IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用監視装置 図1
  • 特許-車両用監視装置 図2
  • 特許-車両用監視装置 図3
  • 特許-車両用監視装置 図4
  • 特許-車両用監視装置 図5
  • 特許-車両用監視装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両用監視装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221206BHJP
   B60K 28/06 20060101ALI20221206BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20221206BHJP
【FI】
G08G1/16 F
B60K28/06
G06T7/00 660A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018176323
(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公開番号】P2020047088
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】岩男 眞由美
(72)【発明者】
【氏名】滝波 茂
(72)【発明者】
【氏名】山口 和彦
【審査官】久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027452(JP,A)
【文献】特開2010-225089(JP,A)
【文献】特開2014-178971(JP,A)
【文献】特開2018-128974(JP,A)
【文献】特開2018-133007(JP,A)
【文献】特開2006-251926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60K 28/06
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部が撮像した画像を解析して前記運転者の顔の位置を含む複数の運転状態を測定する運転状態測定部と、
前記車両の走行状態を判定する走行状態判定部と、
前記車両の位置を示す位置情報及び進行方向を検出する座標検出部と、
日時、位置情報、及び日照方向を対応付けて格納する日照方向データベースを参照して、日照方向を取得する日照方向取得部と、
前記運転状態と前記走行状態とに基づいて、警報装置を作動させるか否かを判定する警報判定部と、を備え、
前記警報判定部は、前記運転状態測定部から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において、前記顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、前記走行状態も正常と判定され、かつ前記車両の進行方向と前記車両の位置における前記日照方向とが所定の関係を満たすことを条件として、前記運転状態測定部に顔の位置の検出処理を初期化して再実行させる、
車両用監視装置。
【請求項2】
前記警報判定部は、前記運転状態測定部から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れる状態が所定の時間継続した場合において、前記顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ前記走行状態も正常と判定される場合、前記運転状態測定部に顔の位置の検出処理を初期化して再実行させる、
請求項1に記載の車両用監視装置。
【請求項3】
前記走行状態判定部は、
前記車両に搭載された車載センサに基づいて定常的に観測される複数の観測データである第1種観測データと、前記車両に搭載された操作部が前記運転者によって操作されることを契機として観測される複数の観測データである第2種観測データとを観測するデータ観測部と、
前記第1種観測データ毎に定められた正常判定基準範囲内に各第1種観測データが含まれるか否か、及び前記第2種観測データが観測されるか否かに基づいて、前記走行状態が正常か否かを判定する状態判定部と、を備える、
請求項1又は2に記載の車両用監視装置。
【請求項4】
前記警報判定部は、前記運転状態測定部から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合であっても、前記顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ前記走行状態も正常と判定される場合には、前記警報装置の作動を禁止する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は監視装置に関し、特に、車両に搭載されて車両の運転者を監視するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転中に運転者を監視し、急病等により運転者が運転不能状態に陥ったことを検出するための技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、頭部検出手段により検出された運転者の頭部が、画像の所定の範囲から外れている場合に、運転者が運転不能状態であることを検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-027452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような装置をはじめとする各種検出装置や検出に基づく警報装置は、運転者の状態を適切に検知できた場合には非常に有用である。しかしながら、誤検知に基づいて警報装置が動作すると、車両を運転中の運転者の集中力を乱しかねない。
【0005】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、運転状態に関する誤判定を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、車両用監視装置である。この装置は、車両の運転者を撮像する撮像部と、前記撮像部が撮像した画像を解析して前記運転者の顔の位置を含む複数の運転状態を測定する運転状態測定部と、前記車両の走行状態を判定する走行状態判定部と、前記運転状態と前記走行状態とに基づいて、警報装置を作動させるか否かを判定する警報判定部と、を備える。ここで、前記警報判定部は、前記運転状態測定部から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において、前記顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ前記走行状態も正常と判定される場合、前記運転状態測定部に顔の位置の検出処理を初期化して再実行させる。
【0007】
前記警報判定部は、前記運転状態測定部から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れる状態が所定の時間継続した場合において、前記顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ前記走行状態も正常と判定される場合、前記運転状態測定部に顔の位置の検出処理を初期化して再実行させてもよい。
【0008】
前記走行状態判定部は、前記車両に搭載された車載センサに基づいて定常的に観測される複数の観測データである第1種観測データと、前記車両に搭載された操作部が前記運転者によって操作されることを契機として観測される複数の観測データである第2種観測データとを観測するデータ観測部と、前記第1種観測データ毎に定められた正常判定基準範囲内に各第1種観測データが含まれるか否か、及び前記第2種観測データが観測されるか否かに基づいて、前記走行状態が正常か否かを判定する状態判定部と、を備えてもよい。
【0009】
前記警報判定部は、前記運転状態測定部から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合であっても、前記顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ前記走行状態も正常と判定される場合には、前記警報装置の作動を禁止してもよい。
【0010】
前記車両用監視装置は、前記車両の位置を示す位置情報及び進行方向を検出する座標検出部と、日時、位置情報、及び日照方向を対応付けて格納する日照方向データベースを参照して、日照方向を取得する日照方向取得部と、をさらに備えてもよく、前記警報判定部は、前記運転状態測定部から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において、前記顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、前記走行状態も正常と判定され、かつ前記車両の進行方向と前記車両の位置における前記日照方向とが所定の関係を満たすことを条件として、前記運転状態測定部に顔の位置の検出処理を初期化して再実行させてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運転状態に関する誤判定を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る車両用監視装置の概要を説明するための模式図である。
図2】実施の形態に係る車両用監視装置の機能構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係る運転状態測定部の機能構成を模式的に示す図である。
図4】実施の形態に係る走行状態判定部の機能構成を模式的に示す図である。
図5】実施の形態に係る日照方向データベースのデータ構造を模式的に示す図である。
図6】実施の形態に係る車両用監視装置が実行する運転者監視処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態の概要>
図1は、実施の形態に係る車両用監視装置1の概要を説明するための模式図である。図1に示す例では、車両用監視装置1は運転者Dが運転する車両Vに搭載されている。車両Vは、車両用監視装置1の一部として、撮像部2、車載センサ3、GPS受信部4、及び警報装置5も備えている。
【0014】
撮像部2は、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子であり、車両Vの運転者Dを撮像する。車両用監視装置1は、撮像部2が撮像した画像を解析することによって得られた運転者Dの目の開き具合を示す開眼度、運転者Dの顔向きの角度、運転者Dの顔の位置等に基づいて、運転者Dによる車両Vの運転状態の適否を判定する。
【0015】
なお、図1において、運転者Dの開眼度はO、運転者Dの視線方向は角度θ、運転者Dの顔の位置は2次元座標(X,Y)で表現されている。詳細は後述するが、運転者Dの開眼度、顔向きの角度、顔の位置等の各種情報は、それぞれ車両用監視装置1が備える専用のモジュールによって解析される。
【0016】
ここで、「運転者Dによる車両Vの運転状態」とは、運転者Dが車両Vを正常に走行させることができるか否かを示す運転者Dの状態を意味する。例えば、運転者Dが心疾患や脳梗塞等が原因で運転不能となりうずくまっているような場合には、運転者Dは車両Vを正常に走行させることができないので、運転状態は「不適」といえる。また、運転者Dの目が閉じている場合にも、不適といえる。
【0017】
車載センサ3は、車両Vの走行状態を測定するための種々の車載センサである。ここで、「車両Vの走行状態」とは、車両Vが正常に走行しているか否かを示す車両Vの運動状態を意味する。車両Vの走行状態は、例えば車両Vの速度や加速度、ヨーレート、操舵角、各種ペダルの操作、ワイパーの操作、方向指示器の操作、補助ブレーキの操作、シフト操作、車線における車両Vの走行位置、先行車両との距離等を勘案して車両用監視装置1が判定する。
【0018】
GPS(Global Positioning System)受信部4は、航法衛星からGPSデータを受信する。警報装置5は、運転者の注意を喚起するための警報を発生する。
【0019】
運転者Dによる車両Vの運転状態の判定に用いられるデータのうち、運転者Dの顔の位置は重要なデータの1つである。運転者Dが車両Vを正常に運転している場合、運転者Dの顔は一定の領域にとどまっていると考えられる。反対に、車両Vを運転中の運転者Dの顔が通常あるべき領域にない場合、運転者Dが脇見をしていたり、体調の急変によってうずくまっていたりする可能性を示唆する。このため、運転者Dの顔の位置は、運転者Dの運転状態を判定するための有用な手がかりとなる。また,顔位置情報は他の運転状態を示す指標(例えば、脇見を判定するための顔向き、居眠りを判定するための開眼度)を算出したり抽出したりするためにも重要な指標となる。
【0020】
上述した通り、運転者Dの顔の位置は、撮像部2が撮像した画像を解析することによって得られる。したがって、撮像部2が画像を取得する周期が例えば30Hzである場合、最大で毎秒30回顔の位置が更新されることになる。
【0021】
一般に、運転者Dの顔の位置は既知の画像認識技術を用いて実現されており、その検出精度は100%ではない。仮に、車両用監視装置1が利用する画像認識技術における顔位置検出の精度が96%であるとすると、4%、すなわち25回に1回程度の割合で顔位置を間違うことになる。仮に、撮像部2が画像を取得する周期が30Hzであり、撮像部2が取得する画像の全てに車両用監視装置1が顔位置検出を実行したとすると、毎秒1回以上の割合で顔位置が間違う可能性(すなわち、顔位置検出の精度が低い可能性)があることになる。
【0022】
このように、運転者Dの顔の位置は運転者Dの運転状態を判定するための有用である一方で、顔の位置の精度が低い状況では顔の位置に基づいて運転者の注意を喚起するための警報を発生するべきではない状況も起こりうる。
【0023】
そこで、実施の形態に係る車両用監視装置1は、運転者Dの顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において、顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ車両Vの走行状態も正常と判定される場合、顔の位置の検出処理を再実行する。これにより、車両用監視装置1は、運転状態に関する誤判定を抑制することができ、結果として、車両用監視装置1は、誤判定に基づく警報の通知も抑制することができる。ひいては、誤判定に基づく警報の通知によって運転者Dに不快な思いや不信感を抱かせることが抑制できる。
【0024】
<実施の形態に係る車両用監視装置1の機能構成>
図2は、実施の形態に係る車両用監視装置1の機能構成を模式的に示す図である。車両用監視装置1は、上述した撮像部2、車載センサ3、GPS受信部4、及び警報装置5に加え、記憶部6と制御部7とも備える。図2において、矢印は主なデータの流れを示しており、図2に示していないデータの流れがあってもよい。図2において、各機能ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、図に示す機能ブロックは単一の装置内に実装されてもよく、あるいは複数の装置内に分かれて実装されてもよい。機能ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてもよい。
【0025】
記憶部6は、車両用監視装置1を実現するコンピュータのBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)や車両用監視装置1の作業領域となるRAM(Random Access Memory)、OS(Operating System)やアプリケーションプログラム、当該アプリケーションプログラムの実行時に参照される種々の情報を格納するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置である。
【0026】
制御部7は、車両VのECU(Electronic Control Unit)等のプロセッサであり、記憶部6に記憶されたプログラムを実行することによって運転状態測定部70、走行状態判定部71、警報判定部72、座標検出部73、及び日照方向取得部74として機能する。
【0027】
撮像部2は、車両Vの運転者Dを撮像する。具体的には、撮像部2は、車両Vの運転席を被写体に含む画像を撮像できるように設置されており、車両Vに運転者Dが乗り込んで車両Vを運転するときに運転者Dが写るような画像を生成する。
【0028】
運転状態測定部70は、撮像部2が撮像した画像を解析して、運転者Dの顔の位置を含む複数の運転状態を測定する。
図3は、実施の形態に係る運転状態測定部70の機能構成を模式的に示す図である。図3に示すように、実施の形態に係る運転状態測定部70は、顔検出部700、目検出部701、顔向き角度検出部702、顔位置検出部703、開眼度測定部704、及び視線検出部705を少なくとも含む。
【0029】
顔検出部700、目検出部701、顔向き角度検出部702、顔位置検出部703、開眼度測定部704、及び視線検出部705は、それぞれ既知の画像認識技術又は画像処理技術を用いて実現される。既知の技術であるため詳細な説明は省略するが、顔検出部700は、撮像部2が撮像した画像中に存在する顔を検出する。目検出部701は、顔検出部700が検出した顔に存在する目を検出する。
【0030】
顔向き角度検出部702は、顔検出部700が検出した顔の向きを示す角度を検出する。顔位置検出部703は、撮像部2が撮像した画像に設定された2次元座標系における顔の位置座標を検出する。なお、顔位置検出部703は、撮像部2が設置されている車両Vのいずれかを原点とする3次元座標系において、車両Vの顔の存在位置を示す3次元座標を検出してもよい。
【0031】
開眼度測定部704は、目検出部701が検出した目の開眼度を測定する。視線検出部705は、運転者Dの視線の向きを示す角度を検出する。
【0032】
図2の説明に戻る。走行状態判定部71は、車載センサ3の種々の測定データに基づいて、車両Vの走行状態を判定する。警報判定部72は、運転状態測定部70が測定した運転状態と、走行状態判定部71が判定した走行状態とに基づいて、警報装置5を作動させるか否かを判定する。
【0033】
警報判定部72は、運転状態測定部70から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において、顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ走行状態も正常と判定される場合、運転状態測定部70に顔の位置の検出処理を再実行させる。顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ走行状態も正常と判定される場合は、顔の位置の測定にのみ失敗している蓋然性が高い。このような場合は、警報判定部72は運転状態測定部70に顔の位置の検出処理を初期化してはじめからやり直させる。これにより、車両用監視装置1は、顔の位置検出に由来する誤判定を抑制することができ、ひいては誤判定に基づく誤警報も抑制することができる。
【0034】
また、警報判定部72は、運転状態測定部70から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合であっても、顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ走行状態も正常と判定される場合には、警報装置の作動を禁止する。これにより、実施の形態に係る車両用監視装置1は、運転状態に関する誤判定に基づく警報の通知を抑制することができる。
【0035】
ここで「正常判定基準範囲」とは、警報判定部72が運転状態測定部70に顔の位置検出処理を再実行させるか否かを決定するために参照する再検出判定用基準角度範囲である。正常判定基準範囲の具体的な値は、車両Vの車輛の大きさや車両Vの後写鏡の位置等を勘案して実験により定めればよい。例えば、撮像部2が撮像する画像を縦4分割、横4分割、合わせて16個の領域に分割した場合に、画像の中心に存在する4つの領域が、正常判定基準範囲の一例となる。
【0036】
なお、正常判定基準範囲の設定値によっては、運転者Dが正常に運転しているときであっても、例えば後写鏡やカーナビゲーションの確認をするとき等に、運転者Dの顔の位置が瞬間的に正常判定基準範囲から外れてしまうことも起こりうる。このような場合に警報判定部72が即座に顔の位置の検出を運転状態測定部70に再実行させると、顔の位置の再実行処理が頻発しかねない。
【0037】
そこで、警報判定部72は、運転状態測定部70から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れる状態が所定の時間継続した場合において、顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ走行状態も正常と判定される場合、運転状態測定部70に顔の位置の検出処理を再実行させる。
【0038】
ここで「所定の時間」は、警報判定部72が運転状態測定部70に顔の位置検出を再実行させるか否かを判定するために参照する「顔の位置再実行判定閾時間」である。所定の時間の具体的な値は、顔の位置検出の精度と安全担保のための警報の通知とのバランス等を勘案して実験により定めればよいが、一例としては5秒間である。このように、顔の位置が正常判定基準範囲から外れる状態が所定の時間継続することを顔の位置の検出処理を再実行させるための条件とすることで、車両用監視装置1は、不必要な顔の位置検出の再実行を抑制できる。
【0039】
図4は、実施の形態に係る走行状態判定部71の機能構成を模式的に示す図である。図4に示すように、実施の形態に係る走行状態判定部71は、データ観測部710と状態判定部711とを少なくとも含む。
【0040】
データ観測部710は、車両Vに搭載された車載センサ3に基づいて定常的に観測される複数の観測データである第1種観測データを観測する。また、データ観測部710は、車両Vに搭載された操作部が運転者Dによって操作されることを契機として観測される複数の観測データである第2種観測データも観測する。
【0041】
データ観測部710が観測する第1種観測データは、例えば、車両Vが走行中の車線における車線内の位置の変動量、車両Vの車速の変動量、操舵角の変動量、ヨーレートの変動量、及び車間距離の変動量等である。第1種観測データは定常的に観測されるデータであるとも言える。
【0042】
一般に、運転者Dが車両Vを正常に運転している場合は、運転者Dが居眠り運転や脇見運転等の正常でない運転をしている場合と比較して、上述した第1種観測データはいずれも小さな値となると考えられる。そこで、状態判定部711は、第1種観測データ毎に定められた正常判定基準範囲内に各第1種観測データが含まれるか否かを、走行状態が正常か否かを判定するための1つの判定基準とする。
【0043】
ここで「正常判定基準範囲」は、データ観測部710が車両Vの走行状態が正常である場合に各第1種観測データが取りうる範囲である。各第1種観測データの正常判定基準範囲は、車両Vの大きさやエンジン性能、車種等を考慮して実験により定めればよい。
【0044】
データ観測部710が観測する第2種観測データは、例えば、アクセルペダル、ブレーキペダル、及びクラッチペダル等のペダル操作の有無、方向指示器の操作の有無、シフト操作の有無等である。第2種観測データは間欠的に観測されるデータであるとも言える。
【0045】
一般に、運転者Dが車両Vを正常に運転している場合は、運転者Dが居眠り運転や脇見運転等の正常でない運転をしている場合と比較して、第2種観測データが観測される確率が高いと考えられる。ペダル操作や方向指示器の操作等は運転者Dが意図して行わない限り発生しにくいからである。第2種観測データが観測された場合、少なくとも所定の期間が経過するまでは運転者Dは正常であり、車両Vは正常に走行していると考えられる。
【0046】
そこで、状態判定部711は、第2種観測データが観測されるか否かも、走行状態が正常か否かを判定するためのもう1つの判定基準とする。より具体的には、第2種観測データが観測されてから所定の期間が経過するまでの間、状態判定部711は、車両Vの走行状態は正常と判定する。
【0047】
ここで「所定の期間」は、第2種観測データが観測された場合に、データ観測部710が走行状態の判定に利用する期間である。ある第2種観測データが観測された後に所定の期間が経過すると、データ観測部710は、その第2種観測データに基づく走行状態の判定を中止する。「所定の期間」の具体的な値は、運転者Dの運転パターン等を勘案して実験により定めればよい。
【0048】
このように、走行状態判定部71は、車両Vが備える車載センサ3の測定データ及び運転者Dによる操作に基づいて、車両Vの走行状態を精度よく推定することができる。
【0049】
図2の説明に戻る。運転状態測定部70は、撮像部2が撮像した画像に基づいて、既知の画像認識技術及び画像処理技術を用いて運転者Dの運転状態を測定する。このため、運転状態測定部70が運転状態の測定に用いる画像の品質が低い場合は、高い場合と比較して、運転状態の測定の精度が低下しうる。
【0050】
画像の品質が低下する要因は種々考えられるが、特に、運転者Dの顔に強い光があたって撮像部2が生成する画像の画素値が飽和してしまったり、運転者Dの顔に大きな陰影が出現したりすると、運転状態測定部70が備える各部の認識精度が低下しやすい。
【0051】
運転者Dの顔に強い光にさらされる典型的な状況の1つとして、運転者Dの顔に西日が当たる場合が挙げられる。西日は入射角が浅く車両Vに遮られることなく運転者Dに到達しやすいからである。日の出直後の朝日も入射角が浅いと考えられるが、西日が差す時間帯は日の出直後の時間帯よりも運転者Dが活動する時間と重なりやすいため、西日は撮像部2が生成する画像の品質に与える影響が大きいと考えられる。
【0052】
そこで、座標検出部73は、GPS受信部4が受信したGPSデータに基づいて、車両Vの位置を示す位置情報及び進行方向を検出する。日照方向取得部74は、日時、位置情報、及び日照方向を対応付けて格納する日照方向データベースを参照して、日照方向を取得する。
【0053】
図5は、実施の形態に係る日照方向データベースのデータ構造を模式的に示す図である。日照方向データベースは記憶部6に格納され、日照方向取得部74によって管理される。図5に示すように、日照方向データベースは、日付を単位として日照方向のデータがまとめられている。図5に示す例では、2017年6月19日の日照方向のデータが図示されている。
【0054】
より具体的には、日照方向データベースは、各日付において、緯度と経度との組み合わせ毎に、太陽の高度及び方位がまとめられている。日照方向取得部74は、日付、緯度、及び経度を指定して日照方向データベースを参照することにより、例えば30分毎の太陽の高度及び方位を取得することができる。
【0055】
警報判定部72は、運転状態測定部70から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において、顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、走行状態も正常と判定され、かつ車両Vの進行方向と車両Vの位置における日照方向とが所定の関係を満たすことを条件として、運転状態測定部70に顔の位置の検出処理を再実行させる。
【0056】
所定の条件の一例として、警報判定部72は、車両Vの進行方向が日照方向に対向する方向であることを条件としてもよい。車両Vの進行方向が日照方向に対向する方向である場合には、運転者Dの顔に直射日光が当たる蓋然性が高く、運転状態測定部70による運転者Dの運転状態の判定に影響を及ぼす可能性があるからである。これにより、実施の形態に係る車両用監視装置1は、運転状態に関する誤判定を抑制することができ、結果として、車両用監視装置1は、誤判定に基づく警報の通知も抑制することができる。
【0057】
<車両用監視装置1が実行する運転者D監視処理の処理フロー>
図6は、実施の形態に係る車両用監視装置1が実行する運転者D監視処理の流れを説明するためのフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、例えば車両用監視装置1が起動したときに開始する。
【0058】
撮像部2は、車両Vの運転者Dを撮像する(S2)。運転状態測定部70は、撮像部2が撮像した画像を解析して運転者Dの顔の位置を含む複数の運転状態を測定する(S4)。走行状態判定部71は、車載センサ3の種々の測定データに基づいて、車両Vの走行状態を判定する(S6)。
【0059】
運転状態測定部70が取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において(S8のYes)、顔の位置を除く他の運転状態が全て正常であり(S10のYes)、かつ走行状態も正常の場合(S12のYes)、警報判定部72は、運転状態測定部70に顔の位置の検出処理を再実行させる(S14)。
【0060】
運転状態測定部70に顔の位置の測定を再実行させた場合、運転状態測定部70が取得した顔の位置が正常判定基準範囲内の場合(S8のNo)、顔の位置を除く他の運転状態のうち少なくとも1つが異常の場合(S10のNo)、又は走行状態が異常の場合(S12のNo)、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0061】
<実施の形態に係る車両用監視装置1が奏する効果>
以上説明したように、実施の形態に係る車両用監視装置1によれば、運転状態に関する誤判定を抑制することができる。
【0062】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【0063】
<第1の変形例>
上記では、定常的に観測できる第1種観測データの例として、車両Vが走行中の車線における車線内の位置の変動量、車両Vの車速の変動量、操舵角の変動量、ヨーレートの変動量、及び車間距離の変動量等を説明した。より具体的には、第1種観測データ毎に定められた正常判定基準範囲内に各第1種観測データが含まれるか否かを、走行状態が正常か否かを判定するための1つの判定基準とする場合について説明した。
【0064】
ここで、車両Vの車速の変動量、操舵角の変動量、ヨーレートの変動量、及び車間距離の変動量等を間欠的に観測される第2種観測データとして採用することもできる。この場合、第1種観測データ毎に定められた正常判定基準範囲とは別に、正常反転基準範囲よりも大きな変動を捉えるための間欠事象観測用基準範囲を設ける。例えば、車両Vの運転者Dが追い越しのために車線を変更したり、車速を上昇させたりするときは、車両Vの車速、操舵角、ヨーレート、及び車間距離に大きな変動が観測される。このような場合は、運転者Dが車両Vを正常に運転していると考えられるため、走行状態が正常か否かを判定するための判定材料として採用することができる。
【0065】
<第2の変形例>
上記では、警報判定部72は、運転状態測定部70から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において、顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ走行状態も正常と判定される場合、運転状態測定部70に顔の位置の検出処理を初期化してはじめからやり直させる場合について説明した。
【0066】
これに替えて、警報判定部72は、運転状態測定部70から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において走行状態も正常と判定される場合には、顔の位置を除く他の運転状態が正常であっても、運転状態測定部70に顔の位置を含めた全てのデータの測定を初期化して再実行する。具体的には、運転状態測定部70は、運転者Dの顔検出、目検出、顔向き角度検出、顔位置検出、開眼度測定、及び視線検出を含む全ての測定処理を初期化して再実行する。これにより、運転状態に関する誤判定をさらに抑制することができる。
【0067】
また、警報判定部72は、運転状態測定部70から取得した顔の位置が正常判定基準範囲から外れた場合において、顔の位置を除く他の運転状態が正常であり、かつ走行状態も正常と判定される場合、運転状態測定部70に顔の位置の検出処理のみをやり直させるか、又は顔の位置を含めた全てのデータの測定を初期化して再実行させるかを運転者Dが選択できるようにすればよい。これは、例えば車両Vのダッシュボードにスイッチ(不図示)を設け、そのスイッチによって運転者Dが選択できるようにすればよい。これにより、運転者Dは、運転状態に関する判定制度の向上を優先させるか、又は運転状態の初期化処理の回数を抑制することを優先させるかを自由に選択することができる。
【符号の説明】
【0068】
1・・・車両用監視装置
2・・・撮像部
3・・・車載センサ
4・・・GPS受信部
5・・・警報装置
6・・・記憶部
7・・・制御部
70・・・運転状態測定部
700・・・顔検出部
701・・・目検出部
702・・・顔向き角度検出部
703・・・顔位置検出部
704・・・開眼度測定部
705・・・視線検出部
71・・・走行状態判定部
710・・・データ観測部
711・・・状態判定部
72・・・警報判定部
73・・・座標検出部
74・・・日照方向取得部
V・・・車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6