(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/17 20160101AFI20221206BHJP
B60K 6/26 20071001ALI20221206BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221206BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20221206BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20221206BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20221206BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20221206BHJP
【FI】
B60W20/17
B60K6/26
B60W10/08 900
H02P27/08
H02P9/04 L
B60L50/16 ZHV
B60L3/00 J
(21)【出願番号】P 2018097982
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 晴美
(72)【発明者】
【氏名】森田 哲生
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-048844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0172859(US,A1)
【文献】特開2016-021800(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005295(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/144018(WO,A1)
【文献】特開平11-308791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/17
B60K 6/26
B60W 10/08
H02P 27/08
H02P 9/04
B60L 50/16
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(101)と、回転電機(20)と、前記回転電機を駆動させるインバータ(31,32)と、を備える車両(100)に適用される回転電機の制御装置(40)において、
搬送波を用いて前記回転電機への指令電圧
の波形から前記インバータの操作信号であるPWMパルスを生成し、前記インバータに対して当該PWMパルスを出力して、
当該PWMパルスによって前記インバータの各スイッチをオンオフ制御することにより、前記回転電機への通電電流を制御して、前記回転電機を駆動させるPWM制御部(41)を備え、
前記搬送波は、同じ波形が複数回連続して繰り返されるものであり、
前記PWM制御部は、前記回転電機への指令電圧の波形と搬送波の波形とを比較することにより、PWMパルスを生成し、
人間の可聴周波数帯域内の周波数であって、前記内燃機関がアイドリング状態であり、かつ、前記回転電機が発電状態である前記車両において発生する前記内燃機関の騒音の音圧レベルが閾値以上となる周波数に合わせて、設定周波数が設定されており、
前記搬送波の周波数は、前記設定周波数に基づいて決定される回転電機の制御装置。
【請求項2】
前記設定周波数は、前記騒音の音圧レベルが閾値以上であって、かつ、極大値又は最大値となる周波数に合わせて、設定されている請求項1に記載の回転電機の制御装置。
【請求項3】
前記設定周波数に対してn倍(nは任意の自然数)となる周波数が前記可聴周波数帯域よりも高くなるように、前記設定周波数が設定されている請求項1又は2に記載の回転電機の制御装置。
【請求項4】
前記設定周波数に基づいて周波数を拡散させて、前記搬送波の周波数として決定する周波数拡散部(42)を備え、
前記周波数拡散部は、拡散させる際、前記設定周波数に近い周波数ほど前記搬送波の周波数として決定される確率が高くなるように、周波数を拡散させる請求項1~3のうちいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項5】
前記周波数拡散部により決定される前記搬送波の上限周波数は、前記回転電機の力行駆動時に設定される搬送波の周波数以下とされる請求項4に記載の回転電機の制御装置。
【請求項6】
前記周波数拡散部は、前記搬送波の周波数として決定される各周波数において、前記搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルが、前記騒音の音圧レベル以下となるように、前記搬送波の周波数として決定される各周波数が決定される確率を調整して、周波数を拡散させる請求項4又は5に記載の回転電機の制御装置。
【請求項7】
前記設定周波数として、前記回転電機が備える電機子巻線の相数の倍数及び磁石部の極対数の倍数とは異なる周波数が設定される請求項1~6のうちいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機に用いられる電力変換器(インバータ)に対して、パルス幅変調制御(PWM制御)を実施することが行われている。PWM制御が行われる回転電機の中には、回路素子の発熱等の問題により、搬送波(キャリア)の周波数を10.0kHz以下としてインバータを駆動させている場合がある。この周波数帯域は、人間の可聴周波数帯域に含まれているため、搬送波に基づく電磁騒音によりドライバに不快感を与える虞がある。
【0003】
そこで、回転電機の電磁騒音の低減を図るように、PWMインバータの駆動を制御する制御装置が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の制御装置では、キャリア周波数をランダムに変化させて(拡散させて)、回転電機の電磁騒音を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような方法で電磁騒音を低減した場合、車両が走行中である場合など、電磁騒音以外の騒音が大きい場合には、搬送波による電磁騒音が気になることがない。しかしながら、例えば、エンジンがアイドリング状態で、車両が停止している場合には、電磁騒音が相対的に大きくなり、ドライバに不快感を与える可能性がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、回転電機を駆動する場合に発生しうる電磁騒音を目立たなくさせる回転電機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の手段は、内燃機関と、回転電機と、前記回転電機を駆動させるインバータと、を備える車両に適用される回転電機の制御装置において、搬送波に基づいてPWMパルスを生成し、前記インバータに対して当該PWMパルスを出力して、前記回転電機を制御するPWM制御部を備え、所定の周波数設定範囲内の周波数であって、前記内燃機関が所定の駆動状態であり、かつ、前記回転電機が所定の発電状態である前記車両において発生する騒音の音圧レベルが閾値以上となる周波数に合わせて、前記搬送波の基本周波数が設定されている。
【0008】
搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルは、一般的に、搬送波の基本周波数において最も高くなる。そこで、内燃機関が所定の駆動状態であって、かつ、回転電機が所定の発電状態である車両において発生する騒音における音圧レベルが閾値以上となる周波数に合わせて、搬送波の基本周波数を設定した。これにより、電磁騒音が車両の騒音に紛れて目立たなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】(a)は、測音マイクの配置を示す側面図であり、(b)は測音マイクの配置を示す平面図。
【
図5】(a)は、従来における電磁騒音の波形を示し、(b)は、本実施例における電磁騒音の波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。本実施形態にかかる回転電機ユニット10について説明する。回転電機ユニット10は、
図1に示すような内燃機関としてのエンジン101を有するハイブリット車両などの車両100に適用される。
【0011】
回転電機ユニット10は、回転電機としての交流モータ(以下、単にモータ20)と、電力変換装置としてのインバータ31,32と、モータ20の作動を制御する制御装置としてのECU40とを備えている。回転電機ユニット10は、モータ機能付き発電機であり、機電一体型のISG(Integrated Starter Generator)として構成されている。
【0012】
モータ20の回転軸は、エンジン101のエンジン出力軸(図示しない)に対してベルトにより駆動連結されている。エンジン出力軸の回転によってモータ20の回転軸が回転する一方、モータ20の回転軸の回転によってエンジン出力軸が回転する。つまり、回転電機ユニット10は、エンジン出力軸や車軸の回転により発電(回生発電)を行う発電機能と、エンジン出力軸に回転力を付与する力行機能とを備えている。また、モータ20は、2組の3相巻線を有する固定子と、8極対の磁石部(永久磁石又は界磁巻線)を有する回転子を備える。
【0013】
ここで、回転電機ユニット10の電気的構成について
図2を用いて説明する。
図2では、モータ20の固定子巻線21(電機子巻線)として2組の3相巻線21a,21bが示されており、3相巻線21aはU相巻線、V相巻線及びW相巻線よりなり、3相巻線21bはX相巻線、Y相巻線及びZ相巻線よりなる。3相巻線21a,21bごとに、第1インバータ31と第2インバータ32とがそれぞれ設けられている。インバータ31,32は、相巻線の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、固定子巻線21の各相巻線において通電電流が調整される。
【0014】
各インバータ31,32には、直流電源50と平滑用のコンデンサ51とが並列に接続されている。直流電源50は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。
【0015】
ECU40は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、各種機能を備える。各種機能は、CPUが、各種メモリ等に記憶されたプログラムを実行することにより実現する。なお、これらの機能は、ハードウェアである電子回路によって実現されてもよく、あるいは、少なくとも一部をソフトウェア、すなわちコンピュータ上で実行される処理によって実現されてもよい。
【0016】
例えば、ECU40は、回転電機ユニット10における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ31,32における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。回転電機ユニット10の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。ECU40は、インバータ31,32の各スイッチを操作する操作信号を生成して出力する。なお、発電の要求は、例えば回転電機ユニット10が車両用動力源として用いられる場合、回生駆動の要求である。
【0017】
第1インバータ31は、U相、V相及びW相からなる3相において、上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源50の正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源50の負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの間の中間接続点には、それぞれU相巻線、V相巻線、W相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点にて互いに接続されている。
【0018】
第2インバータ32は、第1インバータ31と同様の構成を有しており、X相、Y相及びZ相からなる3相において、上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源50の正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源50の負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの間の中間接続点には、それぞれX相巻線、Y相巻線、Z相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点で互いに接続されている。
【0019】
次に、U,V,W相の各相電流を制御する電流制御処理について説明する。ECU40は、回転電機ユニット10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値や、電気角を時間微分して得られる電気角速度に基づいて、U相、V相及びW相の指令電圧を決定する。なお、発電トルク指令値は、例えば回転電機ユニット10が車両用動力源として用いられる場合、回生トルク指令値である。
【0020】
そして、ECU40は、周知の三角波キャリア比較方式を用い、3相の指令電圧に基づいて、第1インバータ31の操作信号を生成する。具体的には、ECU40は、3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等の搬送波としてのキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号(デューティ信号)を生成する。そして、ECU40は、生成されたスイッチ操作信号に基づいて、各インバータ31,32における各3相のスイッチSp,Snをオンオフさせる。なお、X,Y,Z相側の電流制御処理も同様であるため、説明を省略する。これにより、モータ20を制御する。以上のように、ECU40は、搬送波に基づいてPWMパルスを生成し、インバータ31,32に対して当該PWMパルスを出力して、モータ20を制御するPWM制御部41としての機能を有する。
【0021】
ところで、本実施形態の回転電機ユニット10では、インバータ31,32の回路素子等の発熱を考慮して、搬送波(キャリア)のキャリア周波数を10.0kHz以下としている。この周波数帯域は、人間の可聴周波数帯域に含まれているため、搬送波に基づく電磁騒音によりドライバに不快感を与える虞がある。特に、エンジン101がアイドリング状態で、車両100が停止している場合のように、エンジン101の駆動に基づく車両走行中である場合と比較して車両100における騒音そのものが小さい場合、電磁騒音が相対的に大きくなり目立つ場合がある。そこで、電磁騒音を目立たなくするため、以下のように構成した。
【0022】
まず、搬送波に基づく回転電機ユニット10の電磁騒音について説明する。電磁騒音は、所定の測定条件下で、測定される回転電機ユニット10の騒音である。所定の測定条件とは、例えば、アイドリング状態など、低負荷でモータ20を駆動させるような条件である。例えば、モータ20の回転数が1800回転(エンジン101の回転数でいえば、750rpmに相当)で、回転電機ユニット10への印加電圧が14.5Vで、出力電流が25Aである条件である。測定した電磁騒音をスペクトル解析すると、搬送波に基づく電磁騒音は、搬送波の基本周波数において、その音圧レベルが最も高くなる。また、搬送波の第n次高調波(nは2以上)においても、他の周波数(ただし、基本周波数を除く)と比較して、その音圧レベルが高くなっている。
【0023】
ここで、電磁騒音の測定方法について説明する。実車環境において、回転電機ユニット10の電磁騒音(磁気音評価結果)を取得する。具体的には、防音室などで、回転電機ユニット10(若しくはモータ20)の単体評価を行う。その際、車両100における回転電機ユニット10の配置(角度や位置)や、乗員などの位置(座席位置等)を考慮して、測音マイクを配置する。
【0024】
例えば、
図3(a)に示すように、回転電機ユニット10から所定距離(例えば、30cm)程度離れた位置において、回転電機ユニット10の水平面から所定角度(例えば、45度)上方に、測音マイク700a~700cを配置する。その際、
図3(b)に示すように、回転電機ユニット10を中心として所定角度(例えば、45度)間隔で複数(本実施形態では3つ)の測音マイク700a~700cを設けることが望ましい。その際、モータ20の回転軸の径方向外側において、複数の測音マイク700a~700cが、回転軸の軸方向に沿って配置されることが望ましい。そして、複数の測音マイク700a~700cが計測した音圧レベルの平均を、電磁騒音の測定結果として取得することが望ましい。
【0025】
次に、車両100における騒音について説明する。本実施形態における車両100における騒音は、エンジン101が所定の駆動状態である車両100において発生する騒音のことである。より詳しくは、エンジン101がアイドリング状態で、車両100が停止している場合において、車両100で発生する騒音を対象とする。この状態において、回転電機ユニット10以外の車両設備から生じる騒音が最も小さいと考えられるからである。なお、エンジン101が所定の駆動状態である場合、回転電機ユニット10は、所定の発電状態となっている。所定の発電状態とは、回転電機ユニット10がPWM制御を行わずに発電している状態のことであり、具体的には、回転速度に同期した電力を発電する同期発電状態(又はオルタネータ発電状態)のことである。
【0026】
ここで、車両100における騒音の測定方法について説明する。実車環境において、エンジン101による騒音を測定する。前述したように、車両100の停止中、エンジン101がアイドリング状態(無負荷運転状態)において、回転電機ユニット10にPWM制御によらない発電を行わせ、エンジン101単体の騒音を測定する。つまり、エンジン101の駆動中において、回転電機ユニット10以外の車両設備により生じる騒音が最も小さくなるように、エンジン101以外の駆動を停止させて、騒音を測定する。その際、回転電機ユニット10の電磁騒音を測定する場合と同様の方法でエンジン101の単体評価を行う。すなわち、車両100におけるエンジン101の配置角度や、設置位置、乗員の位置等を考慮して、エンジン101から所定距離(例えば、30cm)程度離れた位置において、エンジン101の水平面から所定角度(例えば、45度)上方に、測音マイク700a~700cを配置する。その際、エンジン101を中心として所定角度(例えば、45度)間隔で複数(本実施形態では3つ)の測音マイク700a~700cを設け、測定した音圧レベルの平均を、車両100における騒音の測定結果として取得することが望ましい。このように測定された騒音を、以下では、単に車両100における騒音と示す。
【0027】
次に、上述した方法で測定した車両100における騒音について、周波数スペクトル解析を行う。そして、所定の周波数設定範囲(以下、単に設定範囲と示す)内において、車両100における騒音の音圧レベルが閾値以上となる周波数を特定する。閾値は、設定範囲内における車両100における騒音の音圧レベルに基づき設定すればよく、例えば、設定範囲内における車両100における騒音の音圧レベルにおいて、上位数%に相当する値(例えば、45dB)が設定される。
【0028】
より好ましくは、設定範囲内において、車両100における騒音の音圧レベルが閾値以上であって、増加から減少に変わる極大値(傾きが正から負へ変わる極大値)となる周波数を1又は複数特定する。以下では、車両100における騒音において、音圧レベルの極大値及び当該極大値となる周波数により特定される点を、極大点と示す。設定範囲において、音圧レベルが閾値以上の極大点が所定数よりも多い場合には、音圧レベルが高いものから順に、上位数%の極大点を特定する。
【0029】
なお、設定範囲を数kHzの単位とした場合、0.1kHz未満の違いは誤差として考えられることから、本実施形態において、0.1kHz未満の違いは考慮しない。その際、0.1kHz未満の位を、切り捨て、切り上げ、又は四捨五入してもよい。例えば、音圧レベルが閾値以上となる周波数が5.05~5.34kHzの範囲である場合、閾値以上となる周波数は、5.1kHz、5.2kHz、5.3kHzとする。
【0030】
ここで所定の周波数設定範囲(設定範囲)について説明する。設定範囲は、少なくとも人間の可聴周波数帯域内で設定される。可聴周波数帯域は、一般的には、0.02kHz(20Hz)~10.0kHz程度の範囲とされている。本実施形態においても可聴周波数帯域を、0.02kHz~10.0kHzの範囲であるとして説明する。
【0031】
ところで、前述したように、搬送波の第n次高調波(以下、単に高調波と示す)においても、他の周波数と比較して、電磁騒音の音圧レベルが高くなる。また、搬送波の基本周波数が低くなりすぎても、モータ20の制御性が悪くなる。このため、設定範囲は、搬送波が有する高調波の周波数が人間の可聴周波数帯域よりも高くなるような周波数帯域内とされることが望ましい。具体的には、5.0kHzよりも大きい周波数帯域で基本周波数を設定すれば、高調波(第2次高調波以上の高調波)が10.0kHzよりも大きくなり、可聴周波数帯域外となる。そこで、本実施形態では、5.0kHzよりも大きい周波数帯域で設定範囲が定められている。
【0032】
また、搬送波の基本周波数を大きくすると、スイッチング素子の発熱やコンデンサリプルが生じ、回転電機ユニット10に異常が生じる可能性がある。このため、設定範囲は、回転電機ユニット10の動作保証がされている範囲内とされることが望ましい。本実施形態において、モータ20が力行駆動して車両100を走行させる場合、搬送波の基本周波数を7.0kHzとしている。このため、本実施形態の設定範囲は、7.0kHz以下の範囲とされる。
【0033】
以上をまとめると、設定範囲として、5.0kHz~7.0kHzが定められる。この設定範囲内において、音圧レベルが閾値以上となる周波数を1又は複数特定する。より好ましくは、設定範囲内において、音圧レベルが閾値以上となって、かつ、極大値となる周波数を1又は複数特定する。その際、上記条件を満たす周波数が、所定数よりも多い場合(例えば、100以上の場合)には、音圧レベルが高いものから順に、上位数%の周波数を特定する。この特定された周波数を、以下では、第1条件を満たす周波数と示す。
【0034】
ところで、後述するように、本実施形態では、搬送波の基本周波数を拡散させる。このため、拡散後の基本周波数の上限が回転電機ユニット10の動作保証がされている範囲内となり、かつ、十分な拡散幅が取れることが望ましい。また、搬送波の基本周波数が低い方が、高い場合と比較して、発熱を抑えることができる。すなわち、設定範囲内において、なるべく基本周波数を小さくすることが望ましい。このため、第1条件を満たす周波数のうち、最も小さい周波数を基本周波数として決定することが望ましい。
【0035】
また、基本周波数が、モータ20の相数の倍数又は極対数の倍数となると、共振が起こり、電磁騒音が大きくなる場合がある。このため、モータ20の相数の倍数及び極対数の倍数とは異なる周波数となるように、基本周波数を設定することが望ましい。すなわち、第1条件を満たす周波数が複数ある場合、第1条件を満たす周波数のうち、モータ20の相数の倍数及び極対数の倍数とは異なる周波数であって、かつ、その中で最も小さい周波数を基本周波数として決定することが望ましい。
【0036】
すなわち、本実施形態のモータ20は、2組の3相巻線を有する固定子と、8極対の磁石部(永久磁石又は界磁巻線)を有する回転子を備えている。このため、本実施形態において、例えば、第1条件を満たす周波数が、小さいものから順に、5.1kHz、5.3kHz、6.0kHz、6.7kHzである場合、基本周波数を5.3kHzとすることが好ましい。
【0037】
そして、周波数拡散部42は、上述するように設定(決定)された基本周波数(
図4に示すX)を中心として、所定の拡散幅(
図4に示すY)で、搬送波の基本周波数を拡散させる。その際、拡散後の基本周波数の上限は、回転電機ユニット10の動作保証がされている範囲内となることが望ましい。すなわち、拡散後の基本周波数の上限が7.0kHz以下となるように、搬送波の基本周波数を拡散させることが望ましい。例えば、拡散前の基本周波数を5.3kHzとした場合、5.3kHzを中心とする3.6~7.0kHzの範囲内で基本周波数を拡散させることが望ましい。
【0038】
そして、周波数拡散部42は、基本周波数を拡散させる場合、拡散後の各基本周波数において、搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルが、車両100における騒音の音圧レベル以下となるように、基本周波数を拡散させる。より詳しく説明すると、拡散後の基本周波数として、選択される頻度(選択率)が多ければ多いほど、当該基本周波数における音圧レベルは高くなりやすくなる。一方、拡散後の基本周波数として、選択される頻度が少なければ少ないほど、当該基本周波数における音圧レベルは低くなりやすくなる。そこで、周波数拡散部42は、拡散後の各基本周波数において、搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルが、車両100における騒音の音圧レベル以下となるように、拡散後の基本周波数として選択される頻度(選択率)を設定する。
【0039】
ところで、第1条件を満たす周波数近傍の周波数において、車両100における騒音の音圧レベルが高いとは限らない。特に、第1条件を満たす周波数から離れれば離れるほど、車両100における騒音の音圧レベルが低くなっている可能性がある。そこで、周波数拡散部42は、
図4に示すように、所定の拡散幅において、選択率が一律とならないようにしている。例えば、周波数拡散部42は、拡散前の基本周波数(
図4においてX)に対する周波数の差が小さいほど、拡散後の基本周波数として設定しやすくしている(選択率を高くしている)。すなわち、拡散前の基本周波数から周波数の差が大きいほど、電磁騒音の音圧レベルが低くなりやすいようにしている。なお、
図4において、拡散後の基本周波数として設定可能な範囲は、矢印Yで示す。これにより、拡散後の各基本周波数において、搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルが、車両100における騒音の音圧レベル以下となりやすくなる。特に、拡散前の基本周波数において、極大値を取り得るとき、拡散後の各基本周波数において、搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルが、車両100における騒音の音圧レベル以下となりやすくなる。
【0040】
次に、本実施形態のように、搬送波の基本周波数を設定した場合における作用について従来例と比較して説明する。
図5において、車両100における騒音を破線で示す。
図5に示すように、5.0kHz~7.0kHzの範囲では、5.3kHzや6.0kHzにおいて、車両100における騒音の音圧レベルが、閾値以上であるものとして説明する。また、
図5(a)に示す従来例では、4.2kHzを搬送波の基本周波数(拡散前)とし、3.2~5.2kHzの範囲で周波数を拡散させるものとして説明する。
図5(a)では、搬送波に基づく電磁騒音(拡散後)を実線で示す。
【0041】
従来例において、
図5(a)に示すように、4.2kHzでは車両100における騒音の音圧レベルは閾値以上でなく、また、極大点でもない。そして、4.2kHzにおいて、搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルは、車両100における騒音の音圧レベルよりも高い。このため、従来例では、基本周波数(4.2kHz)における電磁騒音が、目立ちやすい。
【0042】
また、従来例において、搬送波の第2次高調波、すなわち、従来例における基本周波数(4.2kHz)の2倍となる周波数(8.4kHz)は、可聴周波数帯域内となっており、かつ、電磁騒音の音圧レベルが車両100における騒音よりも高くなっている。このため、搬送波の高調波に基づく電磁騒音が目立ち、ドライバに不快感を与える可能性がある。
【0043】
図5(b)に本実施形態を適用した場合における搬送波に基づく電磁騒音を実線で示す。
図5(b)では、搬送波の基本周波数(拡散前)を5.3kHzとし、3.6~7.0kHzの範囲で搬送波の周波数を拡散させた場合における電磁騒音を示す。
【0044】
図5(b)に示すように、5.3kHzでは車両100における騒音の音圧レベルは閾値以上であり、また、極大点である。そして、本実施形態を適用した場合における搬送波に基づく電磁騒音は、基本周波数(5.3kHz)において、車両100における騒音よりも低くなっている。このため、本実施例において、基本周波数(5.3kHz)における電磁騒音は、目立ちにくい。
【0045】
また、本実施例において、拡散後の各基本周波数(3.6~7.0kHzの範囲)のうち、ほとんどの周波数で電磁騒音は、車両100における騒音よりもその音圧レベルが低くなっている。
【0046】
また、本実施形態の構成を適用した場合において、搬送波の高調波は、可聴周波数帯域外となっている。このため、搬送波の高調波に基づく電磁騒音の音圧レベルが車両100における騒音よりも高くなっていたとしても、ドライバに気づかれにくい。拡散後の搬送波の高調波に基づく電磁騒音も、ほとんど可聴周波数帯域外となるか、車両100における騒音の音圧レベル以下となるため、ドライバに気づかれにくい。
【0047】
以上詳述した上記実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0048】
搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルは、一般的に、搬送波の基本周波数において最も高くなる。そこで、設定範囲内において、車両100における騒音における音圧レベルが閾値以上となる周波数に合わせて、搬送波の基本周波数を設定した。より詳しくは、所定の周波数設定範囲内において、車両100における騒音における音圧レベルが閾値以上となり、かつ、極大値となる周波数に合わせて、搬送波の基本周波数を設定した。これにより、電磁騒音を目立たなくすることができる。特に、極大値となる周波数に合わせて、搬送波の基本周波数を設定する場合、電磁騒音の波形が、車両100における騒音の波形に似るため、目立たなくなる。
【0049】
搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルは、搬送波が有する高調波の周波数においても高くなる。そこで、搬送波の基本周波数を、当該搬送波が有する高調波の周波数が人間の可聴周波数帯域よりも高くなるような周波数帯域で設定した。これにより、搬送波の高調波に基づく電磁騒音は、人間の可聴周波数帯域よりも高くなるため、電磁騒音をより目立たなくすることができる。
【0050】
ECU40は、搬送波の基本周波数を拡散させた。このため、搬送波の基本周波数における電磁騒音の音圧レベルを低減し、より目立たなくすることができる。ところで、搬送波の基本周波数を拡散させた場合、拡散させない場合と比較して、拡散後の各基本周波数において電磁騒音の音圧レベルが高くなる。一方で、拡散前の基本周波数において、車両100における騒音の音圧レベルが高くても、拡散後の基本周波数において、車両100における騒音の音圧レベルが高いとは限らない。特に、拡散前の周波数から離れれば離れるほど、車両100における騒音の音圧レベルが低くなっている可能性がある。そこで、周波数拡散部42は、拡散前の基本周波数に対する周波数の差が小さいほど、拡散後の基本周波数として設定しやすくした。これにより、拡散前の基本周波数における電磁騒音の音圧レベルを最大として、拡散前の基本周波数から周波数の差が小さいほど、電磁騒音の音圧レベルが高くなりやすくなっている。特に、極大値となる周波数に合わせて、搬送波の基本周波数を設定する場合、電磁騒音の波形が、車両100における騒音の波形に似るため、目立たなくなる。
【0051】
搬送波の基本周波数を高くすると、スイッチング素子やコンデンサリプルなど、回路素子が発熱する場合がある。ところで、モータ20では、モータ20の力行駆動時に設定される搬送波の基本周波数以下であれば、回路素子が発熱しても、モータ20に異常が生じないように予め設計されている。そこで、拡散後の基本周波数の上限は、モータ20の力行駆動時に設定される搬送波の基本周波数以下とした。これにより、回路素子が過剰に発熱し、モータ20に異常が生じることを抑制できる。
【0052】
搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルが、車両100における騒音の音圧レベルよりも大きければ、電磁騒音が気づかれてしまう場合がある。そこで、周波数拡散部42は、基本周波数において、搬送波に基づく電磁騒音の音圧レベルが、車両100における騒音の音圧レベル以下となるように、基本周波数を拡散させた。これにより、電磁騒音を適切に目立たなくすることができる。
【0053】
搬送波の基本周波数が、モータ20の相数の倍数又は極対数の倍数となった場合、共振が起こり、電磁騒音が大きくなる可能性がある。そこで、相数の倍数及び極対数の倍数とならないように、搬送波の基本周波数を設定し、電磁騒音を低減した。
【0054】
車両100が停止中であって、かつ、エンジン101がアイドリング状態である場合、走行中である場合などと比較して、車両100における騒音が小さくなる一方で、相対的に電磁騒音が大きくなるため、電磁騒音が最も目立ちやすくなる。そこで、車両100における騒音は、車両100が停止中であって、かつ、エンジン101がアイドリング状態である場合において測定されるようにした。これにより、エンジン101の駆動中、どの状態でも、電磁騒音を目立たなくすることができる。
【0055】
(他の実施形態)
上記実施形態に限定されず、例えば以下のように実施してもよい。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0056】
・上記実施形態において、設定範囲内において、閾値以上の周波数がない場合(若しくは極大点がない場合)、設定範囲内において音圧レベルが最大値となる周波数を基本周波数として設定してもよい。
【0057】
・上記実施形態において、閾値は、設定範囲内において、車両100における騒音の音圧レベルに基づいて設定していたが、人が不快と感じる音圧レベルに基づき、設定してもよい。例えば、50dBを閾値と設定してもよい。
【0058】
・上記実施形態において、第1条件を満たす周波数に基本周波数を一致させる必要はなく、電磁騒音の音圧レベルが車両100における騒音よりも低ければ、第1条件を満たさなくてもよい。
【0059】
・上記実施形態において、誤差や誤検出の可能性を考慮して、測定した車両100における騒音をなました波形に基づき、搬送波の基本周波数を設定してもよい。
【0060】
・上記実施形態において、拡散幅の下限値は、所定の周波数設定範囲内となるようにしてもよい。例えば、5.1kHz~5.5kHzの範囲内で、基本周波数を拡散させてもよい。これによれば、拡散後の基本周波数の第2次高調波の周波数が、可聴周波数帯域内とならない。このため、電磁騒音を目立たなくすることができる。
【0061】
・上記実施形態において、周波数拡散部42は、拡散前の基本周波数に対する周波数の差が小さいほど、拡散後の基本周波数として設定しやすくしたが、そのようにしなくてもよい。拡散後の基本周波数の平均が拡散前の基本周波数と一致するように拡散させてもよいし、ランダムに拡散させてもよい。
【0062】
・上記実施形態の基本周波数として、モータ20が備える相数の倍数及び磁石部の極対数の倍数とは異なる周波数を設定したが、一致してもよい。例えば、基本周波数が相数の倍数又は磁石部の極対数の倍数であっても、当該基本周波数における電磁騒音の音圧レベルが、車両100における騒音の音圧レベルよりも低ければ、一致してもよい。
【0063】
・上記実施形態において、第1条件を満たす周波数の中から、いずれの周波数を基本周波数として設定してもよい。
【符号の説明】
【0064】
20…モータ、31…第1インバータ、32…第2インバータ、40…ECU、41…PWM制御部、100…車両、101…エンジン。