(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】高圧噴射攪拌工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
E02D3/12 102
(21)【出願番号】P 2019020779
(22)【出願日】2019-02-07
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】390002233
【氏名又は名称】ケミカルグラウト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】原 功一
(72)【発明者】
【氏名】山中 龍
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純次
(72)【発明者】
【氏名】阿部 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】小松 和彦
(72)【発明者】
【氏名】土屋 勉
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-034927(JP,A)
【文献】特開2016-098537(JP,A)
【文献】特開2013-177294(JP,A)
【文献】特開2006-057050(JP,A)
【文献】特開2012-211056(JP,A)
【文献】特開平04-115014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に挿入したロッドを所定の引上げ量に対する回転数が所定回転数となるよう回転させながら引上げ、前記ロッドから低水セメント比のセメントミルクを高圧噴射させることで、前記セメントミルクと切削地盤とを攪拌混合して地盤改良体の1度目の造成を行い、
前記所定の引上げ量と同じ値の所定の引下げ量に対する回転数が前記所定回転数より多くなるよう回転させながら前記ロッドを
前記地盤改良体内に引下げ、又は、前記ロッドを
前記地盤改良体に再挿入し、
前記所定の引上げ量に対する回転数が前記所定回転数より多くなるよう回転させながら前記ロッドを引上げ、前記ロッドから前記セメントミルクを高圧噴射させることで、前記セメントミルクと切削地盤とを攪拌混合して
前記地盤改良体の2度目の造成を行う、
高圧噴射攪拌工法。
【請求項2】
前記2度目の造成における前記ロッドの前記所定の引下げ量、又は
前記所定の引上げ量に対する回転数は、前記所定回転数の1.5倍以上3.0倍以下である、請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法。
【請求項3】
前記セメントミルクの水セメント比は、0.7以上1.0以下の範囲とされており、前記セメントミルクには流動化剤が添加されている、請求項1又は2に記載の高圧噴射攪拌工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧噴射攪拌工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工法の一つとして、地盤中において高圧噴射されたセメントミルク(高圧ジェット)により、地盤を切削しながら切削地盤とセメントミルクを攪拌混合することで、地盤改良体を造成する高圧噴射攪拌工法が知られている。高圧噴射攪拌工法は、機械攪拌工法と比較して、大型重機を必要としないため施工スペースが小規模で済み、狭隘な場所や空頭制限のある箇所での施工が可能となる。
【0003】
また、高圧噴射攪拌工法は、小径のロッドを使用し、セメントミルクの噴射圧力や流量等の調整によって地盤改良体の改良径を自由に変更することができるため、地盤中の埋設物等を移設、撤去することなく施工条件にフレキシブルに対応することができる。一方、高圧噴射攪拌工法は、機械攪拌工法と比較して地盤へ注入(噴射)するセメントミルクの量が多いため、排出される汚泥の量(排泥量)が多くなるという問題があった。
【0004】
この問題を解決するため、例えば特許文献1には、低水セメント比のセメントミルク(セメントスラリー)を用いることにより、地盤へのセメントミルクの注入量を削減し、排出される汚泥(スライム)の量を削減する高圧噴射攪拌工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示す高圧噴射攪拌工法のように、低水セメント比のセメントミルクを用いて地盤へのセメントミルクの注入量(噴射量)を減らした場合、切削地盤とセメントミルクとの混合攪拌性が低下し、地盤改良体の強度のばらつきが大きくなってしまう。
【0007】
本発明は上記事実に鑑み、地盤へのセメントミルクの注入量を削減しつつ、地盤改良体の強度のばらつきを小さくすることができる高圧噴射攪拌工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1態様に係る高圧噴射攪拌工法は、地盤に挿入したロッドを所定の引上げ量に対する回転数が所定回転数となるよう回転させながら引上げ、前記ロッドから低水セメント比のセメントミルクを高圧噴射させることで、前記セメントミルクと切削地盤とを攪拌混合して地盤改良体の1度目の造成を行い、所定の引下げ量に対する回転数が前記所定回転数より多くなるよう回転させながら前記ロッドを引下げ、又は、前記ロッドを再挿入し、所定の引上げ量に対する回転数が前記所定回転数より多くなるよう回転させながら前記ロッドを引上げ、前記ロッドから前記セメントミルクを高圧噴射させることで、前記セメントミルクと切削地盤とを攪拌混合して地盤改良体の2度目の造成を行う。
【0009】
上記構成によれば、地盤に挿入したロッドを回転させながら引上げ、ロッドからセメントミルクを高圧噴射させることで、地盤改良体を造成することができる。ここで、セメントミルクは低水セメント比とされているため、通常の水セメント比のセメントミルクを用いる場合と比較して、地盤へのセメントミルクの注入量を削減することができる。
【0010】
また、地盤改良体の造成を2度行い、2度目の造成におけるロッドの所定の引下げ量又は所定の引上げ量に対する回転数を、1度目の造成におけるロッドの所定の引上げ量に対する回転数より多くしている。これにより、1度目の造成で地盤改良体の改良径を確保し、2度目の造成で地盤改良体の改良径の拡大を抑制しつつ、切削地盤とセメントミルクの攪拌混合回数を増やすことができる。このため、地盤へのセメントミルクの注入量を削減しても、地盤改良体の強度のばらつきを小さくすることができる。
【0011】
第2態様に係る高圧噴射攪拌工法は、第1態様に係る高圧噴射攪拌工法であって、前記2度目の造成における前記ロッドの所定の引下げ量、又は所定の引上げ量に対する回転数は、前記所定回転数の1.5倍以上3.0倍以下である。
【0012】
上記構成によれば、2度目の造成におけるロッドの所定の引下げ量又は所定の引上げ量に対する回転数を、1度目の造成におけるロッドの所定の引上げ量に対する回転数の1.5倍以上3.0倍以下としている。これにより、回転数が1.5倍未満の場合や3.0倍より多い場合と比較して、施工性を高めつつ地盤改良体の強度のばらつきを小さくすることができる。
【0013】
第3態様に係る高圧噴射攪拌工法は、第1態様又は第2態様に係る高圧噴射攪拌工法であって、前記セメントミルクの水セメント比は、0.7以上1.0以下の範囲とされており、前記セメントミルクには流動化剤が添加されている。
【0014】
地盤に注入されるセメントミルクの水セメント比は、室内配合試験等によって、通常、0.8以上1.2以下程度の範囲に設定される。ここで、上記構成によれば、水セメント比を0.7以上1.0以下の範囲の低セメント比とすることで、通常の水セメント比のセメントミルクを用いる場合と比較して、地盤へのセメントミルクの注入量を削減することができる。
【0015】
また、セメントミルクに流動化剤を添加することで、セメントミルクを低水セメント比とした場合であっても、汚泥の粘性が高くなることを抑制することができる。これにより、汚泥排出経路が閉塞して地盤を隆起させたり、予期せぬ箇所から汚泥が噴発したりして施工性及び地盤改良体の品質が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る高圧噴射攪拌工法によれば、地盤へのセメントミルクの注入量を削減しつつ、地盤改良体の強度のばらつきを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)~(C)は実施形態の一例に係る高圧噴射攪拌工法の施工手順を示す工程図(その1)である。
【
図2】(A)~(C)は実施形態の一例に係る高圧噴射攪拌工法の施工手順を示す工程図(その1に続くその2)である。
【
図3】実施形態の一例に係る高圧噴射攪拌工法で用いられるロッドを示す立断面図である。
【
図4】実施例1及び比較例1~4に係る地盤改良体を造成する際に発生した排泥量を示すグラフである。
【
図5】(A)は実施例1及び比較例1~4に係る地盤改良体の一軸圧縮強度を示すグラフであり、(B)は一軸圧縮強度の変動係数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の一例における高圧噴射攪拌工法について、
図1~
図3を用いて説明する。
【0019】
図1、
図2に示すように、本実施形態の高圧噴射攪拌工法は、ロッド12を用いて地盤10にガイドホール14を形成する地盤削孔工程と、ロッド12を用いて複数回(本実施形態では2度)に分けて地盤改良体16を造成する地盤改良体造成工程と、を有している。
【0020】
本実施形態では、地盤削孔工程及び地盤改良体造成工程において、同じロッド12を用いている。ロッド12は、
図3に示すように、例えば中央に形成された第1流路18と、第1流路18の外側に形成された第2流路20と、を有する二重管とされている。
【0021】
また、ロッド12の下端部には、噴射装置22が接続されている。噴射装置22は、下端に形成されて第1流路18と連通する吐出口24と、側面に形成されて第1流路18及び第2流路20と連通する複数の噴射口26と、を有している。
【0022】
なお、地盤削孔工程及び地盤改良体造成工程では、必ずしも同じロッド12を用いる必要はない。例えば、地盤削孔工程では、下端に吐出口24が形成された削孔ロッドを用い、地盤改良体造成工程では、側面に噴射口26が形成された別の噴射ロッドを用いる構成としてもよい。
【0023】
(地盤削孔工程)
まず、地盤削孔工程では、
図1(A)に示すように、ロッド12を用いて地盤10の改良範囲を目標深度まで掘削する。
【0024】
具体的には、図示しない削孔水供給管を
図3に示すロッド12の第1流路18に接続し、ロッド12の第1流路18を介して噴射装置22に削孔水Pを供給する。そして、噴射装置22の吐出口24から削孔水Pを鉛直方向下向きに吐出させながら、
図1(A)に示すように、ボーリングマシン等の造成機28によってロッド12を地盤10中へ挿入することにより、地盤10を掘削してガイドホール14を形成する。
【0025】
また、ガイドホール14の形成前又はガイドホール14の形成後に、ガイドホール14の上端部、すなわち地盤10の表面の杭心位置に、ガイドホール14より径が大きいピット30(凹部)を溝堀りしておく。
【0026】
(1度目の地盤改良体造成工程)
地盤削孔工程において地盤10にガイドホール14を形成した後、
図1(B)、
図1(C)に示すように、セメントミルクQと切削地盤とを攪拌混合することで、1度目の地盤改良体造成工程を行う。
【0027】
具体的には、まず、図示しないセメントミルク供給管を
図3に示すロッド12の第1流路18に接続し、第1流路18にセメントミルクQを供給する。また、図示しない圧縮空気供給管をロッド12の第2流路20に接続し、第2流路20に圧縮空気を供給する。
【0028】
このとき、例えば図示しない球形状の閉塞部材を噴射装置22に落し込むことにより、噴射装置22の吐出口24を一時的に塞いでおく。これにより、ロッド12の第1流路18に供給されたセメントミルクQは、
図1(B)に示すように、ロッド12の第2流路20に供給された圧縮空気とともに噴射装置22の噴射口26から水平方向に高圧噴射される。
【0029】
そして、
図1(C)に示すように、地盤10に挿入されているロッド12をガイドホール14に沿って造成機28によって所定の引上げ量で引上げ、ロッド12を引上げる毎にロッド12を所定回転数(以下、「回転数M」と称する。)で回転させて噴射装置22の噴射口26からセメントミルクQを高圧噴射させる。
【0030】
これにより、セメントミルクQによってロッド12(ガイドホール14)の周囲の地盤10を切削して地盤改良体16の改良径を確保し、切削地盤とセメントミルクQとを攪拌混合させることで地盤改良体16の1度目の造成を行う。なお、地盤改良体16の造成時に生じた汚泥R(スライム)は、ガイドホール14を通じてピット30へと排出され、図示しないサンドポンプやバキューム車等によって外部に搬出される。
【0031】
なお、本実施形態では、1度目の地盤改良体造成工程において、一例として、ロッド12を2.5cm引上げる毎にロッド12を1回転(360°回転)させてセメントミルクQを地盤10に噴射(注入)している。
【0032】
(2度目の地盤改良体造成工程)
地盤改良体16の1度目の造成後、
図2(A)~
図2(C)に示すように、1度目と同じ範囲で2度目の地盤改良体造成工程を行う。なお、2度目の地盤改良体造成工程は、例えば1度目の地盤改良体造成工程から時間を空けずに連続して行う。
【0033】
具体的には、
図2(A)に示すように、まず、地盤10の改良範囲の上端に位置するロッド12を改良範囲の下端まで再挿入する。そして、
図2(B)に示すように、1度目の地盤改良体造成工程と同じ方法で、地盤10に挿入されているロッド12をガイドホール14に沿って造成機28によって引上げ、ロッド12を引上げる毎にロッド12を回転させて噴射装置22の噴射口26からセメントミルクQを高圧噴射させる。これにより、切削地盤とセメントミルクQとをさらに攪拌混合させることで、地盤改良体16を造成する。
【0034】
ここで、2度目の地盤改良体造成工程において、ロッド12の所定の引上げ量に対する回転数(以下、「回転数N」と称する。)は、1度目の地盤改良体造成工程におけるロッド12の回転数M(所定の引上げ量に対する回転数)より多くされている。
【0035】
具体的には、2度目の造成におけるロッド12の回転数Nは、1度目の造成におけるロッド12の回転数Mの1.5倍以上3.0倍以下とされていることが好ましい。なお、本実施形態では、2度目の地盤改良体造成工程において、一例として、ロッド12を2.5cm引上げる毎にロッド12を2回転(720°回転)させてセメントミルクQを地盤10に噴射(注入)している。
【0036】
なお、地盤改良体16の2度目の造成におけるセメントミルクQの噴射量(L/分)は、1度目の造成における噴射量(L/分)と同量とされている。また、地盤改良体16の2度目の造成におけるロッド12の引上げ速度は、1度目の造成におけるロッド12の引上げ速度より速く設定されている。
【0037】
地盤改良体の2度目の造成後、
図2(C)示すように、ガイドホール14からロッド12を引抜き、ガイドホール14をセメントミルクQによって塞ぐことで、地盤改良体16の造成が完了する。なお、上記の手順は一例であり、手順が異なっていたり、他の手順が含まれたりしても構わない。
【0038】
例えば、上記の手順では、2度目の地盤改良体造成工程において、ロッド12を再挿入した後で引上げながら地盤改良体16の造成を行っていた。しかし、地盤10の改良範囲の上端に位置するロッド12を引下げながら回転させ、セメントミルクQを地盤10に噴射することで、地盤改良体16を造成する構成としてもよい。この場合においても、ロッド12の所定の引下げ量に対する回転数が、1度目の地盤改良体造成工程におけるロッド12の回転数Mより多くされる。
【0039】
また、上記の手順では、地盤改良体造成工程を2度行っていたが、地盤改良体造成工程を3度以上行う構成としてもよい。なお、地盤改良体造成工程を3度以上行う場合においても、少なくとも2度目の地盤改良体造成工程におけるロッド12の回転数Nは、1度目の地盤改良体造成工程におけるロッド12の回転数Mより多くされる。
【0040】
また、地盤改良体造成工程を3度以上行う場合、各地盤改良体造成工程におけるセメントミルクQの噴射量を減らすことで、セメントミルクQの総噴射量(注入量)が多くなることを抑制することができる。
【0041】
(セメントミルク)
次に、本実施形態の高圧噴射攪拌工法の地盤改良体造成工程で地盤10に注入されるセメントミルクQについて具体的に説明する。
【0042】
本実施形態では、セメントミルクQは低水セメント比とされている。本発明において、「低水セメント比」とは、通常の水セメント(W/C)比よりもセメントミルク配合中のセメントに対する水の割合が低いことを指す。
【0043】
また、「通常の水セメント比」とは、例えば室内配合試験等で決定される水セメント比を指す。具体的には、「通常の水セメント比」は、セメントミルクの添加量が異なる複数の供試体を作製して一軸圧縮強さを求め、添加量と一軸圧縮強さの関係から室内配合強度の確保に必要なセメントミルクの添加量を求めることで決定される。
【0044】
ここで、「一軸圧縮強さ」を算出するための一軸圧縮試験は、例えば、JIS A 1216:2009に規定される方法によって実施する。なお、一般的に、セメントミルクの「通常の水セメント比」が0.8以上1.2以下程度の範囲に設定されるのに対し、本実施形態のセメントミルクQでは、水セメント比が0.7以上1.0以下の範囲とされている。
【0045】
また、本実施形態では、セメントミルクQに流動化剤が添加されている。流動化剤は、セメントミルクQの粘度を低下させる薬剤であり、例えばポリカルボン酸化合物やナフタレンスルホン酸を主成分とする薬剤、又はポリカルボン酸塩を主剤とし、無機化合物を助剤とする薬剤等である。なお、流動化剤としては、例示した薬剤以外にも、セメントミルクQの粘度を低下させることができる他の公知の薬剤を用いることができる。
【0046】
また、流動化剤のセメントミルクQへの添加量は、例えばテーブルフロー試験等によって決定される。具体的には、本実施形態の低水セメント比のセメントミルクQのテーブルフロー値を、「通常の水セメント比」のセメントミルクのテーブルフロー値と同程度にするために必要な流動化剤の添加量を求めることで決定される。
【0047】
なお、本実施形態では、地盤10へのセメントミルクQの注入率は、地盤改良体16の体積に対して25%以上100%以下の割合とされている。また、流動化剤のセメントミルクQへの添加量は、地盤改良体16の体積に対して5kg/m3以上30kg/m3以下程度とされている。
【0048】
(作用、効果)
本実施形態の高圧噴射攪拌工法によれば、地盤10に挿入したロッド12を回転させながら引上げ、ロッド12から噴射装置22を介してセメントミルクQを高圧噴射させることで、地盤改良体16を造成することができる。
【0049】
ここで、本実施形態によれば、地盤10に注入されるセメントミルクQが低水セメント比とされている。具体的には、一例として、セメントミルクQの水セメント比が、0.7以上1.0以下の範囲とされている。これにより、通常の水セメント比(0.8以上1.2以下程度)のセメントミルクを用いる場合と比較して、地盤10へのセメントミルクQの注入量を削減することができるため、施工時間を短縮することができ、施工効率を高めるとともにコストを削減することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、地盤改良体16の造成を2度行い、2度目の造成におけるロッド12の回転数N(所定の引上げ量に対する回転数)を、1度目の造成におけるロッド12の回転数M(所定の引上げ量に対する回転数)より多くしている。
【0051】
一般的に、セメントミルクQの噴射量が同じ場合、ロッド12の回転数が多くなるとセメントミルクQの飛距離(噴射径)が短くなる。このため、1度目の造成で地盤改良体16の改良径を確保した上で、2度目の造成で地盤改良体16の改良径の拡大を抑制しつつ、切削地盤とセメントミルクQの攪拌混合回数を増やすことができる。これにより、地盤10へのセメントミルクQの注入量を削減しつつ、地盤改良体16の強度(一軸圧縮強度)のばらつきを小さくすることができる。
【0052】
具体的には、一例として、2度目の造成におけるロッド12の回転数N(所定の引上げ量に対する回転数)を、1度目の造成におけるロッド12の回転数M(所定の引上げ量に対する回転数)の1.5倍以上3.0倍以下としている。これにより、回転数Nが回転数Mの1.5倍未満の場合と比較して、攪拌混合回数を増やすことで地盤改良体16の強度のばらつきを小さくすることができ、回転数Nが回転数Mの3.0倍より多い場合と比較して、施工性を高めることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、セメントミルクQに流動化剤が添加されている。このため、セメントミルクQを低水セメント比とした場合であっても、汚泥Rの粘性が高くなることを抑制することができる。これにより、汚泥排出経路(ガイドホール14)が閉塞して地盤10を隆起させたり、予期せぬ箇所から汚泥Rが噴発したりして施工性及び地盤改良体の品質が低下することを抑制することができる。
【0054】
(その他の実施形態)
以上、本発明について実施形態の一例について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能である。
【0055】
例えば上記実施形態では、ロッド12が第1流路18及び第2流路20を有する二重管とされていた。しかし、ロッド12の構成は、上記実施形態には限らず、例えば削孔水流路、圧縮空気流路、及びセメントミルク流路の3つの流路を有する三重管とされていてもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明について実施例により具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
実施例1では、7.5kg/m3の流動化剤を添加した水セメント比が0.78(78%)のセメントミルクを用い、地盤改良体の体積に対するセメントミルクの注入率を32.3%として改良径が2.3m、改良長が5mの地盤改良体を造成した。
【0058】
なお、地盤改良体の1度目の造成におけるロッドの回転数Mを1回転/2.5cmとし、ロッドの引上げ速度を4分/m、セメントミルクの噴射量を250L/分とした。また、地盤改良体の2度目の造成におけるロッドの回転数Nを2回転/2.5cmとし、ロッドの引上げ速度を2.5分/m、セメントミルクの噴射量を250L/分とした。
【0059】
(比較例1、2)
比較例1、2では、流動化剤が添加されていない水セメント比が0.89(89%)のセメントミルクを用い、地盤改良体の体積に対するセメントミルクの注入率を50.1%として改良径が2.3m、改良長が5mの地盤改良体を造成した。
【0060】
なお、地盤改良体の1度目の造成におけるロッドの回転数Mを1回転/2.5cmとし、ロッドの引上げ速度を8分/m、セメントミルクの噴射量を180L/分とした。また、地盤改良体の2度目の造成におけるロッドの回転数Nを1回転/2.5cmとし、ロッドの引上げ速度を6分/m、セメントミルクの噴射量を180L/分とした。
【0061】
(比較例3、4)
比較例3、4では、地盤改良体の2度目の造成におけるロッドの回転数Nのみを1回転/2.5cmとし、その他のセメントミルクの水セメント比、地盤改良体の改良径、改良長、ロッドの引上げ速度、及びセメントミルクの噴射量等は、全て実施例1と同条件とした。
【0062】
(実施例1と比較例1~4の排泥量の比較)
まず、実施例1及び比較例1~4に係る地盤改良体を造成する際に発生した汚泥の量(排泥量)をそれぞれ測定した。その結果を
図4のグラフに示す。なお、
図4における縦軸は排泥量(m
3)を表し、横軸のNo.5は実施例1、No.1~4はそれぞれ比較例1~4を表す。
【0063】
図4に示すように、流動化剤が添加された低水セメント比のセメントミルクを用いた実施例1(No.5)、及び比較例3、4(No.3、4)では、通常の水セメント比のセメントミルクを用いた比較例1、2(No.1、2)と比較して、それぞれ排泥量が少なかった。
【0064】
具体的には、例えば実施例1(No.5)では、比較例1(No.1)と比較して排泥量が約32%少なかった。以上より、低水セメント比のセメントミルクを用いることで、排泥量を削減することができることが確認できた。
【0065】
(実施例1と比較例1~4の地盤改良体の平均強度と変動係数の比較)
次に、実施例1及び比較例1~4に係る地盤改良体に対して一軸圧縮強度試験を行い、各地盤改良体の一軸圧縮強度、及び一軸圧縮強度のばらつきの評価指標である変動係数をそれぞれ求めた。
【0066】
その結果を
図5(A)及び
図5(B)に示す。なお、
図5(A)及び
図5(B)において、縦軸のNo.5は実施例1、No.1~4はそれぞれ比較例1~4を表す。また、
図5(A)の横軸は一軸圧縮強度(kN/m
3)を表し、
図5(B)の横軸は変動係数を表す。
【0067】
図5(A)に示すように、例えば同条件で造成した比較例1、2(No.1、2)に係る地盤改良体において、一軸圧縮強度(kN/m
3)に約2500kN/m
2の差(ばらつき)が生じた。同様に、同条件で造成した比較例3、4(No.3、4)に係る地盤改良体において、一軸圧縮強度(kN/m
3)に約2000kN/m
2の差(ばらつき)が生じた。
【0068】
具体的には、
図5(B)に示すように、地盤改良体の2度目の造成におけるロッドの回転数Nを1度目の造成におけるロッドの回転数Mと同じとした比較例1~4(No.1~4)では、変動係数が30%程度であった。一方、地盤改良体の2度目の造成におけるロッドの回転数Nを1度目の造成におけるロッドの回転数Mより多くした実施例1(No.5)では、変動係数が20%程度であった。
【0069】
以上より、地盤改良体の2度目の造成におけるロッドの回転数Nを1度目の造成におけるロッドの回転数Mより多くすることで、地盤改良体の一軸圧縮強度の変動係数、すなわち強度のばらつきを小さくすることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0070】
10 地盤
12 ロッド
16 地盤改良体
Q セメントミルク