(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】コンクリート打ち分けの確認方法およびコンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20221206BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20221206BHJP
E02D 5/36 20060101ALI20221206BHJP
E02D 33/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
E04G21/02 103Z
E02D5/36
E02D33/00
(21)【出願番号】P 2018220507
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-08-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 定幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】富田 菜都美
(72)【発明者】
【氏名】濱 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳城
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-016787(JP,A)
【文献】特開2003-313861(JP,A)
【文献】特開2018-119303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/34
E04G 21/02
E02D 5/36
E02D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の高さまで下部コンクリートを打設した後、既打設コンクリートのコンクリート打設上面よりも下方から上部コンクリートを打設する際に、
前記下部コンクリー
トに対しては沈まず
前記上部コンクリートに対しては沈む沈降分銅と、前記下部コンクリートおよび前記上部コンクリートに対して沈まない浮遊分銅とを前記コンクリート打設上面に載置し、前記浮遊分銅と前記沈降分銅の高さ位置を比較することにより、前記コンクリート打設上面に面するコンクリートが前記下部コンクリートから前記上部コンクリートへ切り替わったか否かを確認する
コンクリート打ち分けの確認方法であって、
前記上部コンクリートは、前記下部コンクリートよりも設計基準強度が高く、かつ、前記下部コンクリートよりも流動性が高いことを特徴とする、コンクリート打ち分けの確認方法。
【請求項2】
所定の高さまで下部コンクリートを打設した後、既打設コンクリートのコンクリート打設上面よりも下方から上部コンクリートを打設する際に、
前記下部コンクリー
トに対しては沈まず、
前記上部コンクリートに対しては沈む沈降分銅を前記コンクリート打設上面に載置することにより、前記コンクリート打設上面に面するコンクリートが前記下部コンクリートから前記上部コンクリートへ切り替わったか否かを確認する
コンクリート打ち分けの確認方法であって、
前記上部コンクリートは、前記下部コンクリートよりも設計基準強度が高く、かつ、前記下部コンクリートよりも流動性が高いことを特徴とする、コンクリート打ち分けの確認方法。
【請求項3】
前記下部コンクリートおよび前記上部コンクリートの試験練りあるいは受け入れ試験の際に、前記沈降分銅の形状および重さを決定することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のコンクリート打ち分けの確認方法。
【請求項4】
下部コンクリートの上に前記下部コンクリート
よりも設計基準強度が高く、かつ、前記下部コンクリートよりも流動性が高いコンクリートからなる上部コンクリートを打ち継ぐコンクリート構造物の構築方法であって、
前記下部コンクリートから前記上部コンクリートへの切り替えが完了する位置である切替完了高さの下方に前記下部コンクリートの打設が完了する位置である先行打設高さを設定し、当該先行打設高さまで前記下部コンクリートを打設する第一工程と、
トレミー管の下端が既打設コンクリートのコンクリート打設上面の下方に位置した状態で前記上部コンクリートの供給する第二工程と、を備えており、
前記先行打設高さよりも下側に供給した前記上部コンクリートと同等の体積の前記下部コンクリートが、前記先行打設高さの下側から前記先行打設高さよりも上側の前記トレミー管を中心とした環状領域に移動すると仮定して、前記環状領域の上端が前記切替完了高さ以下に位置するように、前記先行打設高さを設定し、
前記第二工程では、前記下部コンクリー
トに対しては沈まず、
前記上部コンクリートに対しては沈む沈降分銅を、前記コンクリート打設上面に載置しておき、前記沈降分銅が前記コンクリート打設上面から沈降するか否かによって前記コンクリート打設上面に面するコンクリートが前記下部コンクリートから前記上部コンクリートへ切り替わった切替完了実測高さを確認し、
前記切替完了実測高さと前記切替完了高さとを比較することを特徴とする、コンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打ち分けの確認方法およびコンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、場所によって作用応力が異なり、必要とされる設計耐力が場所ごとに異なっている。例えば、場所打ちコンクリート杭は、通常、上部ほど地震時の応力が大きくなる。そのため、場所打ちコンクリート杭を設計する場合には、杭頭部において必要な曲げ耐力およびせん断耐力を確保できるコンクリート強度および断面寸法により、杭全体を設計するのが一般的である。
ところが、杭頭部に必要な設計耐力は、その他の部分において必要な設計耐力を大きく上回っている場合がある。そのため、杭頭部に必要なコンクリート強度等で杭全体のコンクリート強度等を設計すると、コスト高になるおそれがある。
そのため、特許文献1では、杭体底部から、杭体中間部、杭体頭部に向かうに従ってコンクリート中のセメント量を増加させることで、部位毎に必要な強度を確保できる場所打ちコンクリート杭が開示されている。特許文献1では、場所打ちコンクリート杭のコンクリートの配合を変化させる計画高さ(例えば、杭体底部と杭体中間部との境界)よりも2mほど下部から配合を変化させたコンクリートを打設している。
また、特許文献2には、安定液で満たされた杭孔内にトレミー管を挿入し、底部側から先行コンクリートを打設した後、先行コンクリートの打設面天端から2mの深さまで挿入したトレミー管から先行コンクリートよりも高強度な後行コンクリートを打設する場所打ちコンクリート杭の施工方法が開示されている。
特許文献1および特許文献2に記載の施工方法では、限られた実験結果に基づき、経験的に先行打設高さ(高強度コンクリートの打設を開始した際の打設上面の位置)からコンクリート打設上面が2m~3m上昇した段階で、コンクリートが切り替わったもの(断面に対して全体が高強度コンクリートに切り替わった)と判断し、トレミー管の挿入深さを2mとしたプロセス管理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-016787号公報
【文献】特開2018-119303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
強度の異なるコンクリートに切り替える場合には、杭径、鉄筋かごの径、コンクリート打設時のトレミー管の根入れ深さ等に応じて、コンクリートが完全に切り替わるタイミング(高さ)は変化する可能性がある。また、コンクリート打設中に何らかのトラブルが生じて、コンクリート打設が遅延した場合においても、コンクリートが適切に切り替わらない場合がある。そのため、コンクリートが切り替わった正確な位置をコンクリート打設中に確認するためには、原位置からフレッシュコンクリートを採取して試験を行う必要があるが、手間と時間がかかる。また、コンクリート打設後にコンクリートが切り替わった正確な位置を確認する場合には、コアボーリングなどにより採取した試験体に対して強度試験を行うことが考えられるが、ボーリング孔に対する補修工事が必要となる。
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、種類が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に把握することができるコンクリート打ち分けの確認方法およびコンクリート構造物の構築方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の第一のコンクリート打ち分けの確認方法は、所定の高さまで下部コンクリートを打設した後、既打設コンクリートのコンクリート打設上面よりも下方から上部コンクリートを打設する際に、前記下部コンクリートに対しては沈まず前記上部コンクリートに対しては沈む沈降分銅と、前記下部コンクリートおよび前記上部コンクリートに対して沈まない浮遊分銅とを前記コンクリート打設上面に載置し、前記浮遊分銅と前記沈降分銅の高さ位置を比較することにより、前記コンクリート打設上面に面するコンクリートが前記下部コンクリートから前記上部コンクリートへ切り替わったか否かを確認するコンクリート打ち分けの確認方法であって、前記上部コンクリートは、前記下部コンクリートよりも設計基準強度が高く、かつ、前記下部コンクリートよりも流動性が高いことを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明の第二のコンクリート打ち分けの確認方法は、所定の高さまで下部コンクリートを打設した後、既打設コンクリートのコンクリート打設上面よりも下方から上部コンクリートを打設する際に、前記下部コンクリートに対しては沈まず、前記上部コンクリートに対しては沈む沈降分銅を前記コンクリート打設上面に載置することにより、前記コンクリート打設上面に面するコンクリートが前記下部コンクリートから前記上部コンクリートへ切り替わったか否かを確認するコンクリート打ち分けの確認方法であって、前記上部コンクリートは、前記下部コンクリートよりも設計基準強度が高く、かつ、前記下部コンクリートよりも流動性が高いことを特徴とするものである。
なお、配合に応じた分銅を使用することを目的として、前記下部コンクリートおよび前記上部コンクリートの試験練りあるいは受け入れ試験の際に、前記沈降分銅の形状および重さを決定するのが望ましい。
【0007】
かかるコンクリート打ち分けの確認方法によれば、コンクリート打設上面に載置した沈降分銅と浮遊分銅との位置関係、あるいは、沈降分銅が沈降するか否かによってコンクリートが切り替わったか否かを確認することができる。例えば、下部コンクリートよりも上部コンクリートが柔らかい場合には、下部コンクリートに対しては沈まず、上部コンクリートに対しては沈む沈降分銅を使用し、沈降分銅が沈むことを確認することで、下部コンクリートから上部コンクリートに切り替わった位置を確認することができる。また、沈降分銅と浮遊分銅との両方を使用すれば、上部コンクリートが下部コンクリートよりも柔らかい場合に関わらず、硬い場合であっても、分銅同士の位置関係を比較することで、下部コンクリートから上部コンクリートに切り替わった位置を確認することができる。このように、分銅を使用する簡易な方法により、下部コンクリートから上部コンクリートに切り替わった位置を正確に確認することができる。そのため、フレッシュコンクリートから採取したサンプルや、コアボーリングにより採取した試験体等に対して試験を行う従来の確認方法に比べて、短時間で正確な位置を把握することができるとともに、安価である。また、コアボーリングを実施する場合のように、補修を行う必要もない。
【0008】
また、本発明のコンクリート構造物の構築方法は、下部コンクリートの上に前記下部コンクリートよりも設計基準強度が高く、かつ、前記下部コンクリートよりも流動性が高いコンクリートからなる上部コンクリートを打ち継ぐコンクリート構造物の構築方法であって、前記下部コンクリートから前記上部コンクリートへの切り替えが完了する位置である切替完了高さの下方に前記下部コンクリートの打設が完了する位置である先行打設高さを設定し、当該先行打設高さまで前記下部コンクリートを打設する第一工程と、トレミー管の下端が既打設コンクリートのコンクリート打設上面の下方に位置した状態で前記上部コンクリートの供給する第二工程とを備えている。前記先行打設高さは、前記先行打設高さよりも下側に供給した前記上部コンクリートと同等の体積の前記下部コンクリートが、前記先行打設高さの下側から前記先行打設高さよりも上側の前記トレミー管を中心とした環状領域に移動すると仮定して、前記環状領域の上端が前記切替完了高さ以下に位置するように設定する。また、前記第二工程では、前記下部コンクリートに対しては沈まず、前記上部コンクリートに対しては沈む沈降分銅を、前記コンクリート打設上面に載置しておき、前記沈降分銅が前記コンクリート打設上面から沈降するか否かによって前記コンクリート打設上面に面するコンクリートが前記下部コンクリートから前記上部コンクリートへ切り替わった切替完了実測高さを確認する。そして、前記切替完了実測高さと前記切替完了高さとを比較する。
【0009】
かかるコンクリート構造物の構築方法によれば、下部コンクリートから上部コンクリートに切り替わった位置を正確に確認することができるとともに、構築したコンクリート構造物が条件を満足していることを確認することができる。なお、本明細書において「異なる種類のコンクリート」とは、流動性、設計基準強度、配合、使用材料等が異なるコンクリートをいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート打ち分けの確認方法およびコンクリート構造物の構築方法によれば、コンクリート打設時にコンクリート打設上面に載置した分銅が沈むか否かを確認するのみで、下部コンクリートから上部コンクリートに切り替わった位置を正確に確認することができる。そのため、施工中または施工後に現地において採取したサンプルに対して試験を行うことで正確な切替位置を確認する方法に比べて、簡易かつ安価である。ゆえに、本発明のコンクリート打ち分けの確認方法およびコンクリート構造物の構築方法によれば、種類が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリート杭の一部を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す場所打ちコンクリート杭の施工状況を示す断面図であって、(a)は第一工程、(b)および(c)は第二工程である。
【
図3】先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートを示す斜視図である。
【
図5】(a)~(c)は他の形態に係る分銅を示す概要図である。
【
図6】(a)は実験状況を示す斜視図、(b)は実験に使用した分銅を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態では、
図1に示すように、場所打ちコンクリート杭1において、合理的な杭の構築を目的として、強度の異なる二種類のコンクリートを深さ方向に連続して打設する場合について説明する。すなわち、地震時に応力が大きくなる杭上部のコンクリート強度を高くするために、下部コンクリート2の上に下部コンクリート2よりも設計基準強度が高い上部コンクリート3を打ち継ぐことで場所打ちコンクリート杭1(コンクリート構造物)を構築する。場所打ちコンクリート杭1には、鉄筋かご4を配筋する。
本実施形態のコンクリート構造物の構築方法は、
図2(a)~(c)に示すように、所定高さ(以下、「先行打設高さH
L」という)まで下部コンクリート2を打設する第一工程(
図2(a)参照)と、トレミー管5の下端が下部コンクリート2のコンクリート打設上面よりも下方に位置した状態で上部コンクリート3の打設を開始して、トレミー管5の下端が既打設コンクリートのコンクリート打設上面1aの下方に位置した状態で上部コンクリート3を供給して、場所打ちコンクリート杭1の残部を形成する第二工程(
図2(b)および(c)参照)とを備えている。
【0013】
第一工程では、
図2(a)および(b)に示すように、先行打設高さH
Lまで下部コンクリート2を打設する。下部コンクリート2は、地中に形成された掘削孔6内に挿入されたトレミー管5を利用して掘削孔6の下端から供給する。トレミー管5は、コンクリート打設上面1aの上昇に伴って上昇させる。先行打設高さH
Lは、下部コンクリート2の充填が完了する位置である切替完了高さHの下方に設定する。すなわち、場所打ちコンクリート杭1に作用する応力の推定値(設計値)から切替完了高さH(コンクリート強度を高くする範囲)を設定し、この切替完了高さHにおいてコンクリートが完全に切り替えられるように、先行打設高さH
Lを設定する。
なお、先行打設高さH
Lは、先行打設高さH
Lよりも下側に供給した上部コンクリート3と同等の体積の下部コンクリート2が、先行打設高さH
Lの下側から先行打設高さH
Lよりも上側のトレミー管5を中心とした環状領域21に移動すると仮定して、環状領域21の上端が切替完了高さH以下に位置するように設定する。
【0014】
本実施形態では、先行打設高さH
Lを式1により算出する。式1は、場所打ちコンクリート杭1の作用応力に基づいて設定された切替完了高さHから、上部コンクリート3の供給により上側に押し上げられる下部コンクリート2の環状領域21の高さhを差し引くことにより先行打設高さH
Lを算出するものである。環状領域の高さhは、先行打設高さH
Lよりも下側に供給された上部コンクリート3の体積Vが、環状領域21に移動した下部コンクリート2の体積であるとして、環状領域21の体積から算出する。ここで、先行打設高さH
Lよりも下側に供給された上部コンクリート3は、
図3に示すように、先端部分31と円柱部分32の体積の合計とする。一方、環状領域21は、
図4に示すように、内径φ
i、外径φ
0の円筒状体とする。本実施形態では、下部流出深さΔh
0を0mm~800mmの範囲内、好ましくは0mm~500mmの範囲内とし、円柱部分の直径φ
rおよび環状領域21の内径φ
iを1000mm~2000mmの範囲内とする(
図3参照)。なお、下部流出深さΔh
0、円柱部分の直径φ
rおよび環状領域21の内径φ
iは、限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0015】
HL=H-h ・・・ 式1
h=V/S
V=V1+V2
S=π/4×(φo
2-φi
2)
V1=πφr
2/4×Δh
V2=2/3×πφr
2/4×Δh0
H :切替完了高さ
h :環状領域の高さ
V :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積
V1 :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の体積
V2 :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの先端部分の体積
S :環状領域の断面積
φo :場所打ちコンクリート杭の外径
φi :環状領域の内径
φr :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の直径
Δh :第二工程において下部コンクリートに挿入するトレミー管の深さ
Δh0:第二工程において供給された上部コンクリートの下端からトレミー管先端までの距離である下部流出深さ
【0016】
なお、コンクリート打設時には、コンクリート打設上面1aに、2つの分銅7(沈降分銅71および浮遊分銅72)を載置しておく。分銅7は、吊材73によって掘削孔6の上端から吊持されている。吊材73は一定の張力が確保された状態で分銅7を吊持している。吊材73として検尺テープを使用すれば、掘削孔6の上端部において、コンクリート打設上面の深さを確認することができる。なお、吊材73として、検尺テープに代えて、紐やワイヤーロープ等の線材を使用してもよい。また、吊材73は、コンクリートの打設状況に応じて一定の張力を確保した状態で自動的に巻き取るように構成されていてもよい。
【0017】
本実施形態の分銅7は、密実な金属部材により構成されていて、下部コンクリート2および上部コンクリート3の配合に応じた底面積と重量を有している。なお、分銅7の構成は限定されるものではない。例えば、コンクリートの配合に応じて重さを調節可能な分銅7であってもよい。このような分銅7としては、例えば、
図5(a)に示すように、中空の分銅本体74の内部に錘材75を収容したものであってもよい。この分銅7によれば、コンクリートの配合に応じて錘材75の数を調整することができる。また、
図5(b)に示すように、底版7aに柱材7bが立設された分銅本体74の柱材7bに、環状の錘材75を設置することにより重さを調整可能なものであってもよい。
また、分銅7は、
図5(c)に示すように、底部が下に向かうにしたがって面積が小さくなるような形状を有していてもよい。この分銅7によれば、底部がコンクリート打設上面に挿入されるので、立設状態を維持しやすくなる。
【0018】
本実施形態では、分銅7として、沈降分銅71および浮遊分銅72を使用する。沈降分銅71は、下部コンクリート2に対しては沈まず、上部コンクリート3に対しては沈むように構成されている。一方、浮遊分銅72は、下部コンクリート2および上部コンクリート3の両方に対して沈まないように構成されている。なお、沈降分銅71と浮遊分銅72は、なるべく近い位置に配置しておく。
【0019】
沈降分銅71および浮遊分銅72の形状および重さは、下部コンクリート2および上部コンクリート3の試験練りあるいは受け入れ試験の際に決定する。すなわち、下部コンクリート2と上部コンクリート3の試験練りを行った際に、予め形状や重さ等が異なる複数の分銅7を用意しておき、下部コンクリート2と上部コンクリート3に対して沈降しない形状及び重さの分銅7を選定して浮遊分銅72とし、下部コンクリート2に対しては沈降せずに、上部コンクリート3に対して沈降する分銅7を沈降分銅71として選定する。なお、コンクリート打設時に掘削孔6内に静置される時間(時間とともにコンクリートがこわばってくること)を考慮して分銅7を設定することがより適切である。ここで、沈降分銅71が下部コンクリート2に対しては沈降せずに、上部コンクリート3に対して沈降するのは、下部コンクリート2と上部コンクリート3との降伏値の違いによるものと推測される。
【0020】
また、本実施形態では、現地にフレッシュコンクリート(下部コンクリート2または上部コンクリート3)が搬入された段階で受け入れ試験を行う際に、フレッシュコンクリートの一部を試験槽(バケツ等)に貯留し、分銅7の性能を確認する。すなわち、現場内において、フレッシュコンクリートを利用して、沈降分銅71が下部コンクリート2に対しては沈まず、上部コンクリート3に対して沈むこと、および、浮遊分銅72が下部コンクリート2および上部コンクリート3の両方に対して沈まないことを確認する。このとき、分銅7が所望の性能を確保していない場合には、性能を確保できる分銅7に交換するか、分銅7の重量等を調整する。なお、現場でのフレッシュコンクリートを利用した確認試験は、必要に応じて行えばよい。
【0021】
第二工程では、
図2(b)に示すように、トレミー管5の下端が先行打設高さH
Lの下方に位置した状態で上部コンクリート3の供給を開始し、トレミー管5の下端が既打設コンクリートのコンクリート打設上面の下方に位置した状態でトレミー管5を引き上げつつ上部コンクリート3を供給する。上部コンクリート3を先行打設高さH
Lよりも下側に供給すると、上部コンクリート3が下部コンクリート2を押しのけながら注入される。上部コンクリート3は、下部コンクリート2内において供給開始時点のトレミー管5の直下に半楕円状または半円状(先端部分31)に供給された後、先端部分31の直上に上部コンクリート3が円柱状(円柱部分32)に供給される(
図2(c)参照)。一方、下部コンクリート2は、上部コンクリート3が供給されることによって、先行打設高さH
Lの下側に供給された上部コンクリート3と同等の体積の下部コンクリート2が先行打設高さH
Lの下側から先行打設高さよりも上側に移動する。このとき、先行打設高さH
Lの上側に移動した下部コンクリート2は、先行打設高さH
Lよりも上側の鉄筋かごの形状保持筋の外側部分(トレミー管5を中心とした環状領域21)に移動する。
【0022】
下部コンクリート2の上昇が終了すると、
図2(c)に示すように、コンクリート打設上面の全面が上部コンクリート3に切り替わる。このとき、浮遊分銅72と沈降分銅71の高さ位置を比較することにより、コンクリート打設上面に面するコンクリートが下部コンクリート2から上部コンクリート3へ切り替わったことを確認する。すなわち、沈降分銅71がコンクリート打設上面1aに対して沈み、浮遊分銅72は沈降しないため、両分銅7の深さ位置(吊材73の長さ)に差が生じることで、コンクリート打設上面が上部コンクリート3に切り替わったことを確認することができる。なお、沈降分銅71および浮遊分銅72を利用した確認方法は、沈降分銅71と浮遊分銅72との深さ位置の相対的な差が閾値を超えた場合に切り替わったと判断すればよい。なお、吊材73がコンクリートの打設状況に応じて自動的に巻き取るように構成されている場合には、沈降分銅71と浮遊分銅72との深さ位置の相対的な差が閾値を超えた段階で、制御手段が信号を発信し、コンクリート打設を一旦停止するように構成された自動化システムを採用してもよい。
このように、第二工程では、沈降分銅71がコンクリート打設上面1aから沈降することによってコンクリート打設上面1aに面するコンクリートが下部コンクリート2から上部コンクリート3へ切り替わった切替完了実測高さH
Mを確認することができる。なお、切替完了実測高さH
Mは、沈降分銅71の底面の深さ位置とする。
【0023】
沈降分銅71が配設された位置においてコンクリートが下部コンクリート2から上部コンクリート3へ切り替わったことを確認したら、コンクリートの打設を一端停止して、沈降分銅71および浮遊分銅72を移動させる。移動箇所において沈降分銅71と浮遊分銅72との深さ位置の差を確認することで、他の位置でもコンクリートが切り替わったことを確認する。このとき、沈降分銅71および浮遊分銅72の移動箇所は、鉄筋かご4の外側と内側に対して、それぞれ複数箇所で行い、場所打ちコンクリート杭1の断面全体が下部コンクリート2から上部コンクリート3に切り替わったことを確認する。なお、コンクリートの切り替えの確認ができない箇所がある場合には、当該位置に沈降分銅71および浮遊分銅72を配置した状態で、上部コンクリート3の打設を再開し、コンクリートの切り替えが確認できるまで上部コンクリート3を流し込む。ここで、切替完了実測高さは、場所打ちコンクリート杭1の断面全体が下部コンクリート2から上部コンクリート3に切り替わったことが確認できた高さ(深さ位置)とする。
切替完了実測高さHMが確認できたら、予め仮定された切替完了高さHと比較する。
【0024】
以上、本実施形態のコンクリート打ち分けの確認方法およびコンクリート構造物の構築方法によれば、コンクリート打設上面に載置した沈降分銅71が沈降するか否かによってコンクリート打設上面に面するコンクリートが下部コンクリート2から上部コンクリート3に切り替わったか否かを確認することができる。このように、分銅7を使用する簡易な方法により、下部コンクリート2から上部コンクリート3に切り替わった位置を正確に確認することができる。そのため、フレッシュコンクリートから採取したサンプルや、コアボーリングにより採取した試験体等に対して試験を行う従来の確認方法に比べて、短時間で正確な位置を把握することができるとともに、安価である。また、完成構造物に対してコアボーリングを実施する場合のように、補修を行う必要もない。
【0025】
また、下部コンクリート2から上部コンクリート3に切り替わった位置を正確に確認することができるとともに、構築したコンクリート構造物が条件を満足していることを確認することができる。
また、設計上の切替完了高さの近傍で、コンクリートの切り替えを完了させることができるため、強度が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に設定することが可能となる。その結果、必要な耐力を有した場所打ちコンクリート杭1を経済的に施工することができる。
【0026】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、沈降分銅71と浮遊分銅72との二つの分銅7を使用する場合について説明したが、分銅7の数は限定されるものではなく、例えば、沈降分銅71のみを使用してもよい。なお、沈降分銅71のみを使用する場合には、コンクリート打設中に沈降分銅71の高さ位置に一定時間変化がない場合に、コンクリートが切り替わったと判断することができる。このとき、沈降分銅71の吊材73を自動的に巻き取る巻取り手段を使用している場合には、コンクリートが切り替わったことが確認された段階において、自動的にコンクリート打設を停止するように制御してもよい。
また、沈降分銅71は、上部コンクリート3の打設を開始してからコンクリート打設上面1a上に載置してもよく、必ずしも、下部コンクリート2の打設時から使用する必要はない。
【0027】
また、前記実施形態では、円柱状の場所打ちコンクリート杭1を構築する場合について説明したが、コンクリート構造物は杭に限定されるものではなく、例えば、矩形断面の壁杭等であってもよい。
また、前記実施形態では、一本の場所打ちコンクリート杭1に対して、一本のトレミー管5により施工する場合について説明したが、トレミー管5の本数は限定されるものではなく、複数本のトレミー管5を利用してもよい。なお、トレミー管5を二本使用する場合は、トレミー管5ごとに置換部分を考慮して検討する。
【0028】
前記実施形態では、環状領域を鉄筋かご4の形状保持筋の外側部分としたが、環状領域は鉄筋かご4の形状保持筋の外側部分に限定されるものではなく、例えば、主筋、帯筋などの鉄筋の外側部分(被り部分)であってもよい。また、環状領域は必ずしも鉄筋等の被り部分である必要はない。
前記実施形態では、上部コンクリート3として、下部コンクリート2よりも設計基準強度が高いコンクリートを打設するものとしたが、上部コンクリート3は、例えば、下部コンクリート2よりも流動性が高い等、下部コンクリート2とは種類が異なるコンクリートであれば限定されない。
また、前記実施形態では、トレミー管5を引き上げつつコンクリートを打設する場合について説明したが、コンクリートは必ずしもトレミー管5を引き上げながら打設する必要はなく、トレミー管5を固定した状態で打設してもよい。
【0029】
次に、分銅7の形状寸法の決定方法について実施した実験結果について説明する。本実験では、重量を調整可能な円柱状の分銅本体74を使用して、配合の異なる2種類のコンクリートに対して両方に沈まない重量(浮遊分銅72)と、一方に沈んで他方に沈まない重量(沈降分銅71)とを選定した。本実験では、外径がφ50mm(第一分銅)、φ75mm(第二分銅)、φ100mm(第三分銅)の分銅本体74について、質量を0.5kg~1.8kgの範囲で変化させて、二種類のコンクリートに対して、各分銅7が沈むか否かを測定した。なお、コンクリートには、予備強度が33N/mm
2でスランプフローが21cmの第一コンクリートと、予備強度が68N/mm
2でスランプフローが60cmの第二コンクリートを使用した。なお、本実験では、分銅7が5cm沈む時間が5秒未満である場合に沈んだものと判断した。実験は、
図6(a)に示すように、試験槽(バケツ8)に貯留されたコンクリートの表面(コンクリート打設上面1a)に吊材73により吊持された分銅7を載置することにより行った。なお、分銅7(分銅本体74)の外面には、
図6(b)に示すように、下端から所定のピッチ(例えば、1cmピッチ)のメモリ76が付されており、沈降深さを目視可能に構成しておく。
実験結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
表1に示すように第一分銅は、最も質量が小さい1.1kgであっても、第二コンクリートに沈む結果となった。そのため、φ50mmの第一分銅は、錘質量を1.1kgにすることで、第一コンクリートに対しては沈まず、第二コンクリートに対しては沈む分銅7として使用可能であるが、質量を大きくすると第一コンクリートと第二コンクリートの両方に沈んでしまう。したがって、第一分銅は、質量が1.1kgのときに沈降分銅71として使用可能であるといえる。
第二分銅は、質量が最も大きい1.5kgのときでも、第一コンクリートに対して沈まなかった。一方、第二コンクリートに対しては、質量が0.5kgのときは沈まないが、1.0kgのときに沈む結果となった。なお、第二分銅の質量が0.8kgのときは、5cm沈むのに6.9秒かかるため、第二コンクリートに対して沈むとまで言えなかった。したがって、第二分銅は、質量が0.5kgのときに浮遊分銅72として使用可能で、質量が1.0~1.5kgのときに沈降分銅71として使用可能であるといえる。
第三分銅は、質量が最も大きい1.6kgのときでも、第一コンクリートに対して沈まなかった。第二コンクリートに対しては、質量が1.0kgのときは沈まないが、1.6kgのときに沈む結果となった。なお、第三分銅の質量が1.3kgのときは、5cm沈むのに5.3秒かかるため、第二コンクリートに対して沈むとまでいえなかった。したがって、第三分銅は、質量が1.6kgのときに沈降分銅71として使用可能であり、質量が1.0kgのときに浮遊分銅72として使用可能であるといえる。
なお、場所打ちコンクリート杭1の施工では、泥水内でおいて、コンクリート打設を行うのが一般的である。一方、分銅7を吊持する際には、吊材73に一定の張力(テンション)を作用させる必要があるため、分銅7は泥水内における有効な重量(浮力を差し引いた値)が1kg程度があるのが望ましい。
【符号の説明】
【0032】
1 場所打ちコンクリート杭(コンクリート構造物)
1a コンクリート打設上面
2 下部コンクリート
3 上部コンクリート
4 鉄筋かご
5 トレミー管
6 掘削孔
7 分銅
71 沈降分銅
72 浮遊分銅
H 切替完了高さ
HM 切替完了実測高さ
HL 先行打設高さ