(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】インクジェット方式の車両用塗装機および車両塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20221205BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20221205BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20221205BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20221205BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20221205BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/10
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
B05D7/14 L
B41J2/01 109
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2022513739
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015663
(87)【国際公開番号】W WO2021205537
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】505056845
【氏名又は名称】アーベーベー・シュバイツ・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】ABB Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 66, 5400 Baden, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】多和田 孝達
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122225(JP,A)
【文献】特開2014-111307(JP,A)
【文献】特開2018-192405(JP,A)
【文献】特開2014-50832(JP,A)
【文献】特開2018-94552(JP,A)
【文献】特開2016-175077(JP,A)
【文献】特表2018-502698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00-21/00
B05D1/00-7/26
B05B1/00-17/08
B41J2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ラインに位置する車両に対し、ノズルから塗料を吐出することで塗装を行うためのインクジェット方式の車両用塗装機であって、
複数の前記ノズルを備えるノズルヘッドと、
前記ノズルヘッドを先端部に装着可能であると共に、装着された前記ノズルヘッドを移動させるロボットアームと、
前記ロボットアームの作動を制御するアーム制御部と、
前記ノズルヘッドの駆動を制御するヘッド制御部と、
塗装されるべき前記車両の塗装範囲に基づいて、前記ヘッド制御部で前記ノズルヘッドの駆動を制御するための塗装用データを形成する塗装用データ形成手段と、
を備え、
前記ノズルから構成される複数のノズル列は、前記ノズルヘッドの長手方向に対して傾斜して設けられていて、
前記ノズル列には、前記ノズルヘッドの走査方向における一方側に位置する第1ノズル列と、前記走査方向における他方側に位置する第2ノズル列とが設けられていて、
前記ノズルヘッドの長手方向が前記走査方向に対して直交している状態において、前記第1ノズル列において隣り合う前記ノズルから吐出される液滴の中間に、前記第2ノズル列の前記ノズルから吐出される液滴が吐出される状態で、前記第1ノズル列と前記第2ノズル列とが配置されていて、
前記塗装用データ形成手段は、
前記ロボットアームを駆動させて前記ノズルヘッドを移動させるための軌跡データを形成し、
前記軌跡データに基づいて、前記ノズルヘッドの主走査方向に対して、前記ノズルヘッドの長手方向が垂直を維持するための姿勢データを形成し、
前記アーム制御部は、前記軌跡データおよび前記姿勢データに基づいて、前記ノズルヘッドが主走査方向に移動しつつ前記ノズルから前記塗料を吐出する状態において該主走査方向に対して前記ノズルヘッドの長手方向が垂直な状態を維持するように前記ロボットアームを制御する、
ことを特徴とするインクジェット方式の車両用塗装機。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェット方式の車両用塗装機であって、
前記塗装用データ形成手段は、
前記ノズルヘッドの塗装幅における前記車両と前記ノズル吐出面との間の距離が最も近づく前記車両側の部位を基準部位とし、その基準部位より既定の高さだけ高くなる位置に、軌跡データを作成する、
ことを特徴とするインクジェット方式の車両用塗装機。
【請求項3】
請求項1または2記載のインクジェット方式の車両用塗装機であって、
前記塗装用データ形成手段は、
前記軌跡データを作成するのに先立ち、塗装されるべき前記車両の塗装範囲毎に、当該塗装範囲の塗装用3次元モデルを形成し、
前記塗装用3次元モデル、前記軌跡データおよび前記姿勢データに基づいて、実際に前記ノズルヘッドの塗装幅に対応した分割塗装データを形成すると共に、
前記分割塗装データには、隣り合う前記分割塗装データと重なり合う重なり部分が含まれる、
ことを特徴とするインクジェット方式の車両用塗装機。
【請求項4】
請求項3記載のインクジェット方式の車両用塗装機であって、
前記塗装用データ形成手段は、
前記車両の幅方向において、前記ノズルヘッドの長手方向の中心が対向する部位の前記車両の塗装部位の傾斜角度と同等の傾斜角度で前記ノズルヘッドが傾斜するように、前記姿勢データを作成する、
ことを特徴とするインクジェット方式の車両用塗装機。
【請求項5】
請求項3または4記載のインクジェット方式の車両用塗装機であって、
前記塗装用データ形成手段は、
前記車両の長手方向において、前記ノズルヘッドの短手方向の中心が対向する部位の前記車両の塗装部位の傾斜角度と同等の傾斜角度で前記ノズルヘッドが傾斜するように、前記姿勢データを作成する、
ことを特徴とするインクジェット方式の車両用塗装機。
【請求項6】
請求項5記載のインクジェット方式の車両用塗装機であって、
前記塗装用データ形成手段は、前記ノズルヘッドの短手方向の中心が対向する部位の傾斜角度に応じて、前記分割塗装データにおける濃度を大きくする、
ことを特徴とするインクジェット方式の車両用塗装機。
【請求項7】
請求項1記載のインクジェット方式の車両用塗装機であって、
前記塗装用データ形成手段は、
前記軌跡データを作成するのに先立ち、塗装されるべき前記車両の塗装範囲毎に、当該塗装範囲の塗装用3次元モデルを形成し、
前記塗装用3次元モデルに基づいて、前記車両に塗装を行うための2次元的な2次元塗装データを作成し、
前記2次元塗装データに基づいて、実際に前記ノズルヘッドの塗装幅に対応した分割塗装データを形成し、
前記分割塗装データに基づいて、前記軌跡データを作成する、
ことを特徴とするインクジェット方式の車両用塗装機。
【請求項8】
塗装ラインに位置する車両に対し、ノズルから塗料を吐出することで塗装を行うためのインクジェット方式の車両塗装方法であって、
前記ノズルから構成される複数のノズル列を有するノズルヘッドを備え、そのノズル列は、前記ノズルヘッドの長手方向に対して傾斜して設けられていて、
前記ノズル列には、前記ノズルヘッドの走査方向における一方側に位置する第1ノズル列と、前記走査方向における他方側に位置する第2ノズル列とが設けられていて、
前記ノズルヘッドの長手方向が前記走査方向に対して直交している状態において、前記第1ノズル列において隣り合う前記ノズルから吐出される液滴の中間に、前記第2ノズル列の前記ノズルから吐出される液滴が吐出される状態で、前記第1ノズル列と前記第2ノズル列とが配置されていると共に、
前記ノズルヘッドを先端部に装着しているロボットアームを駆動させて前記ノズルヘッドを移動させるための軌跡データを形成し、
前記軌跡データに基づいて、前記ノズルヘッドの主走査方向に対して、前記ノズルヘッドの長手方向が垂直を維持するための姿勢データを形成し、
前記軌跡データおよび前記姿勢データに基づいて、前記ノズルヘッドが主走査方向に移動しつつ前記ノズルから前記塗料を吐出する状態において該主走査方向に対して前記ノズルヘッドの長手方向が垂直な状態を維持するように前記ロボットアームを制御する、
ことを特徴とするインクジェット方式の車両塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式の車両用塗装機および車両塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の塗装ラインにおいては、ロボットを用いたロボット塗装が主流となっている。このロボット塗装では、多関節ロボットの先端に回転霧化型の塗装ヘッドを取り付けた塗装機(回転霧化型の塗装機)が用いられているが、インクジェット方式の塗装機を用いて、車両を塗装することが提案されている。このようなインクジェット方式の塗装機としては、たとえば特許文献1から3に示すものがある。
【0003】
特許文献1には、塗装対象である車両の塗装部位の形状に合わせて、塗装ヘッドの回転方向の角度調整を行うことで、塗装幅を自動的に調整することが開示されている。なお、同様の内容が、特許文献2,3にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-502702号公報
【文献】WO2018/108570号公報
【文献】WO2018/108572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1~3に開示の構成では、塗装ヘッドを回転させることで、塗装幅を調整している。しかしながら、一般に、塗装ヘッドにおいては、塗装幅に対応した塗装ヘッドの長手方向に対して進行方向が垂直であることを前提として、複数のノズルからノズル列が構成され、さらにはそのノズル列が多数配置されている。このため、塗装ヘッドを回転させて塗装を行う場合、特定の部位では、あるノズル列の所定のノズルから吐出される塗料液滴と、別のノズル列の所定のノズルから吐出される塗料液滴とが重なるものの、別の部位では、そのような重なりが生じない虞がある。特に、このような塗料液滴の重なりの有無は、ノズル列が塗装ヘッドの進行方向に対して傾斜している場合に顕著となる。したがって、塗装ヘッドの進行方向に対し、塗装ヘッドの長手方向が垂直に保たれた状態で塗装することが好ましい。
【0006】
しかしながら、たとえば、車両のルーフを始めとして、車両の塗装部位の幅は一定ではなく、また高さも一定ではない。そのため、塗装ヘッドの進行方向に対し、塗装ヘッドの長手方向が垂直に保たれた状態で塗装する場合において、車両のルーフを始めとする塗装部位に対し、均一な塗装膜厚を形成することは困難である。
【0007】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、塗装ヘッドの進行方向に対し、塗装幅に対応したノズルヘッドの長手方向が垂直に保たれた状態で塗装する場合において、車両のルーフを始めとする塗装部位に対し、均一な塗装膜厚を形成することが可能なインクジェット式の車両用塗装機および車両塗装方法を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、塗装ラインに位置する車両に対し、ノズルから塗料を吐出することで塗装を行うためのインクジェット方式の車両用塗装機であって、複数のノズルを備えるノズルヘッドと、ノズルヘッドを先端部に装着可能であると共に、装着されたノズルヘッドを移動させるロボットアームと、ロボットアームの作動を制御するアーム制御部と、ノズルヘッドの駆動を制御するヘッド制御部と、塗装されるべき車両の塗装範囲に基づいて、ヘッド制御部でノズルヘッドの駆動を制御するための塗装用データを形成する塗装用データ形成手段と、を備え、ノズルから構成される複数のノズル列は、ノズルヘッドの長手方向に対して傾斜して設けられていて、ノズル列には、ノズルヘッドの走査方向における一方側に位置する第1ノズル列と、走査方向における他方側に位置する第2ノズル列とが設けられていて、ノズルヘッドの長手方向が走査方向に対して直交している状態において、第1ノズル列において隣り合うノズルから吐出される液滴の中間に、第2ノズル列のノズルから吐出される液滴が吐出される状態で、第1ノズル列と第2ノズル列とが配置されていて、塗装用データ形成手段は、ロボットアームを駆動させてノズルヘッドを移動させるための軌跡データを形成し、軌跡データに基づいて、ノズルヘッドの主走査方向に対して、ノズルヘッドの長手方向が垂直を維持するための姿勢データを形成する、ことを特徴とするインクジェット方式の車両用塗装機が提供される。
【0009】
また、上述の発明において、塗装用データ形成手段は、ノズルヘッドの塗装幅における車両とノズル吐出面との間の距離が最も近づく車両側の部位を基準部位とし、その基準部位より既定の高さだけ高くなる位置に、軌跡データを作成する、ことが好ましい。
【0010】
また、上述の発明において、塗装用データ形成手段は、軌跡データを作成するのに先立ち、塗装されるべき車両の塗装範囲毎に、当該塗装範囲の塗装用3次元モデルを形成し、塗装用3次元モデル、軌跡データおよび姿勢データに基づいて、実際にノズルヘッドの塗装幅に対応した分割塗装データを形成すると共に、分割塗装データには、隣り合う分割塗装データと重なり合う重なり部分が含まれる、ことが好ましい。
【0011】
また、上述の発明において、塗装用データ形成手段は、車両の幅方向において、ノズルヘッドの長手方向の中心が対向する部位の車両の塗装部位の傾斜角度と同等の傾斜角度でノズルヘッドが傾斜するように、姿勢データを作成する、ことが好ましい。
【0012】
また、上述の発明において、塗装用データ形成手段は、車両の長手方向において、ノズルヘッドの短手方向の中心が対向する部位の車両の塗装部位の傾斜角度と同等の傾斜角度でノズルヘッドが傾斜するように、姿勢データを作成する、ことが好ましい。
【0013】
また、上述の発明において、塗装用データ形成手段は、ノズルヘッドの短手方向の中心が対向する部位の傾斜角度に応じて、分割塗装データにおける濃度を大きくする、ことが好ましい。
【0014】
また、上述の発明において、塗装用データ形成手段は、軌跡データを作成するのに先立ち、塗装されるべき車両の塗装範囲毎に、当該塗装範囲の塗装用3次元モデルを形成し、塗装用3次元モデルに基づいて、車両に塗装を行うための2次元的な2次元塗装データを作成し、2次元塗装データに基づいて、実際にノズルヘッドの塗装幅に対応した分割塗装データを形成し、分割塗装データに基づいて、軌跡データを作成する、ことが好ましい。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の第2の観点によると、ノズルから構成される複数のノズル列を有するノズルヘッドを備え、そのノズル列は、ノズルヘッドの長手方向に対して傾斜して設けられていて、ノズル列には、ノズルヘッドの走査方向における一方側に位置する第1ノズル列と、走査方向における他方側に位置する第2ノズル列とが設けられていて、ノズルヘッドの長手方向が走査方向に対して直交している状態において、第1ノズル列において隣り合うノズルから吐出される液滴の中間に、第2ノズル列のノズルから吐出される液滴が吐出される状態で、第1ノズル列と第2ノズル列とが配置されていると共に、ノズルヘッドを先端部に装着しているロボットアームを駆動させてノズルヘッドを移動させるための軌跡データを形成し、軌跡データに基づいて、ノズルヘッドの主走査方向に対して、ノズルヘッドの長手方向が垂直を維持するための姿勢データを形成する、ことを特徴とするインクジェット方式の車両塗装方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、塗装ヘッドの進行方向に対し、塗装幅に対応したノズルヘッドの長手方向が垂直に保たれた状態で塗装する場合において、車両のルーフを始めとする塗装部位に対し、均一な塗装膜厚を形成することが可能なインクジェット式の車両用塗装機および車両塗装方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るインクジェット式の車両用塗装機の全体構成を示す概略図である。
【
図2】
図1に示す車両用塗装機の概略的な構成を示す図である。
【
図3】
図1に示す車両用塗装機のノズルヘッドユニットのうち、塗料を吐出させるノズル吐出面を正面視した状態を示す図である。
【
図4】(A)は
図1に示す車両用塗装機のノズルヘッドユニットのうち、ノズル吐出面における各ノズルの配置を示す部分的な平面図を示しており、(B)はそれぞれのノズルから塗料を吐出した結果を示しており、(C)はそれぞれのノズルの駆動タイミングを示している。
【
図5】
図1に示すインクジェット式の車両用塗装機において、複数のノズルヘッドを千鳥状に配置した状態を示す図である。
【
図6】
図1に示すインクジェット式の車両用塗装機において、各ノズルへ塗料を供給する概略的な構成について示す図である。
【
図7】
図6に示す、列方向供給流路、ノズル加圧室および列方向排出流路付近の構成の変形例を示す断面図である。
【
図8】
図7に示す、列方向供給流路、ノズル加圧室および列方向排出流路付近の構成の変形例を示す断面図である。
【
図9】本発明の一実施の形態の車両用塗装機を用いた塗装方法を示す概略的なフローチャートである。
【
図10】
図1に示すインクジェット式の車両用塗装機において、軌跡データを作成する際の高さのイメージを示す図である。
【
図11】
図1に示すインクジェット式の車両用塗装機において、車両に対して軌跡データを平面視した状態を示す図である。
【
図12】
図1に示すインクジェット式の車両用塗装機において、姿勢データに基づいて、ノズルヘッドの主走査方向に対して、ノズルヘッドの長手方向が垂直を維持している状態を示す図である。
【
図13】(A)は
図4(A)に対して、ノズルヘッドユニットの長手方向が垂直を維持せずに傾斜したイメージを示す図であり、(B)は(A)に示すようにノズルヘッドユニットが傾斜したときに、それぞれのノズルから塗料を吐出した結果を示している。
【
図14】車両の横断面において、姿勢データに基づいて、塗装幅の部位の角度に対応する角度だけ、ノズルヘッドを傾斜させた状態を示す図である。
【
図15】車両の縦断面において、姿勢データに基づいて、塗装面の傾斜角度に対応する角度だけ、ノズルヘッドを傾斜させた状態を示す図である。
【
図16】本発明の変形例に係り、車両用塗装機を用いた塗装方法を示す概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各実施の形態に係るインクジェット式の車両用塗装機および車両用塗装方法について、図面に基づいて説明する。
【0019】
本実施の形態のインクジェット式の車両用塗装機および車両用塗装方法は、自動車製造の工場における塗装ラインに位置する車両または車両部品(以下、車両の一部となる車両部品も「車両」として説明する)といった塗装対象物に対して、「塗装」を行うものであり、塗膜を塗装対象物の表面に形成して、その表面の保護や美観を与えることを目的としている。したがって、所定時間毎に、塗装ラインに沿って移動してくる車両に対し、一定の時間内に所望の塗装品質にて、塗装を行う必要がある。
【0020】
なお、車両に対して塗装を行うためには、これから塗装を行おうとする車両に対し、既に塗装を行った車両と同一の動作で、より早く塗装を行う必要がある。そのため、後述する多軸のロボットアームは、多数の車両に対し、同じような動きをする必要があり、しかも車両に対してノズルヘッドユニット50が近距離で対向した状態を維持しながら移動する必要がある。また、ロボットアームの先端側にノズルヘッドユニット50が取り付けられているが、該ロボットアームを伸ばした場合のモーメント等を考慮すると、可搬重量をさほど大きくすることはできない。また、上記のように塗装ラインに沿って車両が次々に移動してくるので、車両用塗装機では、可能な限り早く塗装を行う必要がある。すなわち、本実施の形態における車両用塗装機は、このような車両塗装における特殊性の下で、用いられている。
【0021】
また、本実施の形態のインクジェット式の車両用塗装機および車両用塗装方法では、上述した塗膜を形成するのみならず、各種のデザインや画像を、車両や車両部品といった塗装対象物に対して形成することが可能である。
【0022】
(1-1.インクジェット式の車両用塗装機の全体構成について)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット式の車両用塗装機10の全体構成を示す概略図である。
図2は、車両用塗装機10の概略的な構成を示す図である。
図1および
図2に示すように、車両用塗装機10は、塗装用ロボット20と、塗料供給部40と、ノズルヘッドユニット50とを備えている。
【0023】
(1-2.塗装装置本体について)
図1に示すように、塗装用ロボット20は、基台21と、脚部22と、回転軸部23と、回転アーム24と、第1回動アーム25と、第2回動アーム26と、リスト部27と、これらを駆動させるためのモータM1~M6と、を主要な構成要素としている。なお、回転軸部23からリスト部27までの部分は、ロボットアームに対応するが、脚部22等のようなそれ以外の部分も、ロボットアームに対応するものとしても良い。
【0024】
これらのうち、基台21は床面等の設置部位に設置される部分であるが、この基台21が設置部位に対して走行可能であっても良い。また、脚部22は、基台21から上部に向かい立設された部分である。なお、脚部22と基台21の間に関節部を設けて、脚部22が基台21に対して回動可能としても良い。
【0025】
また、脚部22の上端には、回転軸部23が設けられている。この回転軸部23には、回転アーム24が回転自在な状態で取り付けられている。また、回転アーム24は、モータM1の駆動により回転させられるが、そのようなモータM1としては、電気モータやエアモータを用いることが可能である。なお、車両用塗装機10が防爆エリアに設置されると共に電気モータを用いる場合には、回転軸部23のハウジング内の内圧を高める等の防爆構造を備えることが好ましい(以下の各モータM2~M6においても同様)。しかしながら、車両用塗装機10が防爆エリア以外の場所に設置される場合には、上記のような防爆構造を備えなくて良い。なお、かかる防爆構造を、回転アーム24、第1回動アーム25、第2回動アーム26、リスト部27およびチャック部30のうちの少なくとも1つが備えるものとしても良い。
【0026】
また、回転アーム24には、第1回動アーム25の一端側が回動可能な状態で取り付けられている。なお、第1回動アーム25を回転軸部23に対して相対的に回転させるモータM2は、回転アーム24のハウジング内に収納されていても良く、第1回動アーム25のハウジング内に収納されていても良い。
【0027】
また、第1回動アーム25の他端側には、第2回動アーム26の一端側が軸部を介して揺動自在な状態で取り付けられている。この第2回動アーム26を第1回動アーム25に対して相対的に回転させるモータM3は、第1回動アーム25のハウジング内に収納されていても良く、第2回動アーム26のハウジング内に収納されていても良い。
【0028】
この第2回動アーム26の他端側には、リスト部27が取り付けられている。リスト部27は、複数(たとえば3つ)の異なる向きの軸部を中心に、回転運動を可能としている。それにより、ノズルヘッドユニット50の向きを精度良くコントロールすることが可能となっている。なお、軸部の個数は、2つ以上であれば幾つでも良い。
【0029】
かかるリスト部27のそれぞれの軸部を中心とした回転運動を可能とするために、モータM4~M6が設けられている。なお、モータM4~M6は、第2回動アーム26のハウジング内に収納されているが、その他の部位に収納されていても良い。
【0030】
また、リスト部27には、不図示のホルダ部を介してノズルヘッドユニット50が取り付けられている。すなわち、ノズルヘッドユニット50は、ホルダ部を介して、リスト部27に着脱自在に設けられている。
【0031】
なお、上記のような、回転軸部23と、回転アーム24と、第1回動アーム25と、第2回動アーム26と、リスト部27と、これらを駆動させるモータM1~M6と、を備える車両用塗装機10は、6軸で駆動可能なロボットである。しかしながら、車両用塗装機10は、4軸以上であれば、何軸で駆動するロボットであっても良い。
【0032】
(1-3.ノズルヘッドユニットについて)
次に、ノズルヘッドユニット50について説明する。リスト部27には、チャック部30を介してノズルヘッドユニット50が取り付けられる。
図3から
図5に示すように、ノズルヘッドユニット50は、不図示のヘッドカバーを備え、そのヘッドカバー内に、種々の構成が内蔵されている。なお、ヘッドカバーに内蔵される構成には、塗料を循環させる経路であるヘッド側循環経路(図示省略)や、ヘッド制御部130等が挙げられる。
【0033】
図3は、ノズルヘッドユニット50のうち、塗料を吐出させるノズル吐出面52を正面視した状態を示す図である。
図4においては、(A)はノズル吐出面52における各ノズル54の配置を示す部分的な平面図を示しており、(B)はそれぞれのノズル54から塗料を吐出した結果を示しており、(C)はそれぞれのノズル54の駆動タイミングを示している。なお、
図4(A)においては、説明の都合上、副走査方向(X方向)を大きく引き伸ばした状態で示している。たとえば、
図3においてノズルヘッド53の最も左側には、
図3の紙面奥側の合計8個のノズル54から構成されるノズル列55と、
図3の紙面手前側の合計8個のノズル54から構成されるノズル列55とが存在しているが、その2つのノズル列55を取り出して、主操作方向(X方向)はそのままで引き伸ばさず、副走査方向(X方向)を大きく引き伸ばした状態が、
図4(A)に対応している。
【0034】
図3および
図4(A)に示すように、ノズル吐出面52には、ノズル54がノズルヘッドユニット50の長手方向に対して傾斜する方向に連なるノズル列55が複数設けられている。また、
図4(C)では、縦軸は時間(駆動タイミング)を示し、横軸は合計8個のノズル54Aおよび合計8個のノズル54BのX方向の位置を示している。なお、上記において、ノズルヘッド50の長手とは、
図3において、ノズルヘッドの長い方向(横幅方向)を指す。
【0035】
かかるノズル列55には、本実施の形態では、主走査方向(Y方向)の一方側(Y2側)に存在する第1ノズル列55Aと、主走査方向の他方側に存在する第2ノズル列55B(Y1側)とが設けられている。これら第1ノズル列55Aおよび第2ノズル列55Bのうち、
図3の副走査方向における最も一方側(左側)に位置するものを、それぞれ第1ノズル列55A1および第2ノズル列55B1として、
図4に示している。
【0036】
ここで、第1ノズル列55A1および第2ノズル列55B1の各ノズル54A,54Bを、
図4(B)における副走査方向に沿った直線(投影直線PL)上に投影すると、その投影直線PLにおいては、第1ノズル列55A1におけるY1側から数えて1番目のノズル54A11と、2番目のノズル54A12の間に、第2ノズル列55B1におけるY1側から数えて1番目のノズル54B11が位置する。また、Y1側から数えて2番目のノズル54A12と、3番目のノズル54A13の間に、第2ノズル列55B1におけるY1側から数えて2番目のノズル54B12が位置する。以後、同様に、第1ノズル列55Aにおける隣り合うノズル54Aの間に、第2ノズル列55Bにおけるノズル54Bが、上記の投影直線PL上に位置する。
【0037】
このため、ノズルヘッドユニット50が走査している状態において、それぞれのノズル54A,54Bから吐出される液滴の吐出タイミングを
図4(C)に示すように制御することで、
図4(B)に示すような副走査方向の直線上に、液滴を着弾させることができる。いわば、隣り合うノズル列55同士で、液滴の着弾位置が半ピッチずつずれるように、ノズル列55が配置されている。それにより、塗装の際にドット密度を向上させることができる。
【0038】
ところで、
図3に示すように、ノズル吐出面52には、単一のノズルヘッド53が存在している。しかしながら、ノズル吐出面52には、複数のノズルヘッド53から構成されるヘッド群が存在するようにしても良い。この場合、一例として、
図5に示すように、複数のノズルヘッド53を位置合わせしつつ千鳥状に配置する構成が挙げられるが、ヘッド群におけるノズルヘッド53の配置は千鳥状でなくても良い。
【0039】
図6は、各ノズル54へ塗料を供給する概略的な構成について示す図である。
図7は、列方向供給流路58、ノズル加圧室59および列方向排出流路60付近の構成を示す断面図である。
図6および
図7に示すように、ノズルヘッド53は、供給側大流路57と、列方向供給流路58と、ノズル加圧室59と、列方向排出流路60と、排出側大流路61とを備えている。供給側大流路57は、後述するヘッド側循環経路の供給路71から塗料が供給される流路である。また、列方向供給流路58は、供給側大流路57内の塗料が、分流される流路である。
【0040】
また、ノズル加圧室59は、列方向供給流路58とノズル供給流路59aを介して接続されている。それにより、ノズル加圧室59には、列方向供給流路58から塗料が供給される。このノズル加圧室59は、ノズル54の個数に対応して設けられていて、内部の塗料を後述する駆動素子を用いてノズル54から吐出させることができる。
【0041】
また、ノズル加圧室59は、ノズル排出流路59bを介して列方向排出流路60と接続されている。したがって、ノズル54から吐出されなかった塗料は、ノズル加圧室59内からノズル排出流路59bを介して、列方向排出流路60へと排出される。また、列方向排出流路60は、排出側大流路61と接続されている。排出側大流路61は、それぞれの列方向排出流路60から、排出された塗料が合流する流路である。この排出側大流路61は、ヘッド側循環経路の戻り経路72と接続されている。
【0042】
このような構成により、ヘッド側循環経路の供給路71から供給された塗料は、供給側大流路57、列方向供給流路58、ノズル供給流路59aおよびノズル加圧室59を経て、ノズル54から吐出される。また、ノズル54から吐出されなかった塗料は、ノズル加圧室59からノズル排出流路59b、列方向排出流路60および排出側大流路61を経て、ヘッド側循環経路の戻り経路72へと戻される。
【0043】
なお、
図6に示す構成では、1本の列方向供給流路58には、1本の列方向排出流路60が対応するように配置されている。しかしながら、1本の列方向供給流路58に、複数本(たとえば2本)の列方向排出流路60が対応するように配置されていても良い。また、複数本の列方向供給流路58に、1本の列方向排出流路60が対応するように配置されていても良い。
【0044】
また、
図7に示すように、ノズル加圧室59の天面(ノズル54とは反対側の面)には、圧電基板62が配置されている。この圧電基板62は、圧電体である2枚の圧電セラミック層63a,63bを備え、さらに共通電極64と、個別電極65とを備えている。圧電セラミック層63a,63bは、外部から電圧を印加することで、伸縮可能な部材である。このような圧電セラミック層63a,63bとしては、強誘電性を有する、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系、NaNbO3系、BaTiO3系、(BiNa)NbO3系、BiNaNb5O15系等のセラミックス材料を用いることができる。
【0045】
また、
図7に示すように、共通電極64は、圧電セラミック層63aと圧電セラミック層63bの間に配置されている。また、圧電基板62の上面には、共通電極用の表面電極(不図示)が形成されている。これら共通電極64と共通電極用表面電極とは、圧電セラミック層63aに存在する不図示の貫通導体を通じて、電気的に接続されている。また、個別電極65は、上記のノズル加圧室59と対向する部位にそれぞれ配置されている。さらに、圧電セラミック層63aのうち、共通電極64と個別電極65とに挟まれた部分は、厚さ方向に分極している。したがって、個別電極65に電圧を印加すると、圧電効果によって圧電セラミック層63aが歪む。このため、所定の駆動信号を個別電極65に印加すると、ノズル加圧室59の体積を減少させるように圧電セラミック層63bが相対的に変動し、それによって塗料が吐出される。
【0046】
なお、
図7に示す構成では、共通電極64は、ノズル加圧室59の天面に配置されているが、このような構成には限られない。たとえば、
図8に示すように、共通電極64は、ノズル加圧室59の側面に配置される構成を採用しても良く、その他、塗料をノズル54から良好に吐出可能であれば、どのような構成を採用しても良い。
【0047】
(1-4.車両用塗装機の制御的な構成について)
次に、本実施の形態の車両用塗装機10の制御手段について説明する。制御手段は、画像処理部100と、アーム制御部110と、塗料供給制御部120と、ヘッド制御部130と、主制御部140とを有している。なお、画像処理部100、アーム制御部110、塗料供給制御部120、ヘッド制御部130および140は、CPU、メモリ(ROM、RAM、不揮発メモリ等)、その他の要素から構成されている。また、メモリには、所望の制御を実行するためのプログラムおよびデータが記憶されている。
【0048】
これらのうち、画像処理部100は、車両の塗装範囲に対応するCADデータに基づいて、3次元的なモデル(塗装用3次元モデル)を作成する。また、画像処理部100は、後述するアーム制御部110で形成された軌跡データD1と、上記の塗装用3次元モデルに基づいて、軌跡データD1に沿ってノズルヘッド53が塗装を行うのに対応する2次元的な分割塗装データを形成する。
【0049】
なお、画像処理部100およびアーム制御部110は、塗装用データ形成手段に対応するが、これら以外の部分(たとえばヘッド制御部130、主制御部140等)の少なくともいずれかを含めて塗装用データ形成手段に対応するものとしても良い。
【0050】
また、アーム制御部110は、上述したモータM1~M6の駆動を制御する部分である。このアーム制御部110は、メモリ111を備えていて、メモリ111には、ノズルヘッド53における塗装可能な塗装幅を勘案したロボットティーチングによって作成された軌跡データD1、およびノズルヘッド53の姿勢に関する姿勢データが記憶されている。そして、アーム制御部110では、メモリ111に記憶された軌跡データD1、姿勢データおよび画像処理部100での画像処理に基づいて、モータM1~M6の駆動を制御する。その制御により、ノズルヘッド53は、塗装を実行するための所望の位置を、所望の速度で通過したり、所定の位置で停止することができる。なお、メモリ111は、車両用塗装機10が備えていても良いが、車両用塗装機10の外部にメモリ111が存在し、そのメモリ81に対して、有線または無線の通信手段を介して、情報の送受信を可能としても良い。
【0051】
また、塗料供給制御部120は、ノズルヘッド53への塗料の供給を制御する部分であり、具体的には塗料供給部40が備えるポンプや弁等の作動を制御する。このとき、塗料供給制御部120は、ノズルヘッド53に対して定圧(定圧の一例としては定量)にて塗料が供給されるように、上記のポンプや弁の作動を制御することが好ましい。
【0052】
また、ヘッド制御部130は、画像処理部100での画像処理に基づいて、ノズルヘッドユニット50内の圧電基板62の作動を制御する部分である。このヘッド制御部130は、後述するセンサ150等の位置を検出する手段によって軌跡データD1における所定の位置に到達したときに、その位置に対応した分割塗装データに基づいて、塗料の吐出を制御する。なお、この場合、車両の膜厚が均一となるように、圧電基板62の駆動周波数を制御してノズル54から吐出されるドット数(液滴の数)を制御したり、圧電基板62に印加する電圧を制御して、ノズル54から吐出される液滴のサイズを制御する。
【0053】
また、主制御部140は、上記のモータM1~M6、塗料供給部40および圧電基板62が協働して塗装対象物に対して塗装が実行されるように、上述したアーム制御部110、塗料供給制御部120およびヘッド制御部130に所定の制御信号を送信する部分である。
【0054】
また、アーム制御部110の制御によって、ノズルヘッド53のノズル吐出面52が塗装面に対して平行を維持するために、塗装用ロボット20には各種のセンサ150が接続されている。かかるセンサ150には、角速度センサ、加速度センサ、イメージセンサ、ToF(Time of Flight)センサ等が挙げられるが、それ以外のセンサを用いても良い。
【0055】
[2.塗装方法について]
次に、上述のような構成を有する車両用塗装機10を用いて、車両や車両部品等の塗装対象物に対して、塗装を行う塗装方法について、
図9に基づいて説明する。
図9は、本実施の形態の車両用塗装機10を用いた塗装方法を示す概略的なフローチャートである。まず、車両用塗装機10の画像処理部100は、車両のCADデータに基づいて、3次元的なモデル(塗装用3次元モデル)を作成する(ステップS11)。この塗装用3次元モデルでは、塗装を行わない部位を除いた、実際に塗装を行う部位についての立体的な3次元のモデルを作成する。
【0056】
次に、上述した塗装用3次元モデルに基づいて、アーム制御部110では、軌跡データD1を作成する(ステップS12)。軌跡データD1は、ノズルヘッド53における塗装可能な塗装幅L1を勘案したロボットティーチングによって作成したり、軌跡データD1を自動的に生成するようにしても良い。かかる軌跡データD1の作成の際に、隣接する塗装領域同士が、若干の重なり部分L2を有するように、軌跡データD1を作成する。すなわち、塗装幅L1に重なり部分L2が含まれる状態とする。なお、車両において、予め塗装される範囲が分かっている場合、軌跡データD1は、塗装用3次元モデルに基づかずに、たとえばCADデータから軌跡データD1を作成しても良い。
【0057】
なお、先にステップS12を実行し、その後に、ステップS11を実行するようにしても良い。すなわち、アーム制御部110において、軌跡データD1を作成した後に、その軌跡データD1よりも所定だけ下側の位置に、塗装用3次元モデルを作成しても良い。
【0058】
ここで、軌跡データD1を作成する際の高さのイメージを、
図10に示す。
図10に示すように、実際の塗装対象である車両200には、段差201が存在する場合がある。したがって、軌跡データD1を作成する場合には、そのような段差201とノズルヘッド53とが干渉しないように、塗装幅L1における車両200側とノズル吐出面52との間の距離が最も近づく車両200側の部位(段差201等)を基準部位P1とし、その基準部位P1より既定の高さだけ高くなる位置に、軌跡データD1を作成する。
【0059】
また、軌跡データD1を
図11に示すように平面視する場合に、その軌跡データD1は直線状となることが好ましい。しかしながら、後述する分割塗装データD3の重なり部分L2が下限を下回らない範囲内において、軌跡データD1が曲線部分を有するようにしても良い。
【0060】
次に、上述した軌跡データD1に対応するように、アーム制御部110では、姿勢データを作成する(ステップS13)。なお、姿勢データは、軌跡データD1と共に作成するようにしても良い。
図12に示すように、姿勢データは、ノズルヘッド53の主走査方向S(進行方向)に対して、ノズルヘッド53の長手方向(横幅方向)Tが垂直を維持するように、姿勢データを作成する。このような姿勢データを作成することで、
図4(B)に示すように、塗料を等間隔で塗装面に吐出させることができる。
【0061】
ここで、ノズルヘッド53の主走査方向Sに対して、ノズルヘッド53の長手方向Tが垂直を維持していないとき(主走査方向Sに対して長手方向Tが傾斜しているとき)のイメージを、
図13に示す。
図13に示すように、ノズルヘッド53の長手方向Tが傾斜していると、液滴の着弾位置は、不均一な状態となる。すなわち、液滴同士が重なり合う部分と、液滴が重なり合わずに隙間が空く部分とが形成されてしまう。このような液滴の重なりや、隙間は塗装不良の原因となってしまう。そのため、ノズルヘッド53の主走査方向Sに対して、ノズルヘッド53の長手方向Tが垂直を維持するように、姿勢データが作成される。
【0062】
また、姿勢データは、車両の幅方向の断面(横断面)において、ノズルヘッド53のノズル吐出面52の少なくとも一部が、塗装対象である車両の横断面に対して平行な状態を維持するように作成される。たとえば
図14に示すように、車両の幅方向の端部側のように、塗装幅の部位が、水平面に対して所定の角度θ1だけ傾斜している場合には、ノズルヘッド53もその傾斜分だけ、傾斜させるように姿勢データを作成する。
【0063】
なお、姿勢データでは、
図14に示すように、たとえばノズル吐出面52の長手方向Tの中心が対向する部位の塗装面の傾斜角度が角度θ1で傾斜しているとき、ノズルヘッド53の長手方向Tも角度θ1で傾斜するように、姿勢データが作成されるのが好ましい。このように、ノズル吐出面52の長手方向Tの中心を基準とし、その中心が対向する部位の傾斜角度θ1と同じ角度だけノズルヘッド53を傾斜させることで、ノズル吐出面52の塗装幅の一端側または他端側のいずれかと、塗装面と間の距離が、大きくなってしまうのを防止することができる。これは、通常は、ノズル吐出面52の長手方向Tの中心と、その中心が対向する塗装面との間の距離が最小となることが多く、その長手方向Tの中心が対向する部位が基準部位P1となることにもよる。
【0064】
しかしながら、たとえば基準部位P1となる段差201が一端側寄りに位置している場合には、その段差201から離れる他端側に向かい、徐々に塗装面に近づくように、ノズルヘッド53を傾斜させるように、姿勢データを設定しても良い。
【0065】
また、
図15に示すように、ノズルヘッド53の主走査方向Sにおける両端側のように、主走査方向Sに沿った断面(縦断面)においても、塗装面が水平面に対して傾斜している場合がある。この場合、ノズル吐出面52の短手方向(縦幅方向;この場合、主走査方向Sと一致)の中心が対向する部位の傾斜角度が角度θ2で傾斜しているとき、ノズルヘッド53の短手方向Sも角度θ2で傾斜するように、姿勢データが作成されるのが好ましい。しかしながら、短手方向Sが角度θ2で傾斜するような姿勢データを作成しなくても良い。この場合には、膜厚の均一性を確保するために、角度θ2の大きさに応じて、画像データにおける濃度を大きくするようにしても良い。
【0066】
ここで、ノズルヘッド53の姿勢制御を簡単にするために、主走査方向Sに沿った断面においてノズルヘッド53を傾斜させない場合、塗装膜厚を一定に保つために、圧電基板62の駆動周波数Hを変更するようにしても良い。この場合、塗装面が水平である場合の圧電基板62の駆動周波数Hを1/cos θ倍(つまり周波数Hよりも大きくなる)する。それにより、塗装膜厚の均一化を図ることができる。
【0067】
しかしながら、上記のように駆動周波数Hを1/cos θ倍する場合、傾斜角度θ2の大きな端部側に向かうと、塗装ヘッドの周波数が大きくなる。たとえば、端部の傾斜角度が大きくなり、たとえば45度の傾斜角度となると、周波数Hを1.4倍した周波数となり、たとえば60度の傾斜角度となると、周波数Hを2倍した周波数となり、たとえば70度の傾斜角度となると、周波数Hを約3倍した周波数となってしまう。これでは、周波数の上限に到達してしまう虞がある。このような問題に対応するために、たとえば、主走査方向Sの両端側の領域(端部領域)に到達した場合、その到達前よりもノズルヘッド53の移動速度(走査速度)が遅くなるように、アーム制御部110が塗装用ロボット20の作動を制御するようにしても良い。
【0068】
また、上記のような周波数の上昇を抑える別の手法としては、主走査方向Sの両端側の領域(端部領域)における傾斜角度θ2の平均の傾斜角度を定め、その端部領域を平面的に近似して塗装するものとしても良い。
【0069】
なお、端部領域のような曲率の大きな部位で、仮に平面近似できない場合、主走査方向Sに沿った断面における端部領域の曲線の長さを積分により求め、それが水平面に平行な直線の何倍なのかを求めれば(仮にR倍とすると)、駆動周波数HをR倍した周波数で圧電基板62を駆動制御しても良い。このようにすれば、塗装膜厚の均一化が図れる。しかしながら、計算の簡略化を図るために、上記のように積分により求めずに、円近似などの簡易な近似にて、駆動周波数Hへの倍率を換算しても良い。
【0070】
上記のようにして、軌跡データD1および姿勢データを作成した後に、画像処理部100は、上記の塗装用3次元モデル、軌跡データD1および姿勢データに基づいて、実際にノズルヘッド53の塗装幅L1に対応した分割塗装データを作成する(ステップS14)。この場合、塗装用3次元モデルを、軌跡データD1に基づいて分割するが、その分割塗装データには、隣り合う分割塗装データと重なり合う重なり部分L2が含まれるように作成する。
【0071】
次に、分割塗装データが作成された後に、車両に対し、塗装を実行する(ステップS15)。
【0072】
[3.効果について]
以上のような構成のインクジェット方式の車両用塗装機10においては、複数のノズル54を備えるノズルヘッド53を先端部に装着可能であると共に、装着されたノズルヘッド53を移動させるロボットアーム(回転軸部23~リスト部27)と、ロボットアームの作動を制御するアーム制御部110と、ノズルヘッド53の駆動を制御するヘッド制御部130と、塗装されるべき車両の塗装範囲に基づいて、ヘッド制御部130でノズルヘッド53の駆動を制御するための塗装用データを形成する塗装用データ形成手段(画像処理部100、アーム制御部110)と、を備えている。
【0073】
そして、ノズル54から構成される複数のノズル列55は、ノズルヘッド53の長手方向に対して傾斜して設けられていて、ノズル列55には、ノズルヘッド53の走査方向における一方側に位置する第1ノズル列55Aと、走査方向における他方側に位置する第2ノズル列55Bとが設けられていて、ノズルヘッド53の長手方向が走査方向に対して直交している状態において、第1ノズル列55Aにおいて隣り合うノズル54から吐出される液滴の中間に、第2ノズル列55Bのノズル54から吐出される液滴が吐出される状態で、第1ノズル列55Aと第2ノズル列55Bとが配置されている。そして、塗装用データ形成手段は、ロボットアームを駆動させてノズルヘッド53を移動させるための軌跡データD1を形成し、軌跡データD1に基づいて、ノズルヘッド53の主走査方向に対して、ノズルヘッド53の長手方向が垂直を維持するための姿勢データを形成する。そして、アーム制御部110は、軌跡データD1および姿勢データに基づいて、ノズルヘッド53が主走査方向に移動しつつノズル54から塗料を吐出する状態において、主走査方向に対してノズルヘッド53の長手方向が垂直な状態を維持するようにロボットアームを制御する。
【0074】
このように、ノズルヘッド53が軌跡データD1に基づいて主走査方向に移動しつつ塗装を行う場合、ノズルヘッド53の長手方向は、姿勢データに基づいて主走査方向に対して垂直を維持するように、アーム制御部110によって制御される。それにより、
図13(A)に示すように、ノズルヘッド53が傾斜するのを防止することができるので、
図13(B)に示すように、液滴同士が重なり合う部分と、液滴が重なり合わずに隙間が空く部分とが形成されてしまうのを防止可能となる。したがって、車両に対する塗装膜厚の均一性を確保することができ、塗装品質を向上させることができる。
【0075】
また、本実施の形態では、塗装用データ形成手段(画像処理部100、アーム制御部110)は、ノズルヘッド53の塗装幅における車両とノズル吐出面52との間の距離が最も近づく車両200側の部位を基準部位P1とし、その基準部位P1より既定の高さだけ高くなる位置に、軌跡データD1を作成することが好ましい。
【0076】
このように構成する場合には、ノズルヘッド53(ノズル吐出面52)が、段差201のような突出部位と干渉してしまうのを防止可能となる。そのため、塗装部位にノズルヘッド53(ノズル吐出面52)がダメージを与えることで、塗装不良となるのを防止することができる。
【0077】
また、本実施の形態では、塗装用データ形成手段(画像処理部100、アーム制御部110)は、軌跡データD1を作成するのに先立ち、塗装されるべき車両の塗装範囲毎に、当該塗装範囲の塗装用3次元モデルを形成し、塗装用3次元モデル、軌跡データD1および姿勢データに基づいて、実際にノズルヘッド53の塗装幅に対応した分割塗装データを形成すると共に、その分割塗装データには、隣り合う分割塗装データと重なり合う重なり部分L2が含まれることが好ましい。
【0078】
このように構成する場合には、塗装用3次元モデル、軌跡データD1および姿勢データに基づいて形成される分割塗装データには、重なり部分L2が含まれるので、あるノズルヘッド53の走査における塗装と、その次のノズルヘッド53の走査における塗装との間に、隙間が形成されるのを防止可能となる。また、上記のように重なり部分L2を有することで、その重なり部分L2の下限を下回らない範囲において、直線の軌跡データD1のみならず、曲線の軌跡データD1を形成することが可能となる。
【0079】
また、本実施の形態では、塗装用データ形成手段(画像処理部100、アーム制御部110)は、車両の幅方向において、ノズルヘッド53の長手方向の中心が対向する部位の車両の塗装部位の傾斜角度θ1と同等の傾斜角度θ1でノズルヘッド53が傾斜するように、姿勢データを作成することが好ましい。
【0080】
このように構成する場合には、車両の幅方向において、
図14に示すようにノズルヘッド53の中心が塗装部位に対して垂直な状態とすることができる。このため、ノズルヘッド53の長手方向の両端側を、塗装部位に近づけることができる。それにより、所望の位置に塗料を着弾させることができ、塗装品質を向上させることができる。また、ノズルヘッド53を塗装部位に近づけることができるので、余分に飛散する塗料を低減することができ、塗料の無駄を低減することができる。
【0081】
また、本実施の形態では、塗装用データ形成手段(画像処理部100、アーム制御部110)は、車両の長手方向において、ノズルヘッド53の短手方向の中心が対向する部位の車両の塗装部位の傾斜角度θ2と同等の傾斜角度θ2でノズルヘッド53が傾斜するように、姿勢データを作成することが好ましい。
【0082】
このように構成する場合には、車両の長手方向において、
図15に示すようにノズルヘッド53の中心が塗装部位に対して垂直な状態とすることができる。このため、ノズルヘッド53の短手方向の両端側を、塗装部位に近づけることができる。それにより、所望の位置に塗料を着弾させることができ、塗装品質を向上させることができる。また、ノズルヘッド53を塗装部位に近づけることができるので、余分に飛散する塗料を低減することができ、塗料の無駄を低減することができる。
【0083】
また、上述の発明において、塗装用データ形成手段(画像処理部100、アーム制御部110)は、ノズルヘッド53の短手方向の中心が対向する部位の傾斜角度に応じて、分割塗装データにおける濃度を大きくすることが好ましい。
【0084】
このように構成する場合には、たとえば車両の長手方向の端部のように、水平面に対して傾斜した部位でも、分割塗装データにおける濃度を大きくすることで、他の部位と同等の塗装膜厚を形成することができる。それにより、車両の塗装範囲の全体において、均一な塗装膜厚とすることができる。
【0085】
[4.変形例について]
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態以外に、種々変形可能である。以下に、その一例について説明する。
【0086】
上述した実施の形態では、分割塗装データを作成するよりも先に、軌跡データD1を作成している。しかしながら、軌跡データD1よりも先に、画像処理部100で分割塗装データを作成するようにしても良い。
【0087】
すなわち、塗装用データ形成手段(画像処理部100、アーム制御部110)は、軌跡データD1を作成するのに先立ち、塗装されるべき車両の塗装範囲毎に、当該塗装範囲の塗装用3次元モデルを形成し、塗装用3次元モデルに基づいて、車両に塗装を行うための2次元的な2次元塗装データを作成し、2次元塗装データに基づいて、実際にノズルヘッドの塗装幅に対応した分割塗装データを形成し、分割塗装データに基づいて、軌跡データD1を作成するようにしても良い。
【0088】
この場合、
図16に示すように、先ず、画像処理部100において、3次元的なモデル(塗装用3次元モデル)を作成する(ステップS21)。その次に、塗装用3次元モデルに基づいて、画像処理部100において、平面的な2次元塗装データを作成する(ステップS22)。その後に、上記の2次元塗装データをノズルヘッド53における塗装可能な塗装幅L1で分割しつつ、さらにその塗装幅L1が上記の重なり部分L2を有する、分割塗装データを作成する(ステップS23)。その後に、アーム制御部110では、分割塗装データの上方に、ノズルヘッド53が走査するための軌跡データD1を作成する(ステップS24)。さらに、アーム制御部110では、軌跡データD1に対応するように、アーム制御部110では、姿勢データを作成する(ステップS25)。
【0089】
以上のようにして、分割塗装データ、軌跡データD1および姿勢データが作成された後に、車両に対し、塗装を実行する(ステップS26)。このようにしても、車両に対して、良好に塗装を行うことができる。
【符号の説明】
【0090】
10…車両用塗装機、20…塗装用ロボット、21…基台、22…脚部、23…回転軸部、24…回転アーム、25…第1回動アーム、26…第2回動アーム、27…リスト部、30…チャック部、40…塗料供給部、50…ノズルヘッドユニット、52…ノズル吐出面、53…ノズルヘッド、53B…ノズル、54…ノズル、54A…ノズル、54A11…ノズル、54A12…ノズル、54A13…ノズル、54B…ノズル、54B11…ノズル、54B12…ノズル、55…ノズル列、55A…第1ノズル列、55A1…第1ノズル列、55B…第2ノズル列、55B1…第2ノズル列、57…供給側大流路、58…列方向供給流路、59…ノズル加圧室、59a…ノズル供給流路、59b…ノズル排出流路、60…列方向排出流路、61…排出側大流路、62…圧電基板、63a…圧電セラミック層、63b…圧電セラミック層、64…共通電極、65…個別電極、71…供給路、72…戻り経路、81…メモリ、100…画像処理部(塗装用データ形成手段の一部に対応)、110…アーム制御部(塗装用データ形成手段の一部に対応)、111…メモリ、120…塗料供給制御部、130…ヘッド制御部、140…主制御部、150…センサ、200…車両、201…段差、D1…軌跡データ、D3…分割塗装データ、L1…塗装幅、L2…部分、M1…モータ、M2…モータ、M3…モータ、M4…モータ、M5…モータ、M6…モータ、P1…基準部位、PL…投影直線、S…主走査方向(短手方向)、T…長手方向