(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】牽引支援装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20221206BHJP
B62D 13/06 20060101ALI20221206BHJP
B62D 15/02 20060101ALI20221206BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20221206BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20221206BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20221206BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D13/06
B62D15/02
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D137:00
(21)【出願番号】P 2018125310
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 欣司
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一矢
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 哲也
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193703(JP,A)
【文献】特開平01-095981(JP,A)
【文献】特開2003-034261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0103511(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0134183(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 13/06
B62D 15/02
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引車両と被牽引車両との連結角度を取得する取得部と、
前記牽引車両と前記被牽引車両のうち少なくとも前記被牽引車両を移動可能な目標領域を設定する設定部と、
前記牽引車両が前記連結角度を変化させながら後退走行する場合
の、前記牽引車両と前記被牽引車両とを旋回可能に連結する牽引装置の位置と、前記連結角度の変化
と、前記被牽引車両のホイールベースの長さと、に基づ
き前記被牽引車両の移動進路の遷移を取得する進路取得部と、
前記目標領域の位置と、遷移する前記移動進路とを比較し、遷移する前記移動進路が、前記目標領域に前記被牽引車両を移動させ得る移動進路になったときに、当該移動進路を推奨移動進路とすることを決定する比較部と、
前記推奨移動進路が決定された場合に、前記牽引車両と前記被牽引車両とが後退走行しても前記連結角度が変化しない前記連結角度である維持連結角度を実現する前記牽引車両の第一の舵角を出力する出力部と、
を備える、牽引支援装置。
【請求項2】
前記出力部は、前記牽引車両の後退走行の開始から、前記被牽引車両を前記目標領域が存在する方向に傾けるように前記連結角度を変化させるための前記牽引車両の舵角を出力し、前記連結角度の変化に基づく
前記被牽引車両の前記移動進路が前記推奨移動進路になった場合に、前記第一の舵角を出力する、請求項1に記載の牽引支援装置。
【請求項3】
さらに、前記牽引車両の舵角
を仮想的に変化させた場合の前記目標領域に対する前記牽引車両および前記被牽引車両の相対位置の変化と、前記目標領域の奥行き方向と平行な方向に対する前記牽引車両の前後方向の偏向角度および前記被牽引車両の前後方向の偏向角度の変化と、をシミュレーションするシミュレーション
部を備え、
前記出力部は、前記被牽引車両が
前記第一の舵角での走行で前記目標領域に
移動した後に、さらに前記牽引車両が前記目標領域に移動するように後退走行させる場合に、前記シミュレーションの結果を参照して前記目標領域に対する前記被牽引車両の前記偏向角度
の増加を抑制しつつ前記連結角度
を変化
させて前記被牽引車両の前記偏向角度に前記牽引車両の前記偏向角度を近づけ
て前記被牽引車両と前記牽引車両とが直列状態になるようにする前記牽引車両の第二の舵角を出力する、請求項1または請求項2に記載の牽引支援装置。
【請求項4】
前記出力部は、前記第二の舵角で前記牽引車両を後退走行させた結果、前記被牽引車両の前記偏向角度に前記牽引車両の前記偏向角度が最接近した状態または一致した状態で、前記維持連結角度を実現するための前記牽引車両の第三の舵角を出力する、請求項3に記載の牽引支援装置。
【請求項5】
前記出力部が出力する舵角に基づき
、前記牽引車両の自動走行を実行する
自動走行制御部を備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の牽引支援装置。
【請求項6】
前記出力部が出力する舵角に基づき
、前記牽引車両を手動運転で後退走行させるための誘導走行指示を実行する
誘導走行指示部を備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の牽引支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、牽引支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被牽引車両(トレーラ)を牽引する車両(牽引車両)が知られている。牽引車両の後部には、牽引ブラケットおよびカップリングボール(ヒッチボール)等で構成される牽引装置が設けられ、被牽引車両を旋回可能に牽引する。牽引車両と被牽引車両とが連結された状態で牽引車両が前進走行する場合、被牽引車両は、牽引車両の操舵状態に概ね追従するように走行する。一方、牽引車両が、例えば駐車等のために後退走行する場合、つまり、被牽引車両が牽引車両によって押し動かされる場合、被牽引車両は牽引車両の操舵状態とは異なる挙動を示す場合がある。そのときの牽引車両と被牽引車両との連結角度によっては、例えば、牽引装置の部分で被牽引車両が大きく折れ曲がったり、逆に、折れ曲がり角度が小さくなったりする場合がある。そのため、後退走行で被牽引車両を例えば駐車領域等に移動させようとする場合には、高度な運転操作や経験が要求されていた。そこで、被牽引車両の後退走行時の運転操作を支援する装置として、被牽引車両が後退走行する際の移動進路の曲率を選択可能とし、選択した曲率を固定した状態で被牽引車両を後退させるように操舵制御を行うシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来技術のシステムの場合、後退走行中のいずれのタイミングで被牽引車両の移動進路の曲率を固定したらよいかは、依然として運転者の経験や勘に頼るものであり、運転者の負担が大きいという問題があった。そこで、被牽引車両を後退走行させる場合に、所望の領域(位置)にスムーズ、かつ運転者の負担を軽減した状態で移動させることができる牽引支援装置が提供できれば、有意義である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態にかかる牽引支援装置は、例えば、引車両と被牽引車両との連結角度を取得する取得部と、上記牽引車両と上記被牽引車両のうち少なくとも上記被牽引車両を移動可能な目標領域を設定する設定部と、上記牽引車両が上記連結角度を変化させながら後退走行する場合の、上記牽引車両と上記被牽引車両とを旋回可能に連結する牽引装置の位置と、上記連結角度のと、上記被牽引車両のホイールベースの長さと、に基づき上記被牽引車両の移動進路の遷移を取得する進路取得部と、上記目標領域の位置と、遷移する上記移動進路とを比較し、遷移する上記移動進路が、上記目標領域に上記被牽引車両を移動させ得る移動進路になったときに、当該移動進路を推奨移動進路とすることを決定する比較部と、上記推奨移動進路が決定された場合に、上記牽引車両と上記被牽引車両とが後退走行しても上記連結角度が変化しない上記連結角度である維持連結角度を実現する上記牽引車両の第一の舵角を出力する出力部と、を備える。この構成によれば、例えば、連結角度が変化しながら後退走行する被牽引車両の移動進路が推奨移動進路となるタイミングで、連結角度が変化しないような第一の舵角が出力される。その結果、運転者の技量に拘わらず、被牽引車両を目標領域にスムーズかつ容易に後退走行させて移動させることができる。
【0009】
また、実施形態にかかる牽引支援装置の上記出力部は、例えば、上記牽引車両の後退走行の開始から、上記被牽引車両を上記目標領域が存在する方向に傾けるように上記連結角度を変化させるための上記牽引車両の舵角を出力し、上記連結角度の変化に基づく上記被牽引車両の上記移動進路が上記推奨移動進路になった場合に、上記第一の舵角を出力してもよい。この構成によれば、例えば、被牽引車両が目標領域に向かう(臨む)ような適切な舵角を出力し、その後、移被牽引車両の移動進路が推奨移動進路になった場合に、第一の舵角を出力する。その結果、牽引車両の後退走行開始から被牽引車両が目標領域に至るまで、牽引車両および被牽引車両の一連の移動動作をスムーズかつ効率的に実現することができる。
【0010】
また、実施形態にかかる牽引支援装置は、例えば、上記牽引車両の舵角を仮想的に変化させた場合の上記目標領域に対する上記牽引車両および上記被牽引車両の相対位置の変化と、上記目標領域の奥行き方向と平行な方向に対する上記牽引車両の前後方向の偏向角度および上記被牽引車両の前後方向の偏向角度の変化と、をシミュレーションするシミュレーション部を備え、上記出力部は、上記被牽引車両が上記第一の舵角での走行で上記目標領域に移動した後に、さらに前記牽引車両が前記目標領域に移動するように後退走行させる場合に、上記シミュレーションの結果を参照して上記目標領域に対する上記被牽引車両の上記偏向角度の増加を抑制しつつ上記連結角度を変化させて上記被牽引車両の上記偏向角度に上記牽引車両の上記偏向角度を近づけて前記被牽引車両と前記牽引車両とが直列状態になるようにする上記牽引車両の第二の舵角を出力してもよい。この構成によれば、例えば、目標領域に、被牽引車両に対して牽引車両を真っ直ぐに接続した状態(直列状態)で移動させたい場合に、目標領域に対する被牽引車両の姿勢の変化(偏向)が最小になるような第二の舵角が出力される。その結果、運転者の技量に拘わらず、被牽引車両と牽引車両とが直列状態で接続された姿勢で、後退走行により目標領域に向かってスムーズかつ容易に移動させることができる。
【0011】
また、実施形態にかかる牽引支援装置の上記出力部は、例えば、上記第二の舵角で前記牽引車両を後退走行させた結果、上記被牽引車両の上記偏向角度に上記牽引車両の上記偏向角度が最接近した状態または一致した状態で、上記維持連結角度を実現するための上記牽引車両の第三の舵角を出力してもよい。この構成によれば、例えば、被牽引車両と牽引車両とを直列状態のまま目標領域内で移動させることが可能なり、牽引車両および被牽引車両の全体を目的領域内に収めることができる。
【0012】
また、実施形態にかかる牽引支援装置は、例えば、上記出力部が出力する舵角に基づき、上記牽引車両の自動走行を実行する自動走行制御部を備えてもよい。この構成によれば、例えば、被牽引車両を目標領域にスムーズかつ容易に、確実に移動させることができる。
【0013】
また、実施形態にかかる牽引支援装置は、例えば、上記出力部が出力する舵角に基づき、上記牽引車両を手動運転で後退走行させるための誘導走行指示を実行する誘導走行指示部を備えもよい。この構成によれば、例えば、牽引支援装置の指示内容にしたがい運転操作を運転者自身に行わせることにより、被牽引車両を目標領域にスムーズかつ容易に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる牽引支援装置を搭載する牽引車両と被牽引車両の連結状態の一例を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる牽引支援装置を搭載する牽引車両と被牽引車両の連結状態の一例を模式的に示す上面図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかる牽引支援装置を含む牽引支援システムの構成の例示的なブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態にかかる牽引支援装置をCPUで実現する場合の構成の例示的なブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態にかかる牽引支援装置を含む牽引支援システムの撮像部で撮像された牽引車両と被牽引車両との連結部の画像であり、牽引車両に対して被牽引車両が真っ直ぐな状態(直列状態)で連結されているときの画像の一例である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかる牽引支援装置を含む牽引支援システムの撮像部で撮像された牽引車両と被牽引車両との連結部の画像であり、牽引車両に対して被牽引車両が連結角度θで連結されているときの画像の一例である。
【
図7】
図7は、実施形態にかかる牽引支援装置において、被牽引車両のホイールベースの長さを示す例示的な模式図である。
【
図8】
図8は、実施形態にかかる牽引支援装置において、被牽引車両のホイールベースの長さを算出する例を説明する例示的な模式図である。
【
図9】
図9は、実施形態にかかる牽引支援装置において、牽引車両の第1の旋回中心位置と被牽引車両の第2の旋回中心位置とが一致して、牽引車両と被牽引車両とが釣合状態になっている場合を説明する例示的な模式図である。
【
図10】
図10は、実施形態にかかる牽引支援装置において、牽引車両の第1の旋回中心位置と被牽引車両の第2の旋回中心位置とが不一致となり、牽引車両と被牽引車両とが非釣合状態になっている場合を説明する例示的な模式図である。
【
図11】
図11は、実施形態にかかる牽引支援装置において、牽引車両が後退走行する場合の被牽引車両の移動進路の遷移および牽引車両が第一の舵角に基づき後退走行したて、被牽引車両が目標領域に移動する様子を説明する例示的な模式図である。
【
図12】
図12は、実施形態にかかる牽引支援装置において、牽引車両が第一の舵角で後退走行し被牽引車両を推奨移動進路に沿って移動させている場合に、被牽引車両が推奨移動進路から逸脱した場合を説明する例示的な模式図である。
【
図13】
図13は、実施形態にかかる牽引支援装置において、第二の舵角を取得するために、牽引車両が短距離の後退走行を行った場合、被牽引車両の移動位置の推定を説明する例示的な模式図である。
【
図15】
図15は、実施形態にかかる牽引支援装置において、目的領域に進入した被牽引車両に対して、牽引車両を直列状態にする様子を説明する例示的な模式図である。
【
図16】
図16は、実施形態にかかる牽引支援装置において、被牽引車両を目標領域に移動させる場合の処理手順の一例を説明するフローチャートである。
【
図17】
図17は、実施形態にかかる牽引支援装置において、目標領域に移動した被牽引車両の偏向角度を最小限にしつつ、被牽引車両と牽引車両とを直列状態にする場合の処理手順の一例を説明するフローチャートである。
【
図18】
図18は、
図17における第二の舵角を決定するための仮想舵角によるシミュレーションの処理手順の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用、結果、および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や、派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
【0016】
図1は、実施形態の牽引支援装置を搭載する牽引車両10および牽引車両10に牽引される被牽引車両12が示された側面図である。
図1では、紙面左方向を牽引車両10を基準とする前方、紙面右方向を牽引車両10を基準とする後方としている。
図2は、
図1に示す牽引車両10および被牽引車両12の上面図である。
【0017】
牽引車両10は、例えば、内燃機関(エンジン、図示されず)を駆動源とする自動車(内燃機関自動車)であってもよいし、電動機(モータ、図示されず)を駆動源とする自動車(電気自動車、燃料電池自動車等)であってもよいし、それらの双方を駆動源とする自動車(ハイブリッド自動車)であってもよい。牽引車両10は
図1に示されるようなスポーツ用多目的車両(Sport Utility Vehicle:SUV)であってもよいし、車両の後ろ側に荷台が設けられている、いわゆる「ピックアップトラック」であってもよい。また、一般的な乗用車であってもよい。牽引車両10は、種々の変速装置を搭載することができるし、内燃機関や電動機を駆動するのに必要な種々の装置(システム、部品等)を搭載することができる。また、牽引車両10における車輪14の駆動に関わる装置の方式や、数、レイアウト等は、種々に設定することができる。
【0018】
牽引車両10のリヤバンパ16の例えば車幅方向の中央部の下部からは、被牽引車両12を牽引するための牽引装置18(ヒッチ)が突出している。牽引装置18は牽引車両10の例えばフレームに固定されている。牽引装置18は、一例として、垂直方向(車両上下方向)に立設された先端部が球状のヒッチボール18aを備え、このヒッチボール18aに、被牽引車両12に固定された連結部材20の先端部に設けられたカプラ20aが覆い被さる。その結果、牽引車両10と被牽引車両12とが連結されるとともに、牽引車両10に対して被牽引車両12が車幅方向に揺動(旋回)可能となっている。つまり、ヒッチボール18aが、被牽引車両12(連結部材20)に前後左右の動きを伝え、また加速や減速のパワーを受け止めることになる。
【0019】
被牽引車両12は、例えば、
図1に示すように、搭乗空間、居住区間、収納空間等のうち少なくとも1つを含む箱形タイプであってもよいし、荷物(例えば、コンテナやボート等)を搭載する荷台タイプであってもよい。
図1に示す被牽引車両12は、一例として一対のトレーラ車輪22を備える。
図1の被牽引車両12は、駆動輪や操舵輪を含まない従動輪を備える従動車両である。
【0020】
また、
図1、
図2に例示されるように、牽引車両10には、複数の撮像部24として、例えば四つの撮像部24a~24dが設けられている。撮像部24は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCIS(CMOS image sensor)等の撮像素子を内蔵するデジタルカメラである。撮像部24は、所定のフレームレートで動画データ(撮像画像データ)を出力することができる。撮像部24は、それぞれ、広角レンズまたは魚眼レンズを有し、水平方向には例えば140°~220°の範囲を撮影することができる。また、撮像部24の光軸は斜め下方に向けて設定されている場合もある。よって、撮像部24は、牽引車両10が移動可能な路面や物体(障害物として歩行者、車両等や路面に付された白線やマーク等)を含む牽引車両10の外部の周辺環境を逐次撮影し、撮像画像データとして出力する。
【0021】
撮像部24a(後方撮像部)は、例えば、牽引車両10の後側のリヤハッチ10aの下方の壁部に位置される。撮像部24aは、牽引車両10の後端部(リヤバンパ16)、牽引装置18、連結部材20および被牽引車両12の少なくとも前端部を含む領域(例えば、二点鎖線で示す範囲、
図1参照)および被牽引車両12の側方から臨む被牽引車両12の後方領域等を撮影可能である。撮像部24aによって撮像された撮像画像データは、被牽引車両12の認識および、牽引車両10と被牽引車両12の連結状態(例えば、連結角度、連結の有無等)の検出に用いることができる。この場合、撮像部24aの撮像した撮像画像データに基づき牽引車両10と被牽引車両12との連結状態や連結角度が取得できるので、システム構成が簡略化できる。なお、別の実施形態では、例えば、牽引装置18または牽引装置18の周辺に設けられたセンサにより連結角度を取得してもよい。この場合、連結角度を取得するための処理の簡略化ができる。
【0022】
また、撮像部24b(左側方撮像部)は、例えば、牽引車両10の左側の端部、例えば左側のドアミラー10bに設けられて、牽引車両10の左側方を中心とする領域(例えば左前方から左後方の領域)を含む左側方画像を撮像する。撮像部24c(前方撮像部)は、例えば、牽引車両10の前側、すなわち車両前後方向の前方側の端部、例えばフロントグリル10cやフロントバンパ等に設けられて、牽引車両10の前方を含む前方画像を撮像する。撮像部24d(右側方撮像部)は、例えば、牽引車両10の右側の端部、例えば右側のドアミラー10dに設けられて、牽引車両10の右側方を中心とする領域(例えば右前方から右後方の領域)を含む右側方画像を撮像する。複数の撮像部24で得られた撮像画像データに基づいて演算処理や画像処理を実行し、より広い視野角の画像を生成したり、牽引車両10を上方から見た仮想的な俯瞰画像(平面画像)を生成したりすることができる。
【0023】
牽引車両10の車室内には、
図3に示されるように、表示装置26や、音声出力装置28が設けられている。表示装置26は、例えば、LCD(liquid crystal display)や、OELD(organic electroluminescent display)等である。音声出力装置28は、例えば、スピーカである。また、表示装置26は、例えば、タッチパネル等、透明な操作入力部30で覆われている。乗員(例えば、運転者)は、操作入力部30を介して表示装置26の表示画面に表示される画像を視認することができる。また、乗員は、表示装置26の表示画面に表示される画像に対応した位置で手指等で操作入力部30を触れたり押したり動かしたりして操作することで、操作入力を実行することができる。これら表示装置26や、音声出力装置28、操作入力部30等は、例えば、牽引車両10のダッシュボードの車幅方向すなわち左右方向の中央部に位置されたモニタ装置32に設けられている。モニタ装置32は、スイッチや、ダイヤル、ジョイスティック、押しボタン等の不図示の操作入力部を有することができる。モニタ装置32は、例えば、ナビゲーションシステムやオーディオシステムと兼用されうる。
【0024】
また、
図1、
図2に例示されるように、牽引車両10は、例えば、四輪自動車であり、左右二つの前輪14Fと、左右二つの後輪14Rとを有する。これら四つの車輪14は、いずれも転舵可能に構成されうる。
図3に示されるように、牽引車両10は、少なくとも二つの車輪14を操舵する操舵システム34を有している。操舵システム34は、アクチュエータ34aと、トルクセンサ34bとを有する。操舵システム34は、ECU36(electronic control unit)等によって電気的に制御されて、アクチュエータ34aを動作させる。操舵システム34は、例えば、電動パワーステアリングシステムや、SBW(steer by wire)システム等である。操舵システム34は、アクチュエータ34aによってステアリングホイールにトルク、すなわちアシストトルクを付加して操舵力を補ったり、アクチュエータ34aによって車輪14を転舵したりする。この場合、アクチュエータ34aは、一つの車輪14を転舵してもよいし、複数の車輪14を転舵してもよい。また、トルクセンサ34bは、例えば、運転者がステアリングホイールに与えるトルクを検出する。
【0025】
また、
図3に例示されるように、牽引支援システム100(牽引支援装置)では、ECU36や、モニタ装置32、操舵システム34等の他に、ブレーキシステム38、駆動システム40、舵角センサ42、アクセルセンサ44、シフトセンサ46、車輪速センサ48等が、電気通信回線としての車内ネットワーク50を介して電気的に接続されている。車内ネットワーク50は、例えば、CAN(controller area network)として構成されている。ECU36は、車内ネットワーク50を通じて制御信号を送ることで、操舵システム34、ブレーキシステム38、駆動システム40等を制御することができる。また、ECU36は、車内ネットワーク50を介して、トルクセンサ34b、ブレーキセンサ38b、舵角センサ42、アクセルセンサ44、シフトセンサ46、車輪速センサ48等の検出結果や、操作入力部30の操作信号等を、受け取ることができる。
【0026】
ECU36は、例えば、CPU36a(central processing unit)や、ROM36b(read only memory)、RAM36c(random access memory)、表示制御部36d、音声制御部36e、SSD36f(solid state drive、フラッシュメモリ)等を有している。CPU36aは、ROM36b等の不揮発性の記憶装置に記憶された(インストールされた)プログラムを読み出し、当該プログラムに従って演算処理を実行する。CPU36aは、例えば、被牽引車両12が連結された牽引車両10が目標領域(例えば、駐車目標領域等)に向かって後退走行する場合、被牽引車両12を目標領域に移動させるための適切な舵角の取得を実行したり、その舵角に基づき牽引車両10を走行させたりする支援を実行することができる。また、CPU36aは、例えば、撮像部24が撮像した撮像画像データに演算処理や画像処理を実行して、牽引車両10の周囲の状況を示す周辺画像(例えば、俯瞰画像)を生成することもできる。
【0027】
RAM36cは、CPU36aでの演算で用いられる各種のデータを一時的に記憶する。また、表示制御部36dは、ECU36での演算処理のうち、主として、表示装置26で表示される画像データの合成等を実行する。また、音声制御部36eは、ECU36での演算処理のうち、主として、音声出力装置28で出力される音声データの処理を実行する。SSD36fは、書き換え可能な不揮発性の記憶部であって、ECU36の電源がオフされた場合にあってもデータを記憶することができる。なお、CPU36aや、ROM36b、RAM36c等は、同一パッケージ内に集積されうる。また、ECU36は、CPU36aに替えて、DSP(digital signal processor)等の他の論理演算プロセッサや論理回路等が用いられる構成であってもよい。また、SSD36fに替えてHDD(hard disk drive)が設けられてもよいし、SSD36fやHDDは、ECU36とは別に設けられてもよい。
【0028】
ブレーキシステム38は、例えば、ブレーキのロックを抑制するABS(anti-lock brake system)や、コーナリング時の牽引車両10の横滑りを抑制する横滑り防止装置(ESC:electronic stability control)、ブレーキ力を増強させる(ブレーキアシストを実行する)電動ブレーキシステム、BBW(brake by wire)等である。ブレーキシステム38は、アクチュエータ38aを介して、車輪14ひいては牽引車両10に制動力を与える。また、ブレーキシステム38は、車輪速センサ48から取得できる左右の車輪14の回転差などからブレーキのロックや、車輪14の空回り、横滑りの兆候等を検出して、各種制御を実行することができる。ブレーキセンサ38bは、例えば、ブレーキペダルの可動部の位置を検出するセンサである。
【0029】
駆動システム40は、駆動源としての内燃機関(エンジン)システムやモータシステムである。駆動システム40は、アクセルセンサ44により検出された運転者(利用者)の要求操作量(例えばアクセルペダルの踏み込み量)にしたがいエンジンの燃料噴射量や吸気量の制御やモータの出力値を制御する。また、駆動システム40は、運転者の操作に拘わらず、牽引車両10の走行状態に応じて、操舵システム34やブレーキシステム38の制御と協働してエンジンやモータの出力値を制御しうる。
【0030】
舵角センサ42は、例えば、ステアリングホイールの操舵量を検出するセンサである。ECU36は、運転者によるステアリングホイールの操舵量や、自動操舵時の各車輪14の転舵量(舵角)等を、舵角センサ42から取得して各種制御を実行する。アクセルセンサ44は、例えば、アクセルペダルの可動部の位置を検出するセンサである。シフトセンサ46は、例えば、シフト操作部の可動部の位置を検出するセンサである。車輪速センサ48は、車輪14の回転量や単位時間当たりの回転数を検出するセンサである。車輪速センサ48は、検出した回転数を示す車輪速パルス数をセンサ値として出力する。ECU36は、車輪速センサ48から取得したセンサ値に基づいて牽引車両10の移動量などを演算し、各種制御を実行する。
【0031】
なお、上述した各種センサやアクチュエータの構成や、配置、電気的な接続形態等は、一例であって、種々に設定(変更)することができる。
【0032】
牽引支援システム100は、CPU36aで実現される牽引支援部による各種処理により、主として三種類の処理が実行可能である。第一に牽引支援システム100は、被牽引車両12が連結された牽引車両10を後退走行させて、被牽引車両12を目標領域にスムーズかつ容易に収めるように移動させるための制御を実行する。第二に牽引支援システム100は、目標領域に移動した(収まった)被牽引車両12に対して、目標領域内での被牽引車両12の姿勢の変化(偏向)を最小限に抑えつつ、被牽引車両12に対して牽引車両10を直列状態(真っ直ぐな状態)にするための制御を実行する。第三に牽引支援システム100は、直列状態にした被牽引車両12と牽引車両10との連結角度を維持しつつ、各車両が目標領域に収まるように移動させる制御を実行する。
【0033】
ところで、被牽引車両12を連結した牽引車両10が前進走行している場合、または後退走行(被牽引車両12を押し戻しながらの走行)している場合に、牽引車両10と被牽引車両12の連結角度が実質的に維持された状態になる場合がある。このような連結状態を「釣合状態」と称する。また、そのときの連結角度を「釣合角度」と称する。釣合状態の場合、例えば、後退走行の際に牽引車両10の挙動と被牽引車両12の挙動は概ね一致する。逆に、「非釣合状態」の場合、牽引車両10の後退走行に伴い被牽引車両12の連結角度が刻々と変化する。この「釣合状態」と「非釣合状態」との切り替えは、牽引車両10の舵角を調整して牽引車両10の旋回半径を変化させることで実行できる。したがって、「釣合状態」と「非釣合状態」とを意図的に切り替えることにより被牽引車両12の後退進路の制御可能となる。
【0034】
そこで、牽引支援システム100は、上述したような被牽引車両12の目標領域への移動を実行するために、牽引車両10の適切な舵角を取得するとともに、適切なタイミングでその舵角による後退走行を実行させる。その結果、牽引支援システム100は、運転者の技量(運転能力等)に拘わらず、操作負担を軽減しつつ、被牽引車両12および牽引車両10をスムーズかつ確実に目標領域に移動させる処理を実行することができる。
【0035】
以下の説明では、被牽引車両12が連結された牽引車両10を目標領域に移動させる場合の支援の一例として、被牽引車両12または被牽引車両12および牽引車両10を所定の駐車目標領域(駐車スペース)に駐車させる場合を説明する。
【0036】
図4は、上述したような、主として三種類の牽引支援を実行するために、牽引支援システム100におけるCPU36aで実現される牽引支援部52の例示的なブロック図である。
【0037】
牽引支援部52は、CPU36aがROM36b等の記憶装置にインストールされ記憶されたプログラムを読み出し、それを実行することで実現される。そして、牽引支援部52は、上述した各処理を実現するための各種モジュールを備える。例えば、牽引支援部52は、連結角度取得部54(取得部)、舵角取得部56、諸元取得部58、釣合舵角算出部60、目標領域設定部62(設定部)、進路取得部64、比較部66、出力部68、シミュレーション部70、自動走行制御部72、誘導走行指示部74等のモジュールを備える。また、出力部68は、第1舵角出力部68a、修正舵角出力部68b、第2舵角出力部68c、第3舵角出力部68d等を含む。
【0038】
連結角度取得部54は、牽引車両10と被牽引車両12との連結角度を取得する。舵角取得部56は、牽引車両10の現在の舵角を取得する。諸元取得部58は、主として被牽引車両12の諸元データを取得する。釣合舵角算出部60は、牽引車両10と被牽引車両12との釣合角度に関する計算を実行する。目標領域設定部62は、被牽引車両12や牽引車両10を移動させることができる目標領域を設定する。進路取得部64は、被牽引車両12が後退走行する場合に変化する移動進路の遷移を取得する。比較部66は、被牽引車両12や牽引車両10を目標領域に対する移動精度を向上させるために、移動位置、移動進路、車両姿勢等に関して目標値との比較を行う。出力部68は、主として牽引支援を実行するために牽引車両10に提供する種々の舵角を出力する。シミュレーション部70は、主として被牽引車両12に対して牽引車両10の連結状態を真っ直ぐ(直列状態)にする際の最適な舵角を取得するためのシミュレーションを実行する。自動走行制御部72は、牽引支援を実行する際に、牽引車両10の自動走行を実現する。誘導走行指示部74は、牽引支援を実行する際に、牽引車両10を運転者に運転(手動運転)させるための誘導走行指示を実行する。
【0039】
以下、各モジュールの詳細を説明する。
【0040】
連結角度取得部54は、牽引車両10と被牽引車両12との連結角度、例えば、牽引装置18を支点とする連結部材20の角度を取得する。この連結角度は、種々の方法で取得可能である。例えば、撮像部24aが撮像した撮像画像データに基づく画像を画像処理して取得することができる。
【0041】
図5、
図6は、撮像部24aが撮像した撮像画像データに基づく画像Pの一例である。画像Pには、牽引車両10のリヤバンパ16、牽引装置18および被牽引車両12の先端の一部が含まれている。
図5は、牽引車両10に対して被牽引車両12が真っ直ぐ(連結角度θ=「0」)に連結されている、いわゆる「直列状態」を示す図である。牽引装置18は例えば牽引車両10の車幅方向のほぼ中央に位置している。すなわち、牽引車両10の前後方向に延びる、ヒッチボール18aを通る車両中心軸Mに対して、連結部材20の前後方向(長手方向)に延びる、カプラ20aを通る連結中心軸Nが実質的に重なっている状態である。一方、
図6は、牽引車両10の牽引装置18を支点として、連結部材20(被牽引車両12)が、例えば矢印T1方向に旋回して(曲がって牽引されて)、連結角度θとなっている状態である。この場合、被牽引車両12は牽引車両10の運転席から見て左側に旋回している(曲がっている)ことになる。
【0042】
連結角度取得部54は、撮像部24aが撮像した撮像画像データに基づく画像Pから牽引装置18のヒッチボール18aを通る直線を検出して、この直線を連結部材20の連結中心軸Nとする。撮像部24aが撮像した画像P上での牽引車両10の車両中心軸Mは既知なので、車両中心軸Mと連結中心軸Nとから連結角度θが検出できる。被牽引車両12(連結部材20)が矢印T2方向に旋回している(曲がっている)場合の連結角度も同様に検出できる。なお、本実施形態の場合、撮像部24aは、牽引装置18の直上、すなわち、車両中心軸Mと同軸上に配置されている例を示している。つまり、連結部材20をほぼ真上から俯瞰できるため、車両中心軸Mと連結中心軸Nとの成す連結角度θの検出が容易である。一方、牽引車両10の構造上の都合や他の理由により撮像部24aを牽引装置18の直上に設置できない場合がある。例えば、リヤハッチ10aの中央から左右いずれかの方向にずれた位置に撮像部24aが設置される場合がある。この場合、撮像部24aが撮像した画像Pの二次元座標を牽引装置18(ヒッチボール18a)の地上高(仕様書等に基づく既知の値)に基づき三次元座標に変換することで、車両中心軸Mと連結中心軸Nとに基づく連結角度θを検出することができる。
【0043】
なお、別の実施形態では、被牽引車両12の前端面等に識別容易なマーク等を付し、画像P上でそのマークの位置を認識することにより、牽引車両10に対する被牽引車両12の方向、つまり連結角度θを算出してもよい。この場合、マークを複数、例えば、前端面の左右位置等に配置することにより、認識精度の向上を図ることができる。また、別の実施形態では、例えば、牽引装置18またはその周辺に角度センサを設けて、牽引装置18に対する連結部材20の角度を検出し、その角度を連結角度θとしてもよい。この場合、CPU40aの処理負荷が軽減できる。
【0044】
舵角取得部56は、舵角センサ42の検出した牽引車両10の舵角を取得する。つまり、運転者がこれから牽引車両10を走行させようとしている方向の舵角を取得する。なお、舵角取得部56は、シフトセンサ46が出力する変速操作部の可動部の位置に基づき、牽引車両10が前進可能状態か後退可能状態かを取得して、現在の舵角が前進状態時の舵角か後退状態時の舵角かを識別できるようにしてもよい。
【0045】
諸元取得部58は、主として被牽引車両12の諸元を取得する。前述した牽引車両10と被牽引車両12とが釣合状態であるか否かは、一例として、牽引車両10の旋回中心位置(第1の旋回中心位置)と被牽引車両12の旋回中心位置(第2の旋回中心位置)とが一致しているか否かで判定可能である。例えば、第1の旋回中心位置と第2の旋回中心位置とが一致している場合に、釣合状態となる。そして、牽引車両10の第1の旋回中心位置は、牽引車両10の現在の舵角および牽引車両10のホイールベースの長さLV(
図7参照)に基づき取得することができる。一方、被牽引車両12の第2の旋回中心位置は、牽引車両10と被牽引車両12の連結角度θと、被牽引車両12のホイールベースの長さLT(
図7参照)とに基づいて取得することができる。被牽引車両12のホイールベースの長さLTは、牽引装置18から連結部材20を含む被牽引車両12のトレーラ車輪22の車軸までの長さである。ただし、牽引車両10には、種々の仕様の被牽引車両12が連結可能であり、被牽引車両12の仕様によりホイールベースの長さLTが異なる。諸元取得部58は、モニタ装置32の操作入力部30を用いた運転者等の直接入力により連結する被牽引車両12のホイールベースの長さLTを取得してもよいし、牽引車両10が被牽引車両12を牽引して前進走行することにより推定した値をホイールベースの長さLTと見なして取得してもよい。運転者が直接入力する場合は、例えば被牽引車両12の仕様書等を参考に行うことができる。
【0046】
図8は、被牽引車両12のホイールベースの長さLTの推定方法の一例を説明する模式図である。なお、
図8の場合、簡略化のため、牽引車両10の前輪14F、後輪14Rおよび被牽引車両12のトレーラ車輪22は、いずれも車幅方向の中央、すなわち、車両前後方向に延びる中心軸上(前輪14Fおよび後輪14Rは車両中心軸M上、トレーラ車輪22は連結中心軸N上)に存在する2輪軸モデルを用いて説明する。
【0047】
前述したように、牽引車両10と被牽引車両12とが釣合状態であるか否かは、牽引車両10と被牽引車両12の連結角度θと、牽引車両10の舵角と、牽引車両10のホイールベースの長さLVと、被牽引車両12のホイールベースの長さLTと、に基づいて、算出される牽引車両10および被牽引車両12の旋回中心位置を用いて判定することができる。言い換えれば、牽引車両10と被牽引車両12とが連結角度θで釣合状態の場合、その状態に基づき被牽引車両12のホイールベースの長さLTを逆算することができる。なお、牽引車両10が被牽引車両12を一定の旋回半径で前進走行している場合(従動牽引している場合)に連結角度θで釣合状態となる牽引車両10と被牽引車両12との連結姿勢を容易に形成できる。
【0048】
図8は、牽引車両10が旋回中心位置Gを中心として、旋回半径Rで前進走行(前進牽引)する場合をX-Z座標上で説明する図である。
図8の場合、牽引車両10の後輪14RがX-Z座標の原点Oの位置に存在するものとし、牽引車両10の前輪14Fの舵角が旋回半径Rで後輪14Rが旋回可能な角度に操舵されているものとする。前述したように、牽引車両10が一定の舵角を維持して前進走行(旋回走行)を継続すると、被牽引車両12は、牽引車両10に固定された牽引装置18を支点として牽引車両10の車両中心軸Mに対して連結角度θを維持した状態で、牽引車両10と同じ旋回中心位置G(Ga,Gb)を中心として従動走行する。なお、このとき、牽引車両10のホイールベースの長さLVと、後輪14Rの車軸の位置から牽引装置18までのヒッチ距離LCは牽引車両10の仕様書等に基づき既知であり、旋回半径Rは、牽引車両10の舵角センサ42の検出結果に基づき算出可能である。また、連結角度θは、牽引車両10の撮像部24aが撮像した撮像画像データに基づき取得可能である。なお、旋回中心位置Gを中心として被牽引車両12が釣合状態で旋回している場合、旋回中心位置Gを通過する直線と連結中心軸Nとが直行する位置に被牽引車両12のトレーラ車輪22の車軸が存在する。したがって、まず、
図8上で、牽引装置18を通過し、傾きが連結角度θの直線Aを示す情報(例えば、直線Aの式)を取得する。また、牽引車両10の舵角とホイールベースの長さLVとから旋回中心位置G(座標)が取得できる。この旋回中心位置Gを通り、(π/2)-θの傾きの直線Bを示す情報(例えば、直線Bの式)を取得し、直線Aと直線Bの交点Sの情報(座標)が取得できる。そして、牽引装置18の座標と交点Sの座標から被牽引車両12のホイールベースの長さLTの長さを推定することができる。
【0049】
釣合舵角算出部60は、被牽引車両12が連結された牽引車両10を後退走行させる場合に、牽引車両10と被牽引車両12との連結状態を維持した「釣合状態」となる牽引車両10の舵角(釣合舵角)を算出する。また、釣合舵角算出部60は、「釣合状態」とせずに、牽引車両10の後退走行時に牽引車両10に対して被牽引車両12を意図的に旋回させて、被牽引車両12の向きを所望の方向に向けるような舵角や被牽引車両12に対して牽引車両10を意図的に旋回させて被牽引車両12に対する牽引車両10の連結姿勢(連結角度)を調整する場合の舵角(非釣合舵角)を算出する。
【0050】
図9および
図10は、牽引車両10の第1の旋回中心位置Gaと被牽引車両12の第2の旋回中心位置Gbとの関係を説明する例示的な模式図である。
図9は、第1の旋回中心位置Gaと第2の旋回中心位置Gbとが一致して「釣合状態」になっている場合であり、
図10は、第1の旋回中心位置Gaと第2の旋回中心位置Gbとが不一致となり「非釣合状態」になっている場合である。
【0051】
図9に示すように、X-Z座標上で、例えば牽引車両10の後輪14Rが原点Oに存在すると仮定する場合、牽引車両10のホイールベースの長さLVが分かれば、Z軸上で前輪14Fの位置が定まる。そして、現在の舵角の前輪14Fの車軸の延長線(直線C)とX軸との交点が牽引車両10の第1の旋回中心位置Gaになる。つまり、牽引車両10が現在の舵角で走行する場合に、牽引車両10の舵角とホイールベースの長さLVとに基づき、牽引車両10の第1の旋回中心位置Gaを取得することができる。また、被牽引車両12の場合、牽引装置18の位置と連結角度θと被牽引車両12のホイールベースの長さLTが分かれば、被牽引車両12のトレーラ車輪22の位置がX-Z座標上で定まる。被牽引車両12の第2の旋回中心位置は、トレーラ車輪22の車軸の延長線(直線B)上に存在し、X軸との交点が被牽引車両12の第2の旋回中心位置Gbになる。釣合舵角算出部60は、あるタイミングで、被牽引車両12の第2の旋回中心位置Gbを算出し、牽引車両10の第1の旋回中心位置Gaを算出した被牽引車両12の第2の旋回中心位置Gbに一致させるような牽引車両10の舵角を算出することで、「釣合舵角」を取得する。
【0052】
逆に、釣合舵角算出部60は、「非釣合舵角」を算出することができる。
図10に例示するように、牽引車両10の第1の旋回中心位置Gaと被牽引車両12の第2の旋回中心位置Gbが異なる場合、牽引装置18で連結された牽引車両10と被牽引車両12とは非釣合状態となる。前述したように、被牽引車両12の第2の旋回中心位置Gbは、連結角度θとホイールベースの長さLTで定まる。一方、牽引車両10は操舵部の操舵により舵角を自由に変化させることができる。つまり、第1の旋回中心位置Gaは、連結角度θに拘わらず正確に位置調整できる。例えば、牽引車両10の舵角を
図9の状態から、さらに右(時計回り方向)に回転させた場合、牽引車両10は
図9の場合より小さい旋回半径で旋回する。すなわち、牽引車両10の旋回中心位置は、
図10のX軸上を図中左に移動して、例えば第1の旋回中心位置Ga1となる。逆に牽引車両10の舵角を
図9の状態から、さらに左(反時計回り方向)に回転させた場合、牽引車両10は
図9の場合より大きな旋回半径で旋回する。すなわち、牽引車両10の旋回中心位置は、
図10のX軸上を図中右に移動して、例えば第1の旋回中心位置Ga2となる。牽引車両10を第1の旋回中心位置Ga1で旋回するように後退させた場合、被牽引車両12は、現在の連結角度θが小さくなる方向Taに連結姿勢を変化させながら後退する。また、牽引車両10を第1の旋回中心位置Ga2で旋回するように後退させた場合、被牽引車両12は、現在の連結角度θが大きくなる方向Tbに連結姿勢を変化させながら後退する。したがって、釣合舵角算出部60は、あるタイミングで、被牽引車両12の第2の旋回中心位置Gbを算出することで、被牽引車両12の旋回方向を調整するような牽引車両10の舵角、つまり「非釣合舵角」を算出できる。
【0053】
目標領域設定部62は、少なくとも被牽引車両12を移動可能な目標領域(例えば、駐車目標位置)を設定する。目標領域設定部62は、例えば、被牽引車両12を連結した牽引車両10が前進走行している場合に、撮像部24で撮像された撮像画像を取得する。そして、目標領域設定部62は、取得した撮像画像に対して、周知の白線検出処理や物体認識処理等を施し、被牽引車両12を収めることのできる領域の検出を行う。このとき、目標領域設定部62は、諸元取得部58が取得した被牽引車両12の諸元データ(例えば、被牽引車両12の車幅、ホイールベースの長さLT等)に基づき、被牽引車両12を移動(駐車)可能な領域を撮像画像上で探索し、例えば、表示装置26上示す。この場合、目標領域設定部62は、被牽引車両12が移動(駐車)可能な領域(例えば、枠、駐車枠)を複数検出し、目標領域の候補として表示装置26に複数表示して運転者にいずれかを選択させてもよい。また、別の実施形態では、目標領域設定部62は、複数の候補の中から、例えば最も容易な操舵や最も短い移動距離で移動(駐車)動作を完了させられる推奨目標領域を表示装置26上に表示してもよい。また、目標領域設定部62は、表示装置26に表示された周辺画像上で運転者に所望の位置を指定させ、そこを目標領域に設定するようにしてもよい。
【0054】
進路取得部64は、牽引車両10が後退走行する場合に連結角度の変化に基づく被牽引車両12の移動進路の遷移を取得する。前述したように、牽引車両10に対して非釣合状態の被牽引車両12は、牽引車両10の後退走行によって連結角度が刻々と変化し、当該被牽引車両12の向きが変化する。上述したように、牽引装置18の位置と連結角度θとホイールベースの長さLTとに基づき、被牽引車両12の第2の旋回中心位置が算出可能である。つまり、進路取得部64は、連結角度の変化に伴う被牽引車両12の旋回半径を取得することにより、現在の被牽引車両12の位置を基準とした移動進路およびその遷移を取得できる。
【0055】
比較部66は、目標領域設定部62で設定された目標領域の位置と、進路取得部64が取得した被牽引車両12の移動進路の推移位置とを比較し、遷移する移動経路が、目標領域に被牽引車両12を移動させることができる(収めることができる)タイミングになったときに、その移動進路を推奨移動進路とすることができる。例えば、目標領域設定部62に設定された目標領域の間口(被牽引車両12の進入口の幅)は撮像部24が撮像した撮像画像に基づき推定可能であり、間口の中央位置(目標領域の進入口の幅の中点)を認識可能である。したがって、比較部66は、間口の中央位置に対して、その間口方向の所定範囲内を遷移する移動進路が進入した場合に、その移動経路を推奨移動進路とする。
【0056】
図11は、目標領域設定部62、進路取得部64、比較部66による推奨移動進路の取得の様子および被牽引車両12の移動の様子を例示的に示した模式図である。
【0057】
まず、
図11のシーンP1に示すように、被牽引車両12が連結された牽引車両10は、前進走行している間に撮像部24により牽引車両10の周囲状況を撮像する。目標領域設定部62は、撮像画像に基づき、被牽引車両12を移動(駐車)させる、例えば白線76等で規定される目標領域78を設定する。この場合、撮像部24a~24dのうちいずれの撮像部24で撮像された撮像画像を用いてもよい。比較部66は、目標領域78が設定された場合、間口Wの中央位置Wcを設定する。シーンP1の場合、牽引車両10に対して目標領域78は左方向に存在するため、被牽引車両12が後退走行しながら目標領域78に接近させるためには、
図10で説明したように、牽引車両10の旋回中心位置を第1の旋回中心位置Ga1に移動させることになる。つまり、シーンP2に示すように牽引車両10のステアリングホイールを右方向に転舵させる必要がある。
【0058】
右方向に転舵した状態で牽引車両10を後退走行させると、シーンP2に示されるように、被牽引車両12は左方向に向きを変えながら移動する。この場合、牽引車両10の後退走行に伴い牽引車両10と被牽引車両12との連結角度は刻々と変化し、移動進路80が遷移していく。比較部66は、予め設定した目標領域78の間口Wの中央位置Wcと遷移する移動進路80とを比較し、中央位置Wcに対して、間口方向の所定範囲内に遷移する移動進路80が進入した場合、その移動進路80を推奨移動進路80aとする(シーンP3参照)。シーンP3に示されるように、牽引車両10と被牽引車両12とが連結角度の変化を伴うことなく推奨移動進路80aにしたがい後退走行する場合、シーンP4に示されるように、被牽引車両12は目標領域78に移動することができる。したがって、比較部66により推奨移動進路80aが取得されたときに、釣合舵角算出部60は、被牽引車両12の現在の連結角度に基づく牽引車両10の釣合舵角を算出する。
【0059】
図4に戻り、出力部68は、被牽引車両12の牽引支援処理を実行する中で、被牽引車両12を適切に移動させるための牽引車両10の舵角を適宜出力する。例えば、
図11のシーンP3で進路取得部64と比較部66との協働により推奨移動進路80aが取得された場合、第1舵角出力部68aは、釣合舵角算出部60から連結角度を維持するための牽引車両10の第1舵角(第一の舵角)を取得し出力する。
【0060】
牽引支援が自動走行制御部72による自動走行制御により実施される場合、第1舵角出力部68aは、自動走行制御部72に対し第1舵角を出力する。また、牽引支援が誘導走行指示部74による誘導走行指示によって実施される場合、第1舵角出力部68aは、誘導走行指示部74に対し第1舵角を出力する。第1舵角出力部68aが第1舵角を出力するモードを「連結角度維持モード」と称する場合もある。
【0061】
なお、牽引支援システム100は、牽引支援のための後退走行が開始される場合に、釣合舵角算出部60によって、被牽引車両12を目標領域78が存在する方向に傾ける(臨む)ように連結角度を変化させるための牽引車両10の舵角を算出させて、その舵角を出力部68を介して自動走行制御部72や誘導走行指示部74に出力させるようにしてもよい。この場合、釣合舵角算出部60は、例えば、連結角度取得部54が取得する現在の連結角度、舵角取得部56が取得する牽引車両10の現在の舵角、車輪速センサ48から取得可能な牽引車両10の車速等に基づき、被牽引車両12が目標領域78に向かうための牽引車両10の舵角を算出する。この場合、釣合舵角算出部60は「非釣合舵角」や「非釣合舵角」と「釣合舵角」の組合せ等を出力し、被牽引車両12の移動進路が効率的かつスムーズに推奨移動進路と実質的に同じとなるように舵角を算出する。そして、出力部68は、算出した舵角を自動走行制御部72や誘導走行指示部74に出力し、自動走行または手動走行により被牽引車両12を移動させる。その結果、牽引支援システム100は、牽引車両10の後退走行開始から被牽引車両12を目標領域78に移動させるための一連の移動動作をスムーズかつ効率的に実現することができる。
【0062】
ところで、被牽引車両12や牽引車両10が推奨移動進路80aにしたがい実際に移動する場合に、
図12に例示されるように、路面状態や他の外的要因によって、被牽引車両12の実際に移動している実進路80bが推奨移動進路80aからずれてしまう場合がある。例えば、被牽引車両12のトレーラ車輪22が路面の凹凸や石82等の上を通過した場合、トレーラ車輪22の向き、すなわち被牽引車両12の向き(連結角度)が変化してしまう場合がある。この場合、釣合舵角算出部60は、変化した連結角度に基づき、被牽引車両12の実進路80bを推奨移動進路80aに復帰させるための牽引車両10の修正舵角を算出する。この場合、釣合舵角算出部60は、目標領域78の間口Wの中央位置Wcに向かって移動進路が変更されるような牽引車両10の修正舵角を算出する。つまり、推奨移動進路80aに対する実進路80bのずれの状況に応じて、被牽引車両12のずれ方向(方向Taまたは方向Tb:
図10参照)を取得する。そして、被牽引車両12を実進路80bのずれ量に応じた量だけ移動させるような、牽引車両10の第1の旋回中心位置を実現する牽引車両10の舵角を修正舵角として算出する。修正舵角出力部68bは、釣合舵角算出部60から修正舵角を取得し、自動走行制御部72や誘導走行指示部74に対して出力して、被牽引車両12の実進路80bを修正するように牽引車両10を後退走行させる。そして、比較部66により実進路80bが推奨移動進路80aに復帰したことが検出された場合、第1舵角出力部68aは、改めて釣合舵角算出部60から現在の連結角度を維持するような第1舵角を取得し出力する。
【0063】
シミュレーション部70は、主として被牽引車両12に対して牽引車両10の連結状態を真っ直ぐ(直列状態)にする際の最適な舵角を取得するためのシミュレーションを実行する。前述したように、被牽引車両12は、第1舵角出力部68aが第1舵角を出力するタイミングで、当該第1舵角の一例としての「釣合舵角」で牽引車両10を後退走行させることになる。その結果、例えば、
図11のシーンP4で示されるように、被牽引車両12は、目標領域78に移動することができる。この場合、シーンP4のように、被牽引車両12に対して牽引車両10が曲がっている場合(連結角度が「0°」ではない場合)がある。そして、被牽引車両12を目標領域78に移動(駐車)するのみで、被牽引車両12から牽引車両10を切り離して、牽引車両10のみが他の場所に移動する場合は、被牽引車両12が目標領域78に移動したときの連結角度を配慮する必要は特にない。一方、被牽引車両12と共に牽引車両10を目標領域78に移動(駐車)したい場合は、
図11のシーンP4の状態から牽引車両10を被牽引車両12に対して真っ直ぐ(直列状態)にする必要がある。そこで、シミュレーション部70は、被牽引車両12が目標領域78に移動した(収まった)場合(シーンP4の状態)に、目標領域78に対する被牽引車両12の姿勢(後述する偏向角度)を維持した上で、牽引車両10を後退走行させる場合に、被牽引車両12の偏向角度に牽引車両10の偏向角度を近づけるような牽引車両10の第2舵角(第二の舵角)をシミュレーションにより取得する。言い換えれば、シミュレーション部70は、牽引車両10に対する被牽引車両12の連結角度が最小となる(例えば、連結角度≒0°の直列状態と見なせる角度となる)ときの被牽引車両12の目標領域78に対する偏向角度を算出する。なお、牽引車両10の後退距離を長く確保できれば、牽引車両10と被牽引車両12とはいずれ直列状態にすることが可能であるが、目標領域78の奥行きには制限がある。したがって、シミュレーション部70は、所定の後退距離未満で偏向角度が最小となるものを第2舵角として採用する。
【0064】
シミュレーション部70は、牽引支援処理が開始されると、例えば、目標領域設定部62が取得した目標領域78に対する相対座標系(路面座標系)を定義する。そして、シミュレーション部70は、舵角センサ42から取得される牽引車両10の舵角や車輪速センサ48から取得される車輪速情報、連結角度等に基づき、牽引車両10の舵角を変化させた場合の相対座標系上で、目標領域78に対する牽引車両10の相対位置の変化を取得することができる。また、牽引車両10に対する被牽引車両12の相対位置は、連結角度に基づき取得可能なので、シミュレーション部70は、目標領域78に対する被牽引車両12の相対位置の変化も同様に取得することができる。
【0065】
さらに、シミュレーション部70は、相対座標系において、目標領域78に対する牽引車両10および被牽引車両12の傾き(偏向角度)の変化を取得することができる。具体的には、相対座標系上で牽引車両10および被牽引車両12の相対位置が変化した場合の、目標領域78の奥行き方向と平行な方向に対する牽引車両10の前後方向(車両中心軸Mの方向:
図6参照)の偏向角度の変化を取得することができる。同様に、シミュレーション部70は、目標領域78の奥行き方向と平行な方向に対する被牽引車両12の前後方向(連結中心軸Nの方向:
図6参照)の偏向角度の変化を取得することができる。シミュレーション部70は、これらの相対位置や偏向角度に基づき、第3の舵角を取得することができる。
【0066】
具体的なシミュレーション部70によるシミュレーションの例を
図13および
図13の部分拡大図を示す
図14を用いて説明する。
図13は、
図8と同様に、簡略化のため、牽引車両10の後輪14Rおよび被牽引車両12のトレーラ車輪22は、いずれも車幅方向の中央、すなわち、車両前後方向に延びる中心軸上(後輪14Rは車両中心軸M上、トレーラ車輪22は連結中心軸N上)に存在する2輪軸モデルとして表したものである。なお、牽引車両10と被牽引車両12とを連結するヒッチボール18aは牽引車両10に固定されているので、後輪14Rに位置に対してヒッチボール18aの位置は既知である。
図13は、
図11のシーンP4のように、被牽引車両12が目標領域78に移動した時点で、牽引車両10(後輪14R)に対して被牽引車両12(トレーラ車輪22)が左に傾いている例が示されている。
【0067】
図10で説明してように、牽引車両10に対して被牽引車両12が傾いている場合、牽引車両10の舵角を牽引車両10と被牽引車両12とが釣合状態となっている釣合舵角から被牽引車両12が傾いている方向の最大舵角の間で変化させると、牽引車両10が後退走行した際に、被牽引車両12は逆方向に傾きながら後退する。例えば、
図13に示されるように、牽引車両10に対して被牽引車両12が左に傾いている場合、牽引車両10の舵角を釣合舵角から左最大舵角の間で変化させると、牽引車両10が後退走行した際に、被牽引車両12は右方向に傾きながら後退する。つまり、被牽引車両12と牽引車両10とが真っ直ぐ(直列状態)になるように連結角度が変化して行く。したがって、シミュレーション部70は、連結角度が変化して直列状態になる場合において、最終的に目標領域78に対する被牽引車両12の姿勢の変化量(目標領域78の奥行き方向と平行な方向に対する偏向角度の変化量)が小さくなるような牽引車両10の舵角を算出する。そして、目標領域78の奥行き方向で許容される所定距離(例えば5m)だけ牽引車両10が後退する間に、偏向角の変化量が最小となる牽引車両10の舵角を第2舵角として取得する。そして、この第2舵角で牽引車両10を後退走行させることで、被牽引車両12に対して牽引車両10を直列状態に近づけつつ、被牽引車両12および牽引車両10を目標領域78に移動させることができる。
【0068】
図13において、牽引車両10の舵角を、釣合舵角から左最大舵角の間で仮想的な角度(仮想角度)に変化させて、牽引車両10を所定短距離(例えば、0.5m)後退させるとする。仮想舵角は、シミュレーションの間に順次変化させるが、初期値として、例えば、左最大舵角をする。そして、牽引車両10を後退走行させると、牽引車両10の後輪14Rの自車現在位置Pc1は、牽引車両10の現在の舵角で定まる後輪14Rの旋回半径Rc上を移動し、破線で示す自車移動位置Pc2に移動する。このとき、ヒッチボール18aは牽引車両10に固定されているため、ヒッチボール18aも同様にヒッチ現在位置Ph1から牽引車両10の現在の舵角で定まるヒッチボール18aの旋回半径Rh上を移動し、ヒッチ移動位置Ph2に移動する。また、
図13において、移動前のトレーラ車輪22(被牽引車両12)のトレーラ現在位置Pt1は、ヒッチ現在位置Ph1を中心とし、被牽引車両12のホイールベースの長さLTによって決まる旋回円C1上の、移動前の牽引車両10と被牽引車両12との連結角度で定まる位置に存在する。そして、移動後のトレーラ車輪22(被牽引車両12)のトレーラ移動位置Pt2は、ヒッチ移動位置Ph2を中心とし、被牽引車両12のホイールベースの長さLTによって決まる旋回円C2上のいずれかの位置に存在する。この場合、牽引車両10の所定短距離の後退に伴うトレーラ移動位置Pt2の旋回(傾き)量は僅かであると見なすことができる。
【0069】
そこで、シミュレーション部70は、まず、移動前のヒッチ現在位置Ph1と移動前のトレーラ現在位置Pt1とを結ぶ直線K1が、移動後のトレーラ車輪22(被牽引車両12)の旋回円C2と交差する位置を仮想位置Pkとする。トレーラ移動位置Pt2は、ヒッチボール18aがヒッチ現在位置Ph1からヒッチ移動位置Ph2に移動するのに伴い、旋回円C1上の位置から旋回円C2上の位置に移動する過程で、ヒッチ移動位置Ph2を中心として右方向(反時計回り方向)に旋回する(傾く)。そこで、シミュレーション部70は、トレーラ現在位置Pt1と仮想位置Pkとの中点L/2を仮想中点Pxとし、移動後のヒッチ移動位置Ph2と仮想中点Pxとを結ぶ直線K2が移動後のトレーラ車輪22(被牽引車両12)の旋回円C2と交差する位置にトレーラ移動位置Pt2が存在すると推定する。なお、被牽引車両12に対して牽引車両10が右に傾いていた場合も同様であり、釣合舵角から右最大舵角の間で仮想角度を設定してシミュレーションを行えばよい。
【0070】
シミュレーション部70は、自車移動位置Pc2、ヒッチ移動位置Ph2および推定したトレーラ移動位置Pt2を、新たに移動前の位置とする。そして、シミュレーション部70は、新たな移動前の位置に対して、上述と同様に所定短距離(例えば、0.5m)の後退を行った場合の次の移動位置の推定処理を繰り返し実行する。シミュレーション部70は、この推定処理を、牽引車両10に対する被牽引車両12の連結角度が、例えば、連結角度=0°に近い角度(直列状態となる)まで繰り返すとともに、そのときの被牽引車両12の目標領域78に対する偏向角度の変化量を算出する。そして、シミュレーション部70は、被牽引車両12に対して牽引車両10を直列状態にするための牽引車両10の後退距離が所定制限値(例えば、5m)未満となるものを第2舵角の候補として、被牽引車両12の偏向角度の変化量とそのときの仮想舵角をRAM36c等に一時保存する。
【0071】
シミュレーション部70は上述した偏向角度の「変化量」を算出するシミュレーションを仮想舵角を所定角度(例えば10°)増加させながら、例えば、
図11のシーンP4のときの牽引車両10と被牽引車両12の釣合舵角に到達するまで繰り返し実行する。そして、シミュレーション部70は、偏向角度の変化量が最小となる偏向角度最小値に対応する仮想舵角を第2舵角とする。出力部68の第2舵角出力部68cは、この第2舵角を自動走行制御部72または誘導走行指示部74に出力し、
図11のシーンP4以降の牽引支援を実行させる。第2舵角出力部68cが第2舵角を出力するモードを「直列モード」と称する場合もある。
【0072】
なお、シーンP4の段階で、目標領域78に対して被牽引車両12が傾いて移動している場合、例えば、目標領域78の奥行き方向と平行な方向に対する被牽引車両12の偏向角度が許容値(例えば±5°)以上傾いている場合がある。この場合、シミュレーション部70は、被牽引車両12に対して牽引車両10を直列状態にするとともに、被牽引車両12が目標領域78の奥行き方向に対して平行に近づくような姿勢修正が行われるような、第3舵角(第三の舵角)のシミュレーション結果を算出するようにしてもよい。
【0073】
図15は、シミュレーション部70のシミュレーション結果を用いて、被牽引車両12を連結した牽引車両10が後退走行しながら目標領域78に被牽引車両12および牽引車両10が移動する状況を説明する例示的な模式図である。なお、
図15には、
図11のシーンP3およびシーンP4が併せて示されている。
【0074】
図15に示されるシーンP3において、牽引支援部52は、「連結角度維持モード」の実行中であり、推奨移動進路80aにしたがい被牽引車両12を移動させるために牽引車両10は、第1舵角にしたがい目標領域78に向かって後退走行している。そして、シーンP4において、被牽引車両12は、目標領域78の奥行き方向と平行な方向(例えば、目標領域78の中心線84)に対して、例えば、偏向角度「0°」で移動を完了したとする。このとき、シーンP5に示すように、第1舵角(例えば)、釣合舵角)で連結角度を維持した状態で後退してきた牽引車両10は、被牽引車両12に対して左方向に角度θtだけ傾いていたとする。この場合、牽引支援部52は、「直列モード」に移行可能となる。シミュレーション部70は、牽引車両10と被牽引車両12とを直列状態にするように、目標領域78に対する被牽引車両12の偏向角度(シーンP5の場合、0°)を維持した上で牽引車両10を後退走行させつつ、被牽引車両12の偏向角度(0°)に牽引車両10の偏向角度を近づけるような第2舵角を算出するシミュレーションを実行する。
【0075】
シーンP5は、シミュレーション部70のシミュレーション結果に基づく第2舵角による走行で、被牽引車両12が目標領域78に対する偏向角度の変化を最小限に抑えつつ、牽引車両10の偏向角度が被牽引車両12の偏向角度に近づいて行く様子(角度θtが減少する様子)を示している。そして、シーンP6は、被牽引車両12の偏向角度に対して、牽引車両10の偏向角度が最も近づいた状態(直列状態)になった状態を示している。牽引車両10は、この状態になった場合、舵角を中立の位置(舵角=0°)のまま、後退走行すればよいことになる。ただし、この場合も、第2舵角の状態から舵角=0°に戻し、かつその状態を維持して後退走行する必要がある。そこで、釣合舵角算出部60は、被牽引車両12と牽引車両10とが直列状態を維持したまま、つまり、連結角度を維持するための牽引車両10の第3舵角を算出する。そして、第3舵角出力部68dは、釣合舵角算出部60の算出した第3舵角を自動走行制御部72または誘導走行指示部74に出力して、被牽引車両12および牽引車両10を後退走行させる。その結果、シーンP7に示すように、被牽引車両12および牽引車両10が直列状態のまま、目標領域78に完全に移動することができる。
【0076】
牽引支援システム100が、自動走行制御により牽引支援を実現する場合、自動走行制御部72は、出力部68から各状況に合わせた舵角(第1舵角、修正舵角、第2舵角、第3舵角)の提供を受け、PID制御等を用いて操舵システム34を制御して、牽引車両10の舵角を制御する。また、自動走行制御部72は、ブレーキシステム38や駆動システム40等を併せて制御し、牽引車両10を安全な車速、例えば、5km/h以下で、各舵角したがう方向に後退走行させる。また、牽引支援システム100が、誘導走行指示により牽引支援を実現する場合、出力部68から各状況に合わせた舵角を運転者に指示する。誘導走行指示部74は、例えば、各舵角や転舵方向、アクセル操作量やブレーキ操作量、またそれらの操作タイミング等を表示制御部36dを介して表示装置26に表示させる。そして、運転者にその表示内容にしたがい運転操作を促す。この場合、誘導走行指示部74は、音声制御部36eを介して音声出力装置28から音声メッセージによる操作指示を提供してもよい。なお、誘導走行指示部74からの舵角変更の指示を出す場合、誘導走行指示部74は、舵角の変更に先立ち牽引車両10を一旦停車させる停止指示を出してもよい。舵角変更前に牽引車両10を停車させることで、転舵タイミングの遅れや転舵の誤差の軽減が可能になり、被牽引車両12および牽引車両10を目標領域78に移動させるための適切な操舵を実現させることができる。なお、別の実施形態において、牽引支援システム100は、自動走行制御部72と誘導走行指示部74とを協働させて牽引支援を実行してもよい。例えば、操舵のみを自動走行制御部72による自動制御で実行させ、他の操作、例えばアクセル操作やブレーキ操作等を誘導走行指示部74で提示される操作指示により運転者自身に実行させるようにしてもよい。自動走行制御部72と誘導走行指示部74とが実行する操作内容は、初期設定により定められていてもよいし、運転者やディーラ作業者による操作により適宜変更可能としてもよい。この場合、牽引支援システム100の処理負荷の軽減ができるとともに、牽引後退時の運転者の運転操作へ関与が可能になり、運転者自身の運転技術に向上にも寄与することができる。
【0077】
このように、牽引支援システム100によれば、被牽引車両12を後退走行させる場合に、目標領域(位置)に被牽引車両12または牽引車両10および被牽引車両12を、スムーズ、かつ運転者の負担を軽減した状態で移動させることができる。
【0078】
なお、CPU36aは、各撮像部24が撮像した撮像画像データに基づき、俯瞰画像を生成可能である。したがって、牽引支援部52は、牽引支援処理を開始する場合に、俯瞰画像を生成して、
図11や
図15に示すような牽引車両10や被牽引車両12の移動の様子を表示装置26に表示するようにしてもよい。なお、この場合は、牽引車両10に対応する自車アイコンや被牽引車両12に対応するトレーラアイコン等が俯瞰画像に重畳表示されることになる。
【0079】
以上のように構成される牽引支援システム100により、被牽引車両12および牽引車両10を目標領域78に移動させる場合の処理の一例を
図16~
図18のフローチャートに基づいて説明する。
【0080】
牽引支援部52は、牽引車両10が走行可能な状態のとき、牽引支援要求を受け付けたか否かの監視を常時行う(S100)。牽引支援要を受けつていない場合(S100のNo)、牽引支援部52はこのフローを一旦終了する。牽引支援要求は、例えば、操作入力部30等を介して運転者が行う入力操作によって受け付けることができる。牽引支援システム100が、牽引支援要求を受け付けた場合(S100のYes)、目標領域設定部62は、目標領域78の設定を行う(S102)。例えば、撮像部24が撮像した牽引車両10および被牽引車両12の周囲の状況を示す撮像画像から、被牽引車両12または被牽引車両12および牽引車両10を移動可能な目標領域78を設定する。そして、シミュレーション部70は、例えば、設定された目標領域78を原点とする相対座標系(路面座標系)を設定するとともに(S104)、目標領域78に対する牽引車両10および被牽引車両12の相対位置、および目標領域78の奥行き方向に平行な方向(中心線84)に対する牽引車両10および被牽引車両12の偏向角度の取得を開始する(S106)。
【0081】
続いて、牽引支援システム100は、設定された目標領域78から所定距離離れた位置で、牽引車両10を基準に目標領域78が存在する方向とは逆方向に操舵を行う指示を表示装置26や音声出力装置28を介して運転者に対して実行する(S108)。
なお、所定距離離れた位置とは、後退走行時の被牽引車両12の旋回が十分に可能な距離だけ、目標領域78から離れた位置である。続いて、牽引支援システム100は、所定速度(例えば、5km/h)以下での後退走行指示を表示装置26や音声出力装置28を介して運転者に対して実行する(S110)。
【0082】
牽引車両10の後退走行が開始されると、舵角取得部56は、牽引車両10の現在の舵角および牽引車両10と被牽引車両12との連結角度の取得を開始する(S112)。また、進路取得部64は、被牽引車両12の後退走行に伴う目標領域78に対する移動進路80の取得を開始する(S114)。そして、比較部66は、例えば、目標領域78の間口Wの中央位置Wcに対して、間口方向の所定範囲内を通る推奨移動進路80aが取得されたか否かを監視する(S116)。推奨移動進路80aが取得されない場合、S112に移行し再度監視を行う。推奨移動進路80aが取得された場合(S116のYes)、牽引車両10と被牽引車両12との連結角度を維持した状態で被牽引車両12を目標領域78に移動させるタイミング(「連結角度維持モード」の移行タイミング)である。したがって、釣合舵角算出部60は、現在の連結角度を維持するような牽引車両10の舵角、例えば、釣合舵角を第1舵角として算出する(S118)。S100で受け付けた牽引支援の実現手段として、自動走行制御が指定されていた場合(S120のYes)、第1舵角出力部68aは第1舵角(釣合舵角)を自動走行制御部72に出力する(S122)。そして、自動走行制御部72は、操舵システム34を例えばPID制御して、第1舵角を実現させるとともに、ブレーキシステム38、駆動システム40等を制御し、牽引車両10(被牽引車両12)の後退走行を開始させる(S124)。一方、S120において、自動走行制御が指定されていないと判定された場合(S120のNo)、つまり、牽引支援を運転者の自らの運転で実行させる場合、誘導走行指示部74は、まず、牽引車両10の一時停止を指示する(S126)。誘導走行指示部74は、車輪速センサ48等からの検出信号に基づき、牽引車両10の一時停止を確認した場合、第1舵角による操舵指示を表示装置26や音声出力装置28を用いて実行する(S128)。例えば、操舵方向と操舵量を運転者に提示する。この場合、誘導走行指示部74は、表示装置26上に例えばステアリングホイールのアイコンを示し、操舵方向を矢印等で示すとともに、操舵量が第1舵角に一致した場合、アイコンの表示態様を変化させて、運転者に第1舵角への変更完了を通知するようにしてもよい。続いて、誘導走行指示部74は、アクセル操作量やブレーキ操作量やその操作タイミング等を表示装置26や音声出力装置28を用いて運転者に通知し、後退走行を開始させる(S124)。
【0083】
自動走行制御部72による自動走行制御中、または誘導走行指示部74による誘導走行指示中、比較部66は、推奨移動進路80aから被牽引車両12の実際の移動進路である実進路80bが逸脱していないか監視する(S130)。牽引支援部52は、目標領域78に対する被牽引車両12の相対位置の監視を常時実行しているため、被牽引車両12が推奨移動進路80aを逸脱することなく(S130のNo)、
図11のシーンP4に示すように、目標領域78に進入を完了したと確認できた場合(S132のYes)、このフローを終了する。また、S132において、牽引支援部52は、目標領域78への進入は完了していないと判定した場合(S132のNo)、S130に戻り、比較部66による推奨移動進路80aからの逸脱の有無の監視を継続する。
【0084】
一方、S130において、比較部66が、推奨移動進路80aから実進路80bが所定量(所定距離)以上逸脱したことを検出した場合(S130のYes)、釣合舵角算出部60は、その逸脱を修正するための修正舵角を算出する(S134)。そして、牽引支援部52は、S120の処理に戻る。そして、修正舵角出力部68bは、修正舵角を自動走行制御部72または誘導走行指示部74に対して出力して、S120以降の処理を実行させる。
【0085】
被牽引車両12が目標領域78への移動を完了したことが確認できると、牽引支援部52は、
図17に例示する処理を開始する(S200のYes)。牽引支援部52は、S100で受け付けた牽引支援要求に、目標領域78に移動したとき被牽引車両12に対して牽引車両10を直列状態にする指示が含まれていると判定した場合(S202のYes)、
図18に示すフローチャートにしたがい、シミュレーション部70による第2舵角の取得シミュレーションを開始する(S204)。
【0086】
シミュレーション部70は、被牽引車両12が目標領域78に移動を完了したときの被牽引車両12と牽引車両10との連結角度を連結角度取得部54から取得する(S300)。続いて、シミュレーションを実行する場合の仮想舵角を舵角センサ42から取得される現在の牽引車両10の舵角に基づき決定する。この場合、シミュレーション部70は、舵角センサ42の検出結果に基づき、操舵方向を検出し、現在の操舵方向の最大舵角をシミュレーション初期の最大舵角に設定する(S302)。そして、シミュレーション部70は、
図13、
図14で説明したような被牽引車両12の挙動シミュレーションを実行する(S304)。すなわち、仮想舵角(初期の段階は最大舵角)のときに、目標領域78に対する被牽引車両12の姿勢(偏向角度)の変化量を算出するシミュレーションを実行する。そして、シミュレーション部70は、シミュレーションにより算出した偏向角度の変化量と比較最小値と比較する(S306)。例えば、仮想舵角が最大舵角の場合、比較最小値は、初期値として、大きな値(例えば60°)等を設定しておく。仮想角度が最大舵角の場合、S306の判定は概ね肯定判定となる(S306のYes)。つまり、最大舵角で牽引車両10を後退走行させた場合の被牽引車両12の偏向角度を、以降のシミュレーションを実行する際の比較基準(比較最小値)として設定する。
【0087】
続いて、S304で実行されたシミュレーションにおいて、被牽引車両12に対して牽引車両10を直列状態にするために必要となった移動距離が制限値未満であったか否か確認する(S308)。被牽引車両12に対して牽引車両10を直列状態にする場合、目標領域78の奥行き方向で許容できる制限距離(制限値)未満で実現する必要がある。したがって、シミュレーション部70は、直列状態にするための移動距離が制限値未満の場合(S308のYes)に、偏向角度最小値およびその対応舵角をRAM36c等に登録(更新)する(S310)。なお、このときの偏向角度最初値が次回の処理周期でS306の処理を実行する際の比較最小値として採用される。
【0088】
シミュレーション部70は、現在のシミュレーションで用いた仮想角度が初期舵角(例えば、シミュレーション開始時の釣合舵角)でない場合(S312のNo)、仮想舵角を初期舵角側にシフトする(S314)。つまり、仮想舵角を例えば10°加算した舵角とする。そして、S304に移行し、被牽引車両12の挙動シミュレーションを実行し、S304以降の処理を繰り返す。
【0089】
S312において、現在のシミュレーションで用いた仮想角度が初期舵角または、実質的に初期舵角と同等である場合(S312のYes)、RAM36cに登録された偏向角度最小値に対応する舵角を第2舵角として決定し(S316)、このフローを一旦終了する。なお、S308において、直列状態にするために必要となった移動距離が制限値以上であった場合(S308のNo)、シミュレーション部70は、目標領域78の奥行きスペースでは、直列状態を実現できないと判定し、S310の処理をスキップする。同様に、S306において、被牽引車両12の偏向角度の変化量が比較最初値以上の場合(S306のNo)、S308、S310の処理をスキップする。
【0090】
図17のフローチャートに戻り、第2舵角出力部68cが第2舵角を取得した場合に(S206)、牽引支援部52は、自動走行制御が指定されていた場合(S208のYes)、第2舵角出力部68cは第2舵角を自動走行制御部72に出力する(S210)。そして、自動走行制御部72は、操舵システム34を例えばPID制御して、第2舵角を実現させるとともに、ブレーキシステム38、駆動システム40等を制御し、牽引車両10(被牽引車両12)の後退走行を開始させる(S212)。一方、S208において、自動走行制御が指定されていないと判定された場合(S208のNo)、つまり、直列状態にする操作を運転者の自らの運転で実行させる場合、誘導走行指示部74は、牽引車両10の一時停止を指示する(S214)。誘導走行指示部74は、車輪速センサ48等からの検出信号に基づき、牽引車両10の一時停止を確認した場合、第2舵角による操舵指示を表示装置26や音声出力装置28を用いて実行する(S216)。例えば、操舵方向と操舵量を運転者に提示する。この場合、誘導走行指示部74は、表示装置26上に例えばステアリングホイールのアイコンを示し、操舵方向を矢印等で示すとともに、操舵量が第2舵角に一致した場合、アイコンの表示態様を変化させて、運転者に第2舵角への変更完了を通知するようにしてもよい。続いて、誘導走行指示部74は、アクセル操作量やブレーキ操作量、それらの操作タイミング等を表示装置26や音声出力装置28を用いて運転者に通知し、後退走行を開始させる(S212)。
【0091】
そして、牽引支援部52は、連結角度取得部54の取得結果に基づき、被牽引車両12に対して牽引車両10が直列状態になったと判定した場合(S218のYes)、直列状態を維持したまま、牽引車両10および被牽引車両12を後退走行させて、目標領域78に移動させるための第3舵角を釣合舵角算出部60に算出させる。直列状態にするための第2舵角は、被牽引車両12に対して牽引車両10を旋回させるための非釣合舵角であるため、このまま牽引車両10が後退走行を継続した場合、直列状態が崩れてしまう。そこで、牽引支援部52は、釣合舵角算出部60を用いて直列状態を維持する釣合舵角(例えば、舵角=0)を算出させる。
【0092】
第3舵角出力部68dが第3舵角を取得した場合(S220)、牽引支援部52は、自動走行制御が指定されていた場合(S222のYes)、第3舵角出力部68dは第3舵角を自動走行制御部72に出力する(S224)。そして、自動走行制御部72は、操舵システム34を例えばPID制御して、第3舵角を実現させるとともに、ブレーキシステム38、駆動システム40等を制御し、牽引車両10(被牽引車両12)の後退走行を開始させる(S226)。一方、S222において、自動走行制御が指定されていないと判定された場合(S222のNo)、つまり、直列状態にする操作を運転者の自らの運転で実行させる場合、誘導走行指示部74は、牽引車両10の一時停止を指示する(S228)。誘導走行指示部74は、車輪速センサ48等からの検出信号に基づき、牽引車両10の一時停止を確認した場合、第3舵角による操舵指示を表示装置26や音声出力装置28を用いて実行する(S230)。例えば、操舵方向と操舵量を運転者に提示する。この場合、誘導走行指示部74は、表示装置26上に例えばステアリングホイールのアイコンを示し、操舵方向を矢印等で示すとともに、操舵量が第3舵角に一致した場合、アイコンの表示態様を変化させて、運転者に第3舵角への変更完了を通知するようにしてもよい。続いて、誘導走行指示部74は、アクセル操作量やブレーキ操作量、それらの操作タイミングを表示装置26や音声出力装置28を用いて運転者に通知し、後退走行を開始させる(S226)。
【0093】
牽引支援部52は、目標領域78に対する牽引車両10および被牽引車両12の現在の相対位置を参照し、牽引車両10および被牽引車両12が目標領域78内における所定の位置に完全移動を完了したと判定した場合(S232)、牽引車両10の停止処理を実行し(S234)、一連の牽引支援処理を終了させる。つまり。牽引支援部52は、自動走行制御部72で自動走行制御を実行している場合、自動走行制御部72により駆動システム40およびブレーキシステム38を制御させ、牽引車両10を停車させる。また、牽引支援部52は、誘導走行指示部74で誘導走行指示を実行している場合、誘導走行指示部74に表示装置26や音声出力装置28を介して停止指示出力させて、運転者に牽引車両10の停車を実行させる。
【0094】
なお、S232において、牽引支援部52により完全移動が完了していないと判定された場合(S232のNo)、S222に移行し、S222以降の処理を実行する。また、S218において、牽引支援部52が、被牽引車両12に対して牽引車両10は、まだ直列状態になっていないと判定した場合(S218のNo)S208に移行し、S208以降の処理を実行する。
【0095】
また、S202において、牽引支援部52が、S100で受け付けた牽引支援要求に、牽引車両10を直列状態にする指示が含まれていないと判定した場合(S202のNo)、S234に移行し、牽引車両10の停止処理を実行する。つまり、
図11のシーンP4の状態で、牽引車両10を停車させる。この場合、例えば、被牽引車両12と牽引車両10との連結が解除され、牽引車両10は、他の位置に移動することが可能である。また、S200において、被牽引車両12が目標領域78への移動を完了していないと判定された場合(S200のNo)、このフローは実行されない。
【0096】
このように、本実施形態の牽引支援システム100によれば、被牽引車両12が連結された牽引車両10を後退走行させて、被牽引車両12を目標領域78に移動させる場合、最適な舵角やその舵角の変更が適切なタイミングで出力される。その結果、運転者の負荷を軽減しつつ、被牽引車両12の目標領域78への移動をスムーズに行うことができる。また、目標領域78に被牽引車両12とともに牽引車両10と直列状態で移動させたい場合も同様に最適な舵角やその舵角の変更が適切なタイミングで出力される。その結果、運転者の負荷を軽減しつつ、被牽引車両12に対して10を直列状態にして、スムーズに目標領域78へ移動させることができる。つまり、運転者の技量に拘わらず、被牽引車両12または被牽引車両12と牽引車両10とを目標領域78にスムーズかつ容易に後退走行させることができる。
【0097】
なお、上述した実施形態では、被牽引車両12または被牽引車両12が連結された牽引車両10を駐車スペース等の目標領域78に移動させる例を説明したが、これに限定されない。例えば、単に被牽引車両12や被牽引車両12が連結された牽引車両10をある位置に後退移動させる場合も適用可能であり、目標領域設定部62により移動先が設定されれば、同様な処理により移動可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0098】
また、上述した説明では、相対座標系(路面座標系)を設定する場合、目標領域78を基準に設定する例を示したが、他の実施形態では、牽引支援を開始するときの牽引車両10の位置等を基準にしてもよく、同様な処理により、同様な効果が得られる。
【0099】
本実施形態のCPU36aで実行される牽引支援プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0100】
さらに、牽引支援プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、本実施形態で実行される牽引支援プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0101】
本発明の実施形態及び変形例を説明したが、これらの実施形態及び変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規の実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
10…牽引車両、12…被牽引車両、14…車輪、14F…前輪、14R…後輪、18…牽引装置、18a…ヒッチボール、20…連結部材、20a…カプラ、22…トレーラ車輪、24,24a,24b,24c,24d…撮像部、34…操舵システム、36…ECU、36a…CPU、38…ブレーキシステム、40…駆動システム、42…舵角センサ、52…牽引支援部、54…連結角度取得部、56…舵角取得部、58…諸元取得部、60…釣合舵角算出部、62…目標領域設定部、64…進路取得部、66…比較部、68…出力部、68a…第1舵角出力部、68b…修正舵角出力部、68c…第2舵角出力部、68d…第3舵角出力部、70…シミュレーション部、72…自動走行制御部、74…誘導走行指示部、78…目標領域、80…移動進路、80a…推奨移動進路、80b…実進路、100…牽引支援システム。