(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20221206BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A63B37/00 214
A63B37/00 212
C09D175/04
(21)【出願番号】P 2018127424
(22)【出願日】2018-07-04
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 真実
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 俊之
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0178071(US,A1)
【文献】特開2017-109005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B37/00-47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、この本体の外側に位置するペイント層とを備えたゴルフボールであって、
上記ペイント層が、内層と、この内層の外側に位置する外層とを有しており、
上記ゴルフボールの中心を通過する平面に沿った断面において、この断面に垂直な方向に30mgfの力が加えられたときの押し込み深さ(nm)が測定されるとき、上記内層の断面における押し込み深さDiが、上記外層の断面における押し込み深さDoよりも小さく、
上記外層の厚みToが、上記内層の厚みTiよりも大き
く、
上記厚みToと上記厚みTiとの差(To-Ti)が、3μm以上17μm以下であり、上記厚みToが、8μm以上20μm以下であるゴルフボール。
【請求項2】
上記押し込み深さDoが、1000nm以上3500nm以下である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
上記押し込み深さDiが、100nm以上1000nm未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記厚みTiが、1μm以上10μm以下である請求項1から
3のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項5】
上記押し込み深さDoと上記押し込み深さDiとの差(Do-Di)が、1000nm以上3100nm以下である請求項1から
4のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項6】
上記外層が、ポリロタキサンを含む主剤と、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とからなる塗料組成物から形成されたものであり、
上記ポリロタキサンが、シクロデキストリンと、このシクロデキストリンの環状構造を貫通する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記シクロデキストリンの脱離を防止する封鎖基とを有しており、
上記シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、-O-C
3H
6-O-基を介してカプロラクトン鎖によって変性されている請求項1か
5のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項7】
上記ポリロタキサンを含む主剤が有する水酸基(OH基)と、上記ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤が有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO/OH)が、1.0以上2.0以下である請求項
6に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関する。詳細には、本発明は、ペイント層を有するゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
プレーヤーは、ゴルフボールのスピン性能を重視する。バックスピンの速度が大きいと、ランが小さい。バックスピンの速度が大きなゴルフボールを使用することにより、プレーヤーは、このゴルフボールを目標地点に静止させることができる。サイドスピンの速度が大きいと、ゴルフボールは曲がりやすい。サイドスピンの速度が大きなゴルフボールを使用することにより、プレーヤーは、このゴルフボールを意図的に曲げることができる。スピン性能に優れたゴルフボールは、コントロール性に優れる。特に、アプローチショットのみならず、ミドルアイアンショットにおいてもコントロール性に優れたゴルフボールが求められている。
【0003】
ほとんどのゴルフボールは、その表面にペイント層を有している。特開2016-093386号公報では、ペイント層を所定の硬化型塗料組成物から形成することによって、アプローチショットに対するコントロール性を高める工夫がなされている。
【0004】
また、プレーでは、種々の条件下でゴルフボールが打撃される。特開2017-042280号公報では、ドライ条件及びウェット条件のアプローチショットにおけるスピン量増大のために、10%モジュラスの異なる2層からなるペイント層を有するゴルフボールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-093386号公報
【文献】特開2017-042280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレーの状況に応じて、ゴルフボールは種々のクラブで打撃される。柔軟なペイント層の採用により、例えば、ウェッジによるショットにおけるスピン速度が向上する。しかし、本発明者等が得た知見によれば、柔軟なペイント層が採用されたゴルフボールのミドルアイアン等によるショットで得られるスピン速度は、充分に大きなものではない。
【0007】
また、プレーヤーは、コントロール性とともに、ゴルフボールの打球感も重視する。通常、ソフトな打球感が好まれるが、ウェッジ等による打撃の場合、適度な手応えが求められる場合がある。アプローチショットにおける打球感には、さらなる改善が必要である。
【0008】
本発明の目的は、ミドルアイアンショットにおけるコントロール性及びアプローチショットにおける打球感に優れたゴルフボールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るゴルフボールは、本体と、この本体の外側に位置するペイント層とを備えている。このペイント層は、内層と、この内層の外側に位置する外層とを有している。このゴルフボールの中心を通過する平面に沿った断面において、この断面に垂直な方向に30mgfの力が加えられたときの押し込み深さ(nm)が測定されるとき、この内層の断面における押し込み深さDiは、この外層の断面における押し込み深さDoよりも小さい。この外層の厚みToは、この内層の厚みTiよりも大きい。
【0010】
好ましくは、この押し込み深さDoは、1000nm以上3500nm以下である。好ましくは、この押し込み深さDiは、100nm以上1000nm未満である。
【0011】
好ましくは、この厚みToは、8μm以上20μm以下である。好ましくは、この厚みTiは、1μm以上10μm以下である。
【0012】
好ましくは、この厚みToとこの厚みTiとの差(To-Ti)は、3μm以上17μm以下である。
【0013】
好ましくは、この押し込み深さDoとこの押し込み深さDiとの差(Do-Di)は、1000nm以上3100nm以下である。
【0014】
好ましくは、この外層は、ポリロタキサンを含む主剤と、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とからなる塗料組成物から形成されたものである。このポリロタキサンは、シクロデキストリンと、このシクロデキストリンの環状構造を貫通する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置されシクロデキストリンの脱離を防止する封鎖基とを有している。このシクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部は、-O-C3H6-O-基を介してカプロラクトン鎖によって変性されている。
【0015】
好ましくは、このポリロタキサンを含む主剤が有する水酸基(OH基)と、このポリイソシアネート化合物を含む硬化剤が有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO/OH)は、1.0以上2.0以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るゴルフボールでは、ペイント層が、比較的厚く軟質な外層と、比較的薄く硬質な内層とを有している。厚く軟質な外層により、アイアンショットにおいて大きなスピン速度が達成される。薄く硬質な内層は、外層による効果を阻害しない。さらに、このゴルフボールがウェッジ等で打撃されるとき、厚く軟質な外層と、薄く硬質な内層とを有するペイント層が、プレーヤーに適度な打球感を与えうる。このゴルフボールは、ミドルアイアンショットにおけるコントロール性能及びアプローチショットにおける打球感に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0019】
図1に示されたゴルフボール2は、本体4と、この本体4の外側に位置するペイント層6とを有している。本体4は、球状のコア8と、このコア8の外側に位置する中間層10と、この中間層10の外側に位置するカバー12とを有している。ペイント層6は、カバー12の外側に位置する内層14と、この内層14の外側に位置する外層16とを有している。このゴルフボール2は、その表面に複数のディンプル18を有している。ゴルフボール2の表面のうちディンプル18以外の部分は、ランド20である。このゴルフボール2が、マーク層を有してもよい。このマーク層は、カバー12とペイント層6との間に位置してもよく、ペイント層6の外側に位置してもよい。マーク層が、内層14と外層16との間に位置してもよい。
【0020】
ペイント層6が、内層14と外層16との間に、さらに他の層を有してもよい。本願明細書において、ペイント層6をなす複数の層のうち、カバー12に最も近接する層が内層14と定義され、カバー12から最も離れた層が外層16と定義される。
【0021】
本発明では、ペイント層6の内層14の押し込み深さと、外層16の押し込み深さとが測定される。
【0022】
押し込み深さの測定では、ゴルフボール2が割られて、半球が得られる。この半球には、ゴルフボール2の中心を通過する断面が露出する。この断面は、ペイント層6の断面を含んでいる。ペイント層6の断面には、内層14の断面と外層16の断面とが含まれる。クライオミクロトームにより、この半球の断面が水平とされる。この断面に、ナノインデンターの圧子が当てられ、断面に対して垂直な方向に押圧される。押圧により、圧子は進行する。圧子の荷重と進行距離とが、計測される。測定時の条件は、以下の通りである。
ナノインデンター:株式会社エリオニクスの「ENT-2100」
温度:30℃
圧子:バーコビッチ圧子(65.03° As(h)=26.43h2)
分割数:500ステップ
ステップインターバル:20msec (100mgf)
圧子の荷重は、50mgfに到達するまで、徐々に高められる。荷重が30mgfであるときの圧子の進行距離(nm)が、押し込み深さとして計測される。
【0023】
ゴルフボール2の中心を通過する平面に沿った断面のうち、内層14の断面において計測される圧子の進行距離が、内層14の押し込み深さDiである。外層16の断面において計測される圧子の進行距離が、外層16の押し込み深さDoである。押し込み深さDiによって、内層14の硬度が精度よく評価される。押し込み深さDoによって、外層16の硬度が精度よく評価される。
【0024】
本発明において、内層14の押し込み深さDiは、外層16の押し込み深さDoよりも小さい。換言すれば、この外層16は、内層14と比較して、軟質である。さらにこの外層16の厚みToは、内層14の厚みTiと比較して、大きい。厚く軟質な外層16を備えたゴルフボール2がミドルアイアン等で打撃されるとき、大きなスピン速度が達成される。一方、内層14は、外層16よりも薄くかつ硬質である。薄く硬質な内層14は、外層16によるスピン向上効果を阻害しない。さらに、このゴルフボール2は、厚く軟質な外層16と、薄く硬質な内層14とを備えることにより、ウェッジショットにおいて、プレーヤーに適度な打球感を与える。このゴルフボール2は、ミドルアイアンショットにおけるコントロール性能及びアプローチショットにおける打球感に優れている。
【0025】
コントロール性及び打球感の両立の観点から、外層16の押し込み深さDoは、1000nm以上が好ましく、1100nm以上がより好ましく、1200nm以上が特に好ましい。特にミドルアイアンショット時のスピン速度向上の観点から、外層16の押し込み深さDoは、3500nm以下が好ましく、3400nm以下がより好ましく、3300nm以下が特に好ましい。
【0026】
コントロール性及び打球感の両立の観点から、内層14の押し込み深さDiは、100nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましく、300nm以上が特に好ましい。同様の観点から、内層14の押し込み深さDiは、1000nm未満が好ましく、900nm以下がより好ましく、800nm以下が特に好ましい。
【0027】
コントロール性及び打球感の両立の観点から、外層16の押し込み深さDoと内層14の押し込み深さDiとの差(Do-Di)は、1000nm以上が好ましく、1200nm以上がより好ましく、1900nm以上が特に好ましく、1400nm以上がさらに好ましい。この差(Do-Di)は、3100nm以下が好ましく、2800nm以下がより好ましく、2600nm以下がさらに好ましい。
【0028】
コントロール性及び打球感の両立の観点から、外層16の厚みToは8μm以上が好ましく、9μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、11μm以上が特に好ましい。特にミドルアイアンショット時のスピン速度向上の観点から、厚みToは20μm以下が好ましく、18μm以下がより好ましく、16μm以下が特に好ましい。
【0029】
コントロール性及び打球感の両立の観点から、内層14の厚みTiは10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、6μm以下が特に好ましい。同様の観点から、厚みTiは1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上が特に好ましい。
【0030】
コントロール性及び打球感の両立の観点から、外層16の厚みToと内層14の厚みTiとの差(To-Ti)は、3μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、5μm以上が特に好ましい。差(To-Ti)は、17μm以下が好ましく、16μm以下がより好ましく、15μm以下が特に好ましい。
【0031】
ミドルアイアンショットでのスピン速度に影響を与えうるとの観点から、内層14の厚みTiと外層16の厚みToとの和(Ti+To)は、10μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましい。和(Ti+To)の上限は特に限定されないが、好ましくは50μm以下である。
【0032】
内層14は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の基材樹脂として、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等が例示される。特に好ましい基材樹脂は、ウレタン樹脂である。
【0033】
外層16は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の基材樹脂として、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等が例示される。特に好ましい基材樹脂は、ウレタン樹脂である。
【0034】
典型的には、内層14及び外層16は、それぞれ、ポリウレタン塗料から形成される。内層14と、外層16とが、異なる種類のポリウレタン塗料から形成されたペイント層6が好ましい。
【0035】
ポリウレタン塗料は、主剤と硬化剤とからなる塗料組成物である。この塗料組成物の主剤はポリオール組成物(A)であり、硬化剤はポリイソシアネート組成物(B)である。
【0036】
ポリオール組成物(A)は、ポリオール化合物を含有する。ポリオール化合物は、分子中に2以上の水酸基を有する。分子鎖の末端に水酸基を有するポリオール化合物(a1)であってもよく、分子鎖の末端以外に水酸基を有するポリオール化合物(a2)であってもよい。ポリオール組成物(A)が、2種以上のポリオール化合物を有してもよい。
【0037】
分子鎖の末端に水酸基を有するポリオール化合物(a1)としては、低分子量ポリオール及び高分子量ポリオールが挙げられる。低分子量ポリオールの数平均分子量は、500未満である。高分子量ポリオールの数平均分子量は、500以上である。
【0038】
低分子量ポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6-ヘキサンジオールのようなジオール;並びにグリセリン、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールのようなトリオールが例示される。
【0039】
高分子量のポリオールとして、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール及びアクリルポリオールが例示される。ポリエーテルポリオールとして、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)及びポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)が例示される。ポリエステルポリオールとして、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール及びポリヘキサメチレンアジペートジオールが例示される。ポリカプロラクトンポリオールとして、ポリ-ε-カプロラクトンジオールが例示される。ポリカーボネートポリオールとして、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールが例示される。
【0040】
ウレタンポリオールは、分子内に2以上のウレタン結合を有し、かつ2以上の水酸基を有する。ウレタンポリオールは、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とが、ポリオール成分の水酸基がポリイソシアネート成分のイソシアネート基に対して過剰になるような条件で反応させられることで、得られうる。
【0041】
ウレタンポリオールの出発原料であるポリオール成分として、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール及びポリカーボネートジオールが例示される。好ましいポリオール成分は、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールである。ポリオキシテトラメチレングリコールがより好ましい。
【0042】
ポリエーテルジオールの数平均分子量は、550以上が好ましい。この分子量が550以上であるポリエーテルジオールは、スピン速度向上に寄与しうる。この観点から、この分子量は600以上がより好ましく、630以上が特に好ましい。この分子量は、3,000以下が好ましい。この分子量が3,000以下であるポリエーテルジオールは、ペイント層6の打球感に寄与しうる。この観点から、この分子量は2,500以下がより好ましく、2,000以下が特に好ましい。ポリオール成分の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。測定条件は、以下の通りである。
標準物質:ポリスチレン
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:有機溶媒系GPC用カラム(昭和電工社の商品名「Shodex KFシリ ーズ」)
【0043】
ポリエーテルジオールを60質量%以上含んでなるウレタンポリオールが好ましい。このウレタンポリオールは、スピン速度向上に寄与しうる。この観点から、ウレタンポリオールにおけるポリエーテルジオールの含有率は62質量%以上がより好ましく、65質量%以上が特に好ましい。
【0044】
ウレタンポリオールの出発原料であるポリオール成分として、低分子量ポリオールが用いられうる。この低分子量ポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6-ヘキサンジオールのようなジオール;並びにグリセリン、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールのようなトリオールが例示される。出発原料として、2種以上の低分子量ポリオールが用いられてもよい。
【0045】
ウレタンポリオールの出発原料であるポリイソシアネート成分は、2以上のイソシアネート基を有する。ポリイソシアネート成分として、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)及びパラフェニレンジイソシアネート(PPDI)のような芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びノルボルネンジイソシアネート(NBDI)のような脂環式ポリイソシアネート;並びに脂肪族ポリイソシアネートが例示される。出発原料として、2種以上のポリイソシアネートが用いられてもよい。
【0046】
ウレタンポリオールの重量平均分子量は、4,000以上が好ましい。この分子量が4,000以上であるウレタンポリオールは、スピン速度向上に寄与しうる。この観点から、この分子量は4,300以上がより好ましく、4,500以上が特に好ましい。この分子量は、20,000以下が好ましい。この分子量が20,000以下であるウレタンポリオールは、ペイント層6の打球感に寄与しうる。この観点から、この分子量は18,000以下がより好ましく、16,000以下が特に好ましい。
【0047】
ウレタンポリオールの水酸基価は、10mgKOH/g以上が好ましく、15mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上が特に好ましい。水酸基価は200mgKOH/g以下が好ましく、190mgKOH/g以下がより好ましく、180mgKOH/g以下が特に好ましい。水酸基価は、「JIS K 1557-1」の規定に準拠して測定される。測定には、アセチル化法が採用される。
【0048】
分子の末端以外に水酸基を有するポリオール化合物(a2)として、水酸基を有する修飾ポリロタキサン、及び水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体が例示される。
【0049】
水酸基を有する修飾ポリロタキサン(以下、「ポリロタキサン」と称する)は、シクロデキストリン、直鎖状分子及び封鎖基を有する。シクロデキストリンは、環状分子である。直鎖状分子は、シクロデキストリンの環状構造を貫通している。封鎖基は、直鎖状分子の両末端に配置されている。この封鎖基は、直鎖状分子からのシクロデキストリンの脱離を防止する。このポリロタキサンでは、シクロデキストリンが直鎖状分子に沿って移動可能である。このポリロタキサンを含むペイント層6に張力が加わったとき、この張力が分散される。このペイント層6は、軟質かつ耐久性に優れる。
【0050】
シクロデキストリンは、環状構造を有するオリゴ糖である。このシクロデキストリンでは、6個から8個のD-グルコピラノース残基がα―1,4-グルコシド結合により環状に結合している。シクロデキストリンとして、α-シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β-シクロデキストリン(グルコース数:7個)及びγ―シクロデキストリン(グルコース数:8個)が例示される。α-シクロデキストリンが好ましい。2種以上のクロデキストリンが併用されてもよい。
【0051】
シクロデキストリンを貫通する直鎖状分子として、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリエーテル及びポリアクリルが例示される。ポリエーテルが好ましく、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0052】
この直鎖状分子の重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、6,000以上が特に好ましい。この分子量は100,000以下が好ましく、80,000以下が特に好ましい。
【0053】
その両末端に官能基を有する直鎖状分子が、好ましい。この直鎖状分子は、封鎖基と容易に反応しうる。この官能基として、水酸基、カルボキシ基、アミノ基及びチオール基が例示される。
【0054】
封鎖基によるシクロデキストリンの脱離の防止方法として、嵩高い封鎖基による物理的防止方法、及びイオン性の封鎖基による静電気的防止方法が例示される。嵩高い封鎖基として、シクロデキストリン及びアダマンタン基が例示される。直鎖上分子が貫通しているシクロデキストリンの個数の、その最大数に対する比は、0.06以上0.61以下が好ましく、0.11以上0.48以下がより好ましく、0.24以上0.41以下が特に好ましい。この比が上記範囲内であるペイント層6は、物性に優れる。
【0055】
シクロデキストリンが有する水酸基の少なくとも一部が、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサンが好ましい。このポリロタキサンでは、ポリロタキサンと硬化剤であるポリイソシアネート化合物との立体障害が緩和される。
【0056】
以下、変性方法の一例が説明される。まず、シクロデキストリンの水酸基がプロピレンオキシドで処理され、ヒドロキシプロピル化される。次に、ε-カプロラクトンが添加され、開環重合がなされる。シクロデキストリンの環状構造の外側に、カプロラクトン鎖-(CO(CH2)5O)nHが、-O-C3H6-O-基を介して、結合する。nは、重合度を表し、1-100の自然数であることが好ましく、2-70の自然数であることがより好ましく、3-40の自然数であることが特に好ましい。カプロラクトン鎖の他方の末端には、開環重合により水酸基が形成される。この水酸基は、ポリイソシアネート化合物と反応しうる。
【0057】
変性前のシクロデキストリンが有する全水酸基(100モル%)に対する、カプロラクトン鎖で変性される水酸基の比率は、2モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。この比率が上記範囲内であるポリロタキサンは疎水性である。このポリロタキサンの、ポリイソシアネート化合物との反応性は、高い。
【0058】
ポリロタキサンの水酸基価は、10mgKOH/g以上400mgKOH/g以下が好ましい。このポリロタキサンのポリイソシアネート化合物との反応性は、高い。この観点から、水酸基価は15mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上が特に好ましい。水酸基価は300mgKOH/g以下がより好ましく、220mgKOH/g以下が特に好ましい。
【0059】
ポリロタキサンの重量平均分子量は30,000以上3,000,000以下が好ましい。この分子量が30,000以上であるポリロタキサンは、ペイント層6の強度に寄与しうる。この観点から、この分子量は40,000以上がより好ましく、50,000以上が特に好ましい。この分子量が3,000,000以下であるポリロタキサンは、ペイント層6の柔軟性に寄与しうる。この観点から、この分子量は2,500,000以下がより好ましく、2,000,000以下が特に好ましい。ポリロタキサンの重量平均分子量は、ポリエーテルジオールの数平均分子量と同様の方法にて測定される。
【0060】
ポリカプロラクトンで変性されたポリロタキサンの具体例として、アドバンスト・ソフトマテリアルズ社のセルムスーパーポリマーSH3400P、SH2400P及びSH1310Pが例示される。
【0061】
分子鎖の末端以外に水酸基を有するポリオール化合物(a2)の一つである水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体は、ゴルフボール2のスピン速度向上に寄与しうる。この共重合体は、水酸基を有する単量体、塩化ビニル及び酢酸ビニルの共重合によって得られうる。この水酸基を有する単量体として、ポリビニルアルコール及びヒドロキシアルキルアクリレートが例示される。この共重合体は、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の部分ケン化又は完全ケン化によっても得られうる。
【0062】
この水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体における、塩化ビニル成分の含有率は、1質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上が特に好ましい。この含有率は99質量%以下が好ましく、95質量%以下が特に好ましい。水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の具体例として、日信化学工業社の商品名「ソルバインA」、「ソルバインAL」及び「ソルバインTA3」が例示される。
【0063】
好ましいポリオール組成物(A)の態様として、以下が例示される。
態様1:数平均分子量が550以上3,000以下であるポリエーテルジオールを含有するウレタンポリオールを含む組成物
態様2:シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、-O-C3H6-O-基を介して、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサンを含む組成
【0064】
態様1のポリオール組成物(A)における、ポリオール化合物の全量に対するウレタンポリオールの量の比率は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。このポリオール組成物(A)が、ポリオール化合物として、ウレタンポリオールのみを含んでもよい。
【0065】
態様2のポリオール組成物(A)における、ポリオール化合物の全量に対するポリロタキサンの量の比率は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。この比率は100質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が特に好ましい。
【0066】
態様2のポリオール組成物(A)は、好ましくは、ポリカプロラクトンポリオールを含有する。ポリカプロラクトンポリオールとポリロタキサンとの質量比は、0/100以上が好ましく、5/95以上がより好ましく、10/90以上が特に好ましい。この比は、90/10以下が好ましく、85/15以下がより好ましく、80/20以下が特に好ましい。
【0067】
態様2のポリオール組成物(A)は、好ましくは、前述の水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体を含有する。このポリオール組成物(A)における、ポリオール化合物の全量に対する水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の比率は、4質量%以上が好ましく、8質量%以上が特に好ましい。この比率は50質量%以下が好ましく、45質量%以下が特に好ましい。
【0068】
硬化剤であるポリイソシアネート組成物(B)は、ポリイソシアネート化合物を含有する。ポリイソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する。
【0069】
ポリイソシアネート化合物として、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)及びパラフェニレンジイソシアネート(PPDI)のような芳香族ジイソシアネート類;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びノルボルネンジイソシアネート(NBDI)のような脂環式又は脂肪族ジイソシアネート類;並びにジイソシアネートのアロハネート体、ビュレット体、イソシアヌレート体及びアダクト体のようなトリイソシアネート類が例示される。ポリイソシアネート組成物(B)が、2種以上のポリイソシアネート化合物を含んでもよい。
【0070】
好ましいトリイソシアネート類として、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体が例示される。
【0071】
好ましくは、ポリイソシアネート組成物(B)は、トリイソシアネート類を含有する。ポリイソシアネート組成物(B)における、ポリイソシアネート化合物の全量に対する、トリイソシアネート類の比率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。ポリイソシアネート組成物(B)が、ポリイソシアネート化合物として、トリイソシアネート類のみを含有してもよい。
【0072】
ポリイソシアネート組成物(B)が含有するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基量(NCO%)は、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。このイソシアネート基量は45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が特に好ましい。イソシアネート基量(NCO%)は、下記数式によって算出される。
NCO = (100 × Mi × 42) / Wi
Mi:ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基のモル数
42:NCOの分子量
Wi:ポリイソシアネート化合物の総質量(g)
【0073】
ポリイソシアネート化合物の具体例として、DIC社の商品名「バーノックD-800」、「バーノックDN-950」及び「バーノックDN-955」;住化バイエルウレタン社の商品名「デスモジュールN75MPA/X」、「デスモジュールN3300」、「デスモジュールL75(C)」及び「スミジュールE21-1」;日本ポリウレタン工業社の商品名「コロネートHX」及び「コロネートHK」;旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネート24A-100」、「デュラネート21S-75E」、「デュラネートTPA-100」及び「デュラネートTKA-100」;並びにデグサ社の商品名「VESTANAT T1890」が例示される。
【0074】
前述の態様1のポリオール組成物(A)に適したポリイソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体及びイソホロンジイソシアヌレートのイソシアヌレート変性体である。ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体と、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体とが、併用されてもよい。この場合、ビュレット変性体とイソシアヌレート変性体との質量比は、20/40以上40/20以下が好ましく、25/35以上35/25以下が特に好ましい。
【0075】
前述の態様2のポリオール組成物(A)に適したポリイソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体である。
【0076】
ミドルアイアンショット時のスピン速度向上の観点から、主剤であるポリオール組成物(A)が有する水酸基(OH基)と、硬化剤であるポリイソシアネート組成物(B)が有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO/OH)は、0.10以上が好ましく、0.20以上がより好ましい。打球感の観点から、このモル比(NCO/OH)は2.00以下が好ましく、1.80以下がより好ましく、1.60以下がより好ましい。なお、主剤と硬化剤との固形分換算における混合比(A/B)は、使用する主剤及び硬化剤の種類と、要望するモル比(NCO/OH)とに応じて、適宜調整される。
【0077】
このゴルフボール2では、カバー12の外表面に第一塗料組成物が塗布され、乾燥されることにより、内層14が形成される。乾燥温度は、30℃以上70℃以下が好ましい。乾燥時間は、1時間以上24時間以下が好ましい。
【0078】
このゴルフボール2では、内層14の外表面に第二塗料組成物が塗布され、乾燥されることにより、外層16が形成される。乾燥温度は、30℃以上70℃以下が好ましい。乾燥時間は、1時間以上24時間以下が好ましい。
【0079】
第一塗料組成物の主剤が、分子量の小さなポリオール化合物を含み、第二塗料組成物の主剤が、分子量の大きなポリオール化合物を含むことにより、押し込み深さDiが押し込み深さDoよりも小さいペイント層6が得られうる。
【0080】
コントロール性の観点から、好ましくは、外層16が、態様2のポリオール組成物(A)を主剤とする第二塗料組成物から形成される。コントロール性及び打球感の両立の観点から、好ましくは、外層16が、態様2のポリオール組成物(A)を主剤とする第二塗料組成物から形成され、かつ、内層14が、態様1のポリオール組成物(A)を主剤とする第一塗料組成物から形成される。
【0081】
第一塗料組成物及び第二塗料組成物の主剤が、態様1のポリオール組成物(A)である場合、コントロール性の観点から、好ましくは、第一塗料組成物におけるモル比(NCO/OH)は、第二塗料組成物におけるモル比(NCO/OH)より大きい。第一塗料組成物の主剤が態様1のポリオール組成物(A)であり、第二塗料組成物の主剤が態様2のポリオール組成物(A)である場合、コントロール性の観点から、好ましくは、第一塗料組成物におけるモル比(NCO/OH)は、第二塗料組成物におけるモル比(NCO/OH)と同じか、これより小さい。コントロール性及び打球感の両立の観点から、態様1のポリオール組成物(A)を主剤とする第一塗料組成物のモル比(NCO/OH)は、0.5以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。この第一塗料組成物のモル比(NCO/OH)は、1.6以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。同様の観点から、態様2のポリオール組成物(A)を主剤とする第二塗料組成物のモル比(NCO/OH)は、1.0以上が好ましく、1.1以上がより好ましい。この第二塗料組成物のモル比(NCO/OH)は、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。
【0082】
ペイント層6が、内層14及び外層16の他に、さらに1又は2以上の層を有する場合、各層のそれぞれがポリウレタン塗料から形成されることが好ましい。この場合、各層を形成するポリウレタン塗料は、同じ組成であってもよく、異なる組成であってもよい。
【0083】
以下、この実施形態における本体4(コア8、中間層10及びカバー12)の好ましい構成及び材料について順次説明するが、本体4の構成及び材料は、本発明の目的が達成される範囲内で変更されうる。例えば、本体4が中間層10を備えなくてもよい。本体4が、単層構造であってもよい。また、本体4が、他の材料からなる層をさらに備え、4以上の多層構造に形成されてもよい。
【0084】
コア8は、ゴム組成物が架橋されることによって形成される。ゴム組成物の基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。2種以上のゴムが併用されてもよい。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましく、特にハイシスポリブタジエンが好ましい。
【0085】
好ましくは、コア8のゴム組成物は、共架橋剤を含む。反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムである。ゴム組成物が、共架橋剤とともに有機過酸化物を含むことが好ましい。好ましい有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ-t-ブチルパーオキサイドが挙げられる。特に汎用性の高い有機過酸化物は、ジクミルパーオキサイドである。
【0086】
コア8のゴム組成物は、有機硫黄化合物を含みうる。有機硫黄化合物の例として、1-ナフタレンチオール、2-ナフタレンチオール、4-クロロ-1-ナフタレンチオール等のナフタレンチオール系化合物;ベンゼンチオール、4-クロロベンゼンチオール、3-ブロモベンゼンチオール、4-シアノベンゼンチオール等のベンゼンチオール系化合物及びジフェニルスルフィド、ビス(4-クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)ジスルフィド(PBPS)等のジスルフィド系化合物が挙げられる。2-ナフタレンチオール、ジフェニルスルフィド及びビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)ジスルフィド(PBPS)が好ましい。2種以上の有機硫黄化合物が、併用されてもよい。
【0087】
コア8のゴム組成物が、前述した共架橋剤とは別に、カルボン酸及び/又はその金属塩を含んでもよい。カルボン酸成分の炭素数が1以上30以下であるカルボン酸及び/又はその金属塩が、好ましい。好適なカルボン酸としては、オクタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、10-ウンデシレン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸等が例示される。カルボン酸金属塩を構成する金属成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム等が例示される。
【0088】
飛行性能の観点から、カルボン酸及び/又はその金属塩の量は、基材ゴム100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。スピン性能の観点から、カルボン酸及び/又はその金属塩の量は、基材ゴム100質量部に対して30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。2種以上のカルボン酸及び/又はその金属塩が併用されてもよい。
【0089】
コア8のゴム組成物が、比重調整等のための充填剤を含んでもよい。好適な充填剤として、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤の量は、コア8の意図した比重が達成されるように適宜決定される。さらに、このゴム組成物は、硫黄、老化防止剤、着色剤、可塑剤及び分散剤のような添加剤を含みうる。ゴム組成物が、合成樹脂粉末又は架橋されたゴム粉末を含んでもよい。
【0090】
コア8の質量は、10g以上42g以下が好ましい。コア8の架橋温度は、140℃以上180℃以下である。コア8の架橋時間は、10分以上60分以下である。
【0091】
反発性能の観点から、コア8の直径は30.0mm以上が好ましく、38.0mm以上が特に好ましい。スピン性能の観点から、コア8の直径は、42.0mm以下が好ましく、41.5mm以下が特に好ましい。コア8が、その表面にリブを有してもよい。コア8が中空であってもよい。
【0092】
スピン性能の観点から、コア8の中心点におけるショアC硬度Hoは40以上が好ましく、50以上がより好ましい。打球感の観点から、硬度Hoは、75以下が好ましく、65以下がより好ましい。飛行性能の観点から、コア8の表面におけるショアC硬度Hsは、60以上が好ましく、70以上がより好ましい。打球感の観点から、硬度Hsは、95以下が好ましく、90以下がより好ましい。
【0093】
飛行性能の観点から、硬度Hsと硬度Hoとの差(Hs-Ho)は、10以上が好ましく、15以上がより好ましい。スピン速度を過度に抑制しないとの観点から、差(Hs-Ho)は、40以下が好ましく、35以下がより好ましい。
【0094】
自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアC型硬度計が、コア8が切断されて得られる半球の断面中心に押しつけられることにより、硬度Hoが測定される。この硬度計が、コア8の表面に押しつけられることにより、硬度Hsが測定される。測定は、いずれも、23℃の環境下でなされる。
【0095】
中間層10は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の好ましい基材ポリマーは、アイオノマー樹脂である。好ましいアイオノマー樹脂として、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい他のアイオノマー樹脂として、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。この二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα-オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β-不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。この二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。
【0096】
アイオノマー樹脂に代えて、又はアイオノマー樹脂とともに、中間層10の樹脂組成物が他のポリマーを含んでもよい。他のポリマーとして、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン及びポリウレタンが例示される。樹脂組成物が、2種以上のポリマーを含んでもよい。
【0097】
中間層10の樹脂組成物が、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を含んでもよい。比重調整の目的で、この樹脂組成物がタングステン、モリブデン等の高比重金属の粉末を含んでもよい。
【0098】
飛行性能の観点から、中間層10のショアD硬度Hmは、40以上が好ましく、50以上が特に好ましい。コントロール性の観点から、硬度Hmは、90以下が好ましく、80以下が特に好ましい。中間層10が2以上の層からなる場合、中間層10をなす各層の硬度が、この数値範囲を満たすことが好ましい。硬度Hmの測定方法については後述する。
【0099】
中間層10の硬度Hmは、「ASTM-D 2240-68」の規定に準拠して測定される。自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアD型硬度計により、硬度Hmが測定される。測定には、熱プレスで成形された、中間層10の材料と同一の材料からなる、厚みが約2mmであるシートが用いられる。測定に先立ち、シートは23℃の温度下に2週間保管される。測定時には、3枚のシートが重ね合わされる。
【0100】
コントロール性の観点から、中間層10の厚みTmは、0.2mm以上が好ましく、0.5mm以上が特に好ましい。打球感の観点から、厚みTmは、2.5mm以下が好ましく、2.2mm以下が特に好ましい。中間層10の厚みTmは、ランド20の直下において測定される。中間層10が2以上の層からなる場合、中間層10をなす全ての層の合計厚みが、この数値範囲を満たすことが好ましい。
【0101】
カバー12は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の好ましい基材ポリマーは、熱可塑性ポリウレタン及び/又は熱硬化性ポリウレタンである。熱可塑性ポリウレタンがより好ましい。熱可塑性ポリウレタンを含む樹脂組成物からなるカバー12は、ゴルフボール2のスピン性能に寄与しうる。
【0102】
熱可塑性ポリウレタンは、ハードセグメントとしてのポリウレタン成分と、ソフトセグメントとしてのポリエステル成分又はポリエーテル成分とを含む。ポリウレタン成分は、分子内に、ポリオールとイソシアネートとの反応によって形成されるウレタン結合を有している。
【0103】
ポリウレタン成分のためのポリオールは、複数のヒドロキシル基を有する。低分子量ポリオール及び高分子量ポリオールが用いられ得る。
【0104】
ポリウレタン成分のイソシアネートとして、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートが例示される。特に、脂環式ジイソシアネートが好ましい。脂環式ジイソシアネートは主鎖に二重結合を有さないので、カバー12の黄変が抑制される。脂環式ジイソシアネートとして、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びトランス-1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)が例示される。汎用性及び加工性の観点から、H12MDIが好ましい。
【0105】
熱可塑性ポリウレタンに代えて、又は熱可塑性ポリウレタンとともに、カバー12の樹脂組成物が他のポリマーを含んでもよい。他のポリマーとして、アイオノマー樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル及びポリオレフィンが例示される。樹脂組成物が、2種以上のポリマーを含んでもよい。
【0106】
カバー12の樹脂組成物は、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を含みうる。
【0107】
スピン性能の観点から、カバー12のショアD硬度Hcは60以下が好ましく、55以下がより好ましい。飛行性能の観点から、硬度Hcは20以上が好ましく、30以上がより好ましい。カバー12が2以上の層から構成される場合、カバー12をなす各層の硬度が、この数値範囲を満たすことが好ましい。硬度Hcは、硬度Hmの測定方法と同様の方法にて測定される。
【0108】
スピン性能の観点から、カバー12の厚みTcは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。飛行性能の観点から、厚みTcは2.0mm以下が好ましく、1.8mm以下がより好ましい。カバー12の厚みTcは、ランド20の直下において測定される。カバー12が2以上の層から構成される場合、カバー12をなす全ての層の合計厚みが、この数値範囲を満たすことが好ましい。
【0109】
ゴルフボール2は、中間層10とカバー12との間に、補強層を備えうる。補強層は、中間層10と堅固に密着し、カバー12とも堅固に密着する。補強層は、中間層10からのカバー12の剥離を抑制する。補強層は、ポリマー組成物からなる。補強層の基材ポリマーとして、二液硬化型エポキシ樹脂及び二液硬化型ウレタン樹脂が例示される。
【0110】
このゴルフボール2の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0111】
ゴルフボール2の圧縮変形量Dbは、1.80mm以上が好ましく、1.90mm以上がより好ましく、2.00mm以上が特に好ましい。スピン性能の観点から、圧縮変形量Dbは、3.30mm以下が好ましく、3.20mm以下がより好ましく、3.10mm以下が特に好ましい。
【0112】
圧縮変形量の測定には、YAMADA式コンプレッションテスターが用いられる。このテスターでは、ゴルフボール2が金属製の剛板の上に置かれる。このゴルフボール2に向かって金属製の円柱が徐々に降下する。この円柱の底面と剛板との間に挟まれたゴルフボール2は、変形する。ゴルフボール2に98Nの初荷重がかかった状態から1274Nの終荷重がかかった状態までの円柱の移動距離が、測定される。
【実施例】
【0113】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0114】
[主剤の調製]
[ポリオール組成物No.1(ウレタンポリオール)]
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量650)及びトリメチロールプロパン(TMP)を混合溶剤(トルエン/メチルエチルケトン、質量比:15/85)に溶解した。モル比(PTMG:TMP)は、1.8:1.0であった。この溶液に、触媒として、主剤全量に対して0.1質量%のジブチル錫ジラウレートを添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。この混合液のモル比(NCO/OH)は、0.6であった。滴下後、混合液中のイソシアネート成分がなくなるまで攪拌を続け、その後常温で冷却することにより、ウレタンポリオールを含むポリオール組成物No.1を、主剤として得た。ポリオール組成物No.1の固形分含量は、30質量%であり、PTMGの含有率は67質量%であり、固形分の水酸基価は67.4mgKOH/gであり、ウレタンポリオールの重量平均分子量は4867であった。
【0115】
[ポリオール組成物No.2(ポリロタキサン)]
50質量部の、シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が-O-C3H6-O-基を介してカプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル社製の商品名「セルムスーパーポリマーSH3400P」、直鎖状分子:ポリエチレングリコール、封鎖基:アダマンタン基、直鎖状分子の分子量:35,000、水酸基価:72mgKOH/g、重量平均分子量:700,000)、28質量部のポリカプロラクトンポリオール(ダイセル社の商品名「Placcel 308」、水酸基価:190-200mgKOH/g)、22質量部の塩化ビニル・酢酸ビニル・ビニルアルコール共重合体(日信化学工業社の商品名「ソルバインAL」、水酸基価:63.4mgKOH/g)、0.1質量部の変性シリコーン(Gelest社の商品名「DBL-C31」)、0.01質量部のジブチル錫ジラウレート及び100質量部の混合溶剤(キシレン/メチルエチルケトン、質量比:70/30)を混合し、ポリオール組成物No.2を主剤として得た。
【0116】
[硬化剤の調製]
[ポリイソシアネート組成物No.1]
30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネートTKA-100」、NCO含有率:21.7質量%)、30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネート21S-75E」、NCO含有率:15.5質量%)、及び40質量部のイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(BAYER社の商品名「デスモジュールZ4470」、NCO含有率:11.9質量%)を混合した。この混合物に、溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸n-ブチル及びトルエンを添加して混合することにより、ポリイソシアネート組成物No.1を、硬化剤として得た。この組成物におけるポリイソシアネート成分の濃度は、60質量%であった。
【0117】
[ポリイソシアネート組成物No.2]
100質量部の、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(前述の「デュラネート21S-75E」、NCO含有率:15.5質量%)及び100質量部のメチルエチルケトンを混合することにより、ポリイソシアネート組成物No.2を硬化剤として得た。
【0118】
[ポリイソシアネート組成物No.3]
100質量部の、トルエンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(住化コベストロウレタン社の商品名「デスモジュールIL1451」、NCO含有率:7.4質量%)及び100質量部のメチルエチルケトンを混合することにより、ポリイソシアネート組成物No.3を硬化剤として得た。
【0119】
[ポリイソシアネート組成物No.4]
50質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネートTKA-100」、NCO含有率:21.7質量%)、及び50質量部のイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(デグサ社の商品名「VESTANATT1890」、NCO含有率:12.0質量%)を混合した。この混合物に、溶媒として、メチルエチルケトンを添加して混合することにより、ポリイソシアネート組成物No.4を、硬化剤として得た。
【0120】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR-730」)、31質量部のアクリル酸亜鉛(三新化学工業社の「サンセラーSR」)、10質量部の酸化亜鉛(東邦亜鉛社の商品名「銀嶺R」)、0.4質量部のPBDS(川口化学工業社製のビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド)、2質量部の安息香酸(Emerald Kalama Chemical 社製)、0.6質量部のジクミルパーオキサイド(日本油脂社の商品名「パークミルD」)及び適量の硫酸バリウム(堺化学社の商品名「硫酸バリウムBD」)を混練し、ゴム組成物Aを得た。このゴム組成物Aを共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、155℃の温度下で18分間加熱して、直径が39.7mmであるコアを得た。所定の質量のコアが得られるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0121】
50質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1605」)、50質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7329」)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物aを得た。この樹脂組成物aを射出成形法にてコアの周りに被覆し、厚み1.0mmの中間層を形成した。この中間層のショアD硬度は、64であった。
【0122】
二液硬化型エポキシ樹脂を基材ポリマーとする接着剤組成物(神東塗料社の商品名「ポリン750LE」)を、調製した。この接着剤組成物の主剤液は、30質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂と、70質量部の溶剤とを含む。この接着剤組成物の硬化剤液は、40質量部の変性ポリアミドアミンと、55質量部の溶剤と、5質量部の二酸化チタンとを含む。主剤液と硬化剤液との質量比は、1/1である。この接着剤組成物を中間層の表面にスプレーガンで塗布し、23℃の雰囲気下で12時間保持して、接着層を得た。この接着層の厚みは、10μmであった。
【0123】
100質量部の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(BASFジャパン社の商品名「エラストランXNY82A」)及び4質量部の二酸化チタンを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物bを得た。この樹脂組成物bから、圧縮成形法にて、ハーフシェルを得た。このハーフシェル2枚で、コア、中間層及び接着層からなる球体を被覆した。これらのハーフシェル及び球体を、それぞれが半球状キャビティを備え、キャビティ面に多数のピンプルを備えた上型及び下型からなるファイナル金型に投入し、圧縮成形法にて厚み0.5mmのカバーを得た。このカバーのショアD硬度は、29であった。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。
【0124】
ポリオール組成物No.1(主剤)とポリイソシアネート組成物No.1(硬化剤)とを混合して、塗料組成物P1を得た。この塗料組成物P1の、主剤と硬化剤との固形分換算による混合比(A/B)は100/32.7(質量比)であり、モル比(NCO/OH)は1.03/1.00であった。前述のコア、中間層及びカバーからなる本体の表面をサンドブラストによって処理し、このカバーの周りに、塗料組成物P1を塗布し、40℃の温度下で24時間乾燥させることにより、厚み10μmの内層を得た。この内層の押し込み深さDiは、390nmであった。
【0125】
ポリオール組成物No.2(主剤)とポリイソシアネート組成物No.2(硬化剤)とを混合して、塗料組成物P5を得た。この塗料組成物P5の、主剤と硬化剤との、固形分換算による混合比(A/B)は100/14.2(質量比)であり、モル比(NCO/OH)は1.30/1.00であった。この塗料組成物P5を内層の表面に塗布して、40℃の温度下で24時間乾燥させることにより、厚み20μmの外層を得た。この外層の押し込み深さDoは1450nmであった。この外層を有するゴルフボールの直径は約42.7mmであり、質量は約45.6gであった。このゴルフボールの圧縮変形量は、2.9mmであった。
【0126】
[実施例2-16及び比較例1、3-5]
ペイント層の仕様を下表3-6に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-16及び比較例1、3-5のゴルフボールを得た。内層及び外層の塗料組成物の詳細が、下表1及び2に示されている。
【0127】
[比較例2]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR-730」)、30.5質量部のアクリル酸亜鉛(三新化学工業社の「サンセラーSR」)、10質量部の酸化亜鉛(東邦亜鉛社の商品名「銀嶺R」)、適量の硫酸バリウム(堺化学社の商品名「硫酸バリウムBD」)、0.1質量部の2-チオナフトール(東京化成工業社)、0.3質量部のビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド(PBPS)(川口化学工業社)、0.7質量部のジクミルパーオキサイド(日本油脂社の商品名「パークミルD」)及び2質量部の安息香酸(東京化成工業社)を混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物Bを共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、150℃の温度下で19分間加熱して、直径が39.7mmであるコアを得た。所定の質量のコアが得られるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0128】
55質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7329」)、45質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」)、適量の硫酸バリウム及び3質量部の二酸化チタンを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物cを得た。この樹脂組成物cを射出成形法にてコアの周りに被覆し、厚み1.0mmの中間層を形成した。
【0129】
二液硬化型エポキシ樹脂を基材ポリマーとする塗料組成物(神東塗料社の商品名「ポリン750LE」)を、調製した。この塗料組成物の主剤液は、30質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂と、70質量部の溶剤とを含む。この塗料組成物の硬化剤液は、40質量部の変性ポリアミドアミンと、55質量部の溶剤と、5質量部の二酸化チタンとを含む。主剤液と硬化剤液との質量比は、1/1である。この塗料組成物を中間層の表面にスプレーガンで塗布し、23℃の雰囲気下で12時間保持して、補強層を得た。この補強層の厚みは、10μmであった。
【0130】
100質量部の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(BASFジャパン社の商品名「エラストランNY80A」)、4質量部の二酸化チタン及び0.04質量部のウルトラマリンブルーを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物dを得た。この樹脂組成物dから、圧縮成形法にて、ハーフシェルを得た。このハーフシェル2枚で、コア、中間層及び補強層からなる球体を被覆した。これらのハーフシェル及び球体を、それぞれが半球状キャビティを備え、キャビティ面に多数のピンプルを備えた上型及び下型からなるファイナル金型に投入し、圧縮成形法にて厚み0.5mmのカバーを得た。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。
【0131】
前述のコア、中間層及びカバーからなる本体の表面をサンドブラストによって処理し、このカバーの周りに、前述の塗料組成物P1を塗布し、40℃の温度下で24時間乾燥させることにより、厚み10μmの内層を得た。この内層の押し込み深さDiは、390nmであった。
【0132】
下表1に示す塗料組成物P2を内層の表面に塗布して、40℃の温度下で24時間乾燥させることにより、厚み10μmの外層を得た。この外層の押し込み深さDoは1500nmであった。この外層を有するゴルフボールの直径は約42.7mmであり、質量は約45.6gであった。このゴルフボールの圧縮変形量は、2.9mmであった。
【0133】
[スピン速度(I#8)]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、ミドルアイアン(ダンロップスポーツ社の商品名「XXIO」、シャフト硬度:R、ロフト角:24.0°)を装着した。ヘッド速度が38m/secである条件で、実施例2-16及び比較例1-5のゴルフボールを打撃して、打撃直後のスピン速度(rpm)を測定した。10回測定されて得られたデータの平均値が、下表3-6に示されている。
【0134】
[打球感]
10名のプレーヤー(上級者)にサンドウエッジ(クリーブランドゴルフ社の商品名「CG15フォージドウエッジ」、ロフト角:58°)にて、実施例2-16及び比較例1-5のゴルフボールを打撃させ、打球感を聞き取った。打球感が良好である(「フェースに乗っている感じがして良い」、「スピンがきく感じがして良い」、「くっつく感じがして良い」等)と答えたプレーヤーの数に基づき、下記の格付けを行った。この結果が、下表3-6に示されている。
A:8人以上
B:5-7人
C:3-4人
D:2人以下
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
表3-6に示されるように、各実施例のゴルフボールは、ミドルアイアンショットにおけるコントロール性能及びアプローチショットにおける打球感に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明に係るゴルフボールは、ゴルフコースでのプレー、ドライビングレンジでのプラクティス等に適している。このゴルフボールのペイント層は、例示されたスリーピースボールのみならず、ワンピースボール、ツーピースボール、フォーピースボール、ファイブピースボール、シックスピースボール、糸巻きボール等にも適用されうる
【符号の説明】
【0143】
2・・・ゴルフボール
4・・・本体
6・・・ペイント層
8・・・コア
10・・・中間層
12・・・カバー
14・・・内層
16・・・外層
18・・・ディンプル
20・・・ランド