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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】成形装置及び成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 53/04 20060101AFI20221205BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20221205BHJP
   B29C 70/54 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
B29C53/04
B29C70/06
B29C70/54
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021555636
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2019044150
(87)【国際公開番号】W WO2021095097
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 了太
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐樹
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-006345(JP,B1)
【文献】特開平01-139236(JP,A)
【文献】実開平01-147227(JP,U)
【文献】特開昭63-068226(JP,A)
【文献】特開2016-120605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
B29C 43/00 - 43/58
B29C 53/00 - 53/36
B29C 70/00 - 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が円弧形状を有するマンドレルと、
断面が円形状を有し、前記マンドレルの表面に沿って移動可能であり、前記マンドレルに載置された複合材である被成形材料に対して押圧力を付与するローラと、
前記マンドレルに対して前記ローラよりも外側で前記被成形材料を把持し、前記被成形材料に対して引っ張り力を付与する把持部と、
前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるローラ駆動部と、
前記把持部を移動させる把持部駆動部と、
前記ローラの位置と前記把持部の位置を同期させて、前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料が、前記マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置されるように、前記ローラ駆動部と前記把持部駆動部を制御する制御部と、
を備える成形装置。
【請求項2】
前記把持部によって、前記マンドレルに沿って賦形される前の前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料に対して引っ張り力が付与されている請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料が前記マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置されることにより、賦形開始からある時刻までの間において前記マンドレルに沿って賦形された前記被成形材料の周長差と、前記ある時刻において前記ローラに沿って配置された前記被成形材料の周長差は等しくされている請求項1又は2に記載の成形装置。
【請求項4】
前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料が前記マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置されることにより、賦形開始からある時刻までの間において前記マンドレルに沿って賦形された前記被成形材料の周長差と、賦形時におけるある微小な時間間隔で前記被成形材料において生じる周長差は等しくされている請求項1から3のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項5】
断面が円弧形状を有するマンドレルと、断面が円形状を有し、前記マンドレルの表面に沿って移動可能であり、前記マンドレルに載置された複合材である被成形材料に対して押圧力を付与するローラと、前記マンドレルに対して前記ローラよりも外側で前記被成形材料を把持し、前記被成形材料に対して引っ張り力を付与する把持部と、前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるローラ駆動部と、前記把持部を移動させる把持部駆動部とを備える成形装置を用いた成形方法であって、
前記ローラが前記マンドレルに載置された前記被成形材料に対して押圧力を付与するステップと、
前記把持部が前記被成形材料に対して引っ張り力を付与するステップと、
前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるステップと、
前記把持部を移動させるステップと、
前記ローラの位置と前記把持部の位置を同期させて、前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料を、前記マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置させるステップと、
を有する成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成形装置及び成形方法、特に複合材の材料である強化繊維シートを賦形する成形装置及び成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の胴体構造の材料として、複合材、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられる場合がある。CFRPを成形して成型品を形成する際、プリプレグなどの強化繊維シートが積層される。成形品が航空機の胴体スキンのような曲面形状(コンタ形状)を有する場合、フラットに積層された積層体を曲げる(賦形する)ことによって曲面形状を形成する方法がある。
【0003】
図9に示すように、強化繊維シートが積層された積層体20を曲げるとき、各強化繊維シート間に粘性抵抗による内部応力が生じる。そのため、図9(B)に示すように、内部応力を解放して層間すべりを適切に生じさせ、変形後に強化繊維シートが所定のずれ量でずれた状態で配置される必要がある。層間すべり性を向上させるため、賦形後に加温し、積層体を構成する合成樹脂の粘度を低下させている。
【0004】
下記の特許文献1では、加熱された炭素繊維熱可塑性樹脂のプリフォームをローラによって圧密しながら冷却する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第10166729号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
胴体スキンのような大型構造物を形成する場合において、フラットに積層された積層体を賦形するとき、各強化繊維シートの全面にわたって層間すべりを生じさせる必要がある。この場合、層間すべりを生じさせる領域が非常に広範囲にわたるため、積層体を曲げるときに発生する層間粘性抵抗が非常に大きくなる。その結果、各強化繊維シートが適切なずれ量でずれないため、リンクル(皺)等が発生しやすく、品質低下を招くおそれがある。従来、リンクル等の発生を防止するためには、長時間かけて賦形する必要があり、生産性が低下し、コストが多くかかるという問題があった。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、強化繊維シートを効率良く賦形することができ、層間すべりを適切に発生させることが可能な成形装置及び成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の成形装置及び成形方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本開示に係る成形装置は、断面が円弧形状を有するマンドレルと、断面が円形状を有し、前記マンドレルの表面に沿って移動可能であり、前記マンドレルに載置された複合材である被成形材料に対して押圧力を付与するローラと、前記マンドレルに対して前記ローラよりも外側で前記被成形材料を把持し、前記被成形材料に対して引っ張り力を付与する把持部と、前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるローラ駆動部と、前記把持部を移動させる把持部駆動部と、前記ローラの位置と前記把持部の位置を同期させて、前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料が、前記マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置されるように、前記ローラ駆動部と前記把持部駆動部を制御する制御部とを備える。
【0009】
本開示に係る成形方法は、断面が円弧形状を有するマンドレルと、断面が円形状を有し、前記マンドレルの表面に沿って移動可能であり、前記マンドレルに載置された複合材である被成形材料に対して押圧力を付与するローラと、前記マンドレルに対して前記ローラよりも外側で前記被成形材料を把持し、前記被成形材料に対して引っ張り力を付与する把持部と、前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるローラ駆動部と、前記把持部を移動させる把持部駆動部とを備える成形装置を用いた成形方法であって、前記ローラが前記マンドレルに載置された被成形材料に対して押圧力を付与するステップと、前記把持部が前記被成形材料に対して引っ張り力を付与するステップと、前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるステップと、前記把持部を移動させるステップと、前記ローラの位置と前記把持部の位置を同期させて、前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料を、前記マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置させるステップとを有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、強化繊維シートを効率良く賦形することができ、層間すべりを適切に発生させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る成形装置を示す正面図であり、賦形前の状態をしている。
図2】本開示の一実施形態に係る成形装置を示す正面図であり、賦形時の状態を示している。
図3】本開示の一実施形態に係る成形装置を示す正面図であり、賦形後の状態をしている。
図4】賦形されている強化繊維シートを示す横断面図であり、局所的な層間すべりが生じている部分を示している。
図5】本開示の一実施形態に係る成形装置を示すブロック図である。
図6】本開示の一実施形態に係る成形装置と賦形されている強化繊維シートを示す説明図である。
図7図6の部分拡大図である。
図8図6の部分拡大図である。
図9】従来の成形方法による賦形前(図9(A))及び賦形後(図9(B))の強化繊維シートを示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
本実施形態に係る成形装置1は、複合材、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を成形する際に用いられ、特に、積層された複数の強化繊維シートを曲げる(賦形する)工程に適用される。強化繊維シートは、本開示に係る被成形材料の一例である。強化繊維シートは、例えば、プリプレグ、ドライファイバーなどである。本開示に係る成形装置1は、熱硬化性樹脂を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の成形品を形成する場合と、熱可塑性樹脂を用いたCFRPの成形品を形成する場合のいずれにおいても適用可能である。
【0014】
成形装置1は、図1図3に示すように、把持部駆動部2と、把持部3と、マンドレル4と、ローラ5などを備える。また、図5に示すように、成形装置1は、制御部6と、ローラ駆動部7を更に備える。
【0015】
図1図3に示すように、マンドレル4は、断面が円弧形状を有し、円弧面にプリプレグなどの強化繊維シート10が載置される。強化繊維シート10は、被成形材料の一例である。強化繊維シート10は、マンドレル4上でローラ5によって押圧されることで、マンドレル4の円弧面に沿った形状に賦形される。
【0016】
ローラ5は、断面が円形状を有し、マンドレル4の表面に沿って転動しながら移動可能である。ローラ5は、マンドレル4に載置された強化繊維シート10に対して押圧力を付与する。ローラ5は、マンドレル4の円の中心を通過する鉛直線(中心線)を中心にして、左右に一つずつ合計二つ設置される。
【0017】
把持部3は、マンドレル4に対してローラ5よりも外側で強化繊維シート10を把持する。また、把持部3は、強化繊維シート10に対して引っ張り力を付与する。把持部3は、マンドレル4の鉛直線(中心線)を中心にして、左右に一つずつ合計二つ設置される。なお、ローラ5と把持部3は、いずれも、後述するとおり、ローラ5の位置と把持部3の位置を同期させることができれば、それぞれ二つ以上設置されてもよい。把持部3によって、マンドレル4に沿って賦形される前のローラ5と把持部3との間の強化繊維シート10に対して引っ張り力が付与される。これにより、ローラ5に沿って被成形材料が確実に配置されるため、ローラ5の移動によるローラ5の位置の違いに関わらず、ローラ5と接している強化繊維シート10の周長差がゼロになる。
【0018】
ローラ駆動部7は、ローラ5をマンドレル4の表面に沿って移動させる構成を有する。ローラ駆動部7は、制御部6から受信する駆動信号に基づいて、ローラ5の位置を調整する。
【0019】
把持部駆動部2は、把持部3をマンドレル4の鉛直線に対して平行方向、すなわち、上下方向に移動させる。把持部駆動部2は、制御部6から受信する駆動信号に基づいて、把持部3の位置を調整する。把持部駆動部2は、各把持部3に対して一つずつ設けられる。
【0020】
制御部6は、ローラ5の位置と把持部3の位置を同期させて、ローラ5と把持部3との間の強化繊維シート10が、マンドレル4の鉛直方向に対して垂直方向、すなわち、水平方向に配置されるように、ローラ駆動部7と把持部駆動部2を制御する。制御部6は、ローラ5の移動に関する駆動信号を生成して、ローラ駆動部7に駆動信号を送信する。また、制御部6は、把持部3の移動に関する駆動信号を生成して、把持部駆動部2に駆動信号を送信する。
【0021】
次に、本実施形態に係る成形装置1の動作について説明する。
まず、図1に示すように、強化繊維シート10が水平方向に配置されるように把持部3によって把持される。そして、把持部駆動部2が把持部3を下方向に移動させ、強化繊維シート10をマンドレル4上に配置する。このとき、把持部3は、強化繊維シート10に対して引っ張り力を付与する。
【0022】
そして、図2に示すように、ローラ駆動部7がローラ5をマンドレル4の中心から外側へ向かってマンドレル4の表面に沿って移動させる。このとき、ローラ5は、強化繊維シート10に対して押圧力を付与する。これにより、強化繊維シート10がマンドレル4の最上端から下方へ向かって徐々に曲げられてマンドレル4の形状に沿った形に賦形される。なお、ローラ5による賦形を開始するとき、すなわち、マンドレル4の最上端において、ローラ5は、二つではなく、一つのみを用いて賦形を行ってもよい。熱可塑性樹脂を用いたCFRPの成形品を形成する場合、ローラ5による押圧では、強化繊維シート10を曲げつつ、強化繊維シート10を冷却させてもよい。
【0023】
強化繊維シート10の端部までローラ5による賦形が完了すると、図3に示すように、把持部3による強化繊維シート10の把持が解除される。そして、ローラ5は、強化繊維シート10の端部をマンドレル4に沿って変形させる。
【0024】
上述した賦形時において、ローラ5の位置と把持部3の位置を同期させて、ローラ5と把持部3の間の強化繊維シート10が常に水平方向となるように調整される。
【0025】
上記方法によって強化繊維シート10を賦形させる場合、図4に示すように、ある微小な時間間隔ΔTにおいて層間すべりが生じる領域は、例えば図4の領域10aのみとなる。図4では、図4(A)に示した時刻t= における領域10aが、図4(B)に示した時刻t= +ΔTにおいてマンドレル4上で賦形されていることを示している。したがって、ある微小な時間間隔ΔTにおいて層間すべりが生じる領域が局所的に抑えられる。
【0026】
以下、図6図8を参照して、層間すべりが生じる領域が局所的になることについて詳細に説明する。図7及び図8は、図6の部分拡大図である。
ローラ5の位置と把持部3の位置が調整され、ローラ5と把持部3との間の強化繊維シート10が、マンドレル4の鉛直方向に対して垂直方向、すなわち、水平方向に配置されるため、賦形開始からある時刻 までの間においてマンドレル4に沿って賦形された強化繊維シート10の周長差と、ある時刻 においてローラ5に沿って配置された強化繊維シート10の周長差は等しい。
【0027】
ここで、マンドレル4における強化繊維シート10の周長差とは、賦形開始からある時刻 までの間においてマンドレル4と接している強化繊維シート10のマンドレル4側(内面側)の長さ(図7の領域Aの一点鎖線部)と、マンドレル4とは反対側(外面側)の長さ(図7の領域Aの二点鎖線部)の差である。マンドレル4における強化繊維シート10の周長差は、マンドレル4の径と強化繊維シート10の板厚tによって生じ、下記の式(1)によって表される。ここで、Rはマンドレル4の半径であり、θは時刻 におけるマンドレル4の鉛直線と、マンドレル4の中心とローラ5の中心を結ぶ線とのなす角である。
【0028】
【数1】
【0029】
また、ローラ5における強化繊維シート10の周長差とは、ある時刻 においてローラ5と接している強化繊維シート10のローラ5側(内面側)の長さ(図7の領域Bの太実線部)と、ローラ5とは反対側(外面側)の長さ(図7の領域Bの破線部)の差である。ローラ5における強化繊維シート10の周長差は、ローラ5の径と強化繊維シート10の板厚tによって生じ、下記の式(2)によって表される。ここで、rはローラ5の半径である。
【0030】
【数2】
【0031】
すなわち、マンドレル4に沿って賦形された強化繊維シート10(図7の領域A)で生じる周長差(式(1))は、ローラ5に沿って配置された強化繊維シート10(図7の領域B)で生じている周長差でキャンセルされるため、ある時刻 において、強化繊維シート10全体の周長差はゼロとなって、相殺されている。
【0032】
また、賦形開始からある時刻 までの間においてマンドレル4に沿って賦形された強化繊維シート10(図8の領域A)の周長差と、賦形時におけるある微小な時間間隔ΔTでの強化繊維シート10(図8の領域C)で生じる周長差が等しい。
【0033】
ここで、マンドレル4に沿って賦形された強化繊維シート10の周長差とは、賦形開始からある時刻 までの間においてマンドレル4と接している強化繊維シート10のマンドレル4側(内面側)の長さ(図8の領域Aの一点鎖線部)とマンドレル4とは反対側(外面側)の長さ(図8の領域Aの二点鎖線部)の差である。
【0034】
すでに賦形されている強化繊維シート10(図8の領域A)の周長差は、上記の式(1)で表される。
【0035】
また、賦形時におけるある微小な時間間隔ΔTでの強化繊維シート10(図8の領域C)で生じる周長差とは、ある微小な時間間隔ΔTでローラ5が接する強化繊維シート10のローラ5側(内面側)の長さ(図8の領域Cの太実線部)と、ローラ5とは反対側(外面側)の長さ(図8の領域Cの破線部)の差である。
【0036】
賦形時におけるある微小な時間間隔ΔTで生じる周長差(図8の領域C)は、下記の式(3)で表される。ここで、Δθは、微小な時間間隔ΔTにおける、マンドレル4の鉛直線と、マンドレル4の中心とローラ5の中心を結ぶ線とのなす角の変化量である。
【0037】
【数3】
【0038】
すなわち、周長差の差は、すでに賦形されている強化繊維シート10の周長差とある微小な時間間隔ΔTで賦形される強化繊維シート10の周長差が等しいため、ゼロになる(相殺される)。
【0039】
以上より、(1)ある時刻 において、強化繊維シート10全体の周長差は相殺される。(2)ある時刻 までにすでに賦形されている強化繊維シート10(図8の領域A)の周長差は、ある微小な時間間隔ΔTで賦形される強化繊維シート10の周長差と等しく、相殺される。したがって、ある微小な時間間隔ΔTで賦形される強化繊維シート10のみで層間すべりが生じている。一方、これから賦形される未賦形の強化繊維シート10では層間すべりが生じていない。よって、ある時刻 から時刻 +ΔTの時間変化の際に生じる層間すべりは、ローラ5が通過した局所的な領域で起こっている。
【0040】
以上、本実施形態によれば、胴体スキンのような大型構造物を形成する場合であっても、強化繊維シートの全面にわたって層間すべりを生じさせる従来の方法と異なり、局所的に層間すべりが生じることから、リンクル等の発生を防止又は低減でき、品質低下リスクを低減できる。また、長時間かけて賦形する必要がないため、効率良く賦形を行うことができる。
【0041】
以上説明した実施形態に記載の成形装置は例えば以下のように把握される。
本開示に係る成形装置(1)は、断面が円弧形状を有するマンドレル(4)と、断面が円形状を有し、前記マンドレルの表面に沿って移動可能であり、前記マンドレルに載置された被成形材料(10)に対して押圧力を付与するローラ(5)と、前記マンドレルに対して前記ローラよりも外側で前記被成形材料を把持し、前記被成形材料に対して引っ張り力を付与する把持部(3)と、前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるローラ駆動部(7)と、前記把持部を移動させる把持部駆動部(2)と、前記ローラの位置と前記把持部の位置を同期させて、前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料が、前記マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置されるように、前記ローラ駆動部と前記把持部駆動部を制御する制御部(6)とを備える。
【0042】
この構成によれば、被成形材料が把持部によって引っ張られながら、マンドレルとローラによって賦形される。ローラは、マンドレルの表面に沿って移動し、把持部は、ローラと同期しながら移動する。このとき、ローラ駆動部と把持部駆動部が制御されて、ローラと把持部との間の被成形材料が、マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置されるように、ローラの位置と把持部の位置が調整される。
【0043】
このように、ローラの位置と把持部の位置が調整され、ローラと把持部との間の被成形材料が、マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向、すなわち、水平方向に配置されるため、賦形開始からある時刻 までの間においてマンドレルに沿って賦形された被成形材料の周長差と、ある時刻 におけるローラに沿って配置された被成形材料の周長差は等しい。ここで、マンドレルにおける被成形材料の周長差とは、マンドレルと接している被成形材料のマンドレル側(内面側)の長さとマンドレルとは反対側(外面側)の長さの差である。また、ローラにおける被成形材料の周長差とは、ローラと接している被成形材料のローラ側(内面側)の長さとローラとは反対側(外面側)の長さの差である。すなわち、マンドレルに沿って賦形された被成形材料で生じる周長差は、ローラに沿って配置された被成形材料で生じている周長差でキャンセルされるため、ある時刻 において、被成形材料全体の周長差はゼロとなっている。
【0044】
また、すでに賦形されている被成形材料の周長差と、ある微小な時間間隔において被成形材料で生じる周長差が等しい。すなわち、周長差の差は、すでに賦形されている被成形材料とある微小な時間間隔で賦形される被成形材料でゼロになる。したがって、ある微小な時間間隔で賦形される被成形材料のみで層間すべりが生じており、これから賦形される未賦形の被成形材料では層間すべりが生じていない。
【0045】
本開示に係る成形装置において、前記把持部によって、前記マンドレルに沿って賦形される前の前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料に対して引っ張り力が付与されることが望ましい。
【0046】
この構成によれば、ローラに沿って被成形材料が確実に配置されるため、ローラの移動によるローラの位置の違いに関わらず、ローラと接している被成形材料の周長差がゼロになる。
【0047】
本開示に係る成形装置において、賦形開始からある時刻までの間において前記マンドレルに沿って賦形された前記被成形材料の周長差と、前記ある時刻において前記ローラに沿って配置された前記被成形材料の周長差は等しいことが望ましい。
【0048】
この構成によれば、マンドレルに沿って賦形された被成形材料で生じる周長差は、ローラに沿って配置された被成形材料で生じている周長差でキャンセルされるため、ある時刻 において、被成形材料全体の周長差はゼロとなっている。
【0049】
本開示に係る成形装置において、賦形開始からある時刻までの間において前記マンドレルに沿って賦形された前記被成形材料の周長差と、賦形時におけるある微小な時間間隔で前記被成形材料において生じる周長差は等しいことが望ましい。
【0050】
この構成によれば、周長差の差は、すでに賦形されている被成形材料とある微小な時間間隔で賦形される被成形材料でゼロになる。したがって、ある微小な時間間隔で賦形される被成形材料のみで層間すべりが生じており、これから賦形される未賦形の被成形材料では層間すべりが生じていない。
【0051】
本開示に係る成形方法は、断面が円弧形状を有するマンドレルと、断面が円形状を有し、前記マンドレルの表面に沿って移動可能であり、前記マンドレルに載置された被成形材料に対して押圧力を付与するローラと、前記マンドレルに対して前記ローラよりも外側で前記被成形材料を把持し、前記被成形材料に対して引っ張り力を付与する把持部と、前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるローラ駆動部と、前記把持部を移動させる把持部駆動部とを備える成形装置を用いた成形方法であって、前記ローラが前記マンドレルに載置された前記被成形材料に対して押圧力を付与するステップと、前記把持部が前記被成形材料に対して引っ張り力を付与するステップと、前記ローラを前記マンドレルの表面に沿って移動させるステップと、前記把持部を移動させるステップと、前記ローラの位置と前記把持部の位置を同期させて、前記ローラと前記把持部との間の前記被成形材料を、前記マンドレルの鉛直方向に対して垂直方向に配置させるステップとを有する。
【符号の説明】
【0052】
1 :成形装置
2 :把持部駆動部
3 :把持部
4 :マンドレル
5 :ローラ
6 :制御部
7 :ローラ駆動部
10 :強化繊維シート
10a :領域
20 :積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9