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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20221206BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20221206BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20221206BHJP
   B60C 3/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60C15/06 B
B60C13/00 E
B60C11/00 Z
B60C3/04 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018130351
(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公開番号】P2020006842
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】芝井 孝志
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-092103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 3/04
B60C 15/06
B60C 13/00
B60C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部におけるカーカス層のタイヤ径方向外側に配置された複数層のベルト層と、前記ビード部の各々に配置されたビードコアと、該ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーとを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記ビードフィラーのタイヤ径方向の高さDfが前記空気入りタイヤの断面高さSHに対して0.18≦Df/SH≦0.50の関係を満足し、前記ビードフィラーを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSfが80≦HSf<100の範囲にあり、
規格にて定められた最大負荷能力の40%,75%,100%に対応する荷重をそれぞれW40,W75,W100(kN)とし、前記空気入りタイヤに230kPaの空気圧を充填し、前記荷重W40,W75,W100を負荷した条件にて測定されるコーナリングパワーをそれぞれCP40,CP75,CP100(kN/°)とし、前記空気入りタイヤの偏平比をRとし、その外径をD(mm)とし、その断面幅の呼びをA(mm)としたとき、前記荷重W40,W75,W100及び前記コーナリングパワーCP40,CP75,CP100が0.05≦(R×D/2A)2×[(CP100-CP75)/(W100-W75)]/[(CP75-CP40)/(W75-W40)]≦0.50の関係を満足すると共に、
前記サイドウォール部において前記カーカス層の外側に配置されるサイドゴム層を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSsが55≦HSs<80≦HSfの関係を満足することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト層のタイヤ周方向に対するコード角度θが18°≦θ≦34°の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ビードフィラーを構成するゴム組成物の20℃における貯蔵弾性率E′が70MPa≦E′≦130MPaの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ビードフィラーの高さDfの中間位置における前記ビードフィラーのタイヤ幅方向の厚さWhと前記ビードフィラーの高さDfの中間位置における前記サイドウォール部のタイヤ幅方向の総厚さWtが0.35≦Wh/Wt≦0.80の関係を満足することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカス層の巻き上げ高さDpがDf<Dp<SHかつ5mm≦Dp-Dfの関係を満足することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側に第2フィラーが設けられており、該第2フィラーを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HS2が70≦HS2<90かつHS2≦HSfの関係を満足することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第2フィラーの下端のタイヤ径方向の高さD2L及び前記第2フィラーの上端のタイヤ径方向の高さD2UがD2L<Df<D2U<0.80×SHかつ0.1×Df≦Df-D2L≦0.5×Dfの関係を満足することを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記空気入りタイヤが偏平比0.65以下の乗用車用タイヤであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビード部にビードコアとビードフィラーを備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、耐摩耗性を改善すると共に、操縦安定性のリニアリティを改善し、更には、荒れた路面を走行する際に車両に伝わる振動の減衰性を高めることを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、一般に、一対のビード部間に装架されたカーカス層と、トレッド部におけるカーカス層のタイヤ径方向外側に配置された複数層のベルト層と、ビード部の各々に配置されたビードコアと、該ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーとを備えている。
【0003】
このような空気入りタイヤにおいて、耐摩耗性を改善するために、ベルト層を含むベルト部の剛性を高くする手法が提案されている。しかしながら、このような手法を採用した場合、高荷重域でのコーナリングパワーが増大し、操縦安定性のリニアリティが悪化するという問題がある。つまり、ハンドル操舵の初期に比べて中盤から後半にかけてコーナリングパワーが増大して車両の動きが過敏になるような走行状態は、操縦安定性のリニアリティ(線形感)が良好ではない。そのため、操縦安定性のリニアリティが良好になるようなチューニングが求められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
これに対して、低荷重域のコーナリングパワーを高めることで操縦安定性を改善することが提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。しかしながら、低荷重域のコーナリングパワーを高めるだけでは、操縦安定性のリニアリティの改善要求に対して十分に応えることができないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-141268号公報
【文献】特開2011-230737号公報
【文献】特開2012-17001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐摩耗性を改善すると共に、操縦安定性のリニアリティを改善し、更には、荒れた路面を走行する際に車両に伝わる振動の減衰性を高めることを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部におけるカーカス層のタイヤ径方向外側に配置された複数層のベルト層と、前記ビード部の各々に配置されたビードコアと、該ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーとを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記ビードフィラーのタイヤ径方向の高さDfが前記空気入りタイヤの断面高さSHに対して0.18≦Df/SH≦0.50の関係を満足し、前記ビードフィラーを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSfが80≦HSf<100の範囲にあり、
規格にて定められた最大負荷能力の40%,75%,100%に対応する荷重をそれぞれW40,W75,W100(kN)とし、前記空気入りタイヤに230kPaの空気圧を充填し、前記荷重W40,W75,W100を負荷した条件にて測定されるコーナリングパワーをそれぞれCP40,CP75,CP100(kN/°)とし、前記空気入りタイヤの偏平比をRとし、その外径をD(mm)とし、その断面幅の呼びをA(mm)としたとき、前記荷重W40,W75,W100及び前記コーナリングパワーCP40,CP75,CP100が0.05≦(R×D/2A)2×[(CP100-CP75)/(W100-W75)]/[(CP75-CP40)/(W75-W40)]≦0.50の関係を満足すると共に、
前記サイドウォール部において前記カーカス層の外側に配置されるサイドゴム層を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSsが55≦HSs<80≦HSfの関係を満足することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ビードフィラーのタイヤ径方向の高さDfを空気入りタイヤの断面高さSHに対して0.18≦Df/SH≦0.50の関係とし、ビードフィラーを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSfを80≦HSf<100の範囲にすることにより、サイドウォール部の剛性を高めて旋回時のトレッド部の滑りを抑制し、耐摩耗性を改善することができる。そして、サイドウォール部の剛性に基づいて耐摩耗性を改善するので、ベルト層を含むベルト部の剛性を高める場合とは異なって、高荷重域でのコーナリングパワーの過度の増大を抑制することができる。更に、荷重W40,W75,W100及びコーナリングパワーCP40,CP75,CP100が0.05≦(R×D/2A)2×[(CP100-CP75)/(W100-W75)]/[(CP75-CP40)/(W75-W40)]≦0.50の関係を満足することにより、高荷重域のコーナリングパワーの過度の増大を抑制することができる。これにより、荷重の増大に伴って適度なコーナリングパワーが発揮されるので、操縦安定性のリニアリティを改善することができる。特に、タイヤサイズによりコーナリングパワーの出易さが異なるため、上記関係式は(R×D/2A)2の値により補正されている。つまり、偏平比が低く、断面幅の呼びに対する外径の比が小さいタイヤほど高荷重側のコーナリングパワーの寄与を低下させるのである。また、上述のようにサイドウォール部の剛性を高めた場合、荒れた路面を走行する際に車両に伝わる振動の減衰性を高めることができ、所謂乗心地のブルブル感を良化することができる。
【0009】
本発明において、ベルト層のタイヤ周方向に対するコード角度θが18°≦θ≦34°の範囲にあることが好ましい。ベルト層のコード角度θを小さくするとベルト層の剛性が大きくなる傾向があるが、ベルト層の剛性が過度に大きくならない範囲において、サイドウォール部の剛性を増加させることで、操縦安定性のリニアリティを効果的に改善することができる。なお、ベルト層の剛性が低過ぎると、ドレッド部とサイドウォール部との剛性バランスが崩れ易くなる。
【0010】
ビードフィラーを構成するゴム組成物の20℃における貯蔵弾性率E′は70MPa≦E′≦130MPaの範囲にあることが好ましい。ビードフィラーを構成するゴム組成物の貯蔵弾性率E′を上記範囲に設定することにより、振動減衰性を高めることができる。
【0011】
ビードフィラーの高さDfの中間位置におけるビードフィラーのタイヤ幅方向の厚さWhとビードフィラーの高さDfの中間位置におけるサイドウォール部のタイヤ幅方向の総厚さWtは0.35≦Wh/Wt≦0.80の関係を満足することが好ましい。剛性が高いビードフィラーがサイドウォール部に占める割合を高くすることにより、サイドウォール部の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。
【0012】
カーカス層の巻き上げ高さDpはDf<Dp<SHかつ5mm≦Dp-Dfの関係を満足することが好ましい。カーカス層の巻き上げ高さDpをビードフィラーの高さDfよりも大きくすることにより、サイドウォール部の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。また、Dp-Dfの値を十分に確保することで、応力集中を回避してタイヤ故障を抑制することができる。
【0013】
ビードフィラーのタイヤ径方向外側には第2フィラーが設けられており、該第2フィラーを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HS2が70≦HS2<90かつHS2≦HSfの関係を満足することが好ましい。第2フィラーを追加することにより、サイドウォール部の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。第2フィラーのゴム組成物のJIS-A硬度HS2をビードフィラーのゴム組成物のJIS-A硬度HSfよりも小さくすることで、サイドウォール部の剛性を効果的に増大させる一方で、高荷重域のコーナリングパワーの過度の増大を抑制することができる。
【0014】
第2フィラーの下端のタイヤ径方向の高さD2L及び第2フィラーの上端のタイヤ径方向の高さD2UはD2L<Df<D2U<0.80×SHかつ0.1×Df≦Df-D2L≦0.5×Dfの関係を満足することが好ましい。第2フィラーをビードフィラーに対してタイヤ径方向に重複させることにより、サイドウォール部の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。また、Df-D2Lの値を十分に確保することで、応力集中を回避してタイヤ故障を抑制することができる。更に、第2フィラーの上端のタイヤ径方向の高さD2Uを空気入りタイヤの断面高さSHに対して十分に小さくすることにより、コーナリングパワーのバランスを最適化することができる。
【0015】
サイドウォール部においてカーカス層の外側に配置されるサイドゴム層を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSsは55≦HSs<80≦HSfの関係を満足することが好ましい。サイドゴム層を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSsを比較的高くすることにより、サイドウォール部の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。また、サイドゴム層のゴム組成物のJIS-A硬度HSsをビードフィラーのゴム組成物のJIS-A硬度Hsfよりも低くすることで、高荷重域のコーナリングパワーの過度の増大を抑制することができる。
【0016】
本発明において、空気入りタイヤに230kPaの空気圧を充填し、規格にて定められた最大負荷能力のそれぞれ40%,75%,100%の荷重を負荷した条件にて接地した際のタイヤ周方向の最大接地長をそれぞれLA1,LB1,LC1とし、タイヤ幅方向の最大接地幅をそれぞれWA1,WB1,WC1とし、タイヤ中心位置からタイヤ幅方向外側に向かって最大接地幅WA1,WB1,WC1の40%の位置におけるタイヤ周方向の外部接地長をそれぞれLA2,LB2,LC2としたとき、最大接地長LA1,LB1,LC1及び前記外部接地長LA2,LB2,LC2が1.02≦(LB2/LB1)/(LA2/LA1)≦1.25、1.00≦(LC2/LC1)/(LB2/LB1)≦1.20、0.75≦LB2/LB1≦1.00の関係を満足することが好ましい。このように接地形状の荷重依存性をコントロールすることにより、操縦安定性のリニアリティを更に改善することができる。
【0017】
本発明の空気入りタイヤは偏平比0.65以下の乗用車用タイヤであることが好ましい。本発明によれば、操縦安定性のリニアリティや乗心地が厳しく要求される乗用車用タイヤにおいて、耐摩耗性と操縦安定性とを両立し、更には乗心地(振動減衰性)を改善することが可能になる。
【0018】
本発明において、貯蔵弾性率E′は、JIS-K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用い、周波数20Hz、初期歪み2mm、動歪み±2%、温度20℃の条件にて測定されるものである。JIS-A硬度は、JIS K-6253に準拠して、Aタイプのデュロメータを用いて温度20℃の条件にて測定されるデュロメータ硬さである。
【0019】
本発明において、コーナリングパワーは、タイヤを正規リムにリム組みして所定の空気圧を充填した状態で所定の荷重を負荷した条件にて、キャンバー角度を0°とし、速度を10km/hとし、スリップ角度を変化させながらコーナリングフォースを測定し、スリップ角度が0°~1°となる範囲におけるコーナリングフォースに基づいて算出される。トレッド部の接地形状は、タイヤを正規リムにリム組みして所定の空気圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて所定の荷重を負荷した条件にて測定される。空気入りタイヤの外径及び断面高さは、タイヤを正規リムにリム組みして所定の空気圧を充填した状態でタイヤ中心位置において測定される。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。空気圧は230kPaとする。また、所定の荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている最大負荷能力の40%,75%又は100%の荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
図2図1の空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
図3】コーナリングパワー(CP)と荷重との関係を示すグラフである。
図4図1の空気入りタイヤを構成するベルト層を示す展開図である。
図5】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
図6図1又は図2の空気入りタイヤの接地形状(40%荷重)を示す平面図である。
図7図1又は図2の空気入りタイヤの接地形状(75%荷重)を示す平面図である。
図8図1又は図2の空気入りタイヤの接地形状(100%荷重)を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。図1図2において、CLはタイヤ中心位置であり、Tcはタイヤ周方向であり、Twはタイヤ幅方向である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。図1はタイヤ中心位置CLからタイヤ幅方向の一方側を描写しているが、他方側もそれに対応する構造を有している。
【0023】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0024】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のベルトコードを含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7を構成するベルトコードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、タイヤ周方向に配向する複数本のバンドコードを含む少なくとも1層のベルト補強層8が配置されている。ベルト補強層8は少なくとも1本のバンドコードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に連続的に巻回したジョイントレス構造とすることが望ましい。ベルト補強層8を構成するバンドコードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0025】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝10が形成されている。主溝10は、少なくとも1本のセンター主溝11と、該センター主溝11の外側に位置する一対のショルダー主溝12,12を含んでいる。これら主溝10によりトレッド部1には複数の陸部20が区画されている。陸部20は、一対のショルダー主溝12,12の相互間に位置するセンター陸部21と、各ショルダー主溝12の外側に位置するショルダー陸部22とを含んでいる。各センター陸部21には、一端がショルダー主溝12に開口し、他端がセンター陸部21内で終端する複数本の閉止溝13が形成されている。また、各ショルダー陸部22には、タイヤ幅方向に延在してショルダー主溝12に対して非連通となる複数本のラグ溝14と、タイヤ幅方向に延在してショルダー主溝12に対して連通する複数本のサイプ15とがタイヤ周方向に沿って交互に形成されている。
【0026】
上記空気入りタイヤにおいて、ビードフィラー6のタイヤ径方向の高さDfが空気入りタイヤの断面高さSHに対して0.18≦Df/SH≦0.50の関係を満足している。ビードフィラー6のタイヤ径方向の高さDfはビードヒール位置(リム径の基準位置)からビードフィラー6のタイヤ径方向外側の頂点までの高さである。また、ビードフィラー6を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSfは80≦HSf<100の範囲に設定されている。
【0027】
上記空気入りタイヤにおいて、規格にて定められた最大負荷能力の40%,75%,100%に対応する荷重をそれぞれW40,W75,W100(kN)とし、空気入りタイヤに230kPaの空気圧を充填し、荷重W40,W75,W100を負荷した条件にて測定されるコーナリングパワーをそれぞれCP40,CP75,CP100(kN/°)とし、空気入りタイヤの偏平比をRとし、その外径をD(mm)とし、その断面幅の呼びをA(mm)とする。
【0028】
ここで、荷重W40,W75,W100及びコーナリングパワーCP40,CP75,CP100は、0.05≦(R×D/2A)2×[(CP100-CP75)/(W100-W75)]/[(CP75-CP40)/(W75-W40)]≦0.50の関係を満足する。
【0029】
上述した空気入りタイヤでは、図1に示すように、ビードフィラー6のタイヤ径方向の高さDfを空気入りタイヤの断面高さSHに対して0.18≦Df/SH≦0.50の関係とし、ビードフィラー6を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSfを80≦HSf<100の範囲にすることにより、サイドウォール部2の剛性を高めて旋回時のトレッド部1の滑りを抑制し、耐摩耗性を改善することができる。そして、サイドウォール部2の剛性に基づいて耐摩耗性を改善するので、ベルト層7を含むベルト部の剛性を高める場合とは異なって、高荷重域でのコーナリングパワーの過度の増大を抑制することができる。これにより、操縦安定性のリニアリティを改善することができる。また、サイドウォール部2の剛性を高めることにより、荒れた路面を走行する際に車両に伝わる振動の減衰性を高めることができる。
【0030】
ここで、Df/SHの値が0.18より小さいとサイドウォール部2の剛性が不足するため耐摩耗性や振動減衰性の改善効果が不十分になり、逆に0.50よりも大きいと操縦安定性のリニアリティが悪化する。特に、0.22≦Df/SH≦0.40の関係を満足することが望ましい。また、ビードフィラー6を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSfが80未満であるとサイドウォール部2の剛性が不足するため耐摩耗性や振動減衰性の改善効果が不十分になる。特に、JIS-A硬度HSfは86≦HSf<100の範囲にあることが望ましい。なお、ビードフィラー6は一般的にカーボンブラックで補強されたゴム組成物で構成されるが、ナイロンやポリエチレンテレフタレート等の短繊維やセルロースナノファイバーで補強されたゴム組成物で構成されていても良い。
【0031】
図3はコーナリングパワー(CP)と荷重との関係を示すグラフである。図3において、タイヤCは基準構造を有する空気入りタイヤであり、タイヤAはベルト層7を含むベルト部の剛性を高くした空気入りタイヤであり、タイヤBはベルト部の剛性を高める替わりにサイドウォール部2の剛性を高くした空気入りタイヤである。タイヤA,Cの対比から明らかなように、ベルト部の剛性を高くすると高荷重域でのコーナリングパワーが増大する。これに対して、サイドウォール部2の剛性を高くした場合(タイヤB)、高荷重域でのコーナリングパワーの過度な増大が抑制される。
【0032】
また、上述した空気入りタイヤでは、荷重W40,W75,W100及びコーナリングパワーCP40,CP75,CP100が0.05≦(R×D/2A)2×[(CP100-CP75)/(W100-W75)]/[(CP75-CP40)/(W75-W40)]≦0.50の関係を満足することにより、高荷重域のコーナリングパワーの過度の増大を抑制することができる。これにより、荷重の増大に伴って適度なコーナリングパワーが発揮されるので、操縦安定性のリニアリティを改善することができる。特に、上記関係式は(R×D/2A)2の値により補正されているので、偏平比が低く、断面幅の呼びに対する外径の比が小さいタイヤほど高荷重側のコーナリングパワーの寄与を低下させる。そのため、タイヤサイズに応じて適度なコーナリングパワーを発揮することができる。
【0033】
ここで、(R×D/2A)2×[(CP100-CP75)/(W100-W75)]/[(CP75-CP40)/(W75-W40)]が0.05よりも小さいと低荷重域でのコーナリングパワーが過剰となり、逆に0.50よりも大きいと高荷重域でのコーナリングパワーが過剰となり、いずれの場合も、操縦安定性のリニアリティが損なわれることになる。特に、0.10≦(R×D/2A)2×[(CP100-CP75)/(W100-W75)]/[(CP75-CP40)/(W75-W40)]≦0.40の関係を満足することが望ましい。
【0034】
図4図1の空気入りタイヤを構成するベルト層を示すものである。上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7のタイヤ周方向に対するコード角度θは18°≦θ≦34°の範囲に設定されていると良い。ベルト層7のコード角度θはタイヤ中心位置CLにおけるベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度である。ベルト層7のコード角度θを小さくするとベルト層7の剛性が大きくなる傾向があるが、ベルト層7の剛性が過度に大きくならない範囲において、サイドウォール部2の剛性を増加させることで、操縦安定性のリニアリティを効果的に改善することができる。
【0035】
ここで、ベルト層7のタイヤ周方向に対するコード角度θが18°よりも小さいベルト層7の剛性が大き過ぎるため操縦安定性のリニアリティが悪化する要因となり、逆に34°よりも大きいとベルト層7の剛性が低過ぎるためドレッド部1とサイドウォール部2との剛性バランスが悪化する。コード角度θにはタイヤサイズにより好適な範囲がある。偏平比Rが0.65超である場合、18°≦θ≦30°が好ましく、特に21°≦θ≦29°が好ましい。偏平比Rが0.65以下である場合、21°≦θ≦34°が好ましく、特に22°≦θ≦32°が好ましい。
【0036】
上記空気入りタイヤにおいて、ビードフィラー6を構成するゴム組成物の20℃における貯蔵弾性率E′は70MPa≦E′≦130MPaの範囲にあると良い。ビードフィラー6を構成するゴム組成物の貯蔵弾性率E′を上記範囲に設定することにより、振動減衰性を高めることができる。この貯蔵弾性率E′が70MPaよりも小さいと振動減衰性を高める効果が低下し、逆に130MPaよりも大きいと操縦安定性のリニアリティの改善効果が低下する。特に、貯蔵弾性率E′は77MPa≦E′≦120MPaの範囲にあることが望ましい。
【0037】
上記空気入りタイヤにおいて、図1に示すように、ビードフィラー6の高さDfの中間位置(Df/2)におけるビードフィラー6のタイヤ幅方向の厚さWhとビードフィラーの高さDfの中間位置におけるサイドウォール部2のタイヤ幅方向の総厚さWtは0.35≦Wh/Wt≦0.80の関係を満足すると良い。剛性が高いビードフィラー6がサイドウォール部2に占める割合を高くすることにより、サイドウォール部2の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。ここで、Wh/Wtの値が0.35よりも小さいとサイドウォール部2の剛性が不十分になり、逆に0.80よりも大きいとサイドウォール部2の剛性が過度に高くなるため操縦安定性のリニアリティが悪化する。
【0038】
上記空気入りタイヤにおいて、図1に示すように、カーカス層4の巻き上げ高さDpはDf<Dp<SHかつ5mm≦Dp-Dfの関係を満足すると良い。カーカス層4の巻き上げ高さDpをビードフィラー6の高さDfよりも大きくすることにより、サイドウォール部2の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。また、Dp-Dfの値を十分に確保することで、応力集中を回避してタイヤ故障を抑制することができる。ここで、Dp-Dfの値が5mmよりも小さいとビードフィラー6の頂点とカーカス層4の巻き上げ端とが近接するため応力集中に起因するタイヤ故障を生じ易くなる。
【0039】
図5は本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。図5において、図1と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。図5に示すように、ビードフィラー6のタイヤ径方向外側の位置には第2フィラー9が配設されている。第2フィラー9はシート状をなし、カーカス層4のタイヤ幅方向外側で該カーカス層4に沿って配置されている。第2フィラー9を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HS2は70≦HS2<90かつHS2≦HSfの関係を満足すると良い。このような第2フィラー9を追加することにより、サイドウォール部2の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。また、第2フィラー9のゴム組成物のJIS-A硬度HS2をビードフィラー6のゴム組成物のJIS-A硬度HSfよりも小さくすることで、サイドウォール部2の剛性を効果的に増大させる一方で、高荷重域のコーナリングパワーの過度の増大を抑制することができる。
【0040】
ここで、第2フィラー9を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HS2が70よりも小さいとサイドウォール部2の剛性を高くする効果が低下し、逆に90以上であったりビードフィラー6のJIS-A硬度HSfよりも高かったりすると高荷重域のコーナリングパワーが過度に増大する。
【0041】
上記空気入りタイヤにおいて、図5に示すように、第2フィラー9の下端のタイヤ径方向の高さD2L及び第2フィラー9の上端のタイヤ径方向の高さD2UはD2L<Df<D2U<0.80×SHかつ0.1×Df≦Df-D2L≦0.5×Dfの関係を満足すると良い。第2フィラー9をビードフィラー6に対してタイヤ径方向に重複させることにより、サイドウォール部2の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。また、Df-D2Lの値を十分に確保することで、応力集中を回避してタイヤ故障を抑制することができる。更に、第2フィラー9の上端のタイヤ径方向の高さD2Uを空気入りタイヤの断面高さSHに対して十分に小さくすることにより、コーナリングパワーのバランスを最適化することができる。
【0042】
ここで、第2フィラー9の下端のタイヤ径方向の高さD2Lがビードフィラー6の高さDfよりも大きいとビードフィラー6と第2フィラー9とが連続的に配置されないためサイドウォール部2の剛性を効果的に増大させることができなくなる。また、Df-D2Lの値が0.1×Dfよりも小さいとビードフィラー6の頂点と第2フィラー9の下端とが近接するため応力集中に起因するタイヤ故障を生じ易くなり、逆に0.5×Dfよりも大きいとサイドウォール部2の剛性が過度に高くなる。更に、第2フィラー9の上端のタイヤ径方向の高さD2Uが0.80×SH以上に大きいと操縦安定性のリニアリティが悪化する。
【0043】
上述した空気入りタイヤにおいて、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外側に配置されるサイドゴム層2Aを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSsは55≦HSs<80≦HSfの関係を満足すると良い。サイドゴム層2Aを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSsを比較的高くすることにより、サイドウォール部2の剛性を効果的に増大させることができ、その結果、耐摩耗性や振動減衰性を改善することができる。また、サイドゴム層2Aのゴム組成物のJIS-A硬度HSsをビードフィラー6のゴム組成物のJIS-A硬度HSfよりも低くすることで、高荷重域のコーナリングパワーの過度の増大を抑制することができる。
【0044】
ここで、サイドゴム層2Aを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSsが55よりも小さいとサイドウォール部2の剛性を効果的に増大させることができなくなり、逆に80以上であったりビードフィラー6のJIS-A硬度HSfよりも高かったりすると高荷重域のコーナリングパワーが過度に増大する。
【0045】
図6図8はそれぞれ図1又は図2の空気入りタイヤの接地形状(40%荷重、75%荷重、100%荷重)を示すものである。上記空気入りタイヤにおいて、該空気入りタイヤに230kPaの空気圧を充填し、規格にて定められた最大負荷能力のそれぞれ40%,75%,100%の荷重を負荷した条件にて接地した際のタイヤ周方向の最大接地長をそれぞれLA1,LB1,LC1(mm)とし、タイヤ幅方向の最大接地幅をそれぞれWA1,WB1,WC1(mm)とし、タイヤ中心位置からタイヤ幅方向外側に向かって最大接地幅WA1,WB1,WC1の40%の位置におけるタイヤ周方向の外部接地長をそれぞれLA2,LB2,LC2(mm)とする。
【0046】
つまり、図6に示すように、上記空気入りタイヤに230kPaの空気圧を充填し、規格にて定められた最大負荷能力の40%の荷重を負荷した条件にて接地した際のタイヤ周方向の最大接地長をLA1とし、タイヤ幅方向の最大接地幅をWA1とし、タイヤ中心位置CLからタイヤ幅方向外側に向かって最大接地幅WA1の40%の位置におけるタイヤ周方向の外部接地長をLA2とする。外部接地長LA2はタイヤ中心位置CLの両側における測定値の平均値である。
【0047】
また、図7に示すように、上記空気入りタイヤに230kPaの空気圧を充填し、規格にて定められた最大負荷能力の75%の荷重を負荷した条件にて接地した際のタイヤ周方向の最大接地長をLB1とし、タイヤ幅方向の最大接地幅をWB1とし、タイヤ中心位置CLからタイヤ幅方向外側に向かって最大接地幅WB1の40%の位置におけるタイヤ周方向の外部接地長をLB2とする。外部接地長LB2はタイヤ中心位置CLの両側における測定値の平均値である。
【0048】
更に、図8に示すように、上記空気入りタイヤに230kPaの空気圧を充填し、規格にて定められた最大負荷能力の100%の荷重を負荷した条件にて接地した際のタイヤ周方向の最大接地長をLC1とし、タイヤ幅方向の最大接地幅をWC1とし、タイヤ中心位置CLからタイヤ幅方向外側に向かって最大接地幅WC1の40%の位置におけるタイヤ周方向の外部接地長をLC2とする。外部接地長LC2はタイヤ中心位置CLの両側における測定値の平均値である。
【0049】
ここで、最大接地長LA1,LB1,LC1及び外部接地長LA2,LB2,LC2は以下の関係を満足すると良い。
1.02≦(LB2/LB1)/(LA2/LA1)≦1.25
1.00≦(LC2/LC1)/(LB2/LB1)≦1.20
0.75≦LB2/LB1≦1.00
【0050】
このように接地形状の荷重依存性をコントロールすることにより、操縦安定性のリニアリティを更に改善することができる。つまり、LA2/LA1は40%荷重時の矩形率を意味し、LB2/LB1は75%荷重時の矩形率を意味し、LC2/LC1は100%荷重時の矩形率を意味するものであるが、低荷重域の接地形状をコントロールするための指標として(LB2/LB1)/(LA2/LA1)の値を規定し、高荷重域の接地形状をコントロールするための指標として(LC2/LC1)/(LB2/LB1)の値を規定することにより、操縦安定性のリニアリティを更に改善することができる。
【0051】
ここで、(LB2/LB1)/(LA2/LA1)又は(LC2/LC1)/(LB2/LB1)が上記範囲から外れると操縦安定性のリニアリティの改善効果が低下する。特に、1.03≦(LB2/LB1)/(LA2/LA1)≦1.15、1.02≦(LC2/LC1)/(LB2/LB1)≦1.10の関係を満足することが望ましい。
【0052】
また、摩耗寿命を向上するために、一般常用荷重とみなされる75%の荷重条件において、LB2/LB1を上記範囲に設定することが望ましい。LB2/LB1が0.75よりも小さいと摩耗寿命が短くなり、逆に1.00よりも大きいと操縦安定性のリニアリティのチューニングが難しくなる。特に、0.80≦LB2/LB1≦0.95の関係を満足することが望ましい。
【0053】
上述した空気入りタイヤは偏平比0.65以下の乗用車用タイヤとして好適である。操縦安定性のリニアリティや乗心地が厳しく要求される乗用車用タイヤにおいて、耐偏摩耗性と操縦安定性とを両立し、更には乗心地(振動減衰性)を改善することが可能になる。
【実施例
【0054】
タイヤサイズ205/55R16 91Vで、一対のビード部間に装架されたカーカス層と、トレッド部におけるカーカス層のタイヤ径方向外側に配置された2層のベルト層と、ビード部の各々に配置されたビードコアと、該ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーとを備えた空気入りタイヤにおいて、ベルト層のタイヤ周方向に対するコード角度θ、空気入りタイヤの断面高さSH、ビードフィラーのタイヤ径方向の高さDf、Df/SH、ビードフィラーを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSf、ビードフィラーを構成するゴム組成物の20℃における貯蔵弾性率E′、ビードフィラーの高さDfの中間位置におけるビードフィラーのタイヤ幅方向の厚さWh、ビードフィラーの高さDfの中間位置におけるサイドウォール部のタイヤ幅方向の総厚さWt、Wh/Wt、カーカス層の巻き上げ高さDp、Dp-Df、第2フィラーを構成するゴム組成物のJIS-A硬度HS2、第2フィラーの下端のタイヤ径方向の高さD2L、第2フィラーの上端のタイヤ径方向の高さD2U、Df-D2L、サイドゴム層を構成するゴム組成物のJIS-A硬度HSs、低荷重域CP変動係数X=[(CP75-CP40)/(W75-W40)]、高荷重域CP変動係数Y=[(CP100-CP75)/(W100-W75)]、(R×D/2A)2×(Y/X)、(LB2/LB1)/(LA2/LA1)、(LC2/LC1)/(LB2/LB1)、LB2/LB1(矩形率)を表1及び表2のように設定した従来例、比較例1~2及び実施例1~8のタイヤを製作した。なお、本明細書において、実施例1~6は参考例である。
【0055】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、耐摩耗性(ショルダー領域、センター領域)、操縦安定性のリニアリティ、乗心地[振動減衰性]を評価し、その結果を表1及び表2に併せて示した。
【0056】
耐摩耗性(ショルダー領域、センター領域):
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて摩擦エネルギー測定試験機に装着し、空気圧230kPa、負荷荷重4.5kNの条件下にて、トレッド部のショルダー領域及びセンター領域での平均摩擦エネルギーを測定した。測定値は、各領域で10mm間隔となるタイヤ幅方向2箇所×タイヤ周方向2箇所の計4点における摩擦エネルギーを測定し、これらを平均したものである。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。指数値が大きいほど耐摩耗性が優れていることを意味する。
【0057】
操縦安定性のリニアリティ:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて排気量2リットルの前輪駆動車に装着し、当該車両の指定空気圧を充填し、舗装路からなるテストコースにてパネラーによる走行試験を実施し、操縦安定性のリニアリティについて官能評価を行った。評価結果は、比較例2を100とする指数にて示した。指数値が大きいほど操縦安定性のリニアリティが良好であることを意味する。
【0058】
乗心地[振動減衰性]:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて排気量2リットルの前輪駆動車に装着し、当該車両の指定空気圧を充填し、舗装路からなるテストコースにてパネラーによる走行試験を実施し、乗心地[振動減衰性]について官能評価を行った。評価結果は、従来を100とする指数にて示した。指数値が大きいほど乗心地[振動減衰性]が良好であることを意味する。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
この表1及び表2から判るように、実施例1~8のタイヤは、従来例との対比において、耐摩耗性が優れていると共に、操縦安定性のリニアリティが良好であり、しかも、走行時の振動減衰性が良好であって乗心地が優れていた。これに対して、比較例1のタイヤは、ビードフィラーが小さいため耐摩耗性や乗心地[振動減衰性]の改善効果が得られなかった。また、比較例2のタイヤは、従来例と同様に軟らかいビードフィラーを備える一方で、ベルト層のコード角度θを小さくしてベルト部の剛性を高めているため、操縦安定性のリニアリティが必ずしも良好ではなく、また、乗心地[振動減衰性]の改善効果が得られなかった。
【符号の説明】
【0062】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 第2フィラー
10 主溝
11 センター主溝
12 ショルダー主溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8