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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
G03G15/20 505
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018042889
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019159000
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】川口 弘達
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-252301(JP,A)
【文献】特開2017-227664(JP,A)
【文献】特開平02-157881(JP,A)
【文献】特開2001-223063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向を長手方向とする円筒状に形成された無端の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する矩形板状の面状ヒーターと、
前記面状ヒーターを前記定着ベルトの内周面に接触するように保持する第1凹部と、前記第1凹部の底部において前記面状ヒーターにおける前記定着ベルトと反対側の面との間に空隙を形成する第2凹部と、を有するホルダーと、
前記面状ヒーターとの間に前記定着ベルトを挟持し、前記定着ベルトとの間に、用紙が所定の搬送方向に挟持搬送される加圧領域を形成する加圧ローラーと、を備え、
前記面状ヒーターは、
基材の一面に積層された断熱層と、
前記断熱層に積層された発熱接触部と、を備え、
前記発熱接触部は、
用紙サイズに応じた範囲に前記軸方向に一列に配置された複数の発熱部と、
それぞれの前記発熱部の前記搬送方向の上流側の端部に接続された複数の電極部と、を備え、
前記空隙が、前記面状ヒーターにおける前記定着ベルトと反対側の面の前記発熱部に対応する範囲を包含する範囲に形成され、
前記第2凹部の前記面状ヒーターと対向する部位が平面状に形成され、
前記搬送方向において、前記空隙は上流端側ほど厚みが大きくなる楔形の形状であり、
前記上流端は、流端よりも前記加圧領域の前記搬送方向における中央部に近いことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記発熱部は、小サイズの用紙に対応する範囲に設けられる第1発熱部と、中サイズの用紙に対応する範囲で前記第1発熱部が設けられていない範囲に設けられる第2発熱部と、大サイズの用紙に対応する範囲で前記第1発熱部及び前記第2発熱部が設けられていない範囲に設けられる第3発熱部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記発熱部の各々は、前記軸方向に一列に配置された複数の抵抗発熱体を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記用紙にトナー像を形成する画像形成部と、
前記トナー像を前記用紙に定着する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の定着装置と、を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙にトナー像を定着させる定着装置及びこの定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定着装置の定着ベルトを加熱する方式の一つとして、面状ヒーターを用いた方式が知られている。一例を示すと、可撓性を有する無端の定着ベルトが、面状ヒーターと加圧ローラーとで挟持され、定着ベルトと加圧ローラーとの間に形成される加圧領域における摩擦力によって回転させられる。トナー像が転写された用紙は、加熱された定着ベルトと加圧ローラーとに挟持されて搬送され、トナー像が用紙に定着される。
【0003】
従来、面状ヒーターを用いた加熱方式に関して、エネルギー効率に優れ、光沢度の高い画像をムラなく出力する技術の検討が行われている。例えば、特許文献1に記載された定着装置は、定着ニップ部(加圧領域)の入口から圧力が増加し続けて、板状加熱体(面状ヒーター)ならびに加熱体ホルダーからなる摺動面の記録材移動方向下流側端部で圧力が最大値に達するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-49839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された構成では、摺動面の記録材移動方向下流側端部で定着ベルト内面の摩耗が助長されるため、摩耗粉が潤滑剤に混入して摺動性が低下するおそれがある。また、加圧領域の出口で急激に加圧ローラーの外径が変動するため、用紙にシワが発生するなどして搬送性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮し、面状ヒーターを用いて定着ベルトを加熱する方式を用いて、エネルギー効率、低温定着性、耐ホットオフセット性に優れ、定着可能温度領域が広く、高光沢な画像が得られる定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る定着装置は、無端の定着ベルトと、前記定着ベルトを加熱する面状ヒーターと、前記面状ヒーターを前記定着ベルトの内周面に接触するように保持し、前記面状ヒーターにおける前記定着ベルトと反対側の面との間に空隙を形成する凹部を有するホルダーと、前記面状ヒーターとの間に前記定着ベルトを挟持し、前記定着ベルトとの間に、用紙が挟持搬送される加圧領域を形成する加圧ローラーと、を備え、前記用紙の搬送方向において、第1の位置における前記空隙の厚みが、前記第1の位置よりも下流側の第2の位置における前記空隙の厚みよりも大きいことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る定着装置において、前記面状ヒーターは、発熱体を備え、前記用紙の搬送方向において、前記空隙が、前記面状ヒーターにおける前記定着ベルトと反対側の面の前記発熱体に対応する範囲を包含する範囲に形成されていることを特徴としても良い。
【0009】
本発明に係る定着装置において、前記搬送方向において、前記空隙の上流側の端部が、前記発熱体に対応する範囲の上流側の端部よりも上流側に位置することを特徴としても良い。
【0010】
本発明に係る定着装置において、前記搬送方向において、前記空隙の下流側の端部が、前記発熱体に対応する範囲の下流側の端部よりも下流側に位置することを特徴としても良い。
【0011】
また、本発明に係る画像形成装置は、前記用紙にトナー像を形成する画像形成部と、
前記トナー像を前記用紙に定着する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の定着装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、面状ヒーターを用いて定着ベルトを加熱する方式を用いて、エネルギー効率、低温定着性、耐ホットオフセット性に優れ、定着可能温度領域が広く、高光沢な画像が得られる定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの内部構成を模式的に示す正面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る定着装置のホルダー付近を示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る面状ヒーターの断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る面状ヒーターの断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係るヒーター表面温度を示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係るトナー温度を示すグラフである。
図8】本発明の一実施形態に係る定着ベルト表面温度を示す表である。
図9】本発明の一実施形態に係る定着装置のホルダー付近を示す断面図である。
図10】本発明の一実施形態に係る定着装置のホルダー付近を示す断面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る定着装置のホルダー付近を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の画像形成装置及び定着装置について説明する。
【0015】
まず、図1を用いて、画像形成装置としてのプリンターの全体の構成について説明する。図1はプリンター1の内部構成を模式的に示す正面図である。以下、図1における紙面手前側をプリンター1の正面側(前側)とし、左右の向きはプリンター1を正面から見た方向を基準として説明する。各図において、U、Lo、L、R、Fr、Rrは、それぞれ上、下、左、右、前、後を示す。
【0016】
プリンター1の装置本体2には、用紙Sが収容される給紙カセット3と、給紙カセット3から用紙Sを送り出す給紙装置5と、用紙Sにトナー像を形成する画像形成部7と、トナー像を用紙Sに定着する定着装置9と、用紙Sを排紙する排紙装置11と、排紙された用紙Sが受け止められる排紙トレイ13と、が備えられている。さらに、装置本体2には、給紙装置5から、画像形成部7と定着装置9とを通って排紙装置11に向かう用紙Sの搬送経路15が形成されている。
【0017】
給紙装置5によって給紙カセット3から給紙された用紙Sは、搬送経路15に沿って画像形成部7に搬送され、用紙Sにトナー像が形成される。用紙Sは搬送経路15に沿って定着装置9に送られ、トナー像が用紙Sに定着される。トナー像が定着された用紙Sは排紙装置11から排紙トレイ13に排出される。
【0018】
次に、定着装置9について、図面を参照して説明する。図2は定着装置9の断面図、図3はホルダー25付近の断面図、図4及び図5は面状ヒーターの断面図である。なお、図4図5に示されるV-V断面の図、図5図4に示されるIV-IV断面の図である。
【0019】
図2に示されるように、定着装置9は、定着ベルト21と、定着ベルト21を加熱する面状ヒーター23と、面状ヒーター23を保持するホルダー25と、定着ベルト21との間に加圧領域Nを形成する加圧ローラー27と、を備えている。以下の説明において、「軸方向X」とは、加圧ローラー27の軸方向(Fr-Rr方向)を指す。
【0020】
定着ベルト21は、所定の内径を有し、用紙Sの幅よりも長い幅を有する無端ベルトであり、軸方向Xを長手方向とする円筒状に形成されている。定着ベルト21は、可撓性を有する材料で形成され、基材層と、基材層の外周面に設けられる弾性層と、弾性層の外周面に設けられる離型層と、を有している。基材層は、ステンレス鋼やニッケル合金等の金属で形成される。弾性層は、シリコンゴム等で形成される。離型層は、PFAチューブ等で形成される。基材層の内周面に摺動層が形成される場合もある。摺動層は、ポリイミドアミドやPTFE等で形成される。
【0021】
定着ベルト21の中空部には、ステー24が貫通しており、ステー24の両端はハウジング(図示省略)に固定されている。ステー24は、加圧ローラー27側が開口した溝形の部材であり、ステンレス鋼やアルミニウム合金等の金属で形成される。定着ベルト21は、ステー24に支持された円弧状のベルトガイド(図示省略)に支持され、ベルトガイドに沿って回転可能である。
【0022】
図4図5に示されるように、面状ヒーター23は、軸方向Xを長手方向とする概ね矩形の板状に形成されている。面状ヒーター23は、基材30と、断熱層31と、発熱接触部32と、を含み、各部は、基材30、断熱層31、発熱接触部32の順に積層されている。
【0023】
基材30は、例えば、セラミックス等の電気絶縁性を有する材料により、軸方向Xを長手方向とする概ね矩形の板状に形成されている。
【0024】
図5に示されるように、断熱層31は、基材30の一面上に積層されている。断熱層31は、例えば、セラミックス、ガラス等の、電気絶縁性を有すると共に熱伝導率の低い材料により、基材30上に形成されている。断熱層31は、発熱接触部32で発生した熱が基材30側に伝達することを抑制する。
【0025】
発熱接触部32は、断熱層31の一面上に積層されている。発熱接触部32は、複数(例えば5つ)の発熱部41乃至45と、複数(例えば6つ)の電極部51乃至56と、コート層60と、を含む。
【0026】
複数の発熱部41乃至45は、例えば、電極部51乃至56よりも抵抗値の高い金属等の導電性を有する材料により、断熱層31の一面上に形成されている。図4に示されるように、複数の発熱部41乃至45は、軸方向Xに一列に配置されている。また、複数の発熱部41乃至45の各々は、軸方向Xに一列に配置された複数の抵抗発熱体40(発熱体の一例)を有する。
【0027】
発熱部41は、小サイズ(例えばJIS A5サイズ)の用紙Sの長辺の長さに対応する範囲に設けられる。発熱部42、43は、中サイズ(例えばJIS B5サイズ)の用紙Sの長辺の長さに対応する範囲のうち、発熱部41が設けられていない範囲に設けられる。発熱部44、45は、大サイズ(例えばJIS A4サイズ)の用紙Sの長辺の長さに対応する範囲のうち、発熱部41、42、43が設けられていない範囲に設けられる。
【0028】
複数の電極部51乃至56は、例えば、抵抗発熱体40よりも抵抗値の低い金属等の導電性を有する材料により、断熱層31の一面上に形成されている。電極部51は、発熱部41に含まれる複数の抵抗発熱体40の搬送方向Y上流側の端部に接続されている。同様に、電極部52乃至55は、それぞれ、発熱部42乃至45に含まれる複数の抵抗発熱体40の搬送方向Y上流側の端部に接続されている。一方、電極部56は、全ての抵抗発熱体40の搬送方向Y下流側の端部に接続されている。各々の電極部51乃至56は、発熱部41乃至45よりも軸方向Xの外側の位置まで延伸され、その先端部に電極端末部51A乃至56Aを有する。
【0029】
図5に示されるように、コート層60は、発熱部41乃至45及び電極部51乃至56を被覆している。コート層60は、例えば、セラミックス等の電気絶縁性を有すると共に定着ベルト21に対する滑り摩擦力の小さな材料で形成されている。コート層60は、定着ベルト21の内面に接触する面を構成している。なお、発熱部41乃至45や電極部51乃至56が積層されない部分には、断熱層31やコート層60等の電気絶縁性を有する材料が積層されている。
【0030】
ホルダー25は、定着ベルト21の幅と同等の長さを有する部材であり、ステー24に固定されている。ホルダー25は、例えば、液晶ポリマー等の耐熱性の樹脂で形成されている。
【0031】
図3に示されるように、ホルダー25における加圧ローラー27に対向する部位には、軸方向Xに延伸する第1凹部251が形成されている。面状ヒーター23は、発熱接触部32が露出するように、第1凹部251に嵌め込まれている。ホルダー25は、面状ヒーター23を定着ベルト21の内周面に接触するように保持する。ホルダー25は、定着ベルト21の曲率よりもやや大きい曲率の湾曲部253を有し、湾曲部253と面状ヒーター23とにより、定着ベルト21の内周面に沿う滑らかな面が形成される。
【0032】
図3に示されるように、ホルダー25の第1凹部251の底部には、軸方向Xに延伸する第2凹部252が形成されている。第2凹部252は、第1凹部251に嵌め込まれた面状ヒーター23における定着ベルト21と反対側の面との間に空隙Gを形成する凹部の一例である。用紙Sの搬送方向Yにおいて、第1の位置における空隙Gの厚み(図3におけるU-Lo方向の寸法)は、第1の位置よりも下流側の第2の位置における空隙Gの厚みよりも大きい。例えば、図3の例では、第2凹部252における面状ヒーター23と対向する部位(以下、対向部位252aという。)が平面状に形成されており、対向部位252aと面状ヒーター23との距離が、搬送方向Yの上流側ほど長くなる。従って、空隙Gは、搬送方向Yの上流側ほど厚みが大きい楔型の形状となっている。
【0033】
用紙Sの搬送方向Yにおいて、空隙Gは、面状ヒーター23における定着ベルト21と反対側の面の抵抗発熱体40に対応する範囲を包含する範囲に形成されている。具体的には、図3に示されるように、搬送方向Yにおいて、空隙Gが形成された範囲AGは、抵抗発熱体40に対応する範囲A40を包含する。より具体的には、搬送方向Yにおいて、空隙G上流側の端部は、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の上流側の端部よりも上流側に位置し、且つ、空隙Gの下流側の端部は、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の下流側の端部よりも下流側に位置する。
【0034】
加圧ローラー27は、芯金と、芯金の外周面に設けられる弾性層と、弾性層の外周面に設けられる離型層と、を有している。弾性層は、シリコンゴム等で形成される。離型層は、PFAチューブ等で形成される。加圧ローラー27は、定着ベルト21を介して、面状ヒーター23に押し当てられるように支持される。すなわち、加圧ローラー27は、面状ヒーター23との間に定着ベルト21を挟持し、定着ベルト21との間に加圧領域Nを形成する。加圧ローラー27は、モーター28により駆動される。
【0035】
上記構成を有する定着装置9の定着動作を説明する。まず、加圧ローラー27が駆動されて回転し、定着ベルト21が加圧ローラー27の回転方向と反対の方向に従動回転する。同時に、面状ヒーター23が駆動されて定着ベルト21を加熱する。定着ベルト21は、所定の制御温度(例えば、160℃)となるまで加熱される。このように定着ベルト21が加熱された後、トナー像が転写された用紙Sが、加圧領域Nに搬送される。加圧領域Nにおいて、用紙Sは定着ベルト21と加圧ローラー27とに挟持されて決められた搬送方向Yに搬送される。このとき、定着ベルト21によって用紙Sが加熱されると共に加圧ローラー27と定着ベルト21とによって加圧されて、トナー像が用紙Sに定着される。トナー像が定着された用紙Sは、定着ベルト21から分離されて、搬送経路15に沿って搬送される。
【0036】
次に、実施形態の効果について、実験結果を用いて説明する。上記の構成を有する定着装置を搭載した画像形成装置を用いて、下記の条件にて定着動作を行った際の、ヒーター表面温度とトナー温度を計測した。
搬送方向Yにおける面状ヒーター23の長さ:13mm、
搬送方向Yにおける抵抗発熱体40の長さ:6mm、
搬送方向Yにおける加圧領域Nの長さ:10mm、
面状ヒーター23の厚み:1mm
搬送方向Yにおける空隙Gの長さ:6mm
空隙Gの厚み(図3における上流端の厚みT):1mm、
定着動作に必要な加圧領域Nの荷重:120MPa、
線速:250mm/sec、
加圧時間:40msec。
【0037】
図6はヒーター表面温度を示すグラフである。グラフの横軸は、抵抗発熱体40の上流端(抵抗発熱体40の搬送方向Y上流側の端部)からの距離、縦軸は、ヒーター表面温度である。上記の空隙Gを備える場合のヒーター表面温度が実線で示され、空隙Gを備えない場合のヒーター表面温度が破線で示されている。この2例の定着ベルト表面温度はともに150℃に制御されている。空隙Gを備える場合は、空隙Gを備えない場合と比べて上流側のヒーター温度が高くなることがわかる。このことは、空隙Gの断熱効果、すなわち空隙Gにより抵抗発熱体40からホルダー25への熱伝導が抑制される効果を示している。また、上流側ほど空隙Gの厚みが大きいために、上流側ほど断熱効果が大きいことを示している。
【0038】
図7はトナー温度を示すグラフである。グラフの横軸は、抵抗発熱体40の上流端(抵抗発熱体40の搬送方向Y上流側の端部)からの距離、縦軸は、トナー温度である。上記の空隙Gを備える場合のトナー温度が実線で示され、空隙Gを備えない場合のトナー温度が破線で示されている。この2例の定着ベルト表面温度はともに150℃に制御されている。空隙Gを備える場合は、空隙Gを備えない場合と比べて加圧領域上流側のトナー温度が高くなることがわかる。このことは、上流側ほど空隙Gの断熱効果が大きいことにより、上流側におけるトナーの加熱効率が高まったことを示している。また、下流側では抵抗発熱体の下流端に近づくにつれてこの2例のトナー温度の差が縮まるため、耐ホットオフセット性は同等である。
【0039】
また、図7には、空隙Gを備えず定着ベルト温度を170℃に制御した場合のトナー温度が一点鎖線で示されている。空隙Gを備える場合、定着ベルト表面温度が150℃であっても、上流側では、空隙Gを備えず定着ベルト表面温度が170℃の場合と同等のトナー温度になることがわかる。このことは、空隙Gの断熱効果により、定着ベルト表面温度が150℃であっても、上流側では、定着ベルト表面温度が170℃の場合と同等の加熱効率が得られることを示している。
【0040】
図8は、空隙Gの厚みに対する定着ベルト表面温度等の関係を示す実験結果である。同表に示される実施例2は、上記の空隙G(上流端の厚み1mm)を備える場合の実験結果であり、実施例1は、空隙Gの上流端の厚みを0.5mmに変更した実験結果である。比較例は、空隙Gがない場合の実験結果である。
【0041】
図8に示される電力は、抵抗発熱体40の電力消費量である。最低定着温度は、トナーの定着が可能な定着ベルトの表面温度の最低値である。すなわち、図8に示される実験結果は、複数とおりの電力値でトナーの定着状況を検査し、良好な定着が得られる電力の最低値とそれに対応する定着ベルト表面温度(最低定着温度)を特定した結果を示すものである。
【0042】
ホットオフセット温度は、ホットオフセット(定着ベルトの温度が高くなり過ぎてトナーの凝集力が定着ベルト及び用紙との接着力を下回った場合に、トナー層が分断してトナーの一部が定着ベルトに転移する現象)が発生する最低温度である。定着可能温度範囲は、ホットオフセット温度と最低定着温度との差である。画像グロスピーク値は、トナーの定着によって形成された画像の光沢度を所定の方法で計測して得られた計測値である。
【0043】
比較例と実施例1を比べると、実施例1は比較例よりも最低定着温度が低下している。このことは、空隙Gの断熱効果が上流側ほど大きいことにより、定着ベルト表面温度を低くしても、上流側において比較例よりもトナー溶融が促進されるためと考えられる。つまり、実施例1は比較例よりもエネルギー効率及び低温定着性が高く、定着可能温度領域が広いと言える。また、実施例1は比較例よりも画像グロスピーク値が向上しており、高光沢な画像が得られる。このことは、上流側でのトナー溶融が促進されることにより、加圧領域での加圧によるトナー像の平滑性が高まったことを示している。
【0044】
実施例1と実施例2を比べると、実施例2は実施例1よりも最低定着温度が低下し、画像グロスピーク値が向上している。このことは、実施例1と比べて空隙Gの厚みが増したことにより、トナーの溶融がさらに促進されることを示している。
【0045】
以上、説明したとおり、本発明によれば、面状ヒーターを用いて定着ベルトを加熱する方式を用いて、エネルギー効率、低温定着性、耐ホットオフセット性に優れ、定着可能温度領域が広く、高光沢な画像が得られる定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【0046】
また、本実施形態では、搬送方向Yにおいて空隙Gが面状ヒーター23における定着ベルト21と反対側の面の抵抗発熱体40に対応する範囲を包含する範囲に形成されているから、空隙Gが発熱体23に対応する範囲よりも狭い場合と比べて、抵抗発熱体からホルダーへの熱伝導を抑制することができる。
【0047】
また、搬送方向Yにおいて、空隙G上流側の端部は、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の上流側の端部よりも上流側に位置するから、空隙G上流側の端部が抵抗発熱体40に対応する範囲A40の上流側の端部と一致する場合と比べて、抵抗発熱体の上流側の端部からホルダーへの熱伝導を抑制することができる。
【0048】
また、搬送方向Yにおいて、空隙Gの下流側の端部は、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の下流側の端部よりも下流側に位置するから、空隙Gの下流側の端部が抵抗発熱体40に対応する範囲A40の下流側の端部と一致する場合と比べて、抵抗発熱体の下流側の端部からホルダーへの熱伝導を抑制することができる。
【0049】
図3では、空隙Gが、搬送方向Yの上流側ほど厚みが大きい楔型の形状となっている例を示したが、用紙Sの搬送方向Yにおいて、第1の位置における空隙Gの厚みが、第1の位置よりも下流側の第2の位置における空隙Gの厚みよりも大きいという条件を満たすならば、図3に示したのと異なる形状でも良い。
【0050】
例えば、図9に示される例は、第2凹部252の対向部位252aが凸形の曲面状に形成された例である。なお、対向部位252aが凹形の曲面状に形成されていてもよい。図10に示される例は、対向部位252aが階段状に形成された例である。図11に示される例は、対向部位252aの上流端(対向部位252aにおける搬送方向Y上流側の端部)と下流端(対向部位252aにおける搬送方向Y下流側の端部)との間の位置(例えば、上流端と下流端との中間点)よりも上流側の区間において、対向部位252aと面状ヒーター23との距離が一定であり、下流側の区間において、対向部位252aと面状ヒーター23との距離が上流側から下流側へ向かうにつれて短くなるように、対向部位252aが形成された例である。なお、対向部位252aの上流端と下流端との間の位置よりも下流側の区間において、対向部位252aと面状ヒーター23との距離が一定であり、上流側の区間において、対向部位252aと面状ヒーター23との距離が上流側から下流側へ向かうにつれて短くなるように、対向部位252aが形成されていても良い。図9乃至図11に示される構成によっても上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0051】
上記実施形態では、搬送方向Yにおいて、空隙G上流側の端部が、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の上流側の端部よりも上流側に位置し、且つ、空隙Gの下流側の端部が、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の下流側の端部よりも下流側に位置する例を示したが、空隙Gの上流側の端部が、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の上流側の端部よりも上流側に位置し、且つ、空隙Gの下流側の端部が、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の下流側の端部と一致していても良い。あるいは、空隙Gの上流側の端部が、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の上流側の端部と一致し、且つ、空隙Gの下流側の端部が、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の下流側の端部よりも下流側に位置していても良い。あるいは、空隙Gの上流側の端部が、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の上流側の端部と一致し、且つ、空隙Gの下流側の端部が、抵抗発熱体40に対応する範囲A40の下流側の端部と一致していても良い。
【0052】
上記した本発明の実施形態の説明は、本発明に係る定着装置及び画像形成装置における好適な実施の形態を説明しているため、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。すなわち、上記した本発明の実施の形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能であり、上記した本発明の実施の形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0053】
1 プリンター(画像形成装置)
7 画像形成部
9 定着装置
21 定着ベルト
23 面状ヒーター
25 ホルダー
27 加圧ローラー
図1
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図3
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図5
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図11