(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】水洗大便器およびフロート弁
(51)【国際特許分類】
E03D 1/35 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
E03D1/35
(21)【出願番号】P 2018157692
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大神 隆
(72)【発明者】
【氏名】富吉 秀人
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】実公昭26-007278(JP,Y1)
【文献】特開2016-069873(JP,A)
【文献】特開2013-040452(JP,A)
【文献】特開2017-014830(JP,A)
【文献】特開平11-210043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/33-1/35
F16K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物を受けるボウル部、および、前記ボウル部に接続されるトラップ部を備える便器本体と、
前記便器本体に洗浄水を供給するタンク装置と
を備え、
前記タンク装置は、
洗浄水を貯留するタンク本体と、
前記タンク本体内に上下方向に沿って延設されるとともに、前記タンク本体の内部空間と前記タンク本体から前記便器本体への洗浄水の排水流路とを連通し、前記タンク本体内において満水水位を超えた洗浄水を上端側に形成された開口部へ溢水させて前記排水流路から前記便器本体へ排出するオーバーフロー管と、
前記オーバーフロー管の上端側に設けられ、前記タンク本体内の水位に応じて上下動して前記開口部を開閉するフロート弁と
を備え
、
前記フロート弁は、
前記開口部の上方に配置され、前記開口部を閉止可能な弁体と、
前記弁体によって閉止された前記開口部において前記タンク本体の内部空間に開放される開放面積を調整する調整部と
を備えることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記タンク本体内の水位が所定水位まで上昇したとき、前記オーバーフロー管に対する前記フロート弁の上方への移動を規制する規制部
を備えることを特徴とする請求項
1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記タンク本体の排水口に設けられて前記排水口を開閉する排水弁を含む排水弁装置
を備え、
前記フロート弁は、
前記タンク本体内の水位に応じて上下動するとともに、前記排水弁装置に隣接して配置されるフロート部
を備え、
前記フロート部は、
前記排水弁装置と対向する部位が前記排水弁装置の外形に沿った形状に形成されること
を特徴とする請求項1
または2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
前記フロート部は、
前記排水弁装置と対向する部位が前記排水弁装置の外形に沿った凹形状に形成されること
を特徴とする請求項
3に記載の水洗大便器。
【請求項5】
前記フロート部は、
前記排水弁装置と対向する部位とは反対側の部位が前記排水弁装置の外形に沿った形状に形成されること
を特徴とする請求項
3または
4に記載の水洗大便器。
【請求項6】
汚物を受けるボウル部および前記ボウル部に接続されるトラップ部を備えた便器本体に供給される洗浄水を貯留するタンク本体と、前記タンク本体内に上下方向に沿って延設されるとともに、前記タンク本体の内部空間と前記タンク本体から前記便器本体への洗浄水の排水流路とを連通し、前記タンク本体内において満水水位を超えた洗浄水を上端側に形成された開口部へ溢水させて前記排水流路から前記便器本体へ排出するオーバーフロー管とを備えたタンク装置に設けられるフロート弁であって、
前記オーバーフロー管の前記開口部の上方に配置され
、前記開口部を閉止可能な弁体と、
前記弁体に接続されるとともに、前記タンク本体内の水位に応じて上下動して前記開口部を前記弁体によって開閉させるフロート部と
、
前記弁体によって閉止された前記開口部において前記タンク本体の内部空間に開放される開放面積を調整する調整部と
を備えることを特徴とするフロート弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、水洗大便器およびフロート弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンク装置に貯留された洗浄水を便器本体へ供給して洗浄を行う水洗大便器が広く知られている(例えば特許文献1参照)。従来技術に係る水洗大便器にあっては、タンク装置から洗浄水が便器本体のボウル部に吐出された後、ボウル部に接続されるトラップ部を通って排水管へ排水されるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、上記した排水管の状態等は、水洗大便器が取り付けられる施工場所ごとに異なる。そのため、排水管の状態等によっては、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることが望ましい場合がある。
【0005】
すなわち、例えば、排水管が途中に曲がりが多くあるような状態である場合、洗浄水の排水時に排水管が満水状態となって、意図しないサイホン現象が発生することがある。かかるサイホン現象が発生すると、例えば、洗浄後にトラップ部に供給されて封水を形成するための洗浄水(いわゆるリフィール水)が排水管に引き込まれ、封水の量が不足するおそれがある。そのため、例えば、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができれば、洗浄水が便器本体へ供給される時間を長くすることが可能になり、よって意図しないサイホン現象が発生した場合であっても、サイホン現象の発生後にトラップ部へ洗浄水を供給して封水の量を確保することができる。
【0006】
しかしながら、上記した従来技術は、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させるものではなかった。
【0007】
実施形態の一態様は、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる水洗大便器およびフロート弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様に係る水洗大便器は、汚物を受けるボウル部、および、前記ボウル部に接続されるトラップ部を備える便器本体と、前記便器本体に洗浄水を供給するタンク装置とを備え、前記タンク装置は、洗浄水を貯留するタンク本体と、前記タンク本体内に上下方向に沿って延設されるとともに、前記タンク本体の内部空間と前記タンク本体から前記便器本体への洗浄水の排水流路とを連通し、前記タンク本体内において満水水位を超えた洗浄水を上端側に形成された開口部へ溢水させて前記排水流路から前記便器本体へ排出するオーバーフロー管と、前記オーバーフロー管の上端側に設けられ、前記タンク本体内の水位に応じて上下動して前記開口部を開閉するフロート弁とを備えることを特徴とする。
【0009】
これにより、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる。すなわち、例えば、便器洗浄時にタンク本体内の水位が低下すると、水位の低下に伴ってフロート弁が下降し、オーバーフロー管の開口部を閉止する。フロート弁による開口部の閉止によって、便器洗浄時にオーバーフロー管には空気が流入しにくくなって、オーバーフロー管内に負圧が生じ、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる。
【0010】
また、オーバーフロー管内に負圧が生じることで、洗浄水の瞬間流量を低下させるとともに、洗浄水が便器本体へ供給される時間を長くすることが可能になる。これにより、例えば、上記したような意図しないサイホン現象が発生した場合であっても、サイホン現象の発生後にトラップ部へ洗浄水を供給して封水の量を確保することができる。
【0011】
また、例えば、タンク装置の種類によっては、洗浄水の瞬間流量を低下させることが望ましい場合がある。すなわち、例えば、洗浄水を貯留するタンク本体の高さが比較的高いタンク装置である場合、洗浄水のヘッド圧が大きいため、洗浄時の洗浄水の水勢が強くなって、洗浄水が便器本体の外へ飛散するおそれがある。そこで、水洗大便器を上記のように構成することで、洗浄水の瞬間流量を低下させることができ、よって洗浄時の洗浄水の水勢が弱まり、洗浄水が便器本体の外へ飛散することを抑制することができる。
【0012】
また、前記フロート弁は、前記開口部の上方に配置され、前記開口部を閉止可能な弁体と、前記弁体によって閉止された前記開口部において前記タンク本体の内部空間に開放される開放面積を調整する調整部とを備えることを特徴とする。
【0013】
これにより、調整部は、便器洗浄時にオーバーフロー管内へ流入する空気の量を調整でき、結果としてタンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる。
【0014】
また、前記タンク本体内の水位が所定水位まで上昇したとき、前記オーバーフロー管に対する前記フロート弁の上方への移動を規制する規制部を備えることを特徴とする。
【0015】
これにより、規制部は、フロート弁がオーバーフロー管の機能を阻害することを抑制することができる。すなわち、規制部により、例えば、フロート弁の一部がオーバーフロー管の開口部より上方へ移動しないようにすることができるため、満水水位を超えた洗浄水のオーバーフロー管への流入をフロート弁の一部が阻害してしまうことを抑制することができる。
【0016】
また、規制部により、タンク本体内の水位が上昇したときにフロート弁の上方への移動が規制されることから、フロート弁がオーバーフロー管の上端側から脱落してしまうことを防止することができる。
【0017】
また、前記タンク本体の排水口に設けられて前記排水口を開閉する排水弁を含む排水弁装置を備え、前記フロート弁は、前記タンク本体内の水位に応じて上下動するとともに、前記排水弁装置に隣接して配置されるフロート部を備え、前記フロート部は、前記排水弁装置と対向する部位が前記排水弁装置の外形に沿った形状に形成されることを特徴とする。
【0018】
これにより、フロート部にあっては、例えば、タンク本体内の水位に応じて上下動する際に、排水弁装置に接触しにくく、よって排水弁装置に干渉することを抑制することができる。
【0019】
また、前記フロート部は、前記排水弁装置と対向する部位が前記排水弁装置の外形に沿った凹形状に形成されることを特徴とする。
【0020】
これにより、フロート部にあっては、例えば、タンク本体内の水位に応じて上下動する際に、排水弁装置により接触しにくく、よって排水弁装置に干渉することをより一層抑制することができる。
【0021】
また、前記フロート部は、前記排水弁装置と対向する部位とは反対側の部位が前記排水弁装置の外形に沿った形状に形成されることを特徴とする。
【0022】
これにより、フロート部は、上記のように構成されることで、重心が偏らず、よってフロート部を含むフロート弁は、上下動する際に傾きにくくなって、スムーズに上下動することができる。
【0023】
また、実施形態の一態様に係るフロート弁は、汚物を受けるボウル部および前記ボウル部に接続されるトラップ部を備えた便器本体に供給される洗浄水を貯留するタンク本体と、前記タンク本体内に上下方向に沿って延設されるとともに、前記タンク本体の内部空間と前記タンク本体から前記便器本体への洗浄水の排水流路とを連通し、前記タンク本体内において満水水位を超えた洗浄水を上端側に形成された開口部へ溢水させて前記排水流路から前記便器本体へ排出するオーバーフロー管とを備えたタンク装置に設けられるフロート弁であって、前記オーバーフロー管の前記開口部の上方に配置される弁体と、前記弁体に接続されるとともに、前記タンク本体内の水位に応じて上下動して前記開口部を前記弁体によって開閉させるフロート部とを備えることを特徴とする。
【0024】
これにより、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる。また、例えば、実施形態の一態様に係るフロート弁を、既成の水洗大便器のオーバーフロー管に後付けすることでも、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる。
【発明の効果】
【0025】
実施形態の一態様によれば、タンク装置から便器本体へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施形態に係る水洗大便器を示す斜視図である。
【
図8A】
図8Aは、便器洗浄時におけるフロート弁等の動作を説明する図である。
【
図8B】
図8Bは、便器洗浄時におけるフロート弁等の動作を説明する図である。
【
図8C】
図8Cは、便器洗浄時におけるフロート弁等の動作を説明する図である。
【
図8D】
図8Dは、便器洗浄時におけるフロート弁等の動作を説明する図である。
【
図8E】
図8Eは、便器洗浄時におけるフロート弁等の動作を説明する図である。
【
図8F】
図8Fは、便器洗浄時におけるフロート弁等の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する水洗大便器およびフロート弁の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0028】
<1.水洗大便器>
図1は、実施形態に係る水洗大便器を示す斜視図であり、
図2は
図1のII-II線断面図である。なお、
図1等では、説明を分かり易くするため、鉛直上向きを正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、他の図においても図示する場合がある。
【0029】
また、以下の説明では、直交座標系におけるX軸正方向を「右方」、X軸負方向を「左方」、Y軸正方向を「前方」、Y軸負方向を「後方」、Z軸正方向を「上方」、Z軸負方向を「下方」と記載する場合がある。なお、
図1,2および
図3以降に示す図は、いずれも模式図である。
【0030】
図1および
図2に示すように、水洗大便器1は、便器本体(以下「便器」と記載する場合がある)2と、タンク装置10とを備える。便器2は、ボウル部3と、リム部4と、トラップ部5と、導水路6とを備える。
【0031】
ボウル部3は、汚物を受けることが可能なボウル状に形成される。リム部4は、ボウル部3の上縁に形成される。かかるリム部4の上部には、例えば便座(図示省略)が設けられる。
【0032】
また、リム部4には、導水路6が接続される。導水路6は、第1吐水口6aと、第2吐水口6b(
図1参照)とを備える。導水路6には、便器洗浄が行われる場合に、タンク装置10の排水口15から排出される洗浄水が流入する。そして、導水路6の洗浄水は、第1、第2吐水口6a,6bを介してボウル部3へ吐出され、旋回しながらボウル部3を洗浄する。
【0033】
このように、導水路6は、タンク装置10(正確には後述するタンク本体11)の排水口15から排出される洗浄水を便器2のボウル部3へ供給する流路であり、排水流路の一例である。なお、導水路6の吐水口の数は2つに限定されるものではなく、1つまたは3つ以上であってもよい。
【0034】
トラップ部5は、ボウル部3に接続される。詳しくは、
図2に示すように、トラップ部5は、入口部5aと、上昇管路5bと、下降管路5cとを備える。入口部5aは、ボウル部3の底部と連続するように設けられ、ボウル部3からの洗浄水をトラップ部5へ流入させる。上昇管路5bは、入口部5aから斜め上方へ向けて延びるように形成される。下降管路5cは、上昇管路5bから下方へ向けて延びるように形成される。
【0035】
また、下降管路5cの下端には、排水管20が接続される。従って、便器洗浄が行われる場合、ボウル部3の洗浄水は、トラップ部5の入口部5a、上昇管路5bおよび下降管路5cを介して排水管20へと排水される。
【0036】
トラップ部5は、上記のように構成されることで、所定量の洗浄水が溜まる形状とされる。すなわち、トラップ部5は、洗浄水が溜まって封水として機能することで、排水管20からの臭気等がボウル部3側へ逆流することを防止する。
【0037】
<2.タンク装置>
タンク装置10は、便器2の後方(Y軸負方向)上部に設置され、便器2に洗浄水を供給する。例えば、タンク装置10は、タンク本体11と、蓋部12とを備える。タンク本体11は、上面が開口された直方体状の容器であり、洗浄水を貯留する。タンク本体11の底面には、上記した排水口15が設けられる。
【0038】
なお、タンク本体11の内部には、
図2に模式的に示すように排水弁装置40など種々の装置等が配置されるが、これについては
図3を用いて後述する。また、
図1に示すタンク本体11の形状やタンク本体11の便器2に対する設置位置などは、あくまでも例示であって限定されるものではない。
【0039】
蓋部12は、タンク本体11の上面を全体的に覆うように配置され、タンク本体11の上部に着脱自在に取り付けられる。
【0040】
なお、
図1,2に示す水洗大便器1は、ボウル部3内の洗浄水の落差による流水作用で汚物を押し流す、所謂洗い落し式である。なお、水洗大便器1は、洗い落し式に限定されるものではなく、例えばサイホン作用を利用してボウル部3内の汚物を引き込んで排水する、所謂サイホン式であってもよい。また、
図1,2では、床置き式の水洗大便器1を示したが、これに限定されるものではなく、壁掛け式であってもよい。
【0041】
次に、タンク装置10の構成について
図3を参照して詳しく説明する。
図3は、
図1のIII-III線断面図である。
【0042】
図3に示すように、タンク装置10は、給水装置30と、排水弁装置40と、駆動ユニット50と、オーバーフロー管60とを備え、これらはタンク本体11内に配置されて収容される。
【0043】
給水装置30は、タンク本体11内へ洗浄水を供給する。例えば、給水装置30は、フロート31を備え、かかるフロート31の上下の変動に応じてタンク本体11内へ洗浄水を供給したり、供給を停止したりする。
【0044】
排水弁装置40は、排水弁41と、ワイヤ42とを備え、排水弁41を開閉するように構成される。具体的には、排水弁41は、排水口15に設けられるとともに、上下動可能に構成される。そして、排水弁41は、かかる上下動により排水口15を開閉する。ワイヤ42は、一端側が排水弁41に接続される一方、他端側が駆動ユニット50に接続される。
【0045】
駆動ユニット50は、タンク本体11の側方に設けられた操作レバー51が手動操作されると、図示しない歯車が回転してワイヤ42を巻き取る。これにより、排水弁41はワイヤ42に引っ張られて上昇し、排水口15が開放される。排水口15の開放により、タンク本体11内の洗浄水が便器2(
図1参照)へ排水される、すなわち、便器洗浄が行われる。
【0046】
なお、上記では、操作レバー51の手動操作によって便器洗浄が行われるが、これに限定されるものではない。すなわち、図示は省略するが、例えば、モータなどの電動駆動部を含む電動駆動ユニットを排水弁装置40に接続し、リモコン等から出力される便器洗浄の開始を示す信号に応じて排水弁装置40を動作させることで、便器洗浄が行われるようにしてもよい。
【0047】
オーバーフロー管60は、タンク本体11内において排水弁装置40の側方に設けられる、言い換えると、排水弁装置40に隣接して設けられる。また、オーバーフロー管60は、例えば、長尺の筒状に形成され、タンク本体11内に上下方向に沿って延設される。
【0048】
オーバーフロー管60は、上端側に上端開口部61aが形成される一方、下端側に下端開口部61bが形成される。上端開口部61aは、タンク本体11の内部空間Sに位置されて開放される。下端開口部61bは、排水口15の下流側に接続され、排水口15から続く導水路6と連通される。すなわち、オーバーフロー管60は、タンク本体11の内部空間Sと、タンク本体11から便器2(
図2参照)への洗浄水の排水流路である導水路6とを連通する。
【0049】
従って、オーバーフロー管60は、タンク本体11内において満水水位を超えた洗浄水を上端開口部61aへ溢水させ、下端開口部61b、導水路6を介して便器2のボウル部3(
図2参照)へ排出することができる。なお、上端開口部61aは、開口部の一例である。また、
図3に示すオーバーフロー管60の形状や配置される位置は、あくまでも例示であって限定されるものではない。
【0050】
ところで、上記したタンク装置10を備える水洗大便器1(
図2参照)にあっては、タンク装置10から便器2へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることが望ましい場合がある。
【0051】
すなわち、例えば、水洗大便器1に接続される排水管20の状態は施工場所ごとに異なることから、排水管20の状態によっては、洗浄水の排水時に、意図しないサイホン現象(自己サイホン現象)が発生することがある。かかるサイホン現象が発生すると、例えば、便器洗浄後にトラップ部5の封水を形成するための洗浄水(いわゆるリフィール水)が排水管20に引き込まれ、封水の量が不足するおそれがある。
【0052】
そのため、タンク装置10からの洗浄水の瞬間流量を低下させることができれば、洗浄水が便器2へ供給される時間を長くすることが可能になり、よって意図しないサイホン現象が発生した場合であっても、サイホン現象の発生後にトラップ部5へ洗浄水を供給して封水の量を確保することができる。
【0053】
また、洗浄水の瞬間流量を低下させることが望ましい場合は、上記に限られない。例えば、タンク本体11の高さが比較的高い場合、洗浄水のヘッド圧が大きいため、洗浄時の洗浄水の水勢が強くなって、洗浄水が便器2の外へ飛散するおそれがある。そのため、タンク装置10からの洗浄水の瞬間流量を低下させることができれば、洗浄時の洗浄水の水勢が弱まり、洗浄水が便器2の外へ飛散することを抑制することができる。
【0054】
以上から、本実施形態に係る水洗大便器1にあっては、タンク装置10から便器2へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができるような構成とした。
【0055】
<3.フロート弁および規制部>
以下、かかる構成について詳しく説明すると、タンク装置10は、フロート弁70と、規制部80(
図3で見えず。後述する
図4等参照)とを備える。フロート弁70は、オーバーフロー管60の上端側に設けられる。
【0056】
そして、フロート弁70は、タンク本体11内の水位WLに応じて上下動して上端開口部61aを開閉する。例えば、フロート弁70は、タンク本体11内の水位WLが、
図3に示すような便器洗浄が行われる前の水位であるとき、上端開口部61aを開放するように構成される。そして、本実施形態にあっては、便器洗浄が開始されて、タンク本体11内の水位WLが低下するときに、フロート弁70が下降して上端開口部61aを閉止することで、タンク装置10から便器2へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる。
【0057】
上記したフロート弁70について、
図4以降を参照して詳説する。
図4は、オーバーフロー管60に設けられたフロート弁70の斜視図である。
図4に示すように、フロート弁70は、フロート部71と、弁体72と、連結部73と、調整部74とを備える。なお、フロート弁70は、タンク本体11に貯留された洗浄水から受ける浮力によって浮くことができる材料から製作される。かかる材料としては、例えば樹脂を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0058】
図5は、上記したフロート弁70の平面図である。また、
図6はフロート弁70の底面図、
図7は
図5のVII -VII線断面図である。なお、
図5,6では、理解の便宜のため、オーバーフロー管60を二点鎖線で示した。
【0059】
図4~7に示すように、フロート弁70のフロート部71は、例えば、円筒状に形成され、内部の中空部分にオーバーフロー管60の上端部分が挿通される。また、フロート部71は、オーバーフロー管60に上下動可能に取り付けられる。上記のように構成されたフロート弁70が、タンク本体11に貯留された洗浄水からの浮力を受ける部位となり、タンク本体11内の水位WLに応じて上下動する。
【0060】
ここで、オーバーフロー管60は、上記したように排水弁装置40(
図3参照)に隣接して配置されることから、オーバーフロー管60に設けられるフロート部71を含むフロート弁70も、
図5に示すように、排水弁装置40に隣接して配置されることとなる。なお、
図5では、排水弁装置40を二点鎖線で模式的に示した。
【0061】
そこで、本実施形態に係るフロート部71にあっては、隣接して配置される排水弁装置40に対して干渉しないような形状に形成される。例えば、フロート部71は、排水弁41と対向する部位71aが排水弁装置40の外形に沿った形状に形成される。
【0062】
具体的には、例えば、排水弁装置40の外形が円柱状である場合、フロート部71は、排水弁41と対向する部位71aが、平面視において排水弁装置40の外形に沿った凹形状に形成される。詳しくは、フロート部71は、部位71aが、平面視において中心方向(径方向)へ凹むように湾曲する凹形状に形成される。
【0063】
これにより、本実施形態に係るフロート部71にあっては、例えば、タンク本体11内の水位WLに応じて上下動する際に、排水弁装置40に接触しにくく、よって排水弁装置40に干渉することを抑制することができる。
【0064】
また、フロート部71が上記のように構成されることで、フロート弁70と排水弁装置40とをより近接させて配置することが可能となり、結果としてタンク本体11内におけるフロート弁70および排水弁装置40の占有スペースの小型化を図ることができる。
【0065】
また、フロート部71は、平面視において対称性を有する形状、例えば、左右対称または略左右対称となる形状に形成される。具体的には、フロート部71は、排水弁装置40と対向する部位71aとは反対側の部位71bが排水弁装置40の外形に沿った形状(例えば凹形状)に形成される。これにより、フロート部71を含むフロート弁70は、スムーズに上下動することができる。
【0066】
すなわち、例えば仮に、フロート部71において、一方の部位71aのみが凹形状に形成されると、重心が偏ることとなる。そのため、フロート部71を含むフロート弁70は、上下動する際に傾き易く、スムーズに上下動することができないおそれがある。
【0067】
他方、本実施形態に係るフロート部71は、上記したように、一方の部位71aとは反対側の部位71bが、一方の部位71aと同様な形状、すなわち、排水弁装置40の外形に沿った形状に形成される。これにより、本実施形態に係るフロート部71は、重心が偏らず、よってフロート部71を含むフロート弁70は、上下動する際に傾きにくくなって、スムーズに上下動することができる。
【0068】
なお、
図5等に示すフロート部71の形状は、あくまでも例示であって限定されるものではない。すなわち、上記においてフロート部71は、部位71aや部位71bが平面視凹形状に形成されるようにしたが、これに限られず、例えば、排水弁装置40の外形に応じて、平面視において直線状や凸形状などその他の形状に形成されてもよい。
【0069】
弁体72は、
図4や
図7等に示すように、例えば薄板の円盤状に形成され、オーバーフロー管60の上端開口部61aの上方に配置される。また、弁体72は、連結部73によってフロート部71に連結される。連結部73は、例えば、柱状に形成され、弁体72の周縁とフロート部71とを所定の間隔ごとに連結する。従って、弁体72は、フロート部71に対し、連結部73の高さ分だけ離間して位置されるとともに、フロート部71との間に間隙Aが形成されることとなる。
【0070】
そして、弁体72は、例えば、便器洗浄時にタンク本体11内の水位WLが低下すると、フロート部71とともに下降し、上端開口部61aに当接することで、上端開口部61aを閉止することができる、言い換えると、上端開口部61aを塞ぐことができる。
【0071】
また、
図7に示すように、弁体72は、下面72aにシール部材75が設けられ、弁体72がオーバーフロー管60上端開口部61aに当接した状態にあるとき、上端開口部61aを気密に閉止してもよい。例えば、シール部材75は、上端開口部61aを覆うことができる円盤状に形成されるとともに、ゴムなどの弾力性を有する材料により形成されるが、これに限定されるものではない。
【0072】
上記した弁体72による上端開口部61aの閉止によって、便器洗浄時にオーバーフロー管60には空気が流入しにくくなって、オーバーフロー管60内に負圧が生じて、タンク装置10から便器2へ供給される洗浄水の瞬間流量が低下するが、これについては
図8A以降を参照して後述する。
【0073】
また、弁体72には、
図5~7に示すように、孔72bが穿設される。孔72bは、平面視円形状に形成され、弁体72の中央付近に設けられる。なお、弁体72における孔72bの形状や位置は、任意に変更することができる。以下では、かかる孔72bを「弁体孔72b」と記載する場合がある。
【0074】
また、シール部材75において、弁体孔72bに対応する位置には、弁体孔72bと同様な大きさの孔75aが穿設される。従って、
図7に示すように、弁体72において、上面72cより上方の空間と下面72aより下方の空間とは、弁体孔72bおよびシール部材75の孔75aを介して連通される。
【0075】
そして、弁体72の上面72c側には、調整部74が設けられる。
図5に示すように、調整部74は、弁体72の上面72cにおいて、弁体孔72bを覆うような位置に設けられ、弁体孔72bの開口面積を調整する。
【0076】
例えば、調整部74は、プレート部74aと、軸部74bと、調整孔74cと、操作部74dとを備える。プレート部74aは、例えば薄板の扇状または略三角形状に形成される。なお、プレート部74aは、任意の形状に変更することができる。
【0077】
軸部74bは、弁体72の上面72cから上方へ突出するように設けられ、プレート部74aが回転可能に取り付けられる。従って、プレート部74aは、軸部74bを中心に回転可能とされる(
図5の矢印B1参照)。
【0078】
調整孔74cは、プレート部74aに穿設される孔である。調整孔74cは、複数個あり、例えば、第1調整孔74c1、第2調整孔74c2、第3調整孔74c3、および、第4調整孔74c4を含む。なお、
図5に示す例では、調整孔74cの個数を4個としたが、これに限定されるものではなく、例えば、2個や3個、または5個以上であってもよい。
【0079】
第1~第4調整孔74c1~74c4は、平面視における開口面積が互いに異なるように設定される。具体的には、第1調整孔74c1、第2調整孔74c2、第3調整孔74c3、第4調整孔74c4の順で、開口面積が大きくなるように設定される。
【0080】
また、第1~第4調整孔74c1~74c4はそれぞれ、プレート部74aが回転したときに、弁体孔72bに重なることができるような位置に形成される。なお、
図5に示す例では、第1調整孔74c1と弁体孔72bとが重なった状態を示している。
【0081】
操作部74dは、プレート部74aを回転させるときに、操作者によって操作される凸状の摘みである。すなわち、操作者は、操作部74dを摘まんでプレート部74aを回転させることで、弁体孔72bに重なる調整孔74cを、第1~第4調整孔74c1~74c4の間で変更することができる。なお、操作者は、例えば、水洗大便器1を施工場所に取り付ける施工者であってもよいし、水洗大便器1を利用する利用者であってもよい。
【0082】
調整部74は、弁体孔72bに重なる調整孔74cを変更することで、弁体孔72bの開口面積を調整する。具体的に弁体孔72bは、例えば、調整部74の第1調整孔74c1と重なるときに開口面積が比較的小さくなり、第4調整孔74c4と重なるときに開口面積が比較的大きくなる。
【0083】
従って、上記のように構成された調整部74にあっては、例えば、弁体72によって閉止されたオーバーフロー管60の上端開口部61aにおいて、タンク本体11の内部空間S(
図3参照)に開放される開放面積を調整することが可能となる。
【0084】
すなわち、フロート弁70は、上記したように、便器洗浄時にタンク本体11内の水位WLの低下に伴って下降してオーバーフロー管60の上端開口部61aを弁体72によって閉止する。このとき、タンク本体11の内部空間Sとオーバーフロー管60内の空間とは、弁体72の弁体孔72bおよび調整部74の調整孔74cを介して連通されていることから、調整孔74cを変更することで、上端開口部61aにおいて、タンク本体11の内部空間Sに開放される開放面積を調整することが可能となる。
【0085】
なお、上端開口部61aにおける開放面積が調整されると、便器洗浄時に弁体72の弁体孔72bを介してオーバーフロー管60内へ流入する空気の量を調整でき、結果としてタンク装置10から便器2へ供給される洗浄水の瞬間流量を調整することができるが、これについては後述する。
【0086】
次に、規制部80について
図7を参照して説明する。規制部80は、フロート弁70の上方への移動を規制する部材であり、所謂ストッパとして機能する部材である。
【0087】
例えば、規制部80は、円筒部81と、鍔部82とを備える。円筒部81は、円筒状に形成され、オーバーフロー管60の上端付近に嵌合されて固定される。具体的には、円筒部81は、オーバーフロー管60と、オーバーフロー管60に挿通されるフロート弁70のフロート部71との間に介挿されるようにして固定される。
【0088】
鍔部82は、例えば環状に形成される部位である。例えば、鍔部82は、円筒部81の上端から径方向において外方へ向けて延在するように形成される。また、鍔部82は、オーバーフロー管60の上端開口部61aと同じ高さまたは略同じ高さに位置されるが、これに限られない。そして、鍔部82は、外径d1がフロート部71の内径d2より大きくなるように設定される(d1>d2)。
【0089】
規制部80は、上記のように構成されることで、タンク本体11内の水位WLが所定水位まで上昇したとき、
図7に示すようにフロート部71の上端が鍔部82に当接し、オーバーフロー管60に対するフロート弁70の上方への移動を規制する。
【0090】
なお、所定水位とは、例えば、フロート部71の上端がオーバーフロー管60の上端開口部61aと同じ高さまたは略同じ高さとなるまで、フロート弁70を上昇させることができる水位であるが、これに限定されるものではない。
【0091】
本実施形態にあっては、上記した規制部80により、フロート弁70がオーバーフロー管60の機能を阻害することを抑制することができる。すなわち、規制部80により、例えば、フロート部71がオーバーフロー管60の上端開口部61aより上方へ移動しないようにすることができるため、満水水位を超えた洗浄水のオーバーフロー管60への流入をフロート部71等が阻害してしまうことを抑制することができる。
【0092】
また、本実施形態にあっては、規制部80により、タンク本体11内の水位WLが上昇したときにフロート弁70の上方への移動が規制されることから、フロート弁70がオーバーフロー管60の上端側から脱落してしまうことを防止することもできる。
【0093】
なお、上記では、規制部80の円筒部81は、オーバーフロー管60の外周側に位置されるようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、オーバーフロー管60の内周側に位置されるようにしてもよい。
【0094】
<4.フロート弁等の動作>
次に、便器洗浄時におけるフロート弁70や排水弁41の動作、および、タンク装置10から便器2へ供給される洗浄水の状態などについて、
図8A~8Fを参照して説明する。
図8A~8Fは、便器洗浄時におけるフロート弁70等の動作を説明する図である。
【0095】
先ず、
図8Aは、便器洗浄が開始される前のフロート弁70や排水弁41の状態を示している。具体的には、
図8Aに示すように、タンク本体11の排水口15は、排水弁装置40の排水弁41によって閉止される。また、便器洗浄の開始前において、タンク本体11の洗浄水Wの水位WLは、例えば、オーバーフロー管60の上端付近とされる。これにより、フロート弁70のフロート部71は、洗浄水Wから浮力を受けてオーバーフロー管60に対して上方に位置され、よって弁体72はオーバーフロー管60の上端開口部61aから離間した位置とされる。すなわち、オーバーフロー管60の上端開口部61aは、タンク本体11の内部空間Sに対して開放された状態である。
【0096】
そして、例えば操作レバー51(
図3参照)が操作されて便器洗浄が開始されると、フロート弁70や排水弁41等は、
図8Bに示すような状態となる。具体的には、排水弁41は、矢印C1で示すように、上方へ引き上げられ、排水口15を開放する。排水口15の開放により、タンク本体11に貯留されていた洗浄水Wは排水口15から排出され、便器2の導水路6へ流れ込む(矢印D1参照)。そして、上記したように、洗浄水Wは導水路6からボウル部3(
図2参照)へ流れ、便器洗浄が行われる。
【0097】
また、排水口15の下流側には、オーバーフロー管60の下端開口部61bが接続されることから、排水口15から排出された洗浄水Wは、下端開口部61bを介してオーバーフロー管60へも流れ込むこととなる(矢印D2参照)。なお、
図8Bでは、オーバーフロー管60へ流れ込んだ洗浄水を符号W1で示した。
【0098】
また、便器洗浄が開始されると、タンク本体11内の水位WLが低下することから、フロート弁70も、矢印C2で示すように、徐々に下降していくこととなる。
【0099】
そして、
図8Cに示すように、タンク本体11内の水位WLがさらに低下すると、フロート弁70も下降し続け(矢印C3参照)、その後弁体72がオーバーフロー管60の上端開口部61aに当接し、上端開口部61aを閉止する。なお、弁体72がオーバーフロー管60の上端開口部61aを閉止するタイミングでは、排水弁41はまだ排水口15を開放した状態であり、徐々に下降を続けているものとする(矢印C4参照)。
【0100】
上端開口部61aが弁体72によって閉止されると、上端開口部61aが開放されている場合に比べて、オーバーフロー管60には空気が流入しにくくなることから、オーバーフロー管60内に負圧が生じる。オーバーフロー管60内に負圧が生じると、オーバーフロー管60内の洗浄水W1が導水路6へ流れ込みにくくなり、結果としてタンク本体11から導水路6へ供給される洗浄水の瞬間流量が低下する、言い換えると、タンク装置10から便器2へ供給される洗浄水の瞬間流量が低下することとなる(矢印D3参照)。
【0101】
また、洗浄水Wの瞬間流量の低下の度合いは、上記した調整部74によって調整することができる。すなわち、調整部74は、上記したように、弁体72によって閉止されたオーバーフロー管60の上端開口部61aにおいて、タンク本体11の内部空間Sに開放される開放面積を調整する。
【0102】
従って、例えば、調整部74によって上端開口部61aの開放面積が比較的小さくなるように調整されると、オーバーフロー管60内へ流入する空気(矢印E1参照)の量も減少する。これにより、オーバーフロー管60内に比較的高い負圧が発生し、洗浄水Wの瞬間流量を比較的大きく低下させることができる。
【0103】
逆に、例えば、調整部74によって上端開口部61aの開放面積が比較的大きくなるように調整されると、オーバーフロー管60内へ流入する空気の量も増加する。これにより、オーバーフロー管60内に比較的低い負圧が発生し、洗浄水Wの瞬間流量の低下は比較的小さいものとなる。
【0104】
このように、本実施形態に係るフロート弁70にあっては、調整部74を備えることで、洗浄水Wの瞬間流量の低下の度合いを調整することができる。
【0105】
続いて、
図8Dに示すように、排水弁41は、さらに下降し続け(矢印C5参照)、その後排水口15を閉止する。これにより、タンク本体11から排水口15を介した洗浄水Wの排出が完了する。このとき、オーバーフロー管60内に生じた負圧により、オーバーフロー管60内には洗浄水W1が残留した状態となり、かかる洗浄水W1が、排水口15を介した洗浄水Wの排出が完了した後に、導水路6へ流れ込むこととなる(矢印D4参照)。すなわち、洗浄水W,W1が導水路6へ流れ込む時間が、オーバーフロー管60内に負圧が生じない場合に比べて長くなる。
【0106】
このように、本実施形態にあっては、フロート弁70を用いてオーバーフロー管60内に負圧を生じさせることで、洗浄水Wの瞬間流量を低下させるとともに、洗浄水W,W1が便器2へ供給される時間を長くすることが可能になる。これにより、例えば、上記したような意図しないサイホン現象が発生した場合であっても、サイホン現象の発生後にトラップ部5(
図3参照)へ洗浄水W1を供給して封水の量を確保することができる。
【0107】
そして、
図8Eに示すように、オーバーフロー管60内に残留した洗浄水W1は、導水路6へ流れ込み続け(矢印D5参照)、オーバーフロー管60内の洗浄水W1の導水路6への排出が完了する。
【0108】
また、便器洗浄によってタンク本体11の水位WLが低下すると、
図8Fに示すように、タンク本体11には、給水装置30(
図3参照)から洗浄水Wが供給され、水位WLが上昇する。そして、水位WLの上昇に伴い、フロート弁70は、矢印C6で示すように、上昇し、オーバーフロー管60の上端開口部61aを開放し、その後、
図8Aに示すような便器洗浄の開始前の状態へ戻る。
【0109】
上述してきたように、実施形態に係る水洗大便器1は、便器(便器本体)2と、タンク装置10とを備える。便器2は、汚物を受けるボウル部3、および、ボウル部3に接続されるトラップ部5を備える。タンク装置10は、便器2に洗浄水を供給する。また、タンク装置10は、タンク本体11と、オーバーフロー管60と、フロート弁70とを備える。
【0110】
タンク本体11は、洗浄水を貯留する。オーバーフロー管60は、タンク本体11内に上下方向に沿って延設されるとともに、タンク本体11の内部空間Sとタンク本体11から便器2への洗浄水の導水路6(排水流路の一例)とを連通し、タンク本体11内において満水水位を超えた洗浄水を上端側に形成された上端開口部61a(開口部の一例)へ溢水させて導水路6から便器2へ排出する。フロート弁70は、オーバーフロー管60の上端側に設けられ、タンク本体11内の水位に応じて上下動して上端開口部61aを開閉する。これにより、タンク装置10から便器2へ供給される洗浄水の瞬間流量を低下させることができる。
【0111】
なお、上記した実施形態に係る調整部74にあっては、開口面積が互いに異なる第1~第4調整孔74c1~74c4を弁体72の弁体孔72bに重ねることで、オーバーフロー管60の上端開口部61aの開放面積を調整するようにしたが、これはあくまでも例示であって限定されるものではない。すなわち、例えば、調整部74は、弁体孔72bに重なる調整孔74cの数を変更するなどその他の構成を用いて、オーバーフロー管60の上端開口部61aの開放面積を調整するようにしてもよい。
【0112】
また、上記した実施形態では、フロート弁70が調整部74を備えるようにしたが、これに限られず、調整部74を除去する構成であってもよい。
【0113】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0114】
1 水洗大便器
2 便器
3 ボウル部
5 トラップ部
6 導水路
10 タンク装置
11 タンク本体
40 排水弁装置
41 排水弁
60 オーバーフロー管
61a 上端開口部
70 フロート弁
80 規制部
74 調整部