(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】両側において高い反射率を有するワイヤグリッド偏光子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2019520870
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(86)【国際出願番号】 US2017053914
(87)【国際公開番号】W WO2018097892
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-08-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-01
(32)【優先日】2016-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501218636
【氏名又は名称】モックステック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ビン
(72)【発明者】
【氏名】オグデン、シャウン
(72)【発明者】
【氏名】ニールソン、アール. スチュワート
(72)【発明者】
【氏名】リ、フア
(72)【発明者】
【氏名】バウワース、ブライアン
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】井口 猶二
【審判官】石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-203329(JP,A)
【文献】特表2008-523422(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046921(WO,A1)
【文献】特表2010-530995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0297052(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤグリッド偏光子(WGP)であって、
第1の側と、前記第1の側と反対の第2の側とを有する透明基板、
前記透明基板の前記第1の側の上に配置されたワイヤのアレイであって、隣接するワイヤ間のチャネルを有するワイヤのアレイ
を含み、
前記ワイヤの各々は、以下の順序で以下の層:前記透明基板の最も近くに配置された第1の透明層、第2の透明層、反射層、第3の透明層および前記透明基板から最も遠くに配置された第4の透明層を含む層のスタックを含み、
前記第1の透明層の材料組成は、前記第4の透明層の材料組成と同じであり、および
前記第2の透明層の材料組成は、前記第3の透明層の材料組成と同じであるが、前記第1の透明層および前記第4の透明層の前記材料組成と異なる、ワイヤグリッド偏光子(WGP)。
【請求項2】
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、前記第1の透明層の屈折率(n1)は、前記第2の透明層の屈折率(n2)よりも大きく、かつ前記第4の透明層の屈折率(n4)は、前記第3の透明層の屈折率(n3)よりも大きい、請求項1に記載のWGP。
【請求項3】
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、n1-n2>0.5およびn4-n3>0.5である、請求項1に記載のWGP。
【請求項4】
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、n1>2.0、n4>2.0、n2<1.55およびn3<1.55である、請求項1に記載のWGP。
【請求項5】
前記第1の透明層の前記材料組成および前記第4の透明層の前記材料組成は、二酸化チタンを含み、および
前記第2の透明層の前記材料組成および前記第3の透明層の前記材料組成は、二酸化ケイ素を含む、請求項
1に記載のWGP。
【請求項6】
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、Rs1>93%およびRs2>93%であり、ここで、Rs1は、前記WGPの第1の側からのs偏光の反射率であり、Rs2は、前記WGPの第2の側からのs偏光の反射率であり、s偏光は、入射光の主として反射された偏光であり、前記WGPの前記第1の側は、前記ワイヤのアレイが配置される前記WGPの側であり、および前記WGPの前記第2の側は、前記WGPの前記第1の側の反対にあり、かつ前記透明基板が配置される前記WGPの側である、請求項1~5のいずれか一項に記載のWGP。
【請求項7】
ワイヤグリッド偏光子(WGP)であって、
第1の側と、前記第1の側と反対の第2の側とを有する透明基板、
前記透明基板の前記第1の側の上に配置されたワイヤのアレイであって、隣接するワイヤ間のチャネルを有するワイヤのアレイ
を含み、
前記ワイヤの各々は、以下の順序で以下の層:前記透明基板の最も近くに配置された第1の透明層、第2の透明層、反射層、第3の透明層および前記透明基板から最も遠くに配置された第4の透明層を含む層のスタックを含み、および
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、前記第1の透明層の屈折率(n1)は、前記第2の透明層の屈折率(n2)よりも大きく、かつ前記第4の透明層の屈折率(n4)は、前記第3の透明層の屈折率(n3)よりも大きく、
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、Rs1>93%およびRs2>93%であり、ここで、Rs1は、前記WGPの第1の側からのs偏光の反射率であり、Rs2は、前記WGPの第2の側からのs偏光の反射率であり、s偏光は、入射光の主として反射された偏光であり、前記WGPの前記第1の側は、前記ワイヤのアレイが配置される前記WGPの側であり、および前記WGPの前記第2の側は、前記WGPの前記第1の側の反対にあり、かつ前記透明基板が配置される前記WGPの側であり、
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、Rs1とRs2の間には差を有する、ワイヤグリッド偏光子(WGP)。
【請求項8】
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、
Rs1とRs2の間には、|Rs1-Rs2|<
5%
を満たす差を有する、請求項6
または7に記載のWGP。
【請求項9】
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、Rs1とRs2の間には、|Rs1-Rs2|<2%を満たす差を有する、請求項6または7に記載のWGP。
【請求項10】
2つのプリズム間に挟まれており、キューブ偏光ビームスプリッタを形成する、請求項1~
9のいずれか一項に記載のWGP。
【請求項11】
前記層のスタックは、第5の透明層、第6の透明層、第7の透明層および第8の透明層をさらに含み、
前記層のスタックは、以下の順序で以下の層:前記透明基板の最も近くに配置された前記第5の透明層、前記第6の透明層、前記第1の透明層、前記第2の透明層、前記反射層、前記第3の透明層、前記第4の透明層、前記第7の透明層、次に前記透明基板から最も遠くに配置された前記第8の透明層を含み、
光の可視スペクトル内の少なくとも100nmの波長範囲について、前記第5の透明層の屈折率は、前記第6の透明層の屈折率よりも大きく、かつ前記第8の透明層の屈折率は、前記第7の透明層の屈折率よりも大きい、請求項1~
10のいずれか一項に記載のWGP。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか一項に記載のWGPを製作する方法であって、以下の順序で以下のステップ:
前記透明基板の前記第1の側および前記透明基板の前記第2の側の両方における入射光の一方の偏光の等しい反射率のために、以下の厚さ:第1の厚さを画定する前記第1の透明層の厚さ、第2の厚さを画定する前記第2の透明層の厚さ、第3の厚さを画定する前記第3の透明層の厚さおよび第4の厚さを画定する前記第4の透明層の厚さを算出するステップと、
以下の順序で以下の薄膜のスタック:前記第1の厚さを有する前記第1の透明層の材料、前記第2の厚さを有する前記第2の透明層の材料、前記反射層の材料、前記第3の厚さを有する前記第3の透明層の材料、次に前記第4の厚さを有する前記第4の透明層の材料を堆積させるステップと、
前記薄膜のスタックをエッチングして前記ワイヤのアレイを形成するステップと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、概して、ワイヤグリッド偏光子に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤグリッド偏光子(WGP)は、一方の偏光(例えば、p偏光)を透過させ、反対の偏光(例えば、s偏光)を反射または吸収することができる。適用によっては、偏光ビームの両方(例えば、sおよびp)を用いるため、反対の偏光の高い反射率(例えば、高いRs)が重要であり得る。適用によっては、一部の適用においてこの偏光の反射(Rs)が光学システムと干渉し得るため、反対の偏光の高い吸収率/低い反射率(例えば、低いRs)が重要であり得る。例えば、反射されたs偏光は、画像プロジェクタ内にゴーストを生じさせ得る。s偏光の高反射のために設計されるWGPもあれば、高吸収のために設計されるWGPもある。
【0003】
光源の電力要件を最小限に抑えるために、一方の偏光の高い透過率(例えば、高いTp)がWGPの重要な特徴であり得る。改善された光画像解像度のために、反対の偏光の低い透過率(例えば、Ts)が重要であり得る。WGPの品質または性能は、効率(Tp*Rs)およびコントラスト(Tp/Ts)によって示すことができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、WGPの2つの反対の側において一方の偏光(例えば、s偏光)の高い反射率を有するワイヤグリッド偏光子(WGP)の様々な実施形態に関する。WGPは、第1の側と、第1の側と反対の第2の側とを有する透明基板を含み得る。隣接するワイヤ間のチャネルを有するワイヤのアレイは、透明基板の第1の側の上に配置され得る。ワイヤの各々は、以下の順序で以下の層:透明基板の最も近くに配置された第1の透明層、第2の透明層、反射層、第3の透明層および透明基板から最も遠くに配置された第4の透明層を含む層のスタックを含むことができる。
【0005】
一実施形態では、第1の透明層の屈折率(n1)は、第2の透明層の屈折率(n2)よりも大きいことができ、かつ第4の透明層の屈折率(n4)は、第3の透明層の屈折率(n3)よりも大きいことができる。
【0006】
別の実施形態では、第1の透明層の材料組成は、第4の透明層の材料組成と同じであり得、および第2の透明層の材料組成は、第3の透明層の材料組成と同じであるが、第1の透明層および第4の透明層の材料組成と異なり得る。
【0007】
別の実施形態では、Rs1>93%およびRs2>93%であり、ここで、Rs1は、WGPの第1の側からのs偏光の反射率であり、Rs2は、WGPの第2の側からのs偏光の反射率であり、s偏光は、入射光の主として反射された偏光であり、WGPの第1の側は、ワイヤのアレイが配置されるWGPの側であり、およびWGPの第2の側は、WGPの第1の側の反対にあり、かつ透明基板が配置されるWGPの側である。
【0008】
図面は、原寸に比例して描かれていないことがあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、透明基板17の上に配置されたワイヤ16のアレイを含むワイヤグリッド偏光子10(WGP)であって、ワイヤ16の各々は、以下の順序で以下の層:透明基板17の最も近くに配置された第1の透明層11、第2の透明層12、反射層15、第3の透明層13および透明基板17から最も遠くに配置された第4の透明層14を含む層のスタックを含む、ワイヤグリッド偏光子10(WGP)の概略断面側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るWGP10の概略斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る、WGP10と同様であるが、追加の透明層35~38をさらに含むWGP30の概略断面側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る、WGP10の製作における1つのステップ40を示す概略断面側面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る、2つのプリズム52間に挟まれた、WGP10またはWGP30であり得るWGP51を含むキューブ偏光ビームスプリッタ50の概略端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本明細書で使用するとき、用語「細長い」は、ワイヤ16の長さLがワイヤの幅Wまたはワイヤの厚さTh16よりも相当に大きいことを意味する(例えば、Lは、ワイヤの幅Wおよび/またはワイヤの厚さTh16よりも少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍または少なくとも10,000倍大きいことができる)。
【0011】
本明細書で使用するとき、用語「等しい反射率」は、厳密に等しい反射率であること、または厳密に等しい反射率からのいかなる逸脱もデバイスの通常の使用に対してほとんど影響を有さないであろうようにほぼ等しい反射率であることを意味する。
【0012】
本明細書で使用するとき、用語「光」は、電磁スペクトルのx線領域、紫外領域、可視領域および/もしくは赤外領域または他の領域内の光または電磁放射線を意味することができる。
【0013】
本明細書で使用するとき、用語「~上にある」、「~上に配置される」、「~に配置される」および「~の上に配置される」は、上に直接配置されることまたは何らかの他の材料を間に有して上方に配置されることを意味する。用語「~上に直接配置される」、「~に隣接する(adjoin)」、「~に隣接する(adjoins)」および「~に隣接している」は、他の固体材料を間に有さずに直接かつ直に接触することを意味する。
【0014】
本明細書で使用するとき、用語「~の最も近くに配置される」および「~から最も遠くに配置される」は、言及された材料、層または構造を指すが、より近くにまたはより遠くに配置された言及されない他の固体材料が存在し得る。
【0015】
本明細書で使用するとき、用語「nm」は、ナノメートルを意味する。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「平行」は、厳密に平行であること、一般製作公差以内で平行であること、または厳密に平行であることからのいかなる逸脱もデバイスの通常の使用に対してほとんど影響を有さないであろうようにほぼ平行であることを意味する。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「基板」は、例えば、ガラスウェハなどの基材を含む。用語「基板」は、単一の材料を含み、また例えば基材として一緒に用いられるウェハの表面上の少なくとも1つの薄膜を有する、例えばガラスウェハなどの複数の材料も含む。
【0018】
光学構造において用いられる材料は、一部の光を吸収し、一部の光を反射し、一部の光を透過させることができる。以下の定義は、主に吸収性であるか、主に反射性であるか、または主に透明である材料を区別する。各材料は、特定の波長範囲(例えば、紫外、可視または赤外スペクトル)内で吸収性、反射性または透明であると考えることができ、異なる波長範囲内で異なる特性を有することができる。このような材料は、反射率R、屈折率nの実数部分および屈折率の虚数部分/消光係数kに基づき、吸収性、反射性および透明に分けられる。法線入射における空気と材料の均一なスラブとの間の界面の反射率Rを決定するために、式1が用いられる。
【数1】
本明細書において別途明示的に記載のない限り、指定された波長範囲内でk≦0.1を有する材料は、「透明」材料であり、指定された波長範囲内でk>0.1およびR≦0.6を有する材料は、「吸収性」材料であり、指定された波長範囲内でk>0.1およびR>0.6を有する材料は、「反射性」材料である。
【0019】
図1に図解されるように、第1の側17
fと、第1の側17
fと反対の第2の側17
sとを有する透明基板17を含むワイヤグリッド偏光子10(WGP)が示されている。隣接するワイヤ16(
図1の紙面内へ延びる、
図2に示される長さLを有する)間のチャネル18を有するワイヤ16のアレイは、透明基板17の第1の側17
fの上方に配置され得るか、またはその上に直接配置され得る。ワイヤ16のアレイは、平行でありかつ細長いことができる。ワイヤ16のアレイは、例えば、>10
3、>10
4または>10
6などの非常に多数のワイヤを含むことができる。
【0020】
ワイヤ16の各々は、以下の順序で以下の層:透明基板17の最も近くに配置された第1の透明層11、第2の透明層12、反射層15、第3の透明層13および透明基板17から最も遠くに配置された第4の透明層14を含む層のスタックを含むことができる。
【0021】
ワイヤ16ごとに、層のスタック内の各層11~15は、透明基板17の第1の側17fと垂直であり、かつワイヤ16の長さLと平行である平面16pと整列され得る。換言すれば、ワイヤ16ごとに、透明基板17の第1の側17fと垂直である単一の平面16pは、層のスタック内の全ての層11~15を通過することができる。また、各ワイヤの側面16sは、平面16pと平行であり得る。
【0022】
チャネル18は、空気、ガラス、別の固体材料、液体または真空で充填され得る。チャネル18が固体材料で充填される場合、このような固体材料は、第1の透明層11、第2の透明層12、反射層15、第3の透明層13、第4の透明層14またはこれらの組み合わせの材料組成と異なる材料組成を有することができる。各チャネル18は、層のスタックの全ての層間に、すなわち透明基板17から最も遠い第4の透明層14の面から(または後述される第8の透明層38の面から)透明基板17まで延びることができる。
【0023】
第1の透明層11は、透明基板17および/または第2の透明層12に隣接する(すなわち直接接触する)ことができ、代替的に第1の透明層11と透明基板17および/または第2の透明層12との間に他の層が存在し得る。反射層15は、第3の透明層13および/または第2の透明層12に隣接することができ、代替的に反射層15と第3の透明層13および/または第2の透明層12との間に他の層が存在し得る。第4の透明層14は、第3の透明層13に隣接することができるか、または第4の透明層14と第3の透明層13との間に他の層が存在し得る。
【0024】
透明層11~14の材料は、透明であるが(定義のセクションを参照されたい)、層のスタック内で反射層15と組み合わせられると、それらは、反射層15の一方の偏光(例えば、s偏光)の反射を向上させることができる。反射層15のための材料(例えば、通例、可視光については金属)ならびに透明層11~14および35~38(後述される)の材料(例えば、誘電体)は、米国特許第7,961,393号明細書および米国特許第8,755,113号明細書に記載されている。これらの特許は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
以下は、一方の偏光の反射率の特定の値および透明層11~14の屈折率間の関係を含む上述のWGP10の特定の実施形態である。一方の偏光の反射率および屈折率は、入射光の波長とともに変化することができる。指定された値は、例えば、光の紫外スペクトル、可視スペクトルもしくは赤外スペクトル内または光の紫外スペクトル、可視スペクトルおよび赤外スペクトルの1つ以上にわたる少なくとも100nmまたは少なくとも200nmの波長範囲などの光の特定の波長範囲について有効であり得る。
【0026】
一方の偏光状態(例えば、p偏光)は、WGP10を主に透過することができ、反対の偏光状態(例えば、s偏光)は、WGP10から主に反射することができる。層のこのスタックの適切な設計により、WGP10は、(a)WGP10の第1の側10fに入射する光について、光の一方の偏光の高い反射率(例えば、s偏光の高い反射率およびしたがって高いRs1)、ならびに(b)WGP10の第2の側10sに入射する光について、光の一方の偏光の高い反射率(例えば、s偏光の高い反射率およびしたがって高いRs2)を有することができる。WGP10の第1の側10fは、ワイヤ16のアレイが配置されるWGP10の側であり得る。WGP10の第2の側10sは、WGP10の第1の側10fの反対にあり、かつ透明基板17が配置されるWGP10の側であり得る。したがって、WGP10は、両方の側10fおよび10sに入射する光について、有効な偏光ビームスプリッタであり得る。例えば、Rs1および/またはRs2は、一態様では92%よりも大きく、別の態様では93%よりも大きく、別の態様では95%よりも大きく、または別の態様では97%よりも大きいことができる。
【0027】
Rs1およびRs2を改善するために、透明層11~14の屈折率間の以下の関係が存在し得る。第1の透明層の屈折率(n1)は、第2の透明層の屈折率(n2)よりも大きいことができ、および/または第4の透明層の屈折率(n4)は、第3の透明層の屈折率(n3)よりも大きいことができる。例えば、屈折率間に以下の差の1つ以上が存在し得る:n1-n2>0.1、n1-n2>0.2、n1-n2>0.5、n1-n2>1;n4-n3>0.1、n4-n3>0.2、n4-n3>0.5、n4-n3>1;|n1-n4|<0.2、|n1-n4|<0.1;|n2-n3|<0.2、|n2-n3|<0.1。
【0028】
Rs1およびRs2を改善するために、n1およびn4が高い屈折率を有し、n2およびn3が低い屈折率を有することが有益であり得る。例えば、屈折率は、以下の値の1つ以上を有することができる:n1>2.0、n1>1.65、n4>2.0、n4>1.65、n2<1.55、n3<1.55。
【0029】
図3に示されるWGP30は、上述されたWGP10の特性とともに以下の特性も有することができる。WGP30は、交互の高い屈折率および低い屈折率を有する層の追加の対を含むことにより、改善されたRs1およびRs2を有することができる。例えば、WGP30は、以下の順序で以下の層のスタック:透明基板17の最も近くに配置された、屈折率n5を有する第5の透明層35、屈折率n6を有する第6の透明層36、第1の透明層11、第2の透明層12、反射層15、第3の透明層13、第4の透明層14、屈折率n7を有する第7の透明層37および透明基板17から最も遠くに配置された、屈折率n8を有する第8の透明層38を含むワイヤ16を有することができる。
【0030】
以下は、これらの追加の層35、36、37および38の屈折率間の可能な関係ならびにこれらの値である:n5>n6;n8>n7;n5-n6>0.1、n5-n6>0.2、n5-n6>0.5、n5-n6>1;n8-n7>0.1、n8-n7>0.2、n8-n7>0.5、n8-n7>1;|n5-n8|<0.2、|n5-n8|<0.1;|n6-n7|<0.2、|n6-n7|<0.1;n5>2.0、n5>1.65、n8>2.0、n8>1.65、n6<1.55、n7<1.55。一方の偏光の反射率および屈折率は、入射光の波長とともに変化することができる。指定された値は、例えば、光の紫外スペクトル、可視スペクトルもしくは赤外スペクトル内または光の紫外スペクトル、可視スペクトルおよび赤外スペクトルの1つ以上にわたる少なくとも100nmまたは少なくとも200nmの波長範囲などの光の特定の波長範囲について有効であり得る。
【0031】
層のスタック内には、図示のものの他に高屈折率層および低屈折率層の追加の対が存在し得、これらの追加の層は、屈折率間の同様の関係を有することができる。WGP30は、WGP10を上回る改善された性能を有し得るが、追加された層35~38は、製作コストを増大させ得る。したがって、WGP10およびWGP30間の選定は、コストおよび必要とされる性能に基づき得る。
【0032】
適用によっては、Rs1とRs2との間にわずかな差を有することが有益であり得る。例えば、一態様では|Rs1-Rs2|<1%、別の態様では|Rs1-Rs2|<2%、別の態様では|Rs1-Rs2|<3%、または別の態様では|Rs1-Rs2|<5%である。Rs1とRs2との間のこの小さい差を達成する1つの方法は、反射層15の両側に透明材料の鏡像を有することである。そのため、第1の透明層11の材料組成は、第4の透明層14の材料組成と同じであり得る。また、第2の透明層12の材料組成は、第3の透明層13の材料組成と同じであるが、第1の透明層11および第4の透明層14の材料組成と異なり得る。WGP30について、第5の透明層35と第8の透明層38との同じ材料組成および第6の透明層36と第7の透明層37との同じ材料組成も存在し得る。
【0033】
材料組成の一例は、第1の透明層11、第4の透明層14、第5の透明層35および第8の透明層38の1つ以上が二酸化チタンであり得るか、または二酸化チタンを含み得ることである。材料組成の別の例は、第2の透明層12、第3の透明層13、第6の透明層36および第7の透明層37の1つ以上が二酸化ケイ素であり得るか、または二酸化ケイ素を含み得ることである。透明層11~14および35~38の材料の堆積における不完全性のために、これらの化学式は、必ずしも厳密な化学量論比によるものとは限らない。例えば、用語「二酸化チタン」は、例えば、TixOy(ここで、0.9≦x≦1.1および1.9≦y≦2.1である)など、2個の酸素原子ごとにほぼ1個のチタン原子を意味する。別の例として、二酸化ケイ素は、一般的にSiO2を指すが、本明細書で使用するとき、二酸化ケイ素という用語は、例えば、SivOz(ここで、0.9≦v≦1.1および1.9≦z≦2.1である)など、2つの酸素原子ごとにほぼ1個のケイ素原子を意味する。
【0034】
第1の透明層11および第4の透明層14の組成の材料は、等しいことができ、第2の透明層12および第3の透明層13の組成の材料は、等しいことができるが、スタックの一方の端部では反対側の端部に対して潜在的に材料が異なるため、均等な層の厚さは、Rs1およびRs2を等しくするために異なる必要があり得る。例えば、第1の透明層11は、ガラスに隣接する場合があり得、第4の透明層14は、空気に隣接する場合があり得る。そのスタックの一方の端部において、反対側の端部(例えば、空気)に対して異なる材料(例えば、ガラス基板)が存在する場合でも、以下の方法に従い、等しいかまたはほぼ等しいRs1およびRs2を達成することができる。WGP10を製作する以下の方法は、以下の順序で以下のステップを含むことができる:
1.WGP10の第1の側10
fおよびWGP10の第2の側10
sの両方における入射光の一方の偏光(例えば、s偏光)の等しい反射率のために(例えば、Rs1=Rs2のために)、以下:第1の厚さTh
1を画定する第1の透明層11の厚さ、第2の厚さTh
2を画定する第2の透明層12の厚さ、第3の厚さTh
3を画定する第3の透明層13の厚さおよび第4の厚さTh
4を画定する第4の透明層14の厚さを算出するステップ、
2.以下の順序で以下の薄膜のスタック:
a.第1の厚さTh
1を有する第1の透明層41の材料、
b.第2の厚さTh
2を有する第2の透明層42の材料、
c.反射層45の材料、
d.第3の厚さTh
3を有する第3の透明層43の材料、および
e.第4の厚さTh
4を有する第4の透明層44の材料
を堆積させるステップ(
図4を参照されたい)、
3.薄膜のスタックをエッチングしてワイヤ16のアレイを形成するステップ(
図1を参照されたい)。
【0035】
層のスタック内の各層の厚さTh1、Th2、Th3、Th4、Th5、Th6、Th7、Th8およびThrは、所望の偏光の波長範囲内の最も小さい波長よりも小さいことができ、各厚さは、400nm未満であり得る。厚さの例:第2の層12のTh2、第3の層13のTh3、第6の層36のTh6および第7の層37のTh7は、以下であり得る:=80nm;>40nmまたは>60nm;および<110nmまたは<150nm。第1の層11のTh1、第4の層14のTh4、第5の層35のTh5および第8の層38のTh8は、以下であり得る:=50nm;>10nmまたは>30nm;および<80nmまたは<110nm。
【0036】
図5は、2つのプリズム52間に挟まれた、WGP10またはWGP30であり得るWGP51を含むキューブ偏光ビームスプリッタ50の概略端面図である。