(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】硬化性組成物および電気部材
(51)【国際特許分類】
C08F 290/00 20060101AFI20221205BHJP
C08F 290/04 20060101ALI20221205BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20221205BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C08F290/00
C08F290/04
C08F290/06
C08F220/26
(21)【出願番号】P 2022089864
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2022-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 慧
(72)【発明者】
【氏名】太井 一貴
(72)【発明者】
【氏名】奥原 淳史
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-051679(JP,A)
【文献】特開2016-147990(JP,A)
【文献】特開2014-24980(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112823171(CN,A)
【文献】国際公開第2021/201207(WO,A1)
【文献】特開2020-132780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00
C08F 290/04
C08F 290/06
C08F 220/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、およびテトラヒドロフルフリルアルコール(メタ)アクリル酸多量体エステルからなる群から選択される少なくとも一種の複素環式(メタ)アクリレート、
(B)
イソボルニル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、およびシクロヘキシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の脂環式(メタ)アクリレート、および、
(C)前記(A)成分および前記(B)成分以外の(メタ)アクリレートであって
、(C1)重量平均分子量が1000~30000でありかつ官能基数が1または2であるポリブタジエン構造含有(メタ)アクリレート、および、(C2)分子量または重量平均分子量が200~30000でありかつ官能基数が1または2であるウレタン(メタ)アクリレート(但し、ポリブタジエン構造を含有するものを除く。)からなる群から選択される少なくとも一種の(メタ)アクリレート、
を含
む硬化性組成物であって、
前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分の合計含有量100質量部に対して、前記(A)成分および前記(B)成分の合計含有量が70~95質量部であり、
前記(B)成分の含有量に対する前記(A)成分の含有量の質量比(A)/(B)が0.6~20であ
り、
前記硬化性組成物100質量%に対する、前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分の合計含有量が80質量%以上である、
電気部材用硬化性組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の硬化性組成物が硬化してなる硬化物。
【請求項3】
請求項
2に記載の硬化物を含む電気部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、およびそれを用いた電気部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電気部材において、例えば端子などの金属の露出部は、金属の腐食を防ぐために樹脂で被覆ないし封止される。そのような電気部材の防蝕用の樹脂組成物として、熱や光で硬化する硬化性組成物が用いられている。
【0003】
特許文献1には、シール性に優れた硬化物を形成できる熱硬化性組成物として、末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリブタジエンと、熱重合開始剤を含むものが開示されている。特許文献1には、更に(メタ)アクリレート化合物を併用してもよいこと、特に当該化合物として、脂環式炭化水素基がエステル結合した(メタ)アクリレート化合物が用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、脂環式(メタ)アクリレートとともに、酸素原子含有複素環式(メタ)アクリレートを用い、かつ、これらを特定の分子量を持つ(メタ)アクリレートと、所定の割合で組み合わせることは開示されていない。
【0006】
電気部材において金属の腐食を防ぐための硬化性組成物には、金属に対する密着性に優れることが求められるが、従来の硬化性組成物では、強度を損なうことなく密着性を向上するうえで十分ではなかった。
【0007】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、密着性と強度に優れる硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] (A)酸素原子を含む五員環または六員環の複素環を有する複素環式(メタ)アクリレート、(B)脂環式(メタ)アクリレート、および、(C)前記(A)成分および前記(B)成分以外の(メタ)アクリレートであって分子量または重量平均分子量が200~30000でありかつ官能基数が1または2である(メタ)アクリレート、を含み、前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分の合計含有量100質量部に対して、前記(A)成分および前記(B)成分の合計含有量が70~95質量部であり、前記(B)成分の含有量に対する前記(A)成分の含有量の質量比(A)/(B)が0.6~20である、硬化性組成物。
[2] 前記(C)成分として重量平均分子量が200~30000でありかつ官能基数が1または2であるポリブタジエン構造含有(メタ)アクリレートを含む、[1]に記載の硬化性組成物。
[3] 前記(C)成分として分子量または重量平均分子量が200~30000でありかつ官能基数が1または2であるウレタン(メタ)アクリレートを含む、[1]に記載の硬化性組成物。
[4] 前記(C)成分として、重量平均分子量が200~30000でありかつ官能基数が1または2であるポリブタジエン構造含有(メタ)アクリレート、および、分子量または重量平均分子量が200~30000でありかつ官能基数が1または2であるウレタン(メタ)アクリレートを含む、[1]に記載の硬化性組成物。
[5] 前記(A)成分の前記複素環が飽和複素環である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
[6] 前記硬化性組成物100質量%に対する、前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分の合計含有量が80質量%以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
[7] 電気部材用である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
[8] [1]~[7]のいずれか1項に記載の硬化性組成物が硬化してなる硬化物。
[9] [8]に記載の硬化物を含む電気部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、密着性と強度に優れる硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る硬化性組成物は、下記の(A)成分、(B)成分、および(C)成分を含む硬化性樹脂組成物である。
(A)酸素原子を含む複素環式(メタ)アクリレート
(B)脂環式(メタ)アクリレート
(C)上記(A)成分および(B)成分以外の(メタ)アクリレート
【0011】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートのうちのいずれか少なくとも一方を表す。「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸のうちのいずれか少なくとも一方を表す。「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基のうちのいずれか少なくとも一方を表す。「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基のうちのいずれか少なくとも一方を表す。
【0012】
[(A)複素環式(メタ)アクリレート]
本実施形態では、(A)成分として、酸素原子を含む五員環または六員環の複素環を有する複素環式(メタ)アクリレート(以下、複素環式(メタ)アクリレート(A)という。)が用いられる。複素環式(メタ)アクリレート(A)は、分子内に、上記複素環と(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。複素環式(メタ)アクリレート(A)は、金属に対する密着性の向上に関与する。
【0013】
上記複素環は、飽和でも不飽和でもよいが、好ましくは飽和複素環である。上記複素環は、ヘテロ原子としての酸素原子を1つ有してもよく、2つ有してもよい。上記複素環は、ヘテロ原子として、酸素原子のみを有してもよいが、酸素原子とともに窒素原子や硫黄原子などの他のヘテロ原子を有してもよい。好ましくは、ヘテロ原子は酸素原子のみである。上記複素環の具体例としては、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、テトラヒドロピラン環、1,2-ジオキサン環、1,3-ジオキサン環、1,4-ジオキサン環などが挙げられる。
【0014】
複素環式(メタ)アクリレート(A)は、(メタ)アクリロイル基を複数個有する多官能(メタ)アクリレートでもよいが、好ましくは(メタ)アクリロイル基を1個有する単官能(メタ)アクリレートである。複素環式(メタ)アクリレート(A)においては、上記複素環の炭素原子に対し、(メタ)アクリロイルオキシ基が直接結合してもよく、連結基を介して結合してもよい。一実施形態において、(メタ)アクリロイルオキシ基は、炭素数1~6のアルカンジイル基を介して複素環に結合してもよく、例えばメチレン基を介して結合してもよい。上記複素環は、(メタ)アクリロイルオキシ基による置換の他に、さらに置換基を有してもよく、無置換でもよい。該置換基としては、特に限定されないが、炭化水素基が好ましい。例えば、上記複素環は、1個または複数個の炭素数1~6の炭化水素基(例えばアルキル基)を置換基として有してもよい。
【0015】
複素環式(メタ)アクリレート(A)としては、例えば、
(A1) 置換または無置換のテトラヒドロフラン環に炭素数1~6のアルカンジイル基を介して結合した(メタ)アクリロイルオキシ基を持つもの(例えば、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート)、
(A2) 置換または無置換のジオキソラン環に炭素数1~6のアルカンジイル基を介して結合した(メタ)アクリロイルオキシ基を持つもの(例えば、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート)、
(A3) 置換または無置換のジオキサン環に炭素数1~6のアルカンジイル基を介して結合した(メタ)アクリロイルオキシ基を持つもの(例えば、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート)、
(A4) 置換または無置換のテトラヒドロフルフリルアルコールの(メタ)アクリル酸多量体エステル
などが挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0016】
一実施形態において、複素環式(メタ)アクリレート(A)は、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、およびテトラヒドロフルフリルアルコール(メタ)アクリル酸多量体エステルからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0017】
複素環式(メタ)アクリレート(A)の市販品としては、例えば、テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート#150,THFA」、共栄社化学株式会社製「ライトアクリレートTHF-A」)、テトラヒドロフルフリルメタアクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトエステルTHF(1000)」)、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「MEDOL-10」)、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート#200,CTFA」)、下記式で表されるテトラヒドロフルフリルアルコールアクリル酸多量体エステル(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート#150D」)等が挙げられる。
【化1】
【0018】
[(B)脂環式(メタ)アクリレート]
本実施形態では、(B)成分として、脂環式(メタ)アクリレート(以下、脂環式(メタ)アクリレート(B)という。)が用いられる。脂環式(メタ)アクリレート(B)は、分子内に、芳香性を持たない炭素環である脂環式炭化水素基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。脂環式(メタ)アクリレート(B)は、金属に対するぬれ性がよく、硬化収縮が小さいため密着性の向上に関与する。
【0019】
上記脂環式炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよいが、好ましくは飽和の炭素環である。脂環式炭化水素基は、単環式でもよく、多環式でもよい。脂環式炭化水素基としては、環形成炭素数が6以上であることが好ましく、より好ましくは6~10である。
【0020】
脂環式(メタ)アクリレート(B)は、(メタ)アクリロイル基を複数個有する多官能(メタ)アクリレートでもよく、(メタ)アクリロイル基を1個有する単官能(メタ)アクリレートでもよい。脂環式(メタ)アクリレート(B)においては、脂環式炭化水素基に対し、(メタ)アクリロイルオキシ基が直接結合してもよく、連結基を介して結合してもよい。連結基を介して結合する場合、(メタ)アクリロイルオキシ基は、炭素数1~6のアルカンジイル基を介して脂環式炭化水素基に結合してもよく、例えばメチレン基を介して結合してもよい。脂環式炭化水素基は、(メタ)アクリロイルオキシ基による置換の他に、さらに置換基を有してもよく、無置換でもよい。該置換基としては、特に限定されないが、炭化水素基が好ましい。例えば、脂環式炭化水素基は、1個または複数個の炭素数1~6の炭化水素基(例えばアルキル基)を置換基として有してもよい。
【0021】
脂環式(メタ)アクリレート(B)としては、例えば、
(B1) 置換または無置換のノルボルナン環に直接結合した(メタ)アクリロイルオキシ基を持つもの(例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート)、
(B2) 置換または無置換のシクロヘキシル環に直接結合した(メタ)アクリロイルオキシ基を持つもの(例えば、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート)、
(B3) 置換または無置換のトリシクロデカン環に炭素数1~6のアルカンジイル基を介して結合した(メタ)アクリロイルオキシ基を持つもの(例えば、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート)
(B4) 置換または無置換のジシクロペンテニル環またはジシクロペンタニル環に直接または炭素数1~4のオキシアルキレン基を介して結合した(メタ)アクリロイルオキシ基を持つもの(例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート)
等が挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0022】
一実施形態において、脂環式(メタ)アクリレート(B)は、イソボルニル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、およびジシクロペンタニル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種でもよい。
【0023】
脂環式(メタ)アクリレート(B)の市販品としては、例えば、イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコートIBXA」、共栄社化学株式会社製「ライトアクリレートIB-XA」)、イソボルニルメタクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトエステルIB-X」)、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート(KJケミカルズ株式会社製「TBCHA」)、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート#196,TMCHA」)、シクロヘキシルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート#155,CHA」)、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトアクリレートDCP-A」)、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(昭和電工マテリアルズ株式会社製「FA-512M」)、ジシクロペンテニルアクリレート(昭和電工マテリアルズ株式会社製「FA-511A」)、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(昭和電工マテリアルズ株式会社製「FA-512A」)、ジシクロペンタニルアクリレート(昭和電工マテリアルズ株式会社製「FA-513A」)等が挙げられる。
【0024】
[(C)上記(A)成分および(B)成分以外の(メタ)アクリレート]
本実施形態では、(C)成分として、上記(A)成分および(B)成分以外の(メタ)アクリレートであって、分子量または重量平均分子量が200~30000でありかつ官能基数が1または2である(メタ)アクリレート(以下、(メタ)アクリレート(C)という。)が用いられる。(メタ)アクリレート(C)は、(A)成分および(B)成分とともに配合することで密着性の向上に関与する。なお、(メタ)アクリレート(C)は、上記の分子量および官能基数を持つものが1種のみ用いられてもよく、2種以上用いられてもよい。官能基数は1分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基の数である。
【0025】
ここで、上記の分子量または重量平均分子量については、(メタ)アクリレート(C)が、単一の構造を有する化合物である場合は、分子量を用い、高分子やオリゴマーのように分子量分布を持つ場合は、その重量平均分子量(Mw)を用いる。(メタ)アクリレート(C)の分子量または重量平均分子量が200以上であることにより、硬化物に柔軟性を付与して、金属等に対する密着性を向上することができる。(メタ)アクリレート(C)の重量平均分子量は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により下記条件にて測定され、標準ポリスチレンの分子量と溶出時間から作成した検量線を用いて、測定試料の溶出時間から算出することができる。
カラム:TSKgel Hxl(東ソー株式会社)
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
移動相流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL
試料濃度:0.2質量%
【0026】
(メタ)アクリレート(C)として官能基数が1または2であるものを用いることにより、硬化物に柔軟性を付与して、金属等に対する密着性を向上することができる。(メタ)アクリレート(C)としては、官能基数1のもののみを用いてもよく、官能基数2のもののみを用いてもよく、官能基数1のものと官能基数2のものを併用してもよい。
【0027】
(メタ)アクリレート(C)としては、(C1)ポリブタジエン構造含有(メタ)アクリレート、および/または、(C2)ウレタン(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。すなわち、一実施形態において、(メタ)アクリレート(C)は、(C1)重量平均分子量200~30000かつ官能基数が1または2のポリブタジエン構造含有(メタ)アクリレート、および、(C2)分子量または重量平均分子量200~30000かつ官能基数が1または2のウレタン(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0028】
(C1)成分のポリブタジエン構造含有(メタ)アクリレートは、ポリブタジエン構造を有する(メタ)アクリレートであり、例えば、ポリブタジエン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するもの、ポリブタジエン分子の末端にヒドロキシ基を有するポリオールに、ポリイソシアネートを反応させ、更にヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるものが挙げられる。ポリブタジエン骨格の二重結合は水素添加されていてもよい。(C1)成分の官能基数としては、2官能であることが好ましく、例えば、ポリブタジエンの両末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリブタジエンジ(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0029】
(C1)成分の(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、1000~30000であることが好ましく、より好ましくは3000~20000であり、更に好ましくは5000~15000である。
【0030】
(C2)成分のウレタン(メタ)アクリレートは、分子内に(メタ)アクリロイル基とウレタン結合を持つ化合物である。
【0031】
(C2)成分のウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、(C2-1)ポリオールとポリイソシアネートを反応させて得られる末端ヒドロキシ基含有ウレタンプレポリマーに(メタ)アクリル酸を反応させて得られたもの、(C2-2)ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られる末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーにヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られたもの、(C2-3)イソシアネート化合物にヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られたものなどが挙げられる。
【0032】
上記(C2)成分におけるポリオールとしては、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオールなどが挙げられる。ポリイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0033】
(C2)成分の官能基数について、上記(C2-1)および(C2-2)は2官能であることが好ましく、上記(C2-3)は1官能であることが好ましい。
【0034】
(C2)成分の(メタ)アクリレートの分子量または重量平均分子量について、上記(C2-1)および(C2-2)の重量平均分子量は1000~30000であることが好ましく、より好ましくは5000~30000であり、更に好ましくは10000~30000である。上記(C2-3)の分子量または重量平均分子量は200~5000であることが好ましく、より好ましくは200~2000であり、更に好ましくは200~1000である。
【0035】
硬化性組成物が、(C)成分として、(C1)成分と(C2)成分の双方を含む場合、(C1)成分と(C2)成分の含有量の質量比(C1)/(C2)は、特に限定されないが、0.2~5であることが好ましく、より好ましくは0.3~3であり、0.4~1でもよい。ここで、(C1)成分と(C2)成分を併用する場合、(メタ)アクリロイル基とウレタン結合とともにポリブタジエン構造を持つものは、(C2)成分ではなく(C1)成分として、(C1)/(C2)の質量比を計算する。
【0036】
[(D)重合開始剤]
本実施形態に係る硬化性組成物は、さらに(D)重合開始剤を含んでもよい。(D)重合開始剤としては、上記の(A)成分、(B)成分および(C)成分のラジカル重合を開始できるものであれば、特に限定されない。(D)重合開始剤は、(D1)光重合開始剤でもよく、(D2)熱重合開始剤でもよく、両者を併用してもよい。
【0037】
(D1)光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、オキシムエステル化合物、チオキサントン化合物、アントラキノン化合物などが挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0038】
アルキルフェノン化合物としては、例えば、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンなどのベンジルメチルケタール化合物、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オンなどのα-ヒドロキシアルキルフェノン化合物、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジルメチル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノンなどのアミノアルキルフェノン化合物などが挙げられる。アシルホスフィンオキサイド化合物としては、例えば、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
(D2)熱重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN)などのアゾ化合物、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルペルオキシピバレート、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンペルオキシドなどの有機過酸化物などが挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(D)重合開始剤として、(D1)光重合開始剤と(D2)熱重合開始剤との双方を含む場合、(D1)成分と(D2)成分の含有量の質量比(D1)/(D2)は、特に限定されないが、0.3~10であることが好ましく、より好ましくは0.5~5であり、1~3でもよい。
【0041】
[(E)架橋剤]
本実施形態に係る硬化性組成物は、さらに(E)架橋剤を含んでもよい。架橋剤としては、例えば、3官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0042】
[その他の添加剤]
本実施形態に係る硬化性組成物には、上記した各成分の他に、必要に応じて、例えば、酸化防止剤、重合禁止剤、着色剤、防カビ剤などの添加剤を、本実施形態の目的を損なわない範囲で加えることができる。また、該硬化性組成物は、本実施形態の目的を損なわない範囲で、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分および(E)成分以外の(メタ)アクリレートを含んでもよい。
【0043】
[硬化性組成物]
本実施形態に係る硬化性組成物において、(A)成分および(B)成分の含有量は、次のように設定される。(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計含有量100質量部に対して、(A)成分および(B)成分の合計含有量は70~95質量部である。従って、(C)成分の含有量は、上記合計含有量100質量部に対して5~30質量部である。(A)成分および(B)成分の合計含有量が70質量部以上であることにより、密着性、特に金属に対する密着性を向上することができる。また、該合計含有量が95質量部以下であることにより、硬化物に柔軟性を付与して密着性を向上することができる。
【0044】
該硬化性組成物において、(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比(A)/(B)は0.6~20である。(A)/(B)が0.6以上であることにより、金属に対する密着性を向上することができる。(A)/(B)が20以下であることにより、強度を向上することができる。(A)/(B)は、0.7~16であることが好ましく、より好ましくは0.8~10である。
【0045】
該硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分のみで構成されてもよいが、通常はさらに(D)重合開始剤を含む。(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計含有量100質量部に対する(D)成分の含有量は、特に限定されないが、0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、1~3質量部でもよい。
【0046】
該硬化性組成物が(E)架橋剤を含む場合、(E)架橋剤の含有量は特に限定されず、例えば、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計含有量100質量部に対して、0.1~10質量部でもよく、0.3~5質量部でもよく、0.5~3質量部でもよい。
【0047】
該硬化性組成物100質量%に対する、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計含有量は80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計含有量の上限は特に限定されず、例えば99.9質量%以下でもよく、99.5質量%以下でもよく、99質量%以下でもよい。
【0048】
本実施形態に係る硬化性組成物は、光および/または熱により硬化することによって硬化物が得られる。詳細には、(D)重合開始剤として(D1)光重合開始剤を含む場合は主として光により硬化し、(D2)熱重合開始剤を含む場合は主として熱により硬化する。
【0049】
本実施形態に係る硬化性組成物の用途は、特に限定されないが、例えば電子制御ユニット(ECU)基板、コイル、コネクタなどの電気部材に用いられることが好ましい。詳細には、該硬化性組成物は、銅やアルミニウムなどの金属、ガラスエポキシ樹脂等の樹脂に対する密着性に優れ、また体積固有抵抗が高いことから、電気部材における金属の露出部を被覆ないし封止する用途に好ましく用いられる。金属の露出部を該硬化性組成物の硬化物によって水分を含む外界から遮断することにより、当該露出部での金属の腐食を防ぐことができる。そのため、本実施形態に係る硬化性組成物は、電気部材の防蝕用樹脂組成物として好ましく用いられる。また、該硬化物が高い体積固有抵抗を持つことにより、電気部材における絶縁封止用樹脂組成物として用いることもできる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて硬化性組成物について詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されない。
【0051】
実施例及び比較例において使用した原料を以下に示す。
【0052】
[複素環式(メタ)アクリレート(A)]
・THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート#150,THFA」)
・CTFA:環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート#200,CTFA」)
【0053】
[脂環式(メタ)アクリレート(B)]
・IBXA:イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコートIBXA」)
・TBCHA:4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート(KJケミカルズ株式会社製「TBCHA」)
【0054】
[(メタ)アクリレート(C)]
・BAC-45:下記式で表されるポリブタジエンジアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製「BAC-45」、Mw:10000、官能基数:2)
【化2】
・UN6207:ポリエーテル系ウレタンアクリレート(根上工業株式会社製「UN-6207」、Mw:27000、官能基数:2)
・KRM9276:ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製「KRM9276」、Mw:215、官能基数:1)
【0055】
[開始剤(D)]
・開始剤1:α-ヒドロキシアルキルフェノン(IGM Resins B.V.社製「Omnirad 184」)
・開始剤2:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド(IGM Resins B.V.社製「Omnirad TPO」)
・開始剤3:t-ブチルペルオキシピバレート(日油株式会社製「パーブチルPV」)
【0056】
[その他の成分]
・アクリル酸メチル:分子量86
・TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(架橋剤、分子量:296.3、官能基数:3)
【0057】
[実施例1~17及び比較例1~16]
下記表1~3に示す配合(質量部)に従い、各成分を混合攪拌して、実施例1~17および比較例1~16の硬化性組成物を調製した。表中の「A+B+C」は、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計質量部を示す。「A+B」は、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量100質量部に対する(A)成分と(B)成分の合計質量部を示す。「A/B」は、(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比を示す。
【0058】
各硬化性組成物について、密着性、引張強度、引張伸び、および体積固有抵抗率を測定・評価した。測定・評価方法は以下のとおりである。
【0059】
[密着性]
基板として、銅板、アルミ板およびガラスエポキシ基板を用いた。バーコーターを用いて基板に各硬化性組成物を厚さ100μmで塗布し、硬化装置として紫外線(UV)照射装置を用いて硬化性組成物を硬化させた。UV照射装置としては、メタルハライドランプを装着したベルトコンベアー式UV硬化装置(商品名CSN2-40A、GSユアサ社製)を使用した。照射条件は、積算照度を2000mJ/cm2とした。基材上の硬化物(硬化物層)に対して、JIS-K5600-5-6:1999に規定された碁盤目試験を行い、残存したマス数により密着性を評価した。残存したマス数が60マス未満を×、60マス以上90マス未満を△、90マス以上を○と評価した。ガラスエポキシ基板、銅板およびアルミ板に対する密着性を、それぞれ「密着性GFRP」、「密着性Cu」および「密着性Al」として示す。
【0060】
[引張強度、引張伸び]
万能試験機によって引張試験を行ない、引張強度(MPa)と引張伸び(%)を評価した。詳細には、ステンレス板に離型剤を塗布し、その上にバッカーで12cm×12cmの囲いを作り、硬化物の厚みが1mmとなるように所定量の硬化性組成物の液を入れ、LED-UV照射機で硬化させた。得られた硬化物シートをダンベルで打ち抜き、引張試験用の試験片を作成した。株式会社島津製作所のオートグラフ(精密万能試験機)にて引っ張り試験(引張速度:200mm/分)を行い、試験片が破断した際の強度(引張強度)伸び(引張伸び)を測定した。引張強度は1MPa以上で○、1MPa未満で×と評価した。引張伸びは10%以上で○、10%未満で×と評価した。
【0061】
[体積固有抵抗率]
ステンレス板に離型剤を塗布し、その上にバッカーで6cm×6cmの囲いを作り、硬化物の厚みが1mmとなるように所定量の硬化性組成物の液を入れ、LED-UV照射機で硬化させた。得られた硬化物シートをADCMT社のデジタル超高抵抗/微少電流計にて体積固有抵抗率を測定した。体積固有抵抗率は良好な絶縁性の目安として1.0×1014Ω・cm以上で○、それ未満で×と評価した。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
結果は表1~表3に示すとおりである。比較例1,10では、(A)~(C)成分を含んでいるが、(A)成分と(B)成分の合計量が少ないため、金属に対する密着性に劣っていた。比較例2,4~7では、(B)成分を含んでいないため、引張強度が劣っており、そのうち比較例2,5,7では、(A)成分と(B)成分の合計量も少ないため、金属に対する密着性にも劣っていた。
【0066】
比較例3,8,9では(A)成分を含んでないため、比較例9,11,14,15,16では(C)成分を含んでいないため、密着性に劣っていた。比較例12では、(A)~(C)成分を含んでいるが、A/Bが規定よりも大きいため、引張強度に劣っていた。比較例13では、A/Bが規定よりも小さいため、金属に対する密着性に劣っていた。比較例4,5,15,16では、体積固有抵抗が小さく絶縁性に劣っていた。
【0067】
これに対し、実施例1~17であると、密着性および引張強度に優れていた。また、引張伸びが維持されており、体積固有抵抗が大きく絶縁性を有していた。
【0068】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0069】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【要約】
【課題】密着性と強度に優れる硬化性組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係る硬化性組成物は、(A)酸素原子を含む五員環または六員環の複素環を有する複素環式(メタ)アクリレート、(B)脂環式(メタ)アクリレート、および、(C)前記(A)成分および前記(B)成分以外の(メタ)アクリレートであって分子量または重量平均分子量200~30000かつ官能基数が1または2の(メタ)アクリレート、を含む。(A)~(C)成分の合計含有量100質量部に対して、(A)成分および(B)成分の合計含有量が70~95質量部である。(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比(A)/(B)が0.6~20である。
【選択図】なし