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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】コンプレッサホイール装置および過給機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/056 20060101AFI20221205BHJP
   F04D 29/28 20060101ALI20221205BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
F04D29/056 B
F04D29/28 J
F02B39/00 Q
F02B39/00 U
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021505480
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010716
(87)【国際公開番号】W WO2020183736
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩切 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】二江 貴也
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特公昭52-025562(JP,B2)
【文献】米国特許第05176497(US,A)
【文献】特表2016-500140(JP,A)
【文献】特開2009-208138(JP,A)
【文献】国際公開第2016/079781(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/056
F04D 29/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転シャフトに取り付けられるコンプレッサホイールであって、
ハブと、前記ハブの外周面に設けられた少なくとも一つにブレードと、を含むホイール本体部、及び
前記ハブの背面から軸方向に沿って突出する筒状のスリーブ部であって、外周面に周方向に沿って延在するシール溝を有するスリーブ部、
を含むコンプレッサホイールと、
前記コンプレッサホイールの背面側にて前記回転シャフトに取り付けられるスラストカラーであって、
前記スリーブ部の端面と当接する当接面を含むとともに径方向に沿って延在する一面と、
前記回転シャフトをスラスト方向に支持するスラスト軸受と摺接する摺接面を含むとともに前記径方向に沿って延在する他面と、
を含む円板形状を有するスラストカラーと、を備え
前記ホイール本体部と前記スリーブ部とは、同じ材料により一体的に形成され、
前記ホイール本体部と前記スリーブ部との接続位置は、前記ハブの最大外径をDとしたときに、前記ハブの最大外径位置から前記軸方向において0.03D以上離れるように構成され、
前記接続位置は、前記ハブの最大外径位置から前記軸方向において0.09D以内となるように構成され、
前記コンプレッサホイールには、前記回転シャフトが前記軸方向に沿って挿通可能な貫通孔が形成され、
前記コンプレッサホイールは、前記貫通孔に前記回転シャフトが挿通されて、前記回転シャフトのホイール前縁端から突出した突出部にナットが螺合されることで前記回転シャフトに連結固定される
コンプレッサホイール装置。
【請求項2】
前記シール溝の底面は、前記コンプレッサホイールを収容するハウジングに支持されたシール部材の内周面との間にクリアランスが形成されるように構成された
請求項に記載のコンプレッサホイール装置。
【請求項3】
前記スリーブ部の前記シール溝を含む部分に硬度又は摺動性の少なくとも一方を向上させる表面加工処理が施された
請求項又はに記載のコンプレッサホイール装置。
【請求項4】
前記ホイール本体部と前記スリーブ部との接続部は、前記回転シャフトの軸線を含む断面において、前記コンプレッサホイールの内側に凹となる円弧状に形成されている
請求項1乃至3の何れか1項に記載のコンプレッサホイール装置。
【請求項5】
回転シャフトに取り付けられるコンプレッサホイールであって、
ハブと、前記ハブの外周面に設けられた少なくとも一つにブレードと、を含むホイール本体部、及び
前記ハブの背面から軸方向に沿って突出する筒状のスリーブ部であって、外周面に周方向に沿って延在するシール溝を有するスリーブ部、
を含むコンプレッサホイールと、
前記コンプレッサホイールの背面側にて前記回転シャフトに取り付けられるスラストカラーであって、
前記スリーブ部の端面と当接する当接面を含むとともに径方向に沿って延在する一面と、
前記回転シャフトをスラスト方向に支持するスラスト軸受と摺接する摺接面を含むとともに前記径方向に沿って延在する他面と、
を含む円板形状を有するスラストカラーと、を備え、
前記スリーブ部は、前記ハブの前記背面に形成された凹部に圧入されることで前記ホイール本体部に固結されるように構成される一端部を有し、且つ、前記ホイール本体部よりも耐摩耗性が高い材料により形成され
前記一端部の先端は、前記ハブの最大外径位置よりも前記コンプレッサホイールの背面側に位置するように構成され、
前記一端部の前記先端は、前記ハブの最大外径をDとしたときに、前記ハブの最大外径位置から前記軸方向において0.03D以上離れるように構成され、
前記一端部の前記先端および前記ホイール本体部と前記スリーブ部との接続位置は、前記ハブの最大外径位置から前記軸方向において0.09D以内となるように構成される、
コンプレッサホイール装置。
【請求項6】
前記スリーブ部は、前記回転シャフトが螺合される螺合溝が形成された内周面を有する
請求項に記載のコンプレッサホイール装置。
【請求項7】
前記スラストカラーの前記他面は、前記回転シャフトに取り付けられる第2スラストカラーと当接するカラー当接面をさらに含む
請求項1乃至の何れか1項に記載のコンプレッサホイール装置。
【請求項8】
回転シャフトと、
請求項1乃至の何れか1項に記載のコンプレッサホイール装置と、
前記コンプレッサホイール装置を収容するように構成されたハウジングと、
前記ハウジングに支持されるとともに、前記シール溝との間にシール機構部を形成するように構成されたシール部材と、を備える
過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンプレッサホイールおよびスラストカラーを備えるコンプレッサホイール装置、該コンプレッサホイール装置を備える過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
過給機に搭載されるコンプレッサホイールには、ハブおよび該ハブの外周面に設けられた複数のブレードを含み、ハブを軸方向に貫通する貫通孔が形成されたものがある。上記コンプレッサホイールは、貫通孔に回転シャフトが挿通されて、回転シャフトのホイール前縁端から突出した突出部にナットを螺合することで、回転シャフトに機械的に連結される、いわゆるスルーボア構造となっている。
【0003】
上記スルーボア構造では、上記貫通孔の内周面に応力集中部が発生することが知られている。応力集中部は最大外径部近傍に発生する。例えば、商用車や産業用過給機などに搭載されるコンプレッサは、高圧力比が求められるが、高圧力比化に伴いコンプレッサの出口温度が上昇するため、上記応力集中部におけるクリープ強度が問題となる。クリープ強度を確保するためにコンプレッサホイールにチタンなどの高強度材を採用することは、コスト増加に繋がるので好ましくはない。
【0004】
また、コンプレッサホイールには、上記ハブと上記ブレードとを含むホイール本体部材と、円筒状のスリーブ部材と、を備えるものがある(特許文献1参照)。特許文献1には、ホイール本体部材の裏面中央部にスリーブ部材の軸端面を接触させ、スリーブ部材を回転させることにより発生する熱で接触部が溶融することで、ホイール本体部材とスリーブ部材とが固着されたコンプレッサホイールが開示されている。また、特許文献1には、スリーブ部材の内周面に形成された雌ネジ部に、回転シャフトの先端部を螺合することで、コンプレッサホイールが回転シャフトに機械的に連結される、いわゆるボアレス構造が開示されている。
【0005】
上記ボアレス構造では、上記雌ネジ部を最大外径部近傍よりも背面側に設けることにより、応力集中部の発生を抑制することができるので、上記スルーボア構造に比べて、クリープ強度を高くする必要がない分、材料コストを低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59―200098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記ボアレス構造では、上記スルーボア構造に比べて、コンプレッサホイールの軸方向における長さがスリーブ部材の長さ分だけ長くなるので、コンプレッサの大型化だけでなく、軸振動の増加や危険速度の低下を招く虞がある。コンプレッサの軸方向における長さを短くするために、コンプレッサホイールの背面側にて回転シャフトに取り付けられるスラストカラーをスリーブ部材より大径にして、スリーブ部材に被せるように配置することが考えられるが、スラストカラーの複雑化を招き、過給機の製造コストの増大を招く虞がある。
【0008】
上述した事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、構造の複雑化を防止して、製造コストを低減させることができるコンプレッサホイール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置は、
回転シャフトに取り付けられるコンプレッサホイールであって、
ハブと、上記ハブの外周面に設けられた少なくとも一つにブレードと、を含むホイール本体部、及び
上記ハブの背面から軸方向に沿って突出する筒状のスリーブ部であって、外周面に周方向に沿って延在するシール溝を有するスリーブ部、
を含むコンプレッサホイールと、
上記コンプレッサホイールの背面側にて上記回転シャフトに取り付けられるスラストカラーであって、
上記スリーブ部の端面と当接する当接面を含むとともに径方向に沿って延在する一面と、
上記回転シャフトをスラスト方向に支持するスラスト軸受と摺接する摺接面を含むとともに上記径方向に沿って延在する他面と、
を含む円板形状を有するスラストカラーと、を備える。
【0010】
上記(1)の構成によれば、コンプレッサホイール装置は、ホイール本体部およびスリーブ部を有するコンプレッサホイールと、スラストカラーと、を備える。スラストカラーは、スリーブ部の端面と当接する当接面を含むとともに径方向に沿って延在する一面と、回転シャフトをスラスト方向に支持するスラスト軸受と摺接する摺接面を含むとともに径方向に沿って延在する他面と、を含む円板形状であるため、簡単な構造であり、製造が容易である。また、スラストカラーは、過給機に対して一面と他面とを区別することなく組付け可能であるため、組付け性が良好である。よって、上記の構成によれば、コンプレッサホイール装置の構造の複雑化を防止して、コンプレッサホイール装置の製造コストを低減させることができる。
【0011】
仮に過給機のシール機構部の周長が長いものであると、その分だけ潤滑油が漏洩し易くなるので、潤滑油の漏洩を防止するために、シール機構部の複雑化を招く虞がある。上記(1)の構成によれば、スリーブ部にシール溝を有しているので、上記シール溝を含んで構成される過給機のシール機構部の周長が大きくなるのを防止することができ、シール機構部の複雑化を防止することができる。このため、コンプレッサホイール装置が搭載される過給機の複雑化を防止して、過給機の製造コストを低減させることができる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のコンプレッサホイール装置であって、上記ホイール本体部と上記スリーブ部とは、同じ材料により一体的に形成されている。
【0013】
仮にホイール本体部とスリーブ部が別体であると、ホイール本体部とスリーブ部を組付ける作業が必要となる。上記(2)の構成によれば、ホイール本体部とスリーブ部とが同じ材料により一体的に形成されているので、ホイール本体部とスリーブ部が別体である場合に比べて、組付け性が良好である。また、ホイール本体部とスリーブ部とを一体的に形成する加工は、困難ではないため、加工性が低下する虞はない。よって、上記の構成によれば、コンプレッサホイール装置の製造コストをより低減させることができる。
【0014】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載のコンプレッサホイール装置であって、上記シール溝の底面は、上記コンプレッサホイールを収容するハウジングに支持されたシール部材の内周面との間にクリアランスが形成されるように構成された。
【0015】
一般的に、コンプレッサホイールの軽量化を図るために、コンプレッサホイールの材料としてアルミニウムやアルミニウム合金のような低強度材料が用いられることがある。ホイール本体部とスリーブ部とが一体的に形成されている場合には、スリーブ部が低強度材料となる可能性がある。上記(3)の構成によれば、シール溝の底面は、ハウジングに支持されたシール部材の内周面との間にクリアランスが形成されるように構成されているので、スリーブ部のシール溝が、シール部材に対して摺動して摩耗や損傷することを防止することができる。
【0016】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)に記載のコンプレッサホイール装置であって、上記スリーブ部の上記シール溝を含む部分に硬度又は摺動性の少なくとも一方を向上させる表面加工処理が施された。
【0017】
上述したように、スリーブ部にアルミニウムやアルミニウム合金が用いられる可能性がある。これらの材料を他部材と摺動する可能性があるシール溝に採用した場合には、硬度不足により摩耗や損傷が進展し易かったり、摺動性が悪くカジリが発生し易かったりする可能性がある。上記(4)の構成によれば、スリーブ部のシール溝を含む部分に硬度又は摺動性の少なくとも一方を向上させる表面加工処理が施されているので、シール溝が硬度不足による摩耗や損傷することや、カジリの発生を防止することができる。
【0018】
(5)幾つかの実施形態では、上記(2)~(4)の何れかに記載のコンプレッサホイール装置であって、上記ホイール本体部と上記スリーブ部との接続位置は、上記ハブの最大外径をDとしたときに、上記ハブの最大外径位置から上記軸方向において0.03D以上離れるように構成された。
【0019】
軸方向におけるハブの最大外径位置近傍において遠心応力が極大となる。上記(5)の構成によれば、ホイール本体部とスリーブ部との接続位置は、ハブの最大外径をDとしたときに、ハブの最大外径位置から上記軸方向において0.03D以上離れるように構成されているので、上記接続位置にかかる遠心応力を小さなものにすることができる。上記接続位置にかかる遠心応力を小さくすることで、スリーブ部の外径を小さくできるため、過給機のシール機構部の周長が大きくなるのを防止することができる。
【0020】
(6)幾つかの実施形態では、上記(2)~(5)の何れかに記載のコンプレッサホイール装置であって、上記ホイール本体部と上記スリーブ部との接続部は、上記回転シャフトの軸線方向を含む断面において、上記コンプレッサホイールの内側に凹となる円弧状に形成されている。
【0021】
上記(6)の構成によれば、ホイール本体部とスリーブ部との接続部は、回転シャフトの軸線方向を含む断面において、コンプレッサホイールの内側に凹となる円弧状に形成されているので、上記接続部に応力集中が生じるのを防止することができる。上記接続部に応力集中が生じるのを防止することで、スリーブ部の外径を小さくできるため、過給機のシール機構部の周長が大きくなるのを防止することができる。
【0022】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)~(6)の何れかに記載のコンプレッサホイール装置であって、上記スリーブ部は、上記回転シャフトが螺合される螺合溝が形成された内周面を有する。
【0023】
上記(7)の構成によれば、コンプレッサホイールは、ハブの最大外径位置から離れた位置にあるスリーブ部の内周面に形成された螺合溝に回転シャフトを螺合させることで、回転シャフトに機械的に連結される、いわゆるボアレス構造となっている。上記の構成によれば、応力集中部の発生を抑制することができ、スルーボア構造に比べて、ホイール本体部のクリープ強度を高くする必要がない分、ホイール本体部の材料コストを低減させることができる。
【0024】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のコンプレッサホイール装置であって、上記スリーブ部は、上記ハブの上記背面に形成された凹部に圧入されることで上記ホイール本体部に固結されるように構成される一端部を有し、且つ、上記ホイール本体部よりも耐摩耗性が高い材料により形成されている。
【0025】
上記(8)の構成によれば、スリーブ部の一端部をハブの凹部に圧入すれば、ホイール本体部とスリーブ部が一体となるので、ホイール本体部とスリーブ部を組付ける作業は容易である。また、ホイール本体部とスリーブ部とが一体になった状態で過給機に組付けられるので、組付け性が良好である。よって、上記の構成によれば、ホイール本体部とスリーブ部とを別体にしたことによる製造コストの増加を抑えることができる。また、シール溝を有するスリーブ部がホイール本体部よりも耐摩耗性が高い材料により形成されているので、シール溝の摩耗や損傷を防止することができる。
【0026】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載のコンプレッサホイール装置であって、上記一端部の先端は、上記ハブの最大外径位置よりも上記コンプレッサホイールの背面側に位置するように構成される。
【0027】
上記(9)の構成によれば、スリーブ部の一端部の先端は、ハブの最大外径位置よりもコンプレッサホイールの背面側に位置するように構成されているので、スルーボア構造とは異なり、ホイール本体部における応力集中部の発生を抑制することができる。このため、ホイール本体部のクリープ強度を高くする必要がない分、ホイール本体部の材料コストを低減させることができる。
【0028】
(10)幾つかの実施形態では、上記(8)又は(9)に記載のコンプレッサホイール装置であって、上記スリーブ部は、上記回転シャフトが螺合される螺合溝が形成された内周面を有する。
【0029】
上記(10)の構成によれば、コンプレッサホイールは、スリーブ部の内周面に形成された螺合溝に回転シャフトを螺合させることで、回転シャフトに機械的に連結される。螺合溝を有するスリーブ部は、ホイール本体部よりも耐摩耗性が高い材料により形成されているので、回転シャフトとコンプレッサホイールとの螺合締結を強固なものにすることができる。
【0030】
(11)本発明の少なくとも一実施形態にかかる過給機は、
回転シャフトと、
上記(1)~(10)の何れかに記載のコンプレッサホイール装置と、
上記コンプレッサホイール装置を収容するように構成されたハウジングと、
上記ハウジングに支持されるとともに、上記シール溝との間にシール機構部を形成するように構成されたシール部材と、を備える。
【0031】
上記(11)の構成によれば、過給機は、シール溝を有するスリーブ部を含むコンプレッサホイール装置と、ハウジングに支持されるとともにシール溝との間にシール機構部を形成するシール部材と、を備えるので、シール機構部の周長が大きくなるのを防止することができ、シール機構部の複雑化を防止することができる。よって、上記の構成によれば、過給機の複雑化を防止して、過給機の製造コストを低減させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、構造の複雑化を防止して、製造コストを低減させることができるコンプレッサホイール装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置を備える過給機の軸線に沿った概略断面図である。
図2図1に示すコンプレッサホイール装置のスリーブ部近傍を拡大して示す概略部分拡大断面図である。
図3】他の一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置の図2に相当する概略部分拡大断面図である。
図4】一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置を備える過給機のシール機構部近傍を拡大する概略部分拡大断面図である。
図5】一実施形態におけるシール部材の概略図である。
図6】スルーボア構造のコンプレッサホイールのミーゼス応力分布を示す図である。
図7】ボアレス構造のコンプレッサホイールのミーゼス応力分布を示す図である。
図8】スルーボア構造およびボアレス構造のコンプレッサホイールの中心軸上のミーゼス応力分布を示すグラフである。
図9】他の一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置の図2に相当する概略部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0035】
図1は、一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置を備える過給機の軸線に沿った概略断面図である。図1中矢印は、燃焼用気体(空気)や排ガスの流れる方向を示している。
幾つかの実施形態にかかるコンプレッサホイール装置3は、図1に示されるように、軸線LAに沿って延在する回転シャフト2に取り付けられるコンプレッサホイール4と、コンプレッサホイール4の背面54側(図中右側)にて回転シャフト2に取り付けられるスラストカラー7と、を含む。コンプレッサホイール装置3は、図1に示されるように過給機1に搭載される。
【0036】
幾つかの実施形態にかかる過給機1は、図1に示されるように、上記回転シャフト2と、上記コンプレッサホイール装置3と、回転シャフト2およびコンプレッサホイール装置3を収容するように構成されたハウジング8と、を備える。
【0037】
図示される実施形態では、過給機1は、図1に示されるように、回転シャフト2に取り付けられるタービンホイール9と、回転シャフト2をスラスト方向に支持するように構成されたスラスト軸受10と、回転シャフト2をラジアル方向に支持するように構成されたジャーナル軸受11、12と、他方側スラストカラー13と、インサート14と、オイルディフレクタ15と、スナップリング16と、シール部材17と、をさらに備える自動車用のターボチャージャからなる。スラスト軸受10およびジャーナル軸受11、12の夫々は、回転シャフト2を回転可能に支持している。
【0038】
タービンホイール9は、図1に示されるように、スラストカラー7に対してコンプレッサホイール4とは反対側にて回転シャフト2に取り付けられる。以下、軸線LAが延在する方向を単に軸方向とし、軸線LAに直交する方向を単に径方向とし、軸方向においてコンプレッサホイール4が位置する側(図中左側)を一方側とし、軸方向においてタービンホイール9が位置する側(図中右側)を他方側とする。
【0039】
図示される実施形態では、ハウジング8は、図1に示されるように、コンプレッサホイール4を収容するように構成されたコンプレッサハウジング8Aと、スラスト軸受10およびジャーナル軸受11、12を収容するように構成された軸受ハウジング8Bと、タービンホイール9を収容するように構成されたタービンハウジング8Cと、を含む。
軸受ハウジング8Bは、図1に示されるように、軸方向におけるコンプレッサハウジング8Aとタービンハウジング8Cとの間に配置されている。軸受ハウジング8Bは、不図示の締結装置によって、上記一方側の端部がコンプレッサハウジング8Aに連結固定され、上記他方側の端部がタービンハウジング8Cに連結固定されている。締結装置としては、ボルトやナット、Vクランプなどが挙げられる。
【0040】
過給機1(ターボチャージャ)は、エンジンなどの内燃機関からタービンハウジング8C内に導入された排ガスにより、タービンホイール9を回転させ、回転シャフト2を介してタービンホイール9に機械的に連結されたコンプレッサホイール4を回転させるように構成されている。過給機1(ターボチャージャ)は、コンプレッサホイール4を回転させることで、コンプレッサハウジング8A内に導入された燃焼用気体(空気)を圧縮して圧縮空気を生成して上述した内燃機関に送るように構成されている。
【0041】
図示される実施形態では、タービンハウジング8Cは、図1に示されるように、径方向の外側から排ガスが導入されて、タービンホイール9を回転させた排ガスを軸方向に沿って外側に排出するように構成されている。また、コンプレッサハウジング8Aは、図1に示されるように、軸方向外側から空気が導入されて、コンプレッサホイール4やディフューザ流路を通過した燃焼用気体を径方向に沿って外側に排出するように構成されている。
【0042】
図示される実施形態では、軸受ハウジング8Bは、図1に示されるように、回転シャフト2を軸方向に沿って挿通可能に構成された内部空間81と、軸受ハウジング8Bの外部から内部空間81に潤滑油を流すための給油流路82と、を内部に画定している。
【0043】
内部空間81には、図1に示されるように、スラストカラー7と、スラスト軸受10と、ジャーナル軸受11、12と、他方側スラストカラー13と、インサート14と、オイルディフレクタ15と、スナップリング16と、シール部材17と、が配置されている。ジャーナル軸受11は、ジャーナル軸受12より上記一方側に配置され、且つ、他方側スラストカラー13よりも上記他方側に配置されている。
【0044】
軸受ハウジング8Bは、図1に示されるように、軸受ハウジング8Bの外面83に形成された給油入口821と、軸受ハウジング8Bの段差面84に形成されたスラスト側出口822と、軸受ハウジング8Bの内面85に形成されたジャーナル側出口823、824と、が形成されている。給油入口821から給油流路82に導入された潤滑油の一部は、ジャーナル側出口823、824を通り、ジャーナル軸受11、12を潤滑している。
【0045】
スラスト軸受10は、図1に示されるように、潤滑油を流すための給油導入路101を内部に画定している。スラスト軸受10は、図1に示されるように、スラスト側出口822に連通する給油連絡口102と、給油導入路101を流れる潤滑油を外部に排出するための排出口103と、が形成されている。給油入口821から給油流路82に導入された潤滑油の一部は、スラスト側出口822および給油連絡口102を通り、給油導入路101に導入された後、排出口103を通ってスラスト軸受10の外部に排出され、スラストカラー7および他方側スラストカラー13の夫々と、スラスト軸受10との隙間に導入される。
【0046】
コンプレッサホイール4は、図1に示されるように、ハブ51およびハブ51の外周面52に設けられた少なくとも一つのブレード53を含むホイール本体部5と、ハブ51の背面54から軸方向に沿って突出する筒状のスリーブ部6と、を含む。スリーブ部6は、外周面61に周方向に沿って延在する少なくとも一つのシール溝62を有する。ホイール本体部5およびスリーブ部6は、回転シャフト2と一体的に回転するように構成されている。
【0047】
図示される実施形態では、図1に示されるように、上記少なくとも一つのブレード53は、ハブ51の周方向に互いに間隔をあけて設けられた複数のブレード53を含む。また、スリーブ部6は、ハブ51と同軸上に設けられており、ハブ51の背面54における中央から突出している。ハブ51は、径方向に沿って延在するディスク部51Aと、ディスク部51Aより上記一方側に設けられ、ディスク部51Aより小径のノーズ部51Bと、を含む。スリーブ部6は、ハブ51のディスク部51Aより小径になるように構成されている。
【0048】
図2は、図1に示すコンプレッサホイール装置のスリーブ部近傍を拡大して示す概略部分拡大断面図である。図3は、他の一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置の図2に相当する概略部分拡大断面図である。
【0049】
スラストカラー7は、図2、3に示されるように、厚さ方向(軸方向)における一端(一方側)に位置して径方向に沿って延在する一面71と、厚さ方向における他端(他方側)に位置して径方向に沿って延在する他面72と、を含む円板形状を有する。
一面71は、図2、3に示されるように、スリーブ部6の端面63と当接する当接面71Aを含む。他面72は、図2、3に示されるように、上述したスラスト軸受10の端面104と摺接する摺接面72Aを含む。
【0050】
図2、3に示されるように、スラストカラー7は、厚さ方向に沿って貫通する貫通孔73が形成されており、上記貫通孔73に回転シャフト2が挿通される。スラストカラー7は、回転シャフト2と一体的に回転するように構成されている。スラストカラー7は、他方側スラストカラー13より上記一方側に配置されている。
【0051】
他方側スラストカラー13は、図2、3に示されるように、回転シャフト2が挿通される貫通孔132を有する円筒状の胴体部131と、胴体部131の他方側外周縁部から径方向に沿って突出する鍔部133と、を含む。他方側スラストカラー13は、回転シャフト2と一体的に回転するように構成されている。
【0052】
胴体部131は、図2、3に示されるように、上記一方側に位置する端面134であって、径方向に沿って延在してスラストカラー7の他面72に当接する端面134を有する。換言すると、スラストカラー7の他面72は、摺接面72Aより径方向内側に設けられ、且つ、他方側スラストカラー13の端面134に当接するカラー当接面72Bを含む。
鍔部133は、図2、3に示されるように、上記一方側に位置する段差面135であって、径方向に沿って延在して上述したスラスト軸受10の端面105と摺接する段差面135を有する。
【0053】
スラスト軸受10は、図2、3に示されるように、径方向に沿って延在する板状に形成されており、軸方向に沿って延在して他方側スラストカラー13の胴体部131を緩く挿通させるように構成された挿通孔106が形成されている。また、スラスト軸受10は、図2、3に示されるように、上記一方側に位置して径方向に沿って延在する上述した端面104と、上記他方側に位置して径方向に沿って延在する上述した端面105と、を含む。
【0054】
スラスト軸受10は、軸方向におけるスラストカラー7の摺接面72Aと、他方側スラストカラー13の段差面135との隙間に配置される内周縁部107を有する。
スラスト軸受10は、回転シャフト2にスラスト力が作用した際に、端面104が摺接面72Aに摺接したり、端面105が段差面135に摺接したりすることで、回転シャフト2をスラスト方向に支持している。また、スラスト軸受10の挿通孔106の内面は、回転シャフト2の回転に伴い、他方側スラストカラー13の胴体部131の外周面136に摺接するように構成されている。
【0055】
図示される実施形態では、図2、3に示されるように、上述した給油連絡口102は、端面105に形成され、上述した排出口103は、挿通孔106の内面に形成されている。排出口103から排出された潤滑油は、スラスト軸受10の挿通孔106の内面と他方側スラストカラー13の外周面136との間、スラスト軸受10の端面104とスラストカラー7の摺接面72Aとの間、およびスラスト軸受10の端面105と他方側スラストカラー13の段差面135との間に導入されて、回転シャフト2の回転に伴い液膜を形成する。
【0056】
インサート14は、図2、3に示されるように、軸方向に沿って貫通する貫通孔141を有する環状部材であり、上記貫通孔141にスリーブ部6が緩く挿通されるように構成されている。インサート14は、貫通孔141の内面が、シール溝62を含む外周面61に対して隙間を有して対向するように配置されている。
【0057】
インサート14は、図2、3に示されるように、外周部から軸方向に沿ってスラスト軸受10側に突出する突出部142を有する。突出部142の径方向に沿って延在する他方側の段差面143から突出した先端144が、スラスト軸受10の端面104の外周縁に当接している。
【0058】
軸受ハウジング8Bは、図2、3に示されるように、スラスト軸受10およびインサート14の外周側を覆うように軸方向に沿って延在する被覆部86と、軸方向におけるスラスト軸受10より上記他方側の位置で径方向内側に突出し、径方向に沿って延在する内方突出部87と、を含む。内方突出部87は、スラスト軸受10の端面105に当接する上記段差面84を有する。
【0059】
インサート14の突出部142の上記一方側の後端面145は、図2、3に示されるように、軸受ハウジング8Bの被覆部86に形成された内周溝88に嵌合された円弧状のスナップリング16(移動規制部材)と当接している。インサート14は、スナップリング16により、スラスト軸受10側に押し付けられている。換言すると、スラスト軸受10およびインサート14の夫々は、各々の外周縁部が軸受ハウジング8Bの内方突出部87およびスナップリング16に挟持されている。つまり、スラスト軸受10およびインサート14は、軸受ハウジング8B(ハウジング8)により、回転シャフト2の外周側に支持されている。
【0060】
オイルディフレクタ15は、図2、3に示されるように、インサート14より上記他方側に配置されている。オイルディフレクタ15は、軸方向に沿って貫通する貫通孔151を有する環状部材であり、上記貫通孔151にスリーブ部6が緩く挿通されるように構成されている。
【0061】
オイルディフレクタ15は、図2、3に示されるように、径方向に沿って延在しており、その外周縁部152がインサート14の段差面143と、スラスト軸受10の端面104の外周縁と、の間に挟持されている。つまり、オイルディフレクタ15は、スラスト軸受10およびインサート14を介して、軸受ハウジング8B(ハウジング8)により、回転シャフト2の外周側に支持されている。また、オイルディフレクタ15は、上記他方側の面の内周縁153がスラストカラー7の一面71に摺接するように構成されている。
【0062】
上記一面71は、当接面71Aより径方向外側に設けられ、且つ、オイルディフレクタ15の内周縁153に摺接する摺接面71Bを含む。つまり、スラストカラー7は、図2、3に示されるように、スリーブ部6の外周面61よりも径方向外側に突出する突出部74を有し、突出部74の上記一方側の面が上記摺接面71Bとなる。
【0063】
シール部材17は、図2、3に示されるように、スリーブ部6のシール溝62との間にシール機構部18を形成するように構成されている。シール部材17は、インサート14を介して、軸受ハウジング8B(ハウジング8)により、回転シャフト2の外周側に支持されている。
【0064】
図1、2に示される実施形態では、コンプレッサホイール4には、回転シャフト2が軸方向に沿って挿通可能な貫通孔40が形成されている。貫通孔40は、図1に示されるように、ホイール本体部5を軸方向に沿って貫通する貫通孔57と、貫通孔57に連通するとともにスリーブ部6を軸方向に沿って貫通する貫通孔64と、を含む。コンプレッサホイール4は、貫通孔40に回転シャフト2が挿通されて、回転シャフト2のホイール前縁端から突出した突出部21の外周面に形成された螺合部22(雄ネジ部)に、ナット部材19の内周面に形成された螺合溝191(雌ネジ部)を螺合することで、回転シャフト2に機械的に連結固定されている。つまり、図1、2に示される実施形態におけるコンプレッサホイール4は、いわゆるスルーボア構造となっている。
【0065】
図3に示される実施形態では、コンプレッサホイール4は、スリーブ部6の内周面64Aに形成された螺合溝65(雌ネジ部)に、回転シャフト2の先端部23の外周面に形成された螺合部24(雄ネジ部)を螺合することで、回転シャフト2に機械的に連結固定されている。つまり、図3に示される実施形態におけるコンプレッサホイール4は、いわゆるボアレス構造となっている。
【0066】
幾つかの実施形態にかかるコンプレッサホイール装置3は、図2、3に示されるように、上述したコンプレッサホイール4と、上述したスラストカラー7と、を備える。コンプレッサホイール4は、上述したホイール本体部5と、上述したシール溝62を有するスリーブ部6と、を含み、スラストカラー7は、当接面71Aを含む上述した一面71と、摺接面72Aを含む上述した他面72と、を含む円板形状を有する。
【0067】
上記の構成によれば、コンプレッサホイール装置3は、ホイール本体部5およびスリーブ部6を有するコンプレッサホイール4と、スラストカラー7と、を備える。スラストカラー7は、スリーブ部6の端面63と当接する当接面71Aを含むとともに径方向に沿って延在する上述した一面71と、回転シャフト2をスラスト方向に支持するスラスト軸受10と摺接する摺接面72Aを含むとともに径方向に沿って延在する上述した他面72と、を含む円板形状であるため、簡単な構造であり、製造が容易である。また、スラストカラー7は、過給機1に対して一面71と他面72とを区別することなく組付け可能であるため、組付け性が良好である。よって、上記の構成によれば、コンプレッサホイール装置3の構造の複雑化を防止して、コンプレッサホイール装置3の製造コストを低減させることができる。
【0068】
仮に過給機1のシール機構部18の周長が長いものであると、その分だけ潤滑油が漏洩し易くなるので、潤滑油の漏洩を防止するために、シール機構部18の複雑化を招く虞がある。上記の構成によれば、スリーブ部6にシール溝62を有しているので、シール溝62を含んで構成される過給機1のシール機構部18の周長が大きくなるのを防止することができ、シール機構部18の複雑化を防止することができる。このため、コンプレッサホイール装置3が搭載される過給機1の複雑化を防止して、過給機1の製造コストを低減させることができる。
【0069】
幾つかの実施形態では、図2、3に示されるように、上述したホイール本体部5と上述したスリーブ部6とは、同じ材料により一体的に形成されている。仮にホイール本体部5とスリーブ部6が別体であると、ホイール本体部5とスリーブ部6を組付ける作業が必要となる。上記の構成によれば、ホイール本体部5とスリーブ部6とが同じ材料により一体的に形成されているので、ホイール本体部5とスリーブ部6が別体である場合に比べて、組付け性が良好である。また、ホイール本体部5とスリーブ部6とを一体的に形成する加工は、困難ではないため、加工性が低下する虞はない。よって、上記の構成によれば、コンプレッサホイール装置3の製造コストをより低減させることができる。
【0070】
図4は、一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置を備える過給機のシール機構部近傍を拡大する概略部分拡大断面図である。図5は、一実施形態におけるシール部材の概略図である。
幾つかの実施形態では、図4に示されるように、上述したホイール本体部5と上述したスリーブ部6とは、同じ材料により一体的に形成されている。上述したシール溝62の底面621は、ハウジング8に支持された上述したシール部材17の内周面171との間にクリアランスCが形成されるように構成された。
【0071】
図示される実施形態では、図5に示されるように、シール部材17は、円弧角度が180度以上の円弧状に形成されている。シール部材17は、可撓性を有しており、一方の円弧端173と他方の円弧端174とが近付くように撓ませた状態で、インサート14の貫通孔141に周方向に沿って延在するシール溝146に嵌入されている。シール部材17は、シール部材17の外周面172を径方向外側に広げるように作用する復元力により、シール溝146の底面を押圧することで、インサート14に支持されている。換言すると、シール部材17は、図4に示されるように、インサート14を介して、軸受ハウジング8B(ハウジング8)により、回転シャフト2の外周側に支持されている。
【0072】
図示される実施形態では、図4に示されるように、スリーブ部6は、外周面61とインサート14の貫通孔141とに隙間が形成されるように構成されている。また、スリーブ部6のシール溝62は、他方側に位置する側壁622とシール部材17の他方側に位置する側壁175との間に隙間が形成されるように構成されている。また、スリーブ部6のシール溝62は、一方側に位置する側壁623とシール部材17の一方側に位置する側壁176との間に隙間が形成されるように構成されている。
【0073】
一般的に、コンプレッサホイール4の軽量化を図るために、コンプレッサホイール4の材料としてアルミニウムやアルミニウム合金のような低強度材料が用いられることがある。ホイール本体部5とスリーブ部6とが一体的に形成されている場合には、スリーブ部6が低強度材料となる可能性がある。上記の構成によれば、シール溝62の底面621は、ハウジング8に支持されたシール部材17の内周面171との間にクリアランスCが形成されるように構成されているので、スリーブ部6のシール溝62が、シール部材17に対して摺動して摩耗や損傷することを防止することができる。
【0074】
なお、他の幾つかの実施形態では、ホイール本体部5とスリーブ部6とが別体である場合において、シール溝62は、上述したクリアランスCが形成されるように構成されていてもよい。
幾つかの実施形態では、図4に示されるように、上述したホイール本体部5と上述したスリーブ部6とは、同じ材料により一体的に形成されている。上述したスリーブ部6のシール溝62を含む部分には、硬度又は摺動性の少なくとも一方を向上させる表面加工処理が施されている。
【0075】
上記表面加工処理には、化成処理、メッキ処理、アルマイト処理、テフロン(登録商標)加工処理、テフロン含侵処理、又はこれらの組み合わせの少なくとも一つが含まれる。
メッキ処理としては、硬度を向上させるニッケルメッキ、亜鉛メッキ、無電解ニッケルメッキ、又は、硬度および摺動性を向上させるカニフロンメッキ(テフロン複合無電解ニッケルメッキ)、無電解ニッケルホウ素メッキなどが挙げられる。
【0076】
上述したように、スリーブ部6にアルミニウムやアルミニウム合金が用いられる可能性がある。これらの材料を他部材と摺動する可能性があるシール溝62に採用した場合には、硬度不足により摩耗や損傷が進展し易かったり、摺動性が悪くカジリが発生し易かったりする可能性がある。上記の構成によれば、スリーブ部6のシール溝62を含む部分に硬度又は摺動性の少なくとも一方を向上させる表面加工処理が施されているので、シール溝62が硬度不足による摩耗や損傷することや、カジリの発生を防止することができる。
【0077】
幾つかの実施形態では、図2、3に示されるように、上述したホイール本体部5と上述したスリーブ部6とは、同じ材料により一体的に形成されている。上述したホイール本体部5と上述したスリーブ部6との接続位置P1は、上述したハブ51の最大外径をD(図1参照)としたときに、ハブ51の最大外径位置P2から軸方向において0.03D(3%D)以上離れるように構成されている。
図示される実施形態では、図2、3に示されるように、最大外径位置P2は、ディスク部51Aの他方側縁に位置している。換言すると、最大外径位置P2は、ホイール本体部5の背面54の外周縁に位置している。また、図示される実施形態では、接続位置P1は、ハブ51の最大外径位置P2から軸方向において0.09D(9%D)以内になるように構成されている。この場合には、コンプレッサホイール4の軸方向における長さが長くなることを防止することができる。
【0078】
図6は、スルーボア構造のコンプレッサホイールのミーゼス応力分布を示す図である。図7は、ボアレス構造のコンプレッサホイールのミーゼス応力分布を示す図である。図8は、スルーボア構造およびボアレス構造のコンプレッサホイールの中心軸上のミーゼス応力分布を示すグラフである。図6~8の夫々は、強度解析結果により得られたものである。
【0079】
図6に示されるように、スルーボア構造のコンプレッサホイール4Aは、最大外径位置P2の径方向内側に孔57A(貫通孔57に相当)が形成され、孔57Aの内周面近傍に内周側応力集中部56が生じている。
図7に示されるように、ボアレス構造のコンプレッサホイール4Bは、最大外径位置P2の径方向内側に孔57Aが形成されていないので、上記内周側応力集中部56が生じていない。
【0080】
また、図6、7に示されるように、コンプレッサホイール4A、4Bの夫々は、最大外径位置P2の径方向内側に位置する背面54近傍に背面側応力集中部58が生じている。上記背面側応力集中部58は、ハブ51の最大外径位置P2から軸方向において0.03D(3%D)以上離れた位置には生じていない。
【0081】
図8に示されるように、最大外径位置P2で発生する応力(ピーク応力)に対して、ハブ51の最大外径位置P2から軸方向において0.03D(3%D)離れた位置における応力は、上記ピーク応力の50%以下となっている。
【0082】
軸方向におけるハブ51の最大外径位置P2近傍において遠心応力が極大となる。上記の構成によれば、ホイール本体部5とスリーブ部6との接続位置P1は、ハブ51の最大外径をDとしたときに、ハブ51の最大外径位置P2から軸方向において0.03D以上離れるように構成されているので、接続位置P1にかかる遠心応力を小さなものにすることができる。接続位置P1にかかる遠心応力を小さくすることで、スリーブ部6の外径を小さくできるため、過給機1のシール機構部18の周長が大きくなるのを防止することができる。
【0083】
幾つかの実施形態では、図2、3に示されるように、上述したホイール本体部5と上述したスリーブ部6とは、同じ材料により一体的に形成されている。上述したホイール本体部5と上述したスリーブ部6との接続部41は、回転シャフト2の軸線方向を含む断面において、コンプレッサホイール4の内側に凹となる円弧状に形成されている。
【0084】
上記の構成によれば、ホイール本体部5とスリーブ部6との接続部41は、回転シャフト2の軸線方向を含む断面において、コンプレッサホイール4の内側に凹となる円弧状に形成されているので、接続部41に応力集中が生じるのを防止することができる。接続部41に応力集中が生じるのを防止することで、スリーブ部6の外径を小さくできるため、過給機1のシール機構部18の周長が大きくなるのを防止することができる。
【0085】
上述したように、幾つかの実施形態では、上述したスリーブ部6は、図3に示されるように、回転シャフト2が螺合される螺合溝65が形成された内周面64Aを有する。
【0086】
上記の構成によれば、コンプレッサホイール4は、ハブ51の最大外径位置P2から離れた位置にあるスリーブ部6の内周面64Aに形成された螺合溝65に、回転シャフト2を螺合させることで、回転シャフト2に機械的に連結される、いわゆるボアレス構造となっている。上記の構成によれば、上述した内周側応力集中部56(応力集中部)の発生を抑制することができ、スルーボア構造に比べて、ホイール本体部5のクリープ強度を高くする必要がない分、ホイール本体部5の材料コストを低減させることができる。
【0087】
上述した幾つかの実施形態では、ホイール本体部5とスリーブ部6とは、同じ材料により一体的に形成されていたが、他の幾つかの実施形態では、ホイール本体部5とスリーブ部6は別体であってもよく、ホイール本体部5とスリーブ部6の夫々は、別々の材料により形成されていてもよい。
【0088】
図9は、他の一実施形態にかかるコンプレッサホイール装置の図2に相当する概略部分拡大断面図である。
【0089】
幾つかの実施形態では、図9に示されるように、上述したスリーブ部6は、ハブ51の背面54に形成された凹部55に圧入されることで、ホイール本体部5に固結されるように構成される一端部66を有し、且つ、ホイール本体部5よりも耐摩耗性が高い材料により形成されている。
図示される実施形態では、一端部66は、図9に示されるように、スリーブ部6のシール溝62が形成された外周面61より小径の外周面を有する。
【0090】
上記の構成によれば、スリーブ部6の一端部66をハブ51の凹部55に圧入すれば、ホイール本体部5とスリーブ部6が一体となるので、ホイール本体部5とスリーブ部6を組付ける作業は容易である。また、ホイール本体部5とスリーブ部6とが一体になった状態で過給機1に組付けられるので、組付け性が良好である。よって、上記の構成によれば、ホイール本体部5とスリーブ部6とを別体にしたことによる製造コストの増加を抑えることができる。また、シール溝62を有するスリーブ部6がホイール本体部5よりも耐摩耗性が高い材料により形成されているので、シール溝62の摩耗や損傷を防止することができる。
【0091】
幾つかの実施形態では、図9に示されるように、ホイール本体部5とスリーブ部6とが別体である。上述した一端部66の先端661は、ハブ51の最大外径位置P2よりもコンプレッサホイール4の背面54側(上記他方側)に位置するように構成される。
図示される実施形態では、上述した一端部66の先端661は、ハブ51の最大外径位置P2から軸方向において0.03D(3%D)以上離れるように構成されている。また、図示される実施形態では、先端661は、ハブ51の最大外径位置P2から軸方向において0.09D(9%D)以内になるように構成されている。この場合には、コンプレッサホイール4の軸方向における長さが長くなることを防止することができる。
【0092】
上記の構成によれば、スリーブ部6の一端部66の先端661は、ハブ51の最大外径位置P2よりもコンプレッサホイール4の背面54側に位置するように構成されているので、スルーボア構造とは異なり、ホイール本体部5における上述した内周側応力集中部56(応力集中部)の発生を抑制することができる。このため、ホイール本体部5のクリープ強度を高くする必要がない分、ホイール本体部5の材料コストを低減させることができる。
【0093】
幾つかの実施形態では、図9に示されるように、ホイール本体部5とスリーブ部6とが別体である。上述したスリーブ部6は、回転シャフト2が螺合される螺合溝65が形成された内周面64Aを有する。
【0094】
上記の構成によれば、コンプレッサホイール4は、スリーブ部6の内周面64Aに形成された螺合溝65に回転シャフト2を螺合させることで、回転シャフト2に機械的に連結される。螺合溝65を有するスリーブ部6は、ホイール本体部5よりも耐摩耗性が高い材料により形成されているので、回転シャフト2とコンプレッサホイール4との螺合締結を強固なものにすることができる。
【0095】
幾つかの実施形態にかかる過給機1は、図1に示されるように、上述した回転シャフト2と、上述したコンプレッサホイール装置3と、コンプレッサホイール装置3を収容するように構成された上述したハウジング8と、ハウジング8に支持されるとともに、シール溝62との間にシール機構部18を形成するように構成された上述したシール部材17と、を備える。
【0096】
上記の構成によれば、過給機1は、シール溝62を有するスリーブ部6を含むコンプレッサホイール装置3と、ハウジング8に支持されるとともにシール溝62との間にシール機構部18を形成するシール部材17と、を備えるので、シール機構部18の周長が大きくなるのを防止することができ、シール機構部18の複雑化を防止することができる。よって、上記の構成によれば、過給機1の複雑化を防止して、過給機1の製造コストを低減させることができる。
【0097】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0098】
上述した幾つかの実施形態では、過給機1としてコンプレッサホイール4と、タービンホイール9とを備えるターボチャージャを例に説明したが、過給機1は、ターボチャージャに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、過給機1は、ターボチャージャ以外の過給機であってもよい。また、過給機1は、上述したタービンホイール9を備えない構成にしてもよい。タービンホイール9を備えない過給機1としては、不図示の電動機によりコンプレッサホイール4を回転させるように構成された電動コンプレッサなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0099】
1 過給機
2 回転シャフト
3 コンプレッサホイール装置
4,4A,4B コンプレッサホイール
5 ホイール本体部
6 スリーブ部
7 スラストカラー
8 ハウジング
8A コンプレッサハウジング
8B 軸受ハウジング
8C タービンハウジング
9 タービンホイール
10 スラスト軸受
11,12 ジャーナル軸受
13 タービン側スラストカラー
14 インサート
15 オイルディフレクタ
16 スナップリング
17 シール部材
18 シール機構部
19 ナット部材
21 突出部
22,24 螺合部
23 先端部
40 貫通孔
41 接続部
51 ハブ
51A ディスク部
51B ノーズ部
52 外周面
53 ブレード
54 背面
55 凹部
56 内周側応力集中部
57 貫通孔
57A 孔
58 背面側応力集中部
61 外周面
62 シール溝
63 端面
64 貫通孔
64A 内周面
65 螺合溝
66 一端部
71 一面
71A,72B 当接面
71B,72A 摺接面
72 他面
73 貫通孔
74 突出部
81 内部空間
82 給油流路
83 外面
84 段差面
85 内面
86 被覆部
87 内方突出部
88 内周溝
C クリアランス
LA 軸線
P1 接続位置
P2 最大外径位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9