(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】遊星式動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 13/08 20060101AFI20221206BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16H13/08 E
F16C19/06
(21)【出願番号】P 2018157357
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 肇
(72)【発明者】
【氏名】松本 侑一
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/086757(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/08
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング部材と、
前記リング部材の径方向内側において前記リング部材の軸心と同心状に配置された太陽部材と、
前記太陽部材と同心状に配置され前記太陽部材に固定された第1の軸と、
前記リング部材と前記太陽部材との間に設けられた複数の遊星部材と、
各遊星部材をそれぞれ回転自在に支持する支持軸と、
前記支持軸が固定されるとともに、前記リング部材の内周面に沿った前記遊星部材の公転に連動して回転するキャリア部材と、
前記第1の軸と同心状に前記キャリア部材に固定された第2の軸と、
前記リング部材、前記太陽部材、前記遊星部材、及び前記キャリア部材を収容するハウジングと、を備えており、
前記キャリア部材の外周面が、前記ハウジングに軸受を介して回転自在に支持されて
おり、
前記軸受が、前記ハウジングに固定される外輪と、前記キャリア部材の外周面に固定される内輪と、前記外輪及び内輪の間に転動自在に配置された複数の転動体とを有する転がり軸受であり、
前記内輪が、前記遊星部材の軸方向一方側への移動を制限する規制部材とされ、
前記内輪が、前記リング部材の内径よりも小さい外径を有し、
前記内輪と前記遊星部材との隙間が、前記キャリア部材と前記遊星部材との隙間よりも小さい、遊星式動力伝達装置。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記リング部材の外周面を嵌合して固定する第1固定面と、前記軸受の外周面を嵌合して固定する第2固定面とを備えており、前記第1固定面と前記第2固定面とが同一径で互いに軸方向に連続して形成されている、請求項
1に記載の遊星式動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遊星式動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械や産業機械の分野等において、低騒音かつ低振動で動力伝達が可能な減速機として遊星ローラ式動力伝達装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。この遊星ローラ式動力伝達装置は、
図3に示すように、リング部材112と、第1の軸(太陽部材)113と、複数の遊星ローラ115と、キャリアユニット116と、第2の軸117とを備えている。
【0003】
リング部材112は、遊星ローラ式動力伝達装置110のハウジング111の内周面に固定され、このリング部材112の内周面112b上に複数の遊星ローラ115が配置されている。複数の遊星ローラ115の中央には、各遊星ローラ115の外周面に接触する第1の軸113が配置され、第1の軸113は、転がり軸受114を介してハウジング111に回転自在に支持されている。キャリアユニット116は、キャリアプレート131と支持軸132とからなり、各遊星ローラ115は、支持軸132に回転自在に支持されている。キャリアプレート131の中央部には第2の軸117が固定され、この第2の軸117が転がり軸受140を介してハウジング111に回転自在に支持されている。
【0004】
以上の構成において、各遊星ローラ115は、第1の軸113の外周及びリング部材112の内周と所定の圧接力をもって接触し、これらの接触面にはトラクションオイルが塗布されている。そして、第1の軸113の回転動力が、トラクションオイルの剪断力によって遊星ローラ115に伝達され、この遊星ローラ115がリング部材112の内周面112b上を転動する。これによってキャリアユニット116を介して第2の軸117に回転動力が伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の遊星ローラ式動力伝達装置は、工作機械等の各種機械に組み込まれるため、小型化が望まれている。特に、遊星ローラ式動力伝達装置へ回転動力を入力する機器と遊星ローラ式動力伝達装置からの出力を受ける機器との間隔を小さくすることが機械全体の小型化に大きく寄与するため、遊星ローラ式動力伝達装置の軸方向の幅を縮小することがより望まれる。
【0007】
一方、
図3に示すように、遊星ローラ115と支持軸132とはすべり接触する構成であり、両者の間にはわずかな隙間があるため、キャリアユニット116が第2の軸117の転がり軸受140を支点として傾く可能性がある。このようなキャリアユニット116の傾きは、第1の軸113と第2の軸117との同軸度を悪化させ、回転精度の低下や動力伝達能力の低下を招くことから、できるだけ抑制することが望ましい。
【0008】
本発明は、装置の小型化が可能であり、回転精度や回転伝達能力の低下を抑制することができる遊星式動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の遊星式動力伝達装置は、リング部材と、このリング部材の径方向内側において当該リング部材の軸心と同心状に配置された太陽部材と、前記太陽部材と同心状に配置され前記太陽部材に固定された第1の軸と、前記リング部材と前記太陽部材との間に設けられた複数の遊星部材と、各遊星部材をそれぞれ回転自在に支持する支持軸と、前記支持軸が固定されるとともに、前記リング部材の内周面に沿った前記遊星部材の公転に連動して回転するキャリア部材と、前記第1の軸と同心状に前記キャリア部材に固定された第2の軸と、前記リング部材、前記太陽部材、前記遊星部材、及び前記キャリア部材を収容するハウジングと、を備えており、前記キャリア部材の外周面が、前記ハウジングに軸受を介して回転自在に支持されている。
【0010】
図3に示す従来の遊星式動力伝達装置の場合、キャリア部材(キャリアプレート)131は、第2の軸117を支持する軸受140を介してハウジング111に支持されていたため、この軸受140の取付スペースを確保するためにハウジング111を軸方向に幅広く形成する必要がある。これに対して、本発明では、キャリア部材の外周面がハウジングに軸受を介して支持されているので、第2の軸を支持する軸受が不要となり、その分、ハウジングの幅を縮小し、コンパクト化を図ることができる。また、キャリア部材がハウジングに直接支持されるので、キャリア部材の傾きが抑制され、第1の軸と第2の軸の同軸度を維持することができるので、回転精度の低下や動力伝達能力の低下を抑制することができる。
【0011】
(2)好ましくは、前記軸受が、前記遊星部材の軸方向一方側への移動を制限する規制部材とされている。
図3に示す従来の遊星式動力伝達装置の場合、遊星ローラ115の軸方向両側の移動が鍔輪118によって規制されていた。これに対して本発明は、軸受が遊星部材の軸方向の移動を制限するので、少なくとも一方の鍔輪が不要となり、その分、部品点数を削減し、ハウジングの軸方向の幅を縮小することができる。
【0012】
(3)好ましくは、前記軸受が、前記ハウジングに固定される外輪と、前記キャリア部材の外周面に固定される内輪と、前記外輪及び内輪の間に転動自在に配置された複数の転動体とを有する転がり軸受であり、前記内輪が、前記規制部材である。
キャリア部材を回転自在に支持する軸受の内輪は、キャリア部材と一体的に回転し、リング部材の内周面に沿った遊星部材の公転速度と同一の速度で回転する。そのため、内輪を遊星部材の規制部材とすることによって、内輪と遊星部材との相対移動を可及的に少なくすることができ、これらの部品の摩耗を抑制することができる。
【0013】
(4)好ましくは、前記ハウジングは、前記リング部材の外周面を嵌合して固定する第1固定面と、前記軸受の外周面を嵌合して固定する第2固定面とを備えており、前記第1固定面と前記第2固定面とが同一径で互いに軸方向に連続して形成されている。
このような構成によって、リング部材と軸受との同軸度を高めることができ、リング部材の内周側に遊星部材を介して配置される第1の軸の軸心と、キャリア部材に固定される第2の軸の軸心とを高精度で一致させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の遊星式動力伝達装置によれば、小型化が可能であり、回転精度や回転伝達能力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る遊星式動力伝達装置の断面図である。
【
図3】従来技術に係る遊星式動力伝達装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る遊星式動力伝達装置の横断面図である。
本実施形態の遊星式動力伝達装置10は、トラクションドライブ型の遊星ローラ式動力伝達装置であり、ハウジング11と、リング部材12と、第1の軸13(太陽部材13a)と、第1転がり軸受14と、複数の遊星ローラ(遊星部材)15と、キャリアユニット16と、第2の軸17と、鍔輪18と、第2転がり軸受19と、を備えている。本明細書において、第1の軸13に沿った方向の一方側を「軸方向一方側」、他方側を「軸方向他方側」という。
【0018】
ハウジング11は、アルミ合金等によって形成され、ハウジング本体21と、蓋体22とを備えている。ハウジング本体21は、円筒形状に形成されている。ハウジング本体21の軸方向一方側の端部には、径方向内方へ突出する突条部21aが形成されている。ハウジング本体21の内周面は一定の内径を有している。また、ハウジング本体21の内周面は、後述するように、リング部材12を固定するための第1固定面21bと、第2転がり軸受19を固定するための第2固定面21cとを有している。
【0019】
蓋体22は、円板形状に形成され、ハウジング本体21の軸方向他方側に配置されている。蓋体22の外周部は、ハウジング本体21の軸方向他方側の端面にボルト23によって固定されている。蓋体22の中央には、第1転がり軸受14を取り付けるための取付孔22aが形成されている。
【0020】
リング部材12は、例えば、高炭素クロム軸受鋼及び炭素鋼等の鋼材に焼入れ及び焼戻し等の硬化処理を行うことによって製作されている。リング部材12は、断面が矩形状の環状体からなる。リング部材12の外周面12aが、ハウジング本体21の内周面における第1固定面21bに圧入により嵌合されることによって、リング部材12が第1固定面21bに固定されている。
【0021】
第1の軸13は、例えば、高炭素クロム軸受鋼及び炭素鋼等の鋼材に焼入れ及び焼戻し等の硬化処理を行うことによって製作されている。第1の軸13は、円柱形状に形成され、リング部材12の軸心Oと同心状に配置されている。第1の軸13は、蓋体22に形成された取付孔22aに挿入され、取付孔22aに取り付けられた第1転がり軸受14によって回転自在に支持されている。
【0022】
第1転がり軸受14は、取付孔22aの内面に嵌合・固定された外輪14aと、第1の軸13の外周面に嵌合・固定された内輪14bと、外輪14a及び内輪14bの間に転動自在に配置された転動体14cとを有する転がり軸受である。この第1の軸13は、例えばモータの出力軸にカップリング等を介して一体回転自在に連結され、モータからの回転動力が入力される入力軸となる。
【0023】
遊星ローラ15は、例えば、高炭素クロム軸受鋼及び炭素鋼等の鋼材に焼入れ及び焼戻し等の硬化処理を行うことによって製作されている。遊星ローラ15は、円筒形状に形成され、リング部材12と第1の軸13との間に配置されている。本実施形態では、例えば3~4個の遊星ローラ15が、周方向に等間隔で配置されている。遊星ローラ15は、互いに同心の円筒面である外周面15a及び内周面15bを有している。
図2にも示すように、遊星ローラ15の軸方向の幅w2は、リング部材12の軸方向の幅w1よりも僅かに小さい。
【0024】
各遊星ローラ15は、第1の軸13の外周面及びリング部材12の内周面12bと転がり接触している。また、遊星ローラ15の直径は、リング部材12の内周と第1の軸13の外周との間の径方向寸法よりわずかに大きい。したがって、遊星ローラ15は、リング部材12及び第1の軸13に対して所定の圧接力を持って接触している。言い換えると、遊星ローラ15及び第1の軸13は、リング部材12の内周に負すきまで組み込まれている。遊星ローラ15とリング部材12及び第1の軸13との接触面には、トラクションオイルが塗布されている。そして、第1の軸13が回転すると、トラクションオイルの剪断力によって遊星ローラ15に回転動力が伝達され、リング部材12の内周面12b上を遊星ローラ15が公転する。
【0025】
本実施形態では、第1の軸13のうち複数の遊星ローラ15に接触する部分が太陽部材13aとされている。つまり、本実施形態の第1の軸13は、太陽部材13aを兼ねている。また、第1の軸13は、太陽部材13aと一体に形成されることによって、太陽部材13aに固定された状態となる。ただし、第1の軸13と太陽部材13aとは、別体で形成されていてもよく、この場合、第1の軸13は、太陽部材13aに連結されることによって太陽部材13aに固定される。
【0026】
キャリアユニット16は、キャリアプレート(キャリア部材)31と、支持軸32とを有している。キャリアプレート31は、アルミニウム合金鋼等によって円板状に形成され、遊星ローラ15の軸方向一方側に配置されている。キャリアプレート31の外周部には、複数の遊星ローラ15に対応する複数の固定孔31cが形成され、この固定孔31cに支持軸32が圧入により嵌合され固定されている。また、キャリアプレート31の中心には、中心孔31bが形成されている。
【0027】
支持軸32は、例えば、高炭素クロム軸受鋼及び炭素鋼等の鋼材に焼入れ及び焼戻し等の硬化処理を行うことによって製作されている。支持軸32は、円柱形状に形成され、遊星ローラ15の内周面15bに挿入されて当該内周面15bとすべり接触する。したがって、支持軸32と内周面15bとの間にはすべりを許容する僅かな隙間が形成されている。そのため、遊星ローラ15は、支持軸32上で軸方向に移動し得る。
【0028】
第2の軸17は、ステンレス鋼等によって円柱形状に形成されている。第2の軸17は、第1の軸13と同心状にキャリアプレート31の中心孔31bに圧入により嵌合され固定されている。第2の軸17と各支持軸32とは互いに平行であり、第2の軸17は、キャリアプレート31から軸方向一方側に突出し、各支持軸32は、キャリアプレート31から軸方向他方側に突出している。この第2の軸17は、遊星ローラ式動力伝達装置10の出力軸となり、第1の軸13に入力されて減速された回転動力を外部に出力する。
【0029】
鍔輪18は、例えば工具鋼等の金属によって円環状に形成されている。鍔輪18は、リング部材12の軸方向他方側に隣接して配置され、リング部材12と蓋体22との間に挟持されている。鍔輪18の外径は、ハウジング本体21の内径と同一かわずかに小さい寸法とされている。鍔輪18の内径は、リング部材12の内径よりも小さい寸法であり、鍔輪18は、リング部材12の内周面12bから径方向内側に突出している。前述したように、リング部材12の内周面12b上を転動する遊星ローラ15は支持軸32上で軸方向に移動し得るが、遊星ローラ15は、鍔輪18によって軸方向他方側への移動が制限されている。
【0030】
第2転がり軸受19は、ハウジング11に取り付けられ、キャリアユニット16を回転自在に支持する。言い換えると、キャリアユニット16は、ハウジング11に第2転がり軸受19を介して回転自在に支持されている。
第2転がり軸受19は、外輪35と、内輪36と、内輪36及び外輪35の間に配置された複数の転動体37とを有している。
【0031】
外輪35は、その外周面35aがハウジング本体21の内周面に形成された第2固定面21cに圧入により嵌合され、固定されている。外輪35の外径(呼び寸法)は、リング部材12の外径(呼び寸法)と同一である。外輪35は、軸方向一方側の端面が突条部21aに接触し、軸方向一方側への移動が制限されている。また、外輪35の軸方向他方側には、リング部材12が隣接して配置されている。外輪35の軸方向他方側の端面は、リング部材12の軸方向一方側の端面と対向し、接触している。
【0032】
内輪36の内周面36aには、キャリアプレート31の外周面31aが圧入により嵌合され、固定されている。内輪36は、外輪35と同一の軸方向の幅を有している。
転動体37は、外輪35の内周面に形成された軌道と、内輪36の外周面に形成された軌道との間に配置されている。本実施形態の転動体37は玉である。
【0033】
図2は、
図1の要部の拡大断面図である。
第2転がり軸受19の内輪36は、リング部材12の内径よりも小さい外径を有している。そのため、内輪36とリング部材12とは、互いに接触することがない。また、内輪36は、遊星ローラ15の軸方向一方側に隣接して配置されている。前述したように、リング部材12の内周面12b上を転動する遊星ローラ15は、支持軸32上で軸方向に移動し得るが、遊星ローラ15の軸方向一方側への移動は内輪36によって制限される。つまり、遊星ローラ15は、鍔輪18と内輪36とによって軸方向両側への移動が制限されている。このように遊星ローラ15の軸方向両側への移動が制限されることによって、遊星ローラ15のスキューが抑制され、遊星ローラ15による動力伝達能力の低下が防止されている。
【0034】
以上に説明した本実施形態の遊星ローラ式動力伝達装置10は、キャリアユニット16におけるキャリアプレート31の外周面31aが第2転がり軸受19を介してハウジング11に回転自在に支持されている。一方、従来の遊星ローラ式動力伝達装置110は、
図3に示すように、キャリアプレート131に連結された第2の軸117が転がり軸受140を介してハウジング111に支持されている。従来の遊星ローラ式動力伝達装置110では、第2の軸117を支持する転がり軸受140が、キャリアプレート131の軸方向一方側に配置されているので、その分、ハウジング111の軸方向の幅Wbが大きくなっていたが、本実施形態では、キャリアプレート31自身が、その外周面に配置された第2転がり軸受19を介してハウジング11に支持されるので、従来の遊星ローラ式動力伝達装置110に比べてハウジング11の軸方向の幅Waを縮小することができ、遊星ローラ式動力伝達装置10の小型化を図ることができる。
【0035】
また、遊星ローラ15の内周面15bと支持軸32の外周面との間にはわずかに隙間があり、この隙間によって支持軸32を含むキャリアユニット16全体が遊星ローラ15に対して傾く可能性がある。
図3に示す従来の遊星ローラ式動力伝達装置110では、キャリアユニット116は、転がり軸受140の部分を支点として大きく傾き、第1の軸113と第2の軸117との同軸度が悪化させるおそれがあるが、本実施形態では、キャリアユニット16の傾きが第2転がり軸受19によって抑えられるので、第1の軸13と第2の軸17との同軸度が維持され、回転精度の低下や動力伝達能力の低下を抑制することができる。
【0036】
第2転がり軸受19の内輪36は、遊星ローラ15の軸方向一方側への移動を制限する規制部材として機能しているので、前述した鍔輪18を遊星ローラ15の軸方向両側に設ける必要がない。そのため、部品点数を削減し、ハウジング11の軸方向の幅Waをより縮小することができる。
【0037】
また、第2転がり軸受19の内輪36は、キャリアユニット16とともに軸心Oまわりに回転するので、同じくキャリアユニット16とともに公転する遊星ローラ15との間の相対的な移動が遊星ローラ15の自転によるもののみとなり、内輪36と遊星ローラ15との摺動量を少なくすることができる。そのため、内輪36および遊星ローラ15の摩耗を抑制することができる。
【0038】
本実施形態のハウジング11のハウジング本体21は、リング部材12を固定するための第1固定面21bと、キャリアプレート31を固定するための第2固定面21cとを備えており、第1固定面21bと第2固定面21cとは同一径で互いに軸方向に連続して形成されている。そのため、第1固定面21b及び第2固定面21cの加工を容易に行うことができる。また、第1固定面21b及び第2固定面21cに固定されるリング部材12とキャリアプレート31との同軸度を高めることができるので、リング部材12の内周側に遊星ローラ15を介して配置される第1の軸13と、キャリアプレート31の中央に取り付けられる第2の軸17との同軸度も高めることができる。
【0039】
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、遊星部材として遊星ローラが用いられていたが、遊星ギヤが用いられてもよい。この場合、リング部材の内周面及び第1の軸の外周面にも遊星ギヤに噛み合うギヤが形成される。
【0040】
遊星ローラの内周面とキャリアユニットの支持軸との間には、滑り軸受や針状ころ軸受等、遊星ローラの軸方向の移動を許容するような軸受が設けられていてもよい。
キャリアユニットのキャリアプレートと支持軸とは一体に形成されていてもよい。また、キャリアプレートと第2の軸とも一体に形成されていてもよい。
キャリアプレートの外周面を支持する軸受は、転がり軸受に限らず滑り軸受であってもよい。
【0041】
上記実施形態の遊星式動力伝達装置は、第1の軸が入力軸とされ、第2の軸が出力軸とされていたが、これに限定されるものではなく、第2の軸が入力軸とされ、第1の軸が出力軸とされていてもよい。
上記実施形態の遊星式動力伝達装置は、リング部材、遊星部材、キャリア部材、太陽部材、第1の軸、及び第2の軸のうちリング部材が固定されており、第1の軸を入力軸、第2の軸を出力軸として、第1の軸から入力された回転動力を減速して第2の軸から出力している。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、リング部材に代えて、キャリア部材又は太陽部材が固定されていてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10:遊星ローラ式動力伝達装置(遊星式動力伝達装置)、11:ハウジング、12:リング部材、12a:外周面、12b:内周面、13:第1の軸、13a:太陽部材、15:遊星ローラ(遊星部材)、17:第2の軸、19:第2転がり軸受、21b:第1固定面、21c:第2固定面、31:キャリアプレート(キャリア部材)、31a:外周面、32:支持軸、35:外輪、35a:外周面、36:内輪、37:転動体