(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】補助電源装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20221206BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20221206BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20221206BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20221206BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20221206BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20221206BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
H02P27/06
B62D5/04
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2018163091
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信悟
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文彦
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-212844(JP,A)
【文献】特開2009-161120(JP,A)
【文献】特開2012-227986(JP,A)
【文献】国際公開第2009/118963(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
B62D 5/04
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 117/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源に対し並列に接続されて、回転電機に接続されたインバータに前記主電源の代わりに直流電流を供給する補助電源と、前記主電源と前記インバータとの間に設けられた第1切替回路、及び前記補助電源と前記インバータとの間に設けられた第2切替回路を備える切替部と、前記切替部を制御することにより前記主電源と前記補助電源の前記インバータへの直流電流の供給を切替する制御部とを有する補助電源装置において、
前記第1切替回路は、第1切替スイッチング素子と並列回路を構成するとともに前記主電源に対して順方向接続された第1ダイオードを備え、
前記第2切替回路は、第2切替スイッチング素子と並列回路を構成するとともに前記補助電源に対して逆方向接続された第2ダイオードを備え、
前記制御部は、前記回転電機により作動する作動部材の状態を示す状態パラメータが前記回転電機の動作をさまたげる反力が作用することで当該回転電機が回生電流を出力する前の動作状態ではない通常動作状態の場合、前記第1切替スイッチング素子をオン制御し、前記第2切替スイッチング素子をオフ制御し、
前記状態パラメータが前記回転電機の動作をさまたげる反力が作用することで当該回転電機が回生電流を出力する前の前
駆動作状態の場合、前記第1切替スイッチング素子及び前記第2切替スイッチング素子をオフ制御する補助電源装置。
【請求項2】
前記第1切替回路は、前記主電源と前記第1切替スイッチング素子としての第2スイッチング素子との間で、当該第2スイッチング素子と直列接続された第1スイッチング素子を含み、
前記第2切替回路は、前記インバータと前記第2切替スイッチング素子としての第4スイッチング素子との間で当該第4スイッチング素子と直列接続された第3スイッチング素子を含み、
前記制御部は、
前記状態パラメータが前記通常動作状態の場合、
前記第1切替回路の前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子をともにオン制御し、前記第2切替回路の前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子をともにオフ制御し、
前記状態パラメータが前記前
駆動作状態の場合は、
前記第1スイッチング素子をオン制御、及び前記第2スイッチング素子をオフ制御し、前記第3スイッチング素子をオン制御、及び前記第4スイッチング素子をオフ制御する請求項1に記載の補助電源装置。
【請求項3】
前記第1スイッチング素子及び
前記第2スイッチング素子は相互に逆直列接続されたnチャンネルMOSFETであり、
前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子は相互に逆直列接続されたnチャンネルMOSFETである請求項2に記載の補助電源装置。
【請求項4】
前記第1切替回路が備える第1ダイオードは、前記第2スイッチング素子の寄生ダイオードであり、
前記第2切替回路が備える第2ダイオードは、前記第4スイッチング素子の寄生ダイオードである請求項3に記載の補助電源装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の補助電源装置を備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記回転電機は、操舵部材に加えられた操舵トルクに基づいて駆動されるモータである電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記状態パラメータは、少なくとも操舵速度及び操舵角である請求項5に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記状態パラメータが、操舵速度及び前記モータのq軸電流である請求項5に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助電源装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される電動装置として、運転者の操舵を補助する電動パワーステアリング装置(以下、EPSという)がある。EPSは、操舵補助用のモータを備えている。そして、EPSは、ステアリングホイール等の操舵部材の回転操作に応じて操舵補助用のモータを駆動して、同モータが発生した動力を舵取機構に加えることで操舵を補助している(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、EPSでは、操舵系の最大舵角(ラックエンド)の近傍で大きなアシストトルクがモータにより付加されると、操舵系が最大舵角に至った時点(以下、端当てという)で大きな衝撃が生じることによって打音が発生し、運転者が不快に感じる虞がある。
【0004】
このような端当て時に大きな衝撃が生じることがないように、特許文献1は、ラックエンド近傍ではモータに対する電流指令値を絞ることにより、端当て時の勢いを減衰するようにしている。
【0005】
また、大型車の場合、車両重量増加により停車時等のステアリング操作中のステアリング軸力が大きくなることから、EPS用の主電源の他に補助電源を備えた補助電源システムを有したものや、或いは、EPS用の補機バッテリの他にバックアップ機能を搭載した補助電源システムを備えたEPSシステムもある(
図5(a)、
図5(b)参照)。
【0006】
バックアップ機能を備えた上記補助電源システムを備えたEPSシステムでは、EPS用モータ400に対して端当て等による反力が作用していない場合は、
図5(a)に示すように、主電源100、補助電源システム200、EPS用インバータ300を介してEPS用モータ400に電流が供給される。
【0007】
また、EPS用モータ400に対して端当て等による反力が作用したときに発生する回生エネルギとしての回生電流は、
図5(b)に示すようにEPS用モータ400、EPS用インバータ300、及び補助電源システム200を介して主電源100に流すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/051884A1パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、主電源100は、例えば鉛蓄電池から構成されることが多く、前記回生電流が主電源100に流れ込みされたときには、鉛蓄電池の劣化を早めてしまう問題がある。特に、運転者が操舵部材を端当てが起こるまで操作した場合、その時の回生エネルギ、すなわち回生電流が大きいため、システムの製品性を向上するためにこのような課題を解決する必要がある。
【0010】
本発明の目的は、モータの回生電流を主電源に流出させることがなく、主電源の劣化を抑制できる補助電源装置及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、本発明の補助電源装置は、主電源に対し並列に接続されて、回転電機に接続されたインバータに前記主電源の代わりに直流電流を供給する補助電源と、前記主電源と前記インバータとの間に設けられた第1切替回路、及び前記補助電源と前記インバータとの間に設けられた第2切替回路を備える切替部と、前記切替部を制御することにより前記主電源と前記補助電源の前記インバータへの直流電流の供給を切替する制御部とを有する補助電源装置において、前記第1切替回路は、第1切替スイッチング素子と並列回路を構成するとともに前記主電源に対して順方向接続された第1ダイオードを備え、前記第2切替回路は、第2切替スイッチング素子と並列回路を構成するとともに前記補助電源に対して逆方向接続された第2ダイオードを備え、前記制御部は、前記回転電機により作動する作動部材の状態を示す状態パラメータが前記回転電機の動作をさまたげる反力が作用することで当該回転電機が回生電流を出力する前の動作状態ではない通常動作状態の場合、前記第1切替スイッチング素子をオン制御し、前記第2切替スイッチング素子をオフ制御し、前記状態パラメータが前記回転電機の動作をさまたげる反力が作用することで当該回転電機が回生電流を出力する前の前駆動作状態の場合、前記第1切替スイッチング素子及び前記第2切替スイッチング素子をオフ制御するものである。
【0012】
上記の構成により、制御部は、前記回転電機により作動する作動部材の状態を示す状態パラメータが前記回転電機の動作をさまたげる反力が作用することで当該回転電機が回生電流を出力する前の動作状態ではない通常動作状態の場合、前記第1切替スイッチング素子をオン制御し、前記第2切替スイッチング素子をオフ制御する。この制御により、主電源から前記第1切替回路の前記第1切替スイッチング素子を介してインバータに直流電流が供給される。
【0013】
また、状態パラメータが前記回転電機の動作をさまたげる反力が作用することで当該回転電機が回生電流を出力する前の前駆動作状態の場合、前記第1切替スイッチング素子及び前記第2切替スイッチング素子をオフ制御する。この制御により、状態パラメータが前記前駆動作状態の場合であっても、主電源から前記第1切替回路の前記第1ダイオードを介してインバータに直流電流が供給される。
【0014】
この後、前記回転電機から回生電流が発生するとインバータを介して前記回生電流は、前記第2切替回路の前記第2ダイオードを介して補助電源に流れる。なお、前記回生電流はオフ制御された前記第1切替スイッチング素子及び主電源に対して順方向接続された前記第1ダイオードにより阻止されて、前記第1切替回路を介して主電源に流れることはない。この結果、前記回転電機の回生電流を鉛蓄電池からなる主電源に流出させることがなく、主電源である鉛蓄電池の劣化を抑制する。
【0015】
また、前記第1切替回路は、前記主電源と前記第1切替スイッチング素子としての前記第2スイッチング素子との間で、当該第2スイッチング素子と直列接続された前記第1スイッチング素子を含み、前記第2切替回路は、前記インバータと前記第2切替スイッチング素子としての第4スイッチング素子との間で当該第4スイッチング素子と直列接続された第3スイッチング素子を含み、前記制御部は、前記状態パラメータが前記通常動作状態の場合、前記第1切替回路の前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子をともにオン制御し、前記第2切替回路の前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子をともにオフ制御し、前記状態パラメータが前記前駆動作状態の場合は、前記第1スイッチング素子をオン制御、及び前記第2スイッチング素子をオフ制御し、前記第3スイッチング素子をオン制御、及び前記第4スイッチング素子をオフ制御することが好ましい。
【0016】
上記の構成により、状態パラメータが前記通常動作状態の場合、制御部は、前記第1切替回路の前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子をともにオン制御し、前記第2切替回路の前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子をともにオフ制御する。この制御により、主電源から第前記1切替回路の前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子を介してインバータに直流電流が供給される。
【0017】
また、状態パラメータが前記前駆動作状態の場合は、制御部は、前記第1スイッチング素子をオン制御、及び前記第2スイッチング素子をオフ制御し、前記第3スイッチング素子をオン制御、及び前記第4スイッチング素子をオフ制御する。
【0018】
この制御により、状態パラメータが前記前駆動作状態の場合であっても、主電源から前記第1切替回路の前記第1スイッチング素子及び前記第1ダイオードを介してインバータに直流電流が供給される。
【0019】
また、状態パラメータが前記前駆動作状態の場合、制御部は、前記第3スイッチング素子をオン制御、及び前記第4スイッチング素子をオフ制御する。
【0020】
この後、回転電機から回生電流が発生するとインバータを介して前記回生電流は、第2切替回路の第3スイッチング素子及び第2ダイオードを介して補助電源に流れる。
なお、回生電流はオフ制御された第1切替スイッチング素子及び主電源に対して順方向接続された第1ダイオードにより阻止されて、第1切替回路を介して主電源に流れることはない。この結果、回転電機の回生電流を主電源に流出させることがなく、主電源の劣化を抑制する。
【0021】
また、前記第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子は相互に逆直列接続されたnチャンネルMOSFETであり、前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子は相互に逆直列接続されたnチャンネルMOSFETであることが好ましい。
【0022】
上記の構成により、上記の作用をnチャンネルMOSFETからなる第1~第4スイッチング素子により、容易に実現できる。
また、前記第1切替回路が備える第1ダイオードは、前記第2スイッチング素子の寄生ダイオードであり、前記第2切替回路が備える第2ダイオードは、前記第4スイッチング素子の寄生ダイオードであることが好ましい。
【0023】
上記構成により、第1ダイオード及び第2ダイオードを寄生ダイオードとするため、半導体スイッチング素子である第2、第4スイッチング素子を製造する工程内で合わせて作り込みができる。
【0024】
また、上記補助電源装置を備えた電動パワーステアリング装置において、前記回転電機は、操舵部材に加えられた操舵トルクに基づいて駆動されるモータとしてもよい。
上記の構成により、操舵部材の切り込み限界付近に達した際、上記した作用を容易に実現できる電動パワーステアリング装置となる。
【0025】
また、前記状態パラメータは、少なくとも操舵速度及び操舵角としてもよい。
上記の構成により、少なくとも操舵速度及び操舵角(状態パラメータ)が前記回転電機の動作をさまたげる反力が作用することで当該回転電機が回生電流を出力する前の前駆動作状態の場合、すなわち、操舵部材の切り込み限界付近に達した端当ての前記前駆動作状態の場合、前記回転電機の回生電流を主電源に流出させることがないように切替部を切替制御することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、モータの回生電流を主電源に流出させることがなく、主電源の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】一実施形態の電動パワーステアリング装置の構成を模式的に示す略図。
【
図2】同電動パワーステアリング装置の電気回路の構成を示す回路図。
【
図3】同電動パワーステアリング装置の電気回路において、端当ての前駆動作状態のときにインバータからの補助電源への回生電流の流れを示す回路図。
【
図5】(a)は、補助電源システムを備えるEPSシステムの通常動作時の電流経路図、(b)は補助電源システムを備えるEPSシステムの回生エネルギ発生時の電流経路図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、
図1~
図4を参照して、本発明を電動パワーステアリング装置10に具体化した一実施形態を説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(以下、EPS10と記載する)は、一端にステアリングホイール11が固定され、他端にピニオンギヤ12が固定されたステアリングシャフト13を備えている。ステアリングホイール11は、操舵部材に相当する。ピニオンギヤ12は、ラックシャフト14に形成されたラックギヤ15に噛み合わされている。これらピニオンギヤ12及びラックギヤ15は、ステアリングシャフト13の回転運動をラックシャフト14の長手方向の直線運動に変換するラックアンドピニオン機構を構成している。なお、電動パワーステアリング装置10が車両に組付けられた際には、ラックシャフト14はその長手方向が車幅方向となるように車体に取付けられ、さらに同ラックシャフト14の両端は、左右の転舵輪16にタイロッド17を介してそれぞれ接続されている。ラックシャフト14は作動部材に相当する。
【0029】
ステアリングシャフト13には、ステアリングホイール11の操作によりステアリングシャフト13に加えられた操舵トルクTRを計測するためのトルクセンサ18が装着されている。本実施形態では、トルクセンサ18として、ステアリングシャフト13の一部を構成するトーションバーの捩じり量を検出して、その捩じり量に基づいて操舵トルクTRを計測する構成のセンサが採用されている。
【0030】
ステアリングシャフト13において、前記トーションバーに連結されたステアリングホイール11側の部位の周囲には、操舵角センサ19が設けられている。操舵角センサ19は、ステアリングホイール11の回転角(前記トーションバーに連結されたステアリングホイール11側の部位の回転角)である操舵角θを検出する。
【0031】
操舵角センサ19は、ステアリングホイール11の中立位置(基準位置)からのステアリングホイール11の正逆両方向の回転量(回転角)を検出するものであり、中立位置から右方向への回転量を例えば正の値として出力し、中立位置(操舵角θ=0)から左方向への回転量を例えば負の値として出力する。なお、正負の付し方は逆であってもよい。
【0032】
また、ステアリングシャフト13には、操舵補助用のモータ(以下、アシストモータ20と記載する)が、同アシストモータ20の回転を減速してステアリングシャフト13に伝達する減速機21を介して連結されている。本実施形態では、アシストモータ20として、3相ブラシレスモータが採用されている。また、本実施形態では、ウォームギヤ機構が減速機21として採用されている。アシストモータ20は、回転電機に相当する。
【0033】
さらに、電動パワーステアリング装置10は、インバータ22、主電源23、バックアップ用の補助電源24、切替部25及び電子制御ユニット26を備えている。主電源23は、鉛蓄電池である。補助電源24は、リチウムイオンキャパシタである。インバータ22は、主電源23または補助電源24から出力された直流電流を3相の交流に変換してアシストモータ20の各相に出力する。切替部25は、主電源23の代わりにバックアップ用の補助電源24を使用する場合、及び後述するインバータ22から補助電源24に回生電流を流す場合、電子制御ユニット26の切替指令により、インバータ22に対する主電源23と補助電源24との接続を切替える。
【0034】
また、電子制御ユニット26は、電動パワーステアリング装置10の制御に係る演算処理を実行する演算処理回路27と、制御用のプログラムやデータが格納されたメモリ28を備えている。電子制御ユニット26には、前記トルクセンサ18及び車両の走行速度VSを検出する車速センサ29が接続されている。
【0035】
電子制御ユニット26は、電動パワーステアリング装置10において、アシストモータ20により付与された操舵補助力のアシスト制御を行っている。操舵補助力のアシスト制御に際して、電子制御ユニット26は、まず、操舵トルクTR及び走行速度VSに基づき、操舵補助力の目標値である目標補助力を決定するそして、電子制御ユニット26は目標補助力分の操舵補助力を発生すべく、インバータ22を制御する。
【0036】
前記補助電源24、切替部25及び電子制御ユニット26により、補助電源装置30が構成されている。電子制御ユニット26は制御部に相当する。
補助電源装置30の切替部25について説明する。
【0037】
図2に示すように、切替部25は、主電源23とインバータ22の入力端子間に接続された第1切替回路31と、前記補助電源24と、インバータ22の入力端子間に接続された第2切替回路32とを備えている。すなわち、前記補助電源24は、主電源23とは並列接続されている。
【0038】
第1切替回路31は、第1スイッチング素子FET1と第2スイッチング素子FET2とが、互いのソース電極同士を接続して逆直列に接続されている。具体的には、第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2は、エンハンスメント型(ノーマリオフ型)のnチャンネルMOSFETが用いられている。なお、各スイッチング素子FET1、FET2のドレイン電極同士を接続してもよい。第2スイッチング素子FET2は、第1切替スイッチング素子に相当する。
【0039】
第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2は、ソース・ドレイン間を並列接続された寄生ダイオードD1、D2をそれぞれ有しており、両寄生ダイオードD1、D2は相互に逆向きとなるように配置されている。すなわち、寄生ダイオードD2は、主電源23に対して順方向接続されている。寄生ダイオードD2は、第1ダイオードに相当する。前記第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2は、電子制御ユニット26によりオンオフ制御される。
【0040】
第2切替回路32は、第3スイッチング素子FET3と第4スイッチング素子FET4とが、互いのソース電極同士を接続して逆直列に接続されている。具体的には、第3スイッチング素子FET3及び第4スイッチング素子FET4は、エンハンスメント型(ノーマリオフ型)のnチャンネルMOSFETが用いられている。なお、各スイッチング素子FET3、FET4のドレイン電極同士を接続してもよい。第4スイッチング素子FET4は、第2切替スイッチング素子に相当する。
【0041】
第3スイッチング素子FET3及び第4スイッチング素子FET4は、ソース・ドレイン間を並列接続された寄生ダイオードD3、D4をそれぞれ有しており、両寄生ダイオードは相互に逆向きとなるように配置されている。すなわち、寄生ダイオードD4は、補助電源24に対して、逆方向接続されている。寄生ダイオードD4は、第2ダイオードに相当する。第3スイッチング素子FET3及び第4スイッチング素子FET4は、電子制御ユニット26によりオンオフ制御される。
【0042】
主電源23が使用できる正常な場合は、電子制御ユニット26は、第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2をオン制御するとともに、第3スイッチング素子FET3及び第4スイッチング素子FET4をオフ制御する。また、補助電源24は、主電源23のバックアップ用電源であるため、主電源23が使用できない場合は、電子制御ユニット26は、第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2をオフ制御するとともに、第3スイッチング素子FET3及び第4スイッチング素子FET4をオン制御する。
【0043】
(実施形態の作用)
図2~
図4を参照して、次に、補助電源装置30を備えた電動パワーステアリング装置10の作用について説明する。
【0044】
電子制御ユニット26は、主電源23の電圧を電圧センサ(図示しない)を介して常時監視しており、主電源23の電圧がインバータ22に必要な電圧を有している場合は、正常状態と判定している。本実施形態の作用の説明では、主電源23が正常状態であることを前提として説明する。
【0045】
図示しないイグニッションスイッチがオンされると、電子制御ユニット26は、トルクセンサ18、操舵角センサ19及び車速センサ29から操舵トルクTR、操舵角θ及び走行速度VSを入力する。
【0046】
電子制御ユニット26は、入力した操舵角θに基づいて、操舵速度|dθ/dt|を演算する。そして、電子制御ユニット26は、予めメモリ28に格納された状態判定マップ(
図4参照)を参照して、操舵角θと操舵速度|dθ/dt|が、通常動作領域または警戒制御領域のいずれの領域にあるのかを判定する。ここで、操舵角θと操舵速度|dθ/dt|は状態パラメータに相当する。
【0047】
図4に示す状態判定マップは、通常動作領域A、警戒制御領域B及び回生発生領域Cを有しており、通常動作領域Aと警戒制御領域Bの境界条件は、|dθ/dt|=f(θ)の関数で定義されている。
【0048】
本実施形態では、前記境界条件は、(操舵角、操舵速度)=(0,S)を頂点とし、該頂点から(操舵角、操舵速度)=(左最大舵角+θ_Max,0)、及び(操舵角、操舵速度)=(右最大舵角-θ_Max,0)を結ぶ直線としている。なお、本実施形態では、境界条件は直線としたが、直線に限定するものではなく、例えば、頂点から(最大舵角、0)までを凹型或いは凸型の二次曲線としてもよい。前記関数が成立する、操舵角及び操舵速度、並びに、警戒制御領域Bに存する操舵角及び操舵速度は、アシストモータ20の回転を妨げる反力が作用することを示す回生電流発生前兆条件を満たす状態パラメータである。このパラメータは、通常動作領域Aに存する操舵角及び操舵速度は、回生電流発生前兆条件を満たしていない、すなわち、アシストモータ20の回転をさまたげる反力が作用しないことを示す状態パラメータである。
【0049】
通常動作領域Aは、現在の操舵角と操舵速度の組合せでは、ラックシャフト14を含む操舵系、すなわち、操舵角θが左右の最大舵角(+θ_Max、-θ_Max)に至る以前であって、端当ての虞が全くない領域である。
【0050】
警戒制御領域Bは、現在の操舵角と操舵速度の組合せでは、前記ラックシャフト14を含む操舵系が端当ての可能性があるとする領域である。
上記のようにしてラックシャフト14の状態が、通常動作状態である通常動作領域Aにあるのか、アシストモータ20の回転をさまたげる反力が作用することでアシストモータ20が回生電流を出力する前の前駆動作状態である警戒制御領域Bにあるのかが電子制御ユニット26により判定される。
【0051】
回生発生領域Cは、操舵角θが左右の最大舵角(+θ_Max、-θ_Max)以上の場合であり、操舵速度とは無関係の領域である。この領域は、端当てが生じている状態であり、アシストモータ20から回生電流が発生する領域である。
【0052】
電子制御ユニット26は、状態パラメータが通常動作領域Aにあると判定した場合には、電子制御ユニット26は、第1切替回路31の第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2をともにオン制御し、第2切替回路32の第3スイッチング素子FET3及び第4スイッチング素子FET4をともにオフ制御する。
【0053】
図2に示すように、この制御により、主電源23から第1切替回路31の前記第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2を介してインバータ22に直流電流が供給される。
【0054】
電子制御ユニット26は、状態パラメータが警戒制御領域Bにあると判定した場合には、電子制御ユニット26は、第1スイッチング素子FET1をオン制御、及び第2スイッチング素子FET2をオフ制御し、第3スイッチング素子FET3をオン制御、及び第4スイッチング素子FET4をオフ制御する。
【0055】
図3に示すように、この制御により、状態パラメータが警戒制御領域Bに存していても、主電源23から第1切替回路31の前記第1スイッチング素子FET1及び寄生ダイオードD2を介してインバータ22に直流電流が供給される。
【0056】
また、状態パラメータが警戒制御領域Bに存していた場合、電子制御ユニット26は、第3スイッチング素子FET3をオン制御、及び第4スイッチング素子FET4をオフ制御する。
【0057】
この後、アシストモータ20から回生電流が発生するとインバータ22を介して前記回生電流は、第2切替回路32の第3スイッチング素子FET3及び寄生ダイオードD4を介して補助電源24に流れる。このとき、回生電流はオフ制御された第2スイッチング素子FET2及び主電源23に対して順方向接続された寄生ダイオードD2により阻止されて、第1切替回路31を介して主電源23に流れることはない。
【0058】
この結果、アシストモータ20の回生電流を鉛蓄電池からなる主電源23に流出させることがなく、主電源23である鉛蓄電池の劣化を抑制する。
電子制御ユニット26は、状態パラメータが回生発生領域Cにあると判定した場合には、操舵補助力を抑制するようにアシストモータ20を制御する。
【0059】
本実施形態では、下記の特徴を有する。
(1)本実施形態の補助電源装置30では、第1切替回路31は、第2スイッチング素子FET2(第1切替スイッチング素子)と並列回路を構成するとともに主電源23に対して順方向接続された寄生ダイオードD2(第1ダイオード)を備えている。また、第2切替回路32は、第4スイッチング素子FET4(第2切替スイッチング素子)と並列回路を構成するとともに前記補助電源24に対して逆方向接続された寄生ダイオードD4(第2ダイオード)を備えている。
【0060】
電子制御ユニット26(制御部)は、アシストモータ20(回転電機)により作動するラックシャフト14(作動部材)の状態を示す操舵角θ及び操舵速度|dθ/dt|(状態パラメータ)が上記通常動作状態の場合、第2スイッチング素子FET2(第1切替スイッチング素子)をオン制御する。また、電子制御ユニット26は、第4スイッチング素子FET4(第2切替スイッチング素子)をオフ制御する。そして、操舵角θ及び操舵速度|dθ/dt|(状態パラメータ)が上記前駆動作状態の場合、第2スイッチング素子FET2(第1切替スイッチング素子)及び第4スイッチング素子FET4(第2切替スイッチング素子)をオフ制御する。
【0061】
この結果、アシストモータ20(回転電機)の回生電流を主電源23に流出させることがなく、主電源23の劣化を抑制できる。
(2)本実施形態の補助電源装置30では、第1切替回路31は、主電源23と第2スイッチング素子FET2との間で当該第2スイッチング素子FET2と直列接続された第1スイッチング素子FET1を含む。また、第2切替回路32は、インバータ22と第4スイッチング素子FET4との間で当該第4スイッチング素子FET4と直列接続された第3スイッチング素子FET3を含む。また、電子制御ユニット26(制御部)は、状態パラメータが上記通常動作状態の場合、第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2をともにオン制御し、第3スイッチング素子FET3及び第4スイッチング素子FET4をともにオフ制御する。
【0062】
また、電子制御ユニット26(制御部)は、状態パラメータが上記前駆動作状態の場合は、第1スイッチング素子FET1をオン制御、及び第2スイッチング素子FET2をオフ制御し、第3スイッチング素子FET3をオン制御、及び第4スイッチング素子FET4をオフ制御する。
【0063】
上記の構成により、状態パラメータが上記通常動作状態の場合、主電源23から第1切替回路31の第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2を介してインバータ22に直流電流が供給される。
【0064】
また、状態パラメータが上記前駆動作状態の場合であっても、主電源23から第1切替回路31の第1スイッチング素子FET1及び寄生ダイオードD2(第1ダイオード)を介してインバータ22に直流電流が供給される。
【0065】
また、状態パラメータが上記前駆動作状態の場合、電子制御ユニット26(制御部)は、第3スイッチング素子FET3をオン制御、及び第4スイッチング素子FET4をオフ制御する。このため、この後、アシストモータ20(回転電機)から回生電流が発生するとインバータ22を介して回生電流は、第2切替回路32の第3スイッチング素子FET3及び寄生ダイオードD2(第2ダイオード)を介して補助電源に流れる。この結果、アシストモータ20(回転電機)の回生電流を主電源23に流出させることがなく、主電源23の劣化を抑制できる。
【0066】
(3)本実施形態の補助電源装置30では、第1スイッチング素子FET1及び第2スイッチング素子FET2は相互に逆直列接続されたnチャンネルMOSFETであり、第3スイッチング素子FET3及び第4スイッチング素子FET4は相互に逆直列接続されたnチャンネルMOSFETである。この結果、上記の(2)の作用をnチャンネルMOSFETからなる第1~第4スイッチング素子により、容易に実現できる。
【0067】
(4)本実施形態の補助電源装置30では、第1切替回路31が備える第1ダイオードは、第2スイッチング素子FET2の寄生ダイオードD2であり、第2切替回路32が備える第2ダイオードは、第4スイッチング素子FET4の寄生ダイオードD4としている。
【0068】
この結果、第1ダイオード及び第2ダイオードを寄生ダイオードとしているため、半導体スイッチング素子である第2スイッチング素子FET2、第4スイッチング素子FET4を製造する工程内で合わせて作り込みができる。
【0069】
(5)本実施形態の電動パワーステアリング装置10は、上記補助電源装置30を備えていて、ステアリングホイール11(操舵部材)に加えられた操舵トルクTRに基づいて駆動されるアシストモータ20を回転電機としている。
【0070】
この結果、ステアリングホイール11(操舵部材)の切り込み限界付近に達した際、上記した作用を容易に実現できる電動パワーステアリング装置とすることができる。
(6)本実施形態の電動パワーステアリング装置10では、状態パラメータは、操舵速度|dθ/dt|及び操舵角θとしている。
【0071】
この結果、操舵速度|dθ/dt|及び操舵角θ(状態パラメータ)が回生電流発生前兆条件を満たす場合は、すなわち、ステアリングホイール11(操舵部材)の切り込み限界付近に達した端当ての前駆動作状態の場合である。この場合、アシストモータ20(回転電機)の回生電流を鉛蓄電池からなる主電源23に流出させることがないように切替部25を切替制御することができる。
【0072】
なお、本発明の実施形態は前記実施形態に限定されるものではなく、下記のように変更しても良い。
・前記実施形態の第1スイッチング素子~第4スイッチング素子は、nチャンネルMOSFETとしているが、これに限定するものではない。各スイッチング素子は、他の半導体スイッチング素子、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)としてもよい。
【0073】
・第1スイッチング素子FET1、第2スイッチング素子FET2の主電源に対する接続順序を逆にしてもよい。
・第3スイッチング素子FET3、第4スイッチング素子FET4のインバータ22に対する接続順序を逆にしてもよい。
【0074】
・主電源23を鉛蓄電池以外で構成してもよい。
・補助電源24は、充放電可能で有れば、リチウムイオンキャパシタ以外であってもよい。
【0075】
・前記実施形態の構成中、第1スイッチング素子FET1及び寄生ダイオードD1を省略してもよい。
・前記実施形態の構成中、第3スイッチング素子FET3及び寄生ダイオードD3を省略してもよい。
【0076】
・前記実施形態の寄生ダイオードの代わりにダイオードとしてもよい。
・前記実施形態では、状態パラメータは、操舵速度|dθ/dt|と操舵角θの2つのパラメータとしたが、この2つのパラメータに限定するものではない。さらに、転舵輪16の転舵角を状態パラメータとして加えてもよい。また、アシスト制御をベクトル制御で行う場合、q軸電流の変化量を状態パラメータとして加えてもよい。
【0077】
・前記実施形態の電動パワーステアリング装置10では、端当ての前駆動作状態を回生電流発生前兆条件で判定するようにしていた。
回生電流発生前兆条件は、端当ての前駆動作状態を検出することに限定するものではない。例えば、転舵輪16が縁石に当たった場合等において、回生電流が発生する直前の状態を判定する条件としてもよい。この場合、アシストモータ20の操舵速度、操舵角、モータの駆動電流等を状態パラメータとしてもよい。
【0078】
・前記実施形態では、補助電源装置30を電動パワーステアリング装置10に採用したが、電動パワーステアリング装置10との組合せに限定するものではなく、補助電源装置30を他の装置と組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10…電動パワーステアリング装置、
11…ステアリングホイール(操舵部材)、
12…ピニオンギヤ、13…ステアリングシャフト、
14…ラックシャフト(作動部材)、15…ラックギヤ、16…転舵輪、
17…タイロッド、18…トルクセンサ、
19…操舵角センサ、20…アシストモータ、
21…減速機、22…インバータ、23…主電源、24…補助電源、
25…切替部、26…電子制御ユニット(制御部)、27…演算処理回路、
28…メモリ、29…車速センサ、30…補助電源装置、
31…第1切替回路、32…第2切替回路、
FET1…第1スイッチング素子、
FET2…第2スイッチング素子(第1切替スイッチング素子)、
FET3…第3スイッチング素子、
FET4…第4スイッチング素子(第2切替スイッチング素子)、
D1…寄生ダイオード、D2…寄生ダイオード(第1ダイオード)、
D3…寄生ダイオード、D4…寄生ダイオード(第2ダイオード)。
【0080】
A…通常動作領域、B…警戒制御領域、C…回生発生領域。