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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】保湿剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/42 20060101AFI20221206BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20221206BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K8/42
A61K31/164
A61P17/16
A61Q19/00
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2018033584
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2018177767
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2017074792
(32)【優先日】2017-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビスワス シュヴェンドゥ
(72)【発明者】
【氏名】池田 直哲
(72)【発明者】
【氏名】桐生 翔一朗
(72)【発明者】
【氏名】服部 岳
(72)【発明者】
【氏名】本河 史恵
(72)【発明者】
【氏名】石井 博治
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-053524(JP,A)
【文献】特表2017-505795(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175001(WO,A1)
【文献】特開2005-200391(JP,A)
【文献】特開2000-355531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/00-31/327
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
〔式中、
Aは、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、
Bは、炭素原子数2~18の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、
Xは、水素原子、または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。〕で表される化合物を含む、保湿剤。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)~(6):
【化2】
〔式中、
AおよびBはそれぞれ、前記式(1)のものと同じである。〕のいずれか一つにより表される化合物である、請求項1記載の保湿剤。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が、前記式(2)で表される化合物である、請求項2記載の保湿剤。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、前記式(3)で表される化合物である、請求項2記載の保湿剤。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物が、前記式(4)で表される化合物である、請求項2記載の保湿剤。
【請求項6】
前記式(1)で表される化合物が、前記式(5)で表される化合物である、請求項2記載の保湿剤。
【請求項7】
前記式(1)で表される化合物が、前記式(6)で表される化合物である、請求項2記載の保湿剤。
【請求項8】
Aが、炭素原子数1~11の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、請求項1~7のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項9】
Aが、炭素原子数7~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、請求項1~のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項10】
Aが、炭素原子数7~11の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである、請求項8または9記載の保湿剤。
【請求項11】
Aが、炭素原子数7の直鎖のアルキルである、請求項10記載の保湿剤。
【請求項12】
Bが、炭素原子数2~8の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、請求項1~11のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項13】
Bが、炭素原子数2もしくは3の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、請求項12記載の保湿剤。
【請求項14】
A、BおよびXにおける炭化水素基がアルキルである、請求項1~13のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項15】
前記式(2)で表される化合物が、N-オクタノイルイソロイシンエチルエステル、N-オクタノイルイソロイシンイソプロピルエステル、N-ラウロイルイソロイシンエチルエステル、またはN-ラウロイルイソロイシンイソプロピルエステルである、請求項3記載の保湿剤。
【請求項16】
前記式(3)で表される化合物が、N-オクタノイルロイシンエチルエステル、N-オクタノイルロイシンイソプロピルエステル、N-ラウロイルロイシンエチルエステル、またはN-デカノイルロイシンイソプロピルエステルである、請求項4記載の保湿剤。
【請求項17】
前記式(4)で表される化合物が、N-オクタノイルアラニンエチルエステル、N-オクタノイルアラニンイソプロピルエステル、またはN-デカノイルアラニンイソプロピルエステルである、請求項5記載の保湿剤。
【請求項18】
前記式(5)で表される化合物が、N-ヘキサノイルバリンエチルエステル、N-オクタノイルバリンエチルエステル、N-オクタノイルバリンイソプロピルエステル、N-デカノイルバリンイソプロピルエステル、またはN-ラウロイルバリンエチルエステルである、請求項6記載の保湿剤。
【請求項19】
前記式(6)で表される化合物が、N-オクタノイルグリシンエチルエステル、またはN-オクタノイルグリシンイソプロピルエステルである、請求項7記載の保湿剤。
【請求項20】
角層機能改善作用を有する、請求項1~19のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項21】
プロフィラグリン、フィラグリン、インボルクリン、トランスグルタミナーゼ1、ケラチン10、およびロリクリンからなる群より選ばれる1または2以上のタンパク質の産生促進作用を有する、請求項1~20のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項22】
前記化合物を0.01~1000mMの濃度で含む組成物である、請求項1~21のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項23】
保湿剤が皮膚外用剤である、請求項1~22のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項24】
保湿剤が化粧料である、請求項1~22のいずれか一項記載の保湿剤。
【請求項25】
化粧料がリーブオン化粧料である、請求項24記載の保湿剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
角層は、内部で水分を保持する保湿能と、外界からの外来物(例、異物、ウイルスおよび細菌)の侵入を抑制するバリア能を角層機能として備えている。このような角層機能に作用する物質として、皮脂、細胞間脂質、天然保湿因子等が知られている。
【0003】
皮膚組織の顆粒層内に貯蔵されているプロフィラグリンは、角化の際に脱リン酸化を経てフィラグリンに分解される。フィラグリンは、顆粒層から角層に移動して、ケラチン繊維と結合及び凝集し、ケラチンパターンを形成する。その後、フィラグリンは、ウロカニン酸等の低分子に分解されて、保水、紫外線吸収に関与する天然保湿因子となる。そのため、フィラグリンの産生が促進されるほど、その分解物である天然保湿因子の量が増えて、肌の保湿能が向上すると考えられる。
【0004】
角層を構成する角質細胞と角質細胞間に存在する細胞間脂質等により、外界からの外来物の侵入が抑制されている。そのため、角質細胞の数や大きさ等が不十分であると、角層に隙間が生じ、バリア能が低下する。
【0005】
ケラチン10等のケラチンとフィラグリンとが凝集した構造体を包含する角質細胞の周辺には、角質細胞の細胞膜を裏打ちするきわめて強靭で巨大な不溶性構造物である周辺帯が存在している。周辺帯の主な構造要素は、有棘細胞で産生されるインボルクリン、顆粒細胞で産生されるロリクリン等のタンパク質であり、これらがトランスグルタミナーゼ(TG)1等の酵素により架橋されている。そのため、フィラグリン、インボルクリン、トランスグルタミナーゼ1、ケラチン10、ロリクリンは、角質細胞の形成に強く影響し、肌のバリア能と関連すると考えられる。
【0006】
フィラグリン、インボルクリン、トランスグルタミナーゼ1、ケラチン10、及びロリクリンの発現は、グリシルプロリン等の特定のペプチドにより促進されることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/175001号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、グリシルプロリン等の特定のペプチドは、フィラグリン等保湿関連タンパク質の発現促進作用が弱く、角層内部で水分を保持する保湿能の改善には不十分であると考えられる。このような特定のペプチドはまた、肌のバリア能と関連するタンパク質の発現促進作用も弱く、外来物の侵入を抑制するバリア能の改善にも不十分であると考えられる。すなわち、このような特定のペプチドは、角質機能の改善に不十分であると考えられる。
【0009】
本発明は、角層内部で水分を保持する保湿能を改善できる保湿剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定のアシル中性アミノ酸エステルが角層内部で水分を保持する保湿能の改善に関連するタンパク質の産生を向上できること、したがって、保湿剤として有望であることを見出した。本発明者らはまた、特定のアシル中性アミノ酸エステルが外来物の侵入を抑制するバリア能も改善できる付加価値の高い保湿剤として有用であることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕下記式(1):
【化1】
〔式中、
Aは、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、
Bは、炭素原子数2~18の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、
Xは、水素原子、または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。〕で表される化合物を含む、保湿剤。
〔2〕前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)~(6):
【化2】
〔式中、
AおよびBはそれぞれ、前記式(1)のものと同じである。〕のいずれか一つにより表される化合物である、〔1〕の保湿剤。
〔3〕Aが、炭素原子数1~11の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔1〕または〔2〕の保湿剤。
〔4〕Bが、炭素原子数2~8の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔1〕~〔3〕のいずれかの保湿剤。
〔5〕Bが、炭素原子数2もしくは3の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔4〕の保湿剤。
〔6〕Aが、炭素原子数7~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔1〕~〔5〕のいずれかの保湿剤。
〔7〕A、BおよびXにおける炭化水素基がアルキルである、〔1〕~〔6〕のいずれかの保湿剤。
〔8〕角層機能改善作用を有する、〔1〕~〔7〕のいずれかの保湿剤。
〔9〕プロフィラグリン、フィラグリン、インボルクリン、トランスグルタミナーゼ1、ケラチン10、およびロリクリンからなる群より選ばれる1または2以上のタンパク質の産生促進作用を有する、〔1〕~〔8〕のいずれかの保湿剤。
〔10〕前記化合物を0.01~1000mMの濃度で含む組成物である、〔1〕~〔9〕のいずれかの保湿剤。
〔11〕保湿剤が皮膚外用剤である、〔1〕~〔10〕のいずれかの保湿剤。
〔12〕保湿剤が化粧料である、〔1〕~〔11〕のいずれかの保湿剤。
〔13〕化粧料がリーブオン化粧料である、〔12〕の保湿剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の保湿剤は、角層内部で水分を保持する保湿能を発揮することができる。
本発明の保湿剤はまた、角層における外界からの外来物の侵入を抑制するバリア能を発揮することができる。
本発明の保湿剤はさらに、有効量の濃度範囲内において、親水性有機溶媒および疎水性有機溶媒(油)と安定的に配合することができる。特に、本発明の保湿剤は、乳化剤を使用せずとも、有効量の濃度範囲内において親水性有機溶媒と安定的に配合することができる。
本発明の保湿剤はまた、親水性有機溶媒と配合することで配合物の濡れ性が良くなり、肌馴染みを改善することができる。
本発明の保湿剤はさらに、N-アシルアミノ酸エステルにおけるアシル鎖長が長い場合であっても細胞毒性が認められ得ないため、皮膚に対する安全性の観点から優れている。
本発明の保湿剤はさらに、本発明の保湿剤と疎水性有機溶媒(油)との混合液、および本発明の保湿剤と親水性有機溶媒との混合液において透明の性状を呈することができるため、外観的に高級感を付与することができ、更に肌への視覚上の影響を回避できる。したがって、本発明の保湿剤は、例えば、塗布による白残りを軽減できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、オクタノイルバリン(実施例3:C8Val)、オクタノイルアラニン(実施例4:C8Ala)、グリシルプロリン(比較例2:Gly-Pro)およびバリン(比較例3:Val)の各保湿関連タンパク質遺伝子の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示す図である。試験した保湿関連タンパク質遺伝子は、左から、フィラグリン、インボルクリン、トランスグルタミナーゼ1(TG1)、ケラチン10、およびロリクリンをコードする遺伝子である(図2も同様)。
図2図2は、オクタノイルロイシン(実施例5:C8Leu)、オクタノイルイソロイシン(実施例6:C8Ile)、オクタノイルグリシン(実施例7:C8Gly)、グリシルプロリン(比較例2:Gly-Pro)およびバリン(比較例3:Val)の各保湿関連タンパク質遺伝子の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示す図である。
図3図3は、ブタノイルバリン(実施例8:C4Val)、ヘキサノイルバリン(実施例9:C6Val)、オクタノイルバリン(実施例10:C8Val)、デカノイルバリン(実施例11:C10Val)、ラウロイル(ドデカノイル)バリン(実施例12:C12Val)およびメタノイルバリン(実施例13:C2Val)の各保湿関連タンパク質遺伝子の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示す図である。試験した保湿関連タンパク質遺伝子は、左から、フィラグリン、インボルクリン、およびトランスグルタミナーゼ1(TG1)をコードする遺伝子である。
図4図4は、ラウロイルバリン(実施例14:C12Val)、デカノイルバリン(実施例15:C10Val)、オクタノイルバリン(実施例16:C8Val)、ヘキサノイルバリン(実施例17:C6Val)、ブタノイルバリン(実施例18:C4Val)、およびアセチルバリン(実施例19:C2Val)のフィラグリン遺伝子の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示す図である。
図5図5は、ラウロイルアラニン(実施例20:C12Ala)、デカノイルアラニン(実施例21:C10Ala)、オクタノイルアラニン(実施例22:C8Ala)、ヘキサノイルアラニン(実施例23:C6Ala)、ブタノイルアラニン(実施例24:C4Ala))のフィラグリン遺伝子の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示す図である。
図6図6は、ラウロイルバリン(比較例4:C12Val)、デカノイルバリン(実施例25:C10Val)、オクタノイルバリン(実施例26:C8Val)、ヘキサノイルバリン(実施例27:C6Val)、ブタノイルバリン(実施例28:C4Val)、およびアセチルバリン(実施例29:C2Val)の細胞(コントロールの吸光度に対する百分率)を示す図である。
図7図7は、エステラーゼの存在または非存在の条件下における、C8Ala-iPAの加水分解によるN-オクタノイルアラニン産出のHPLC(島津社製)クロマトグラム(測定波長 210nm)を示す図である。クロマトグラム上、溶出時間0.6分にN-オクタノイルアラニンのピークが認められ、溶出時1.7分にC8Ala-iPAのピークが認められる。C8Ala-iPAをエステラーゼと反応させた場合、1.7分のピークが減少し、0.6分に新たなピークが現れる。
図8図8は、エステラーゼの存在または非存在の条件下における、C8Ala-Etの加水分解によるN-オクタノイルアラニン産出のHPLC(島津社製)クロマトグラム(測定波長 210nm)を示す図である。クロマトグラム上、溶出時間0.6分にN-オクタノイルアラニンのピークが認められ、溶出時1.2分にC8Ala-Etのピークが認められる。C8Ala-Etをエステラーゼと反応させた場合、1.2分のピークが減少し、0.6分に新たなピークが現れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、上記式(1)で表される化合物を含む保湿剤を提供する。
【0015】
Aは、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。Aにおける炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは16以下であり、より好ましくは15以下であり、さらにより好ましくは13以下であり、なおさらにより好ましくは11以下であってもよい。Aにおける炭化水素基の炭素原子数はまた、2以上、3以上、4以上、5以上、または6以上であってもよい。より具体的には、Aにおける炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは2~16、より好ましくは3~15、さらにより好ましくは4~13、なおさらにより好ましくは5~11であってもよい。Aにおける炭化水素基は、飽和もしくは不飽和である。このような炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニルが挙げられる。
【0016】
Aがアルキルである場合、アルキルは、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。Aにおけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、Aにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Aにおけるアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル(例、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)、ペンチル(例、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、1-エチルプロピル)、ヘキシル(例、n-ヘキシル、iso-ヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル)、ヘプチル(例、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、1,1-ジメチルペンチル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、2-エチルペンチル)、オクチル(例、n-オクチル、1-メチルヘプチル、2-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、1,1-ジメチルヘキシル、2,2-ジメチルヘキシル、3,3-ジメチルヘキシル、2-エチルヘキシル)、ノニル(例、n-ノニル、3,5,5-トリメチルヘキシル)、デカニル(例、n-デカニル)、ウンデカニル(例、n-ウンデカニル)、ドデカニル(例、n-ドデカニル)、トリデカニル(例、n-トリデカニル)、テトラデカニル(例、n-テトラデカニル)、ペンタデカニル(例、n-ペンタデカニル)、ヘキサデカニル(例、n-ヘキサデカニル)、およびヘプタデカニル(例、n-ヘプタデカニル)が挙げられる。
【0017】
Aがアルケニルである場合、アルケニルは、炭素原子数2~17の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニルである。Aにおけるアルケニルの炭素原子数の例および好ましい例は、Aにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Aにおけるアルケニルとしては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、へキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、およびヘプタデセニルが挙げられる。
【0018】
Aがアルキニルである場合、アルキニルは、炭素原子数2~17の直鎖もしくは分岐鎖のアルキニルである。Aにおけるアルキニルの炭素原子数の例および好ましい例は、Aにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Aにおけるアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、へキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、トリデシニル、テトラデシニル、ペンタデシニル、ヘキサデシニル、およびヘプタデシニルが挙げられる。
【0019】
好ましくは、Aは、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。Aにおけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、Aにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。このようなアルキルの具体例は、上述したとおりである。
【0020】
特定の実施形態では、Aにおける基の炭素原子数は、7~17(好ましくは7~11)であってもよい。Aにおける基の炭素原子数が7以上である場合、上記式(1)で表される化合物は、角層機能の改善に関連する各種タンパク質をコードする遺伝子の発現を顕著に誘導でき、しかも細胞毒性が認められ得ないという利点がある。このようなタンパク質としては、例えば、皮膚組織内で天然保湿因子を生成し得るタンパク質(例、フィラグリン、プロフィラグリン)、および皮膚バリア能に関与し得るタンパク質(例、フィラグリン、インボルクリン、トランスグルタミナーゼ1、ケラチン10、ロリクリン)が挙げられる。
【0021】
別の特定の実施形態では、Aにおける基の炭素原子数は、6以下であってもよい。Aにおける基の炭素原子数が6以下である場合、上記式(1)で表される化合物は、分配係数(LogP)が1~4の範囲内にあり、更に分子量が500Da以下であるため、経費吸収性に優れ、角層中に高濃度で提供することができるという利点がある。
【0022】
Bは、炭素原子数2~18の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。Bにおける炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは2~15であり、より好ましくは2~12であり、さらにより好ましくは2~8であり、なおさらにより好ましくは2~6であり、特に好ましくは2または3であってもよい。Bにおける炭化水素基は、飽和もしくは不飽和である。このような炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニルが挙げられる。
【0023】
Bがアルキルである場合、アルキルは、炭素原子数2~18の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。Bにおけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、Bにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Bにおけるアルキルとしては、例えば、エチル、プロピル(例、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)、ペンチル(例、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、1-エチルプロピル)、ヘキシル(例、n-ヘキシル、iso-ヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル)、ヘプチル(例、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、1,1-ジメチルペンチル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、2-エチルペンチル)、オクチル(例、n-オクチル、1-メチルヘプチル、2-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、1,1-ジメチルヘキシル、2,2-ジメチルヘキシル、3,3-ジメチルヘキシル、2-エチルヘキシル)、ノニル(例、n-ノニル、3,5,5-トリメチルヘキシル)、デカニル(例、n-デカニル)、ウンデカニル(例、n-ウンデカニル)、ドデカニル(例、n-ドデカニル)、トリデカニル(例、n-トリデカニル)、テトラデカニル(例、n-テトラデカニル)、ペンタデカニル(例、n-ペンタデカニル)、ヘキサデカニル(例、n-ヘキサデカニル)、ヘプタデカニル(例、n-ヘプタデカニル)、およびオクタデカニル(例、n-オクタデカニル)が挙げられる。
【0024】
Bがアルケニルである場合、アルケニルは、炭素原子数2~18の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニルである。Bにおけるアルケニルの炭素原子数の例および好ましい例は、Bにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Bにおけるアルケニルとしては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、へキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、およびオクタデセニルが挙げられる。
【0025】
Bがアルキニルである場合、アルキニルは、炭素原子数2~18の直鎖もしくは分岐鎖のアルキニルである。Bにおけるアルキニルの炭素原子数の例および好ましい例は、Bにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Bにおけるアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、へキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、トリデシニル、テトラデシニル、ペンタデシニル、ヘキサデシニル、ヘプタデシニル、およびオクタデシニルが挙げられる。
【0026】
好ましくは、Bは、炭素原子数2~18の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。Bにおけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、Bにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。このようなアルキルの具体例は、上述したとおりである。
【0027】
Xは、水素原子、または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。Xにおける炭化水素基の炭素原子数は、例えば1~4であってもよい。Xにおける炭化水素基は、飽和もしくは不飽和である。このような炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニルが挙げられる。
【0028】
Xがアルキルである場合、アルキルは、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。Xにおけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、Xにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Xにおけるアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル(例、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)、およびペンチル(例、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、1-エチルプロピル)が挙げられる。
【0029】
Xがアルケニルである場合、アルケニルは、炭素原子数2~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニルである。Xにおけるアルケニルの炭素原子数の例および好ましい例は、Xにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Xにおけるアルケニルとしては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、およびペンテニルが挙げられる。
【0030】
Xがアルキニルである場合、アルキニルは、炭素原子数2~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキニルである。Xにおけるアルキニルの炭素原子数の例および好ましい例は、Xにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。Xにおけるアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、およびペンチニルが挙げられる。
【0031】
好ましくは、Xは、炭素原子1~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。Xにおけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、Xにおける上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。このようなアルキルの具体例は、上述したとおりである。
【0032】
特定の実施形態では、本発明の保湿剤は、上記式(1)〔式中、Aは、炭素原子数2~10の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、Bは、炭素原子数2~18の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、Xは、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。〕で表される化合物を含んでいてもよい。
【0033】
好ましくは、上記式(1)で表される化合物は、上記式(2)~(6)のいずれか一つで表される化合物である。上記式(2)~(6)で表される化合物におけるAおよびBについて、炭化水素基(例、アルキル、アルケニル、アルキニル)および炭素原子数の定義、例、好ましい例および具体例は、式(1)において上述したものと同様である。
【0034】
特定の実施形態では、上記式(2)~(6)で表される化合物におけるAおよびBは、それぞれ独立して、異なる炭素原子数および異なる炭化水素基を有していてもよい。例えば、上記(2)~(4)で表される化合物におけるAが、炭素原子数2~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、上記(5)および(6)で表される化合物におけるAが、炭素原子数6以下、または7~17(好ましくは7~11、より好ましくは8~11)の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であってもよい。また、上記(2)~(4)で表される化合物におけるAが、炭素原子数2~11の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、上記(5)および(6)で表される化合物におけるAが、炭素原子数7~11(好ましくは8~11)の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であってもよい。さらに、上記(2)~(4)で表される化合物におけるAが、炭素原子数5~11の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、上記(5)および(6)で表される化合物におけるAが、炭素原子数7~11(好ましくは8~11)の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であってもよい。
【0035】
式(1)~(6)で表される化合物は、N-アシル中性アミノ酸エステル(中性アミノ酸誘導体)に対応する。式(1)~(6)で表される化合物は、窒素原子、カルボニル基の炭素原子およびXのいずれもが結合する炭素原子について光学異性体(L体もしくはD体)であってもよく、またはそれらの混合物であってもよい。好ましくは、式(1)~(6)で表される化合物は、L体である。
【0036】
本発明の保湿剤に含まれる化合物の調製は、N-アシル中性アミノ酸およびアルコールを反応させることにより適宜行うことができる。N-アシル中性アミノ酸およびアルコールの反応は、カルボン酸化合物およびアルコールからのエステルの生成のための一般的な方法により行うことができる。このような反応は、当該分野において周知である。例えば、反応は、触媒を適宜添加することにより行うことができる。反応はまた、適温(例、15~200℃)で数時間(例、0.5~8時間)行うことができる。より具体的には、本発明の保湿剤に含まれる化合物の調製は、後述する製造例Aの方法により行うことができる。本発明の化合物の調製はまた、特開平11-240828号に記載される方法においてN-アシル中性アミノ酸およびアルコールの種類を変更することを除き、特開平11-240828号に記載される方法と同様にして行われてもよい。本発明の保湿剤に含まれる化合物は、有機合成分野で用いられる任意の精製方法(例、抽出)により適宜精製することができる。
【0037】
本発明の保湿剤は、例えば、化粧料、医薬品および医薬部外品等の製品の開発に有用である。本発明の保湿剤は、上記式(1)で表される化合物および担体(例、化粧料、医薬または医薬部外品として許容され得る担体)を含む組成物の形態で提供されてもよい。この場合、本発明の保湿剤は、上述した成分に加えて、任意の作用(例、生物学的作用、または化学的作用)を有する1種または2種以上(例、2種、3種、4種)の有効成分をさらに含んでいてもよい。このような有効成分としては、例えば、低分子化合物が挙げられる。
【0038】
用語「低分子化合物」とは、分子量1500以下の化合物をいう。低分子化合物は、天然化合物または合成化合物である。低分子化合物の分子量は、1200以下、1000以下、900以下、800以下、700以下、600以下、500以下、400以下、または300以下であってもよい。低分子化合物の分子量はまた、30以上、40以上、または50以上であってもよい。低分子化合物としては、例えば、アミノ酸、オリゴペプチド、ビタミン、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、単糖、オリゴ糖、脂質、脂肪酸、およびそれらの代謝物、ならびにそれらの塩が挙げられる。
【0039】
塩としては、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、およびアミノ酸との塩が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸、硝酸との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、シュウ酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、アルカリ金属(例、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム)、および亜鉛、アルミニウム等の他の金属、ならびにアンモニウムとの塩が挙げられる。有機塩基との塩としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピレンジアミン、エチレンジアミン、ピリジン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンとの塩が挙げられる。アミノ酸との塩としては、例えば、塩基性アミノ酸(例、アルギニン、ヒスチジン、リジン、オルニチン)、および酸性アミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)との塩が挙げられる。
【0040】
本発明の保湿剤が組成物である場合に本発明の保湿剤にさらに含まれていてもよい低分子化合物は、別の保湿剤であってもよい。本発明の保湿剤が組成物である場合に本発明の保湿剤がさらに別の保湿剤を含む場合、より保湿作用を向上できることから、このような実施形態も好ましい。
【0041】
このような別の保湿剤としては、ピロリドンカルボン酸、3-アセチル-2-エトキシカルボニル-2-メチル-1,3-チアゾリジン-4-カルボン酸、アミノ酸(例、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒドロキシプロリン)、グリシルグリシン、アラニルグルタミン、ジペプチド-2(バリルトリプトファン)、ジペプチド-4(システニルグリシン)、ジペプチド-8(アラニルヒドロキシプロリン)、ジペプチド-9(グルタミルリジン)、ジペプチド-11(システニルリジン)、ジペプチド-17(グリシルプロリン)、ジペプチド-19(ロイシルグルタミン酸)、ならびにそれらの塩(例、上述した塩)が挙げられる。1種または2種以上の保湿剤を組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明の保湿剤が組成物である場合、本発明の保湿剤はまた、増粘剤、安定化剤、pH調整剤、保存剤、紫外線防止剤、香料、色素等の他の成分を含んでいてもよい。これらの成分の具体的な種類および量は、適宜設定することができる。
【0043】
増粘剤としては、例えば、カラギーナン、デキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)、(アクリル酸/アクリル酸アルキル(C10-30))コポリマー、キサンタンガムが挙げられる。
【0044】
安定化剤としては、例えば、アスコルビン酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTAが挙げられる。
【0045】
pH調製剤としては、例えば、上述したような水溶液(緩衝液)、塩酸等の酸性物質、水酸化ナトリウム等の塩基性物質が挙げられる。
【0046】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エチル、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、ソルビン酸、パラベン(例、メチルパラベン、プロピルパラベン)、亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0047】
紫外線防止剤としては、例えば、紫外線吸収剤(例、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オキシベンゾン-3)、および紫外線散乱剤(例、酸化チタン、酸化亜鉛)が挙げられる。
【0048】
香料としては、例えば、リモネン、シトラール、メントール、バラ油、ローズ油が挙げられる。
【0049】
色素としては、例えば、有機顔料(例、赤色201号等の赤色顔料、青色404号等の青色顔料、橙色203号等の橙色顔料、黄色205号等の黄色顔料、緑色3号等の緑色顔料、ジルコニウムレーキ等の有機レーキ顔料、クロロフィル等の天然色素)、および無機顔料(例、酸化チタン等の白色顔料、酸化鉄等の有色顔料、タルク等の体質顔料、マイカ等のパール顔料)が挙げられる。
【0050】
例えば、本発明の保湿剤は、被験体(例、ヒト等の哺乳動物、鳥類、爬虫類等の動物)の所望の部位(例、皮膚、毛髪、体毛、頭皮)に有効量(例、0.001mg~100g)を適用(例、塗布、投与)することにより、用いることができる。好ましくは、本発明の保湿剤は、ヒトに適用される。本発明の保湿剤が適用される被験体の状態は、健常な状態、または異常な状態(例、疾患)である。このような異常な状態としては、例えば、肌荒れ、皮膚の乾燥、鱗屑、ターンオーバーの乱れ、皮膚疾患(例、アトピー性皮膚炎等の皮膚炎)が挙げられる。
【0051】
本発明の保湿剤はまた、角層機能の改善に関連する上述の各種タンパク質をコードする遺伝子の発現を誘導する有効量の化合物を含むことができる。このような有効量は、遺伝子の発現を誘導できる量である限り特に限定されないが、遺伝子発現の誘導に十分な量が好ましい。このような十分な量は、例えば0.01~1000mMの濃度であってもよい。このような十分な量はまた、化合物の使用量を低減する観点から、500mM以下、100mM以下、50mM以下、10mM以下、5mM以下、または1mM以下であってもよい。
【0052】
本発明の保湿剤はまた、化粧料または外用剤であってもよい。本発明の化粧料または外用剤は、常法に従って、例えば所望の部位(例、皮膚、毛髪、頭皮)に適用可能な任意の形態の製剤とすることができる。
【0053】
本発明の保湿剤は、好ましくは、皮膚、毛髪、または頭皮に対する化粧料または外用剤として用いることができる。皮膚に対する化粧料または外用剤としては、例えば、乳液、化粧水、クリーム、ジェル、美容液、フェイスマスクが挙げられる。毛髪に対する化粧料または外用剤としては、例えば、毛髪用乳液、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、シャンプー、ヘアローションが挙げられる。頭皮に対する化粧料または外用剤としては、例えば、育毛剤が挙げられる。好ましい化粧料としては、例えば、リーブオン化粧料、乳液、化粧水、クリーム、ジェル、美容液、フェイスマスクが挙げられる。好ましい外用剤としては、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、ゲルが挙げられる。
【実施例
【0054】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の製造例において原料として用いたN-アシル中性アミノ酸は全てL体である。
【0055】
製造例A:アルコールおよびN-アシル中性アミノ酸からのN-アシル中性アミノ酸エステルの合成
エタノール(320mL、5.48mol)またはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)にN-アシル中性アミノ酸(0.14mol)を添加し、混合した。混合物にp-トルエンスルホン酸一水和物(5.3g、0.03mol)を添加し、アルコールが蒸発されないように還流管を付け、バス温125℃で3時間撹拌した。生成物を真空減圧により濃縮した後、生成物を酢酸エチル(600mL)で希釈し、飽和重曹水(240mL)で4回洗浄した。有機相をさらに超純水(480mL)で2回洗浄した。硫酸ナトリウムによって有機層から水を除去した。更に、酸ナトリウムをろ過して除去した後、有機層を真空減圧により濃縮して生成物(アシル中性アミノ酸エステル)を得た。
【0056】
製造例1:N-オクタノイルアラニンイソプロピルエステル(C8Ala-iPA)の製造
【0057】
【化3】
【0058】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルアラニン(C8Ala、30.00g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC8Val-iPAを得た(収率97%)。
【0059】
H-NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ6.077-6.093(1H,d,J=6.4Hz),5.015-5.078(1H,sep,J=6.4Hz),4.511-4.583(1H,quint,J=7.2Hz),2.184-2.222(2H,t,J=7.6Hz),1.599-1.669(2H,quint,J=7.2Hz),1.372-1.390(3H,d,J=7.2Hz)1.244-1.298(14H,m),0.859-0.892(3H,t,J=6.8Hz)ppm.
【0060】
ESI-MS(positive) m/z 258.2[M+H],280.1[M+Na]
【0061】
製造例2:N-オクタノイルバリンイソプロピルエステル(C8Val-iPA)の製造
【0062】
【化4】
【0063】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルバリン(C8Val、34.06g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って8時間反応されることによりC8Val-iPAを得た(収率93%)。
【0064】
H-NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ5.955-5.976(1H,d,J=8.4Hz),5.024-5.087(1H,sep,J=6.4Hz),4.528-4.561(1H,dd),2.216-2.254(2H,t,J=7.2Hz),2.135-2.182(1H,sex,J=6.8Hz),1.610-1.765(2H,quint,J=7.2Hz),1.256-1.314(14H,m),0.860-0.949(9H,m)ppm.
【0065】
ESI-MS(positive) m/z 286.2[M+H],308.1[M+Na]
【0066】
製造例3:N-オクタノイルグリシンイソプロピルエステル(C8Gly-iPA)の製造
【0067】
【化5】
【0068】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルグリシン(C8Gly、28.18g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC8Gly-iPAを得た(収率97%)。
【0069】
ESI-MS(positive) m/z 244.1[M+H],266.1[M+Na]
【0070】
製造例4:N-オクタノイルイソロイシンイソプロピルエステル(C8Ile-iPA)の製造
【0071】
【化6】
【0072】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルイソロイシン(C8Ile、36.03g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC8Ile-iPAを得た(収率71%)。
【0073】
ESI-MS(positive) m/z 300.2[M+H],322.2[M+Na]
【0074】
製造例5:N-オクタノイルロイシンイソプロピルエステル(C8Leu-iPA)の製造
【0075】
【化7】
【0076】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルロイシン(C8Leu、36.03g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC8Leu-iPAを得た(収率97%)。
【0077】
ESI-MS(positive) m/z 300.2[M+H],322.2[M+Na]
【0078】
製造例6:N-ラウロイルイソロイシンイソプロピルエステル(C12Ile-iPA)の製造
【0079】
【化8】
【0080】
N-アシルアミノ酸としてN-ラウロイルイソロイシン(C12Ile、43.89g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC12Ile-iPAを得た(収率85%)。
【0081】
ESI-MS(positive) m/z 356.3[M+H],378.2[M+Na]
【0082】
製造例7:N-オクタノイルアラニンエチルエステル(C8Ala-Et)の製造
【0083】
【化9】
【0084】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルアラニン(C8Ala、30.00g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC8Val-Etを得た(収率90%)。
【0085】
H-NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ6.063-6.078(1H,d,J=6.0Hz),4.552-4.624(1H,quint,J=7.2Hz),4.176-4.230(2H,q,J=7.2Hz),2.186-2.224(2H,t,J=7.6Hz),1.599-1.670(2H,quint,J=7.2Hz),1.389-1.407(3H,d,J=7.2Hz)1.267-1.302(11H,m),0.860-0.892(3H,m)ppm.
【0086】
ESI-MS(positive) m/z 244.2[M+H],266.1[M+Na]
【0087】
製造例8:N-オクタノイルバリンエチルエステル(C8Val-Et)の製造
【0088】
【化10】
【0089】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルバリン(C8Val、34.06g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って8時間反応させることによりC8Val-Etを得た(収率93%)。
【0090】
H-NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ5.952-5.973(1H,d,J=8.4Hz),4.557-4.591(1H,dd),4.159-4.241(2H,m),2.217-2.255(2H,t,J=7.2Hz),2.121-2.202(1H,sex,J=6.8Hz),1.610-1.681(2H,quint,J=7.2Hz),1.268-1.303(11H,m),0.860-0.952(9H,m)ppm.
【0091】
ESI-MS(positive) m/z 272.2[M+H],294.1[M+Na]
【0092】
製造例9:N-オクタノイルグリシンエチルエステル(C8Gly-Et)の製造
【0093】
【化11】
【0094】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルグリシン(C8Gly、28.18g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC8Gly-Etを得た(収率96%)。
【0095】
ESI-MS(positive) m/z 230.2[M+H],252.1[M+Na]
【0096】
製造例10:N-オクタノイルイソロイシンエチルエステル(C8Ile-Et)の製造
【0097】
【化12】
【0098】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルイソロイシン(C8Ile、36.03g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC8Ile-Etを得た(収率97%)。
【0099】
ESI-MS(positive) m/z 286.2[M+H],308.2[M+Na]
【0100】
製造例11:N-オクタノイルロイシンエチルエステル(C8Leu-Et)の製造
【0101】
【化13】
【0102】
N-アシルアミノ酸としてN-オクタノイルロイシン(C8Leu、36.03g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC8Gly-Etを得た(収率98%)。
【0103】
ESI-MS(positive) m/z 286.2[M+H],308.2[M+Na]
【0104】
製造例12:N-ラウロイルイソロイシンエチルエステル(C12Ile-Et)の製造
【0105】
【化14】
【0106】
N-アシルアミノ酸としてN-ラウロイルイソロイシン(C12Ile、43.89g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC12Ile-Etを得た(収率91%)。
【0107】
ESI-MS(positive) m/z 342.3[M+H],364.3[M+Na]
【0108】
製造例13:N-ラウロイルロイシンエチルエステル(C12Leu-Et)の製造
【0109】
【化15】
【0110】
N-アシルアミノ酸としてN-ラウロイルロイシン(C12Leu、43.89g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC12Leu-Etを得た(収率88%)。
【0111】
ESI-MS(positive) m/z 342.3[M+H],364.3[M+Na]
【0112】
製造例14:N-ラウロイルバリンエチルエステル(C12Val-Et)の製造
【0113】
【化16】
【0114】
N-アシルアミノ酸としてN-ラウロイルバリン(C12Val、41.92g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って8時間反応させることによりC12Val-Etを得た(収率87%)。
【0115】
ESI-MS(positive) m/z 328.3[M+H],350.2[M+Na]
【0116】
製造例15:N-デカノイルバリンイソプロピルエステル(C10Val-iPA)の製造
【0117】
【化17】
【0118】
N-アシルアミノ酸としてN-デカノイルバリン(C10Val、38g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC10Val-iPAを得た(収率98%)。
【0119】
ESI-MS(positive)m/z 314.5[M+H],336.4[M+Na]
【0120】
製造例16:N-デカノイルアラニンイソプロピルエステル(C10Ala-iPA)の製造
【0121】
【化18】
【0122】
N-アシルアミノ酸としてN-デカノイルアラニン(C10Ala、34.6g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC10Ala-iPAを得た(収率97%)。
【0123】
ESI-MS(positive)m/z 285.4[M+H],307.4[M+Na]
【0124】
製造例17:N-デカノイルロイシンイソプロピルエステル(C10Leu-iPA)の製造
【0125】
【化19】
【0126】
N-アシルアミノ酸としてN-デカノイルロイシン(C10Leu、39.9g、0.14mol)、アルコールとしてはイソプロピルアルコール(418mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って反応させることによりC10Leu-iPAを得た(収率97%)。
【0127】
ESI-MS(positive)m/z 328.5[M+H],350.3[M+Na]
【0128】
製造例18:N-ヘキサノイルバリンエチルエステル(C6Val-Et)の製造
【0129】
【化20】
【0130】
N-アシルアミノ酸としてN-ヘキサノイルバリン(C6Val、30.14g、0.14mol)、アルコールとしてはエタノール(320mL、5.48mol)を使用し、製造例Aの合成法に従って8時間反応させることによりC6Val-Etを得た(収率82%)。
【0131】
ESI-MS(positive) m/z 244.3[M+H],266.2[M+Na]
【0132】
参考製造例1~3:N-ラウリルバリンイソプロピルエステル(C12Val-iPA)、N-ラウリルアラニンイソプロピルエステル(C12Ala-iPA)、およびN-ラウリルアラニンエチルエステル(C12Ala-Et)の製造
N-ラウリルバリンイソプロピルエステル(C12Val-iPA)、N-ラウリルアラニンイソプロピルエステル(C12Ala-iPA)、およびN-ラウリルアラニンエチルエステル(C12Ala-Et)の製造は、特開平11-240828号公報の記載に従って行った。
【0133】
実施例1:アシル中性アミノ酸エステルの評価
(1)疎水性有機溶媒(油)との相溶性の評価
1gの各種サンプルを測り取り、5gの流動パラフィンに添加し、25℃で10分間撹拌して混合した。撹拌停止後、25℃で10分静置し、目視により各種サンプルおよび流動パラフィンの分離状態を確認し、下記の基準によって評価を行った。
とても好ましい(A):全く分離が確認されず透明な溶液
好ましい(B):ほとんど分離が確認されず透明な溶液
あまり好ましくない(C):局所的に分離し濁りが生じた
全く好ましくない:(D):明確に分離が起きた
【0134】
(2)親水性有機溶媒との相溶性の評価
0.5gの各種サンプルを測り取り、10gの1,3-ブチレングリコールに添加し、25℃で10分間撹拌して混合した。撹拌停止後、25℃で10分静置し、目視により各種サンプルおよび1,3-ブチレングリコールの分離状態を確認し、下記の基準によって評価を行った。
とても好ましい(A):全く分離が確認されず透明な溶液
好ましい(B):ほとんど分離が確認されず透明な溶液
あまり好ましくない(C):局所的に分離し濁りが生じた
全く好ましくない:(D):明確に分離が起きた
【0135】
(3)性状評価
各化合物を4℃に一日冷却した後、室温(25℃)で3日間放置した。3日後、各化合物の性状を室温(25℃)で確認した。
好ましい(A):性状が室温(25℃)で液状である。したがって、加熱せずに他の液状成分と室温で混ぜるだけで処方を作製することが容易である。
好ましくない(B):性状が室温(25℃)で固形または結晶形であり、加熱せずに他の液状成分と室温で混ぜるだけで処方を作製することが困難である。
【0136】
【表1】
【0137】
その結果、アシル中性アミノ酸エステルは、疎水性有機溶媒(油)および親水性有機溶媒と安定的に配合することができた(表1)。したがって、アシル中性アミノ酸エステルは、製造・使用の面において優れることが示された。
アシル中性アミノ酸エステルはまた、処方の作製を容易にした(表1)。したがって、アシル中性アミノ酸エステルは、ハンドリング性に優れることが示された。
【0138】
実施例2:アシル中性アミノ酸エステルのエステラーゼによる加水分解の評価
5mgのアシル中性アミノ酸エステルを1xPBSバッファーに添加し、Triton-X100(Aldrich社製)を2.15μl(0.2wt%)添加した後超音波照射によって均一に混合した。混合物にエステラーゼ(Esterase from porcine liver、Sigma-Aldrich社製)のバッファー溶液をアシルアミノ酸1分子対してエステラーゼが5Unitになるように添加し、撹拌して混合した。この混合物を30℃に加温した振とう機において24時間振とう・撹拌し反応させた。反応物を12000xgの遠心分離器によって遠心し、上澄みを高速液体クロマトグラフィー(島津社製)に分析した。コントロールとしてはエステラーゼ溶液の代わりにバッファーのみを添加した。使用したエステラーゼ(Esterase from porcine liver)は、ヒト皮膚中に存在するエステラーゼ酵素のモデルとして使用した〔Bonina,F.P.et al.,Eur.J.Pharm.Sci.14,123-134(2001);Wong,O.et al.,Int.J.Pharm.,52,191-202(1989);Vavrova K.et al.,J.Control Release.104,41-49(2005)〕。
【0139】
アシル中性アミノ酸エステルのエステル結合がエステラーゼによって加水分解されると、HPLCクロマトグラム上では、アシル中性アミノ酸エステルのピーク面積が減少し、アシル中性アミノ酸と同一溶出時間に新しいピークが確認される。このピークの出現によってアシル中性アミノ酸エステルがエステラーゼによって加水分解され、アシル中性アミノ酸が生成されたと結論付けることができる。
【0140】
試験物質としては、製造例1~18、および参考製造例1~3により製造した化合物を用いた。
【0141】
エステラーゼの存在下では、C6Val-Et、C8Ala-iPA、C8Val-iPA、C8Gly-iPA、C8Ile-iPA、C8Leu-iPA、C8Ala-Et、C8Val-Et、C8Gly-Et、C8Ile-Et、C8Leu-Et、C12Ile-Et、C10Ala-iPA、C10Val-iPA、C10Leu-iPA、C12Ala-Et、C12Ala-iPA、C12Val-Et、C12Val-iPA、C12Ile-iPA、C12Leu-Etのすべてが加水分解され、C6Val、C8Ala、C8Val、C8Gly、C8Ile、C8Leu、C10Ala、C10Val、C10Leu、C12Ala、C12Val、C12Ile、C12Leuが生成された。
【0142】
実施例3~7および比較例2~3:オクタノイル中性アミノ酸による保湿関連タンパク質等の遺伝子の増幅量の比較
ヒト正常表皮角化細胞NHEK(NB)(クラボウ社製)をHuMedia-KG2(クラボウ社製)で前培養し、30x10細胞/mLの濃度となるよう調整し、調整後の培養液2mL(すなわち、60x10細胞/well)を6wellプレートに添加して37℃で1日培養した。サンプル(オクタノイルバリン(実施例3:C8Val)、オクタノイルアラニン(実施例4:C8Ala)、オクタノイルロイシン(実施例5:C8Leu)、オクタノイルイソロイシン(実施例6:C8Ile)、オクタノイルグリシン(実施例7:C8Gly)、グリシルプロリン(比較例2:Gly-Pro)、およびバリン(比較例3:Val))を各図に示す濃度となるように添加し、48時間反応させた。反応後、細胞より全RNAを抽出し、逆転写を行い、リアルタイムPCRにて標的遺伝子(フィラグリン、インボルクリン、卜ランスグルタミナーゼ(TG)1、ケラチン10、およびロリクリン)の増幅量を測定し(n=2)、コントロール(無添加)の増幅量と比較した。補正遺伝子としてGAPDHを用いた。計算は比較CT法を用い、プライマーおよびプロ一ブはTaqMan(登録商標) Gene Expressionを用い、蛍光色素はFAMを用いた。結果を図1~2に示す。
【0143】
図1~2から明らかなとおり、実施例3~7の各標的遺伝子の増幅量は、比較例2および3と比べて高かった。これらの結果は、アシル中性アミノ酸が保湿関連タンパク質の産生を促進できることを示している。
【0144】
実施例8~13:アシルバリンによる保湿関連タンパク質等の遺伝子の増幅量の比較
サンプルとして、ブタノイルバリン(実施例8:C4Val)、ヘキサノイルバリン(実施例9:C6Val)、オクタノイルバリン(実施例10:C8Val)、デカノイルバリン(実施例11:C10Val)、ラウロイルバリン(実施例12:C12Val)およびアセチルバリン(実施例13:C2Val)を用いたこと、および、標的遺伝子をフィラグリン、インボルクリン、および卜ランスグルタミナーゼ(TG)1としたことのほかは、実施例3と同様に行った。結果を図3に示す。
【0145】
図3から明らかなとおり、実施例8~13のいずれにおいても、各標的遺伝子の増幅量がコントロールと比較して高かった。これらの結果は、炭素原子数2~12のアシル基を有するアシル中性アミノ酸またはその塩は、アシル基の種類に拘らず保湿関連タンパク質の産生を促進できることを示している。
【0146】
実施例14~24:アシルバリンまたはアシルアラニンによるフィラグリン遺伝子増幅量の比較
ヒト正常表皮角化細胞NHEK(NB)(クラボウ社製)をHuMedia-KG2(クラボウ社製)で前培養し、15x10細胞/mLの濃度となるよう調整し、調整後の培養液2mL(すなわち、30x10細胞/well)を6wellプレートに添加して37℃で1日培養した。サンプル(ラウロイルバリン(実施例14:C12Val)、デカノイルバリン(実施例15:C10Val)、オクタノイルバリン(実施例16:C8Val)、ヘキサノイルバリン(実施例17:C6Val)、ブタノイルバリン(実施例18:C4Val)、アセチルバリン(実施例19:C2Val)、ラウロイルアラニン(実施例20:C12Ala)、デカノイルアラニン(実施例21:C10Ala)、オクタノイルアラニン(実施例22:C8Ala)、ヘキサノイルアラニン(実施例23:C6Ala)、ブタノイルアラニン(実施例24:C4Ala))を各図に示す濃度となるように添加し、24時間反応させた。反応後、細胞より全RNAを抽出し、逆転写を行い、リアルタイムPCRにて標的遺伝子(フィラグリン)の増幅量を測定し(n=2)、コントロール(無添加)の増幅量を100%とし、この値と比較した。補正遺伝子としてGAPDHを用いた。計算は比較CT法を用い、プライマーおよびプロ一ブはTaqMan(登録商標) Gene Expressionを用い、蛍光色素はFAMを用いた。
【0147】
増幅量に応じて、以下の評価を行った。結果を表2~3および図4~5に示す。
とても好ましい(A):200%以上
好ましい(B):100%以上200%未満
あまり好ましくない(C):50%以上100%未満
全く好ましくない(D):50%未満
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
以上の実施例2~24の結果(表2、3、図1~8)を考慮すると、アシル中性アミノ酸エステルは、フィラグリン等の保湿関連タンパク質の発現促進作用を向上させることができたことから、角層内部で水分を保持する保湿能を改善することができると考えられる。また、アシル中性アミノ酸エステルは肌のバリア能と関連するタンパク質の発現促進作用を向上させることができたことから、外来物の侵入を抑制するバリア能の改善することができると考えられる。また、これらの結果に加えて実施例1(表1)の結果も考慮すると、アシル中性アミノ酸エステルは、ハンドリング性に優れ、角層内部での作用により十分に角質機能改善能を示すことができると考えられる。
【0151】
実施例25~31:アシルバリンとアシルバリンエステルの細胞毒性の比較
ヒト正常表皮角化細胞NHEK(NB)(クラボウ社製)をHuMedia-KG2(クラボウ社製)で前培養し、15x10細胞/mLの濃度となるよう調整し、調整後の培養液2mL(すなわち、30x10細胞/well)を6wellプレートに添加して37℃で1日培養した。サンプル(ラウロイルバリン(比較例4:C12Val)、デカノイルバリン(実施例25:C10Val)、オクタノイルバリン(実施例26:C8Val)、ヘキサノイルバリン(実施例27:C6Val)、ブタノイルバリン(実施例28:C4Val)、アセチルバリン(実施例29:C2Val)、ラウロイルバリン-iPA(実施例30:C12Val-iPA)、ラウロイルバリン-Et(実施例31:C12Val-Et)を各図に示す濃度となるように添加し、24時間反応させた。その後、培地を捨ててNeutral Red溶液2mL/wellに置換し、さらに2時間培養した。Neutral Red溶液はNeutral Red(クラボウ社)をHuMedia-KG2培地/生理食塩水(2:1)混合溶液で1/100に希釈したものを使用した。Neutral Red溶液で染色した細胞は、PBS(-)で一回洗浄した後、1%CaCl/1%ホルマリン溶液1.5mL/wellで1分固定し、1%酢酸/50%エタノール溶液1.5mL/wellを添加して室温で20分抽出を行い、プレートリーダーで吸光度540/630nmを測定した。
【0152】
細胞生存率に応じて、以下の評価を行った。結果を表4および図6に示す。
とても好ましい(A):95%以上
好ましい(B):75%以上95%未満
あまり好ましくない(C):50%以上75%未満
全く好ましくない(D):50%未満
【0153】
【表4】
【0154】
実施例14~24の結果は、各アシル中性アミノ酸がフィラグリン遺伝子を増幅することができることを示す。また、実施例25~31、比較例4の結果は、実施例25~31の各アシル中性アミノ酸およびアシル中性アミノ酸エステルの細胞毒性が低いのに対し、比較例4のアシル中性アミノ酸の細胞毒性が高いことを示す。興味深いことに、アシル鎖長が長いN-アシルアミノ酸エステルは、同じくアシル鎖長が長いN-アシル-アミノ酸と異なり、細胞毒性が認められなかった。以上の細胞毒性の評価をまとめると、アシル中性アミノ酸エステルはアシル中性アミノ酸よりも好ましいことが理解できる。
【0155】
実施例32:アシル中性アミノ酸エステルと親水性有機溶媒の相溶性試験
表5に記載の成分を、1.5mLエッペンドルフチューブに秤量し、ボルテックスミキサー(Scientific Industries Vortex Genie 2)による撹拌と、手を用いてサンプルを上下に激しく振とうすることにより均一撹拌し、撹拌後の様子を目視観察した。判断基準は、均一に透明溶解するものをA、油滴が分散し散乱光が確認できるものをBとした。評価は、25℃、-5℃、および45℃で一日保存した条件下で行った。
【0156】
【表5-1】
【0157】
【表5-2】
【0158】
その結果、アシル中性アミノ酸エステルは、有効量の濃度範囲内において親水性有機溶媒に対して溶状安定性が高かった(表5-1、5-2)。したがって、アシル中性アミノ酸エステルは、乳化剤を使用せずとも、有効量の濃度範囲内において親水性有機溶媒と安定的に配合できることが示された。
【0159】
実施例33:アシル中性アミノ酸エステルと親水性有機溶媒の馴染み改善試験
上記相溶性試験に用いたサンプルを使い評価した(表6)。ポリスポイトを用いて、スライドガラス上に、サンプルを1滴、滴下し、5分間静置後のサンプルの広がりを、定規を用いて測定した。サンプルの広がりが大きい程、塗布時に馴染みやすいと考えられ、実使用上好ましい。アシル中性アミノ酸エステルまたは油剤を添加した多価アルコールの測定値をa、多価アルコールのみの測定値をbとして、次式により広がり度を評価した。広がり度は4段階評価を行った。
【0160】
広がり度:(a/b)x100
A:150%以上
B:130%以上150%未満
C:100%以上130%未満
D:100%未満
【0161】
【表6】
【0162】
その結果、アシル中性アミノ酸エステルは、親水性有機溶媒との馴染みを改善することができた(表6)。したがって、アシル中性アミノ酸エステルは、親水性有機溶媒との配合により、処方の濡れ性が良くなり、肌馴染みを改善できることが示された。
【0163】
実施例34:オクタノイルバリン(C8Val)によるプロフィラグリン産生率の向上
まず、ヒト正常表皮角化細胞NHEK(NB)(クラボウ社製)をHuMedia-KG2(クラボウ社製)にて37℃、5%CO2、飽和水蒸気下で培養した。コンフルエント状態になった細胞を、6ウェルプレートに15×10(細胞/ウェル)で播種した。37℃で1日培養後、100μMのオクタイノイルバリン(C8Val)と1.3mMのCaClを添加したHuMedia-KG2培地に交換し、1~2日毎に同様の培地交換を行い、6日間培養した。培養後、培地を取り除き、冷PBS(-)にて2回洗浄し、プロテアーゼインヒビターとフォスファターゼインヒビター(EzRIPA Lysis(ATTO社製))を添加した抽出液(M-PER(Thermo Fisher Scientific社製))を200μL/ウェルで各ウェルに添加し、振とう機(TAITEC社製)にて200rpmで5分間振とうさせた。スクレーパーで細胞をかき集め、沈殿物を含めた液体全量に200μLの変性剤(EzApply(ATTO社製))を添加後、振とう機(Bioer Technology社製)にて1100rpm、100℃で5分間、加熱振とうした。得られた溶液を遠心分離機(トミー精工社製)10000Gにて4℃で10分間遠心処理し、上澄みをウェスタンブロット用サンプルとした。
【0164】
つぎに、ゲル1レーンあたり各ウェスタンブロット用サンプル20μL(プロフィラグリン)、または(1)で調製したウェスタンブロット用サンプルを50倍希釈した溶液5μL(GAPDH)をe-PAGEL 7.5%(ATTO社製)にアプライし、電気泳動装置(ATTO社製)にて21mAの定電流で1時間泳動した。電気泳動後のゲルからPVDF膜に転写し、TBS-T(ATTO社製)にて洗浄後、EzBlock BSA(ATTO社製)を用いてブロッキングした。次に、1次抗体液(Anti Filaggrin (AKH1)抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)(プロフィラグリン)、Anti GAPDH(6C5)抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)(GAPDH))にて抗原抗体反応を行った。2次抗体(Anti-IgG(H+L),Mouse,Goat-poly,HRP(KPL社製))にて標識化し、化学発光法によりイメージアナライザー(Amersham社製)でバンド強度(250-400kDa(プロフィラグリン),37kDa(GAPDH))を数値化した(n=2)。プロフィラグリンの発現量はGAPDHの発現量にて規格化し、コントロール(オクタイノイルバリン(C8Val)無添加)の産生量を100%として比較した。
【0165】
得られた結果を以下のとおり評価した。結果を表7に示す。
とても好ましい(A):250%以上
好ましい(B):150%以上250%未満
あまり好ましくない(C):100%以上150%未満
全く好ましくない(D):100%未満
【0166】
【表7】
【0167】
以上より、オクタノイルバリン(C8Val)がプロフィラグリンタンパク質の産生を向上させることが明らかとなった。
【0168】
実施例35:アシル中性アミノ酸エステルの分配係数の評価
アシル中性アミノ酸エステルの分配係数(LogP)の値をChemSketch(Advanced Chemistry Development,Inc.,(ACD/Labs)社製)という化学構造式用計算ソフトを用いて計算した。
【0169】
【表8】
【0170】
表8からはC6Ala-iPA、C6Val-Et、C6Ile-Et等のアシル中性アミノ酸エステルのLogP値が1~4の範囲内であり、より経皮吸収性に優れている性質を持っていることが理解できる(Schneider,M.et al.,Dermatoendocrinol.,1,197-206(2009))。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の保湿剤は、例えば、化粧料、医薬品および医薬部外品等の製品の開発のために、ならびに化粧料、医薬品および医薬部外品等の製品として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8