IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特許-光散乱検出装置 図1
  • 特許-光散乱検出装置 図2
  • 特許-光散乱検出装置 図3
  • 特許-光散乱検出装置 図4
  • 特許-光散乱検出装置 図5
  • 特許-光散乱検出装置 図6
  • 特許-光散乱検出装置 図7
  • 特許-光散乱検出装置 図8
  • 特許-光散乱検出装置 図9
  • 特許-光散乱検出装置 図10
  • 特許-光散乱検出装置 図11
  • 特許-光散乱検出装置 図12
  • 特許-光散乱検出装置 図13
  • 特許-光散乱検出装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】光散乱検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/51 20060101AFI20221206BHJP
   G01N 15/06 20060101ALI20221206BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01N21/51
G01N15/06 C
G01N15/14 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018145765
(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公開番号】P2020020706
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(74)【代理人】
【識別番号】100191190
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 直文
(72)【発明者】
【氏名】山口 亨
(72)【発明者】
【氏名】笠谷 敦
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-094245(JP,A)
【文献】特開2000-230901(JP,A)
【文献】特開平03-029836(JP,A)
【文献】特開昭57-037251(JP,A)
【文献】特開昭64-013435(JP,A)
【文献】特開2015-111163(JP,A)
【文献】特開2016-105090(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0153891(US,A1)
【文献】特開昭52-152274(JP,A)
【文献】特開2010-060364(JP,A)
【文献】特開2002-257706(JP,A)
【文献】特開2016-053554(JP,A)
【文献】特開平06-109539(JP,A)
【文献】特開2008-039539(JP,A)
【文献】特開昭62-282246(JP,A)
【文献】米国特許第06052184(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
G01N 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の微粒子を検出するための光散乱検出装置であって、
液体試料を保持する透明な試料セルと、
前記試料セルにコヒーレント光を照射する光源と、
前記試料セルから周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を集光する結像光学系と、
前記結像光学系の入射側に配され、散乱角範囲を制限するためのスリット板と、
前記結像光学系からの集光を受光する検出器と、
前記結像光学系よりも前記検出器側に配されたアパーチャ板と、
前記スリット板と前記アパーチャ板との間の光路を覆う鏡筒と、
を備え、
前記鏡筒内に、その内周面で反射する光を除去するための反射光除去手段を備えることを特徴とする光散乱検出装置。
【請求項2】
前記反射光除去手段は、前記鏡筒内の前記結像光学系と前記アパーチャ板との間に介設され、前記鏡筒とは別部材である、リング状の板によって形成された、反射光を制限するための鏡筒内アパーチャ板である、請求項1に記載の光散乱検出装置。
【請求項3】
前記反射光除去手段は、前記鏡筒内の前記結像光学系と前記アパーチャ板との間に介設され、リング状の張出し壁として前記鏡筒と一体的に形成された反射光遮蔽壁である、請求項1に記載の光散乱検出装置。
【請求項4】
前記反射光除去手段は、前記鏡筒内の前記結像光学系と前記アパーチャ板との間に形成された反射光逃し孔である、請求項1に記載の光散乱検出装置。
【請求項5】
前記反射光除去手段は、鏡面として形成される、請求項1に記載の光散乱検出装置。
【請求項6】
前記試料セルから前記検出器に至る検出光学系は、前記試料セルの周囲に、該試料セルの中心軸から等間隔で複数配されており、
前記鏡筒よりも前記検出器側に、開口幅によって前記検出器への受光幅を制限する検出器前アパーチャ板を備え、
各検出器前アパーチャ板の開口幅は、前記試料セルに対する各検出器の配置角度に応じて異なっている、請求項1から5のいずれか1項に記載の光散乱検出装置。
【請求項7】
各検出器前アパーチャ板の開口幅は、前記試料セルの中心軸から前記検出器までの距離と、各検出器の配置角度の正弦値と、を乗じて設定される、請求項6に記載の光散乱検出装置。
【請求項8】
前記光源は、該光源から前記試料セルに入射するコヒーレント光の光軸が、前記試料セルおよび前記検出器を含む平面から所定の角度傾斜するように配置されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の光散乱検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中に分散している微粒子の分子量や回転半径(サイズ)等を測定するための微粒子検出装置に利用される光散乱検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料中に分散しているタンパク質等の微粒子を分離するための手法として、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)やゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)が知られている。近年、クロマトグラフィ検出装置としては、紫外線(UV)吸光度検出装置や示差屈折率検出装置に加え、多角度光散乱(MALS)検出装置が用いられている。MALS検出装置は、測定試料の分子量や粒子径が算出可能であるという特長がある(特許文献1および2参照)。
【0003】
図11は、原点に散乱光発生光源を配置した場合の散乱光放射方向の座標系を示している。図11に示すように、XY面上においてX方向正方向に光が入射し、XY面上における光の進行方向からの散乱角度をθ、XY面上からの角度をφと定義する。
【0004】
次に、図12は、MALS検出装置の基本構成例の平面図を、図13は側面図を示している。図12および図13において、110は試料セル、111は液体試料、120は光源、121は集光レンズ、140はスリット板、150は結像レンズ、160はアパーチャ板、170は検出器、180は鏡筒である。
【0005】
図12および図13に示すように、円筒体状の試料セル110の内部に液体試料111を通液し、試料セル110および流路中心を通るように光源120から光を照射する。光源としては、通常、可視レーザ光が用いられる。光の進行方向からの角度θが水平面上(XY平面上)の散乱角として定義され、異なる散乱角を検出するように試料セル110および流路中心を通る水平面上(XY平面上)に検出器170が複数配置される。図12は、θ1,θ2の配置角度で検出器170を2個配置した例である。
【0006】
円筒体状の試料セル110の場合、ガラスと空気との界面及びガラスと流路との界面における反射光が迷光として検出器170に入り、検出器170の検出精度を悪化させるという課題があった。その解決策として、発明者は、図13に示すように、試料セル110に対して入射光をチルト(角度α)させることによって、上記迷光を低減させる手法を見出した(非特許文献1参照)。
【0007】
また、MALS検出装置では、低い濃度の試料が測定でき、かつ、高いS/N比の装置が望ましい。そのためには、試料から発生する散乱光を効率的に検出器に入るようにする光学系が求められる。言い換えると、各検出器に入る散乱光の立体角が大きい必要がある。検出器の立体角を大きくする際に、水平方向(光軸面上)の立体角を大きくすると、各検出器の角度分解能が悪くなってしまうため、鉛直方向の立体角を大きく取ることが望ましい。ただし、立体角を大きくすべく検出器サイズを大きくすることは、暗電流が増加するため、好ましくない。
【0008】
検出器サイズを大きくすることなく、立体角を大きく取るためには、レンズ等で散乱光を集光する方法が採られる(非特許文献1)。具体的には、セル流路で発生した散乱光が結像レンズを介して、検出器で結像する配置である。そこで、水平方向の立体角を小さくし、鉛直方向の立体角を大きくするために、結像レンズの入射側に、水平方向の開口幅が狭く、鉛直方向に広い開口長を有するスリットが設けられる。これにより、角度分解能が悪化することなく、散乱光を効率的に検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平07-72068号公報、
【文献】特開2015-111163号公報
【文献】「光散乱法によるタンパク質の絶対分子量と複合体形成の解析」、尾高雅文、生物工学89巻
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図12および図13に示したように、スリット板140から検出器170の間は、通常、鏡筒180で覆われている。鏡筒180は、外部からの光が検出器170に入るのを防ぎ、試料セル110からの散乱光を検出器170に結像する目的で設けられる。
【0011】
しかしながら、図14に示すように、試料セル110での反射光または透過光が鏡筒180の内面で反射し、迷光として検出器170に侵入することがある。試料セル110での反射光または透過光の強度は、試料からの散乱光(信号光)よりも強い。試料セル110の周囲には等間隔で複数の検出器が配置されている。迷光の大きさは、検出器170の配置角度によって異なり、低散乱角度に配置した検出器170で顕著に大きくなる。この迷光により、検出器170のダイナミックレンジが低下するとともに、迷光の強度変動により検出器170の検出精度が悪化する。
【0012】
そこで、本発明は、鏡筒の内面で反射した迷光の検出器への侵入を防止し、検出器のダイナミックレンジを向上させ、検出精度よく測定することができる光散乱検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る光散乱検出装置は、液体試料中の微粒子を検出するための光散乱検出装置であって、液体試料を保持する透明な試料セルと、上記試料セルにコヒーレント光を照射する光源と、上記試料セルから周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を集光する結像光学系と、上記結像光学系の入射側に配され、散乱角範囲を制限するためのスリット板と、上記結像光学系からの集光を受光する検出器と、上記結像光学系の焦点距離よりも上記検出器側に配されたアパーチャ板と、上記スリット板と上記アパーチャ板との間の光路を覆う鏡筒と、を備え、上記鏡筒内に、その内周面で反射する光を除去するための反射光除去手段を備えることを特徴とする。
【0014】
上記光散乱検出装置の構成において、上記反射光除去手段は、上記鏡筒内の上記結像光学系と上記アパーチャ板との間に介設され、反射光を制限するための鏡筒内アパーチャ板であることが好ましい。
【0015】
また、上記反射光除去手段は、上記鏡筒内の上記結像光学系と上記検出器前アパーチャ板との間に介設された開口部を有する反射光遮蔽壁であってもよい。
【0016】
さらに、上記反射光除去手段は、上記鏡筒内の上記結像光学系と上記検出器前アパーチャ板との間に形成された反射光逃し孔であってもよい。
【0017】
そして、上記反射光除去手段は、上記鏡筒の内周壁の一部が反射光を吸収可能な非鏡面として形成されていてもよい。
【0018】
また、上記試料セルから上記検出器に至る検出光学系は、上記試料セルの周囲に、該試料セルの中心軸から等間隔で複数配されており、上記鏡筒よりも上記検出器側に、開口幅によって上記検出器への受光幅を制限する検出器前アパーチャ板を備え、各検出器前アパーチャ板の開口幅は、上記試料セルに対する各検出器の配置角度に応じて異なっていることが好ましい。
【0019】
各アパーチャ板の開口幅は、上記試料セルの中心軸から上記検出器までの距離と、各検出器の配置角度の正弦値と、を乗じて設定されることが好ましい。
【0020】
加えて、上記光源は、該光源から上記試料セルに入射するコヒーレント光の光軸が、上記試料セルおよび上記検出器を含む平面から所定の角度傾斜するように配置されている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鏡筒の内面で反射した迷光の検出器への侵入を防止し、検出器のダイナミックレンジを向上させ、検出精度よく測定することができる光散乱検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る光散乱検出装置の第1実施形態の側面図である。
図2】第1実施形態に係る光散乱検出装置の一部拡大側面図である。
図3】第1実施形態に係る光散乱検出装置の平面図である。
図4】第1実施形態における光線追跡シミュレーション結果を説明するための側面図である。
図5】第2実施形態に係る光散乱検出装置の一部拡大側面図である。
図6】第2実施形態に係る光散乱検出装置の変形態様の一部拡大側面図である。
図7】第3実施形態に係る光散乱検出装置の一部拡大側面図である。
図8】第3実施形態に係る光散乱検出装置の変形態様の一部拡大側面図である。
図9】第4実施形態に係る光散乱検出装置の一部拡大側面図である。
図10】第5実施形態に係る光散乱検出装置の平面図である。
図11】原点に散乱光発生光源を配置した場合の散乱光放射方向の座標系である。
図12】MALS検出装置の基本構成例の平面図である。
図13】MALS検出装置の基本構成例の側面図である。
図14】従来構造の光線追跡シミュレーション結果を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る光散乱検出装置の第1から第5実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0024】
[第1実施形態]
〔光散乱検出装置の構成〕
まず、図1から図3を参照して、本発明に係る光散乱検出装置の第1実施形態の構成について説明する。図1は、本発明に係る光散乱検出装置の第1実施形態の側面図である。図2は、第1実施形態に係る光散乱検出装置の一部拡大側面図である。図1および図2に示すように、第1実施形態に係る光散乱検出装置1は、液体試料中に分散しているタンパク質等の微粒子の分子量や回転半径(サイズ)を検出する装置である。光散乱検出装置1は、試料セル10、光源20、スリット板40、結像光学系50、アパーチャ板60、検出器70および鏡筒80を備える。以下、各構成要素ごとに説明する。
【0025】
試料セル10は、内部の流路に液体試料を保持する透明な円筒体状のセルである。試料セル10は、例えば、無色透明な石英ガラスによって形成されている。
【0026】
光源20は、試料セル10にコヒーレント光を照射する。「コヒーレント光」とは、光束内の任意の2点における光波の位相関係が時間的に不変で一定に保たれており、任意の方法で光束を分割した後、大きな光路差を与えて再び重ね合わせても完全な干渉性を示す光をいう。光源20としては、例えば、可視光レーザを照射するためのレーザ光源が採用される。自然界には完全なコヒーレント光は存在せず、シングルモードで発振するレーザ光はコヒーレント状態に近い光である。
【0027】
光源20から試料セル10に至る入射光の光路L1には、集光光学系21が配置されている。集光光学系21としては、例えば、単一の集光レンズが採用されている。この集光レンズは、平凸レンズであり、光源20からの光の入射側が凸面で、出射側が平面に形成されている。本実施形態では、集光光学系21として、単一の集光レンズを採用しているが、集光光学系21は複数の複合レンズや集光ミラーを組み合わせて構成してもよい。
【0028】
光源20および集光光学系21は、光源20から試料セル10に入射するコヒーレント光の光軸が、試料セル10及び検出器50を含む平面(XY平面)から所定の角度(チルト角度α)で傾斜するように配置されている。具体的には、試料セル10に対して入射光が斜め上方から入射するように、光源20および集光光学系21が配置されている。試料セル10に対して入射光をチルト(角度α)させることによって、試料セル10のガラスと空気との界面及びガラスと流路との界面(以下、「セル界面」と総称する。)での反射光による迷光を低減させることができる。光源20から照射されたレーザ光は、集光光学系21を通過した後、試料セル10の中心軸付近に集光する。
【0029】
試料セル10からの出射光の光路L2上には、検出光学系30が配置されている。本実施形態の検出光学系30は、スリット板40、結像光学系50、アパーチャ板60、鏡筒80および検出器70から構成されている。
【0030】
結像光学系50は、試料セル10から周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を集光する。結像光学系50としては、例えば、単一の結像レンズが採用されている。この結像レンズは、平凸レンズであり、試料セル10からの散乱光の入射側が平面で、出射側が凸面に形成されている。本実施形態では、結像光学系50として、単一の結像レンズを採用したが、結像光学系50は複数の複合レンズや結像ミラーを組み合わせて構成してもよい。
【0031】
スリット板40は、試料セル10からの出射光の光路L2上において、試料セル10と結像光学系50との間に配置されている。スリット板40は、結像光学系50に入射する散乱角範囲を制限する。すなわち、スリット板40に開口されたスリット41は、水平方向の散乱角を制限し、且つ、鉛直方向の光束を多く取り込むために、鉛直方向に縦長であって、少なくとも鉛直方向に沿った辺が直状である。具体的には、スリット41は、鉛直方向に縦長の長方形状や長孔形状を呈している。
【0032】
アパーチャ板60は、試料セル10からの出射光の光路L2上において、検出器70よりも結像光学系側に配置されている。アパーチャ板60は迷光を制限する機能を有し、その開口部61は検出器70の受光面前で開口している。
【0033】
鏡筒80は、スリット板40とアパーチャ板60との間の光路を覆う円筒体である。
鏡筒80内には、当該鏡筒80の内周面で反射する光(反射光RLを除去するための反射光除去手段90が備えられている。反射光除去手段90は、鏡筒80内の結像光学系50とアパーチャ板60との間に介設されている。第1実施形態の反射光除去手段90は、反射光RLを制限するための鏡筒内アパーチャ板91によって形成されている。この鏡筒内アパーチャ板91は、例えば、中心部に円形孔を有するリング状の円板によって形成されている。鏡筒内アパーチャ板91は、鏡筒80内で反射光RLの反射が生じ易い部位に介設することが好ましい。
【0034】
検出器70は、結像光学系50からの集光を受光する。すなわち、結像光学系50の焦点に、検出器70の受光面が位置している。本実施形態の検出器70としては、例えば、フォトダイオード(PD)を採用しているが、2次元CMOS等のアレイ検出器を採用してもよい。
【0035】
図3は、第1実施形態に係る光散乱検出装置の一実施形態の平面図である。図3に示すように、試料セル10から検出器70に至る検出光学系30は、試料セル10の周囲にセル中心軸Sから等間隔dで複数配されている。光の進行方向からの角度θが水平面上(XY平面上)の散乱角として定義される。異なる散乱角を検出できるように、試料セル10およびセル中心軸Sを通る水平面上(XY平面上)に検出器70が複数配置される。図3の例では、θ1,θ2の配置角度で検出光学系30、31が2系配置されている。検出光学系30、31においても、上記と同様の構造を有する鏡筒内アパーチャ板91を備えた鏡筒80が配置されている。
【0036】
〔光散乱検出装置の作用〕
次に、図1から図4を参照して、第1実施形態に係る光散乱検出装置の作用について説明する。
【0037】
図1および図2に示すように、円筒体状の試料セル10の流路に液体試料11が通液される。液体試料11の通液が完了すると、光源20から集光光学系21を介してコヒーレント光である可視レーザ光が照射される。可視レーザ光は、光路L1に沿って進むことにより、レーザ光が試料セル10の流路内の液体試料に入射する。液体試料11にレーザ光が入射されると、その光は液体試料11に含まれる微粒子に当たって所定の散乱角を以て散乱する。そして、試料セル10から出射した散乱光は、スリット板40のスリット41を通過した後、結像光学系50、鏡筒内アパーチャ板91およびアパーチャ板60を経て、検出器70の受光面上に受光される。
【0038】
試料セル10から散乱光が出射する際、試料セル10の空気とガラスとの界面および液体試料11とガラスとの界面(以下、「セル界面」と総称する。)において、反射した光が迷光として生じ、係る迷光が鏡筒80の内周面で反射する反射光RLとなる。結像光学系50の入射側にはスリット板40が設けられているので、スリット板40の板部分でセル界面からの迷光をある程度制限することができる。このスリット板40とアパーチャ板60との間の光路L2は、鏡筒80で覆われている。
【0039】
試料セル10での反射光または透過光がスリット板40および結像光学系50を経て鏡筒80内に侵入すると、当該鏡筒80の内周面で反射し、迷光として検出器70に侵入することがある。試料セル10での反射光または透過光の強度は、液体試料11からの散乱光(信号光)よりも強い。試料セル10の周囲には等間隔dで複数の検出器70を備える場合、迷光の大きさは検出器70の配置角度θによって異なる。低散乱角度θ1に配置した検出器70の方が、散乱角度θ2に配置した検出器70よりも、迷光の大きさが顕著に大きくなる。この迷光により、検出器70のダイナミックレンジが低下するとともに、迷光の強度変動により検出器70の検出精度が悪化する。
【0040】
そこで、第1実施形態に係る光散乱検出装置1では、スリット板40とアパーチャ板60との間の光路L2を覆う鏡筒80内に、反射光RLを制限するための鏡筒内アパーチャ板91が介設されている。鏡筒内アパーチャ板91は、中心部に円形孔を有するリング状の円板によって形成され、鏡筒80内で反射光RLの反射が生じ易い部位に介設されている。したがって、鏡筒80の内周面で反射して、検出器70に侵入しようとする迷光を制限することができる。また、アパーチャ板60がさらに迷光を制限するので、分析に必要な散乱光を検出器70の受光面に受光させることができる。
【0041】
〔光線追跡シミュレーション〕
第1実施形態の作用効果を確認すべく、光線追跡シミュレーションを実施した。図4は、検出器(PD)をθ=15度に配置した場合における光線追跡シミュレーションの結果を説明するための側面図である。
【0042】
図4に示すように、試料セル10は、例えば、内径が1.6mmで、外径が8.0mmの透明な円筒体状のセルである。試料セル10の中心軸Sから26mmの位置には、結像レンズ(平凸レンズ)が配置されている。結像レンズは、例えば、凸径がφ9mmで、焦点距離が18mmに形成されている。試料セル10の中心軸Sから80mmの位置には、アパーチャ板60および□5mmのPDが配置されている。スリット板40のスリット41は、水平方向の散乱角(θ方向)を制限し、鉛直方向(φ方向)の光束を広く取るため、長方形の開口となっている(図11参照)。
【0043】
図4に示すように、鏡筒80内には、結像光学系50とアパーチャ板60との間において、鏡筒内アパーチャ板91が介設されている。鏡筒内アパーチャ板91は、試料セルの中心軸Sから55mmの位置に設けられ、φ4mmの開口を有している。このように、結像光学系50の結像位置近傍に鏡筒内アパーチャ板91を配置することにより、信号光を損なうことなく、迷光を遮断することが可能となる。
【0044】
以上、説明したように、第1実施形態に係る光散乱検出装置1によれば、鏡筒80内に反射光RLを制限するための鏡筒内アパーチャ板91を備えるので、鏡筒80の内周面で反射した迷光の検出器70への侵入を防止することができる。また、低散乱角度θ1に配置した検出器70は迷光が大きいが、その迷光を鏡筒内アパーチャ板91によって制限できるので、検出器70のダイナミックレンジを向上させ、検出精度よく測定することができる。
【0045】
[第2実施形態]
次に、図5および図6を参照して、第2実施形態に係る光散乱検出装置2について説明する。図5は、第2実施形態に係る光散乱検出装置の一部拡大側面図である。図6は、第2実施形態に係る光散乱検出装置の変形態様の一部拡大側面図である。なお、第1実施形態と同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0046】
図5に示すように、第2実施形態に係る光散乱検出装置2は、反射光除去手段90が、鏡筒80内に介設された開口部を有する反射光遮蔽壁92で形成されている点が、第1実施形態と異なる。反射光遮蔽壁92は、結像光学系50と検出器前アパーチャ板60との間に介設されている。図5の態様では、反射光遮蔽壁92は、円形孔を有するリング状の張出し壁として形成されている。
【0047】
反射光遮蔽壁92は、鏡筒80の内周面の全周に亘って形成する必要はなく、鏡筒80の内周面において反射光RLの反射が生じ易い部位に形成されていればよい。本実施形態では、光源20の照射光が試料セル10の斜め上方からチルト角度αで入射するため、試料セル10のセル界面で生じた反射光(迷光)は下方へ偏り易い。それゆえに、スリット板40および結像光学系50を通過した反射光や透過光も鏡筒80の内周面の下方部分に偏り易い。したがって、図6に示すように、少なくとも、鏡筒80の内周面の下方部分に反射光遮蔽壁92が形成されていれば、反射光や透過光を遮蔽することができる。
【0048】
第2実施形態に係る光散乱検出装置2は、基本的に第1実施形態に係る光散乱検出装置1と同様の作用効果を奏する。特に、第2実施形態に係る光散乱検出装置2によれば、反射光除去手段90が、鏡筒80内に介設された開口部を有する反射光遮蔽壁92で形成されるので、反射光遮蔽壁92を鏡筒80の内周面の一部に形成するなど、反射光遮蔽壁92の構造設計のバリエーションが拡がるという有利な効果を奏する。
【0049】
[第3実施形態]
次に、図7および図8を参照して、第3実施形態に係る光散乱検出装置3について説明する。図7は、第3実施形態に係る光散乱検出装置の一部拡大側面図である。図8は、第3実施形態に係る光散乱検出装置の変形態様の一部拡大側面図である。なお、第1実施形態と同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0050】
図7に示すように、第3実施形態に係る光散乱検出装置3は、反射光除去手段90が、鏡筒80内から反射光を逃すための反射光逃し孔93として形成されている点が、第1実施形態と異なる。反射光逃し孔93は、鏡筒80内において、結像光学系50と検出器前アパーチャ板60との間に介設されている。この反射光逃し孔93は、鏡筒80の内周面において、セル界面からの迷光反射し易い部位に形成されることが好ましい。図7の態様の反射光逃し孔93は、鏡筒80の外部に開口されている。
【0051】
上述したように、光源20の照射光が試料セル10の斜め上方からチルト角度αで入射するため、スリット板40および結像光学系50を通過した反射光や透過光も鏡筒80の内周面の下方部分に偏り易い。したがって、図7に示すように、少なくとも、鏡筒80の内周面の下方部分に反射光逃し孔93が形成されていれば、反射光や透過光を反射光逃し孔93から外部へ逃すことができる。
【0052】
また、図8の態様では、鏡筒80の下方部分が厚肉に形成され、反射光逃し孔93は、円柱状の孔として形成されている。この円柱状の孔の下部は基台で閉塞されているので、外部からの光の侵入を防止しながら、反射光や透過光を円柱状の反射光逃し孔93へ逃すことができる。
【0053】
第3実施形態に係る光散乱検出装置3は、基本的に第1実施形態に係る光散乱検出装置1と同様の作用効果を奏する。特に、第3実施形態に係る光散乱検出装置3によれば、反射光除去手段90が、鏡筒80内から反射光を逃すための反射光逃し孔93として形成されるので、反射光や透過光を外部や円柱状の孔内へ積極的に逃すことができるという有利な効果を奏する。
【0054】
[第4実施形態]
次に、図9を参照して、第4実施形態に係る光散乱検出装置4について説明する。図9は、第4実施形態に係る光散乱検出装置の一部拡大側面図である。なお、第1実施形態と同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0055】
図9に示すように、第4実施形態に係る光散乱検出装置4は、反射光除去手段90が、鏡筒の内周面の少なくとも一部が反射光を吸収可能な非鏡面94として形成されている点が、第1実施形態と異なる。非鏡面94は、鏡筒80内において、結像光学系50と検出器前アパーチャ板60との間に介設されている。この非鏡面94は、鏡筒80の内周面において、セル界面からの迷光反射し易い部位に形成されることが好ましい。
【0056】
非鏡面94の具体例としては、例えば、鏡筒80の内周面の反射光が生じ易い部位に黒色のフェルトシートを貼付して、非反射面にすることが考えられる。また、非鏡面94は、鏡筒80の内周面を部分的にネジ加工等して粗面化した上で、黒色化処理するようにしても、迷光を低減することが可能である。
【0057】
第4実施形態に係る光散乱検出装置4は、基本的に第1実施形態に係る光散乱検出装置1と同様の作用効果を奏する。特に、第4実施形態に係る光散乱検出装置4によれば、反射光除去手段90が、鏡筒の内周面の少なくとも一部が反射光を吸収可能な非鏡面94として形成されるので、反射光や透過光を積極的に吸収させることができるという有利な効果を奏する。
【0058】
[第5実施形態]
次に、図10を参照して、第5実施形態に係る光散乱検出装置5について説明する。図10は、第5実施形態に係る光散乱検出装置の平面図である。なお、第1実施形態と同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0059】
図10に示すように、第5実施形態に係る光散乱検出装置5は、鏡筒80よりも検出器側に、開口幅によって検出器70への受光幅を制限する検出器前アパーチャ板65を備えている点が、第1実施形態と異なる。すなわち、第5実施形態では、鏡筒80の一部を成すアパーチャ板60とは別個に、検出器前アパーチャ板65が設けられている。
【0060】
試料セル10から検出器70に至る検出光学系30は、試料セル10の周囲に、該試料セル10の中心軸(以下、単に「セル中心軸」という。)Sから等間隔dで複数配されている。光の進行方向からの角度θが水平面上(XY平面上)の散乱角として定義される。異なる散乱角を検出できるように、試料セル10およびセル中心軸Sを通る水平面上(XY平面上)に検出器70が複数配置される。図10の態様では、θ1,θ2の配置角度で検出光学系30、31が2系配置されている。
【0061】
検出器70の受光面上に結像される散乱光の像は、検出器を配置する角度によって大きさが異なる。試料セル10内で液体試料11が均一に分布している場合、試料由来の散乱光は試料セル10の内径Lに一致する長さで発生する。検出器の配置角度をθ、セルおよび結像レンズの倍率をMとすると、検出器上に結像する散乱光像の長さはMLsinθとなる。
【0062】
ここで、試料セル10の内径Lおよび結像レンズの倍率Mは、全ての検出光学系30、31…で同じである。したがって、試料セル10の周囲に、検出光学系30、31がセル中心軸Sから等間隔dで複数配されている場合に、各検出器前アパーチャ板65の開口幅は、試料セル10に対する各検出器70の配置角度θ1、θ2に応じて異ならせている。各検出器前アパーチャ板65の開口幅は、セル中心軸Sから検出器70までの距離dと、各検出器70の配置角度θ1、θ2の正弦値と、を乗じて設定される。具体的には、配置角度θ1の検出器前アパーチャ板65の開口幅は、dsinθ1の幅で設定される。また、配置角度θ2の検出器前アパーチャ板65の開口幅は、dsinθ2の幅で設定される。
【0063】
第5実施形態に係る光散乱検出装置5は、第1実施形態に係る光散乱検出装置1の構成要素を備えるので、基本的に第1実施形態と同様の作用効果を奏する。特に、第5実施形態に係る光散乱検出装置5によれば、鏡筒80よりも検出器側に、開口幅によって検出器70への受光幅を制限する検出器前アパーチャ板65を備えるとともに、各検出器前アパーチャ板65の開口幅を試料セル10に対する各検出器70の配置角度θ1、θ2に応じて異ならせているので、検出器70への受光幅を最適な幅に設定することができるという有利な効果を奏する。
【0064】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…光散乱検出装置
10…試料セル
20…光源
30…検出光学系
40…スリット板
41…スリット
50…結像光学系
60…アパーチャ板
65…検出器前アパーチャ板
70…検出器
80…鏡筒
90…反射光除去手段
91…鏡筒内アパーチャ板
92…反射光遮蔽壁
93…反射光逃し孔
94…非鏡面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14