(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】蒸着マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20221206BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221206BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221206BHJP
C23F 1/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
C23F1/00 102
(21)【出願番号】P 2018150805
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】曽根 康子
(72)【発明者】
【氏名】小幡 勝也
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-135246(JP,A)
【文献】特開2016-130348(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138166(WO,A1)
【文献】特開2014-065928(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110123(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/142464(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 51/50
H05B 33/00-33/28
C23F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面上に樹脂溶液を塗布して、前記基板の前記一方の面上に樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記樹脂層に、前記樹脂層が前記基板の前記一方の面に接触しない非接触領域を少なくとも部分的に生じさせる解放工程と、
前記樹脂層に溶媒を接触させる、若しくは前記樹脂層を加熱する緩和工程と、
前記樹脂層を加工して、前記樹脂層に
第2開口部を形成する樹脂層加工工程と、を備え
、
前記解放工程は、前記樹脂層を前記基板から剥離する工程を有し、
前記緩和工程は、前記基板から剥離された前記樹脂層に対して実施される、蒸着マスクの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂層に支持体を固定する支持体固定工程を更に備え、
前記緩和工程は、前記支持体に固定された前記樹脂層に対して実施される、請求項1に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項3】
前記緩和工程は、前記樹脂層に溶媒を接触させる溶媒接触工程を含む、請求項1又は2に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項4】
前記緩和工程は、前記樹脂層を加熱する加熱工程を含む、請求項1又は2に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項5】
基板の一方の面上に樹脂溶液を塗布して、前記基板の前記一方の面上に樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記樹脂層に、前記樹脂層が前記基板の前記一方の面に接触しない非接触領域を少なくとも部分的に生じさせる解放工程と、
前記樹脂層に溶媒を接触させる、若しくは前記樹脂層を加熱する緩和工程と、
前記樹脂層を加工して、前記樹脂層に
第2開口部を形成する樹脂層加工工程と、を備え
、
前記緩和工程は、前記樹脂層に溶媒を接触させる溶媒接触工程を含み、
前記溶媒接触工程は、前記樹脂層を溶媒中に浸漬させ、その後、溶媒から前記樹脂層を取り出す工程を含む、蒸着マスクの製造方法。
【請求項6】
基板の一方の面上に樹脂溶液を塗布して、前記基板の前記一方の面上に樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記樹脂層に、前記樹脂層が前記基板の前記一方の面に接触しない非接触領域を少なくとも部分的に生じさせる解放工程と、
前記樹脂層に溶媒を接触させる、若しくは前記樹脂層を加熱する緩和工程と、
前記樹脂層を加工して、前記樹脂層に第2開口部を形成する樹脂層加工工程と、を備え、
前記緩和工程は、前記樹脂層に溶媒を接触させる溶媒接触工程を含み、
前記溶媒接触工程は、前記樹脂層を超音波処理する超音波処理工程を含む
、蒸着マスクの製造方法。
【請求項7】
基板の一方の面上に樹脂溶液を塗布して、前記基板の前記一方の面上に樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記樹脂層に、前記樹脂層が前記基板の前記一方の面に接触しない非接触領域を少なくとも部分的に生じさせる解放工程と、
前記樹脂層に溶媒を接触させる、若しくは前記樹脂層を加熱する緩和工程と、
前記樹脂層を加工して、前記樹脂層に第2開口部を形成する樹脂層加工工程と、を備え、
前記緩和工程は、前記樹脂層に溶媒を接触させる溶媒接触工程を含み、
前記緩和工程は、前記溶媒接触工程の後、前記樹脂層に付着した溶媒を除去する乾燥工程を更に含む
、蒸着マスクの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂層の厚みは3μm以上10μm以下である、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂層形成工程は、前記基板として金属板を準備する工程と、前記金属板の前記一方の面上に樹脂層を形成する工程と、を有し、
前記解放工程は、前記金属板をエッチングして前記金属板に
第1開口部を形成する工程を有し、
前記緩和工程は、前記
第1開口部が形成された前記金属板と、前記金属板に積層された前記樹脂層と、を含む積層体に対して実施される、請求項
5乃至
7のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項10】
前記積層体に張力が付与された状態で前記積層体に支持体を固定する支持体固定工程を更に備え、
前記緩和工程は、前記支持体に固定された前記積層体に対して実施される、請求項
9に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項11】
前記金属板の厚みは5μm以上100μm以下である、請求項
9又は
10に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項12】
前記樹脂層形成工程の後、めっき処理により前記樹脂層上に部分的に金属層を形成するめっき工程を備え、
前記解放工程は、前記樹脂層と、前記樹脂層上に形成された前記金属層と、を含む積層体に対して実施される、請求項
5乃至
7のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項13】
前記積層体に支持体を固定する支持体固定工程を更に備え、
前記緩和工程は、前記支持体に固定された前記積層体に対して実施される、請求項12に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項14】
前記金属層の厚みは1μm以上50μm以下である、請求項12又は13に記載の蒸着マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、蒸着マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を用いた製品の大型化あるいは基板サイズの大型化にともない、蒸着マスクに対しても大型化の要請が高まりつつある。そして、金属から構成される蒸着マスクの製造に用いられる金属板も大型化している。しかしながら、現在の金属加工技術では、大型の金属板にスリットを精度よく形成することは困難であり、スリットの高精細化への対応はできない。また、金属のみからなる蒸着マスクとした場合には、大型化に伴いその質量も増大し、フレームを含めた総質量も増大することから取り扱いに支障をきたすこととなる。
【0003】
このような状況下、特許文献1には、スリットが設けられた金属層と、金属層の表面に位置し蒸着作製するパターンに対応した開口部が縦横に複数列配置された樹脂マスクとが積層されてなる蒸着マスクが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蒸着マスクの製造方法は、基板の面上に樹脂溶液を塗布して基板の面上に樹脂層を形成する工程と、レーザー加工などによって樹脂層を加工して樹脂層に開口部を形成する工程と、を含む。塗布によって樹脂層を形成する場合、樹脂層の内部に歪が残留していることがある。歪が残留している樹脂層に開口部を形成すると、その後に歪の緩和が生じた際に、開口部の位置が変化してしまうことが考えられる。
【0006】
本開示の実施形態は、このような課題を効果的に解決し得る蒸着マスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態は、基板の一方の面上に樹脂溶液を塗布して、前記基板の前記一方の面上に樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記樹脂層に、前記樹脂層が前記基板の前記一方の面に接触しない非接触領域を少なくとも部分的に生じさせる解放工程と、
前記樹脂層に溶媒を接触させる、若しくは前記樹脂層を加熱する緩和工程と、
前記樹脂層を加工して、前記樹脂層に開口部を形成する樹脂層加工工程と、を備える、蒸着マスクの製造方法である。
【0008】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記緩和工程は、前記樹脂層に溶媒を接触させる溶媒接触工程を含んでいてもよい。
【0009】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記溶媒接触工程は、前記樹脂層を超音波処理する超音波処理工程を含んでいてもよい。
【0010】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記緩和工程は、前記溶媒接触工程の後、前記樹脂層に付着した溶媒を除去する乾燥工程を更に含んでいてもよい。
【0011】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記緩和工程は、前記樹脂層を加熱する加熱工程を含んでいてもよい。
【0012】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記樹脂層の厚みは3μm以上10μm以下であってもよい。
【0013】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記樹脂層形成工程は、前記基板として金属板を準備する工程と、前記金属板の前記一方の面上に樹脂層を形成する工程と、を有し、前記解放工程は、前記金属板をエッチングして前記金属板に開口部を形成する工程を有し、前記緩和工程は、前記開口部が形成された前記金属板と、前記金属板に積層された前記樹脂層と、を含む積層体に対して実施されてもよい。
【0014】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法は、前記積層体に張力が付与された状態で前記積層体に支持体を固定する支持体固定工程を更に備え、前記緩和工程は、前記支持体に固定された前記積層体に対して実施されてもよい。
【0015】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記金属板の厚みは5μm以上100μm以下であってもよい。
【0016】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記解放工程は、前記樹脂層を前記基板から剥離する工程を有し、前記緩和工程は、前記基板から剥離された前記樹脂層に対して実施されてもよい。
【0017】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法は、前記樹脂層に支持体を固定する支持体固定工程を更に備え、前記緩和工程は、前記支持体に固定された前記樹脂層に対して実施されてもよい。
【0018】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法は、前記樹脂層形成工程の後、めっき処理により前記樹脂層上に部分的に金属層を形成するめっき工程を備え、前記解放工程は、前記樹脂層と、前記樹脂層上に形成された前記金属層と、を含む積層体に対して実施されてもよい。
【0019】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法は、前記積層体に支持体を固定する支持体固定工程を更に備え、前記緩和工程は、前記支持体に固定された前記積層体に対して実施されてもよい。
【0020】
本開示の一実施形態によるマスクにおいて、前記金属層の厚みは1μm以上50μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本開示の実施形態によれば、樹脂層の開口部の位置が変化してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1の実施の形態による蒸着マスクを示す平面図である。
【
図2】
図1の蒸着マスクを線II-IIに沿って見た断面図である。
【
図3】第1の実施の形態による蒸着マスクの製造方法において、非接触領域を含む樹脂層を有する中間体を形成する工程を示す図である。
【
図6】樹脂層に第2開口部を形成する工程を示す図である。
【
図8】蒸着マスクを用いて作製された有機EL表示装置を示す概略図である。
【
図9】蒸着マスクを用いた有機EL表示装置の製造方法を示す概略図である。
【
図12】第2の実施の形態による蒸着マスクを示す断面図である。
【
図13】第2の実施の形態による蒸着マスクの製造方法において、非接触領域を含む樹脂層を有する中間体を形成する工程を示す図である。
【
図14】第3の実施の形態による蒸着マスクを示す断面図である。
【
図15】第3の実施の形態による蒸着マスクの製造方法において、非接触領域を含む樹脂層を有する中間体を形成する工程を示す図である。
【
図16】樹脂層に第2開口部を形成する工程を示す図である。
【
図17】第3の実施の形態の一変形例による蒸着マスクの製造方法において、非接触領域を含む樹脂層を有する中間体を形成する工程を示す図である。
【
図18】実施例において、第2開口部の位置の測定方法を示す図である。
【
図19】実施例1及び比較例1において、洗浄の前後における第2開口部の位置の変化量を測定した結果を示す図である。
【
図20】実施例2及び比較例2において、洗浄の前後における第2開口部の位置の変化量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態に係るマスクの構成及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は本開示の実施形態の一例であって、本開示はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本明細書において、「板」、「基材」、「シート」、「フィルム」など用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「板」はシートやフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。また、「面(シート面、フィルム面)」とは、対象となる板状(シート状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となる板状部材(シート状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。また、板状(シート状、フィルム状)の部材に対して用いる法線方向とは、当該部材の面(シート面、フィルム面)に対する法線方向のことを指す。更に、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」や「直交」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0024】
また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0025】
(第1の実施の形態)
まず、
図1乃至
図9により、第1の実施の形態について説明する。
図1乃至
図9は第1の実施の形態を示す図である。
【0026】
(蒸着マスクの構成)
本実施の形態による蒸着マスクの構成について、
図1及び
図2を用いて説明する。なお、ここで説明する蒸着マスクは、以下で説明する形態に限定されるものではなく、第1開口部が形成された金属層と当該第1開口部と重なる位置に蒸着作製するパターンに対応する第2開口部が形成された樹脂マスクとが積層されているとの条件を満たすものであれば、いかなる形態であってもよい。例えば、金属層に形成されている第1開口部は、ストライプ状(図示しない)であってもよい。また、1画面全体と重ならない位置に、金属層の第1開口部が設けられていてもよい。この蒸着マスクは、後述する蒸着マスクの製造方法によって製造されていてもよく、他の方法で製造されていてもよい。
【0027】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態による蒸着マスク10は、複数画面分の蒸着パターンを同時に形成するための蒸着マスクである。この蒸着マスク10は、第1開口部21が設けられた金属層20と、金属層20に積層され、蒸着作製するパターンに対応した複数の第2開口部31が設けられた樹脂マスク30とを備えている。また金属層20には、支持体40が固定されている。
【0028】
この蒸着マスク10は、複数画面分の蒸着パターンを同時に形成するために用いられるものであり、1つの蒸着マスク10で、複数の製品に対応する蒸着パターンを同時に形成することができる。ここで「第2開口部」とは、蒸着マスク10を用いて作製しようとするパターンを意味し、例えば、当該蒸着マスクを有機ELディスプレイにおける有機層の形成に用いる場合には、第2開口部31の形状は当該有機層の形状となる。また、「1画面」とは、1つの製品に対応する第2開口部31の集合体からなり、当該1つの製品が有機ELディスプレイである場合には、1つの有機ELディスプレイを形成するのに必要な有機層の集合体、つまり、有機層となる第2開口部31の集合体が「1画面」となる。なお、1画面となる領域のことを「有効部」ともいう。そして、蒸着マスク10は、複数画面分の蒸着パターンを同時に形成すべく、樹脂マスク30には、上記「1画面」が、所定の間隔をあけて複数画面分配置されている。すなわち、樹脂マスク30には、複数画面を構成するために必要な第2開口部31が設けられている。
【0029】
金属層20は、樹脂マスク30の一方の面に設けられている。
図2の例では、金属層20は、樹脂マスク30の面のうちZ方向マイナス側の面に設けられている。金属層20は、その各辺がX方向及びY方向にそれぞれ延びる長方形形状を有している。また金属層20には、X方向及び/又はY方向に延びる複数の第1開口部21が形成されている。なお、第1開口部21は細長いスリット状に形成されていても良い。また、第1開口部21は、樹脂マスク30と重なる位置に設けられている。この場合、平面視で、1つの第1開口部21の内側に複数の第2開口部31が配置されている。第1開口部21の配置例について特に限定はなく、第1開口部21が、縦方向、及び横方向に複数列配置されていてもよく、縦方向に延びる第1開口部21が、横方向に複数列配置されていてもよく、横方向に延びる第1開口部21が縦方向に複数列配置されていてもよい。また、縦方向、あるいは横方向に1列のみ配置されていてもよい。
【0030】
各第1開口部21は、その各辺がX方向及びY方向に延びる長方形形状を有している。各第1開口部21は、それぞれ少なくとも1画面全体と重なる位置に設けられている。
各第1開口部21の辺の長さL1は、例えばマスクの有効部の辺の長さ以上、有効部の辺の長さプラス40mm以下としても良い。隣接する第1開口部21同士の間隔W2は、例えば1mm以上50mm以下としても良い。
【0031】
金属層20の材料について特に限定はなく、蒸着マスクの分野で従来公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、ステンレス鋼、鉄ニッケル合金、アルミニウム合金などの金属材料を挙げることができる。金属層20の鉄ニッケル合金として、例えば、ニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ54質量%以下であり、且つコバルトの含有量が0質量%以上且つ6質量%以下である鉄合金を用いることができる。ニッケル若しくはニッケル及びコバルトを含む鉄合金の具体例としては、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含むインバー材、30質量%以上且つ34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含むスーパーインバー材などを挙げることができる。また、蒸着マスク20を構成する金属板の材料としては、34質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む低熱膨張Fe-Ni系めっき合金などを用いることもできる。
【0032】
金属層20の厚みT1についても特に限定はないが、シャドウの発生をより効果的に防止するためには、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることが特に好ましい。なお、金属層20の厚みT1を1μm以上にすることにより、金属層20の破断や変形のリスクを低下するとともにハンドリング性を確保することができる。なお、シャドウとは、蒸着源から放出された蒸着材の一部が、金属層20のうち支持体40側の面の近傍の部分に衝突して蒸着対象物へ到達しないことにより、目的とする蒸着膜厚よりも薄い膜厚となる未蒸着部分が生ずる現象のことをいう。特に、第2開口部31の形状を微細化していくことにともない、シャドウによる影響は大きくなる。
【0033】
樹脂マスク30は、金属層20の他方の面に設けられている。
図2の例では、樹脂マスク30は、金属層20の面のうちZ方向プラス側の面に設けられている。樹脂マスク30は、その各辺がX方向及びY方向にそれぞれ延びる長方形形状を有している。この場合、樹脂マスク30は金属層20と同一の外形形状を有しているが、これに限らず、樹脂マスク30と金属層20とが異なる外形形状を有していても良い。
【0034】
樹脂マスク30には、複数画面を構成するために必要な第2開口部31が設けられている。複数の第2開口部31は、金属層20と樹脂マスク30とを積層したときに、金属層20の第1開口部21と重なる位置に設けられている。各第2開口部31の形状は特には限られないが、例えば四角形形状である。第2開口部31の寸法L2は、例えば8μm以上32μm以下である。
【0035】
樹脂マスク30は、従来公知の樹脂材料を適宜選択して用いることができ、その材料について特に限定されないが、レーザー加工等によって高精細な第2開口部31の形成が可能であり、熱や経時での寸法変化率や吸湿率が小さく、軽量な材料を用いることが好ましい。このような材料としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂、エチレン-メタクリル酸共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、セロファン、アイオノマー樹脂等を挙げることができる。上記に例示した材料の中でも、その熱膨張係数が16ppm/℃以下である樹脂材料が好ましく、吸湿率が1.0%以下である樹脂材料が好ましく、この双方の条件を備える樹脂材料が特に好ましい。この樹脂材料を用いた樹脂マスクとすることで、第2開口部31の寸法精度を向上させることができ、かつ熱や経時での寸法変化率や吸湿率を小さくすることができる。
【0036】
樹脂マスク30の厚みT2についても特に限定はないが、3μm以上25μm以下であることが好ましい。樹脂マスク30の厚みT2をこの範囲内とすることで、ピンホール等の欠陥や変形等のリスクを低減でき、かつシャドウの発生を効果的に防止することができる。特に、樹脂マスク30の厚みT2を、3μm以上10μm以下、より好ましくは4μm以上8μm以下とすることで、400ppiを超える高精細パターンを形成する際のシャドウの影響をより効果的に防止することができる。また、樹脂マスク30と金属層20とは、直接的に接合されていてもよく、粘着剤層を介して接合されていてもよい。粘着剤層を介して樹脂マスク30と金属層20とが接合される場合には、樹脂マスク30と粘着剤層との合計の厚みが上記好ましい厚みの範囲内であることが好ましい。
【0037】
支持体40は、金属層20の一方の面に設けられている。
図2の例では、支持体40は、金属層20の面のうちZ方向マイナス側の面に設けられている。この支持体40は、フレームとも称されるものであり、樹脂マスク30及び金属層20を支持するものである。
【0038】
第1の実施の形態において、支持体40は、樹脂マスク30と金属層20とが撓んでしまうことがないように、樹脂マスク30と金属層20とを、その面方向に引っ張った状態で支持する。この支持体40は、略長方形形状の枠部材であり、樹脂マスク30に設けられた第2開口部31を蒸着源側に露出させるための貫通孔41を有する。すなわち複数の第2開口部31は、平面視で貫通孔41の内側に位置している。支持体40の外周は、樹脂マスク30及び金属層20の外周よりも大きくなっている。支持体40の材料について特に限定はないが、剛性が大きい金属材料、例えば、SUS、インバー材、セラミック材料などを用いることができる。中でも、金属製の支持体40は、金属層20との溶接が容易であり、変形等の影響が小さい点で好ましい。
【0039】
支持体40の厚みT3についても特に限定はないが、剛性等の点から10mm以上50mm以下程度であることが好ましい。支持体40の貫通孔41の外周端面と、支持体40の外周端面間の幅W2は、当該支持体40と金属層20とを固定することができる幅であれば特に限定はなく、例えば、10mm以上250mm以下程度の幅を例示することができる。
【0040】
なお、支持体40が設けられているか否かは任意であり、必ずしも支持体40が設けられていなくても良い。本実施の形態において、蒸着マスク10は、支持体40を含むもの(支持体付き蒸着マスク)であっても良く、支持体40を含まないものであっても良い。
【0041】
(蒸着マスクの製造方法)
次に、本実施の形態による蒸着マスクの製造方法について、
図3乃至
図6を用いて説明する。まず、
図3(a)-(e)を用いて、非接触領域を含む樹脂層を有する中間体を形成する工程について説明する。
【0042】
まず、
図3(a)-(b)を用いて、基板の一方の面上に樹脂溶液を塗布して、基板の前記一方の面上に樹脂層30Aを形成する樹脂層形成工程について説明する。まず、
図3(a)に示すように基板を準備する。本実施の形態においては、基板として金属板20Aを用いる。金属板20Aは、上述した蒸着マスク10の金属層20を作製するためのものである。金属板20Aは、例えば幅250mm以上1000mm以下の帯状の金属材であっても良い。また金属板20Aの材料としては、例えば、鉄ニッケル合金であるインバー材を好適に用いることができる。なお、金属板20Aは、適宜、洗浄及び表面処理が施される。
【0043】
次に、
図3(b)に示すように、金属板20Aの一方の面に樹脂層30Aを形成する。この樹脂層30Aは、上述した蒸着マスク10の樹脂マスク30を作製するためのものである。具体的には、金属板20Aの表面の略全域に、例えばポリイミドワニス等の樹脂溶液を塗布し、これを加熱して乾燥することにより、樹脂層30Aが得られる。金属板20Aの一方の面上に塗布される樹脂溶液の厚みは、例えば3μm以上250μm以下である。
【0044】
続いて、
図3(c)-(e)を用いて、樹脂層30Aに、樹脂層30Aが金属板20Aの一方の面に接触しない非接触領域を少なくとも部分的に生じさせる解放工程について説明する。まず、金属板20Aの他方の面にマスキング部材、例えば、レジスト材を塗工する。金属板20Aの他方の面とは、樹脂層30Aの設けられていない面である。続いて、レジスト材の所定の箇所を露光し、現像することで、
図3(c)に示すように、金属板20Aのうち第1開口部21が形成される位置がレジスト材から露出されたレジストパターン51を形成する。マスキング部材として用いるレジスト材としては、処理性が良く、所望の解像性があるものが好ましい。
【0045】
次いで、
図3(d)に示すように、このレジストパターン51を耐エッチングマスクとして用いてエッチング法により金属板20Aをエッチング加工する。これにより、縦方向及び/又は横方向に延びる複数の第1開口部21が設けられた金属層20が得られる。
【0046】
次いで、
図3(e)に示すように、レジストパターン51を洗浄除去する。なお、レジストパターン51を除去した後、樹脂層30A及び金属層20を支持体40に対応する大きさに断裁しても良い。
【0047】
このようにして、第1開口部21が設けられた金属層20と、金属層20に積層された樹脂層30Aとを有する積層体が得られる。積層体において、樹脂層30Aは、金属板20Aの一方の面に接触しない非接触領域35を部分的に含んでいる。以下の説明において、
図3(e)に示す積層体のような、非接触領域35を含む樹脂層30Aを有する部材のことを、中間体15とも称する。
【0048】
なお、上記では、マスキング部材としてレジスト材を用いた場合を例に挙げて説明したが、レジスト材を塗工する代わりにドライフィルムレジストをラミネートし、同様のパターニングを行ってもよい。なお、中間体15の金属層20は、上記で例示した方法によって形成されたものに限定されるものではなく、市販品を用いることもできる。また、エッチングによる第1開口部21の形成に代えて、レーザー光を照射して第1開口部21を形成することもできる。
【0049】
ところで、樹脂溶液を塗布し、樹脂溶液を乾燥させることによって樹脂層30Aを形成する場合に、樹脂層30Aの内部に歪が残留していることがある。本実施の形態においては、非接触領域35を含む状態の樹脂層30Aであって、第2開口部31が形成される前の状態の樹脂層30Aに、内部の歪みを低減するための緩和工程を実施することを提案する。
【0050】
図4は、緩和工程の一例を示す図である。
図4に示す例において、緩和工程は、樹脂層30Aに溶媒を接触させる溶媒接触工程を含む。溶媒接触工程においては、まず、溶媒62が収容された容器61を準備する。溶媒62としては、水、有機溶剤、アルカリ性水溶液などを用いることができる。有機溶剤としては、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)などを用いることができる。アルカリ性水溶液としては、横浜油脂工業株式会社製のセミクリーンRPG-1などを用いることができる。
【0051】
続いて、第1開口部21が形成された金属板20Aからなる金属層20と、金属層20に積層された樹脂層30Aと、を含む中間体15を溶媒62中に浸漬させる。溶媒62中に中間体15を浸漬させる時間は、好ましくは10分以上60分以下であり、より好ましくは15分以上30分以下である。溶媒が水である場合、水の温度は好ましくは20℃以上100℃以下であり、より好ましくは20℃以上60℃以下である。なお、容器61の内部に中間体15を載置した後、容器61に溶媒62を充填してもよい。
【0052】
溶媒62から中間体15を取り出した後、中間体15を乾燥させる。乾燥は、自然乾燥であってもよく、ドライヤー、オーブンなどを用いた乾燥処理であってもよい。また、溶媒62としてNMPのような沸点の高い有機溶媒を用いる場合、中間体15を溶媒62から取り出した後、中間体15を溶媒62よりも低い沸点を有する低沸点溶液に再び浸漬させ、その後、低沸点溶液から中間体15を取り出して中間体15を乾燥させてもよい。低沸点溶液としては、イソプロピルアルコールなどのアルコールや水を用いることができる。
【0053】
後述する実施例によって支持されるように、残留歪を有する樹脂層30Aに水などの溶媒を接触させることにより、樹脂層30Aの内部の歪みを低減することができる。
【0054】
上述の溶媒接触工程は、樹脂層30Aを超音波処理する超音波処理工程を含んでいてもよい。例えば、容器61には、機械的に振動する超音波振動子が設けられている。超音波振動子が振動することにより、溶媒62に超音波を発生させることができるよう構成されている。超音波の周波数は、例えば40kHz以上170kHz以下である。また、超音波振動子に印加される電力は、例えば100W以上500W以下である。
【0055】
図5は、緩和工程のその他の例を示す図である。
図5に示す例において、緩和工程は、樹脂層30Aを加熱する加熱工程を含む。加熱工程においては、例えば、第1開口部21が形成された金属板20Aからなる金属層20と、金属層20に積層された樹脂層30Aと、を含む中間体15を、オーブン71を用いて加熱する。中間体15を加熱する時間は、好ましくは10分以上120分以下であり、より好ましくは30分以上60分以下である。加熱温度は、好ましくは80℃以上150℃以下であり、より好ましくは100℃以上120℃以下である。
【0056】
後述する実施例によって支持されるように、残留歪を有する樹脂層30Aを加熱することにより、樹脂層30Aの内部の歪みを低減することができる。
【0057】
上述の溶媒接触工程及び加熱工程は、両方が実施されてもよい。例えば、溶媒接触工程の後、加熱工程を実施してもよい。この場合、加熱工程は、中間体15の樹脂層30Aなどに付着した溶媒を除去する乾燥工程としても機能する。また、上述の溶媒接触工程及び加熱工程は、いずれか一方のみが実施されてもよい。
【0058】
続いて、
図6(a)に示すように、支持体40を準備するとともに、中間体15の金属層20を支持体40に固定する支持体固定工程を実施する。このとき、中間体15の金属層20は、架張された状態で支持体40に溶接されても良い。本実施の形態にあって、この工程は任意の工程であるが、通常の蒸着装置において蒸着マスク10を用いる場合、支持体40が固定されたものを用いることが多いため、当該工程をこのタイミングで行うのが好ましい。金属層20を支持体40に固定する方法については特に限定されることはなく、例えば、支持体40が金属を含む場合にはスポット溶接など従来公知の工程方法を適宜採用すればよい。
【0059】
次に、樹脂層30Aを加工して樹脂層30Aに第2開口部31を形成する樹脂層加工工程を実施する。
図6(b)において矢印で示すように、中間体15の樹脂層30Aに対して金属層20側からレーザーを照射し、樹脂層30Aに蒸着作製するパターンに対応した第2開口部31を形成する。このレーザーとしては、例えば波長248nmのKrFのエキシマレーザや波長355nmのYAGレーザーを使用することができる。この間、樹脂層30Aのうち金属層20の反対側の面に保護フィルムを貼着し、この状態で、金属層20側からレーザーを照射して第2開口部31を形成する。この場合、蒸着作製するパターンに対応した図示しないレーザー用マスクを用い、このレーザー用マスクと樹脂層30Aとの間に集光レンズを設置して、いわゆる縮小投影光学系を用いたレーザー加工法によって第2開口部31を形成してもよい。このようにして、
図1及び
図2に示す蒸着マスク10が得られる。
【0060】
なお、図示はしないが、樹脂層加工工程においては、支持体40に固定されていない状態の中間体15の樹脂層30Aに対してレーザーを照射してもよい。この場合、樹脂層30Aに第2開口部31を形成した後に金属層20に支持体40を固定してもよい。
【0061】
続いて、樹脂層30Aに形成された第2開口部31の位置を検査する検査工程を実施してもよい。検査工程においては、例えば、第2開口部31の理想的な位置と第2開口部31の実際の位置との差が許容範囲以内であった蒸着マスク10を合格と判定する。第2開口部31の理想的な位置は、例えば、蒸着マスク10上の所定の基準点に対する相対的な位置として予め定められている。基準点は、例えば蒸着マスク10の中心位置である。第2開口部31の位置とは、例えば第2開口部31の中心点である。検査対象の第2開口部31の数は任意である。例えば、複数の第2開口部31の全てを検査してもよく、一部の第2開口部31を検査してもよい。
【0062】
(蒸着装置の構成)
次に、上述した蒸着マスク10を用いて蒸着対象物に蒸着材料を蒸着させる蒸着装置について、
図7を参照して説明する。
【0063】
図7に示すように、蒸着装置80は、その内部に配置された、蒸着源(例えばるつぼ81)、ヒータ82、及び蒸着マスク10を有している。また、蒸着装置80は、蒸着装置80の内部を真空雰囲気にするための排気手段(図示せず)を更に有する。るつぼ81は、有機発光材料などの蒸着材料92を収容する。ヒータ82は、るつぼ81を加熱して、真空雰囲気の下で蒸着材料92を蒸発させる。蒸着マスク10は、るつぼ81と対向するよう配置されている。すなわち蒸着マスク10は、樹脂マスク30が蒸着材料92を付着させる蒸着対象物である被蒸着基板、例えば有機EL基板91に対面するよう、蒸着装置80内に配置される。また、蒸着装置80は、被蒸着基板91の、樹脂マスク30と反対の側の面に配置された磁石83を有していてもよい。この磁石83を設けることにより、磁力によって蒸着マスク10を磁石83側に引き寄せて、蒸着マスク10を被蒸着基板91に密着させることができる。
【0064】
図8は、
図7に示す蒸着装置80を用いて製造された有機EL表示装置90を示す断面図である。
図8に示すように、有機EL表示装置90は、被蒸着基板、例えば有機EL基板91と、被蒸着基板91上にパターン状に設けられた蒸着材料92を含む画素と、を備えている。
【0065】
なお、複数の色によるカラー表示を行いたい場合には、各色に対応する蒸着マスク10が搭載された蒸着装置80をそれぞれ準備し、被蒸着基板91を各蒸着装置80に順に投入する。これによって、例えば、赤色用の有機発光材料、緑色用の有機発光材料及び青色用の有機発光材料を順に被蒸着基板91に蒸着させることができる。
【0066】
(有機EL表示装置の製造方法)
次に、本実施の形態による有機EL表示装置の製造方法について、
図9(a)-(c)を参照して説明する。本実施の形態による有機EL表示装置の製造方法は、上述した蒸着マスク10を用いた蒸着法により蒸着対象物である被蒸着基板91に蒸着材料92を蒸着し、蒸着パターンを形成するものである。
【0067】
まず、
図9(a)に示すように、
図1及び
図2に示す蒸着マスク10と、蒸着材料92が収容されたるつぼ81及びヒータ82とを備えた蒸着装置80を準備する。
【0068】
次に、
図9(b)に示すように、被蒸着基板91を蒸着マスク10の樹脂マスク30上に設置する。この際、例えば被蒸着基板91の図示しないアライメントマークと、蒸着マスク10の図示しないアライメントマークとを直接観察し、当該アライメントマーク同士が重なるように被蒸着基板91の位置決めを行いながら、被蒸着基板91を蒸着マスク10に設置する。
【0069】
次いで、蒸着マスク10の樹脂マスク30上に設置された被蒸着基板91に蒸着材料92を蒸着させる。この際、例えば、
図9(c)に示すように、被蒸着基板91の、蒸着マスク10と反対の側の面に磁石83が配置される。このように磁石83を設けることにより、磁力によって蒸着マスク10を磁石83側に引き寄せて、樹脂マスク30を被蒸着基板91に密着させることができる。次に、ヒータ82が、るつぼ81を加熱して蒸着材料92を蒸発させる。そして、るつぼ81から蒸発して蒸着マスク10に到達した蒸着材料92は、金属層20の第1開口部21及び樹脂マスク30の第2開口部31を通って被蒸着基板91に付着する。
【0070】
このようにして、樹脂マスク30の第2開口部31の位置に対応した所望のパターンで、蒸着材料92が被蒸着基板91に蒸着される。すなわち蒸着材料92は、樹脂マスク30の複数の第2開口部31に対応する形状、具体的には、それぞれの角部が丸みを帯びた複数の多角形形状のパターンに形成される。このようにして、被蒸着基板91と、パターン状に設けられた蒸着材料92を含む画素と、を備えた有機EL表示装置90が得られる(
図8参照)。
【0071】
ところで、このようにして蒸着マスク10を用いて有機EL表示装置90を繰り返し作製する場合、蒸着マスク10には有機物等が付着する。このような有機物等を除去するため、蒸着マスク10は、使用後に洗浄液に浸漬され、超音波洗浄により洗浄される。蒸着マスク10の樹脂マスク30を構成する樹脂層30Aの内部に歪が残留していると、歪の緩和に起因して樹脂層30Aが変位し、この結果、樹脂層30Aに形成された第2開口部31の位置も変化してしまうことが考えられる。
【0072】
ここで本実施の形態においては、第2開口部31が形成される前の状態の樹脂層30Aに対して緩和工程を実施して、樹脂層30Aの内部の歪みを低減している。これにより、樹脂層30Aに第2開口部31を形成した後に樹脂層30Aが溶媒と接触したり樹脂層30Aが加熱されたりした場合に、第2開口部31の位置が変位することを抑制することができる。このため、蒸着マスク10が検査工程において合格と判定されて出荷された後、第2開口部31の理想的な位置と第2開口部31の実際の位置との差が許容範囲を超えてしまうことを抑制することができる。
【0073】
(緩和工程及び支持体固定工程の変形例)
上述の実施の形態においては、緩和工程を実施した後、中間体15に支持体40を固定する支持体固定工程を実施する例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、緩和工程の前に支持体固定工程を実施してもよい。例えば
図10に示すように、緩和工程の溶媒接触工程においては、張力が付与された状態で支持体40が固定された中間体15に対して溶媒を接触させてもよい。また、
図11に示すように、緩和工程の加熱工程においては、張力が付与された状態で支持体40が固定された中間体15を加熱してもよい。
【0074】
(第2の実施の形態)
次に、
図12及び
図13を参照して、第2の実施の形態について説明する。
図12及び
図13は第2の実施の形態を示す図である。第2の実施の形態は、金属層20が設けられていない点等が上述した第1の実施の形態と異なるものである。
図12及び
図13において、
図1乃至
図11に示す第1の実施形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。なお、以下においては、主として第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0075】
図12は、第2の実施の形態による蒸着マスク10Aを示す断面図である。蒸着マスク10Aは、蒸着作製するパターンに対応した複数の第2開口部31が設けられた樹脂マスク30と、樹脂マスク30に固定された支持体40Aと、を備える。支持体40Aは、オープンマスクとも称される部材である。
【0076】
支持体40Aは、樹脂マスク30の一方の面上に設けられている。支持体40Aには、複数の貫通孔41Aが形成されており、各貫通孔41Aは、それぞれ1画面に対応する大きさに形成されている。また貫通孔41Aには、平面視で複数の第1開口部21Bが重なるように配置されている。
【0077】
この支持体40Aは、張力が付与されていない状態または張力が付与された状態で樹脂マスク30に接合されてこれを支持するものである。支持体40Aは、厚みが20μm以上10mm以下のシート状の部材であり、例えばインバー又はインバー合金等の金属材料によって形成されても良い。なお、図示していないが、支持体40Aの一方の面に、第1の実施の形態の場合と同様の支持体40をさらに設けても良い。支持体40Aの一方の面に、第1の実施の形態の場合と同様の支持体40を設ける場合、支持体40Aの厚みは好ましくは20μm以上1mm以下である。支持体40Aの一方の面に、第1の実施の形態の場合と同様の支持体40を設けない場合、支持体40Aの厚みは好ましくは1mm以上10mm以下である。支持体40Aとしては、例えば1mm以上の厚みをもつ厚手の金属板を削って使用しても良い。例えば、10mm程度の金属板を部分的に削って、面内で厚みの異なる領域のある、支持体40Aを作製しても良い。
【0078】
(蒸着マスクの製造方法)
次に、本実施の形態による蒸着マスクの製造方法について、
図13(a)-(d)を用いて説明する。
図13(a)-(d)は、非接触領域を含む樹脂層を有する中間体を形成する工程を示す図である。
【0079】
まず、
図13(a)に示すように、基板を準備する。本実施の形態においては、基板としてガラス板50を用いる。ガラス板50の厚みは、例えば0.1mm以上2.8mm以下である。
【0080】
次に、
図13(b)に示すように、ガラス板50上に樹脂層30Aを形成する。この樹脂層30Aは、上述した蒸着マスク10Aの樹脂マスク30を作製するためのものである。具体的には、ガラス板50の表面の略全域に、例えばポリイミドワニス等の樹脂溶液を塗布し、これを加熱して乾燥することにより、樹脂層30Aが得られる。ガラス板50の一方の面上に塗布される樹脂溶液の厚みは、例えば3μm以上250μm以下である。
【0081】
次に、
図13(c)に示すように、樹脂層30Aに支持体40を固定する支持体固定工程を実施する。その後、
図13(d)に示すように、支持体40に固定された状態の樹脂層30Aをガラス板50から剥離させる剥離工程を実施する。これにより、
図13(c)に示すように、樹脂層30Aに、樹脂層30Aがガラス板50の一方の面に接触しない非接触領域35を生じさせることができる。これによって、非接触領域35を含む樹脂層30Aを有する中間体15を得ることができる。このように、本実施の形態においては、樹脂層30Aをガラス板50から剥離させる剥離工程が、樹脂層30Aに非接触領域35を生じさせる解放工程を構成する。
【0082】
続いて、中間体15の樹脂層30Aに溶媒を接触させる、若しくは樹脂層30Aを加熱する緩和工程を実施する。その後、樹脂層30Aを加工して樹脂層30Aに第2開口部31を形成する樹脂層加工工程を実施する。これにより、第2開口部31が設けられた樹脂マスク30を得る。緩和工程及び樹脂層加工工程は、上述の第1の実施の形態の場合と同様であるので、説明を省略する。
【0083】
本実施の形態においても、第2開口部31が形成される前の状態の樹脂層30Aに対して緩和工程を実施して、樹脂層30Aの内部の歪みを低減している。これにより、樹脂層30Aに第2開口部31を形成した後に第2開口部31の位置が変位することを抑制することができる。
【0084】
なお、図示はしないが、本実施の形態においても、上述の実施の形態の場合と同様に、緩和工程を実施した後、中間体15に支持体40を固定する支持体固定工程を実施してもよい。
【0085】
(第3の実施の形態)
次に、
図14乃至
図16を参照して、第3の実施の形態について説明する。
図14乃至
図16は第3の実施の形態を示す図である。第3の実施の形態は、金属層20がめっき処理により形成されている点等が上述した第1の実施の形態と異なるものである。
図14乃至
図16において、
図1乃至
図11に示す第1の実施の形態又は
図12及び
図13に示す第2の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。なお、以下においては、主として第1の実施の形態又は第2の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0086】
(蒸着マスクの構成)
本実施の形態による蒸着マスクの構成について、
図14を用いて説明する。
【0087】
図14に示すように、本実施の形態による蒸着マスク10Bは、複数の第1開口部21Bが設けられた金属層20Bと、金属層20Bに積層され、蒸着作製するパターンに対応した複数の第2開口部31が設けられた樹脂マスク30と、を備えている。また、金属層20Bには、支持体40Aが固定されている。
【0088】
金属層20Bは、樹脂マスク30の一方の面上に設けられている。
図14の例では、金属層20Bは、樹脂マスク30の面のうちZ方向マイナス側の面に設けられている。金属層20Bには、縦方向及び/又は横方向に延びる複数の第1開口部21Bが形成されている。本実施の形態において、金属層20Bは、電解めっきにより形成されている。このような金属層20Bの材料について特に限定はなく、例えばニッケル又はニッケル合金などの金属材料を挙げることができる。金属層20Bの厚みについても特に限定はないが、1μm以上50μm以下としても良い。
【0089】
樹脂マスク30は、金属層20Bの他方の面上に設けられている。
図14の例では、樹脂マスク30は、金属層20Bの面のうちZ方向プラス側の面に設けられている。樹脂マスク30には、複数画面を構成するために必要な第2開口部31が設けられている。この場合、金属層20Bの各第1開口部21Bに、それぞれ平面視で1つずつの第2開口部31が重なるように設けられている。しかしながら、これに限らず、各第1開口部21Bに平面視で複数の第2開口部31が重なるように設けられていても良い。
【0090】
支持体40Aは、金属層20Bの一方の面上に設けられている。
図14の例では、支持体40は、金属層20Bの面のうちZ方向マイナス側の面に設けられている。支持体40Aには、複数の貫通孔41Aが形成されており、各貫通孔41Aは、それぞれ1画面に対応する大きさに形成されている。また貫通孔41Aには、平面視で複数の第1開口部21Bおよび複数の第2開口部31が重なるように配置されている。
【0091】
この支持体40Aは、張力が付与されていない状態または張力が付与された状態で金属層20Bに接合されてこれを支持するものである。支持体40Aは、厚みが20μm以上10mm以下のシート状の部材であり、例えばインバー又はインバー合金等の金属材料によって形成されても良い。なお、図示していないが、支持体40Aの一方の面に、第1の実施の形態の場合と同様の支持体40をさらに設けても良い。支持体40Aの一方の面に、第1の実施の形態の場合と同様の支持体40を設ける場合、支持体40Aの厚みは好ましくは20μm以上1mm以下である。支持体40Aの一方の面に、第1の実施の形態の場合と同様の支持体40を設けない場合、支持体40Aの厚みは好ましくは1mm以上10mm以下である。支持体40Aとしては、例えば1mm以上の厚みをもつ厚手の金属板を削って使用しても良い。例えば、10mm程度の金属板を部分的に削って、面内で厚みの異なる領域のある、支持体40Aを作製しても良い。
【0092】
(蒸着マスクの製造方法)
次に、本実施の形態による蒸着マスクの製造方法について、
図15及び
図16を用いて説明する。まず、
図15(a)-(f)を用いて、非接触領域を含む樹脂層を有する中間体を形成する工程について説明する。
【0093】
まず、
図15(a)-(b)を用いて、基板の一方の面上に樹脂溶液を塗布して、基板の前記一方の面上に樹脂層30Aを形成する樹脂層形成工程について説明する。まず、
図15(a)に示すように基板を準備する。本実施の形態においては、第2の実施の形態の場合と同様に、基板としてガラス板50を用いる。次に、第2の実施の形態の場合と同様に、
図15(b)に示すように、ガラス板50上に樹脂層30Aを形成する。ガラス板50の一方の面上に塗布される樹脂溶液の厚みは、例えば3μm以上250μm以下である。
【0094】
続いて、
図15(c)-(f)を用いて、樹脂層30Aに、樹脂層30Aが金属板20Aの一方の面に接触しない非接触領域を少なくとも部分的に生じさせる解放工程について説明する。まず、
図15(c)に示すように、樹脂層30A上に、例えばニッケル等の金属からなる図示しないシード層を形成し、次いで、シード層上に感光性レジストを塗布し、乾燥する。続いて、この感光性レジストに対してフォトマスクを介して露光し、現像することにより、第1開口部21Bに対応するパターンを有するレジスト層56を形成する。
【0095】
次に、
図15(d)に示すように、ガラス基板55および樹脂層30Aに対して電解めっきを施す。これにより、樹脂層30Aに形成されたシード層上の、レジスト層56が存在しない部分にニッケル等の金属を析出させ、金属層20Bを形成する。
【0096】
続いて、
図15(e)に示すように、レジスト層56およびシード層を順次除去することにより、樹脂層30A上に、第1開口部21Bが設けられた金属層20Bが形成される。
【0097】
その後、
図15(f)に示すように、金属層20Bが積層された状態の樹脂層30Aをガラス板50から剥離させる剥離工程を実施する。これにより、
図15(f)に示すように、樹脂層30Aに、樹脂層30Aがガラス板50の一方の面に接触しない非接触領域35を生じさせることができる。これによって、非接触領域35を含む樹脂層30Aと、樹脂層30Aに積層された金属層20Bと、を有する中間体15を得ることができる。このように、本実施の形態においても、第2の実施の形態の場合と同様に、樹脂層30Aをガラス板50から剥離させる剥離工程が、樹脂層30Aに非接触領域35を生じさせる解放工程を構成する。
【0098】
続いて、中間体15の樹脂層30Aに溶媒を接触させる、若しくは樹脂層30Aを加熱する緩和工程を実施する。緩和工程は、上述の第1の実施の形態の場合と同様であるので、説明を省略する。
【0099】
続いて、
図16(a)に示すように、支持体40を準備するとともに、中間体15の金属層20を支持体40に固定する支持体固定工程を実施する。その後、樹脂層30Aを加工して樹脂層30Aに第2開口部31を形成する樹脂層加工工程を実施する。
図16(b)において矢印で示すように、中間体15の樹脂層30Aに対して、金属層20B側からレーザーを照射し、蒸着作製するパターンに対応した第2開口部31を形成する。これにより、第2開口部31が設けられた樹脂マスク30を得る。
【0100】
本実施の形態においても、第2開口部31が形成される前の状態の樹脂層30Aに対して緩和工程を実施して、樹脂層30Aの内部の歪みを低減している。これにより、樹脂層30Aに第2開口部31を形成した後に第2開口部31の位置が変位することを抑制することができる。
【0101】
なお、図示はしないが、樹脂層30Aに第2開口部31を形成する樹脂層加工工程を実施した後、金属層20を支持体40に固定する支持体固定工程を実施してもよい。
【0102】
(蒸着マスクの製造方法の変形例1)
次に、本実施の形態による蒸着マスクの製造方法の変形例について、
図17(a)-(f)を用いて説明する。
【0103】
まず、
図17(a)-(e)に示すように、ガラス板50の一方の面上に樹脂層30Aを形成した後、樹脂層30Aの一方の面上に、第1開口部21Bが設けられた金属層20Bを形成する。これらの工程は、
図15(a)-(e)に示す上述の工程と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0104】
次に、
図17(f)に示すように、樹脂層30A及び金属層20Bを含む積層体の金属層20Bを支持体40Aに固定する。このとき、積層体の金属層20Bは、張力が付与されていない状態で支持体40Aに溶接される。
【0105】
次いで、
図17(g)に示すように、金属層20B及び支持体40Aが積層された状態の樹脂層30Aをガラス板50から剥離させる剥離工程を実施する。これにより、
図17(g)に示すように、樹脂層30Aに、樹脂層30Aがガラス板50の一方の面に接触しない非接触領域35を生じさせることができる。非接触領域35を含む樹脂層30Aと、樹脂層30Aに積層された金属層20Bと、を有する中間体15であって、支持体40Aが固定された中間体15を得ることができる。
【0106】
続いて、中間体15の樹脂層30Aに溶媒を接触させる、若しくは樹脂層30Aを加熱する緩和工程を実施する。緩和工程は、
図10又は
図11に示す上述の緩和工程の場合と同様に、支持体が固定された状態の中間体15に対して実施される。
【0107】
その後、樹脂層30Aを加工して樹脂層30Aに第2開口部31を形成する樹脂層加工工程を実施する。これにより、第2開口部31が設けられた樹脂マスク30を得る。
【0108】
上記実施の形態および変形例に開示されている複数の構成要素を必要に応じて適宜組合せることも可能である。あるいは、上記実施の形態および変形例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【実施例】
【0109】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0110】
(実施例1)
以下の手順で、上述の第1の実施の形態による蒸着マスク10を作製した。まず、20μmの厚みを有し、鉄ニッケル合金を含む金属板20Aを準備した。金属板20Aの形状は、長辺730mm、短辺460mmの矩形状であった。金属板20Aにおけるニッケルの含有比率は36質量%であった。続いて、金属板20A上に5μmの厚みを有し、ポリイミドを含む樹脂層30Aを形成した。続いて、金属板20Aをエッチングして金属板20Aに第1開口部21を形成した。このようにして、非接触領域35を含む樹脂層30Aを有する中間体15を得た。続いて、中間体15に張力を付与した状態で中間体15の金属層20に支持体40を固定した。
【0111】
続いて、純水を用いて、支持体40に固定された中間体15を15分にわたって超音波処理した。周波数は80kHzであり、純水の温度は25℃であった。その後、オーブンを用いて中間体15を100℃で30分にわたって加熱した。
【0112】
その後、レーザー光を樹脂層30Aに照射して樹脂層30Aに第2開口部31を形成した。第2開口部31の寸法は16μmであった。このようにして、蒸着マスク10を作製した。
【0113】
その後、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を測定した。具体的には、
図18に示すように、基準点P0に対する、蒸着マスク10中の複数の第2開口部31の中心点P1の位置を測定した。基準点P0は、蒸着マスク10の中心位置である。測定対象の第2開口部31の個数は36であった。測定器としては、新東Sプレシジョン製の自動2・3次元座標測定機AMIC-700を用いた。
【0114】
続いて、蒸着マスク10を洗浄した。具体的には、純水を用いて蒸着マスク10を15分にわたって超音波洗浄した後、オーブンを用いて蒸着マスク10を100℃で30分にわたって加熱して乾燥させた。周波数は80kHzであり、純水の温度は25℃であった。また、オーブンの温度は100℃であり、加熱時間は30分であった。
【0115】
1回目の洗浄の後、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を再び測定した。また、1回目の洗浄の前後における、各第2開口部31の位置の変化量を算出した。36個の第2開口部31における位置の変化量の平均値、最大値及び最小値を
図19に示す。
【0116】
続いて、蒸着マスク10を再び洗浄した。洗浄条件は、1回目の洗浄の場合と同一である。
【0117】
2回目の洗浄の後、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を再び測定した。また、2回目の洗浄の前後における、各第2開口部31の位置の変化量を算出した。36個の第2開口部31における位置の変化量の平均値、最大値及び最小値を
図19に示す。
【0118】
(比較例1)
樹脂層30Aに第2開口部31を形成する前に樹脂層30Aの超音波処理及び加熱を実施しなかったこと以外は、実施例1の場合と同様にして、蒸着マスク10を作製した。また、実施例1の場合と同様にして、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を測定した。
【0119】
続いて、実施例1の場合と同様に、蒸着マスク10を洗浄した。また、1回目の洗浄の後、実施例1の場合と同様に、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を再び測定した。また、1回目の洗浄の前後における、各第2開口部31の位置の変化量を算出した。36個の第2開口部31における位置の変化量の平均値、最大値及び最小値を
図19に示す。
【0120】
図19に示すように、実施例1の1回目の洗浄の前後における各第2開口部31の位置の変化量の平均値は、X方向及びY方向のいずれにおいても1μm以下であり、具体的には0.6μm以下であった。一方、比較例1の1回目の洗浄の前後における各第2開口部31の位置の変化量の平均値は、X方向及びY方向のいずれにおいても1μmを超えていた。このことから、樹脂層30Aに第2開口部31を形成する前に樹脂層30Aの超音波処理及び加熱を実施することは、洗浄に起因する第2開口部31の位置の変化の抑制に寄与し得ると言える。
【0121】
図19に示すように、実施例1の1回目の洗浄の前後における各第2開口部31の位置の変化量の平均値及び最大値は、実施例1の2回目の洗浄の前後における各第2開口部31の位置の変化量の平均値と同等であった。このことから、実施例1の蒸着マスク10においては、更に洗浄工程を繰り返し実施した後にも第2開口部31の位置が安定していることが期待される。
【0122】
(実施例2)
実施例1の場合と同様にして、非接触領域35を含む樹脂層30Aを有する中間体15を作製した。続いて、中間体15に張力を付与した状態で中間体15の金属層20に支持体40を固定した。
【0123】
続いて、支持体40に固定された中間体15を純水の中に15分にわたって浸漬させた。純水の温度は25℃であった。その後、オーブンを用いて中間体15を100℃で30分にわたって加熱した。
【0124】
その後、レーザー光を樹脂層30Aに照射して樹脂層30Aに第2開口部31を形成した。第2開口部31の寸法は16μmであった。このようにして、蒸着マスク10を作製した。
【0125】
その後、実施例1の場合と同様にして、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を測定した。続いて、蒸着マスク10を洗浄した。具体的には、蒸着マスク10を純水の中に15分にわたって浸漬させた後、オーブンを用いて蒸着マスク10を100℃で30分にわたって加熱して乾燥させた。純水の温度は25℃であった。また、オーブンの温度は100℃であり、加熱時間は30分であった。
【0126】
1回目の洗浄の後、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を再び測定した。また、1回目の洗浄の前後における、各第2開口部31の位置の変化量を算出した。36個の第2開口部31における位置の変化量の平均値、最大値及び最小値を
図20に示す。
【0127】
(比較例2)
樹脂層30Aに第2開口部31を形成する前に樹脂層30Aの純水中への浸漬及び加熱を実施しなかったこと以外は、実施例2の場合と同様にして、蒸着マスク10を作製した。また、実施例2の場合と同様にして、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を測定した。
【0128】
続いて、実施例2の場合と同様に、蒸着マスク10を洗浄した。また、1回目の洗浄の後、実施例2の場合と同様に、蒸着マスク10の樹脂層30Aの第2開口部31の位置を再び測定した。また、1回目の洗浄の前後における、各第2開口部31の位置の変化量を算出した。36個の第2開口部31における位置の変化量の平均値、最大値及び最小値を
図20に示す。
【0129】
図20に示すように、実施例2の1回目の洗浄の前後における各第2開口部31の位置の変化量の平均値は、X方向及びY方向のいずれにおいても1μm以下であり、具体的には0.8μm以下であった。一方、比較例2の1回目の洗浄の前後における各第2開口部31の位置の変化量の平均値は、X方向及びY方向のいずれにおいても1μmを超えていた。このことから、樹脂層30Aに第2開口部31を形成する前に樹脂層30Aの純水中への浸漬及び加熱を実施することは、洗浄に起因する第2開口部31の位置の変化の抑制に寄与し得ると言える。
【0130】
なお、上述した実施の形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0131】
10 蒸着マスク
15 中間体
20 金属層
20A 金属板
21 第1開口部
30 樹脂マスク
30A 樹脂層
31 第2開口部
35 非接触領域
40 支持体
41 貫通孔
50 ガラス板
60 洗浄装置
61 容器
62 溶媒
70 加熱装置
71 オーブン