(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20221206BHJP
B23F 21/10 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B23F5/16
B23F21/10
(21)【出願番号】P 2018173215
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高須 俊太朗
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-079558(JP,A)
【文献】特開2012-171020(JP,A)
【文献】特開平07-208582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/16、5/20
B23F 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物の軸線の平行線に対して歯切り工具の軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対的に送ることにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記歯車が有する複数の歯の各々に形成された一の側面は、
第一歯面と、
前記第一歯面とはねじれ角が異なる第二歯面と、
を備え、
前記歯車加工装置は、前記工作物及び前記歯切り工具の回転を制御すると共に、前記工作物に対する前記歯切り工具の相対的な送り動作を制御する加工制御部を備え、
前記第一歯面を形成する際
に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第一開始位置、
前記歯切り工具が前記第一歯面の切削加工終了時点の状態とされる前記送り動作の終了位置を第一終了位置、前記第二歯面を形成する際
に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第二開始位置とそれぞれ定義し、
前記各々の側面に対して前記歯切り工具が切削す
る位置を切削点とし、切削加工を開始した時点での前記切削点を始点とし、前記始点から前記歯切り工具を所定の送り量だけ送った時点での前記切削点を移動点と定義し、
所定の基準同期回転状態で前記工作物及び前記歯切り工具を回転させながら、前記始点から前記所定の送り量だけ送った時点での前記切削点を基準移動点と定義し、
前記始点から前記歯切り工具を前記所定の送り量だけ送る際に、前記基準移動点に対して前記移動点の位相をずらすときに設定する前記工作物の周方向一方側への位相ずれ角度を補正角と定義すると、
前記第一終了位置に対する前記第二開始位置の前記工作物における周方向一方側への位相ずれ角度を第一角度と定義した場合に、
前記加工制御部は、前記第一歯面の切削加工を終了した後に前記第二歯面の切削加工を開始する際、前記補正角を前記第一角度に設定し、前記工作物及び前記歯切り工具を回転させなが
ら前記第一終了位置に対する前記第二開始位置の位相ずれを前記第一角度にしたがって調整する位相調整を行うことで前記歯切り工具を前記第一終了位置から前記第二開始位置へ移動させる、歯車加工装置。
【請求項2】
前記加工制御部は、前記基準同期回転状態とは異なる回転速度比で前記工作物及び前記歯切り工具を回転させながら、前記歯切り工具を前記始点から前記所定の送り量だけ送ることにより、前記基準移動点に対して前記移動点の位相をずらす、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記加工制御部は、前記工作物Wの軸線方向における前記第一終了位置と前記第二開始位置との距離と前記補正角とに基づき、前記歯切り工具を前記始点から前記所定の送り量だけ送る際の前記工作物と前記歯切り工具との回転速度比を演算する、請求項2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記第一開始位置に対する前記第一終了位置の前記工作物における周方向一方側への位相ずれ角度を第二角度と定義し、前記第一開始位置に対する前記第二開始位置の前記工作物における周方向一方側への位相ずれ角度を第三角度と定義した場合に、
前記加工制御部は、前記第三角度から前記第二角度を差し引いた角度を前記第一角度とする、請求項1-3の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記複数の歯の各々に形成された他の側面は、
前記第一歯面とはねじれ角が異なる第三歯面と、
前記第三歯面とはねじれ角が異なる第四歯面と、
を更に備え、
前記第三歯面を形成する際
に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第三開始位置、
前記歯切り工具が前記第三歯面の切削加工終了時点の状態とされる前記送り動作の終了位置を第三終了位置、前記第四歯面を形成する際
に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第四開始位置とそれぞれ定義し、
前記第三終了位置に対する前記第四開始位置の前記工作物における周方向他方側への位相ずれ角度を第四角度と定義した場合に、
前記加工制御部は、
前記第一歯面を切削加工する際と前記第二歯面を切削加工する際とで、前記工作物及び前記歯切り工具の各々の回転方向を同一とし、前記第二歯面の切削加工を終了した後に、前記工作物及び前記歯切り工具の各々の回転方向を、前記第一歯面を切削加工する際とは反対方向に設定し、
前記第三歯面の切削加工を終了した後に前記第四歯面の切削加工を開始する際、前記補正角を前記第四角度に設定し、前記工作物及び前記歯切り工具を回転させなが
ら前記第三終了位置に対する前記第四開始位置の位相ずれを前記第四角度にしたがって調整する位相調整を行うことで前記歯切り工具を前記第三終了位置から前記第四開始位置へ移動させる、請求項1-4の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
工作物の軸線の平行線に対して歯切り工具の軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対的に送ることにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する歯車加工方法であって、
前記歯車が有する複数の歯の各々に形成された一の側面は、
第一歯面と、
前記第一歯面とはねじれ角が異なる第二歯面と、
を備え、
前記第一歯面を形成する際
に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第一開始位置、
前記歯切り工具が前記第一歯面の切削加工終了時点の状態とされる前記送り動作の終了位置を第一終了位置、前記第二歯面を形成する際
に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第二開始位置とそれぞれ定義し、
前記各々の側面に対して前記歯切り工具が切削す
る位置を切削点とし、切削加工を開始した時点での前記切削点を始点とし、前記始点から前記歯切り工具を所定の送り量だけ送った時点での前記切削点を移動点と定義し、
所定の基準同期回転状態で前記工作物及び前記歯切り工具を回転させながら、前記始点から前記所定の送り量だけ送った時点での前記切削点を基準移動点と定義し、
前記始点から前記歯切り工具を前記所定の送り量だけ送る際に、前記基準移動点に対して前記移動点の位相をずらすときに設定する前記工作物の周方向一方側への位相ずれ角度を補正角と定義し、
前記第一終了位置に対する前記第二開始位置の前記工作物における周方向一方側への位相ずれ角度を第一角度と定義した場合に、
前記歯車加工方法は、前記第一歯面の切削加工を終了した後に前記第二歯面の切削加工を開始する際、前記補正角を前記第一角度に設定し、前記工作物及び前記歯切り工具を回転させなが
ら前記第一終了位置に対する前記第二開始位置の位相ずれを前記第一角度にしたがって調整する位相調整を行うことで前記歯切り工具を前記第一終了位置から前記第二開始位置へ移動させる、歯車加工方法。
【請求項7】
前記歯車加工方法は、前記基準同期回転状態とは異なる回転速度比で前記工作物及び前記歯切り工具を回転させながら、前記歯切り工具を前記始点から前記所定の送り量だけ送ることにより、前記基準移動点に対して前記移動点の位相をずらす、請求項6に記載の歯車加工方法。
【請求項8】
前記歯車加工方法は、前記工作物Wの軸線方向における前記第一終了位置と前記第二開始位置との距離と前記補正角とに基づき、前記歯切り工具を前記始点から前記所定の送り量だけ送る際の前記工作物と前記歯切り工具との回転速度比を演算する、請求項7に記載の歯車加工方法。
【請求項9】
前記第一開始位置に対する前記第一終了位置の前記工作物における周方向一方側への位相ずれ角度を第二角度と定義し、前記第一開始位置に対する前記第二開始位置の前記工作物における周方向一方側への位相ずれ角度を第三角度と定義した場合に、
前記第一角度は、前記第三角度から前記第二角度を差し引いた角度である、請求項6-8の何れか一項に記載の歯車加工方法。
【請求項10】
前記歯の他の側面は、
第三歯面と、
前記第三歯面とはねじれ角が異なる第四歯面と、
を備え、
前記第三歯面を形成する際
に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第三開始位置、
前記歯切り工具が前記第三歯面の切削加工終了時点の状態とされる前記送り動作の終了位置を第三終了位置、前記第四歯面を形成する際
に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第四開始位置とそれぞれ定義し、
前記第三終了位置に対する前記第四開始位置の前記工作物における周方向他方側への位相ずれ角度を第四角度と定義した場合に、
前記歯車加工方法は、
前記第一歯面を切削加工する際と前記第二歯面を切削加工する際とで、前記工作物及び前記歯切り工具の各々の回転方向を同一とし、前記第二歯面の切削加工を終了した後に、
前記工作物及び前記歯切り工具の各々の回転方向を、前記第一歯面を切削加工する際とは反対方向にし、
前記第三歯面の切削加工を終了した後に前記第四歯面の切削加工を開始する際、前記補正角を前記第四角度に設定し、前記工作物及び前記歯切り工具を回転させなが
ら前記第三終了位置に対する前記第四開始位置の位相ずれを前記第四角度にしたがって調整する位相調整を行うことで前記歯切り工具を前記第三終了位置から前記第四開始位置へ移動させる、請求項6-9の何れか一項に記載の歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用工具及び加工物を同期回転させて切削加工により歯車を加工する歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられるトランスミッションには、円滑な変速操作を行うためにシンクロメッシュ機構が設けられる。
図12に示すように、キー式のシンクロメッシュ機構110は、メーンシャフト111、メーンドライブシャフト112、クラッチハブ113、キー114、スリーブ115、メーンドライブギヤ116、クラッチギヤ117、シンクロナイザーリング118等を備える。なお、メーンドライブギヤ116、クラッチギヤ117、シンクロナイザーリング118は、スリーブ115を挟んで両側に配置される。
【0003】
メーンシャフト111とメーンドライブシャフト112は、同軸配置される。メーンシャフト111には、クラッチハブ113がスプライン嵌合され、メーンシャフト111とクラッチハブ113は共に回転する。クラッチハブ113の外周の3か所には、キー114が図略のスプリングで支持される。スリーブ115の内周には、内歯(スプライン)115aが形成され、スリーブ115はキー114とともにクラッチハブ113の外周に形成される図略のスプラインに沿って回転軸線LL方向に摺動する。
【0004】
メーンドライブシャフト112には、メーンドライブギヤ116が嵌合され、メーンドライブギヤ116のスリーブ115側には、テーパコーン117bが突設されたクラッチギヤ117が一体形成される。スリーブ115とクラッチギヤ117の間には、シンクロナイザーリング118が配置される。クラッチギヤ117の外歯117a及びシンクロナイザーリング118の外歯118aは、スリーブ115の内歯115aと噛み合わせ可能に形成される。シンクロナイザーリング118の内周は、テーパコーン117bの外周と摩擦係合可能なテーパ状に形成される。
【0005】
次に、シンクロメッシュ機構110の
図12の左方に動作する場合を説明するが、
図12の右方に動作する場合も同様である。
図13Aに示すように、スリーブ115及びキー114は、図略のシフトレバーの操作により、図示矢印の回転軸線LL方向に移動する。キー114は、シンクロナイザーリング118を回転軸線LL方向に押して、シンクロナイザーリング118の内周をテーパコーン117bの外周に押し付ける。これにより、クラッチギヤ117、シンクロナイザーリング118及びスリーブ115は、同期回転を開始する。
【0006】
図13Bに示すように、キー114は、スリーブ115に押し下げられてシンクロナイザーリング118を回転軸線LL方向にさらに押し付けるので、シンクロナイザーリング118の内周とテーパコーン117bの外周との密着度は増し、強い摩擦力が発生してクラッチギヤ117、シンクロナイザーリング118及びスリーブ115は同期回転する。クラッチギヤ117の回転数とスリーブ115の回転数が完全に同期すると、シンクロナイザーリング118の内周とテーパコーン117bの外周との摩擦力が消滅する。
【0007】
そして、スリーブ115及びキー114が図示矢印の回転軸線LL方向にさらに移動すると、キー114はシンクロナイザーリング118の溝118bに嵌って止まるが、スリーブ115はキー114の凸部114aを越えて移動し、スリーブ115の内歯115aがシンクロナイザーリング118の外歯118aと噛み合う。
【0008】
図13Cに示すように、スリーブ115は図示矢印の回転軸線LL方向にさらに移動し、スリーブ115の内歯115aがクラッチギヤ117の外歯117aと噛み合う。以上により変速が完了する。以上のようなシンクロメッシュ機構110では、走行中におけるクラッチギヤ117の外歯117aとスリーブ115の内歯115aとのギヤ抜けを防止するギヤ抜け防止部120F,120Bが設けられている。
【0009】
具体的には、
図14及び
図15に示すように、スリーブ115の内歯115aにおけるスリーブ115の回転軸線LL方向の一方側(以下、単に、回転軸線一方側Dfという)及び他方側(以下、単に、回転軸線他方側Dbという)に、テーパ状のギヤ抜け防止部120F,120Bが設けられる。一方、各クラッチギヤ117の外歯117aには、ギヤ抜け防止部120F,120Bとテーパ嵌合するテーパ状のギヤ抜け防止部117cが設けられる。
【0010】
なお、
図14では、クラッチギヤ117の外歯117aは、ギヤ抜け防止部120F側のみを示す。本例のギヤ抜け防止部120F,120Bは、内歯115aの頂面におけるスリーブ115の回転軸線LL方向の中央の仮想点に対し点対称形状で形成される。以下の説明では、
図12に示すスリーブ115の内歯115aの左側の側面を「左側面115A」と称し、スリーブ115の内歯115aの右側の側面を「右側面115B」と称す。
【0011】
左側面115Aは、左歯面115bと、左歯面115bよりも回転軸線一方側Dfに設けられる左前テーパ歯面121fと、左歯面115bと左前テーパ歯面121fとの間に設けられる左前サブ歯面121afと、左歯面115bよりも回転軸線他方側Dbに設けられる左後テーパ歯面121bと、左歯面115bと左後テーパ歯面121bとの間に設けられる左後サブ歯面121abとを備える。
【0012】
左前テーパ歯面121f及び左後テーパ歯面121bは、左歯面115bとはねじれ角が異なる歯面である。左前サブ歯面121afは、左歯面115b及び左前テーパ歯面121fに連続する歯面であり、左前サブ歯面121afのねじれ角は、左歯面115b及び左前テーパ歯面121fとは異なる。同様に、左後サブ歯面121abは、左歯面115b及び左後テーパ歯面121bに連続する歯面であり、左後サブ歯面121abのねじれ角は、左歯面115b及び左後テーパ歯面121bとは異なる。
【0013】
同様に、右側面115Bは、右歯面115cと、右歯面115cよりも回転軸線一方側Dfに設けられる右前テーパ歯面122fと、右歯面115cと右前テーパ歯面122fとの間に設けられる右前サブ歯面122afと、右歯面115cよりも回転軸線他方側Dbに設けられる右後テーパ歯面122bと、右歯面115cと右後テーパ歯面122bとの間に設けられる右後サブ歯面122abとを備える。
【0014】
右前テーパ歯面122f及び右後テーパ歯面122bは、右歯面115cとはねじれ角が異なる歯面である。右前サブ歯面122afは、右歯面115c及び右前テーパ歯面122fに連続する歯面であり、右前サブ歯面122afのねじれ角は、右歯面115c及び右前テーパ歯面122fとは異なる。同様に、右後サブ歯面122abは、右歯面115c及び右後テーパ歯面122bに連続する歯面であり、右後サブ歯面122abのねじれ角は、右歯面115c及び右後テーパ歯面122bとは異なる。
【0015】
また、
図16及び
図17に示すように、スリーブ115には、左前テーパ歯面121fの回転軸線一方側Dfの端部に対し、左歯面115b及び左前テーパ歯面121fとはねじれ角が異なる左前チャンファ歯面131fが形成されるものがある。この場合、左前テーパ歯面121fの回転軸線一方側Dfの端部に、左歯面115b及び左前テーパ歯面121fとはねじれ角が異なる左前チャンファ歯面131fが形成され、左後テーパ歯面121bの回転軸線他方側Dbの端部に、左歯面115b及び左後テーパ歯面121bとはねじれ角が異なる左後チャンファ歯面131bが形成される。同様に、右前テーパ歯面122fの回転軸線一方側Dfの端部には、右歯面115c及び右前テーパ歯面122fとはねじれ角が異なる右前チャンファ歯面132fが形成され、右後テーパ歯面122bの回転軸線他方側Dbの端部には、右歯面115c及び右後テーパ歯面122bとはねじれ角が異なる右後チャンファ歯面132bが形成される。
【0016】
そして、左前テーパ歯面121f、左前サブ歯面121af及び左前チャンファ歯面131fと、右前テーパ歯面122f、右前サブ歯面122af及び右前チャンファ歯面132fが、ギヤ抜け防止部120Fを構成する。同様に、左後テーパ歯面121b、左後サブ歯面121ab及び左後チャンファ歯面131bと、右後テーパ歯面122b、右後サブ歯面122ab及び右後チャンファ歯面132bが、ギヤ抜け防止部120Bを構成する。なお、ギヤ抜け防止は、例えば、左前テーパ歯面121fとギヤ抜け防止部117cとがテーパ嵌合することにより達成される。
【0017】
このように、スリーブ115の内歯115aの構造は複雑である。一方、スリーブ115は大量生産が必要な部品である。そのため、一般的に、スリーブ115の内歯115aは、ブローチ加工やギヤシェーパ加工等により形成されるのに対し、ギヤ抜け防止部120F,120Bは、ローリング加工(特許文献1,2参照)により形成される。しかし、ローリング加工は塑性加工であり、加工精度が低くなる傾向にある。よって、加工精度を高めるには、切削加工が望ましい。この点に関し、特許文献3には、ギヤ抜け防止部を切削加工により形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】実開平6-61340号公報
【文献】特開2005-152940号公報
【文献】特開2018-79558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
例えば、特許文献3に記載の技術を用いてギヤ抜け防止部120Fを切削加工で形成する場合において、左前テーパ歯面121f(右前テーパ歯面122f)の切削加工後に、左前チャンファ歯面131f(右前チャンファ歯面132f)を形成する際、工作物に対する工具の位相や工具の姿勢等を再設定する必要がある。この場合において、工作物及び工具の回転を停止し、位相合わせを行うと、左前テーパ歯面121f(右前テーパ歯面122f)の切削加工を終了してから左前チャンファ歯面131f(右前チャンファ歯面132f)の切削加工を開始するまでの時間が長くなり、サイクルタイムが長期化する。
【0020】
本発明は、歯車の歯の側面に対してねじれ角の異なる複数の歯面を切削加工で形成する場合において、サイクルタイムの短縮を図ることができる歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の歯車加工装置は、工作物の軸線の平行線に対して歯切り工具の軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対的に送ることにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する歯車加工装置である。前記歯車が有する複数の歯の各々に形成された一の側面は、第一歯面と、前記第一歯面とはねじれ角が異なる第二歯面とを備え、前記歯車加工装置は、前記工作物及び前記歯切り工具の回転を制御すると共に、前記工作物に対する前記歯切り工具の相対的な送り動作を制御する加工制御部を備える。
【0022】
前記第一歯面を形成する際に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第一開始位置、前記歯切り工具が前記第一歯面の切削加工終了時点の状態とされる前記送り動作の終了位置を第一終了位置、前記第二歯面を形成する際に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第二開始位置とそれぞれ定義し、前記各々の側面に対して前記歯切り工具が切削する位置を切削点とし、切削加工を開始した時点での前記切削点を始点とし、前記始点から前記歯切り工具を所定の送り量だけ送った時点での前記切削点を移動点と定義し、所定の基準同期回転状態で前記工作物及び前記歯切り工具を回転させながら、前記始点から前記所定の送り量だけ送った時点での前記切削点を基準移動点と定義し、前記始点から前記歯切り工具を前記所定の送り量だけ送る際に、前記基準移動点に対して前記移動点の位相をずらすときに設定する前記工作物の周方向一方側への位相ずれ角度を補正角と定義する。
【0023】
また、前記第一終了位置に対する前記第二開始位置の前記工作物における周方向一方側への位相ずれ角度を第一角度と定義した場合に、前記加工制御部は、前記第一歯面の切削加工を終了した後に前記第二歯面の切削加工を開始する際、前記補正角を前記第一角度に設定し、前記工作物及び前記歯切り工具を回転させながら前記第一終了位置に対する前記第二開始位置の位相ずれを前記第一角度にしたがって調整する位相調整を行うことで前記歯切り工具を前記第一終了位置から前記第二開始位置へ移動させる。
【0024】
本発明の歯車加工方法は、工作物の軸線の平行線に対して歯切り工具の軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対的に送ることにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する歯車加工方法である。前記歯車が有する複数の歯の各々に形成された一の側面は、第一歯面と、前記第一歯面とはねじれ角が異なる第二歯面とを備える。
【0025】
前記第一歯面を形成する際に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第一開始位置、前記歯切り工具が前記第一歯面の切削加工終了時点の状態とされる前記送り動作の終了位置を第一終了位置、前記第二歯面を形成する際に前記歯切り工具が前記工作物から離れた切削加工開始前の状態とされる前記送り動作の開始位置を第二開始位置とそれぞれ定義し、前記各々の側面に対して前記歯切り工具が切削する位置を切削点とし、切削加工を開始した時点での前記切削点を始点とし、前記始点から前記歯切り工具を所定の送り量だけ送った時点での前記切削点を移動点と定義し、所定の基準同期回転状態で前記工作物及び前記歯切り工具を回転させながら、前記始点から前記所定の送り量だけ送った時点での前記切削点を基準移動点と定義し、前記始点から前記歯切り工具を前記所定の送り量だけ送る際に、前記基準移動点に対して前記移動点の位相をずらすときに設定する前記工作物の周方向一方側への位相ずれ角度を補正角と定義する。
【0026】
また、前記第一終了位置に対する前記第二開始位置の前記工作物における周方向一方側への位相ずれ角度を第一角度と定義した場合に、前記歯車加工方法は、前記第一歯面の切削加工を終了した後に前記第二歯面の切削加工を開始する際、前記補正角を前記第一角度に設定し、前記工作物及び前記歯切り工具を回転させながら前記第一終了位置に対する前記第二開始位置の位相ずれを前記第一角度にしたがって調整する位相調整を行うことで前記歯切り工具を前記第一終了位置から前記第二開始位置へ移動させる。
【0027】
本発明の歯車加工装置及び歯車加工方法によれば、加工制御部は、第一歯面の切削加工を終了した後に第二歯面の切削加工を開始する際に、補正角を第一角度に設定する。そして、加工制御部は、工作物及び歯切り工具を回転させながら、歯切り工具を第一終了位置から第二開始位置へ移動させる。つまり、歯車加工装置は、第一角度を補正角とみなし、第一終了位置から第二開始位置へ歯切り工具を送る際に、工作物W及び歯切り工具を回転させた状態を維持しながら、第一終了位置に対する第二開始位置の位相ずれを調整することができる。よって、歯車加工装置は、第一歯面の切削加工を終了してから第二歯面の切削加工を開始するまでに要する時間を短くできるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る歯車加工装置の斜視図である。
【
図2】歯切り工具の概略構成を径方向から見た図であり、一部を断面で示す。
【
図4A】斜め上方から見たスプライン歯を部分的に示した図である。
【
図4B】軸線方向から工作物を部分的に示した図である。
【
図5A】斜め上方から見たスプライン歯を部分的に示した図であり、右前テーパ歯面及び右サブ歯面が形成された後の状態を示す。
【
図5B】軸線方向から工作物を部分的に示した図であり、右前テーパ歯面及び右サブ歯面が形成された後の状態を示す。
【
図6】スプライン歯を径方向から見た状態を模式的に表した図である。
【
図7A】工作物に対する歯切り工具の相対位置を模式的に表した図であり、右前テーパ歯面の切削加工を開始する前の状態を示す。
【
図7B】工作物に対する歯切り工具の相対位置を模式的に表した図であり、右前テーパ歯面の切削加工が終了した時点の状態を示す。
【
図7C】工作物に対する歯切り工具の相対位置を模式的に表した図であり、右前チャンファ歯面の切削加工を開始する前の状態を示す。
【
図7D】工作物に対する歯切り工具の相対位置を模式的に表した図であり、右前チャンファ歯面の切削加工を終了した時点の状態を示す。
【
図7E】工作物に対する歯切り工具の相対位置を模式的に表した図であり、左前テーパ歯面の切削加工を開始する前の状態を示す。
【
図8】加工制御部により実行される歯車加工処理を示すフローチャートである。
【
図9】第二実施形態における歯切り工具の概略構成を径方向から見た図であり、一部を断面で示す。
【
図10A】加工制御部により実行される歯車加工処理2を示すフローチャート1である。
【
図10B】加工制御部により実行される歯車加工処理2を示すフローチャート2である。
【
図11】工作物に対する歯切り工具の相対位置を模式的に表した図であり、右後テーパ歯面の切削加工を開始する前の状態を示す。
【
図12】スリーブを有するシンクロメッシュ機構を示す断面図である。
【
図13A】
図9に示すシンクロメッシュ機構の作動開始前の状態を示す断面図である。
【
図13B】
図9に示すシンクロメッシュ機構の作動中の状態を示す断面図である。
【
図13C】
図9に示すシンクロメッシュ機構の作動完了後の状態を示す断面図である。
【
図14】スリーブのギヤ抜け防止部を示す斜視図である。
【
図15】
図14に示すスリーブのギヤ抜け防止部を径方向から状態を模式的に表した図である。
【
図16】チャンファ歯面を有するギヤ抜け防止部を示す斜視図である。
【
図17】
図16に示すスリーブのギヤ抜け防止部を径方向から状態を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<1.第一実施形態>
(1-1.歯車加工装置1の概略構成)
以下、本発明に係る歯車加工装置及び歯車加工方法を適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態における歯車加工装置1の概略構成を説明する。
【0030】
図1に示すように、歯車加工装置1は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と2つの回転軸(A軸及びC軸)を駆動軸として有するマシニングセンタである。歯車加工装置1は、ベッド10と、工具保持装置20と、工作物保持装置30と、加工制御部100とを主に備える。
【0031】
ベッド10は、床上に配置される。ベッド10の上面には、X軸方向へ延びる一対のX軸ガイドレール11と、Z軸方向へ延びる一対のZ軸ガイドレール12とが設けられる。工具保持装置20は、コラム21と、X軸駆動装置22(
図3参照)と、サドル23と、Y軸駆動装置24(
図3参照)と、工具主軸25と、工具主軸モータ26(
図3参照)とを備える。なお、
図1では、X軸駆動装置22、Y軸駆動装置24、及び、工具主軸モータ26の図示が省略されている。
【0032】
コラム21は、一対のX軸ガイドレール11に案内されながらX軸方向へ移動可能に設けられる。X軸駆動装置22は、ベッド10に対し、コラム21をX軸方向へ送るねじ送り装置である。また、コラム21の側面には、Y軸方向に沿って延びる一対のY軸ガイドレール27が設けられ、サドル23は、コラム21に対し、一対のY軸ガイドレール27に案内されながらY軸方向へ移動可能に設けられる。Y軸駆動装置24は、サドル23をY軸方向へ送るねじ送り装置である。
【0033】
工具主軸25は、サドル23に対し、Z軸方向に平行な軸線まわりに回転可能に支持される。工具主軸25の先端には、工作物Wの加工に用いる歯切り工具40が着脱可能に装着される。歯切り工具40は、コラム21の移動に伴ってX軸方向へ移動し、サドル23の移動に伴ってY軸方向へ移動する。工具主軸モータ26は、工具主軸25を回転させるための駆動力を付与するモータであり、サドル23の内部に収容される。
【0034】
工作物保持装置30は、送り台31と、Z軸駆動装置32(
図3参照)と、チルト装置33と、工作物回転装置34とを備える。なお、
図1では、Z軸駆動装置32の図示が省略されている。送り台31は、ベッド10に対し、一対のZ軸ガイドレール12に案内されながらZ軸方向へ移動可能に設けられる。Z軸駆動装置32は、送り台31をZ軸方向へ送るねじ送り装置である。
【0035】
チルト装置33は、一対のテーブル支持部35と、チルトテーブル36と、A軸モータ37(
図3参照)とを備える。一対のテーブル支持部35は、送り台31の上面に設置され、チルトテーブル36は、一対のテーブル支持部35に対し、X軸に平行なA軸まわりに揺動可能に支持される。A軸モータ37は、チルトテーブル36をA軸まわりに揺動させるための駆動力を付与するモータであり、テーブル支持部35の内部に収容される。
【0036】
工作物回転装置34は、回転テーブル38と、C軸モータ39(
図3参照)とを備える。回転テーブル38は、チルトテーブル36の底面に対し、A軸に直交するC軸まわりに回転可能に設置される。そして、回転テーブル38には、工作物Wを固定する保持部38aが設けられる。C軸モータ39は、回転テーブル38を回転させるための駆動力を付与するモータであり、チルトテーブル36の下面に設けられる。
【0037】
歯車加工装置1は、歯車加工を行う際に、チルトテーブル36を揺動させることにより、工作物Wの軸線Lwの平行線に対して歯切り工具40の軸線Lを傾斜させる。その状態で、歯車加工装置1は、歯切り工具40と工作物Wとを同期回転させつつ、工作物Wの軸線Lw方向への歯切り工具40の相対的な送り動作を行うことにより、切削加工を行い、歯車を創成する。
【0038】
(1-2.歯切り工具40)
次に、
図2を参照して、歯切り工具40について説明する。
図2に示すように、歯切り工具40は、ねじれ角を有する複数の工具刃41を備える。複数の工具刃41は、歯切り工具40の軸線L方向から見た形状がインボリュート曲線形状に形成される。各々の工具刃41には、歯切り工具40の先端側(
図2下側)を向く端面42に、歯切り工具40の軸線L方向に直交する平面に対して角度γだけ傾斜したすくい角を有するすくい面43が設けられる。さらに、各々の工具刃41は、歯切り工具40の軸線Lと平行な直線に対し、角度δだけ傾斜した前逃げ角が設けられる。
【0039】
(1-3.加工制御部100)
次に、
図3を参照して、加工制御部100について説明する。加工制御部100は、工作物W及び歯切り工具40の回転を制御すると共に、工作物Wに対する歯切り工具40の相対的な送り動作を行う。
図3に示すように、加工制御部100は、工具回転制御部101と、工作物回転制御部102と、チルト制御部103と、位置制御部104と、加工プログラム記憶部105と、演算部106とを備える。
【0040】
工具回転制御部101は、工具主軸モータ26の駆動制御を行い、工具主軸25に装着された歯切り工具40を回転させる。工作物回転制御部102は、C軸モータ39の駆動制御を行い、回転テーブル38に固定された工作物Wを軸線Lw周り(C軸周り)に回転させる。チルト制御部103は、A軸モータ37の駆動制御を行い、チルトテーブル36を揺動させる。これにより、回転テーブル38に固定された工作物Wは、A軸まわりに揺動し、歯切り工具40の軸線Lが工作物Wの軸線Lwの平行線に対して傾斜する。
【0041】
位置制御部104は、X軸駆動装置22の駆動制御を行い、コラム21をX軸方向へ移動させると共に、Y軸駆動装置24の駆動制御を行い、サドル23をY軸方向へ移動させる。これにより、工具保持装置20に保持された歯切り工具40は、工作物保持装置30に保持された工作物Wに対し、X軸方向及びY軸方向へ相対移動する。また、位置制御部104は、Z軸駆動装置32の駆動制御を行い、送り台31をZ軸方向へ移動させる。これにより、工作物保持装置30に保持された工作物Wは、工具保持装置20に保持された歯切り工具40に対してZ軸方向へ相対移動し、工作物Wに対する歯切り工具40の相対的な送り動作が行われる。
【0042】
加工プログラム記憶部105は、切削加工に用いる加工プログラムを記憶する。演算部106は、加工プログラム記憶部105に記憶された加工プログラムに基づき、工作物Wに対して歯切り工具40が切削加工を行う加工軌跡を特定する。位置制御部104は、X軸駆動装置22、Y軸駆動装置24及びZ軸駆動装置32を駆動制御し、歯切り工具40を工作物Wに対して相対移動させる。
【0043】
演算部106は、特定した加工軌跡に基づき、交差角α、補正角β、及び、工作物Wに対する歯切り工具40の相対的な送り量Fを導出する。なお、交差角αとは、工作物Wの軸線Lwに対する歯切り工具40の軸線Lの傾斜角度であり、工作物Wに形成する歯面の形状や工具刃41のねじれ角等に基づいて決定される。そして、チルト制御部103は、演算部106が演算した交差角αに基づき、工作物Wの軸線Lwに対する歯切り工具40の軸線Lの傾斜角度が交差角αとなるようにチルトテーブル36を揺動させる。
【0044】
(1-4:補正角)
次に、補正角βについて説明する。本実施形態において、補正角βは、以下のように定義される。即ち、歯切り工具40が工作物Wを切削する位置を「切削点C」とした場合、切削加工を開始する時点での切削点Cを「始点S」とし、始点Sから歯切り工具40を所定の送り量Fだけ送った時点での切削点Cを「移動点M」と定義する。また、所定の基準同期回転状態で工作物W及び歯切り工具40を回転させながら、始点Sから所定の送り量Fだけ送った時点での切削点Cを「基準移動点MR」と定義する。そして、始点Sから歯切り工具40を所定の送り量Fだけ送る際に、基準移動点MRに対して移動点Mの位相をずらすときに設定する工作物Wの周方向一方側への位相ずれ角度を「補正角β」と定義する。
【0045】
なお、「基準同期回転状態」とは、送り動作に伴って移動する切削点Cが、工作物Wに形成する歯車の歯のねじれ方向に沿って移動するように、工作物W及び歯切り工具40を同期回転させた状態のことである。即ち、工作物Wにはすば歯車を形成する場合、基準同期回転状態とは、工作物Wに形成する歯車のねじれ方向に沿って切削点Cが移動するように工作物W及び歯切り工具40を同期回転させた状態のことである。一方、工作物Wに平歯車を形成する場合、基準同期回転状態とは、工作物Wの軸線Lw方向に沿って切削点Cが移動するように工作物W及び歯切り工具40を同期回転させた状態のことである。
【0046】
つまり、基準同期回転状態で送り動作を行うと、切削点Cは、工作物Wに形成する歯車の歯すじ方向に沿って移動する。これに対し、加工制御部100は、工作物W及び歯切り工具40を基準同期回転状態とは異なる回転速度比で回転させた状態で送り動作を行うことにより、切削点Cを歯すじ方向とは異なる方向へ移動させることができる。
【0047】
また、本実施形態において、加工制御部100は、歯切り工具40の回転速度を一定としつつ、工作物Wの回転速度を変えることにより、工作物Wと歯切り工具40との回転速度比(以下において単に「回転速度比」と称す)を変更する。この場合、加工制御部100は、基準同期回転状態よりも工作物Wの回転速度を上げることで、移動点Mの位相を、基準移動点MRの位相よりも工作物Wの周方向一方側へずらすことができる。その一方、加工制御部100は、基準同期回転状態よりも工作物Wの回転速度を下げることで、移動点Mの位相を、基準移動点MRの位相よりも工作物Wの周方向他方側へずらすことができる。
【0048】
このように、加工制御部100は歯切り工具40の回転速度を一定としつつ、工作物Wの回転速度を変えることで、回転速度比の変更を円滑に行うことができる。なお、本実施形態では、歯切り工具40の回転速度を一定としつつ、工作物Wの回転速度を変えているが、工作物Wの回転速度を一定としつつ、歯切り工具40の回転速度を変えてもよい。
【0049】
またこの場合、送り動作での送り量Fが大きくなるほど、基準移動点MRに対する移動点Mの位相ずれ角度が大きくなる。従って、回転速度比は、補正角βと送り量Fとに基づいて決定する必要がある。このように、加工制御部100は、加工プログラムに基づいて加工軌跡を特定した後、加工軌跡から補正角β及び送り量Fを導出し、補正角β及び送り量Fを用いて回転速度比を演算により求める。
【0050】
続いて、
図4Aから
図5Bを参照しながら補正角βについての具体例を説明する。ここでは、
図16及び
図17に示すギヤ抜け防止部120Fの右前テーパ歯面122f、右前サブ歯面122af及び右前チャンファ歯面132fを形成する場合について説明する。なお、
図4Aから
図5Bでは、図面を見やすくするために工作物Wの端面にハッチングを付している。
【0051】
図4A及び
図4Bには、工作物Wの内周面にスプライン歯115a0を形成した後の状態が図示されている。このスプライン歯115a0には、左側面115A及び右側面115Bの全域に亘って左歯面115b及び右歯面115cが形成されている。また、
図4Aには、右前テーパ歯面122fを形成するときに切削点Cが移動する加工軌跡である第一軌跡P1が一点鎖線で示されている。歯車加工装置1は、第一軌跡P1に沿って切削点Cを移動させることにより、スプライン歯115a0の右歯面115cに右前テーパ歯面122fを形成する。なお、右前サブ歯面122afは、切削点Cを移動点Mまで移動させることでおのずと形成される。
【0052】
図4A及び
図4Bに示すように、スプライン歯115a0の歯すじ方向は、工作物Wの軸線Lwに平行である。これに対し、第一軌跡P1は、工作物Wの軸線Lwに対して傾斜している。
【0053】
演算部106は、第一軌跡P1を特定した後、第一軌跡P1に基づき、始点S1及び移動点M1を導出する。そして、演算部106は、始点S1及び移動点M1に基づき、第一軌跡P1に沿って切削点Cを移動させる際の送り量F1を導出し、始点S1及び送り量F1に基づいて基準移動点MR1を導出する。その後、演算部106は、基準移動点MR1と移動点M1とに基づいて補正角β1を導出する。なお、移動点M1は、基準移動点MR1よりも工作物Wにおける周方向一方側(
図4A左側)に位置するので、補正角β1は、正の値となる。その後、演算部106は、補正角β1及び送り量F1を用いて回転速度比を演算により求める。なお、補正角β1が正の値であるため、工作物回転制御部102は、工作物Wの回転速度を基準同期回転状態よりも高速にする。
【0054】
図5A及び
図5Bには、右前テーパ歯面122f及び右前サブ歯面122afが形成されたスプライン歯115a0が図示され、右前チャンファ歯面132fを形成する際の加工軌跡である第二軌跡P2が一点鎖線で示されている。歯車加工装置1は、第二軌跡P2に沿って切削点Cを移動させることにより、右前テーパ歯面122fに右前チャンファ歯面132fを形成する。
【0055】
図5A及び
図5Bに示すように、演算部106は、第二軌跡P2を特定した後、第二軌跡P2に基づき、始点S2及び移動点M2を導出する。次に、演算部106は、始点S2及び移動点M2に基づき、第二軌跡P2に沿って切削点Cを移動させる際の送り量F2を導出し、始点S2及び送り量F2に基づいて基準移動点MR2を導出する。その後、演算部106は、基準移動点MR2と移動点M2とに基づいて補正角β2を導出する。なお、移動点M2は、基準移動点MR2よりも工作物Wにおける周方向他方側(
図4A右側)に位置するので、補正角β2は、負の値となる。その後、演算部106は、補正角β2及び送り量F2を用いて回転速度比を演算により求める。なお、補正角β2が負の値であるため、工作物回転制御部102は、工作物Wの回転速度を基準同期回転状態よりも低速にする。
【0056】
ここで、第二軌跡P2の始点S2の位相は、第一軌跡P1の移動点M1の位相に対して周方向一方側へ第一角度θ1だけずれている。よってこの場合、加工制御部100は、右前テーパ歯面122fの切削加工終了後、右前チャンファ歯面132fの切削加工を開始する際に、切削点Cが第二軌跡P2の始点S2に配置されるように、工作物Wに対する歯切り工具40の位相を再設定する必要がある。
【0057】
そこで、歯車加工装置1は、工作物Wと歯切り工具40との回転速度比を調整することにより、工作物Wと歯切り工具40との位相調整を行う。つまり、加工制御部100は、第一軌跡P1の移動点M1と第二軌跡P2の始点S2とに基づき、工作物Wと歯切り工具40との回転速度比を演算により求め、求めた回転速度比で工作物W及び歯切り工具40を回転させながら、戻し動作を行う。
【0058】
具体的に、加工制御部100は、移動点M1を戻し動作における始点Sとみなし、始点S2を戻し動作における移動点Mとみなす。また、加工制御部100は、工作物Wの軸線Lw方向における第一終了位置から第二開始位置までの距離を送り量Fとみなし、第一角度θ1を補正角βとみなす。そして、加工制御部100は、第一終了位置から第二開始位置までの距離と第一角度θ1とに基づき、戻し動作時における工作物Wと歯切り工具40との回転速度比を演算する。
【0059】
このように、歯車加工装置1は、工作物Wの軸線Lw方向における第一終了位置から第二開始位置までの距離と第一角度θ1とに基づき、第一終了位置から第二開始位置への戻し動作時における回転速度比を求めることができる。即ち、歯車加工装置1は、切削加工時において補正角β及び送り量Fを導出し、回転速度比を演算する手順と同様の手順で、第一角度θ1を導出し、戻し動作時における回転速度比を演算により求めることができる。よって、加工制御部100は、戻し動作時における回転速度比を容易に演算することができる。
【0060】
そして、歯車加工装置1は、工作物Wと歯切り工具40とが同期回転した状態を維持しつつ、工作物Wに対する歯切り工具40の位相調整を行うことができる。この場合、歯車加工装置1は、工作物W及び歯切り工具40の回転を一旦停止し、位相合わせ後に再度、工作物W及び歯切り工具40を回転させる場合と比べて、右前テーパ歯面122fの切削加工を終了してから右前チャンファ歯面132fの切削加工を開始するまでに要する時間を短縮できる。よって、歯車加工装置1は、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0061】
ここで、第一角度θ1は、第一軌跡P1の始点S1と移動点M1との位相ずれ角度(即ち、補正角β1)と、第一軌跡P1の始点S1と第二軌跡P2の始点S2との位相ずれ角度により演算できる。つまり、始点S1に対する移動点M1の周方向一方側への位相ずれ角度を第二角度θ2、始点S1に対する始点S2の周方向一方側への位相ずれ角度を第三角度θ3とすると、第一角度θ1は、第三角度θ3から第二角度θ2を引いた差となる。これにより、演算部106は、第一角度θ1を容易に求めることができる。
【0062】
また、演算部106は、第一角度θ1及び第二角度θ2を導出し、第一角度θ1と第二角度θ2との和を演算することにより第三角度θ3を求めることもできる。このように、演算部106は、補正角βとしての第二角度θ2と、第一角度θ1及び第三角度θ3の何れか一方の角度とを導出することにより、他方の角度を演算により求めることができる。
【0063】
(1-5:歯車加工装置1の動作)
次に、
図6から
図7Eを参照しながら、右歯面115cに右前テーパ歯面122f、右前サブ歯面122af及び右前チャンファ歯面132fを形成する際の歯車加工装置1の動作を説明する。
【0064】
図6には、スプライン歯115a0が形成された後の工作物Wが図示されている。
図6には、一部のスプライン歯115a0のみが図示され、第一軌跡P1、第二軌跡P2、左前テーパ歯面121f及び左前サブ歯面121afを形成する際の加工軌跡である第三軌跡P3と、左前チャンファ歯面131fを形成する際の加工軌跡である第四軌跡P4とが一点鎖線で図示されている。
【0065】
図7A及び
図7Bに示すように、右前テーパ歯面122fを形成する際、加工制御部100は、工作物Wの軸線Lwに対する歯切り工具40の軸線Lの傾斜角度を交差角α1に設定する。その後、加工制御部100は、演算部106が予め演算した回転速度比で工作物W及び歯切り工具40を回転させながら回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、切削点Cを始点S1から移動点M1に移動させることにより、右前テーパ歯面122fを形成する。このとき、加工制御部100は、工作物Wの回転速度を、基準同期回転状態での回転速度よりも高速にする。またこのとき、加工制御部100は、送り速度を一定とする。
【0066】
図7B及び
図7Cに示すように、加工制御部100は、右前テーパ歯面122fの切削加工が終了すると、歯切り工具40の戻し動作を行う。このとき、工作物回転制御部102は、工作物Wの回転速度を変更し、演算により求めた戻し動作での回転速度比で工作物W及び歯切り工具40を回転させながら、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへ歯切り工具40を相対送りする。これにより、歯車加工装置1は、戻し動作と、工作物Wに対する歯切り工具40の位相調整とを並行して行うことができる。次に、チルト制御部103は、工作物Wの軸線Lwに対する歯切り工具40の軸線Lの傾斜角度が交差角α2となるようにチルトテーブル36(
図1参照)を揺動させる。
【0067】
続いて、
図7C及び
図7Dに示すように、加工制御部100は、演算部106が予め演算した回転速度比で工作物W及び歯切り工具40を回転させながら回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、切削点Cを始点S2から移動点M2に移動させることで、右前チャンファ歯面132fを形成する。このとき、加工制御部100は、工作物Wの回転速度を、基準同期回転状態での回転速度よりも低速にする。
【0068】
図7D及び
図7Eに示すように、加工制御部100は、右前チャンファ歯面132fの切削加工が終了すると、歯切り工具40の戻し動作を行う。このとき、加工制御部100は、工作物W及び歯切り工具40の回転を停止した状態で、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへ歯切り工具40を相対送りする。その後、チルト制御部103は、工作物Wの軸線Lwに対する歯切り工具40の軸線Lの傾斜角度が交差角α3となるようにチルトテーブル36を揺動させる。続いて、加工制御部100は、工作物Wに形成されたスプライン歯115a0と歯切り工具40の工具刃41との位相合わせを行う。
【0069】
その後、加工制御部100は、右前テーパ歯面122f及び右前チャンファ歯面132fの切削加工時と反対方向へ工作物W及び歯切り工具40を回転させながら回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、左前テーパ歯面121fの切削加工を行う。その後、加工制御部100は、右前テーパ歯面122f及び右前チャンファ歯面132fを形成する際と同様の手順で左前テーパ歯面121f及び左前チャンファ歯面131fの切削加工を行う。
【0070】
(1-6:歯車加工処理)
次に、
図8に示すフローチャートを参照して、加工制御部100により実行される歯車加工処理について説明する。歯車加工処理は、円筒状に形成された工作物Wの内周面にスプライン歯115a0を形成し、その後にギヤ抜け防止部120Fを形成する際に実行される処理である。
【0071】
図8に示すように、加工制御部100は、歯車加工処理において、加工プログラム記憶部105に記憶された加工プログラムを読み込み(S1)、加工制御部100は、加工プログラムに基づいて加工軌跡を特定する。その後、加工制御部100は、工作物Wの軸線Lwに対する歯切り工具40の傾斜角度を交差角αに設定し(S2)、スプライン加工を行う(S3)。このとき、加工制御部100は、補正角を0度に設定した状態で、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行う。これにより、工作物Wの内周面には、工作物Wの軸線Lwに平行な歯すじを有するスプライン歯115a0が切削加工により形成される。
【0072】
S3の処理後、加工制御部100は、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへの戻し動作を行い、右前テーパ歯面122fを形成する際の送り動作の開始位置となる第一開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる(S4)。S4の処理後、加工制御部100は、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、第一軌跡P1に沿って切削点Cを相対移動させることにより、右前テーパ歯面122f及び右前サブ歯面122afを切削加工により形成する(S5)。
【0073】
ここで、歯車加工装置1は、S3の処理で行うスプライン加工時に、工作物Wの軸線Lwに対する歯切り工具40の軸線Lの傾斜角度を、右前テーパ歯面122fの切削加工時に設定される交差角α1と同一角度にする。これにより、加工制御部100は、S4の処理を開始する際に、工作物Wの軸線Lwに対する歯切り工具40の軸線Lの傾斜角度の変更を不要とすることができる。
【0074】
また、歯車加工装置1は、ギヤ抜け防止部120Fの切削加工に用いる歯切り工具40を使用し、スプライン歯115a0の切削加工をギヤ抜け防止部120Fの切削加工と併せて行うので、工作物Wの移動を不要とすることができる。また、歯車加工装置1は、スプライン加工が終了した後、工作物保持装置30から工作物Wを取り外さずに、そのままギヤ抜け防止部120Fの切削加工に移行できる。よって、歯車加工装置1は、ギヤ抜け防止部120Fの切削加工を開始する前の心出し作業を不要とすることができる。その結果、歯車加工装置1は、サイクルタイムの短縮を図ることができると共に、加工精度の向上を図ることができる。
【0075】
S5の処理が終了すると、加工制御部100は、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへの戻し動作を行う(S6)。S6の処理において、加工制御部100は、右前テーパ歯面122fを形成する際の送り動作の終了位置となる第一終了位置から、右前チャンファ歯面132fを形成する際の送り動作の開始位置となる第二開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる。S6の処理後、加工制御部100は、第二開始位置において、交差角をα2に設定する(S7)。S7の処理後、加工制御部100は、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、第二軌跡P2に沿って切削点Cを相対移動させることにより、右前チャンファ歯面132fを切削加工により形成する(S8)。
【0076】
S8の処理後、加工制御部100は、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへの戻し動作を行う(S9)。S9の処理において、加工制御部100は、右前チャンファ歯面132fを形成する際の送り動作の終了位置となる第二終了位置から、左前テーパ歯面121fを形成する際の送り動作の開始位置となる第三開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる。S9の処理後、加工制御部100は、工作物W及び歯切り工具40の回転を一旦停止し、工作物Wに形成されたスプライン歯115a0と歯切り工具40の工具刃41との位相合わせを行う(S10)。その後、加工制御部100は、交差角をα3に変更する(S11)。
【0077】
続いて、加工制御部100は、右前テーパ歯面122f及び右前チャンファ歯面132fの切削加工時と反対方向へ工作物W及び歯切り工具40を回転させながら、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、第三軌跡P3に沿って切削点Cを相対移動させることにより、左前テーパ歯面121f及び左前サブ歯面121afを切削加工により形成する(S12)。
【0078】
S12の処理後、加工制御部100は、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへの戻し動作を行う(S13)。S13の処理において、加工制御部100は、左前テーパ歯面121fを形成する際の送り動作の終了位置となる第三終了位置から、左前チャンファ歯面131fを形成する際の送り動作の開始位置となる第四開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる。
【0079】
ここで、第三終了位置に対する第四開始位置の工作物Wにおける周方向他方側への位相ずれ角度を第四角度θ4とした場合に、加工制御部100は、第一角度θ1と同様の手順で第四角度θ4を導出できる。即ち、加工制御部100は、第四角度θ4を補正角とみなし、工作物Wの軸線Lw方向における第三終了位置から第四開始位置までの距離を送り量とみなす。そして、加工制御部100は、工作物Wの軸線Lw方向における第三終了位置から第四開始位置までの距離と第四角度θ4とに基づき、第三終了位置から第四開始位置への戻し動作時における回転速度比を求めることができる。これにより、加工制御部100は、工作物Wと歯切り工具40とが同期回転した状態を維持しつつ、工作物Wに対する歯切り工具40の位相調整を行うことができる。
【0080】
S13の処理後、加工制御部100は、第四開始位置において、交差角をα4に設定する(S14)。S14の処理後、加工制御部100は、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、第四軌跡P4に沿って切削点Cを移動させることで左前チャンファ歯面131fを形成し(S15)、本処理を終了する。
【0081】
上記した歯車加工処理を終了すると、歯車加工装置1は、上記した歯車加工処理と同様の手順でスプライン歯115a0の回転軸線他方側Dbにギヤ抜け防止部120Bを形成する。
【0082】
なお、上記した歯車加工処理において、右前テーパ歯面122f、右前チャンファ歯面132f、左前テーパ歯面121f及び左前チャンファ歯面131fが一回の送り動作で切削加工される場合を例に挙げて説明したが、複数回の送り動作で右前テーパ歯面122f、右前チャンファ歯面132f、左前テーパ歯面121f及び左前チャンファ歯面131fを切削加工してもよい。また、上記の例では、右前テーパ歯面122f及び右前チャンファ歯面132fを形成した後に、左前テーパ歯面121f及び左前チャンファ歯面131fを形成する場合について説明したが、左前テーパ歯面121f及び左前チャンファ歯面131fを形成した後に右前テーパ歯面122f及び右前チャンファ歯面132fを形成してもよい。
【0083】
以上説明したように、加工制御部100は、右前テーパ歯面122fの切削加工を終了した後、右前チャンファ歯面132fの切削加工を開始する際に、補正角を第一角度θ1に設定する。そして、加工制御部100は、工作物W及び歯切り工具40を回転させながら歯切り工具40を第一終了位置から第二開始位置へ移動させる。つまり、歯車加工装置1は、第一角度θ1を補正角とみなし、第一終了位置から第二開始位置へ歯切り工具40を送る際に、工作物W及び歯切り工具40を回転させた状態を維持しながら、第一終了位置に対する第二開始位置の位相ずれを調整することができる。よって、歯車加工装置1は、右前テーパ歯面122fの切削加工を終了してから右前チャンファ歯面132fの切削加工を開始するまでに要する時間を短くできるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0084】
<2.第二実施形態>
次に、第二実施形態を説明する。第二実施形態では、2つの工具を備えた歯切り工具240を用いて、ギヤ抜け防止部120F,120Bを形成する場合について説明する。なお、上記した第一実施形態と同一の部品には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0085】
(2-1.歯切り工具240)
図9に示すように、歯切り工具240は、複数の第一工具刃241Fを有する第一工具240Fと、複数の第二工具刃241Bを有する第二工具240Bと、第一工具240F及び第二工具240Bの間に配置されるカラー244とを備える。歯切り工具240は、特開2018-69435号公報に記載の加工用工具と同等の構成を有する工具であり、第一工具240F及び第二工具240Bは、同等の形状を有する。第一工具240Fは、第一工具刃241Fのすくい面243Fが歯切り工具240の軸線L方向一方側(
図9上側)を向くように配置され、第二工具240Bは、第二工具刃241Bのすくい面243Bが歯切り工具240の軸線L方向他方側(
図9下側)を向くように配置される。カラー244は、円筒状に形成され、第一工具240Fと第二工具240Bとを一体回転可能に連結する。
【0086】
(2-2.歯車加工処理2)
次に、
図10A及び
図10Bに示すフローチャートを参照して、加工制御部100により実行される歯車加工処理2について説明する。なお、歯車加工処理2におけるS21からS28までの処理は、第一実施形態で説明した歯車加工処理におけるS1からS8までの処理と同じであるため、それらの処理についての説明を省略する。なお、S23,S24及びS28の処理において、切削加工は、第一工具240Fを用いて行われる。
【0087】
S28の処理後、加工制御部100は、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、歯切り工具240は、工作物Wの回転軸線他方側Dbに移動させる(S29)。具体的には、
図11に示すように、加工制御部100は、右前チャンファ歯面132fを形成する際の送り動作の終了位置となる第二終了位置から、右後テーパ歯面122bを形成する際の送り動作の開始位置となる第五開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる。
【0088】
S29の処理後、加工制御部100は、第五開始位置において、交差角をα3に設定する(S30)。その後、加工制御部100は、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへの送り動作を行い、第五軌跡P5に沿って切削点Cを相対移動させることにより、右後テーパ歯面122b及び右後サブ歯面122abを切削加工により形成する(S31)。
【0089】
S31の処理後、加工制御部100は、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの戻し動作を行う(S32)。S32の処理において、加工制御部100は、右後テーパ歯面122bを形成する際の送り動作の終了位置となる第五終了位置から、右後チャンファ歯面132bを形成する際の送り動作の開始位置となる第六開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる。
【0090】
S32の処理後、加工制御部100は、第六開始位置において、交差角をα4に変更する(S33)。S32の処理後、加工制御部100は、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへの送り動作を行い、第六軌跡P6に沿って切削点Cを相対移動させることで右後チャンファ歯面132bを形成する(S34)。
【0091】
図10Bに示すように、加工制御部100は、S34の処理後、右後チャンファ歯面132bを形成する際の送り動作の終了位置となる第六終了位置から、左前テーパ歯面121fを形成する際の送り動作の開始位置となる第三開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる(S35)。その後、加工制御部100は、工作物W及び歯切り工具40の回転を一旦停止した状態で、工作物Wに形成されたスプライン歯115a0と歯切り工具40の工具刃41との位相合わせを行い(S36)、S37の処理へ移行する。
【0092】
ここで、S37からS41の処理は、第一実施形態で説明した歯車加工処理におけるS11からS14までの処理と同じであるため、それらの処理についての説明を省略する。なお、S38及びS41の処理において、切削加工は、第一工具240Fを用いて行われる。
【0093】
S41の処理後、加工制御部100は、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの送り動作を行い、歯切り工具240を工作物Wの回転軸線他方側Dbに移動させる(S42)。このとき、加工制御部100は、左前チャンファ歯面131fを形成する際の送り動作の終了位置となる第六終了位置から、左後テーパ歯面121bを形成する際の送り動作の開始位置となる第七開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる。
【0094】
S42の処理後、加工制御部100は、第七開始位置において、交差角をα1に設定する(S43)。その後、加工制御部100は、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへの送り動作を行い、第七軌跡P7に沿って切削点Cを相対移動させることにより、左後テーパ歯面121b及び左後サブ歯面121abを切削加工により形成する(S44)。
【0095】
S44の処理後、加工制御部100は、回転軸線一方側Dfから回転軸線他方側Dbへの戻し動作を行う(S45)。S45の処理において、加工制御部100は、左後テーパ歯面121bを形成する際の送り動作の終了位置となる第七終了位置から、左後チャンファ歯面131bを形成する際の送り動作の開始位置となる第八開始位置へ歯切り工具40を相対移動させる。
【0096】
S45の処理後、加工制御部100は、第八開始位置で交差角をα2に設定する(S46)。S46の処理後、加工制御部100は、回転軸線他方側Dbから回転軸線一方側Dfへの送り動作を行い、第八軌跡P8に沿って切削点Cを相対移動させることにより、左後チャンファ歯面131bを切削加工により形成し(S47)、本処理を終了する。
【0097】
このように、歯車加工装置1は、ギヤ抜け防止部120F,120Bを形成するにあたり、第一工具240F及び第二工具240Bを有する歯切り工具240を用いることで、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0098】
また、歯車加工装置1は、歯切り工具240を用いてギヤ抜け防止部120F,120Bを形成する場合に、右側面115Bに形成する歯面(右前テーパ歯面122f、右前チャンファ歯面132f、右後テーパ歯面122b及び右後チャンファ歯面132b)をまとめて切削加工する。これにより、歯車加工装置1は、右側面115Bに形成する全ての歯面を、工作物W及び歯切り工具40の回転方向を変えずに形成することができる。そして、歯車加工装置1は、右側面115Bに形成する歯面を全て形成した後に、左側面115Aに形成する歯面を形成する。
【0099】
この点に関し、歯車加工装置1は、戻し動作の中で、工作物W及び歯切り工具40を回転させた状態を維持しながら、工作物W及び歯切り工具40の位相調整を行うことができる。よって、工作物W及び歯切り工具40の回転方向を変える必要がなければ、工作物W及び歯切り工具40の回転を停止させる必要がない。その結果、歯車加工装置1は、右側面115Bに対して行う全ての切削加工をまとめて行った後に、左側面115Aに対して行う全ての切削加工をまとめて行うことで、工作物W及び歯切り工具40の回転を停止させる回数を1回で済ませることができる。従って、歯車加工装置1は、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0100】
<3.その他>
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。また、上記実施形態では、スプライン歯115a0にギヤ抜け防止部120F,120Bを形成する場合に本発明を適用する場合について説明したが、ギヤ抜け防止部120F,120Bを形成する場合以外にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1:歯車加工装置、 121b:左後テーパ歯面(第一歯面、第二歯面の一例)、 121f:左前テーパ歯面(第一歯面、第二歯面又は第三歯面の一例)、 122b:右後テーパ歯面(第一歯面又は第二歯面の一例)、 122f:右前テーパ歯面(第一歯面の一例)、 131b:左後チャンファ歯面(第二歯面の一例)、 131f:左前チャンファ歯面(第一歯面、第二歯面又は第四歯面の一例)、 132b:右後チャンファ歯面(第二歯面の一例)、 132f:右前チャンファ歯面(第一歯面又は第二歯面の一例)、 40,240:歯切り工具、 F,F1,F2:送り量、 L:歯切り工具の軸線、 Lw 工作物の軸線、 M,M1,M2:移動点、 MR,MR1,MR2:基準移動点、 S,S1,S2:始点、 W:工作物、 β,β1,β2:補正角、 θ1:、 θ2:第二角度、 θ3:第三角度、 θ4:第四角度