(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】キャリア及び編組機
(51)【国際特許分類】
D04C 3/14 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
D04C3/14
(21)【出願番号】P 2021153240
(22)【出願日】2021-09-21
【審査請求日】2021-11-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 キャリア及び編組機の納入、設置 納入場所 株式会社カネカ 大阪工場 納入日 令和3年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】510337746
【氏名又は名称】株式会社HCI
(74)【代理人】
【識別番号】100177806
【氏名又は名称】門田 康
(72)【発明者】
【氏名】奥山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】濱本 彰彦
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特許第3909441(JP,B1)
【文献】特許第2900933(JP,B1)
【文献】実公昭61-020064(JP,Y2)
【文献】特開2000-154452(JP,A)
【文献】特許第4492595(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04C 1/00 - 7/00
D04G 1/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を編組する編組機に組み込まれて、前記線材が引き出される引出孔を有する本体と、前記本体に回転自在に搭載され外周に前記線材が巻き回されたボビンとを備え、中心軸の周りを蛇行しつつ周方向に走行して、前記引出孔から前記線材を供給するキャリアであって、
前記ボビンと前記引出孔との間に設置され、前記線材の経路長を調整する経路長調整手段と、
前記ボビンの回転を妨げる制動装置と、を備えたことを特徴とするキャリア。
【請求項2】
前記経路長調整手段は、前記本体に固定された固定プーリと、前記固定プーリに対する軸間距離が可変の可動プーリとを備え、前記固定プーリと前記可動プーリに前記線材が巻き掛けられ、前記可動プーリがばねで付勢されることによって前記経路長が調整されることを特徴とする請求項1に記載するキャリア。
【請求項3】
前記制動装置は、金属製の円板と、前記円板を回転支持する回転軸と、前記円板を挟んで配置された永久磁石と、を備え、前記円板が前記永久磁石に対して相対的に回転するときに生じる渦電流によって前記円板の回転を妨げる装置であって、前記ボビンと前記回転軸とが直接または間接に連結されて、前記ボビンの回転を妨げることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載するキャリア。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載するキャリアを備えた編組機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編組機に組み込まれて、編組する線材を供給するキャリアに関する。
【背景技術】
【0002】
配線用ケーブルやホースなどの可撓性長尺体では、編組機を使用して、その外層に銅線や糸状の繊維で形成された線材を網目状に巻き付けて(この動作を「編組」という)、シールド層を形成したり補強したりする処理が施される場合がある。更に、近年では、医療の分野で使用するカテーテルを製造する場合においても、合成樹脂製の糸状の繊維を編組する編組機が使用されるようになっている。
【0003】
特許文献1では、
図8に示すような、ホース71の外周面に沿ってワイヤなどの線材72を編組する編組機70が開示されている。
編組機70は、ホース71が面盤73の中心軸mの位置に配置されており、面盤73には、中心軸mの周りを蛇行しながら旋回する2本の走行溝(第1走行溝75、第2走行溝76)が形成されている。各走行溝75、76にそれぞれ複数のキャリア74が配置されており、各キャリア74が、線材72を供給しながら面盤73に沿って走行し、ホース71の回りを旋回している。
各走行溝75、76に配置されたキャリア74は、互いに周方向で反対向きに走行しており、第1走行溝75のキャリア74と第2走行溝76のキャリア74が、径方向の内側と外側の位置を交互に入れ替わりながら走行することによって、線材72がホース71の外周に網目状に編組される。同時に、ホース71は、所定の速さで軸方向に移動しており、ホース71の外周面には全面にわたって線材72が編組される。
【0004】
図9は、一のキャリア74の拡大図である。各キャリア74はボビン78を備えている。ボビン78は、支持軸79の回りで回転自在であり、外周に線材72が整列して巻き回されている。
ボビン78の下端に複数の係合歯80が形成されており、爪部材82の一端が噛み合うようになっている。爪部材82は、支点を中心に揺動することができ、爪部材82の他端に上下方向に移動可能な作用ロッド83が連結されている。作用ロッド83の上下方向の中間位置に、ブロック状の当接部84が固定されており、当接部84の上側にリターンスプリング85が圧縮された状態で組み込まれている。これにより、作用ロッド83が下向きに付勢されて爪部材82の一端が係合歯80に噛み合い、ボビン78の回転を阻止するようになっている。
【0005】
線材72を編組するとき、ボビン78に巻き回された線材72は、固定プーリ86及び可動プーリ87に巻きかけられたのち引出孔88から引き出されるようになっている。
図9に示すように、可動プーリ87はスライダ89に搭載されている。スライダ89は案内ロッド90に外嵌されて上下に移動可能であり、コイルばね91によって下向きに付勢されている。こうして、可動プーリ87を線材72に押し付けることによって、線材72に一定の張力が加えられるようになっている。
【0006】
可動プーリ87は、線材72に作用する張力の大小に応じて案内ロッド90に沿って上下に変位し、張力が上昇すると上方に変位する。張力が所定の大きさより大きくなると、スライダ89が当接部84に当接して、作用ロッド83が上方に持ち上げられる。すると爪部材82が係合歯80から離れるので、ボビン78の回転が許容されて、線材72が新たに供給される。
こうして、ボビン78が自在に回転できる状態になると張力が低下するので、スライダ89がコイルばね91で付勢されて、再び下方に変位するので、当接部84がリターンスプリング85で付勢されて下方に変位する。すると爪部材82が再び係合歯80に噛み合い、ボビン78の回転が停止する。以下同様の動作を繰り返しつつ、キャリア74は線材72を連続的に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の編組機70では、張力が所定の大きさより大きくなるとボビン78の拘束を解除して、新たに線材72を供給している。これにより、線材72の張力が過大になるのを防止することができる。しかしながら、ボビン78の拘束を解除した後、再び爪部材82が係合歯80に噛み合うまでの間は、ボビン78が自由に回転できるので、線材72の張力がほとんど生じていない状態となっている。このため、供給される線材72に「たるみ」が生じて、編組した線材72の配列が乱れる恐れがある。特に、医療用カテーテルは、編組した線材72の配列が乱れると、機能が低下する恐れがあるため、常に張力を維持した状態で編組する必要がある。
【0009】
上記のような事情に鑑みて、本発明に係るキャリアは、編組しているときに常に線材の張力を維持してたるみを防ぎ、編組品質を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の形態は、線材を編組する編組機に組み込まれて、前記線材が引き出される引出孔を有する本体と、前記本体に回転自在に搭載され外周に前記線材が巻き回されたボビンとを備え、中心軸の周りを蛇行しつつ周方向に走行して、前記引出孔から前記線材を供給するキャリアであって、前記ボビンと前記引出孔との間に設置され、前記線材の経路長を調整する経路長調整手段と、前記ボビンの回転を妨げる制動装置と、を備えたことを特徴としている。
【0011】
本発明の第2の形態は、前記第1の形態のキャリアであって、前記経路長調整手段は、前記本体に固定された固定プーリと、前記固定プーリに対する軸間距離が可変の可動プーリとを備え、前記固定プーリと前記可動プーリに前記線材が巻き掛けられ、前記可動プーリがばねで付勢されることによって前記経路長が調整されることを特徴としている。
【0012】
本発明の第3の形態は、前記第1又は第2の形態のキャリアであって、前記制動装置は、金属製の円板と、前記円板を回転支持する回転軸と、前記円板を挟んで配置された永久磁石と、を備え、前記円板が前記永久磁石に対して相対的に回転するときに生じる渦電流によって前記円板の回転を妨げる装置であって、前記ボビンと前記回転軸とが直接または間接に連結されて、前記ボビンの回転を妨げることを特徴としている。
【0013】
本発明の第4の形態は、前記第1から第3の形態のうちいずれか一の形態のキャリアを備えた編組機である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るキャリアによると、編組するときに常に線材の張力が生じている状態を維持することができるので、線材のたるみを防ぎ、編組品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態のキャリアが組み込まれた編組機の側面図である。
【
図2】面盤の表面に形成された走行溝の形態を示す模式図である。
【
図3】編組機を軸方向から見たときのキャリアの配置の例を示す模式図である。
【
図4】編組機でカテーテルを編組している状態を示す模式図である。
【
図6】
図5のキャリアを矢印Xの向きに見た側面図である。
【
図7】
図6のキャリアを矢印Yの向きに見た側面図である。
【
図9】従来の編組機に組込まれているキャリアの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を、図を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」という)であるキャリア10が組み込まれた編組機30の構造を説明する説明図であって、編組機30を径方向から見たときの形態を模式的に示している。編組機30は、樹脂製や金属製の糸状の線材31を樹脂製チューブ32aなどの可撓性長尺材の外周に網目状に編組する装置である。本実施形態の編組機30では、樹脂製の線材31を編組して医療用カテーテル32(以下、単に「カテーテル」という)を製造している。カテーテル32を製造するときは、線材31として、比較的線径が太い縦糸31a(線径は0.04mm程度である)と、比較的線径が細い横糸31b(線径は0.02mm程度である)が使用される。
【0017】
(カテーテル)
図4は、カテーテル32の編組状態を示す模式図である。カテーテル32は、樹脂製チューブ32aの外周に縦糸31aと横糸31bが交互に網目状に巻き付けられた形態を有している。縦糸31aは、カテーテル32の中心軸に沿った方向に配置され、横糸31bは、縦糸31aに対して周方向に角度をなして巻き付けられている。
図4では、縦糸31aと横糸31bは各2~4本を例示しているが、実際にカテーテル32を製造するときには、更に多数の縦糸31aと横糸31bが同時に巻き付けられる。
【0018】
(編組機)
図1に示すように、編組機30は、面盤35と、面盤35に形成された走行溝36に沿って走行しながら横糸31bを供給する複数のキャリア10と、キャリア10を駆動するキャリア駆動部37と、縦糸31aを供給する引出孔38と、を備えている。面盤35は、中心軸mを中心とする略環状の平板であり、中心軸mと直交する向きに配置されている。線材31が編組される樹脂製チューブ32aは、軸線が中心軸mと略一致するように配置される。編組機30には、24台のキャリア10が搭載されているが、
図1では図が煩雑になるのを避けるため、一部のキャリア10のみを例示している。
なお、以下の説明では、中心軸mと平行となる方向を軸方向といい、中心軸mと直交する方向を径方向、中心軸mの周りを周回する方向を周方向という。
【0019】
図2は、面盤35の表面に形成された走行溝36の形態を示す模式図である。
編組機30では、走行溝36として、第1走行溝36aおよび第2走行溝36bの2本の環状の溝が形成されている。各走行溝36a、36bは、蛇行しながら中心軸mの周りを周方向に延在しており、周方向に進むにしたがって、径方向の内側と外側の位置が交互に入れ替わっている。
【0020】
図1及び
図3を参照してキャリア駆動部37について説明する。
図3は、編組機30を軸方向に正面から見たときのキャリア誘導ディスク40の配置を示すとともに、キャリア10の配置を説明する説明図である。
キャリア駆動部37は、中心軸mと平行な軸を中心に回転する回転軸(図示を省略する)を有し、回転軸が回転することによってキャリア10を周方向に搬送している。
図1に示すように、キャリア駆動部37は、回転軸の軸方向の一方の端部にキャリア誘導ディスク40を有し、軸方向他方の端部に第1歯車42を備えている。キャリア誘導ディスク40と第1歯車42との間に、回転軸を回転させる駆動装置41が組込まれている。また、
図3に示すように、本実施形態の編組機30は、12のキャリア駆動部37を有しており、各キャリア駆動部37は、中心軸mを中心とするピッチ円上に、周方向に等間隔で配置されている。
【0021】
キャリア誘導ディスク40には、外周から径方向内方に向けて窪んだ凹部43が、周方向に等しい間隔で4か所に形成されている。後述するように、凹部43は、キャリア10の軸部11と嵌合して、キャリア10を周方向に搬送している。
第1歯車42は、外歯の平歯車であり、周方向に隣り合うキャリア駆動部37の第1歯車42とかみ合っている。各第1歯車42の歯数は互いに同等であり、各キャリア誘導ディスク40は、同期して等しい速度で回転する。また、周方向で隣り合うキャリア誘導ディスク40は、互いに逆方向に回転する。
また、キャリア駆動部37の回転軸の中心に、軸方向に貫通して、縦糸31aが通る引出孔38が設けられている。
【0022】
図5は、キャリア10単体の正面図である。
図6は、
図5のキャリア10を矢印Xの向きに見た側面図であり、
図7は、
図6のキャリア10を矢印Yの向きに見た側面図である。
図7では、ボビン13の支持部54及び制動装置16の構造を説明するために、支持部54の一部及び制動装置16について軸方向断面で示している。
【0023】
図6を参照する。キャリア10は、本体12と、ボビン13と、ボビン13の回転を制動させる制動装置16(制動手段)と、ダンサー21と、を備えている。ダンサー21は、線材31が引き出されるときの、ボビン13から引出孔20までの線材31の経路長を調整する経路長調整手段である。線材31の経路長とは、ボビン13から繰り出されたあと、固定プーリ22、可動プーリ23を経由して引出孔20に至るまでの経路に沿った線材31の長さをいう。
編組機30では、各キャリア10は、
図6の左右方向が中心軸mと平行となる向きに組み込まれており、説明の便宜上、
図6の左方を軸方向一方、
図6の右方を軸方向他方という場合がある。
【0024】
本体12は、軸方向他方にキャリア誘導ディスク40の凹部43と嵌め合わされる案内部14を備えている。案内部14は、円筒形状の軸部11と、軸部11の軸方向両側に形成され軸部11より大径のガイド部14a、14aを備えている。軸部11の直径は、凹部43の周方向の内幅よりわずかに小さい。また、互いに軸方向に向き合うガイド部14a、14aの内幅はキャリア誘導ディスク40の厚さよりわずかに大きい。このように寸法を設定することにより、キャリア10の案内部14は、凹部43に容易に挿入/離脱を行うことができる。また、案内部14が凹部43に挿入されたときには、案内部14とキャリア誘導ディスク40とが軸方向でわずかなすきまをもって嵌め合わされるので、キャリア10がキャリア誘導ディスク40に対して略直交する向き(軸部11の中心軸が編組機30の中心軸mと略平行となる向きである)に保持される。
【0025】
図6のC矢視図に示すように、案内部14の軸方向他方には、2つの案内部材45が組み込まれている。案内部材45は、それぞれ円板状で互いに同一の形状であり、一方の側面に、円板の直径方向に延在する鍔46が突出している。案内部材45は、
図6のC矢視図で矢印Bで示す向きに回転自在である。
キャリア10は、案内部材45の鍔46が走行溝36に嵌め合わされた状態で、キャリア誘導ディスク40によって搬送されて、走行溝36に沿って周方向に旋回する。
【0026】
図7を参照する。ボビン13は、軸受55、55を備えた支持部54で回転自在に支持された支持軸15の外周に嵌め合わされている。ボビン13の外周に、線材31が、積層して整列巻した状態で保持されている。ボビン13の軸方向他方の端部に外歯の平歯車である第2歯車17が組み込まれている。第2歯車17はボビン13と一体となって支持軸15の回りで回転する。
【0027】
図7によって、制動装置16について説明する。制動装置16は、シャフト50に固定された金属製の円板49と、円板49を挟んで配置された2枚の永久磁石51、51と、を備えている。シャフト50は、軸受52、52によって回転自在に支持されている。円板49が回転すると、円板49に渦電流が生じて、円板49の回転を妨げる抵抗力が生じる。
平歯車である第3歯車18が、シャフト50の軸端に取り付けられており、ボビン13の第2歯車17とかみ合っている。これにより、線材31が引き出されてボビン13が回転すると、制動装置16の円板49が回転するので、ボビン13に対し、その回転を妨げる抵抗力を負荷することができる。
【0028】
この抵抗力の大きさは、永久磁石51、51の相対位置により変化するので、永久磁石51の配置を調整することによって所望の抵抗力を得ることができる。
また、制動装置16の抵抗力は、永久磁石51の磁気を利用して得られるため、外部からの電力供給を必要としない。このため、編組機30のキャリア10のように位置が複雑に変化する装置に搭載した場合でも、ボビン13に対して常に所定の抵抗力を負荷することができる。
なお、本実施形態では、制動装置16は、歯車17、18を介してボビン13とつながっているが、制動装置16とボビン13とが同軸に配置されて、ボビン13とシャフト50とが直接連結されていてもよい。
【0029】
こうして、ボビン13の回転を妨げることによって、ボビン13から線材31が引き出されるときに線材31に所定の張力Tを付与することができる。すなわち、線材31を引き出す力fが小さいときはボビン13が回転せず、線材31には力fと等しい大きさの張力Tが生じる。そして、力fが所定の大きさを超えると、ボビン13が回転して線材31が繰り出される。制動装置16が回転するときの抵抗力(回転トルク)はほぼ一定であり、線材31が引き出されているときには、線材31に一定の張力Tが生じる。以下の説明では、ボビン13が回転しながら線材31が引き出されているときの張力Tを最大張力Toとする。
【0030】
図6を参照する。ダンサー21は、3本の案内ロッド24と、5個の固定プーリ22と、固定プーリ22に対して位置が変位する4個の可動プーリ23と、を備えている。各案内ロッド24は、表面に硬質クロムメッキを施した鉄製のロッドであり、それぞれキャリア10の本体12に固定され軸方向に延在する向きで互いに平行に配置されている。
複数の固定プーリ22は、案内ロッド24の軸方向一方の端部、及び、ボビン13に最も近い案内ロッド24の中央付近に固定されて、本体12に対して変位不能に設置されている。
可動プーリ23はスライダ25に搭載されている。スライダ25は、案内ロッド24の外周に0.1mm程度(直径)のすきまをもって嵌め合わされている。本実施形態では、スライダ25の内周面がフッ素樹脂で形成されており、スライダ25は、スティックスリップを防止して低摩擦の状態で軸方向に自在にスライドすることができる。
なお、案内ロッド24とスライダ25のスライド部には、玉循環リニア軸受を使用してもよい。
【0031】
第1ストッパ26aが、案内ロッド24に固定されている。第1ストッパ26aとスライダ25との間に、軸方向に圧縮されたコイルばね27(請求項2のばねに相当する)が組み込まれており、可動プーリ23は、固定プーリ22から離れる向きに付勢されている。第1ストッパ26aは、ボルトを緩めることによって固定位置が軸方向で可変であり、コイルばね27の軸方向一方の位置を所望の位置に設定することができる。
また、スライダ25の軸方向他方側に、ボルトを緩めることによって固定位置が軸方向で可変の第2ストッパ26bが設けられている。第2ストッパ26bは、可動プーリ23が軸方向他方に向けて移動しうる位置を規制している。
こうして、ダンサー21は、可動プーリ23の可動範囲を調整することにより、コイルばね27の圧縮量を調整できるようになっている。
ボビン13から引き出された線材31は、複数の固定プーリ22と複数の可動プーリ23に交互にかけ渡された後、キャリア10の引出孔20を通って、樹脂製チューブ32aに向けて供給される。
【0032】
(編組機の動作)
次に、
図3によって、各キャリア10の動きを説明する。
キャリア10は、キャリア誘導ディスク40によって、中心軸mの周りを走行溝36に沿って周方向に搬送される。キャリア10が中心軸mの周りを周回する回数は、おおむね1分間に12周程度である。
図3では、図が煩雑になるのを避けるため、一部のキャリア10の位置を破線で示すとともに、キャリア誘導ディスク40の凹部43と嵌合する案内部14の軸部11の位置を実線の円で示している。その他の各キャリア10については軸部11の位置のみを実線の円で示している。ハッチングを施さない軸部11は第1走行溝36aに嵌め合わされたキャリア10(第1キャリア10aという)を示しており、第1キャリア10aは、中心軸mの回りを時計回りの向きに、実線の矢印F1→F2→F3の順に移動する。また、ハッチングを施した軸部11は第2走行溝36bに嵌め合わされたキャリア10(第2キャリア10bという)を示しており、第2キャリア10bは、中心軸mの回りを反時計回りの向きに、破線の矢印G1→G2→G3の順に移動する。
【0033】
こうして、第1キャリア10aと第2キャリア10bが、縦糸31aの引出孔38を挟んで径方向の位置を交互に入れ替えながら周方向に走行することによって、横糸31bが縦糸31aの外周側と内周側に交互に巻き付けられる。こうして、編組機30は、樹脂製チューブ32aの外周に線材31を編組することができる。
【0034】
(張力変化)
次に、
図6を参照しつつ、
図2、
図3によって、編組機30が稼働しているときの線材31の張力Tの変化について説明する。なお、第2キャリア10bが第2走行溝36bを走行するときの張力Tが変化する状態は、第1キャリア10aが第1走行溝36aを走行するときと同等である。このため、以下の説明では、第1キャリア10aが第1走行溝36aを走行する場合(
図2で矢印Fの向きに走行する場合)を例にして説明する。
【0035】
編組機30がカテーテル32を製造しているときは、第1キャリア10aが、第1走行溝36aに沿って蛇行しながら周方向に走行する。このため、中心軸mから第1キャリア10aまでの径方向の距離が変化するので、第1キャリア10aの引出孔20と樹脂製チューブ32aとの距離が変化する。
図2では、説明の便宜のため、中心軸mに最も接近する第1キャリア10aの位置をP1、最も離れたときの位置をP2とする。
図2で、P1、P2の位置より径方向内側に示した小円は、各第1キャリア10aの引出孔20の位置を示している。
【0036】
第1キャリア10aがP1に位置するときの引出孔20と樹脂製チューブ32aとの距離をL1とし、第1キャリア10aがP2に位置するときの引出孔20と樹脂製チューブ32aとの距離をL2とする(
図1参照)。
図2では、L1、L2が紙面に投影されて実際の寸法に対して縮小して表示されており、それぞれ、L1’、L2’と表示している。
【0037】
編組機30で編組しているときは、第1キャリア10aの周方向の位置に関係なく、線材31が、ほぼ一定の速さで樹脂製チューブ32aの外周に巻き付けられている。第1キャリア10aがP1からP2(またはP2からP1)に移動するまでの時間に、樹脂製チューブ32aの外周に巻き付けられる線材31の長さを基本供給量L0とする。
【0038】
第1キャリア10aが、P1からP2に向かうときには第1キャリア10aの径方向の位置が中心軸mから遠ざかるので、引出孔20からは、基本供給量L0に加えて(L2-L1)の長さの線材31が引き出される。通常、第1キャリア10aがP1の位置にあるとき、張力Tは最大張力Toより小さいので、ボビン13の回転は静止している。したがって、線材31が引き出されると、可動プーリ23が軸方向一方に移動し、コイルばね27が圧縮される。こうして、コイルばね27の圧縮荷重が上昇するので、線材31の張力Tが上昇する。
線材31の張力Tが最大張力Toを超えると、ボビン13が回転を開始し、ボビン13から線材31が引き出される。線材31が引き出されているときの張力T(最大張力Toに等しい)はほぼ一定であるため、コイルばね27は、所定の圧縮状態を維持することとなる。
【0039】
本実施形態では、第1キャリア10aがP2の位置にあるときに、コイルばね27が概ね密着する程度まで圧縮されていることが望ましい。本実施形態の第1キャリア10aでは、可動プーリ23が4個設けられているので、コイルばね27の圧縮荷重は、線材31の張力Tの8倍(=4×2)の荷重と釣り合う。
カテーテル32を製造するときは、線材31の張力Tを概ね10~30グラムに設定する必要がある。したがって、コイルばね27が軸方向に密着したときのばね荷重が、線材31の張力Tの8倍(80~240グラム)となるように設定されるのが望ましい。
【0040】
次に、第1キャリア10aが、P2からP1に向かうときには、第1キャリア10aの径方向の位置が中心軸mと接近するので、(L2-L1)の長さの線材31が余ることとなる。通常、基本供給量L0は(L2-L1)より小さいので、第1キャリア10aでは、(L2-L1-L0)の長さの線材31の余りを吸収する様に動作する。
第1キャリア10aがP2の位置にあるときは、コイルばね27が圧縮されて可動プーリ23が軸方向一方に寄った位置に移動している。したがって、線材31が余ると、コイルばね27で付勢されることによって固定プーリ22と可動プーリ23の軸間距離が拡大し、線材31の余りがすみやかに吸収される。このとき、コイルばね27が伸長するので張力Tが最大張力Toより減少し、制動装置16によってボビン13が停止する。こうして、可動プーリ23を線材31に押し付けることにより、本実施形態の第1キャリア10aでは、常に、線材31に、張力Tを付与することができる。
次に、第1キャリア10aがP1からP2に向かうときには、上記で説明した動作が繰り返される。
【0041】
上記の説明からわかるように、本実施形態の編組機30では、P1からP2に移動して張力Tが上昇するときには、制動装置16が回転することによって張力Tが過大になるのを防止しつつ適正な張力T(最大張力Toに等しい)を付与している。そして、P2からP1に移動するときには、線材31に可動プーリ23を押し付けることによってたるみを吸収しつつ張力Tを付与している。
こうして、本実施形態では、キャリア10が中心軸mの回りを周回するときに常に所定の大きさの張力Tが生じているので、樹脂製チューブ32aの外周に編組する線材31にたるみが生じない。このため、編組品質が向上するので、線材72の配列の乱れをなくしたカテーテル32を製造することができる。
【0042】
(従来技術との対比)
本発明の効果を明確に理解するために、
図8によって、従来の編組機70で編組した時の張力Tについて説明する。なお、従来の編組機70においても、走行溝75、76の形態は本発明にかかる編組機70と同様であり、キャリア74とホース71(ホース71は、可撓性長尺体であり、本実施形態のカテーテル32に相当する)との位置関係も同様であるため、
図2に示したように、キャリア74が中心軸mに最も接近する位置をP1、最も離れた位置をP2とし、キャリア74がP1に位置するときのキャリア74の引出孔88とホース71との距離をL1、キャリア74がP2に位置するときのキャリア74の引出孔88とホース71との距離をL2として説明する。
従来の編組機70においてもキャリア74の位置に関係なく、キャリア74からは編組に必要な長さの線材72が一定の速さで供給されており、この供給量を基本供給量L0とする。
【0043】
キャリア74が、P1からP2に向かうときには、基本供給量L0に加えて(L2-L1)の長さの線材72を供給する必要がある。このため、キャリア74からL(L=L0+L2-L1)の線材72が引き出される。
このとき、係合歯80と爪部材82とがかみ合ってボビン78の回転が固定されているので、キャリア74がP1からP2に向かうにしたがって、張力Tが上昇する。可動プーリ87が当接部84の位置まで移動すると、爪部材82が外れてボビン78が回転し線材72が供給される。
このとき、ボビン78は自由に回転できる状態であり、瞬時に線材72の張力Tが低下する。このため、可動プーリ87は、コイルばね91で押されて固定プーリ86から離れる向き(
図9の下向き)に移動する。しかしながら、ボビン78が拘束されていないので、再び爪部材82が係合歯80とかみ合うまでは張力Tが生じていない状態が継続する。このため、可撓性長尺体の外周に編組する線材72にたるみが生じる恐れがある。
【0044】
これに対して、本実施形態のキャリア10では、上述したように、過大な張力Tが発生するのを防止しつつ、常に所定の大きさの張力Tを維持して編組できるので、線材31のたるみをなくし、編組品質を向上させることができる。
【0045】
以上、本発明による効果を説明したが、上記の説明は例示に過ぎず、種々の変更が可能である。例えば、本実施形態では樹脂製の線材31を編組しているが、金属や植物繊維で製造された線材31を使用することができる。金属製の線材を使用した時には、ホースや配線用ケーブルなどの可撓性長尺体の強度を高めることができる。また、配線用ケーブルにシールド線を編組する等の製造方法に用いることができる。
また、制動装置16は、ばね等の弾性体の反発力を利用して、ボビン13に摩擦部材を押し付ける形態であってもよい。この場合は、ボビン13と摩擦部材との間の摩擦力によってボビン13の回転を制動させることができる。
また、本実施形態では、縦糸31aと横糸31bを組み合わせたカテーテル32を編組する場合を例にして説明したが、縦糸31aを備えず、横糸31bのみを編組する形態であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
(本実施形態)
10:キャリア、10a:第1キャリア、10b:第2キャリア、11:軸部、12:本体部、13:ボビン、14:案内部、14a:ガイド部、15:支持軸、16:制動装置、17:第2歯車、18:第3歯車、20:引出孔、21:ダンサー、22:固定プーリ、23:可動プーリ、24:案内ロッド、25:スライダ、26a:第1ストッパ、26b:第2ストッパ、27:コイルばね、30:編組機、31:線材、31a:縦糸、31b:横糸、32:カテーテル、32a:樹脂製チューブ、35:面盤、36:走行溝、36a:第1走行溝、36b:第2走行溝、37:キャリア駆動部、38:引出孔、40:キャリア誘導ディスク、41:駆動装置、42:第1歯車、43:凹部、45:案内部材、46:鍔、49:円板、50:回転軸、51:永久磁石、54:支持部
(従来技術)
70:編組機、71:ホース、72:線材、73:面盤、74:キャリア、75:第1走行溝、76:第2走行溝、78:ボビン、79:支持軸、80:係合歯、82:爪部材、83:作用ロッド、84:当接部、85:リターンスプリング、86:固定プーリ、87:可動プーリ、88:引出孔、89:スライダ、90:案内ロッド、91:コイルばね
【要約】
【課題】編組機で線材を編組するときに、常に線材の張力を維持してたるみを防ぐ。
【解決手段】キャリア10は、線材31が引き出される引出孔20を有する本体12と、本体12に回転自在に搭載され外周に線材31が巻き回されたボビン13とを備え、中心軸の周りを蛇行しつつ周方向に走行して、引出孔20から線材31を供給する。このキャリア10は、ボビン13と引出孔20との間に設置され、線材31が引き出される経路長を調整する経路長調整手段21と、ボビン13の回転を妨げる制動装置16と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】
図7