1、M2、M3が直列に互いに接続されている保護ネットワークを備えた、本発明に係る電磁コイルシステムの様々な実施形態を示している。これらの図は、様々なメッシュM1、M2、M3及びこれらのメッシュのコイル部分の電気的接続と、様々なコイル部分若しくはコイル部分が巻回されたボビンについての相互の及びz軸を含む半平面における電磁コイルシステムの図示されたz軸に対する空間的配置とを示している。
【0050】
図示された実施形態の第1メッシュM1はそれぞれ、HTSテープ導体により構成された導体を有するHTSコイル部分A0と、フィラメント導体を有する第1主コイル部分A1、A1’とを備えている。HTSコイル部分A0及び第1主コイル部分A1、A1’は、動作中に電流が同方向に流れ、かつ第1クエンチ保護要素Q1によって一緒に橋絡/保護されるように第1電気メッシュ内で直列に互いに接続されている。第1主コイル部分A1、A1’は超伝導材料からなる導体を有し、この超伝導材料は、電磁コイルシステムの任意のメッシュにおいてクエンチが開始した場合にそれに付随して急速にクエンチする。第1主コイル部分A1には、HTSコイル部分A0の臨界温度よりも低い臨界温度を有する、典型的にはNb3Sn又はNbTiである材料からなる導体が選択されることが好ましい。第1主コイル部分A1の超伝導材料は、REBCO材料(RE=rare earth)からなるHTSテープ導体と比べて格段に高いクエンチ伝播速度を有する。様々な超伝導材料の零磁場(B=0T)における典型的な臨界温度は次の通りである:NbTi 約10K、Nb3Sn 約18K、典型的なHTSテープ導体 >80K、[05])。
【0051】
第1主コイル部分A1、A1’の径方向外側に(すなわちz軸から径方向rにさらに離れて)第2電気メッシュM2の隣接主コイル部分A3が配置されている。隣接主コイル部分A3は、第1メッシュM1でない(すなわちHTSコイル部分A0がない)メッシュM2の主コイル部分であり、第1主コイル部分A1に径方向に最も近く配置されており、したがって、同等の大きさの磁場内に位置する。隣接主コイル部分A3の径方向外側には別の主コイル部分A4が存在していてもよい。
図1~
図5において、例示的にそれぞれ1つの別の主コイル部分A4が示されている。
【0052】
クエンチの伝播をさらに加速するために、本発明によれば、第1主コイル部分A1、A1’に、隣接主コイル部分A3の導体よりも大きい比パワー入力を有する導体が使用される。大きいパワー入力を有する主コイル部分(第1主コイル部分A1、A1’)には図においてクロスハッチングが付されている。パワー入力を大きくすることによって、上述のクエンチ時に特に大きく、誘導的に発生した「結合損失」が生じ、この結合損失が、第1主コイル部分A1の導体内に急速なクエンチ発生及びクエンチ伝播をもたらす。このようにしてHTSコイル部分A0が配置されている第1メッシュM1において電流を急速に低下させることができる。第1主コイル部分A1の導体の母材抵抗又は撚りピッチによって所望の比パワー入力を取り入れることができる。
【0053】
図1に示す本発明に係る磁石システムの実施形態では、第1メッシュM1においてHTSコイル部分A0と相互接続された第1主コイル部分A1は、Nb3Snからなるフィラメント導体(図示せず)を備えている。HTSコイル部分A0と第1主コイル部分A1は別々のボビンに巻回されている。異なるボビンへ異なるコイル部分の巻回することは、巻回後に導体材料の異なる製造工程、例えば特殊な熱処理が行われる必要がある場合に特に有利である。
【0054】
他のメッシュM2、M3の主コイル部分よりも大きい比パワー入力を有する第1主コイル部分A1は、主にクエンチ時に第1メッシュM1におけるクエンチを加速させるために用いられる。それゆえ第1主コイル部分A1が磁場に大きく寄与する必要はない。したがって第1主コイル部分A1はわずかな巻数があればよく、第2主コイル部分A2の巻線と一緒に共通のボビンに巻回することができる。その際、第2主コイル部分は、他のメッシュM2、M3の主コイル部分A3、A4と同等のパワー入力を有してもよい。このような実施形態が
図2に示されている。ここでは第2主コイル部分A2と第1主コイル部分A1とが同じ超伝導材料(Nb3Sn)でできており、共通のボビンに巻回されており、2つの主コイル部分A1、A2は比パワー入力が異なる。例えば、異なった撚りピッチを有するNb3Sn導体が使用されてもよい。この例では、第1主コイル部分A1の導体が第2主コイル部分の巻線に直接(第2主コイル部分の径方向外側に)巻回されており、それゆえ第2主コイル部分A2よりも使用率が低い第1電気メッシュM1の領域(すなわち、第1メッシュM1の他の領域よりも磁場が小さい領域)に位置する。このことは、本発明のように、他のメッシュM2、M3の主コイル部分A3、A4の導体と比べて大きい比パワー入力を実現するために、大きい撚りピッチを有する導体を使用する場合に特に有利である。なぜなら、撚りピッチが大きくなることにより生じる欠点(チャージ時の入熱の増加)があまり重要でないからである。
【0055】
図3に示すように、第1主コイル部分A1にNbTiからなる導体を選択する場合、第1主コイル部分A1とHTSコイル部分A0とを共通のボビンに巻回することが可能である。
【0056】
図4は、第1メッシュM1が、別々のボビンに巻回されている異なった材料からなる3つのコイル部分A0、A1、A2’を有する実施形態を示す。HTSコイル部分A0及びNb3Sn導体を有する第1主コイル部分A1と並んで、第1主コイル部分A1の径方向外側に、NbTi導体を有する第2主コイル部分A2’が配置されている。一方では、第1主コイル部分A1の(例えば他のメッシュM2、M3の主コイル部分A3、A4よりも撚りピッチを大きくすることによって)比パワー入力が大きいことにより、他方では、第2主コイル部分A2のNbTi導体材料の臨界温度が低いことにより、クエンチ時に第1メッシュM1において特に急速にクエンチを引き起こすことができる。この場合、第1メッシュの第2主コイル部分A2’が第1主コイル部分A1と隣接主コイル部分A3との間に配置されるので、隣接主コイル部分A3は第1主コイル部分A1に直接接しない。
【0057】
図5は類似の実施形態を示し、同様に、異なった材料からなる3つのコイル部分A0、A1’、A2が第1メッシュM1において互いに接続されている。しかし、
図4に示された実施形態とは異なり、NbTiからなる主コイル部分が第1主コイル部分A1’であり、Nb3Snからなる主コイル部分が第2主コイル部分A2である。ここではNb3Sn主コイル部分はクエンチの加速に用いられるのではなく、NbTi主コイル部分をより弱い磁場に配置するための「スペーサ」として用いられるにすぎない。
【0058】
図6は、本発明に係る電磁コイルシステムのコイル部分の典型的な撚りピッチが径方向の順序でプロットされている棒グラフを示す。
図6のグラフが基礎とする電磁コイルシステムでは、第1主コイル部分A1が第2主コイル部分A2と一緒に共通のボビンに巻回されている。さらに、径方向でHTSコイル部分A0と第1主コイル部分A1を有するボビンとの間に第2主コイル部分A2が追加して設けられている。第1主コイル部分A1及び第2主コイル部分A2はそれぞれNb3Snからなる導体を有している。この事例では隣接主コイル部A3もNb3Sn導体を有している。この例では、第2主コイル部分A2、隣接主コイル部分A3、及び径方向内側の別の主コイル部分A4の撚りピッチは同じ大きさである。しかしこのことは必ずしも必要ではない。重要なのは、第1主コイル部分A1の撚りピッチが隣接主コイル部分A3の撚りピッチよりも大きいということだけである。この事例ではそれどころか、第1主コイル部分A1の撚りピッチが他のすべての主コイル部分の撚りピッチよりも大きい。
【0059】
図7は、本発明により実現された電磁コイルシステムについて、第1電気メッシュM1における過電流と第1主コイル部分A1の導体に選択された撚りピッチとの間のシミュレートされた関係を示す。シミュレーションの基礎となる保護ネットワークは、7つの電気メッシュからなる。第1メッシュは、HTSコイル部分と、第1主コイル部分A1としてNb3Sn主コイル部分とを有する。後者について撚りピッチが変更される。シミュレーションでは、例として第2メッシュと第4メッシュのぞれぞれでクエンチが開始した。従来技術から知られている電磁コイルシステムにおける主コイル部分には、通常、撚りピッチが100~200mmの導体が使用される。
図4のグラフは、より大きい撚りピッチ、特に200mmを超える撚りピッチで、第1メッシュにおいて過電流を格段に小さくできることをはっきりと示している。
【0060】
したがって、本発明の思想は、電磁コイルシステム内の重要な(なぜなら遅れて、かつゆっくりとクエンチする為)HTSコイル部分を、保護ネットワークメッシュ(第1メッシュ)において、好ましくは空間的に直接隣接し(径方向に続けて配置し)、急速にクエンチする主コイル部分と一緒に保護するということである。このことは、設計上の少ない手間で達成することができる。第1メッシュにおける第1主コイル部分に付随して生じるクエンチを加速するために、第1主コイル部分に(他のメッシュの他の主コイル部分より)小さい母材抵抗及び/又は大きい撚りピッチを有する導体が使用され、このことは第1メッシュとは別のメッシュでクエンチが生じた場合に急速にクエンチを引き起こすことができる。
【0061】
文献リスト
[01]Martin N.Wilson“Superconducting Magnets”,Oxford Science Publications,1989,p.226ff
[02]独国特許第102009029379号明細書
[03]米国特許第7649720号明細書
[04]米国特許出願公開第2017/0186520号明細書
[05]Peter Komarek“Hochstromanwendung der Supraleitung”,Teubner Stuttgart,1995
[06]Martin Wilson“Lecture2:Magnetization,AC Losses and Filamentary Wires”,Pulsed Superconducting Magnets’CERN Academic Training,May 2006
(https://indico.cern.ch/event/429134/attachments/923303/1306387/CERN_06_lect_2.pdf)
【符号の説明】
【0062】
A0 HTSコイル部分
A1 Nb3Sn導体を有する第1主コイル部分
A1’ NbTi導体を有する第1主コイル部分
A2 Nb3Sn導体を有する第2主コイル部分
A2’ NbTi導体を有する第2主コイル部分
A3 隣接主コイル部分
A4 別の主コイル部分
M1 HTSコイル部分と第1主コイル部分とを備える第1電気メッシュ
M2 隣接主コイル部分と場合によっては別の主コイル部分とを備える第1電気メッシュ
M3 別の主コイル部分を備える別の電気メッシュ
Q1 第1メッシュのクエンチ保護要素
Q2 第2メッシュのクエンチ保護要素