(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】物体の変形を時間分解した形で算出する方法及びその算出のためのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20221205BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20221205BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20221205BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20221205BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20221205BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20221205BHJP
G06F 119/14 20200101ALN20221205BHJP
【FI】
G06F30/23
G01M17/007 Z
G01N23/04
G01N23/046
G06F30/15
G06F111:10
G06F119:14
(21)【出願番号】P 2021560002
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(86)【国際出願番号】 EP2020060096
(87)【国際公開番号】W WO2020208111
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】102019109789.4
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500341779
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デル・アンゲヴァンテン・フォルシュング・アインゲトラーゲネル・フェライン
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【氏名又は名称】井上 正則
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】ヒエマイアー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ハンケ,ランドルフ
(72)【発明者】
【氏名】ナウ,ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】モーザー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ウルマン,ノーマン
(72)【発明者】
【氏名】フリッチ,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】クルフィス,マルテ
(72)【発明者】
【氏名】ベーレンド,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】ブッツ,イネス
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127623(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0113083(US,A1)
【文献】国際公開第2004/086972(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/223178(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/23
G01M 17/007
G01N 23/04
G01N 23/046
G06F 30/15
G06F 111/10
G06F 119/14
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の変形を時間分解した形で算出する方法において、
前記変形が進行中の前記物体のモデルを計算により求めるステップ(110)を含み、その際に、前記変形の進行中に前記物体に作用することが予測される予測作用力に基づいた計算によって前記変形が進行中の前記物体の前記モデルを求め(110)、それによって、前記物体の前記変形を、前記変形についての先験知識に基づいた数値シミュレーションと、計算により求めた形態演算子とに基づいて算出し、
前記変形が進行中の複数のタイムポイントにおいて前記モデルに基づいて前記物体の予測X線画像を計算により生成するステップ(120)を含み、
前記変形が進行中の前記複数のタイムポイントにおいて前記物体の実測X線画像を取得するステップ(130)を含み、
前記予測X線画像と前記実測X線画像とに基づいて前記モデルに補正を施すステップ(140)を含み、その際に、複数の特徴の夫々の予測位置即ち前記予測X線画像内における位置と、それら複数の特徴の夫々の実測位置即ち前記実測X線画像内における位置との間の差分に基づいて、前記モデルに補正を施し(140)、更に、その際に、前記複数の特徴の夫々の前記予測位置即ち前記予測X線画像内における位置と、それら複数の特徴の夫々の前記実測位置即ち前記実測X線画像内における位置との間の前記差分が、前記複数のタイムポイントに亘って縮減されて行くように、前記モデルに補正を施し(140)、
前記物体の形状に変形を導入するための前記形態演算子を、前記複数の特徴の夫々の前記予測位置と夫々の前記実測位置との間の前記差分に基づいて計算により求めるステップ(160)を含み、前記モデルに補正を施す際には、計算により求めた前記物体の形状に変形を導入するための前記形態演算子に基づいて前記補正を施し、
前記先験知識と計算により求めた前記形態演算子とを用いて、前記物体の材料の特性、作用する力、前記物体のジオメトリ、及び/又は、速度に関する前記数値シミュレーションの入力パラメータの値に調節を施す、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記予測X線画像を計算により生成する前記ステップ(120)を実行する際に、先行タイムポイント又は後続タイムポイントのX線画像に基づいて前記モデルに補正を施すことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記複数のタイムポイントのうちの先行タイムポイントのX線画像に基づいた前記モデルの補正を実行完了した後に、前記複数のタイムポイントのうちの後続タイムポイントで用いる前記モデルを計算により求める(110)ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記複数の特徴のうちの少なくとも一部の特徴を、X線マーカから成るものとすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の方法。
【請求項5】
前記複数の特徴のうちの少なくとも一部の特徴を、前記物体のコンポーネントの輪郭形状から成るものとすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
前記物体の前記変形によって生じた前記物体の少なくとも一部分の並進運動及び/又は回転運動を、前記複数の特徴の夫々の前記予測位置と夫々の前記実測位置との間の差分に基づいて算出するステップ(150)を更に含み、前記モデルに補正を施す前記ステップにおいては、こうして算出した前記物体の少なくとも一部分の並進運動及び/又は回転運動に基づいて前記モデルに補正を施すことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
前記複数のタイムポイントのうちの先行タイムポイント又は後続タイムポイントにおいて算出した夫々の変形の線形結合から成る形態演算子を適用することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の方法。
【請求項8】
複数の特徴の夫々に対して別々の線形結合を適用することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記変形についての前記先験知識と、計算により求めた前記形態演算子とを用いて、前記物体に作用する拘束力を算出し、前記数値シミュレーションを前記拘束力に基づくものとすることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の方法。
【請求項10】
複数の特徴の幾何学的逆投影によってそれら複数の特徴の3次元変位ベクトルを算出するステップ(145)を含み、算出した前記3次元変位ベクトルに基づいて前記モデルに補正を施すことを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項記載の方法。
【請求項11】
前記複数のタイムポイントに含まれる各タイムポイントにおいて、複数の異なる視点からの、複数の予測X線画像と複数の実測X線画像とを用いることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項記載の方法。
【請求項12】
シンチレータを光学式高速度カメラで撮影することで前記実測X線画像を撮像するステップ(170)を含み、その際に、パルス放射線源を用いて前記シンチレータにX線を照射することで複数の前記実測X線画像を撮像することを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項記載の方法。
【請求項13】
前記パルス放射線源は線形加速器であることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
プログラムコードを備えたプログラムであって、前記プログラムコードがコンピュータ上、プロセッサ上、制御モジュール上、又は、プログラム可能なハードウェアコンポーネント上で実行されることによって請求項1乃至11の何れか1項記載の方法が実施されることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施例としては、物体の変形を時間分解した形で算出する方法に関するもの、その算出のためのコンピュータプログラムに関するもの、それに、複数のX線画像を撮像するためのシステムに関するものがある。
【背景技術】
【0002】
新モデルの自動車や、既存モデルに変更を加えた自動車などの、いわゆる新型自動車を市場投入する際には、その新型自動車の型式認証審査の手続の一環として、ないしは、消費者保護のための独立機関である試験実施機関によって(例えば新型自動車を評価するためのプログラムである「新車評価プログラム(NCAP)」などにおいて)、その新型自動車の受動安全性を評価するための様々な衝突試験が実施される。それら衝突試験において検査される適格性要件は、新型自動車の型式認証を取得するためにも、また、新型自動車を市場投入するためにも、そして、新型自動車が市場に受入れられる上でも、絶対的に必要とされる要件である。
【0003】
また、自動車の様々な衝突試験は、それら衝突試験の全体として、検査対象となる幾種類もの材料、幾つもの部品、及び幾つものアセンブリの全てに関わる実験検査を包含するものであり、そのような衝突検査は自動車の開発プロセスの全体が進行する過程でも実施される。自動車の開発プロセスには、様々なコンピュータシミュレーションが付きものであり、それらコンピュータシミュレーションによって、機械的荷重の作用下における仮想的な部品の挙動の予測が行われる。衝突事象が進行中の自動車の挙動は、またひいてはその挙動の評価は、もっぱら自動車のエネルギ吸収構造の設計に左右される。従って、極端に大きな荷重が作用する「衝突」という事象が発生したときの材料及び部品の挙動を正確に把握することは、仮想環境で自動車開発を進めるための基礎を成すものである。また、その挙動を把握するためには、予測可能なモデルが極めて重要であるが、しかしながら、総括設計作業に入った段階では、数値シミュレーションの結果と実際に行った実験の結果との間に大きな乖離が生じている。その乖離が生じる原因は、自動車の内部に取付けられているために外部からは視認不可能な、そして安全性にとって重要な役割を果たす構造部材は、計測のためのアクセスが困難であるということにあり、かかる状況下では、当該構造部材が取付けられている原状を維持したままで、当該構造部材を撮影することは略々不可能であり、従って、そのようにして撮影した動画を利用して検査を行うことは略々不可能である。
【0004】
衝突のプロセスが進行中の部品の変形及び運動に関する情報をできる限り多く収集するための機器としては、特に、光学式高速度カメラ、加速度センサ、それに歪みゲージが用いられている。歪みゲージや加速度センサを用いることで、荷重をその作用部位において局所的に且つ連続的に計測することができる。ただし、歪みゲージや加速度センサは外部のデータ記録装置に接続するための配線を必要とし、その配線を施すために手間と費用がかかることが、一度の衝突試行において使用する歪みゲージないし加速度センサの使用個数の制約要因となっている。また、センサを使用する方法では、外部から視認不可能な箇所に取付けられている部品を、それが取付けられている原状を維持したままで詳細に観察することは不可能(光学式機器を用いる場合)か、或いは、計測点での計測しかできない(局所的検出センサを用いる場合)かの、いずれかとなる。また、高コストで手間のかかる方法ではあるものの、3次元デジタル画像相関法(3D―DIC)という解析方法を用いるならば、衝突が進行中の変形のプロセスを記録してデジタル化することができるが、ただし、それが可能であるのは、外部から視認可能な部位の変形の場合に限られる。残念ながら、この解析方法では、自動車の内部に取付けられている構造部材を、それが取付けられている原状を維持したままで撮影した動画を利用して検査を行うことは、不可能である。
【0005】
自動車の構造部材を、それが取付けられている原状を維持したままで計測を行うような計測方法を補足強化するために、変形した構造部材を事後的に検査するということが行われている。即ち、変形した構造部材を取外して(ただし取外すことで残留応力は失われてしまう)調べることで、或いは、超大型CT装置を用いて調べることで、変形後の最終状態に関する貴重な情報を得ることができる。しかしながら、このような方法では、実際に変形のプロセスが進行中の運動力学的な状況を推定することは不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、内部に取付けられているコンポーネントであっても解析することのできる解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、変形のプロセスが進行中の物体の複数のX線画像を撮影して取得することを基本概念としており、その撮影のためには、例えば、X線照射を複数回に亘って行うようにしてもよく、或いはまた、線形加速器などのパルスX線源を用いるようにしてもよい。パルスX線源にX線パルスを発生させてX線撮影を行う場合には、適切な空間分解能及び時間分解能を備えたエリアセンサを使用することで、変形のプロセスが進行中の物体の複数のX線画像を撮影することができる。その場合には、例えば、適宜のシンチレータを高速度カメラで撮影するなどすればよい。また、その場合には、X線パルスの発生間隔及び/又は持続時間を十分に短くすることで、画像のモーションブラーを小さく抑えることができる。こうして取得した複数のX線画像に基づいて、物体の変形を把握することができる。それには先ず、物体の変形モデル(以後、単に「モデル」と称することがある)を計算により求める。このモデルは、物体がどのように運動し、物体の変形がどのように進行すると予測されるかを記述するものである。このモデルに基づいて、物体のX線画像を撮影したときに、そのX線画像がいかなる画像となるかを予測し、このX線画像の予測は、物体と、X線源と、シンチレータとを、シミュレーションによって相互に関連付けることによって行う。こうして予測により生成した予測X線画像を、実際に撮影して取得した実測X線画像と比較照合して、それらの間の差分を求め、その差分に基づいてモデルに補正を施す。続いて、その補正を施したモデルを用いて予測を行うことで、次回の予測X線画像を生成し、この次回の予測X線画像を次回の実測X線画像と比較照合するようにして、反復実行する。かくして、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに亘って、複数の予測X線画像を夫々に複数の実測X線画像と比較照合することを繰り返すうちに、変形モデルは次第に実際の変形により良く整合したものになって行く。そして、以上のプロシージャを実行完了した時点では、物体の実際の変形を表すモデルが得られており、このモデルを用いて物体の弱点部位の特定などを行うことができる。
【0008】
以上のように構成した計測システム及び解析プロシージャは、従来利用可能であった画像を用いた計測方法では対処し得なかった問題ないし技術的課題の解決を可能にするものである。そして、そのような問題ないし課題を解決し得ることから、例えばコンポーネントの設計を、より小さな安全率で同等の性能を提供し得るような、より良い設計とすることができる。また、そのような問題ないし課題としては、更に、自動車の内部の耐荷重構造の安定性の問題や分岐構造の問題、幾つものエアバッグに隠れてしまうために外部からは視認不可能なダミーの運動に関する問題、それに、ダミーの周囲の内部空間を画成している構造に関する問題などがある。
【0009】
少なくとも幾つかの実施例は、1mm以下の位置解像度と、1000fps(画像枚数/秒)の(予測)時間解像度とを提供するものである。また、自動車に組付けられた複数のコンポーネントから成る複雑な構造にも適用可能な十分な精細度と材料判別能力とを発揮するためには、以上のように構成した計測システムに用いる放射線源を、最大で9Mevのエネルギレベルのものとするのがよい。ただし、これほど高エネルギレベルの放射線源を使用する場合には、機器並びに人員を放射線から防護するための十分な備えが必要である。
【0010】
実験によって、X線画像を利用するこの方式が、衝突という動的なプロセスを解析する上で極めて有用であることが実証された。その実験では、1回の衝突試行において4回のX線撮影(450keV)を、連続撮影(連写)という形で実施した。1回の連写における撮影回数の上限は、X線源として用いる市販のX線照射装置の性能によって決まるが、多くの場合、1つの撮影角度からの撮影を最多で8回まで実施することができる。尚、X線照射装置に代えてその他のX線源を使用することも可能であり、例えばパルスX線を発生する線形加速器なども使用することができる。
【0011】
また、実施例のうちには、物体の変形を時間分解した形で算出する方法を提供するものがある。かかる用途に関して物体の変形と言うとき、その変形には、例えば当該物体の外縁形状の変化として、また場合によっては当該物体の内縁形状の変化として出現するところの、当該物体の、又は当該物体の一部分の、まさに形状の変化そのものが含まれるだけでなく、場合によっては、そのような形状の変化に加えて更に、原点及び/又は回転中心点を基準とした当該物体の並進運動及び/又は回転運動も含まれることがあり、そのような並進運動及び/又は回転運動は、言うなれば「形状保持変形」とでも言うべき変形である。これに対して、例えば、体積保持変形とでも言うべき変形もある。以上を換言するならば、少なくとも幾つかの実施例においては、形状の変化のみならず、更に、並進運動及び回転運動という「形状保持変形」もまた、変形と言葉で表されるということである。本方法は、前記変形が進行中の前記物体のモデルを計算により求めるステップを含む。本方法は更に、前記変形が進行中の複数のタイムポイントにおいて前記モデルに基づいて前記物体の予測X線画像を計算により生成するステップを含む。本方法は更に、前記変形が進行中の前記複数のタイムポイントにおいて前記物体の実測X線画像を取得するステップを含む。本発明は更に、前記予測X線画像と前記実測X線画像とに基づいて前記モデルに補正を施すステップを含む。この特徴的なステップは「データアシミレーション」と呼ばれるものであり、なぜならば、これは計測X線画像に基づいてモデルに適合化を施す(アシミレートする)ステップだからである。本方法によって本発明の目的を達成することができる。
【0012】
少なくとも幾つかの実施例では、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに含まれる各タイムポイントにおいて、複数の異なる視点からの、複数の予測X線画像と複数の実測X線画像とを用いるようにしている。こうすることで、モデルをより高精度で整合させることができ、なぜならば、複数の特徴を利用して当該モデルの複数の注目点を、予測X線画像及び実測X線画像の画像上で、複数の異なる視点から追跡することができるからである。
【0013】
変形が進行中の物体のモデルを計算により求める際には、例えば、変形の進行中に当該物体に作用することが予測される力である予測作用力に基づいた計算によって当該モデルを求めるようにするとよい。この予測作用力は、当該モデルを用いて実施するシミュレーションのパラメータとして用いられるものである。また、物体に作用する作用力は、有限要素法シミュレーションにおいて物体の変形を引き起こす要因そのものでもある。物体に変形を導入したときに、その変形が導入された物体が到達する3次元変位が、データアシミレーションを行うために算出した3次元変位と一致するようにするには、物体に機械的に作用することにより、少なくとも近似的にその変形を発生させるような、即ち、その変形を実質的に発生させるような合成拘束力を利用するというのも1つの方法である。また「拘束エネルギ」の微分値も、即ち、物体の変形経路に沿った方向に作用する拘束力も、実験により取得された実測X線画像に示された物体の形状(この物体の形状は解析結果が当該物体のあるべき形状として示す形状である)と、シミュレーションの結果として示されたモデルの形状との間の偏差を定量的に表す指標として利用することができる。換言するならば、物体又は物体の一部が変形によってある角度だけ回転させられる(形状保持変形させられる)ときには、その変形を生じさせるために要する力は通常は比較的小さく、その変形の過程で消費されるエネルギも小さい。これに対して、物体又は物体の一部が変形によって圧縮されるときには、その変形を生じさせるために要する力は非常に大きなものであることがある。また、その変形の過程で消費されるエネルギも、圧縮されない場合の変形と比べて遙かに大きなものであることがある。従って、回転の角度を変化させることが好ましく(それによって実測X線画像に示された物体の形状に一致させることができる場合)、なぜならば、それが「面倒」の少ないやり方だからである。拘束力を利用する方法でも、また、拘束エネルギの微分値を利用する方法でも、いずれもシミュレーションを実施することで物体の変形を算出することができる。従って、物体に作用する作用力は重要なパラメータとなり得る。作用力以外の物理量を利用することも可能であるが、作用力(拘束力としての作用力)を考察対象とすることで、大きな利点が得られる。
【0014】
少なくとも幾つかの実施例では、前記予測X線画像を計算により生成する前記ステップを実行する際に、先行タイムポイント又は後続タイムポイントのX線画像に基づいて前記モデルに補正を施すようにしている。これに関しては、例えば、実験作業を完了した後に解析作業を行うようにすることも可能である。実験作業の完了後には、シミュレーションの全てのタイムステップで夫々に生成した予測X線画像に加えて、実験中に全てのタイムポイントにおいて夫々に取得した実測X線画像をも解析作業に利用することができる。そのため、解析作業を進めて行く時間軸上の進行方向を自由に選択することができる。幾つかの実施例では、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントを逆方向に辿って(即ち、最新のタイムポイントを基点として)解析作業を進めて行くことが可能であり、その場合には例えば、衝突後の自動車のCT画像(コンピュータ断層撮影画像)を、その解析作業における初期値として用いることができる。これとは逆に、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントを順方向に辿って(即ち、時間の流れに沿って)解析作業を進めて行くことも可能である。また、更なる別法として、複数のタイムポイントの全てを同時に考察対象とすることも可能であり、これを行うのは、例えば、データアシミレーションに平滑化処理を組込む場合などである。
【0015】
場合によっては、前記複数のタイムポイントのうちの先行タイムポイントのX線画像に基づいた前記モデルの補正を実行完了した後に、前記複数のタイムポイントのうちの後続タイムポイントで用いる前記モデルを計算により求めるようにするのもよい。そうすることで、予測X線画像と実測X線画像との間の差分を徐々に縮減して行くことができる。
【0016】
幾つかの実施例においては、複数の特徴の夫々の予測位置即ち予測X線画像内における位置と、それら複数の特徴の夫々の実測位置即ち実測X線画像内における位置との間の差分に基づいて、モデルに補正を施すようにしている。そうすることで、複数の特徴を補正のための注目点として利用することができる。
【0017】
また、例えば、前記複数の特徴のうちの少なくとも一部の特徴を、X線マーカから成るものとするのもよい。例えば、物体のある1つのコンポーネントが、X線マーカを用いなければ当該コンポーネントの輪郭形状に基づいて認識することのできない平板状のコンポーネントである場合などには、当該コンポーネントにX線マーカを貼着するとよい。
【0018】
また、前記複数の特徴のうちの少なくとも一部の特徴を、前記物体のコンポーネントの輪郭形状から成るものとするのもよい。そうすることで、前記物体の変形状態が(例えばマーカなどによって)改変されてしまうことを最大限に回避しつつ前記物体の変形を記録することができるため、解析の精度を向上させることができる。
【0019】
また、本方法は、例えば、前記物体の前記変形によって生じた前記物体の少なくとも一部分の並進運動及び/又は回転運動を、前記複数の特徴の夫々の前記予測位置と夫々の前記実測位置との間の差分に基づいて算出するステップを含むものとすることができる。また、こうして算出した前記物体の少なくとも一部分の並進運動及び/又は回転運動に基づいて、前記モデルに補正を施すことができる。物体の変形の全体のうちの大部分は、並進運動及び回転運動によって把握することができる。そして、特徴やマーカなどの全てについて、それらの夫々の変位を、全体として、シミュレーションによって求められる差分が縮減するような変位とすることによって、3次元物体の並進運動及び回転運動を改善することが可能となり、即ち、シミュレーションによって予測される並進運動及び回転運動に対して、実測X線画像内における投影位置と予測X線画像内における投影位置との間の差分が縮減するような改変を施すことが可能となる。以上を実施した後になお残る残余の差分は、即ち、並進運動及び回転運動に改変を施すことでは解消しきれなかった差分は、当該物体に、又は当該物体の一部分に、(例えば以上のステップを連続的に反復実行するなどして)変形を導入することによって縮減することができる。
【0020】
幾つかの実施例では、本方法は更に、前記物体の形状に変形を導入するための形態演算子を、前記複数の特徴の夫々の前記予測位置と夫々の前記実測位置との間の差分に基づいて計算により求めるステップを含んでいる。前記モデルに前記補正を施す際には、計算により求めた前記物体の形状に変形を導入するための前記形態演算子に基づいて前記補正を施すようにすることができる。また、形態演算子を用いることで、例えば、前記物体のコンポーネントに圧縮変形や伸張変形を導入することも可能である。
【0021】
これに関しては、例えば、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントのうちの先行タイムポイント又は後続タイムポイントにおいて算出した夫々の変形の線形結合から成る形態演算子を適用するようにすることができる。また、複数の特徴の夫々に対して別々の線形結合を適用するようにすることができる。それによって、形態演算子を計算により求める際のサーチ空間を狭めることができる。
【0022】
幾つかの実施例では、前記物体の前記変形を、前記変形についての先験知識に基づいた数値シミュレーションと、計算により求めた形態演算子とに基づいて算出するようにしている。またこれに関しては、前記変形についての前記先験知識と、計算により求めた前記形態演算子とを用いて、前記物体に作用する拘束力を算出し、前記数値シミュレーションを前記拘束力に基づくものとすることができる。また、そうすることに代えて、或いはそうすることに加えて、前記先験知識と、計算により求めた前記形態演算子とを用いて、前記物体の材料の特性、作用する力、前記物体のジオメトリ、及び/又は、速度に関する前記数値シミュレーションの入力パラメータの値に調節を施すようにするのもよい。そのようにして前記数値シミュレーションを実行するによって、前記モデルの精度を高めることができる。
【0023】
例えば、本方法は、複数の特徴の幾何学的逆投影によってそれら複数の特徴の3次元変位ベクトルを算出するステップを含むものとするとよい。また、算出したその3次元変位ベクトルに基づいて前記モデルに補正を施すことができる。これが可能であるのは、特徴の幾何学的逆投影によって2次元の観測データから3次元の補正データを導出できるからである。
【0024】
また、前記モデルに補正を施す際には、複数の特徴の夫々の予測位置即ち予測X線画像内における位置と、それら複数の特徴の夫々の実測位置即ち実測X線画像内における位置との間の差分が、前記複数のタイムポイントに亘って減縮されて行くように、前記モデルに補正を施すようにするとよい。そうすることで、前記複数のタイムポイントに亘って高い処理効率を達成することができる。
【0025】
例えば、前記物体の前記モデルは、有限要素法シミュレーションを実行する中で、計算により求めることができる。また、その有限要素法の解を求めることによって、前記物体の前記変形を算出することができる。
【0026】
実施例のうちには、更に、プログラムコードを備えたプログラムであって、前記プログラムコードがコンピュータ上、プロセッサ上、制御モジュール上、又は、プログラム可能なハードウェアコンポーネント上で実行されることによって本方法が実施されるようにしたプログラムを提供するものがある。
【0027】
少なくとも幾つかの実施例では、本方法は、更に、シンチレータを光学式高速度カメラで撮影することで複数の前記実測X線画像を撮像するステップを含んでいる。ここで、複数の前記実測X線画像を撮像するには、放射線源(パルス放射線源又は連続放射線源)を用いて前記シンチレータにX線を照射するようにするとよい。そうすることで、短い時間間隔で複数のX線画像を撮像することができ、ひいては、モーションブラーのないX線画像を撮像することができる。モーションブラーに影響を及ぼす要因は、何よりも露出時間であり、そして露出時間に影響を及ぼす要因は、X線パルスのパルス長、又は、高速度カメラの露出時間の長さである。
【0028】
パルス放射線源としては、例えば線形加速器を用いることができる。線形加速器を用いることで、X線照射装置を用いる場合と比べて、より高速の発生速度でX線パルスを発生することができる。
【0029】
これより添付図面を参照しつつ、装置及び/又は方法の幾つかの実施例について更に詳細に説明して行くが、ただしそれら実施例の説明は、あくまでも具体例を例示することを目的としたものである。また、添付図面については以下に示す通りである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1a】物体の変形を時間分解した形で算出する方法の実施例を示した図である。
【
図1b】物体の変形を時間分解した形で算出する方法の実施例を示した図である。
【
図2】1つの実施例における計測及び解析のプロシージャを示した概略図である。
【
図3】複数のX線画像を撮像するためのシステムの構成の1つの実施例を示した図である。
【
図4】モデルに補正を施すためのデータアシミレーションの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、幾つかの具体例を示した添付図面を参照しつつ、様々な構成の具体例について更に詳細に説明して行く。尚、添付図面では、図の見やすさを考慮して、線の太さ、層の厚さ、それに領域の広さなどを誇張して描くことがある。
【0032】
以下に提示する具体例の他にも、改変例ないし変更例とでも言うべき様々な具体例が存在するが、ここでは、幾つかの特定の具体例だけを図面に示して以下に詳細に説明する。ただし、以下の詳細な説明は、その他の具体例が以下に説明する特定の形態に限定されることを意味するものではない。その他の具体例は、本開示の範囲に包含され得る全ての改変構成、均等構成、及び代替構成に亘るものである。尚、図面に関連した以下の説明の全体を通して、互いに同一ないし同等の要素、即ち、見比べて互いに同一構成であり得ると認められ、ないしは、改変形態とすることで互いに同一構成と成し得ると認められる要素には、同一ないし同等の参照符号を付すようにしている。
【0033】
また、ある要素と別のある要素とが互いに「結合」又は「連結」されていると記載するとき、それら2つの要素は、直接的に結合又は連結されていることもあれば、それら要素の間に介在する1つまたは複数の中間要素を介して結合又は連結されていることもあり得る。また、要素Aと要素Bとを「又は」という用語で結んだ単語列は、当該単語列が、あり得る全ての組合せ(即ち、Aのみ、Bのみ、それにA及びB)のうちの特定の組合せだけを意味している旨を明示的にせよ暗示的にせよ確定的に記載しているのでない限り、当該単語列は、それらあり得る全ての組合せのいずれをも意味し得るものである。また、この単語列の意味を別の表現形式で表すものとして「A及びBの少なくとも一方」や、「A及び/又はB」という表現形式がある。また、3つ以上の要素についても、それら要素の組合せを表すために、必要に応じて同様の表現を用いる。
【0034】
また、本明細書において、ある1つの具体例を説明するために用いる言語表現は、その他の具体例までをも規定するものではない。例えば、ある1つの具体例に関して、ある要素が単数的表現で記載されている場合、ないしは、ある要素をただ1つだけ用いる旨が明示的にせよ暗示的にせよ確定的に記載されている場合であっても、その他の具体例のうちには、複数個の要素を用いることで、ただ1つだけの要素により提供される機能と同等の機能が提供されるようにしたものがあり得る。また逆に、ある1つの具体例に関して、複数個の要素を用いることで、ある機能が提供されると記載されている場合であっても、その他の具体例のうちには、ただ1つだけの要素によって、ないしは、ただ1つだけの機能主体によって、同等の機能が提供されるようにしたものがあり得る。また、本明細書に用いる「~を備える」、「~から成る」などの動詞による表現は、それら動詞の目的語として記載されているところの、特徴、数値、ステップ、演算子、プロセス、要素、コンポーネント、及び/又は、それらのものの集合体、等々が存在していることを意味するものであって、それら動詞の目的語として記載されているもの以外の、特徴、数値、ステップ、演算子、プロセス、要素、コンポーネント、及び/又は、それらのものの集合体、等々が存在しないことや付加されないことを意味するものではない。
【0035】
本明細書中の全ての用語(技術用語及び学術用語を含む)は、本明細書においてその意味を特に定義する場合を除いて、具体例に関連した分野における標準的な意味を有するものである。
【0036】
本開示に記載の方法は、計測プロシージャと解析プロシージャとを統合して成る方法であり、本方法は、検査対象物の原状を維持したままで高速X線撮影を行う検査方式と、反復処理による解析方式を組合せることで、外部から視認不可能な構造に発生した過渡的で動的なプロセス(変形のプロセス)を連続的に記録することを可能にしたものである。また、本方法は、少なくとも幾つかの実施例においては、2次元X線画像の高速撮影を行うと共に、3次元有限要素法シミュレーションを(より一般的に述べるならば、変形が進行中の物体のモデルを)利用することにより、デジタル技術の標準的な開発環境下における実験情報の定量的フィードバックを可能にするものである。
【0037】
画像を取得するための計測プロシージャは、例えば、画像を発生させるためにエネルギレベルが最大で9MeVのパルスX線と、耐放射線性に優れたセンサを組合せて用いるなどして実施することができる。通常の工業的用途のX線撮影では、フレームレートがそれほど高くないのに対し、衝突試験では、衝突時に発生する変形のプロセスを十分な時間分解能をもって表せるようにするために、(通常用途のX線撮影では極端に高いとされる)1000fps(画像枚数/秒)という高いフレームレートが採用されている。尚、画像内の高速運動のモーションブラーを小さく抑えるには、フレームレートを高くすることの他に、露出時間をマイクロ秒領域にまで短縮するのも一法である。以下に示す用途に適した露出時間は、パルスX線源(例えばパルス幅が約4μ秒のもの)を用いることで達成可能である。
【0038】
計測プロシージャにおいて用いるエリアセンサは、シンチレータ板から成る(ないしはシンチレータ板を備えた)センサであり、当該シンチレータ板はX線のメインビームのビーム内に位置するように配置される。また、当該シンチレータ板は、その(放射線)吸収特性、減衰時間、材料厚さ、及び材料特性が、線形加速器の高いエネルギレベルと短い露出時間とに適合したものである。また、当該シンチレータ板は、放射線を可視光に変換するものであり、その変換された可視光を高速度カメラで撮影して記録することで間接撮影を行うことができる(いわゆる間接デジタル変換検出装置である)。撮影のための結像光学系としては、高速度カメラの放射線被曝量を特に小さく抑え得るような光学系を選択するとよい。比較的大型の検査対象物(例えば自動車の構造部品など)の動画を撮影するには、例えば3個のモジュールを直列に連結して構成したモジュラ構造を採用することなどによって、シンチレータ板の感応面を大きなものとするとよい。
【0039】
計測プロシージャを実行して得られる計測結果は、動的プロセス(変形プロセス)を時間分解した形で表す実験データであり、即ち、時間分解データの形の実験データである。また、この実験データは、正確に特定される複数のタイムポイントの夫々において撮影される一連の画像から成る「X線動画」の形のデータである。このX線動画の形の実験データと、観察対象のプロセスの(または観察対象のプロセスの一部の)3次元有限要素法シミュレーションとに基づいて、解析プロシージャを実行する。また、このX線動画は、例えば、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに亘る複数のX線画像から成るものである。
【0040】
図1a及び
図1bは、物体の変形を時間分解した形で算出する方法の実施例を示した図である。本方法は、変形が進行中の物体のモデルを計算により求めるステップ110を含み、その計算は、例えば、変形が進行中の物体に作用すると予想される力に基づいて行われる。ここでいう物体とは、例えば、互いに組付けられた多数の物体のうちの1つである場合もあり、即ち、複合モデルの一部をなすものである場合もあり、そのような複合モデルとしては、例えば、多数の物体を構成要素として持つ自動車の全体を表すモデルなどがある。また、物体のモデルは、(3次元)有限要素法シミュレーションを実行する中で計算110により求めることができる。本方法は更に、前記変形が進行中の複数のタイムポイントにおいて前記モデルに基づいて前記物体の予測X線画像を計算により生成するステップ120を含み、その計算は、例えば、予め定められる撮影ジオメトリ(「視角」)などに基づいて行われる。ここで言う変形とは、例えば、複数のタイムポイントを(複数のタイムポイントの全てを)包含するプロセスを言うものであり、即ち、複数のタイムポイントに亘って物体の変形が進行して行くプロセスを言うものである。また、ここで言う変形とは、観察対象物(即ち前記物体)の並進運動及び回転運動を含んでいることがある。並進運動や回転運動では、観察対象物に含まれる複数の特徴どうしの(ないしは複数の注目点どうしの)相対位置は不変であって、観察対象物の外部の座標系を基準としたそれら複数の特徴の位置は変化する。幾つかの実施例においては、ここで言う変形が、更に、形状変化(即ち本来の意味での変形)をも含んでいることがあり、形状変化が生じたならば複数の特徴どうしの相対位置が変化する。本方法は更に、物体の変形が進行中の複数のタイムポイント(即ち上述した複数のタイムポイント)において前記物体の実測X線画像を取得するステップ130を含む。尚、上述した物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに含まれる各タイムポイントにおいて、複数の異なる視点からの複数の予測X線画像と複数の実測X線画像とを用いるようにするのもよい。本方法は更に、前記予測X線画像と前記実測X線画像とに基づいて前記モデルに補正を施すステップ140を含む。また、本方法は更に、
図1bに示したように、シンチレータを光学式高速度カメラで撮影することで前記実測X線画像を撮像するステップ170を含むものとすることができ、これによって前記実測X線画像を取得することができる。また、パルス放射線源を用いて前記シンチレータにX線を照射することで複数の前記実測X線画像を撮影するようにするのもよい。
【0041】
かくして得られたデータの解析のために、3次元有限要素法シミュレーションのシミュレーションデータ(即ち、変形が進行中の物体のモデル)を用いて、X線画像シミュレーションを実行する。このX線画像シミュレーションを実行することによって、予測X線画像を計算により作成することができる。ここで言うX線画像シミュレーションとは、データ解析とデータアシミレーションとを統合したプロシージャの一部を成すものである。このX線画像シミュレーション(これを利用して予測X線画像を計算により作成することができる)と、材料に関するデータに基づいて作成された吸収特性分布図とに基づいて、検査対象構造である物体の、各タイムステップにおける(理論上の)3次元空間内位置を求めることができる。換言するならば、当該物体のコンポーネントの位置と、当該物体のコンポーネントの吸収特性と、予測される視角とに基づいて、予測X線画像を計算により作成することができ、こうして作成した、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに含まれる各タイムポイントにおける予測X線画像には、そのタイムポイントにおけるそのコンポーネントないし特徴の投影位置が示されている。またこれに関しては、例えば、各々の予測X線画像の画像内に、コンポーネントの濃淡や輪郭が映し出されることなく、特徴の投影位置(だけ)が映し出されるようにすることも可能である。更に、幾つかの実施例では、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに含まれる各タイムポイントにおける予測X線画像を計算により生成するタイミングを、当該タイムポイントに先行する先行タイムポイントにおけるモデルの補正が完了した後とすることで、夫々のタイムポイントの予測X線画像を、補正が施されたモデルに基づいて、計算により生成できるようにしている。適合化が施された特徴検出追跡アルゴリズム(例えばある構成部品の表面に離散して存在する複数の注目点を参照することで複数の特徴を特定し且つ追跡するアルゴリズムなど)を用いることで、先行タイムステップの情報に基づいて検査対象構造の変形を追跡することができる。換言するならば、複数の特徴の夫々の予測X線画像内における位置である予測位置と、それら複数の特徴の夫々の実測X線画像内における位置である実測位置との間の差分に基づいて、モデルに補正を施す(140)ことができる。またその際に、予測X線画像内に存在するそれら特徴を特定すること、及び、実測X線画像内に存在するそれら特徴を特定することは、手作業及び/又は自動作業で行うことができる。また、例えば、複数の特徴のうちの少なくとも一部の特徴を、X線マーカから成るものとするのもよい。またその場合に、X線マーカを物体の表面に貼着すると共にそのX線マーカをモデルに組込むようにするのもよい。そうすれば、当該物体上における当該X線マーカの位置が既知であることから、当該X線マーカから成る特徴の特定を自動作業で(或いは手作業でも)行うことが可能となる。X線マーカを用いることに加えて、或いはX線マーカを用いることに代えて、複数の特徴のうちの少なくとも一部の特徴を、物体のコンポーネントの輪郭形状から成るものとするのもよい。そうすれば、例えば当該コンポーネントの材料特性分布図に基づいて、予測X線画像及び実測X線画像の画像内に存在する当該輪郭形状を特定することができ、その特定を自動作業又は手作業で行うことができる。以上に続いて実行する、実験データと数値シミュレーションデータとを結合するデータアシミレーションは、上述したモデルに、即ち、予測を可能にするための、自己完結した、時間分解した形のモデルに、逐次的な品質向上を施すことを目的とするものである。
【0042】
かくして、一方では、自動車の衝突事象の3次元有限要素法シミュレーションによって得られた時間分解した形のシミュレーションデータ(物体のモデル)が存在しており、ただし、このシミュレーションデータ(物体のモデル)は誤差を含んでいる。また、他方では、実験データ(実測X線画像)として、時間分解した形のデータが得られており、ただし、この実験データは(X線センサから得られた2次元X線画像データであることから)劣決定性を含む情報となっている。そこで、データアシミレーションを実行して実験データと物体のモデルとを整合させることで、補正情報を物体のモデルへフィードバックし、もって、物体のモデルを(完全決定性を備えた情報としての)有限要素モデルとすることにより、現実の衝突実験をデジタル化することが可能となる。
【0043】
モデルは、特に、有限要素モデルとするのがよい。モデルは、プロセスと、物体と、それらの時間的変遷とに関する「全ての事実」(即ち位相空間)を包含するものである。また、モデルは、物体のジオメトリ(即ち形態)と、物体の様々な物理的パラメータとを包含するものであり、それら物理的パラメータとしては、例えば、材料の種類及び材料の特性、境界条件(速度、力、等々)、内部特性(内部エネルギ、内部応力、内部歪み、内部欠陥、等々)などがある。また、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに含まれる各タイムポイントtにおけるモデルは、その時点では既に考慮されているタイムポイントt-1における実験結果を(即ち変形を)を略々正確に記述している。従って、モデルは、タイムポイントtにおける変形の(ひいては実験結果の)有限要素表現であると見なし得る。それゆえ、タイムポイントtにおいてデータアシミレーションのプロシージャを実行することで、モデルを、タイムポイントtにおける実験結果に(略々)整合させる(位相空間の全体について整合させる)ようにする。
図4は、モデルに補正を施すために実行されるデータアシミレーションを説明するための図である。同図に示したように、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに亘って、そしてタイムポイントtに至るまでの各タイムポイントにおいて、(実測X線画像による)物体の形状の計測が行われており、またそれと共に、タイムポイントt
-1に至るまでの各タイムポイントにおいて、モデルが表す形状が実験結果と(従って物体の実際の変形した形状と)同じになるようにするための補正が、モデルに対して施されている。それゆえ、先験知識には、タイムポイントt
-1に至るまでの補正が施されたモデルが含まれると共に、タイムポイントtに至ったときに発生していると予測される変形を表した予測情報が含まれている。しかるに、タイムポイントtにおいては、計測結果(実験結果)によって示された形状が、先験知識に基づいた形状から偏位しており、即ち、予測された変形の形状から偏位している。そこで、データアシミレーションが実行されて、モデルが表す物体の形状を、先験情報(先験知識)に基づいて予測された形状から、計測して得られた物体の形状へと変えるための補正が、モデルに対して施されているのである。
【0044】
データアシミレーションの結果は、検査対象物(以下、これを「コンポーネント」と称する)の運動(並進運動即ち重心移動、及び、回転運動)と共にそのコンポーネントの変形を表す、定量的な時間分解された形の3次元再構成を含むものである。尚、ここで言うコンポーネントは、複数のコンポーネントから成る全体系の中に組込まれている1つのコンポーネントである場合もある。
【0045】
この運動力学的な3次元再構成は、モデルについての知識(先験情報)と、計測データ(2次元X線画像)とに基づいた再構成である。また、ここで言う2次元X線画像は、例えば、本明細書の解決手段の項目に記載した、放射線源とセンサとで構成される装置などにより取得されるものである。
【0046】
数値シミュレーション(例えば有限要素法シミュレーションなど)のシミュレーション結果は、先験情報として用いられるものであり、このシミュレーション結果には、検査対象物であるコンポーネントの(ないしは、当該コンポーネントの周囲に存在するその他のコンポーネントの、ないしは、複数のコンポーネントから成る系の全体の)挙動を記述しており、その記述には、例えば、変形が進行中の物体のモデルも含まれている。換言するならば、先行タイムポイントにおけるモデル(即ち、先行タイムポイントにおいてX線画像シミュレーションに基づいて適合化が施されたモデル)が、先験情報に含まれているのであり、即ち、先験情報の一部を成しているのである。更に換言するならば、先験情報には、例えば、古いモデルとでも言うべき出発モデル(出発有限要素モデル)と、タイムポイントt-1において補正が施されたモデルと、このタイムポイントt-1において補正が施されたモデル(即ち、現在モデル)に基づいて予測されたところの、タイムポイントtにおいて存在しているであろう予測状態とが含まれている。尚、ここで「変形が進行中の」と言うのは、モデルを計算により求める処理が、変形の進行中に(変形の進行中のみに)行われることを意味するのではなく、物体のモデルというものが、複数のタイムポイントに亘って進行する物体の変形を表すモデルであることを意味するものである。以上の結果として得られるモデルは、データアシミレーションのための先験情報として用いられ、このモデルを以下の説明においては「時間分解した形の3次元モデル」、或いは単に「(物体の)モデル」と称する。尚、以下の説明において、複数のコンポーネントについての、又は、複数のコンポーネントの材料についての、数値シミュレーションやその数値シミュレーションの基礎となる物理的モデルに言及するとき、それら数値シミュレーションないしそれら物理的モデルの全体をもって「数値シミュレーション」ないし「物理的モデル」と称する。また、幾つかの実施例においては、変形が進行中の物体のモデルを計算により求めるステップが、数値シミュレーションを含んでいるか、或いは、数値シミュレーションに基づいて実行するステップとなっている。また、その数値シミュレーションは、物体に対応した1つの物理的モデルに基づいて実行されることもあれば、物体の複数のコンポーネントの夫々に対応した複数の物理モデルに基づいて実行されることもある。
【0047】
上述した運動力学的なデータアシミレーションによる3次元再構成は、以下に記載する複数のステップのうちの少なくとも幾つかを含むものである。
【0048】
ステップ1:モデルに基づいて、且つ、複数のタイムポイント(それらタイムポイントは、実験において画像が撮影されるタイムポイントであり、また、再構成すべきコンポーネントの画像が作成されるタイムポイントであり、即ち、上述した複数のタイムポイントである)において、実験に採用されている投影ジオメトリに基づいて、シミュレーションによりX線投影画像を生成するステップ。換言するならば、本方法は、モデルに基づいて(また、X線画像を撮影する際の投影ジオメトリ、推定視角などに基づいて)、変形が進行中の複数のタイムポイントの夫々における物体の予測X線画像を計算により生成するステップ120を含むものである。
【0049】
ステップ2:シミュレーションにより生成した複数のX線投影画像を用いて、それら複数のX線投影画像の夫々に対応した(できるならばそれら全ての夫々に対応した)複数のタイムポイントにおいて夫々に撮影された、運動力学に基づいて再構成すべきコンポーネントが映り込んでいる実測X線画像における当該コンポーネントの画像内位置を(同時にまたは順次方式で)特定し、及び/又は、複数のタイムポイントにおいて夫々にシミュレーションにより生成したX線投影画像を用いて、再構成すべきコンポーネントが映り込んでいる複数の実測X線画像における(できるならばそれら全ての夫々における)当該コンポーネントの注目点(特徴)の画像内位置を特定するステップ。ただしこの具体例では、複数のタイムポイントtiにおいて(X線による)計測が可能であるのは、形態(または形態の一部)(だけ)であるものとしている。
【0050】
ステップ3:換言するならば、本方法は、予測X線画像に映り込んでいる複数の特徴の夫々の画像内位置に基づいて、実測X線画像に映り込んでいるそれら複数の特徴の特定、及び/又は、実測X線画像におけるそれら複数の特徴の夫々の画像内位置の特定を行うステップを含むものとすることができる。
【0051】
ステップ4:シミュレーションにより生成したX線画像(予測X線画像)における、複数のコンポーネントから成る集合体全体の輪郭形状の画像内位置、及び/又は、複数の特徴の夫々の画像内位置(それら位置は2次元変位ベクトルで表される)についての定量的な比較照合を行い、更に、その2次元変位ベクトルから幾何学的逆投影によって3次元空間内の3次元変位ベクトルを定量的に算出し、しかもその3次元変位ベクトルの算出を、複数の特徴的な輪郭形状や注目点の各々について(従って複数の特徴の各々について)、且つ、実験においてX線画像の撮影が行われて再構成すべき複数のコンポーネントの画像が得られた複数のタイムポイントの夫々について行うステップ。換言するならば、本方法は、複数の特徴の幾何学的逆投影によってそれら複数の特徴の3次元変位ベクトルを算出することを、それら複数の特徴の各々について、且つ、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに含まれる各タイムポイントについて行うステップ145を含むものとすることができる。こうして算出した3次元変位ベクトルに基づいて、モデルに補正を施すことができる。
【0052】
ステップ5:全てのタイムステップの各々について、且つ、(モデルに含まれている)全ての特徴の各々について、上記ステップ3において定量的に算出した差分(変位量)を縮減し、そして、その縮減後の残留差分(品質目標値)を定量的に算出するステップ。このステップは、上述した予測X線画像と実測X線画像とに基づいてモデルに補正を施すステップ140に他ならない。また、換言するならば、モデルに補正を施すステップ140は、複数の特徴の夫々の予測位置即ち予測X線画像内における位置と、それら複数の特徴の夫々の実測位置即ち実測X線画像内における位置との間の差分を、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントに亘って縮減して行くステップである。
【0053】
かかる差分の縮減は、様々な方式により達成することができる。
【0054】
例えば、かかる差分の減縮は、再構成しようとする(物体の)コンポーネントの、重心移動(並進運動)と(そのコンポーネントを剛体と見なしたときの)重心点を中心とした回転運動とを変化させることによって達成することができる。その場合に、当該コンポーネントのモデルないし当該物体のモデルとしては、数値シミュレーションにおける対応タイムステップに(或いは、対応タイムステップに先行するか後続するかを問わない、対応タイムステップとは別の、実際の変形状態により良く適合したタイムステップに)存在している(3次元)モデル(このモデルは当該コンポーネントに関する数値シミュレーションの結果の一部を成すものである)を用いることができる。換言するならば、本方法は、物体の変形によって生じた当該物体の少なくとも一部分の並進運動及び/又は回転運動を複数の特徴の夫々の予測位置と夫々の実測位置との間の差分に基づいて算出するステップ150を含むものとすることができる。そして、こうして算出した当該物体の少なくとも一部分の並進運動及び/又は回転運動に基づいて、モデルに補正を施すことができる。例えば、モデルにおいて想定されている物体の一部分の並進運動及び/又は回転運動に対して、当該物体の変形によって生じた並進運動及び/又は回転運動に基づいた適合化を施すようにしてもよく、或いは、当該物体の変形によって生じた並進運動及び/又は回転運動を当該モデルに組込むようにしてもよい。要するに、当該物体の変形によって生じた並進運動及び/又は回転運動を算出するステップ150では、複数の特徴の夫々の予測位置即ち予測X線画像内における位置と、それら複数の特徴の夫々の実測位置即ち実測X線画像内における位置との間の差分を(新たに計算により生成する予測X線画像の画像内において)縮減させることができるような並進運動及び/又は回転運動を算出するものである。
【0055】
更に加えて、検査対象物である物体の形状に変形を導入するための形態演算子を用いるようにするとよい。ここで言う形態演算子とは、演算処理の一種であって、タイムポイントtにおいて先験情報(即ちモデル)により示されている形状(即ち形態)を、このタイムポイントtにおいて計測された形態へと変換する(即ち整合させる)ための演算処理である。換言するならば、形態演算子とは、モデルを実測X線画像に映し出された現実に整合させるための演算処理であり、それには例えば、複数の特徴の夫々の予測位置をそれら特徴の夫々の実測位置に一致させるような適合化をモデルに施す演算処理とすればよい。その演算処理の最も単純な具体例を挙げるならば、例えば、その演算処理は(物理的パラメータに関連することなく)変位ベクトルを適用する処理とすることも可能である。少なくとも幾つかの実施例(より複雑な具体例)では、その演算処理を、例えば後述するような、物理的パラメータに基づいた条件に従った演算処理としている。更に、本方法は、物体の形状に変形を導入するための形態演算子を、複数の特徴の夫々の予測位置と夫々の実測位置との間の差分に基づいて計算により求めるステップ160を含むものとすることができる。モデルに補正を施す際には、計算により求めた物体の形状に変形を導入するための形態演算子に基づいて補正を施すようにすればよい。例えば、計算により求めた形態演算子に基づいて、既にモデルに組込まれている形態演算子に適合化を施すようにしてもよく、或いは、計算により求めた形態演算子をモデルに追加して組込むようにしてもよい。以上のようにすることで、形態演算子を計算により求めるステップ160では、複数の特徴の夫々の予測位置即ち予測X線画像内における位置と、それら複数の特徴の夫々の実測位置即ち実測X線画像内における位置との間の差分を(新たに計算により生成する予測X線画像の画像内において)縮減させることができるような形態演算子を求めることができる。
【0056】
形態演算子は、予測X線画像及び実測X線画像に映り込んでいる複数の特徴の夫々に対応した、モデルに含まれる物体の複数の注目点の、その夫々の変位に基づいたものとすることができる。幾つかの実施例では、計算により求める形態演算子を、モデルに含まれる複数の注目点の夫々の位置を、複数の特徴の夫々の予測位置と夫々の実測位置との間の差分に基づいて変位させるような形態演算子であって、しかも、変位させた後のそれら複数の注目点に対して、それらに近接した複数のコンポーネントないし要素を、比例関係を維持しつつ及び/又は何らかの関数に基づいて、適合させるような形態演算子としている。また、これとは別の具体例として、計算により求める形態演算子を、複数の特徴の夫々の予測位置と夫々の実測位置との間の差分に基づいて、モデルに機械的または非機械的に作用する拘束力を導入するような形態演算子であって、しかも、その機械的または非機械的に作用する拘束力に基づいて、それら特徴のの夫々予測位置と夫々の内実測位置との間の差分が縮減するように物体に変化を導入するような形態演算子とするのもよい。また、第3の具体例として、計算により求める形態演算子を、モデルに含まれる複数の注目点の夫々の位置を、複数の特徴の夫々の画像内予測位置と夫々の画像内実測位置との間の差分に基づいて変位させるような形態演算子であって、しかも、それら複数の注目点の夫々の変位を、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントのうちの複数の先行タイムポイント及び/又は複数の後続タイムポイントにおいて算出した複数の特徴点の夫々の変位の線形結合として算出するような形態演算子としてもよい。尚、この第3の具体例は、モデルが概ね正確であること、そして、当該変位の発生時点/位相、又は、振幅だけを適合させることを前提としている。
【0057】
既述の如く、物体の形状に変形を導入するための形態演算子には、数値シミュレーションにおけるタイムポイント間での3次元モデル(この3次元モデルは回転運動及び並進運動に関して正規化が施されている)の相対的な変形どうしを線形結合して得られる変形のみを許容するとの条件を課すことができる。換言するならば、(数値シミュレーションにおける)複数のタイムポイントのうちの先行タイムポイント又は後続タイムポイント(即ち将来タイムポイント)において算出された変形(例えば1つ又は複数の先行タイムポイントにおいてモデルに補正を施す際に算出された変形)どうしを線形結合して得られる形態演算子(だけ)を許容するようにすることができる。例えば、有限要素法シミュレーションの複数のタイムポイントの夫々においてシミュレーションにより算出された物体の予測変形に関する(全ての)情報が利用可能である(考察対象の現在タイムポイントより後の後続タイムポイントにおいて算出された予測変形に関する情報も利用可能である)。それゆえ、かかる条件を課すことによって、変形を表し得ること、変形を考察対象部分に適用し得ることに加えて、後続タイムポイントにおける予測変形をも考慮に入れることができる。かかる方式は、例えば、物体のコンポーネントの変形が実際に生じる後続タイムポイントにおいても、シミュレーションによって求められた変形が基本的に正しい変形である場合に適用されるものである。こうして後続タイムステップにおける変形を「時間的に前倒し」することで、現在タイムステップにおける変形を表すことが、即ち、現在タイムステップにおける画像を生成することが可能である。
【0058】
少なくと幾つかの実施例では、同一コンポーネントの複数の特徴的要素の夫々に対して別々の線形結合を適用する(即ち同一タイムポイントの夫々の相対的な変形に対して別々の重み付けをする)ことが可能である。また、複数の特徴の夫々に対して別々の線形結合を適用することが可能である。こうすることで、1つの物体が1つ又は複数のコンポーネントから成るものである場合にも、また(それに加えて更に)、1つのコンポーネントが1つ又は複数の特徴を備えている場合にも、対応することが可能となっている。また、複数の特徴の夫々に対して(それら特徴が同一コンポーネントの特徴であっても)別々の線形結合を適用することが可能である。
【0059】
また、少なくとも幾つかの実施例では、実行することでコンポーネントの変形が算出される数値シミュレーションを、先行タイムステップにおける物理的な先験情報(例えば物体の材料モデル、物体に作用する力、それに物体の速度など(これら情報のうちには、衝突試験のシナリオに定められているものがある))を考慮に入れると共に、更に、先行して行った計算により得られた計算結果(形態演算子、並進運動、回転運動などであり、これら計算結果は3次元変位ベクトルで表される)を、(例えば非機械的に作用する拘束力による)準静的変形又は動的変形に関する境界条件として考慮に入れた数値シミュレーションとしている。モデルを計算により求めるステップは、かかる数値シミュレーションを含むステップとしてもよく、或いは、かかる数値シミュレーションに基づいたステップとしてもよい。物体の変形についての先験知識と、計算により求めた形態演算子(及び計算により算出した物体のコンポーネントの並進運動/回転運動)とを用いて、物体に作用する拘束力を算出することができる。数値シミュレーションはその算出した拘束力に基づくものとすることができる。また、その場合に、形態演算子と、物体のコンポーネントの並進運動及び/又は回転運動とは、3次元変位ベクトルという概念によって統合することができる。換言するならば、物体の変形についての先験知識に基づいた数値シミュレーションと、計算により求めた形態演算子とに基づいて、(その物体のモデルを計算により求める過程で)その物体の変形を算出することができる。別法として、非機械的に作用する力による変形を表すベクトルや、拘束力、ないしは、その他の境界条件によるのではなく、先行するタイムステップにおいて実行した数値シミュレーションで用いた入力パラメータ(例えば、力、速度、材料パラメータなどであるがこれらに限定されない)の値に調節を施した上で、その数値シミュレーションを(物体の変形が進行中の複数のタイムステップに含まれる)1つまたは複数のタイムステップにおいて実行することで、コンポーネントの変形に補正を施すようにするのもよい。換言するならば、物体の変形についての先験知識と、計算により求めた形態演算子とを用いて、物体の材料の特性、作用する力、物体の(初期状態における)ジオメトリ、及び/又は、速度に関する数値シミュレーションの入力パラメータの値に調節を施すようにすることができる。
【0060】
差分を縮減するステップは、それを実行することによって、実験により取得した実測X線画像の画像内におけるコンポーネントの(即ち、コンポーネントを表す特徴の)投影位置及び投影形状と、上述した手段によって補正が施されたモデルに基づいた当該コンポーネントの投影位置及び投影形状との間の差分が、縮減するようなステップとすることができる。
【0061】
ステップ6:少なくとも幾つかの実施例では、上記のステップ1~ステップ4を(複数の予測X線画像及び複数の実測X線画像の各々に対して実行することにより)反復して実行し、そして、それらステップを最後に実行したときに改変が施されたモデルを、即ち、それらステップを最後に実行したときに改変が施された有限要素法シミュレーションの結果を、モデルとして活用するようにしている。換言するならば、予測X線画像を計算により生成するステップ120は、先行するX線画像に基づいて、即ち、上記のステップを反復して実行して得られた結果に基づいて、モデルに補正を施すステップとすることができる。また、モデルを計算により求めるステップ110は、例えば、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントのうちの先行タイムポイントのX線画像に基づいたモデルの補正を実行完了した後に、それら複数のタイムポイントのうちの後続タイムポイントで用いるモデルを計算により求める(110)ようにするステップとすることができる。そうすることで、それまで計算に基づいて実施してきたモデルの補正の結果を組込むことが可能となる。
【0062】
ステップ7:上記のステップ4においてもはや更なる改善が得られなくなったならば、即ち、以上のプロシージャを反復実行したことによって偏差が十分に縮減された解に(例えば偏差が最小の解に)達したならば、その時点で本方法の実行を停止/完了するステップ。
【0063】
実施例において、以上によって得られる結果には、実施した実験を表す時間分解した形の3次元表現(モデル)が含まれている(即ち、変形が進行中の物体を複数のタイムポイントに亘って表すモデルが含まれている)。実験では、変形が進行中の複数のタイムポイントの夫々において、コンポーネントの画像が撮影され、そして、実験とシミュレーションにおける誤差を考慮して、各タイムポイントにおいてモデルに示された1つ又は複数のコンポーネントの3次元空間内における位置及び向きを、実験結果に示された当該コンポーネントの3次元空間内の位置及び向きに揃えるための補正がモデルに施される。こうすることで、実施例においては、例えば形態演算子を計算により求める過程で、物体の1つ又は複数のコンポーネントに変形を導入することができる。
【0064】
図2は、1つの実施例に係る計測及び解析のためのプロシージャの概要を示した図である。
図2に示したように、外側の構造に関して、実験220と有限要素法シミュレーション230とに基づいた比較照合を行う(210)。実験データを記録するためのX線撮影機器を用意して設置し(222)、ある視点からの2次元X線画像の撮影を行うことで計測を行い、もって複数の実測X線画像を取得する(224)。有限要素法シミュレーション230を実行することでX線画像シミュレーションを実行し(232)、もって、物体の変形が進行中の複数のタイムポイントの夫々における予測X線画像を計算により生成する(234)。こうして得られた複数の実測X線画像と複数の予測X線画像とを用いて検査対象物の位置特定を行い(240)、もって、検査対象物である物体の特徴を特定し、そして、データアシミレーションを実行する(250)(このデータアシミレーションは実測X線画像と予測X線画像とに基づいてモデルに補正を施すことにより行われる)。このデータアシミレーションによって、実験において発生した現実事象の有限要素表現(即ち、変形プロセスが進行中の物体を表すモデル)が生成される(260)。換言するならば、この計測及び解析のためのプロシージャは、外部から視認不可能な構造に関して、時間分解した形の定量的な比較照合を可能にするものであり、その比較照合の結果は、実験において発生した現実事象の有限要素表現の生成260と、有限要素法シミュレーション230とに組込まれる。
【0065】
処理を反復する本解析方式に、検査対象物の原状を維持したままで高速X線撮影を行うべく開発した本計測システムを組合せることで、外部から視認不可能な構造に生じる過渡的で動的なプロセスを連続的に記録し解析することが初めて可能になったのである。自動車の衝突に関しては、その衝突試験において生じる高度に動的な変形プロセスを視覚化することで、従来は得られなかった、開発プロセスを進めて行く過程で出現する根本的な問題に対する示唆及び解答を、今や得ることが可能となっており、これが可能であるのは、現実の試験シナリオの中で衝突が発生しているときに、その自動車の内部に組付けられているコンポーネントを観察するということが、今や可能になったことによるものである。
【0066】
従って、従来は不可能であった検査対象物の原状を維持したままでのX線検査を、2次元X線画像の形で得られるX線実験データと数値シミュレーションによって得られる3次元構造データとを統合することで可能にしたものである。また、最大で1000fps(画像枚数/秒)という高いフレームレートは、動的プロセスをX線動画として撮像することを可能にしている。更に、新規に開発したこの解析プロシージャは、実験結果とコンピュータ解析とを統合することによって得られる可能性を示すものである。また、実験結果と数値シミュレーションによる予測結果とを直接的に整合させるようにしていることは、シミュレーションの計算による予測の品質を格段に改善することに役立っている。
【0067】
実施例を用いることで、例えば、側面衝突試験において、衝突事象が進行中のドアロック機構を可視化することが可能である。側面衝突試験以外のその他の多くの用途でも同様であるが、側面衝突試験にX線撮影を利用することの動機は、その他の方法では観察不可能な構造の変形のプロセスを可視化することにある。事故発生時に乗員が自動車の外へ放り出されるのを防止するためには、衝突によってドアが開いてしまわないようにしておくことが何よりも必要とされる。開発段階において側面衝突の発生時にドアが開いてしまうことが明らかになった場合に、これまでのやり方では、ドアロック機構の多数の箇所に高コストの計測機器を取付けるようにしていた。これに対して、X線技術を用いてドアロック機構の調査を行うならば、解析作業を1回分追加するだけで、自動車の内部の広範な領域を対象とした考察を完了し、問題の原因を詳細に且つ全範囲的に把握することが可能である。また、ひいては、それまで進めて来た開発作業を、適宜の段階から速やかに再開することが可能である。このことは、電気自動車から自動運転に至るまでの、現在直面している自動車のコンセプトに関わる様々な重大な技術的変革を支援するのに大いに資するものである。尚、この例では、X線技術を用いた解析プロシージャが、高度の衝突安全性に関する革新的コンセプトのトレンドセッターとなっている。
【0068】
計測プロシージャを実行するには、様々な構造及び特性の放射線源と、様々な構造及び特性の検出装置とを、組合せて用いればよい。また、解析プロシージャにおいては、データアシミレーションによって実験データとモデルとを整合させることで、補正情報を仮想(有限要素)モデルへフィードバックするようにしているが、このフィードバックのプロセスステップは、これ以外の方式のものとすることも考えられる。
【0069】
実施例は、(外部から視認不可能な)構造の動的変形解析を、X線を利用して行うようにしたものである。更に、実施例は、実験データと、時間分解した形の(仮想)3次元モデルとを、整合させるようにしたものである。更に、実施例は、補正情報を、本明細書に記載のプロセスによってフィードバックするようにしたものである。
【0070】
動的X線検査を自動車の衝突試験に適用するのは、数多くの用途例のうちの一例に過ぎない。実施例は、衝突試験によって明らかとなった問題を解決するという用途に用い得るものである。この用途例では、衝突試験の試験実施仕様や試験装置構成を、事前のX線画像シミュレーションによって改善できる可能性があり、また必要ならば、試験実施仕様や試験装置構成に動的X線検査を組込むことも可能である。またそのような場合に、動的X線検査は、例えば、開発プロセスの初期段階のコンセプトスタディから最終段階の承認ないし認証に至るまで、随時使用することのできる標準的な作業ツールとして、検査作業に柔軟に且つ効率的に使用し得る。開発プロセスの複雑度が増大している今日、開発期間を短縮するために、この新規な検査方式をデジタル開発環境に直接的に結合することが有用である。この動的変形解析は、例えば航空機製造業や包装機器製造業などの自動車製造業以外のその他の業界に関連した容易に想到し得る様々な用途に加えて、更に、反復型のプロセスの検査という用途にも用いることができ、より理解し易い用途としては、耐久性試験の分野の諸用途がある。本システムは、そのシステム全体も、また、X線源から検出装置そして解析用機器に至るまでの個々のシステム構成要素も、他の方式によるものを遙かに凌いでおり、そのことによって、本技術の更なる様々な用途が存在しており、また、物体の解析に関する、また特に物体の変形の解析に関する、数多くの新規な可能性が存在している。
【0071】
・原状を維持したままで実行するインプラント調整
少なくとも幾つかの実施例は、咀嚼動作が行われているときのインプラント体を観察する際に、動的X線検査を利用できるようにするものである。インプラント体の結合部の微小変形は、細菌の侵入という不都合をもたらすおそれもあり、また、インプラント構造を破損させるおそれもある。動的X線検査を行うことで、その微小変形や、そのインプラント構造の重要部分を可視化することができ、それによって、従来のものに代わり得る、より信頼性の高いインプラント設計が可能になる。
【0072】
・貨物規制業務での利用
セキュリティ技術に関して、空港、海港、国境において禁制品の商品、武器、ドラッグを摘発するための手荷物や貨物の検査という用途にX線画像検査が多用されている。現時点では、ラインセンサを用いた装置はスキャン及び評価に時間がかかることから、必要とされる処理能力を提供できないでいる。このことは特に、航空貨物及び海上貨物の検査について言えることである。動的X線検査システムのために開発した、大面積で、高速で、高エネルギのエリアセンサは、CT(コンピュータ断層撮影装置)を使用して航空貨物規制業務を高効率で実行する上で、特に好適なセンサである。このように、本プロジェクトにおいて開発した技術は、将来の航空貨物規制業務においてはCTが標準的手段として確立されているであろうとの予想を許すものである。
【0073】
・材料研究のための検査方法の拡張
材料研究には2つのトレンドがあり、その1つは、原子レベルから巨視的レベルに至るまでの幅広いスケール領域に亘る材料検査であり、もう1つは、実験と数値シミュレーションの統合である。これらはいずれも、観察された材料挙動のより良い理解に資するものであり、またいずれもが、動的X線検査を利用することで直接的に利益が得られるものでもある。解析プロシージャの一環として開発したデジタル変形解析のアルゴリズムは、従来の利用可能な方法と比べて、格段に高い情報出力量をもって複合材料の被験体の解析を行うことを可能にするものである。また、そのアルゴリズムは、動的状況と準静的状況とのいずれにも適用し得るものである。そのため、様々な寸法スケール及び時間スケールに亘って材料挙動の特性を詳細に評価することが可能である。以上の開発成果は、設計技術者にとっても、またシミュレーションの専門家にとっても大きな価値を持つものである。
【0074】
・加工処理技術における利用
動的プロセスを画像を用いて解析する画像解析は、加工処理技術における有望な用途を提案するものである。例えば、食品加工業の分野では、様々な相が混在する材料物質(液相-液相、固相-液相、固相-固相)に対して一度に加工処理を施すことがある。加工処理の基礎となる混合プロセスを正確に理解することで、特に食品の品質向上と品質保持期限延長に関して、大きな付加価値をもたらし得る。更に、現在直面している粒状物質の輸送機構に関する諸問題に対処する上でも有用である。
【0075】
これより本方法の更なる詳細事項及び局面について、上で(例えば
図1a~
図1bなどに示して)説明した概念ないし具体例との関連において説明して行く。本方法は、上で提示した概念ないし例示した具体例の1つ又は幾つかの局面に対応した1つ又は幾つかの更なる特徴を任意に備えたものとすることができ、これについては上でも言及しているが、以下に更に説明する通りである。
【0076】
図3に示したのは、複数の実測X線画像を撮像するためのシステム300の構成の1つの実施例である。幾つかの実施例では、本システムを更に、物体の変形を時間分解した形で算出するのに適した構成としている。本システムは、少なくとも1つの光学式高速度カメラ310と、シンチレータ320と、放射線源330とを備える。放射線源330は、例えば、シンチレータ320のシンチレータ板に、パルスX線を照射するように構成された放射線源であってもよい。或いはまた、放射線源330は、シンチレータ320へ向けて、連続放射線を放射するように構成された放射線源であってもよい。物体340は例えば
図1a~
図2に関連して説明した物体などであり、この物体340は放射線源330とシンチレータ320との間に配置される。シンチレータ320は、放射線源330から照射された放射線を光の形にして放出するように構成されている。そのため、放射線源から照射された放射線を可視光に変換するシンチレータ板を備えており、その可視光が高速度カメラで撮影されて記録されることで間接撮影が行われる(いわゆるデジタル式間接変換型検出装置である)。光学式高速度カメラ330は、シンチレータ320により変換されて放出された光を撮影するように設けられている。高速度カメラ330の結像光学系としては、高速度カメラ330の放射線被曝を低く抑え得るような光学系を選択するとよい。また、1つの具体例として、本システムを、上で説明した実測X線画像を撮像するステップ170を実行可能な構成とするのもよい。パルス放射線源としては(パルスX線を発生するように構成された)線形加速器を用いるのもよい。放射線源330としてパルス放射線源を用いる場合には、例えば、モーションブラーを回避するのに適した短いパルス長のパルスX線を放射するように構成したものを用いるとよい。別法として、上で述べたように連続放射線源を用いてもよく、その場合には、高速度カメラの露出時間を、モーションブラーを回避できる適切な露出時間に設定するとよい。X線画像におけるモーションブラーの大きさは、X線画像の解像度と、画像倍率と、露出時間に対する検査対象物の運動速度の比の関数となる。一般的に、露出時間を調節するためには、パルス放射線源を使用して、それが放射するパルスX線のパルス長を適宜設定するか、或いは、光学式高速度カメラの露出時間(この露出時間はカメラのフレームレートに関係する)を適宜設定する(連続放射線源を使用する場合)ようにすればよい。従って、X線画像の撮影回数は、X線パルスのパルス幅(パルス放射線源を使用する場合)と、高速度カメラのフレームレート/露出時間と、X線源のエネルギレベルの関数となる。尚、放射するX線のエネルギレベルは、撮影しようとする構造部品をそのX線が(選択した露出時間の時間内に)完全に透過できるような十分に高いエネルギレベルとする。
【0077】
前記光学式高速度カメラは、可視波長範囲の光を撮影し得るように構成されたものであればよい。また、前記光学式高速度カメラは、画像(X線画像)を撮影する際のフレームレートを、例えば100fps(画像枚数/秒)以上、(或いは200fps以上、或いは500fps以上、或いは800fps以上)とし得るように構成されたものとするとよい。また、前記シンチレータ板は、その吸収特性(放射線吸収特性)と、減衰時間と、材料厚さと、材料特性とが、パルスX線放射の高いエネルギレベルと短い露出時間に適合したものとするとよい。
【0078】
比較的大きな検査対象物(例えば自動車の構造部品など)の動画を撮影するには、例えば3個のモジュールを直列に連結して構成したモジュラ構造などを採用することで、シンチレータ板の感応面を大きなものとするとよい。また、例えばシンチレータを、複数のシンチレータモジュールから構成されたものとし、それら複数のシンチレータモジュールが夫々に変換して放出する光を撮影するための複数の高速度カメラを本システムが備えているようにするのもよい。またその場合には、複数のシンチレータモジュールを、例えば行列を成すように配置してもよく、例えば、1×n、2×n、或いはm×nの行列形の配置とすることができる。より具体的には、例えば、それらシンチレータモジュールの各々が、3個までの他のシンチレータモジュールに隣接している構造(即ち3倍カスケード接続構造)、4個までの他のシンチレータモジュールに隣接している構造(4倍カスケード接続構造、例えばm×nの行列形の配置)、或いは、6個までの他のシンチレータモジュールに隣接している構造(六角形のハニカム形の配置)などとすることができる。
【0079】
幾つかの実施例では、本システム300は更に、
図1a及び/又は
図1bに示したプロシージャを実行するように構成された計算モジュール350を備えている。
【0080】
これより本システムの更なる詳細事項及び局面について、上で(例えば
図1a~
図2などに示して)説明した概念ないし具体例との関連において説明して行く。本システムは、上で提示した概念ないし例示した具体例の1つ又は幾つかの局面に対応した1つ又は幾つかの更なる特徴を任意に備えたものとすることができ、これについては上でも言及しているが、以下に更に説明する通りである。
【0081】
上で詳述した数々の具体例ないし図面との関連において以下に説明する数々の局面ないし特徴は、その他の数々の具体例のうちの1つ又は幾つかと組み合わせることで、その他の具体例の同等の特徴の代替となり得るものでもあり、また、その他の具体例に当該特徴を付加し得るものでもある。
【0082】
更に、具体例としては、プログラムコードを備えたコンピュータプログラムであって、当該プログラムがコンピュータ上、又はプロセッサ上で実行されることによって上述した数々の方法のうちの1つ又は幾つかが実施されるようにしたもの、ないしは、かかるコンピュータプログラムに関連したものがある。上述した数々の方法における、ステップ、演算処理、それにプロセスなどが、プログラムがインストールされたコンピュータ又はプロセッサにより実行される。更に、具体例のうちには、例えばデジタルデータ格納媒体などのプログラム格納手段なども含まれ、ここで言うデジタルデータ格納媒体とは、マシンで読出可能、プロセッサで読出可能、又はコンピュータで読出可能な媒体であって、コマンドを、マシンで実行可能、プロセッサで実行可能、又はコンピュータで実行可能なプログラムの形にコーディングして格納した媒体である。また、ここで言うコマンドとは、上述した数々の方法におけるステップのうちの幾つか又は全てを実行するためのコマンド、ないしはその実行を起こさせるためのコマンドである。また、ここで言うプログラム格納手段としては、例えば、デジタルメモリ、磁気ディスクや磁気テープなどの磁気格納媒体、ハードディスクドライブ、それに、光読取可能なデジタルデータ記録媒体などがある。また、更なる具体例として、上述した様々な方法におけるステップを実行するためのプログラムがインストールされたコンピュータ、プロセッサ、それに制御ユニットなどがあり、また更に、上述した様々な方法におけるステップを実行するためのプログラムがインストールされた(フィールド)プログラマブル・ロジック・アレイ((F)PLA)や、(フィールド)プログラマブル・ゲート・アレイ((F)PGA)などがある。
【0083】
本明細書及び添付図面は本開示の基本事項を示したものである。また、ここに提示した数々の具体例はいずれも、基本的に且つ明確に説明することを目的としたものであり、もって、本開示を読む者が、本開示の基本事項を理解する上での、また、本発明者の寄与にかかる当業界の技術の更なる発展のための概念を理解する上での、一助とならんとするものである。本開示の基本事項、数々の局面、数々の具体例、また更に、それらの詳細例についての限局的記載はいずれも、それら事項、局面、具体例、詳細例の均等物をも包含するものである。
【0084】
添付図面中の機能ブロックに示された機能を「実行するための手段」とは、当該機能を実行するべく設計された回路などであり得る。従って、「これこれのための手段」とは、「これこれのために構成された手段、又は、これこれに適した手段」として実装されるものであり、具体的には、例えば、その目的のために構成された、或いは、その目的に適した、構成要素や回路などであり得る。
【0085】
添付図面中に示された、「~手段」、「~信号提供手段」、「~信号発生手段」、等々の種々の名称が記された機能ブロックを含めた数々の構成要素の夫々の機能のうちには、例えば、「信号発生器」、「信号処理ユニット」、「プロセッサ」、「コントローラ」、等々の専用ハードウェアによって実現し得るものもあれば、ソフトウェアを実行可能なハードウェアと所要のソフトウェアとの組合せによって実現し得るものもある。プロセッサを用いて所要の機能を実現するのであれば、単一の専用プロセッサで実現するのも、単一の共用プロセッサで実現するのも、或いはまた、複数のプロセッサで実現するのも夫々に一法であり、複数のプロセッサで実現する場合には、それらプロセッサのうちの幾つか又は全てを共用プロセッサとすることもできる。尚、「プロセッサ」や「コントローラ」などの用語が意味するものは、ソフトウェアを実行可能なハードウェアに限定されず、例えば、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)などのハードウェア、ネットワーク・プロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、ソフトウェアを格納するリード・オンリ・メモリ(ROM)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、不揮発性記憶装置なども含まれる。また、更にその他の、通常型ハードウェア、及び/又は、特定カスタマー向けハードウェアなども含まれる。
【0086】
ブロック図は、例えば、本開示の重要事項を備えた回路を大づかみで表した回路図などを示すものである。同様に、フローチャート、プロセスチャート、状態遷移図、擬似コード、等々は、様々なプロセス、演算処理、ステップなどを図示するものであって、それらプロセス、演算処理、ステップなどは、例えば、コンピュータ読出可能な媒体などによって実装され、それゆえコンピュータや、プロセッサによって実行されるものであり、ただし、それらを実行するコンピュータないしプロセッサが明示的に示されているか否かは問題とするところではない。また、明細書ないし特許請求の範囲に開示した様々な方法は、それら方法に含まれる様々なステップを実行するための手段を備えた構成要素により実施されるものである。
【0087】
明細書ないし特許請求の範囲に開示した数々のステップ、プロセス、演算処理、又は機能の実行順序は、開示した通りの特定の実行順序とすべきことが明示されている場合、又は、例えば技術的な理由などによってその特定の実行順序が必然である場合を除き、その特定の実行順序でのみ実行すべきであると解釈されてはならない。従って、複数のステップや機能を実行する際には、それらステップや機能の実行順序を交代させることが技術的な理由によって不可能である場合を除き、それらの実行順序は、開示した通りの特定の順序に限定されない。更に、幾つかの具体例では、1つのステップ、1つの機能、1つのプロセス、又は1つの演算処理を、複数のサブステップ、複数のサブ機能、複数のサブプロセス、又は複数のサブ演算処理から成るもの、ないしは、それらに分解し得るものとしている。そのような場合に、例えばある1つのステップが、複数のサブステップから成るもの、ないしは、複数のサブステップに分解し得るものではないことが明記されているのでない限り、それら複数のサブステップもまた、本開示に含まれ、本開示の一部を成すものである。
【0088】
更に、本明細書の記載のみならず、本願の特許請求の範囲の記載もまた、詳細な説明の一部を成すものであり、個々の請求項の記載は、独立した1つの具体例の記載たり得るものである。ただし、個々の請求項の記載が独立した1つの具体例の記載たり得るものであると雖も、特許請求の範囲における従属請求項は、当該従属請求項が1つ又は複数の他の請求項と組合わされるものである旨が記載されている以上、当該従属請求項の主題と他の従属請求項又は独立請求項の主題との組合せもまた、具体例の記載たり得るものである。そのような数々の主題の組合せは、それらが意図しない組合せであることが明記されている場合を除き、いずれも本開示において明確に示唆されている組合せであると言うべきものである。更に、ある従属請求項がある独立請求項に従属している場合には、その従属関係が直接的従属ではなく間接的従属であっても、当該従属請求項の特徴は当該独立請求項に付加され得るものである。